夕鷹
君の刃と
僕の刃と
留め具のずれた
切れない鋏
僕ら
切れないことを
隠された
隠して
綺麗に飾られた
公園の葉桜は
ねじれながらに
地面から生えている
きみは自由ですか
葉ざくらよ
目に見えない まして
知らない領分について
人はあまりに無意識になる
ぽつんと ひとり
取り残されるから
わかるよ
花よ
花はな
咲け
散って
みせよ
雨に張り付く
路傍の花びら
散らばる
花よ
もう二度と
帰らない
砕け散らばる
花よ
高い 空
やがて 闇
つつまれて
消えてくの
粉々になった君のあした
明けないまま星ひかり
無くなったはずの星の華
もう戻れない笹舟に
聴こえてくるよ
明日のうた
涙だけ 溢れてく
空っぽになった胸のなか
聴こえてくるよ
明日のうた
夢を みて
眠りたい
ここが 帰る
場所ならな
明日のうたついてくる
あの日見上げた星の華
もう戻れない胸に咲く
空っぽになった胸に咲く
どうしてなんだと泳ぐ海
また 空に
ひかる 星
もいちどだけ
華よ咲け
ひとは輝くものが好きなんだ
わたしはそうでもない
そうでもないのに
川原できれいな石を探してる
わたしは烏なんだろうか
そうではない
風になりたい
涼しい風になって
人を喜ばせに行こう
どこまでも どこまでも
在るがままを受け止めて
草花をなで
海を渡って
一面のひまわりを追い越そう
心を残す一瞬の微笑みを
いくつも いくつも
憶えていたい
たとえば
あなたが
笑っていても
春は
来るのです
再びあなたが
笑って
いても
同じ春は
来ないのです
あなたの
髪は少しずつ
黒と違って
いるのです
わたしはいつまでも
巡る季節を
輪のようにして
指にはめて
いたいのです
るりだまあざみ
ぶっどれあ
すくてらりあ
いわしゃじん
なんばんぎせる
あれなりあ
えーでるわいす
ありっさむ
べるがもっと
えきなせあ
くらんべりー
ちぇっかーべりー
みもざ
なのはな
かれんでゅら
まりーごーるどあふりかん
咲いている
彩りの庭
できました
あおしろあかき
あなたにも
川瀬杏香
なみだの三日月
宇宙に寝そべって微笑んでいる
地上には囚われた心たちの残骸
何処にもないこたえを求め祈る
お月さん、わたしたちは
こたえはなく哭く泣く
夜の隙間を横ぎると狐が私を待っていた
満開の灯り、石畳を照らす鈴蘭
願い一つそこに居るあなたの幸せを
つらなる灯りよ繋いでおくれ
凶暴性について考えていた
己の、すれ違うだれかの
怒り
土の味がする
血のにおいなどせず
土のにおい味、噛んでいた
這って息
絶え絶えと何処にもやれない
因果
土に還そうと
目を瞑り泥になる
無味無臭で泥臭い粗い土は
我
雨を待ち
街は雪
さくら想い
姿あらわし抗い著し洗う憐れ
嗚呼
春よ、はやく雨を連れだせ
余白には
余韻と仄かな懐かしさ
書きたいことの殆どが
消え積もる白い朝
よせてはかえす
したしみ
つづり
さあ、ちいさな
びんにつめて
浜辺もすきだが
港がすきだ
開眼する
灯台にむかい
荒々しく
目を瞑る
漁船にむかい
たおやかに
うちよせる独白
活きている
哀しみも喜びも
ないまぜに
誰にも
知られずとも
水溜りの波紋に
青い点滅がゆがむ
走るな
走るなよ
待ってるから
たとえばある雨の晩に
潤った街を見て誰かが
傘もささずに美しいと
ひとり呟いたとしても
いいんだ
いいんだよ
それも人だから
被写体は指と指で繋いだ
トライアングルの向こう
滑稽に見えるだろうけど
純粋に素直じゃないから
笑うな
笑うなよ
貴方も人なら
水溜りの波紋に
青い点滅がゆがむ
蘇る街の中で
待ってるから
スズキカヒロ(音楽家)
ゲスト参加
時計は時を刻まない
宇宙は広大ではない
何も思い込むことはない
玄関を出てみればわかる
響け、生活の音
負けるな、夢の一本道
夕暮れに佇む犬
影があんなにも伸びて
パンの横に現在がある
窓の先に未来がある
スープの匙を探している
ただただうまく掬うために
君は近くにいない
隣にいる
遠くで僕の横にいる
月の下で一緒に寝ている
花咲風太郎
人間は、よろこびの機械なのです。
ブレイクという昔の詩人が言ったそうです。
この世に生まれるとき、
人は泣きながら生まれてきます。
たいへんなところに生まれてしまった、
そう嘆きながら生まれるのでしょうか。
泣きながら生まれるのは人間だけみたいです。
悲しいのでしょうか。
人間だけは、悲しいのでしょうか。
人間以外の動物たちに、泣いている暇はありません。
なぜならすぐに立ち上がらなければ、
すぐに自立しなければ、死が待っているからです。
人間の子どもは、甘えん坊なのです。
思いっきり、泣くことがゆるされます。
思いっきり、泣いた子どもは、
やがて笑うのです。
人間だけが、笑うのだそうです。
笑顔は、笑顔を再生産することができます。
人間は、笑顔を再生産することができます。
人間は、特別な、よろこびの機械なのです。
風の吹く町でした
なんにもないよな道でした
淋しくなったらラッパを鳴らし
ずんずん歩いていたのです
歩くよりほかに無かったのです
時おり聞こえるラッパの音
それは淋しい僕なのです
ラッパの音が届いたら
ちかくにいるかもしれません
すこし猫背でずんずんと
歩いているかもしれません
黄昏に
嘴で卵を壊し
ふたたび生まれいずる
いくども
そのたびに
初めての空を
真っすぐに飛んでゆく
沈みゆく太陽を掴まえに
濡れそぼる翼ひろげ
ぎごちなく
新しい飛び方で
五月の太陽が
眩し過ぎるので
前髪を透かして
世の中を見ているのです
背後から
寝首を掻かれぬよう
後ろ髪を伸ばしているのです
どうでもいいことが
多過ぎるものだから
瞼をはんぶん閉じているのです
大切なことは
しゃべりたくないので
うたをうたっているのです
いくら話しても
分からないものだから
うたをうたっているのです
ぼくらは言おう、哀しみについて。
一日、一日と、ふりつもる遣る瀬ない思いについて。
此処に生きる感情を。
それは、憎しみではなく。
それは、怒りではなく。
ただ、ただ、ふりつもる淋しさについて。
ぼくらは、此処にいるということについて。
ぼくが、此処にいるということについて。
あなたが、此処にいるということについて。
他の誰でもない。
誰と、代わることもできない。
ぼくが。
あなたが。
此処にいるということについて。
ひとり、ひとりは、か細くとも、声をあげよう。
ぼくらは、此処にいるということについて。
此処に生きる感情を。
憎しみではなく。
怒りではなく。
ただ、ただ、ふりつもる淋しさについて。
あなたの前で
枯れ葉を幾つか捲って消えた
つむじ風を見ましたか
それが私です
ちいさなちいさな種を撒き
おおきくおおきく育つよに
まいにちまいにち水を遣ろう
お天道様にお願いし
ぽかぽかぬくめてもらいましょう
ぼくはまいにち鼻唄うたい
如雨露で水を遣りましょう
やがて咲いた花びらは
やさしいうたを唄うでしょう
花のおわりがくるころに
ちいさな種が生まれましょう
ちいさな種は隣人に
そのまた種は隣人に
地球ぐるりと花咲きこぼれ
やさしいうたがあふれましょう
見知らぬ通りで唄いましょう
見知らぬだれかと唄いましょう
北井戸あや子
コンビニに寄り道して
ビニールの傘を、買いました
ビニールの傘だけ、買いました
白い陽の降る、足音の中
僕は俯きがちに行きました
どうか、このとうめいな傘がよごれてくれますように、と
ただそれだけを思いながら
ビニールのとうめいが、真白に
どうか真白に
いつか見たハイミナールの空箱のように
よごれろ僕のビニールの傘
冷たくなるほどに喉の乾いた午前五時
給水塔のはしごをひとり昇っていた
ひとつ昇るたび
かなしい鉄の音
錆びた軋みは命乞いのように心臓へと触れる
給水塔に立って、ぼやけた藍染めの風景を見た
無機質に点在する、ブリキで出来た玩具のような街並み
無理矢理に乾きが酷くなった口から唾液を飲み込む
行き場所も、居場所も
そこからは見えなかった
空が白みだせば、ブリキの街は最早ブリキではなく
蝕むような鮮明さで現実と変貌していった
行き場所や、居場所
失ったものは体内へ落下する、そして数値へと変わる
そして従順に絡み合う音を手放した夜明けは
ゆっくりとやさしく指を掛けはじめだすのだろう
この穏やかに荒れる心臓へ
喉の奥で懇願をくりかえす
飽き足らず、浅ましく
わたしは
喉奥で何度もまばたきを懇願する
そのせいで渇ききった喉を
無理矢理に鳴らしては他愛のない話
痛いほどの風が煙草を挟む指先から
次々に感覚を奪っていく
次のバスは嫌になるほど遠い
喫煙所から見える狭い空は
もう紺碧に重い帳を閉めだしている
視線を落としたまま望むまばたき
気怠げに灰を落とす仕草を捉えた
その刹那
わたしはこの懇願を渇望だと理解する
まばたきとまばたきのその隙間
ねえ、あなたがまぶたに見る一瞬にも足らない薄闇の中
落下してゆくわたしは、そこに存在していましたか
地球儀を回す
もっとはやくもっとはやく
今日が明日が終わればいいと
地球儀を回す
はやくなりだんだんとはやくなる
国境が陸が海が速度に置き去られ
ただの真っ黒になる
テレビが流していた爆弾の話を思い出し
ほんとうはこれでもいいじゃないかと思う
やがて地球儀がとまる頃
時計の打つ音と
ただしく区切られた地図が
頭の底に残されている
ああ、自由落下にちょうどいい日です
自堕落へ、さかさまに、ゆっくりと
嘲笑を、抱きこみ
傷口を、ひらき
みえるものに、悶え
心地よい暴力の思い出に、耐えながら
落下してゆくこの一個体が持つ
手放せない名前を
どうか
燃やして
さよならにしてください
安アパートに似合ったぼろ畳に寝そべって
するべきことさえも、もてないぼくは
なまぬるい夏風を肌に受けながら
ただ天井の黒ずみ
ぼんやりと数えているよ
出来るものなら、君に教えてあげたい
君へと用意された、あの誰の為でもない六面体の中
机にむかって頭を抱えていた君に
よく晴れた三月、朔の夜
君はあの部屋で溺れてしまったね
何遍も鉛筆を削って
あの部屋と
床に転がった睡眠薬の白い箱と鉄筆を
月日も忘れて、ぼくは写していたよ
君が好きだと言っていた薬と鉄筆
いつも耳を塞いでやり過ごしていた
村役場のメガホンと、下校のサイレン
誰も気にとめない、遠く凪ぐそれを
ひとつひとつ君は聞いていたね
心臓をノックするからしかたないんだと
情けなくわらって
多分ぼくの命は夏の夜くらい短いよ
そう、泣きそうにわらった君は
なにもかもを締め切った不愉快な春の夜に
からっぽの白い箱と鉄筆を、ぼくへ譲ってくれたね
ざらつく畳の上でむかえた夏の夜
君が呟いた夏の夜
もう二度と来ない
月の無い空を知らないまま描いた夏の夜
君を喪って、ぼくがいた
睡眠薬を噛んでも、鉄筆で削ってみても
もう遠い昔の君にはきっと見えないね
教えてあげることなんて出来ないけれど
それでも君に知ってほしくて
それからぼくを見て君に
あの日みたいに情けなく、泣きそうにわらってほしいなあ
ねえ、ごらん
ぼくは、只の僕になってしまったよ
いつも個々の候補作から私の独断による選択で誌面を構成するため、個人的な嗜好が全面に押し出されています。この独断によって詩誌街灯の色が決定づけられ、一冊の詩集のように読んでいただけるのではないか、と考えています。
しかし、それ故に参加者それぞれの個性が減殺されている部分は否めません。まとまり過ぎて物足りなさを感じるところもあるでしょう。
今回も独りで編集にあたる事は変わりませんが、極力それぞれのでこぼこをまるめないため、多くの作品を掲載してみました。新しい試みとして外部から音楽家のスズキカヒロさんにも参加していただきました。いつもの街灯でもあり、いつもとちがう街灯になれたでしょうか。
より多くの人の心に寄り添う街灯の明かりとなりますように。
二〇一六年三月吉日
序文に代えて
詩人のしごと 花咲風太郎 ・・・二〇一六年一月 Twitter
詩篇 夕鷹
鋏 ・・・二〇一六年二月 Twitter
葉桜 ・・・二〇一六年一月 Twitter
決裂 ・・・二〇一六年二月 Twitter
星の華 ・・・二〇一六年二月 Twitter
散歩道 ・・・二〇一六年二月 Twitter
風 ・・・二〇〇九年六月 携帯小説☆フォレストノベル
嘆き ・・・二〇〇九年四月 携帯小説☆フォレストノベル
花あそび ・・・二〇一六年三月 未発表
詩篇 川瀬杏香
御参り ・・・二〇一六年一月 Twitter
十八時(改) ・・・二〇一六年二月 未発表
土の味(改) ・・・二〇一六年二月 未発表
余韻 ・・・二〇一六年二月 未発表
なみ ・・・二〇一六年一月 Twitter
うちよせる・・・二〇一六年一月 ブログ『ちいさなひなた』
蘇る街 ・・・二〇一〇年十一月 携帯小説☆フォレストノベル
詩の粒 スズキカヒロ(音楽家)ゲスト参加
歩み ・・・詩の粒№773 note
光 ・・・詩の粒№763 note
今日 ・・・詩の粒№751 note
君 ・・・詩の粒№454 note
詩篇 花咲風太郎
よろこびの機械 ・・・二〇一六年三月 soundcloud(朗読)
風の吹く町、ラッパを吹く道 ・・・二〇一六年二月 Twitter
前髪を透かして ・・・未発表
ふりつもる淋しさについて ・・・二〇一六年二月 Twitter
初めての空を ・・・未発表
つむじ風 ・・・二〇一五年十二月 Twitter
ちいさな種 ・・・二〇一六年一月 Twitter
詩篇 北井戸あや子
無題 ・・・未発表
無題 ・・・未発表
無題 ・・・未発表
無題 ・・・未発表
無題 ・・・未発表
無題 ・・・未発表
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川瀬杏香
詩集『In The Dark 詩の駅』 BCCKS
詩を愛するひと、絶望と希望の間にあるひと、今を生きるすべてのひとへ。
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花咲風太郎
『裏庭に咲く花』 BCCKS
街灯詩舎(主宰)花咲風太郎の第一詩集
ひとりひとりに特別な物語を。
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北井戸あや子
『改賊版』 BCCKS
詩を書きはじめた14年12月から15年5月の二十歳までに作られた詩から厳選して掲載。
勢いの隙間にあそびも散らばる、未成年詩集。
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『詩誌街灯 創刊準備0号』 街灯詩舎同人誌 BCCKS
或る日、ある時、闇夜に迷う時、傍に在り、灯した明かりは孤独な人のいっときの支えとなり、ひとときの安堵をもたらす光りになれるでしょうか。その時、その心の震えは冷たい空気を伝わり、街灯の明かりを灯し続ける力となります。(跋文より)
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『詩誌街灯 創刊号 2014秋』 街灯詩舎同人誌 BCCKS
愉しい歌も
哀しい歌も
どこかで
希望の灯りとして届くことを願って(跋文より)
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『詩誌街灯 vol.2 2015春』 街灯詩舎同人誌 BCCKS
この街灯の下に偶然通りがかった人、またこの灯りを求めて足を止められた人に、大切な言葉たちが届きますように。(跋文より)
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『詩誌街灯 vol.3 2015秋』 街灯詩舎同人誌 BCCKS
ここに置かれた一冊は、感傷であり、情景の暴露であり、揺れ動く情緒の発現である。
この一冊が求める誰かに届いたときに。その心の奥の一隅に届いたときに。ひとりひとりに揺れ動く情緒となり、完成すると信じて今回も世に送り出すこととする。(跋文より)
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1975年6月10日福島県生まれ。
大学在学中よりバンドマンとして活動を始める。
2005年、シングル「坂道テケテ」、アルバム
「カヒロックス」でメジャーデビュー。
数年の活動休止を経て、2014年より活動再開。
2015年弾き語りスタイルでライブ活動再開。
【Favorite music】
アイルランド民謡、ジプシーブラス、
フォルクローレ、アンビエント、歌謡曲、
童謡・唱歌等々。
“最新式独特音楽”と冠された男性シンガー・
ソングライターのデビュー作。その独特ぶりは、
帯に献辞を提供しているのがワタナベイビーや
知久寿焼、TOMOVSKYであることからご想像を。
民俗音楽的な要素もすべて昭和の日本的に
消化された“歌謡”だ。
「カヒロックス」のレビュー 「CDジャーナル」
ありがとうございました。
2016年3月24日 発行 初版
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街灯詩舎 同人紹介
花咲風太郎
blog:『空と雲と詩と』
ツイッター@h_futaro
川瀬杏香
詩作ブログ:『ちいさなひなた』
ツイッタ―@chiisanahinata
北井戸あや子
ツイッター@kitaido_A
LyricJungle参加
浩一
今回は休載しました。
夕鷹
エブリスタ 『漂流便箋』『ステイション』
ツイッター@takanoeki
ハナサキミドリ
写真