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SIKEINⅡ(3)

シケイン

シケイン出版



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 SIKEINⅡ これまでのあらすじ

「バンドやろうぜ! 」

 威勢のいいリーダー気質の男子、武田の一言をきっかけに、用心深く分析屋の菊池、某グラビアアイドルのキャッチフレーズ『尻職人』から転じて「尻」と呼ばれる女子・倉持、某食品スーパーから「イイダ」と呼ばれる巨漢女子・湖茂田たちは、バンド結成に向け、ついに動き出したのか?! 
 彼らの行く末やいかに?!








    第三話「ヤフオクで楽器を買う」の巻

                      SIKEINⅡ


 バンド結成(?)翌日の放課後。いつもの教室にて。

「たん・とこーろてん♪ とこーろ・てんとたん♪ 」

 イイダが何やら機嫌良く歌をを口ずさんでいる。
 今まで音楽というテーマで接してこなかったので見落としていただけかも知れないが、初めてイイダの歌声を意識して聴いた気がする。何というか、容姿からは想像がつかない、高く澄んだ声に驚いた。

「イイダ、お前、コーラス結構イケるんじゃねーか? 」

 武田も思う所あったようだ。

「えー… 」

 恥らうさまにやや怪異を感じるが、実力は実力だろう。
 …2年2組のスーザン・ボイル。
 言い過ぎた。そう、オレたちは2―2だ。

「おまたー。」

 おまた? 
 倉持がやってきた。

「尻! おせーよ。」
 いつもながら、倉持を迎える武田の荒々しい声が教室に響き渡る。

 倉持は今日は図書室に行っていて、ワンテンポ集合に遅れたのだった。

「だから… 誰が尻なの? 何が尻なの? 言ってみなさいよ。」

 いつもながらこの件ではキレ気味の倉持だが、今日は洋画の吹き替え風に攻めている気がしないでもない。もはや倉持なりに諦めて、楽しみ出したのかも知れない。

「倉持、結局あれからキーボード買ったのか? 」

 昨日の別れ際、バンドに誘われたのをきっかけに前から欲しかったというキーボードを買うことをほのめかした倉持。出し抜かれた感を否めなかったオレは、彼女の姿を見るなりその件を問いただした。

「いや、まだだけど。でもヤフオク見たら、安いのは7万円とかで出てて、手が届かないわけではないんだよね。」

 それならばオレにも出せない額ではない。オレはこれまでのお年玉を全て貯蓄しているし、月々の小遣いもなるべく溜め込んでいる。使いたいことがないからだ。

「しかも61鍵と73鍵のがあって、もちろん鍵盤多い方が欲しいんだけど、7万で出てるの、73鍵のやつなんだよね。他で出てるのが大体10万円以上するの考えると、これは買いかなーってすんごい迷ってるのは事実。」
 倉持は本気で悩んでいるようだ。やはり買うのか。

「買っちまえよ。」
 武田がまた無責任に言い放つ。

「買いたい時が買い時だぜ。それが他人に売れた時にどんだけ後悔するかを想像してみたか? 」

「うう~… でもなあ。」
 躊躇している倉持。金が足りないのだろうか?

「ぶっちゃけ2万円足りないんだよね。」

 …やはりか。

 ここはオレが、このバンドに対してマウントを取るチャンスなんじゃないか? 
 楽器は出来ない。音楽の知識ほぼゼロ。やる気も大してない。
 それなのに何故かこのプロジェクトにかかわれないことには激しく拒否反応を示してしまったオレの、お荷物解消ポイントとして、これは最大のチャン…

「問題ねーよ。経費で落とそうぜ。」

 …は?

「バンドの運営費をさ、みんなで出し合って、そん中から楽器も揃えんだよ。」
 
 武田よ。それ現実味あるか? 現に倉持は7万に2万足りねえって言ってるんだ。5万しか持ってねえってことだろ? 会費を取るって、どういう期限でいくら集めるんだ? 第一、今回のこのヤフオクを落とす金はどうする?

「菊池、お前結構溜め込んでんだろ? とりあえず、立て替えといてくれよ? 」

 …な
「に? 」

 見事にポジションだけ掠め取られた? このままじゃ同じ金出すにしても意味合いが全然違うぜ…

「おいおい、待てよ武田。それはねえよ。倉持にオレが貸すっていうなら別にいいけど。ややこしいのは勘弁してくれよ。」
 これで、とりあえずオレの存在意義は強調される。

「ええ… でもそれは悪いよ。個人的に借金するのは。部費っていうなら、まあ貸してもらいたいけどさあ… 」

 くっ。倉持…

「な、気ぃ使わせちゃうだろ? だから俺は提案したんだよ。」

 武田。何故オレにはその気遣いがない?

「だから尻はもう、気にせず買っちゃえよ。足りない分は部費で何とかすっからさ。」

 武田がいとも当たり前のことの様に倉持にそう言ったので、思わずスイッチが入る。

「オ… オレが出すだけだろうが! 」
 
 …ちょっと荒ぶり過ぎたか…

「分かってるって。我がバンドは最高に頼りになるメガバンクから融資を受けているのさ。なあ、菊池第一勧業銀行よ。」

 武田が明るい雰囲気を壊さず、冗談ぽくそう言った。だが待ってくれ。

 菊池第一勧業銀行?

「…確かみずほ銀行の前身だよね。」イイダが補足した。

「いや、俺が小学校のころ、兄貴と銀行ごっこやると、必ずその銀行が第一勧銀だったんだよ。昔うちのメインバンクだったみたいでさ。今は確かにみずほだけど。」武田が言った。

 銀行ごっこ?

「業績不振の銀行に、突然金融庁の査察が入るんだけどさ。」

 …ん?

「兄貴のやる検査官がオネエキャラで、超面白くてさ。」

「…結構さきがけてるね。」

 イイダ、お前は武田に担がれているだけだ。

「ええー、本当に買っちゃってもいい? 」
 スマホ画面をこちらに見せながら倉持が言った。

 ってかもう落札ボタンに手かけてるじゃん。

「あたりめーだろ? 」
 だから武田が言うなよ。

「なあ、太陽神戸菊池よ? 」
「うるせえ。」

「よし、…買った。」
 倉持が画面を見ながら言った。落札ボタンを押したらしい。

「よっしゃああああああああっ! 」
 何故か落札した倉持ではなく、武田が叫んだ。 

「これで足りねえ楽器はドラムだけだ。そこで、今日はみんなに付き合ってもらいてえんだ。この後予定大丈夫か? 」
 武田はリーダー然として言った。

「買っちゃった~ うそ、マジで買っちゃった~ 」
 倉持はキーボードを買った嬉しさでトランス状態に入っている。つーかオレが金を出すんだよ。一時的に。それを忘れんで欲しい。と口に出せない…

「この後、何かあんの? 」
 イイダが武田に聞いた。

「ああ。皆に俺の家に来て欲しいんだ。是非会って欲しい人がいる。」
 何かもったいぶりながら言う武田にちょっとイラつく。

「てかお前の兄貴だろ? 」
「まあ、そうとも言うな。」

「てかそうだろ? クレヨンしんちゃんかよ。」





「…クレヨンしんちゃんかよ? 」
 
 倉持が反芻した。
 
「武田君ちってどこだっけ? 」
 イイダが不安そうに聞いた。

「心配ない。お前らの家の中では誰よりも遠いところに位置してる。」

「…何でそれで心配ないの? 」
 倉持が素朴に聞いた。

「帰り道、俺の家からお前らのそれぞれの家まではほぼ等距離なのさ。これで不公平はねえだろ? 」

…うーん。イイダが不安に思ってたことってそこなのだろうか?

「ならいっか。」イイダが言った。

 そこだった。





【20分後】

 学校を後にして、土手沿いに歩くこと20分。
 民家や小さな工場が集まる一角に立つ、比較的今風な一軒家の前で武田が止まり、建物を一度見上げてから皆にふり返って言った。



「よし、ここが俺のキンタマだ。」

「…は? 」
「あー、うそうそ。俺んちだ。」

「お前、いい加減にしろよ? 」
 全然面白くねーギャグ放り込んでくんじゃねーよ。女子もいんのに。

「いつも家に誰か呼ぶ時は最初にこのフレーズを口にするんだよ。俺にとっての『ドラムス、アヒトイナザワ』的な? 大切なきっかけなんだ。」

「ウソをつけ。」

 いかん。武田が何言ってるのか良く分かってないのに反射で出てしまった。
 
「え、武田君、ナンバーガールとか好きなの? 」
 そして倉持が食いついた。

「好きだね。ていうか兄貴が好きな物は俺も大概好きだね。最初聴かされた時意味分かんなくても、大体その後で好きになるね。」

 そうだった。こいつら上の影響が半端ないのだ。倉持には姉貴がいるし、イイダにも兄貴がいる。

「え、他には? どんなの聴くの? 」倉持は興味津々だ。

「そうだな。」
 武田は言うなりまたまじめ腐った顔をして、左手を顔の前にかざした。
 そして開いた指を右手で一本ずつ折りながら、言い始めた。



「…レッチリ、マンウィズ、アジカン… 」

「それはもういいから。」
 詳しくは第二話を見てくれ。


「おい、帰ったのか? 」

 見上げると、二階の窓から長髪で髭を生やした人物がこちらを見下ろし、声をかけてきた。この人が、武田の兄貴なのか…

「ああ、連れてきたぜ。」

 武田がそう応え、一向は家の中へと通された。

                    (つづく)

SIKEINⅡ(3)

2015年11月10日 発行 初版

著  者:シケイン
発  行:シケイン出版

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UNO千代

初めまして。 薄い本をいっぱい出したいです。

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