「群雛 (GunSu)」の創刊によせて

仲俣暁生（文芸評論家、「マガジン航」編集発行人）

　１

　インターネットのＷＷＷ（ワールドワイドウェブ。以下、ウェブと略す）という新しいメディアが、私たちにとっての自由な表現の場となってから、そろそろ二十年がたつ。誤用ではあるが慣用的に「ホームページ」としばしば呼ばれた、動きのない壁新聞のような初期ウェブサイトの時代から、コンテンツ管理が標準化され簡単に更新できるようになったブログ（Weblog）の隆盛を経て、いまやコミュニケーションをさらに断片化・高速化させたソーシャルメディアの時代となった。ネット上を流通する言葉の性質は、こうしたウェブメディアの変転につれて、当然のように変化していく。
　そのときどきの流行こそあれ、この二十年の間に、ウェブ上で交わされる言葉の流通量は増え続けた。いつの時代でも同じだが、玉石混交のなかから一種の「文学」と呼べそうな作品も生まれてきた。ウェブはインターネット上に公開された白い紙、あるいは原稿用紙（もっとほかの紙かもしれないが）のようなものだから、そこに言葉を書き付けようと人が思うのはごく自然なことだったし、ウェブページを「非公開」のステイタスから「公開」に切り替えるだけで、書きつけられた言葉は、いとも簡単に「publish（出版）」された。その軽快さと、思いもかけない効果ゆえに、ネット上の不特定他者に向けて自分の言葉を書きつけるのは十分に楽しいことだった。そんな牧歌的な時代が、長く続いた。