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柳月の代表的な銘菓〈三方六〉が発売されたのは1965年(昭和40年)。前年にオリンピックが開催され、日本全体に豊かさの波が押し寄せてきた時代だった。
当時の柳月は和菓子が主流になっており、創業者の田村英也会長は、洋菓子を含め、新しいお菓子作りの開発を進めていた。そんな中、ドイツから職人を招き、本格的な技術の習得を目指していた時に、同社が目を付けたのがバウムクーヘンだった。そして、パンが主食のドイツ人とは違う、ご飯が主食の日本人が好む、しっとりとした味わいのバウムクーヘンにするため、改良を重ねていった。しかし、しっとりした食感に近づけるほど重量が増し、生地が途中で心棒から落ちてしまう。それを見た田村会長は「これは開拓時代のまきに似ている。人々の疲れや心を癒やしたそのまきのように、人々に寄り添うお菓子として成長させたい」と提案。まきをイメージした形とサイズ(三方六寸)の呼び名をとって、〈三方六〉のお菓子と名前が誕生した。
1988年には、日本人の嗜好(しこう)に合う和製バウムクーヘンとして評価され、第27回「モンドセレクション」最高金賞を受賞。世界的にも評価されるお菓子となる。原料は十勝・北海道産にこだわったが、北海道産の小麦粉はタンパク質が強くお菓子には向いていないため、同社の工場「柳月スイートピア・ガーデン」をオープンさせた2001年、三方六に合う小麦粉を製粉会社と協力して開発した。現在はプレーンの他に、しょこら、メープルなどの姉妹品も発売されている。
十勝の観光名所にもなっている工場は建設時、食品衛生管理システムのHACCP(ハサップ)を北海道で初めて導入。HACCPの認定を初めて受けたのが「三方六」ライン
入社して53年目を迎える工場製造部顧問・七海武雄さん(68)は「より安心安全な商品を提供するために、HACCPの認定は重要だった」と振り返る
柳月スイートピア・ガーデン
音更町下音更北9線西18
TEL0155・32・3366
営:9時30分~17時30分
(4月15日~11月4日は9時~18時) 休:なし
ほんわかバナナの甘い香り。どこか懐かしく子供の頃を思い出す。JR池田駅前の米倉商店〈バナナ饅頭〉。同商店は「米倉屋」として1905年(明治38年)創業。同時に発売した〈バナナ饅頭〉は店の歴史と共に歩み108年、当時の味を守り続けている。
1904年(明治37年)の池田駅開業をきっかけに米倉屋は駅弁など立ち売りを始めた。同時に「お土産菓子を」という目的で考案されたのが〈バナナ饅頭〉。4代目社長の米倉寛之さん(48)は「当時バナナは高級品。庶民は食べることができなかったんですよね。形と香りだけでも楽しめるお菓子を作りたい、と初代が思ったのが始まりだったんです」と話す。
商品名にバナナとあるが〝実物〟は入っていない。「バナナ香料」が使われる。こだわりはこの香料。創業当時と同じものを仕入れている。「最近のバナナ香料は香りが違うので、現在の仕入れ先が製造を中止したら、同じものはできないかもしれないんです」と米倉さん。
原材料はシンプルで小麦粉、砂糖、牛乳、はちみつ、水あめなど。中に白あんが入る。創業時は炭火で手焼き。現在は専用の焼き器で焼く。焼き方は変わっても作り方は代々継承され、米倉さんも3代目の両親が作る様子を見ながら味を受け継いだ。
「昔なじみのお客さんはもちろん、若い方も懐かしい、と言って買われていきます」と米倉さん。世代を超え愛される理由は懐かしく心をほっとさせてくれる味と香り。そして108年前から守り続けるお菓子への愛情なのかもしれない。
カタン、コトンと小さく響く機械の音。焼き上がったばかりの〈バナナ饅頭〉を焼き器から取り出し一個一個確かめていく石井智恵子さん(右)は18年のベテラン。工場は和気あいあいとした雰囲気が漂う
「自分は創業当時と同じものを作り続けていくのが使命です」と話す米倉さん
米倉商店
池田町大通1丁目27
TEL015・572・2032
営:9時~20時
休:木曜
1925年(大正14年)に創業した帯広一の老舗の銘菓は、初代の鈴木肇さん(故人)が今から50年ほど前、「他にはないお菓子を作ってみたい」と編み出した。そば粉のみで仕上げたサクサクの生地で、十勝産小豆のあんと求肥を包んだ上品な甘さの菓子。口いっぱいに広がるそばの香りが特長だ。65年には第16回全国菓子大博覧会で総裁賞に輝いた。
つなぎの役割を果たす小麦粉を一切使わずに生地を練り上げるのは、特許を取得した独自の製法。そばの風味を最大限生かすため、あえてまとまりにくいそば粉100%にこだわった。3代目社長の鈴木培弘さんは「(肇さんが)試行錯誤を重ねる姿は、職人たちが『こんなに材料を無駄にしてもったいない』と思ったほどだったようです」と明かす。
包装紙のデザインは世界的な板画家、棟方志向氏の倭(やまと)絵。作品に取り組む姿勢に感銘を受け、東京まで棟方氏を訪ねた2代目・清さん(故人)の熱い思いに応えて描いてもらったという。祖父と父の情熱に裏打ちされた菓子を受け継ぐ培弘さん。「時代に合わせた味を意識しつつも、伝統を守り続けたい」と話している。
そば粉だけで生地を練り上げるのは至難の技。「あまりに珍しい製法ということで、発明協会北海道支部長賞も受賞しているんです」と語る培弘さん
竹屋製菓
帯広市東8条南7丁目19
TEL0155・23・1758
営:9時~17時30分
休:日曜
秋の季節もので、ケーキやシュークリームなどと比べるとショーケースで脇役になりがちだったスイートポテト。「おいしいのにもったいない。インパクトのある形で売り出そう」。いまやクランベリーの代名詞となった〈スイートポテト〉は、先代社長の水戸部昭二会長のそんなアイデアから、1972年の創業後まもなく誕生した。
皮をそのまま器に使った斬新な見た目と、サツマイモ本来の甘みを生かした味は口コミで評判に。発売から数年後には同社の〝主役〟に躍り出た。
製法は昔も今も変わらない。皮からくりぬいたサツマイモに砂糖、卵、バター、牛乳を加えて裏ごしし、再び皮に盛り付けて焼き上げる。材料がシンプルなだけ、くりぬく皮の厚さなどに職人技が光る。
サツマイモを丸ごと使うため、大きさにばらつきがあったり、収穫した地域や時期で風味が微妙に異なる。水戸部会長の長男で、社長の公平さんは「子供の頃に誰もが食べたことのある焼きイモの味が原点。これからも素材をそのまま生かした菓子を作り続けたい」と語る。
「以前はもっと形がいびつだったり、巨大なものもあったんですよ」と笑う公平さん。「昔も今も変わらず、素材をシンプルに味わってもらうのがクランベリーの菓子」と語る
クランベリー
帯広市西2条南6丁目2
TEL0155・22・6656
営:9時~21時
※東1条店(10時~19時)、白樺通り店・弥生通り店(9時~20時)・エスタ帯広店(8時45分〜20時) 休:なし
「ふわっ、とろっ」。この食感は一度食べたら忘れられない。ユトリベルグの代表的なお菓子〈春駒チーズ〉。1999年の開店以来、ロングセラー商品だ。
開店時は半熟チーズがちょっとしたブームになりつつあった。その中で社長の藤田歩さん (50)は「半熟チーズで目玉になるお菓子。やるなら他にはないようなチーズケーキを」と決意。藤田さんは池田町で100年続いた老舗「お菓子の店 ふじた」の3代目。その舌が満足するまで、チーズケーキの配合を心行くまで〝いじり〟試行錯誤を重ねる。外がぎりぎり固まり、中はとろっとするベストな焼き具合。「これだ」と直感した。
賞味期限は1日(冷凍1週間)。食感を堪能するには買ってすぐ食べるのがお薦め。原材料のチーズはフランス産、低温殺菌の牛乳、音更の卵、最もこだわるのは塩。「ぺルルドセル」、別名「塩の真珠」とされるフランス天日塩。味はまろやかでやわらかい。「とんがった材料は使わない」というだけある。パクッと食べたら心がふんわり。思わず笑顔になる幸せなおいしさがギュッと詰まるお菓子だ。
「オーブンからぞろっと出てくるとゾクッとするんですよ」と笑う藤田さん
ケーキと窯菓子
ユトリベルグ
帯広市西17条南4丁目15-7
TEL0155・33・0134
営:10時~19時 休:水曜
この本の内容はフリーマガジンChai2013年4月号掲載時のものです。消費税については各店にお尋ねください。
2016年3月8日 発行 初版
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