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 目 次

スノードームと空の色 青空つばめ

会いたいです。 尋隆

君を探す 二三竣輔

悪友と哲学者の行進曲 第四話「決断」 二三竣輔

たとえ空が赤色でも、世界がイブで終わりでも。第一章「Trust you,trust me」 二丹菜刹那

表紙写真 ZOMA

あとがき

閉じ込められた時計台はゆったりと漂う真っ白な雪に彩られ、輝きだした。

スノードームと空の色

青空つばめ

<学内発表作品・小説>

スノードームと空の色

 俺は今、自転車を漕いでいる。
 いわゆるママチャリと呼ばれる安物ではなくイタリア製の長距離用のクロスバイクで、荷物を積んでいるため普通に漕ぐより遥かに重い。
 いつもサイクリングで走っている見慣れた景色が俺とすれ違い、後ろへと走っていく。
 いきなり車体が揺れた。あ、と思った瞬間、体が一度大きく痙攣し、視界に薄汚れた天井が飛び込んでくる。その天井が築四十年の木造アパートの自室であることに気がつくのに時間はかからなかった。そこで今自分の身に起きたスリップ事故が夢だったことに気がつく。
 二ヶ月ほど前から自転車事故を起こす夢を見るようになった。スリップしたりトラックに接触したりと事故の種類は様々だったが、毎回事故が起きた瞬間痙攣が起きて目が覚める。
 ――今日だけはこの夢を見たくなかった。
 枕元の目覚まし時計の針は五時四十七分を指している。アラームは六時半にセットしてあるから起きるにはまだ早い。かと言って二度寝する気分にもなれず、流しに行きコップ一杯の水で渇いた喉を湿らせ、居間に行きカーテンを開ける。窓の外はすっかり明るくなっていて、昨夜ラジオの天気予報で聞いた通り空に雲は一つも無い。四月の日の出って意外と早いんだな。と思ったがすぐにさっき見た夢で頭が一杯になる。
「行くな。って事なのかな」
 一瞬そんな考えが浮かぶ。が、頭を左右に振って追い出そうとする。そんなわけない。
 ふと窓際に置いてある札幌の時計台のスノードームが目に留まった。二年前に姉貴が札幌旅行に行った時に買ってきてくれた土産だ。手の平の中で一回転させて元の場所に戻すと閉じ込められた時計台はゆったりと漂う真っ白な雪に彩られ、輝き出した。
 一時間早く出発するか。と、思いつく。今日一日の予定が少し狂ってしまうが、余裕があって損をする事はないだろう。そんなことを考えながら、時計台を見つめていると、降り続く雪の中でまっすぐ俺を見つめる少女が脳裏に甦った。四年前、大学一年の冬に見た光景だった。

 もともと人と接するのが苦手な俺は小さい頃から友達が少なかった。そんな俺にも高校に入り親友と呼べる友ができた。田村秋夜たむらあきや吉岡光助よしおかこうすけ。この二人とは高校の入学式で初めて出会った。秋夜は身長約一八〇センチと俺よりも十センチほど背が高く、体格もしっかりしていて、優しい目をしていた。誰からも慕われるような奴だった。高校に入って初めて話しかけてきた相手も秋夜だった。
「おう、お前確か大浦っていったよな。ええと、大浦……」
 入学式の行われる体育館でピシッと並べられた椅子に座り式が始まるのを待っていると、秋夜は左隣の席に座りいきなり話しかけてきた。
「純」
 少し戸惑いながらも答えると
「あれ? 光助ってお前じゃなかったっけ?」
 などと訳の分からない事を聞いてきた。すると今度は俺の右隣に座っていた赤いフレームの眼鏡をかけた真面目そうな顔の男子生徒が吹き出し、俺たち二人に顔を向け笑いながら
「それ、俺の名前」
 赤メガネ……光助は言った。
「まじか。わりい、勘違いしてた。ええと。お前は確か吉岡だっけ?」
 光助は頷くと、
「すげえな、もうクラスメイトの名前覚えたのかよ」と秋夜に聞きかえした。
 実際クラスメイトの名前の記載された新入生の名簿を受け取ったのはついさっき高校の校舎内に入った時に渡されたのが最初で、しかも席順が出席番号順になっているとはいえ、誕生日順になっているこの高校の出席番号で名前と正確な番号を覚えるのは簡単じゃないはずだ。それが出来たというのなら凄い暗記力だな。などと考えていると秋夜が答えた。
「全員は覚えてないけど最初の十人は覚えたぜ。一番から森田、岡本、高山、木村、中西、鈴木、瀬田、で、」そこまで言うと光助と俺を順々に指さし、「吉岡、大浦、俺」と言った。
 そこまで言われて気になった事が一つあった。本人も気付いたらしく、
「ちなみに俺は田村アキヤ。秋の夜って書いて秋夜ね」と自分から名乗り出た。「よろしくな」

 それからの二年間はあっという間だったように感じる。入学式の一件以来、三人は仲良くなり、秋夜は柔道部、光助は陸上部、俺はバスケ部に入り、部活がそれぞれ違うために登下校で一緒になることはあまりなかったが、それ以外の学校の休み時間は基本的に一緒にいたし、定期テスト前の休みの日はよく一緒に遊びに行ったりもした。
 三年の七月半ば、もうすぐ始まる高校生活最後の夏休みに対する全校生徒の思いは様々だった。一か月半に及ぶ長い休みをどう遊び通すか考える者、自分の進路に向けて有効に活用しようとする者、部活動に打ち込む者。三年生はもうほとんどの生徒が部活動を引退して自分の進路を決定するために動き出していた。
「お前らも進学希望だよね?」
 光助が帰りの道すがら俺と秋夜に聞いてきた。三人ともすでに部活は引退して、進路を真剣に考え始めていた。
「ああ」
「そだよ」
「オーキャン何校位行く?」
 光助の質問に俺が「まあ、行けるだけたくさんは行っておきたいよね」と言うと、秋夜が「え、大橋大だけ行っときゃ良いんじゃないの?」と驚いたような声を上げた。
 三人とも進路は進学希望で、第一志望の大学は三年に上がる前から決まっていた。光助は建築学を学びたいと言って隣県の美術大学、俺と秋夜は一人暮らしがしたい、という希望と本格的に歴史を学べる大学に行きたい、という希望があったので、その二つの条件を満たし、尚且つ二人の学力に見合ったレベルだった二つ隣の県の大橋大学を第一志望校にしていた。
「一校しか見なかったら他の大学と比較できないじゃん。それにお前もし大橋大駄目だったらどうするつもりだよ」
 秋夜の能天気ぶりに半ば呆れながらも言い返した。
「まあ、落ちなければいいだけの話じゃん」
 だいじょーぶだいじょーぶ。と秋夜は笑いながら答えた。
「それに予定いっぱい詰めちゃったら夏穂ちゃんと遊べなくなるじゃん?」
 夏穂ちゃんとは秋夜と二年生の秋ごろから付き合っている同級生の大泉夏穂の事で、秋夜と並ぶと子供かと思うほど背は低く、眼鏡をかけた大人しい、いわゆる「地味」な女の子だった。
「落ちればいいのに」
 話を聞いていた光助がぼそっと隣で冗談めかして言うのが聞こえた。

 結局目指していた第一志望校に俺と光助は推薦、秋夜は一般入試で合格した。
 秋夜は十月の推薦で落ちた時にかなり落ち込んでいたが、さすがにこのままじゃまずいと思ったのか予備校に通ったりして二月の一般試験まで全力で勉強に取り組み、見事に合格して見せた。
 そして二月の自宅学習期間中に俺と光助は秋夜に呼び出され、高校近くのマクドナルドで、大橋大に合格した。という報告と大泉夏穂と別れたという二つの報告を受けた。
「え、なんで?」光助が目を丸くした。
 俺と光助は秋夜が大学に合格したことよりも大泉夏穂と別れていたことに驚いた。
「実は九月の頭にはもう別れてたんだ。本人も勉強に集中したいって言ってたし。そっちの方が俺も勉強に集中できるからって。まあお前らに報告するのは卒業が近くなってからでもいいかな。と思って黙ってた」
 それを聞いて、勉強嫌いで楽天家の秋夜が受験勉強に全力投球できた理由がわかった気がした。
「大泉って結構頭いいとこ受けたんだよな?」
 なんとなくそんな疑問が思い浮かび秋夜に問いかけてみた。
「まあ、そうだな」
 目に前のフライドポテトを口に放り込みながら答えた秋夜の声に何か暗いものが含まれていた。気がした。

 春休みになると、俺と秋夜は大学から電車で二駅のところにアパートの部屋を借りて一人暮らしを始めた。
 俺と秋夜でルームシェアすることも考えたが、秋夜が拒否したため、同じアパートの違う部屋にそれぞれ部屋を借りた。築二十年の木造アパートだったが、大家さんが日課として毎日掃除していたため、目立った汚れなどは見当たらず、その外観は、近くにあるまだ建ってから十年も経っていないアパートよりも新しく見えた。
 新生活が始まり、秋夜が俺の部屋に泊まりに来ることも多く、ルームシェアした方がよかったじゃん。と思うことも多々あったが、他の住人の方々も優しい方が多く、住み心地は良かった。

 大学生活は充実していて、これといって不満の無いような生活を送っていた。そんな大学一年の十二月のある日、秋夜がいなくなった。

 クリスマスが近づき街中を幸せな色で染める準備で人々が慌しくなる十二月の中旬、男子であろうと女子であろうと誰とでも分け隔てなく仲良くなれる秋夜が急に女子と距離を置くようになった。高校生の時からずっと一緒だったこともあり、秋夜の様子がおかしくなった事にはすぐに気が付いた。しかし本人に聞いてみても
「気のせいじゃね? 俺はいつも通り皆と接してるよ」
 としか返されず、それ以上深く聞く事も出来なかった。
 秋夜がそんな調子になってから一週間が経ったある日、いつもの様に俺の部屋に秋夜が泊まりに来た。晩飯を済ませた俺達は最近中古で買ったステレオコンポから流れてくる音楽を聴きながら、大学でのことやバイト先でのこと、家族のことなど話し合った。
 会話のネタも尽き始めて、会話が途切れた時、ある曲が流れてきた。確かこの間ミュージックプレイヤーに入れたばかりのロックバンドの曲だったと思うそれは、一九八〇~九〇年代をイメージさせるディスコ調のイントロの曲だった。
 最初二人ともぼっと曲を聴いていたが、曲の途中から、秋夜の表情が変わったことに気付いた。
「知ってる曲?」
 ふと思ったので聞いてみた。が、
「ん、いや、知らない曲。」
 どこか寂しげな顔をした秋夜は、ステレオコンポに耳を傾けながらそう答えた。

 翌朝、起きると部屋にすでに秋夜の姿はなかった。その時は急用か何かが出来て自室に帰ったのだろうと思いそのまま気にしないで大学に行ったが、大学にも秋夜の姿はなく、電話をしても返事が来なく、何か違和感を覚えた俺は午後の授業をばっくれて、アパートの秋夜の部屋に急いだ。
 秋夜の部屋の前に着き、ドアをノックし、秋夜の名前を呼ぶ。返事はない。ドアノブを回すと、ドアが開いた。部屋の鍵が開いたままになっていた事に不安を感じた。
 思っていた通り、部屋にも秋夜の姿はなかった。部屋の真ん中にあるテーブルの上には秋夜の携帯電話と残高の残っていない通帳、定期やその他ポイントカードなど身元が特定できる物が全て財布から抜き取って置かれていた。
 最初は一体この光景が何を意味しているのか全く理解出来なかったが、近寄って通帳を手に取って見ると預金が全て引き出されたのが今朝だったことに気付き、一つの推測が脳裏をよぎった。不安が焦りへと変わっていく。混乱している頭を何とか落ち着け、まず秋夜の実家に電話をかけた。電話に出た秋夜のお母さんは、俺から電話がかかって来たことに驚き、そして声を落として
「秋夜が何かやらかしたの?」
 と聞いてきた。この言葉から秋夜が実家に何も伝えていないことには気付いた。
 何といえばいいのか分からず少しの間黙ってしまったが、秋夜のお母さんは何も言わず俺が言葉を発するのを待っていてくれた。
「実は、秋夜が財布だけを持って今朝から行方が分からなくなってしまっているので、もしかしたら実家の方に何か連絡が行ってるのではないかと思って電話をかけたのですが、なにか連絡はありませんでしたか」
 早口になるのをこらえ、確認のために言った。
「いえ……特に電話とかは来てないけど……大浦君は何か聞いてないの?」
 声から秋夜のお母さんが落ち着きを失っていくのを感じた。これ以上電話を続けても相手をさらに不安にしてしまうだけだと思った俺は、
「いえ、まだ詳しいことは分かってないので、またこちらから電話かけます。あいつのことなんでもしかしたら夜になったらひょっこり帰ってくるかもしれないんで」
 とだけ言って電話を切った。帰ってくる可能性が低く、ただの気休めにしかならないだろうということは十分承知していた。

 それから一週間ほど大学を休み、高校時代に秋夜と仲の良かった奴に電話をかけたり市内に住んでいる人に聞き込みをしたりと秋夜を探した。
 その中で、目撃情報はなかったものの、高校の同級生の一人が教えてくれた情報にショックを受けた。そいつは「もしかしたらアレが関係あるかも」と言い、「パソコンで[かほ 現役女子大生]で検索して上から三番目に出てくるサイトを開いてみろ。こっちじゃそこそこ話題になってるぜ」と続けた。
 嫌な予感がした。そしてその予感は現実のものとなった。言われた通りのワードを入力して検索するとアダルトビデオの紹介サイトが表示された。そのサイトのトップに紹介されているアダルトビデオの表紙の写真が誰なのかは一目でわかった。
 髪を金色に染めて眼鏡を外しているが間違いなくその姿は大泉夏穂だった。
 言葉を失った。理解できなかった。なんで大泉がこんなことをしてるんだ?
 このアダルトビデオが発表された時期を見てみると、秋夜の様子がおかしくなる一週間前、今から丁度三週間前になっていた。
 その瞬間、秋夜が姿をくらます前日に聞いた曲を思い出した。ミュージックプレイヤーを引っ張り出してきてこの間聞いた曲をうろ覚えのメロディをヒントに探し出して再生する。
 そしてパソコンの検索サイトでこの曲のタイトルを入力して歌詞を検索した。
 表示された歌詞を読んで呆然とした。
 一週間前に秋夜の置かれていた状況と見事なまでに一致したからだ。
 全力で壁を殴りつけていた。なんで気が付かなかったんだ。
 自分を責めた。何が「知ってる曲?」だ。馬鹿じゃねえのか、俺。
 気が付いたら光助の携帯番号をプッシュしていた。誰かにこのやりきれない思いを伝えなくてはいけない、そう思っていた。
 光助は落ち着いていた。俺が落ち着きを失っていたからそう感じただけなのかもしれないが、冷静に俺の話を最後まで聞いていた。
 光助は聞き終わった後、しばらく黙っていたが、やがて「何で近くにいて気付いてやれないんだよ」と消え入りそうな声で呟いた。

 それから俺はバイトを辞めて、しばらく学校を休んだ。どうしても気持ちを切り替える事が出来ず、授業を受けたところで全く頭に入らない気がしていたからだ。
 光助とも一切連絡を取らなかった。また電話を掛けてしまえばギリギリのところで二人を繋いでいる何かが切れてしまう気がしたからだ。

 その後も秋夜の行方は分からなかった。警察も失踪事件として捜査しているが、金だけ持って行方をくらましたという事はどこか遠い場所で誰にも気付かれずにこっそりと命を絶った可能性がある。と自殺の可能性を示した。
 自殺をする為に秋夜が失踪した可能性は意識していて、覚悟はしていたつもりだったが、いざ他の人に言われるとその言葉の重さを実感した。

 そうしているうちに年を越し、一ヶ月が経った。
 結局秋夜が失踪してから一月末の秋学期終了まで学校には行かなかった。同じゼミの友人から聞いた話だと単位は春学期に取れるだけ取っていたのと、十二月半ばまで真面目に授業に出ていたため進級できるだけの単位は取れていたらしいが、正直もう学校に行くことも無いと思っていたため単位の話などどうでも良かった。
 二月も半分が過ぎたある日曜日、五センチも積もる雪が降った。この地方では五センチも積もる程の雪は滅多に降らず、その日の朝はやけに冷え込んだ。
 あまりの寒さに目が覚めてカーテンを開けるとグレーに染まった空からしんしんと降り続ける雪に染まった白い街が目に映った。こんなに積もった雪を見たのは何年振りだろうか。
「すげ……」
 真っ白な世界に見とれていると
 ――外に出てみたくなった。何か理由があったわけでもないが、久しぶりに見る雪に心が躍ったのだろう、適当な服を着ると防寒具で身を固めてアパートを出た。
 あえて傘は差さなかった。傘でこの空を遮るのが嫌だった。
 家から五分ぐらい歩いた所にあるアーケード街に入る頃にはコートはかなり濡れてしまっていた。やっぱり傘を差してくるべきだったな。とも思ったが、これはこれで雪の冷たさを直に感じられて好きだった。

 アパートの前まで戻ってくると一人の少女が入口のところで手に持ったメモとポストを交互に見ていた。
 どこかで見た事のある顔だな。などと思いながらその脇を通り抜けて二階の自分の部屋へと向かおうとした時、後ろで「あ」という声がした。
 何かと思い振り返ると少女は口を開けたまま俺を見つめていた。
「大浦さん……ですよね?」少女は聞いてきた。
 思い出した。俺はこの少女を知っている。
「お久しぶりです」少女は小走りで俺に近づくと少し不安そうな顔で俺の顔を覗き込んだ。「私の顔、覚えてます……よね?」
 忘れるはずが無い。その真っすぐで澄んだ瞳は兄の秋夜そっくりで最後に会ってから一年以上経った今でも何も変わっていなかった。
「もしかして……美雪ちゃん?」
 その途端、少女の顔が綻んだ。
「やっぱり。なんか先輩だいぶ雰囲気変わりましたね。最初見た時一瞬誰だか分かりませんでしたよ。先輩が高三の夏休みにうちに遊びに来て以来ですよね」
 そう言って微笑んだ。
「俺に用?」
「はい」
 そこであることに気が付いた。
 兄が行方をくらましてからまだあまり経っていない、にも関わらず美雪ちゃんの表情から不安や焦りは一切感じられなかった。
 まるで秋夜が生きていると確信を持っているようだった。
「なんでまたいきなり、とりあえず部屋入りなよ、ここじゃ寒いでしょ」
「いえ、すぐ帰るから大丈夫です」その次の言葉に俺は驚きを隠せなかった。「お兄ちゃん、帰ってきてないですよね」
 その言葉に一筋の光を感じた。秋夜は生きている。根拠は無かったがそう感じた。
「秋夜のやつ、生きてるのか」
 おもわず詰め寄っていた。
 美雪ちゃんはいきなり声を荒げた俺に驚いて一歩後ろに引いたものの、俺の目を真っ直ぐに見つめながら答えた。
「はい」その言葉に偽りは感じられなかった。「本人だと言う確証は無いですけど」そう前置きしてから話し始めた。「この間兄から手紙が届いたんです。家族あての物と大浦先輩、吉岡先輩、夏穂さんあてに四通。届いたと言うより通りすがりの男の人にいきなり『これ、なんか背の高い兄ちゃんに「あそこの女の子に渡してくれ」って言われたんだけど』って言って手渡されたものなんだけどね。まあお兄ちゃんはその男の人に手紙を渡してすぐいなくなっちゃったみたいなんだけど」
 そう言って肩から下げた鞄から封筒を取り出した。
「ちなみに家族あての手紙には『人が信じられなくなりました。しばらく知っている人達と距離を置こうと思います。安心してください。死ぬつもりはありません。またいつか気分が落ち着いたら帰って来ようと思います。』って書いてありました。」
 そう言って封筒をよこした。その封筒には大きく[純へ]と書かれていた。
「なんで直接渡しに来なかったんだ」
「多分私だったら会っても大丈夫だと思ったからじゃないですか。知ってる人と距離を置きたいって書いてありますし」
 確かにそうだとすれば秋夜からすれば妹が一番会いやすい、会ってもリスクの少ない人物なのだろう。
「確実に兄が書いた手紙かどうかは分からないですけど、私達家族は絶対に兄が書いた手紙だと信じています。それじゃ、私帰りますね」
 少女はそう言うと、俺に背中を向けた。
「あいつらにはもう手紙は渡したのか。」光助と大泉にも秋夜の声は届いたのだろうか。
「夏穂さんは所在を調べているところです。吉岡先輩は」そこで少し言葉を切ると少し気まずそうに「受け取ってくれませんでした。」と言った。
 光助が手紙を受け取らなかったのはなんとなく理解できた。はっきりと秋夜からの手紙だと分からないものを受け取って無駄に喜びたくなかったのだろう。
「そう。わざわざ遠いところからありがとう。」
「いえ、電車で遠い所に行くの結構好きですから。それにお兄ちゃんがどんな所に住んでいたのか気になっていましたので。」
 そう言うと傘を指して歩き出した。アパートの屋根の下から出て二、三歩進んだところでこちらを振り返り
「大浦先輩もお兄ちゃんが帰ってくるのを待っていてあげてください。」
 そう言い残すと彼女はまた背中を向けて歩いて行き、やがて姿は見えなくなった。

 気が付くと雪は止んでいた。時計台の周りには永久に溶けることのない雪が積もっている。
 秋夜が俺あてに書いた手紙には『心配かけてごめん。またいつか会いに行くから今はやるべき事をやって欲しい。』とだけ書かれていた。今でも大切に机の引き出しにしまってある。
 この手紙がなければ俺は大学を中退し、罪悪感を感じながら抜け殻のような人生を送っていたんじゃないかと思う。
 光助とはその後美雪ちゃんが間に入ってくれたおかげで関係を回復させる事は出来たが、あの一件以来、二人の会話の中で「秋夜」という言葉はタブーとなっている。
 大学を卒業し、就職せず旅に出ようと思い立ったのは、そうすれば秋夜とどこかで会えるのではないかという期待が心のどこかにあったからだった。それと同時に秋夜と再会するのを心のどこかで恐れてもいた。事故の夢はその恐怖心から来たものだったのだろう。
 身支度を済ませ、部屋を出る。大家さんにしばらく部屋を空ける旨を伝え、荷物の積まれた自転車にまたがる。
 ふと上を見上げると、やっぱり空に雲は一つもなく、ただただ青い空がどこまでも続いている。ふと、地平線の先は何色の空なのか気になった。
 ペダルに足をかける。これから先、何があっても俺は俺自身のペダルを踏み続けるだろう。もう迷いはない。
 ペダルを踏み込む。「さてと……行くか」
 見たことのない空を見に。

〈了〉

あなたのものじゃないと駄目なの

会いたいです。

尋隆

<新作読み切り・小説>

会いたいです。

 愛されたい。そうは思うのに、いざ愛されようとすると「あなたじゃない」。心が言うから。ねえ、誰に触れても「愛してる」と甘く囁かれても、匂いも声も体温も表情も、あなたのものじゃないと駄目なの。



 日が差す眩しさに目をあけた。なんだか随分と懐かしい夢を見ていたような気がするけれども覚えていない。あぁ、もう一度枕に頭を埋める。口の中が苦い。漱ぎたい。それにしても今何時だ。枕のうえ、棚のあたりを探る。iPhoneがこの辺りに、ある、はず、なんだけどっと。手に触れた瞬間、震えるiPhoneは起きる時間であることを指していた。入っている連絡は三件。今は便利だなあ。画面を見れば誰から連絡がきているかわかる。前は逐一開かなければ分からなかったというのに。温もり溢れる布団を引き寄せる。今日が休みだったらいいのに、なんて、いつも思うけど。
「行きたくないよううう」
 嫌だ嫌だ。会社に行きたくない。会社に行くための化粧も満員電車もすべて煩わしい。そんな気持ちと裏腹にやらなきゃいけないことは溜まっている。連絡なんて、寄越している人物の時点で用件は決まっている。あぁ、億劫だ億劫だ。朝から仕事の話なんて元気だなこの人たち。二度寝したいけど許されないんだよな。
「んんー」
 伸びれば背骨がバキバキと音を立てる。大丈夫かな、折れてないかな。そんな確認をしたいくらいに。さて、準備しますか。名残惜しいけれど布団から手を離してベットを降りる。いつもの朝だ。なんら変わりのない。ちゃんと時を刻んでいる。たまには止まってもいいのに。

 朝の満員電車ほど嫌なものはない。会社の最寄りまで15分。たかが15分。いい方だけど十分に辛いものがある。引っ越してしまおうかな、と思うものの住み慣れた家だし、思い出も深い。
 出社がこんなに疲れるなんて、歳かな。
「ふぅ……」
 不意にため息一つ。
「先輩、コーヒーいります?」
 差し出されたコーヒーからは、ふわり、香ばしい匂いが鼻腔をくすぐった。
「砂糖は入っています」
「ありがとう」
 受け取って、一口すする。熱い。淹れたてなのだろう。彼はこうやっていつも出社した私に癒しをくれる。
「先輩、そういえば宮内さんが出社したら来いと言っていましたよ」
 そう言われて、同僚である宮内の怒りの表情を思い浮かべる。連絡の確認はした。文も読んで理解もした。早く出社してほしいことも、資料を見直したいことも。確認した時間ではもう間に合わないことも。理解した上で返信しなかった。きっと宮内くんもわかっている。だから彼に任せたのだろう。
「そっかー」
「先輩、どこに行くんですか」
「宮内くんの来ないとこ」
「先輩、無駄です。もうそこにいます」
「ひいっ」
 ドアのところでにこやかに笑っている宮内くん。おかしいな。笑っているのに角が見えるのは目の錯覚かな?
「どうして」
「先輩が出社した瞬間にLINEしました」
 裏切り者……! あ、鬼が手招きしてる。本当に怖い。地獄に引きずられそう。
 そうこうしていれば彼に背中を押され逃げることもできずに連行され、淡々とお説教をされた。静かに怒られるのが一番苦手だ。一つ一つ嗜めるように怒られる。こんなに精神的に痛いものはない。心臓がきゅうっとなる。これがトキメキだったらいいのにそんなかけらもなくて。
「最近は眠れているのか」
 突然された質問に心臓がはねる。
「な、なんで」
「いや、まあ三年前のお前さんよりかはいいけど」
 三年前。
「急なことだったしな、あいつがいなくなったのは」
 俺も、頭が追いつかなかったし。そういった宮内くんの顔は少し歪んでいた。
 忘れようと努力をしても、忘れることができなかった同僚の“あいつ”。私にとっては“あなた”。
「あのときのお前は見ていられなかった」
 三年前。急にあなたがいなくなってしまったことを私は理解できなかった。理解する暇さえ与えてもらうこともできずに月日が流れ、ちゃんと向き合うことができたのがつい最近やっとだ。
「大丈夫、だよ」
 だから、そんな悲痛の目で見ないでくれ。やっと、受け入れられたんだ。ぽんぽんと頭をなでられる。
 それは、哀れみなのか同情なのか。考えたくはなかった。

「先輩、呑みにいきましょう」
 言われてほいほいついて行ったはいいものの、目の前の彼は完全に酔っぱらっている。
「先輩がすきなんですってばぁ」
「はいはい、六十八回目だねー」
 本気にしてくれない、とぶすくれた彼にデコピンをする。申し訳ないけどおつきあいなんてできる訳もない。
「ほら、そろそろ帰るよ」
 千鳥足の彼を立たせて外に放る。なんだ、意外にちゃんと立てているじゃないか。お会計をして、彼のもとに行くと、真剣な目をしていた。

 あ。そう思った時には腕は引かれていて体は完全に抱きしめられていた。ふわり感じる温もり。

 久しぶりに感じる人肌は暖かくて、涙が出そうになった。

「無理、しないでください」
 俺なんかじゃ代わりにならないかもしれないけど。消え入りそうな呟きを聞かなかったことになんてできなかった。ごめんね。本来ならそう言うべきなんだろう。だけど私はずるい人間だ。この優しさに甘えている。彼が言うように代わりなんていないのに。代わりになる人なんていないのに。心臓が大きく鼓動を打った。思い出すのはあなたとの記憶。

 そうなの、違うの。

 君じゃないの。抱きしめる腕の太さも。匂いも、声も何もかも。会いたいよ。手に届かない、あなたに会いたい。ぐっと、涙を堪える。この人の腕の中で泣きたくない。違うんだもの。
「ごめん」
 あなたじゃ駄目なの。そう断ると彼は酷く泣きそうな顔をして、なにかを言いたそうに口を開きかけた。
「……っ。先輩、俺は、生きてほしい」
 言いたいことの本心はきっと違う。そんなのはわかっている。これは彼の精一杯の配慮だ。
「大丈夫だよ」
 彼の配慮を受け止めて笑った。大丈夫、死なないよ。死んで彼のもとを訪れても、あなたは悲しんでしまうのだろう。抱きしめてなんかくれやしない。
 あなたが最後に望んだのは、私の幸せだったから。
「いつまでも勝てないな……」
 かつてあなたの後輩だった彼は眉を下げて笑った。



 習慣からか、光のせいか。目がさめた。青空が広がる空が恋しくなってベランダに出る。ベッドの棚にある写真立てを太陽光が照らす。三年前、ごめんね。癌なんだ。と、もうすぐ居なくなると言って、本当にいなくなってしまったあなた。死んでしまったあなたを置いて今日も私は、時を進む。気だるい朝がきて、満員電車に揺られて、疲れて泥のように眠るのだ。鮮やかすぎるあなたがいない世界で生きることが正しいことなのか未だにわからないし、やっぱりあなたに会いたいけれど、私はもう少しこの世界を生きてみたい。
「ごめんね」
 口には出さないくせに、寂しがりやなあなたの、眉を下げて強がる癖を思い出す。日溜まりの中。ベランダのあなたと過ごした穏やかな時間。このときをいつまでも忘れられないのだろう。きっとまた何度も涙を流すのだろう。それでも―—。
「幸せになって」
 強がりなあなたの声が聞こえた気がした。

〈了〉

「絶対に、見つけてやる」

君を探す

二三竣輔

<新作読み切り・小説>

君を探す

十二月二十一日

 寒い。
 ぴゅう、と急に吹いてきた冷たい風が、もたれているガラスの壁と共に、ただでさえ低い俺の体の体温をさらに低くしてくる。
 今日は寒くなるだろうと見越して、一番厚手のコートを着てきたが、それでも体の芯が凍り付いてしまいそうな寒さが、全身に纏わりついてくる。
 鬱陶しい寒さに身を縮めるが、それでもやはり寒さが薄れることはない。
 ちらり、と横目で隣にいる男を見る。
 男は寒さなど感じていないような顔で、脇に大きめの茶封筒を挟みながら、何やらスマートフォンをいじっている。
 男のは、派手な柄のシャツと、その上にこれまた派手な色のスーツ。そのうえ、明るい茶色に染めた髪をファッションモデルのようにセットしている。その外見は、まるっきりホストだ。
 俺は、コートの下に、厚手のセーター、その下にシャツ、その下にヒートテックまで着て-いるというのに、まるで寒さをしのげていない。なのに、外見を意識した、薄着を着ている男が寒さを感じていないというのは、まったくもって摩訶不思議な話である。
「お前、その恰好寒くないのか?」
 俺の声に反応した男は、スマートフォンから顔を上げ、呆けた面で、俺の顔をじっと見つめた。その仕草は、記憶喪失にでもなって、俺のことが頭からすっぽり抜け落ちてしまったようだ。
 三秒ほど俺の顔を眺めた男は、ああ、そういえば居たなぁ、この人、とでもいうような表情をした後、気持ち悪いくらい完璧な作り笑いを浮かべた。きっとこの表情を見せられたら、そこら辺の女など、すぐにこの男に夢中になってしまうのであろう。
「勿論寒いですよ、当然です」
 男の言葉に、僅かな棘を感じ、今の質問がこの男の機嫌を損ねてしまったのかと、身構えるが、なんてことはない。この男は昔から、言葉に少しの棘を忍ばせて、相手の反応を楽しむ、悪趣味極まりない癖があったな、と思い出す。
「そうか、とてもじゃあないが、寒そうには見えなかったものでな」
 先ほどの仕返しと言わんばかりに、棘のある言葉を返すが、男はふふ、と笑みをこぼし、愉快そうに返してきた。
「女性にもてるコツですよ。たとえ暑くても、汗をかかない。たとえ寒くても、震えない。要は忍耐力ですよ。忍耐力」
 男は得意げに語るが寒くても震えない、は忍耐力の問題かもしれないが、汗をかかない、というのは、忍耐力云々ではなく、外科的手術が必要ではないのか、と無粋な疑問が頭を過った。
「まあ、村上さんには無縁のお話ですけどね」
 ちゃんと、俺の癇に障る余計な一言を言い添えるのは忘れない。随分と律儀な男だ。くたばればいいのに。
 実際、今、俺達の目の前を歩いている群衆は、全員俺よりも、この男の方が男前だと断言するだろう。
 まるでファッション雑誌から飛び出したような外見をしているうえに、知的そうなオーラが溢れ、まるでホストのような派手な服を、悔しいくらいに、パリ、と着こなしている、この男。
 一方俺は、不精髭を生やし、ぼさぼさの髪を伸ばしっぱなしにして、さらには最近その存在を主張してきた腹部が、みすぼらしさに拍車をかけている。
 そのうえ、着ている服は一目見ただけで安物と分かる服ばかりだ。
 これでは勝負も何もない。嫌味を言われるのも仕方ないだろう。
 のどまで出かかっていた文句を、グッと飲み下し、溜め息を一つ吐く。ただでさえ底をついている幸福が、さらに逃げて行ったのを確かに感じた。
「僕は、無駄な話は好きではありません。早く用件を済ませてしまいましょう」
 男は作り笑いをピクリとも動かさずに、話にピリオドを打つと、先ほどまで脇に挟んでいた茶封筒を、俺に渡してきた。
 俺は、釈然としない感覚を腹の底に沈めて、茶封筒を受け取る。わずかに、暖かい感触がして気持ち悪かったが、ぐっとこらえて封を開けようとすると、横から手で邪魔をされた。
「ここでは開封しないで下さい。人目に付きます」
 それもそうだ。繁華街の、ビルの前で、茶封筒の中にある大量の書類を読み漁る小汚い男と、それを傍らから見るホスト風の男、随分と珍妙な絵面だ。
 俺は黙って手持ちのバッグの中に茶封筒を突っ込んでから、男に目で説明を促した。
 男もその意を察したようで、作り笑いを引っ込めて、神妙な顔で、ゆっくりと話を始める。
「大筋は、村上さんの予想通りでしたよ」
 俺は、長話に備えて、コートの内ポケットから煙草を取り出し、口に咥えた。
 ポケットの中から、ライターを取り出そうとするが、いくらまさぐっても出てこない。どうやら、忘れてきてしまったようだ。
「奥様は、村上さん以外の男性と恋愛関係にありました。いわゆる不倫をしていたようです」
 くそったれ。


九月十八日

 狭い室内には、タバコと酒と汗や他の様々な体液の匂いが混ざり合った、異質な匂いが充満していた。
 このまま過ぎ去ることを惜しんで、最後の悪あがきをしようと、僅かに居座っている夏の暑さも混ざって、この室内の匂いは最早、重さを持っているのではないかと疑うくらいにどんよりとしている。
 そんな異臭に包まれながらも、冷房をつけないのは、単純にこの部屋の中にまともな冷房装置がないからだ。元々この部屋は、ある二人の男女が逢引の為に借りた安アパートの一室であり、二人とも本宅は別にある。
 ラブホテル代わりに利用しているだけのこの部屋に、わざわざ高い金を払ってまで、冷房を置く必要があるとは、二人ともどうしても思えず、必要なしと判断したのだ。
 実際は、両人とも、その事を密かに後悔していたのだが、なんとなくその判断を覆して、冷房を買おうとは、二人とも言えずにいた。
 後悔の念を振り払うように、二人はさらに行為に熱中していったので、二人にとっては結果オーライと言えるのかもしれない。
 異様な空気の部屋の中で、ベッドに寝転がる女と、その傍らに腰かける男がいる。どちらも全裸で、体中に汗をかいている。それを見れば、二人が少し前まで何をしていたのかは容易に想像できる。
 男は、ベッドのそばのテーブルに置いてある、タバコとライターに手を伸ばし、一本取り出すと、口に咥えて、火をつけてから、後ろにいる女にも一本勧めた。
 女は上半身を起き上がらせて、男の勧めのままに、差し出された煙草を取り出して、口に咥えた。
 綺麗な色のマニキュアの塗ってある二本の白い指は、細く、しなやかに伸びていて、指だけ見るならば、まるで貴婦人のように思える。
 その指が軽く、くしゃ、としなびている煙草を挟んでいるのは、何だか芸術的な絵画や彫刻に、一点の汚れをつけてしまったようなイメージが浮かぶ。それまで、長い年月をかけて、努力の末に作られた芸術がすべて根本から台無しになってしまうような感じだ。
 男は、何が面白いのか、にひ、と笑うと、女のタバコにライターで火をつけた。
 女は煙を胸いっぱいに吸うと、ふー、と息と共に一思いに煙を吐き出した。
「あの話はどうなった」
 ぽー、と煙を見ていた女は、唐突に話しかけてきた男の声で、我に返り、煙草をくわえたまま、まだどこか締まりのない、だらしない顔で答える。
「まだ何とも、向こうが話を聞いてくれないからねぇ」
「何とかしろよ」
「簡単に言わないでよ」
 男の突き放したような口調にムッとなった女は、手近にあったビールの空き缶の淵に、煙草を二、三度叩きつけて灰を落とすと、もう一度口に咥えた。
「焦って下手にこじれるより、慎重に話を進めた方がいいでしょう」
「でも、時間が無い」
「ちゃんと、分かっているわよ」
「どうだか」
 女は自分に背を向けて、ベッドに腰かける男にすり寄り、その首に後ろから腕を回し、体を密着させた。
 男は、女の行動に反応する素振りもなく、口から煙を吐き出した。
「大丈夫、全部上手くいくわよ、きっと」
 女は男の首筋に唇をつけた。
「そうだといいんだがな」
 男のタバコの先から、ポトリと灰が落ちた。


十二月二十一日

「思っていたよりも平気そうですね」
 ホスト風の格好をした男は、俺の眼前で、自分のライターの火をつけた。親切心などという物とは無縁な男だと思っていただけに、少し面食らってしまったが、とりあえず拝み手で軽く礼をして、口に咥えている煙草を近付ける。
「これでも十分ショックなんだけどな」
「山城さんに聞いていたお話では、随分と奥様に執着していらっしゃると伺っていたものですから。もっと泣き崩れると思っていましたよ」
 山城というのは、俺にこの男を紹介した旧友である。三か月前に行方をくらませた妻を探す為に、山城に相談した結果、紹介してもらったのは、この里原という男だ。
 里原は、俺の大学時代の後輩らしい。らしい、というのは俺はこいつの事をおぼろげにしか覚えていないのだ。少なくとも、このような格好をする男ではなかったことだけは覚えているが。
 それでも、ふとした時や、さり気ない仕草を見ると、昔のこいつの記憶の断片が浮かんでくることがある。
 今こいつは、探偵のような仕事をしているらしく、かなり信用できると山城は太鼓判を押していた。
「こんな場所で泣き崩れたら、まるっきり変質者じゃねえか」
「ええ、村上さんの変質者っぷりを、存分に拝もうと楽しみにしていました」
 里原の言葉に眉をひそめて不快感をあらわにすると、里原は慌てて弁解を始めた。
「それに、自傷行為に走るほどに落ち込んでいるようですし」
「自傷行為?」
 何を言っているのか、理解できていない俺の顔を面白そうに眺めた後、里原はすっと俺の左手を指さした。
「左手の中指に、傷跡がありますよ」
「これは料理に失敗しただけだ、リストカットみたいに言うんじゃねえ、それにけがをしたのは妻がいなくなるよりもずっと前だ」
「なんと、そうでしたか」
 俺の左手の中指にある深い切り傷の跡が、案外普通な理由でできたものだと言うことに、里原は、おどけたように驚いて見せた。
「そんなことは、どうでもいいんだよ。早く続きを話せ」
「そうでしたね」
 このままでは埒があかないと思い、話の方向を無理矢理に修正する。
「まあとにかく、奥様は不倫をしていたようです。不倫の内容自体は、よくあるようなもので、村上さんが汗水たらして働いているときに、相手の男とデートをしたり、ホテルに行ったり、まあ、いろいろしていたわけです」
 途中から、俺の苛立ちが伝わったのか、明らかに不自然なほど、ざっくりとまとめた。
「それに関しての詳しい資料は、封筒の中に入っています」
「そうか」
 短く返事をしてから、俺は煙草の煙を吐き出した。
「村上さんのご気分を害する言い方になるかもしれませんが、こういった不倫自体は別段珍しいことではありません。人妻が、働いている旦那さんの目を盗んで、他所の男と逢引をするなんてことは、今時ではよくある事なんです」
「世も末だなぁ」
「全く同感ですね」
 将来を誓い合った伴侶がいると言うのに、なぜその伴侶を裏切るような真似をするのか、そして、そのことに、さして罪悪感や疑問を持たないのか、理解に苦しむ。
 一昔前ならば、世間に後ろ指を指されるような、恥ずべき行為であったのに、今ではそれが特別珍しいことではないのだと言う。そんな緩み切った貞操観念しか持たない連中に怒りさえ湧いてくる。
「村上さんにしつこく離婚の打診をしていたのも、そのお相手が原因でしょうね。うっかり村上さんが離婚に応じてしまっていたら、驚くくらい理不尽な要求を突きつけられていましたよ、きっと」
 行方を眩ます直前まで、しつこく離婚を迫っていた妻の顔を思い出し、無性に腹が立った。
 思えばあの時にちゃんと調べていれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。
「ですが、それだけではないんですよねぇ」
「何がだ」
「ここから、話が少しややこしくなってくるのですが」
 里原はそう宣言すると、自分の前髪を少し摘まんで、弄ぶ。
 その様子から、この先の話を出来れば言いたくないのだと、察しが付く。
 里原は、溜め息を一つ吐いて、続きを話し始めた。
「奥様の不倫相手だった男は、少し前に亡くなっているのです」


九月十八日

 男が煙草を灰皿に押し付けてもみ消す。
 小さく、ジュウ、という音が鳴る。
 何かを考えるような、険しい顔をしていた男は、固くなっていた顔を緩ませ、女の腕を自分の首からどかして立ち上がった。
「まあ、いざとなれば多少荒っぽいやり方もある。何とかなるだろう」
「あら、頼もしい」
 男をくすぐるような、妖艶な表情で女は茶々を入れる。
「当然だろう、あんなおっさん一人、どうということはないさ」
 トイレに行ってくる、と男が言い、女もシャワーを浴びる為に、かに脱ぎ散らかした服を抱えて、バスルームへと向かっていった。

 シャワーの水滴が肌をはじく心地いい音が、バスルームの中で響いている。
 気持ちよさそうに、シャワーの水を受ける女は、夢見心地な表情で、先ほどの男の逞しい背中を思い出していた。
 あの背中に比べたら自分の夫のなんと貧相な事だろうか。女の頭の中ですでに夫は、女と、女の恋人の幸せを邪魔する害悪となっていた。
 今の女にとって、憎き夫からなにもかもを奪って、恋人との新しい生活を歩むことが何より優先すべきこととなっていた。
 シャワーの水を止め、濡れた髪をかき上げる。鏡を見て、自分の姿に満足した女はバスルームのドアに手をかける。
 その時、愛しい恋人の悲鳴が聞こえた。


十二月二十一日

「亡くなっているとは、どういうことだ?」
「言葉のままです。その通りに受け取っていただいて結構ですよ」
 さっきまでの様子とは違い、一度言ってしまったら、気が楽になったのか、それともさっきまでの行動が演技だったのか、今の里原は、あっけらかんとした表情で、いつも通りだ。
「補足させていただきますと、何者かに殺害されました」
「殺害?」
「ええ、殺害です」
 殺害、だなどと物騒な言葉を、里原は躊躇いもなく使う。まるで常日頃からその言葉に慣れ親しんでいるようだ。
 口元に微かな笑みを浮かべ、愉快そうに殺害という言葉を唱える里原からは、何か静かで恐ろしい、冷たさのようなものを感じる。
「国分寺市のアパートで、遺体で発見されて、ちょっとした騒ぎになっていましたよ。そのことに関する資料も同封されています」
「そんなニュース見なかったがなぁ」
「この国で、一体どれだけの数の殺人事件が起こっていると思っているんですか、一つ一つを長ったらしく報道してはいられないんですよ。ましてやこの被害者は反社会的な方々ともつながっていたようですし、何らかのトラブルに巻き込まれたと考えたら、特筆すべき様な変わった点はないわけですから」
「そういうものかねぇ」
「そういうものですよ」
 里原の言うことには、妙な説得力がある。言葉一つ一つに、ずっしりとした重しを詰め込んで、俺に向かって投げつけているようだ。
「ですが、私が注目したのは、この事件そのものではありません」
 里原は険しい顔で、話をまた別の方向へと向ける。
「実は、この事件が起きた日は、九月十八日なんです」
「妻が、行方不明になったのと」
「同じ日、ですね」
 里原の鋭い目が俺に突き刺さる。特段やましいことはないが、何だかいたたまれなくなり、くわえていた煙草を地面に捨て、足で踏み消した。
「マナー違反ですよ」
「やかましい、そんなことより、続きを話せ」
 里原はわざとらしく溜め息を吐くと、携帯灰皿を黙って俺の手に渡した。
 仕方なく、その携帯灰皿を受け取り、吸殻を入れる。
 里原は携帯灰皿をポケットに戻しながら、続きを話しだした。
「当日、現場であるアパートの一室に彼女がいた形跡は嫌というほどあります。しかし、当の本人は行方不明、おまけに室内には争った形跡があり、凶器は現場のアパートにあった包丁です」
「まさか、妻が疑われているのか」
「ええ、これほど怪しい状況ですからね、警察は彼女を重要参考人として、行方を追っていますよ」
「警察が妻を探しているのか」
「ええ、そうです」
 俺の一瞬の表情の変化を見逃さず、里原は鋭い目で俺を突き刺した。
「まさか、警察でもだめなら、僕などでは到底見つかりっこないと思っていませんか」
「出来るのか、お前に」
「勿論です。全く問題ありません」
 里原は軽い口調でそういうと、内ポケットの中から四つ折りにされた紙を出して俺に手渡した。
「この場所で、奥様の目撃情報がありました」
 その言葉を聞いた途端に、体が自然とその紙を、里原の手からふんだくっていた。
「どうなさるかは、村上さんの自由です。僕は、引き続き調査を続けます」
「大したものだな、いったいどうやってこんな情報を手に入れてるんだ?」
「企業秘密です」
 またあの完璧な作り笑いに戻ると、里原もう用はないとでもいう風に、その場から去ってしまった。
 里原の背中が、群衆の中に消えていくのを見届けてから、俺もゆっくりと歩き出す。
「絶対、見つけてやる」
 俺の胸の中には、愛する妻の顔が刻まれている。
「絶対、見つけてやる」
 俺は、もう一度、強い決意の言葉をつぶやいた。


九月十八日

 それはまさに地獄絵図だった。
 安アパートの名に恥じぬような、質素な造りの廊下には吐き気を誘う匂いを発する、どろりとした色の血液で溢れている。
 血まみれで、いくつもの刃物で刺されたような傷がある男を引きずっている男がいる。黒いコートを着てフードを被り、その左手には血まみれの男を、右手には血を滴らせている出刃包丁を握っている。 
 その姿は、まるで死神の様で、女は足が竦んで呆然とその場に立ち尽くすことしかできずにいた。
 女の存在に気付くと、コートの男は左手の男を棄て、女に向かって走り出した。
 呆然としていた女は、突然突きつけられた鮮烈な死を感じ、咄嗟に振り返り、必死に部屋の窓に向かって走り出した。
 狭い室内で走ればそんなに長い時間追いかけっこをすることはない。
 やはり先に窓にたどり着いた女は、急いでその窓を開けると、ベランダから外に飛び降りた。
 二階にある部屋は大した高さはなく、飛び降りた女も大きな怪我はなく、不恰好ながらも、無事に着地した。
 外に出た女は、一心不乱に走り続けた。どうしようもない恐怖に駆られながらも、そこまで逃げても、纏わりつくような、あの死神のような男の姿に怯えながらも、ただただ、走り続けた。
 一方、部屋の窓辺に立ち尽くしているコートの男は、走り去って行く女を眺めながら、部屋の中に引き返し、血だるまになっている男の目の前に戻ると、男の体に、包丁を突き立てた。引き抜き、もう一度突き立てた、もう一度突き立てた。何度も突き立てた。何度も何度も突き立てた。
「逃がさない」
 何度も。
「絶対、見つけてやる」
 何度も、何度も。
「絶対に見つけて、殺してやる」
 何度も、何度も、包丁を突き立てる男の左手の中指には、深い切り傷の跡があった。

〈了〉

「他人に一番任せちゃいけないものは、決断なんだよ」

悪友と哲学者の行進曲
 
第四話「決断」

二三竣輔

<新作連載作品・小説>

悪友と哲学者の行進曲 あらすじ

 大学生の斎藤信二は、昔からの腐れ縁である藤堂慶介にむりやり連れてこられた居酒屋で、昔の恋人、川原桜の様子がおかしいという話を聞く。どうするのかと、問う藤堂に対して、自分には関係のないことだ、と突っぱねるが、自宅に帰り一人になると、少しだけ気になりいろいろと考えてしまう。そんな斎藤の元に、思いがけない人物から、メールが届き……。


第一話「魔窟」
澪標 二○一五年七月号
http://miotsukushi1507.tumblr.com/

第二話「理由」
澪標 二○一五年八月号
http://miotsukushi1508.tumblr.com/

第三話「受信」
澪標 二○一五年九月号
http://miotsukushi1509.tumblr.com/

第四話「決断」

 小奇麗な家具や、インテリアに囲まれた店内には、澄み切った空気が満ちており、ケーキなどの菓子類の甘い香りが微かに漂っている。
 周りの客も静かで、雰囲気も、昨日藤堂と行った居酒屋とはまたく違う。
 こうして比較してみると、あの居酒屋とこのカフェが、飲食店というくくりで一緒にされることに憤りすら覚える。
 カララーン、と入口のベルが、来客を知らせる。そちらに目を向けると、そこにいたのは俺を呼び出した張本人、川原桜だった。
「ごめんね、遅くなって」
 俺の向かいの席に座るなり、桜は開口一番申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にした。
 まだ待ち合わせの時間までは、五分程度の時間が残っている。このぐらい遅いとは言わない。どっかの馬鹿など、待ち合わせに一時間以上遅れることもザラにある。
 改めて、目の前にいる桜に目を向ける。
 久しぶりに見る桜の顔は、以前とは大きく違っていた。
 切れ長の目には、光が宿っておらず淀んでいる。艶のあった長い髪は、手入れを怠っていることが一目見て分かるほどに傷んでしまっている。いつも気を使っていた肌も、ガサガサになってしまって荒れ放題である。
 なるほど、これでは藤堂が疑問を持つのも頷ける。
「別に」
 俺は少しそっけない返事をしてみる。
 桜の目が、落ち着きなく左右にきょろきょろと動き始める。
 桜には、気まずい話題を切り出すときに、目を泳がせる癖がある。
 どうやら、今からする話は、ろくでもない話らしい。
「どうしたんだ、急に」
 余計な話で、話題を先送りにされたら、たまったものではないので、ストレートに核心に迫る。
「え、とね、その」
「なんだ、はっきり言え」
 しどろもどろ、といった具合に、言葉を絞り出す桜に、思わず苛ついてしまう。
 所在なさげに、動く桜の手首にふと気が向く。その手首に付けられている時計に見覚えがあった。桜の誕生日にねだられて買った有名ブランド物の腕時計だ。
 桜は元々ブランド物に穴ら興味が無い女だったので、ねだってきたときには、ひどく驚いた覚えがある。そのせいで、それからしばらく、カップ麺生活だったことも覚えている。
 意外だった。別に嬉しかったり、変な運命めいたものを感じたわけでもなく、桜の意外な物持ちの良さに普通に驚いた。
「あの、さ」
 俺がどうでもいいことに考えを巡らせている間に、桜は話をする決心がつたらしい。
「私ね」
「おう」
「妊娠したの」
「はあ?」
 どうでもいいが最近、「はあ?」って言い過ぎな気がする。
「妊娠って子供が出来たってこと?」
 動揺のあまり、我ながら間の抜けた質問をしてしまった。
「勿論、信二の子じゃないよ」
 当たり前だ、
 別れてから約半年経っているうえに、別れる前は二か月くらいレスだったのに妊娠するわけがない。
「相手は今の恋人?」
 桜は気まずそうにゆっくりと頷く。
「相手はなんて言っているの?」
「このことを話したら、連絡取れなくなっちゃって」
「家は?」
「えっと、知らないん、だよね」
 なるほど、教科書に載っていいくらい、ベタなな展開になっているわけだ。恐らくは、というか、確実に遊ばれたのだろう。
 別にざまあみろ、とは思わないが、可哀想とも思わない。まるで雑誌に載っている芸能人のゴシップ記事を見たような、そんな感じだ。
「俺、お前の元カレなんだけど。しかも、お前に一方的に降られたんだけど、その俺に相談するってことが非常識なのはわかってるよな?」
「分かってる、けど」
「けど?」
 桜は、俺の意地の悪い質問に言葉を返そうとするが、言葉を詰まらせている。
「頼れる人が他にいないの。彼はいないし、親は、頼れないし、友達も離れていくし、私、もうどうしたらいいか分からなくて」
 図々しいことは承知の上なのか、若干俯いているが、涙を流しながら、縋るような目線を俺に向けている。
 腹立たしいことに、あるわけがないと思っていた、藤堂のシチュエーションとまったく同じ状況になってしまった。藤堂のドヤ顔が目に浮かぶ。同時に昨日あいつが言っていたことも思い出す。
「一つだけ、俺が言ってやれることがある」
 桜が、勢いよく顔を上げた。
「俺に助言を求めるな」
「え?」
 まさに、上げて落とされたような心境なのだろう。きょとんとした顔をしている。
「お前は今、大事な決断をしようとしている。お前と、お前の子供の人生を決める決断だ。それなのに、お前は、その決断を他人に委ねるのか?」
「そんなつもりは」
「人に助言されなきゃできないような決断ならするな、周りが迷惑するだけだ」
 耐えきれなくなったのか、ついに桜は下を向いてしまった。
「俺の友人が言っていたんだけど」
 桜からの返事はない。
「他人に一番任せちゃいけないものは、決断なんだよ」
 桜のすすり泣く声が聞こえる。そろそろ周りの視線が痛くなってきた。
「今は、誰も頼れる人が居なくて、辛いだろうが、自分がしなくちゃいけない事を投げ出すな。自分の役目を人に押し付けるな、それはすごい卑怯なんじゃないか」
 桜がゆっくりと顔を上げる。
「お前はそんなことも分からないような、頭の悪い女じゃないはずだ」
 桜がまっすぐ前を向く。その表情を見て。俺は小さく、安堵の息を吐く。
「その顔ができるなら、きっと大丈夫だ」
 桜の顔には、美しい強さが滲んでいた。

〈続く〉

赤い空は綺麗ですか?

たとえ空が赤色でも、
世界がイブで終わりでも。

第一章
「Trust you,trust me」

二丹菜刹那

<新作連載作品・小説>

第一章「Trust you,trust me」

 一人と一人が出会って、そこに好きという感情が芽生えて、まったくの他人を、自分とは違う存在を大切にする。きっとその思いは、綺麗なだけじゃない。自分が思う理想の他人。そんな人がこの世の中にいるのかはわからないけれど、もしいると仮定して。理想の他人と出会うことはひどく稀で、付き合うとなれば奇跡と言っても過言じゃないと僕は思う。
恋は、閉塞的だ。
 世界中にはたくさんの人がいて、けれど自分が目にした他人しか知ることができない。もしかしたら理想の他人がどこかにいるかもしれないのに、僕たちは自分が目にした他人を好きだと思ってしまう。それは、悪いことじゃなくて、当たり前のことなんだ。知らないだれかを好きになることなんてできないから。これは絶望的な矛盾かもしれないけれど、理想の他人じゃなくても好きという気持ちは生まれて、その人にのめり込むことができる。これについては救いと言ってもいいかもしれない。

 でも、好きという気持ちは、この世で一番罪深い思い込みかもしれない。

 僕がこんなことを考えるようになったのには、単純な理由がある。他人を好きになってしまったからだ。その人は容姿だけで言えば、僕の心の奥底にあった理想の他人像に限りなく近かった。だから出会った瞬間、惹かれてしまったのはどうしようもない必然だった。
 彼女には一つだけ、他人とは異なった点があった。
 彼女は――空が赤色に見える。




 冬の足音がすぐそこにまで迫ってきている。雪はまだ降ってないけれど、そう感じるほどの冷気が階段には満ち充ちている。電気が点いていないせいで、よけいに寒さが増している気がする。あと十五分で完全下校時刻になる校舎は暗闇に沈んでいて、ゆるやかな沈黙が漂っている。リノリウムの床を踏み鳴らす僕の靴音は、静謐な空気に吸い込まれてすぐさま立ち消える。
 スマフォのか細い光を頼りに二年一組の教室に向かっていた。女の子のなかでは特に仲が良い理沙にラインで呼び出された。十八時四十五分に二年一組の教室に来て、話したいことがあるという絵文字も顔文字もスタンプもない文面が届けば、行かなくてはいけない気になる。
どうして教室に集合なのかはわからない。でも、呼び出し時刻については納得できる。理沙はバドミントン部で、いつも部活動終了時刻ぎりぎりの十八時半まで練習している。対する僕は美術部で、半ば幽霊部員と化している。放任主義の顧問は好きなときに描きに来なさいと言って、部活動の参加を強要しない。絵を描きたい人は美術室に描きに行く。そこまで描きたいと思ってない人はたまに足を運ぶくらいで、帰宅部と言っても差し支えない。そんなわけでだれかと待ち合わせでもしない限り、僕がこんな遅い時間まで学校にいることはありえない。
 それにしても話したいことってなんだろう。
 今日、理沙とは普通に話していた。別にいつもと雰囲気は同じだったし、なにか悩んでいるようにも見えなかった。悩みがあるなら、僕じゃなくて女友達に相談するだろう。一つの可能性が一瞬、鎌首をもたげてきたけれど、その可能性を僕は捻り潰す。そんなはずないという自制の心で、思い上がりそうな気持ちを抑えつけた。
 階段を上りきり、曲がり角を右折すると、一箇所だけ灯りが点いている教室が見えた。もう理沙は来ているんだ。僕はスマフォのライトを切って、急ぎ足で二年一組の教室に向かった。
 室内には自分の席に座って頬杖をつき、窓の外を眺めている理沙がいた。ボブカットの髪は、顔の輪郭に沿うように流れていて、肩に届くか届かないかの長さに切り揃えられている。白いマフラーを首に巻き、制服の下に着ているベージュのカーディガンが袖から少し見えている。
「ごめん、待った?」
 距離を縮めながら言った僕の言葉に、理沙は返事をしない。頬杖をやめ、ゆっくりと姿勢を正して、体をこっちに向ける。頬が少し上気している。練習の疲れが影響しているんだと思った。
「話ってなに? なんか大変なことでもあったの?」
 理沙は僕と目を合わせようとしない。目を伏せて、じっと自分の足元に視線を注いでいる。その姿は、僕には緊張しているように見えた。こんな理沙を目にしたことなんてなかった。いつも快活で、元気な彼女からは想像もつかない。
「まさと、」
 ふと名前を呼ばれる。熱っぽい、情感のこもったその声に、僕は思わず驚く。
 そして、なんの前触れもなく、大事な気持ちを告げられた。
「好きです。付き合ってください」
 教室のなかに、理沙の震えた声が、小さく溶ける。
 カチっと、時計の針が、一分、時を刻んだ音が響いた。




 理沙に告白された日がちょうど金曜日だったから、来週の月曜日に答えると言って、僕は、結論を先延ばしにしてもらった。理沙もそのつもりでいたようで、僕が来週の月曜日まで待ってもらえるかなと訊いたら、こくんと首を動かし、頷いてくれた。でも、彼女の好意を利用しているみたいで罪悪感があった。理沙の優しさがくれた猶予を、僕は大切にしようと思った。
 金曜日の夜も、土曜日もずっと考えていた。考えれば考えるほど、思考が打算的な方向に倒
れていきそうになる。
 理沙のことが好きか、と問われれば嫌いじゃないと答える。どっちかと言われたら好きと答える。話しやすいし、一緒にいて楽しい。その純な気持ちがまっすぐ僕の心を貫いてくれればいいのに、そういうわけにはいってくれない。
理沙は普通の子よりかわいい。一度も付き合ったことのない僕がそんな子に告白されたのだから、付き合ってみてもいいじゃないか……こんな考えが、いくつもいくつも浮かび上がってくる。なんだよそれ、と自分でも思う。理沙がかわいくなかったら、僕は付き合おうとは考えないってことか? そんな不誠実な気持ちで告白を了承するなら、しない方がましだ。じゃあ月曜日、理沙と付き合うことはできない、だけど今まで通りの友達でいてほしいとでもいうつもりか。それは、彼女を傷つけることになるし、なによりも今まで通りになんて行くわけない。そもそも告白という行為において、傷つく傷つかないという観点で考えるのは、偽善が含まれてはいないか。自分が悪者になりたくないという気持ちがありはしないか。そんなの告白してくれた人に対して失礼だ。だけど、理沙と今まで通り話したいという気持ちも嘘じゃない。
 こんな堂々巡りを繰り返しているうちに、金曜日と土曜日は過ぎ去り、どうするかまだ悩んでいる状態で、日曜日になってしまった。
 今日も今日とて進展の兆しは一向に見えない。
 問題を整理してしまえば簡単なことだ。
 僕は、理沙とこれまでと同じように話したい。そうするためには付き合うしかない。
 でもそれは、しっかりとした好きという気持ちを伴っていない。伴っていないなら、理沙の気持ちに対して誠実ではないと思ってしまい、断った方がいいのではないかと思う。
 割り切ってしてしまえばいいのはわかっている。口に出して言わなければ、他人の心のなかを覗くことができない限り、僕の気持ちに理沙が気づくことはない。とりあえず付き合い、一緒にいる時間のなかで好きという気持ちを育んでいけばいい。変な話だけれど、恋人になってしまえば僕は理沙を好きになってしまう気がする。その自信は、ある。
 結局のところ、僕は理沙に対して嘘を吐きたくないだけなんだ。いっそのこと、今はほんとうに好きかどうかわからないけれど、それでもいいなら僕と付き合ってくださいと言ってしまおうか。落としどころというか、妥協点というか、僕自身の納得だけを考えるならこう返事をしたい。理沙には、苦い思いをさせると思う。申し訳ないと思う。でも、僕は嘘を吐きたくない。もし付き合うとなったら、こういう部分は否が応にも見えてしまうだろう。たとえがっかりさせることになったとしても、自分の深いところをさらけ出すべきなのかもしれない。
 自室のベッドの上で、ようやくまとまった考えを反芻する。日曜日の暮れなずむ空から降り注ぐ橙色の光が部屋に差し込んでいる。僕はベッドから這い出て、ぐんと伸びをし、体をほぐした。この土日はお風呂や食事のとき以外、ほとんど部屋から出なかった。外は天気がいい。気分転換と思い、ジャージからまともな服に着替えて、灰色のピーコートを羽織った。あまり中身の入ってない財布をポケットにつっこみ、部屋から出た。




 コンビニで一〇〇円のレギュラーコーヒーを買った。レジでカップだけもらい、コーヒーマシンのボタンをセルフで押して作るタイプで、豆を挽いているときの匂いが香ばしくて好きだ。
 外に出ると秋のひんやりとした空気にコーヒーの湯気が立ち昇る。猫舌というわけではないけれど、少し冷めるまではちびちびと飲むしかない。このまま家に戻るのもなんだか味気ないと思い、近くの公園にでも行ってみることにした。そこに、特別な理由はなかった。あえて理由を述べるなら、もう少し外の空気を吸っていたいとか、熱いコーヒーは寒空の下で飲む方が好きだからとか、それぐらいだ。
 僕と彼女の出会いは、単なる偶然にすぎなかった。運命じみたものはなかったと言っていい。この時間帯に理沙の告白についてのひとまずの決断が出たから、コーヒーを買ったから、すぐそこに公園があったから。こうやってなにげないことを列挙していくと、途端に奇跡的な邂逅のような気がしてくるけど、そうじゃない。
 きっと、どこでも起こっているありふれた出会いだった。
 公園に林立している木は紅葉していた。赤く黄色く色づいていて、地面に落ちてしまった葉は、元からそこに張りついていたかのように空間になじんでいる。摑むチェーンが少し錆びたブランコ、高校生には低すぎる滑り台、自分とほとんど同じ高さのジャングルジム、まだ明かりが点いてない街灯、もみじが数枚横たわっているだれも座っていないベンチ、
 そして公園の中心地に、彼女はいた。
 僕は今、夢のなかにいるのだと思った。
 黄昏色の空に向かって、彼女はそのほっそりとした手を伸ばしている。白く、儚げな雰囲気をたたえた腕からすぅっと視線を下げていくと、美しい輪郭を持つ顔に辿り着く。くっきりとした瞼のなかに閉じ込められた双眸は、星空に広がる闇のように澄み渡っている。絶妙なバランスの上に成り立つ鼻は気高く、唇は艶があり、柔らかい薄桃色をしている。明るめと暗めのブラウンが混じった髪の毛は、肩甲骨のあたりまでさらっと伸びていて、少しだけ大きい耳がちらりと見えていた。
 とくん、と胸がざわつくのを感じる。心のどこかに眠っているなにかを、無理やり引っ張り上げられたような感覚が走る。僕は瞬時に理解する。彼女が僕にとって、どんな存在であるのかを。
「空って、綺麗?」
 その声がだれのものか、わからなかった。でも、この公園には僕と目の前の女性しかいない。状況を考えればすぐにわかる。今のは、彼女の声だ。
「空って、綺麗?」
 さっきよりも大きな声で言ったあと、女性がこっちを向く。ちょっとだけ引っかかっていたことが、体を正面から見たことによって氷解する。あの真っ黒の服とスカートは、裳服だ。
「答えてっ。空って、綺麗なの?」
 僕は喉がからからに渇いていくのを自覚する。手に持っているコーヒーを口に含みたいと切に思った。
 なにを言っているんだろう。僕は空を見上げて考える。夕陽の色に染め上げられた雲が遊歩する空は、充分に綺麗だと言える。だから、僕の答えはイエスだ。
「空は綺麗だと思いますよ。あくまで、今日の空はですが」
 正直に答えると、女性はどこか淋しそうな表情をする。僕は胸がしめつけられる。自分の言葉が彼女に傷を与えてしまったとなれば、今すぐにでも謝らなければいけない。突発的にそう思う。
「赤い空は?」
 質問を変えられた。
「それは夕焼け空って、こと?」
「違うよ。赤い空。ただ赤いだけの空。濃淡の差はあっても、ただ赤いだけの空だよ」
 淡々と、彼女は語る。
 また、さっきと同じことを思った。この子は、なにを言っているんだろう。
 でも、すぐにその疑問は薄くなっていく。どうしてかはわからない。ただ彼女のいう赤い空をイメージしたいと心の底から希求する。多分、零した赤い絵の具が一面に広がっているような、そんな空のことを言っているんだと思った。
「わたしはね、どんな空も赤く見えるんだ。そう言ったら、あなたは信じる?」
「信じるよ」
 僕は即答していた。考える間なんて一瞬たりともなかった。半ば自分でもそのことに驚く。僕はどうしてしまったんだろう。胸中に焦りが滲む。心臓がどうしようもないほど激しく鼓動している。冷静さが失われていくのを感じる。それと比例するように僕のなかで彼女についての確信が強くなっていく。僕は彼女から目が離せない。
「ほんとに?」
「ほんとだよ」
 不安げに訊いてくる声に、思わず泣きそうになる。彼女を襲うすべての不安から守りたいと思う。
 女の子はガラス玉みたいな目を丸くして僕を見る。嘘かどうかを見抜こうとしている瞳に、嘘なんか吐くはずがないと囁きたい。自分が静かに融解していく甘美な陶酔感に包まれている。これはなんだろう。
「……十二月二十四日に世界が終わるって言ったら……?」
「信じる」
 条件反射で言っているように聞こえるかもしれないけれど、僕はほんとうに彼女の言葉を信じている。この子が十二月二十四日、クリスマスイブの日に世界が終わるというのなら、根拠なんていらない。だって、彼女の言葉自体が根拠になっているから。もちろん、僕だけの。
 女の子が訝る表情を見せる。どうしてすぐ信用するのかと怪しんでいるのが見て取れる。そんな顔をしないでほしい。哀しいくらいそう思う。
「ほんとだよ。どうすれば信じてくれるの?」
 僕は無意識的に思ったことを口に出している。切実な色を纏った質問だ。
「あなたはどうしてわたしの言うことを信じるの?」
 けれど彼女は僕の問いには答えず、逆に問いかけてくる。確かに、初対面の人が一方的に自分の考えを肯定するなんていうのはおかしな話だ。その理由を明確にしなければ不審に思うのも当然だ。大丈夫、僕は論理的に物事を考えることができている。
「君が僕にとって、限りなく理想に近い他人だからだよ」
 外に発した自分の声を自分の耳で聞いて、やっぱりと再認識する。この確信は間違いではない。性格はわからないけれど、僕にとって、彼女の容姿はどうしようもなく理想的だ。見ているだけで心が溺れそうになる。
「理想に近い他人だと、なんでも信じられるの?」
「他の人はわからないけれど、僕はそうみたいだ」
 こんな気持ちは始めてだった。だれかに対して積極的にアプローチをしたいだなんて思ったことがない僕だったけれど、今、彼女の存在を側に感じていたいという気持ちが溢れ出てきて止まらない。片時も離れたくない。その気持ちを分析的に呑み込めたとき、僕は自分の感情の正体に気づいた。
「好き、と言い代えてもいいかもしれない」
 ふと、僕はつぶやいた。
 彼女は言葉の意味をうまく受容できていないのか、ぽかんとした表情をしている。その様子がものすごく愛しく感じる。やがてしっかりと好きの意味を理解した彼女は、当たり前に持つであろう疑問を、投げかけてきた。
「……好き? 今、始めてあったのに?」
「多分、一目惚れってやつだと思うんだ。それによく言うでしょ。好きになるのに理由なんていらないって。今の僕は、それだ」
 こんな恥ずかしい台詞を女の子に向かって言う日が来るなんて思いもしなかった。でも、嘘を吐きたくなかった。正しい人でありたいと強く思う。
 しばらく彼女は口を開かなかった。切なげに目を細めて、憂色を浮かべている。この子はなにかに心を痛めている。そして悩んでいる。美しく佇むその立ち姿は、今にも秋風に攫われて消えてしまいそうな脆さをはらんでいるように見える。僕は彼女のことをほとんど知らない。空が赤色に見えて、世界がイブの日に終わると思っていることしか知らない。それだけでもいい。なにも知らなくても、一緒にいたいと願う。
 これが、好きってことなんだろう。
「……あなたの好きを信じてもいいの?」
 ゆっくりとほどけた唇から零れ落ちた声は、確かに僕の耳に届いた。
「信じてほしい」
 力強く断言した。返す言葉は決まっていた。
「わたしは桐峰そら」と彼女は名乗る。
「青木正人だ」と僕も名乗った。
「正人くん。わたしの家に着いてきて」
 彼女は僕に手を差しだす。僕はコーヒーを持ってない方の手でしっかり摑む。ぜったいに離さないように。
 気づけば空には分厚い雲が広がっている。一陣の風が吹きこみ、木々を揺らしてもみじを払い落とした。中空を舞う赤と黄色の景色のなか、僕たちは歩き出す。

 次の日、僕は理沙の告白を断った。

〈続く〉

表紙写真

ZOMA

<新作撮り下ろし・写真>

あとがき

編集後記

小桜店子

 初めまして、もしくはお久しぶりです。
 この『みおつくし』全体の編集をしました、小桜店子です。
 最後までお読みいただきまして、誠にありがとうございます!
 あとがきから読んだ方も、どれも素晴らしい作品ばかりですので、全部お読みいただけたら編集長として幸いです!
 今号は作品数を絞ったミニ版で、別冊も含めれば七号目になります。
 どうにか出版することができました……!
 今後も続けていくことができたら良いな、と思います。
 そのようなわけで、今回はこの辺りまでとなります。
 次号でまたお目にかかれることを楽しみにしております。
『みおつくし』の制作に協力してくれた「身を尽くす会」会員の皆様、本当にありがとうございました。今後も『澪標』や「身を尽くす会」をどうか、よろしくお願いいたします。

 二○一五年十月二五日
 身を尽くす会 代表 小桜店子

身を尽くす会 会員著書

◆春夏秋冬 小桜店子(編著) 鈴原鈴(著) 爽燕(著) 藤井カスカ(著)

 大学生四人組によって制作された短編集です。テーマは「春夏秋冬」で、それぞれの季節を題材にした作品四編から成り立っています。

◆春夏秋冬 ランディングページ:
http://shunka-shuto.tumblr.com

◆澪標 二○一五年四月号 小桜店子(編著) 二丹菜刹那(著) 尋隆(著) 高町空子(著) 藤井カスカ(著) 篠田らら(著) 青空つばめ(著) 朝霧(著・表紙イラスト) あちゃびげんぼ(著) 吉田勝(表紙撮影)

◆澪標 二○一五年四月号 ランディングページ:
http://miotsukushi1504.tumblr.com/

◆澪標 二○一五年六月号 小桜店子(編著) 藤井カスカ(著) 二三竣輔(著) 青空つばめ(著) 二丹菜刹那(著) 古布遊歩(著) 矢木詠子(著) 松葉クラフト(著) 朝霧(イラスト) 逸茂五九郎(著) 篠田らら(著) 櫻野智彰(著) ひよこ鍋(著・表紙イラスト) 咲田芽子(著) 尋隆(著)

◆澪標 二○一五年六月号 ランディングページ:
http://miotsukushi1506.tumblr.com/

◆澪標 二○一五年七月号 小桜店子(編著) 青空つばめ(著) 逸茂五九郎(著) 松葉クラフト(著) 篠田らら(著) 南波裕司(著) ZOMA(著) 藤井カスカ(著) 尋隆(著) 二丹菜刹那(著) 高町空子(著) 毒蛇のあけみ(著) 二三竣輔(著) タリーズ(表紙イラスト)

◆澪標 二○一五年七月号 ランディングページ:
http://miotsukushi1507.tumblr.com/

◆別冊澪標 七夕号 小桜店子(編) 柊藤花(著) 青空つばめ(著) 藤井カスカ(著・イラスト) 二丹菜刹那(著) 篠田らら(著) 二三竣輔(著) 尋隆(表紙イラスト)

◆別冊澪標 七夕号 ランディングページ:
http://miotsukushi-tanabata.tumblr.com/

◆澪標 二○一五年八月号 小桜店子(編) 朝霧(著) 三角定規(著) 二三竣輔(著) ヨシ(著) 二丹菜刹那(著) 海風音(著) ひよこ鍋(著・表紙イラスト) コスミ・N・タークァン(著) 篠田らら(著) 青空つばめ(著) 藤原翔(著)

◆澪標 二○一五年八月号 ランディングページ:
http://miotsukushi1508.tumblr.com/

◆澪標 二○一五年九月号 小桜店子(編) 高町空子(著) 二三竣輔(著) 尋隆(著) 二丹菜刹那(著) ひよこ鍋(著・イラスト) テトラ(著) 朝霧(表紙イラスト)

◆澪標 二○一五年九月号 ランディングページ:
http://miotsukushi1509.tumblr.com/

身を尽くす会について

 身を尽くす会では電子書籍・同人雑誌といった形式で小説雑誌を制作・販売しています。

 また、会員の相互協力によって、従来の手法では出版が困難な作品の制作支援、著者の知名度向上や作品頒布の促進など、未来の出版文化の振興に貢献することを目的としています。

 主に制作・販売している小説雑誌は『澪標(みおつくし)』で、船の航路を示す同名の標識が誌名の由来です。

 澪標が航行可能な道を示した標識であったように、『澪標』も著者と読者をつなぐ道として機能することを願っています。

◆身を尽くす会 公式サイト:
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ご意見・ご感想をお待ちしております!

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◆身を尽くす会 問い合わせ:
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みおつくし 2015年10月号

2015年10月25日 発行 初版

著  者:小桜店子(編) 青空つばめ(著) 尋隆(著) 二三竣輔(著) 二丹菜刹那(著) ZOMA(表紙写真) 三浦茜(身を尽くす会アイコン)
発  行:身を尽くす会

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身を尽くす会

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