青春、それはどんなに奔放自由であっても、底辺には一抹の憂愁が沈殿している。強烈な自我に基づく自己存在感への渇望が沸々と在る。ここに収められた詩の数々は精神的奇形期の支離滅裂な心の吐露である。
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この本はタチヨミ版です。
おとうさぁん・・・・・
おとうさぁん・・・・・
父の思い出を
持ち合わさぬ子の
胸の淋しさ
一、二歳の赤児が
父親の深い懐で
すやすやと安心そのもの
そんな苦しい夢に眼覚めて
僕の瞼は
熱く滲んでいます
四つ五つの男の子が
父親の大きな手に引かれて
その足は嬉々として
跳んで弾む
そんな朧げな記憶を手繰って
あなたへの繋がりを
僕は
懸命に探っています
成人した息子が
大らかな父親と
盃を酌み交わす食卓には
情愛が、親子がいっぱい
そんな涙する情景から
あなたへの思いで
僕の胸は
堪らなく切なく
震えています
おとうさぁん・・・・・
あなたは僕の父なんです
Sさん、君の舞姿の美しかったこと、憶えています
でも、そんな君にニキビが出来るなんて皮肉じゃありませんか
Tさんは肉体の線が美しくなった
成熟した女臭さが憧れを抱かせる
でも、それだけか?変わらなさ過ぎるじゃないか
Rさんは情熱家、文学少女
でも、自惚れの強いセンチメンタリスト
可愛そうに、馬鹿です
近所の豆腐屋に若い嫁が来た
仄かな微笑が幸福そのもの
でも、彼女が笑う時には一片の知性も無い
Yさんに子供が出来た
いい子、母親に似た大きな眼を持ついい子
でも、新婚の頃の新鮮な羞恥が失われてしまった
着物の味は母の味だ
きらびやかな洋服には無い綺麗なものが有る
女の味も着物の味に求められるべきだ
この妊娠女の温かい体温を通して
僕の感ずるもの
それは幼い頃の
つらい
想い出だけである
そして
僕の抱いているもの
それはもはや白い物体である
断じて
おんななんかではない
おとうさぁん
父を慕う子が流す
涙の
熱さを思い給え
あなたって色狂い
女の罵声に
父の背中に
・・・・・孤独、孤独、孤独
冷たい冷たぁい深夜
みぞれに濡れて手紙が来た
あなたなど愛しは致しません
色狂い
そうかそうか
どうせ
俺の血も汚れているんだ
・・・・・でも
父よ
あなたへの思いで
僕はこんなにも苦しいです
父よ
でも僕は・・・・・
父よ、あなたに押された烙印を見る時
あなたの歩んだ苦悩を想う時
父よ、父よ、
思考の末はきっとここへ来る
霧の波止場に灰色が流れて
汽笛が咽ぶ
にいさぁん
行って来るぞ、達者で居ろよな、って
肩を抱いたあの大きな手
思い出す度にまた泣けるんです
この鉛色の海を渡ってそれっきり
二度と会えない
二人の肉親の二つの心
兄さん
兄さんの帰って来るのを
ただそれだけを
僕は毎日祈っているんです
やるせない銅鑼の響きが思慕を告げて
泣いて消える
にいさぁん・・・・・
今度帰るまで、これを俺だと思っていろ、って
残してくれた錨のペンダント
思い出す度にまた泣けるんです
たった一人の肉親である兄さんに
再び会える日は何日
兄さんが難船したなんて
僕にはとても信じられません
あの逞しい兄さんが・・・・・
兄さん
兄さんの無事との便りを
せめてそれだけを
海の鴎に託して下さい
呼ぶ霧笛を
波が洗い去る
波止場には
海猫の群れ
タチヨミ版はここまでとなります。
2016年2月12日 発行 初版
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