── すべての猫は、魔法を使う
〈読切小説〉
どっかんどっかん事件が起こるエンターテインメントが好きでそういうストーリーを追いかけてきましたが、日常に起こるちょっとした出来事も、十分エンターテインメントじゃないかと最近思うようになってきました。一つの出来事には、妄想のタネが転がっていて、それを伸ばすと、他の出来事につながっていきます。
というわけで、妄想好きの妻とごく普通の夫と猫がくり広げるストーリーです。
三匹の猫を神々しいような朝の光が包んでいた。
一匹の猫は、その朝の光のきらめきを、つかもうとするかのように、白い丸い手を伸ばしている。
もう一匹の猫は、きちんと脚をそろえて座り、灰色の美しい縞模様を見せびらかし、尻尾が優雅に丸く弧を描いている。
その二匹を、キャットタワーの下段から、見上げる一匹の猫。
上段の二匹がどこか悠然とした自信に満ちた表情をうかべているのに比べて、下段の一匹は不安そうな表情をうかべて二匹を見上げている。
二匹の上段の猫は、下の猫に無慈悲な視線を投げて、ある事実を告げる。
「あなたは神の子を身ごもるのです」
にゃーお。
「宗教画みたいじゃない? 受胎告知のマリア様と、聖ガブリエル。キレイだよねえ」
ちなみに、ここは、イタリアでもなく、美術館でもなく、日本のとある住居である。リビングのPCの前に、夫が座り込み、私が後ろからのぞき込んでいる。
受胎告知は、新約聖書に書かれているエピソードの一つである。処女マリアに天使のガブリエルが降り、マリアが聖霊によってイエスを身ごもることを告げ、またマリアがそれを受け入れることを答える出来事である。キリスト教文化圏の芸術作品の中で繰り返し用いられるモチーフでもある。ジョット、フラ・アンジェリコ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ボッティチェリ、ラファエロ、エル・グレコといった多くの画家が題材に取り上げている。
SNSの画像を見ながら、私が妄想をぶつけると、夫は一気に面倒くさそうな表情となった。
「ああ、そうだね。キレイ、キレイ」
妻の機嫌を損なわないように、適当にお愛想を言っているのを、ひしひしと感じる。どうせお愛想なら、妻に悟られないようにうまいこと機嫌をとってほしい。
「システィーナ礼拝堂みたい」
「違う。それは、ミケランジェロのET(※)」
夫が、すかさずつっ込む。
「そうだっけ? まあ、どっちでもいいよね」
「よくない!」
私がいい加減なのは、今に始まったことではない。それなら、受胎告知の絵画はどこにあるのだろう。たしか日本にも、エル・グレコの受胎告知が、どこかにあったはず……。
私の手がキーボードに、伸びたのを見て、夫があわてて口をはさんだ。
「そもそも、下の茶とらは、オスだし、天使ガブリエルがなんで二匹いるんだよ」
たのしく私が妄想していると冷静につっこんでくる。
つまらない。
※この作品のサンプルはここまでです。続いてインタビューをご覧ください。
東京都在住。仕事と家事の合間に小説を書いています。人生をふり返った時に、きらきらと思い出になるようなものを残そう。それがすべての原動力だったりします。
老後の記念のために、Kindleストアで作品配信しよう! 群雛にだそう! と念仏のようにとなえてここまで来ましたが、存外しぶとくて、老後の記念がどんどん増えています。
・作品一覧
『彼女は少年漫画とサッカーの日々』
『彼女はマッチメーカー』
『彼女は平気でウソをつく』
『むささびレディは君のために翔ぶ』
『ハハとムスメ』(著者オリジナル版)
『ハハとムスメ/あいどる・とーく』(群雛文庫版)
・ホームページ
『感想文な日々 リターンズ』
http://kansoubunn.org/
・Twitter(@koyukikimi)
https://twitter.com/koyukikimi
山田佳江(やまだ・よしえ)さんの「半熟煮卵をめぐる冒険」というWEB連載のシリーズを読んで、こういう感じの小説を書いてみたいと思いました。
穏やかな日常そのものを絵にしようと思いました。それがとっかかりとなって、うちの猫にまつわるストーリーを書こうと考えました。
三週間です。なかなか1カ月以内で書くことはないので、苦労しました。
私は、たらこくらぶというグループの一員でして、学生の頃から、同人誌を作っていました。定期的に集まってはいたのですが、ひさびさに本をだそうと盛り上がりまして、今、次の作品を企画しています。
『かいじゅうにっき』ひろたひかる著
小学四年生の知的障害、自閉症、多動傾向がある男の子と家族のいたちごっこの数々を、お気楽に気の向くままに書いていくエッセイです。
絵を描く人、校正する人、文章書く人、デザインする人、とグループ内でそれぞれ得意分野があって、みんなで本を作るのも良いものだなあと、つくづく思いました。
私は、電子書籍を作るところを担当しています。
近日販売予定です(いつになるかなあ)。
のんびり読んで、楽しんでいただけたら嬉しいです。
年末年始はじっくり本を読もう!『月刊群雛』はインディーズ作家を応援するマガジン。掲載作家は毎号一般公募、巧拙問わず・ジャンル不問・参加は早い者勝ちの、ちょっと変わった電子雑誌です。
2016年01月号のゲストコラムは、マンガビジネス請負人・菊池健が語る『トキワ荘プロジェクトのこれまでとこれから』です! ほか、珠玉の十篇とインタビューを収録。制作裏話や今後の活動予定もしっかりお届けします。
お求めはこちらのリンク先から!
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NPO法人日本独立作家同盟は、文筆や漫画などの作品を、自らの力で電子書籍などのパッケージにして世に送り出している、インディーズ作家の活動を応援する団体です。伝統的な出版手法である、出版社から取次を経て書店に書籍を並べる商業出版「以外」の手段、すなわち、セルフパブリッシング(自己出版)によって自らの作品を世に送り出す・送り出そうとしている方々をサポート対象としています。
当法人の活動目的は、誰もが情報発信者になれる時代における、作家や作品の知名度向上(Promotion)、作品の品質向上(Quality)、作家と読者のコミュニケーション活性化(Communication)などを促進することにより、多種多様な出版文化の振興に貢献することです。情報交換や交流などを目的としたコミュニティの運営、インディーズ作家を応援するマガジン『月刊群雛』の発行、ウェブメディア『群雛ポータル』によるセルフパブリッシング関連の情報発信、勉強会やセミナーの運営などの事業を行っています。詳細は、公式サイトの[法人概要]をご覧ください。
◆NPO法人日本独立作家同盟公式サイト:
http://www.allianceindependentauthors.jp/
2015年12月25日 発行 初版
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