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青春、それはどんなに奔放自由であっても、底辺には一抹の憂愁が沈殿している。強烈な自我に基づく自己存在感への渇望が沸々と在る。ここに収められた詩の数々は精神的奇形期の支離滅裂な心の吐露である。

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詩集 支離滅裂

齊官英雄

啓英社



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  この本はタチヨミ版です。

 目 次

第一章 早春の譜

思慕

おんな

めざめ

おもい

波止場

誕生日~ある少女に~

青い悲しみ

京子抄

別離の後で

僕の人生

未来喪失症

築造

仲仕

大漁

祈り

男の思い

男の理

ある轢死

完全なる遊戯

無の世界

成れるものなら猫にでも

女の理

灰色の物体

娼婦

跑き

昂揚

初恋

孤独

僕の祈り

第二章 青春歌謡詞

夢を消さずに

若い仲間

谷川岳哀歌

城下町 前橋の女(ひと)

上州の男

湯の宿ブルース

男の怒り

望郷

憧れの人

驟雨の季節

人生歩道

友愛

世界の若者たち

ヤングメン・プラザ

走る銀輪・サイクリング

ラブ・デート

太陽への脱出

魅惑の女(ひと)

魅惑

無宿

燃える挑戦者

愛の旅路

波止場の礼拝

海の季節は愛の栞

レモンの香り

愛日記

夕陽の高原

初恋

夏の日の思い出

悲しみの後に

未練酒

慕情

憎いあんちくしょう

京都一条戻り橋

     



  第一章  早春の譜



   

   思慕

   おとうさぁん・・・・・
   おとうさぁん・・・・・
      父の思い出を
      持ち合わさぬ子の
      胸の淋しさ
 
   一、二歳の赤児が
   父親の深い懐で
   すやすやと安心そのもの
   そんな苦しい夢に眼覚めて
   僕の瞼は
   熱く滲んでいます

   四つ五つの男の子が
   父親の大きな手に引かれて
   その足は嬉々として
   跳んで弾む
   そんな朧げな記憶を手繰って
   あなたへの繋がりを
   僕は
   懸命に探っています

   成人した息子が
   大らかな父親と
   盃を酌み交わす食卓には
   情愛が、親子がいっぱい
   そんな涙する情景から
   あなたへの思いで
   僕の胸は
   堪らなく切なく
   震えています

   おとうさぁん・・・・・
      あなたは僕の父なんです   







     

   おんな

   Sさん、君の舞姿の美しかったこと、憶えています
   でも、そんな君にニキビが出来るなんて皮肉じゃありませんか

   Tさんは肉体の線が美しくなった
   成熟した女臭さが憧れを抱かせる
   でも、それだけか?変わらなさ過ぎるじゃないか

   Rさんは情熱家、文学少女
   でも、自惚れの強いセンチメンタリスト
   可愛そうに、馬鹿です

   近所の豆腐屋に若い嫁が来た
   仄かな微笑が幸福そのもの
   でも、彼女が笑う時には一片の知性も無い

   Yさんに子供が出来た
   いい子、母親に似た大きな眼を持ついい子
   でも、新婚の頃の新鮮な羞恥が失われてしまった

   着物の味は母の味だ
   きらびやかな洋服には無い綺麗なものが有る
   女の味も着物の味に求められるべきだ




     

   めざめ

   この妊娠女の温かい体温を通して
   僕の感ずるもの

   それは幼い頃の
   つらい
   想い出だけである

   そして

   僕の抱いているもの
   それはもはや白い物体である
   断じて
   おんななんかではない












   おもい

   おとうさぁん
      父を慕う子が流す
      涙の
      熱さを思い給え

   あなたって色狂い
      女の罵声に
      父の背中に
   ・・・・・孤独、孤独、孤独

   冷たい冷たぁい深夜
   みぞれに濡れて手紙が来た
   あなたなど愛しは致しません
   色狂い
      そうかそうか
      どうせ
      俺の血も汚れているんだ

   ・・・・・でも
   父よ
      あなたへの思いで
      僕はこんなにも苦しいです
      父よ
      でも僕は・・・・・
   父よ、あなたに押された烙印を見る時
   あなたの歩んだ苦悩を想う時
   父よ、父よ、
   思考の末はきっとここへ来る











    

   波止場

   霧の波止場に灰色が流れて
   汽笛が咽ぶ

   にいさぁん
      行って来るぞ、達者で居ろよな、って
      肩を抱いたあの大きな手
   思い出す度にまた泣けるんです
   この鉛色の海を渡ってそれっきり
   二度と会えない
   二人の肉親の二つの心
   兄さん
   兄さんの帰って来るのを
   ただそれだけを
   僕は毎日祈っているんです

   やるせない銅鑼の響きが思慕を告げて
   泣いて消える

   にいさぁん・・・・・
      今度帰るまで、これを俺だと思っていろ、って
      残してくれた錨のペンダント
   思い出す度にまた泣けるんです
   たった一人の肉親である兄さんに
   再び会える日は何日
   兄さんが難船したなんて
   僕にはとても信じられません
   あの逞しい兄さんが・・・・・
   兄さん
   兄さんの無事との便りを
   せめてそれだけを
   海の鴎に託して下さい

   呼ぶ霧笛を
   波が洗い去る
   波止場には
   海猫の群れ





     



  タチヨミ版はここまでとなります。


詩集 支離滅裂

2016年2月12日 発行 初版

著  者:齊官英雄
発  行:啓英社

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齊官英雄

小説家
経営コンサルタント

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