── 最愛の妻との別れの日が……しかし!
〈小説〉
懐かしい顔が訪ねてきた。そして彼は、「俺は宇宙人だ」と言う。そして、「お前は覚えていないのか?」と。
俺は、思い出した。妻と別れなければならない日がやって来る。そして──。
小学校の卒業アルバムを小脇に抱えたその男を、妻は疑うこともなくリビングに招き入れていた。妻にはそういう無防備なところがある。
「だって、卒業アルバムを持ってたんだもん──」
妻は、眉を八の字にして笑う。ペロッと舌を出した愛らしい笑顔に、怒る気も失せた俺は妻の頭をするりと撫でながら言う。
「でもさ、もしそいつが強盗とかテロリストだったらどうするんだよ。今どき、卒アルの偽物なんて簡単に作れるだろ」
だが、開けっぱなしの扉の隙間から見えたその男の笑顔に、俺はすぐに警戒心を解いていた。はっきりと思い出したわけではない。だが、知っている笑顔だ。よく、知っている笑顔だ。途端に懐かしさがこみ上げてくる。俺は、謎かけをするように無言で差し出されたアルバムを繰った。ああ、俺だ。俺が載っている。そして、今と同じ笑顔を浮かべる男が、俺の隣に写っていた。
妻が紅茶を淹れに席を立った。写真を指差して笑う俺に、唐突に男は言った。
「俺、宇宙人なんだ」
「え?」
そんなあだ名だったかと思い出そうとしても、だめだ。一緒に遊びまわった記憶はあるが、その頃の具体的な出来事や映像を思い浮かべようとしても、何も出てこなかった。
「なんだ……やっぱり、お前も覚えていないのか」
一瞬、悲しそうな表情を浮かべて、男は話し始めた。もうすぐ約束の日が来る。その日のため、パニックにならないように級友を訪ね歩いているのだと言う。何の話だ? 眉をひそめる俺に、男は続ける。準備が整いつつあるのだ、俺たちの星からとうとう母艦がやって来て、信号が送られるのだ、世界中を覆い尽くす信号が擬態を解き、俺たちは真の姿にようやく戻れるのだ、と。
「ちょっと待て、何を言ってんだ。アタマ……あ、そうか、アニメでも作ってて、その宣伝か?」
「田中──」男は顔を曇らせる。「思い出せ、お前も同じアレハン星人じゃないか!」
男は少しだけ語気を荒げる。あまりにも長い歳月が流れ過ぎてしまった、皆、忘れている、同化政策が完璧すぎたのだ。アイデンティティを取り戻せ、俺たちはこんな野蛮で低俗な地球人類とは違うじゃないか! 男はテーブルを叩き、握った拳を振るわせた。
「ロドンハレア・トルベロ・ガガ!」
※この作品のサンプルはここまでです。続いてインタビューをご覧ください。
淡波亮作(あわなみ・りょうさく)です。これは現実に起こり得るかもしれない、と信じたくなるSFやファンタジーなどの空想物語を中心に書いています。読み口は軽く、でも、後で心のどこかに何かが居座ってしまう──そんな物語を生み出していきたいと思っています。
昨年、星新一賞への応募(思いっきり落ちました!)をきっかけに、短いものを書くことが楽しくなっていました。練習のためもあって何作かショートショートを書いたうちの一作で、自分としては最も出来が良いかな(クェイル賞に応募した作品より!)と思っています。
星新一(ほし・しんいち)さん!
最近は読んでいないので具体的な作品名は浮かびませんが。
ショートショート好き、ラノベ好き、SF好き、漫画好き、文芸好き。全ての文字好きに!
一日。見直しにもう半日、くらいでしょうか。
Twitterを中心に、自分のブログ「淡波ログ」でも多層的に情報を配信して作品への興味に繋げるように考えています。電子書籍に普段興味がなかったり関わりがない層を取り込むために、絵や歌やCGや、いろいろと間口を広げています。でも、本を読んで貰うって、なかなか難しいです。
忙しくても疲れていても、頑張れば書けるのですが、そういう時に書いたものはやっぱり整理されていなくて、結局後で時間を食ったりします。でも、そうやって書かないと時間を作る方法がないので、いつも脳ミソがぐちゃぐちゃになりそうです。
波野發作著『ストラタジェム』の続きを早く読みたいですね!
「淡波ログ」で連載中の『ルルルとリリリ』は暖かくなるまで続きます。その次は少し間を空けて、このシリーズ(『とっても小さな九つの国』)の三作目、『やさしい北の魔女とわがままな南の王様』の連載を開始する予定です。
いつも応援ありがとうございます! ブログは可能な限り毎日投稿を継続します。週に一度は詩を掲載していますので、こちらにも是非、お越しくださいね!
◆ブログ:『淡波ログ』
http://awa.newday-newlife.com/blog/
今月号から始まるゲストコラム新連載はインディーズ作家必見! プロ校正者・大西寿男による『セルフパブリッシングのための校正術』! 小さなミスも見落とさない、校正の心構えとノウハウを伝授!
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NPO法人日本独立作家同盟は、文筆や漫画などの作品を、自らの力で電子書籍などのパッケージにして世に送り出している、インディーズ作家の活動を応援する団体です。伝統的な出版手法である、出版社から取次を経て書店に書籍を並べる商業出版「以外」の手段、すなわち、セルフパブリッシング(自己出版)によって自らの作品を世に送り出す・送り出そうとしている方々をサポート対象としています。
当法人の活動目的は、誰もが情報発信者になれる時代における、作家や作品の知名度向上(Promotion)、作品の品質向上(Quality)、作家と読者のコミュニケーション活性化(Communication)などを促進することにより、多種多様な出版文化の振興に貢献することです。情報交換や交流などを目的としたコミュニティの運営、インディーズ作家を応援するマガジン『月刊群雛』の発行、ウェブメディア『群雛ポータル』によるセルフパブリッシング関連の情報発信、勉強会やセミナーの運営などの事業を行っています。詳細は、公式サイトの[法人概要]をご覧ください。
◆NPO法人日本独立作家同盟公式サイト:
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2016年3月7日 発行 初版
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