母の上京

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　母から連絡があったのは、夏が終わり、秋が訪れる気配を感じ始めた九月の初めでした。長い休みが取れるので、僕に東京を案内してほしい、と言ってきました。
　僕は十八歳の頃に、大学進学の為に新潟から東京に引っ越しました。母には、新居での荷物の片付けなど、色々と手伝って貰ったのですが、その時以来なので、実に八年ぶりの上京という事になります。
　母が何故、東京に遊びに来たいなどと言うのか、この時の僕にはわかりませんでした。特に都会に憧れを抱いている人でも無かったので、不思議に思ったのですが、死ぬまでに日本の首都くらいは見たい、とのことでした。
　僕にとって、今となっては生活の一部でしかない東京ですが、母にとっては、一度、僕の引っ越しで来たことはあるものの、その時には観光などはしていませんから、未知の土地であったわけです。