── 千尋は二年前、夏のかけらになった
〈連載小説・第5回〉
七月末に改装工事が終わり、綾香は仕事でバリ島へ旅立っていった。
旅立ちの一週間後、今度は達也が追いかけるようにしてバリ島へ向かう。
バリ島で上手く綾香と会えるのだろうか、という不安を抱えながら、達也は日本を離れることになった。
達也はバリ島のレギャン・ビーチで、綾香の叔母が住んでいるマンションの部屋に掛っていた絵画の背景に良く似た場所を発見する。
そこは、木々の繁みが陽光を遮り、砂浜に大きな楕円形の影をつくっているところだった。その場所に綾香を立たせると、部屋に掛っていた絵画の構図とそっくりになる。
達也はホテルのロビーで綾香と会っても絵画の話題にはふれず、バリ島で行動を共にするようになる。そしてその後の二人の関係は……。
午前十一時発、ガルーダ・インドネシア航空、GA883便は、インドネシア・バリ島に向け、日本を離陸した。
窓側に座っている達也は、眼下に視線を落とした。白い雲の隙間から日本の陸地が見える。時間がたつと陸地の建物の群れは小さくなっていく。日本を離れて行くのだ。初めての渡航のせいで、達也は感傷的な気分になっている。綾香のことを考えると胸がときめき、切なさが胸をよぎった。
日本時間の午後五時ごろ、バリ島・デンパサール空港に到着した。
出国手続きを終えた達也は、キャリーバッグを引いて空港施設の出口に向かった。
空港施設を出て外気にふれると、むせ返るような熱気に包まれた。
いままで味わったこともない、濃厚な匂いがする。首筋や額ににじむ汗をハンカチで拭うと、異国の地に着いた実感がした。
ターミナル付近に視線を向けると、色々なプラカードを持った現地の人たちの中から、J旅行社のプラカードを持った男が目に留まった。素朴で、優しいまなざしの男だった。浅黒い肌の色、がっしりした体躯、鼻が少し低く、横に広がっている。
目が合うと、男は近づいてきた。
「石田さんですか? J旅行社のガイドをしているワヤンと申します。よろしくお願いします」
ワヤンは、流暢な日本語を話した。
「石田です。日本語がうまいなぁ」
ワヤンは、人懐っこい笑みを浮かべ、
「ある程度は、できます。これからホテルまで案内します。どうぞ」
と言って、達也を駐車場へ促した。もう一人の無愛想な細身の男が寄り添うようについて来る。運転手のようだ。
達也は指定されたワゴン車の後部座席に乗り込んだ。
「これから、よろしくお願いします」
と言って、助手席のワヤンは振り向き、J旅行社の名刺を差し出した。
「これから、レギャンホテルまで、車で二十分ほどかかります。では、出発します」
「日本語をどこで習ったのですか?」
「私は、デンパサールの日本語学校で習いました。でも、わからないこと、まだまだ、たくさんあります」
「まぁ、それだけしゃべれば十分だと思うけど」
「ありがとうございます」
ワヤンは、少し平べったい鼻の穴をひくひく動かし、うれしそうにほほ笑んだ。
六車線もあるジャラン・ラヤ・クタ大通りを走った。
道路の中心分離帯の植え込みにヤシの木が並んでいて、郊外型の低い商業施設が、平屋建ての建物に混じって、姿をあらわした。
※この作品のサンプルはここまでです。続いてインタビューをご覧ください。
幸田 玲(こうだ・れい)と申します。
自営業の傍ら、小説を書いています。生業とインディーズ作家の活動で、兼業を目指しています。
公開している掌編小説を自ら脚本化し、業界の方の協力で二本のボイスドラマの制作を行い、YouTube動画で公開しています。また、連載中の小説『夏のかけら』のイメージソングをニコニコ動画・YouTube動画で公開しました。
◆寄稿先 :『小説家になろう』
http://mypage.syosetu.com/134346/
◆Twitter :(@bestplanning)
https://twitter.com/bestplanning
◆Google+ :
http://plus.google.com/115744212482287321693/
◆『なつのかけら』イメージソング
https://www.youtube.com/watch?v=F74WUS96n9M
http://www.nicovideo.jp/watch/sm27403295
色々な年代層の男女の皆様に読んでいただきたいと思っています。
性別、年代層によって、受け止め方や感じ方は様々だと思いますけど。
TwitterやGoogle+等で、宣伝活動をしています。
注目している作家のひとりに、山崎豊子(やまさき・とよこ)氏がいます。
氏は、社会性の強い題材を基にして、複雑に絡み合う人間模様を描いた作家だと言われています。
作品のリアリティを裏付けるための丹念な取材姿勢は、物語に対する、計り知れないほどの思い入れを感じさせます。
原稿用紙5千枚以上の大作を読み続けても、尚、読みたいと願うほどの物語を描いた氏は、素晴らしい小説家だと感嘆するほかありません。
生業とインディーズ作家の活動で兼業作家を目指していきます。また欲張りですが、多方面の方とのコラボ活動やボイスドラマのプロデュースもしていきたいと考えております。
新たに、1月公開予定のPV動画、小説『夏のかけら』イメージソングは、新進気鋭の絵師様と、漫画家の方とコラボ活動もされている歌姫様を迎える予定で、新ユニットのコラボ作品の企画として進められています。
乞うご期待ください。
読者様の心を揺さぶることができるような物語を描きたいと願い、精進してまいりますので、よろしくお願い致します。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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2015年12月23日 発行 初版
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