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この展覧会は、鹿児島と青森の人たちがインターネットを通じてお互いの「降り積もるもの」にまつわる質問と解答を繰り返してきたプロジェクト「フリツモ」を元に、鹿児島と青森の地でそれぞれの地元ホームセンターにて購入した、生活に根ざした「フリツモ」グッズを展示しているものです。
鹿児島では降灰、青森では積雪に対処するために、日常生活の中で様々なグッズが活躍しています。地元に住んでいれば使い方は自然と知っているけれど、場所が違えばまったく使い方が想像もつかないグッズが並べられています。
この展覧会では、一般の美術展覧会と異なり陳列物にご自由に触ってもらう事ができます。「このグッズってどうやって使うんだろう?」という素朴な疑問を元に、実際に物品をお手に取って触りながら確かめてみてください。使い方がすぐに分かるものから、全然想像がつかないものまで各種のグッズがあります。
キュレーションを行なった私としては、普通の人がする普通の質問の中に、実は「我々が何者であるか」を知るためのヒントが隠れているような気がしてなりません。実際インターネットを通じたフリツモのやり取りの中でも「鹿児島より:青森の人は雪かきって年に何回ぐらいするんですか?」「青森より:年に何回というか、1日に3回ぐらい必要な時もありますよー」といったやり取りがなされてきました。現地の人にとっては、おかしな質問が来たなあ、ということなのですが、前提が分からないということはそういうことなのです。鹿児島の人にとっても、県外からの「噴火大丈夫?」という質問は、1度や2度ではないはずです。
今回、鹿児島の人にとっては「雪の民の目」を借りて、そして青森の人にとっては「灰の民の目」を借りて自分の地元の暮らしを見つめ直すことで、様々な発見がありました。この展覧会もそのような「新鮮で、普通の驚き」を提供できることを願ってやみません。
あいだだいや
オレンジや緑、蛍光イエローといったカラフルな色が特徴の、素材はポリカーボネート製。重たい雪と格闘するため、このヘッドの部分や、持ち手である柄の部分が破損してしまうため、近年では分離できるものが店頭に並ぶようになった。青森県民の強い要望だったとの事。
青森では冬の間は男が出稼ぎに行ってしまうので、雪かきは女性の仕事という側面があるそうだ。なので「ママさんダンプ」。雪かきですくった雪をこの器具に載せて運び、適切な場所に集める。ほうきとちり取りの関係で言うと、ちりとりの役割。実はこのミニバージョンは、そんなお母さんの真似をしながらお手伝いをしてくれる可愛い子どもたち向けの玩具。
「雪かきで雪を掬ってママさんダンプに載せて移動させる」という一連の作業を一つの行程で済ませてしまうのがこのスノープッシャー。近年登場した新しい機材らしい。ヘッドが交換できるのも近年の仕様。ヘッド部や柄の部分が壊れて、交換パーツを求める青森の人々の声に応えたもの。様々な色で売られていて、形状も数種類。各メーカーの創意工夫が凝らされている様子が窺える。
乗って滑るための遊具。小学校の校庭や公園にスロープが登場する青森では、ソリ滑りは昔から子どもたちの定番の遊び。自動車用のタイヤチューブがソリと人気を分けていたが、近年はチューブ無しのタイヤが普及したため、タイヤチューブに変わる専用のおもちゃとしてこういった商品が登場した。
2名で乗れる定番のソリ(スノーボートと呼ばれる)とは異なり、一人で乗るためのおもちゃ。お知りの下に敷いて取っ手を持って滑る。薄いために雪の凹凸をダイレクトに臀部で味わえスリル満点。スノーチューブと同様に滑る向きをコントロールするのは至難のワザなので、ソリゲレンデでは後ろ向きに滑っている人をよく見かける。
出荷するリンゴを詰めるためにある緑色の容器。箱の中でリンゴ同士がぶつかってキズ付けるのを防ぐ。青森のホームセンターではこのモールドやリンゴ出荷用段ボールなどの「出荷グッズ」をよく見かけるが、青森の人に言わせると「リンゴ農家さんは農協で出荷作業するはずだから、これらは親戚に配ったりする時に使うんじゃね?」という答えが帰ってきた。市場に流通していないリンゴの量もかなりの数に上る事が想像できるエピソード。
リンゴモールドの横に展示されていたフルーツを包むための梱包材。桃やマンゴーなども包める。リンゴモールドに入れる場合はこのキャップは使わない。ではいつ使うのかと問い合わせてみたところ「ご贈答用」とのこと。なるほど、人にリンゴを数個渡す時、このキャップに包まれたリンゴであれば大変ありがたい気持ちになる。5つで56円。一つ10円程度の設えで「心を添える」気持ちが伝わる。
金槌に見えるこのハンマーはゴムでできている。釘などを打つのではなく、特殊な目的で使用される。雪の降る青森市内を車でドライブしていると、タイヤが収まっている「ホイールハウス」と呼ばれる部分に、こんもりと雪が詰まっているシーンをよく見かける。通常はそれほど問題にならないが、これが一晩放っておくとガチガチに凍ってしまい、翌日のハンドルさばきに影響を与えかねない。なので大抵の青森の人々はここに詰まった雪を足で蹴って落としてしまうのだが、車を蹴ってボディを傷つけてしまう場合も。そこでこのハンマーが登場。雪の部分だけをめがけて衝撃を与えて詰まった雪を落とす事ができる。とはいえ青森の人にはまだまだメジャーな存在ではないらしい。
このスノーブラシは、プラスチック、ゴム、ブラシといった3種類の素材の違いで、氷、固まった雪、さらさらの雪を除去するカー用品の一つ。柄の部分が伸縮するため高い車の屋根などにも適用できる。こういったカーグッズが概ね男性の趣味に引き寄せられがちなのに対して、「豹柄」というテクスチャーを採用したことで金髪長髪のお姉さまの車にも違和感なく搭載する事が可能。シリーズとして迷彩柄も用意されていた。
一見すると用途不明な黒いプラスチックのグッズは、雪道で立ち往生した車のタイヤの下に敷き込む事によってその場から脱出する事ができるという緊急用のカーグッズ。青森の地においてもタイヤチェーンを素早く取り付けることのできる人はそれほど多くないため、こういったお手軽な脱出グッズが重宝される。
こちらは、灯油を流すための管。送油配管とも呼ばれる。青森の家庭では暖房器具に大量の灯油を必要とするため、家庭ごとに200〜500リットルを貯められる「ホームタンク」と呼ばれる灯油のタンクが設置されている。タンクからこの銅製のパイプを通じて屋内のストーブに灯油を供給して暖房器具を運転している。胴のパイプは自由に形が曲げられ、万が一地震などがあっても破断しづらい素材とのこと。
ホームタンクは長年使用していると内部に水滴がついたりそこから錆が出たり、またはゴミが入ってしまうことがある。それがそのまま暖房器具に流れていってしまうのは大変危険なので、「ストレーナー」と呼ばれるフィルタ機構で水や異物をろ過する仕組みになっている。ストレーナーの中に入っているこの小さなフィルタは事故を防ぐ重要なパーツである。
煙突設置型の石油ストーブや薪ストーブなどで燃焼時に出る排気ガスを屋外に逃すための煙突。煙が出てくる場所を「トップ」と呼ぶようだ。よく見かけるH字の形をしているHトップや、ここに展示したPトップ以外にも、Tトップや多翼トップ、陣傘と呼ばれるものまでかなりの種類が存在している。
立平は、屋根の葺き方の名称。この金具は立平葺きの屋根の上に取り付ける雪止めの金具である。屋根に穴を空けないでも取り付けられるような形状をしてる。屋根から雪が落ちてくる時の衝撃は非常に大きく、首の骨が折れてしまう場合もあるようだ。屋根の雪という課題に対して青森の人々は人の力で雪下ろしをしたり、温水で溶かす装置を設置したり実に様々な方法で対処してきた。立平はもっともシンプルな対応方法の一つといえる。
雪が詰まった鍵穴にはカギが入らない。扉のノブも凍ってしまう事もある青森の冬。部屋の中は強力な暖房器具があるので暖かいと分かっていても、部屋の外に締め出されてしまっては一大事。そんな時にはこの「氷を溶かす液体スプレー」を使えば一気に氷は溶解する。生活の中の様々なシーンで、便利なグッズが生み出される青森の生活は、雪の少ない地域からは想像がつかない細かな知恵で織りなされている。
ローマ時代の兵士や、江戸時代の岡っ引きが手に持っていた十手を連想させるこの武器のような金具は「雪囲い」という名称の雪対策に使われる。屋外の窓枠付近に板と組み合わせて取り付けることで、膨大な除雪作業によってうずたかく積み上げられた雪の重みで窓ガラスが割れてしまうことを防ぐ。鹿児島で言うと台風の対策に近いイメージかも知れませんが、雪が溶ける4月ごろまではずっと活躍する。
あおもり雪国懇談会が跛行するこの独特のカレンダーは、11月から4月までしかない。過去30年間の平均積雪量や昨年の積雪量、雪に関する歳時記が記載された趣深いカレンダー。一つ一つの記述を読みながら、青森に暮らす人々が雪とどのように付き合っているのか思いをはせてみては。
灯油を中和(乳化)して、燃えにくい素材に変え匂いも消去するという優れもの。灯油のタンクや送油管の劣化によって大量にこぼれてしまった時などに役立つ。青森の人が全員知っているというほどメジャーな存在では無いようだ。
かんじき(樏)は、日本民話などの昔語に出てくるので知っている人も多いが、雪に足が埋まらないようにしてくれる装備。青森の雪はフカフカで柔らかく、積もったばかりの新雪の上を歩く時には、これがなければ足が埋もれてしまって、脱出不能になってしまう。新雪のエリアに入る手前でかんじきを装着する必要がある。
現代の若者はヒモで縛る伝統的なかんじきではなく、アルミ製の精悍なかんじきを用いているようだ。例えば、八甲田山でスキーやスノーボードを楽しむ際に持っていったり、冬山ハイキングを楽しんだりと、冬のレジャーでも活躍の場は多いだろう。青森では冬の山を楽しむグッズも充実していて、実際には必ずしも雪に閉ざされた引きこもった生活という訳ではない。
靴の中に敷いて足を冷えから守るグッズ。やらねばならない雪かき作業はもとより、せっかく雪山に遊びに来ていたとしても、足の指先などが冷えてしまうとテンションも一気に下がる。伝統的なきこりやマタギなどの知恵としても、足先に油紙を巻いたり唐辛子をまぶすといった、足先を凍傷から守る知恵があったようである。
長靴の中にインナーとして装着する履物。屋内履きとしても単独で使用する事ができる。長靴を常用する雪の民たちにとって、足先の冷えへの対策は快適に暮らすための知恵と言える。トップエンド部分にはボアがあしらわれていて、ちょっとしたオシャレ心も忘れていない。
上着の下に着るワンピース。あらゆるシーンで使うことができる。背中のチャックを開けることで、着用したまま用を足しやすいようになっているのはとても便利そう。
玄関先に置いて、靴の底についた汚れを落とすためのマット。雪を落とそうとすると目が詰まってしまって機能しなくなるため青森ではあまり見かけない。灰には適切。
高い場所の汚れを落とすことが得意そうな、伸長可能な柄の付いたブラシ。先のブラシ部分は変形が可能なため、入り組んだ場所なども掃除可能。高いところの掃除を行なう事が日常である鹿児島の人々には重宝されるはず。
灰を洗い流さなければならない鹿児島の人々は、様々な「散水ノズル」を知っている。そしてその違いによって使いやすさが異なることも知っている。一般的には園芸の趣味などを持たない限り、散水ノズルの違いを意識することはあまり無い。
通常は自動車に搭載して、被った灰を優しく除去するアイテム。水鳥やダチョウの毛で作られることが多い。ゴシゴシこすると自動車のガラスや塗装にキズを付けてしまうので、灰に優しくそっと退いてもらう。
サッシ専用のブラシ。サッシに灰が溜まってしまうがゆえに必要になる。灰の降らない地域のサッシの掃除は、たまに掃除機でホコリを吸うぐらいで充分。
鹿児島の隠れたアイドルとも言うべき克灰袋。鹿児島ではみんながその存在を知っているけれど、鹿児島以外の人には殆ど知られていない。かつては「降灰袋」という名称であった。「いつから変わったんだっけ?」というのが挨拶代わり。
桜島の小学生が被って通学しているヘルメット(6年間使用済)。いざという時に無くて慌てないで済むよう、常に着用して通学している。
最もベーシックなアイテム。日常的な灰掃除で用いられる。実はホウキの先が枝割れしていて、細かな灰に対処できるよう加工されているなど、鹿児島地域以外ではみられないような工夫がなされているものも販売している。
本書は2016年2月13日(土)〜3月12日(土)にかけて行われた『「触れるフリツモ展覧会 〜灰/雪まみれの往復書簡〜」キュレーション あいだだいや』のカタログです。
編 集:あいだだいや
イラスト:篠崎理一郎
展覧会概要:
2016年2月13日(土)〜3月12日(土)
触れるフリツモ展覧会 〜灰/雪まみれの往復書簡〜」
キュレーション あいだだいや
かごしま文化情報センター(KCIC)
鹿児島県鹿児島市易居町1-2 鹿児島市役所みなと大通り別館1F
主催:文化薫地域の魅力づくり実行委員会、鹿児島市
企画制作:かごしま文化情報センター(KCIC) アートディビジョン
平成27年度 文化庁 文化芸術による地域活性化・国際発信推進事業
2016年2月13日 発行 初版
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