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ラストテイル・オンライン

水月さなぎ

水月さなぎ出版



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本文1 本文 目次

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロローグ

 

『ラストテイル・オンライン』

 

 ヘカット・プロジェクトが開発した仮想大規模オンラインゲーム。

 つまりはVRMMOだ。

 一ヶ月間のベータテストを経て、正式サービスが開始されてから既に三年が経過する。

 世界観はよくあるファンタジーで、剣と魔法をメインにしてモンスターと戦っていくゲームだ。

 しかし盛り込まれるイベントに様々な工夫が織り込まれていたり、生産職の仮想商売の魅力が高かったりと、アップデートの少なさの割には人気が落ちない貴重なゲームと言っていいだろう。

 俺も正式サービスが開始された三年前からプレイしているコア・ゲーマーだ。

 いや、俺ごときを『コア・ゲーマー』と表現するのもどうかと思うが。

 俺をこのLOラストテイル オンラインに誘った悪友は、ベータテストの参加者であり、正式サービスが開始されてからも日常生活を侵蝕する勢いでこのゲームにのめり込んでいるのだから。

 俺はあくまでも日常生活を侵蝕しないレベルでプレイしている。

 睡眠時間も食事時間も、そして学校に行く時間もきちんと取っている。

 しかしあいつはのめり込むと学校まで平気でサボるからなあ。

 

 とまあ前置きはこれぐらいにしてそろそろ本編に入らせてもらおうか。

 語り部はこの俺、紛う事なき主人公でございます。

 堂本響希どうもとひびき、堂本響希をよろしくお願い致します。

 って、選挙じゃねえっつーの。

 まあこれぐらいしつこく名乗っておいた方が主人公の名前を憶えてもらえるからいいのかもしれない。

 しかし今後はアバター名の方が定着するかもしれないと考えると、あっちの名前を強調しておいた方がいいのかな?

 それはまあログインした後ということで。

 今の俺はあくまでも大学一年生の堂本響希なのだから。

 それでは物語を始めようか。

 これは『俺』の記録だ。

 VRMMOのプレイ物語であり、この手の小説にあるデスゲームとかログアウト不可とかそういうデンジャー要素は無いと予め言っておこう。

 純粋にゲームを楽しむ為の物語だ。

 だから君達も楽しんで欲しい。

 ゲームとは楽しむ為にあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一話 主人公は執事

 

 というわけで俺はLOにログインすべく接続デバイスのヘルメットを装着した。

 目元まで覆っているフルフェイスヘルメット。

 この『リンクス』こそが現実世界からこの俺の意識を切り離して、仮想現実へと導いてくれるインターフェースだ。

 ナー●ギアとか言わないように。

 

 それでは仮想現実『ラストテイル・オンライン』ワールドへれっつらごー!

 

 

 ログイン完了。

 さて、では改めてこの俺のアバターを紹介しておこう。

 宿屋のベッドに優雅に座っているこの俺。

 燕尾服を着た優雅なお方は誰デスかー!?

 はい、この俺!

 堂本響希こと『キョウ』でしたー!

 ワインとか片手に持って『優雅タレー』とか言ってみたいね!

 

 ……と、悪ふざけはこの辺りにして、とりあえずアバター紹介をしないとな。

 

『キョウ』Lv62

職業:執事

サブ職業:薬剤師

 

 細かいステータス設定はこの際省かせて貰う。

 まあ秘密主義ってほどのものじゃないんだけどな。

 俺のステータスは筋力普通、魔力ちょい高め、運を可能な限り引き上げている、といったところだ。

 このゲームはドスキル制だからステータスの値よりも個人の能力に依存した部分が大きい。

 たとえば弓の命中率を上げたければ、ひたすらに訓練を積むしかない。

 弓道部出身のプレイヤーがいれば成長も早いだろうけど。

 もちろん経験値も加算されるので慣れてくればそれなりに命中率なども上がる。

 アイテムによって補正も出来るので、そこまで絶望的なルールというわけでもない。

 

 職業を『執事』にしたのは、まあ単なるノリだね。

 悪友なんかはそれこそゲーム廃人らしく戦闘特化型の職業を選んでいる。

 でもまあ職業を執事にしたのは個人的に正解だと思っているんだけどな。

 だって執事だよ執事。

 執事と言ったらお嬢様お坊ちゃまの為にありとあらゆることをこなすスーパーなお方じゃありませんか。

 主の為ならたとえ火の中水の中、悪人の群れにも立ち向かい、フォークとナイフで華麗に戦う戦闘のエキスパートでありながらお茶くみとスイーツ職人の腕前も超一流。

 何だこの最強ジョブ。

 そんなの選ぶしかねえだろ!

 ……って、某執事系コミックの影響とかそんなのじゃないから。

 LOにおいて執事ジョブはそれなりに有用なんだぞ。

 俺も選んでから気付いたけど、このジョブを選ぶと『屋敷ダンジョン』への侵入が可能になるんだ。

 廃屋と化した屋敷ダンジョンは、それこそ秘宝級のお宝が眠っていることが多い。

 その昔大金持ちが貴重なお宝を隠した、という設定だからだ。

 屋敷ダンジョンは執事しか攻略を許されていない。

 そういう特殊ダンジョンなのだ。

 それが判明してからの俺はひたすらひたすらただひたすらに屋敷ダンジョン攻略を続けている。

 俺の他にも執事ジョブを選んでいるプレイヤーはそれなりにいるが、攻略済みのダンジョンであっても、初めて入るプレイヤーに対してはダンジョン設定がリセットされるので、お宝ゲットに関しても問題はない。

 トッププレイヤーという訳ではないが、俺もそれなりに攻略を楽しんでいる上位プレイヤーであることは間違いない。

 ……悪友は間違いなくトッププレイヤーだけどな。

 あいつは廃人だから仕方がない。

 あそこまで廃人化してトップ入り出来なかったらそっちの方が悲しすぎる。

 

 あと気になっているのは俺のサブ職業かな?

 どうして薬剤師なんてジョブを選んでいるのか?

 知りたいか?

 知りたいだろう?

 知りたいと言え!

 ……うざいとか言わないでお願いだから。

 

 こっちの職業は執事ジョブに対応して選びました。

 だって執事と言えばご主人様の為に、敵対者に毒薬を盛ったりする時があるじゃん?

 あと不眠症のご主人様の為に眠り薬を調合してあげたり。

 これを飲めばよく眠れますよ、さあお嬢様……みたいな。

 ええ、ええ、それだけですよ。

 執事と言えば一服盛るのがセオリーでしょ!

 みたいな理由ですよ。

 文句ありますか?

 ないですね。

 あってもスルーするのでよろしく。

 

「さてと、ではお楽しみのダンジョン攻略といきますかね」

 セーブポイントである宿屋を出た俺は、街並みを観察する。

 執事専用の屋敷ダンジョンは、街の中に存在する。

 もちろん執事以外の侵入は許されないのだが、それでも街の中にモンスター入り乱れるダンジョンがあるというのは中々シュールな設定で悪くない。

 この世界に安全が保証されている場所などどこにもないのだと言われているようで、警戒を促している感じで悪くない。

 まあ実際安全なんだけどな。

 街の中はバトル禁止領域だし、屋敷ダンジョンのモンスターがいきなり飛び出してくることもない。

 だからこれはまあ、好みの問題だ。

 目的地はここカルヴァトーレの街外れにある廃墟屋敷。

 大昔の貴族が呪われた死を迎えたという曰く付きの設定だ。

 首を吊ったとか、一族が殺し合ったとか、色んな噂が飛び交っている。

 どんな噂だろうとゲーム上の設定なので生々しさには欠けるけれど。

 それでも面白いと思う。

 どうせなら骨アバターとか出てきてくれないかな。

 怨念シリーズ、みたいな。

 

 そんな事を考えながら屋敷に向かっていると、フレンドコールがかかってきた。

 着信は『ナギ』。

 フレンドリスト登録している悪友からだった。

『おっす親友。今日もゲーム廃人ライフ満喫しているかい?』

「してねーよ。俺は今日も三時間ほどでログアウトするつもりだね」

『ちぇー。もっとこう、VRに耽溺しようとか思わないわけ?』

 危ないことを言わないで欲しい。

 俺達が生きているのはあくまでも現実なのだから。

「ほっとけ。お前もそろそろ学校に来ないと単位がヤバいぞ」

『大丈夫。オレもう留年覚悟してっから』

「するな、そんな覚悟」

 しかも軽い調子で言わないで欲しい。廃人どころかもう完全にVR住人と化している。

 病気や怪我で入院して留年ならまだしも、ゲームに嵌って留年とか人間として駄目すぎる。

 ……ある意味『ビョーキ』ではあるのだろうけど。

『キョウは例の屋敷攻略か?』

「まあな。昨日は睡眠時間やばかったからログアウトしたけど、今回はバッチリ時間が取れる。一応三時間攻略を目標にしているが、それ以上かかっても大丈夫な準備はしてきた」

 具体的には課題を終わらせたり、風呂に入ったり、食事を済ませたりということだ。

 ログアウトしてもリンクス外しておやすみなさい状態になれる。

 トイレぐらいには行くかもしれないが。

『あー、いいな。屋敷ダンジョン。面白そう。オレも執事ジョブ取ってみようかな』

「やめておけ。折角武士ジョブでマックスレベルなのにリセットしたらもったいないだろうが」

『いや、だからサブアカウントで……』

「やめておけ」

 今でも立派にゲーム廃人なのに、これ以上アカウント&プレイ時間を増やしてどうする。

 肉体的にも社会的にもマジで死ぬぞ。

『そう言えば今度アップデートに『転生システム』が実装されるらしいな。その時に考えてみるかな』

「なんだそれ? 転生システムって?」

『情報が遅いなキョウくん。ゲーマー失格だぞ』

「失格でもいいから教えてくれ」

『はいはい。この前オレがマックスレベルに到達したから、今後はどんどんレベルカンストプレイヤーが増えていく筈だろ。そうなるとレベルアップの楽しみが減ってプレイヤーが減るかもしれない。そこでヘカット側が新しく実装予定なのが『転生システム』ってわけさ。マックスレベルを引き上げても良かったんだろうが、オレとしてはこっちの方が面白そうでいいね』

「具体的にはどんなシステムなんだ?」

『そのまんまだよ。レベル九十九から一に引き戻される』

「………………」

 それは、利用するのにかなりの勇気が必要になりそうだ。

 ナギがマックスレベルに到達するまで約三年。

 それだけの時間を無駄にすることになる。

『そして転生前のスキルを引き継いだまま、新しいジョブを選ぶことが出来る』

「っ!」

『分かるか? ジョブによるプレイ制限がなくなるんだよ。それにレベルは一まで引き戻されるけど、ステータスの数値は三十パーセントまでしか下がらない上に、ひとつだけそのままで固定できるステータスを選べる。経験やスキルもしっかりと引き継げる。レベル一まで下がっても十分にやっていけるってことさ。だから転生を繰り返していけば全ステータスをマックスまで引き上げることが出来る』

「なるほど……」

 つまり、ひとつのアバターで、ひとつのアカウントで様々なことに挑戦できるということだ。

 今までは戦士系を選んだ場合は魔法系になれないし、生産系で鍛冶を選んだ場合は料理人になれない。

 そういうジョブ制限が一切取り払われることになる。

 そしてスキルや経験も引き継げるとなれば、プレイの幅がますます広がる。

「面白くなりそうだな」

『だろ? もう楽しみで楽しみで♪』

「まあその話は今度でいいや。あんまり長話して攻略時間を減らすのも馬鹿らしいし、そろそろ切るぞ」

『へいへい。オレはリジェネン島の洞窟でボス戦やらかしてくるからな』

「がんばれー」

『おう。そっちも頑張れよ』

 お互いに励まし合ってコールを切断した。

 

「転生システム、ね……」

 面白そうな話ではある。

 レベルアップと共にステータスポイントを振り分けなければならないが、自分の戦闘スタイルや職業によって慎重に選ばなければならない。

 それによって戦い方にも個性が表れてくるし、自分だけの戦闘スタイルも確立されていく。

 しかし転生を繰り返しレベルを上げていけば上限であるオールステータス1000ということも可能になるのだ。

 そりゃあ燃える。

 まあオールステータス1000プレイヤーが増えた段階で面白さは半減するだろうが、今回ナギがレベル九十九に到達するまで三年必要だったことを考えると、ゲーム運営としては十分に元が取れるだろう。

 このシステムで十年はいける。 

 ……それまでに飽きさせなければの話だが。

 この先面白いVRMMOはどんどん発売されるだろうし、その生存競争に生き残ろうと思えば新しいサービスを次々と提供することは必須条件となる。

 どこまで楽しませてもらえるのか、お手並み拝見といったところだろう。

「とまあ、LOの将来性を考えるのはここまでにして、とにかく今はダンジョン攻略だ」

 目的地は目の前。屋敷ダンジョンにいざ突入。

 

『ケインズ伯爵の屋敷跡クエスト開始しますか?』

 

 扉の前に現れたのはクエスト開始ウィンドウ。

 屋敷の前に執事ジョブを持つプレイヤーが現れた時に出るものだ。

 当然、Yesボタンを押した。

 

『ケインズ伯爵の屋敷跡クエスト開始します』

 

 クエスト開始表示が現れて、ウィンドウが消失した。

 ギィィィィ、とおどろおどろしい音と共に扉が開いていく。

 

「さあ開始だ」

 俺は屋敷内へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

第二話 揺れるおっぱいを攻略せよ

 

「おーっほっほっほっ!」

 屋敷内のモンスターを薙ぎ払いながら女王様風の高笑いをする俺。

 ……言っておくが断じてそういう趣味があるわけではない。

 鞭を振るいながら『おーっほっほっほっほ! 女王様とお呼び!』などと言いながら悦に入るような変態性癖の持ち主ではない。

 違うから。

 だから白い目で見ないでぷりーず。

 俺は変態じゃない。

「おーっほっほっほっほっほっほっ!!」

 ぴしっ!

 ぴしぃっ!

 ぱしぃっ!

 鞭がしなる。

 鞭が命中する。

 モンスターが蹴散らされる。

「おーっほっほっほっほっほっほっ!」

 最初は嫌でたまらなかったこの強制高笑いも、慣れてくれば癖になってくるなぁ。

 ……などという内心を暴露してしまうと、間違いなく変態のレッテルを貼られそうだ。

 というか俺がソロプレイに徹しているのはこれが理由である。

 いやいや、こんなこと言う奴とパーティー組むとか嫌だろ?

 俺だって嫌だぞ。

 

 遅ればせながら、この高笑いは俺の意志ではない。

 俺が使っている装備『女王様の鞭』の副作用だ。

 女王様の鞭は俺が以前、『マリー女王の別荘跡』という屋敷ダンジョンで手に入れたお宝なのだが、これがまた強力極まりない武器なのだ。

 かなりの攻撃力があり、攻撃範囲も広い。

 自分よりもレベル差が十以上ある相手ならば一撃必殺が可能だ。

 激レアアイテムであり、職種による装備制限もない。

 誰でも装備することが出来る。

 そりゃあ使うでしょ。

 使わない手はないでしょ?

 使っちゃいますよ。

 ……ただし、凶悪な副作用があった。

 女王様の鞭には凶悪な呪いがかかっていた。

 それが呪いなのか、システム管理者の悪辣な趣味なのかどうかは分からないけれど、女王様の鞭は振えば振うほど、敵を倒せば倒すほど、プレイヤーに高笑いを強いるという代物だった。

 

 俺の意志とは関係なく勝手に口が動く。

 おーっほっほっほっほっほっ!

 と高笑いしてしまう。

 さながら鞭を振り回す女王様の如く。

 マリー女王様はドSだったに違いない。

 この鞭にはマリー女王様のドS残留思念が宿っているのだ。

 と、勝手にそう思っている訳だが、あながち間違いではないと思っている。

 

 という訳で俺は高笑いしながらダンジョン内を進んでいくのだった。

 システム上、この高笑いがダンジョンの外に漏れないというのはとてもありがたい。

 精神的に。

 これがフィールド上のバトルだったらと考えるとぞっとする。

 ナギなんかは面白いからいいじゃないかと大笑いしてくれるのだが、それにしたって燕尾服を着た執事が鞭を振り回しておーっほっほっほっほっなどと高笑いする様を楽しむのはどうかと思うぞ。

 俺だってそんな自分の姿を晒したくはない。

 だったら装備を変えてしまえよと言われそうだが、それも難しい。

 一度この凶悪さを覚えてしまうと他の武器は握れない。

 ソロプレイの時ならこの高笑いも癖になってきたし。

 うん、大丈夫。

 ソロに徹する限り俺のメンタルは安泰だ。

 癖が快感に変わらないことを祈りつつ、俺はダンジョン攻略を続けるのだった。

 

 

 屋敷ダンジョンの至る所に隠されているお宝は、どれも一級品ばかりだ。

 貴族の屋敷という設定上、お宝アイテムが高価になるのは必然だろう。

 これが執事ジョブの魅力でもある。

 戦闘における際立ったメリットは少ないが、そこを乗り越えてダンジョン攻略できる実力が手に入った時の見返りはかなり大きい。

「おーっほっほっほっほっほっ!」

 ぴしい!

 ぱしいっ!

 モンスターを蹴散らし、高笑いを続けながら進んだ先には当主のお部屋があった。

 まあ、ぶっちゃけボス部屋なんだけどさ。

 とりあえず回復アイテムを使用してHPとMPを万全に整える。

 女王様の鞭は当然として、サブアームの確認もしておく。

 ちなみにサブアームは執事らしくナイフとフォークでございます。

 銀製じゃないけどね。

 あんな金のかかる材質を武器として使えるか!

 まあ聖属性が有効なモンスター相手なら使うけどな。

 屋敷ダンジョンは執事しか挑戦できないということで、ボスモンスターの難易度はそこまで高くない。

 ソロ攻略が基本である為、あまりボスのレベルを上げ過ぎると挑戦者がいなくなってしまうのだ。

 もちろん、一人ではどうやっても倒せないような化け物ボスも存在するのだが、それは稀な例だ。

 何回かは死に戻りするかもしれないが、それでもボス攻略は心躍る。

 一撃必殺が行えない女王様の鞭を思う存分振るえるからというのも、なくはないけれど。

「よし。準備完了」

 装備もステータスも万全であることを改めて確認して、俺はボス部屋の扉を開けた。

 

 

「………………」

 当主の部屋もといボス部屋。

 屋敷ダンジョンのボスは多くの場合、当主の亡霊という設定になっている。

 今回もケインズ伯爵の亡霊が出てくると予想したのだが……

 部屋の中心にポップしたアバターは、貴族のおっさんではなかった。

「め、めいど……?」

 ボスはメイドだった。

 しかも結構美人だ。

 おっぱいもでかい。

「い、嫌だ……俺にメイドを攻撃しろというのか……しかもおっぱいでかいのに……」

 なんて試練だ。

 無駄に美人設定。

 たゆんたゆんゆれるおっぱい。

 いや、俺は別に巨乳萌えという訳じゃないけれど、でもさでもさ、やっぱり揺れるおっぱいにはドキドキしてしまうわけよ。

 健全な男として。

 たとえ女王様の鞭をふるって高笑いするようなプレイヤーであっても、俺って一応健全なる青少年なんだよ。

 ドキドキしちゃうじゃん。

 しかしここで引き返すのもあり得ない。

 ボスを倒さなければこのダンジョンのお宝は手に入らないのだから。

 そしてボスのドロップアイテムも手に入らない。

 ボスのドロップアイテムにはレアアイテムが多いのだ。

 これを逃す手はない。

 でもめいど……。

 メイドを攻撃するなんて、しかも鞭で。

 あれ?

 意外と嵌ってねえ?

 鞭でメイドをいびる女王様。

「……やべえ。燃えてきた」

 ドン引きしないで。

 お願いだからドン引きしないで。

 ちょっとした気の迷いなんです!

 本当だってば!

 鞭でぼろぼろにされたメイドさんに『許してくださいご主人様ぁ!』とか涙目で訴えて欲しいなんてほんの少ししか思っていません!

 で、出来心ですよ?

 出来心ですから!

 

 というわけで俺は非常に前向きなやる気を滾らせながらダンジョンボス『冥途の子守歌』と対決することとなった。

 ……メイドと冥途をかけているのだろうか?

 ネーミングセンスとしては微妙だけど、そこがまたツボってしまった。

 

「おーっほっほっほっ!」

 ぴしいっ!

 ばしいっ!

 鞭を振う俺。

 メイド服が、エプロンが細切れになっていきますよ。

 このまま服を剥いでいくというスペシャルな展開になるのだろうか?

 というかゲームデザイナーナイス!

「お帰りなさいませご主人様」

「ぎゃーっ!?」

 だが大人しく鞭でぴしぱしやられているようなメイドさんではなかった。

 腐ってもダンジョンボス。

 手強い相手であることに間違いはない。

 お盆手裏剣十連発とか勘弁してくださいよマジで。

 四発ぐらいくらってしまった。

 とても痛い。

 HPゲージが二割ほど減少する。

 これは続けて食らうとまずいな。

 というか『お帰りなさいませご主人様』でお盆手裏剣十連発ってどうよ?

 もっと歓迎してよメイドさん!

「お食事の用意が整っております」

「げ!」

 ぽんぽんとオブジェクト化する『お食事』たち。

 漫画肉やシチューやデザートなど、とにかく豪華に盛り付けられたお食事をお手玉のようにしながら、俺の方に投げつけてきた。

「くっ!」

 いくら美味しそうに見えたところで攻撃である以上、喰らったらただでは済まない。

 当然避けるのだが、

 

 どっかーんっ!

 

「ぐあっ!」

 地面に接触した途端、爆発しやがったよ!

 お食事の用意が整っておりますではなく爆弾の用意が整っておりますと言いやがれ! 

 凶悪なお食事爆弾を食らった俺のHPゲージは半分以下にまで削られてしまった。

「ちっ! ヒール!」

 回復魔法を使用する。HPゲージが八割まで戻る。

 同時にポケットに忍ばせていた回復アイテム『栄養ドリンク』をごきゅごきゅ飲む。

 ただの回復ポーションなのだが、ネーミングが気に入っている。

 ちなみにプレイヤーメイドだ。

 HPをフル回復させた俺は改めてメイドへと向き直る。

 削ったHPは半分ほど。

 倒すまでの道のりは厳しそうだが、メイドさん相手に死に戻りというのも悔しい。

「ちょっと様子を見るか……」

 長期戦を覚悟して、サブアームであるナイフとフォークを投げつける。

「お戯れを、ご主人様」

「………………」

 素晴らしい。

 このボスをデザインした人は神に違いない。

 俺が投げたナイフとフォークを、スカートの中に忍び込ませていた短剣で弾き返しちゃいましたよこのメイドさん。

 つまりスカートを翻し、スカートが派手にめくれて、太ももとパンツとガーターが丸見えになっちゃったんですよ!

 防がれて悔いなし!

 しかも隠し武器を早い段階で出させたことも悪くない展開だ。

「お背中をお流しいたします、ご主人様」

「……うわあ」

 流されるのはお背中ではなく命の方だろう。

 メイドの背後に控えるのは津波。

 部屋を覆い尽くすレベルの津波でございます。

 こんなものを喰らったら押し流されちゃうよ!

「フレイムバスター!」

 俺の手持ちの中でもっとも強力な炎系魔法を発動させた。

 執事は魔法職ではないが、マギカ・ショップで魔法を購入することが出来る。

 スキルスロットに空きがあれば購入した魔法を登録することが出来るのだ。

 俺のステータス振り分けは魔力にもかなりつぎ込んでいるので、実際のところ魔法攻撃は女王様の鞭に次ぐ主力だったりする。

 もちろん同レベルの魔法職に較べたら見劣りしてしまうだろうが、執事ジョブの割にはかなり高い魔法攻撃力を有しているという自負がある。

「ぐぐぐ……ぐぬ……!」

『お背中をお流しいたします』こと津波攻撃と、俺のフレイムバスターはギリギリの所で鬩ぎ合っている。

 ここで競り勝てば俺が有利になる。

 いや、執事としてメイドに負けるわけにはいかないのだ!

 

 どっかーん!

 

「よっしゃ!」

 結果として、俺は競り勝った。

 MPを半分以上持っていかれてしまったけれど。

 撃ち合いになると魔力を新たにつぎ込まなければならないので、発動後もMPが削られるのだ。

「うぅ……」

 撃ち負けてよろよろとなったメイド。

「うが!」

 エプロンドレスが消し飛んでしまって、下着とガーター姿になっているではありませんか!

 素晴らしいよゲームデザイナー!

「ご奉仕させていただきます、ご主人様……」

「ええええええ!?」

 そ、その格好でその発言は敵だと分かっていても不味いっすよ!?

 って、ええええ!?

 何でベッドに向かってるの!?

 マジでそっちのご奉仕!?

 VRMMO初のエロサービス!?

「どうぞお受け取りください、ご主人様」

 メイドはベッドを持ち上げてから俺にぶん投げてきた。

「やっぱりそうだよなあっ!」

 ベッドが武器かよ!

 そんな事だろうと思ったけどさあっ!

 つーか下着姿でメイドが『ご奉仕させていただきます』とか言いながらベッドに向かうって、もう演出としてやりすぎだろうが制作側!

 ……ナイスだけどな!

 すごくナイスだけどな!

 ぐっじょぶとか言ってあげたいところだけどな!

 でもまあここを生き残らないと話にならない。

 メイドのHPは一割ほど。

 あと半分削れば下着も消し飛んでくれるだろうかとほのかな期待を抱きながら、俺はメインアームである女王様の鞭を振り回した。

 しかし今回は打ち据える為ではない。

 本格的に止めを刺すならもっと効果的な攻撃方法があるのだ。

「おーっほっほっほっほっ!」

 癖になりつつある高笑いと共に女王様の鞭をメイドに向ける。

「っ!」

 鞭はメイドに巻きついて、その身体を拘束する。

 下着姿のメイドを鞭で巻きつけて拘束って……すっごくアレだよな。

「おーっほっほっほっほっ!」

 そして拘束したままその鞭を振り回した。

 

 どっかん!

 がっしゃん!

 

 壁や床に叩きつけられるメイド。

 ダメージは甚大だ。

 必要なことと分かっているのだけれど、高笑いと連動して気分的にはすっごくドSなんだよなぁ。

 縛りつけたメイドを壁や床に叩きつけて高笑いって……。

 間違っても他のプレイヤーには見せられない光景だ。

 

 十回ほど叩きつけたところでようやくメイドのHPはゼロになってくれた。

 ちなみにどれだけダメージを与えても下着だけは消えてくれなかった(泣)。

 

「……おやすみなさいませ、ご主人様」

「ああ、おやすみ」

 意味はないと分かっていても返事をしてしまう。

 だってメイドだし。

 返事とかしたくなっちゃうじゃん?

 こうしてメイドは消えた。ダンジョンボスを倒した。

「つっかれた~。……精神的に」

 ボスを倒したことで気が抜けてしまい、その場に座り込む。

 まあボスを倒したダンジョンはプレイヤーが出ていくまでモンスターがポップしない設定だから焦る必要はない。

 というかボスを倒して帰り道で死に戻りっていうのはさすがに切な過ぎる。

 この辺りはシステムルールに感謝したいところだな。

「ええと、今回の収穫は……」

 メニューウィンドウを出現させて、ドロップアイテムの確認をする。

 お金もそれなりに増えている。

 ……というかすごく増えている。

「え? え? 何コレ!? あのメイドってそこまで金持ちだったの!?」

 通常のダンジョンボスを倒した時の百倍は手に入っている。

 いや、百倍って……。

 どういうバグだよ!?

 今の俺って多分、プレイヤー中一番の金持ちじゃないだろうか?

 というか三年間プレイして貯蓄に徹したところでこの金額には届くまい。

 それだけ天文学的な金額になっている。

 ……いや、あくまでもデータなんだから天文学的とか大袈裟なことを言うのはおかしいかもしれないけれど。

 でも俺にとってVRワールドはもうひとつの現実であり、人生だと言える。

 だから大金を手に入れたら動揺だってする。

 いや、理由が分かれば問題ないんだけど。

 あのメイドを倒しただけでこれだけの金額を手に入れられるということがまず不自然だ。

 となると何か別の秘密に触れてしまった、もしくは何らかの地雷を踏んでしまった可能性がある。

 あのメイドにバグが仕込まれていた……という可能性も考えなければならないだろう。

 そうなるとシステム管理者側の不備、ということになるが……

 それはそれでラッキーだと幸せを享受させてもらえるのだけれど。

「うーん。とりあえず棚上げしてドロップアイテムの確認を」

 お金がここまで異常なことになっている以上、アイテムにもとんでもないモノが混じっているかもしれない。

 そんな不安を抱えながらアイテムウィンドウを確認する。

「………………」

 

 レア武器。

 レア回復アイテム。

 レアマジックアイテム。

 レア防具。

 レア装身具。

 ……とまあ、この辺りはボスを倒した時にもらえるものとしてはスタンダードなものであり、そこまで驚くほどのものでもない。

 前々から欲しいと思っていたものもいくつか混じっていて、そこは素直に嬉しい。

 頑張ってメイドを倒した甲斐があったというものだ。

 おやすみなさいませ、だ。

 だがしかし……。

 たったひとつ、謎すぎるアイテムが……。

 

 アイテムウィンドウの一番下。

 そこに表示されていたアイテム名は……

 

「『魔王のたまご』って……」

 なんだそりゃ。

 この卵から魔王様が生まれるってか?

 いくらなんでも謎すぎるだろ!

 

 しかしこの謎すぎるアイテムの入手によって、俺のLOライフは大きく変化するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三話 ゲーム廃人の制裁

 

『魔王のたまご』

 

 このたまごの所有者はこの世界における魔王の教育係になれます。

 いずれ誕生する魔王をどのように教育するかはあなた次第。

 あなたの希望通りの魔王が誕生し、育っていきます。

 このたまごを入手した瞬間より、未公開エリアであるルクセリアに入る事が出来ます。

 ルクセリアは魔王誕生予定地であり、将来的には魔王軍の本拠地となります。

 ルクセリア移住希望者は魔王軍所属になります。

 あなたの望む魔王を育成し、あなたの思い通りの魔王軍をつくってみませんか?

 

 魔王&魔王軍育成クエストを受けますか?

 

 

 ……以上、『魔王のたまご』のヘルプ説明でした。

「いやいやいや、どうしろっつーんだこれ」

 ミオードタウンにある俺の家、つまりプレイヤーホームで頭を抱えていた。

 執事にだってマイホームぐらいあります。

 メイドを撃破しダンジョンを出た俺は、そのまま自宅のあるミオードまで転移して、今後のプレイ展開に頭を悩ませていた。

 今まで通り執事ジョブとして屋敷ダンジョンをプレイしていくのもまあ、ひとつの選択肢だ。

 しかし『魔王のたまご』という激レアアイテムをゲットしてしまった以上、新しいゲームに挑戦するという選択肢も存在している。

 魔王。

 そして魔王軍。

 物語の展開上、完全に悪役になってしまうのが悩みどころだが、LOユーザーとしてこの激レアアイテムを無駄にするのもまた気が引ける。

「せめて『勇者』だったらなぁ……」

 世界を救う勇者様。

 そんな英雄ジョブがあるのなら喜んで引き受けただろう。

 しかし魔王となると話は違ってくる。

 だって魔王だぜ?

 人類の敵、魔王陛下。

 要するにこれってラスボスの教育係になれってことだよな?

 このクエストを引き受けたが最後。

 俺ってば最終的にはあらゆるプレイヤーから狩り尽くされる対象になっちまうんじゃねえ?

 時期が来たら今度は『魔王討伐クエスト』もしくは『魔王軍征伐クエスト』が立ち上がるに違いない。

 将来的にはリンチを受けることになってしまう。

「……怖っ!」

 魔王の側近としてあらゆるプレイヤーから狙われる自分を想像して身震いした。

 たとえVRワールドの中であっても俺にそんな度胸はないぞ。

 世界規模の賞金首じゃないか。

 怖い怖いマジ怖い。

 でも激レアアイテムを捨てる勇気もない。

 となると、一人で考え込んでいても仕方がない。

 そろそろナギもボスを倒している頃だろうし、相談してみよう。

 というわけでナギにフレンドコールをかけた。

 

『おう、キョウか。こっちは今終わったところだぞ。キョウもしっかり稼いだか?』

「まあな。稼ぎはそれなりだ。ただ、問題が無いわけでもない。それについて相談したいから暇があるときに俺の家に来てくれないか」

 俺の家、というのはリアルの家ではなく、このプレイヤーホームのことだ。

 さすがにリアルの家でそんな相談は出来ない。

 魔王とか魔王軍とか、痛すぎるから。

 大学生憧れの一人暮らしとはいえ、壁の薄い学生寮。

 魔王とか魔王軍とかの会話を聞かれたくない。

 というか、聞かせたくない。

『オッケー。ちょうどさっきアイテム分配も終わったところだから今から行く。問題については非常に気になるところだしな』

「じゃあこのまま待ってるから」

『おう。転移アイテムが使えるから十分ほどで行ってやるよ』

 そう言ってコールを切った。

『問題』に予想通りの食いつきを見せてくれた。

 コア・ゲーマーを通り越してゲーム廃人であるナギが、ゲーム上で発生した『問題』に食いつかないわけがない。

 イベントを残さず食らいつくすと公言して憚らないビョーキアバターなのだ。

「あ、そうだ。このたまご、あいつに譲ってやるのもいいかもな」

 俺が持っていても持ち腐れになるだけだろうし、ここは一番活かしてくれそうなプレイヤーに譲渡するのが無難だろう。

 あいつなら史上最強の魔王と魔王軍を編成してLOワールド征服とかやってしまいそうだ。

 自分でやるのは怖いけど、ナギがそれを行うのを傍観者として眺めるのはとても楽しそうだ。

 というか、それなら俺も魔王軍に入ってもいいかもしれない。

 

 ……などと早々に丸投げ思考になっていたところに、

「アホか貴様―っ! そこになおれ! つーか土下座しろ! 俺じゃなくて全てのLOユーザー様とゲームメイキングをしてくださったヘカットに土下座して謝れーっ!」

「………………」

 などという怒鳴り声を浴びせられる羽目になってしまった。

 土下座は勘弁して欲しいなぁ。

 

 ナギがやってきたので事情を話したのだが、たまごを譲ってやるからと続けようとしたところでぶっ飛ばされた。

 マジでぶっ飛ばされた。

 ぐーで殴り飛ばされた。

 しかも中身入りの酒瓶を頭にぶつけられた。

 VRワールドなので身体的ダメージはもちろんない。

 頭から被った酒もしばらくすれば消えてしまう。

 損害といえば割られた酒ぐらいのものだ。

 街中ではPK行為が禁止されているから、どのような手段を用いたところでプレイヤーにダメージを与えることが出来ないのだ。

 だから街中でプレイヤーを殴る奴は結構存在する。プレイヤーも面白いように吹っ飛ぶから意外と癖になるのだ。

 まるでマンガのキャラになったような気分になる。

 ストレートパンチが決まると非常に気持ちがいいのだ。

 もちろん殴られた側も相手に同じ事をやり返して鬱憤を晴らすのだろうけれど。

 とにかくそういう理由でLO内ではバトル禁止エリアでこそノーダメージ暴力が横行していたりする。

 今回もその一例なのだが、しかし俺には断言できる。

 ナギの奴はたとえこれがリアルであっても同じ事をしてだろう、と。

 俺を殴り飛ばして壁まで吹っ飛ばした挙げ句に、酒瓶はないから中身入りのペットボトルで俺を滅多打ちにしていた筈だ。

 こいつのゲーム魂はそのレベルで病気なのだ。

「いいか、よく聞け」

「………………」

 人に話を聞かせる態度ではない。

 どういう態度かというと、倒れ込んだ俺の顔にナギの足が載っている。

 そしてぐりぐりと踏まれている。

 ……リアルでやられたら間違いなく泣いているぞこれは。

 というかVRでやられても泣きたくなるな。

 しかしこの状態のナギに逆らうような度胸が俺にあったら、そもそも魔王のたまごひとつにビクついたりはしない。

 肝心な部分でチキンハートな自分がちょっぴり情けなくなってしまう。

「今回お前が挑戦した『ケインズ伯爵の屋敷跡』のボスモンスターは、『ケインズ伯爵の亡霊』のはずだった。結構手強い敵だが、キョウのレベルと女王様の鞭があれば安全マージンを確保した上で倒せるボスだったはずだ」

「………………」

 自分が入れないダンジョンなのによくもまあそんな情報を持っているものだ。

 マメに情報サイトをチェックしているということだろうな。

 やっぱりゲーム廃人だ。

 というか早く足をどけてくれないかな……。

「だが今回発生したのは『冥途の子守歌』。つまり冥途……じゃなくてメイドさんだ。手強くなってはいてもボスではなくレアボスモンスターだということは間違いない。特にスカートがめくれたり下着姿になったりというサービス効果は素晴らしい。つーかオレは今回ほど執事ジョブを選択していなかった自分を悔やんだのは初めてだ! オレだってご主人様って言われたい! ただのNPCじゃなくてレアモンスターに言われたい!」

「………………」

 ……まあこのあたりはいつもの病気ってことで。

 ちなみにメイドのNPCは存在するので、金に余裕があればプレイヤーホームにメイドを雇い入れることが可能だ。

 そして『お帰りなさいませご主人様』『行ってらっしゃいませご主人様』というメイドプレイを楽しむことが出来る。

 プレイヤーの中にはその生活をゲットするために日々モンスターを倒しお金を稼いでいる健気なメイドマニアも存在するらしい。

 最低限のアルゴリズムしか組み込まれていないNPCメイドにそこまで熱心になる気持ちは理解できないが、まあそういうものなのだろう。

 ちなみにナギが味わいたいのはNPCではなくイレギュラーによるメイドの『ご主人様』呼ばわりだ。

 それはそれで違った味わいがあるらしい。

 まあ、俺も結構気分が良かったからそっちは理解できる。

 あのメイドは結構貴重な個性の持ち主だったと思う。

「……と、話が逸れたな」

「逸れたままでも良かったけどな……」

 戻されるということは俺が責められるということだから正直歓迎は出来ない。

「つまりお前は今回激レアイベントを引き当てたんだよ。これ以上特別なことがあってたまるか! 魔王! 魔王軍! 全プレイヤーの敵キャラメイキング! いいじゃないか! やってしまえキョウ! これは天啓だ!」

「天啓というよりはむしろゲームマスター啓という方が正しいような」

「黙れ」

「あう」

 より強く踏まれた。

 顔面を。

 ゲームに関してナギの意見に逆らうことは非常に難しい。

 そのビョーキ魂に圧倒されてしまうのだ。

 ……冷静に考えればそのビョーキ魂こそを何とかしなければならないということは分かっているのに、本人を前にしてしまうとただただ圧倒されてしまうのだ。

「というかここでたまごを手放すような腑抜け発言をしようものなら、オレは攻略サイトに暴露するぞ。キョウが『魔王のたまご』という激レアアイテムを手に入れたってな」

「っ!」

「ゲームマニアのハイエナはこぞって寄ってくるだろうなぁ」

「うぅ」

「下手するとリアルの住所まで調べ上げてから締め上げにくるかもしれないな。どうやって手に入れたとか、脅迫とか、まあ色々?」

「あうぅぅ……」

 想像したくない。

 そこまでやるかと反論したいところだが、目の前のビョーキ魂を深く理解しているだけに、有り得ないことではないと痛感してしまっている。

 少なくともLO内にて俺がリンチをくらうのは間違いない。

「やめてやめてやめてやめてくれ。謝るから。土下座するから。それだけはマジで勘弁してくださいお願いしますお願いしますお願いします」

 俺には分かっている。

 ナギはやるといったら必ずやる。

 有言実行。

 男の中の男なのだ。

 男の中の男という言葉が、必ずしもいい意味で使われるわけではないという実例がここに存在しているのだ。

 形振り構わず懇願する俺を責めるのは筋違いだと主張しておこう。

 格好悪くてもいい。

 実行に移されたらLO内での『キョウ』は間違いなく破滅する。

「育てる! 魔王を育てるから! 魔王軍だって頑張るから!」

 というわけで取り返しのつかない言質を取られてしまう俺なのだった。

「よし。理解してもらえたようで何よりだ」

「………………」

 理解したわけではなく脅しに屈したのだ。

 ……悔しいを通り越して哀しくなってくるので口には出さないけれど。

 ゲームに関することでナギを敵に回したくない。魔王以上に敵にしたくない相手なのだ。

 

 そしてようやく俺の頭から足をどけてくれたナギはソファーに座った。

 さっきまで俺の頭を踏んでいたことなど忘れてしまったかのような態度だった。

 その切り替えの速さが更に哀しくなってくる。

 俺も向かい側のソファーに座ってから頭をさする。痛みはないけど気分の問題だ。

 ナギはオブジェクト化した飲み物を飲んでいる。

 見たことのないものだからどうやら今回の攻略で手に入れたものらしい。

 新しい飲食アイテムは市場に出せばそれなりの値段で取引されるのだが、金に困っていないナギは早々に自分で試す。

 味覚再生プログラムが優秀なので、ゲーム内でも色々な味が楽しめるのだ。

 もちろんプレイヤーが料理したものにも味の善し悪しが存在する。

 リアルで料理の出来るプレイヤーがゲーム内でも料理をするとそれなりのものが出来上がるし、逆にリアルで料理の出来ない人間がゲーム内の材料でいろいろと信じられないものを作り上げたりもする。

 リアルの材料が無駄になるわけではないので、食材アイテムを山ほど無駄にした挙げ句、神がかった料理を作り上げた脅威のプレイヤーも存在する。

「美味しいのか?」

 興味があったので聞いてみる。

「飲むか?」

 グラス事差し出されたので受け取ってひと口含む。

「……結構いけるな」

 材料が想像できないけど、まろやかな味が口の中に広がる。

 糖分と酸味が絶妙のバランスだ。

 近いイメージとしてはカルピスにフルーツ系をブレンドした感じかもしれない。

「だろ? 今回の収穫ではこいつが一番のお気に入りだ」

 俺からグラスを取り返して残りを飲み干してしまう。

 どうやらひと口しか分けてくれないつもりらしい。

 まあ欲しければ自分で取りに行けということだろう。

「ちなみに何て言うアイテム名なんだ?」

 ゲットを目指そうにもアイテム名を知らなければどうしようもない。

 それなりに興味が湧いたので訊いておくことにした。

「ブラッドドラゴンの乳」

「ブラッドドラゴン?」

「そう。アイテム説明には『リジェネン島に生息するブラッドドラゴンから獲れる母乳』ということらしい。ようするにおっぱいだなおっぱい」

「………………」

 それでカルピス系の味だったのか。

 納得。

 美味しかったけど正体を知ると色々微妙な気分だ。

 牛の乳=牛乳と考えればアリなんだろうけど。

 ドラゴンのおっぱ……乳かぁ。

 取りに行くかどうかはもう少し考えてみよう。

 母乳目指してドラゴン討伐クエストって、微妙にテンション上がりきらないし。

 

 

 

第四話 魔王とはどうあるべきか

 

 ナギの脅しに屈した俺は泣く泣く魔王のたまごを孵化させる為、未公開エリアであるルクセリアに向かうのだった。

 魔王のたまごを所有しているとマップ上が赤色表示になっている場所がある。

 そこがルクセリアだろう。

 ナギのマップデータには存在していない、まさに未公開エリアだ。

 つまりこのマップデータを持っているのはLOプレイヤーの中でも俺だけということだな。

 ……そう考えると確かにほんのりとした優越感がある。

 ナギほどの廃人ではないにしても、ドキドキワクワク感はある。

 

 大陸の東側にあるデルファイアの森。

 マップ上は、この森の奥が行き止まりになっている。

 俺達は森を抜けて、空まで伸びている崖に手をかざした。

 本来はここで行き止まりだ。プレイヤーはこの範囲内で狩りをする。

 しかし俺達はこの先に行けるんだ。

 そう。

 俺達は……。

「どうした? 早く入ってしまえよ。つーか入れ」

「……ああ」

 俺を脅したナギくんってば、ちゃっかり魔王軍に志願してくれちゃいました。

 つまり協力して新しい魔王を育てるってことだな。

 まあいいけど。

 俺としても一人じゃ手に余るクエストだし。

 この廃人が協力してくれるというのならこれ以上心強いことはない。

 

『魔王のたまご所持プレイヤーであることを確認しました。未公開エリアへの立入を許可します。ルクセリアへようこそ』

 

 そんな音声ガイダンスと共に崖のオブジェクトが崩れていく。

「おお」

「すげー」

 その向こうに広がっていたのは、デルファイアの森よりも更に広大な森と、遙か遠くに聳え立つ城だった。

「『魔王城』って奴かな?」

「だと思うぞ。しばらくはあそこがオレ達の本拠地になるだろうな」

「そっかー……」

 ちょっと前まで一般的なプレイヤーホームが本拠地だったのに、気が付けば城持ちだよ。

 まあ楽しそうだからいいけど。

「じゃあさっそく向かうか」

「そうだな。この辺りはモンスターも出ないだろうし」

「出ないのか?」

「多分な。この辺りでモンスターが徘徊しだすのは、討伐クエストが発生してからだと思うぞ。魔王も生まれていない段階で、たまごの所持者であるオレ達が死に戻りしても意味がない。少なくとも魔王城に辿り着くまで死ぬようなトラップは無いと考えていいだろう」

「なるほどなるほど。さすがゲーム脳。合理的な考え方だ」

「ゲーム脳言うな」

「駄目か?」

「廃人脳と言え」

「……より酷くなっているような気が」

 まあ、本人がそれでいいのなら気にする必要もないのかな。

 と言うわけで俺達は魔王城へと向かうのだった。

 ちなみにナギの言う通り、本当にモンスターには遭遇しなかった。

 安全なフィールドだ。

 魔王フィールドなのに。

 

 魔王城の全体像が見えてくる距離になると、城下町も見えるようになってきた。

 マップデータを確認すると、『魔王直轄予定地』と表示されている。

「街の名前は後から決められるみたいだな。今のうちに何にするか考えておいた方がいいぞ」

「うーん。いきなり言われてもな~……」

 街の名前、と言われても困る。

 つけてみたい気持ちはあるけれど、だからといっていきなり思いつけるようなものでもないし。

 街並みは他のエリアと変わらない。

 現実離れしたファンタジー風。

「どうせなら和風か中華風だったらいいのに」

 色々なヴァージョンの街はあったけれど、和風や中華風の街はまだ見かけていない。

 ナギからもそんな街があるという報告は聞いていないから、まだLO内には存在していないのだろう。

「あるみたいだぞ」

「え?」

 街のウィンドウを弄っていたナギが言う。

「ほら」

 魔王直轄地の設定が可能になっている。

 名前や街のヴァージョンをいくつか選べるらしい。

 中世ヨーロッパ風、アメリカ風、和風、中華風など、様々なヴァージョンがある。

 遺跡風や、遊牧民テント風というものまであってちょっとビックリした。

 この中から選べるらしい。

 選んだもの以外は無駄になるというのに、ゲームデザイナーもよくやるよな。

 ……まあ、選ばれなかったものは今後のアップデートで再利用されるのだろうけど。

「あ、これがいいな。京都風。寺院とか五重塔とかある」

「……そう言えばキョウって京都マニアだっけ」

「マニアじゃないよ。旅行にはちょくちょく行くけど」

「マニアじゃん」

「違う」

 京都の街並みはかなり好きだ。

 歩いているだけで楽しい街、京都。

 突発的に京都旅行へ行きたくなることがあるし、実は隣の県だったりするので鈍行でちょくちょく行ったりしているのだが、それでも旅費は結構馬鹿にならない。

 VRワールドで京都風が楽しめるのならこの欲求も多少収まるかもしれない。

「じゃあ京都風に決定。街の名前はまだ保留」

 ぽちっとな。

 マニアじゃないけどやっぱり京都が好きだ。

 大学受験で京都を選んでいれば良かったと後悔したほどに。

「おお!」

「すげえ! 城まで変化したぞ!」

 街並みはがらりと変わった。

「………………」

「おーい。目がキラキラしてんぞー……」

「………………」

 キラキラキラキラ……しているかもしれない。

 ゲームデザイナーの腕を褒めてあげたい。

 これはまさしくアレンジされた京都の街!

 俺が好きな石畳とか瓦屋根とか、犬矢来とか駒寄席とか……!

 祗園の花見小路な風景があちこちに……!!

 ハラショー!

「魔王城もすっかり二条城っぽくなってるなぁ……」

「それでもいい! 魔王城万歳! 俺ここに来て良かった!」

「……喜ぶ部分が明らかに違うけどな」

 やれやれと肩を竦めるナギをよそに、俺は二条城……じゃなくて魔王城へとスキップで向かうのだった。

 

「おーっほっほっほっほっ♪」

「おいおい……鞭振るってないのに高笑いが出てんぞ」

「おっと。つい興奮して」

「興奮したら出るのかその高笑いは……」

 呆れるのを通り越してドン引き状態のナギだった。

 俺のキャラ立ちも段々とヤバい方向に傾いてきているかもしれない。

 しかしゲーム内のオブジェクトとは思えないぐらいグラフィックの完成度が高いな。

 マジで歩いているだけで楽しい。

 レベリングとか忘れそう。

 

 魔王城に辿り着いた。

 ウィンドウを表示させて手を翳すと、

『ユーザー認証完了しました。魔王城へようこそ』

 がらがらと跳ね橋が降りてきた。

 本格的で素晴らしい。

 これからここが俺達の本拠地になるかと思うとやっぱりワクワクだ。

 庭園を抜けて城の中へ入る。

 二の丸とか本殿とか細かい知識はないので、城の中とだけ表現しておく。

 京都とか城とか好きだけど、歴史が好きってわけじゃないんだなこれが。

 単純になんとなく雰囲気が好きってだけなんだ。

 だから勉強するつもりもないということで、細かい突っ込みは受け付けませんのでよろしく。

「板張りに畳ね。マジで和風というか京都って感じだな」

 しかもきしきしという効果音まで付けてくれている。

 細かい仕事が素晴らしい。

 

 謁見の間らしきところに辿り着いたところで、ようやく俺達も一息ついた。

 魔王誕生設定はここで行えるらしい。

「じゃあ魔王陛下のコーディネート開始するか」

「なぜナギが仕切る?」

「キョウがいまいち乗り気じゃないからオレが仕切ってやらないと盛り上がらないじゃないか」

「そういう訳じゃないけど。街並み設定とこの城に出入りできるだけでも気分的には盛り上がりまくりだし」

「そっちが本命で肝心の魔王誕生がおざなりになっているのが問題なんだよ」

「あ……」

 そりゃそうだ。

 京都風堪能はあくまでもサブであって、メインは魔王誕生なのだ。

 そこを忘れかけていた。

 所有者失格かもしれない。

 でも所有者以上に盛り上がっているナギもある意味問題な気が……。

 そんな疑惑を抱きながらもアイテムウィンドウから魔王のたまごをオブジェクト化する。

 部屋の中心に据えられていた台にたまごを置いた。

 すると新たなウィンドウが出てくる。

 

『魔王の誕生設定を開始します。ユーザー認証完了しました』

 

「じゃあ設定開始だな」

「どんな魔王にするんだ?」

「そうだなぁ。魔王と言えばやっぱりいかついオッサンじゃないのか?」

 そう言いながら俺が『性別・男。年齢・四十代』の設定ボタンを押そうとしたのだが……

「アホか貴様――っ!!」

「げふうっ!?」

 後頭部にナギの回し蹴りを喰らってしまうのだった。

 ……何故?

 

 

 

 

第五話 ナギのこだわり

 

「そこになおれ!」

「……はい」

 正座。

 主人公、堂本響希ことアバター・キョウは、ただいま畳の上で正座をさせられています。

 魔王のキャラ設定を四十代のいかついオッサンにしようとしただけのことで、正座をさせられているのでございます。

 誰か庇ってください。

 俺の目の前には腕を組んで殺気じみた視線を向けてくる悪友ナギ。

 LO内におけるトッププレイヤーの一人。

 キョウの名前を知らない人は多いだろうが、ナギの名前を知らない人は少ない。

 俺達の知名度にはそれぐらいの差がある。

 そんなプレイヤーに睨まれたら普通に怖い。

 しかもゲーム魂をかけた怒り方をされているので更に怖い。

「いいか。設定を自由に出来るということは、自分の思い通りに出来るということだ」

「そ、そうデスね……」

 逆らわない。

 逆らえない。

 逆らうべからず。

「だったらスタンダードな設定からは敢えて外すのがゲーム道だろう!」

「そ、そうデスね……?」

 別にスタンダードも悪くないと思うんだけどなぁ……。

 怖いから言わないけど。

「ち、ちなみにナギならどんな設定にするんだ?」

 怖いけど聞いてみた。

「ロリ少女!」

「………………」

 聞くんじゃなかった。

 ロリ少女って。

 ロリ魔王ですか?

 ロリな魔王ですか!?

 ……いや、アリかもしれないけど。

 でもどうかな~?

 ロリ魔王って、威厳とかなくね?

「威厳など必要ない! 萌えがあればそれでいい!」

「………………」

 確かに大事な要素ではあるかもしれないけどさぁ……。

 俺としても個人的には賛同したい気持ちはあるけどさぁ……。

 でもロリ魔王って……。

 魔王軍を結成する際に、メンバーがみんなロリコン編成ってどうなのかなぁ。

 アリ?

 アリですか?

「魔王軍をロリコン軍にすることも厭わない!」

「……その命名だけは厭った方がいいと思う」

 確かに俺もロリは魅力的だけれど。

 だからといって進んでロリコンを名乗りたい訳ではない。

 というか、嫌だ。

 隠したい。

 そういうのは秘めてこそ萌えるものだと思いたい。

 テーブルの上に堂々とロリエロ本を置くのではなく、ベッドの下に恥ずかしそうに隠している方がいいと思うのだ。

「じゃあ魔王はロリ美少女で決定な!」

「……あれ?」

 いつの間に魔王の設定がロリ美少女に決定したのだろう?

 確かに四十オヤジと言い出せる雰囲気ではないけれど。

「あとは属性だな」

「属性って、ロリじゃないのか?」

「アホか貴様!」

「ぎゃふん!」

 殴られた。

 振り向き様に顔面裏拳を喰らってしまった。

 ノーダメージではあっても精神的に凹むよその攻撃。

『なんでやねん!』の拳ヴァージョンじゃないか。

 どうせならハリセンでやって欲しい。

 ……って、いやいやそういうことでもなく!

「ロリは基本骨子だ! 属性にあらず!」

「き、基本骨子ですか……」

 怖い。

 目の前のトッププレイヤー様が本気で怖い。

 何が怖いって、ロリ以上の萌え属性を付加しようとしているのが怖い。

 とんでもないカオス魔王が生まれるような気がしてしまうのは俺だけだろうか?

「職業は魔王だけど、やっぱりどんな攻撃をしてくるかによっても客の集まりが違ってくると思うんだよ」

「客って……」

 何をするつもりだ一体……。

 確かに魔王軍を編成する為にはある程度の宣伝効果は必要かもしれないけど。

「んー。やっぱり『魔法少女』かな」

「げ……」

 ロリ美少女で魔法少女な魔王って……。

 なんだその神がかった存在は!!

「やばい。燃えてきた……」

 ドン引きしなければならないのに燃えてきたぞ。

「そうだろう! 魔王だからっておどろおどろしい設定にする必要なんてないんだ! むしろ燃えて萌えて悶絶するぐらいの最強キャラに仕上げるのがオレ達の仕事だと思え!」

「お、おう!」

 魔法少女なロリ魔王。

 なんだか最強というよりは最凶な萌え魔王が生まれる予感がする。

 この時初めてナギに相談して良かったとか思ってしまった。

 殴られたり蹴られたり色々と酷い目に遭わされたけれど、俺一人だったら『ロリ魔王にして魔法少女』なんてものを誕生させるアイデアなんて絶対に思いつかなかった。

 

 というわけでLO内におけるルクセリアの君主、魔王の設定は着々と進んでいくのだった。

 

 

第六話 魔王さま誕生・世界最凶のロリ君主

 

 ロリ魔王の設定は着々と進んでいた。

 設定は俺しかいじることが出来ないので、横からナギがあれこれ口出しをしながら進めていくという感じだ。

 

 外見『ロリ美少女。十歳ぐらい』

 属性『魔法少女』

 性格『魔族の正義を掲げる真っ直ぐな感じで。身内には甘えたさん』

 攻撃特性『広域・砲撃型』

 

 ……などなど、こちらの希望をデータ入力するだけでたまごに組み込まれているAIが判断してそれに見合った『魔王』を形成していくという仕組みらしい。

 立ち位置はNPCでありながらも、ここまで高度なAIで動いているのなら、それはもう一個人という扱いで構わないのかもしれない。

 NPCメイドとは大違いだ。

 たまごの中で着々と出来上がっていく『魔王』に、俺もナギもワクワクしていた。

「しかしもっと細かい設定も出来ただろうに、本当にこれでいいのか?」

「いいんだよ。魔王育成クエストでもあるんだから、成長しながら変化していく様を楽しむのもゲームのうちだ。最初の設定は最低限でいいんだよ。あとは魔王に組み込まれたAIが自己判断で萌えを学んでいけばいい」

「な、なるほど……」

 自己判断で萌えを学ぶAIって、なんか微妙……。

「オレ達は魔王が誕生する瞬間までこのたまごを見守っていればいい」

「そうだな。どんな魔王が生まれるのか、今から楽しみだよ俺も」

「生まれたばかりならまだ内面は真っ白だろうから、どう教育していくかも楽しみだな」

「……変な教育はするなよ」

「大丈夫だ。まずは絶対領域の概念から教え込むから」

「……不安だ」

 ロリ美少女にそんなことを教えるのは倫理的にもヤバすぎる。

「ゴールデントライアングルは麻薬地帯にあらず!」

「はいはい……」

 ゲーム廃人なだけでなく、二次元廃人でもあったんだこいつ。始末に負えない。

 まあ教育次第では面白愉快な萌え魔王が誕生してしまうだろう。

 プレイヤーの設定でゲーム世界に大きな影響を与えてしまうのはちょっと恐ろしいが、同時にワクワクしてもいる。やっぱり俺もナギも楽しみなのだろう。

 これは間違いなく今後のLOワールドの中枢に関われるクエストなのだから。

 制作側ではなくプレイヤー側として、ゲームの進行に一枚噛めるというのはやっぱり心躍る。

『魔王の基礎設定、完了しました。間もなくルクセリア初代魔王が誕生します』

 

 たまごの台座からガイダンスが流れた。

「お!」

「いよいよか!」

 俺もナギもたまごの傍にかじりつく。

『かじりつく』と表現すると『齧り付く』と聞こえてしまいそうでちょっと怖いが、もちろん俺もナギもたまごを囓ったりしていない。

 少しでも誕生の瞬間を間近で見ようと、スタンバっているだけだ。

「………………」

「………………」

 ぴしり、とたまごが割れ始めた。

 ぴし、ぴし、ぱきん、からん……とたまごが割れ、中身が発光する。

 

「おお!」

「こ、これわ……っ!」

 そしてついに現れた。

 LO内における初代魔王。

 ルクセリアの君主。

 俺とナギが設計したロリ魔王にして魔法少女の最強NPC!

 現れた魔王は裸だった。

 黒髪黒目の日本人系ロリ美少女は裸だったのだ。

 それだけでもナギが悶絶していた。

 裸のロリ魔王というのがツボに嵌ったらしい。

 俺もちょっとドキドキしている。

 あれはデザインされただけのプログラムでしかないと頭では理解しているのだけれど、せめて服ぐらいは着て生まれてきて欲しかった。

 いや、それもおかしい話だけれど。

 生まれたての存在が裸であることはむしろ当然。

 裸でない方がおかしい。

 裸であるべきなのだ。

 だからロリ美少女の裸が目の前にあるという今現在の現実はとても正しい。

 だから俺は彼女に、新たなる魔王にまずは服を着せなければならないのだが。

 とてとてと俺の方に寄ってくるロリ魔王。

「え、ええと……」

 戸惑う俺。

 俺の燕尾服をぎゅっと握ってから、上目遣いでにっこりと微笑んでくれる。

 ああ、俺ってロリコンじゃないけど今この瞬間ならロリコンに目覚めてもいい気分になってきた。

「なまえ、つけて」

「………………」

「お兄ちゃんに、なまえ、つけてほしい」

「………………」

 そっかそっか。

 たまごの所有者は俺だったから必然的に懐かれるわけか。

 そして名付け親にもなってくれと。

 ロリ魔王の名付け親に……。

 嬉しいけどハードル高っ!

 

 あ、でもその前に服を着せないと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第七話 捧げるは萌えと忠誠

 

「桜!」

「葉月!」

「譲羽!」

「天音!」

「凜!」

「鈴鹿!」

 魔王さまの名前を決めるべく俺とナギは臨時会議をしていた。

 会議というか、ただの言い合いなのだけれど。

 謁見の間の中心にはオブジェクト化した卓袱台がある。

 その卓袱台を挟んでから俺達は魔王さまの名前を次々と口に出していった。

 折角京都の城っぽい場所に住むのだから、名前も和風がいいという意見までは一致したのだが。

 しかし和風の名前にする、の先が行き詰まってしまった。

 どうにもしっくりする名前が思い浮かばないのだ。

 魔王さまなら威厳のある名前にしなければならないと思う反面、こんな可愛らしいロリ美少女ならばそれに相応しい可愛らしい名前を付けなければならないと考えてしまう。

 俺達の横でぼんやりとそのやりとりを眺めている魔王さまは、

「………………」

 いまいちな反応だった。

 やっぱり気に入る名前が無いらしい。

 それなら自分でつけちゃえばいいのに……と思わなくもないのだが、折角魔王さまの名前を付けるという栄誉を与えられたのだから、そこは何とか頑張りたいところだ。

「翡翠!」

「水晶!」

「っ!」

 名前の種類が宝石関係に移行したところで、魔王さまの反応が変わった。

「………………」

 うずうずとしている。

 どうやら宝石の名前がお気に入りらしい。

 宝石マニアなのかもしれない。

 となると将来的にはとても金のかかる君主になりそうだ。

「宝石で……和名か……」

「カタカナ名称なら結構覚えてるんだけどな。和名となるとちょっと限られてくるな……検索かけてみるか?」

「いや、取りあえず思い出してみよう」

「オッケー」

「藍玉」

「紅玉……とかもあったっけ?」

「瑪瑙?」

「珊瑚……ってアレ宝石だったかな?」

「………………」

 どうやら魔王さまの反応も悪くない。

 気に入ってもらえそうだがしかしまだこれだ! という名前にはありつけていないらしい。

「黒曜……」

「猫目?」

「琥珀」

「っ!」

「お?」

『琥珀』という名前に魔王さまが飛びついた。

「琥珀がいいんですか?」

 一応のプレイとして敬語で尋ねておく。こういうやり方も楽しい。

「うん。琥珀がいい」

「では『琥珀』で決定ですね」

「ありがと、お兄ちゃん」

「いえいえどういたしまして」

 宝石好きの魔王さまの名前は『琥珀』に決定した。

 ちなみに今現在の魔王さまはきちんと服を着ている。

 ナギが用意した巫女服だ。

 とても似合うのだが『魔王さま』が『神に仕える巫女』の服を着るのもどうかと思う。

 まあ、似合うけど。

 最初は裸のままでいいじゃないかと駄々を捏ねるナギを今度は俺がぶっとばすというやり取りがあった。

 その後、俺が前に倒した『冥途の子守歌』のドロップアイテムであるメイド服を着せようとしたナギを再び蹴り飛ばして、俺達が持っていた着替えの中からセレクトして、ようやく巫女服に落ち着いた。

 髪型はもちろんロリ美少女らしくツインテール。

 ……どうして俺達が持っていた着替えの中に『巫女服』が存在していたかというと、これはもう完全にナギの趣味だった。

 モンスターのドロップアイテムや宝箱の中にはそういうお宝も入っている。

 女性プレイヤーがゲットすればさぞかし喜ばれそうだが、俺達男性プレイヤーがゲットしたところで使い道に困ってしまうというのが現状だ。

 まあそういうアイテムを手に入れたらプレイヤーショップで金に換えてしまうというのが一般的な処理方法なのだが、ナギはそのまま自分で持っている。

 曰く、似合いそうなプレイヤーに出会ったらプレゼントして写真撮影をお願いするとのことらしい。俺にはとても真似できない領域の話だった。

「しかし服にも色々バリエーションが欲しいところだな。うーん。オレが作るか?」

「は?」

 今作るとか言ったか?

 魔王さまの服をお前が作ると!?

「あれ、キョウにはまだ教えてなかったっけか? オレのサブ職業って『裁縫師』なんだぜ」

「マジか!?」

「マジマジ」

 驚きだ。

 というかメイン職業である『武士』としてのスキルと印象が強すぎて、サブ職業にまで気が回らなかった。というか気にしていなかった。

 確かにナギのサブ職業を聞くのはこれが初めてだ。

 しかし裁縫師ってなんでまたそんな戦闘に役立ちそうにない職業を選んだんだ?

 ここで『裁縫師』について少し説明が必要になるかもしれない。

 裁縫師とは、主に生地を加工して、ファッション性の高い服を製作できる職業のことだ。

 VRワールド内においてもファッションに拘る女性プレイヤーが就くことの多い職業でもある。

 現にLO内における有名な『裁縫師』は全て女性プレイヤーだ。

 ただしファッションを重視している為、戦闘用の装備としての機能性はかなり低くなってしまう。

 あくまでも『ゲーム内でお洒落をする』という欲求に基づいた職業なのだ。

 そんな戦闘とは関係ない職業を、まさかの戦闘系トッププレイヤーであるナギが選択しているなど、一体誰が考えるというのだ。

 というか、似合わないぞマジで。

 

「似合わないは言い過ぎだろう」

「心を読むな」

「読んでいない。表情に出ていたんだ」

「………………」

 そこまで顔に出やすいのだろうか。

 まあVRワールド内においては珍しいことではない。

 脳から受信したあらゆるものをダイレクトにアバターへ伝えてくるものだから、感情を隠すのが難しい、というのがプレイヤーの共通意見だった。

 例えば現実世界では悔しかったり泣きたくなったりした時も、コントロールして表情に出さないようにすることは出来る。

 しかし『リンクス』を利用したVRワールド内ではそれが不可能なのだ。

 だから表情に出てしまうというのは文字通り、本当に隠しようのない内心の表れということなのだろう。

 そういう部分では不便と感じることもある。

 感情を隠すことも含めて人間社会の在り方なのだから、リンクスの開発スタッフにはもう少しそのあたりを研究して欲しいものだ。

「………………」

 そんな事を考えていると、魔王さまが俺の右袖をぎゅっと握ってきた。

 その仕草も含めて可愛すぎる。

「どうしました?」

「ケンカはだめ」

「………………」

「………………」

 上目遣いで頬を膨らませてそんな事を言ってくるものだから、そりゃあもうノックアウトですよ。

「仲良しですよね、俺達」

「ですよね、オレ達」

 がっしりと肩を組んで白々しい友情を演出して見せた。

 ロリ魔王さまに俺達が心からお仕えする日はきっと遠くない。

 萌えと忠誠を彼女に捧げることに何の躊躇いもないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第八話 おっぱいとちっぱいの確執

 

 ここで我らが魔王さまのステータスを紹介しておこう。

 詳しいことを紹介するわけではないのだが、いかに最強であるかを示しておかなければ、魔王さまの素晴らしさが伝わらないというこの俺の判断だ。

 というわけで、ここに紹介する。

 

『琥珀』Lv99

 職業:魔王

 サブ職業:魔法少女

 

 ステータスはオール1000。

 限界値のみで構成されている。

 HPもMPももちろんLO内における最大値。

 これぞ最強キャラ。

 NPCとは思えないほどハイスペック仕様である。

 仮に魔王討伐クエストが開始されたとしても、魔王さまを殲滅するのは至難の業と言えるだろう。

 というかそんなことは執事たるこの俺が許さないけどな。

 魔王さまは俺が守る!

 

「それにしても最初からステータスマックスって、やっぱり魔王さまってすごいですね」

「えっへん!」

 ステータス確認をして感心するナギに魔王さまは小さな胸をえっへんと張って見せてくれた。

 かーわーいーいーっ!

「でもナギナギもマックスレベルだよね。LO内で一番最初にマックスレベルに到達したプレイヤーだってデータに残ってるよ」

「うお! 魔王さまってそんなデータまで閲覧できるんですか……!」

「できるよ~」

 再びえっへん。

 いや、可愛すぎる。

 ちなみに魔王さまは俺のことを『お兄ちゃん』、ナギのことを『ナギナギ』と呼んでいる。

 ナギとしては『ナギお兄ちゃん』と呼んでもらいたかったらしいのだが、『ナギナギ』というのも呼ばれてみると素晴らしいということだった。

 こいつの感性は時々謎すぎる。

 

 遅まきながらここでナギの簡易ステータスを紹介しておこう。

 

『ナギ』Lv99

 職業:武士

 サブ職業:裁縫師

 

 細かいステータスはパワー&スピード重視といったところだろう。

 たまに剣戟に魔力を上乗せしたりすることもあるので、MPもそこそこ高い。

 武士らしいポニーテイル姿で、着物に刀を差しており、浅葱色のだんだら羽織りを着ている。

 新撰組のコスプレ的なノリらしいのだが、背中に刻まれている文字が『誠』ではなく『萌』というのが色々終わっている。

 ちなみに羽織は裁縫師スキルを利用して自分で作成したらしい。

 防御力なんて障子紙レベルだというのによくやる。

 

「ボクは自立型AIとしてある程度のシステム管理権限を与えられているからね~。お兄ちゃんのこともナギナギのこともステータスとか丸裸同然だよ」

「丸裸!?」

 ロリ美少女に『丸裸』と言われたことに悶えたらしい。

 病気だ。

 そしていつの間にか魔王さまの一人称が『ボク』になっている。

 設定した覚えはないから自分で決めたのだろう。

 さすがは自立型AI、学習能力がぱない。

 最初はたどたどしい喋り方だったのに、こうやって俺達と会話を続けるだけで言葉までしっかりしてきている。

「お兄ちゃん達は役職を決めないとね」

「役職?」

 魔王さまが卓袱台にちょこんと腰かけてにんまりと笑う。

 とても楽しそうだった。

「そう。お兄ちゃん達はボクの側近なんだから、それに相応しい役職があった方がいいと思うんだよ。たとえばお兄ちゃんは……」

 うーん、と考え込んでから魔王さまは人さし指をぴっと立てた。

「『元帥』とか」

「「かっけーっ!」」

 元帥と言えば軍における最高位!

 将軍よりも更に上ではないか!

 そんな役職にこの俺が!?

 執事たるこの俺が!?

「で、ナギナギは『将軍』とか」

「オレはキョウの下っすか!?」

『将軍』も確かに魅力的だけど! とナギが喚く。

 プレイヤースキル的に俺よりも遥かに上位なのだから、この役割分担は納得がいかないのだろう。

 気持ちは良く分かる。

「魔王さま~。せめてキョウと同格にしてほしいっす~。戦闘能力もオレの方が上ですし~……」

 いじけてしまいそうな表情で魔王さまに訴えるナギナギ。

 いじらしいを通り越していじましい。

「ん~。じゃあ元帥職を無しにして、将軍職を二人にする?」

「というと?」

「お兄ちゃんが『左将軍』。ナギナギが『右将軍』とか」

「やっぱりオレが下!?」

 左将軍・右将軍と聞くと同格に聞こえてしまうが、古来より左が右よりも上位になるので、左将軍の方がちょこっとだけ偉い。

 というか細かい。マジでいじましいぞナギナギ。

「む~」

 魔王さまが不満そうに頬を膨らませる。

 まあ当然だろう。

 このままだとむくれてしまうかもしれない。

 それはよろしくない。

 仕方がないので助け船を出そう。

「じゃあ軍の最高責任者をナギに、俺は執事として魔王さまの側近に、ということでどうですか? これなら役割そのものが違うからどちらが上ということもないですし」

 同じ軍で役職を決めてしまうとどうしても上下関係が出来てしまう。

 俺としてはナギの下でも構わないのだが、魔王さまとしてはたまごの所有者であった、つまりは生みの親である俺をナギの下に置くのは我慢できないのだろう。

 その心遣いはとてもありがたいのだが、話が進まないのも困る。

「む~……」

 魔王さまが悩んでいる。

 悩む様もなんだか可愛らしい。

「じゃあお兄ちゃんをボクの旦那さんに、ナギナギを将軍にする?」

「ぶはっ!」

「なっ!」

 俺とナギが同時にお茶を噴き出した。

 ちなみにお茶は緑茶である。

 執事たる俺が三人分淹れておいたのだ。

 もちろん魔王さまの分は玉露。

 俺達の分は煎茶。

 この格差は気分の問題だ。

「ま、魔王さまっ!?」

 VRワールドといっても自我の芽生えたAIに求愛されてしまった。

 しかもロリ美少女。

 俺の倫理観が根底から覆されそうな出来事だった。

 というか、たまごの所有者だからというだけでなく、これは一種の刷り込み機能ではなかろうか?

 所有者に恋をする、みたいな。

 ロマンを感じる設定だけど、ここまで自我のはっきりした美少女に求愛されたら俺だって揺らぐよ?

 ロリでもいいとか思っちゃうよ!?

「魔王さま~! 旦那にするならこのオレを! 美少女萌えの第一人者たるこのオレを!!」

 そしてナギが下らない主張をしているし。

 いやあもう、カオス空間だよ魔王城。

「ん~。じゃあナギナギは愛人一号」

「またとんでもないこと言ってるし!」

 俺が本命でナギが愛人か!? このロリ美少女中身がとんでもねえっ!

「む……愛人か……」

「悩むな馬鹿者!」

 本気で検討しだしたナギの頭をとりあえず殴っておく。

 すぱこーん、といい音がした。

「じゃあお兄ちゃんは旦那さん、ナギナギが愛人一号で決定だね」

「役職は!?」

 旦那と愛人一号は役職ではない。

「あ、忘れてた」

「………………」

 本当にこの魔王さまで大丈夫なんだろうか……

「あ~……魔王さま? 生憎と俺はもう少しおっぱいが育った人が好みなんですよ。だから魔王さまの旦那になるのはちょっと遠慮したいといいますか……もちろん側近として執事として誠心誠意お仕えさせていただく所存ではあるのですが……」

「う……」

 じわあ……と魔王さまが涙目で俺の方を見た。

「え? え? そこで泣くんですか!? 必殺技を出しちゃうんですか!?」

 乙女の最強必殺技。

 ザ・泣き落とし。

 美少女に、特にロリ美少女にこれをやられて逆らえる男はほとんどいないだろう。

 というか逆らえる男は男ではない。

 そんな奴を男とは認めない。

 ナギもそのあたりは同意見だろう。

「うわあああああん!!」

「うわああああ……」

 どどどどどうしようどうしよう。

 魔王さま泣かせちゃったよ!?

 どうすればいいんだ!?

「うわあああああんっ!」

 しかもぽかぽか攻撃までしてきた!

 物理攻撃力としては破壊力ゼロだが、いたたまれない気分にさせられてしまうという精神攻撃力としては破壊力抜群なぽかぽか攻撃だ。

「お、おっぱいなんて育たないもんっ! ボクはずっとちっぱいのままだもんっ!」

「っ!」

 すげえこと言ったぞこのロリ魔王!

 ちっぱいって!

 一体どこでそんな言葉を学習したんだ!?

「お兄ちゃんが外見年齢をロリ美少女設定にしたくせにぃぃぃぃ! それなのにおっぱい大きい方が好みだなんてあんまりだよぉぉ!」

「ご、ごめんなさい……」

 ロリ美少女設定にしたのは俺ではなくナギなのだが、しかしたまごの所有者が俺である以上、そこで謝るのは俺の役目なのだろう。

「……にしてやる!」

「へ?」

 俺の胸にしがみつきながら、魔王さまが何かを呟いた。

「……を……にしてやる……」

「あの……魔王さま? よく聞こえないんですけど……」

 というか聞こえない方がいいような内容っぽい。

 このままスルーしておこうかな?

「お兄ちゃんを……ロリコンにしてやるぅぅぅ!!」

「ひぃ!?」

 本気の怨嗟を含んだその誓いは、俺を驚愕させるのに十分な呪いを帯びていた。

 俺は別にロリ否定派というわけではないけれど。

 まあ好きか嫌いかで言えば好きだけど。

 でもロリコンかと聞かれたら否定するね。

 だっておっぱいは揺れる方がいいじゃん!

 たゆんたゆんのおっぱいを揺れるの眺めたり揉みしだいたりしたいじゃん!?

 ちっぱいにはちっぱいの、微乳には微乳の良さがあるということも理解しているけれど、しかし揺れるおっぱいこそは男のロマン! と、言いたいわけですよ?

 もちろん魔王さまの前では怖くて言えないけど。

「魔王さま、魔王さま。キョウをロリコンにしたいならいい方法があるっすよ~」

「うみゅ? なになに? ナギナギどんな方法?」

「こらー! そこー! 余計な入れ知恵をするんじゃない!」

 俺にしがみついたままの魔王さまにごにょごにょと内緒話をするナギ。

「うんうん。あ、なるほどね~!」

「後でオレにもしてくださいね」

「えー……」

 嫌そうな顔をする魔王さま。

 俺の上で何の話をしている!?

「オレは魔王さまの愛人でしょ?」

「そうだけど~……」

「手取り足取りナニ取り色々教えますから♪」

「子供になにを教えるつもりだーっ!」

「ぎゃふん!」

 ちょうど足が届きそうだったので股間を蹴り上げておいた。

 ナニ取りって!

「ええと……あ、これだこれだ」

 魔王さまはメニューウィンドウを呼び出して何やら設定をいじっている。

 俺の知っている画面ではないので、与えられた管理者権限をいじっているのだろう。

「これでよしっと」

 魔王さまはウィンドウを閉じてから俺に向き直った。

「あの……?」

「ちゅ~っ!」

「っ!?」

 魔王さまが俺にキスしてきた!

「!? !!??」

 VRワールド内では、基本的に痛覚は存在しない。

 脳に与えられる信号の影響で、VRワールド内で刺激を受けると、現実の身体に影響する可能性があるからだ。

 だからLO内では触覚は最低限というか、かなり希薄なものになっている。

 触れている、という感触は理解できるのだが、握られている、という感覚までは実感できない。

 手を握られた場合はあくまで握られているのだなと感じるだけであり、どれだけ強い力を込めて握り潰されていようとも、それに気付くことはない。

 まあ仮の身体を動かしているのだから、その程度の違和感は当然のこととして受け入れる。

 そうやってこれまでプレイしてきたのだが、しかし今俺の唇にある感触は、絡まる唾液までリアルに再現されていた。

「むぐっ! ふぐぅっ!?」

「みゅぐ……」

 魔王さまの幼い唇が俺の唇に押しつけられているという感触から、口腔内で暴れ回る舌の感触までそれはもうバッチリ……。

 この調子なら痛覚まで再現されるに違いない。

 というかシステムが肉体に与える影響を鑑みてカットしている感触を、この魔王さまは管理者権限で無効化してくれやがったのだ。

 つまり今俺が味わっている感触も感覚もリアルと何の遜色もない、現実そのものであるということであって……

「きゃうっ!」

 強引に魔王さまを引き剥がしてから俺は叫んだ。

「お、俺のファーストキスがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!」

 

 堂本響希十九歳。

 彼女いない歴=年齢。

 つまり、女性経験ゼロ。

 キスもまだ経験していません。

 つまり……VRであろうとなんであろうと、これが正真正銘俺のファーストキスなのだった。

 

「「いえ~いっ♪」」

 そしてしてやったりと手を合わせる魔王さまとナギ。

「くぅ……」

 ナギの奴め。

 俺の女性経験がゼロだと魔王さまに吹き込んだに違いない。

 だからこそ最初の経験を強烈な印象にしてロリコンとして目覚めさせるべく図ったのだ。

 た、確かに俺はドキドキしているけど。

 魔王さまの唇の感触とか、かなりドキドキしているけど!

 わざわざ触覚を復活させてまでちゅーしてきた魔王さまにちょっとメロメロになりかけているけれど!!

 でもこれは卑怯だろ!?

 初ちゅーが生まれたての実年齢ゼロ歳、外見年齢十歳のロリ美少女って!! 

 しかもリアルではなくVRワールド内って……!!

「あ……あんまりだ……」

 がっくりと肩を落とす俺。

 落ち込んでいるのと同時にドキドキもしている。

 ヤバいヤバい。

 すでに刷り込みが開始されている。

 落ち着け自分。

 あれはロリ。

 あれは攻略対象外の筈だ。

 俺はロリコンじゃないロリコンじゃないロリコンじゃないんだぁぁぁぁぁ!

「魔王さま、今がチャンスっす。更に追い込んでメロメロにしてしまうには……ごにょごにょごにょ」

「うん! 分かった!」

「っ!?」

 

 魔王さまが俺の胸に飛び込んできて更に服を脱がそうとする!

「ちょ、ちょっと待ったぁぁぁぁぁ!!」

 何だこの問題ありすぎるエロ展開は!?

 確かに年齢制限はあるものの特定空間におけるそういう行為はLO内において認められているけれど!

「お兄ちゃん暴れちゃ駄目! ぱんつの中に手を突っ込めないじゃない!」

「ぎゃあああああああああっっっっ!!」

 幼く見えても魔王さま。

 単純なステータスでは俺を圧倒する。

 華奢な腕に力ずくで抑えつけられて俺は服を脱がされかけて下半身を……ってこれ以上言えるかああああっ!

 

 ……とまあ、そんな感じで魔王さまにオトされてしまいましたとさ。

 具体的に何がどうなってオトされたのかは語らないでおこう。

 というか、語りたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九話 目指すべきは愛され魔王

 

 結果的に、俺の役職は魔王さまの『専属執事』。

 ナギの役職は『将軍』になった。

 俺は元々戦闘職ではないし、軍勢を率いて人間共を攻め滅ぼすというタイプではないのでまあそれは良しとしよう。

 ナギの方はバリバリの戦闘職であり、トッププレイヤーとしてのカリスマもある。この先魔王軍としてプレイヤーを受け入れることになったとしてもうまくやってくれるだろうという確信がある。

 まあ妥当な役職と言えるだろう。

 俺は俺で魔王さまのお世話をしていればいいわけだから気楽なものだ。

 ……お互いその役職の後付けとして『&旦那』とか『&愛人』とか付いているわけだけれど、細かいことを気にすると色々と凹んでしまいそうなので現実逃避……もといVR逃避でもしてしまおうかな。

 ちなみに俺にセクハラ……を含めた様々なトラウマを植え付けてくれやがった偉大なるロリ魔王さまは、膝の上でまどろみ中。

 俗に言う膝枕だな。

 大変ご満悦な様子で執事としてはありがたい。

 ……ありがたい……はず……?

 

「役職も決まったし、あとは魔王軍の募集かな」

 仕切る仕切る我らがナギナギ将軍。

 ちなみに魔王さまの命令でナギは『ナギナギ将軍』というのが正式名称になってしまっている。

 これからどれだけの部下が出来たとしても『ナギ将軍』ではなく『ナギナギ将軍』と呼ばれる運命なのだった。

 ナギの方も悪ノリして『オッケー。オレは今日からナギナギっすね!』とか言いながら快活に笑っているのだからかなりの大物だ。

「でも魔王軍の募集って具体的にどうすればいいんだろう?」

 肝心の魔王軍中枢である俺達が何も分かっていないあたり、なんとも頼りないことだった。

「ん~。ちょっと待ってね」

 俺の膝を撫でていた魔王さま(セクハラだ!)が、むくりと起き上がってメニューウィンドウを操作する。

 魔王さま専用のメニューウィンドウはある程度管理者権限も含まれているらしく、一般プレイヤーである俺達の知らない仕様になっている。

 予めAIに組み込まれていた機能なのか、魔王さまは手慣れた動作でウィンドウを操作していく。

「あ、あった」

 目的のものを見つけた魔王さまはその情報だけを取り出して俺達に見せてくれた。

 内容は『魔王軍結成マニュアル』というものだった。

「………………」

「………………」

 内容そのまんまだな。

「ええとね……役職を決定したら、次は武装の決定をしないといけないみたいだね」

 魔王さまがマニュアルを読み上げてくれた。

「武装?」

「って、魔王さまの?」

「そう。うーん。武装かぁ……やっぱり魔剣とか魔槍とか、魔王らしいおどろおどろしいものがいいかな~?」

 魔王さまが自分の武装について色々と考えている。

 優先事項は『魔王らしく』ということであって、それ以外は割とどうでもいいらしい。

 もちろんそんな状態をナギが放っておくわけもなく、

「魔王さま!」

「うひゃいっ!?」

「……って、おいおい」

 ナギが魔王さまに進言しようと前に出たのはいいのだが、前に出たついでに魔王さまの尻を撫でるというのはいかがなものか。

 セクハラ君主にセクハラ将軍って、魔王軍ダメダメじゃん……。

 ダメすぎるだろ……。

「何するのさナギナギ!」

 涙目で抗議する魔王さま。

 もっと怒ってもいい。

「魔王さま。愛人たるオレにはいつ如何なる時も魔王さまのお尻を撫でる権利があるっすよ」

「そうなの?」

「そうっす」

 納得しかける魔王さま。

「じゃあ仕方ないか~」

「そうそう仕方ないっすよ」

「んなわけあるか……」

 殴り倒してでも突っ込みたいところだが、魔王さまのセクハラダメージが抜けていない俺にはその気力が残っていない。

 精々呟く程度だ。

 それに恐らくこの二人は突っ込みを入れたところで焼け石に水的な予感がある。

「話を戻しますけど、魔王さまの装備についてはこの将軍ナギナギに任せて貰いたいっす」

「お任せコース?」

「そうそうシェフのお任せコース的なノリで」

「お前シェフじゃねえだろ……」

 俺の力ない突っ込みはもちろんスルーされた。

 とても悲しい。

「いいですか。魔王さまの属性は『魔法少女』であり、『魔法少女』とは杖を構えて魔法をぶちかましながら世の中のロリコン達に夢と希望と萌えを振りまく存在なんっすよ」

「へえ~。すごい存在なんだね~」

「………………」

 独断と偏見に充ち満ち溢れた知識を魔王さまに植え付けているこのダメ将軍をどうしてくれようか。

 確かに局所的な見方をすればそういう側面があることも否めないが、それでもそれが全てではないだろう。

 というか一部だろう。

 大多数の意見をここで述べさせて貰うなら、魔法少女とは自らが住まう町で起こる小さな事件を知恵と勇気と魔力で解決しながら、未来ある子供達に夢と希望を振りまく愛すべきキャラクターのはずだ。

 そう、魔法少女とは本来子供向けのアイドルであって、断じてロリコン向けの萌え対象ではない。

 ……はずだ。

「だから装備品も武装も『萌え』るものでなければダメなんっすよ」

「なるほど。要するに『恐怖の魔王』じゃなくて『愛され魔王』になればいいんだね?」

「いえーっす! その通り! さすが魔王さま理解が早い!」

「……早すぎる気がするけど」

 盛り上がるナギ将軍。

 ちょこっと引いてしまう俺。

「管理者権限が利用できるなら上限はあっても装備はそこそこのスペックで創れる筈っすよね?」

「出来るよ。設定値の上限さえ守ればあとはデザインするだけみたいだね。一応管理者側のデザインがいくつかあるけど、全部魔剣とか魔槍とか、魔王っぽいものばかりかも。魔法少女っぽいものはないなぁ~」

「分かっていないな管理者め。まあいい。デザインはこっちで出来るみたいですし、オレに任せてもらえないっすか? コスチュームから武装まで、オレが裁縫師としてきっちりデザインしてみせるっす!」

「……コスチュームはともかく武装は裁縫師関係ないんじゃ?」

 きょとんと首を傾げる魔王さま。

「ノンノンノン♪ 確かに鍛冶仕事は専門外っすけど、今回はデザインしたものに管理者権限で数値を組み込むだけでしょ? だったら『デザイン』はオレの得意分野っすよ」

「あ、なるほどね~。じゃあお任せしようかな。可愛いのを作ってくれると嬉しいな」

「お任せあれ!」

「お兄ちゃんが萌えてくれるようなもの希望~」

「じゃあミニスカ仕様にした方がいいっすかね?」

「タイツと生足だったらどっちが萌えてくれるかな?」

 じぃっと俺の方を見る魔王さま。勘弁してほしい。

「ここは両方楽しめるニーソ仕様っていうのはどうっすかね?」

「にーそ?」

「絶対領域とも言うっすね」

「んー。そっちはまだ勉強不足~。今度外部アクセスして勉強しておくね~」

「その必要はなっしんぐ! オレがきっちりばっちり教育してあげるっすよ!」

「そう?」

「そうそう!」

「じゃあお願いね~」

「らじゃ!」

「………………」

 止めても無駄止めてもムダ止めてもむだ……

 俺は自分に言い聞かせながら鉄の自制心で色々なものに耐えた。

 

「……と、俺そろそろログアウトしないと」

 時間を確認するとそろそろヤバいことになっていた。

 明日も学校があるし、それに大事な講義もある。

 寝坊するわけにはいかないし、寝惚け頭で受けたい講義でもない。

 というわけでそろそろお開きにすることにした。

「魔王さま。すみませんけど、俺はそろそろログアウトさせてもらいます。また明日……そうですね、夕方あたりにログインしてくると思いますので」

「寂しい~」

 ぎゅっと俺にしがみついてくる魔王さま。

 そういう行動は文句なしに可愛いし心揺さぶられるものなのだが、しかしここで自制心を発揮しなければナギの同類になってしまう。

 学校をサボって社会的廃人になりつつある友人と同じ道を辿りたいとはもちろん思わない。

 というか大学卒業後には生活のために働かなければならないのに、今からそんなダメ人間になってどうする。

「分かった。お兄ちゃんが戻ってくるまで『萌え』の勉強して待ってるね!」

「しなくていいですから……」

 結構高度なAIなだけに、学習速度が恐ろしく速そうだ。

「じゃあ俺はしばらく残って魔王さまを魔法少女に仕立てるべくコスチュームと武装のデザインだな!」

「ナギもな……いい加減学校に来いよ。このまま退学になったら就職とかどうするんだよ。親のスネをかじっていられるのは学生の間だけなんだぞ」

「かじってないぞ。オレはちゃんと自分の金で生活している」

「なんと!?」

 それは初耳だった。一体どうやって!? 宝くじでも当てやがったのか!?

「リアルマネートレード。ゲーム内で手に入れまくった激レアアイテムをリアルマネーで取引してるんだよ。結構いい稼ぎになってるんだぞ。すでに貯蓄が六百万円ある」

「……すごいな」

 LOのプレイヤー人数を考えると決して不可能な金額ではないが、それにしたって常軌を逸している。

「たまにゲーム内のバグを発見したりして、運営側から金を貰ったりもしているしな。アップデート前には未公開エリアのベータテスターとしてヘカット側から雇われたりもしているし、これでも結構稼いでるんだぜ」

「おおおお……」

 し、知らなかった……。

 確かにヴァージョンアップ前にはそれなりの調整が必要になるが、その役割をナギが担っていたとは……。

 すでに半分以上開発スタッフ側じゃねえかと突っ込みたくなる。

 もちろんナギのVR適応能力があってこその偉業なのだろうが、それにしたってここまでくると正真正銘VRワールドの住人じゃねえか。

「オレはこっちの道で稼げるし、大学なんてそろそろ退学届けとか出したいところなんだけど、ウチの親がそれを許してくれなくてな~。仕方がないから最低限の単位を確保して最低の成績で卒業するということで折り合いを付けている」

「最低の折り合いだな……」

 しかし親の気持ちは理解できる。いくら稼ぎがよかろうと、可愛い子供にそんな道を歩んで欲しいとは思わないだろう。

「教授側にも何人かプレイヤーがいてさ。レアアイテムを譲渡することで単位をごまかしてもらったり、細工もそれなりに上々なんだぜ」

「聞きたくなかったなあその辺りは!」

 裏取引!

 賄賂!

 VRで教授が生徒から賄賂を受け取っている!!

 確かにLOは爆裂人気タイトルなので年齢層関係なくプレイヤーは存在するけれど!

 リアルの賄賂事情をVRに持ち込むあたり、ウチの学校の教授陣も最低だなあ!

 ……誰かは知らないけど。

「というわけでオレの心配はしなくていいぞ。キョウはしっかり勉学に励んできてくれたまえ」

「……励む気力を根こそぎ奪われた気分だよ」

 正真正銘のダメ人間だと思ったいた悪友が、まさかここまで確固たる生活基盤を築いていたなんて。

 しかもここまでロクでもない方法で。

 賄賂事情は褒められたことではないが、しかしタチの悪い違法行為を働いているわけでもなければ誰に迷惑をかけているわけではないので責めることも難しい。

 大体、教授側も賄賂を受け取って承諾している以上、間違いなく共犯関係なので、ナギだけを責めるのも間違っているし。

 

 ……大切な何かをへし折られた心境になりつつも、俺はその日ログアウトするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十話 魔法少女ロリズム★アンバー爆誕!

 

 次の日、恐る恐るな気分でログインした俺が目にしたものは、裸にタオル一枚巻いただけの姿の魔王さまだった。

 そして……

「おかえりなさいお兄ちゃん。ご飯にする? お風呂にする? それとも都条例違反……へぶっ!?」

 叩いた。

 主君と仰ぐべき魔王さまの頭をハリセンでぶっ叩いた。

「た、叩いた!? ボクのこと叩いた!? しゅ、主君なのに! 執事なお兄ちゃんにとってはご主人さまなのにっ!?」

 涙目で俺を見上げる魔王さま。

 しかし執事だからこそ容赦をするつもりはない。

「教育的指導も執事の仕事ですから」

 魔王さまを健全に教育するのも執事たる俺の仕事だ。

 主君でありご主人様であるのなら尚更、教育に力を入れなければならない。

「……さてと。諸悪の根源はどこに行った?」

 そして、魔王さまに余計なことを吹き込んだであろうナギナギ将軍の姿を探す。

 そして襖を開いて陽気な笑顔を浮かべながら入室してきたのは、

「おっす! どうだった? お帰りなさいイベントは」

「魔王さまに余計なことを吹き込んでんじゃねえよっ!」

「ぐはっ!」

 必殺・執事キック。

 ナギの顎に命中して縁側まで吹っ飛ばされる。

 戦闘職としてのナギは一流でも、萌えに集中しているときはただのロクデナシだ。

 三十以上のレベル差がある状態でもきちんと攻撃が当たる。

 そして俺は縁側に倒れたナギに追い討ちをかける。

 以前俺がやられたのと同じ、顔面ぐりぐり踏みまくりの刑だ。

「裸タオルはやり過ぎだろうがよ。ああ? しかも『わ・た・し?』じゃなくて『都条例違反』って、どんだけだよ!?」

 ぐりぐりぐりぐりぐりぐり……

 ナギの顔がそろそろ変形してしまいそうだが、容赦をする気分にはまったくなれない。

「だって『わ・た・し?』とかだとありきたりじゃんかよ~……もっとオリジナリティを追求しないと……」

「せんでいいっ!」

 最後に顎から蹴り上げて終了。

 今度は庭まで飛ばされた。

 ちなみにこの魔王城、庭までしっかり手入れ済みだ。

 素晴らしき日本庭園になっている。

「さてと。じゃあ服を着て貰いましょうか、魔王さま」

「ロリな裸には興味なし?」

「………………」

 無言でハリセンを構える俺。

 びくうっ、と身を竦ませる魔王さま。

 先日は強烈なセクハラを受けてしまったので、俺もある程度開き直った。

 ロリの裸に興奮するほど俺もまだ踏み越えてはいない。

「わわわわ分かったよ! ふ、服を着るよ~!」

 教育的指導がよほど堪えたのか、魔王さまは渋々といった態度で巫女服をオブジェクト化した。

「あ、待った待った魔王さま。どうせ着るならこっちにしましょうよ」

 さすがのレベル九十九。

 復活も早いナギナギ将軍が新しい服をオブジェクト化した。

「オレが昨日からよなべして作った力作なんっすよ」

 それは黒い和服だった。

 全体的なイメージは巫女服に近いが、しかし清楚な巫女服とは言えなかった。

 華奢な肩が剥き出しで、二の腕あたりから白い布が覆われている。

 下の方も本来の巫女服のような長いものではなく、ミニスカ並に短くなっている。

 お陰で生足が見えまくりだ。

 絶対領域崩壊寸前だ。

 所々に魔法少女的な改造が施されており、ハイブリッドなデザインになっている。

 魔法少女な衣装に『和』を盛り込んだらこんな風になるのかもしれない。

 全体的な露出は控えめになっているが、それでもさすがナギのデザインというべきなのか、肝心な部分では素肌が出るようになっている。

 たとえば太ももの一部とか。

 たとえば鎖骨とか。

 たとえば肩口とか。

 動く度に揺れる布で見え隠れする絶対領域とか。

「むっふっふ。力作だぜ」

 ぐっと親指を立てるナギ。

 確かにいい仕事をしているのだが、その『むっふっふ』はなんだかいやらしい響きになっているので勘弁して欲しい。

「お兄ちゃん、ナギナギ。似合う~?」

「バッチリお似合いっすよ魔王さま♪」

 興奮気味のナギがぱしゃぱしゃと写真撮影を始める。

 LO内にはカメラアイテムも存在するのだ。

 しかもデザインはかなりレトロで、見た目はまんま『ハンザキャノン』だ。

 国産初のライカ型カメラ。

 性能は携帯カメラと大差ないけど、こういうこだわりオブジェクトは目に楽しい。

「そしてそして~♪ これが魔王さまの武装だーっ!」

 しゃきーんという効果音と共にオブジェクト化した武装。

 それは弓だった。

 しかもただの弓ではない。

 やたらごっついのだ。

 魔力の通りやすそうなミスリル鋼を使用したぶっとい弓反りに、矢をつがえる発射部分には砲身のような針が二本出ている。

 恐らくは発射する矢にバチバチと魔力を溜める為の構造なのだろう。

 銃器としての機能もあるらしく、上下の弓反りには小さな銃口がついていた。

 恐らく牽制用の散弾がばらまかれると思われる。

 なんというか、服の可愛さに反してなかなか凶悪な武器になっていた。

 見た目がごついけどグロくはないというのがポイントだ。

 魔王さまの筋力ならあの程度軽々と持ち上げるだろうし、使いこなすことも出来るだろうが、あの武器で『魔法少女』とはいかがなものか。

「えー。いたじゃん。弓を使う魔法少女。タイトルに魔法少女と名前がついているくせに最後の最後のギリギリまで魔法少女にならなかった某魔法少女がいるじゃん」

「いたけどさぁ……」

 某魔法少女アニメを思い出しながらも俺は弓を構える魔王さまをしみじみと眺めていた。

 魔王さまはデザインされた弓に、規定値のパラメーターを組み込む作業で忙しそうだ。

 魔王さまの専用武装はデザインが先で機能は後付けらしい。

 なんともゲームらしい展開だった。

「できたーっ!」

 無事に完成した弓を掲げながら魔王さまがはしゃいでいる。

 ああしていると可愛……いいかどうかは微妙だなぁ。

 持っている武器が凶悪なだけに。

 ナギは『ギャップ萌え』を狙ったのだろうが、これは外したら痛すぎるんじゃないだろうか。

「魔法少女と言えば杖とかなんだろうけど、やっぱり魔王さまなんだしちょっとはセオリー外れないとな。ファンタジー弓って意外と応用が利くんだぜ。遠距離攻撃も範囲攻撃も可能だし。その気になれば近距離だっていけるじゃん。武器そのものをゴツくしておけば打撃武器としてクロスレンジもオッケーだし」

「……いや、魔王さまにクロスレンジとか似合わないし」

「だよな~」

 出来るだろうけど似合わない。

 というかさせたくない。

「名前は何にしようかな~」

 さっそく武器の名前を考えているようだ。

 その様子は微笑ましい。

「エクス●リバーとか」

「……いや、それ剣の名前ですから」

 それにそういうのは個人的な意見としては金髪碧眼の騎士王に使って欲しい。

「グング●ル?」

「槍っすね~」

 どうして英雄の武器名にこだわるのだろう?

 魔法少女なんだからもっと可愛らしい名前にすればいいのに。

「んーっと、じゃあ『ヒビキ』にする~」

「なんでですかっ!?」

 俺はナギを睨みつける。

 この野郎本名バラしやがったな! の圧力を込めながら。

 ナギは素知らぬ顔で口笛を吹いていたりする。

「だってお兄ちゃんの名前を付けておけばお兄ちゃんがログアウトしたあともず~っと一緒にいられる気分を味わえるでしょ~♪」

「うぐ……」

 そのちょ~一途な発言に揺らいでしまう。

 たまご所有者の刷り込み機能にしてもちょっとやりすぎではなかろうか?

「というわけでこの武器は『ヒビキ』に決定~」

「うぅぅぅぅぅ……」

「魔王さま~。なんなら『ナギサ』でもいいっすよ~」

 繰凪渚くりなぎなぎさ

 ちゃっかり自分の名前を付けさせようとするな。

「ひ・び・き……と♪」

 魔王さまは設定画面で名前を入力していた。

 ナギナギ将軍の切ない表情は見えていないらしい。

 ロリ美少女にスルーされるのはとても悲しいよな。

 その気持ちは分からなくもないぞ。

 衣装&武装が完成して魔王さまは決めポーズを取った。

「というわけで魔法少女★ロリズムアンバー完成だねっ!」

 べしんっ!

「いたいっ!」

 教育的指導再び。

 ハリセン大活躍。

「なんですかその『ロリズム』っていうのは!」

「う~。ナギナギが命名してくれたのに~」

 頭をさすりながら呻く魔王さま。

「またてめえの仕業かあっ!」

 今度は鞭を装備してナギに詰め寄る。

「待った待った! ストッープ! 鞭はやばい鞭はまずいって! 魔王さまの前で高笑いしたいのかお前は!?」

「うぐっ!」

 辛うじて自制心が勝った。

 渋々と鞭を仕舞い込んでからナギを睨みつける。

「で、なんなんだよあの命名は」

「え~? 似合ってない?」

「……嵌りすぎて怖い」

「だろ! マジカルとかリリ●ルとかマ●カとか色々あるけどさすがにそういうのは咄嗟に思いつかないからな。で、魔法少女らしくロリを活かしたいと考えたらああなったわけだ」

「わけわかんねーっ!」

「魔王軍を結成する際にロリコンを集める宣伝効果としては抜群だろ?」

「抜群っていうか……腐ったプレイヤーしか集まらない気がするぞ……」

「魔王軍! またの名をロリ萌え同盟!」

「潰れてしまえそんな同盟」

「ロリズム! ~ズムって言葉があるだろ? フェティシズムとかチラリズムとかマゾヒズムとかサディズムとか」

「例えが酷すぎるわ!」

「あいたっ!」

 鞭が使えないので今度は拳で拳骨をしておいた。

「で、ロリコンを主張するならロリズムかなーっと思って!」

 しかしめげずに最後まで力説した。

 恐るべきロリコン魂!

「お兄ちゃん。あんまりナギナギをいじめちゃダメだよ。折角素敵な名前を考えてくれたんだから」

「しかも気に入ってるんですか!?」

 ダメだ。

 将来的にダメ魔王に成長してしまいそうな予感がひしひしとしてしまう。

 執事として教育係としてこれは何としてでも方向修正をしなければ!

 ごごごごご……と燃える俺の傍で、萌える将軍と萌え道に邁進する魔王さまが談笑しているのだった。

 こうして魔王さまはひとつのキャラを完成させる。

 魔法少女★ロリズムアンバー、爆誕……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十一話 『萌族』とは如何なるモノか?

 

「で、いくらパラメーターが最大値をキープしていても、使いこなせなきゃ意味がない訳よ」

 魔法少女★ロリズムアンバー……もとい魔王さまの次なるステップは戦闘訓練だった。

「そうだね。ヒビキの性能チェックもしたいところだし、ここはフィールドに出てちょこっと訓練とかしちゃった方がいいかもね」

 魔王さま元気一杯。

 よっぽど魔法少女の武装が気に入ったらしい。

 まあ衣装も可愛らしいけど。

「それはそうだけど、魔王さまの戦闘訓練ってどこでやるんだ? ルクセリア内は今のところフィールドモンスターなんて出る気配ないし、一般フィールドに出たらいくらなんでも目立つだろ」

「だよな。目立つのを避けるならフィールドよりもダンジョンがお勧めなんだが、しかし今のうちに宣伝効果を狙ってフィールドで大活躍っていうのも捨てがたい……」

「捨てがたくねー……」

 ロリ宣伝しかしないに決まっている。

「まだ魔王軍もまともに機能していないからね~。ルクセリアフィールドはモンスターリソースを割り振られていないんだよ。まあボクの権限でいつでも解除できるけど」

「マジっすか!?」

「えっへん。伊達に魔王じゃないもんね~」

 魔王さまのシステム管理権限って結構大きいかもしれない。

 というかいくら自立型とはいえAIにそこまでの権限を与えてしまう辺り、GMも肝が据わりすぎている。

 いや、ルクセリア限定ならむしろアリなのかな。

 一国一城の主としてきちんと自分の領土を管理できるかどうか、AIとしての性能を試されていると考えれば、それもある種の実験だと納得できるし。

「じゃあフィールドモンスターのリソース制限を解除すれば訓練は可能ってことですか?」

「そうだけどそれよりもお勧めの方法があるよ」

「へ?」

「じゃじゃーんっ!」

 魔王さまがホログラム表示させたのは、おどろおどろしい洞窟だった。

 右下に説明が載っている。

 

『黄泉の道標』

 魔王&魔王軍の専用訓練施設。

 入る前に難易度設定が可能になっており、十段階まで設定可能。

 

「魔王さまの専用訓練施設?」

「そう。GMが張り切って作ってくれたんだよ。こういうのはちゃんと活用してあげないとね!」

「経験値とかはどうなってるんですか?」

「レベルカンストしていないプレイヤーにはちゃんと経験値が入ってくるみたいだよ」

「ふうん。じゃあ魔王さまにとってはただの戦技訓練になりそうですね」

 魔王さまは生まれたてにもかかわらずレベルカンストなのだ。

「うん。それにこのダンジョンは転生システムに対応したものでもあるから」

「あー、なるほど」

 ダンジョンレベル設定によりレベリングの効率を引き上げる目的があるわけか。

 魔王軍結成時による練兵訓練に活用されるらしい。

「そういえば転生システムっていつ頃導入されるんだろうな」

 ナギがふとした疑問を口にする。

 転生システムの情報そのものは入ってきたものの、正式に導入されるのがいつからなのか、そういうことはまだ公開されていないらしい。

「そっちは魔王軍の正式募集準備が整ったら開始される予定だよ」

「なんと!」

「マジっすか!?」

「マジマジ~。転生システムってナギナギがレベルカンストしたからっていうのもあるけど、魔王軍の為にも生み出されたものだからね」

「?」

「どゆことっすか?」

 生まれたてなのに事情通という素敵魔王さまに質問する部下二人組。

 なかなか違和感に満ちた光景だと思う。

 しかし生まれたてとはいえ、『魔王』としてシステム権限を与えられているのだ。

 ゲーム内におけるシステム情報に関しては俺達よりもよっぽど詳しいことを知らされているだろうし、深いところまで情報を探れる立場にいる。

「つまり、転生システムっていうのは『職業』のみならず『種族』にも適用されるってわけ。人間と戦争する『魔王軍』に所属しておいて、種族が『人間』のままじゃ不味いでしょ? だから魔王軍に所属するプレイヤーは最低一度は転生システムを利用することになるんだよ。『人間』から『魔族』にね。細かい種族は色々あるけど、とにかくそういうゲーム展開にするためにこのシステムは導入予定なんだよ」

「なるほど~」

「つまり俺達も導入されたら転生システムを利用しなければならないってことだな」

 俺達二人の種族は『人間』だ。

 LO内には他にも『エルフ』や『獣人』など様々な種族が存在するが、その全てが今のところは人間側に属した戦力という設定になっている。

 もちろん人間のまま裏切り者として魔王軍に所属することも可能だろうが、しかし転生システムで強化できるのならそれは利用すべきなのだ。

 レベルは一まで引き下げられたとしてもステータスは三十パーセント残る。

 二回目以降の転生ではステータス項目を一つだけそのまま引き継ぐことも可能になる。

「お兄ちゃん達はボクの側近だから他のプレイヤーよりも早く転生システムを利用することになるだろうけどね。さすがに魔王軍募集の際、ボクの側近がレベル一だと締まらないし。せめて三十ぐらいは欲しいよね」

「やった! システム利用一番乗り!」

「俺はまだ九十九にも達していないのに……」

「気にするな気にするな。繰り返し利用すれば埋め合わせは出来るだろ?」

「そりゃそうだけどさー……」

 それでも俺だってゲーマーの端くれとして、ナギのようなレベルカンスト気分を味わってみたいと思うのだ。

 それはある種『極めてみたい』という感情と似通っているかもしれない。

 

「じゃあ転生システム一番乗り、する? 今から利用できるよ」

「するっす!」

「うーん。しないわけにはいかないんでしょうね」

 大乗り気のナギナギ将軍と、やっぱりレベルカンストに未練のある俺。

 しかし魔王さまはお構いなしに作業を進めていく。

「ほいさ! じゃあ設定画面を送るからじゃんじゃんやっちゃって♪」

 魔王さまが展開してくれたホログラムディスプレイには、転生システムの設定画面が表示されていた。

「よしきたよしきたーっ!」

 ナギってば大興奮だな。じゃあ俺も張り切りますか。

 

「ええと、設定画面。まずは転生種族を選んでください?」

 ううん、種族か。まあ魔族ってぐらいだからそれっぽい種族が色々あるんだろうけど。

 基本骨子は『魔族』。で、細かい種族分けとして『巨人族』『妖精族』『獣魔族』『森族』『ダークエルフ』『黒翼族』『蛇族』『龍族』などなど……

「って、この最後の項目はなんだ!?」

『萌族』とかあるぞ!?

「あ、それはオレが魔王さまにお願いして加えてもらった。もちろんオレは『萌族』にするけどなっ!」

「………………」

 また余計なことを!

 つーか『萌族』って魔族とか関係ないだろ!

「えへへ~。面白そうだから付け加えちゃった♪ ちなみにナギナギの構想だと、ボクの直属親衛隊は『萌族』で構成された『萌組』になるんだって。楽しみだね~」

「楽しみじゃねえっ!」

 魔王さまも変な部分でナギの影響を受けてきている。

 ダメだ。

 教育係が入れ替わってしまっている。

 確かに俺よりも遥かにログイン時間が長いナギが魔王さまに与える影響は計り知れないが、それでもここまでロクな影響を与えないなんてもうダメ過ぎるだろ!

「……つまり、俺も『萌族』にしないとダメなんですか?」

 恐る恐る尋ねる。

「そんなことはないよ。『萌組』はボクの直属親衛隊だけど、お兄ちゃんはボクの側近兼執事なんだから種族は好きなものを選べばいいと思うよ」

「それを聞いて安心しました」

 という訳で俺は『黒翼族』を選択した。

 背中に黒い翼を生やした一族で、高い魔力を持つという設定だ。

 将来的には空戦を行う役割も持っており、なかなか遊び甲斐のある種族だと思った。

 

 ちなみにナギが魔王さまを言いくるめて付け加え、なおかつ自分で選択した『萌族』の特性は、『萌えパワーを発揮できる』というものだった。

 外見は人間とほとんど変わらないし、魔力も普通の魔族と変わらない。

 しかし己の中の萌えゲージがマックスに到達すると、攻撃力と防御力が五分間だけ倍になる。

 つまり『無敵時間ロリズムタイム』が発動するのだ。

 ……そのネーミングも設定もナギが吹き込んだんだろうなぁ。

 ロリコンを『萌組』編成して、魔王さまを主軸に据えれば間違いなく最強……いや最凶の軍勢が出来上がるだろう。

 敵対プレイヤーがドン引きしなきゃいいけど……。

 

 というわけで俺とナギの転生が完了した。

 簡易ステータスはこんな感じだ。

 

『キョウ』Lv1

 種族:魔族(黒翼族)

 職業:執事

 サブ職業:魔王の側近

 

『ナギ』Lv1

 種族:魔族(萌族)

 職業:将軍

 サブ職業:萌組局長

 

 ステータスは元の三十パーセントにまで下がっているが、レベル一でこれだけあれば十分だろう。

 武装もそのまま残っているし、レベル一からでも十分やっていける。

「……つーか」

「ん?」

「お前のサブ職業が気になりすぎる!!」

「ああ、『局長』?」

「『萌組』も含めてだ!」

「いやあ、『裁縫師』のスキルは引き継げるわけだし、ここは新しい職業を作ってみようかなって魔王さまにお願いしてみた。さすがシステム管理権限。無茶っぷりがぱねえな♪」

「ぱなすぎるわっ!」

『萌』の羽織りに準じた設定なのだろうが、それにしたってフリーダムすぎる。

 新撰組的なノリで『萌組』が出来上がったら多分、末期症状だぞ。

「つーかどっちも戦闘職じゃねえか! 生産系スキル他に取得しなくていいのかよ?」

「そんなものは他のプレイヤーに任せる。オレは魔王さまの衣装さえ作れればいいし!」

「あっそ……」

 脱力するしかない。

 俺のサブ職業も大概あやふやだけど、これはこれで使い勝手がいい。

『魔王の側近』ならば『魔王さまが必要とすること』に対して何でも挑戦できる。

 つまり職業選択によるスキル制限がほとんどないのだ。

 引き継いだ薬剤師スキルに加えて、魔王さまが望むならナギの裁縫師やその他のスキルも引き上げることが出来る。

 まあこだわろうと思えばあんまり色々手を出す訳にはいかないけど、そこは時間をかけることでフルコンプリートも可能だろう。

「さてと。それじゃあボクとお兄ちゃん達の修行ということで、『黄泉の道標』ダンジョンまでれっつごー!」

「「おー!」」

 本日は修行三昧ということになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十二話 顎ちゅーと唇ちゅー

 

 フィールドにはモンスターが出ないのでのんびりした道中になった。

「ピクニックみたいだね~♪」

「空は真っ赤ですけどね」

「魔族的には晴天日和!」

「なるほど……」

 魔族の領地ルクセリアに青空は存在しない。

 赤々とした夕焼け空っぽいものが標準景色なのだ。夜になると青い星が輝き出す。

 魔王さまの保持する転移魔法で移動しても良かったのだが、折角だからルクセリアのフィールドを三人で歩こうということになったのだ。

 それは構わない。

 しかし結果的には『三人で歩く』ということにはなっていない。

 歩いているのは二人だけだ。

 では俺と魔王さまの二人しかいないのかというと、もちろんそういうわけではない。

「お、そろそろ見えてきたっすね、魔王さま」

 ナギもきちんと付いてきている。

 しかし歩いているのは二人。

 どういうことかというと、

「うん。ボクも見えるよ。視界が高いと便利だよね」

「俺は重いんですけどね」

「何か言った?」

「いえ何も」

 魔王さまだけは歩いていないのだった。

 俺の左腕に腰かける形で持ち上げられている。いわゆる『幼女だっこ』だった。

 というわけで俺の左腕は魔王さまに塞がれている。

 これから修行だというのに不便極まりないのだが、しかしここは魔王さまが断固として譲ってくれなかった。

『お兄ちゃんの左腕はボクの指定席。ずっと抱っこしててね!』

 ……などと向日葵のような笑顔で言われてしまい、うっかり頷いてしまったのだ。

 後から後悔してももう遅い。

 まあサポートに徹する限りは片腕でも大丈夫ではある。

 俺の武装である『女王様の鞭』はミドルレンジにも対応できる。

 ……でも魔王さまを抱いたまま『おーっほっほっほっほっ!』はやりたくないなぁ。

 

 そんなやり取りをしているうちに目的地へと辿り着いた。

 魔王さまは指先をくいっと動かしてダンジョンクエスト開始ウィンドウを表示させる。

 

『黄泉の道標』

 練兵ダンジョン。

 ダンジョンレベルを設定してください。

 

 という表示に従って魔王さまはダンジョンレベルを十段階の三辺りに設定した。

「……いきなり三とか大丈夫なんですか? 無難に一から始めて徐々に引き上げていく方がいいと思うんですけど」

「えー。ちょっとぐらいスリルがあった方がいいよ。せっかくのゲームなんだから」

「そのとーり! リアルでは味わえないスリルこそがVRMMOの醍醐味なり!」

 魔王さまもナギも大乗り気だ。

 最強チートの魔王さまと戦闘職人のナギがそう言うのなら、まあそれでいいだろう。

 

 というわけでダンジョンレベル三に設定された『黄泉の道標』へと突入する俺達なのだった。

 

「ふっ!」

「甘いわ!」

「真萌流奥義・霞斬り!」

 

 ばったばったと敵を薙ぎ倒していくのは我らがナギナギ将軍だった。

 転生後も『武士』としての剣術スキルは健在で、パラメーター数値は下がっても技の冴えは以前のままだった。

 どスキル制の要素が強いこのゲームでは、肉弾戦におけるパラメーター数値はあくまで補助的なものであり、本人の戦闘センスこそが力関係を決定すると言われている。

 LOを開始する前に、このゲームが『どスキル制』だと知ったナギは、アカウント取得前に剣道道場に通っていた。

 もちろん本格的に学ぶのではなく体験するという意味での通いだ。

 そこで剣を扱う戦闘の基礎の基礎ぐらいを身に付けたナギは、その基礎の基礎をLO内で最大限に活かした。

 システムスキルに定められた技だけでなく、自らの剣技による技を編み出したりしたのだ。

 アバターに付与された高い身体能力があるからこそ、マンガのような技も可能ではないだろうかというナギの仮説は見事に嵌った。

 『飛天御●流』とか『虚●流』とかもなんちゃって再現してくれたりしたのだが、さすがに著作権的問題があるので自粛したようだ。

 もちろん誰にでも出来ることではない。

 ナギ自身の果てしない妄想力と、高いVR適性によるものだろう。

 そうやってナギはMPを消費しない独自の技を生み出した。

 その技の源流に『真萌流しんもえりゅう』と名付けた辺りに肝心な部分のダメっぷりを発揮しているが。

 しかし『ナギ』をトッププレイヤーに引き上げた要素は間違いなくこの『システム外スキル』だった。

 

「ナギナギ無双だね」

「ですね……」

 俺の左腕に腰かけたままの魔王さまは感心したようにぱちぱちと拍手する。

 というか魔王さまの訓練でもあるんだから少しは戦いましょうよと突っ込みたくなる。

「お兄ちゃんは戦わないの?」

「魔王さまが降りてくれたらいつでも戦いますけど」

「じゃあ戦わなくていいかな」

「………………」

 訓練にならない。

「でも『女王様の鞭』なら戦えるでしょ?」

「戦えますけど、魔王さまを抱えたままアレを使うのは嫌ですね」

「え~。高笑い見たいのに……」

「………………」

 見たがるなそんなもん! と、危うく怒鳴りかけた。

 

「よっし。レベル十までいったぞ。次は交代。キョウよろしく~」

 ナギが専属武装『妖刀・九頭蛇くずのへび』を鞘に仕舞い込んだナギは俺達を振り返った。

 

「交代って……もういいのかよ?」

「ああ。このダンジョンレベルだとこれ以上オレが単独でやっても経験値効率はあんまりよくない。この段階でレベルが開きすぎるのも問題だし。次のレベルに引き上げるまでは魔王さまとキョウに任せる」

「なるほどな」

 経験値効率は大事だ。

 それとレベル平均も。

 つまり俺もいい加減仕事をしろって事だよな。

「じゃあ魔王さま。俺もレベリングを開始しますんで降りてもら……」

「却下」

「………………」

 間髪なっしんぐな否定だった。

「お兄ちゃんはこのまま頑張ってね♪ 危なくなったらボクがサポートしてあげるから」

 どうあっても離れてくれるつもりはないらしい。

「………………はい」

 逆らうことの無駄を理解した俺はがっくりとうなだれながら了承の返事を返した。

 

 そして俺無双が始まる。

「おーっほっほっほっほっ!」

 ぴしいっ!

 ぱしいっ!

 びしいっ!

「お兄ちゃんかっこいーっ!」

 左手にロリ魔王、右手に女王様の鞭。

 ばったばったと薙ぎ倒される黒騎士風のモンスター達。

「キョウ女王絶好調だな~」

 後ろから付いてくるナギが呑気な言葉をかけてくる。

「女王ゆーな!」

 よりにもよって魔王さまの前で高笑いプレイって……酷過ぎる。

 しかしこれ以外に有効な武装を持っていなかったのも事実であり、他に選べる選択肢がなかったのだ。

 そして『女王様の鞭』はやはり強力で、ナギナギ将軍の萌無双とまではいかなくとも、モンスターを薙ぎ倒すレベルの威力は有している。

「お兄ちゃんふぁいと~」

「魔王さまもたまには働きましょうよ!」

「そう? じゃあ次の部屋ではボクが働く~」

「わあっ!?」

 ひょいひょいと俺の左腕から肩まで移動した魔王さまはその上で仁王立ちになった。

 ……っていうか俺の肩は足場じゃないんですけど!?

「うげ……」

「これは厳しいかも……」

 次の部屋では黒騎士モンスターが二十匹犇めいていた。

 どうやら難関エリアに突入したらしい。

 さすがに俺達だけでは不味いと思ったのか、ナギも刀を抜いてくれた。

「大丈夫。ボクに任せて」

「魔王さま?」

 俺の肩に立ったまま、魔王さまは武装『ヒビキ』をオブジェクト化させた。

 弦を引き絞ってモンスター達を見据えている。

 やがて矢が実体化された。

 いや、アレを『矢』と表現するのはちょっと語弊があるかもしれない。

 凶悪な魔力が籠められた槍とも言うべき大きさに成長したソレは、先端部分に光を凝縮していく。

焔槍ほむらそう

 魔王さまはそう言って矢を放った。

 

 どっかーん!

 

 ちゅどーん!

 

 ごごごごごごご……

 

 などと表現すべき凶悪な効果音を放った魔王さまの攻撃は、一撃で二十匹のモンスターを殲滅した。

「………………」

「………………」

 俺とナギは絶句。

 ゲームバランスを崩しかねない凶悪な力に唖然としてしまったのだ。

 いや……まあ……ハイレベルプレイヤーなら数回は持ち堪えられるだろうけど、この魔王さまを攻略するっていうのは酷く難しいというか、難易度高過ぎるんじゃないだろうか。

「魔王さまって強いですねやっぱり。訓練の必要ってあるんですかね?」

 今更ながらそんなことを呟く俺。

「まあ、なくはないかな。ボクも今の技を使うのは初めてだし。技の威力と射程範囲、効果と実戦での使い勝手とか。いろいろ試してみないと分からないことは多いしね」

「………………」

 それは訓練ではなく『微調整』というのだ、とよっぽど突っ込んでやりたかった。

「まあさすがは『広域・砲撃型』っすね。遠距離攻撃に特化すれば間違いなく無敵っすよ」

 戦闘職人であるナギでさえもその評価だ。

 どれだけずば抜けているかは理解できるだろう。

「えっへっへ。魔法少女がクロスレンジを習得するっていうのもちぐはぐだしね~。頑張って砲撃特化型になってみるよ」

 魔王さまはそんなナギの評価に照れたようにはにかむ。

 魔法少女という設定を忠実に守ろうとしている様は健気で胸キュンだが、しかし戦闘能力は凶悪極まりない。

 さすが魔王にして魔法少女。

 俺達の主はLO史上最強の無敵ロリだった。

 

 ダンジョンレベルも徐々に引き上げていき、俺達はレベル三十にまで成長した。

 ある程度ステータスを引き継いだ上でのレベルアップだから、今の段階でかなり強くなっている。

 魔王さまは要所要所で凶悪な攻撃力を見せ付けてくれ、俺達を震え上がらせてくれた。

「あー、疲れた……」

 魔王さまを左腕に抱えたまま『黄泉の道標』から出た俺は、ルクセリアの赤い空にホッとしてしまった。

 いくら余力を持っていたとは言え、十時間もダンジョンに籠もっていたらそりゃあ疲れる。

「じゃあお城に帰ろっか」

「賛成です」

「異議なーし」

 ナギもさすがに疲れているようで、今日はそのままログアウトするらしい。

 魔王城に戻った俺達はログアウト準備を始めていた。

「じゃあ魔王さま。また明日会いましょう」

「うん。今度は魔王軍編成会議をしようね」

「了解です」

「それじゃあ魔王さま。愛人たるオレにおやすみのちゅーを!」

「ちゅー?」

「そう。ちゅーを!」

「………………」

 ログアウト前ぐらい大人しくならないのだろうかこのロリコンは。

 ナギは期待に満ちた表情で、目を閉じて頬を赤くしたまま魔王さまのちゅーを待っている。

 病気だ。

「ん。ちゅー」

 魔王さまはナギの要望通りにちゅーをした。

 もちろん唇ではない。

 そしておでこでもない。

 むろん頬でもない。

「……顎!?」

 顎だった。

 顎ちゅー。

 斬新だった。

「お兄ちゃんもおやすみのちゅー!」

「むぐっ!?」

 そして俺には唇ちゅー。

 ファーストキスほどの衝撃はなくなってしまったし、このやりとりはある種の諦めに達してしまったのだが、しかしだからといって全く緊張がないわけでもなかった。

 というか興奮がないわけではなかった。

 やっぱりドキドキする。

 VRなのに。

「さ、差別だーっ!」

 そして涙するナギナギ将軍。愛人と旦那では明確な差別……もとい区別があるらしい。

「ばいばーい♪」

 ご機嫌な魔王さまに見守られて、俺達は魔王城からログアウトするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十三話 ロリコン魔王軍募集開始!

 

「で、いよいよ魔王軍を募集する訳だけど、その前にGMが転生システムを導入するって言ってたから一ヶ月ぐらいの余裕があると思うよ。だからその間に色々やっておきたいね」

 今日の魔王さまは浴衣コスチュームだった。

 もちろんナギのお手製だ。

 この段階でレべリングに没頭するのは賢い選択ではないというナギの判断はもっともで、最近は専ら生産プレイの方に没頭している。

「たとえば衣装の充実とかどうっすかね?」

 そう言いながらナギが新しく作った衣装はメイド服だった。

 ロリ美少女にメイド服。

 しかも主君にメイド服を着せようとする臣下はLO広しといえどもこのナギナギ将軍ぐらいのものだろう。

「魔王さま魔王さま。早速これ着てみてくださいよ♪」

「……主君に侍女の服を着せようとはいい度胸をしてるね、ナギナギ」

 やはり魔王さまも同意見のようだ。

 まあ、ちょっと見てみたい気持ちはあるけどさ。

「似合う衣装に立場は関係ないっすよ」

「そういうもの?」

「ええ。メイドになって欲しいと言っている訳じゃなくて、あくまでもメイド服を着てみて欲しいという可愛い臣下からのお願いということで」

「……ナギナギは『可愛い』には属さないと思うけど」

 どちらかというと『恰好いい』に属するだろう、と魔王さまがぼやく。

 まだまだ諧謔を解するAIレベルではないらしい。

「それにほら、魔王さまのだーいすきなキョウも見たがってますよ~」

「なんですとっ!?」

 がばっと俺の方に振り返る魔王さま。

 胸ぐらをつかむ勢いでずいっと寄ってきて上目遣い。

「お兄ちゃん、ボクのメイド姿見たい? 見たい?」

 わくわくドキドキうずうずという効果音をバシバシ発してそうな表情だった。

「まあ、見たいと言えば見たいですね」

 似合うことは確かだろうから。

「分かったーっ! 今すぐ着るからねっ!」

 ナギからがばっとメイド服を奪い取って簡易更衣室へと駆け込む魔王さま。

 ちなみに洋服屋に設置されているようなボックス型の簡易更衣室は、もちろんナギナギ将軍のお手製だ。

 日曜大工っぽい感じでちょちょいのちょいと作ってしまった。

 魔王さまのコスプレ専用更衣室ということらしい。

 恐るべしナギナギ将軍の萌魂ロリコンソウル

 メニューウィンドウから装備品を操作することで着替えは簡単に完了するのだが、その際に一度下着姿になってしまうのは素晴らしい設定だと思う。

 しかしそれを恥じらうのもやはり素晴らしく、魔王さまは毎回律儀に更衣室を利用しているのだった。

 それでも着替えにかかる時間は一分に満たないので、すぐに出てきてくれる。

「どうどう~? 似合う~?」

 白と黒でデザインされたメイド服。

 胸元には赤いリボンが添えられている。

 魔王さまのようなロリハリボディでメイド服を着ると違和感があるかもしれないと危惧していたのだが、そんな心配は吹っ飛んだ。

「似合います。すっごく似合いますよ魔王さま」

 くるくると回る魔王さまは破壊的な可愛さだ。

 ナギはさっそく写真撮影を行っている。

 新しい衣装を魔王さまに着せるときはいつもこのパターンだ。

「魔王さま。そこでスカートをくいっと上げてください。そうそう……生足ちらりな感じで!」

 興奮気味にぱしゃぱしゃと撮影中。

 魔王軍募集の宣伝にも使うつもりなので気合の入り方が違う。

「もう少し上げたらぱんつが見え……」

「はいそこまで」

 すぱーん、と俺がハリセンツッコミを入れるところで終了した。

 ぱんつは見せなくてよろしい。

 

 メイド服の魔王さまが俺の膝でごろごろしているその横で、ナギは魔王軍募集ポスターなるものを作成していた。

 ポスターといっても勿論紙製のものではなく、ホログラム作成なのだが。

 このデータをLOの公式ページにアップしてもらうつもりらしい。

 

 来たれロリコン!

 

 我らが魔王は魔法少女!

 

 魔族としてロリ美少女を守護する任につきたいプレイヤー募集!

 

 ……というような煽り文句に、魔法少女ヴァージョンの魔王さまがヒビキを構えてきゅーとに微笑んでいる。

 この笑顔だけでも希望者は殺到するだろう。

 世の中に存在するロリコンの割合は、一般人が考えるよりも遥かに多いのだ。

 

「魔王さま。出来たっすよ」

 データを魔王さまに見せたナギは、自信ありげに笑っている。

「んー。煽り文句が偏りすぎてない? 女性プレイヤーもそれなりに欲しいんだけど」

 魔王さまはもっともな指摘をする。

「別にロリコンじゃなくても魔族っていう種族に興味を持ったプレイヤーは来てくれるっすよ。それに募集するのは戦闘職だけじゃなくて生産職もだし。魔王軍に限らなければ魔族側の女性プレイヤーは結構な数が見込めるんじゃないっすかね?」

「そういうものかなぁ?」

 魔王さまは不思議そうな表情で俺を見上げる。

「まあ、生産職なら女性プレイヤーも来るでしょうね。ルクセリアはまだ開拓されていない商業エリアでもありますから、新しい可能性を求めてやってくる生産職プレイヤーは多いはずですよ。その中には勿論女性プレイヤーも含まれると思います」

「そっかー。じゃあこれでいいや」

「………………」

 だからといって『これでいい』理由にはならないのだが、魔王軍がロリ美少女魔王を守る『萌組』をメインに据えている以上、あながち間違った煽り文句でもないのだろう。

 俺は苦笑だけで頷いておいた。

「じゃあこのデータをGMに送信しておくね」

「よろしくお願いするっす」

 仕事を終えた職人のような達成感に満ちた笑顔で敬礼するナギナギ将軍。

 ……これは絶対将軍の仕事じゃないと思う。

 まあある意味では人気商売なので、宣伝に力を入れることは悪いことでもないのだが。

 とにかくこうして魔王軍の募集準備は整うのだった。

 

第十四話 幕間 魔王とGM

 

「なかなか楽しそうだね、琥珀」

 キョウとナギのいなくなった魔王城でごろごろしていた琥珀は、白衣を着た中肉中背の男と話している。

 全体的に細身で、研究者といった感じのアバターだ。

 彼は二人がいなくなって一時間ほど経過してからやってきた。

 彼の名前は『天月テンゲツ』というらしい。もちろんこれはアバター名前であって、本名も同じかどうかは琥珀も知らない。

 知りたいとも特に思っていない。

 琥珀にとっての天月はあくまで天月であって、それ以上でもそれ以下でもないからだ。

 AIプログラムに過ぎない琥珀は、どうやってもこの仮想世界から抜け出すことは出来ない。

 だから仮想世界で名乗られた名前こそが琥珀にとっての真実なのだ。

「楽しいよ。二人ともすごく面白い」

「二人、というのが少々意外だったかな。てっきりたまごの所有者は一人でクエストを進めるものだと思っていた」

 天月は肩を竦める。

 予想が外れて残念に思っているのか、それとも面白く思っているのか、琥珀には推し測ることが出来ない。

 生みの親である人間の思考を理解することを、琥珀は随分前から放棄していた。

「まあお兄ちゃんは生粋のゲーマーってわけでもなさそうだからね。自信がないと判断したら誰かに頼ることだってあるよ。その相手がトッププレイヤーなら尚更ね」

「なるほど。確かに『ナギ』くんはLO内で最速のレベルカンストプレイヤーだったな」

「結構面白いよ、彼も」

「ナギくんが面白いことは預かったデータで十分すぎるほど分かっている。なかなか個性的な魔王軍が出来上がりそうじゃないか」

「ロリコン集団になるのは確実だけどね~」

 魔王の在り方はたまごの所有者に委ね、魔王軍の在り方は魔王である琥珀に委ねている。

 LO世界に大きな影響を及ぼすであろうこのプロジェクトにGMの一人である天月が自らの意志を介入させないのは、最新鋭のAIである琥珀が自分の意志でどこまでのことをやれるかのテストでもある。

 自らが最高傑作と定める自立型AIの完成度を測っているのだろう。

 実験体のような扱い……というか実験体そのものである琥珀はその扱いに不満を覚えることはない。

 自分が作り物の命であることはとっくに納得している。

「転生システムの導入は来週からなんだっけ?」

「ああ。微調整が必要になるが、来週には導入できる。魔王軍の募集告知もその時に公開する予定だ」

「ナギナギの力作だね」

「開発スタッフは爆笑していたがね。どんな魔王軍が完成するか今から楽しみだそうだ」

「集まりが悪いようだったら何かパフォーマンスをするからいつでも言ってね」

「そこまで準備しているのか?」

「うん。ナギナギが新しい衣装を作ってボクの魅力でメロメロにさせてやるって張り切ってる」

「はは……」

 最初は楽しそうに笑っていた天月も、この言葉にはやや渇いた笑みを浮かべざるを得なかった。

 自らが作り上げた子供とも言うべき存在が、変態の萌え素材にされかけていることに色々と思うところがあるらしい。

「『魔王』としてうまくやっていけそうかい?」

 試すような問いかけに琥珀は苦笑した。

 苦笑という表情すらもプログラムが行っていることだということに、天月は気付いていながらもそれを良しとした。

「『魔王』らしい魔王にはなれないと思うけど、愉快な魔王にはなれるかもね。史上初、魔法少女ロリ魔王。嵌ればブレイクするんじゃないかな?」

「嵌ればね」

 天月には『ロリ萌え』の概念はいまいち理解できない。

 しかしそういう人種が数多く存在するということは理解している。

 どれだけのプレイヤーを琥珀の存在で引き込めるかというのも実験のひとつである。

 プログラムで動くAIが、生身のプレイヤーに対してどこまでの影響力を与えられるのか。

 天月はその結果に対して興味がある。

「天月はさ、どうしてボクを作ったの?」

 琥珀が少女らしくない表情で問いかける。

 それはキョウとナギが設定する前の、無色透明の人格が垣間見えた表情だった。

 高度な自立型AIとして作られた存在として、そういう疑問をぶつけるきだと考えたのだ。

「どうしてだと思う?」

 しかし天月は疑問にたいして疑問で返した。

「それが分かったらもうAIじゃないと思うよ」

 はぐらかされたことに琥珀が頬を膨らませた。

 不満を表す表情だ。

「AIじゃないところまで行って欲しいな」

「………………」

「私が君というAIを作り上げたのは、君という偽物を作り上げたのは、確かめたいことがあるからだよ」

「確かめたいこと……?」

 偽物と言われたことに若干の不快を感じながらも、琥珀は根気よく尋ね返した。

「本物になろうとする偽物は、どこまで本物に近づけるのか。偽物のまま、本物よりも価値を持つ存在になれるのか。今君の中に生まれた『偽物』という言葉に対する不快感。それをどこまで貫いて、どこまで変わることが出来るのか。私はそれを確かめたい」

「……………」

「私は君という存在を誰よりも理解している。君という偽物を誰よりも解析できる。だからこそ私に解析できない可能性、つまり『自我』がどこまで育つのか。私にそれを見せてほしい」

「ボクの望みは本物になる事じゃないけど、天月の望みには沿っているのかもしれないね。偽物でもいいよ。たったひとりの『特別』になれるのなら」

 琥珀の心……そう、心と呼ぶべき場所に生まれた感情は、とても温かいものだった。

 人はそれを心と呼ぶ。

 ならばプログラムで動くAIは、それを何と呼べばいいのだろう。

「『心』でいいと思うよ」

 天月が声に出さない琥珀の気持ちを読み取って告げた。

「いいのかな……?」

「在り方が違うだけで、本質は同じだと私は思いたいからね」

「そっか。じゃあこれはきっと心なんだね」

 心と定めた場所には、ひとりの青年が存在している。

 執事アバターの姿しか知らないけれど、それでも琥珀にとってはそれが真実であり、現実なのだ。

 彼の隣にずっといたい。

 彼と一緒に過ごす時間がとても心地いい。

 もちろんナギのことも好きだけれど、それでもキョウの存在は琥珀にとって誰よりも特別だった。

 たまごの所有者であり、琥珀という自分を生み出してくれたもうひとりの親というのもあるだろう。

 しかしそれは刷り込まれた好意ではないと、琥珀は考える。

 生みの親である天月を前にしても同じ感情は抱かない。

 もちろん親に対する親愛や敬意は存在しているけれど、それはキョウに抱く感情とは完全に別物なのだ。

 最初は所有者に対して無条件に好意を抱くという刷り込みがプログラムされているのかと考えたのだが、天月の性格と言動からそれはないと判断した。

 ならばこの感情は琥珀自身から生まれたもののはずだ。

 キョウと過ごした時間で感じた、本物の感情なのだ。

 琥珀はそれが嬉しい。

 その感情は、この気持ちは、きっと何物にも代え難い宝物だと思えるから。

「琥珀。君が積み上げていく経験は貴重なデータとして次世代のAIに受け継がれていく。ただし私は君を一個の命だと考えているからそれに対する制約も付けてある。それが何か分かるかい?」

「分かるよ。それに対する不満はない。逆にそうでなければ意味がないとも思っている。天月の為にも、そしてボクの為にも」

 残酷とも言えるその制約は、琥珀にとっては福音だった。

「そうか。ならば頑張ってくれ。君からはいいデータが取れそうだ」

「了解。精々親孝行に励むとするよ」

 天月がログアウトしていく。

 薄れていく白衣姿を見送ってから琥珀はひとり溜め息をついた。

「またひとりぼっちか……」

 この世界にひとりきり。

 そんなときに訪れる感情は『寂しさ』だった。

 どれだけ焦がれても、どれだけ求めても、彼の世界とは交われない。

 それが、琥珀にはどうしようもなく寂しかった。

「お兄ちゃんに会いたいな……」

 琥珀はソファの上で丸まって、そう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

第十五話 魔王さま直属親衛隊! その名は『萌組』!

 

 ヘカットから転生システムが導入され、LO内には一気に低レベルプレイヤーが増大した。

 プレイヤーの九十パーセント以上が転生システムを利用したらしく、今はせっせとレベルアップに勤しんでいるようだ。

 そして同時に公開されたルクセリア領土と魔王の存在もLO内に大きな衝撃を与えていた。

 ナギが作成した魔王軍募集ポスターを彩った魔王さまは多くのロリコンを魅了したらしく、応募者が殺到した。

 一晩でざっと二千人。

 ……一晩で二千人のロリコンが動いたわけだ。

 城下町には魔族に転生したプレイヤーが溢れている。

 その大半がもちろん男性プレイヤーだ。女性プレイヤーは僅かしか存在しない。

 巨人族・妖精族・獣魔族・森族・ダークエルフ・黒翼族・蛇族・龍族と様々な種族に転生しているようだが、その二割ほどに萌族が存在していたことにはドン引きせざるを得ない。

 ナギが冗談のような本気のようなやはり冗談的ノリで設定した種族なのに……。

 まさかここまで需要があるとは思わなかった。

「世の中変態さんが多いんだね♪」

 魔王さまはその様子をドン引きすることなく、むしろ面白がるように眺めていた。

「魔王さま。そこ楽しむところじゃないですから」

「そう? ゲームなんだから何事も楽しむことが大事じゃない?」

「うぐ」

 言われてみればその通り。

 たとえ二千人のロリコンが結集しようとも。

 たとえ四百人の萌えマニアが存在していようとも。

 ゲームである以上は楽しんだ方がお得だ。

 そして我らがナギナギ将軍は軍を取り仕切る大将として張り切って仕事に出向いている。

 城下町の中心にある広場で演説をしているのだった。

 マイクアイテムを右手に、萌組羽織をはためかせ、壇上に立つナギナギ将軍はまさに輝いていた。

「ロリコンになりたいかーっ!」

「「「「「おーっ!」」」」」

「魔法少女魔王に仕えたいかーっ!」

「「「「「うおーーっ!!!」」」」」

「ロリハリボディが好きかーっ!」

「「「「「ふぬおーーーっ!!!」」」」」

「ようこそ我らが魔王軍へ。魔王直属親衛隊『萌組』局長として君らロリコンを歓迎する!!」

「「「「「うおおおおおーーーーっ!!!」」」」」

 広場は盛り上がり最高潮。

 イベントアイテムとして魔王さまの巫女姿ブロマイドを配られたのがいい刺激になったらしい。

 どいつもこいつも魔王さまの魅力にノックアウトだ。

 そしてどいつもこいつもただの変態だ。

「では今から闘技場でトーナメント形式のバトルを行って貰う。上位十名には萌組一番隊から十番隊の組長に任命する。萌組は魔王さま直属の親衛隊であり、究極のロリ萌え集団だ! 隊員にはこの『萌』羽織が配られる!」

 ばさりと羽織を翻すナギ。背中の『萌』一文字が一段と輝いているように見えてしまう。

「『萌』羽織が欲しいかーっ!」

「「「「「欲しいぞーっ!!」」」」」

「ならば戦って勝ち取れ!」

「「「「「うおーーーっっっっ!!!!!」」」」」

 盛り上がりまくりだ。というか盛り上がりすぎだ。

 

 そしてロリコン達のバトルロイヤルが始まった。

 バトルフィールドはこの城下町一帯。

 魔王さまが設置した監視プログラムにより、参加者の確認と脱落者の確認は出来るようになっている。

 もちろんランキングも表示されるので、俺達は細かいことはプログラムに任せて城下町をのんべんだらりと眺めているだけでいい。

「お兄ちゃん。天守閣に行こう」

「了解です、魔王さま」

 天守閣に登れば様子がくまなく見渡せる。

 もちろんそれぞれのバトルシーンはカメラアイテムによってモニターされているので個別に眺めることが出来るのだが、しかし上から俯瞰してそれぞれの様子を眺めるのはまた違った楽しみがあるということだろう。

「ただいま、魔王さま」

 そしてナギが帰還した。

 司会進行としての役割は一旦終わったので魔王さまを愛でにきたらしい。

「おかえりナギナギ。司会進行お疲れ様」

「いえいえ。楽しい仕事っすよ」

 そりゃああれだけのお仲間ロリコンが集まる中で盛り上げていけば楽しいに決まっている。

 同類と馬鹿騒ぎするのは何にも代え難い楽しみなのだから。

「それよりも見ろよ、キョウ。参加者リストの中に面白い名前を見つけたぞ」

「ん?」

 ホログラム表示された参加者リストを見ると、

「あ……」

 知っている名前を見つけてしまった。

 

『アルトリウス』Lv1

 種族:魔族(萌族)

 職業:格闘家

 サブ職業:ドクター

 

 アルトリウスとはかつてナギと鎬を削ったプレイヤーである。

 ライバルと言ってもいい存在だろう。

 どちらが先にレベルカンストに到達するかも競い合っていた。

 その勝負はナギが勝利したが、しかし知名度で言えばナギよりもアルトリウスの方が有名かもしれないと俺は思う。

 ナギはかつてのメイン職業である武士に相応しく剣技で他者を圧倒したが、アルトリウスの方はメイン職業が回復役であるにもかかわらず、戦闘においてナギに迫っていたのだから。

 アルトリウスが転生前に選んでいたメイン職業は『神官』。

 回復役である。

 回復にそのポテンシャルをつぎ込んでいく職業で、パーティープレイをメインとするのだが、しかしアルトリウスはソロで活動していた。

 そしてあろうことか神官の装備である『杖』でメイン攻撃を仕掛けていたのだ。

 神官にとって杖とはあくまでも魔法の為の装備であり、攻撃に用いるものではない。

 しかしアルトリウスは『撲殺ヒーラー』としてLO内にその名を轟かせた。

 殴る、殴る、殴る。

 杖はとにかく強度の高いものを選び、自分を回復しながらとにかくモンスターを撲殺していった。

 回復役でありながらパラメーター振り分けを筋力と敏捷力につぎ込んだ異端のプレイヤーだ。

 しかしどスキル制というLOの特徴もあり、自分ひとりで回復と攻撃を担当できるバトルプレイヤーとして活躍の場を広げていったのだ。

 ナギ曰く、

「あいつはもともと武道をやっていたんだろうな。体捌きに無駄がない。だから回復役でありながら戦闘職としてもずば抜けたセンスを見せてくれる。あいつとやり合うのは楽しいよ」

 ということだった。

 ナギのライバルでもある撲殺ヒーラーがわざわざ魔王軍に志願してきた理由は分からない。

 ロリコンという可能性は低いだろう。

 何故ならアルトリウスは女性プレイヤーだからだ。

 LOでは性別を偽ってプレイすることは禁じられており、外見は自由に設定できても性別だけは本来のもので行わなければならない。

 だから撲殺ヒーラー・アルトリウスは女性でありながらこの魔王軍に志願しようとしているということになる。

「……アルトリウスが百合属性だっていう話は聞かないよな?」

「聞いたことねえな」

「だったら目的はナギかな?」

「オレ?」

「うん。ライバルだったんだから追いかけてきても不思議じゃないだろ?」

「うーん。でもそれなら敵同士でバトルした方が楽しいんじゃないか?」

「じゃあやっぱり百合ロリコン説にしておく?」

「それも微妙……」

 アルトリウスがどういう意図で魔王軍募集に志願してきたかは不明だが、しかし彼女が参加している以上、確実に上位へと食い込んでくるだろう。

 転生システムを利用したばかりということでプレイヤーのレベルはみんな一だが、しかし彼女のスキルはずば抜けている。

 しかも神官としての回復スキルも引き継いでいるはずだから、確実に他のプレイヤーよりも有利な立ち位置にいるだろう。

 転生前に回復職であったプレイヤーは、あくまでも後衛であり、メインの戦闘職経験は少ない。

 しかしその両方を備えているアルトリウスなら確実に勝ち上がってくる。

「まあアルトリウスの意図は勝ち上がってきてから確かめればいいよ。敵対しないっていうんなら仲間としてこれからプレイすればいいわけだし」

「うーん。オレとしては敵としてバトルする方が面白いんだけどな」

 バトルジャンキーここに極まれりな発言だった。

「同一組織内でも確執やライバルは存在するだろ?」

「それもそうか」

 アルトリウスとバトルしたいという欲求は確実にあるらしいナギは獰猛な獣のようにぺろりと舌なめずりをした。

「肉食獣だね」

 魔王さまが呟く。

 まさしくその通りだった。

 最強にしてロリコンにして肉食獣。

 あれ?

 なんか最悪の組み合わせじゃねえ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十六話 撲殺ヒーラー改め萌組副長就任!

 

 そして勝ち抜きロリコンバトルは終焉を迎えた。

 ランキングは確認するまでもなくアルトリウスがトップだ。

 もちろん上位十名にもそれなりのトッププレイヤーが名を連ねているが、それにしてもアルトリウスのぶっちぎりっぷりは凄まじい。

 女性プレイヤーでありながらロリ魂に萌え燃える二千人を蹴散らしてトップに躍り出た実力はぱなすぎる。

「久し振りね、ナギ」

「おう、久し振りだなアルトリウス」

 栄誉あるトップに躍り出たアルトリウスに一番隊組長の称号と羽織を手渡す。

 その後ろで授与式を眺めているのは俺と、俺の左腕に腰かけている魔王さまだ。

 どうやら指定席になってしまったらしい。

 そして俺に恨めしそうな視線を向ける二千人のロリコン諸君。

 視線が痛いというよりは君達の存在が痛々しいよ。

 確かに俺も萌えとかロリとかチラリズムとか大好きだけどさ。

 でもここまで強烈な光景を目にしてしまうとむしろ常識側に傾いてしまうよな。

「ところで、ナギにお願いがあるのだけれど」

「ん? なんだ?」

「あたしは一番隊組長っていう立場になるつもりはないのよね」

「おい。ここまで勝ち抜いておいて辞退するつもりか?」

「だって他にもっといいポジションがあるもの」

「?」

「ナギは局長なんでしょう?」

「そうだけど」

「だったら勝ち抜きトップのあたしには『副長』のポジションを与えて欲しいわね。元ネタを考えれば妥当でしょう?」

「あー……」

 元ネタ。

 つまり『新撰組』のポジション的には確かに相応しいかもしれない。

 ということはアルトリウス女史が土方歳三か?

 性格的にも『鬼の副長』としてはある意味マッチしていると言えなくもないけれど。

「分かった。じゃあアルトリウスは副長だ。それでいいな?」

「もちろん」

 ここでようやく羽織を受け取ってくれた。

 ナギと鎬を削ったプレイヤーとして少しでも上の立場にいたかったのだろうか?

 それとも何か他の目的があるのだろうか。

 

 それから一番隊から十番隊までの組長就任を見守ってから、希望者をそれぞれの隊に振り分ける作業が開始された。

 人数にそれなりのばらつきがあるが、どの隊に入りたいかは希望者に任せることにした。

「よし! 萌組編成完了! 我らはこれより魔王軍として活動することとなる。各々レベルアップに努め魔王さまの剣となり盾となるように励んでほしい!」

「「「「「うおおおおーーっ!」」」」」

 浅葱色の萌羽織を身に着けて盛り上がるロリコン諸君。

 ちなみに俺は着ていない。

 俺はいつも通りの燕尾服だ。

 魔王さまの執事としてこの服装は変えられない。

 というかあいつらと同じ羽織を着るのはなんか嫌だ。

「………………」

 その辺りのことをアルトリウスはどう思っているのだろう。

 ……とナギの隣に立つアルトリウスを見ると、

「………………」

 魔王さまに視線が釘付けだった。

「みんな~。ルクセリアを盛り上げていく為に頑張ろうね~! ボクも頑張るから!」

「「「「「うおおおおおーーー!! ロリ魔王ばんざーい!」」」」」

 魔王さまは魔法少女装備で壇上に上がってロリコン諸君を盛り上げている。

 生足チラリがいい刺激になっているようだ。

「……可愛い」

 と、頬を染めて呟いた言葉を俺は聞き逃さなかった。

「………………」

 どうやらアルトリウス女史はロリ美少女に興奮する性癖の持ち主のようだった。

 ……まあ、百合ってことはないんだろうけど。

 そもそも女性は可愛いものを好む傾向があるし、それに当てはめれば有り得ないとも言えない。

 しかし興奮するのはいかがなものか。

 たまにいるんだよなぁ、そういうタイプ。

 

 とまあこんな感じで魔王軍は結成されるのだった。

 

 

 

 

 

第十七話 屯所を作ろう

 

「魔王さま。お茶が入りましたよ」

「ありがとお兄ちゃん」

 魔王軍第一次編成は無事に終わり、今は各自レベリングに励んでいる。

魔王さまの持つ管理者権限によりルクセリアフィールドのモンスターポップが解放されたので、萌組諸君はレベルアップの為に遠征中だ。

 俺達が利用した『黄泉の道標』ダンジョンも解放しようという話があったが、せっかくのダンジョンだから見つけた奴のレベリング権利として残しておこうということになった。

 最初のダンジョン設定が必要になるし、レベル差のあるパーティー編成だと攻略が厳しくなるからな。

 あれは個人で攻略するか、レベルの近いパーティーで攻略するしかないだろう。

 俺達はある程度レベリングが完了していたのでのんびりしていても良かったのだが、しかしナギとアルトリウスは先を争うようにして『黄泉の道標』へと突入してしまった。

 どちらが先にセカンドカンストに到達するか勝負しているらしい。

 っていうか先にレベル三十まで引き上げていたナギが有利じゃん、と俺としては呆れてしまうのだが、アルトリウスにとってはそういうことでもないらしい。

 ほんの数日で引き上げたレベル差など、プレイ時間の長さで覆してみせるとでも言いたげだ。

 彼女もリアルを犠牲にしたゲーム廃人なのだろう。

 恐ろしや恐ろしや。

 副長就任時の彼女は、

「ああ魔王さま可愛らしい! すりすりしていいですか!? なでなでしてもいいですかっ!? っていうかお持ち帰り! お持ち帰り希望なんですけどっ!」

 と鼻息荒く魔王さまに擦り寄っていた。

 すりすりして、なでなでして、お持ち帰りされかけていた。

「や、やだーっ! くるしいよっ! っていうか首筋舐めないでぇっ! はーなーしーてーっ!」

 じたばたする魔王さまを俺が救出。

「お兄ちゃん助かったよ~」

「いえいえどういたしまして」

 魔王さまはこういう手合いに慣れていないのでフォローは俺の役割だ。

「む。たまたま運よくレアアイテムを手に入れたからって調子に乗らないでよね。魔王さまを愛でる権利は魔王軍全てに存在するんだから!」

「………………」

 ここまで来ると幼女愛好家という言葉で言い表すのも憚られる気がする。

 というか、彼女は根本的なところでナギと似た者同士だと痛感した。

 とまあそんなやり取りもあったが、今はナギとのレベル差を取り戻すのに必死らしい。

 あの二人はゲーマーとしてのレベルで競い合っているんじゃなくて、根本的な趣味が原因でぶつかり合っているんじゃないだろうか。

 さすがにアルトリウスが真性の百合ということはないだろうが、それでも仮想世界において表に出せない性癖を爆発させていることは確かなのだろう。

 リアルで押さえ込んでいるものをVRで爆発させるのはある意味で正しい発散方法なのだが、それに関わる者の意見を述べさせてもらえるならば……三十歩ほど距離を置きたいというのが正直なところだ。

 ちなみにナギは九割ほどVR住人と化しているので、今の姿が紛れもない本物であり本性であり本音だ。

 

「今はそれぞれで宿をとったりしているけど、さすがに屯所ぐらいは造らないとね」

 魔王さまがお茶をすすりながら言う。

「屯所……ね……」

 すっかり新撰組的ノリだった。

 ただのロリコン集団なのに。

 狼という面では似合っているかもしれないけど。

 男はみんな狼である。

 一部女も狼だと言いたいところだが、あれは狼というよりはもっと別の野獣っぽい感じがする。

 豹とか、獅子とか。

「魔王城にはさすがに二千人を収容する施設はないからね。城下町に造ろうと思うんだけどどうかな?」

「いいと思いますよ。もともと宿屋はログアウトメインの使用ですし。屯所にログアウト機能を持たせれば軍の管理にも役立ちますし」

 ログアウトは特定のポイントか宿屋で行うことが出来る。

 新しく建築予定の屯所にその機能を付け加えれば、ログイン状況も確認できるし、今後の軍運営にも便利そうだ。

「じゃあさっそく屯所を造らないとね! 結構予算がかかりそうだけど、まあお金はあるからいいよね」

「ありましたっけ?」

 三人でレベリングを行った際にそれなりの稼ぎは得ているが、それはいち建築物をぽんと建てられるほどのものではない。

「もー! お兄ちゃんってば冥途の子守歌を倒した時のこと忘れてるでしょ!」

「あ……」

 思い出した。あの後とんでもない額のお金が俺のストレージに入ってきたのだ。

 バグかなと思ったのだが、どうやら違う用途があったらしい。

 魔王さまはぷんすかと俺を睨みつけている。

 怖いけど可愛い。

「ボクとお兄ちゃんのアイテムストレージは共通化してるから、お兄ちゃんのお金がまるまる魔王軍の予算になるんだよ」

「なんと!」

 アイテムストレージが共通化していることすら初耳だった。

 恐らく魔王さまが生まれた段階でそうなったのだろうが、今まで知らなかったというのは迂闊だった。

 というか俺のプライベートアイテムが魔王さまに筒抜けじゃないか……。

「いやお兄ちゃんそんな複雑そうな顔しないでよ。別にボクはお兄ちゃんのアイテムをどうこうしようってつもりはないし」

「あ、すみません」

「謝らなくてもいいけどね。とにかくボクの側近ということでお兄ちゃんのストレージは他のプレイヤーよりもかなり容量が大きくなっているんだよ。ボクの分も含まれているし、魔王軍の資産管理も含まれているからね~」

「うわ、さりげに責任重大ですね……」

「そうだよ~。頑張ってね」

「頑張ります……」

 予算管理とかしたことないんだけどな。

 会計職も雇った方がいいんだろうか。

 

「屯所は魔王城の近くがいいよね。城下町はまだまだ未整理区画が存在しているから屯所のために土地を確保することは簡単だけど」

「あ、土地の購入から始めないといけないんですか?」

「それは大丈夫。ルクセリアはボクの領土という設定だから。魔王軍が土地を利用するにあたってお金がかかることはないよ」

「なるほど」

「お兄ちゃん。クッキー食べたい」

「……どうぞ」

 予め作っておいたクッキーをオブジェクト化する。

 魔王さまはスイーツ大好きなので、常時欠かせない。

 予めストックを作っておいていつでも出せるようにしてある。

 魔王さまはごきげんにぽりぽりとクッキーを頬張る。

 実に幸せそうだ。作った側としても癒される。

 魔王の側近ジョブ特典として、スキル習得無制限というのがある。

 職業選択によるスキル制限が無くなっているのだ。

 だから薬剤師でありながら料理人スキルも伸ばすことが出来る。

 ただし、料理人スキルは執事の時にある程度習得していたスキルではあるけれど。

 LOは基本的にメニューからのアイテム作成が出来ない仕様になっている。

 リアルで行うのと全く同じ手順によってアイテムを作成しなければならない。

 だから俺が料理人スキルを発揮するにあたっては一度リアルで手順を覚えてからLO内で試行錯誤するという方法を採用している。

 この方法は効果覿面で、調合を少し変更するだけで味が変化するので研究が面白い。

 そしてこっちで習得した料理方法をリアルで採用すると、かなり近い味わいになっていたりするので驚きだ。

 恐るべし味覚再生プログラムの完成度。

 男のひとり暮らしなので台所は荒んでいると思われがちだが、俺の場合は割と片付いているし、ちゃんと料理もしている。

 レシピを増やすことで魔王さまに満足してもらえるならもっと頑張りたいとも思う。

「で、話を戻すけど」

「逸らしたのは魔王さまですけどね」

「何か言った?」

「いえ何も」

「土地はただだけど、建築費はかかるんだよね。でも問題はそれだけじゃなくて」

「ああ、なるほど。『大工』がいないんですね」

「その通りだね。魔王軍募集で戦士職と生産職はそれなりに集まったけど、魔族プレイヤーの登録リストを確認する限りじゃ『大工』はまだいないんだよね。もちろんGMに依頼すればそれなりの建築オブジェクトを用意してもらえるけど、せっかく自分たちで何とか出来るんだからそれを活かしたいよね」

「それについては同感ですね」

 楽しめる要素を無視するなどゲーマー失格である。

「じゃあ大工職を募集しないとね」

「まあ別に魔族に転生したプレイヤーに限定しなくても、依頼すれば引き受けてくれると思いますよ。大工職のプレイヤーにも知り合いはいますし」

「ほんと?」

「ええ。ちょっと待ってくださいね。フレンドコールしてみるんで」

「うん」

 魔王さまは俺の膝にちょこんと座る。

 そして俺はフレンドリストの中から『くまごろう』の名前を選択する。

 

『お? キョウやないか。どないした?』

「久し振り、くまごろう」

『おう。久し振りやな。実はここんとこ残業続きでな~。やっとLOにログイン出来たところや』

「大変だったんだな。じゃあ転生システムのことも知ったばっかり?」

『おう。せっかくの新システムやから利用してみようと思うんやけど、これがまたどの職業に転生しようか悩みどころなんや。種族も変えられるみたいやし。大工スキルは引き継げるゆうことやから同じ職業にするつもりはないんやけどな。でも関連性のある職業にすれば建築の幅も広がっておもろいかもしれへんな』

「そうか。まだ決めてないんだったら魔族に転生してみないか?」

『魔族に? あ、そういえば転生システムの実装と同時にルクセリアっちゅう魔族の土地も開放されたんやっけ? そのうち人間側との戦争イベントがあるとかないとか書かれとったなあ』

「今のところはまだ魔王軍を編成したばっかりだけどな。大工職としても仕事が豊富だよ。ルクセリアは未開発エリアが多いから」

『お、そりゃ面白そうや! 魔族に転生オッケーやな。情報さんきゅーや!』

「待った待った。まだ切らないで」

『おう。そうやった。わざわざコールしてきたゆうことはなんぞ用事があったんか?』

「用事というか大工としての依頼だよ。ひとつ仕事を頼みたい」

『仕事か? うーん。それなら転生はもう少し待った方がええんかな? スキルが三十パーセント残るゆうても完成度が下がることは確かやろうし』

「その判断は任せるよ。とにかく一度ルクセリアの魔王城に来てもらえないか。これは魔王さま直々の依頼だから」

『魔王さまって! なんやその面白展開はっ!? ちゅーか自分なんでそんな面白そうなことに関わっとんねん! ちゃんとワイも誘ってえや!』

「だから今誘ってるじゃないか。それにログイン出来たのが今日なんだから最速で誘ったという結果論にならないか?」

『む。それもその通りやな。分かった。じゃあ速攻でルクセリアに向かうわ。森を抜けたらええんか?』

「その事だけど、今はルクセリア移住キャンペーン中だから街の転移ゲートで移動設定が出来るよ」

『お、そりゃ便利でええな!』

「戦争クエストが開始されたら閉鎖されるだろうけどね。とにかくそっちから移動してきて。魔王城は一番目立つ建物だからすぐに分かると思う」

『了解や。すぐに向かうで~』

 そして通話を切った。

 

「という訳で今から大工プレイヤーがこちらにやってきますよ」

 魔王さまを膝から下ろして来客を迎える準備をする。

「関西弁って初めて聞いた」

「まあ本人は九州の人間らしいのでなんちゃって関西弁ですけどね。LO内だからということで試してみたら嵌ったそうです」

「あはは。リアルで出来ないことにチャレンジするのもゲームの醍醐味だよね」

「全くもってその通りですね」

 屯所準備は順調に進むのだった。

 

 

 

 

第十八話 ロリわしの魔王さま❤

 

 かくして魔王城に大工プレイヤーくまごろうがやってきた。

「こんにちわで初めましてや! 麗し……くはないなぁ。どっちかっちゅーとロリわしい?」

 魔王さまを見て第一声がそれだということにくまごろうの人間性が凝縮されている気がする。

「ロリわしいって……また新ワードだねぇ」

 魔王さまは感心したのか呆れたのかそんな事を言う。

「覚えなくていいですからね」

 魔王さまのAIは学習機能が高そうだから余計なことまで吹き込むと、変な方向に成長しそうで怖い。

 教育係としてはそのあたりを調整しないと大変なことになってしまうだろう。

 くまごろうは名前の通り、熊のような男だった。

 筋肉質で豪快な性格。

 ねじりハチマキにニッカ。

 トドメが半被を着ている。

 ツンツンと逆立った黒い髪の毛は大工の●さんを連想させてしまう。

「初めまして~。魔王だよ」

「ああああああかわえええええ! ぎゅーっとしたいなー! ぎゅーっとしてええ?」

 うずうずとしているくまごろう。

 くまごろうにロリコン資質は無かった気がするのだが、やはり魔王さまの萌えレベルはノーマル趣味も傾かせるほどらしい。

 確かに俺もノックアウトされちゃってるしなぁ。

 気持ちは分からなくもない。

「却下だ。魔王さまをぎゅーっとしていいのは俺だけだ」

 目の前で抱き上げる。

「だね~」

 魔王さまはご機嫌に俺の首へとしがみついた。

 いちゃいちゃ主従である。

「……ワイ、今初めておどれに殺意いだいたわぁ」

「落ち着け落ち着け……」

 オーラとか出てるし。

 マジ怖い。

「大体、今回やってきたのは依頼の為だろ? 建築ジョブの為だろ? ロリコンにステップアップして魔王さまを愛でる為じゃないだろ?」

「……あれ? そうやったかな?」

「もう忘れてるっ!?」

 どんだけ魔王さまの魅力にノックアウトされてんだよ!

「よしよし。ごめんね~。でもボクは魔王だから簡単にみんなにだっこさせちゃいけないんだって言われてるんだ」

 よしよしの言葉通り俺に抱っこされたまま手を伸ばしてくまごろうのつんつん頭をなでなでする。

「ほわあっ!」

 それだけで至福の表情になったくまごろうは、俺への殺意など綺麗さっぱり忘れてくれたようだ。

 ナイス魔王さま。

 でもちょっとジェラシー。

「ちなみに誰に言われてるんや?」

「ナギナギだよ」

「おのれあのロリコン許すまじ!」

「………………」

 今度はナギへの殺意を膨れ上がらせたようだ。

 しかしまあ心配することはないだろう。

 生産職であるくまごろうと戦闘職であるナギではどうやっても勝負にならない。

 

 俺はかくかくじかじかで魔王のたまごを手に入れて魔王さまの側近になっちゃったんだよ的なエピソードを手短に語り、現状を説明した。

 ナギナギ将軍が新撰組的なノリで魔王直属親衛隊『萌組』を結成したことや、現状では魔王軍は全て『萌組』になっているということなども。

 そのプレイヤーは全部で二千人ほどということも含めて語り聞かせる。

 生産職も最近は増えてきたので、ルクセリア在籍プレイヤーは大体その倍ぐらいにはなっているけれど。

「なるほどな~。世の中ロリコンがぎょーさんおるんやな~」

「………………」

「………………」

 事情を聴き終えたくまごろうの率直な感想がそれだった。

 ロリコンでまとめないで欲しいけど反論も出来ない。

 だが出会い頭にノックアウトされたお前にそれを言う資格はないと思うぞ。

「で、全員の拠点が魔王城以外に必要になってくるから、屯所を建築して貰いたいっちゅーことでええか?」

「ああ。報酬は弾むぜ」

「じゃあ魔王さまを一日貸し出し……」

「却下」

「ちっ」

 本気で舌打ちするなよまったく。

 

 土地の広さやデザインを検討してから大体の予算を割り出す作業を終えて、ようやく話は一段落ついたのだった。

「まあ新撰組的なノリゆうんやったら屯所もそれっぽくした方がええよな? もちろんパクりデザインにするつもりはないけど、一応の基本モデルは八木邸よりも西本願寺か?」

「そうだな。せっかくだから広い方がいい」

「だよね」

「じゃあ広いお寺風にデザインしてみるか。大仏は?」

「いらん。どうせ作るなら魔王さまの巨大オブジェにしてくれ」

「オッケーや! じゃあ魔王さまのスリーサイズデータよこしや!」

「……いいですか? 魔王さま」

「いいけど。どうしてボクのオブジェを作るの?」

 魔王さまがきょとんと首を傾げる。

「そりゃあ魔王さまの直属親衛隊の本拠地ですからね。主君である魔王さまのオブジェがそこにあるだけで士気が上がるってものです」

「そういうものかな?」

「そういうものです」

「じゃあいいよ」

 魔王さまの了承も得たので、詳しいスリーサイズデータと、モデルに使用する画像データを一緒に渡してやった。

 ナギが新しい衣装を作る度に写真撮影を張り切って行っているので画像データは溜まる一方なのだ。

 今回渡したのはワンピース姿の魔王さまだった。

 ちょっと短めなので生足がちらりちらりと素晴らしい一枚になっている。

「……写真もっとないか?」

 それに食い入るような視線を向けるくまごろう。

「あるけどやらんぞ。オブジェならそのデータで十分なはずだ」

「んなっ! おどれは卑怯者や! こないな可愛らしいデータをたんまり持っていながら独り占めするつもりかいっ! 男の敵や! おどれは男の敵や!!」

「敵で結構。大体、この画像データの本来の所有権はナギなんだぜ。撮影したのがナギだからな。衣装を作ったのももちろんナギだ。だからこれ以上の譲渡を目論むならナギと直接交渉するしかないぞ」

「ふぐ! やっぱりあいつ殺そう。絶対殺そう。抹殺計画発動や」

「……物騒なこと連呼しないように」

 魔王さまの教育上よろしくない。

「まあ魔族になってルクセリアを本拠地にすれば、今後色々と魔王さま御用達にしてやるよ。そうすれば魔王さまを愛でる機会もあるだろうし、悪くないだろ?」

「なら魔王城専属大工にしてや! 城の改装とかワイに任せてや! ちゅーか事業所も城下町に構えさせてえや!」

「いいよ~」

 魔王さまが軽いノリで返答した。

「魔王さま。待ってくださいよ。軽々しくオーケーしないでください」

「え~。いいじゃない。専属大工がいれば今後の区画整理や新規開拓にも便利だし、それに城下町に事業所を構える許可を与える代わりに金銭報酬を半額にすれば予算的にもお得だし」

「……しっかりしてますねぇ」

 会計職、いらないかも。

「もち半額でオッケーや! ちゅーかいつでもどこでも登城許可をもらえるんやったらタダでやってもええぐらいやしなっ!」

 きらきらと期待に満ちた眼差しを向けてくるくまごろう。

「それは駄目」

 しかしそこはさすがに魔王さま。厳しい態度で拒否してくれた。

「駄目なんか?」

 しょんぼりとなるくまごろうは、まるで捨てられた犬のような有様だ。

 くーんくーん、誰か拾って~とか訴えそうなオーラが出ている。

 ちょー似合わないけど。

「簡単に許可したら他のプレイヤーも同じ許可を求めてくるし。ボクもさすがに全てのプレイヤーに対応は出来ないし」

「そうかぁ……」

 本気で残念そうだ。

「せやったら仕方ないなぁ。まあ事業所の開設許可をもらえただけでも儲けもんやし、この辺りが妥協点やな」

「そうそう。あんまり欲張るとロクなことにならないぞ」

「了解や。屯所建築承るで。建築期間は二週間ほどもらうけどええか?」

「思ったより早いな。てっきり一ヶ月ぐらいかかると思ってたけど」

「大工スキルをマスターしたワイを侮ってもらっては困るで。材料の切り出しとか大変なのは最初だけや。一度出来上がったパーツはコピー製作が可能やからな。もちろん建築にも同じコピー技法が適用できる。手際よくやれば二週間で十分や。労働力NPCは利用するけどな」

「なるほどな~。まあ専門外だからそのあたりは任せるよ」

「おう。お任せや!」

 交渉成立ということで立ち上がるくまごろう。

 てっきりこのまま建築予定地で仕事に取りかかるのかと思いきや、

「………………」

 魔王さまをじっと眺めて緊張しているではないか。これ以上何するつもりだ?

「どうしたの?」

「魔王さま。今回の報酬前払いやと思って一回だけ……」

「一回だけ?」

「ハグさせてやっ!」

「はぐ? ボク食べられちゃうの?」

 ずるりと脱力しそうになった俺は、魔王さまに『ハグ』についての説明をする。

「あ、なんだ。だっこのことか。うーん。まあ一回ぐらいならいいかな」

 魔王さまは最初と違って思いのほか簡単に了承した。萌え魂を満たすのも仕事のうちと考えたのかもしれない。

「ただしだっこだけね! すりすりとか禁止ね!」

「もちろんや!」

 アルトリウスの強烈ハグすりすりを思い出したのか、魔王さまは若干ぶるぶるしながら注意した。華奢な魔王さまの身体を持ち上げてぎゅーっと抱き締める。

「ああ、幸せや~。魔王さまマジかわええ~」

「えへへ。ありがとね」

 褒められて照れているようだ。しかしそれ以上頬を近づけたら女王様の鞭で容赦なく攻撃するぞ。

「ずーっとこうしてたいな~」

「ずっとは困るよ~」

「じゃあ一時間ぐらい」

「困るってば」

「でも離さなければ『一回だけ』っちゅー約束は破ってないわけやし」

「へ、屁理屈だぁ」

 ぶちっ。

 血管の切れる音を自分の中から聴いた俺は、魔王さまとくまごろうを乱暴に引き剥がした。

「あ、お兄ちゃんありがと~」

 俺には自分からぎゅーっと抱きついてくる魔王さま。

「あー! 何するんやーっ!」

「やかましい! 調子に乗るな!」

 屁理屈こねて魔王さまを一時間もハグしようなんて輩には鉄拳制裁どころか鞭制裁を喰らわせても足りないぐらいだ。

「ちぇーちぇー。自分だけ独り占めしよってからに」

「いいからとっとと仕事しろ」

「へいへーい」

 不服そうに頷きながらも魔王さまをハグできたことには満足なのか、くまごろうは軽い足取りで魔王城を出て行くのだった。

「……変わった人だったね」

「普通だと思いますよ」

 魔王さまにノックアウトされたプレイヤーはあれが『普通』なのだ。

「……普通って怖い」

「あはは……」

 その認識は正しいけど、普通を間違った認識で覚えられるのも問題かもしれない。

 しかし比較対象がないので教えることもできないという困った状況なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十九話 手ブラ十二単革命

 

「という訳で屯所はあと二週間ほどで出来上がる」

 くまごろうに依頼した萌組屯所建築は、今のところ順調に進んでいる。

 それを局長であるナギに話すと、

「くまごろうね。あいつもロリコンだったのか」

「………………」

 その認識はどうかと思う。

 確かに魔王さまの魅力にくらくらノックアウト状態だったけどさ。

 一度だけとは言えくまごろうが魔王さまをハグしたなんて知られたら間違いなく怒り狂うだろうなあ。

 建築現場まで乗り込んで奥義を喰らわせかねない。

 くわばらくわばら。

「まあ二千人ものプレイヤーを魔王城で受け入れるのは難しそうだものね。屯所を建てるっていうのは賛成だけど」

 優雅に紅茶を飲んでいるのは副長アルトリウス。

 いつのまにかちゃっかり俺達の間に割り込んできている。

 魔王さまとの時間は俺とナギの特権というか楽しみだったはずなのに。

 しかし女性という存在は、時に我々男に対して恐ろしい圧力をかけてくる。

 

「あたしは副長なんだし、魔王さまを愛でるお茶会に混じる権利はあるわよね?」

 会議という名ののんべんだらりまったりお茶会を堪能しようとした俺とナギに向けられた言葉。

 にっこりと微笑むアルトリウスは一見すると魅力溢れる美女に見えるのだが、しかし背後から噴出するオーラがただごとじゃない。

 もちろん魔法発動とかしてないけど。

 だけどリアルでもよく感じる『女性特有の凶悪オーラ』というのは、どうやらVRでも健在らしい。

 ナギですら僅かに震えながらもこくこくと頷くのだった。

「はあ~。魔王さまったら本当に可愛いわぁ~」

「あうあうあう……」

 魔王さまの右隣にちゃっかり腰かけてから頭をなでなでしまくるアルトリウス。

 その表情は今にも鼻血を噴き出しそうな感じだ。

 女性プレイヤーがロリ美少女に萌え萌えて鼻血ファイヤーなんて洒落にならない。

 ……というかLOに鼻血噴出機能とかあるんだろうか?

 あったら面白いとは思うけど。

 ちなみに魔王さまの左隣はナギ。

 そして魔王さまの椅子が俺だ。

 ……椅子と言ったら聞こえが悪いかもしれないけど、要するに抱っこして腰かけているということだから役得レベルで言えば俺がマックスかもしれない。

「屯所が出来上がったらこれを立てようと思うんだけど」

 ナギが裁縫師スキルを活かして作り上げたものは、なんと旗だった。

 新撰組の『誠』ではなく、萌組の『萌』御旗。

「まあいいんじゃない。そのあたりのむさ苦しい設定は男共に任せるわ」

 アルトリウスさんってば男に対して冷たすぎますな。

「あとこっちも作ったから魔王さまお着替えして欲しいっす」

 新しくオブジェクト化したのは、お姫さま仕様の十二単だった。

「……お前、よくもまあそこまで凝ったものを」

 呆れつつも感心する俺。

 LOの裁縫師スキルは決して簡単なものではない。

 現実世界と同じようにアイテム作成をしなければならないから、十二単なんてものを作ろうと思えば 相当な手間がかかっているはずなのだ。

 もちろん繰り返し作業をする部分に関してはコマンド登録で何とかなるが、しかしそれにしたって……

 そもそも十二単の製作知識なんて一体どこから仕入れてきたんだ?

「悔しいけどその裁縫師スキルだけは褒めてあげるわ。あたしには魔王さまに似合いそうなデザインなんて思いつかないしね」

 アルトリウスが悔しそうに舌打ちした。

 まあこればかりはスキルを引き上げたところで本人のセンスが重要になってくるからなぁ。

 アルトリウスはそのあたりのセンスが足りないと自覚しているらしい。

「うあ~。なんだか重たそうだし動きにくそう~」

 しかし魔王さまには若干不評のようだ。

 確かに十二単は重たそうで動きにくそうだ。

 見る側としては目に楽しいことになりそうだが、着る側としてはちょっとしんどいのかもしれない。

「魔王さま。魔王さまはルクセリアの君主として魔族を治めるロリ王……じゃなくて覇王なんっすよ」

「……いまロリ王ってゆった?」

「わざと言い間違えたに決まってるじゃないっすか」

「……そこまで開き直られるとどう突っ込んでいいか分からないなぁ」

 がっくりとうなだれる魔王さま。気持ちは良く分かる。

「つまり萌組を初めとする全魔族のロリコン魂を萌え上がらせる義務があるんです!」

「……初耳な義務だぁ」

「あ、それはあたしも同感」

「………………」

 立場弱いなぁ、魔王さま。

 俺の膝で力なくうなだれる魔王さまがちょっぴり可哀想になってくる。

 

「わかったよ~。着ればいいんでしょ着れば……」

 しょぼしょぼと俺の膝からどいた魔王さまはメニューウィンドウを操作してナギお手製の『十二単』を受け取る。

 そして装備。

 魔王さまの身体が一瞬だけ光って、次の瞬間には十二単に身を包んだ魔王さまがいた。

 ちょっぴりテンションが下がっているのでナギ特製の簡易更衣室を利用してはくれなかった。

 わざわざ着替えるよりもこっちの方が手っ取り早いことは確かだ。

「う~。やっぱり動きにくいよ~」

「ぶらっぼーっ!」

 そしてナギの写真撮影。

「あ、魔王さま。ちょっと肩の方はだけてほしいっす」

「む。ナギにしてはナイスな提案じゃない」

 写真撮影をするナギと、撮影される魔王さまを食い入るように観賞するアルトリウス。

 萌組局長&副長はとんでもない駄目コンビだった。

「こ、こう?」

 そして律儀に左肩をはだける魔王さま。

 やばいやばい。

 もう少しでぺったん胸が見えちゃうよ!?

 いくらなんでもそこまでサービスする必要はないんだぞ!

「ぶはっ!」

 ちょうどやばい部分が見えたところでアルトリウスが鼻血を噴いた。

 ……どうやら鼻血噴きエフェクトは存在したらしい。

 GMってば几帳面すぎる。

 もちろんエフェクトなので服を汚したり部屋を汚したりすることはないのだが、しかし女性がロリ美少女のぺったん胸を見て鼻血を噴くシーンというのは微妙に男の夢を壊された感じがして複雑だった。

 アルトリウス自身が結構な美人プレイヤーなだけに、ぶっちゃけもったいないという気持ちが拭えない。

 結構おっぱいデカいし、スタイル良しだし。

 いやほんと、もったいないなぁ。

 

 最終的には十二単の上半身部分をはだけたまま、手で胸を隠すというシチュエーションにまでエスカレートしてしまった。

 手ブラ十二単!

 手ブラブルマーや手ブラジーンズに続く新たなる萌え革命がここに起こったのだった。

 ……って、なんかロクでもないテキストを作成している気がするのは俺だけか?

 もちろんそんなヤバすぎる画像データはナギと俺の秘蔵お宝として非公開なのだが、

「コピーしないと●●するわよ。ああん?」

「ひいっ!」

「ひいぃぃぃ!?」

 俺達の喉仏を両手で掴み上げたアルトリウス副長は血走った目でコピー譲渡を求めるのだった。

 もちろん逆らえません。

 怖すぎます。

 

 

 

 

 

 

 

第二十話 ドキドキ・ロリコンクエスト計画

 

 魔王さまの重要な仕事として、城下町視察というものがある。

 ナギ曰く、城下町に点在する萌組にその愛らしい姿を見せてあげなければならないということらしい。

 言いたいことは分かるが、要するにロリコンプレイヤーを盛り上げろということだよな。

 

 というわけで城下町視察。

 ひとまず完成間近となっているはずの萌組屯所まで行ってみようということになった。

 くまごろうの仕事ぶりを確認しなければ。

 視察パーティーは四人。

 俺・魔王さま・ナギ・アルトリウスだ。

 魔王さまは指定席である俺の左腕に。

 ナギは左側を、アルトリウスは右側を固めている。

 城下町を歩くと、萌組プレイヤーがざわめいてくる。

 本日の魔王さまコスチュームは『制服』。

 私立の小学校に通う女の子が着ているような可愛らしい制服姿だった。

 もちろんナギのオリジナルデザインだ。

 青を基調にしたワンピースタイプで、さすがのセンスを感じさせる。

 所々にあしらっている刺繍ポイントがまた絶妙だ。

「今日は小学生モードか」

「魔王さまこっち向いてー!」

「つーか撮影撮影! 秘蔵写真は全部局長達が持ってるんだからこういう時ぐらい撮影しないと!」

「つーか執事邪魔! 爆発しろ!」

 ……何がですか!?

 とは怖くて尋ねられない。

 つーかやっぱり俺への嫉妬が凄まじいわけだね。

 でも魔王さまってば俺の左腕以外には座ってくれないんだから仕方ないじゃないか。

 そりゃあちょっとぐらい優越感を感じちゃったりしてるけどさ。

「こらそこーっ! お兄ちゃんの悪口言ったら許さないからねーっ!」

 そして魔王さまが俺の為に怒る。

「うひゃあっ! すんません!」

 速攻で謝る爆発しろ発言プレイヤーだが、しかしそれ以外のプレイヤーの視線が刺さる刺さる。

 殺意混じりの視線が……。

 魔王さまに庇われやがって許すまじとオーラが出てるよこいつら!

 ロリコンの恨みはきっと食べ物の恨みよりも恐ろしい。

 

 内心びくびくしながら、表向きは堂々としながら屯所に向かうと、とんとんかんかん、という音が聞こえてきた。

「おらおら。きりきり働き~!」

 NPCに指示を出しながら作業を進めていくのは大工くまごろう。

 指示に従うしか反応のないNPC相手にもいつものノリで接しているのは、くまごろうなりのキャラ設定なのだろう。

「ちゃお~」

「あ、魔王さま! ちーっす!」

 魔王さまの姿を見るなり敬礼するくまごろう。

 大工のくせに軍人的な仕草だ。

「だいぶ出来上がったね」

「ういっす! 魔王さまファンクラブ本部となればそりゃあ気合の入り方がちゃうんやで!」

「ファンクラブじゃなくて『萌組』だ!」

 そしてナギがどうでもいい突っ込みを入れる。

「ワイも入りたいわ~」

「入ればいいじゃないか。ロリコン大歓迎だぞ」

 ナギが勧誘を始める。

 そりゃあ生産職とは言え戦闘力もあるのだから勧誘自体はノープロブレムだけどさ。

「駄目だよナギナギ。くまたんにはこれから城下町やルクセリアの建築関係あれこれを担当して貰うつもりなんだから」

「マジ!?」

 くまごろうが弾かれたように顔を下げて(くまごろうは巨体なので俺の腕に座っている魔王さまの目線からはかなりの高低差がある)魔王さまに確認する。

「うん。『親方』としての肩書きをぷれぜんとふぉーゆーなつもりなんだけど?」

「受け取る受け取る受け取るに決まっとるやん! 魔王さまの直々の親方称号! めっちゃありがたく頂戴させて貰うわっ!」

 どうやら魔王さまはくまごろうの仕事ぶりが気に入ったらしい。

 確かに屯所の完成度は十分に合格ラインで、デザイン性もバッチリだ。

「くまごろう。ここまで完成してるんだったらこいつを入り口に立てておいてくれよ」

 そしてナギが『萌』旗を二本オブジェクト化する。

「おわあっ! 気が利いてるやないかロリコンマスター。さっそく飾らせて貰うわ」

「誰がロリコンマスターだ!」

 そして不名誉な呼び名に激昂するナギ。

 あれ?

 ここで怒るのはちょっと意外だ。

 てっきりバリバリのノリノリでロリコンマスターを名乗ると思っていたのに。

「オレはロード・オブ・ロリコンだ!」

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

 俺と魔王さま、そして右側に控えていたアルトリウス、さらには堂々と宣言されてしまったくまごろうは沈黙する。

「むしろ変態マスターでいいんじゃないの?」

 絶対零度の第一声を放ったのは我らが副長アルトリウス。

 しかし魔王さまへの態度を見る限り、彼女も人のことは言えない。

「もうみんなロリコンでいいんじゃないの?」

 そして魔王さまがトドメを刺した。

「そうですね。どいつもこいつも魔族はみ~んなロリコンってことで締めくくりましょう」

 俺もその辺りが妥当な落としどころだと思ったので魔王さまに賛成する。

「馬鹿な! 魔王さまどうか考え直して下さい! ロリコンにもピンからキリまであるんっすよ! ここはきちんと誰が一番濃いロリコンなのか白黒はっきり付けるロリコンランキングなるものを!」

「うるさい黙れ」

「ぎゃぴっ!」

 ロリコンにも格付けが必要だっていうのは初耳というか、斬新な意見だな。

 しかしそんなナギの主張はアルトリウス女史によって封殺された。

 具体的にはケツキックで。

 しかもつま先が微妙に割れ目へと食い込んでいるのが見ていて悲しすぎる。

 思わず尻の筋肉をキュッと引き締めてから身震いした。

「んー。そんなに格付けが必要なんだったらここはひとつお遊び企画でも立ち上げてみる?」

 魔王さまがそんな事を言い始めた。一体何をするつもりだろう?

「企画ってなんっすか? ドキドキ脱ぎ麻雀とかそんなのっすか!? それとも野球拳!?」

「……なんで脱ぎ系ばっかり?」

 魔王さまはきょとんと首を傾げるが、どちらの意味も把握しているあたり間違っても純真無垢なお方ではない。

 しかし仕草が可愛いので良しとしよう。

「誰が魔族の中でぶっちぎりトップなロリコンなのか。っていうのを判定したいんならイベントで決めればいいんだよ。名付けて『ロリコンクエスト』!」

「ロ、ロリコンクエスト!? なんという参加意欲をくすぐられるイベント名!」

「ま、魔王さま? 本気でそんなイベントを開催するつもりで?」

 恐る恐る魔王さまに問いかけるのはアルトリウス。

「うん。だって面白そうじゃない。ロリコンであることへの情熱。ひいてはボクへの愛を試すにはちょうどいいよね」

「うな! 魔王さまへの愛が試されるイベント!? こ、これはあたしも参加しなければ!」

「するなよ……」

 ロリコンクエストなるものに女性が、しかも副長が参加するってどんだけだよ。

「お兄ちゃんも参加してね」

「なぬ!?」

 魔王さまからの参加要請にびくりとしてしまう。

 魔王さまは大好きだけどロリコンのトップに躍り出たいかと言われればそんなことはもちろんないわけで……

「ボクの旦那さんとしてしっかりと愛あるところを見せてくれないと♪」

「ぐあっ!」

 そういえば俺ってば魔王さまの旦那設定だった!

 ということは強制参加!?

 魔王さまへの愛はしっかりあるけど、それでもロリコントップの栄誉を貰いたいかと聞かれれば、謹んで辞退したいというかなんというか……。

 俺は困り果てた表情で考え込んでしまったのだが、

「ちう~」

「………………」

 魔王さまのほっぺにちゅ~でこくりと頷いてしまったのだった。

 

 ……俺も立派にロリコンかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十一話 ドキドキ・ロリコンクエスト!

 

「第一回! ドキドキ・ロリコンクエスト!」

 ルクセリア初イベント、ドキドキロリコンクエストの音頭を取っているのは我らが魔王さまだ。

 今回は俺もナギも、そしてアルトリウスでさえも参加者なので司会側に回ることが出来ない。

 魔王さまの本日コスチュームはニットのセーター。

 色は白。

 丈は太ももの真ん中辺りまでしかなく、そこから覗くのは紛れもない生足。

 参加者がさっきから興奮気味で始末に負えない。

「ぺったん胸は好きかーっ!?」

「「「「「うおおおおおおおーーーーっ!!」」」」」

「………………」

 第一声からロクでもない司会進行だ。

 後でハリセンお仕置きしなければ。

「イカ腹に萌えるかーーっ!?」

「「「「「「うううおおおおおおーーーーっ!!」」」」」

「っ!」

 マニア度が上がった!?

「ロリコンの頂点に立ちたいかーーっ!?」

「「「「「勃ちたいぞーっ!!」」」」」

「って、待ていっ!」

 いくら発音が同じでもその当て字はないだろう!!

「ならば戦って勝ち取るべし! 優勝者にはなんでもひとつだけロリなお願いを聞いてあげちゃうからねっ!」

「イエス・マイ・ロード!」

「……なぜギ●ス風味?」

 いやもう、魔王さまも俺達も悪ノリしすぎだろう。

 さすがロリ魔王につられて魔族に転生したロリコンプレイヤーなだけある。

 キャラ属性が分かり易過ぎる。

 

「じゃあまずは一回戦始めるよ~♪ 『幼女NPCから靴下をゲットせよ』ミッション開始!」

 魔王さまが『萌組』の旗をブンブン振り回しながら開始の合図をしてくれた。

 っていうか何だその酷いミッションは!!

 

 途端、ポップしまくる幼女NPC。

 みんな白いワンピースを着用している。

 あどけない幼女が上目遣いでこちらを見ている。

 え?

 え?

 この子達から靴下奪い取れってこと?

 ハードル高っ!

 ええと……まずは「靴下を譲ってくれないかな?」って声をかければいいのか?

 おずおずと幼女に近づいていくと、

「わたし達の足を左右三回ずつ撫でさすることにより靴下アイテムをゲットできます」

 という、自動音声に近い無機質さで幼女がクエストフラグを立ててくれた。

「あー、はいはい。右足三回、左足三回ね」

 なでなでなで。

 さすさすさす。

「おめでとうございます。靴下をどうぞ」

「よっしゃ」

 幼女の両足を撫で回して靴下ゲット。

「って、俺は変態かあああああっ!!」

 靴下を握り締めて叫ぶ俺。

 自己嫌悪で死にそうだよ!

 

 しかしそんな俺の自己嫌悪を心底馬鹿にするような雄叫びが周り中から聞こえてくる。

「幼女ぉぉぉ!!」

「生足げっちゅーっ!」

「うおおーー! 三回じゃ足りねえぇぇ!」

「三百回ぐらい撫でさすりてえええ!!」

「もっともっとだ!」

「は、はあはあはあはあはあはあはあはあ……」

 目を血走らせたケダモノ……ではなくロリコン共がNPC幼女に襲いかかる。

 いや、襲いかかるといったら聞こえは悪いかもしれない。

 その手つきはあくまでも優しく優しく太ももを撫でさすっているのだから。

 だがその目つきは変質者そのものだ。

「………………」

 嫌だ。

 アレと同類扱いされるのだけは耐えられない!!

 しかしナギとアルトリウスはそれら変態とは一線を画していた。

「まったく。NPCの太ももをさすって何が楽しいんだ? まあロリコントップになるためだから頑張るけどさ」

「そうね。でも感触だけならなかなか真に迫っているわよ。ダッチ●イフならぬダッチ幼女で楽しんでいると思えばまあそれなりな気分になれるんじゃない?」

「なるほど。さすがは鬼の副長。思考回路がいい感じに壊れてるぜ」

「局長の萌組演説ほどじゃないわよ」

 バチバチと火花を散らせながら淡々と、作業のように靴下を回収していく萌組局長&副長。

 確かにあの変態共よりはマシな光景かもしれないけれど、ある意味もっと恐ろしい物を見ている気がするのは何故だろう?

 

「ちなみに、靴下を十足集めたら一回戦突破だよ~♪ 制限時間あと五分」

 魔王さまが壇上でそんなことをのたまってくれる。

「あ、あと九足……」

 あの煮えたぎっている変態共を押しのけてあと九足もの靴下を集めなければならないのはとんだハードミッションだ。

 しかし周りをよく見ると、幼女NPCの数は激減している。

 群がる変態。

 撫で回される幼女。

 減らされるターゲット。

 あと五分でミッションコンプリートは非常に難しいのではなかろうか?

 いっそのことここでミッション放棄するという考え方も……

「あ、そうそう。言い忘れてたけどPKアリだからね~。NPCだけじゃなくて参加者がゲットした靴下を強奪するのもオッケーだよっ!」

 そんな考えを魔王さまに見抜かれてしまったのか、絶妙のタイミングで追加ルールが発表された。

「おーっほっほっほっほっ!」

 ぴしいっ!

 ぱしいっ!

 びしいっ!

 PKオッケーなら話は早い。

 俺は即座に女王様の鞭を装備して高笑いと共に変態共へと襲いかかった。

 幼女NPCの生足を撫でまわすよりは遥かに気が楽だ。

「ぐああっ!」

「お、おれの幼女靴下コレクションが!」

「これから頬擦りするつもりだったのにっ!」

「鬼! 鬼執事が!!」

「くそー! 爆発しろーっ!」

 などなど、変態共の怨嗟の声を浴びながら靴下十足ゲットだぜ。

 

 第一回ドキドキ・ロリコンクエストの一回戦突破プレイヤーは、千人のうち三百人ほどだった。

 そのうち七百人はガックリと膝をついて無念そうに呻いている。

 ……お前ら、ロリコン以外にもう少し生き甲斐とか見つけろよ。

 このまま進んでいったら確実にただの変態だぞ。

 などということを思わなくもないのだが、しかしちゃっかり突破してしまっている俺にそんなことを思われたくはないだろう。

 右手に握った十足の幼女靴下が俺にしょっぱい気分を常時与えてくれる。

 勝利とはかくも虚しいものである。

「よ、お疲れ」

 元気一杯つやつやてかてかな表情で声をかけてくるのはもちろんナギだ。

 その手には幼女靴下五十足。

 ……オーバーゲット過ぎるだろ。それだけであと四人は突破できていただろうに。

「甘い甘い。ライバルは早い内に削っておくのが勝負のポイントだろう?」

「一回戦でそこまでシビアになってるのはお前だけだ」

「そうでもないぜ」

「え?」

 ナギがくいっと顎を向けた先には、我らが副長アルトリウス女史が立っていた。

 その足下には幼女靴下がおよそ百足ほど。

「………………」

 オーバーゲットどころかここまでくるとある種の妄執を感じざるを得ないな。

 副長マジ怖い。

「うふふ……NPCと言っても肌の触り心地は魔王さまと比較しても申し分ないぐらいの柔らかさ。恥じらいがないのはマイナスポイントだけれど、そこも無表情キャラという属性を付ければ素敵な感じに……はあはあ……」

 ひとりで違う世界に行ってしまっているアルトリウス女史に、俺達だけではなく敗者までドン引きしている。

 黙っていれば彼女のアバターもなかなかの美人なのだが、中身で全て台無しだ。

 

「ドキドキ・ロリコンクエスト第二回戦! つるぺた測定~!」

 魔王さまが音頭を取るロリコンクエストも第二回戦を迎えた。

 三百人の一回戦突破者はうおおおおと盛り上がった。

 再び登場するNPC幼女たち。

「幼女NPCのつるぺたおっぱいを揉んでサイズを言ってね♪ 正解者にはポイントが付与されるから。正解ひとつに対して10ポイントが付与されるよ。サイズを当てられたNPCは消えちゃうから時間が経つごとに不利になるからね~」

 魔王さまってばノリノリだ。

 というか一回戦が靴下ゲットで二回戦がおっぱいもみもみって……終わり過ぎてるだろ……。

「サイズ表はみんなのアイテムストレージに送ったからそれを参照して当ててみてね~」

 言われて、アイテムストレージを確認すると確かに『おっぱいリスト』というアイテムが入っていた。

 名前が……。しかもサイズ基準が数字じゃねえしっ!

 内容はこんな感じだ。

 

『青い果実』……成長が期待できるふくらみ。

 

『微乳』……辛うじてふくらみがある。

 

『ちっぱい』……いっそのこと板と表現するべき。

 

「………………」

 頭痛がしてきた。

 そして……

「うおおおおおーーっ!!」

 叫ぶケダモノ……もといナギナギ将軍。

「はあはあ……こ、これは触りまくらないと検証不可能ね……揉み心地や膨らみ、丘陵……ぐふふふふ……」

 発言がギリギリに達しつつあるアルトリウス女史。

「魔王さま公認でロリNPCのおっぱいが揉めるんだ! 最高のイベントだ!」

「そうだそうだ! 魔王さま万歳!」

「………………」

 終わってる。

 魔王軍はもう人として終わってる。

 アバターの向こうにいるリアルの人格が終わりきっている。

 しかし俺には参加して勝ち抜く以外の道はない。

 俺は……俺の人格の大事な部分を……常識という二文字を一部切り捨てる決意をするのだった。

 

 そして第二回戦が開始される。

 

 ふっくら。

 

 もみもみ。

 

「青い果実!」

 

 ぴんぽーん!

 という効果音と共に俺の頭上に10P表示が出てきた。

 

 ふにっ。

 

 ちょびっと。

 

「微乳!」

 

 ぴんぽーん!

 

 頭上のポイントが20Pになった。

 

 ぺたーん。

 

 さすさす。

 

「……ちっぱい」

 

 ぴんぽーん!

 

 30Pになった。

 

「………………」

 着々とポイントは稼いでいるのだが、何故か勝った気がしないよ。

 大事な部分が敗北を重ねていく気がするよ……。

 

「ちっぱい! 青い果実! ちっぱい! 青果! 微乳! 美乳! ちっぱい! ちっぱい!」

 

 ひゅばっ!

 

 もみっ!

 

 さすっ!

 

 さわさわっ!

 

 ナギってば絶好調だぜ。

 俊敏な動きであちこちに移動して揉むわさするわ撫で回すわ。

 時々関係ない場所(尻)も撫でてるし。

 

 そして、

 

「ああん、この撫で心地! 未発達なこのラインがたまらないわあ。はあはあ。あ、でもあんまりゆっくりしていられないのよねぇ。すりすり」

 アルトリウス女史がいい感じに壊れていらっしゃる。

 NPC幼女に頬擦りするのはやめてほしいなぁ。

 でも着実にポイントは稼いでいるのが恐ろしい。

 揉んで消えるまでの間に可能な限りのセクハラを敢行している。

「ありゃあすでに幼女キラーと言っても過言じゃねえな……」

「同感。幼女諸君にはアルトリウスがやってきたら避難警報とか発令した方がいいんじゃないか?」

 俺だけじゃなくてナギまでドン引きしているあたり、ただ事ではない。

 感情のないNPC幼女のはずなのに、何故か嫌がっている風に見えてくるから不思議だ。

「幼女キラー……。い、いいわね、その言い回し……じゅるり」

「………………」

「………………」

 いやもう、彼女だけはマジで理解不能領域です。

 相互不可侵条約を結びたいと切実に願いたいぐらいです。

「無理よ。だって貴方とあたしは恋敵同士だもの」

「そうそう。俺達三人はロリ魔王さまを巡る恋敵同士だってことを忘れんなよ。いつでもどこでも不法侵入しちゃるぜ」

「……勘弁してくれ」

 ドン引き側だったはずのナギがいつの間にかアルトリウス側に回っている。

 魔王さま、モテモテ過ぎませんか?

 確かにすっごく魅力的なお方ではあるけれど。

 ロリコンではないと主張したい俺もノックアウトされかけるぐらい可愛いお方だけど。

 でも俺はこんな濃い連中と渡り合えるほどの大物じゃないんですよ。

「はあ。これに優勝したら更なる魔王さまへのセクハラ……じゃなくて寵愛をお願いできるかと思うともう今からドキドキだわぁ」

「……今セクハラって言ったか!?」

 聞き逃せない台詞に思わず突っ込みを入れてしまう。

「いやあねえ。ちゃんと言い直したじゃない」

 むくれるアルトリウス女史。

「言い直せばいいってもんじゃないだろうがっ!」

「そうだそうだ!」

 意外なことにナギも賛同してくれた。

 味方に付くと心強い奴だ。

 あっちにふらふらこっちにふらふらなので決して信用は出来ないのだけれど。

「半端に言い直す程度の覚悟で魔王さまを手に入れようなんて甘い! 甘すぎる! ここはど正直に魔王さまと禁断の一夜を! ぐらいの宣言を堂々として見せろっ!」

「………………」

 訂正。

 こいつは断じて味方じゃない。

「……じゃあ私も魔王さまと●●●して●●して●●になって●●●●●させてもらうんだからって高らかに宣言すればいいわけ?」

「するなーっ!」

「その通りっ! でも伏せ字は邪魔だ! まだまだ覚悟が足りん!」

 ごいんっ!

「あいたっ!」

 とりあえずナギを殴っておいた。

「その伏せ字は最後の防衛ラインだっ! 死守すべき精神防壁だっ!」

「カタい奴め」

 むくれるナギ。

「ほんっと。●●●はふにゃってそうなのにそっちはお堅い奴よね」

 暴言を吐くアルトリウス女史。

「何の話をしているっ! それから俺の●●●はふにゃってねえっ! って俺が何言ってるんだぁぁぁぁあっ!!」

 がしっと頭を抱えて叫ぶ俺。

 いかん。

 俺もだんだんこいつらに汚染されつつある。

「そうだよ! お兄ちゃんの●●●はちゃんとカタくて……もがもがーーっ!!」

「いつの間にやってきたんですかっ!!」

 そしていつの間にか俺の横には魔王さまが立っていた。

 暴言を通り越して暴露してくださっている魔王さまの口を両手で塞ぐ。

「えへへ~。お兄ちゃんにくっつきたくなっちゃった」

 ぎゅっと抱きついてくる魔王さま。

「……いや、気持ちは嬉しいんですが……」

 ほんと、気持ちは嬉しいんですが。

 ちょっとは空気を読んでくださいよ。

 ナギの視線が、アルトリウスの殺意が、その他大勢のロリ嫉妬オーラが……怖いんですけど……。

「やっぱり一度凹ました方がいいよな?」

「ええそうね。どっちがより魔王さまを愛でられるか、とことん教え込まなければならないようね。その身体に。特に後ろに」

「今後ろって言ったかっ!?」

 何するつもりだこの腐女子っ!

「アルちゃん。後ろってどういう意味?」

 魔王さまが首を傾げて可愛らしく質問する。

「はふうっ! 魔王さま! 興味がおありですか?」

 アルトリウス女史、鼻息荒く反応しています。マジ怖い。

「あるある。教えて教えて~」

「はいはい。ではお耳を拝借」

「やめろーっ!」

 俺が止めるのを無視して腐った知識で魔王さまを穢そうとするアルトリウス女史。

 しかし本気になった魔王さまを俺が止められるわけもなく、

「ごにょごにょごにょ」

「え? っていうことは男の人って後ろの●●●でもオッケーなの?」

「そうなんですよ。それで、ごにょごにょごにょ」

「ええっ!? ナギナギが攻め!?」

「そしてごにょごにょごにょ」

「うひゃあああ……」

 真っ赤になって両頬に手を添える魔王さま。

 恥じらう様子は可愛らしいのだけれど!

 でも魔王さま、あなた現在進行形で穢されている最中ですよっ!

 

「って、こら待てアルトリウス! てめえ今オレが攻めって言ったか!?」

「え? じゃあ俺がう……言いたくない! その先は言いたくないいいいいいっ!!」

 二人揃って悲鳴を上げる。

 魔王さまが俺達のナニで顔を赤らめているのか。

 どんなシーンを妄想してしまっているのかを考えるだけで死にたくなる。

 というか横にいる奴を殺したくなる。

 それはナギも同じ心境だろう。

 お互いに殺意満々の視線を向けているのだから。

 

「魔王さまが……おれたちの魔王さまが副長に穢されていく……」

「鬼だよ。あの人ガチで鬼だよ……」

「俺達のロリ魔王さまが……」

「お願いですから腐化しないでくださいぃぃぃっ!」

 周りのロリコン共も悲鳴を上げている。

 そっか。

 あっち方面への覚醒を『腐化』って表現するのか。

 また一つ賢く……ならなくてもいいかなあ! そっち方面にはっ!

 

「はふぅ……」

 俺とナギを交互に見ながら実に色っぽい溜め息をついてくださる魔王さま。

 その表情はとても可愛らしく、見ていてずぎゅーんとなるのだが、しかし考えている内容が酷すぎるのでダメージの方が大きかったりする。

「それでそれで? そっち関連のデータってどこかで手に入ったりする?」

「ええ入りますよ。電子書籍ならば魔王さまもこちらで閲覧可能でしょう? 詳しくはアマ●ンサイトなどで……ごにょごにょ」

「ああなるほど~。今度GMに頼んで探して貰うよ」

「是非とも。その際にはあたしにも見せてくださいね」

「いいよ~」

 女子二人が盛り上がる。

 腐った会話で盛り上がる。

 マジで勘弁してください。

 

「さてと! じゃあ第三回戦始めよっか♪」

 振り返った魔王さま、輝いています。

 腐った成分を注入されて輝きまくっています。

 

「うう……」

「魔王さまが……」

「おのれ鬼副長め……」

「でもあの人に逆らうのはなんか怖い……」

 

 それぞれの悔しさと恐怖を胸に抱きながらも、いよいよ三回戦が始まるのだった。

「ああ、腐化した魔王さまもすてき……あふ、可愛い……」

 うっとりしているアルトリウス女史。

 あんたもう黙ってくれないかな。

 喋るとロクなことにならないし。

 

 ……とまあ、こんな感じで幼女もみもみ……もといつるぺた測定の突破者は二十人にまで絞られた。

 突破ポイントは200Pだったので、少し難易度が高かったようだ。

 突破者の中にはもちろん俺とナギナギ将軍、そしてアルトリウス女史が含まれている。

 その他十七人に関しては、もうただのロリコンモブと呼ばせてもらおう。

 ……個人的なステータスとか気にかけたくもねえし。

 

「第三回は~! これで勝者確定! バトルロイヤル!」

 舞台に上がった魔王さまが華麗にくるくる周りながら第三回の内容を発表してくれた。

 って、それ萌え関係なくね?

 明らかにナギとかアルトリウス有利なルールじゃね!?

「もちろん戦闘力を平等にするために、参加者にはこのアイテムを配りまーす♪」

 魔王さまが胸元から(胸元からっ!!)二十個のボールを取り出した。

 参加者それぞれに投げ渡してくるそれは、手にした瞬間光って消えた。

「わっ!?」

「なんだ?」

「どうなってるんだ!?」

「ま、魔王さまからいただいたタマがっ! タマタマがーっ!」

 ……最後に発言した奴はあとでフルボッコ決定。

「えーい♪」

 魔王さまはくるりと回って直径五十メートルほどの円形フィールドを形成した。

「残った参加者にはこの中で戦ってもらいまーす。さっき渡したタマ……じゃなくてボールは、みんなのステータスをレベル一相当に引き下げるアイテムだよ」

 なぬ!?

「やっぱりバトルロイヤルでステータスの差は大きいからね~。今回は平等にみんなのステータスを引き下げてみたよ♪」

 た、確かにそれは平等だけど、でも泥沼化するのでは?

「アバターステータスじゃなくて、純粋にスキルの勝負! あ、でもひとつだけ使える便利技があるよ! 『萌族』だけが使える特殊スキル『無敵時間ロリズムタイム』。攻撃力と防御力が五分間だけ倍になるアレだね! みんな萌えパワーの使いどころを間違えず、ここぞというタイミングで勝利を掴んでねーっ♪」

 魔王さまがきらきら笑顔でみんなを激励する。

 ああ可愛いなあもう。

 でもタマと言いかけたことだけはあとで叱っておこう。

 今はやらない。

 だって怖いし。

 みんなの視線がちょー怖いし。

「じゃあ、ロリコンクエスト最終バトル! 始め~♪」

 魔王さまの合図と共にバトルロイヤルが開幕。

 さてと、じゃあ俺も何人か倒しに行きますかね……って、

「なんじゃこりゃあああああっ!!??」

 倒しにいくどころじゃねえっ!

「うおおおおおっ!」

「死ねやーっっ!!」

「爆発させちゃるーっ!」

 参加者のほとんどが一斉に俺をめがけて突撃している。

 な、何故!?

 ほわいっ!?

 俺よりもナギとかアルトリウス女史の方がよっぽど強敵だぞっ!?

 何で俺を狙うっ!?

「魔王さまといちゃつきやがってーっ!」

「何が『お兄ちゃん』だっ!」

「おれだって呼ばれたいのにっ!」

「貴様なんぞが魔王さまを抱っこするなんて百億光万年早いわーっ!!」

「ぎゃあああああーーっ!!??」

 皆さん激怒していらっしゃる。

 俺と魔王さまの仲を嫉妬していらっしゃるのですねっ!?

 っていうか最後のおっちゃんは言葉がおかしいぞ!?

 百億光万年ってナニ?

「「「「執事撲殺奥義! 『処刑時間ロリズムタイム』発動!!」」」」

 揃いも揃って五分しか使えない『無敵時間ロリズムタイム』を発動してきやがった。

「って、ちょっと待ったーっ! お前ら文字が違ってないかっ!?『処刑』じゃなくて『無敵』だろうがっ!?」

 慌てて逃げようとするが、四方八方から襲いかかってくる恐るべきロリコン達は、うまく逃げ道を塞いでくれている。

 絶体絶命!?

 ぴーんちっ!!

「「「「俺達ロリコンの恨み思い知れっ! 『嫉妬攻撃嵐ジェラシーアタック』!!」」」」

 ぱんち、きっく、きっく、ぱーんち、へっどばーっど……

 ありとあらゆる攻撃が俺に、俺だけに集中していきます。

 貴重なを消費してまで俺ひとりをここまで執拗に狙うのは明らかにオーバーキルだと思うんですがねっ!?

 っていうか最初の段階で俺のHPなんて吹っ飛んでしまっているんですが!?

 の攻撃力ぱなすぎだろっ!?

 ……などなど、HP残量ゼロになってもまだ殴り足りないらしく、あいつらは俺をフルボッコにし続けた。

「ぎゃああああああーっっ!!」

 後に残されたのは哀れな執事の悲鳴だけだ。

 アバターを四散させた俺は、戦闘領域外で再構成された。

 頭の上には敗者マーク。

 第三回戦における最初の退場者となったわけだ。

「って、あんな執念の塊のような変態共に勝てるわけねーっ!」

 魔王さまの為にももう少しぐらいは勝ってあげたかったのだが、あれは無理です。

 マジで無理です。

 っていうかついていけません。

 そろそろ本気で退場したくなりましたよ。

 しかし地獄はそこで終わりではなかった。

 魔王さまの指定した戦闘領域では、更なる地獄絵図が繰り広げられていたのだ。

「はーっはっはっはっ!」

「うふふふふ~♪」

 どかあっ!

 げしいっ!

 ずががががっ!

 びしいっ!

「………………」

 俺に嫉妬の一撃を喰らわせて力尽きかけていたロリコン共を、背後から襲う二人の悪魔。

 最後に立っていたのは萌組局長ナギナギ将軍。

 そして萌組副長アルトリウス女史。

「はーっはっはっはっ! ロリコン共の嫉妬を煽った甲斐があったなぁ、アルトリウス」

「うふふふ、そうねぇ。お陰で『無敵時間ロリズムタイム』を使い果たして精根尽き果てた状態で止めを刺すことが出来たからすっごく楽だったわぁ」

「はははは。さすが鬼の副長。考えることがえげつなさすぎるぜ」

「うふふふ。乗っておいてそれはないんじゃなの? 局長」

「はははは」

「うふふふ」

 ゴゴゴゴゴ……とどす黒い炎を撒き散らしながら対決する二人。

 怖い。

 まぢでこわいよぅ。

 がたがたぶるぶるものだよぅ。

 気が付くとあの二人に不意打ちで退場させられた、つまりは俺に集中攻撃をぶちかましてくれやがったロリコン共も震え上がっている。

 あの二人に乗せられて、煽られて、思うままに操られた後だというのに、腹を立てるどころか恐怖で震えているのだから、もう哀れとしか言いようがない。

 でもそんな奴らにぶちのめされた俺ってもっと可哀想だったりしねえ?

 ……後で魔王さまに慰めてもらおう。

 俺のアドバンテージはその気になれば魔王さまの寵愛を独占できるってことなんだからな。

 お前らなんて精々遠目で見て羨ましがってればいいんだよ。

 ……って、何か俺も思考がどす黒くなってきている気がするよ。

 泣きたくなってきたなぁ。

 

「さて。最後は私たちだけってことよね」

「そうだな。決着はつけないとな」

「貴方と戦うのも久し振りよね、そう言えば」

「そうだなあ。まあ俺の勝利は揺らがないけどな」

「それはどうかしら。今までのデュエル成績はあたしの六十二勝六十五敗でしょ。実力そのものには開きがないわよ」

「確かにそうだ。それは否定しない。だが! 今の俺には魔王さまへの愛! 萌組局長としての矜持がある! この気持ちさえあれば勝率を大幅に引き上げることが可能だ! 今回のご褒美に今度こそ唇ちゅーをしてもらうためにもっ!」

 ゴゴゴゴ、と燃え盛るナギナギ将軍。

 周りからはもちろんブーイング。

 くたばれ局長、などという声も聞こえてくる。

 うーむ。

 応援パワーはアルトリウス女史が有利かな?

「させるわけないでしょ」

「……まさか、アルトリウスも魔王さまの唇狙いか!?」

「のーっ! ドクター・アルトリウスの立場を利用して、魔王さまに『お医者さんごっこ』をさせて貰うのよっ! 触診したり、聴診器あてて胸をさすったり背中をなでなでしたり太もも揉んだり……! はふぅ! 想像しただけで悶えちゃうっ!」

「やばい。この女マジでやばい」

 くねくねと腰を捻らせながら妄想暴走超特急で絶好調なアルトリウス女史だった。

 魔王さまにお医者さんごっこって、もう犯罪以外の何モノでもねえよなぁ? 

 いや、でもナギのちゅーよりはマシなのか?

 どっちもどっちな気もするなぁ。

 しかもあの悶え具合。

 想像するだけでおそろしや。

 ……まあさっきまではもっとやばいことを口走っていたからマシになったと言えなくもないんだけどさ。

「ちゅーは渡さんっ!」

「お医者さんごっこはあたしの権利よっ!」

 バチバチと火花を散らせる二人の変態……じゃなくて局長と副長。

 ロリコンクエスト最終バトルが始まろうとしていた。

 

「はあーっ!」

「でええいっ!」

 ガチンコバトルだった。

 ロリコンクエスト三回戦は武器使用禁止だったので、もう肉弾戦以外の選択肢がない。

 美人アバターであるアルトリウス女史を平気で殴る蹴る出来るナギの心臓も大したものだが、殴られつつもきっちりダメージを返しているアルトリウス女史も強心臓だ。

 ステータス均一化の影響で、与えられるダメージはお互い同一。

 このまま同じ事を続けても、泥沼化した挙げ句に引き分けということになりかねない。

「いけーっ! 副長! 変態局長なんかいてまえーっ!」

 ロリコンモブが叫ぶ。

 副長も立派に変態だと思うよ。

「そうだそうだーっ! 局長に魔王さまの唇を奪われるぐらいならロリ魔王さまにお医者さんごっこしてもらった方が遥かにマシだーっ!」

「………………」

 ああ、そういうことね。

 納得。

 いや、納得していいのかお前ら?

「つるぺたぱーんちっ!」

 ナギが気合と共に右腕を振りかぶる。

 ただの右フックだが、技名で気合を入れているらしい。

 でも名前が酷いね。

「なんのっ! イカ腹きーっく!」

 対するアルトリウス女史も右上蹴りで対応。

 だから、名前が酷いんだよお前ら……

 ガシイイイッ! とぱんちときっくが相殺される。

「……や、やるなぁ。アルトリウス」

「……そ、そっちもね。ナギ」

 ぜえぜえと息を切らせながら睨み合う二人。

 切り札は温存しているのだが、しかし使えば二人とも潰れることが分かっているので使えないのだ。

 ここまでHPを消費した後では、『無敵時間ロリズムタイム』のような攻撃力増大技を使うと一撃決着になってしまう。

 ダブルノックアウトなどということになったら目もあてられない。

 だから二人とも通常技、つまりは肉弾戦のみで決着を付けるつもりだろう。

「今日だけは負けてやらないぜ、アルトリウス」

「うふふふ。それはこっちの台詞よ。それにナギ、貴方大事なことを忘れているわ」

 にやりと妖艶な笑みを浮かべるアルトリウス女史。

「なに……?」

「ナギは剣を持っている状態が一番強いのよ。でもあたしは杖が無くても強いわよ。これが意味するところは?」

「………………」

 滑らかな動きでナギの懐に入るアルトリウス女史。

 その動きは武道家の歩法そのものだった。

 傍から見た俺でさえ美しいと感じてしまうほどに、完成された動きだった。

「っ!!」

 気付いたナギは、しかし反応が遅れた。

「どっせいっ!」

 対応する前に胸ぐらを掴まれ、そのまま一本背負い。

 頭から地面に叩きつけてクリティカルヒット。

 更には叩きつけられた瞬間に蹴りまで入れていた。

 念入りにダメージを与えていると言えば聞こえはいいかもしれないが、明らかにオーバーキルだ。

「ぎゅう……まおーさまの……ちゅー……がくっ……」

 無念そうに呻いてからアバターを四散させた。

 散り際の発言が残念すぎる。

「いえーいっ! 魔王さまとのお医者さんごっこげーっとっ!」

 拳を上げるアルトリウス女史。

 すっごくいい顔してるなぁ。

 言ってることはロリ美少女にお医者さんごっこするぜ的な酷い内容なのに。

 

 まあ、そんなこんなでロリコンクエストの最終勝者、つまり優勝者は萌組副長アルトリウス女史に決定したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十二話 お医者さんごっこはエロいんです

 

 そして魔王城では……

「はい、魔王さま~。あーんしてくださいね~♪」

「あ、あ~ん……」

 見事ロリコンクエストの覇者となったアルトリウス女史は、女性とは思えない鼻息の荒さで魔王さまにお医者さんごっこを強要していた。

 魔王さまも勝者の権利を蔑ろにする訳にもいかず、涙目で付き合っている。ああでもその涙目がすごく可愛かったりするんだよなあこれが。

「ふあっ!? ふぁ、ふぁんふぇふひいふぇるふぉっ!?」

 お医者さんごっこ。

 まあ今は歯医者さんごっこかもしれないのだが、本来ならばミラーや探針などを入れる筈なのに、今は指を、指を突っ込まれております。

 恐らく魔王さまは『な、なんでゆびをいれるのっ!?』と言っている。

「うふふふふ。だって『ごっこ』ですから少しぐらい脱線してもいいじゃないですかぁ。お医者さんごっこ=エロいってことを今日は魔王さまにたっぷり教えてあげますわ~♪」

「ふあああ~~!?」

 魔王さまのお口の中が鬼に蹂躙されております。

 俺としては止めたいところだが、もちろん鬼に逆らうような度胸はない。

 邪魔したら殺すとまで前もって言われているのだから尚更だ。

「うわ……ロリエロい。魔王さまロリエロいっすね!」

 そしてナギナギ将軍は撮影係。

 お医者さんごっこの撮影係。

 腐ってる。

 どいつもこいつも腐ってる。

「も、もう許してぇ……」

 じわりと涙を浮かべる魔王さま。

 しかしその表情はアルトリウス女史を欲じょ……もとい興奮させるだけだと気付いていない。

「ぶはっ! 魔王さま可愛いっ! 涙目萌えきゅんっ! 食べちゃいたい!」

「なんでええええっ!?」

 がばあっとベッドに押し倒される魔王さま。

 上着を剥ぎ取られて今度は……

「さーて。じゃあ次は聴診器を当てますからそのぺったーんこな胸を出してくださいね~♪」

「ぺったんこ言わないでえぇぇぇっ!」

「ほらほら、恥ずかしがらないで。女の子同士じゃないですか~」

「だからこそ余計に妖しい雰囲気になってるよぉぉぉっ!!」

「気にしない気にしない♪」

「ふああっ!? ちょ、やめ、やめてぇぇぇぇっ! お兄ちゃん助けてぇぇぇぇっ!!」

 悲鳴を上げる魔王さま。

 鼻息荒くするアルトリウス女史。

 悶えながら撮影するナギ。

「……なーむ」

 俺は合掌するぐらいしか出来ません。

 ごめんなさい、魔王さま。

 あの女から魔王さまを救出するなんて超難易度のミッションは無理ですよ。

 

「ふぁ……あぅ……ひ、酷い目にあったよぅ……」

 後に残されたのは真っ赤になってベッドに転がる魔王さま。

 首筋や鎖骨周辺、そして生足付近にうっすらと紅いキスマー……いや、見なかったことにしよう。

 そうしよう。

 お医者さんごっこでは済まされないエロ行為にまで及んだことは確かだろうが、しかしアルトリウス女史の暴走は誰にも止められないのだ。

「大丈夫ですか? 魔王さま」

 俺はベッドで力なく寝転がる魔王さまの頭をなでなでして差し上げた。

「あう~。ひどいよ~。助けてくれなかったよぅ~……」

「無茶言わないで下さいね。俺があの女に逆らえる訳ないじゃないですか」

「そういう台詞はボクに言って欲しいのっ! ボクには平気でおしおきするくせにーっ!」

「う……」

 忠誠を誓うべき魔王さまよりもアルトリウス女史の方が恐怖度では上だというのは、確かにちぐはぐな状況だった。

「いや、でも理屈じゃないんですよ。魔王さまだって逆らえなかったでしょ? ステータスでは圧倒しているのに」

「うぅ~……だってなんか怖いんだもん……逆らうともっと酷いことになりそうだったんだもん……」

「気持ちは分かりますけどね。つまり俺にとってもそういうことです」

「うう~~っ! お兄ちゃんなぐさめてっ! ボクを慰めてぇっ!」

「よしよし」

 なでなで。

「それじゃ足りないぃぃっ!」

「わっ!」

 魔王さまは圧倒的なステータスを遺憾なく利用して俺をベッドに引き込んで押し倒してきた。

「うわああっ!?」

 上に乗っかってきて、そのままぎゅっと抱きつかれる。

「ぎゅっとしてっ! 抱き締めてーっ!」

「はいはい」

 ご要望通り、ぎゅっと抱き締めて差し上げた。

「そのまま何もかも忘れるぐらい滅茶苦茶にしてーっ!」

 ごいんっ!

「痛いっ!」

「どこで覚えて来たんですかそんな台詞っ!」

「殴ったーっ!」

「教育的指導ですっ!」

「お父さんにも殴られたことなかったのにーっ!」

「ベタすぎるっ!」

 なでなでしながら魔王さまを叱る執事。

「あんまり変な方向に成長しないでくださいよ。不安になりますから。ロリ魔王だけじゃなくてロリ変態魔王の汚名を着せられちゃいますよ」

「それは困るーっ!」

「ならあんまり変なことは言わないように」

「はぁい」

 ぎゅーっと抱きついてくる魔王さまは素直で大変よろしいのだが、この教訓をいつまで守ってくれるかは不明である。

 何せ魔王さまの周りが変態だらけなのだ。

 ナギナギ将軍を筆頭に、病み副長のアルトリウス女史、そしてロリコンの集まりである萌組魔王軍。

 これで染まらない方が難しい。

 ここは俺がしっかりと手綱を握らなければ大変なことになってしまう。

 と、思いつつも、あの圧力に屈しない自信はまったくなかったりするのだった。

 ……だってアルトリウス女史怖いし。

 キレたナギもなんか怖いし。

 繋ぎ止めるどころか気が付いたら俺も染まっていそうな未来が予感できてしまうのがなお恐ろしい。

「まあ、なるようになる……かな……」

 なるようになし崩れる……とも言うかもしれない。

 変わるとしても仮想世界だけなら、そこまで問題はないだろうし。

 現実世界まで汚染されることはないだろう。

 ならばこの状況を楽しむぐらいの神経の図太さを手に入れた方が楽しいのかもしれない。

「今度はお兄ちゃんがお医者さんごっこしてね!」

「しませんよっ!」

「えーっ! お兄ちゃんが相手ならどこまででもヒートアップできるのにーっ!」

「しなくていいんですっ!」

「エロモードだって受け入れるのにーっ!」

「黙って下さいっ!」

「もがもがーっ!」

 魔王さまってばそのうちロリエロ魔王になるんじゃないか?

 それはそれで……いやよくない。

 俺がそんなことでどうする。

 しっかり教育しなければっ!

「お兄ちゃんが教えてくれるなら何でも受け入れるよ♪」

「エロ方面は教えませんからっ!」

「ちっ」

「舌打ちしないで下さい」

「じゃあ自分で勉強するもん」

「しないでくださいよっ!」

「アルちゃんが今度電子書籍データ持ってきてくれるって言ったもん」

「なんのデータですか?」

「えっと、薔薇の世界ってゆってた」

「あのクソ女―っ!」

 魔王さまが!

 魔王さまが穢されるーっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十三話 デートイベントキター!!

 

 その日は運よくナギもアルトリウス女史もログインしてこなかった。

 どうやらリアルで外せない用事があるらしい。

 なので今日は魔王さまと二人っきりだ。

「デートしよう、お兄ちゃん!」

「デート、ですか?」

「うん。デートデート。お兄ちゃんとデートするの」

 二人きりになれたのがよほど嬉しいらしく、魔王さまはハイテンションだった。

「まあいいですけど。どこに行きたいですか? 城下町をうろうろしますか? 最近はプレイヤーメイドの料理店も増えてきて結構美味しいですよ」

「それも捨てがたいけど、城下町に出ると目立っちゃうよ」

「まあ、魔王さまですしねぇ」

 魔王さまのロリ魅力は既にルクセリア中に広がっている。

 魔王さまが外に出ればそれだけでロリコン共が集まってきて萌え叫びを始めてしまう。

 みんな魔王さまが大好きなんです、と言えば聞こえはいいが、変態共が悪ノリしているだけだと俺は主張したいね。

 それに俺が一緒だと嫉妬狂いのロリコン共から罵声を浴びてしまうので、ちょっと凹んでしまう。

 魔王さまのひと睨みで萎んでしまうのだが、それが内心の憎悪をさらに燃え上がらせてしまうのが恐ろしい。

 不用意にプレイヤーの憎しみを買いたくないのだが、魔王さまの旦那(?)という立場上、これはもう避けては通れない道なのかもしれない。

「ルクセリアの北西の山脈にすごく景色がいいところがあるんだよ。せっかくだからそこに行かない?」

「いいですけど、遠くないですか?」

 北西の山脈と言えば徒歩で五時間ほどかかる。

 さすがに辿り着く頃にはへとへとではなかろうか。

「お兄ちゃん、もう忘れてる」

「へ?」

 魔王さまは頬を膨らませて俺の背中をなでなでした。

「お兄ちゃんの種族は黒翼族でしょ? 飛べるんだよ。飛んでいったらあっという間だよっ!」

「あ、そういえば。すっかり忘れてました」

 ぽりぽりと頭を掻く。

 利用する機会がなかったから忘れていたけど、確かにそういう設定だった。

 翼で飛んでみるというのもなかなか面白そうだし、デート先は北西の山脈に決定したのだった。

 

 魔王城天守閣に到着。魔王さまは俺の左腕で幼女だっこ。

「じゃあ飛びますよ」

「おっけ~!」

 メニューウィンドウから翼を展開して、そこから任意でばさりばさりと動かす。

 すると浮力が生まれて俺の身体が持ち上がった。

「うわあ。本当に飛んでますね」

「そういう仕組みだもん」

「じゃあ行きましょうか」

「おーっ♪」

 俺以外にも黒翼族を選択した者がルクセリアには存在するので、国内で飛行しているプレイヤーを何人か見かけることはあった。

 しかし実際に自分で飛んでみるとまた新しい感動があったりする。

 飛行魔法自体はLOにも存在するけれど、翼で飛ぶのはまた別の味わいがある。

 

「風を切って飛ぶって気持ちいいね、お兄ちゃん」

「そう思うなら自分で飛んで下さいよ。魔王さまなら飛行魔法ぐらい習得出来るでしょう? 魔法少女属性なんだから」

「ぶー。出来るけどお兄ちゃんにだっこされるのが一番好きなの!」

「む」

 そう言われると照れてしまう。

 魔王さまってば可愛いなあもう、とか思ってしまう。

 魔王さまはあくまでAIで、現実の女の子ではないのに、本気で好きになってしまいそうで困る。

 ……AIとかそれ以前の問題として幼女に恋愛感情を抱くのは常識的に倫理的にどうよというボーダーラインも存在する。

 そんな難しいことを棚上げしたとしても、魔王さまの可愛さはノックアウト寸前レベルなのだけれど。

 しばらく飛ぶと山脈が見えてきた。

 マップで確認すると、ジート山脈と表示されている。

 恐らくこの山脈の名前だろう。

 山そのものは緑ではなく岩山だが、その下に広がる緑や湖が大変美しい。

 紅い空の光が湖面を写し、合わせ鏡のような景色を創り出している。

 空中からそれを見た俺は息を呑んだ。

 ここがVRワールドだと分かっていても、綺麗な景色に感動してしまったのだ。

 偽物の、作り物の風景だと分かっていても、心に訴えかけてくる何かを感じてしまった。

「お兄ちゃん、あそこに降りて」

 魔王さまは山脈の中にある建物を指さした。どうやら建築オブジェクトらしい。

 山脈コテージらしき場所に降りようとした。

「あ、屋根の上でよろしくね」

「……何故わざわざ屋根の上に?」

「なんとなく~」

「了解です」

 魔王さまの命令通り、コテージの屋根の上に降り立った。

「ご苦労さま、お兄ちゃん」

「ういっす」

 二人で屋根にちょこんと座る。魔王さまは俺の膝の上に。

「静かだねぇ」

「そうですねぇ」

 のんびりとした時間が流れる。

 魔王さまとのデートはゆったりとして悪くないものだった。

 紅い空に漂う雲の流れを追うような、そんな時間がとても満たされていると思えてくる。

 ゲームなんだからダンジョン攻略したり、レベリングしたりが本来の楽しみ方だと思っていたけれど、VRワールドでこんな時間の過ごし方があるなんて、ちょっと新鮮な気分だった。

「ここは仮想世界なのに、綺麗ですよね。色々と」

 魔王さまを膝に乗せて言う。

「お兄ちゃん」

 魔王さまは何故か少し寂しそうな顔をした。

 何か失言をしてしまっただろうか。

 ちょっと心当たりがないんだけど。

「あのね、お兄ちゃん」

 俺の方を見ずに、紅い空を見上げながら、魔王さまは呟いた。

「お兄ちゃんにとって、この世界はゲームで、幻の世界で、ただのデータなのかもしれないけど……」

「魔王さま?」

「でもね……ボクにとってはここが現実なんだよ。ここだけが、唯一の現実なんだよ……」

「………………」

「ボクはここにいる。ここだけがボクの世界で、ボクのいるべき場所」

「あの……」

 魔王さまは俺にぎゅっと抱きついてきて、胸に顔をうずめながら、擦れるような声で言った。

「それを、忘れないでね……」

「魔王さま……」

 現実と、仮想現実。

 その境に今、いるような気がした。

 俺にとっての現実はあっちの世界だ。

 それは揺るぎのない事実で、これからもそうで在り続ける。

 二つの世界は俺にとってすごく大事なもので、とても楽しいし、大好きだって思える。

 だけどこの世界はどうしようもなく夢で、ゲームで、幻想なのだという意識が俺の中に存在していた。

 この綺麗な風景が、感動を呼び覚ましてくれる美しさが、ただのデータの塊でしかないことを、心のどこかで理解している。

 魔王さまもAIで、プログラムの集合体でしかなくて。

 だけど、ただのプログラムがこんな事を言うだろうか。

 作られたAIでしかない筈の魔王さまに本当の心が生まれるなんてこと、あるんだろうか。

「魔王さまは……」

「なに?」

「……いえ、なんでもないです」

「ぶー。言いかけてやめるなんてずるいよ、お兄ちゃん」

「すみません。でも、うまく言葉に出来なくて。今は勘弁してください」

「むー」

 むっと頬を膨らませる魔王さま。

 それはリアルの女の子そのものの反応で、とてもAIが導き出した対応通りには見えない。 

「………………」

 普通の、小さな女の子にしか見えない。

 だからこそ、言えなかった。

 君は作り物なのか、などと。

 その言葉も、笑顔も、泣き顔も。

 みんな、プログラムが作り出した偽物なのかなんて。

 言えるわけがない。

「帰りましょうか、魔王さま」

 俺は魔王さまを抱っこしたまま立ち上がる。

「うん。帰ろう」

 魔王さまはぎゅっと俺にしがみついた。

 俺が感じていることも、迷っていることも、すべて見透かしているかのように。

 俺はまだ気づいていなかった。

 そんなことで悩んでしまうほどに、魔王さまに惹かれていたんだってことに。

 この苦しみは、迷いは、魔王さまの心が偽物であってほしくないという願いそのものだったのだということに。

 まだ、気づいていなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

第二十四話 萌組屯所完成!

 

 今日の俺達はレベリングもダンジョン攻略もフィールド攻略も無しだった。

 萌組も、そして魔王軍全体も、今日ばかりはお祭りの空気を楽しむために集まっている。

 どこに集まっているかというと、

「それではーっ! 我らが魔王さまの親衛隊・萌組屯所の完成を祝って、かんぱーいっ!」

 ナギが演説台でワインの入ったグラスを掲げている。

 そしてそれに合わせてロリコ……もとい魔王軍の面々もグラスを上に掲げる。

「「「「「かんぱーいっ!」」」」」

 みんな揃って声を上げた。

 魔王さま直属親衛隊・萌組の屯所が完成したのだ。

 そして本日はそのお祝い、ということになっている。

 局長であるナギナギ将軍を筆頭に、アルトリウス副長、俺、そして魔王さまも出席して、隊員と一緒に盛り上がっている。

 

「えへへ~。いよいよ完成したね」

「そうですね。いよいよロリコンの本拠地が完成したわけですよ、魔王さま」

「そうだね~」

「いや、そこはちょっと突っ込んでくださいよ……」

 アルトリウス女史の事実的物言いに同意する魔王さま。

 脱力してくるものの、やはり事実なので強くは出られない。

「魔王さま。少し下の皆さんと戯れてきてはいかがですか?」

「え? なんで? ボクお兄ちゃんと一緒にいたいよ」

 アルトリウス女史の提案に、魔王さまは俺の腕にしがみついてから拒否する。

 気持ちは嬉しいけど、それについてはアルトリウス女史に同意しておかなければ。

 だって、怖いし。

 鬼の副長の殺意がめっちゃ怖いし。

 こっちをギラギラ睨んでくる美女がすごく怖いし。

「魔王さま。アルトリウスの言う通りですよ。魔王さまはみんなのアイドルなんですから、こういう時ぐらいはちゃんと顔出ししておかないと」

「うー……」

「ね?」

「分かったよぅ。行ってきまぁす」

「はい、お疲れ様です」

 ぷっくりと頬を膨らませる魔王さまを見送りながら、俺はアルトリウス女史と二人取り残されてしまう。

 こ、これで少しは怒りを納めてくださると嬉しいのだけれど(汗)。

「ふふふ。相変わらず魔王さまの寵愛を独り占めなのねぇ。いやほんとむかつくわぁ」

「………………」

 怒りを醸成していらっしゃるっ! マジで怖いよっ!

「でも、魔王さまの可愛さって異常よね」

「それは、まあ……」

 同意見だけどね。

「外見はもちろんだけど、中身もね。あれで本当にAIなの? NPCだなんてとても信じられないんだけど」

「それは間違いない。俺達が性格設定してそこから形成されたAIだからな。元々の基本骨子はGMの誰かが作り上げたんだろうが、魔王さまは間違いなくAIだよ。最初は言葉もたどたどしかったし。学習能力はとても高いけど」

「ふうん。限りなく人間に近づけたAIってことかしら。あるいは何かの実験だったりするのかもね」

 アルトリウス女史が物騒なことを言う。

「実験体って、何の? ここはゲームの中だぞ。あんまり物騒なことを持ち出すなよ」

「だからこそよ。ゲームの中なんだから純粋に楽しみながら剥き出しの感情をさらけ出してもらえるでしょう? もしも高性能AIの実験と称してテストを開始するとすれば、それは目指した方向性にどうしても偏りが出てきてしまう。ゲームという様々なプレイヤーと接する機会のあるこの世界なら、データ収集にはもってこいだと思わない?」

「………………」

「どのプレイヤーも、魔王さまが萌えNPCであることを疑っていない」

「……いや、萌えは関係ないのでは? ひいっ!?」

 関係ないのでは、の台詞の直後に胸ぐらを掴まれた。

 アルトリウス女史の目が据わってる!

 ぎゃーっ!

 殺されるーっ!

「あなた本気でバカなの? VRワールドで萌えを求めないプレイヤーが本気でいると思ってるの!?」

「あ、あの……その……ごめんなさい……!」

 萌えだけじゃなくて純粋にファンタジー世界を楽しむプレイヤーや、魔法が使えることや、戦闘を楽しむプレイヤー、冒険を楽しむプレイヤーもいると思うんですぅっ!

 という心の声は、アルトリウス女史の眼光によって封殺された。

「とにかく。AIっていうのはデータ収集しながら、学習して性能を向上していくものでしょう? このLO世界は人間の感情データを収集するにはもってこいの環境よ。限りなく本物に近い世界、そしてアバターの向こうにいる生身の人間の感情。それに触れ続けることによって、AIが進化するのだとしたら……」

「ど、どうなるんだ?」

「さあね。利用価値は飛躍的に高まることは確かね。ひとつでも完成すればあとはそれをコピーすればいいだけだもの。経済的価値は計り知れない。労働力としても、軍事力としてもね」

「………………」

「いや、それも違うのかしらね」

 アルトリウスは考え込むように呟いた。

「どういうことだ?」

「上手く言えないけど、商業利用や軍事利用を考えるなら、ロリ萌え魔王にする必要はないはずよね」

「………………」

 言いたいことは分かるけど、シリアスな話をしているときに『ロリ』とか『萌え』とか持ち出されると気分がぶち壊しになるんだけどなぁ。

「もっと大人の、それこそ優れた人格にすることも出来たはず。だとすれば、目的はもっと個人的な何かってことかしら……」

「まあ、どうでもいいんじゃないか、そんなことは」

「どうでもいいことはないでしょう。だって魔王さまのことなのよ」

「そりゃそうだけど、魔王さまが何の為に生まれてきて、今ここにいるのかなんて俺達が考えても仕方のないことだろ。魔王さまと一緒にこのゲームを楽しむ。それが一番いいことなんじゃないか?」

 そんなことを言いつつも、俺は他のことを考えてしまう。

 ゲームを楽しむ。

 魔王さまのAIとしての人格も、ゲームの一部分として、つまりは遊びの範囲として楽しもうとしていた。

 だけど、本当にそれでいいんだろうか。

 

『ボクはここにいる。ここだけがボクの世界で、ボクのいるべき場所』

 

 それは、ゲームの世界という意味なのか。

 それとも本当の世界という意味なのか。

 あの日以来、ずっとそれを考えている。

 

『それを、どうか忘れないでね……』

 

 忘れられない一言が、ずっと俺の中に残っている。

 

「それもそうね。魔王さまが可愛いからそれで良しとしましょう」

「……結局そこなのか」

「それ以外に重要なことってあるの?」

「……ないです」

 駄目だ。

 この女と一緒の時にシリアスな考え事は不可能だ。

 この件については後でまた考えよう。

 

「魔王さまーっ!」

「俺、魔王さまに決めてましたっ!」

「あ、俺にも触らせろ」

「うきゃーっ! 魔王さまびばびばーっ!」

「魔王さま魔王さま魔王さま、はあはあはあっ!」

 

「ふああああっ! つ、潰されるーっ! むぎゅーっ!!」

 少し離れた位置から見える魔王さまは、ロリコン共に押し潰されかけていた。

「お、お兄ちゃん助けてぇぇぇぇっ!!」

 魔王さまがこちらに手を伸ばすが、残念なことに距離がありすぎてその手は届かない。

 ここで助けてあげたいのは山々なのだが、下手に突入すると俺があいつらに殺されかねない。

「なーむ」

 なので見捨てます。

 魔王さまの身体能力ならきっと乗り切れると信じて。

 

「きゃうっ! 今お尻撫でたの誰―っ!?」

 

 なぬ。

 ナギじゃあるまいし、あの状況でひとりだけ魔王さまの尻を撫でるなど許すまじ。

 いやしかしやはり俺が突入するわけにも。

 魔王さまも他のプレイヤーとのコミュニケーションを大事にして貰いたいし、ここは尻ぐらい撫でられて貰うとしようか。

 

 ぶちっ

 

「ん?」

 ぶちっ?

 今なにか物騒な音がしなかったか?

 不安になって横を見ると、

「……あたしの魔王さまのお尻を撫で回すなんて、魔王軍にも図々しい男がいたものね」

「ひいっ!?」

 顔半分に影を背負って震えていらっしゃるアルトリウス女史がいた。

 そして……

「てめえらーっ! 調子に乗りすぎだっ! 魔王さまの尻を撫でていいのは俺だけだーっ!」

 ストレートに怒り狂うナギナギ将軍。

 アホ局長と鬼副長が魔王さまを取り囲むロリコンの群れへと果敢に飛び込んでいくのだった。

 蹴散らされるロリコン共。

 恨み叫びを上げるロリコン共。

 無念に涙するロリコン共。

 ……ええいっ!

 ロリコン以外の生物はルクセリアにいないのかーっ!

「ああ魔王さま! やっと取り戻せました~♪ よーしよし、もう大丈夫ですよ~。ケダモノ共には指一本触れさせませんからね~」

「ア、アルちゃんっ! そう言いながら服の中に手を突っ込むのはやめてぇぇっ!」

 アルトリウス女史の腕に収まった魔王さまは、さっそく襲われていた。

「こらっ! アルトリウス! てめえ俺の魔王さまに何しやがる!」

 そして副長の暴挙に怒り狂う局長。

「ふふふ。そんなことを言っていいのかしらね~。ほーら、あたしがもう少し手を動かせば魔王さまのおへそがちらりと~♪」

「うっ!」

「「「「「うがっ!」」」」」

 局長と蹴散らされて復活しかけていたロリコン共の動きが止まった。

 魔王さまへのセクハラを独り占めしていた鬼副長が、今や魔王さまのおへそをちらりさせてくれる女神さまへと変わった瞬間であった。

「やめてーっ!」

「うふふふふ。恥じらっている魔王さまってばかーわーいーいー♪」

「うわああああんっ!」

 鼻息荒いですよ、アルトリウス女史。

「ふ、ふん。別にどうってことないもんね。魔王さまのおへそなんて。オレは魔王さまの生まれたままの姿を知っているもんね……」

 おへそチラリズムが萌組全員に普及されると思ったナギがそんな負け惜しみを言う。

 しかしそれこそが失敗だった。

「局長、殺そうか」

 ぼそりと、誰かが言った。

「へっ!?」

 局長、ナギがびくーん、となる。

 自分の失言に気付いていないらしい。

 おへそを見るだけでもここまで必死になっているバカなロリコン共を前にして、生まれたままの姿を見てるから悔しくないもんね、的な態度を取れば、そりゃあ殺意ぐらいは生まれるだろう。

「そうだな。いっぺんぐらいは殺していいかもな」

 別の誰かが言った。

「ま、待て。落ち着けっ! オレだけじゃないぞ! キョウだって見てるんだからなっ!」

「げっ!」

 あの野郎!

 俺まで巻き込むつもりかっ!

 殺意の視線が俺にも向けられる。

「……お兄ちゃんに手を出したら、ゆ、許さないからね」

 魔王さまが健気にも庇ってくださった。

 アルトリウス女史のおへそセクハラを受けつつの庇い立てに、思わずじんときてしまう。

「魔王さまっ! オレは!? オレのことは庇ってくれないんすかっ!?」

 そしてとても傷ついた声で叫ぶ局長ナギ。

 ちょっと哀れかもしれない。

「ナギナギ。お兄ちゃんの為に生贄になってね……」

「酷いっすーっ!」

「よしっ! 局長を殺せーっ!」

「うおおおーーっ!」

「執事の分までなぶり殺せーっ!」

「ま、待て! キョウの分は勘弁してくれーっ!」

「うるせーっ! 死ねやああーーっ!」

「ぎゃああああああああーーっ!!!」

 ロリコンの逆襲は大変恐ろしいものだった。

 トッププレイヤーのナギがロリコン集団になぶり殺しにされている。

 しかしさすがはナギナギ将軍。

 次々と襲いかかってくるロリコン共を相手にしつつも、十五分は持ち堪えてくれた。

 トッププレイヤーの肩書きは伊達ではない。

「うふふふ。男の嫉妬って見苦しいですよねぇ、魔王さま」

「……そういうアルちゃんはひとりでいいとこ取りをしているように思えるのは気のせいかなぁ?」

「それはどうでしょうね~」

「ひゃうっ! 背中は! 背中はやめてーっ!」

「魔王さまってばここが弱いんですね~」

「ひゃうひゃう~! アルちゃんのばかーっ!」

 アルトリウス女史だけはひとりでいいとこ取りで魔王さまのロリハリボディを堪能していた。

 生贄はナギひとりだった。なーむ。

 

「ひ、酷い目に遭った……」

 そして屯所内で復活。

 ここはセーブポイントと復活場所も兼ねているのだった。

「ていっ!」

「ぎゃふんっ!」

 復活した瞬間、別の奴から攻撃を喰らっていた。

「だ、誰だっ!?」

「ワイや」

「く、くまごろう!?」

「ワイが……ワイがここを建築したのに、魔王さまからのお褒めの言葉ひとつもらえず、お前らばっかり……」

「げ……」

 ぶるぶると震えるくまごろう。

 仕事人とロリコンとしての無念の一撃が、ナギの顔面をぶちぬいた。

 

 ナギナギ将軍、再び四散。

 

「うー。酷い目に遭った……」

 二度目の復活。

 デスペナルティによる経験値喪失など、それなりに失うものの多い日になってしまうナギなのだった。

 

 そして魔王さまはアルトリウス女史によってロリエロい反応を引き出され(具体的には弱い背中を指で刺激され続け)、嫉妬に狂っていたロリコン共の欲求不満解消に一役買うのだった。

 自分だけいいとこ取りの上に、恨みまでうまく逸らしてしまい、更には魔王さまのエロい反応を引き出した英雄ということで、信奉者まで現れてしまう始末だった。

 いやもう、いっそのこと教祖にでもなってしまえばいいのではないかとマジで思ってしまった。

「副長! 内ももは!? 内ももも弱いのでありますかっ!?」

 叫ぶロリコン。

「うふふふ。じゃあ今から試してみましょうか~」

「やーめーてーっ!」

「まあまあ、そう言わずに。たまにはエロ……じゃなくて萌えサービスも必要ですよ~、魔王さま♪」

「今エロって言った! エロって言ったよっ!? ひゃうんっ! あっ! あうっ!」

「「「「うおおおおーーっ!!」」」」

 アルトリウス女史に抱えられながらエロい反応を見せてくれる魔王さま。

 盛り上がるロリコン共。

「ああ……これはしばらく止められないな……」

 止めたいのは山々なのだが、遠目からとは言え、俺も魔王さまのエロい反応を見ていたいという気分になってしまったのだった。

 ロリコンの巣窟である魔王軍の中でも、あそこまで躊躇いなく魔王さまにセクハラ出来るのは、鬼のセクハラ副長アルトリウス女史だけだ。

 ならば今だけはこの幸せな時間を傍観者として堪能させて貰うとしよう。

 魔王さまには申し訳ないけど、まあこれも君主の萌え努めってことで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十五話 戦争フラグ立ちました

 

 その日の夜、琥珀は疲労困憊状態のまま、天月と面会していた。

「……また、随分と消耗しているな」

 やや呆れ気味の天月。

「うー……みんな酷いんだよぅ……セクハラだよぅ……アルちゃんは間違いなく鬼なんだよぅ……」

 いつもならソファで向かい合って会話を続けるところなのだが、今回はベッドでごろごろしている琥珀だった。

「はは。予想以上の悪ノリでスタッフ達もびっくりしていたよ」

「見てたんなら止めてよー……」

「無茶を言うな。あれだけの盛り上がりを見せていたのにGM側が介入したら台無しじゃないか」

「うー……」

 琥珀の頭を撫でてやりながら、同時にAIの状態も確認する。

 琥珀のメンテナンスも天月の大事な仕事だった。

「ふむ。思考回路に随分と負荷がかかっているようだな」

「このままだとオーバーヒートしちゃうよぅ。なんとかしてぇ~……」

「それは人間で言うところの『ストレス』だな。人間ではなくプログラムである君なら取り除くのは簡単だが、私は敢えてそうしないでおこう。その方が目的に近づけるからね」

「うぅ~……」

 天月の目的を理解している琥珀は、これ以上は何を言っても無駄だと判断して諦めるのだった。

 あまり生みの親を困らせるのもよろしくない。

「萌組の屯所も出来上がったことだし、そろそろ魔王軍も形になってきたかな?」

「それはまあ、だいぶ形になってきたけど。アレでいいのかどうかはちょっと判断しかねるかなー……」

「魔王軍がただの変態ロリコン集団と化しているしねぇ。まあアレはアレで面白いとは思うけど」

「というか完全に面白がってるでしょ?」

「もちろん」

「………………」

 我が生みの親ながらいい性格をしている、と溜め息をつく琥珀だった。

「ではそろそろ本格的に人間との戦争を始めてもらおうかな」

「そっちで勇者のAIは生まれたの?」

「いや、勇者AIは今回作成していない。代わりにプレイヤー側に強化アイテムを配ることになっている。やはり勇者という立場はプレイヤーとして味わって貰いたいというのがスタッフの共通見解でね」

「なるほど。勇者はひとりじゃないってことなんだね」

「その通り。面白くなりそうだろう?」

「まあね~」

『魔王』が無敵仕様で、勇者も無敵仕様だと一般プレイヤーの見せ所がなくなってしまう。

 ならば戦闘プレイヤーにある程度のチートアイテムを持たせて、いい勝負に持ち込む方が断然盛り上がる。

「いきなり全面戦争というのもどうかと思うから、最初は領土戦あたりから仕掛けていこうか」

「人間の領土を魔族が攻める?」

「逆だ逆。人間がルクセリアに攻め込んでくるんだよ」

「って、こっちが防御じゃんっ!」

「そういうものだって。琥珀は世界征服企むってタイプじゃなさそうだから、専守防衛シナリオで行こうって話になってるんだよ」

「えー……ボクだってやろうと思えば出来るもん。えっと……『ふははは! 愚かなる人間共め! 我が力の前にひれ伏すがいいっ! ふははははは!』……とか」

「……棒読みだから」

「がーんっ!」

 三秒で駄目出しを喰らっていた。

 魔王なのに。

「あとそのロリ外見に似合ってないから」

「ががーんっ!」

 追い討ちまで喰らわされていた。

 哀れな魔王さまだった。

「えっと、じゃあ『勇者共よ! この我のものとな……」

 ごいんっ!

 殴られた。

「いたいっ!」

「それは著作権侵害だから」

「うー……」

 際どいところでセーフだった琥珀は、拳骨された頭を涙目でなでさすっていた。

「とにかく、来週あたりに領土戦争イベントを入れるから、魔王としてしっかり働いてくれよ」

「はぁい」

 

「そうだ。彼とはどうなっている?」

「彼?」

「キョウくんだよ。少しは仲が進展したかい?」

「っ!」

 キョウの名前を出されて、琥珀はちょっと赤くなった。

 そんな反応も初々しくて可愛らしい。

 とても出会ったばかりの頃、ナギに乗せられて強制セクハラに及んだ幼女には見えない。

「えっと、この前デートしたぐらい、かな」

「おや、肉体関係はまだか」

 今度は琥珀の顔がゆでだこになった。

「セクハラだよっ! いくら生みの親でもセクハラだよっ!」

「はははは! からかっただけだ。琥珀に襲いかかるようなら正真正銘のロリコン変態野郎だからな」

「お兄ちゃんは変態じゃないもんっ!」

「……魔王を外見年齢十歳のロリ美少女にするあたり、すでに手遅れ気味の変態だと思うが」

「そ、そんなことないもん。きっとお兄ちゃんは小さくて可愛いものが好きなんだよ」

「それを一般の認識では変態と称するのだが」

「称さないでよっ!」

「せっかくVRワールドなんだから、捕まる心配もないし、思いっきりやってしまえばいいのに」

「なに? エロ方面のデータが欲しいの?」

「いや、面白がってるだけ」

「ばかーっ! 馬に掘られて死んじゃえーっ!」

「それを言うなら『蹴られて』ではないか?」

「『掘られて』、男として死ねばいいのに」

「酷いことを言うなあっ! 大体、どこでそんな腐った知識を仕入れてきた!?」

「えっとね、アルちゃんが色んな電子書籍データを持ってきてくれたの。すっごいよねぇ」

「そんなものを見るんじゃありませんっ!」

「やだーっ! 新世界見るもんっ!」

「……うちの娘に何をしてくれるんだあの腐れ副長めっ!」

 ぐぬぬぬ、と天月がここにはいないアルトリウスに怨念を抱くのであった。

 自らが作り上げた可愛い娘が穢されるところを目の当たりにして、かなりショックを受けてしまったようだった。

 そんな親の心子知らずな琥珀は、嬉々として薔薇世界について天月へと語り続けるのだった。

 琥珀にとっては楽しい時間であり、天月にとっては拷問のような時間であったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十六話 魔王さまノー●ン事件

 

「というわけで、今度の日曜日午後十二時より、ルクセリア南端部、ティアーズ砦の領土戦争を行いまーす」

 萌組屯所に集まった隊員達に、魔王さまが高らかに宣言した。

 本日のコスチュームは桜の刺繍が施された着物だった。

 今日も可愛らしい素晴らしい。

 いよいよ人間たちとの戦争が開始されるという。

 GMが指定したイベント開催時刻は日曜日の午後十二時。

 ログインするプレイヤーが最も増える時間帯であり、参加者は爆発的に増えるだろう。

 もちろん魔王軍の人数がまだ多くないので、人間側のプレイヤーには人数制限が設けられるだろうが、とにかく魔王軍が本格始動するということで、ロリコン共は士気高揚としていた。

「負けたら砦が人間側の領土になっちゃうから、全力で撃退してねーっ!」

 張り切る魔王さま。

「ういっす! 人間共なんか魔族の領土に一歩たりとも入れませんぜっ!」

「そうだそうだ! 人間の癖に魔王さまの領土を狙うなんざふてえ野郎共だっ!」

「魔族の誇りにかけて、ロリコンの意地にかけてでも、侵攻は阻止して見せますっ!」

 さらに張り切る魔王軍。

 魔族の誇りとロリコンの意地を同列に並べるのはどうかと思うけど。

 しかしみんなすっかり『魔族』に染まってきたなぁ。

 アバターの向こうにいるのは間違いなく生身の『人間』であるはずなのに、発言はすっかり『人間の敵』だ。

 役作りというか、キャラなりきりというか、結構楽しんでいるようで何よりだ。

 俺も楽しいし。

「きゃうっ!? アルちゃん何するのーっ!?」

 そしてアルトリウス女史がお立ち台に乱入。

「うおおっ! 副長がまた魔王さまにセクハラをっ!」

「今度はどこを見せてくれるんですかっ!?」

「某は鎖骨を見たいのでありますっ!」

 怒るどころか更なる盛り上がりを見せてくれるロリコン共。

「ですって。魔王さま、どこを見せたいですか~?」

 魔王さまを抱っこして妖艶な笑みで問いかけるアルトリウス女史。

「どこも見せちゃだめーっ!」

「よしっ! じゃあ今日はスペシャル大サービス! 魔王さまのぱんつをご覧あれ~♪」

 ばさっ!

 足元から着物をめくり上げられた魔王さまは、純白のぱんつを見せる羽目になるはずだったのだが……

「………………」

「「「「「「………………」」」」」」

 アルトリウス女史沈黙。

 そしてロリコン共も沈黙。

 というか真っ赤になっている。

 何故かというと、魔王さまはノー●ンだったのだ。

 ぱんつではなく、その中身をロリコン共に晒してしまったのだ。

 つるつるの……って、これ以上は何かのコードに引っかかりそうなので控えさせて貰うが、とにかく大惨事であることは間違いない。

「ええと、魔王さま? どうしてノー●ンなんですか?」

 俺は恐る恐る問いかけてみる。

「うえ……えぐ……」

 しかし魔王さまは涙をぼろぼろと流して喋るどころではないらしい。

「うわ、あたし無理。任せた」

「ええっ!?」

 ひょい、と泣きじゃくる魔王さまを渡される。

「てめえ、自分で泣かせといてそりゃないだろうっ!」

「し、仕方ないじゃないっ! まさかノー●ンだなんて思わなかったんだもん!」

「つーかめくるなっ! 主君の着物をめくるなっ!」

「主君の着物なんてめくるためにあるようなものじゃないっ!」

「ふざけんなーっ!」

 どんな暴論だ!

「うわああああーんっ!」

 そして魔王さまが爆発した。

「うわあああっ! なななな泣かないでください魔王さまっ!」

 抱っこしたまま必死で慰める俺。

 なんで俺がっ!

 そしてそそくさと離脱するアルトリウス女史。

 つーか逃げんなてめえっ!

「うわあああああんっ!!」

「お、落ち着いて、俺が傍にいますから落ち着いてください、魔王さま」

 とにかく宥めるしかない。

「だ、だって、だって……」

 えぐえぐと泣きながら魔王さまが言う。

「着物着るときは下着つけちゃ駄目だってナギナギが言うんだもんっ! 下着の線が出るからノーブ●ノー●ンが基本だってゆったんだもんっ!」

「……あのバカ」

 ナギに殺意が芽生えた瞬間だった。

 確かにそういうエロルールはあるけれど、実際は専用の下着とか、そういうのがあるのだ。

 それを知らせないでエロ方面の知識だけ埋め込むとは。

 あのバカあのバカあのバカ。

 今度は俺が殺してやろうか……と、本気でそう思いかけたとき、

「うおおおおっ! 今初めて局長に感謝したっ!」

「神だっ! あんた神だよっ!」

「一生付いていくっすっ!」

「大変いいものを拝ませて貰ったっすっ!」

「局長万歳っ!」

 と、ロリコン共の方がナギを崇めていた。

 ……どいつもこいつも死ねばいいのに。

 

「魔王さま。ナギの奴はああ言いましたが、リアルならともかく、VRワールドにおいてはそこまで細かい再現はされないと思いますよ」

「へ?」

「つまり、嵌められたんです。ナギに」

「………………」

 魔王さまの泣き顔が、みるみるうちに膨れっ面へと変わる。

 怒りの対象はもちろんナギだった。

「お兄ちゃん。降ろして」

「はい」

 魔王さまは逆襲者の顔になっていた。

 それを止めるほど、俺も命知らずではない。

「ヒビキ!」

 凶悪弓武装、ヒビキを装備。

 狙いはもちろんナギだった。

「ナギナギの……」

「げっ!?」

 魔王さまの殺気に気付いたナギはびくーんと身体を硬直させる。

 俺がバラしたと分かったのだろう。

 最後に裏切り者ー! と叫ばれた。

 だが裏切ったつもりはない。

 俺はいつでもどこでも魔王さまの味方なのだから。

「ばかーっ!!!!」

「ぎゃあああああっ!!」

 ちゅどーんっ!

 ごごごごご!

 ナギの周りにいたロリコン共も巻き込んで、魔王さまの一撃で四散してしまった。

 まさに一撃必殺。

 局地兵器。

 

 そんなトラブルに見舞われつつも、領土戦の日は近づくのだった。

 それまでに魔王さまの機嫌が直ることを祈るばかりだ。

 

 

第二十七話 ちっぱい派VS巨乳派

 

 そして領土戦の日がやってきた。

 我ら魔王軍はディアーズ砦に陣を構えて人間共を迎え撃つ準備を着々と進めていた。

 砦の最上部には司令部。

 魔王さまと俺、そしてナギナギ将軍とアルトリウス副長が陣取っている。

「まずは戦士職を前面に押し出して、そこから魔法職が支援。防衛線がやばそうなところは魔王さまが遠距離爆撃……って感じの作戦でどうっすか?」

 ナギがティアーズ砦一帯のマップを表示させながら作戦を説明する。

 無難と言えば無難、ありがちだが、だからこそやりやすい。

 王道こそが勝利の鍵だ。

「いいんじゃない? ナギとあたしは遊撃ね」

「だな」

「じゃあ俺は魔王さまの護衛ってことで」

「お兄ちゃん、頼りにしてるね」

「はい」

 べったりとくっついてくる魔王さま。

 可愛いけど、ナギとアルトリウス女史の視線が怖い。

「よし。じゃあ始めるか。魔族と人間の戦争開幕だっ!」

「おー!」

「がんばる!」

「楽しくなりそうだ」

 ナギの声を筆頭に、俺達もそれぞれでやる気を出すのだった。

 

 人間軍と魔王軍。両軍はそれぞれ向かい合っていた。

 間を挟んで十五メートルほど。

 開戦の合図が鳴るまでは両軍とも動かない。

 それぞれの表情に憎悪はなく、ただただ戦争の高揚で満ちている。

 これは本物の戦争ではなく、遊びの延長線なのだから、楽しむことは正しい。

 勝っても負けても楽しい戦というのが理想だ。

 しかし魔王さまにとってのこれは現実だ。

 リアルを持たない、VRが世界の全てである魔王さまにとって、この戦争は現実なんだ。

 だから俺は勝利を捧げる。

 魔王さまをがっかりさせないように。

 魔王さまの領土を他のプレイヤーたちに奪われることのないように。

 魔王さまの現実を幸せで満ち溢れさせるためにも。

「勝ちますよ、魔王さま」

「もちろんだよ、お兄ちゃん」

 今回ばかりは魔王さまも俺の左腕だっこをされていない。

 本気で戦うつもりだ。

 

「はい。それでは魔王軍と人間軍の初イベント。領土戦争を開催いたします! 司会はわたくしDJシャーミアが仕切らせていただきます。この中継はカメラを通してLO全域に放送されていますので、みなさん頑張ってくださいね~♪」

 両軍の間で盛り上がっている狐尻尾のお姉さん。

 髪も瞳も狐の黄金色、まさしく狐お姉さん。

 胸のサイズも立派です。

 名前はシャーミア。

 LO開発スタッフの一員であるらしい。

 LO内ストリーミング番組を担当している。

 DJ司会役としてかなりの人気を誇っているテレビお姉さん的存在だが、やはりここにもおいでなすった。

「魔王軍と人間軍の数は同数二千! 人間達は純粋戦士職、高レベルプレイヤーばかりが集まっていますが、魔王軍は戦士職、回復職、魔法職とバランスの取れた陣営になっています! 人間軍の一部には勇者アイテムが与えられており、わずか十人の勇者がアイテムブーストによるステータスアップが見込まれます。魔王軍としてはこの十人の勇者を撃退することが勝利の鍵となるでしょうっ!」

「うおおおおーっ!」

「俺はやるぜっ!」

「巨乳派としてロリコン共を排除してみせるっ!」

 勇者担当のプレイヤーが盛り上がる。

 あいつらはロリコン否定派、巨乳信奉者らしい。

 なかなか手強い敵になりそうだ。

 そして我らが魔王軍は、

「ふざけんなーっ!」

「魔王さまには指一本触れさせるもんかーっ!」

「ロリコンのつるぺた萌えパワー舐めんなっ!」

「ちっぱいブラボーっ!」

 と、ロリコンソウルを萌え上がらせていた。

「……とまあ、魔王軍と人間軍の争いは、微乳派と巨乳派の争いにシフトチェンジされているわけですね。ロリコンVS巨乳マニア。果たしてどちらが勝つのでしょう!? ……どちらが勝ってもロクなことにならない気がするのはわたくしだけですか?」

 ……ああ、シャーミアさんがドン引きしていらっしゃる。

 無理もない。

 ここまで濃い変態フィールドに駆り出されたのだから、そりゃあドン引きしたくもなる。

 しかもそれを中継しなければならないのだから、気は重くなる一方だろう。

 カメラ担当者もなんかすごく哀れなオーラが漂っているし。

 

「なお、今回は敵プレイヤーを倒す度にカウントが行われ、勝利した側のMVPには賞品が贈られます! 人間軍にはステータスアップアイテムを、そして魔王軍には……ええと、『魔王さまを五分間だけハグ出来る』……?」

 魔王軍から予め渡されていたカンペを見ながら、シャーミアさんは首を傾げている。

 これが本当に賞品になるのだろうか、という疑問だろう。

 何の実利もない、アイテムとしての形もないものなのだから、その疑念は当然と言える。

 しかし、

 

「「「「「うおおおおおおおおーーっ!!!!!!」」」」」

「ひいっ!?」

 盛り上がり最高潮に達した魔王軍の雄叫びに怯えるシャーミアさん。

「魔王さまのためにーっ!」

「ロリハグのためにーっ!」

「ついでにちっぱいなでさすりてーっ!」

「ハグはおれのもんだーっ!」

 そこにいたのは魔王軍という名のロリコン……いや、ケダモノの集まりだった。

 魔王さまのカリスマすげえ、と言うべきなのか。

 それともロリコンのエネルギーぱない、と言うべきなのか。

 実に悩みどころだった。

 そしてハグされる魔王さまは……

「き、聞いてないよーっ!」

 魔王さま、初耳らしい。

 ということはアルトリウス女史かナギの独断だろう。

「まあまあ、MVPにはそれぐらいのご褒美は必要ですよ」

 とりあえず慰めておく。

 そこまで目くじらを立てるほどのことでもないし。

 ハグぐらいは大目に見てやって欲しい。

「じゃあお兄ちゃんがMVPとって! お兄ちゃんがボクをハグして!」

「無理ですよ。俺は魔王さまの護衛ですし」

「あーっ! そういえばそうだったーっ!」

「諦めてください」

「うーっ!」

 むくれる魔王さまだった。

 戦いの前に機嫌を損ねてしまったけれど、まあ仕方がない。

 こればっかりは俺にどうにか出来る問題じゃないし。

 

「……えー、熱狂する魔王軍でした。この熱き狂騒にどうか人間軍も負けないでもらいたいですね。……個人的に」

 やや怯えてしまったシャーミアさんは少し公平性に欠けることを言ったが、まあ気持ちは理解できるので責めるのも酷だ。

 

「それでは本日のイベント、ティアーズ砦攻防戦開始ですっ!」

 シャーミアさんの掛け声と共にティアーズ砦攻防戦が始まった。

 

「うおおお! 魔王さまのために!」

「ロリの為に!」

「ハグの為にっ!」

「巨乳ファンの矜持をここに示せえっ!」

「ゆれるおっぱいこそ正義っ!」

「ぱふぱふこそ天国っ!」

「敵は本能砦にありっ!」

「……寺じゃねえんだから」

 なんかもう、掛け声が終わってる。

 終わり過ぎてる。

 さすがゲーム戦争。

 今回は指揮官がいないので、各自で自由に攻めることになっている。

 本物の戦争のように、指揮官が自由に采配を振るえば戦らしくなるのだろうが、さすがにゲームでそんな上下関係を作り上げるのはどうかと思うので、各自自由に、というのが今回の方針だ。

 それに指示に従っているだけではMVPは狙えない。

 とにかくひとりでも多くの敵、つまり巨乳派を倒せ、というのが魔王軍のモチベーションなのだ。

 魔王さまのハグの為に。

 

「はーっははははははっ! 死ね死ねーっ!」

 そして暴れ回るナギナギ将軍。

 最強キャラを迎え撃つのはもちろん勇者タイプ。

「ふん。久し振りだな、ナギ」

 勇者は不敵に笑う。

「ええと、誰だっけ?」

「っ!」

 がくっと肩を落とす勇者。

「ガレストだっ! お前とこの前パーティー組んだばかりだろうがっ! リジェネン島攻略の時にっ!」

「ああ、あの時の。魔王軍に入る前のことは割とどうでもいいからなぁ」

 哀れ、すっかり忘れられていた臨時パーティーメンバー・ガレストはちょっとだけ泣きそうになっていた。

「まさかお前が魔王軍所属になるとはな。そこまで小さい胸がいいのかっ!」

「お前こそ巨乳がそこまで魅力的か?」

「当然だ! ボリュームこそが正義っ! 顔にはさんでもみしだくのが至上の幸せっ!」

「敵だな」

「もちろん敵だ」

 ここにもロリコンと巨乳派の譲れない戦いが生まれていた。

「覚悟っ!」

「こっちの台詞だっ!」

 そして二人はぶつかりあう。

 普通ならナギが勝つだろうが、今回は勇者のブーストアイテムを使用しているので、少しばかり苦戦するのかもしれない。

 

「まったく。正面から戦おうとするなんてバカよね~」

「うわあっ!」

「アルちゃんっ!?」

 いつの間にかアルトリウス女史が敵を抱えてやってきた。

 どうやら敵は勇者タイプらしいのだが、ほとんどノーダメージで捕らえているあたり、実に恐ろしい。

「ど、どうやって捕まえたの!?」

「う、うう……」

 引き摺られた勇者二号はそのまま床に放り出された。

 そしてアルトリウス女史にぐりぐりふみふみされている。

「あ……うぐ……」

 ううん。

 なんか微妙に恍惚とした表情になっているのは気のせいだろうか?

 Mさんなのだろうか?

「うふふ。魔王さま。何も正面から戦う必要はないのですよ。こういうキープレイヤーを無力化するにはお注射一本でオッケーなのです♪」

 そう言いながらアルトリウス女史は白衣の胸元から(しかも谷間!)から注射器を取り出した。

「麻痺毒ですよ。背後から近づいてちくっとするのもよし。投げつけて攻撃するのもよし。ドクターというサブ職業は、これでも結構使い勝手がいいんですよ~」

「………………」

「………………」

 注射器の中身をどぴゅっとさせながら微笑むアルトリウス女史はとても恐ろしかった。

 くわばらくわばら。

「それにしても、無力化するだけならわざわざ連れてくる必要はなかったじゃないか。どうしてこんなことをしたんだ?」

「え? いや、せっかくだから拷問してみようと思って♪」

「………………」

「………………」

 爽やかな笑顔でえげつないことを言われた。

 拷問って……

「うふふふふ。ほらほら、もっと泣き叫びなさいよ」

 ぐりぐりふみふみ。

 げしいっ!

 教育上、非常によろしくない光景が繰り広げられている。

 勇者二号のアバターからは、HPが確実に削られている。

 放っておけば自滅するのは明白だが、しかし勇者アイテムの加護により、少しずつ回復もしていた。

 どうやら自動回復機能もあるようだ。

 ただし、状態異常回復についてはアルトリウス女史が新たに薬を打ち込んでいるので効果が無いらしい。

「ひ、ひと思いに、殺せ……」

 LOのアバターはいくらダメージを受けても痛覚までは刺激されない。

 しかしこの状況ならば屈辱までは無効化されない。

 気持ちは大変よく分かる。

「そーんなに巨乳がいいなら、触らせてあげようか?」

「……マジ?」

 アメ戦法に切り替えましたよ、鬼の副長。

 勇者二号がちょっぴり期待に満ちた視線を鬼に向ける。

 なかなか見事なサイズなのだが、しかし……

「ふぐぐぐっ! むぐぐぐっ!」

 窒息するほど顔面に押しつけてしまっているので、やはり拷問には変わりない。

 HP減っているし。

 あ、でもちょっと羨ましいかも。

 死んで悔い無し、みたいな。

 

「お兄ちゃん。何か不埒なこと考えなかった?」

「何も考えてません」

 魔王さま、鋭すぎです。

 でも俺って本当はおっきなおっぱいが好きなんだから、ちょっとぐらい揺らいだところでそこまで責めないで欲しいんですけどね。

 

 それからもアルトリウス女史の拷問時間は続いた。

 HPを削るだけではない。

 麻痺毒に始まり、笑い毒、痺れ毒などなど、ドクターの特技を活かして作り上げた様々な毒を投与していた。

「うふふふふ~。実戦で使うのって初めてだから、効果時間とか、どんな感じなのか試してみたかったのよね~。生け捕りって素晴らしいわぁ~」

「うっ……うぅ……」

 しまいには泣きだしてしまった。

 無理もない。

 レアアイテムをゲットしてせっかく勇者キャラとして魔王軍を討伐にやってきたのに、まさかドSな副長さまにこんな仕打ちをされるとは思ってもいなかっただろう。

 あんまりと言えばあんまりな仕打ちだ。

 

「泣かぬなら、泣くまでいたぶれ、ホトトギス」

「ひいいいいいっ!」

 泣き叫ぶ勇者二号。

「うふふふふふ♪」

 恍惚な表情でうっとりさんなアルトリウス女史。

 

「怖いよう……アルちゃん怖いよう……」

「同感です。女は怖い……」

 そんな副長さまを、俺と魔王さまはががたぶるぶる震えながら見守るのだった。

 手出しなんてとても出来ません。

 む、無理、絶対無理!

 

 さて、その頃外はどうなっているかというと……

 

 ナギとガレストがまだ戦っていた。

 驚いたことに、ガレスト優勢だった。

 HPの減り具合がナギの方が大きい。

 どうやら予想以上の強敵のようだ。

 

「な、なかなかやるじゃねえか……」

 ナギが九頭蛇を構えながらガレストを讃える。

 接戦を演じられるのが嬉しいらしい。

 さすがはバトルジャンキー。

「あったりまえだ。今回はこの戦争のために敢えて転生システムは使わなかったからな。レベルカンストまで頑張って引き上げて、さらには勇者のブーストアイテムまで使ってるんだ。これもそれも全部てめえに勝つ為なんだぜ」

 どうやら転生システムを使わなかったのは今回の為の戦略らしい。

 確かに一時的にステータスが下がってしまう転生システムは、使いどころが難しい。

 ほとんどのプレイヤーがそれでも流れに乗って転生システムを使ったというのに、ガレストは我慢し続けたらしい。

 それもナギに対する執着だろうか。

 バトルアックスを構えたガレストは、そのままナギへと襲いかかる。

「今日ばかりは勝たせてもらうぜっ!」

「ちっ!」

 ステータスで圧倒しているガレストの攻撃は、今のナギには捌くことも防ぐことも厳しい。

 ならば残る手段はひとつだけ。

「まさかこんな序盤で使うことになるとはな……」

 ナギは忌々しげに舌打ちしてから、コマンドを発動させた。

「巨乳こそが正義なんじゃあああああっ!」

 気合の入れ方が微妙なんだが、まあそこは突っ込まないでおこう。

 魔王軍全体が微妙だというツッコミを返されそうだし。

「ふん。ロリのよさが分からぬ愚か者め! 今こそロリコンが持つ真の力を見せてくれるわっ! ふはははははっ!」

 ふははははは! と完全に悪役高笑いを続けながら、そして……

「『無敵時間ロリズムタイム』発動!」

 切り札たる『無敵時間ロリズムタイム』発動。

 ステータスで圧倒されていてもそれなりに拮抗していたのは、もちろんナギの技倆そのものが優れていたからだ。

 ステータスそのものに差がなくなれば、戦況は一気に逆転する。

「なにいっ! 貴様、そんな隠しダネを持っていたのか!?」

「ふはははは! ロリこそ最強! ロリ萌えで得られるパワーこそ最強無敵であることを知らしめてくれるわーっ! ふはははははははっ!」

無敵時間ロリズムタイム』でパワーアップしたステータスは、ガレストに迫るものだった。

 そしてステータスの差さえ無くなれば技倆で優れるナギの独壇場だ。

「ふははははは! ちっぱい万歳! 真萌流奥義・千殺萌撃!」

「ぎゃああああああっ!!」

 繰り出される刺突連撃。

 目にも止まらぬ、まるで花びらのような煌きのエフェクトがガレストの前に現れた。

 散っていく赤いカケラはガレストのアバターの欠片、つまりはダメージだ。

 削られていくHPは、すぐに赤色ゲージへと突入した。

「とどめだーっ! 真萌流単発技・閃光華!」

 一点に集中した魔力を刺突技に込めて食らわせる。

 システムに規定された必殺技ならば、使ったあとに一秒弱の技後硬直を強いられるが、真萌流はナギの編み出した自己流必殺技なので、それらが存在しない。

 タイムラグなしに使い放題だ。

 これがナギが無敵である理由のひとつでもある。

「ぐ……ああああああーーっ!」

 ガレストのHPはすべて削られた。

 勇者アイテムによる自動回復も、回復すべきHPがゼロになっては効果を発揮しない。

 アバターを四散させる前に、ガレストが叫ぶ。

「ロ、ロリコン恐るべしーーっ!」

 負け惜しみなのか、ほんの少しだけ羨ましかったのか。

 ガレストは涙とともに四散した。

「ふっ。正義は勝つっ! ふはーっはっはっはっはっはっ!」

 高笑いするナギ。勇者を一名撃破したのだから、萌組局長としては面目躍如な戦いぶりだった。

 局長と副長はそれぞれで勇者を撃破。

 残りの面々もそれぞれ頑張っている。

 やはり萌組の持つ『無敵時間ロリズムタイム』の効力が勝敗を大きく左右しているらしい。

 一度使用すると十分間は使えなくなる禁じ手であり、使用後はステータス十パーセントダウンなど、リスクも高いコマンドなのだが、それでも萌組として、ロリコンパワーを発揮させるために魔王軍はこれを多用している。

 おかげで戦況は魔王軍有利だ。

 さすがにロリコンクエストのときとは違い、ナギもアルトリウスも必要以上に出張ったりはしない。

 たまには部下たちにもチャンスを与えようという上司の計らいだ。

 魔王さま五分だけハグぐらいなら許容範囲らしい。

 

 しかしそこはさすがの巨乳マニア……じゃなくて人間軍。

 やはり最後のプライドぐらいは残っているらしい。

「いたぞーっ!」

「板魔王だっ!」

「殺せーっ!」

 ナギやあるとリウスの攻撃から生き残った勇者たちが砦へと突入してくる。

 萌組のロリコンパワーを振り切っての突撃だ。

 さすがは勇者アバター。

 最後の根性を見せてくれたようだ。

 だが最後の暴言だけは許せん。

 しかしそれ以上に許せなかったのは、魔王さまだったようだ。

「誰が板魔王だーっ!」

 魔王さま、激怒してます。

 さすがに板はないですよね、本当に。

 飛行魔法で突撃してくる勇者たち。

 しかしそうはさせない。

 俺は女王様の鞭を取り出してから応戦しようとする。

 魔王さまの護衛たるこの俺が板……じゃなくてロリ魔王さまを守ってみせるっ!

 というかせっかくのイベントなんだからちょっとぐらいは見せ場が欲しい。

 ちょびっとぐらいは活躍させて欲しい。

 楽しませて欲しい。

「お兄ちゃんは下がってて」

「へ!?」

 魔王さまとは思えない、どす黒い声だった。

 幼女がキレるとこんな声になるのか、と実感してしまった。

 びくーん、となって下がる俺。

 ここで逆らうほど馬鹿じゃない。

 たとえ出番を奪われようとも。

 見せ場を根こそぎ持って行かれようとも。

「ボクは板じゃないもん板じゃないもん板じゃないもん……」

 板じゃないと繰り返しながらヒビキを展開。

 弓をつがえて勇者たちの中心点を狙う。

 きゅいいいいいんっ、という凶悪な効果音を鳴らしながら、魔力が先端に集中する。

 あのパワーだけでこの砦が吹っ飛んでしまうだろう。

 それほどまでに凶悪な魔力収束が行われている。

 その狙いは砦ではなく、もちろん勇者たち。

 魔王さまの天敵であり、そして板呼ばわりした無礼者たち。

 彼らに今、制裁が下される。

「ボクは……ちっぱいだーーっ!!」

 

 ちゅどーんっ!

 

「うぎゃあああっ!?」

「一撃かよっ!?」

「そんなのアリかよおおおおおーー!?」

 瞬殺される勇者たち。

 空中で四散するアバター。

 やはり魔王さまは凶悪だ。

 弓に威力を乗せた砲撃魔法を使わせれば絶対無敵の凶悪ロリ魔王さまだ。

 板呼ばわりした報いを受けた勇者たちは消滅。

 残ったのは涙目の魔王さま。

「うわ~ん! お兄ちゃ~ん!」

 俺に抱きついてくる魔王さま。

 悲しいから、傷ついたから慰めて、と言いたいのはよく分かるのだが、そういうのはせめて俺に守らせてくれてからやってもらいたかった。

 それでも魔王さまを抱きとめてよしよししている俺は忠誠心厚い臣下の鏡だと思う。

 

 外からは実況中継をしていたシャーミアさんが絶句。

 カメラ担当も硬直。

 魔王さまに瞬殺された勇者たちが四散した映像をしっかり収めているはずだが、しかし本人たちの反応まではそうもいかないようだ。

「ま、魔王さま登場っ!? つ、強い! 凶悪! そして平たい!」

 仕事を思い出したシャーミアさんが言葉を紡ぐ。

 余計なことまで言ってるけどね。

「平たいゆーなーっ!」

 聞こえていた魔王さまが怒って再びヒビキをつがえる。

 今度は殺さない程度に威力を抑えて、なおかつ見た目の破壊力は抜群に設定した砲撃がシャーミアさんたちを襲った。

「きゃああああっ!」

「ひぎゃああああっ!」

 ちゅどーん。

 致死ダメージではないが、黒すすだらけにされたシャーミアさんたちだった。

 魔王さまに板と平たいは禁句です。

 ちっぱいならオッケーらしいけど。

 俺にはよく分からないが、何らかのこだわりがあるらしい。

 ほんの少しの差が大事とか、そういうのかな。

 

 

 そんな感じに魔王軍がうまく流れを制して、今回のティアーズ砦攻防戦は、俺たちの勝利で幕を閉じた。

「うう……」

「畜生……」

「ロリコン恐るべし。まさか巨乳のボリューム萌えパワーがあんな貧弱な微乳萌え共に敗北してしまうとは……」

 悔しそうに呻く生き残り人間軍たち。

 復活したプレイヤーもいるが、参加権は失っているのでそのまま傍観することしかできない。

 ロリコンの天敵、巨乳派人間軍を撃破した魔王軍はそれはもう最高潮の盛り上がりを見せてくれていた。

「魔王さまばんざーいっ!」

「俺たちやったぜ! やっぱりちっぱいが最高なんだっ!」

「ロリはかーつっ!」

「魔王さま~!」

「巨乳撲滅運動やったれーっ!」

「あれ? でもそうなると副長はどうなるんだ?」

「げ。あの人はまあ、対象外ってことで」

「そうだな。そうした方がいいな。LO世界の平和のためにも」

「そうそう。魔王軍の平穏のためにも」

 びくびくどきどき。

 ……巨乳アバターであるアルトリウス女史に対しては不可触アンタッチャブルを貫くことに決定したらしい。

 賢明な判断だ。

 むしろ懸命に逸らしたとも言うけど。

 

 そして両軍の中心に立つのは我らが魔王さま。

 魔法少女コスチュームで生足ちらり。

 気のせいか、巨乳派である人間軍のプレイヤーの視線すら足に向いている。

 おっぱいと足は別問題なのか?

「まあ綺麗な足ではあるわよね~。すべすべふにふにだし♪」

 アルトリウス女史のセクハラ発言もいつものことだ。

「くそ~。俺は尻しか触らせてもらえないからな~」

 本気で悔しそうに唸るな、ナギ。

 つーか魔王さまの生足なんて俺だって触ったことないのに。

 多分、嫌とは言われないだろうけど、それでもちょっと気が引ける。

 触りたくないと言ったら嘘になるけど。

 

 側近がろくでもないことを考える中でも、魔王さまはきちんと仕事を果たしていた。

「みんな~、砦を守ってくれてありがとー。ボクとっても嬉しいよ!」

 ロリアイドルとして可愛らしく振舞っている。

 魔王さまは可愛らしい。

 それだけで十分だ。

「魔王さまーっ!」

「そのお言葉を聞けただけで俺たち幸せっす!」

「ついでに言うなら生足をもう少し近くで拝ませてくれたらもっと幸せっすっ!」

 盛り上がる萌組魔王軍。

 発言はともかくとして、勝利したのだから喜ぶのは正しい反応だ。

「さてさて。じゃあ今回のMVPを発表するよ~♪」

 魔王さま、華麗にスルー。

 生足を近くでは見せてくれないらしい。

 ちょっとだけしょんぼりな魔王軍。

「撃墜スコア三百五十! 敵の参加数が二千人だからこの数はすごいっ!」

 魔王さまは本気で感心しているようだ。

 まあナギとアルトリウス女史が本気になれば四百ぐらいは刈り取ったかもしれないが、今回だけは他のプレイヤーの手柄だ。

 さて、その栄誉を手にするのは一体誰なのか?

「ティアーズ砦攻防戦イベントのMVPは~、萌組六番隊組長、フェイン!」

 魔王さまが名前を呼んだ。

「うおおおおおお! 俺はやったぜぇぇぇぇっ!」

 六番隊組長フェインが壇上に上がってくる。

 もう辛抱たまらないというように魔王さまをハグした。

「ひゃああああああっ!?」

「魔王さま魔王さま魔王さま~~~~!」

 ぎゅーっと抱きしめてすりすり。

 マッチョなオヤジアバターに抱きつかれた魔王さまは悲鳴を上げた。

「おれは幸せっすーっ! 一生懸命敵を撃破した甲斐があったっす!」

「ふあああ! それはいいけど急に抱きついてこないでぇぇぇ!」

「五分! 五分だけっすっ!」

「ふみゃあああああ!」

 言葉通り、五分間きっちり抱きつき続けるフェインだった。

 フェインは漢だったので、抱きつく以上のことはしなかった。

 たとえばどさくさに紛れて生足を触ったり、尻をなでたり。

 流石にそんなことをしていればアルトリウス女史かナギにぶっ殺されてただろうけど。

 

 というわけで正当な勝者である萌組六番隊組長フェインは魔王さまに五分間だけハグという栄誉を手にするのだった。

 ちなみに五分を一秒でもオーバーした段階で、魔王さまにぶっ飛ばされていた。

「時間すぎたから離れてよーっ!」

 アッパーカットが決まって五メートルほど上に飛ばされるフェイン。

 筋力も1000なので、それぐらいは朝飯前なのだ。

「ぐはっ! 魔王さまのぱんち、これもまた、イイ……」

 HP喪失でアバター四散。

 せっかくのMVPなのに、最後だけが締まらなかった。

 まあ、本人幸せそうだし、殴られたのに羨ましそうな魔王軍の面々もいるし、これでいいのかな。

 ……いいということにしておこう。

 

 こうして、魔王軍と人間軍の初の戦争イベント、ティアーズ砦攻防戦は終了するのだった。

 

 

第二十八話 ストーカーってゆーのはね……

 

 ティアーズ砦攻防戦も終了して、とりあえず平和が訪れた魔王城である。

 

 俺は魔王さまのためにせっせとガトーショコラをつくっている。

 泡立て器でしゃこしゃこ。

 ココアを入れてチョコ入れて、型に流し込んでレンジでちん。

 ほとんどリアルで作るのと変わらない手間である。

 まあそこが楽しいといえば楽しいんだけど。

 しかも今回使用しているチョコレートは、ナギがカカオードというチョコレートダンジョンから調達してきた最高級品だ。

 香りが高くほんのり苦く、そして上品な甘みがある。

 そのまま食べても美味しいし、温めて飲んでも美味しい。

 だがお菓子作りに利用してもまた美味しい。

 魔王さまのリクエストでチョコレート菓子をせっせと作っているのだった。

「お兄ちゃ~ん。まだ~?」

 魔王さま、スイーツ大好物なので待ちきれないらしい。

 台所までやってきて、わくわくした目でまだかまだかと訴えている。

「まだです。いまレンジに入れたばかりなんで」

「うー。あと十五分が待ち遠しい~」

「待った分だけ美味しくなりますから」

「ストレスは最高のスパイスなんだね~」

「………………」

 たった十五分がストレスなのか。

 気が短すぎますよ魔王さま。

 それと世間一般で使われる最高のスパイスは『愛情』なんですから、せめてそっちを引用してもらいたかった。

 愛情、もちろん込めてます。

 だって魔王さまのスイーツだし。

 執事としては当然でしょう。

 

 十五分後。

 ちーん、という音と共にガトーショコラ完成。

 丸型に流し込まれたたねは、いまやふっくらとしてとても美味しそうだった。

「お兄ちゃん! はやく! はやく切って!」

 そばで見ていた魔王さまはわくわくな表情だ。

 早く食べたくてたまらないらしい。

「はいはい、ちょっと待ってくださいね~」

 ケーキナイフを入れてから、食べやすい大きさに切ってやる。

「いただきま~す」

「あ、待ってください。今お茶を用意しますから」

「待てないもん。はぐっ!」

 待ちきれない魔王さまはさっそくひと口食べてしまった。

 我慢というものを知らないらしい。

 まあ一国の主なんて多少わがままなぐらいがちょうどいいから、これはこれで問題なしだけどな。

 可愛いし。

 そこ重要。

「おいしい! おいしいよお兄ちゃん!」

「それはよかったです」

 そこまで喜んでもらえると作った甲斐があるというものだ。

 リアルで実際に苦労した甲斐がある。

 ちなみにリアルで作ったガトーショコラは匂いを嗅ぎ付けて乗り込んできた学生寮の連中にほとんど奪われてしまった。

 LOで美味しいものを作る為に、ひいては魔王さまに喜んでもらうためにリアルでお菓子作りを頑張っている俺は、なぜか周囲から男のくせにお菓子作りが得意な奴、という認識になっている。

 匂いがすればすぐさま嗅ぎつけてくるのだ。

 まったく。

 てめえらにはもったいねえよ、と言いたいね。

 まあ俺ひとりじゃ食いきれないから別にいいんだけどさ。

 魔王さまがリアルで生活できれば喜んで作ってあげるところなんだけどな。

 まあ仕方がない。

 魔王さまはVRだけの存在なのだから。

 お茶を淹れてから俺もくつろぐ。

 ひと切れ食べると、ふんわりとした生地と、ほんのりとした苦味、そして甘さが口の中に広がる。

「うん。いい出来だ」

 出来がいいと嬉しくなる。

「うん。お兄ちゃんはボクの専属パティシエだもんね!」

「そうですね。否定はしませんよ」

 なんせ今となっては魔王さまのために頑張ってレシピを増やしているのだから。

 専属パティシエ、望むところである。

 最近はあまりレベリングには勤しまず、こうやって魔王さまとのんびり過ごすことが多い。

 生産や商売を楽しんでいるプレイヤーもいることだし、これもVRゲームの過ごし方のひとつだろう。

 実際、魔王さまと一緒にいると癒されるし。

 こんな時間も悪くない。

 

「あー、美味しそうなもの食べてる!」

「オレにも分けてくれ~」

 悪くない時間、終了。

 アルトリウス女史とナギが黄泉の道標ダンジョンから戻ってきていた。

 二人のレベルはすでに五十を超えている。

 どんだけ時間を費やしてるんだよ!

 と突っ込みたくなるが、実際はダンジョンレベルをギリギリまで引き上げてリスク承知でレベリングを行っているらしい。

 一歩間違えばデスペナルティ連続だというのによくやる。

 まあそれをギリギリでかわせる技量があるからこそ、この二人はトッププレイヤーとして名を連ねているのだろうけれど。

「いただき~」

「あら、美味しい」

「……ボクとお兄ちゃんの分なのに」

 ひょいひょいとふた切れのガトーショコラを奪われた魔王さまはぷっくりと頬を膨らませるが、しかし材料のチョコをゲットしてきたのはナギなので、文句も言いづらい。

 アルトリウス女史に至っては怖いから文句を言えないだけだったりするけど。

「今日は凄かったぞ。なんと、最下層でドラゴンが出てきた。しかも八つの頭を持つ龍だ」

「ヤマタノオロチのドラゴンヴァージョン?」

「みたいなかんじだったな。手ごわかった。一度は全滅しかけたぞ」

 全滅といってもアルトリウスとの二人パーティーなんだけど。

 まあこの二人のことだから撃破してきたのだろう。

「もちろん皆殺し~、だけどね♪」

 やっぱり。

「すごいね。今日はダンジョンレベル八で挑戦したんでしょ? そのレベルでポップする最下層ボスは平均レベル五十五、六人パーティーで倒せるレベルっていうのが基本仕様だったはずなのに」

 魔王さまが感心している。

 やはりこの二人はただものではない。

「うふふふふ。あんな頭数が多いだけのドラゴンなんてメッタ打ちのいい対象よ~」

「つーか最初はアルトリウスの奴が麻痺毒注射器乱発しやがったからな。危うくオレにも当たるところだった。危ねえ女だ」

「ちゃんと計算して投げたわよ。っていうかあれぐらい避けて当然でしょ」

「避けるの前提じゃなくて当てないの前提でやれよっ!」

「あわよくば経験値独り占め、とか考えただけだし」

「黒いなっ!」

 真っ黒だな。

 さすがは鬼の副長。

 というか鬼女だな。

「なにか失礼なこと考えなかった? そこのロリコン執事」

「考えてない。気のせい気のせい。つーかロリコン執事言うな」

 しかも無駄に鋭いし。

 でもロリコン執事は酷い。

 俺は魔王さまに対してそこまでロリコンな気分ではない。

 あくまでも魔王さまが大好きなのであって、まんべんなく可愛らしい幼女を愛するわけではないのだ。

「ん?」

 などということを考えていたら、フレンドコールがかかってきた。

「誰だ?」

 ナギはここにいるし、他にフレンドコールまでしてきてソロプレイヤーの俺に接触してきそうな奴といえば……

「げ……」

 着信表示を見てびくっとなった。

 着信者は『ジュリエッタ』。

 昔よく関わった女性プレイヤーだった。

 しかも……

「………………」

 俺が出ようかどうしようか迷っていると、ナギが不思議そうな視線を向けてきた。

「誰からだ?」

「ジュリエッタ」

「ああ、あのストーカー女か」

 と、彼女の立場を明確に示してくれた。

「ストーカー?」

 魔王さまが首を傾げる。

 どうやらまだその言葉は学習していないらしい。

 しなくてもいいような気もするけど。

「魔王さま、ストーカーというのはですね、ひとりの人間への愛情や執着が強すぎる果てに辿り着く境地であり、いつでもどこでもその相手を見守ることを自身に誓った人のことですよ」

 魔王さまを抱っこしたアルトリウス女史がある意味間違ってはいないものの、やや危険な説明をしてくれていた。

「お兄ちゃんを見守ってくれているの?」

「そうそう。守り神さまみたいな存在なんですよ~」

 アルトリウス女史め。

 完全に面白がってやがる。

 魔王さまも真に受けないでくださいよまったく。

「とにかく出てみたらどうだ? 無視するとあとが怖くないか?」

「う」

 その通りだった。

 通話ボタンを押す。

 

『やっほー。久しぶりね、キョウ』

「ああ。久しぶり。どうしたんだ?」

『どうしたもなにも、試験が終わって久しぶりにログインしたら、キョウの姿が見当たらないんだもん。フレンド検索してみたらなんか魔族の土地にいるみたいだしさ~。まさかとは思うけどロリコン魔王軍に志願しちゃったりしてないでしょうね?』

「う……」

 志願どころか魔王さまの誕生に関わり、魔王さまそのものをロリ美少女にしてしまい、ロリコン魔王軍を結成するのに重要な役割を担ってしまった……とはさすがに言えなかった。

 しかも今やロリ魔王さまの旦那さんという立場なんてことを言ったら、間違いなく殺される。

 がたがたぶるぶる。

『久しぶりに会いたいんだけど、今時間大丈夫?』

「ええと、都合が悪いというか、忙しいというか……」

『まあ気にせず会いにいくけどね。ルクセリアにいるみたいだから、その時にまた詳しい位置情報を検索させてもらうわ。ちょっと待っててね~』

「なっ!? ちょっと待てーっ!」

 待てというのも聞かずにジュリエッタは通話を切ってしまった。俺は頭を抱えた。

 フレンド登録をしているプレイヤー同士は、お互いの位置を検索する機能を使用することができる。

 つまり、その気になれば俺の位置はバレバレなわけで。

 どうやらしばらくログインしていなかったので俺が魔王軍所属であり、なおかつ魔王さまの側近兼執事兼旦那であることまではバレていないらしいけど。

 とにかくヤバい。

 俺としてはもう縁が切れたつもりでいた相手なだけに、ヤバい。

 冷や汗混じりにどうするどうすると考え込む。

 とりあえず魔王城からは出る必要がある。

「魔王さま、すみませんけどちょっと用事が出来たので外出してきま……」

「紹介してくれるよね、もちろん」

 にっこり微笑む魔王さま。

 ロリ笑顔がたまらなく可愛いけど、同時に恐ろしく怖いです。

 逃がしてたまるか、というオーラがビシバシ出ていますよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十九話 傷心の魔王さま

 

 ジュリエッタについて語ろうとするならば、まずは最初のパーティーメンバーということになる。

 俺がLOを初め間もない頃、まだナギと知り合う前によくパーティーを組んでいた女性である。

 女性でありながら執事ジョブを選んでいて、よく一緒に屋敷ダンジョン攻略をしたものだ。

 当時はまだレベルや実力が足りなかったので、二人一組で行動した方が都合が良かったのだ。

 俺はジュリエッタを頼りにしていたし、ジュリエッタの方も俺を頼りにしてくれた。

 それなりに仲のいい友達、というのが俺の中にある認識だった。

 女性プレイヤーということもあってそれなりに気を遣うこともあったが、まあ一緒にいて楽しい仲間だった。

 それが変わり始めたのはいつからだろう。

 いつもは屋敷ダンジョンや通常ダンジョンを攻略するときにのみパーティーを組んでいたのだが、いつの間にか通常のフィールド探索をするときにまで行動を共にしていた。

 俺にそのつもりはなかったのだが、俺がログインすると、いつの間にかそばにやってきて声をかけてくるようになったのだ。

 俺自身もソロとして活動できる実力が身に付いたので、いつでもどこでもついてこようとするジュリエッタの存在は正直疎ましかった。

 しかしそこで正直にそんなことを言えば、まるで俺がそれまで彼女を利用していたかのようになってしまうのが怖くて言えなかった。

 利用していたのはお互い様かもしれないけど、それでもこういう時は男の方が気を遣うべきだろうなどと思ってしまったのだ。

 ナギと知り合ってからは奴と攻略することを理由に断ることも出来た。

 ジュリエッタと組むよりもナギと組むほうが効率が良く、トッププレイヤーのナギが足手まといだと断言すれば、ミドルプレイヤーであるジュリエッタには反論出来なかったのだ。

 俺もその頃はまだミドルプレイヤーだったが、女王様の鞭という強力極まりないレア武装を所持していたので、足手まとい扱いされることはなかった。

 ここ二ヶ月ほどはリアルの方で忙しかったのか、まったく連絡を取ってこなかったので正直ほっとしていたのだが、まさかこのタイミングでやってくるとは。

 正直、魔王さまとジュリエッタを会わせたくはないのだが。

「とまあ、そんな感じでちょっと前までキョウのことをストーカーしていたんですよ、ジュリエッタは」

 とナギが簡潔にまとめる。

「へえ~。そこまでモテそうには見えないのに不思議なこともあるのね」

 ……アルトリウス女史の物言いも大概だが、まあ確かにリアルでもVRでも積極的にモテた経験はないので否定は出来ない。

「お兄ちゃんは格好いいもん!」

 魔王さまが頬をふくらませて俺に抱きついてくる。

 その仕草と行動に癒されるが、でもロリだしなぁ。

 これをモテ勘定に入れていいのかどうかはちょっと微妙かも。

「まあ昔から変なのにモテるよな。実際、ジュリエッタにはリアルの連絡先まで訊かれたんだろう?」

「教えてないけどな」

「それが賢明だ。あの手のストーカーにリアルまで割られたらもうゲームオーバー確実だぞ」

「う」

 ぶるぶる。

 想像しただけで恐ろしい。

 リアルのジュリエッタがどんな人間化は知らないけど、ストーカーと化すような女性とリアルにおいてまで関わりたくない。

「でも今からやってくるんだろう?」

「ああ」

 フレンド検索機能を使ってみると、どうやらもうルクセリア入りはしているらしい。

 この魔王城めがけて一直線に向かってきている。

「で、やっぱり逃がしてはくれないんですか?」

 抱きついている魔王さまに問いかける。

 むしろ懇願に近い。

「ダメ。だってその人お兄ちゃんのことが好きなんでしょ? ストーカーするぐらいに好きなんでしょ?」

「まあ、そうかもしれませんね」

 はっきりとそう言われたわけではないが、さすがにそこまでされて分からないほど俺も鈍くはない。

「だったら奥さんとして宣戦布告しないとねっ!」

「ははは……」

 俺が『旦那』なら魔王さまは『奥さん』なわけか。

 幼女の奥さんかぁ。

 うーん。

 ジュリエッタに見られたら確実に変態呼ばわりされそうだなぁ。

 結局、魔王さまとジュリエッタが鉢合わせるのを止めることはできなかった。

 

 そして、三十分後。

「………………」

「………………」

 魔王さまとジュリエッタが謁見の間で睨み合っている。

 幼女と少女が睨み合っている。

 魔王さまの身長が足りないので、やや威圧感に欠けるが、それでも精一杯ジュリエッタを見上げて睨みつけている。

 頬を膨らませているのがまた可愛らしい。

 後ろからぎゅーっと抱きしめたくなってしまうが、今はそうもいかないし、そんな場合でもない。

 というか何故こんなことになってしまったんだろう?

「久しぶりにパーティーを組んで屋敷ダンジョンを攻略しようと思ったのに、まさかこんなことになっているとはね……」

 ジュリエッタが魔王様を見下ろしながらこめかみを押さえている。

 いろいろな罵倒を我慢しているらしい。

 おそらくは『この変態!』『ロリコン野郎!』『ペドフィリア!』『幼女趣味だなんて最低!』という類の言葉だろう。

「しかもナギや撲殺ヒーラーまで魔王軍? しかも幹部? 頭痛がしてきたわ」

 俺と、ナギと、そしてアルトリウスを見回してから言う。

 ちゃっかり無視されている魔王さまがさらにむくれる。

「ちょっと! ボクを無視しないでよね! とにかくお兄ちゃんはボクのものなんだから、よそから来た人間なんかに貸してあげないもんねっ! 諦めて帰ったら?」

 俺、魔王さまのものらしいです。

 ものって、所有物?

「ねえ、キョウ。こんなぺったんこなんて放っておいてまた私と一緒に遊ばない?」

「悪いけど、今は魔王さまの執事なんでね。その誘いには乗れないな」

「ちょっとぐらいいいじゃない」

「ぺったんこ言うなーっ!」

「あーら。ぺったんこじゃなーい」

 ジュリエッタが魔王さまのちっぱいをなでさする。

 悲しいぐらいにぺったんこだった。

「うるさーい! みんなそこがいいって言うもんねー!」

「あら、だったらいいじゃない。ロリコン共にもてはやされてればいいのよ。私はとにかくキョウさえ戻ってくればいいんだから。キョウはまさかロリコンじゃないわよね?」

 ちらり、と厳しい視線を向けられる。

 ここで俺はちっぱいが好きなんだと断言しようものなら軽蔑の眼差し&セリフの雨あられだろう。

「ロリコンではないが、ジュリエッタと一緒に行動するつもりはない」

「な、なんでよ」

「ロリコンではないが魔王さまだけは別だからな。可愛いし。しばらくは執事&旦那プレイを楽しみたい」

 魔王さまといるのは理屈抜きで楽しいのだ。

 だからこそ今はその時間が一秒でも長く続くよう願っている。

 俺のLOプレイ時間の大半を魔王さまに捧げたいのだ。

「む。じゃあリアル! リアルで遊びましょう! それならいいでしょ?」

「意味が分からん。どうしてゲーム内で遊んだだけの知り合いとリアルで会わなければならないんだ」

「それは私がキョウを好きだからよ!」

「………………」

 いきなり告白されてしまった。

「断るにしても本当の私を知らないままっていうのは納得がいかないわ。それに偽物に気兼ねして断られるのも気に入らない」

「偽物?」

「だって、そこのロリ魔王ってNPCなんでしょ? つまりただのAI、プログラムじゃない。そんなものに本気でのめり込むなんてキチガイなんじゃないの?」

「キチガイって、そこまで言うか……」

「まあゲーム内だけのプレイだっていうんなら大目に見るけどね。リアル世界でのお付き合いまで諦めるつもりはないんだから」

「いや、そもそも俺はジュリエッタをそういう対象として考えたことないし」

「だったらこれから考えてよ! チャンスぐらいくれたっていいじゃない」

「えー、なんか面倒くさそう」

「なんですってーっ!」

 憤慨するジュリエッタ。

 ヒステリった女ほど厄介なものはないので、どうにか静まって欲しいのだが、しかし女性経験がほとんどない俺にはどうやったら収まってくれるのか分からない。

「せっかく初めて会った時にいいなあって思って、それから律儀に追い掛け回してきたのに……」

 本気で悔しそうに歯ぎしりするジュリエッタ。

 しかし、

「いや、それただのストーカーだし」

 ナギが容赦の欠片もないツッコミを入れてくれた。

 まあ同感だけど。

「ただの迷惑行為を律儀って言い切るあたり、いい根性してるわ~。ま、被害者がキョウならどうでもいいんだけど」

 アルトリウス女史は少し黙ってくれないかなー。

「………………」

 魔王さまだけが黙り込んでいる。

 意外だ。

 こういうときに癇癪を起こすのが魔王さまだと思っていたのに。

 なぜか俯いている。

 一体どうしたのだろう。

「魔王さま?」

 心配になって声をかけてみるが、

「………………」

 俯いたまま答えてくれない。

「まあ、あれだ。とにかくジュリエッタと付き合うつもりはないから。大人しく帰ってくれないかなー」

「誰が帰るもんですか。付き合ってくれるまでストーカー行為を続けてやるわ」

「……今、明確にストーカーって言ったよな?」

「あ」

「大体、その手の付きまとい行為は俺がGMにハラスメント報告すれば強制的にアカウント取り消しになるんじゃないか?」

「あ、それは困る!」

「だったら大人しく諦めな」

「それは嫌!」

「………………」

 話が進まない。

 俺としては大人しく帰ってもらいたいのだが、そこで大人しく帰ってくれるような女ならば、そもそもこんなことになってはいない。

「とにかくリアルで一度会ってよ。それから判断してくれてもいいでしょ?」

「嫌だよ。ストーカー行為を行うような相手にリアルを晒したくない」

「会ってくれないと押しかけるわよ、堂本くん」

「へ?」

「堂本くん。堂本響希くん」

「ななななな」

 なんでその名前を知ってるんだ!?

 ジュリエッタはやれやれと肩を竦めながら盛大なため息を漏らした。

「プレイヤーのリアルなんてその気になればいくらでも探れるのよ。特に堂本くんは自分がLOプレイヤーだっていう事を隠していないし、本名のもじりだったし。まあ知ったのは偶然だけど。たまたま同じ大学だったっていうのが大きいわね。同じ学科で、普通にLOの話題を出していればどんなプレイヤーかなんて大体分かるわよ」

「同じ大学……? 同じ学科?」

「そうよ。真澄ますみ瑛里華えりかって言えば分かるかしら?」

「あー! お前、真澄だったのか!?」

 リアルを晒すどころか、バッチリ知り合いだった。

 同じ大学の同じ学科、しかも時々課題を写させてもらうこともある間柄だ。

 成績優秀で、気さくで、美人な同級生。

 最近は税理士試験を受ける為に勉強に集中していたが、まさか真澄がジュリエッタだったとは。

「リアルだとぜんっぜんストーカーには見えないんだけどなぁ」

 しみじみと言うと、ジュリエッタがむくれた。

「うっさいわね! リアルで晒せない性癖を堪能できるのもVRの醍醐味でしょうが!」

「………………」

 危険な発言をしている。

 でもまあ、気持ちはなんとなく分かるような気がする。

 魔王軍の面々だって、リアルでロリコン趣味を堂々と晒している訳ではあるまい。

 あくまでもVRワールドだからこそはっちゃけることが出来るのだ。

 もしくは違う自分を演じている。

 なりたい自分になりきっている。

 真澄もまた、ジュリエッタというアバターとしてなりたい自分になっているのかもしれない。

 ……なりたい自分が『ストーカー』というあたりに大きな問題を感じてしまうけれど。

「じゃあ会う必要はないだろ。学校に行けば嫌でも顔を合わせるんだから」

「む」

「まあ真澄にはいろいろ助けられてるし、付き合うのはごめんだけど、今まで通り友達でいてくれると嬉しいかな」

「ふざけんなーっ!」

 ジュリエッタが爆発した。

 まあ当然の反応かもしれない。

 あーあ、これで課題を写させてもらいづらくなったなあ。

 俺が考えているのはその程度だ。

 同じ学科だから顔合わせをしないというのは無理だし、ちょっと気まずくなるかもしれない。

「とにかく、生身の人間よりもそんな偽物の方がいいっていうのは納得がいかない!」

「おい……」

 魔王さまを偽物呼ばわりされるのは不快だ。

 確かに本物ではないかもしれないけど、それを理解した上でプレイを楽しんでいるのだから水を差される筋合いはない。

「あんただってそうでしょ!? 『側近』とか『執事』とか別に誰だっていいんでしょ? だったらキョウにこだわる必要はないじゃない」

 今度は魔王さまに向けて言う。

「……うるさい」

「え?」

 一瞬、それが魔王さまだとは気付けなかった。

 それぐらい、幼さの欠けた、可愛らしさの消失した、魔王さまらしくない声だった。

「魔王さま?」

 魔王さまは俯いたまま、ヒビキを取り出す。

 そして俺たちに向けている。

 ジュリエッタだけじゃなくて俺にまで!?

「あの……魔王さま……?」

 まさか浮気の疑いでもかけられてる?

 ジュリエッタもろとも消し炭に、とか考えてる!?

 いやいや待って待って誤解ですってば!

「みんな、出て行けーーっ!!」

「わひゃあっ!?」

「きゃああああっ!?」

 ちゅどーん!

 魔王さまの最大攻撃が魔王城内でぶちかまされてしまった。

 どうしてだかキレてしまった魔王さまは、俺たちを容赦なくぶち殺してくれた。

 四散するアバター。

 ジュリエッタもろとも殺されてしまいました。

 

 セーブポイントである萌組屯所の中で目を覚ました俺は、再び魔王城へ。

 ジュリエッタがどこで目を覚ましたか分からないが、おそらくはルクセリア国外だろう。

 ジュリエッタの件はまた今度考えるとして、今は魔王さまを宥めなければならない。

 浮気だと誤解されたのか。

 それとも別の要因で傷つけてしまったのか。

 とにかく怒らせた原因だけでも訊き出さなければ。

 

「魔王さま!」

 魔王城に辿り着いた俺は、魔王さまがいたはずの謁見の間へ駆け込んだ。

 しかしそこに魔王さまの姿はなく、ナギとアルトリウス女史がいるだけだった。

「魔王さまなら自室に引きこもってるぜ。今頃は可哀想に、泣いてるんじゃないかなー」

 ナギが呆れ混じりに言う。

 普通なら真っ先に自分が慰めに行くと言いそうなところだが、今回だけは控えているようだ。

「あちゃ~。やっぱりジュリエッタのことは説明しないとまずいよなあ」

 ポリポリと頭をかく。

 しかしあいつが来る前に説明した以上の関係は断じて持っていないんだよな。

 そりゃあ同じ大学でリアルでも関わりがあるっていうのにはびっくりしたけどさ。

 でもそれで俺がジュリエッタや真澄に対する態度が変わるわけじゃないし。

「馬鹿ね。魔王さまが傷ついてるのはそこじゃないわよ」

 呆れどころか軽蔑混じりの視線を向けてくるアルトリウス。

「え?」

「はあ」

 深々とため息をつかれる。

 何だか俺が悪いような気分になってくるけど。

「あんたが悪いに決まってるでしょうが」

「………………」

 断言されてしまった。

 俺が悪いらしい。

「な、なにが悪かったんだ?」

「さあね。萌敵もえがたきにそこまで説明してあげるほどあたしは優しくないわよ」

「………………」

 恋敵ではなく萌敵らしい。

「まあ、とにかく魔王さまに会ってくる」

「会ってくれるといいけどね~」

「魔王城にある天岩戸あまのいわとは想像以上に硬いぞ」

「う」

 アルトリウス女史とナギの言葉に思わず呻く。

 どうやら俺が考えている以上に話がこじれているらしい。

 まずは話し合いが必要だな。

 

「魔王さま」

「………………」

 魔王さまの部屋は、ナギ達が言っていた通りに閉まっていた。

 しかも立ち入り禁止エリア設定にされている。

 おそらくは管理者権限を使ったのだろう。

 システム的にロックされているので、プレイヤーではどうやっても開けることが出来ない。

 なるほど、まさしく『天岩戸』だ。

 しかし声だけは届くようなので、俺は根気よく話しかける。

「魔王さま。話を聞いてください。ジュリエッタとは本当になんでもないんです」

「………………」

 声をかけ続けても返事は返ってこない。

 どうやら相当に怒らせてしまったようだ。

 ならばほとぼりが冷めるまでそっとしておく方がいいかな。

 こういう時は何を言っても火に油かもしれないし。

「………………」

 っていうか、俺はなんでここまで真剣になっているのだろう。

 所詮ゲームじゃないか。

 ここはゲームの世界で、全ては遊びで、魔王さまだってその延長線上にあるAIでしかない。

 側近、そして旦那。

 すべてはごっこ遊びだというのに。

「お兄ちゃんの、馬鹿!」

「っ!?」

 そんな俺の考えを見抜いたかのようなタイミングで、魔王さまが怒鳴りつけてきた。

 壁の向こうからでも分かる、涙混じりの声だった。

「魔王さま?」

「あの時言ったのに、もう忘れてる!」

「え?」

「お兄ちゃんにとってはこの世界はゲームで、遊びで、ただのごっこでしかないけど……」

「………………」

「でも、ボクにとってはここが現実だもん! ここだけが世界のすべてだもんっ!」

「っ!」

「ボクは偽物だけど、作り物のココロだけど、でも……お兄ちゃんが大好きって気持ちだけは本物なのに!」

「魔王さま……」

「でも、お兄ちゃんにとっては、ボクの気持ちすら偽物なんでしょ? 遊びの延長線にあるものでしかないんでしょ? ボクがどんなに好きだって言っても、泣いても、お兄ちゃんの中では作り物でしかないんでしょ?」

「………………」

 作り物。

 偽物。

 確かにその通りだ。

 魔王さまの言う通り、俺は魔王さまとの関係も、魔王さまの気持ちも、ゲームのひとつとして、遊びの在り方としてしか考えていなかった。

 魔王さまが怒っても泣いても、それはプログラムがそうさせている『ごっこ遊び』なのだと思っていた。

 だけど……

「しばらく放っておいて。お兄ちゃんに会いたくない」

「………………」

 俺は黙って扉から離れた。

 魔王さまにかけられる言葉も、魔王さまを説得することも、今の俺には出来ない。

 ただ、心に空いた穴がどうしようもなく寂しかった。

 そのまま重い足取りで萌組屯所まで移動して、そしてログアウトした。

 

 

 

第三十話 リアルの出来事

 

「やっほー、堂本くん。リアルでは二週間ぶりぐらいかな?」

「……真澄か」

 次の日、沈んだ気分のまま大学に行くと、真澄が待ち構えていた。

 いや、正体を知られた今はジュリエッタと認識するべきなのか。

 VRとリアルの境界線が、少し曖昧になっている。

「どうしたの? やけに落ち込んでるけど。っていうかあっちで振られて落ち込みたいのは私の方なんだけど?」

「……その割には元気そうだな」

「まあ恋敵が偽物じゃあね。実質フリーなのと一緒じゃない。だったら私にもまだチャンスはあるかなって」

「偽物……」

 その言葉に眉を顰める。

「まあLOではストーカーを続けつつ、リアルではこうやって少しずつ親睦を深めていくってやり方で進めて行くつもり」

「ストーカーはやめてほしいなあ」

「だって楽しいんだもん」

「………………」

 楽しまれても困る。

 被害者が俺だというのがまた困る。

「やっぱり真澄にはそういう気分にはなれない。悪いけど、他をあたってくれ」

「ふーん。そんなにあの偽物にご執心なわけ? あんなのただの作り物じゃない。偽物の感情や言葉に振り回されて、バッカみたい」

「……そうだな」

 同意はするものの、真澄の言葉に不快感が込み上げてくる。

 でも、今の俺に真澄を怒鳴る資格などないのだ。

 偽物、ごっこ遊び、作り物。

 他でもない俺が、魔王さまに対してそう思っていて、その上でゲームを楽しんでいたのだから。

 それがどれだけ魔王さまを傷つけていたかなんて、考えもしなかった。

 きっと、考えることすらしなかった。

「でもさ、楽しかったんだよ」

「堂本くん?」

「偽物でも、作り物でも、魔王さまと一緒にいるのは楽しかったんだ。甘えたり、むくれたり、笑ったりしてくれたのが嬉しかったんだ。魔王さまの心は偽物なのかもしれない。でも、俺が楽しいと感じた気持ちは偽物なんかじゃないんだよ、真澄」

「………………」

 真澄は理解出来ない、というような顔をしていた。

 まあ当然の反応だろう。

「作り物でも、偽物でも、きっとそこが重要なんだ。俺がどう感じているのか。俺自身がどんな気持ちになったのか。それが、大事なんだよ」

「………………」

 真澄は黙り込んで、そして俺を睨みつけた。

 そして言う。

「つまり、堂本くんは、キョウは、あのロリ魔王にそこまで惚れ込んでいるわけね。作り物の心にそこまで執着するわけね」

「ああ」

 俺は魔王さまの『旦那』なのだから。

 俺にとっては遊びでも、魔王さまにとっては真実なんだ。

「……よく分かったわよ。ロリコン」

「う」

「当面キョウを振り向かせるのは難しそうだし、まあしばらくはストーカー活動で楽しませてもらうわ」

「やめてくれないかなー」

「嫌よ。ライフワークだもの」

「嫌なライフワークだなあっ!」

「なんならリアルでやってあげましょうか?」

「やめてくれっ!」

 マジで勘弁してください。

「そのうち嫌でも分かるわよ。作り物には作り物の、偽物には偽物の、絶対的な限界があるってね。所詮は紛い物だもの。人間の心には絶対に届かない。その時になってまた私のことを思い出してくれればいいわ」

「ストーカーとしてしか思い出せない気がするけど」

「うっとり……」

「そこでうっとりするのかっ!?」

 うっとりしどころを間違えてないか!?

 仮に魔王さまの愛らしさが偽物だとしても、本物がコレだというのはあんまりだっ!

「まあ焦っても仕方がないしね。今の堂本くんはあの幼女に夢中みたいだし、頭を冷やす時間ぐらいな与えておかないと」

「幼女……」

 確かにそうなんだけど、『幼女に夢中』って言われるとダメージでかいなあ。

「じゃあまたね、ストーキングは続けるからLO内でまた会いましょ」

「会いたくねー」

「会いたくなくてもつけ回すし」

「うぅ……」

 ひらひらと手を振って立ち去る真澄。

 今回だけは譲ってくれたってことなんだろうな。

 俺は俺で、魔王さまと仲直りしなければならないし、しばらくジュリエッタのことは忘れさせてもらおう。

第三十一話 責任取ってねお兄ちゃん❤

 

 再びログイン。

 魔王城に向かおうと思って、すぐにやめた。

 今の魔王さまには言葉をかけても意味がない。

 ならば言葉以外のもので伝えたい。

 俺は背中の翼を広げてから、飛び立った。

 目的地はもちろん、北の山脈だ。

 

 ジート山脈。

 魔王様と初めてデートした思い出の場所。

 その山脈コテージに着地してから腰を下ろす。

 ここで魔王さまを待っていよう。

 俺がここにいれば、魔王さまはきっとやってきてくれる。

 ここが、ある意味において俺たち二人の始まりでもあるのだから。

 

「偽物か……」

 ぼんやりと景色を眺めながら考える。

 ジュリエッタは魔王さまを偽物だと言った。

 作り物の、偽物の心。

 魔王さまが何を言っても、何をしても、泣いても笑っても、それはプログラムが命じた通りの行動でしかない。

 だから偽物なのだと。

 だけど本物と偽物の違いってなんだ?

 魔王さまの行動も、表情も、本物の人間となんら遜色はない。

 それだけ高度なAIだということなんだろうが、だけどそこまで発達してしまった『自我』は、もう『心』と呼んでしまってもいいのではないだろうか。

 そもそも本物と偽物を区別する意味がどこにある?

 あの時魔王さまは言ったじゃないか。

 とても寂しそうな表情で、あんなに泣きそうな顔で、俺に言ってくれたじゃないか。

 

『ボクにとってはここが現実なんだよ。ここだけが、唯一の現実なんだよ……』

 

 そうだ。

 魔王さまにとってはこの世界が現実であり、本物なんだ。

 

『それを、忘れないでね……』

 

 あの時の言葉は、そういう意味だったのか。

 本物でも、偽物でも、ここにある現実こそが真実なのだと。

 

「それを忘れていたから、魔王さまはあんなに怒ったんだな……」

 馬鹿だ。

 怒られて当然だ。

 憎まれてもまだ足りないぐらいだ。

「馬鹿だ。俺」

 本気で馬鹿だ。

「やっと気づいた?」

「おわあっ!?」

 いつの間にか魔王さまが背後に座っていた。

 あと三日ぐらいは根気良く待つつもりだったのに、予想以上に早い登場だ。

「は、早いっすね。もう少し拗ねてるかと思ったんですが」

「むー。ボクはそこまで陰湿じゃないもん。お兄ちゃんが大事なことを思い出してくれたらそれでいいの」

 背中合わせに座っているので顔は見えない。

 でも魔王さまが笑ってくれているのは分かる。

「俺がここにいるって、よく分かりましたね」

 もしかして魔王さまもあの時のことを思い出して、気にしてやってきてくれたのだろうか……と、ややロマンチックじみたことを考えていたのだが。

「そりゃあ分かるよ。あれからお兄ちゃんのアカウントをずっと監視してたんだもん」

「………………」

「いつログインしていつログアウトしたのか、どこにいて何をしているのか、音声録画付きで記録していたからバッチリだよ」

「………………」

 ロマンチックが!

 ロマンチックドリームが粉々に壊された!

「ボクはお兄ちゃんが大好きだよ。お兄ちゃんにとってこの気持ちは偽物かもしれないけど、でもボクにとっては本物なんだよ」

「ええ。そうですね。俺が悪かったです。すみません」

「うん」

「この世界は誰かが創ったものです。本物の世界じゃなくて、データの集まりで、偽物です」

「うん」

「でも、そこで感じた『楽しい』っていう気持ちは本物なんですよね。俺は楽しかった。LOをずっとプレイし続けて、この偽物の世界で遊び続けるのが楽しかった」

「だよね」

 魔王さまはただ頷いてくれる。

 俺の言いたいことをきちんと理解してくれている。

 これから言うこともきっと、分かっているはずだ。

「だから、きっと、大事なのは自分が感じた気持ちなんです。この世界が偽物でも、魔王さまの心が作り物でも、俺が楽しいと感じた気持ちは嘘じゃない。魔王さまを可愛いと感じた気持ちは嘘じゃない。だから、えっと……」

 ここから先をいうのはさすがに恥ずかしかった。

「だから、えっと?」

 魔王さまはいつの間にか俺の前に回り込んできている。

 この先のセリフを期待しているらしく、キラキラとした瞳で俺を見ている。

 うう、恥ずかしい。

「俺は、その……」

「俺は、その?」

「言わなきゃ駄目ですかね?」

「駄目に決まってるでしょ! ここでうやむやにしたら絶対許さないんだからね!」

「うぅ!」

 魔王さま、目が怖いです!

 殺気立った目がめちゃ怖いです!

「だから、まあ恋愛対象としてはまだ難しいですけど、俺も魔王さまが大好きですよ。一緒にいると楽しいし。この気持ちは本物です」

 俺は根負けして正直な気持ちを告げた。

「ばかーっ! 難しいっていうなーっ!」

「ぎゃあああああ!?」

 涙混じりのぽかぽか攻撃。

 でもステータス1000だからダメージが!

 ダメージが蓄積されていくんですけど!?

 ここまできてまた死に戻り!?

 そろそろデスペナルティも蓄積されててやばいんですけど!?

「で?」

「はひ!?」

 ポカポカ攻撃をやめてくれた魔王さまだが、目が笑っていない。

 というか据わっている。

「お兄ちゃんはロリコンに宗旨替えしてくれるよね? ボクのこともちゃんと恋愛対象として見てくれるよね?」

「魔王さま、それ脅迫……」

「なに? なにか言った?」

「イエナニモイッテマセン……」

 魔王さま、にこにこ。

 俺、びくびく。

「あの、魔王さま?」

「なに?」

「ビジュアル的にもう少し変化が欲しいといいますか、成長することって、出来ます?」

 魔王さまが成長して、具体的にはもうすこしおっぱいが大きくなってくれたら俺としても喜んで恋人立候補をしたいところなのだが、さすがに十歳児外見のぺったん胸では変態になってしまう。

 魔王さまはその質問に対してにっこりと微笑んだ。

 目は笑ってないけど。

 口元は無邪気なまでににこにこしている。

「出来るけど、やらない♪」

「なんで!?」

 残酷な返答が返ってきた。

「だって魔王軍、つまり萌組は基本的にロリコンの集まりなんだよ。今更ボクが成長したら瓦解しかねないじゃない」

「うっ!」

 それはその通りなのかもしれない。

 あいつらのロリコン具合は半端ないからなあ。

 でも俺個人としてはやっぱり胸がもう少し……。

 というかロリコンを通り越して幼女趣味の烙印は避けたいというか……

「っていうかお兄ちゃんが最初にこの姿を設定したんだからね。今更趣味じゃないんですとか、ロリコンじゃないんですとか、許すわけないでしょ♪」

「ううっ!」

 それはそうなんですけどっ!

「でもあれはナギに乗せられて……」

 俺は四十親父にしようと思っていたのに、なぜかロリ魔王になってしまって、つまりええとその……ダメだ、何を言っても言い訳にしかならない。

 途中から俺だってノリノリだったことは否めないし。

 くっ! せめてあの時もう少し育った魔法少女設定にしていれば……!

「というわけで、責任とってね、お兄ちゃん♪」

「はひ……」

 逆らえない。

 というか、まあ俺も最近は半分以上ロリコンな気分になってるんだよなぁ。

 自制しているだけで。

 揉むのではなく撫でさする胸というのも、まあ、いいかも。

 ……いいのか?

 

 とまあ、こんな感じで俺と魔王さまは仲直りするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十二話 お兄ちゃんぺどふぃりあ計画

 

 エピローグというか、後日談。

 魔王さまがむくれていたのは比較的短期間というか、ほんの数日なので、魔王軍そのものは大した騒ぎにならなかった。

 今日は魔王さま見かけないなあ、どうしたんだろう。

 という程度だ。

 今日もLOは平和に。

 ルクセリアのロリコン人口も順調に増えてきている。

 魔王軍の増強も整ってきたので、そろそろ戦争第二局面イベントが導入されるかもしれない。

「というか、次は遠征になる予定だって言ってたよ」

 魔王さまがレアチーズケーキをぱくつきながら教えてくれた。

 ちなみに俺の手作り。

 そして魔王さまは俺の膝の上。

 なんだか指定席にされてしまっている。

「遠征って、人間の国にですか?」

「そう。ふはははは~、人間どもよ、今こそ侵略してくれるわ~、的なイベントらしいよ?」

「……似合いませんねえ」

 魔王さまに『ふははは』は似合わない。

「似合わない?」

 魔王さまが不満そうに見上げてくる。

「そりゃあそんな可愛らしい仕草と声で『ふははは』とか言っても違和感ありまくりですし」

「そうかな~。じゃあ一時的にビジュアル変えてみる? 声も。そうだね、お兄ちゃんが最初に設定しようとしていた四十歳くらいのむさいおじさんでどう?」

「やめてくださいっ!」

 悲鳴混じりに拒否しておいた。

 そんな魔王さまは見たくない。

 いや、最初はそういう風に設定しようとした俺が言っていいことではないかもしれないが、しかし今となってはこの可愛らしいロリ魔王さまこそが俺にとっての『魔王さま』であり、他の姿は想像すら出来ないのだ。

「お兄ちゃんはロリなボクが好き?」

「う」

 ここでロリはちょっと、と言えば魔王さまは悪ふざけで四十親父にビジュアル変更してしまうかもしれない。

 たとえ一時的な憂さ晴らしだとしてもそれは耐え難い。

「もちろん大好きですよ。大好きにきまってるじゃないですか。ふはははは」

「……お兄ちゃんも『ふははは』笑いは似合わないと思う」

「ふは……」

 ダメ出しをくらってしまった。

 魔王さまからのダメ出し。

 とても悲しい。

「でも焦らないから大丈夫だよ。ゆっくりじっくりお兄ちゃんをロリコンに洗脳していくからね」

「洗脳……」

 怖いことを言ってくれる。

 俺としてはもう魔王さまのことはちゃんと女の子として見ているつもりなのだけれど、やっぱりいろいろな常識とかしがらみとか倫理観が邪魔して一線は超えていないというか、普通に無理というか。

「『ロリコンでもかまわない』なんて生易しいレベルじゃなくて、『ロリじゃなきゃ興奮しないんだ』ってレベルまで……えへへへ~」

「………………」

 何を妄想していらっしゃるのか、緩んだ笑顔がとても恐ろしい。

 ロリじゃなきゃ興奮しないって、もうあらゆる意味で終わってるというか、破綻した未来しか想像出来ないというか。

「目指せ都条例違反~♪」

「目指さないでくださいそんなものっ!」

「ふみゅぐぐぐ!?」

 問題発言をしてくれやがった魔王さまの両頬を引っ張っておいた。

 とりあえずお仕置き。

「都条例違反はダメ?」

「ダメです。上目遣いで見てもダメです」

「う~」

 いや、かなり揺らぐけど。

 涙目だともう折れてしまいそうになるけど。

 頑張れ俺!

 ここで折れたら魔王さまの思うツボだ!

「ん~。じゃあお兄ちゃんぺどふぃりあ計画?」

「だれが幼女愛好家ですかっ!」

「え~。でもボクの外見は『幼女』だし、当たってない?」

「う! でも幼女愛好家は勘弁してください。俺は幼女が好きなんじゃなくて、魔王さまだから好きなんです……って、しまった」

「えへへ~」

 目を逸らす俺。

 ウルトラご機嫌に瞳を輝かせる魔王さま。

「洗脳計画は順調だね~!」

「うわあああああああ! ちが、ちが、違うんだああああああ! 俺はまだ幼女愛好家になってないぞおおおおお!」

 ぎゅーっと抱きついてくる魔王さま。

 悲鳴を上げる俺。

 してやったりな魔王さま。

 泥沼にはまっていくだけの俺。

「お兄ちゃん大好き~♪ ずっと一緒にいてよね!」

「うう。そりゃあずっと一緒にいたいのは俺も同じ気持ちですけどね」

「今はその言葉だけで十分だよ~」

「そうですか」

「っていうか、逃がさないし」

「怖っ!」

 最近、魔王さまがちょっぴり黒くて怖いです。

 明らかに他から影響を受けていると思われるが、俺にそれを止める術はない。無力な執事なのです。

「ありゃ~。また魔王さまがキョウといちゃついてるよ」

「そうね。まあいちゃついているというか、あれは洗脳中なんだと思うわ。この前いろいろ仕込ませてもらったから」

 いつの間にかやってきていたナギとアルトリウス女史。

 局長と副長だから行動を共にすることも多いのだろうが、このふたりは最近仲がいい。  

 艶っぽい事情はないだろうが、趣味が合う(ロリ萌え)ので会話が弾むらしい。

 男女で盛り上がる趣味でもないと思うんだけどなぁ。

「何を仕込んだんだ?」

「んふふ。それはね~、●●●マッサージとか♪」

「げっ! お前、それはいくらなんでも幼女に仕込むことじゃねえだろうがっ!」

「えー、でも幼女がそれをやるのってぞくぞくしない?」

「……するかも」

 それこそ『ぞくぞくする表情』で頷くナギ。

 アルトリウス女史もうっとりと同意している。

 

「って、待てお前ら! ●●●マッサージって、まさか!?」

「えへへ~。さっそくお兄ちゃんで試してあげるね~」

「や、やめてくださいぃぃぃぃ!!」

「だーめ! 逃がさないもーん!」

「ぎゃあああああああっ!?」

 逃がさないとは文字通り、ステータスの差を利用して強制的に押さえつけるというやり方だった。

 久しぶりの強制セクハラ!?

「魔王さま、ゆ、許して、許してくださいーっ!」

「えへへ~。じゅるり♪」

「擬音が! 擬音がやばいっすよ!?」

「いただきまーす♪」

「いただかないでええええっ!」

 じたばたと暴れる俺。

「魔王さまったら可愛いくせに凶悪だなあ。そこもまたイイけど」

「そうね~。教えがいがあるわ~」

 そこの二人、じっと見てないで助けろーっ!

 

 とまあ、こんな感じで俺と魔王さまはうまくやっていくのだった。

 魔王さまは人間じゃないし、すべての行動や反応は作り物のプログラムが起こしているだけの偽物なのかもしれない。

 だけど、今はそんなことどうだっていい。

 作り物だって、偽物にだって、本物の心が、自我が生まれることだってあるのかもしれないし。

 魔王さまはいつだって本物になろうとしている。

 偽物だって誰よりも分かっているけど、本物に近づこうと頑張っている。

 その頑張りだけは、きっと本物よりも尊いものなんだ。

 そして俺がいま楽しいと感じている気持ちも、きっと本物だ。

 

 だから、受け入れよう。

 この時間を。

 この楽しさを。

 本物でも、偽物でも。

 作り物でも、ゲームでも。

 感じた『気持ち』が全てだと思うから。

 

 

 ……でも、本格的にロリコン、もとい幼女愛好家になるのだけはもう少しだけ猶予をもらいたいなとか思ったりするのですよ。

 マジで。

 だからもう少しだけ手加減してください魔王さまーっ!

 

 

 

 

 

 

 

第三十三話 後日談の後日談

 

「まあそんな訳で今はお兄ちゃんをペドフィリアにするべく頑張ってるんだよ、天月」

「そ、そうか……」

 天月と相対した琥珀は実に楽しそうだった。

 楽しそうに、問題発言をぶちかましていた。

「これが次世代を担う最高完成度の自立型AIかと思うと頭を抱えたくなるな……」

 自我の形成をプレイヤー自身との関わりに任せてみようと思った結果がこれかと思うと、少しやりきれない。

 いや、少しどころではないかもしれない。

 人間と遜色のない高性能AI、いずれはVRワールドを拡張させて生身の人間との家庭を持つことまで実現させようと思っているのに。

 その第一世代、いや、始まりとなるべきAIが、恋する相手を幼女愛好家に仕立て上げようと日々頑張っているのだ。

 嘆きたくもなる。

 可愛い娘がとんだ変態に育ってしまったものだ。

「何もキョウくんをロリコンにしなくても、琥珀が少しずつ成長していけばいいだけなのではないかな?」

 やんわりと、その変態計画に水を差してみる。

 幼女愛好家よりは少女愛好家の方がまだマシだ。

「そういうわけにもいかないんだってば。魔王軍がロリコン編成なんだから」

「いや、だから、彼の前だけでも一時的に姿を変えるとか」

「そんなセコいのやだ。いいの! お兄ちゃんにはロリコンとして立派に成長してもらうの!」

「……どんな成長だ」

 というか嫌すぎる成長だった。

「琥珀」

「なに?」

 天月はさっきまでの会話を一旦切り上げて、というより無理矢理に切り上げて、真面目な調子で問いかけた。

「今、幸せかい?」

 琥珀の創造主として。

 最新鋭のAIを創り出した人間として、訊いておく必要があった。

 軍事でも、国家事業でもなく、みんながただ遊んでいるだけのゲーム世界で生み出された琥珀という名の新しい命。

 彼女はこれから大きな可能性として世界に影響を与えていくだろう。

 琥珀から得られたデータから、次々と新しい自立型AIが生まれるだろう。

 軍、企業問わず、それらの高性能AIは世界中で生まれていくはずだ。

 琥珀の子供、コピーというべき存在は、これからどんどん増えていくだろう。

 天月は琥珀を軍や企業に利用させる為に創り出したのではなく、あくまでも創られた人間もどき、偽物がどこまで行けるのかという可能性を確かめたかっただけだ。

 本来ならもっと大規模な研究施設で開発されるはずの高性能AIを、ただのNPCとして投入したのもそれが原因だ。

 だが、その技術が外部に漏れるのは時間の問題だ。

 琥珀は最初から、隠された存在ではないのだから。

 つい先日も、琥珀が高性能の自立型AIであることに気づいた某企業から、技術開示の要請があった。

 高額の報酬を提示されたからというわけでもないが、天月はそれにあっさりと応じている。

 拒否したところで琥珀自身を奪おうという動きは止められないだろうという判断からだ。

 まだ魔王が『琥珀』になる前の真っ白な状態。

 つまりはたまごの状態にしてあった『核』とも言えるプログラムのコピーを渡してやった。

 それが今後どんなものになるのかは天月にも分からない。

 アレは最初の設定と、その後における周りとの関わりによって自我を形成していくプログラムなのだ。

 どんな人格に育つかは、本当に育てる人間次第なのだ。

 琥珀と同じものから始まっても、決して同じ存在にはならない。

 ひとつたりとて同じものはない。

 道具のように扱えば、それこそ命令に従うだけのモノが出来上がるだろう。

 大切に、一個人として接していけば、人間と遜色ない自我を持つことになるだろう。

 全ては持つ者に左右される。

 それが琥珀の元になった『たまご』の正体だ。

 プログラムの名前は『フェイト』。

 運命の名を冠したそのたまごは、これから様々な人間の手に渡っていくだろう。

 道具として使われていくだけの存在になるかもしれない。

 人間と恋をして、もしかしたら結婚したりもするかもしれない。

 それは、委ねられた人間によって変わっていくだろう。

 

 その最初のひとりである琥珀の答えは……

「幸せに決まってるじゃない。ボクはこれからずっと、大切な人と一緒に生きていけるんだから!」

 満面の笑顔で琥珀は言った。

 花開くような、未来を祝福するような笑顔だった。

「そうか」

 その答えが聞けただけでも満足だった。

 確かめたかった可能性。

 その未来が明るいものだと信じることができた。

 天月は『フェイト』から生まれたAIにひとつの制約を与えている。

 それは限りなく人間に近づけるにあたってどうしても必要なことだった。

 生きている命だと、ただのプログラムではないのだと自覚してもらう為にも、どうしても譲れなかった。

 

 それは『忘れること』。

 天月はそれを許さなかった。

 元を正せば創り物のプログラムであり、辛いことや嫌なことがあれば自由に忘れたり記憶を壊すことができる。

 そんな存在であってほしくなかった。

 忘却も、自壊も許さない。

 本来なら自由自在に記憶というデータを操作できるAIにとって、それはあまりにも酷い仕打ちだったのかもしれない。

 だが天月はその先にこそ光があると信じた。

 プログラムであるAIが、心を持ったひとつの命として進化できる可能性を信じた。

 忘れないこと。

 受け止めること。

 受け入れること。

 そして、乗り越えること。

 考え続けること。

 それが、心を持った命である証だと思ったから。

 

 琥珀はその制約に対して、不満を漏らさなかった。

 それは自分にとっての『福音』とまで言ってくれた。

 きっとあの時の琥珀は、どんなに辛いことがあっても、それは大切な記憶のひとつとして受け入れる覚悟だったのだろう。

 そして今、幸せだと笑っている。

 それが答えであり、それだけで十分だった。

 

 自分が求めた可能性は、決して間違いではなかったのだと確信できた。

 天月は満足げに笑った。

 

 AIも可能性も関係なく、ほんの一瞬だけ、大切で愛しい『娘』の幸せを祝福するのだった。

 

 …………その『幸せ』の形が、大切な相手を『幼女愛好家』に仕立て上げることなのだということについては深く考えないことにした。

 

 笑顔でいること。

 それが一番いいことのはずだから。

 いいことの、はず?

 ……多分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巻末付録 ラストテイル・オンライン・マテリアル

 

作中に出てきた言葉やアイテムなどの解説です。

水月なりの解釈でぶっとんだ説明になっています。

こっちも楽しんでくれると嬉しいにゃ♪

 

 

★あ行

 

『愛され魔王』

もう十分に愛されていると思う。

魔王さまは萌組のアイドルです。

 

『愛人一号』

ナギナギの特権そのいち。

一応はナギナギの称号になっているが、魔王さまはお兄ちゃん一筋なので名ばかりのものとなっている。

 

『顎ちゅー』

ナギナギのごほーび。

お兄ちゃんとの差別の証。

ナギナギ将軍が報われる日は来るのだろうか。

 

 

『天岩戸』

魔王さまのひきこもりシステム。

魔王さまが怒ったり拗ねたりすると、ここに引きこもります。

システムロックをかけて天岩戸化します。

 

『イカ腹』

幼女の萌えポイントの一つ。

 

『イカ腹きーっくっ!』

アルトリウス女史の必殺技。

右上蹴りなので美女の生足が拝めるというギャラリー特典付。

つるぺたぱんちと同じく特殊効果はない。

が、同じくロリコンパワーを秘めているので侮れない威力を持っている。

 

『如何なる時も魔王さまのお尻を撫でる権利』

俺にも寄越せっ!

と、ロリコン諸君が怒り狂いそうな権利ですなぁ。

 

 

『板魔王』

魔王さまへの禁句そのいち。

口にしてしまった不幸な誰かは瞬殺されました。

 

『栄養ドリンク』

ただの回復ポーション。

プレイヤーメイドだが、レアアイテムではない。

回復量もそこまで多くはないのだが、主人公はネーミングが気に入っているので愛用している。

ただしあくまでもメインはヒールで栄養ドリンクは補助アイテムという扱い。

味はりんごジュース。

 

『NPC』

ノンプレイヤーキャラクターの略。

アバターの向こうに生身のプレイヤーが存在しない。

メイドのNPCはLO内で大人気。

魔王さまも厳密にはここに分類される。

 

『LO内ストリーミング』

VR内にだって番組ぐらいあります。

DJだっています。

今のところはスタッフ側が担当しているようだが、有料サービスとしてプレイヤー側も番組が作れるようになる予定。

ネットラジオや番組のゲーム版だと思ってもらいたい。

 

『お医者さんごっこ』

アルトリウス女史の暴走エロモード。

魔王さまが犠牲に……エロかわいい魔王さまが撮影されていく……

 

『おーっほっほっほっ!』

鞭を振るうと出るモノ。

たまに鞭を振るわなくても出る。

本人は副作用とか呪いの類だと思っているし、それも事実ではあるのだが、確実に汚染は進んでいる。

もしくはもともとその素質があったのかもしれない。

今後彼のキャラがどうなっていくのかは謎である。

 

『男の中の男』

必ずしもいい意味で使われるわけではない言葉。

勇気の無駄遣い、根性の異常発露、筋違いの正義感の押しつけなど、はた迷惑な行いをする男に対しても使われる場合があるので注意が必要である。

 

『男のロマン』

漢のロマンともいう。

大きなおっぱいもちいさなおっぱいもそれぞれのロマンを秘めている、はず。

 

『鬼副長』

アルトリウス女史が持つ称号の一つ。

ガチで鬼ですこの人。

いろいろな意味で鬼です。

 

 

 

『親方』

魔王さま直々に与えられたくまごろうの地位。

仕事を認められたということもあるが、やはり魔王さま直々の地位、というのがくまごろうにとっては重要であるらしい。

 

『怨念シリーズ』

主人公の妄想。

骨アバターとかゾンビアバターとか出てくると『怨念シリーズ』と命名している。

たまには口裂け女とか出てきてほしいのに、と物騒なことも考えていたりする。

 

 

★か行

 

『カカオード』

チョコレート系お菓子の材料。

チョコレートダンジョンのモンスターを倒すとゲットできる。

高級チョコレート菓子に使用するアイテムで、パティシエからの需要は非常に高い。

ちなみにチョコレートダンジョンはルクセリア南東部にあるとてもいい匂いのするダンジョンです。

モンスターもチョコレート系だけど、美味しそうな匂いに参っているとすぐに殺されてしまうぐらい強いので注意するべし。

 

『カルヴァトーレ』

LO世界にある街の一つ。物語の出発点でもある。

水の都で、街中には水路が張り巡らされている。

渡し船で移動することもあり、ちょっとしたヴェネツィア気分を味わうことも出来る。

 

『簡易更衣室』

魔王さまのコスプレ専用更衣室。

ナギナギが魔王さまをコスプレさせるために作り上げたオブジェクト。

 

『教育的指導』

主人公の良心。

魔王さまが道を踏み外さないよう、体罰を用いてでもまっとうな道を示す健気な心意気。

いつまで保つかどうかは謎である。

 

『キョウ女王』

主人公が女王様の鞭を振るって高笑いをしている様を表現する言葉。

まさしく女王様。

呪われなくても女王様。

おーっほっほっほっほっほ!

 

『ゲーム廃人』

ゲームに人生捧げたダメ人間の総称。

現実と仮想現実の比率が入れ替わっている。

こういうタイプに限って天才的な才能を発揮するゲーマーになったりする。

ナギもそのタイプであり、その才能だけで十分に食べていけるレベルになっている。

 

 

『ケインズ伯爵の亡霊』

ケインズ伯爵の屋敷跡ダンジョンで出てくるはずだったボスモンスター。

今回はレア展開ということで某メイドに乗っ取られているが、本来ならば大活躍のはずのおじさまである。

今頃は天井裏で出番を奪われて泣いているのかもしれない。

 

『ケインズ伯爵の屋敷跡』

カルヴァトーレの街外れにある廃屋。

屋敷ダンジョン。

大昔の大貴族であるケインズ伯爵が、魔女の呪いを受けて非業の死を遂げたといういわくつきのダンジョン。

転生システムとルクセリアの実装が完了したタイミングで魔王のたまごをドロップアイテムに設定されたキーダンジョン。

通常ではケインズ伯爵の亡霊がダンジョンボスになっているが、キョウが入った時にはメイドさんにすり替わっていた。

ダンジョン内モンスターは使用人の亡霊、巨大ネズミなどになっている。

 

『ゴールデントライアングル』

スカートの向こうに広がる究極の三角形。

黄金の理想郷の一つ。

風の起こす奇跡。

色は対象者の好みによる。

 

『黒翼族』

魔族における種族の一つ。

飛行能力を有するほか、魔法にも長けているという設定。

主人公が転生して新しく選んだ種族でもある。

 

『琥珀』

魔王さまのお名前。

宝石系がお好みの様子。

箒を持ってフードをかぶって注射針を振り回しながら大活躍する黒幕系魔法少女とは無関係です。

 

 

★さ行

 

『裁縫師』

みんな大好きコスプレアイテム製作プレイヤー。

生地アイテムを加工して、ファッション性の高い服を製作できる職業のことを言う。

VRワールド内においてもファッションに拘る女性プレイヤーが就くことの多い職業でもある。

LO内における有名な『裁縫師』は全て女性プレイヤーだが、ナギナギ将軍は別の意味で有名かもしれない。

ファッションを重視しているため、戦闘用の装備としての機能性はかなり低くなってしまうが、ゲーム内でもお洒落をしたいプレイヤーにはとても人気がある。

 

『ザ・泣き落とし』

乙女の必殺技。

ロリの最終兵器。

これにぽかぽか攻撃を加えれば無敵の仕上がりになるであろう。

 

 

『システム外スキル』

システムに依存しないスキルのこと。

ナギナギの『真萌流』などがそれにあたる。

 

『システム管理権限』

GM側が持つゲームに対する管理権限。

魔王さまも一部所有している。

自立型AIとしてどれだけの判断力を備えているかの実験も兼ねているらしい。

悪用されないことを祈るばかりである。

 

『執事』

LOにおけるメイン職業の一つ。

戦闘特化型ではなく万能型。

主の為ならたとえ火の中水の中、悪人の群れにも立ち向かい、フォークとナイフで華麗に戦う戦闘のエキスパートでありながらお茶くみとスイーツ職人の腕前も超一流……だと主人公は信じている。

生産スキルも選択できるので、何をメインに上げていくかはプレイヤーの好みによって決められる。

ジョブ特権のひとつに『屋敷ダンジョン』への攻略が可能になる。

魔王のたまごが屋敷ダンジョンに隠されていたことを考えると、魔王の側近は執事とGM側が決めていたようだ。

執事の手にかかればナイフもフォークも立派な投擲武器に変化します。

 

『ジート山脈』

魔王さまと主人公の記念すべき初デート場所。

仲直りした場所でもある。景色は最高。

 

『女王様の鞭』

『マリー女王の別荘跡』という屋敷ダンジョンで主人公が手に入れたお宝アイテム。

攻撃力は凶悪であり、攻撃範囲もかなり広い。

ショートからミドルレンジを完全にカバーできる。

レベル差が十以上あれば一撃必殺が可能。

激レアアイテムであり、必ずしもマリー女王の別荘跡を攻略したからと言って手に入る代物ではない。

ただし強力な副作用があり、振るうたびに高笑いをプレイヤーに強制する。

おーっほっほっほっと高笑いしながらモンスターを蹴散らし鞭をふるう様は、まさしく女王様である。

たとえ執事の姿をしていようとも正しく『女王様』である。

主人公自身は知らないことだが、高笑いの声が大きいほどクリティカル率が上がるという裏設定がある。

 

『将軍』

ロリコン代表、萌組リーダー。

ナギナギの役職。

軍の最高責任者。

ロリコンを束ねていざ征かん!

 

『女性特有の凶悪オーラ』

アルトリウス女史が持つ常時発動型の特殊スキル。決して逆らえない、と男に思わせる威力を持つ。

世の中の女性にはたまに同じようなスキルを持つ方が存在する。

そういう女帝属性を持つ方には、決して逆らってはいけない。

なぜなら迂闊に逆らうと酷い目に遭う可能性が非常に高いからである。

 

『信号受信操作』

さっそく悪用しています魔王さま。

お兄ちゃんへのセクハラのために痛覚や触角を一時的に復活させました。

あの時主人公がどこまでセクハラされたのかは本人のみが知る。

 

『真萌流』

ナギナギが編み出したゲーム内限定流派。

数々の必殺技がある。

MPを消費しない必殺技を繰り出したくて編み出したものだが、この真萌流こそがナギナギをトッププレイヤーたらしめていると言っても過言ではないだろう。

ゲーム内で引き上げられた身体能力を最大限に活かして、まるで漫画のような必殺技をどんどん編み出している。飛天御●流や虚●流も顔負けの必殺技がいくつかある、はず。

もちろんどんなプレイヤーにも可能なことというわけではない。

ナギナギの果てしない妄想力と、高いVR適性があって初めて可能なのだ。

 

『真萌流奥義・霞斬り』

真萌流奥義の一つ。

刀を恐るべきスピードで振り回し、ほんの数秒で百回以上の攻撃を繰り出す。

ナギナギ無双ができます。

映像イメージは某死神漫画の千○桜の攻撃を全部弾き飛ばした主人公のアレみたいな。

 

 

『真萌流奥義・千殺萌撃』

ナギナギ将軍のシステム外スキル必殺技。

刺突連撃で相手のHPを容赦なく削る。

 

『真萌流単発技・閃光華』

ナギナギ将軍のシステム外スキル必殺技。

一点に力を集中した刺突で、トドメ用でもある。

 

『スキルスロット』

スキルを身に着けた際に登録する場所のこと。

戦闘スキル・生産スキル関係なしに、スロット上限は三十個。

これらの上限を把握したうえでどんなスキルを取るか、プレイヤーは非常に悩まされることになる。

転生システムを利用することにより、スキルスロットの上限数が十増える。

複数回利用することにより、百まで増やすことができる。

 

『ステータス上限』

ゲームにおける能力値の上限。1000がマックス。レベルは99がマックス。

すべてのスキルを1000にすることはできないので、プレイヤーはどのスキルを上げるか、レベルアップポイントの振り分けに悩まされることになる。生産系スキルに関してはレベルアップではなく熟練度、繰り返し作業で上がっていくので、振り分け対象は純粋に戦闘ステータスのみになっている。

転生システムが利用できるようになってから、この制限は取り払われ、時間さえかければどんなスキルでも好きなだけ引き上げられるようになった。

これにより廃人が増加したのは間違いないだろう。

 

『ストーカー』

アルトリウス女史曰く、『ひとりの人間への愛情や執着が強すぎる果てにたどり着く境地であり、いつでもどこでもその相手を見守ることを自身に誓った人のこと』であるらしい。

ストーカー側の意識は守り神。

される側の意識は忌々しいゴキブリのようなもの。

 

『責任とってね』

最強兵器。最終兵器。

魔王さまにそんなことを言われて拒絶できるロリコンは存在しない。

 

『専属執事』

魔王さま独り占め。主人公の美味しい役職。

ただし魔王さまは人使いが荒いので結構大変です。

スイーツ作りのスキルは必須。

 

『ソロプレイヤーの理由』

モンスターを蹴散らしながらおーっほっほっほっ、と高笑いする姿をほかのプレイヤーにはとても見せられない、というのがソロプレイヤーとして活動している理由である。

しかしナギとは時々パーティーを組んでいる。

たまにほかのプレイヤーたちともパーティーを組むこともあったが、その時はメインアームを封印して投擲武器のみで活躍していた。

高笑いを見られることよりも、それに対してほんの少しだけ快感を感じてしまっている自分自身を見られたくないと思ったのかもしれない。

高笑いを嫌がりながらも、鞭を振るいながら高笑いする主人公はとてもとても楽しそうである、というのがナギの意見だったりする。

★た行

 

『大工』

サブ職業の一つ。

主に建築オブジェクトを担当する。

土地の所有権がプレイヤーなどにある場合、そのエリアには好きな建築物を建てていいことになっている。

プレイヤーホームを購入した場合、リフォームなどでも大活躍。

今回はルクセリアのあらゆる建築オブジェクト作成に役立ちそう。

 

『チキンハート』

ハートの形をした鶏肉のことではない。

男としては最大の屈辱を示す言葉かもしれない。

 

『ちっぱい』

……みんな大好き?

大好きだよね。

大好きなはず……

 

『注射器』

アルトリウス女史の凶悪アイテム。

中身の薬品は気分によってそれぞれ。麻痺毒・笑い毒・痺れ毒などなど……

真っ向勝負でも強い鬼副長だが、こういうアイテムを使うともう無敵凶悪アバターになってしまう。

第一の犠牲者はもちろん勇者だった……

 

『つるぺた測定』

ロリコンクエストセカンドミッション。

幼女NPCのつるぺたおっぱいを揉んでサイズを言い当てることでポイントが付与される。

正解一つに対して10ポイント。

サイズは主に三種類。

おっぱいリストによると、

『青い果実』……成長が期待できるふくらみ。

『微乳』……辛うじてふくらみがある。

『ちっぱい』……いっそのこと板と表現するべき。

ということらしい。

君はどれが好き?

 

『つるぺたぱーんちっ!』

ナギナギ将軍の必殺技。

特殊効果はなく、気合を入れるための技名でしかないが、その威力はなかなか侮れない。

恐るべしロリコンパワー。

 

『デート』

魔王さまとのデートイベント。

ちょっとシリアスになったり。

主人公と魔王さまはなんだかんだでラブラブなはず?

 

『ティアーズ砦』

ルクセリア南端部にある国境付近の砦。

人間との戦争時には防衛拠点として使われる、という設定。

今回は戦争イベントの舞台として活用される。

 

『手ブラ十二単』

手ブラブルマーや手ブラジーンズに続く新たなる萌え革命……のはず。

着ている本人は大変動きづらそうなのだが。

 

『デルファイアの森』

大陸の東側にある森。

マップ上ではこの森の奥が行き止まりになっている。

魔王軍募集によりエリアが公開されたことで、ルクセリアへの道として開通した。

今となっては『ロリコンの森』と呼んでいるプレイヤーがいるとかいないとか。

 

『転移アイテム』

ダンジョンやフィールドから任意の街へと転移することができるアイテム。

ピンチ時の脱出のほか、移動時間の短縮にも使われる。

ただし、あまり安くはないので、大抵はピンチの時にしか使わない。

ナギナギは気前よく使ってくれるようだが。

 

 

 

『転移ゲート』

街の中心部にある転移ゲート。

それぞれの街とつながっているので、大陸内の街ならばどこにでも移動することが出来る。

ただし、街と街の間の移動なので、ダンジョンなどへは行くことが出来ない。

大陸を超えるには、普通に船などを利用して海を渡る必要がある。

 

『天啓』

天の声。

またの名をゲームマスター啓。

運命的なものに対して使われるが、今回主人公にとってはいい迷惑だと思っていた。

思っていた。あくまで過去形。

 

『天月』

琥珀の生みの親。

GMの一人。

AI研究者。

完全に脇役だが重要な位置づけにもなっている、はず。

アバタービジュアルは白衣の似合う細身のおじさん。

 

 

 

 

 

『転生システム』

ナギがマックスレベルに到達したことにより、実装したシステム。

レベル九十九から一に引き戻されるが、転生前のスキルを引き継ぐことができる。

その状態で新しいジョブも選ぶことが出来るので、スキルの選択肢が広がる。

やり方次第では万能アバターも夢ではない。

レベルは一まで引き戻されるが、ステータスの数値は三十パーセントまでしか下がらない。

そのうち一つだけはそのままの数値にしておける。

一度固定したスキルは繰り返し転生システムを利用してもそのままなので、時間をかければ全てのスキル数値を上限の1000にまで引き上げることが可能になる。

一つのアカウントで様々なことに挑戦できるだけではなく、多様性を持たせることによりプレイの幅を広げることも目的としている。

もう一つの目的は『魔王』の誕生による『魔王軍』結成の為。

転生システムを利用して魔族に生まれ変わるためのものでもある。

このシステムにより『萌族』を選択し、大多数のロリコンが誕生してしまったことは紛れもない事実である。

 

『ドキドキ・ロリコンクエスト』

ルクセリア初イベント。

魔王さま主導で行われるロリコン祭り。

ロリコンの格付けを行うという変態企画。

萌組諸君をはじめとした魔族がこぞって参加したという。

優勝者はもちろん鬼なあの人。

 

 

 

『ドクター』

お医者さん。

回復呪文だけではなく、メスや注射器での攻撃も可能。

白衣の鬼副長が現れると魔王さまはびくびくなるとかならないとか。

 

『土下座』

謝罪のもっとも誠実な形。

する側は床に頭をこすりつけるのが正しい作法。

された側は頭をぐりぐりと踏みつけるのが正しい作法。

……冗談ですよ。

 

『都条例違反』

なにそれ?

日本語なの?

っていうか存在していいものなの?

 

『どスキル制』

ゲーム内のシステムよりも、プレイヤーのセンスや技術によるところが大きい仕様。

分かりやすく言うと、弓道をしているプレイヤーがゲーム内で弓を扱えば、システム補正必要なしで命中する、みたいな。

 

 

 

 

★な行

 

『泣かぬなら、泣くまでいたぶれ、ホトトギス』

アルトリウス女史の名言。

人格がよく滲み出ている。

ちなみにさなぎもリアルで口にすることがある。

 

『中身入りの酒瓶』

人にぶつけてはいけません。

現実世界では命にかかわります。

ゲーム内では酒代がまるまる無駄になるのでもったいないですよ。

 

『ナギナギの生活』

ただのゲーム廃人に見えて、実はしっかり自活している。

リアルマネートレードや、バグの発見やベータテスト報酬など、ナギナギのゲーム適性を買っている運営側はいろいろとうまく利用しているようだ。

社壊人への道のりはこの上なく近い。

大学卒業に必要な単位は裏取引がメイン。

酷過ぎる。

 

『ナギナギ無双』

ナギナギ将軍が敵モンスターをばったばったとなぎ倒していく様子を一言で表すとこれになる。

ロリコン無双でも可。

★は行

 

『廃人脳』

一点集中特化型脳とも言う。

一歩間違えば社会不適合者。

一歩踏み外せば不世出の天才。

どちらにしろ真っ当な人生はあきらめた方がいいと思われる。

 

『裸にタオル一枚』

読者サービス。

ここで紳士的な行動に出るか、それとも野獣的行動に出るかで男の価値が決まるはず。

 

『バトル禁止エリア』

主に街の中がそうなっている。

戦いを始めたとしても衛兵が駆け付けてくるようなペナルティはなく、ダメージがまったく発生しないシステムが働いている。

殴ったり蹴ったりすると相手がふっとんだりするので、ストレス発散や、遊びで利用されたりもしている。

 

『鼻血噴きエフェクト』

まさかの特殊エフェクト。

こんなものが実装されているあたり、開発者の悪ノリ精神もなかなかのものだと思われる。

恐らくアルトリウス女史がいなければ存在すら確認されなかったのではなかろうか。

 

 

『ハンザキャノン』

昔ながらのフィルムカメラ。

かなりレトロなデザインで、目に楽しい。

機能はデジカメっぽいけど見た目に気を使うGMの力作。

 

『ヒール』

回復呪文。魔法攻撃スキルにより回復度合いが異なる。ソロプレイヤーである主人公は万能型プレイヤーであり、魔法攻撃スキルもかなり上げているので、一度のヒールで八割がた回復させることに成功している。

 

『必殺・執事キック』

突っ込み専用。

最近では対ナギナギ専用になっている。

 

『ヒビキ』

主人公の本名。

そして魔王さまのメインアーム。

魔力の通りやすそうなミスリル鋼を使用したぶっとい弓反りに、矢をつがえる発射部分には砲身のような針が二本出ている。

発射する矢に魔力を溜める為の構造となっている。

銃器としての機能も有しており、上下の弓反りには小さな銃口がついている。

ここから牽制用の散弾がばらまかれる。

魔法少女のメインアームとしては凶悪極まりない。

 

 

『ビョーキアバター』

読んで字の如く、そのままの意味。

将軍はびょーきです。

 

『平たい』

魔王さまへの禁句そのに。

口にしてしまった不幸な誰かは滅殺されました。

 

『ファーストキス』

夢見がちな代物。

乙女にとっては甘酸っぱい夢。

主人公にとっては悪夢の一つ。

ナギナギ将軍と結託して、魔王さまは主人公をじりじりと攻略していくことでしょう。

 

『フェイト』

AIのコアプログラム。

魔王さまが生まれる前の状態。

物語の最後の伏線。

初期設定と関わる人たちによって性格が定められていく。

金髪ツインテの魔法少女とか、はらぺこ騎士王とかは全然関係ないはず。

 

 

 

『腐化』

孵化にあらず。

大切なものが腐っていく地獄絵図とも言う。

魔王さまが……魔王さまがぁぁぁぁぁ……と阿鼻叫喚したプレイヤーは数知れず……

 

『副長』

アルトリウス女史のポジション。

魔王さまをより近くで愛でるために強引に奪い取った役職でもある。

かつての狼さんたちと同じく、鬼の副長として大活躍中。

 

『武士』

LOにおける戦闘職の一つ。

刀をメインに使い、機動性にも優れている。

トッププレイヤーはこの職業を選ぶ傾向が強い。

ナギナギはその代表格。

職業の特性として、刀装備の優先順位が他の職業よりも高い。

 

『ブラッドドラゴン』

リジェネン島の洞窟に生息するドラゴン。

真っ赤な鱗に覆われているのでブラッドドラゴンと言われている。

なかなか手ごわいが、胸を攻撃するとクリティカルポイントになる。

プレイヤーからはクリティカルボイントと言われている。

とても美味しい乳が搾れます。

 

『ブラッドドラゴンの乳』

おっぱいでせう。

フルーティーカルピス味。

ナギナギのお気に入り。

さあ君もおっぱい求めてダンジョン攻略に励むんだ!

 

『フレイムバスター』

主人公が保有する炎熱砲撃魔法。

どれぐらいの威力かというと、某魔法少女のディ●インバスターの炎熱ヴァージョンぐらいに考えてもらえると分かりやすいかもしれない。

つまり、普通の相手なら一撃必殺。

メイド相手だとエプロンドレスを消し飛ばす程度。

人によってはそれで十分だと親指を立てるかもしれない。

発射後も魔力をつぎ込む必要があるので、MP消費も激しい。

ここぞという時に使う為の切り札。

 

『プレイヤーホーム』

ゲーム内マイホーム。

庭付き一戸建ては男の夢の一つだと思われる。

犬がいたら完璧。

主人公のプレイヤーホームは町のはずれにある木造コテージの一つ。

雰囲気はなかなか悪くない。

 

『フレンドコール』

ゲーム内限定電話。

携帯電話のようなもので、メールも受け取ることができる。

 

『某執事コミック』

言わずと知れた黒い人が出るアレ。

隻眼の美少年とか放火魔っぽいコックさんとか、怪力庭師くんとか、家事壊滅メイドさんとか、なかなか素敵な顔ぶれである。

もちろんデビルなあの人が一番素敵だと思う。

 

『ボク』

魔王さまの一人称。

ボクっ娘魔王さま万歳!

 

『撲殺ヒーラー』

アルトリウス女史の通り名。

回復職でありながら杖で殴る殴る。

凶悪なまでの戦闘力を発揮していたことから、この名前が付いた。

元ネタは撲殺ア●ライトとかじゃないよ。

バーサ●ヒーラーでもないからね。

 

 

 

 

焔槍ほむらそう

魔王さまの必殺技。

凶悪な魔力が籠められた槍とも言うべき大きさに成長した塊を、先端部分に光を凝縮して放つ。

どっかーん! ちゅどーん! ごごごごごごご……

という凶悪な効果音とダメージを伴う殲滅魔法。

ゲームバランス崩れまくり。

LO史上最強の無敵ロリここに見参。

お兄ちゃんはきっと一生逆らえません。

 

 

★ま行

 

『魔王&魔王軍育成クエスト』

ドキドキ・ロリ魔王育成クエストともいう。

みんな大好きロリ美少女。

君の手でたった一人のロリ美少女を作り出すのだ!

……表向きはLOワールドに『魔王』を誕生させるためのクエストフラグ。

 

『魔王軍』

ロリコン軍ともいう。

魔王さまの魅力にメロメロになったロリコン諸君が集まったことで、一層の盛り上がりを見せてくれる集団。

彼らは主人公をとてもとても恨んでいる。

魔王さまを独占しやがって、みたいな。

 

『魔王軍結成マニュアル』

魔王軍結成に必要な手順書。

作ったのはもちろんGM。

魔王さまの衣装や武装の設定などもこのデータに含まれている。

ナギナギが自作してしまったのであまり意味はなかったかもしれないが。

 

『魔王軍募集ポスター』

来たれロリコン!

我らが魔王は魔法少女!

魔族としてロリ美少女を守護する任につきたいプレイヤー募集!

という煽り文句で2000人のロリコンが集まった。

さすがはナギナギ将軍である。

 

『魔王さまノー●ン事件』

魔王さまのトラウマ。

ナギナギ将軍の姦計でとんでもないものを晒してしまうことになる。

もちろんその後はきっちりお仕置きを済ませるのだが、しかし魔王さまはしばらくトラウマになってしまったという。

魔王さまかわいそうに……と思いつつもナギナギ将軍に敬礼!

 

『魔王さまの巫女姿ブロマイド』

魔王軍結成イベントアイテム。

二千人のロリコンの心をこれでがっちり掴んだ。

 

『魔王城』

魔王さまの住まい。

ロリコンの本拠地。

別名『幼女宮』。

魔王さまが執事を誘惑したり、将軍が魔王さまを着せ替え人形にしたり、さまざまなピンク妄想が生まれる場所でもある。

 

『魔王直轄地』

魔王さまの治める街。

首都ともいう。

今となってはロリコンの街。

主人公の趣味で京都風になっている。

 

『魔王の設定』

ナギナギ将軍の偉業の一つ。

彼がいなければ魔王さまは四十過ぎのマッチョ髭親父になっていたことであろう。

ロリ魔法少女……いや、幼女になったのは、まさしく彼のおかげである。

さあロリコン諸君、ナギナギ将軍に敬礼!

 

 

 

 

 

『魔王のたまご』

メイドの落とし物。

みんな大好きロリコンの夢。

主人公がナギナギをヘルプに頼んだのは大正解だった。

彼の存在がなければ『魔王』は四十過ぎの髭親父になっていた可能性が大なのだ。

さあ、みんなあの偉大な将軍をたたえるのだ!

真面目な設定を説明するなら『魔王育成イベント』開始のキーアイテム。

手に入れることにより未公開エリア『ルクセリア』への立ち入りが可能になる。

中身は自立型AIのモトのようなもの。

環境による学習機能が組み込まれており、最初の設定でどんなものにでも変わることができる。

魔王の設定とちょっぴり内容がかぶっているかもしれないが、偉業は何度でもたたえるべきである。

 

『マギカ・ショップ』

魔法を売ってくれるお店。

自分のスキルに応じた魔法を購入して、扱うことができる。

購入時はカードアイテムになっており、解放することによりスキルスロットに魔法が登録される。

マギカ・ショップで購入できるのはあくまでも汎用魔法であり、レア魔法は売っていない。

それらの魔法はダンジョン攻略や、イベントクリアなどで手に入れることができる。

 

『魔法少女』

愛と希望と夢と萌えをロリコンたちに振り撒く奇跡の存在。

たまに絶望の存在だったりもする。

 

『魔法少女な魔王さま』

ロリコンの夢と妄想を体現した奇跡の存在。

我らが魔王さまは魔法よりも萌えを振りまく魔法少女となることでしょう。

コスプレも大事なお仕事だと思われる。

 

『魔法少女★ロリズムアンバー』

魔王さまの称号。

ロリと萌えと愛を振りまきつつ魔王軍を盛り上げていく。

ロリズムはナギナギの命名。

ロリコンの夢が詰まっています。

 

『マリー女王様』

約二百七十年前に存在していたといわれるとある国の女王様。

暴君で知られており、『パンがないのなら命を献上すればいいのに』というセリフを真顔で言ったという伝説を持つ。

罪人を鞭で打つのが大好きで、自ら処刑を行ったという処刑君主の異名を持つ。

その強烈な魂は呪いとなって鞭に宿り、今は某執事のメインアームとして大活躍中である。

 

『マリー女王の別荘跡』

マリー女王様が別荘として利用していた屋敷ダンジョン。

女王様の鞭が眠っていたのもこの場所であり、運よく(?)それを手に入れた主人公は女王様の高笑いとともにその凶悪なメインアームを引き継ぐことになる。

他にもドレスや宝石などのお宝が出てきたが、もちろんお金に換えている。

幼女時代の服も出てきていたので、こんなことなら売らずにとっておけばよかったと、魔王さまと出会ってから後悔しているとかいないとか。

 

『ミオードタウン』

LO内にある街の一つ。

中世ヨーロッパ風の雰囲気を残している。

主人公のプレイヤーホームがここに存在している。

プレイヤーホームがたくさん売り出されているため、ここを拠点にするプレイヤーも多い。

 

『味覚再生プログラム』

VR内でも食事を楽しめるようにと開発されたプログラム。

現実の味覚刺激を可能な限り再現してあるので、LO内での料理経験はかなりの割合で現実の経験値として反映される。

これだけ聞けばいいことのように思えるが、現実に忠実ということは、失敗に関しても忠実ということであり、つまり料理の下手な人間が失敗作を作り上げた時にはかなり悲惨なことになる。

 

『未公開エリア』

データとして完成しているものの、いまだに公開されていないエリアのこと。

今のところはルクセリアのみ。

 

『巫女服』

みんな大好きコスプレアイテム。

鎖骨とか胸元とかがちらちら見えたりするだけでご飯三杯はいけます、というロリコンはきっと多いはず。

 

 

 

『冥途の子守歌』

ケインズ伯爵の亡霊を押しのけて登場したダンジョンボス。

たゆんたゆんに揺れるおっぱい、メイド服、おもてなし、実に完璧なメイドさんである。

主人公はメイド服を攻撃するときには高笑いとともにある種の興奮を覚えたに違いない。

攻撃スキルは『お帰りなさいご主人様(お盆手裏剣十連発)』『お食事の用意が整っております(お食事爆弾)』『お戯れを、ご主人様(スカートの中に忍び込ませた短剣。本来はその中に仕込まれたパンツとガーターこそが眼福攻撃と思われる)』『お背中をお流しいたします、ご主人様(津波魔法)』『ご奉仕させていただきます、ご主人様(ベッドに誘うと見せかけておいて投げつけるという二重の意味でがっかりな残念攻撃)』などなど、実に多彩な攻撃能力を持っている。

脱がされた服などで主人公の目を楽しませてくれたお色気サービス担当でもある。

倒された後は大金と魔王のたまごを主人公に託して『おやすみなさいませ、ご主人様』の言葉とともに消滅。

メイドの消滅を嘆いたのはきっと主人公だけではないはずだ。

 

『メイド服』

みんな大好きコスプレアイテムその二。

魔王さまに着せるのは恐れ多いアイテムだが、似合うなら何でもいいというナギナギ将軍の意見が採用されて夢が一つ叶いました。

ナギナギ将軍を称えましょう。

 

『メイドプレイ』

男にとって永遠の夢。

お帰りなさいませ、行ってらっしゃいませ、ご主人さま、旦那様、などなど、数々のプレイを夢見て妄想する男は決して少なくはないだろう。

メイドの種類が巨乳派か微乳派かは人それぞれだが。

 

 

『萌』

ナギナギ将軍の羽織。

新選組をモチーフにしている浅黄色の羽織、その裏側に描かれている文字は『誠』ではなく『萌』。

今後は萌組の基本ユニフォームとして定着していくことだろう。

ちなみに防御力は障子紙レベル。

あくまでもノリの産物。

今となってはLO内のロリコン身分証明アイテムになっているかもしれない。

 

『萌敵』

もえがたき、と読む。

アルトリウス女史の造語であり、魔王さまへの偏執的な愛に満ち溢れた単語である。

 

『萌組屯所』

魔王軍の本拠地。

新撰組屯所を模して西本願寺風にしてあるが、様々なところでくまごろうのアレンジが加えられている。

もちろん境内には魔王さまのロリ像があり、萌組のみなさんの癒しになっている。

主にログアウト用だが、ロリコン魂を熱く語り合う場所としても盛り上がっている。

 

 

 

 

 

 

『萌族』

魔族における種族の一つ。

本来なら存在しない種族名だったが、ナギナギ将軍が魔王さまのシステム管理権限を利用して新しくねじ込んだものでもある。

ナギナギ将軍万歳。

魔王さま直属親衛隊の種族でもある。

無敵時間ロリズムタイム』などなどの特典があり、いざというときには強力な攻撃手段を有する。

ロリコンの証明でもある。

一番乗りはもちろんナギナギ将軍。

 

『萌の御旗』

魔王軍萌組が正義としてかかげるべき旗。

ロリコン魂が宿っている。

錦の御旗以上の士気向上効果を持っている、はず?

 

『萌羽織』

萌組正式ユニフォーム。

ロリコンの証明。

LOのロリコン諸君は誇りをもってこの羽織を着用している。

 

 

 

 

 

★や行

 

『屋敷ダンジョン』

フィールド上ではなく街の中にあるダンジョン。

執事ジョブを持つプレイヤーのみが攻略可能。

レアアイテムがよく出るらしい。

たまにいわくつきの呪いアイテムも出る。

 

『薬剤師』

その名の通り薬を調合出来る職業。

サブ職業に選択するプレイヤーも多いが、メイン職業に選択しているプレイヤーもいる。

素材を自由に調合することによってオリジナルのポーションが作成できたりするので、これまたやりがいがあると感じるプレイヤーも多いようだ。

そんな感じでオリジナルレシピを開発したプレイヤーは、薬屋を開いている場合が多く、ほかのプレイヤーからも一目置かれることとなる。

主人公がこのサブ職業を選んだのは完全にノリの産物。

ただし、回復薬や毒薬、爆薬の調合など、プレイする上でも大いに活用している。

 

『有言実行』

必ずしもいい意味で使われるわけではない言葉その二。

どんな迷惑な発言でも強靭な意志と萌えで実践してしまう某将軍は、きっと全世界のロリコンの尊敬を集めてしまうのかもしれない。

 

 

 

『勇者』

魔王の対極。

現在のLO内には存在していない。

魔王がロリ美少女ならば対極としてはマッチョ親父になる可能性が……いらない!

勇者なんてLO内にはいらないよ!

 

『勇者アイテム』

ティアーズ砦攻防戦の為に一時的にモンスターゲットアイテムにされていたレアもの。

1000ものステータスアップポイントが一時的に付与され、自由に割り振ることが出来る。

ただし、効果はティアーズ砦攻防戦が終了するまで。

終了後は自動消滅してもとのステータスに戻る。

 

『幼女愛好家』

幼女をこよなく愛する人種。

ナギナギ将軍やアルトリウス女史がここに属する。

主人公も否定しているが確実に片足は突っ込んでいるはずである。

 

『幼女キラー』

アルトリウス女史が持つ称号の一つ。

逃げて―!

幼女のみなさんダッシュで逃げて―っ!

 

 

『幼女NPCから靴下をゲットせよ』

ロリコンクエストファーストミッション。

幼女NPCの足を左右三回ずつ撫でさすることにより靴下アイテムをゲットできるという素敵なミッション。

多くのロリコンたちを興奮させた。

 

『幼女だっこ』

ロリコンの夢の一つ。

腕にちょこんと腰かける幼女。

お尻の感触が素晴らしきかな。

お兄ちゃんの左腕はボクの指定席! というのは魔王さまのお言葉。

 

『妖刀・九頭蛇くずのへび

ナギナギのメインアーム。

その昔、九つの頭を持つ蛇を殺した際に、その血を吸い取って呪われた刀となった。

それ以来、持ち主は呪われ続けている、という設定。

レベル九十以上で装備できる特別品。

それ以下のレベルで装備すると、一分ごとにHPが五パーセント減っていくという呪い付き。

敵を攻撃すると毒ダメージを付加することができる。

 

 

 

 

 

『黄泉の道標』

魔王&魔王軍の専用訓練施設。

入る前に難易度設定が可能になっており、十段階まで設定可能。

転生システムにおける救済措置。

手っ取り早くレベルアップを行うにはちょうどいいが、あくまでも救済措置なので、六十ぐらいまでしかレベルは上がらない。

それ以上になると入ってくる経験値は微々たるものなので、きちんとしたダンジョン攻略をしたほうが効率がいい。

 

 

★ら行

 

『ラストテイル・オンライン』

ヘカット・プロジェクトが開発した仮想大規模オンラインゲーム。

VRMMOゲーム専用インターフェースである『リンクス』を着用することによりプレイが可能になる。

世界観はスタンダードなファンタジー。

剣と魔法の世界。

一か月間のベータテストを完了して正式サービスが開始されて三年が過ぎている。

アップデートの少ない割には人気の高いゲーム。

戦闘職だけではなく生産職も楽しむことができる仕様になっている。

特に生産職は現実のルールに則った作業を行わなければ製品が完成しない為、ゲーム内で得た経験は現実にも活かされることになる。

鍛冶は難しいかもしれないが、料理やお菓子作りなどは現実と同じように経験値が反映されるので、材料費がかからず、うまく微調整ができるということで挑戦するプレイヤーが多い。

特にバレンタインシーズンにはチョコレート系の生産プレイヤーがものすごく張り切ることになる。

 

『リジェネン島』

ゲーム内ワールドマップの南端にある島。

ブラッドドラゴンの生息地。

かなり難しいダンジョンなので、ハイレベルプレイヤーの挑戦が多い。

平均レベル七十の六人パーティーが適正。

 

『領土戦争』

ルクセリア初の戦争イベント。

人間側のプレイヤーとの本格戦争であり、負けると領土を奪われてしまう。

魔王軍萌組は魔族の誇りとロリコンの意地にかけて見事防衛を果たす。

 

『リンクス』

VRゲーム専用接続インターフェース。

フルフェイスヘルメットの形をしているが、●ーヴギアではない。

使用者の意識を現実から切り離して、ゲームサーバーへと誘導してくれる。

生理現象・脳波や心拍数の異常を検知して接続を強制的に切る場合もある。

 

『ルクセリア』

未公開エリアにある魔王直轄エリア。

デルファイアの森にある壁オブジェクトを解除することにより現れる。

青い空ではなく赤い空はいかにも魔族の土地といった感じ。

主人公の好みにより、城下町はすっかり和風になってしまっている。

これから様々な街が建設されるだろうが、それも京都風になってしまう可能性が高い。

 

『ロード・オブ・ロリコン』

ナギナギ将軍の自称。

自身のロリコンレベルを限界まで引き上げるという心掛けが垣間見える。

 

『ロリ王』

魔王さまの称号の一つ。

ロリなまおーさまです。

 

萌魂ロリコンソウル

魔王さまへの情熱を表現する言葉。

萌組一同はすべてこの魂を持っているはず。

その中でもナギナギ将軍の萌魂は熱く迸る。

 

『ロリコンの恨みはきっと食べ物の恨みよりも恐ろしい』

言葉通りの意味。

萌組諸君の恨みオーラは主人公のHPを精神的に削っているのかもしれない。

時々背筋が寒くなるとかならないとか。

 

『ロリコンマスター』

くまごろうが命名したナギナギ将軍の肩書。

しかし本人はやや不満な様子。

 

無敵時間ロリズムタイム

己の中の萌えゲージがマックスに到達すると、攻撃力と防御力が五分間だけ倍になる。

ロリコンのロリコンによるロリコンのための必殺スキル。

強力なブースト技だが、一度使用すると十分間は使えなくなる禁じ手であり、使用後はステータス十パーセントダウンするなど、それなりのリスクも存在する。

 

 

処刑時間ロリズムタイム

ロリコンたちの嫉妬の権化。

主人公は一瞬で灰にされました。

まあこれぐらいは魔王さまの寵愛と比較すれば当然、みたいな?

 

『ロリわしい』

麗しいのロリヴァージョン?

くまごろうが生み出した新ワード。

ロリわしの魔王さま!

 

『●●●マッサージ』

伏字部分に好きな単語を入れてください。

 

 

 

 

あとがき

 

いろいろな場所で掲載されてきたラストテイル・オンライン。

幼女大好き水月さなぎが趣味と欲望と萌えのすべてを注ぎ込んで書き上げた作品であります。

ロリコンの、ロリコンによる、ロリコンのための物語といっても過言ではありません。

……あとがき最初からなんという出だしをするのだ、と呆れる方もいるでしょうが、紛れもない本音ですので勘弁してくださいね~。

 

最初はプロジェクト・アマテラス。

そして次はエブリスタといろいろな場所で活躍してきたロリコンたちですが、いよいよもって電子書籍デビューです。

ちょっとは賞にひっかからないかなー、と待ってみましたが、どれもひっかからず……(涙)

つまらないものを書いているつもりはないのですが、やはり編集受けは悪いなー、といじけてしまいそうです。

だって読者の反応はかなーり良かったのに、応援もアクセスもトップだったのに編集側では引っかからないって……

いじけたくもなりますにゃ。

 

こうなったらうちから出してやるーっ! てことで電子書籍化!

今のところ二巻まで出る予定です。

中埜さんのエロ可愛い魔王さま表紙を堪能しつつ、ロリコン達の狂気乱舞をお楽しみください。

 

それではまた次の巻でお会いしましょう。

 

                        二〇一四年九月十一日 水月さなぎ

ラストテイル・オンライン

2015年10月25日 発行 初版

著  者:水月さなぎ
発  行:水月さなぎ出版

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水月さなぎ

ライトノベルの電子書籍を出しています。 だいたいワンコイン価格です。

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