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この本はタチヨミ版です。
黒い海
水平線の真上に、巨大なオリオン座
近すぎる星は、怖い
なぜあんな場所に
あんなに小さな舟で
あれは、ヒトがいるべき場所じゃない
日が昇り
人間の世界が戻ってきた
父さんも
生きて帰ってきた
今日も大漁で
魚の名前を言うと
きょとんとして
「そんなの釣ったか、俺」
不自由な目を
しばたたかせて
不安で真っ暗な
此方の世界も
この人には見えない
あのオリオン座と黒い海の境目に漂っているときよりも
もっと遠いところにいる
「父さん」というひと
世代が違う
価値観が違う
語彙が違う
そして
あなたは、こちらに背を向けている
それでも、一番長い間
対話してきた相手は、あなただ
どうにもならないことをどうするか
近づいてはならないものの存在
寂しさの分け前
それを受け取らずに済む方法はないこと
でも、パイの分け前を食べるか食べないかを自分で決められるように
寂しさの分け前も、どうすればいいかは自分で決められること
他人に
それを決めさせてはいけないこと
引き受けるということ
引き受けただけ、自由になれること
続けること
続けただけ、軽く滑らかになれること
あなたがいないいまも
対話は続いている
あなたとの対話を通じて
あなたの生きた歴史がいまの歴史に織り込まれてゆく
あるときは、錨に
あるときは、翼になって
あの人が、そんなことをするはずがない、と
君は言う
するはずがない人が
するはずのないことをする場合があると
君は
いつか知ることがあるのだろうか
経験の欠如と
想像力の限界
sollenの世界に生きて
seinを知らない君は
やっぱり遠い人
気が遠くなるほど長い間
気が遠くなるほど長い路を歩いて
遠い人ばかりが
次々と 立ち現れる
出会いにならない出会いばかりが
傍をすり抜けていく
五感が麻痺して
自分の命の温度さえわからなくなった頃
不意に目の前に現れる
seinを知る人
ああ
あなたも 随分と遠くから来たのですね
どちらからともなく
眼が語りかけ
口元がほころび
あの道のりと時間が
無意味ではなかったと悟る
タチヨミ版はここまでとなります。
2015年10月26日 発行 初版
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