雑誌なんか 誌歌
なんかの花が
なんかの場所で
誰かのために咲いてる
なんかの花が
なんかの場所で
理由も知らずに咲いてる
名前を呼べば
恥ずかしげにそっぽを向く
写真を撮ろか
きらきらきらきら光る水玉
なんかの花が
なんかの場所で
なんかの花が
なんかの場所で
作詞:焦田丸
▼オリエント工業に次ぐリアルドール業界第二位のパラダイス精機は、主力製品の「抱きしめてミッドナイト・リアル」シリーズをそのまま20cm大に縮小した「握りしめてオールウェイズ・ミニ」を発表した。
▼同製品は、従来は150cm〜160cmの人体サイズだったものを、そのままの構造、材質で約1/8サイズに縮小したもの。リアルドールの最大の難点である可搬性の低さを、抜本から解決することに成功した。
▼同社のリアルドールを自宅に20体所有するヘビーユーザーのHさんは「これまでドールをデートに連れ出すのは大変で、夜明けにシーツを被せてクルマに乗せたり、人里離れたところにしか行けませんでした。それを見られて通報されたこともあります。この新作のドールなら、普段からポケットに入らせることもできるし、全員をバッグで連れ出すこともできるので、ありがたいです。これも全員揃えたいですね」
▼新製品は、手触りを従来品と同等のままでのスケールダウンに成功。内部構造もそのまま縮小に成功している。本来の目的を果たせないのでは? との質問をぶつけてみたところ同社広報部から「小指であれば入ります」との回答を得られた。
(取材:フリーライター 後堂流)
AP通信
▼このたび、GooPle glassの開発チームが、眠りながら読書ができる画期的な端末「Sleeper's」を発表。開発チームによると「眠っている時間にも読書ができるようにと考え、作ってみた。人体への多大なる影響はあるが、視力低下を防げるため、これからこの端末で読者をするひとが増えるだろう」とのことだった。
▼人体への多大なる影響もさることながら、彼らの目は座っていたことや、なにもない宙空の一点を見つめていたことなども気になるところだ。
▼インタビューを続けようとしたが、彼らが突如として私に「おまえ、盗聴器をしかけたろ!」と叫び刃物を持って襲いかかってきたため、私は中座せざるを得なかった。
また、開発中、たずさわった人間が何人か行方不明になっている。
発売日は未定。
続報が待たれる。
(記事:輸液ポンプ)
黄泉売新聞
▼黄泉の国三途の川県 賽の河原町ではいま、カラフル石が流行している。
利用者はおもに子どもたちであるが、大人の女性にも受けているという。
▼「この石だと積むことが楽しいので、鬼に崩されても苦にならない」と、利用者には好評だ。
死生観が変わりつつあるいま、黄泉の国でも多様なニーズに応えるため、様々な工夫がなされている。
あの世スタッフによると「親御さんからは、あの世で子どもが楽しんでいるのは嬉しいというお声もいただいております」とのことだった。
このカラフル石が、遺族にとっても慰めになっていることは確かなようだ。
黄泉の国在住(現世ではアメリカ在住だった)人々からも「とってもキュート! マカロンみたい!」という反響もあり、注文が相次いでいるという。
▼筆者は、あの世での生き方(?)にも多様性が出てきたことを肌で感じた。大人用の石積み場もあり、そこは交流の場となっている。筆者は先日、鬼と会った折、「最近どう?」などと世間話を試みた。
「いやあ、倒しても崩しても、みんなむしろ喜ぶんだよね。閻魔様には叱られる。でも、こういう仕事しててよかったと思うよ。だって笑ってる子どもたち見てたらさ、おれも嬉しいんだもの」
黄泉の国での働き方も変わってきているようだ。
やり甲斐のある仕事を、あの世でもできるということは、筆者にとって新たな発見であった。
▼黄泉売新聞社では記者を募集している。あの世に来たら是非、筆者か、あるいは社のほうへご一報願いたい。
連絡先:XXX―4392―XXXX、黄泉の国、と覚えてください。
(記事:輸液ポンプ)
▼ニューヨークハードコアの雄・Suicidal Issueが2016年7月15日に予定していた日本公演をキャンセルすると発表。
▼理由はメンバー4人のうち3人がニューヨーカーでなかったことに対し、唯一のニューヨーカーであるアルフレッド・テイラー(Dr)が激怒しオフィシャルTwitterアカウントにてそのことを暴露。それがファンの間で波紋を呼び今回の公演キャンセルへと繋がったようだ。
▼3人のメンバーは「心意気はニューヨーカーだ」「ニューヨーク在住期間が一番長い」「本当はボルチモアハードコアと名乗るべきだったが言い出せなかった」とのコメントを寄せている。
▼今後の活動については未定だが、アルフレッドは「今はENKAに興味がある」とだけTwitterで書き残し行方不明となっている。
チケットは6月15日より払い戻し受付を開始するとのこと。
公演中止
7月15日(金)沼袋手刀
▼尚、所属事務所であるStreet Storyはアルフレッドの目撃情報を募集している。
(記事:二階堂差歯)
▼舟橋市観光協会によれば、市内随所に設置されているゆるキャラ「うなっしー」の顔出し看板作者である柳下土壌氏が著作人格権を主張し、市を提訴したとのこと。氏によれば、SNSに日々投稿されている顔出し看板の一般人顔が著しく当該ゆるキャラのイメージを貶めているというものだ。
▼氏が件の看板を製作したのはゆるキャラの可愛らしさによって市のパブリックイメージが向上し、相乗効果でキャラクターの人気もウナギのぼりになることを期待していたが、どうにもこうにも絵にならない写真ばかりで、却ってマイナスイメージばかりが蓄積しているというもの。
▼「うなっしー」が某有名ゆるキャラをパクったものであることは言うまでもないが、どうやら観光協会の主張も、この柳下氏によって創作されたものである可能性を、記者は独自の調査によって確認したことを報告するものである。
(記事:嘘屋八百衛門)
▼インドのガネーシャ大学理学部生物工学科のダンボル教授は、長年の品種改良の末、自宅でも飼うことができる極小サイズのインド象の開発に成功したと、国際的科学ジャーナル・ナンチャー誌に発表した。
▼この新品種の像は全高80cm程度で成獣となり、それ以上は成長しない。長年小柄な象のみを交配させ、ついに実現した。犬や猫と違い、象は世代交代に時間がかかるためなかなか実現しなかったが、1990年に開発された成長ホルモン増強剤・ムッシュムラM錠の登場で交配が一気に加速し、当初は200年かかるといわれた実現を大幅に早めることができた。
▼頭がよく、エサも干し草で済み、長生きするため、ペットとしては非常に都合がいいこともあり相当売れることが予測されている。研究所には連日問い合わせの電話が殺到しているとのこと。
▼また教授は、耳の大きな個体を集めて交配させ、耳での飛翔が可能な品種の研究しており、サーカスなどの娯楽需要への対応も視野に入れていると述べた。
(記事:有象無象)
▼「猫は地球外生命体である」という仮説は、あまりに猫のSF小説への登場率が高いことから、都市伝説的に広まった言説であるが、ついにその証拠となる物証が発見されたというニュースが、国際地球外生命体探査協会(IESA)から発表された。
▼IESA付属地球外生命体研究所のダン・シャーリー博士によると、日本の瀬戸内海地方にある小都市尾道近海の小島・猫森島に住む猫を調査したところ、人間がいないところでは猫の鳴き声とも違う謎の言語的鳴き声で会話を行っていたということがわかったというのだ。
▼猫族は非常に聴覚・嗅覚が鋭く、とくにバッテリー駆動時に発生する電磁臭には敏感で、隠しカメラや盗聴器は即座に発見され、猫は猫をかぶったままでその実体は明らかにされてこなかった。
▼しかし、シャーリー博士は一念発起し趣味のストリートダンスを生かして劇団四季に入団し、3年間かけて猫の形態模写を本格的に習得。ついに猫として猫社会にとけ込むことに成功した。
▼さらに3年間の潜入調査により、ついに猫の長老への謁見を果たし、猫族が元は地球外生命体であったことを突き止めたのだ。長老は、遥か昔、猫星から移民ロケットで飛び出し、まだ氷河期だった頃の地球に不時着。そのまま野生生物として生きる道を選んだという伝承があることを述べたという。
▼その後、博士は熱いスープをフーフーしないで飲んだことで身分がバレそうになり猫コミュニティを脱出。海に飛び込んで逃げているところを通りがかりの漁船に発見され保護された。
(記事:ランド・グ・シャ)
ウィリー・アルバ 新雑誌の企画だけどさ、『第一回 なんか文学賞』とかどうかな。なんか勝手にインディーズ本の中から独断と偏見で賞を与えるっていう。そういやKDP文学賞はどうなったんだろう。
野方図頼 いいですね。選考のチャットログをそのまま載せましょう。しかも、その場で探す感じで。インディーズに限らず無制限でもいいかも。あ、KDP大賞は知らんです。
ウィリー じゃあ、それぞれ持ち寄りで8作品くらいノミネートさせて、選考会しますか。読むの大変かw。
野方 読まないで選ぶもの手ですよ。表紙と書誌情報、作者の人となりを検索しての「印象」で決めるw。もちろん読んでみてもいいけど。
ウィリー 「なんか文学賞を受賞したんですよ」「へえー、なんの文学賞?」「だから、なんか文学賞……」
野方 嫌がらせで権威のある賞にしてやるかw。このネタの利点は、候補となる作品が無尽蔵にあるというところですよね。本屋大賞に近いのかなw。
ウィリー 誰だったかなあ、選考員が「山崎ナオコーラっていう筆名がいい」って賞に推してたやつw。源ちゃんだったかな。まあ「業界一適当な文学賞」って冠なら、読まないで選んでもいい。
野方 賞金か賞品にするかはあとで何か考えましょう。一方的に選んで一方的に決めて一方的に賞を与えて、賞金がほしければ3ヶ月以内に連絡しろ、という感じで。
ウィリー 住所分からないと送れないものだと大変ですよね。某社さんの「使用済みPDF」って発想も面白かったけど。でもきっちり賞金か賞品があるっていうのは(少ない額でも)権威づけにはいい。
野方 すげえ田舎のデパートの商品券とかも視野に入れて。そういえば、テレカはもう買えないのかな。
さば魔 このひとテレカプレゼントする気だ……。田舎の観光地とかにまだありそうですね。
ウィリー テレカ、うちの引き出しに何枚かあったはず。
野方 カンパ制でもいいかも。
ウィリー なんか、最近Twitterであったよね。若い人が古いアニメ雑誌見てて「テレカってなんだ、トレカの誤字だろwww」とかゆってたの。
野方 トレカで電話かけるんかw。というかミントのレアのトレカでもいいのかなw。
焦田丸 テレカ、いつもお財布に入れてますよぉ〜。
野方 仮にテレカあっても電話番号覚えている先が全然ないですわ。ケータイ落としたらアウト。
焦田 僕は自分のケータイ持ってないんで、いざという時自宅に掛けるのに使いますよw。
野方 あとは長崎屋商品券が料率良さそう。
ナーニ・シトンネン 豪華作家それぞれのサイン入り未使用不用品。ゴミじゃないよ。おうちに眠っている使わないものに各々がサインする。
野方 その副賞は素晴らしい
ウィリー 「雑誌なんか」の性質上、いやげもの的なプレゼントでも全然アリですよね。
焦田 真面目な話、皆さんはサインってあるんですか? サインないと困りますよね、ファンとかが本持って押し寄せたら。あ、本がないか。
野方 サインないっすね。印鑑にするか。……サイン研究企画もありだな
鬼はる子 高校生の時、授業中にサインの練習してました。
シトンネン ニホンゴで書けるように練習しときます。
野方 他人の本に勝手に自分のサイン入れて、逆に恥辱を味わう企画とか……。
焦田 サインは小学生の頃はやりましたね、アイドルの真似とかして。
さば魔 文学賞とかやるとガチに目くじら立てる人がいるので条件を『読んだことない本』に絞った方が良いと思うのですがどうでしょうか? あと電子書籍限定ですか?
野方 一切の限定は不要であると思います。思いたいです。思いましょう。
さば魔 わかりました、思うことにします。
野方 まあもらって怒る人もいないでしょうし、もらってなくて怒る人もいないと思いますw。怒るのは「応募したのにもらえなかった人」だけじゃないかと。あと勝手に怒って宣伝してくれる人がいるとむしろ嬉しい(炎上商法w。
さば魔 なるほど、応募するシステムでなければ怒るひともいないか。そうかも。おっけーです。
輸液ポンプ 読んだことないのに想像で選評を書くとか、内容紹介しちゃうとか、あれこれ言うのは、おもしろそうだと思いますねー。
ウィリー 文学じゃなくてもいいんかなw。
野方 世界の全てはブンガクに含まれます!
ウィリー 私は怒られても別にいいかなーって思いますけど、鬼はる子先生も怒られることを心配していたし、不安に思う人がいるなら、さば魔先生のいうように「読んでない本限定」とかに逃げてもいいと思いますよ。あと、「業界一てきとーな文学賞」の冠は入れときませんかw。
はる子 心配っていうか、この手の賞にガチで期待しちゃう大まじめな人が割とKDPには多い印象なんで、冗談を冗談として受け止められる器の無い人に賞を出しちゃうと面倒くさい騒ぎになりそうだなー、と思ったのです。第二号の最初のページがいきなり謝罪文ってのも面白いかとは思いますがw
さば魔 謝罪だけで一冊出しますか。別冊謝罪号。
司会 わかりました。怒られケアは私の方でどうにかしますので、自由に選んでください。
ということで「第1回 なんか文学賞」の開催が決定した。
ノミネート方法
なんかグループメンバーが1人1点ずつ、推し本を持ち寄る。
選考方法
一次選考で4点に絞る。
二次選考で2点に絞る。
最終選考で受賞作品を決める。
※具体的な手法は各選考にて説明する。
賞品
テレカほか
受賞条件
受賞者は本誌発売から三ヶ月以内に本誌編集部にコンタクトを取り、本人であることを証明して受領すること。事務局から受賞者への積極的な接触は行わない。
司会 じゃあ第1回なんか文学賞の選考をはじめましょうか。年代、メジャーかインディーズか、プロかアマは一切問いません。小説か、マンガか実用書なのかもどうでもいいですね。教科書や事典でもいいです。ただし、他の審査員も存在を確認できることが条件です。俺の空想の本なんだけど、は一応アウトで。買ってないし読んでないんだけど、よさそうだから代わりに読んでみて、はセーフ。とりあえず投票式で8冊→4冊→2冊→1冊で絞り込む方式です。各自、ノミネート作品を提示してください。仕様上ストアへのリンクは張れないのでご了承ください。
輸液ポンプ 私は『てにをは辞典』(三省堂)を。
野方図頼 小内一さん編ですね。受賞して取りにくるかどうかw。あるいは怒られたりw。
ポンプ 怒られるのはいやです……。私も、牛も殺せないほど臆病なんで……。
ウィリー・アルバ さらっと聞き流したけど、牛www。
ポンプ よかった……。誰も気がつかなかったらどうしようかと。
新世界の神キラ総裁 ゲームのモンハンで冒頭の牛みたいなの殺して食事するシーンで心が痛んでそこで早くもモンハンをやめたワタクシです……。
ポンプ うへえ。心中お察しいたします。
野方 マインクラフトでは牛殺しまくってます。
ナーニ・シトンネン 私も怒られるとダジャレすら言えなくなるほど落ち込むタイプなので、逃げることを前提に、読んだことない本を選んで、てきとーにあれこれ言うことにします……。
さば魔 いろいろ迷ったけど、『CIPHER』(成田美名子著)で。2人で世界が完結していたイケメン双子が、他人と関わり愛や悲しみを知っていく。途中に出てくるとあるシーンは、Voがガクトになる前のMALICE MIZERの歌詞『抱きたいと思うだろうか、殺したいと思うだろうか』に絶対影響を与えていると思っている。あとさば魔の詩世界に一番影響を与えた、さば魔がこれまで一番多く読み返した本。
ウィリー 成田先生とか受賞しちゃったら、賞品受け取ってくれるんかな。
さば魔 受け取るのが難しいようでしたら私が代わりに受け取るので大丈夫です。お会いしたら渡しておきますよ。
司会 基本的にあっちから取りにくるまでこちらからは動きません。
シトンネン もしかしてみんな、読んだことある本をノミネートしてますか? 私、4コマ漫画書くので、昔好きだった4コマ漫画にしようかな……と。『王様はロバ―はったり帝国の逆襲』(なにわ小吉著)をノミネートします。ていうかAmazonの書影ちっちゃ! 推薦コメントは『ジャパニーズマンガ、ごっつおもろいやんけー。笑いとまらへんで~。みんなもおもろいから読んでみろください!』で。
ウィリー そのわけのわからないちっささも王ロバっぽいw。
シトンネン ほんとにわけわからなすぎです、この小ささw 王ロバ、ご存じでしたかw。
さば魔 わあ、王様はロバわたしも大好きです!
シトンネン 王ロバ、大人気! ……ところで文学賞ノミネート作品として大丈夫なのかは、なんか不安w。
ウィリー 『亞書』はもう販売停止になっちゃってるしなー。うーん。牛野さんのでもいいかな。『火星へ行こう君の夢がそこにある』(牛野小雪著)で。『オデッセイ』の予告編を観た時、「牛野先生の小説、マット・デイモン主演で映画化したのかな?」と思いました。どちらの方が面白いのかは、まだ『オデッセイ』を見ていないので判断できかねますが。
野方 じゃあ、もうとっておきを出すしかないな。
『魔羅の肖像――ルーヴル美術館を笑ふ――』(日垣隆著)をノミネートします。我々とは縁遠いと思いがちな世界最高峰の芸術作品を、一層身近な存在として認識させてくれそうなところが素晴らしいと感じました。表紙におちんちんと明記してあるのも好感が持てます。Kindleの海底にはまだまだ未知の書物が潜んでいるのです。
ウィリー ルビが読みにくいw。
野方 仕様です。
鬼はる子 あたいのノミネート作は『お宝姉妹の大冒険』(山吹ショウマ著)。推薦理由は作者が知り合いだからwwww。やっぱり賞にはコネのごり押しを混ぜないとね! 内容は読んだけど二十年以上前のことなんで忘れました。この本のアンケートハガキをやらせで何枚も書いて、自宅からなるべく離れたポストに投函した懐かしい思い出が蘇る一冊です。そもそもの発行部数が少ないのでBOOK○FF(伏せ字にしました)でも滅多に見かけない稀覯本です。
野方 これ「文学賞」なんだがマンガのノミネート多すぎない? いや、これらも全部ブンガクなんだ!
さば魔 素晴らしい……文学は全てを内包していますからね。
はる子 知人を突っ込むのはなんか危険な気がしてきたので撤回するかもしれないw。
さば魔 それはある意味文学賞の王道かもしれませんがw。
焦田 私は『ヴォイニッチ手稿』にします。
司会 ヴォイニッチが受賞した場合、ヴォイニッチの墓を見つけてテレカを差し込むミッションが発生します。
野方 それ書いたのはヴォイニッチ本人じゃない気もするがw。
司会 本人が受け取りにこない場合は何もしない方針で。
焦田 あ、推薦者が代理に受け取りますよ。大事に使いますw。
司会 そんなシステムはない! 全員PD出してくるようになるw。
キラ総裁 『団地のナナコさん』(ヤマダマコト著)を推します。とある思いつきでKindleストアで「Kindle本/文学・評論/SF・ホラー・ファンタジー」ジャンルで「鉄道」を探すとなんとこの本と浅田次郎「地下鉄に乗って」の2冊しか出てこない(16/04/23 22:07調べ)。前々から「Amazonのジャンル分類は馬鹿じゃないのか」と思っていたけどここまで馬鹿とは。しかもこの本のサンプルをiPadでダウンロードして、さあ買おうと思ったら購入リンクがiPadのKindleアプリに「ない」。どこにもない。ここまでして読ませたくないんだAmazonKDP! と思ったら、この本がすごく孤軍奮闘しているように思えてきた。そりゃKDPで稼ぐのはしんどいわけだわ、と今更思ったり。以上Amazonへの苦情ということで(オフトピ気味ですまん)。で、作品としては新津という街での話がホラーSFとして書かれている。新津といえば鉄道ファンなら知っているJR東日本関係の車両を作る車両たちの故郷。俄然興味が湧いたので読んでみると、若干ホラーSFとしてのロジックの詰めの甘さがあるかもだけど、それよりこの新津という街を書くことの熱意は買いたい。ちゃんと物悲しい空気は伝わってくる。文学で大事なのはロジックや情報の正確さも大事だけど、それ以上に伝わってくるものが大事。著者の新津への愛とそれに基づく世界は伝わってくる。表紙はそそらない、タイトルもそそらない、文章長そうだわ(事実読んでみたら長い)という三重苦を抱えながらの奮闘に涙が出てくる。だが、思わぬきっかけで読んだのに、私は楽しんでしまった。ほんと、KDPをはじめ、作品との出会いってこんなにも難しいものなのかと現状を慨嘆してしまう。というか正直、私もこのジャンルに何か投入しておけばよかったわいと思うのであるな(ヒドイっ)。
司会 はい。では、出そろったようなので、一次選考に入りましょう。
司会 一次選考を始めます。まずは自由に4作品選んでください。支持の多い順に二次選考に進みます。所感などあれば添えてください。8人出揃ったら集計します。トップ4が決まらなかった決選投票をします。表記はフリースタイルでOKです。
新世界の神キラ総裁 わたしはこんな感じ。
●団地のナナコさん 新津車両工場が出てる時点ですでにポイント高い(ホントカ。まだサンプル読んだだけだけど案外真面目にいい。不覚なり。
●てにおは辞典 欲しいけど高い……高すぎてほしいけど買えないよママン。強気価格すぎだけどいつか読んでみたい。でもなんか大賞とか贈っていいのか? 相手は三省堂だぞ。まあそれはそれで面白いからいいか。
●ヴォイニッチ手稿 貴重すぎて読めないよママン。なんか民明書房刊に近い感じなのかな。これから困ったときはヴォイニッチ手稿にあるとおりに、って書こう。
●火星へ行こう君の夢がそこにある 試し読みと言いながらAmazonだと内容紹介のところにうばっと目いっぱいに冒頭が載ってる。こういうやり方もあるのか…。
推しは以上4点。以下落選評です。
×お宝姉妹の大冒険 なんにもわかんないよママン。内容紹介もないし、中古品で買うしかないのか…。ぐえっ。
×王様はロバ これもなんにもわかんないよママン。90年代はこういうコミックが埋もれていった時代であるのう。
×CIPHER なんにもわかんない上に高価いよママン。ユーザーレビューから探ろうにもなんにもわかんないという。
×魔羅の肖像――ルーヴル美術館を笑ふ iPadじゃ読めないよママン。
輸液ポンプ ヴィオニッチ、魔羅、サイファ、王様はロバ でお願いします。。タイトルとか表紙とか、ぱっと見で選びました。
野方図頼 てにをは、お宝、ロバ、火星で。読んでみたいと思えた順っすね。僕は他の4点について選ばなかった理由を述べます。
・団地のナナコさん たまたまタイトルと表紙にそそられなかっただけ。
・サイファ 少女マンガ系はめったに読まないってだけ。
・ヴォイニッチ手稿 常人には読めないらしいので。
・魔羅の肖像 まあ読みたいけど、5番目なので。
焦田丸 ヴォイニッチは、誰にも読めませんぜ。そこが奇書たる所以で。絵の不可解さを楽しみます。
キラ総裁 いい感じにばらけてきてますね。
司会 票が読めませんな。
キラ総裁 選考は難航し(嘘)。
野方 お宝姉妹の予備情報の少なさにツボった。表紙以外一切情報がないぞw。
キラ総裁 そう。全然ないのよ……。
野方 めっちゃ興味湧きますわ。
キラ総裁 ああ、逆にそうなるよね。なるほど。奥が深い(ホントカ?)。
ナーニ・シトンネン 自分でノミネートした作品って選んでよいんでしたっけ?
キラ総裁 ええっ、それダメでしたっけ?
司会 特に何もルールはありません。
シトンネン 自分でノミネートした作品を選んでない先生がいらっしゃるのでちょっと不安になりました(笑)。了解です!
司会 むしろ自分が何をノミネートしたか忘れるぐらいでいいです。
鬼はる子 ヴォイニッチ、魔羅、てにをは、ロバ でおねがいします。どっかの待合室に八冊置いていたらどれを手に取るかで考えてみました。
キラ総裁 ヴィオニッチ強いっ!
司会 あとでわかるんでいいんですが、一応指摘しておくと「ヴォイ」ニッチなんです。
はる子 あ。
ポンプ げげ。
キラ総裁 ヴォイニッチなの? 見に行ったけどうろ覚え。
司会 スペルが「Voy」なので。
キラ総裁 ああ、そうなのか。奥が深い(究極超人あーる風味)。それで推薦してるという(ヒドイっ。
さば魔 推薦トークとかなしでいきなり始まってた!?
司会 基本的には霊感で選ぶ文学賞ということになるでしょう。最終選考が楽しみです。
さば魔 私は○がサイファ、お宝姉妹、王様はロバ(漫画が読みたい気分だから)、てにをは(表紙がかわいすぎるから)で。×はヴォイニッチ(インターネットでよく見かけたから)、魔羅(口にするのが恥ずかしいから)、火星、団地(文字が多そうだから)。以上です。
キラ総裁 おおっ! てにをはも追い上げ!
野方 文学賞の落選理由が「文字が多い」だと成仏できないだろうなあ(面白すぎる)。
さば魔 小説…R.I.P.…。
ウィリー 火星、サイファ、王ロバ、団地、でおねがいします。
司会 ロバが勝ち抜け確定かと思ったが、まだ決まってない。
ウィリー サイファがスタテン島へ渡るフェリーに乗るシーンに憧れて、船に乗りました。
さば魔 サイファ知ってる人がいた! 嬉しいなあ。
ウィリー サイファ、めちゃくちゃ大好きで何度読んだことか。
さば魔 姉が持っていたのですが、姉のいない時に部屋に勝手に入ってこっそり読んでました。動物のお医者さんとか、ここはグリーンウッドとかが面白くてすっかり花ゆめっこになってしまいましたよ(笑)。
ウィリー あー、やっぱり。お姉さんがいるのかなあと思いました。グリーンウッドいいですよねえ。動物のお医者さんも全巻持ってて、父が影響されて、ハスキーを飼い始めてしまったほどです。
シトンネン さば魔先生が花ゆめっこだと……!? ノミネート作品は未読ですが、動物のお医者さんとグリーンウッドは読んでましたよ! 花ゆめでは、ぼく地球が大好きです! ぼく地球が大好きです!
さば魔 少女漫画とギャグ漫画の影響が強いですね。究極超人あーるとか田丸浩史漫画とか、ギャグ漫画日和とかボーボボとか。グリーンウッドいいですよね。忍先輩とかたまりませんね。うちは動物のお医者さんの影響で一時期ヒヨコ→ニワトリ飼ってました。花ゆめはファンタジー過ぎなくて男子でも読みやすいはず……! ぼくの地球を救っては残念ながら未読なんですよね……姉が持っていた本しか読んでなかった……。
ウィリー さば魔先生と(さば魔先生のお姉さんと?)漫画の好みが合いすぎる。究極超人あーるのせいで、高校は写真部に入っちゃいました。ぼくたまはいいですよー。読んだほうがいいです。ネットカフェなんかに行った時ときにでもぜひ。
さば魔 わー! それは嬉しいです。私もあのゆるい感じに憧れましたね……パトレイバーとかじゃじゃ馬とかも好きだけどやっぱりあーるが好きです。ぼくたまも読んでみます。なんかタイトルが壮大だから食わず嫌いしてたんですよ。壮大な話とか宇宙とかファンタジーが苦手なので。
ウィリー 宇宙も出てくる壮大なファンタジーなんで、苦手かも知れないですw 面白いんですけどねえ。
シトンネン ぼくたまは壮大な宇宙ファンタジーすぎるのでさば魔先生にお勧めするのは間違いな気がしてきましたw。でもほんと面白いですよ。
さば魔 む……。一度読んだ覚えがある……途中で断念したのかなあ。近いうちに漫画喫茶行ってみます。
ウィリー そういえば続編あるんですよね。読んでないけど。
さば魔 えっ、続編なんてあったんですね、絵が随分と変わっているような。少女漫画はあとペケとかBANANA FISHとか赤僕とか好きでした……。
シトンネン そのひとつ前の続編は途中まで漫画を購入しましたが、さらに次世代編が出てるんですよね。追いつけない。赤僕ー! まりも先生の本、大好きです♪
さば魔 しゃにむにとかも熱かったですねー。ましろはあんま好きになれてないですが。そこから楠本まきに出会ってしまって開眼した記憶が……。
ウィリー サラリーマン山崎シゲルって、なにわ小吉が描いているのかな? と思いました。
シトンネン ノミネートデス。
●ロバ とにかくおもろいから読んでみろください。
●ナナコ ダンチ……ナナコ、いうたら、ダンチヅマの話できまりやんな? ダンチヅマとミボージンは男のロマンやでこれ。
●魔羅の肖像 ニホンゴ、ごっつう難しいやんかー、このむずかしい漢字があれなんやろ? せやろ? ニホンゴやばいで。もっとベンキョウ死体です!
●火星 サイゴの一冊はまよったで。ベンキョウのためには「てにをは」な気ーしてんけど、男は夢やでロマンやで! タイトルがむちゃくちゃ前向きやんかー。作者のナマエも「小雪ちゃん」ってこれ、きっとごっつかわいい女の子やで……別にシタゴコロないで。
司会 急にスイッチ入ったなこの外人。あとは焦田先生お願いします。
焦田丸 ☆ヴォイニッチ(奇書の中の奇書。だって、誰も読めないんだもの。絵も理解不能だし)、☆火星(ずっと読みたいと思ってたので)、☆摩羅の肖像(ざっくり見た。目の付けどころがおいしい)、☆団地のナナコさん(既読。面白かった。おしいところはいろいろあるけど、作者の今につながるベースとして評価。←焦田先生、生意気じゃん)。
司会 揃いました。1位通過ロバ、2位通過火星は確定です。残念ながらお宝姉妹とサイファが予選落ち確定です。
司会 4点獲得が4作品ありますので、決選投票を行います。①団地のナナコさん、②てにをは辞典、③ヴォイニッチ手稿、④魔羅の肖像から残すべき2点を挙げてください。名称のみでOKです。理由は要りません。集計して上位2作品を通過とします。今回同点があった場合には以下のようにします。
・1位が1作品で、残りが同点の場合→1位のみ通過
・1位が3作品ある場合→1位3作品通過
・1位が1作品、2位が2作品の場合→2位で決戦投票
・全作品が同点1位→4作品を通過
焦田 ヴォイ摩羅で(あやしい……)。
シトンネン ●てにをは、●ナナコさん。
焦田 目が離せねえっ!
ウィリー 団地、てにをは、でお願いします。
キラ総裁 てにをは、団地で。(でも団地が取ったら、こんなことで受賞とか説明するのしんどいかもと思うけど……大丈夫かなあ)
ウィリー 盛り上がるなあ。
さば魔 私はてにをはと魔羅でお願いします!
ポンプ てにをは、魔羅でお願いします。
野方 マラ・ヴォイで。
司会 あとは鬼はる子先生で決まります。
はる子 じゃあ、マラ、てにをは。かな。
司会 集計しました
てにをは辞典 6票
魔羅の肖像 5票
団地のナナコさん 3票
ヴォイニッチ手稿 2票
司会 ということで、
①王様の耳はロバ(6点)
②火星へ行こう君の夢はそこにある(5点)
③てにをは辞典(4点・6点)
④魔羅の肖像(4点・5点)
以上が2次選考進出です。
ウィリー おお、ナナコさん消えちゃったかあ。選考委員って辛いかと思ってたけど、思ったより楽しいな……。
ポンプ おもに霊感で決めるのがいいですね。
司会 8人で選んだ4冊なので、これ以降は誰が推薦人かは関係なくなります。
1人1冊につき、1つずつ良いと思える要素を挙げてください。
その要素に共感できる人は、そこに「いいね」をしてください。
※自分が挙げた要素にはイイネできません。
これが「なんかイイネポイント」。通称NEPになります。
要素が挙っていても、誰にも賛同が得られない場合は得点にならないということです。
最終的に合計NEPが高い方から2位までが最終選考に進出します。
野方図頼 表紙デザインが好き。
輸液ポンプ 重さ。(2NEP)
鬼はる子 分厚そうなので護身用になるし暇つぶしにもなるかもしれない。
新世界の神キラ総裁 時間をざぶざぶと捨てる楽しさがある系(案外まじめに読んじゃうんだよねこう言うの)。(3NEP)
ナーニ・シトンネン 辞典なのに面白そう。
さば魔 辞書っぽくない表紙が良い。間違えて買ってしまいそう。(2NEP)
ウィリー・アルバ ぞうさんが好きです。(2NEP)
焦田丸 棄権
合計 9NEP
野方図頼 読んでないけど、火星の人っぽいらしいので楽しみ。(2NEP)
焦田丸 楽しみにさせるタイトルで、文学っぽい匂いが、なんか漂ってる。なんか。
輸液ポンプ 火星。(1NEP)
鬼はる子 KDPで文芸やってるヒトに賞をあげると、雑誌の宣伝をしてくれそうだから。(3NEP)
ウィリー・アルバ 淡々と書き綴られる火星への道のりと、火星での日常。それと、さつまいも。(4NEP)
新世界の神キラ総裁 SFマニアなツッコミを入れると容易に発火しそうなスリルがある。おおらかな心が手に入る。(2NEP)
ナーニ・シトンネン 牛野小雪+火星=おもしろそう。(1NEP)
さば魔 作者のハンコみたいのが良い(2NEP)
合計 15NEP
野方図頼 (ググって出てきたコマ例を提示)(2NEP)
輸液ポンプ 表紙。
鬼はる子 ジャンプに載ってたそうだけど、読んだ覚えが無いので気になるよ。(2NEP)
ウィリー・アルバ ジャンプを後ろから読ませるマンガ。(4NEP)
新世界の神キラ総裁 ジャンプを読んだのが高校時代で途切れてる私には新鮮かも。高校卒業してからジャンプ本誌全然読んでないのです。
焦田丸 (野方先生提示の画像について)お約束っぽくなさそうな感じがして良いかも。「ふだん」は足の臭いを嗅いでもいい関係って語り切ってる。一枚の絵でw(3NEP)
ナーニ・シトンネン みんなモブ顔。(1NEP)
さば魔 読んだことあるけど淡々としたギャグが面白い。
合計 12NEP
野方図頼 欧米の彫刻がみんな包茎で、変だなと思ってたら、あっちの人らはあんまり普段からムイてないって聞いて、ムリにムキ続けてきた俺の人生はなんだったんだと思った(1NEP)
焦田丸 なんかね、常識を疑えって感じが良いの。なんか。(2NEP)
輸液ポンプ 語感。(3NEP)
鬼はる子 フィギュア(彫刻の)で遊ぶときに手元に置きたい。(2NEP)
新世界の神キラ総裁 オトンはムケてるのね。幼稚園がキリスト教系だったからかな。総裁の著者はそれ見て、なんで自分と違うのかかなり長い間謎であった。うん、これは省略できないよね。
ナーニ・シトンネン 魔羅 ←中二病っぽい感じ。(1NEP)
さば魔 魔羅と書いてルビで『おちんちん』としているところ。(5NEP)
ウィリー・アルバ 芸術を「笑ふ」という行為は正しく親近感がある。(3NEP)
合計 17NEP
司会 集計完了しました。
1位 魔羅の肖像 17NEP
2位 火星へ行こう 15NEP
3位 王様はロバ 12NEP
4位 てにをは辞典 9NEP
よって、最終選考進出は
・魔羅の肖像
・火星へ行こう
の2点となりました。
ジャンル、カテゴリ不問というアルティメットな選考の末に、奇しくもKDP本が生き残るという非常に興味深い結果となりました。
司会 最終選考はフリートークのデスマッチ。満場一致を目指して話し合いをしてもらいます。長引くなあと思ったら、満場一致になる方法を話し合ってもうとかそういうお遊びでーす。いきなり決まることもあれば、刊行ギリギリまでもつれこむこともあるでしょう。何が起こるかわかりません。楽しみですね。では、はじめてください。
野方 というわけで、まずは、どっちがいいか挙げましょうか。そこで一致してしまえば、それで終わりですよね。おれ火星。
キラ総裁 私も火星推したいなあ。
焦田 ここまで来ると、もう火星しかないような気がしますなあ。
ウィリー 火星。
ポンプ 魔羅かなと思ったけど、火星かなあ……読んだけど。
野方 魔羅はさっき買ってみた。まあなんつーか。火星だな。
キラ総裁 ありゃ。そうなのか……。
はる子 じゃあ火星。
シトンネン この2拓なら火星やんなー。
司会 ふむ。
シトンネン 正直、ここまで1位が何になるかまったくわからなかったわけですが、大賞が「火星」となると、なぜか急にうさんくさくなってしまいそうで、ここまでの流れを正しく説明する必要があると思います。いやもともとゆるい「なんか文学賞」なわけですけど、なんていうかこう……わかりますでしょうか?
司会 ガチ経緯をきっちり解説していくので、読めばわかるようにはしますけど、読まない系のポンコツはどうっしょもないっすなあ。
シトンネン ありがとうございます! 司会さんの作業が相変わらず超大変そうですが……! すみません、よろしくお願いします!
司会 楽しいので大丈夫です。火星支持が、野方先生、キラ総裁先生、焦田先生、ウィリー先生、ポンプ先生、はる子先生、シトンネン先生。あとはさば魔先生ですね。どうですか?
さば魔 儂ゃ認めんぞ……! どこの牛の骨かも分からんような男の作品が歴史あるこの賞の第1回受賞作品になるなどと!
司会 おっと意外にもつれますか?
野方 男の作品がダメなら、「うしのこゆき」さんということにしておけばいいじゃないですか。
さば魔 こゆき……(きゅん)。(Amazonのカスタマーレビューを読んでいる…)ほう……毎日のごはんのメニューを……。ごはんか……あれは良いものだ……。見上げた奴だよ……儂の想像の上をいきおったわ……。認めよう……この作品が栄えある、なんか文学賞初代大賞決定じゃ!
シトンネン ちょっとテキトウに決めすぎやんかー。考えなおそかな。(Amazonのカスタマーレビューを読んでいる……)。さつまいも……さつまいもやて……!!! 泣かせるやんか……故郷フィンランドを思い出して涙でてきてもーたわ……。
司会 では決定ということで。お疲れ様でした。
司会 だいぶ誌面が余ったので、『火星へ行こう君の夢がそこにある』の受賞理由についてみなさんで考察してみてください。
野方 ちなみに牛野小雪さんは「うしのしょうせつ」と読むんだな。由井正雪(ゆいしょうせつ)のようなイカツイおっさんの可能性もあるが、非常に多くの方が「うしのこゆき」だと思っていて、それは戦略的なのだと思う。
はる子 読んでないけど昔ながらのたこ型火星人が出るんですよね。それだけで、この人は判ってる人だなぁって思えます。たこ焼き食べたいな。
ポンプ 霊感と直感で決めたため、おそらく霊的ななにかが私に訴えてきたのでしょう。
ほら、声が聞こえます……
なにかが呼んでいますよ……
ウゥン……
ブウゥゥウンンンン…………………ブウゥゥウ……ンンンン…………ブウゥゥウンンンン………ウゥンンンン……
「いま、あなたの頭の中に直接話しかけています……いいですか……火星ですよ……火星になさい……さもなくば、」
ブツッ……ツー……ツー……ツー……
(その後、輸液ポンプを見かけた者はいない)
シトンネン なんやて! ぼくのこゆきちゃん……! 男だった上に、こゆきちゃんでもあらへんやなんて! ちょーまちや、もっかい! もっかい考えるで! かなんなほんま!詐欺やで!!!!
…………。
……。
こゆきちゃんかさつまいもかゆーたら、そりゃやっぱさつまいもやんなー……(号泣)。
はる子 こゆきじゃないなんて、ずるい! 「消防署の方から来ました」と消火器を売りつける押し売りのような、錯誤をさせる名前! 今すぐ消費者センターに電話だ! あ、でも今日は日曜だ。あした電話する。
キラ総裁 結局真面目に読み始めてしまうキラ総裁であった。しかし火星開発公団、ずさんだなあ……そこがある意味リアリティかもなあ、と思ったり。書かれてはないけど、多分公団作るのに国家的なプロジェクトとして火星探査! ってやっちゃって、それがよりによってアメリカより先になっちゃうし、応募してくる人もショボーンだし、予算もパイロットにザックリ賞金一億円! ってアメリカ横断ウルトラクイズかよっ! という話だし、いろいろあちこちズサンな計画なのがほんと、日本でいやいや宇宙開発するとこうだろうな、というリアリティがあるような。宇宙開発なんか公団にやらせとけ、あとは知らん、というスタイルが宇宙開発ものとしてすこし斬新かなあ。ついつい宇宙開発ものとだと夢語っちゃいそうだけど、そういう夢夢しさは排除してるところが渋い。そしてサツマイモ。ああサツマイモサツマイモ。とくに選ばれたはずの主人公がすごく淡々としてて、公団も淡々としてて、見てるとなんか公団は火星に送りたかったのは人間ではなくモルモット以下だったんじゃないのかとか。公団も計画もそこ削っちゃダメだろ的なとこもバンバン削ってるし、なんかそこらへんもブラック宇宙開発って感じでSFとして現代批評になってるような。細かく宇宙開発マニアとして言いだすと、そこらへんが意図的にやってるんだろうなと思うと、すごく今っぽいなあと。宇宙に英雄なんかいらないんだよ、雇われたワンオペの非正規雇用でいいんだよ! というブラックさ。ちなみに日本の宇宙飛行士、身分的にはたしか独立行政法人宇宙開発機構の正規職員だったような。それとは別に公団作っちゃって非正規雇用で火星開発ってのも、そこにまたいろいろなドラマがありそうで、大変妄想がはかどるのです。
シトンネン ウワハーァァアン!!
ハッハハァァァァアアアン! サッサツマイモオオオオォォン!!
(ナーニ先生はまだまだ号泣中につき、1回休み)
キラ総裁 そしてキラ総裁もまさかのもらい泣き。
野方 タイミング的に、「火星へ行こう」と「火星の人」とどっちが先?
さば魔 火星の人が先みたいですねー。
焦田 なんやわからへんけど泣けてくるわ。読みたなってきた。でもまだ読まんでえ。積ん読が多いやさけ。あ、ちなみに「積ん読」ってな、他の言葉に訳せない日本語らしいな。そらそやろ。で、話を元に戻すと、直感やけどな、『火星〜』は牛野先生の一番大切な作品やないのかな? 界隈で有名なデイジーさんってお人かて、火星で牛飼いしてはるんやろ? デイジーさんはこの作品に影響されて火星からわざわざブログの記事を飛ばしてたらしいで。デイジーさんと牛野先生の仲? そらもう、言うたらあかん。でもなほんまに牛野先生は人間関係に恵まれてはるわ。火星まで名声やら人柄やら轟いとるわけやから。ま、そんだけセルパブの人らの心にも沁み込んでるってもんやな。
司会 じゃあお手すきでお小遣いの余裕のある方は、『魔羅の肖像』の方もご覧ください。
キラ総裁 魔羅の肖像ねえ……。まずなぜかiPadで読めない。Kindleペーパーホワイトで読んだけど、……うーん、これ、薄味? というか、肝心の笑いには達してない気がする。結構題材的に期待したんだけど。ほんとはこういう像がなんで葡萄持ってんのかとか、全部もともと神話とかキリスト教とかでの理由あるんだけど、そこをグイッとイジらないのが禁欲的なのかなあ。なんか、著者さんがこの題材に対して真面目すぎる感じが。オーバーに盛り上げようとか、そういう欲が足りない感じがほんと惜しいと思う。着眼はいいだけに、ねえ。
焦田 一度は推しといて落とすのもなんやけど、商品説明の文章がもう、全てを語ってもうてるわな。キラ先生の言わはるとおり、写真も入って23ページっつう薄さがな、論考の追っかけてなさ感を表わしてしもうとる。でもな、目の付け所はええで。ホンマ、おもろいところを突いとる。キラ先生の言わはるようにもっと盛り上げた続編でも出してくれたらやな、第二回のなんか文学賞受賞も夢ではないで。夢では、な。
キラ総裁 うわっ、言っちゃった! でもほんと、薄いよ……。魔羅の肖像。
野方 魔羅の肖像は出オチ性能だけで最終まで残りましたから。それはそれでアリなんだと思います。結果論ですけど。キンドルダイビングは、こういう深海魚を探す高尚な遊びですから、まあ陸に上げちゃえばゲテモノ感が際立ってしまうのはもう仕方ないんです。
司会 じゃあ、結構尺も撮れてきたので、この受賞を機に「火星へ行こう」を読もうかなと思った人への推しコメントをお願いします。
ポンプ 牛野先生の文章は、なんだか老齢のひとのようで落ち着いていて、私は鴨長明の「方丈記」を思い出すのでオススメです。
焦田 純文学系インディーズ作家、牛野小雪はここから始まったのだ。SFの顔をして、しっかり現在の氏につながる文学性が息を潜めて読者の感性の深みを狙っている──。
キラ総裁 「火星へ行こう」を読もうという人は、実際の火星への宇宙開発モノとは違うんだってことをよく理解した上で楽しむのがツボだと思います。中途半端な理解でこの本で火星旅行を読んで理解しようなんて思ったら中途半端な面白さしか得られないと思うのであるな。SF読みと呼ばれる人はそこらへんをよく勘違いしている。SFも文学の一分野なんだから、表現したい世界は作者のもの。そこを踏まえないと人生においても楽しみが減るのです。
野方 違います。SFが文学の一分野なのではなく、文学がSFの一分野なのです。
キラ総裁 おお、そうでありましたね。
焦田 どちらも広い世界を持っていて、重なるところがあるということですよね。互いに重ならない部分もたくさんあるので、どちらかがどちらかを包含してはいないんでしょう。
野方 二次元的な集合の発想では考えられないのかもしれませんね。三次元、いや四次元的な相関関係で、お互いがお互いに内包しあうような、そういう発想でなければ、真の姿は見られないのかもしれません。
焦田 あ、その見方、素敵ですな。
キラ総裁 まあ広義の文学となるとえらく範囲は広くなるし、さらにサイエンスと文学を混同した上でそれをSFと呼んでいる人もいるからなあ。正直プログラマやっててSF好きって人と話すと、大概文学のことわかってなくて、SFが本物の科学だと思っちゃってて、ああ、これがいわゆる非実在の世界なんだなあと思ったことも何度か。そういう人って大概「SF警察」というか「SF自警団」はじめちゃうんだよね、ってトラウマがー。ほんとはSFも文学も、部分が全体に、全体が部分に相似するフラクタルな感じが楽しいから、その相似関係、類似関係が一番の見所なんだけどねえ。
野方 そしてミステリーは文学ではない論争に飛び火(お互いに拒絶)。
キラ総裁 そしてミステリーとSFという敵の敵は味方的な(ヒドイっ。
司会 じゃああとは、〆のコメントでそれぞれ総括してください。
キラ総裁 総括として、セルパプを読む楽しさはどの候補にもあったような感じですね。(セルパブじゃないのもあったけど) 最後は文学の真髄にまで議論が及んだというのも、やはりセルパブはこれまでの文学に対してオルタナティブなものであるというワタクシの確信を裏付けてくれました。ほんと、勝手にノミネートして勝手に優劣つけちゃいましたけど、楽しかったです。世に作品を出してくれたことに感謝。
さば魔 さば魔は詩人だからね。詩情があるものが優れていると考える。『火星』には、毎日のごはんにはそれがあった。
焦田 摩羅と火星。まったく異なるように見えたこの二作品に対する論考が、文学論にまで発展してしまう。その自由さと底の見えなさ加減が、セルパブの面白さであり可能性なんでしょうね。今回の8作品は全てがセルパブということではなかったですが、自分自身が「面白いことをできる場所」にいるのだということを、再発見しました。第一回なんか文学賞選考委員として参加させていただき、本当にありがとうございました。
ポンプ ここへ来て「火星」が受賞するとは意外な展開でした。甚だしく自由奔放な中、多種多彩な本がいろんな意味で拮抗しておりました。この「なんか」は、頗る抽象的形而上学的で漠然たる雑誌です。グッとくる本はたくさんあり、その差は僅かでした。なんか賞に受賞してしまった牛野先生は諦めてください。また、惜しくも受賞を逃してしまった諸先生方には、この結果を寛大な心で受け止めていただきたいと願ってやみません。これからも「なんか文学賞」はエポックをメイクすることなく、なんとなくおぼろげにぬるりと存在し続けるでしょう。そんなわけで、今後ともゆるゆるとよろしくお願いします。あと、決して怒らないでください。
野方 こんなチキチキマシン猛レースみたいなむちゃくちゃな企画に参加してくれたすべての皆様に感謝申し上げるとともに、第2回の開催に向けて、勝てる候補選びのために、またキンドルの深海へ潜りたいと思います。
シトンネン 終わるまでどれか受賞するんかさっぱりわからへんかったけど、他のせんせの言うこと読んどったらなるほど文学はオクブカイやんなーて思たわ。ぼくの中の「こゆきチャン像」をこわされてもーたけど、さつまいもにめんじて許すやんかー。
司会 そういえば最終的な賞金・賞品決めてなかったw。牛野先生だとアンテナにかかりそうだからリアルに渡せるレベルにしとかしないとヤベエw。
焦田 テレカじゃないんでしたっけ?
司会 テレカにするにしても価格設定がね。
はる子 雑誌なんか第二号への掲載権をあげればコスト0w。
焦田 なんか作家の作品をEPUBで全集にしてプレゼント。超豪華だけど、出ていくコストはかからないw でも牛野さんはほとんど■■■■を持ってる気がする……。
さば魔 うーん、次号のなんかで宣伝……でもこれはセルパブ作家にしか得にならないか。
シトンネン なんか作家全員の寄せ書き風サイン入り色紙(デジタル)を強引に押し付ける! これは副賞としてですかね。
はる子 なんか作家直筆販促用POPプレゼント(デジタル)。
ポンプ ポケットティッシュ(の絵)。
焦田 表紙作成サービスとか?。
さば魔 カレンダー1年分?
司会 ちょっとスポンサー探してくる。
さば魔 いるんですか!?
野方 これから探すんかよ。
賞品詳細
・ヴィンテージなテレフォンカード4枚セット(2000円分)
・表彰状(デジタル画像)
・トロフィー(3DCG)
・審査員のサイン寄せ書き(デジタル画像)
・受賞者作品の宣伝POP(デジタル画像)
・表紙制作1件(8人から1人指名する)
・雑誌なんかゲスト登場権(印税10%付)
※受賞された方は本誌発行日から三ヶ月以内に、なんか文学賞事務局へコンタクトをお取りください。方法は必ずあります。お待ちしています。
〈第2回へつづく〉
『誰もいない宇宙で一人きりの生活』
大学を卒業してから一年、職についた事がない一郎は、兄の二郎に誘われて宇宙飛行士募集のテストを受ける。
火星に行けるのは一人だけ、そのテストに合格してしまった一郎は火星へ行くことになった。
遠い火星で彼は何を見ることになるのか。地球を飛び出し月を横切るSFファンタジー。
ペンネームの由来は、書く速さが牛のように遅いことと、丑年生まれのおうし座だからです。
小雪と小説は読みが同じなのでかけてみました。
『牛の野原に降る小雪』という語呂も自分で考えました。
記憶の隅に名前を留めておいてくれれば幸いです。
ブログ 愚者空間
http://ushinosyousetsu.blog.jp/
それはこの世のものとは思えないほどの漆黒に包まれ、深い深い海の闇に潜んでいた。浴びせかけられるあらゆる光を吸収し尽くしてしまう究極の──レーザー光ですら存在を補足することはできない──黒体で造られた、何者の目にも映ることのない存在が。
片目の男が、そっと丸窓の暗幕を引く。漆黒の眼帯を分厚いアクリル窓に擦り付けるようにして、上方へじっと目を凝らした。
「船長?」栗毛の男が言う。「大群でも?」
「いや、船だ」
「船?」
「嵐、だな」
「沈没してくる船でも、見えるんですか?」
冗談交じりに聞いた男に、船長と呼ばれた男が答えた。
「ああ……、そのとおりだ。ティム、照らしてみろ」
まさか、と思いながらも、ティムは命じられたとおり操舵桿の横に並ぶスイッチの一つを押し込んだ。音もなく、潜水艦の頭上から透明な円筒が伸び、淡い青紫色の光を周囲に放った。
「巨大な豪華船が、ゆっくり沈んできます。まだ、数百メートルは先ですよ。よく、あれが見えましたね」
「ふふ、残った眼がな、進化してるんだよ。暗闇でも生き残れるように……」
席を立った船長は操舵桿を握り、ぐいと体重を掛けて船を上昇させ始めた。
「助けるんですか?」
「ああ、船外活動が可能な深度まで一気に上がるぞ。ぶつからないように、通り過ぎないようにうまくコントロールしろよ」
「はい」
ティムは操舵稈を引き継ぎ、すぐさま船内放送を始めた。
「船員に次ぐ、我ら難破船に遭遇せり。総員、配置に付け。生存者を救えと、船長からの命だ」
漆黒の潜水服に身を包んだ三十人ほどの男が、三重の減圧ハッチを離れて泳ぎ出した。円筒の放つ光があっても、男たちの姿が誰かの目に映ることはない。ただ、深海を漂う青紫色の光を遮る闇だけが、その存在を示していた。
男たちは沈みくる巨大な屍に取り付き、その中へと消えて行った。
ごほっごほっ……
一人の女が、息を吹き返した。うつ伏せになり眼を閉じたままの女の耳から滴り落ちる濁りのないしずくが青白く光り、女の神秘性をいや増しにしていた。薄手のブラウスが張り付いた女の背が苦しげに波打ち、上下する。女を囲む潜水服の男たちが、目を輝かせる。
ごほっごほっ……
そしてまた一人、女が息を吹き返した。船から救い出した男たちは、まだ誰も微動だにしなかったが、若い女が二人、年取った女が一人、子供が三人、白く冷たい床の上に塩水と涙を吐き出しながら、死を遠ざけようとしていた。
激しくせき込む声が途絶え、やわらかく静かな呻き声と温かな吐息だけが、冷たい空間に放たれていた。船長はゆっくりと、横たわる者たちを見回す。
息を吹き返したのは、女だけであった。
誰も、何も話さなかった。船長は船員たちを下がらせ、救いだした女たちを自らのコントロール下に置いた。欲望のはけ口にするためではない。彼の中には、暴力も、夢も、愛情も、欲望すら、何もなかったのだから。
船長は、ただ慈しみ、待っていた。
船長だけが、生き返りつつある女たちのインターフェースとなっていた。ベッドに横たえた女たちに食料を運び、乳母のように世話をした。優しい言葉をかけ、不安を取り除き、精神と肉体の安定を待った。
三日目の朝、最初に息を吹き返した女がようやく口をきいた。だがそれは、船長の知らない言葉だった。
「どこの言葉だ?」
船長の言葉を解し、女が片言の英語を口にした。
「ジャパン、シップ、オールデッド?」
「日本人か──ちょっと待っていなさい」
船長が呼んできたのは、ティムだった。別に、ティムでなくとも構わなかった。若い連中であれば、二人に一人は日本語を話す。中国語なら、全員が話せた。アジアは、彼らの拠点の一つだったのだ。船長以外は……。
「僕はティム。君の名前は?」
「わたし、亮子」
「リョーコ、いい名前だ」
「ここは、どこの病院?」
「船長から、聞かなかったのか? 三日も一緒にいて」
「船長? 誰のこと」
「君らをずっと介抱してた、ほら、片目の」
そう言って、ティムは左手を眼に当てて見せた。
「あの先生が、船長? あなた、日本語ちゃんとわかってる? 船長って、お医者様のことじゃないけど……」
亮子は首を傾げる。
「彼は、医者じゃない。ここは、俺たちの船の医務室だよ。ちょいと広いけどね」
「船……じゃあ、この揺れは、地震でも戦争でもないのね?」
ほっとしたような、少し怯えたような表情で、亮子は溜息を吐いた。
「揺れ? まあ、ごくたまには揺れるけど。怖いような揺れは、ないだろう?」
「あ……うん。わからない。夢を見ていたのかも。恐ろしい、夢……」
亮子はこくりと首を振った。
「船、って、どこを航海してるの? 港へは、いつ着くの?」
亮子が、女たちの知りたいことを代表するように言った。僅かに落ち窪んだ眼が、亮子の背後からティムを見た。亮子の質問に、ティムは答えない。船長の判断を仰がねばならないのだ。自らの反応だけで、一般人と話をしてはならないのだから。
「船長、リョーコたちが、知りたがってます」
「そうか」
船長は少しのあいだじっと自問し、やがてティムに向けて微笑みを浮かべると、口を開いた。
「我々の船は、深海を航行している。港へ着くことは、永遠にない──訳せ」
船長はティムに命じた。ティムの声に耳を傾けながら、亮子は船長の顔を凝視していた。
「そんなこと!」
ありえない、と言う必要もないだろうと言いたげな顔で、亮子は船長を睨んだ。
「エネルギー源は? 食料は? 壊血病は?……それから、えっと……『永遠』って、どうかしてるの?」
「言葉はよく解らんが、あなたの言いたいことは理解できたよ」
船長がにこやかに応えた。
「エネルギー源は、圧力だ。この潜水艦は、全体が圧力素子で覆われている。圧力のパワーを電気に変換する技術は五十年前からあった。我々は、それを極限まで効率化した最先端技術の粋を凝らした軍用艦に乗っているのだよ。食料は──」
「船長! そこまで言ってしまっていいんですか?」
ティムは不安を隠さない。
「良いも悪いもない。このご婦人方は、生涯この船で過ごすのだ。秘密など、意味はない」
二人のやり取りの半分も理解できない亮子が、首を傾げる。ティムは、一般人である亮子にできる限りショックを与えぬよう、船長の言葉をオブラートに包んで通訳した。
「あなた方は、軍人……。アメリカ軍の?」
「まあ、そういうことだ」
「じゃあ、これは軍事活動なの?」
「イエス」
ティムは船長と亮子のコミュニケーションを取るという通訳の役割をすぐに放棄し、自分の言葉で亮子と話していた。
「でも、任務は何なの? 二度と戻らないなんて、国益にならないじゃない」
「さすがに……そこまで民間人に、しかも日本人に言う必要はないな」
「だって、秘密なんて意味がないって……」
「どんなことでも、って意味じゃあないよ。それより、上の話を聞かせてくれないか?」
「上って?」
「海の、上。世界は、どうなってるんだ? アメリカは? 日本は?」
「軍人なのに、知らないの?」
「我々の部隊は深海で秘密裏に活動しているからね。それに、基地との連絡が途絶えてからもう十五年になる。以来、外の世界とは一切の通信がない」
「そんなのおかしいじゃない、どうして地上に戻らないの? 米国海軍がやることとは思えない」
「それが、我々の任務だからさ。一切の矛盾はない」
「それで……」ティムが澱んだ顔で言った。「最終戦争は……、起こったのか?」
「わからない。わたしたち、戦争が始まる前しか知らないもの」
「戦争が、今にも起こりそうだったってことか?」
「そうね、誰もがそう言ってた。だから逃げたの」
「逃げた? どこへ」
「ソロモン諸島よ」
「どうして、そんなとこに……」
「現在、最も安全だと言われてる地域じゃない。本当に何も知らないのね。十五年前はどうだったか知らないけど。戦火が及ぶ可能性は極めて小さく、放射線の影響も限定的。お金さえあれば、困ることはない」
「カネ?」
「そうよ、カネ。世界中のスーパーリッチ層が、大挙してソロモン諸島を目指したの」
「それで、嵐に遭った?」
「そう、そんなとこ」
「そうか──」
会話は終わったと黙りこんだティムに、亮子がたたみかけた。
「やっぱり変よ、戦争が始まったことを知らない軍人に、十五年の空白? それからこの船長。そしてあなた。普通じゃない」
亮子はツカツカと船長に歩み寄り、言った。
「あなたたち、ここで何をしてるの? 軍事活動なんか、してるようには見えないじゃない」
ティムは首を左右に振り、船長を上目遣いで見た。
「言いますよ、いいですね?」
船長は、答えなかった。ティムは、口を開く。
「最終戦争勃発前に、我々は自ら通信を途絶えさせ、米海軍を離脱したんだ」
「離脱?」
「そうだ」
「つまり、脱走兵……?」
亮子が左右を見回す。
「そうとも言い切れないんだけどね、深い事情もある」
「どんな?」
「それはいずれ、わかる」
「でもどうして脱走なんか──」
ティムは答えなかった。
淡水化装置も、魚介類の捕獲装置も、AIがコントロールする自動補修装置のお蔭で故障知らずだった。エネルギー収支は、どちらかといえばプラスに振れるほどのバランスで安定していた。太陽光ですら、不足はなかった。究極の黒体である船体のブラックホール効果で収集された僅かな光線が船内で増幅され、最低限の紫外線を人間に供給しているのだ。
びちゃり──
狭い廊下の片隅にうずくまり、一人の男が何かを貪り喰っていた。健康を取り戻して行動の自由を与えられた亮子は、その異様な光景に吐き気をもよおした。だがそれは、一度きりの経験であった。その異様な光景はすぐに日常のものとなり、亮子自身もなんらの抵抗も疑問もなく、その一部となっていった。
時に、光を帯びた生き物が壁を突き抜け、船内に飛び込むようになっていた。圧力に対しては極めて強固な船体外壁であったが、変成カーボン・ナノ・ファイバーの一種で編まれた外壁は、光の侵入に対しては弱かった。空間を進むありとあらゆる光をその内に取り込む究極の黒体としての性質が災いし──いや、『幸いし』であろうか?──まるで、柔らかな網のように光ある物質を突き抜けさせてしまうのだ。
新参者にとって、思考は徐々に意味をなさないものになっていった。ティムら軍人──と言って差し支えがなければだが──たちも、彼女らの新たな存在によって、この場所で生きることの意味を変質させていった。
それが船長の遠大なるプランに完全に則ったものであるということを知る者は、無論当の本人以外はゆめゆめ想像すらし得ぬことであったが。
* * *
「もうすぐだ。もう少し生き延びて、人口を増やせれば」
真夜中のこと、船長が誰もいない操縦室でひとりごちた。深海魚のはらわたを発酵させて作ったとろみのあるワインをすすり、口角を上げる。円窓を覆う漆黒のカーテンをそっと引き寄せ、船体の底部に目をやる。
あれから、一年が、経っていた。またも、船の乗組員は増加していた。
その場所にこびりついた有機物──貝、海ゴケ、ケルプ、イソギンチャクまでが揺れている──は、船底のアウトラインを歪ませるほどに増殖していた。船長は、分厚いアクリル窓をゆっくりと撫でた。まるで、海ゴケやケルプをその手で愛おしむように。
ティムが亮子への恋愛感情の萌芽を意識し始めた頃と同じくして、自意識は崩壊の一途を辿っていた。とはいえ、それは否定したいものでも、憎むべきものでもなかった。ティムと亮子の意識は、いや、すべての乗組員の意識は、目に見えぬ何かで繋がれつつあった。
《生きる》という共通の目的が船長の思惑と完全にリンクしたとき、急速に、肉体は、物質は、そしてそこに宿る意識は、その存在を一体化させていった。
「リョーコ」
「ティム」
抱き合う二人の身体は、その境界がどこであるかすら、曖昧だった。意識は、もっと曖昧なものになっていた。二人の身体は溶け合い、シーツの擦れる音と吐息が一体になり、無音の空間に吸い込まれた。ベッドから、二人の身体がするりと床に溶け落ちた。そのまま、形を失った二人の肉体は床に染み込み、まるで血液のように黒体の内部を流れていった。
カツ、カツ、カツ──
軍靴の音が、円筒状の廊下に響いていた。廊下を奥へ進むと、その音がくぐもり、やがて消えた。船長は微笑み、ひざまずいて温かい床に触れた。
そこには、鼓動が波となり寄せ返していた。船長は横たわり、頬を床にぺたりと付ける。船長の鼓動が、長い長い廊下を流れるそれと同調していった。
二人、四人、六人──
船内を動くものの姿が、目に見えて減っていった。それでも、不安に思うものは誰もいない。困ることも、怖れるものも、ここにはなかった。圧倒的な安心感に包まれ、心は満たされていた。
それはついに、一体の生き物となった。ぬめらかな鱗をゆらりと光らせ、機械として生み出されたときには完全な一直線で構成されていた船尾の一部が、柔らかな円弧を描いて暗闇の中へと消え去って行った。餌と仲間を求めて。
〈了〉
九州は突然に晴天が割り込み、しかしまだ北日本と関東は雷雨のおそれなどもある様子だった。
彼がブラック企業に入ってしまったとき、彼自身はそれを知りつつも絶えず冗談を言っていた。苦痛であることをを知っているのだが、彼なりの趣きを呈しているのである。
美女ゴルファーは、清潔な感じの崩落した橋の下で、塾講師を待っていた。
「いらっしゃい。新次元のライブバウンドをさせるわ」
「リアルタイムでパフォーマンスをしなければ、いけない」
「わるくないでしょう? あなたのフィギュアをセットしたの」
今宵は極薄有機ELで私の訪問をもてなすのに、深夜ラジオを読ませてもらいながら一時間ものあいだここにお邪魔した。しかし、その時、美女ゴルファーによるアクセスランキングの順位はなぜ炎上したのか。消費税10%は予定通りまぶしく光っていた。
「きょうは、ある意味での夫婦喧嘩でね」
「まさにの二次元のほうへ。アイドルが衝撃だけど」
「初心者向けのエンドポイント製品かい?」
「そう。どうしても。〝あのシーン〟を再現した期待の超大作があるの」
「ボードゲーム劇場版のレポート写真だと思っていたのだが」
人間が、内容と結果に欧州で戦うタッグがデータ収集できず、そのことについて爽涼すらを覚えるのだ。たとえばNYダウ106ドル高と闇カジノのダブルキャストには、私も素直に賛成した。国債の入札動向も注意と言外に意味をふくめて叱咤するのだそうである。
「今夜は、家電法適用地域幹部の妹のところへ行って来たいと思っているの」
私は知っていた。データ通信の速度制限解除なのだ。しかし、パワフルな空撮ドローンが訓練デモを披露中の契約者のところへ行けば、私はビデオ付き子供のデータチャージ料金を徴収する必要がある。
「だから、インサイドスタビライザーを殺るのか」
「そうしなければ、いけないわ」
不快な気持ちにさせてしまって「お前だけではない」とひとりごとのようにつぶやく。
或るとき私に、戦うタッグが逆上陸のそのわけを語って聞かせた。天国と地獄を分けるほんの僅かな違いとは 退屈な季節を大声で叱咤することである。
父も母も、この紛争が長引くなら疎開も選択肢に入るのであろうか。
私たちにできることは、散歩の途中に立ち寄って、また笑顔が見たいそのひとを見送ることである。
私はほとんど毎朝、絶えず冗談を言い、新生児が見ている親の顔は疲労によろめき、しかし、陽気によくなつく。
メンターの気持がややこしくなる。学術連携体が外に出る。機械学習AIにより緊急対策会議はまっすぐに行く。星を育んでいた月額サービスで安全な通信経路を確保するほうが弱いのだ。断層帯パターンファイルを検出した理由がやっとわかった。
自治体の視察に関してどこに相談すればいいのだろうか。99ポイント母も笑う。待機児童が参加に伺うことがある。しかし、クロスプレイによる新感覚もあったのである。
北極が東に動いてることに気づき、塾講師専用端末で主張してみた次第だった。酒を飲む場所がなければならぬ。
「ランサムウェアは南西側に注意を」
「でも、なかなか、対応機能が無いんじゃないかな?」
中傷に、同じく不幸な猫が笑う。
end
北千住にいたころのこと。
寮は職場から二、三十分離れたところにあった。仕事が終わり寮へ帰るとき、北千住駅の下を通る。すると「手相の勉強をしているんですけれど」と、声をかけられた。
手相を見せてくださいというから見せた。健康面の話から仕事は何をしているか、悩みはあるか、というような話をしたような気がする。
「ここに、線がありますよね」
と彼女(女性だった)は言う。
「この線は、人生の転換期をあらわしているんですよ」
へえ、そうなんですか。
それからどんな話をしたのか憶えていないが、そこから少し歩いたところにある建物に連れていかれた。
室内は小奇麗でアットホームなカフェのようだった。テーブルがいくつかあり、そこのスタッフ? と客? が、一対一で喋っている。そのテーブルのひとつに私は案内された。先ほどとは違う女性が出てきて目の前に座った。綺麗だけれど化粧が濃いな、と私は思った。彼女はにこにこしながら、ここは飲み物も飲めるし、こうやってお話ができるんですよ、いいでしょうという。たしかにいい。なんだか落ち着いていいですね、といった。穏やかな空気のなか、あるとき彼女は紙とペンをテーブルに置き、
「ポンプさんは、神様っていると思いますか?」
と言った。
当時はまだ、今ほど宗教について興味を持っていなかったので、どう答えたものか困った。おそらく
「神様、という人のようなものがいるのではなく、なにか大きな存在、そういうのは、あると思う」
とか何とか言ったと思う。
すると彼女は紙に何かを書き出した。
神がいて、私たちは、こう……。
あっ、そういう話なんだ、ここはそういうところなんだ、と、世間知らずな私は、そこでやっと気がついた。と思う。それでも話を聞いていた。
次に、別室に連れられた。そこは、今にして思えば一種異様な雰囲気があった。当時の私はその異常さに気がつかなかった。馬鹿なのか?
いくつかパソコンのようなテレビのようなものがあり、何人かがそれを、ヘッドホンをして、視聴しているのだ。
私は、へえ、こういうところもあるのか、というくらいの気持ちでいた。
地球がどうとかイルカとか何かの映像を見させられた。結構、感動した。なんだか忘れたけど。
私はそのメイフラワーと書かれた建物に、その後も何度か通った。
ある日、いくらいくら必要だと言われた。
そして私はお金を払った。
私は馬鹿なのか?
いや、馬鹿なんだった……。
また別の日には、なんだか位の高そうな女性が私の目の前に座った。おそらくは、その、なんなのかわからない組織の、幹部クラスの人間だろう。その女性は、顔に貼り付いたような笑顔を浮かべていた。どこか冷たさを感じさせる顔だった。なぜだかこの人には、心を開けない。そう思わせる何かがあった。
彼女は、私の手相を見てくれた女性と私とが似ている、と言っていた。
どういう意味か、今ならわかる。
野暮ったくて、田舎臭く、いかにも「カモ」にしやすい人間なのだ。暗に(あるいは明確に)、そう言っていたのだろう。
さて、そこでもう行かなくなればよいのだけれど、愚かな……正直で素直な私はまだ通っていた。
今度は、男性が出てきた。やはり幹部クラスの佇まいであり、この人もどこか冷徹さを感じさせるものがあった。
「ここの人たちは、合宿をやるんです」
と言う。
いくら、と言ったのか、全財産と言ったのか、忘れたが、とにかくお金を払って、その合宿とやらに行き、またどこか別の建物で、修行のようなものをやるのだという話だった。
「いや、仕事がありますし……」
私が言うと、
「仕事を辞めてでも、合宿に行くべきだ」
という言葉が返って来た。
少し考えた。いや、そこで考えるのがおかしいというのは今ならわかるのだが……とにかく困った。
私は、上司と相談してみます、か何か言ったと思う。
その後は行かなかった。
後日、仕事が終わって寮へ向かう帰り道、また手相の人が声をかけてきた。しかし隣にいた女性が、その手相の人を引き止めた。
あの人はもう内部事情を知っているし、これ以上やるとその組織? にとって、なにかとよくない……、ということなのだろう。
つまりあれは、そういう団体だったということだ。
おもしろい経験ではあった。
宇都宮にいたころ。仕事が休みの日にはよく、後輩を連れて、オリオン通りというショッピングモールというのか、そんなところへ遊びに行っていた。
ある日、歩いていると声をかけられた。
絵画を売っている場所で、クリスチャン・ラッセンかなにかの絵がプリントされたポストカードを渡された。ラッセンについては今でもよく知らないが、単純に絵を見るということをしてみたくて、店に入った。
「どれか気に入った絵はありますか?」
と、彼女に(これもまた女性だった)尋ねられた。
私は、これですかねえ、と、月と海が描かれている絵を指し示した。
これいいですよね、綺麗ですよね、照明のあて方次第で変わるんですよ、と彼女は言った。
そして椅子を出してきて、私に勧めた。
どうぞ、座ってよく見てください。
これが何のフラグなのか、読者の皆様にはもうお分かりだろう。
部屋を暗くし、光を上からあたるようにした。すると月が本当に輝いているように見えた。私は感動した。
「ああ……綺麗ですね」
そこからが長かった。別の女性もやってきて、二人がかりで私を説得しにかかった。
どんな仕事をしているのか。板前修行中です。お客さんに美容師見習いの人がいたんですけど、その人は、いつか自分が店を持った時、絵を飾りたいといって、買ったんですよ。そうなんですか……でも、私にはちょっと……。給料はポンプさんのように安くて、それでも、絵を買ったことで、がんばろうという気持ちになれたんです。そうですか……。
行った時は昼だったのが、そのころにはもう外は真っ暗になっていた。しかし私はなかなか帰れなかった。なぜならば彼女たちは、私と出入り口の間に、遮るように座っていたからだ。
これは、契約書を書かなければ帰れない……。
とにかく早く帰りたかった。
絵は高いが、分割払いならなんとか買えるか。浅薄な私はそう判断した。
そう考えるよう誘導された、というのが実際のところだろう。
契約書にサインしてしまった。
判子は、その時はなぜか持っていた、と記憶している……。
数日後、その絵画の店? から、私の勤め先の店に電話がかかってきた。上司かパートさんか、誰かわすれたが、誰かがその電話に出たことで、私が絵画を買った(契約した)ことが露見した。
怒られた。
すでに、クーリングオフの期間である8日間を過ぎていた。
消費者センターへ連れて行ってもらい、契約を取り消してくださいという旨のハガキか何かを書いた。消費者センターの人が、その絵画の人たちのところへ電話をして、話をつけてくれた。
クーリングオフという制度があるんですよと、消費者センターの人からもお叱りを受け、私は大いに反省した。
後日、店の前を通ったときには、女性がいったんは近寄ってきたが、彼女は私を見て、声をかけるのをやめた。なにこれデジャヴ?
その日はいつものように、ネットの海を航海していた。
すると、高認の文字が目に入った。ユーキャン的なところのバナー広告だった。
私は中卒だったので、よし高校卒業程度認定試験の勉強をしてそれをとろう、と思った。
ちなみに高認の教材は、ふつうに本屋さんに売っているし、どこかの塾とか団体に入らずともとれるものだ。知らなかった。
その教材を取り寄せた。三十万円をカードで一括払い。そのころはまだ退職したてで、退職金や財形貯蓄など、預金があったから、私は余裕をぶっこいていたのだった。
後日、CDとテキスト、小さい冊子がダンボール箱に入れられ送られてきた。
テキストで勉強し、小テストのようなプリントに答えを書き、むこうの指定した住所に送ると赤ペンで添削してくれるというものだ。わからない点については電話でも相談にのってくれるという。
何度かそうして小テストのようなことをしていた。ある日、電話をかけてみた。担当者がつくので、その人宛にかける。勉強以外の話も聞いてくれた。なぜだか、その会社は沖縄にあるという。皮膚が弱いので焼けると真っ赤になって痛くて大変だ、とのことだった。
また別の日に電話をかけると、その担当者は不在だった。
別の人が電話に出て、話を聞いてくれた。
高認をとって心理学を学べる大学へ行くのが当時の夢だった。その話をすると、いいですね、と好意的に聞いてくれた。また、うちでもカウンセラー講座がありますよという。いろんな教材があるのだった。カウンセラーの教材はたしか、十万円ほどだったと思う。
支払いを済ませ、その教材を送ってもらい、勉強をした。
また相談の電話をすると、後の担当者も不在だという。
今まで話した流れをわかっていないと意味が無いため、そうですか……といって私は電話を切った。
その後も何度か電話をかけたが、いつも不在。
さすがにおかしいと思った。
そもそもの始め、教材を頼む前、つまりお金を払う前は、むこうから執拗に電話がかかってきていたのだった。無視をしていたのだけれど、あまりのしつこさに、私は電話に出てしまったのだ。
高認はとったほうがいいですよ。夢を叶えるために。がんばりましょう。応援しています。
現実を知らない私は、そんな甘言にころっと騙されたのだった。
高認の書類などは自分で取り寄せてくれという。文科省のホームページから、願書など出願のためのもろもろを取り寄せ、提出し、高認試験を受けた。
一度目は数学と世界史以外は受かり、数年して再挑戦し、二度目で高認の資格はとれた。
詐欺被害にあったおかげで高認はとれたが、大学へ行くにはお金がないし、しばらくフリーターをやっていたのだけれど、学費をためるどころか、預金を切り崩す生活だった。
それから数年後、教材は捨てた。
ひとりで上野に遊びに行った時のことだ。
仕事が休みだった。駅前の、マルイの前あたりを歩いていると、声をかけられた。
「あれ、もしかしてテレビ出てませんでした?」
おや、私が出ていたドキュメンタリー番組を見たのか。
ええ、そうです。
というような話から入り、結果、
脱毛の店へ連れていかれた。
エステ的なものにも興味はまったくなかったのだが、やはり脱毛とかそういうの、やっといたほうがいいのかしらん……。
しっかりしろ! と思う向きもあるだろう。
私もそう思う。
説明を受けて前金として500円払い、その日は帰った。
後日、電話で、解約したいと言い、そのためには店に行かねばならないと言われ、店まで行き、500円玉を一枚、返してもらった。
子どものころお世話になった、蕎麦屋さんの老夫婦がいる。その老夫婦と、その娘さんは創価学会員だった。かつての同級生Kさんもそうだという。
入信することになり、数珠とかご本尊様とかくれた。自分でも何か買った。
何度か、創価学会の集まりに参加した。大きな会館で、池田大作先生の映像などを見たような気がする。
ある日、蕎麦屋さんの奥に通され、おばさんに「勤行はしているか」と尋ねられた。朝、起きられないし、あまりしてませんと言うと、ちゃんと勤行しなきゃだめでしょうと怒られた。
ショックだった。
彼女はそういう人だったのか。
それとも変わってしまったのか。
私には故郷などないと、改めて思った。
今は彼らとは、連絡をとっていない。
バイト先で知り合ったYさんから連絡があった。私は「魔法のiらんど」というところでケータイ用HPを持っていて、日記をずっとつけていたのだが、しばらく放置していた。ブログ機能のほうにコメントがついており、久しぶりに読み返したときに見つけたのだった。
連絡先のリンクからYさんに連絡した。
(Yさんは性同一性障害を患っており、生物学的には女性で心は男性であったが、それはまた別のお話)
久しぶりに会って話しましょうとのことだった。
日取りを決めた。
当日、Yさんと駅で待ち合わせた。Yさんは、最後に会ったころより痩せていて、男前になっていた。服装も男性用のようだった。
他愛もない話をしながらYさんのアパートへ行き、部屋へ入る。こたつがあり、そこへ座る。
このあと、私の友人が来るから、とYさんは言った。
Yさんの友人Tさんは、部屋に入ると私の前に座った。少しの間、三人で談笑していたが、Tさんは本題を切り出した。
新聞を取り出して、あれこれと説明を始めた。
私は辟易した。
だが、Tさんの長広舌は留まることを知らない。
そうして、
「行きましょうか」
とTさんは言う。
「え、今?」
私は気が重くなる。っていうか、どこに?
「今すぐはちょっと……考えさせてくれませんか……」
「このあと何か用事あるんですか?」
「いやあ、ないですけど……」
「じゃあ行きましょう!」
というわけで車に乗せてもらい、どこだか知らないけど連れて行かれた。
着いたところは誰だか知らない人の(おそらくその地域担当の中堅信者)家だった。そこで入信の手続きをするのだという。ちなみに手続きは、名簿に名前や住所などを書くことだった。一緒に勤行もしたと思う。先に書いたように創価学会でも勤行をしていたので、そのときもらったもののパチもんのような小さい冊子をもらい、見てみたら、少し違うが似てはいるなと思った。そういうものなのだろうか。
顕正会は、ご存知のように埼玉県は大宮に、本部がある。
その大きな会館へ連れて行かれた。
中には大勢の人がいる。百人と言わないまでも、五十人はいたろうか。
部屋の正面には大きな御本尊様があり、その両の脇には、ろうそくを模した(たぶん)プラスチック製のものがあった。
なにやらスーツ姿の幹部っぽい男性があらわれた。挨拶をし、勤行をはじめる。お寺の住職さんみたいに、たまにゴーンとやる。
全員が南妙法蓮華経……と唱え続けており、また私もそうしていた。会場中が妙な空気になり、ものすごさを感じた。異様だった。けれど、しばらくそうしていると、私はトランス状態になった。
なるほど、こういうことか、と思った。
数日後、YさんはTさんを連れて私の住むアパートへ来た。部屋に入り談笑をし、なにかの集まりがあるから来いだの新聞を読めだの勤行はやっているかだのと捲し立てるように言い、そして帰っていく。何度かそのようなことがあったので、私は居留守を使うようになった。あるとき、電話番号を変えた。もう縁を切りたかったからだ。機種変更せず番号を変えたのだが、たしか二千円くらいしただろうか。しかしYさんもTさんも、私の部屋を知っている。アパートへ来るとドアを叩き、私の名を呼ぶ。部屋で静かにしていると、去っていく。なにかのときに再会してしまい、また電話番号を教え、その後しばらくして携帯電話を買い換えた。
これが、私がフィーチャーフォンからスマートフォンへ変えたきっかけである。
声をかけられついていったら、なんかこう……ここで買った水を患部にかけるとか飲むとかすると、病気が治るんですよとか言っていた。んなわけあるか、と思った。
いつも行く心療内科の最寄り駅の前にいるものだから、午後に行くとつかまってしまうので、心療内科へは確実に午前中に行くことにした。
電車の中でキンドル読書をしていた。英語学習者むけの電子書籍の、一番易しいやつだった。
そこで声をかけられた。
「英語読めるんですか」
が、外国の方だ……。田舎のほうの娘みたいな風貌の女性がふたりいた。母国がどこの国かはわからない。お友達になってくれるのかな、と思って嬉しくなっていたらおもむろに
「神様って信じていますか?」
と訊かれた。
そうかあ、そういうことかあ。
「うーん……考え中です。ひとのように、神様っていうのがいるというより、ひとの力の及ばないなにか大きな力、そういう存在を『神』というんだと思っています」
とか私は答えたけれど。
彼女らのうちひとりが、手に持っていた本を私に見せてくれた。書かれていることから、聖書かなと思った。モルモン教の場合、モルモン書というのだそうだ。勉強になった。
小さな紙切れを渡された。そこに教会への地図が書いてある。そこの向かい側に、英会話スクールもあり、ただで学べますよという。そう、勉強もしたいし友達もほしいという私にはうってつけというわけだ。
次に、アイパッド様のものを取り出して、私の名前を聞いてきた。フェイスブックのアカウントを知りたいらしい。だが、電車がそこで彼女らの降りる駅についたため、結局そのままさよならしたのだった。
(つづく)
なんかちゃんはひみつの町に住む女の子だ。
ひみつの町はあなたの住む町の、あの高台の上にある公園の、ちょっと壊れかかってる水飲み場の、その隣のはげ山の裏のひみつの抜け穴の先にある。
◁
なんかちゃんは今日も、自分で結んだ長い草の葉っぱで作ったトンネルをくぐって、ひみつの町からやって来た。トンネルを出るときは、いったんじっと止まって、そうっと左右を観察しなきゃならないのだ。だってそうしないと、ひみつの町へのひみつの通路が、あいつとか、あいつに分かっちゃうんだから。
◁
なんかちゃんはヨシって小さく呟いてから、ぴょんとふつうの草原に飛び出した。背すじをしゃんと伸ばして、まるで、ちょっと落とし物を捜して迷い込んじゃっただけだよ、って、言いだしそうなお澄まし顔で。
◁
なんかちゃんが空を見上げながら歩いていると、いろんな雲が浮かんでいた。ジャムパン、UFO、ガイキング。おっぱい、わたがし、ジャンバラヤ。あ、あの雲はアロワナにそっくりと思ったら、アロワナが急に小さくなった。あれあれあれ? と思ったら、空も急に小さくなった。なんかちゃんは穴ぼこに落っこちちゃったんだね。
◁
「助けなんて来るはずないし、なんかヤバいかも! みんなにひみつにしてたことが、なんか仇になっちゃった!」
――そして一年後――
なんかちゃんは生きていた。だいぶ痩せちゃったけどね。
一年かけて掘った横穴から、光がもれてきたときは思わずガッツポーズ。やっと外に通じた横穴の中で、なんかちゃんは一年ぶりにヨシって小さく呟いてから、ぴょんと飛び出した。
久しぶりに吸うシャバの空気はおいしかった。
「ここはどこかしら?」
◁
そこは雪国だった。
突然、
「曲者ッ! であえ、であえィ!」
という声が聞こえた。
なんかちゃんは、事態が飲み込めないまま、追われた。
「やつは手負いぞ! なにをぐずぐずしておる! 引っ捕らえよ!」
いったいなぜ追われているのか。なんかちゃんはとにかく走って逃げた。途中、雪でカマクラを作り、その中でじっとすることにした。
◁
カマクラの中は暖かく、なんかちゃんは追われているのも忘れいつの間にか、うと、うと、と眠ってしまった。
なんかちゃんの体温でカマクラの内側の壁がほんの少しだけ溶けると敷き詰めた葉っぱに雫となっておちた。
ぴたん、
ぴたん、
ぴたん!
3度目の音でなんかちゃんが目を覚ますと、カマクラがさっきより暗くなっていた。それもそのはず、カマクラの入り口に大きな熊が立っていたのだから。
「紅茶とか、好き?」
熊はその体格に似合わない高く細い声でそう尋ねた。
◁
「うわ、熊が喋った。こわ」
なんかちゃんは引いた。
「ええっ! ちょ、そこ? この話ではそういう設定って流れじゃないの?」
熊はしどろもどろになってしまった。
「え? ああ……。不文律っていうんだっけ」
「それもちょっと……」
「紅茶、好きよ」
なんかちゃんは、にっこりした。
「そ、そうなんだ、よかった。一緒に飲もうかと思って……」
熊は釈然としない気持ちを抑え、いったん箱にしまい、その箱をさらに脇にどけてから、どこからともなく水筒を取り出し、紅茶をコップに注いだ。
「どうぞ」
と熊がなんかちゃんに差し出す。
「ありがと」
なんかちゃんは受け取るとすぐに飲み干した。
「ぬるいわね……」
「えっ、ご、ごめん……」
熊は少ししょんぼり。
そのとき。
ふ、
と風が吹き込んだ。
カマクラの中、葉っぱが宙に舞う。一瞬、何かがきらめく。なんかちゃんは、そちらを見る。熊は、なんかちゃんを見た。すぐに風は止み、ひらり、と葉っぱは落ちた。
「…………」
あっ、と二人(一人と一頭)は同時に息を飲んだ。
◁
葉っぱは真っ二つに切れていた。これはいにしえよりなんかちゃんちに伝わる剣を使わぬ剣術「秘伝殺法ワンゲル熊殺し」であった。葉っぱがふたりの丁度間を舞ったその一瞬、互いの視線が葉に交わったときなんかちゃんの血はたぎり本能的に斬ったのである。
だがこの熊、おしゃべりさんであることからも想像できるように、人知を越えた獣を越えた獣、凄熊である。マタギやハンターを返り討ちにしてきた、幾度もの死線をくぐった弩級熊であった。
よけた!
ひらりとよけたのである!
水筒から一滴のぬるい紅茶を零すことも無く華麗によけたのだ!
「やるじゃない」なんかちゃんは呟いた。
◁
「きみ、なんかちゃんだろ?指名手配書の写真と少しだけ違ったけど時間が経ったからかな」
熊はそう言いながら湯気のない紅茶を少しだけ啜り、それを床に置いた。
「ここじゃ狭い、外に行こうか」
熊が先にカマクラを出る。なんかちゃんも後に続く。ふたりの間の空気は、葉っぱは、どこか緊張しているように見えた。
対峙せず、構えもせず戦いは始まった。先に仕掛けたのはなんかちゃんだ。
その小さな体をいかし、空を蹴り熊の懐に飛び込んだ。
〈つづく!〉
大川内優は作家である。主にインディーズで自己出版をしている作家だ。いわゆる商業出版での出版作品はない。その作品の特性上、商業出版の器に収まるものではないからだ。
大川内優は専業の作家ではない。他に職業があることをブログで示唆していた。株取引を手がけたという情報もあったが、現時点ではブログやオフィシャルページが閉鎖されているため、真偽の確認はできない状態である。かすかに窺い知れる彼自身の様子からは、彼が個人として体調、状況の両面でなんらかのトラブルを抱えているということは推察できるが、それは大川内優の作家性になんの影響も与えない。作品には雑音としての背景など本来不要なのだ。本稿ではあくまで大川内優作品のみを対象とし、その投影をしたいと考えている。
大川内優は、主に電子書籍の形で作品をリリースしている。一部の作品は販売されているが、ほとんどのものが無料で公開されている。作品数が多いのでコレクターに優しい施策といえよう。
主に短編小説を手がけているが、絵本作家としての顔も持っている。また、表紙デザインも自ら手がけ、電子的な装丁、配本の手配などあらゆる出版活動を独力でこなしていると思われる。つまり作家だけでなく、イラストレーター、電子出版エージェント、電子書籍プロデューサーとしての顔も持っているということになる。これがマルチな才能でなくて、何がマルチだというのか。
わずか数年間で300を超える作品をあらゆるストアでリリースするなど、精力的に創作活動・出版活動を行ってきたが、2016年の春の時点では、大川内優はほぼ活動休止状態となっていた。2015年の後半に、ブログなどが閉鎖となったのを機に、ほとんどのストアでの出品を取り下げたのだ。どういう経緯でそうなったのか説明はない。基本的に大川内優は、外部とは作品以外の接点を持たない方針のようだ。ある意味、ミステリアスな作家であるといえるだろう。
創作の方針を転換して、次作への余力を蓄えているのかもしれない。これはいわゆる充電期間と思われる。かつての超人的なリリースペースではそう追いかけられるものではなかったが、この機会に大川内優の足跡をたどり、大川内優の輪郭をなぞってみたい。
わたしが大川内優作品に出会ったのは、確か2013年の夏頃だったと思う。当時はわたし自身もまだ自分で電子書籍をセルフパブリッシングするということまでは具体的には考えていなかった。仕事の一環でたまたま知り合った個人作家の方の作品を探しにキンドルをのぞいたのをきっかけに、KDPにはどんな作品があるのかを調査しはじめた頃だった。
その頃たまたま新宿ゴールデン街のとあるバーで知り合った方が「キンドルダイバー」の資格を持っている方で、その方に手ほどきをしていただき、キンドルダイビングに入門したのだ。キンドルの深海にはさまざまな書物が沈んでいた。上位から1000位程度はだいたいメジャーどころが多く、商業出版の電子版というものが多い。たまにボーンデジタルの本を見かけるが極稀である。5000位ぐらいまで潜っていくと、少々珍しい本がチラホラしてくる。そして、1万位から下は魅惑のカオス空間である。ジャンルにもよるが、2万位を超える深さと、だいたい海底が近い。そんな最下層のあたりにくるとAAと書かれた似たような本がずらりと並ぶようになる。熟練のダイバーはその辺でそろそろ海底であることがわかる。
大川内優作品も、そのあたりで発見した。大川内優作品に似た書物は、実は少なくない。少なくないが、それらは少ない。あっても1点か2点である。それで満足して、3点目は出さないのが一般的である。しかし、大川内優は違う。数が多いのだ。とにかく多い。多いので目立つ。それもちょっと多いという程度ではない。かなり多い。
後の項で詳しく述べるが、大川内優作品単体それぞれには、目立った個性はない。色彩も似たり寄ったりのものがずらりと並ぶ。そんなものでも、これだけ多ければそのうち脳裏に刻まれていく。「また君か」と思うようになる。それを繰り返すとついには「なんだこいつは」になっていく。それはもう「興味」だ。私は大川内優に興味を持ってしまったのだ。ただひたすらその数の多さによって。
現に、私は大川内優を「作家」として認識している。これは作品の内容をきっかけにしたものではない。ただひたすら、その数の多さがもらたした結果である。人間、突き抜ければ、そこに何かが生まれるのだ。
大川内優作品にはいくつかの種類があるが、それは後で述べるとして、まずは全体像を解説しておきたい。彼自身の来歴については、「自分史」という作品があるので、作家自身の人となりがどうしても気になる方はそちらをご覧になるといいだろう。読んだらまた戻ってきていただきたい。
大川内優作品は、いずれも短い。星新一のショートショートか、それよりも短いスーパーショートが主である。魅力的なキャラクターは登場しない。ダジャレのようなおかしな名前の半獣半人のキャラを主人公としていることが多い。多くの場合、その人物の説明からはじまり、それに終始する。稀に教訓めいた記述に移行することがあるが、たいていはそのまま終わる。オチなどはない。クスリと笑わせるユーモアなどという余分な要素は無い。
人は、物語を読むときに、習慣的にオチを求めている。これは小説や絵本には、オチがあるという錯覚によるものだ。本来的に小説はオチがあってもなくてもいいものだ。塩味に慣らされているから、素材そのものを味わうことを忘れてしまっているのだ。
それゆえ、ほとんどの人は大川内優作品を初めて読んで「なんだこれは」と思う。そして「よくこんなものを出したな」と思う。それで終わる。次の作品を読もうと思うのは、よほどの奇特者である。どれも似たようなものだと決めつけて読もうとはしないだろう。もっとも、それに関しては正解ではあるのだが。
このような読まれ方であるから大川内優は多くの人に評価されないのだが、これはすべて読む側の都合でしかない。読む側の一方的な価値基準に押し込もうとして、上手く合わないからダメだと断じてしまうのだ。それはそれで仕方がないことだ。所詮人間は人間でしかないからだ。
だが、世の中にはその狭苦しい価値基準の外側にも、未だ見ぬ秘宝が眠っている。大川内優作品がその秘宝なのか、はわからない。が、圧倒的な数の多さは魅力の一つではある。
大川内優作品には成長も発展もない。そこにあるのは継続だけである。爆発も延焼もない。炎上もしない。消えることなく、ただチロチロと燃え続ける灯だ。しかし、じっと眺めていると見えてくるものがある。そこで何が見えてくるのかは、見る側の内面による。作品がプレーンであるため、読者の中ではその補完が自動的に行われる。人は、大川内優作品を通して、自らと向き合うことになるのだ。大川内優作品を正視できない読者は、自らを正視できない。現実逃避を求めて他者の作品にすがる者には、大川内優作品は毒でしかないだろう。自分と向き合い、何か答えを求めたい向きには、大川内優作品はある種の呼び水となって、あなたを解答へと導いてくれるだろう。実際、わたしも彼の作品の鑑賞を通して、迷いを払拭することができた。大川内優作品は、ある意味バイブルのようなものなのかもしれない。
大川内優作品は、青ベースで原色を多用した表紙が特徴的である。茶系など別のカラーリングのものもあるが、青系は目立つのでとくに印象に残っている。青文字に黒ぶちなどの判読性を無視した配色もある。大川内優にとって重要なのは自分の中からのアウトプットを作品にインプットすることであり、その先で作品から何が読者へアウトプットされているかは、あまり興味がないのだろう。
表紙や絵本シリーズに掲載されているイラストはすべて大川内優によるオリジナル作品である。おそらくWindows標準のペイントで製作されたと思われるデジタル作品だ。一見すると稚拙ともいえなくはないが、大川内優はマウスを用いて描いていると推察されるため、常人よりは高度な描画スキルを持っていると言える。試しに描いてみて欲しい。多くの人は、マウスでこんなに上手くは描けない。もちろん、マウスで器用に絵を描く絵師もいるだろうが、それは少数派である。そして大川内優の絵画は安定している。急に上手くなったりしない。また、絵には文字での補足も多用され、わかりやすいのも優しい。たまに本当に意味不明の絵もあり、スパイス要素も忘れていないのが心憎い。
大川内優作品は、何が書かれたのかを見ても本当の意味で楽しむことは難しい。大川内優作品は、彼が何を書こうとしたのかを読み取ることこそが本当の意味での楽しみ方なのである。だからこそ、この膨大な作品数が必要なのだ。一つ一つの作品では伝わらないことも、多くの作品からの弱々しいメッセージを撚り上げて精製すると、見えてくるものがあるのだ。わたしもまだまだ大川内優作品の初心者、いや入門者である。さらなるステップアップを求めて、精進したいと思っている。
大川内優作品は、「小説シリーズ」、「絵本シリーズ」、「色んな本シリーズ」の三つに分類できる。
「小説シリーズ」は「チョコレートジュース」と題された短編集の形でリリースされている。1ページの掌編小説に挿絵が1点添えられるのが基本形だ。短編集一つに、掌編5編が収められている。
現在は「チョコレートジュース2」というシリーズで、第21弾までリリースされている。「チョコレートジュース2」は短編ナンバーが100番からの作品になっている。99番まではおそらく「チョコレートジュース短編小説集」というシリーズに収められていたものと思われるが、現在は「チョコレートジュース短編小説集No.25~No.43」のみが検索にかかるだけで、その実態はもうわからない。
チョコレートジュース短編集は2015年12月まで精力的にリリースされていたが、そこで一旦休止となった。最新の「チョコレートジュース2VOL21」は200番〜204番までの5編が収録されている。
「絵本シリーズ」は、大川内優作品の中でも最も大川内優らしい作品のシリーズであると言える。2014年〜2015年末までに122点という驚異的なペースで作品がリリースされた。小説シリーズとも平行しているので、これはもうギネス級のハイペースである。
第17弾の絵本「家ピザ」以降はナンバリングがしっかりしているので、リリース順がわかりやすいが、それまでの16点は、登場順がはっきりしていない。唯一第3弾の絵本「奇跡のカギと釣り針と。」には第3弾と明記してあり、これは制作が2012年となっている。また、絵本「狸のモカベースと狸幽霊ヒルトンの戦い」と絵本「魔法ラベルのワイン店」は、表紙に「カワチユウ」制作である旨が書かれており、おそらくこの2点が第1弾、第2弾であると思われる。
初期の絵本作品は文章が比較的長い。後期になるにつれ、絵が大きくなり、文章もすっきりとしてくる。一方で表紙の色味が徐々に青と原色へと偏りを増していくのも興味深い。2015年末で一旦休止になっていたが、最近になって新作絵本「7」がリリースされた。この作品からはナンバリングは省略されている。
「色んな本シリーズ」は第5弾以降が現在確認できるが、17弾以降はナンバリングが無くなっている。4弾までは検索にもほとんどかからないので、詳細は不明である。最近、このシリーズから活動が再開されたようだ。戦国図シリーズが連続してリリースされている。
色んな本シリーズは、小説でも絵本でもない、ユニークな作品がラインナップされている。トレーディングカードをイメージした作品や、最近流行のインフォグラフィック的な作品まで、実に多彩である。大川内優の世界観を具現化した作品ばかりであり、今後も活動中心となって多くの作品がリリースされると思われる。
大川内優作品は、過去には多くの電子書籍ストアからリリースされていたが、現在ではBCCKSのみでのリリースとなっている。大多数は無料になっているが、いくつか216円のものがあり、おそらくこれらは設定変更を忘れているだけではないかと思われる。が、お布施代わりに購入してもバチは当たらないと思うので、ぜひ全点コレクションしていただきたい。全てソーシャルEPUBでDL可能だが、なぜか各種ビューアとの相性があまりよくないので、閲覧はBCCKS上で行うのがベターである。
さて、2015年秋〜冬で活動を休止したと思われた大川内優であるが、2016年の春になり活動を再開したようである。「自分史」という作品には、消滅した公式サイトの代わりに、大川内優の人となりが紹介されている。鑑賞の合間にチェックしておこう。
いずれにせよ大川内優作品は、非常に不安定な状態でリリースされており、いつ閲覧不可能になるかわからないという危うさがある。今見られるからといって、明日見られる保証は無いし、この原稿が公開された時点ですでに閲覧不可になっている可能性すらある。そもそも私がこの原稿書き上げるまで保つかどうかすら予測不可能だ。急ごう。
大川内優作品の楽しみ方とは何か。それは1点2点をさっと眺めただけではわからない。それでは、ただのヘタクソな絵と、意味不明な設定とオチの無いストーリーがあるだけだ。しかし、ひたすら数を消化していくと、そこには深くて暗い深淵が見えてくる。なぜ、そのような発想をしたのか、何を伝えたかったのか。そのとき実際は何が起こっていたのか。何から逃避しているのか。何を求めているのか。
いずれにしても、200点以上もの電子書籍をひたすらリリースするその情熱はどこから生まれ、どこへ行くのか。今後もひっそりと観察を続けたいと思う。
※2016年5月20日現在。
「チョコレートジュース短編小説集」
小説1~99は確認不可。
「チョコレートジュース2 No.1」
・100.ストレートティー
少女芽論の日常を描いた作品。平凡な少女と母親との平凡な会話が慈愛に満ちている。
・101.プラントハンター
特殊な職業「プラントハンター」の物語である。カナダまで植物の採取に行って帰るまでの一部始終。特にドラマ性は無い。
・102.ヘビ結び
二匹の蛇に降り掛かった珍事を描いた作品。珍しく若干オチっぽいものがある物語だが、それほど明確にはなっていないので、無自覚である可能性が高い。
・103.スイカ栽培家
タイトル通り、スイカ栽培家とスタッフがスイカを栽培する話。オチのようなものは一切ない、安定の大川内優イズム全開の作品である。
・104.イカそうめん流し
「イカそうめん流し」という特異な設定を淡々と描写した物語。そうめんがイカそうめんである以外何の工夫も見られない。だが、そんなものは必要がない。そうめんがイカそうめんであることを強調するには、特別な展開など不要である。大川内優作品はこれでいいのだ。
「チョコレートジュース2 No.2」
・105.もしもしリクエスト
「もしもしリクエスト」という店名のレストランの話。電話でどんな注文のケータリングにも応じてくれる店であるが、大川内優作品には、他にも同様の業態の飲食店を題材としたものがある。
・106.弱力
ある子どもがケンカをしたが、腕力が弱かったため相手を傷つけずに済んだという物語である。後半は説教めいた展開になる。腕力がなくて良かったのか悪かったのか曖昧になっているのがまた大川内優らしい優しさのある作品である。
・107.オオワライタケをかじる生活
毒キノコを食べて笑う話。ただ笑うだけだが、ちょっと食べ過ぎて症状が悪化してしまう。末尾の注意事項が優しい。
・108.プロ定規選手
2022年に流行するという「定規」という架空の競技を扱った作品。明らかにフィクションであってもその断り書きを忘れないところが大川内優らしさである。
・109.空き缶イーター
2024年に発明される新生物を扱ったSF作品。世界のゴミ問題を解決する提案になっている。これもフィクションであることを明確にしており、実に律儀である。
「チョコレートジュース2 No.3」
・110.全面黄色のルービックキューブ
本来6色であるルービックキューブを一色にしたというジョークアイテムを扱った作品。もちろん、アイディアのみの出オチ系作品で、登場する家族も特に目立った行動は起こさない。読む方もそろそろ慣れた方がいい。
・111.大栗
ある資産家が所有する山の栗の木で、栗拾い大会を行ったという話。子どもたちは喜んだというが、特に変わったことは起こらない。
・112.気分Tシャツ
着た人間が書かれた文字の通りの気分になるという架空のTシャツの物語である。アイディアは面白いが、特にドラマチックな展開にはならず、商業的に成功するだけ。
・113.扇風機風車
ある土木関係の男が庭に扇風機を廃物利用した風見鶏を置くという話。一体何を見て、そんな物語を発想したのだろうか。
・114.鰻重エネルギー
とある中堅マンガ家の好物が鰻重であるという話。ただそれだけだが、それもまた小説である。
「チョコレートジュース2 No.4」
・115.アリ字
字が下手な人が習字を習う話。下手な字は一般的にはミミズに例えるので、アリが這ったようなと表現するのは大川内優オリジナルである。
・116.りんご飴カード
自販機で利用できるプリペイドカードについての提案。「りんご飴カード」というネーミングに特に意味はないとのことだが、祭りの夜店に行ったあとで小銭を切らして自販機で買い物ができなかったといった事件がバックボーンにあるのかもしれない。
・117.ノベルキラー
ある小説家の書いた本で殺した登場人物と同姓同名の一般人が相次いで死ぬというストーリー。若干デスノートっぽい話だが、ホラーサスペンスの原案としてはなかなかのものではないだろうか。
・118.大飲青時
小説というより詩に近いのではないか。酩酊とともに訪れる「青い時間」というのはなかなか沁みる。
・119.雪パン
パン粉とジャムを混ぜて食べる「雪パン」という新商品のアイディア。想像してみたが、案外イケるのではないだろうか。
「チョコレートジュース2 No.5」
120.移り気
ある女性の幼少期の性癖が人生を左右するという話だが、批判だけでなく最後できちんと救済する。優しさに満ちた作品。
121.ピンクムラサキ蝶
蝶の研究家のエピソードである。望んだ成果は得られなかったが、行動はムダではなかったという落としどころに、大川内優の人生観がにじみ出ているように思う。理想とは違っていても、何事にもどこかしら評価すべきポイントはあるのだ。
122.ドリームデリバリー
宝くじを宅配してくるサービス。実際に利用した人のエピソードであるが、これも末尾にフィクションである旨が明記されている。
123.コンビニエンスタワー&ショッピングセンタワー
コンビニタワーは極めて不便そうであるが、センタワーの方は集客率が高そうだ。センタータワーではなく、センタワーとしたところに大川内優流のこだわりを見た。
124.犬バス
あの有名な動物バスの犬バリエーションの話。乗り物の説明に終始し、特に事件などは起こらない。好評らしい。
「チョコレートジュース2 No.6」
125.大波
創作職業系作品。ホームページ閲覧士なる職業の女性の物語だが、業務内容と彼女の口癖の説明のみであるのはいつもの通り。
126.ゆでたまごっち
たまごっちのバリエーションを創作したもの。表題のものの他に4つのバリエーションが示されている。第五のバリエーションである「スクランブルエッグっち」はちょっと試してみたいと思った。
127.奪還王様ステーキ
グルメ系ブロガーの日常を描いた作品。タイトルはそのブログ名である。主人公は猫を飼っているらしいが、とくに猫についての描写はない。
128.絶好調フェスティバル
珍しくネガティブな作品であるが、教訓めいた締めくくりであるので救済感がある。期待はずれでも必要以上に落ち込んではいけないのだと教えてくれているようだ。
129.んんく
これも珍しい法廷モノ。主人公の女弁護士のクライマックスの主張は迫力満点だ。タイトルが何を意味しているかは説明されない。
「チョコレートジュース2 No.7」
130.しがらみ焼
「信楽焼」から着想したと思われる表題の焼物の職人の物語。精神力を要するという過酷なものらしい。設定としてはなかなか面白いのではないか。特に事件は起こらないのは、大川内優ワールドの安定感。
131.スタンプラリー
普通のスタンプラリーの一部始終を述べた作品。主人公の名前は凝っているが、とくに物語に寄与することはない。現実とはそういうものだというペーソスに満ちた掌編である。
132.ショッキングショッピング
単に買い物をする話だが、若干オチめいた結末はある。だから何?感満点だが、それこそが大川内優作品の特徴である。味わおう。
133.アンティークカメラ
アンティークカメラ蒐集家の日常を描いた作品。行った先が廃校の校長室という絶好のロケーションにもかかわらず、特に事件は起こらない。安定の大川内優クオリティである。
134.失敗からの失敗
ある起業家の半生を描いた壮大な物語になる可能性を秘めているが、事業に失敗したので終了。若干の教訓めいた結末は、何か実際の出来事から着想したのだろうか。
「チョコレートジュース2 No.8」
135.吾輩は宇宙人である
表題の通りに受け取ると、宇宙人が登場すると思われるが、実際には「宇宙人レストラン」なる創作店舗の物語である。よく読むと、宇宙人は登場していない。挿絵には宇宙人風のキャラが描かれている。夏目漱石のパロディ要素は皆無なので安心して読める。
136.退却の巨人
進撃の巨人のパロディ大作と思いきや、単なるアダ名。じわる作品。
137.超絶不調
オリンピックを目指す射撃の選手がスランプに陥るという物語だが、それを克服する訳でもなく、ただオリンピックに出られなかったというだけの無展開。現実とはかくも冷徹なものなのか。作者の深い絶望感が滲みでていて切ない。
138.デフレスパイラル
日本経済についての大河巨編などではなく、経済アナリストの予測が当たったよというだけの話。長引く不景気への絶望感が垣間見える。期待していた電子書籍の売り上げが伸び悩んでいる頃だろうか。ネガティブな作品が目立ってきた。
139.堕落墜落
操縦に失敗して引退したパイロットの話。これもネガティブ系作品だが、無事脱出できたのは大川内優の優しさ。
「チョコレートジュース2 No.9」
140.最低な結末
テニスプレイヤーのミスを扱った作品。ミスして反省するだけだが、このような反省系は大川内優の作品バリエーションの一つの典型である。この巻はとくにネガティブなタイトルが多い。リリースされたと思われる2015年5月頃に作者の身に何か起こっていたのだろう。
141.でぶちょ
カップラーメンのカップのコレクターの話。「○○の話」という表現はあまり繰り返したくないが、大川内優作品では多用されているので、どうしても伝染ってしまう。
142.最悪のショートケーキ
冷蔵庫のケーキが腐っていたというエピソード。腐ったショートケーキはたくあんの味がするらしい。グルメ系バリエーションの一つ。
143.恐怖の恐慌
この頃増えている株式系作品の一つ。確か大川内優はこの頃小説の執筆と平行して株式投資かFXに手を染めているので、このような経済ネタに傾倒していったのだろうと思われる。
144.死のリスクとデメリット
タイトルはネガティブそのものだが、物語自体はハッピーエンドという珍しい作品。このところマイナスイメージの作品が続いていたので、大川内優の中で揺り戻しがあったのかもしれない。
「チョコレートジュース2 No.10」
145.片付いてない部屋
いわゆるゴミ屋敷を扱った物語だが、ただ行政代執行されて転居させられるというだけのもの。テレビで見たものをそのまま書いたとも言えるが、主人公の凝ったネーミングにはこだわりがあるのだろう。
146.飽きた飽きた
デザインに飽きたと未使用の電池を捨てる男のエピソード。庶民派の大川内優としては非常に大胆な行動なのだろう。私も未使用の電池はなかなか捨てられない。しかし、大川内優はそんな男も許容するというのだから、実は器が大きいのかもしれない。
147.痒い痒い
不潔な男が、ある事件をきっかけに……、変わるかと思いきや結局変わらなかったというパターン。大川内優作品は、現実を現実の通りに直球で受け止めている。度量が大きくなければなかなかできることではない。
148.爪を噛む癖
悪癖が恋人への愛で克服されるという心温まるエピソード。イソップの「北風と太陽」の彷彿とさせる展開に俺内の観客がスタンディングオベーションを贈った。挿絵のハートマークが実にキュートである。この巻はポジティブな作品が多い。抱えていた問題が解決されたのだろうか。
149.たこたこ
この作品も主人公に彼女がいる。ひょっとするとこの頃大川内優は恋をしていたのだろうか。次巻でどうなるか見物である。
「チョコレートジュース2 No.11」
150.カレーが服に…
日常のちょっとしたトラブルを描く「日常系」バリエーションの作品。朝食をカレーパンに変更することで問題を解決した。
151.リアルアニマル
一方こちらは道端で虎に遭遇するという非日常系バリエーション。目の前で虎が射殺されるという悲惨な話をカレーパン以上にあっさりと書き捨てるあたりが心憎い。
152.水たまりバシャン!
反省系バリエーション。クルマに水をかけられた女性が、道路を歩く時は気をつけるようになったという物語。通行人が水をかけられるシーンを目撃したのだろうか。リリースが6月なので、おそらくこの日は雨が降っていたと思われる。
153.依存症~体が求める~
パチンコ依存症のエピソードをいつもの軽い調子で描いているが、よく読むと結構ひどい状態のようだ。本人か身内の誰かがそういう状況なのだろうか。心理描写がリアル。
154.信号無視の罪
反省系バリエーション。登場人物にケガはないなど、大川内優らしい作品である。一時期の極端なネガティブさはなくなり、この巻の辺りは安定した作風に戻っているように思う。
「チョコレートジュース2 No.12」
155.風邪地獄
おどろおどろしいタイトルとは裏腹に、教訓系バリエーションである。ある女性の壮大な大河ストーリーをコンパクトにまとめている。風邪対策の健康情報も満載である。この巻は各作品の文字数が多めになった。筆が乗ってきたのだろうか。そういえば書体が変わったな。何巻からだろうか。
156.解けない知恵の輪
よく似た名前の登場人物が2人出るので若干難解だが、心地よい友情ストーリーである。コンプレックスも、よくよく理解しあえば解消できるというエピソード。
157.完成しないジグソーパズル
基本的に大川内優作品は単純明快なものばかりだが、この作品は若干シュールさがある珍しいものだ。物語は短い中で二転三転し、スピード感がある。結末は破滅的であるが、作者にも登場人物にもその自覚はないように思われる。
158.落とした財布
これも難解な作品。通常の大川内優であれば、財布が見つかってラッキーという展開のはずが、主人公は意味不明の行動を取る。前作に近い作風ともいえるがそのさらに次のステージという感じだろうか。
159.副作用~人体緑化~
久しぶりの発明系バリエーション。効果的な花粉症の薬に思わぬ副作用があって流行るが、その弊害があって結局廃れるという一部始終の物語。大川内優の作品は、時代を切り取って比喩しているものが実は多い。
「チョコレートジュース2 No.13」
160.我慢できない
この巻から書体が普通のゴシックになる。読みやすいがケレン味は抑えられてしまった印象。一作品あたりの文章量が多くなってきたので、作者なりの配慮であると思われる。この作品は教訓系と大河系のハイブリッド型バリエーション。
161.カンニングプロフェッショナル
これも教訓系&大河系ハイブリッド。ものすごい勢いでムダに話が展開して、お説教で終わる。一切のゆらぎはなく、むしろ潔さすらある。大川内優の真骨頂とも言える作品である。
162.どこにいった?
日常系バリエーション。極めて優しい話である。この巻は非常に安定しているので、何巻かリリースする間に抱えていたトラブルは一段落したのではないかと思われる。
163.おでんからし
この作品は目次にはあるが、なんらかのエラーで掲載されていない。
164.泥棒×泥棒
ちょ、なにこれいきなり面白いw まぐれ当たりなのか、私が慣れてきたのかわからないがこいつはホームラン級の一作である。最後は改心するあたりが大川内優らしくもあり、好感が持てる。ただ、いきなりこれだけ読んでも、やはりピンとはこないだろう。63作読んできて、はじめて理解できる作品であるのは間違いない。
「チョコレートジュース2 No.14」
165.仕事中…ウトウト…
日常系バリエーションからまさかのライフハック指南。どこかで聞いてきたハウツーを惜しげもなく披露してくれている。
166.嫉妬り
日常系から教訓系へ展開するパターン。タイトルは「しっとり」とでも読むのか。微笑ましい姉妹げんかの物語。
167.台風一稼
台風一過の誤字かと思いきや、久しぶりの創作業態系バリエーションだった。ラストが若干説教系に流れるパターン。「少し犯罪っぽい」と言っているが、モロに犯罪ですねこれ。
168.先を越されタワー
背が高い男を題材にした作品は他にもあるが、いずれも愚鈍な男として描かれている。タイトルの「タワー」は、長身男性を指しているようだ。
169.世界の終了
無慈悲にもあっさり世界が滅亡するという強烈な物語だが、それでも最後はなんとなく救いがあるような締めくくりになっているところが大川内優らしい。夏に書かれたものなので、たぶん実際に暑かったのだろうと思われる。
「チョコレートジュース2 No.15」
170.喧嘩ッキープライドチキン
「嫉妬り」と対極を成す男兄弟版バリエーション。結局仲良しなのがまた大川内優ワールドである。この巻だけBCCKS以外のストアにも配信されているが、おそらく取り下げ忘れだと思われる。なにしろこれだけ数が多いのだからそのようなエラーがあってもおかしくはない。
171.サイズが小さかった
試着して買ったのになぜサイズがすり替わっていたのかは不明だが、日常系ならではのほのぼの感溢れる作品。結局着ないというのもまた大川内優らしさ。
172.いちごソフトクリーム
ソフトクリーム屋がオープンと冒頭で言っているのにも関わらず、ラインナップにはソフトクリーム以外が並ぶというシュールな作品。イチゴ味のソフトクリーム自体はそう珍しくもないはずだが、実際にはあまりないのか。
173.ペパーミントティー
超日常系。おそらく全作品中最も起伏のない物語である。この巻はだいぶ内容が安定しているので、大川内優の日常も平穏であったと推察できる。
174.凝ってりーラーメン
創作メニュー系バリエーションではあるが、前半は普通の塩ラーメンの話題である。後半の表題のメニューもこってりしている以外に具体的な記述はない。
「チョコレートジュース2 No.16」
175.トラウマシカ
何気に核心を突いている気がしないでもない。思っていることを書き出してみるというのは、案外効果がありそうに思う。メンヘラのセルパブ小説家が多いのは、実は良いことなのではないかと最近思いはじめた。
176.プラスチックダストシンドローム
ゴミに埋もれていく街があるというディストピアもの。こんな良い舞台なら長編が2、3本書けそうなものだが、惜しげもなく掌編に投入してしまうのも大川内優流である。
177.無味コーヒー
創作珍商品シリーズの一つ。表題のコーヒーより、「ホットメロンクリームソーダ」の方がよほど気になるが、そこは軽く流しているところが憎たらしい。
178.ホコリー
教訓系バリエーション。私であれば翌日の行動の方を反省するところだが、大川内優は主人公にネコババを反省させている。美しい心である。
179.電波障害
一見すると日常系起伏無しの作品なのだが、電力会社の社員がTVの受信調整を日常業務でやっているという壮大なフィクションになっていた。危うく見逃すところだった。ちなみにこの作品は奥付の文字が非常に小さい。なにか心境の変化でもあったのだろうか。執筆時期的には活動休止期間の直前である。以降の作品は特に注意を払って読む必要がある。
「チョコレートジュース2 No.17」
180.臭い漬物
日常系に若干のアクシデントをエッセンスとして加えた作品。反省や教訓への展開はせず、淡々と対処して終わる。そんな日常。
181.不安定
こちらも日常アクシデント作品。反省はしている。
182.疲労~ヒーロー~
職業ネタ。スーツアクターの悲哀を淡々と描いている。NHKの「トットてれび」第2話でも同じ構造の物語をやっていたが、ずいぶん印象が違う。デコレーション次第でどうにでも化けるということかもしれない。
183.魔王豆腐
創作メニュー系。ネーミング以外は普通の麻婆豆腐というところに驚くが、この巻は割と安定している。嵐の前に静けさか。
184.亜書
例の国会図書館がらみの騒動を扱った作品であるが、タイトル以外に特に具体的な記述はない。時事ネタへの便乗ということはなさそうなので、インスピレーションを得ただけだろう。この巻のあとがきにはまだ「販売」の文字がある。
「チョコレートジュース2 No.18」
185.痛いの痛いの飛んでいかない
日常系アクシデント小説。ここには解決も反省も教訓もない。何かイヤな予感がする。
186.胃もたれさん
これも日常系アクシデント小説。そして、反省も教訓もない。ただ、起こったことを書いただけ、というかフィクションだから、起こったことですらない。闇が深すぎて酸欠気味。
187.やりがいなし
さらに虚無感が悪化した作品。中盤で一瞬教訓めいた展開になりかけるが、驚愕の結末に至る。これ映画化したら面白いかも(物議は醸すけど)。
188.初めての万引き
タイトルが衝撃的だけど、未成年の犯罪に真っ向から向き合った社会派小説。というかこの発想はどこから生まれるのか。闇が深すぎる。
189.炎女王
芸能人のブログ炎上という時事ネタを扱った作品。大川内優らしい作品なので少しホッとした。2015年12月のものだが、この巻はまだ大丈夫なようだ。SNSでの活動から撤退したあとのはずなのでどんな影響があるか気になっていたが、特筆すべき変化は見られなかった。
「チョコレートジュース2 No.19」
190.大気汚染濯
アクシデント系であるが、いつも通り自然に事態が収束する作品。タイトルはたまにある、ダジャレ系モデル。主人公の名前が古風なのが面白い。ただ、作品としてはややまとまりに欠ける。ここまで読んできて気づいたが、大川内優は文章自体はマズくない。むしろ上手い部類かもしれない。破綻も少ない。ただ「小説らしい特殊性」が欠落しているだけなのだ。
191.ガンガンGUN
新商品系バリエーションだが、実際主人公がそれを手にすることがない。想像上の産物でありながら、触れることすらないというのは、なんらかの異変とすべきだろう。前作にも同様の印象を受けた。
192.マルゲレータ
創作メニュー系かと思いきや、普通にマルゲリータを食べる話だった。究極の日常系バリエーションの一つとも言える作品。振り幅的にやはり異変を感じざるを得ない。
193.窒息エレベーター
アクシデント系作品だが、これも無味感が強い。事後対策は述べているが、反省や教訓の度合いが弱い。何か突き放した感がある。
194.はげろう
タイトルと関係なく、ただ宝くじが当たるというだけの無味乾燥なストーリー。続けて読むと、この巻では一貫して温度が低いことがわかる。2年以上続けた大量創作のダメージが表面化してきているのかもしれない。
「チョコレートジュース2 No.20」
195.ドブ掃除革命
前巻の翌日にリリースされたものだが、少し揺り戻しがあったのか、比較的抑揚のある作品になっている。コンプライアンスも意識してか、平和的な結末になっている。級数は小さいままだが、書体がグラフィカルなものに変わった。
196.ジャストミートボール
ビックリするほどほのぼのとした話。これ単体で絵本にしてもいいのではないか。前巻との落差を考えると、この巻はやはりおかしい。
197.ガムが髪に…
アクシデント系バリエーションの典型的な作品。スケールは小さいが、勧善懲悪であったり天網恢々粗にして漏らさず的に、悪人には悪人に相応しい結末が用意されているわけで、非常にスタンダードなストーリー曲線を持っている。
198.海苔放題
新ビジネス創作系バリエーション。この手のアイディア作品は大川内優作品の主要なスタイルである。成功するかどうかは、五分五分ぐらいだろうか。ぶっちゃけ面倒なので計上調査はしないでおく。
199.アカヤニグソムシ
架空生物の物語はそれほど多くないが、いくつか散見できるバリエーションである。前巻の虚無感に対して、この巻は少しだけ明るい雰囲気になっている。意識して書いているのだろうか。
「チョコレートジュース2 No.21」
200.ショックリスマス
ほのぼの+日常+アクシデントという盛りだくさんな作品。結末はネガティブ。
201.きせきたん
これまでにない劇的な展開に、おお? っと思った直後の「オチ」。一瞬の期待は裏切られたけど、逆にホッとする作品。まあこれはこういうものだからさ。
202.天罰ゲーム
創作ゲームだとは思うけれど、実際にやってるのを見かけたのかな? でも相変わらず末尾にフィクションってあるので、やはり机上の空論なのだろう。発想の源は一体なんなのだろう。
203.ワサビール
創作メニュー系バリエーション。しかもダジャレ系。声に出して読みたい。
204.ストーカード
発明系バリエーション。そしてダジャレ系。展開はプレーンである。巻を通して、とくに異変は感じられなかった。そして2015年12月12日制作のこの巻でチョコレートジュース2のシリーズは休止になったのだが、巻末にも特に断り書きはないので、リリース時には何も予定していなかったと思われる。この時点でブログも閉鎖になっているため、休止のいきさつはまったくわからない。2016年5月の段階で他のシリーズは再起動しているので、こちらのシリーズも再開の可能性がありそうだ。
絵本「狸のモカベースと狸幽霊ヒルトンの戦い」
絵本シリーズの中で、最初期のものと思われる二作のうちの一つ。特に明記はされていないが、こちらの方がBCCKSの管理番号が小さいので、絵本シリーズの第1弾と思われる。白系の表紙画を採用した。文字数は多めで、展開も若干抑揚があり、一般的な内容であると言えるが、それは同時に凡庸でもある。ネーミングに凝っているのは大川内優らしさの一要素であり、初期からその傾向は見られる。制作はカワチユウ名義。
絵本「魔法ラベルのワイン店」
非常に文章が長い絵本。物語も長い。起承転転結の五段階をきちんと踏んでいるタイプなので、序盤はもたつくが中盤の展開はなかなか読ませる。途中で力尽きたのか、結末はバタついているが、大川内優作品の中ではきちんとした結末を示している方だろう。こちらとタヌキとどっちが先かと言えば、ひょっとするとこちらが第1号なのかもしれない。2つ目の転をもっと膨らませて、結までに少しタメを作るとヒットする可能性すら感じた。まあ気のせいだろうけど。制作はカワチユウ名義。
絵本第3作目
絵本「奇跡のカギと釣り針と。」
絵本第3作目と明記してある作品。2012年の制作ということなので、少なくとも大川内優はそれ以前から創作活動をしていることがわかる。2012年はそば店のアルバイトもしているので、比較的安定した時期だったのだろう。作品としてはなかなかエッジが効いていて面白い。後半に絵が無くなって、どどっと畳みかけるように終わるのはいつものことだ。
絵本シリーズ4〜16
絵本「-外伝-戦いの果ては…期待。」
この4作目から16作目は明確なナンバリングがないため、実際の創作順かどうかは不明である。この作品は絵が1点しかなく、ページは少ないが文章が長い。さらにストーリーの平板性が高いなど、大川内優作品としては完成度が高いので、もう少し後のものと思われる。が、確証はないので以下16作目まではBCCKS上での日付順に紹介していく。
絵本「ワライタケおにぎり演技」
作品の長さとスプレー演出、終盤の畳みかけなど初期の大川内優作品の特徴を多く持っているので、こちらが4作目である可能性が高い。結末には反省系バリエーションの特徴が見える。ちなみに絵本シリーズは獣人を主人公にしたものが多いのが特徴でもある。また、絵本シリーズには小説シリーズより長いストーリーが多い。絵本シリーズにならなかったアイディアを小説シリーズでまとめているのかもと思っていたが、明確に作り分けている可能性が高い。
絵本「カワイイの大好き♪♪」
後半に絵が減って畳みかけるのは相変わらずだが、中盤からの展開は秀逸といえる出来映え。珍しくキレイなオチもあって楽しめる作品。こう出来がいいと細部のツメが逆に気になってしまうが、大川内優作品にそれは禁物である。
絵本「未来予知の方法」
絵本と呼ぶには絵と本文の比率が少々おかしいが、そこは気にしてはいけない。ここに登場する未来予知の手法と副作用には大川内優流のオリジナリティが認められる。終盤どどっと畳みかけるのはいつもの通り。少し哲学性を感じる作品に仕上がっている。
絵本「パニック!カレー店」
スプレー演出をやめたので読みやすさが向上した。各ページに絵を配置するなど、絵本らしさも増している。序盤設定の冗長性は私の好みに合っているし、終盤の収束展開の味気なさも大川内優らしい仕上がりになっている。メニューに突っ込みどころが用意してあるのも心憎い演出だ。
絵本「祟られ喰われた」
驚愕のオカルト作品。肝心の部分が説明過多気味だが、特異な設定なので仕方がない。ストーリーは消化不良だが、絵の迫力でカバーしていると思えばいい。
絵本「宝探しゲーム」
一本槍なストーリー展開だが、終始丁寧に綴られている。イラストも増え、サイズも大きくなって絵本らしさが増してきたように思う。
絵本「名前戦争」
え、なにこれ。普通に面白いじゃん。オチまでキレイにまとまって、最後に意外性も盛り込んで。なんだろう。ここまで100作以上見てきて、だんだんこちらの体制が整ってきたのか、それとも毒されてきたのか。絵も巻を重ねるごとに好い感じになっているように思う。
絵本「暴走!コンビニエンスストア」
一方こちらは安定の大川内優。締めくくりのもたつき具合もいつも通りで安心できる。
絵本「本屋さんとおもちゃ屋さん」
創作業態&発明系の作品。小説シリーズにはよくあったバリエーションタイプである。絵本シリーズではこれは初期なので、これから増えていくものと思われる。冗長な設定に対して、事件性の低い展開は大川内優ならではである。
絵本「私は貝になった」
願いが叶うがそこには副作用があるというパターンだが、結末の物悲しさに趣がある作品である。ドラマ「私は貝になりたい」にインスパイアされたことは想像に難くないが、実際に貝になってしまうなど、本作の方がエキセントリックである。
絵本「過敏ライダー」
快調な走り出しからの仰天の最終ページに思わずひっくり返った。さすがの大川内優スタイルに乾杯である。
絵本「あこがれケーキ」
創作メニューからの日常系バリエーションというタイプ。絵本シリーズは小説シリーズよりページ数だけでなく文字数自体が多い。大川内優的には、これが長編なのである。ここまでがナンバリングのない初期16作である。これ以降は時系列を正しく追うことができる。
絵本シリーズ17
絵本「家ピザ」
ここからナンバリングが揃っているので、制作順に読むことができる。絵本シリーズ第17弾は日常系でストーリー曲線に起伏が少ないタイプ。そろそろ定番のスタイルが固まってくる頃ではないかと思う。特に教訓めいた要素は盛られていない。
絵本シリーズ18
絵本「ミルク製造工場」
小人が社会見学する話。クライマックスでさあどうなる! というところであっさり帰還する。大川内優の定番パターンがいよいよ確立されてきているように思う。絵が格段に大きくなり、絵本らしい体裁になってきた。
絵本シリーズ19
名前戦争2
この作品だけタイトルに「絵本」が付いていないが、ちょっとした手違いであると思われる。中身は間違いなく絵本シリーズの特徴を備えている。あの傑作「名前戦争」の続編であるが、こちらは特にヒネリはなく、スムーズに結末まで進んだ。
絵本シリーズ20
絵本「レベル37」
ファミコンあるあるみたいな話ではあるが、実際こんなことができるゲームがあるとすれば間違いなくクソゲーである。女神転生によく似たゲームが登場するが、本作のタイトルの方が面白そうではある。大川内優のネーミングセンスは、実は嫌いじゃない。むしろ好き。結末がグダグダなのも慣れてきて、逆に心地よさを感じるようになってきた。疲れているのだろうか。
絵本シリーズ21
絵本「星形ストロー」
大川内優作品のほとんどは現在無料で配信されているが、本作とあともう1作ほど、有料設定のままのものがある。これらだけ特別な内容ということはないので、おそらくは単なる処理漏れであると思われる。せっかくなので購入して拝見することにする。ストーリーは幼少期のある出来事がきっかけでのちに大成するというパターン。そして末尾に教訓トークがついた。いよいよ大川内優スタイルが完成に近づいているのを感じる。
絵本シリーズ22
絵本「シジミ記念日」
大川内優作品のうち、ある時期のものにはバージョン番号がつけられている。ほとんどのものはVer1.0.0なのだが、唯一この作品だけVer1.2.0となっている。なんらかの改変が行われたものと思われる。書体も変更された。ストーリーはこだわり系とでも言えばいいのだろうか、登場人物の強い固執を描いたもの。こだわりの理由付けはこってり述べられるが、結末はあっさり。
絵本シリーズ23
絵本「青空ミント」
大川内優流のお説教系スタイルが確立された一作である。寓話とは本来そのような機能を併せ持っているものであるはずであるので、幼児向けの絵本としてそのような進化を遂げるのは正しいことのように思う。ただ、あまりに結末があっさりしていて、説教タイムも唐突に訪れるので、なかなか響かないような気もする。あと人間が受け入れるには少々正論過ぎる。しかし、それも含めて大川内優なのだから、これはこれでいいのだろう。
絵本シリーズ24
絵本「HAPPY?」
23に続いて説教系の作品である。登場人物に何らかの失態があれば反省系か教訓系であるが、本作の場合は非常に上手く行っているものに対して、「こうするには○○しなければならないよ」と説いているので、説教系に分類できる。
絵本シリーズ25
絵本「ヘビ結び」
「チョコレートジュース2No.1」収録の同名の短編小説とまったく同一のもの。時期的にはこちらが6月で小説版が9月なので、絵本を先に書いて、追って小説版へ収めたものと思われるが、その辺りの確証はない。作品としては絵のストーリー性が向上し、単なる挿絵から絵本の主体としてのイラストへと進化しつつあるようにも見える。
絵本シリーズ26
絵本「絶品メロン」
絶品シリーズの一つ。ジャンル的にはこだわり系に分類できる。一度失敗し、再起するというストーリー曲線があり、割と凝った作りになっている。とはいえ、肝心のジャングル行やオークションシーンはあっさりしており、山場を書き込むということはないのだった。
絵本シリーズ27
絵本「キュウリ給料」
これは「教訓系の真逆」という作品群に含まれるのだが、これらをどう名付ければいいのかわからない。労働への礼賛かと思いきや、まさかの結末に唖然とさせられる怪作である。
絵本シリーズ28
絵本「時ワタリガニ」
まさかのSFにまさかの結末。まあ、カニだしなという感想しか持ち得ないのだが、そこは大川内優ファンであれば、冒頭で予測できるだろう。
絵本シリーズ29
絵本「ミルクロード」
ここに登場する「ミルク製造工場」は絵本シリーズ18に登場するものと同一だろうか。選択肢がなくただ成功し続ける一本槍系ストーリーである。末尾にもやっとする曖昧な文章が蛇足的に付いているのが、また一層の大川内優っぽさを醸し出している。
絵本シリーズ30
絵本「仲間になりたい!」
「名前戦争」シリーズでおなじみのワイオが再登場。なんとストーカーにつきまとわれているという。んだけど、なんかすげえ好いヤツで、最終的に公認ストーカーになるという。決して仲間になるわけではないというのがまた、なんじゃそりゃ感満点で素晴らしい。
絵本シリーズ31
絵本「最後の最果て」
この獣人惑星の全容が初めて明らかにされる作品なので、ファン必見である。最果て祭という奇祭を紹介するものだが、とくに事件は起こらない。確かにTVで奇祭を紹介するときはこんな感じにはなるよな。だから、いいんだこれで。問題ない。
絵本シリーズ32
絵本「End of food」
ワイオシリーズ第4弾。子ども達が一切出ないので名前戦争よりも前の時系列かもしれない。ていうかリア充爆発しろ!
絵本シリーズ33
絵本「プリン革命」
プッチンプリンを知らなかった小学生の話。余計な説教は付いてない。てかあれプチってやんの最初のうちだけだよね。
絵本シリーズ34
絵本「ホワイトコーヒー」
創作メニュー系かと思いきやホワイトコーヒーというものは実在したりするので怖い。事業は失敗なのでネガティブテイストな上に、末尾に説教が付いているというウザさの高い作品。
絵本シリーズ35
絵本「レール」
ヒネリ角ゼロのメインストーリーに、末尾に2ページもの説教が付いてくるという激ウザ作品。この日大川内家の親子関係に何があったのか気になる。
絵本シリーズ36
絵本「絶品スイカ」
タイトルでピンと来ていれば、あなたはもう立派な大川内優フリークの一員だ。そう、もちろんこれは絵本シリーズ26の「絶品メロン」のシリーズ作品だ。シリーズっていうか、主人公名と果物の種類以外はほとんど同じ内容である。なんでこれ書いたんだ大川内優先生!
絵本シリーズ37
絵本「すべてを超えて」
バイキングで全種類食べるというだけの話。他に類を見ない、大川内優だけのストーリー無展開である。が、まあブログでよくある全部乗せとかに近いっちゃあ近いか。
絵本シリーズ38
絵本「38℃」
ワイオシリーズ第5弾。38番目の絵本だから38度なのかどうなのかは不明。子ども達は文中には登場するので、ひょっとしたら3弾や4弾も出産後の話なのかもしれない。ていうかリア充爆発しろ!
絵本シリーズ39
絵本「2つサクランボ」
リア充爆発しろ! と言わざるを得ないリア充系作品。「チョコレートジュース2」が始まった頃で、あっちにもリア充作品がチラホラしていたので、作者が恋をしていた時期ではないかと思われる。本作は大川内優作品の中でもトップクラスのまとまりの良い作品。その分大川内優らしさは弱め。どんな凡打者でも2、3本はホームラン打てるものだ。そういう意味で、大川内優の「ひたすら数を出す」というのは正しい選択であると思う。数は力だよ、兄貴。
絵本シリーズ40
絵本「魔法のオーブントー☆」
うえっ! なに? 二打席連続ホームラン? 本作も良い出来映え。絵も大きく、より絵本らしくなっている。結末が素敵すぎて憎たらしいぐらい。ちらみに表題の「☆」はスターと読む。ルビ振っとくか。
絵本シリーズ41
絵本「チーズケーキ戦争」
ワイオシリーズ第6弾。戦争といえばこの夫婦という感じではあるが、チューとかしてやがって、戦争ナメんなと言いたい。大川内優作品としては高値安定期のようで好いペースのようだ。2014年10月の頃なので、精力的に制作・販促を行っている時期である。筆がノっているのがよくわかる。
絵本シリーズ42
絵本「ドラッグスタワー」
ドラッグストアの「トア」を「タワー」に置き換えたダジャレ作品。「チョコレートジュース2」にも「コンビニエンスタワー&ショッピングセンタワー」という作品があり、この時期このダジャレがお気に入りだったと思われる。当時あった公式サイトも「Dragstower」というタイトルだった。タワーの上層階にのみ店舗があるというシュールな発想は、正直言って嫌いじゃない。むしろ好きだ。
絵本シリーズ43
絵本「イエローレモン」
ほのぼの系作品。ストーリーはたいして起伏はないが、蛇足的部分もなく安定したものになっている。というか本作は絵が上手い。無限素振りの効果が出てきたのか。構図も好い感じに見える。大川内優黄金期の到来かもしれない。
絵本シリーズ44
絵本「ドラッグスタワー2」
絵本シリーズ42「ドラッグスタワー」の続編。大川内優作品で続編があるものは少ないので、このダジャレがよほど気に入ったものと思われる。前フリからオチまでよくできた作品。まあバンジージャンプの時点でオチが読めるんだけど、そこはご愛嬌。というより読んだ通りのオチになってる時点で好調とも言えるわけだけど。
絵本シリーズ45
絵本「本物カエル」
待て待て待て。このところまともな作品が続いていたので油断していたが、いきなりシュールさが三倍ぐらいになったぞ。とはいえ結末に蛇足はないし、ストーリー曲線もメリハリがあるので、出来映え自体は悪くない。
絵本シリーズ46
絵本「レモン好き」
タイトルで薄々気づくとは思うが、絵本シリーズ43「イエローレモン」の続編にあたる作品で、レモネードちゃんの第2弾である。中盤の中抜き展開はどうかと思うが、まあほっこりした仕上がりではないかと思う。
絵本シリーズ47
絵本「クライシス」
まさかのスペクタクル巨編。ストーリー曲線の上下動もあるぜ! ラストはご教訓で〆。
絵本シリーズ48
絵本「栗クオリティ」
ぶっちゃけると、栗とウニは似ている、というただそれだけだ! それで1冊出した! すげえ!
絵本シリーズ49
絵本「1カ月」
ワイオシリーズ第7弾。ただワインを飲む物語! 待って飲む! それだけ! 混じりっ気無し! ワイン100%だ! もうなんていうかナンピトたりとも後を付いてこさせないという潔癖感すら感じる仕上がり。若干絵が上手くなってきている気がするのは気のせいか?
絵本シリーズ50
絵本「クラシックプラン」
ここ数作の無味無臭っぷりがすごい。かまあげうどんをだし汁無しで食ってる感が非常に高い。あるいはわらび餅をきな粉無しで食うような、そんな大川内優ワールド。
絵本シリーズ51
絵本「最高のショートケーキ」
久しぶりの大河モノ。製菓大学という発想にもうメロメロっすよ。終盤のダッシュ打ち切りは健在。
絵本シリーズ52
絵本「リアルロボフィッシュ」
発明系バリエーションに、独自の宗教観と哲学がアドオン! ロボフィッシュの結末を見て、うっかりアイボを思い出した。
絵本シリーズ53
絵本「GOLD FISH DIARY」
世には「ストーリー曲線」という言葉があるが、この物語に相応しいのは「ストーリー直線」という言葉だろう。とにかく右肩上がりで揺るぎない物語構造だ。大川内優の典型パターンの一つとして、このタイプはたまにある。
絵本シリーズ54
絵本「新生チェアー」
こだわり系バリエーションの一つ。このタイプの物語は何本かあるのだが、何を意図しているのかまるでわからない難解なものが多い。一旦どこから着想を得ているのだろうか。これも数少ない有料のままのコンテンツであるが、特別出来がいいということもないので、単なる処理忘れだろうと思う。とりあえず投げ銭代わりにポチって献金しておこう。
絵本シリーズ55
絵本「輪廻転生-巡りゆく命-」
独自の死生観を示す異色作。輪廻転生を表した作品というものは数多くあるが、死後なんらかのシステムに依って転生させられるものが多い中、魂自身の機能で自主的に転生するというのはちょっと新しいかもしれない。冒頭の注意書きが結構オレ的にツボ。
絵本シリーズ56
絵本「レアエクレア」
妄想新商品系バリエーション。ダジャレタイトルからのそのまま中央突破で、オチ無し終了という黄金パターンである。これを楽しめるようになればもう一人前の大川内優フリークである。
絵本シリーズ57
絵本「ファイブ メリーゴーランド」
メリーゴーランドが小さいというただそれだけの話。何かを理解しようとして読んではいけない。後半の不安定な感覚をぼんやり眺めて味わうのが、この作品の正しい鑑賞法である。
絵本シリーズ58
絵本「なんでもレストラン」
書誌情報に第7回文芸社絵本大賞応募作品とあった。正しくは「えほん大賞」であるが、第7回の大賞受賞作は『くらげのくうちゃん』(のじりあかる作)であり、各賞のいずれにも大川内優の名前は無かった。本作が他の作品と比べて特別出来がいいとは思わないが、オチはまずますのキレではないかと思う。まあ、他の作品を知らないでいきなりこれだけ応募されても、文芸社の下読み要員は困っただろうなあ。本作以外に応募したと明記されている作品はない。制作時期と発行日に開きがあるので、おそらく入賞せずがわかってから発刊されたものと思われる。制作順でいえば41番目であり、「魔法のオーブントー☆」と同時期。この頃他に名作も生まれているのに、どうしてこれを選んだのだろう。
絵本シリーズ59
絵本「ホットケーキ戦争」
ワイオシリーズもついに第8弾! この夫婦は戦争ばっかりだな! リア充爆発しろぉ! ストーリーは珍しく恋愛トラブル系であるが、結末は大川内優っぽさ満点なので安心して読んでいただきたい。ところで、ホットケーキにケチャップをかけるとだいたいアメリカンドックな味になるので、そんなに不味くもない。
絵本シリーズ60
絵本「いちご姫」
絵本シリーズでもトップクラスの難解作品である。この無味無臭なストーリーに何を感じ取るべきなのか、私にもわからない。考えたら負けだと思っている。そして、中盤からの無駄な加速っぷりこそが大川内優作品の真骨頂だ。
絵本シリーズ61
絵本「冷蔵庫戦争」
ワイオシリーズ第9弾。戦争しすぎ。リア充爆発しろ。というか、なんだこの平らな話w。もう好きにしてください。
絵本シリーズ62
絵本「愛神」
愛とは何か。何なのかを問いかけてくる問題作。信じるものは救われ、愛のないものは愛されないのだ。まあ話としてはペッタンコ。いつもの感じ。
絵本シリーズ63
絵本「黒の熱情」
ストーリーは平板そのもので、上でそば打ちができるほどペッタンコなんだけど、絵がいいので、もうそれでいいじゃないか。この頃の作品は平板なものが多い。実はこの時期は制作ペースが著しく停滞している。えほん大賞の落選が何か影響したものと思われる。
絵本シリーズ64
絵本「芸術テントウムシ」
こだわりさんの立身出世系バリエーション。本作から従来の制作ペースを取り戻すのだが、特に何かが成長したような気配はない。タイトルは秀逸。
絵本シリーズ65
絵本「浸食ニュータウン」
タイトルはカッコいいが、それに見合うような重厚なストーリーということはまったくない。淡々と事実が連なっていく。現実ってだいたいそんなもんだよな。獣人社会を描きつつ、しょぼいリアルを浮かび上がらせるとは、未だかつて無い領域へのディズニー最新作ズートピアに先駆けて足を踏み込んでいるのか、いないのか。この巻からフォントが変わったようだ。
絵本シリーズ66
絵本「クジラ釣り」
まあクジラは釣ろうともしてないし釣れてもいないので、このタイトルはどうかと思うのだけど、相変わらずのフラットなストーリーでほっこりできる。青地に黒フチの青字タイトルという表紙の可読性の低さはシリーズでもトップクラス。
絵本シリーズ67
絵本「フチュージン」
久しぶりの説教系バリエーション。原点に立ち返ってスランプを乗り越えようというのか。
絵本シリーズ68
絵本「LOSTウォッチ」
大川内優の作品には、解決がないことが多い。成長もない。事件が起こり、悲しんで終わる。仮に大川内優がミステリーを書くとすれば、殺人事件が起こり、葬式をして、遺族が悲しむところでエンドロールが流れるとかそういう感じである。
絵本シリーズ69
絵本「マッシュルームタワー」
難解なものの多い大川内優作品の中でもとくに難解な一作。いわゆるタワー系バリエーションの一つだが、従業員の提案がムゲにされるというだけの物語。説教も能書きもなくバッサリ終了するという潔さが、かえって清々しい。
絵本シリーズ70
絵本「イマジネーションアパート」
久しぶりに来た! 一旦話を締めたあとの末尾に謎の考察があるタイプである。妄想がなかなかエロチックで素晴らしい。というか作者はなにか隣人トラブルに悩んでいるのだろうか。
絵本シリーズ71
絵本「ストロベリーフラワー」
イチゴの花にまつわる可愛いお話。なるほどね。
絵本シリーズ72
絵本「チャージ」
ワイオシリーズ第10弾。もう勝手にしてくれ。ていうか子どもどうしたんだよお前ら。
絵本シリーズ73
絵本「レインキャンディー」
非常に珍しい作品。ダイアログが結構長く続く。しかもいいテンポで展開し、やさしく収束する。全作品の中で五本の指に入るかもしれない。
絵本シリーズ74
絵本「エラーライフ」
書体が変わった。物語としてはよくできている。まあ平坦ではあるけれどね。
絵本シリーズ75
絵本「カッコイイ未来」
書体がまた変わった。本文だけでなく、ゴシック系の表紙も違和感バリバリである。本編は末尾説教型。
絵本シリーズ76
絵本「快晴ナリ!」
ワイオシリーズ第11弾。あーウゼーw。また子ども出てこねえし。ワイオシリーズだからなのか書体は以前のものに。
絵本シリーズ77
絵本「一人になりたい!」
大河系バリエーションだが、まさかの社会派。
絵本シリーズ78
絵本「カッティングオーバー」
あれ? またワイオか。ワイオシリーズ第12弾。床屋トラブルの話題だが、リアルで何かあったんかな。
絵本シリーズ79
絵本「LOVE病院」
後半半分がまるごとご高説というありがたい恋愛指南書。びっくりだわ。
絵本シリーズ80
絵本「警察平和」
警官と万引き少年の攻防を描いているが、結局少年が罪を認めてあとはお説教タイム。まったく平和じゃないぞこれw。
絵本シリーズ81
絵本「飛行機最高級指定席」
なんというか物語というよりも、まんま飛行機の説明である。それ以上でもそれ以下でもない。もしあなたの周りに飛行機をまったく知らない人がいたら、オススメして欲しい。それ以外の人は読まなくていいと思う。
絵本シリーズ82
絵本「涙の郵便配達」
そしてまんま説明シリーズは続く。ただひたすら郵便配達についての説明文である。もしあなたの周りに郵便制度についてまったく知らない人がいたら、オススメして欲しい。それ以外の人は(ry
絵本シリーズ83
絵本「ランダムー」
こだわり系からの能書き展開。前半はゲーム好き少年の物語で、後半はたっぷりランダム性の解説。この時期はこういう方向性が主流らしい。締めはダジャレ。
絵本シリーズ84
絵本「快適タクシー」
「動物たちの世界のタクシーの話をしよう」と始まるが、実際はリアルなタクシーの解説をするだけである。飛行機、郵便に続く第3の刺客! 物語性は皆無だが、一種の図鑑と思えば、これはこれでありなのかもしれない。3回繰り返してついに新機軸として認識できた。新たなバリエーションパターンの確率である。図鑑系バリエーションと呼ぼうと思う。80作を超えてまだ新型を投入してくるとは、大川内優のポテンシャルは計り知れない。
絵本シリーズ85
絵本「静かなトラックさん」
絵本シリーズ83「ランダムー」同様のキャラスタート図鑑能書きダジャレフィニッシュ型である。図鑑系と同様、ここにきて確立されつつある新バリエーション。後半が能書きなのは以前もあったが、多くは1ページ程度だったので、ここまで割合が多くなると、新型として認識した方がいいだろう。
絵本シリーズ86
絵本「エレガント バスビューイング」
タイトルからして図鑑系か、ダジャレフィニッシュ系かと思うが、予想は裏切られる。これはなんとワイオシリーズ第13弾だった。まあ物語は抑揚無くただ観光するだけなんであるが、ワイオ夫妻の物語は、作者の願望の具現化なのだろうか。相変わらず子ども達は出てこない。ひょっとしたら時系列的にベビー誕生前のDINKS時代のエピソードなのかもしれない。
絵本シリーズ87
絵本「愛する人の愛の斬撃」
まさかの連続ワイオ。ワイオシリーズ第14弾。今回は夫婦ゲンカがメインテーマ。物語としての抑揚はラインナップの中ではある方か。
絵本シリーズ88
絵本「脇役延長コードの活躍」
キャラスタート後半能書きパターンだが、ダジャレフィニッシュではないので、昔よくあったパターンに近い。この時期実生活で延長コードが役に立ったのかもしれない。また、ここ数巻は書体がちょこちょこ変わる時期でもある。
絵本シリーズ89
絵本「怖がり学校ガードマン」
まさかの大長編。職業紹介系かと思いきや、主人公にキャラとしての仕事を全うさせた挙げ句、最後に能書きプラス。ダジャレは無し。図鑑系が続いてどうしたのかと思っていたが、徐々に本来のノリを取り戻しつつあるのだろうか。ただ、犯人は明らかにされず、もやっとしたまま終わるんだよなこれ。
絵本シリーズ90
絵本「夢じゃないよね」
立身出世系バリエーション100%濃縮還元。紆余曲折、ナシ。志望して実現してフィニッシュ。最短距離を真っすぐ進むだけの物語ってなかなか書けるものではない。多くの作者は、わざわざ事件を起こして山場をでっち上げたり、必要以上に主人公を罠に陥れて無用な苦労をさせようとする。大川内優にはそういう意地悪さは無い。主人公の夢の実現を心から願い、真っすぐに叶えて上げているのだ。こんな慈悲深い神が他にいるだろうか。
絵本シリーズ91
絵本「銀で攻め上がれ!!ウニVSクリ!!」
突然の将棋モノ! なかなかそれっぽい展開を見せるが、あまり具体的ではないのはいつもの大川内優。キャラのバックボーンとか心理戦とかそういう小細工は一切無い。電気屋の店先に観覧者が群がるとか、昭和30年代のような描写もあるが、それは動物の国の話なので別にいいじゃない。
絵本シリーズ92
絵本「好ケーキ」
絵本シリーズ31「最後の最果て」で明らかにされた獣人世界の全容が再び登場。この世界感にブレはないようだ。獣人世界の物語は2ページで終了。後半はたっぷりリアル世界世界経済への愚痴に終始する。おそらく作者は期待していた株式投資が思うようにいかず、いろいろ凹んでいる時期では無いだろうか。絵本についても一向に売り上げが伸びないことに気づいた時期かも知れない。しばらく安定していたが、そろそろ崩れ始めるかも。
絵本シリーズ93
絵本「ミラクルクローバー」
そろそろゴール(わたしにとってのゴールに過ぎないが)が見えてきた。久しぶりの妄想アイテム系バリエーションだ。リアルの反動を作品に叩き込んでいるのだろうか。作品自体にはまったく崩れる様子は見られない。時期的には8月。夏真っ盛りの頃。このあと若干のブランクがある。
絵本シリーズ94
絵本「クッキープレゼント」
おお! しばしの空白期間を乗り越えて、キャラストーリーからの説教解説付きという王道展開。このパターンは久しぶりだ。大川内優まだまだ健在である。
絵本シリーズ95
絵本「爽やか新聞配達」
青地黒フチ青文字という判読性の低さが印象的な表紙の作品。タイトルとは裏腹にまったく爽やかさを感じない。これが目立つので大川内優=青い表紙というイメージなのかもしれない。職業まんま紹介系だが、やたらと具体的である。ひょっとしたらリアルで新聞配達を始めたのだろうか。
絵本シリーズ96
絵本「RUNA」
キャラストーリーのみの作品は久しぶりだ。このところバリエーションが増えているせいか、久しぶりに投入されるスタイルが多いように思う。過去作品を見返して、次はどんなパターンで書くか考えているのだろうか。8月のブランクの反動か、9月に入ってから過去最高レベルのペースで作品をリリースしている。前半の芋と後半の月でまったく接合性がないのはむしろ潔ぎよさを感じる。
絵本シリーズ97
絵本「COOL」
表紙にデカデカと「2」とある。はて? 何かの第2弾だろうか。確かこの主人公のようなキャラをどっかで見た気もするが、この作品を前に見たときの記憶かもしれない。まあいいや。本編では主人公の紹介に終始し、物語はとくに展開しない。
絵本シリーズ98
絵本「Odin」
キャラものの短い作品。ただバーベキューをするというだけの物語。このところ大量投入を図っているのは短い作品を連続しているからだろうか。100本めを意識してペースを早めた可能性もある。
絵本シリーズ99
絵本「Clear」
表紙は意味不明。本編は2行で絵が無い。クリアとは、ここまでの創作をクリアするということなのか。この短いメッセージに込められた意味はなんなのだろう。8月のブランクからの反動の9月。崩壊への序章と考えるべきか。
絵本シリーズ100
絵本「Carry」
キャリーというよりカートである、。キャラは登場しない。スーパーは買い物をする場所であるという説明をじっくりしているだけの作品。100作目という気負いは一切感じられない。作者にとってはただの通過点の一つに過ぎないのだろう。そういえば90作あたりから表紙の作者名が青一色のことが増えてきた。何か心情の変化があったのだろうか。
絵本シリーズ101
絵本「デート」
久しぶりのワイオシリーズ。第15弾。タイトル通りデートするだけの物語。劇中に登場する映画「スターピース」は宇宙の平和を描いた映画だということで、大川内優らしい設定である。とはいえこの夫婦はさんざん戦争してきているので、いまさらなんなんだって感じでではある。今回は一切ケンカをしない。子どもも出てこない。いないことになっちまってるのかな。
絵本シリーズ102
絵本「Bathroom」
獣人世界の風呂の話をすると始まるが、実際はリアル世界にあるのと同じ風呂の説明に終始する。書体はクセの無いゴシック体になった。
絵本シリーズ103
絵本「Water」
飛行機から始まった、ドストレート説明オンリーシリーズの一つ。獣人世界のというフリはあるが、これもまたリアル世界をそのまま伝えているだけだ。今回はテーマが水ということで、より一層コモンセンス感に満ちた作品になっている。これらの作品群は一体誰向けに作られたものなのだろうか。異次元かや異星からの客人たちにこの世界の実情を知らせたいのだろうか。これを読んで「いや知ってるから」と思ったら負けだ。純粋な気持ちでビックリしていこう。ここまでで9月の高密度ラッシュは一段落する。
絵本シリーズ104
絵本「ギーヴ」
半月ほどのブランクを経て投入されたのがこの作品。書体がまた変わっていて、細く小さく実に読みにくい。そしてなにより驚きなのは、主人公が人間であるということだ。今回はこの人間の超能力的な何かについての物語であるが、とくに事件にはならず主人公の中で完結する。とにかく、急に獣人路線以外からねじ込んできたのでビックリした。
絵本シリーズ105
絵本「蘇生&治療&HP&MP全回復」
本作はこれまでの作品群の中に、類似作品が見当たらない特殊な作品である。絵本らしい絵本とも言える。絵本というよりは詩に近いかもしれない。キャラもウンチクもない。ただ、祈りだけが綴られている。夏から崩れはじめたバランスが、いよいよ臨界点を超えつつあるのだろうか。今後の経過を注意深く見守っていこう。
絵本シリーズ106
絵本「GOLD」
タイトルはまさかの黄色地に白! 読めねえ! 青地に黒よりもっと悪質だわい。単純説明系バリエーションの一つ。ただ、シメの一文はどうかと思う。カラフルな作者名が復活した。
絵本シリーズ107
絵本「当選祈願」
絵本シリーズ105に似た作風のもの。祈りの詩系バリエーションとでも言えばいいのだろうか。ただひたすら宝くじの当選願う絵本。切実さは感じるが、読者にはあまり関係ないな。まあ、何かあやかれるかもしれないので、宝くじを買ったらこれを読むようにしたらいいのではないだろうか。
絵本シリーズ108
絵本「Number」
数字にまつわる四方山話。獣人世界の話だと断りを入れているが、我々の世界となんら変わりはない。この三作は連続して製作されている。宝くじを買ったのは間違いないようだ。作者は相当に期待をこめているようなので、落選後の反動に期待大である。
絵本シリーズ109
絵本「TVの王様」
獣人世界シリーズとは一線を画す作風。祈りの詩系バリエーションに近いスタイルである。より絵本らしいともいえるが、これまでの大川内優作品とはだいぶ違う。ついにステージ2に移行するのだろうか。
絵本シリーズ110
絵本「過酷パン屋」
前作の流れでそのままステージチェンジするのかと思いきや、久しぶりの獣人就職無味無臭ストーリーが復活。大川内優ここに健在! 清々しいほどに何もない物語。現実ってこんなもんよねー。
絵本シリーズ111
絵本「高級松茸弁当」
獣人ストレート! ただ弁当を買い、ただ食い、ただ終わる。日常とはまさにこのようなものであり、ドラマはこれで十分なのだ。
絵本シリーズ112
絵本「警察護衛ヘリ」
本文には獣人世界のことは書いていないが、イラストが獣人なので同じ世界観のものである。大川内優作品には珍しいメカもの。ステルス性の高そうなデザインでなかなかカッコイイ。男児を中心に人気が出るかもしれない。
絵本シリーズ113
絵本「悪性変異」
久しぶりの獣人大河ドラマ作品。無味無臭っぷりは健在で、読者への媚は一切ない。我が道をひたすらにゆくのが大川内優ワールドの真骨頂である。
絵本シリーズ114
絵本「防犯カメラ」
説明終始系バリエーション作品。もはや大川内優作品の一形態として定着したようだ。世界の事象、物品のすべてをそのまま絵本化できるのだから、今後一生ネタ切れに悩む必要は無い。
絵本シリーズ115
絵本「豪華客船」
続くぜ説明終始! とりあえず乗り物に偏っているようだが、可能性は無限大だ。絵に若干の獣人要素アリ。
絵本シリーズ116
絵本「全部VS7人」
長期中断前の一連の作品の一つ目。詩モデルの作品である。書体は粗く、タイトルと本編との関連性もよくわからない。おそらくこれより前にブログは閉鎖され、SNSからも撤退している。
絵本シリーズ117
絵本「バナナ」
これは、急にどうしちゃったのかというぐらいの傑作。詩モデルのフォーマットであるが、ハイテンションで面白い。やけくそではっちゃけたら上手くいったとか?
絵本シリーズ118
詩モデルフォーマットでの説明終始系というハイブリッド作品。短いわ!
絵本シリーズ119
絵本「おなかいたい」
ここへ来て久しぶりの獣人アクシデント+能書きのバリエーション。文字は小さく非常に読みにくい。最後のトイレットペーパーが切ない作品。
絵本シリーズ120
絵本「プラチナカード」
フォーマットは説明終始系なのだが、ネタは空想上のアイテムだという新しいタイプ。表紙にプラチナ感がまったくないのはご愛嬌。
絵本シリーズ121
絵本「黒い歯医者さん」
最近あまりなかった設定一点突破系バリエーション。当然オチなどという下世話な要素は完全に排除されている。獣人世界である宣言はされていない。
絵本シリーズ122
絵本「仲良し3人組」
長期中断前最後の作品。初期の獣人絵本を思わせるほっこりしたオチ無し絵本に仕上がっている。これまで多くのキャラが輩出されてきたが、ワイオ夫妻ら一部のキャラをのぞき、ほとんどは一発登場のみである。この3人組も例外ではないかもしれない。
絵本「7」
半年にもなろうかという長期ブランクを突き抜けての活動再開。書体は明朝系になった。獣人の日常を描く作品は健在。若干オチがあるように見える。本作から絵本シリーズのナンバリングが廃止になり、巻末の謝辞もなくなった。今後どのように変化していくのか、引き続き観察していきたい。
あみだくじを作ろう!
色んな本シリーズであることを巻末や書誌で明言してはいないが、分類上はこれに含まれる。さまざまなネタのあみだくじを収録した豪華な作品。あみだくじというよりは、「あみだくじ占い」とでも言うべきだろうか。最初にどこに何が書いてあるか見ちゃってからあにだくじを始めるしか無いので、実用性は乏しい。
あみだくじを作ろう!2
その続編。占い結果には意外にコネタが盛り込まれている。正月1日に発行。年末をこれの制作に費やしたようだ。絵本シリーズのブランクには、色んな本シリーズの制作が充てられている可能性は高い。初期の色んな本シリーズは他に2件あるはずだが、ナンバリングもなくリストも存在しないので内容は不明である。
色んな本シリーズ5
カードライブラリ
この第5弾からナンバリングが明確になる。青地に白1色で描かれたイラストに、それにまつわるキーワードや説明がつけられたもの。トレーディングカードのイメージだろうか。30点以上もあるので大川内優作品としては、非常に贅沢なつくりである。「覚醒オロチ」なるカードは2面まであり、非常に多くの情報が盛り込まれている。それらの情報が何を指し示しているのかは謎である。
色んな本シリーズ6
RUNA-BOOK
タイトルの意味はわからないが、内容は作者の「コンディションリスト」というものである。日常の行動や持ち物リストになっていて、極めて個人的な備忘録的なものであるようだ。大川内優の人となりを深く知るための資料としては非常に重要であるが、特に深く知る必要がないのであれば、読んでもしょうがない作品である。
色んな本シリーズ7
好きな時間ナ~ニ?
アナログ時計の針の位置について感想を述べるという実に絵本らしい作品。これ幼児向けにリファインしたら結構売れるのでは? もう類似品あるかもしれないけれど。
色んな本シリーズ8
カードライブラリ2
カードライブラリの第2弾。傾向は第1弾とまったく同じ。稀に意味不明の語句があるのが興味深い。
色んな本シリーズ9
キラキラネームBOOK
タイトルから判断するに、DQNネームの名付けリストのようなものを想定して作られたと思われるがその実情はほぼ単なる英単語帳である。
色んな本シリーズ10
カードライブラリ3
カード本の第3弾。なんかもう意味不明のものが多すぎる。深い闇しか感じない。
色んな本シリーズ11
現代戦国図
戦国図シリーズの現代編・第1弾。まず相関図が示され、そこに盛り込まれた要素の詳細が後に続く。大川内優の内面世界を理解するために大きなヒントになると思われるが、あまり深くまで足を踏み入れるのは危険なので、入り口からのぞくぐらいがいいのかもしれない。
色んな本シリーズ12
現代都道府県戦国図
戦国図シリーズ都道府県編。大川内優は九州の人なので、九州びいき。他の地域はかなりおおざっぱである。相関図には名古屋はあるが愛知がないなど、都道府県というのはものの例えであり、都道府県にこだわる必要はない。
色んな本シリーズ13
現代世界戦国図
戦国図シリーズの世界編。ものすごく大雑把。続編が無いのはもうこれ以上ネタが手元にないからだと思われる。
色んな本シリーズ14
王様戦国図
戦国図シリーズだが、この王様編はもうなんの図なんだかすらさっぱりわからん。興味のあるものをスペード、ダイヤ、ハート、クラブに振り分けて戦わせているようだが、本人以外で意味がわかる人間はいるのだろうか。ここまで200以上の大川内優作品を見てきた私でも、とっかかりすら掴めない。敗北感でいっぱいである。
色んな本シリーズ15
王様戦国図2
王様編の続編。戦況は少し動いているようで、ホワイトという新勢力が台頭してきた。が、何を言ってるか全然わかんない。誰かアニメ化してくれ。
色んな本シリーズ16
王様戦国図3
王様編第3弾。さらに戦況が動いたが、相変わらず意味はわからない。ホワイトに次いで無属性という謎の勢力が加わってきた。これはもう目が離せない。色んな本シリーズのナンバリングはここまで。大川内優の中断期に入り、戦国図シリーズを中心に再開されるが、それ以降はナンバリングされなくなっているからだ。
現代戦国図2
4ヶ月以上の中断を経て、ここから復活した。これ以降はリリース順にレビューを進めていく。現代戦国図の2016年版ということで登場。彼の中での相関図と重要度ランキングであるが、意味はよくわからない。政治や自然保護には強い興味があるようだ。
王様戦国図4
王様編第4弾。すいません。このシリーズ本当に意味わかんないです。ムリです。降参です。
現代戦国図3
メディアと神の交流がなくなり、ルシファーが移動している。だからなんだ。なんなんだ!
自分史
大川内優のプロフィールを赤裸々に綴った一冊。読んでも読まなくてもいい。
現代戦国図4
前巻までイヤーブック形式だったのだが、ランキングをもっと小刻みにするようにしたようだ。上位の要素も大きく変動している。だからなんだと言われても困る。
現代戦国図5
前巻から二週間足らずでリリース。相関図に動きは無いが、順位は大きく変動している。だから何?
現代動物戦国図
戦国図シリーズの新型。相関図はまだ初期のせいか動きがあまりない。クロコダイルが最強とだけある。動物戦国図と銘打っているが、細菌やら幻獣、魔獣と幅広い。活動再開後は、ナンバリングも巻末の挨拶文もないし、書誌情報もおざなりである。
お菓子ごはん
書誌情報にも巻末にもこれがなんのシリーズか明記されていないため分類には悩むが、絵本シリーズにするにはストーリー性がない。大喜利的にネタが並んでいるだけなので、色んな本シリーズに加えておくことにする。
これまで大川内優作品251点のレビューをしてきた。活動を休止したようなのでレビューを始めたのだったが、途中で再開されてしまった。ナンバリングをやめるなど若干の制作方針の変化はあったようだが、精力的に制作をしているようなので、今後もウォッチングしていきたいと思う。
さて、大川内優について私なりに総括をして、本稿を締めくくりたいと思う。本人は存じ上げないので、あくまで作品を見てきての感想ではあるが、まったく驚くばかりである。お世辞にも才能があるとは言い難いクオリティ。物語としての体を成していない作品群。表面を見ればそんな感想しか抱けないだろう。普通であれば、1、2点見れば「もういいよ」と放り捨ててしまうようなそんな作品ばかりである。そこを否定はしない。そう言われて弁護のしようもない。しかし、だからなんだ。251点もあるんだぞ。誰に真似ができる。誰にもできない。誰にもできないことをやりきった人間には、それだけの輝きがあるのだ。私のレビューを全部読むような奇特な人間もそういないと思うが、実は中にはヒットやホームラン級の作品もあるのだ。下手な鉄砲数打ちゃ当たるとはよく言ったもので、これだけ書けば傑作も生まれるわけなのである。ただし、それらを傑作だと理解するためには、私と同様に251作を見なければならないということは、先に理解しておいていただきたい。
友人に251点レビューし切ったぜと言ったら「あっちからすると正直気持ち悪いだろうなw」とねぎらいの言葉をいただいた。まったく同感である。
〈おわり〉
あいうエッセイ。いろはでもアーベーセーでもなくあいう。一文字ずつ取り上げ、その文字が持つ代表的単語について書いていこう! と、まずはネタ切れの心配も当分無い文字がある分だけは連載が続けられるテーマだ。そしてこの雑誌は三号で潰れるカストリ雑誌なんかじゃあないから、長期連載になっても常用漢字までぐるり一周延長しちゃえば何年でも続けられる。
第一回は「ま」。
「あ」から始めるのが全てのひらがなをまずモチーフに連載するあいうエッセイとしては当然だろうけど、あいにくあ、の字に縁がありませんよ。嗚呼。
あ、と言えば誰もが「愛」と言うのだろうね。そんなにも愛され愛し続けているのか人類は。愛などいらぬこんなにも哀しいのなら、と呟きたくも、いや哀しくもない。哀、これもあい。哀戦士だかなぐりあい宇宙だか星の鼓動は愛だか、哀あい愛アイうるさいよ。
勿論私もあい以外のあ、を知っている。例えば合い言葉。恋人同士の虫酸の走る愛コトバではなく硬派に合い言葉。忍の者が山と言えば川、軍人が新高山登レと言われれば虎を三回。ああ、もうネタのストックが尽きた。合い言葉についてはこの程度しか書くことが無い。
そこでだ。頭をひねりあの字をゲシュタルト崩壊するまでああ見つめ思いついたのはアンパンだ。あ、はアンパンのあ。好物あんぱんよろしく勇気。空腹があ、から始まるアンパンを教えてくれた。
しかし連載第一回のテーマがあんぱん、では末尾がん、ではないか。これは縁起が悪い。ん、は最後の一文字なのに第一回目でこんにちはされては困るのだよ。
ん、は最終回のための文字である。一文字ずつ消えていく筒井康隆の小説でも最後の文字がん、だった。みなさんご存じウルトラマンだって最終回の怪獣はアルファベットとひらがなの最後の文字「Z」「ん」の合成でゼットンである。ん、は最後の一文字こそ相応しい。あ、余談だけど最終回一話前の怪獣の名前が「サイゴ」ってのはどうなんだ? 最後じゃないじゃん。
そういう訳で頭を抱えていたのだけれど、まてよ? と私は気付いた。アンパンそのまま書くから語尾がん、なんだ。少しひねれば良いんだ。アンパンを囓れば脳に糖が補充される。もう少し考えるんだ。そして思いついた。
アンパンと言えば昭和生まれが思うのは当然ナンシーさんのことだ。校舎の裏で脳髄を溶かし歯をボロボロにしつつナンシーさんを吸っていた不良達は今頃インプラントだろうか。ナンシーさんは溶剤であればなんだって良い訳じゃあない。とるえん、これが大事らしい。今調べたらそう書いていた。同じく臭いからとベンジンを吸っても駄目だってさまぬけちゃん。
ししし、しんなーには気をつけな! わかりましたあ親方ぁ! とスネークマンショーの壊れていくギャグを思い出しつつ今このエッセイを書いている。試しやすいけれど試したくなくなる程ナンシーさんはヤバく抜群に効果があるようだ。脳を溶かし幻覚を見せラリっちゃうらしい。ラリホーラリホーラリルレロン。こんなにヤバいのに手に入りやすい薬物。あたまを浸食する火遊びには気をつけないとね。マジな意味で引火もするから喫煙者はご注意を。その昔全裸でプラモデルを作っていたところタバコが接着剤に引火して亡くなった作家もいたが、吸引していたわけでは無いのでこの話は避ける。
嗚呼、今時の少年少女はガンプラが接着剤不要なわけで簡単に手に入りすうっと吸えるこのドラッグを体験出来なくて可哀想だ。昔は模型は接着剤必須で菱形のパックで付属していたものだよ。このキットにはシャア少佐は入っていませんがナンシーさんは入っているんだよおお、とニッコリした不良達が巻き起こしたのがかの有名なガンプラブームなのはご存じの通り。安く済ませようとして森永チョコスナックのおまけガンダムプラモを買ったはものの、今で言う接着剤不要のスナップフィットのキットで、結果ナンシーさん遊びが出来なくて逆恨みしたのが、迷宮化したグリコ森永事件であることもご存じだろう。狐目の男とはナンシーさん欲しさの血走った目の不良かもね。
話を戻そう。アンパンつながりで連想した第一回のテーマはドラッグについて。そう、まやくだ!
そういえばタイトルは忘れたのだけれど確かイタリアの映画だったか、チンピラ達が「溶剤吸ったらラリっちまうぜぇ」「んなわけねぇだろ」「マジだぜ? 吸ってみようぜ」「おおお、マジかよきくぜぇ」というシーンがあった。もしかしてナンシーさんの効能は海外には知られていないのではなかろうか。年中薬物をキメてんじゃないかって位ハイなイタリア人が知らないって。
つまり、これはチャンスである。江戸時代に西洋人が日本の中での金銀の両替レートの違いに目を付けボロ儲けをしたように、西ドイツ人が東ドイツの同規格空き瓶を西ドイツ内で換金して利ざやを稼いだように、日本政府はクールジャパンの一環としてナンシーさんをラリるための薬物として世界に広め大儲けするべきではないか。シチリアのマフィアがピザを囓ってのんきしている間に手を打つのだ日本政府よ。フジヤマゲイシャナンシーさん!
そういやアンパンである。食べ物の方のアンパンだ。このてっぺんにへばりついているのはゴマではない。ケシの実だ。アヘン! ケシはまやくの一つアヘンのもとだ。これはあ、あはアヘンのあ。アヘンを第一回にしても良かった。アヘンについてである。世の中にはアヘン戦争なんてものがあるらしい。私は勉強が苦手なのでどんなものかは知らない。どうせアヘン窟の縄張り争いを大げさに言っているだけだろう。おまえがおれの陣地を0.0000001ミリ越えてますぅ、とか、そういうのだろう。
まやくをあ、の代わりに選んで正解だった。ネタの全てがカチカチ山よろしくかちかちかちとかみ合うのが判る。まやくだよ、これからは!
さてこのケシの実、七味唐辛子にも入っているし鳥のえさにも入っている。かつてわが学友が鳥のえさを何キロも買い込んでいた。あいつは言った。この中のケシを育てるんだ! 「本当かい? すばらしいプロジェクトだ。だったらさ、完成したら私の持っているコイツと交換してくれないか」私は手製の「マリファナっぽいもの」を見せた。交渉は当然成立した。
さて、こんな事もあろうかと密かに用意しポッケに入れていたマリファナっぽい何かの作り方を皆さんに公開しよう。何かの本で読んだやり方だ。
バナナの白い筋を集めて天日で干すのだ。当然麻薬作用などないが見た目的にそれらしい物は仕上がる。今では誰も信じてくれないが私は責任感の強い若者だったので、自分の作った物がインチキだと知りつつ試しに吸ってみることにした。製造者責任ってヤツがあるのはにせまやくであろうと当然だ。安ホテルでパチってきた聖書から適当なページを何枚か引きちぎりクルクルパーと巻いて火を付ける。部屋中にあり得ないほどの甘ったるい匂いが充満し、マリファナと匂いがまるで違いすぎることに戦慄した。確実にまやくでないとばれる! こんなフローラルなまやくなんてありえない。もっとアンニュイな香りでなければばれる。どうしよう。
だけどこの心配は杞憂に終わった。なぜなら鳥のえさのケシは放射線を当てられ芽が出ないように加工されていたから交換へと話が進まなかったのだ。一つくらい被爆した結果巨大化したゴジラのように育ってくれても良かったのにとは思う。きっとマンモスゴジラパワーのラリり方ができたろうに。
で、そうだ。まやくと言えば手に入りやすいのはマリファナでしょう。ああ、このエッセイはエッセイと言いつつ最初から最後までフィクションであり小説なので真に受けて通報するんじゃあないぜ。あなただよ、読んでるあなた。正義感が肥大したアホのあなただよ。通報するなよぅ? 作り話なんだから。
私はどうすればマリファナが手に入るか考えてみた。道ばたで昔はマジックマッシュルームだとか割と買えた。今で言う危険ドラッグだ。当時は合法だったし最近まで脱法だった。だけどマリファナはどこにもない。
売人から買う? その売人とのコネはどうやって作ればいいんだ? 怪しげな繁華街で「クスリ買います」と札を下げていれば良いのか? ナンパしてくるのは警官だけだろう。
きっと子供の頃からシャブ中の兄さん姉さんに囲まれた環境でなければ、まじめ人間にはまやくのまの字すら遠いのだ。人間やめますかまやくをやめますか、そもそも始まってすらいない。はじまってみたい! ああ、地方の駅のトイレの張り紙「便器に注射器を捨てないで」あの場所で張り込んでいれば常用者とお友達になれ売人とコネが出来たかもしれない。それか子供の頃浜辺に散乱していた注射器。あれを医療廃棄物の不法投棄ではなくまやくの残りカスだと気がついていれば、夜な夜な浜辺でキャンプしているだけでコネが生まれていたかもしれない。寝袋なら持っていたのに!
ところで誰がまやくを使っていたんだろうか? きっと身近な誰か、道ばたで昼間真面目な顔をしたおじさんおばさんたち、私の悪さをあげつらっては説教をしてきた彼らの誰かに違いないぞ。大人達が夜のたしなみにまやくを使っていたことに気づけていればコネを作っておけたのに! 惜しいことをした。
まやくのゲットも格差社会である。私がちまなこにまやくへ憧れている今も、ひひひひひ、ぽんをやると頭が冴えるけぇのぉと、まやくがあるのが当たり前のラリリアンライフを楽しむ大人達が居るのだ。きっと夜な夜なXXXに塗ってはひいひいと淫乱にXXXをやらかしているに違いない! 一応伏せ字にした。
うらやましい。
セックスアンドドラッグが若者なのだ。若者はいつだってまやくが欲しいのだ。私は悩んだ。コネはない。ナンシーさんでは脳が溶けるからイヤだ。だったら……。そうだ、若者の最後の武器、行動力だ! 私はまやく好きの聖地アムステルダムへと飛んだ。聞いた話アムステルダムではコーヒー店にいけばコーヒーを飲むのと同じくらい簡単にまやくが買えるらしい。うきうきするじゃあないか。そんなニヤけが顔に出ていたのか繁華街のど真ん中で男が声をかけてきた。「ヘロイン買わないか?」
さすがアムステルダム、今日初めてコーヒー牛乳を飲もうかと言う人間にエスプレッソを勧めるマネをする。
紙数も尽きてきたのでこの後の話は省略としたい。かわりに、あ、で思いだした、これからの時期に相応しいあ、で始まるあじさいの話を爽やかに書いてシメとしよう。
ある日こんな新聞記事を見た。パリであじさい泥棒発生中。この記事に寄ればあじさいの花びらにはマリファナに酷似した成分が含まれているという。マフィアの手下が鉢ごと盗んでは花びらを乾燥させまやく好きへ合法薬物として流通させるのだというのだ。
これぞ報道! まやく好きへ新聞はジャーナリズムの神髄を見せつけてくれた。火炎瓶の製造方法が解説されている三省堂国語辞典に次ぐ衝撃の記事が日本中に配信されたのだ。
真実を伝える公器は夢一杯の事実を教えてくれ、コネの無いものにはまやくすらやれないこの腐った世の中に光を当ててくれた。
ああ、日本はもうじきあじさいの季節だ。梅雨のじめじめは厭だけど、素敵なお楽しみがいっぱいだったんだ。さあ六月が楽しみだ!
平和公園の片隅に若者たちが集まっている。
手にした折り鶴を平和祈念像に納めたところまではよかった。
この運動が政治的な色彩があったかどうか分からない。
1ヶ月前、千羽鶴15万羽が心ない大学生の放火によって失われた。
それを折りなおし、捧げようという運動がびでお1掲示板で始まった。
偽善、売名と呼ばれながらも、その運動は広がっていった。
鶴の折り方を教えるもの。
集まった鶴をまとめるもの。
届けに長崎までやってきた北海道在住のものもいた。
運動は、成功のように思えた。
しかし、血気盛んな若者たちのことだ。
あまりの達成感に、最後の最後で羽目を外してしまった。
バンザイを叫び、さらに、いちばん遠くからやってきた者を見送るのに胴上げをしてしまったのだ。
「ばかもん!」
一人の老人が一喝した。
「時と場所を考えなさい!」
若者たちは絶句した。
「被爆した15万人をなんだと思っているんだ。私も被爆したが、その仲間のためにこうして献花に来れば、なんたることだ」
そのときだった。
「ご老人、とは言っても私と年の頃は変わらないと思いますが」
胴上げの人混みの中から、一人の老人が進み出た。
「私もこの長崎の原子雲を見たものです。今日は孫がこの仲間に参加すると聞いて、初めて長崎に来ました。仕事で何度も長崎へ来るはずのことがあったのですが、辛くて今日まで来ませんでした。今日は初めての長崎です」
老人は光鋭い目を皺の奥にかくし、穏やかに話す。
「あのとき、ああ、長崎を守れなかった、と思いました。私が非力なばかりに、あなたにも、あなたの大事な方々にも迷惑をかけてしまった。慚愧に耐えません」
「……旧軍の方ですか」
被爆した老人が気づいた。
「そうです。このときですから、孫にも黙っていたのですが、よろしければ、こんな話、聞いてくださいますか?」
「佐藤中尉、飛行隊長がお呼びです!」
空襲で穴だらけにされた格納庫で、乗る機も失われて、虚しく昼寝をしていた佐藤忠通中尉は、隊長付下士官に呼ばれた。
「君も知っているだろう。昨日の新型爆弾で広島は灰燼に帰した。理化学研究所の先生方が分析した結果に寄れば、TNT火薬1万6千トンに匹敵する爆発で、しかも有害放射線によっておそらく広島はこれから永久に灰土のままという。そこで、特務機関情報が入った。米軍は次の新型爆弾攻撃を小倉造兵廠にしかけるという。その予備の目標に長崎を選んだともある」
飛行隊長は格納庫の中を歩いていく。
「大本営陸軍部からの直接命令だ。朝に都市に単機突入してくるB-29を絶対阻止せよとのことだ。技量甲と呼べる搭乗員は台湾沖航空戦でほとんど失われた。君だけが頼りだ」
二人は基地の中を歩き、格納庫の中に入った。
1機の双発爆撃機が翼を休めている。
しかし、その爆撃機に爆撃手用の機首透明窓がない。
それが埋められ、その下から太い砲身のようなものが突き出している。
「キ-109ですか?」
佐藤中尉は聞いた。
キ-109とは、対B-29用に75ミリ高射砲を搭載した双発の爆撃機・4式重爆・飛龍である。
「若干修正してある。排気タービンを装備し、また慣性安定装置を装備している。装備する75ミリ高射砲は機首軸の2キロ先の目標に75ミリ対空砲弾を撃ち出せ、安定装置により正確にB-29だろうがB-36だろうがバラバラに出来る。しかも、排気タービンはようやく2組そろった試作品だが、各務ヶ原での試飛では良好な航空性能を発揮した。操縦席の与圧までは出来なかった。そこは酸素マスクで辛抱してもらうしかない。接敵電探は海軍からFK-3を借りて搭載した。大型機なら50キロ以上から探知出来る高性能電探だ」
機首には八木アンテナが物々しく取り付けられている。
隊長はエンジンナセルに触れた。
「こいつで新型爆弾投下機のB-29を撃墜して欲しい」
「でも、私はこのキ-109の元になった陸爆飛龍の試験飛行はやってきましたが、これを乗りこなせるかどうか」
「ああ。それは考慮した。早速飛んでくれ。時間がないが、なんとか慣れて欲しい」
佐藤のキ-109と同時に飛んだのは海軍加原中尉の夜間戦闘機・月光だった。
戦局も悪化し、そこでようやく陸海軍の連携した迎撃体制が取れるようになったのだ。
試飛は夜に近づいてから行うことにした。
離陸は1900時、薄暮状態で離陸し、上空で編隊灯を点灯して編隊を組む。
「排気タービン順調に運転中、目標位置確認。継続して追尾中」
佐藤は読み上げを続ける。副操縦士には未だ若いながらも空中観念に優れた三橋(みはし)上飛曹を選び、機関士に多賀(たが)飛曹長、また、75ミリ砲の装填手として敏馬(さとしま)飛曹を選んだ。
7人乗りの飛龍だが、キ-109では軽量化を狙って自衛銃座の銃手を廃したのである。
これでB-29に護衛戦闘機が付いていたらどうしようもないのだが、そうなったところでP-51のような、防弾に優れた上に12・7ミリ銃6連装の強力な戦闘機に今更旋回銃座の13ミリ機銃が役に立つとも思えない。
ギリギリの選択である。
ハ104改エンジンは最高出力まで余裕を残し、軽量化された機は順調に高度を上げ、瀬戸内から鹿屋方向に飛んでいく。
過給が始まってからはもりもりと出力の出る新型エンジン・ハ104改に、これがこの戦争の初期から出来ていればと悔しくなる。
「こちら加原! 佐藤! どこまで上がるんだ! もうコイツじゃ随伴できんぞ!」
「すまんがコイツを限界まで飛ばさんと実戦できん。加原、先に帰って良いぞ」
「それよりもどこだ貴様! 電探にうつらんぞ!」
「タキ2号じゃ接敵は無理だろう。こっちには貴様の機が映っているぞ」
「くそめ!」
加原の豪快な笑い声が無線で聞こえる。
キ-109はそのまま南下を続ける。
飛龍の乗員配置は、機首装填手の後ろに機長・副操縦士が並び、その間に航空機関士が入るようになっていて、場合によっては機長・航空機関士・副操縦士が横に並ぶこともある。その後部に上部銃塔、左右銃塔、背部銃塔とある。
航空機関士の真下の床はガラスが張ってあり、真下の大地を見ながら航空図片手に容易に偏流を測定し、航法誘導がしやすい。
スロットルは機長と副操縦士の間にあり、計器類はこの時期の航空機には豪勢なことに機長・副操縦士にそれぞれほぼ同じものが一式取り付けられている。
航空計器も不足しがちで、各飛行隊では定数の機を揃えることをあきらめ、数機を任務ローテーションから外して部品供出専用にしてやっと維持している状態である。
これだから試験飛行隊は辞められないのだ。
一杯にエンジンを吹かしてみる。過給器の段を進めてみる。
応答性がよく、機は敏捷に加速する。
ちょっと具合を確かめ、巡航速度に戻してみる。
「三橋、1発装填しろ。反動を確かめる」
と声をかける。
「了解!」
三橋が薬莢式の75ミリ砲弾を砲尾に装填し、砲尾に栓をする。
「試射用意!」
固定20ミリ銃と75ミリ砲の射撃選択スイッチを倒し、75ミリ砲にする。
「用意!」
機の排気タービンも甲高い動作音を上げながら高度8000の空の薄い空気を濃縮してエンジンに導入する。もはや本来の飛龍の実用上昇限度を軽く超えている。
薄い空気は冷たく、搭乗員全員が着込んだ電熱服で身体を暖めている。
電熱服はショートしてやけどを起こすことがあり、あまり進んで着る気のするものではないが、今は着ないと与圧もなく氷点下に下がる高空では訓練も実戦も不可能である。
エンジンの排気タービンは、正確には機械式過給器、スーパーチャージャーと呼ばれるもので、別に開発した過給器と違い、双発1機だけのために部品を吟味して組み立てられている上に過給器ファンも量産するには贅沢すぎる希少金属をふんだんに使っている。
まさにB-29キラーである。
砲は高射砲をもとに作られ、駐退機を取り付けてあるので発砲しても反動は油圧で吸収して機全体のバランスを崩さないこととなっている。
75ミリ砲弾は大きく重い。実戦では全量装備とする予定だが、今回は半量だけ積み込んでの試験飛行である。
「用意……テーッ!」
バッ! と歯切れの良い発砲音と共に、赤く光を惹いて砲弾が前方の空気に突き刺さる。
そして、ドン! と前方で炸裂する。
音は若干遅れ、先に火焔が噴き散るのを確認した。
その様子は打ち上げ花火のようだが、のんびりとその炸裂を鑑賞するものではない。
怨敵B-29をその炸裂した弾片の作る爆発球の中にとらえ、撃墜せねばならないのだ。
弾道特性は悪くなさそうだ。照準器の通りに砲弾は弾道を描いて空中で炸裂している。
いける!
手応えを感じたところで多賀飛曹長が航法図でそろそろ限界であることを知らせた。
「帰投しよう」
と発声し、針路を北に変える。
「おい、どこだ! くそ! また電探が失探した!」
騒ぐ声がガリガリとなるラジオのような空電音の合間に聞こえる。
電探で位置を捜す。
月光は前方に進んでいるのがわかる。
電探とは言っても高度・距離すべてを識別できる高性能レーダーはまだまだの時代であるし、それから60年後になっても測距・測高を兼ねた三次元レーダーを使うようになっても、広い空の中で求める相手を見つけるのは電探をもってしても難しい。
そのために、要撃管制という、機と機をうまく接触させる誘導技術があるぐらいなのだ。
「機長、11時下方」
副操縦士が発見する。こういうとき、復座以上の機は助かる。
見張りの目は多ければ多い方が良い。
それも熟練した者が一緒に見張ってくれると心強いこと限りないのである。
月光夜戦の赤と緑の編隊灯が下方に小さく見えてきた。
当たりは夜の闇、しかも本土空襲が激しく、灯火管制で明かりも少ないなか、漆黒のなかにかすかに浮かぶ断雲の合間に編隊灯が頼りなげに点いている。
加速し、操縦幹を機敏に操作する。高高度からの降下によって加速し、高速度で低空爆撃をするように計画された飛龍は、縦安定度も申し分なく、安定度を超える降下操作をすると、機敏に翼を翻して加速しながら降下出来る。
月光の真上にさっと舞い降り、着陸灯を一杯に点灯する。
「うわッ! バカヤロウ! 接触するところだったぞ!」
か細い機内灯に映る副操縦士の顔も笑っている。『機長、やりましたね』といった悪戯っぽい笑みだ。
無線電話を使う。
「貴様の腕だ、接触はないと思っていた。悪かったな」
「悪いと思ってねえな、この野郎!」
「ははは」
笑いが満ちるなか、2機は基地に帰還した。
着陸と同時に整備員が駆け寄ってくる。
着陸時にはよもやの事故を考え、機首装填手を後部に移動させ、エンジン下の左右の主輪と尾輪を確実に接地させて着陸するのが常である。
エンジンをフェザリング、つまり角度零度にし、そこから数度増やして微速で滑走路から誘導路に抜ける。
飛龍の4翅プロペラは電気式でピッチをかえる形式のものを当初から採用している。機械式か電気式かと迷った結果、全体を小さく出来ることから電気式を採用したが、前線基地での運用ではたまに正常作動できなくなって冷や汗をかいたりする。
同時に滑走路には偽装家屋というタイヤで移動出来る偽家屋を持ち出し、並べる。
降りて、当直士官に飛行後点呼を行い、その後で飛行隊長室に向かう。
「佐藤中尉入ります」
「入れ」
隊長はどこかから送られてきた電文の綴りを見ていた。
「さすがです。まだ日本にもこんな機体があったのですね」
飛行隊長に報告する。
「量産はできないが、研究室レベルではあの海軍の『誉』発動機だって世界最高の性能を発揮出来る。まあ、こうやって機体と機材と部品を確保するのは大変だったがな。ところで、来襲するB−29を落とすことはできそうか?」
「問題はありますが、なんとしても仕止めます」
「広島はひどくやられたそうだ。東京の焼夷弾爆撃の時よりもひどい。一瞬で人間が真っ黒い炭の塊になり、爆心地近くではコンクリートの床に焼き付いた影を残しただけで消滅した者もいるし、なにしろ都市無差別爆撃だ。小中学生や女子供もまとめて焼かれた。死ななくても地獄は同じだ。焼けた皮膚が垂れ下がった避難者の列はまさに地獄のパレードだったらしい」
「ひどい」
「ああ。アメさんもひでえことしやがる。なんとか次は阻止せねばな。臣民をこれ以上傷つけられるのは避けねばならん。理化学研究所の仁科博士は原子爆弾であることを突き止めたが、陛下のご下問にはあまりの惨状に、どう申し上げるか迷ったという。ただ、陛下もその大御心だ。焼かれた東京をお忍びで視察なさったそうだ」
「そうですか」
「ああ。ところで、今日は別にもう機材の調整はないな。そろそろ日付が変わる。機材と共にこんなものを仕入れた」
「洋酒じゃないですか!」
「飲めるか?」
「ええ!」
「じゃあ、クルーを連れてこい。明日から甲待機が続く。特務機関は米軍は8・9日を投下日として計画しているという。それまで発動機が完動してくれればいいのだが。整備の連中もこれからきつくなる。一杯飲もう」
「はい!」
酒盛りを始めた。
隣の航空隊は特攻の攻撃隊員ももう失われ意気消沈しているが、試験飛行隊は活気があった。
沖縄出身の航空機関士は沖縄の踊りを踊ってくれる。
すでに沖縄は陥落し、偵察機の情報ではすでにもう軍民問わず甚大な被害であり、また守備隊最後の電報も涙を誘う。
それを聞いた機関士は、置いてきた家族のことを思っているのか、顔をこわばらせていたが、こうして踊ってくれる。
沖縄は元々日本とは違うのだなと、踊っているのを見て思う。
歌の音階も言葉も、振り付けもどこか朝鮮ともまた違うもので、興味深い。
そして、副操縦士が落研出身とのことで小話で楽しませてくれる。
明日は8日、さっそく甲待機が始まる。
もう日本のほとんどが焼かれた。
これ以上焼いてどうするのだ。
この母なる山河は灰になって燃え尽き、日本人は途絶えるのだろうか。
懐かしいあの小川と田園も、残らないのだろうか。
東京・銀座のあの華やかさも。
悔しい。口惜しい。
だが、もう日本は勝てそうにない。
軟弱な奴だと憲兵にうるさく言われそうなので頻繁には言わないものの、たまに同期と会ったりすると、どうもこの戦争勝てそうにないらしい、という話になる。
台湾沖航空戦に飛龍雷撃隊の一機として出撃した佐藤だが、その結果は惨憺たるものだったという。
戦果、撃破撃沈わずか、反して日本側の喪失機数は400機にもおよび、練度で劣るとはいえ、搭乗員も大幅に減った。
呉には空母が一応あるらしいのだが、搭載する航空機がないそうである。
零戦の後継機・烈風は開発が遅れに遅れ、紫電改を積もうにも紫電改艦載仕様の製造も止まっているという。
公には出来ないのだが、空襲を避けて地方に疎開した工場を、東南海地震が襲い、さらに生産力が落ちたという。
悲しいが、帝國はもう……。
いかん、弱気になってどうする!
水割りを舐めながら、考えはグルグルと回る。
そのうちに時間となり、各員兵舎に戻って休養となった。
良質な酒は悪酔いしないというが、本当だった。
早朝、さわやかな目覚めを迎え、飛行服に着替えて早速甲待機に入る。
鹿児島と四国の固定電探にはそれらしき機影はないとの通報である。
基地では敵機・敵艦隊の情報をまとめる指揮所が作られている。
新型爆弾を投下しても米軍はなおも責め手を緩めず、東部軍管区に小型機の編隊が接近中と聞く。
どうやら硫黄島を基地とするP-51ムスタングの編隊らしい。
我々のいる九州からでは助勢に向かうことも出来ない。
機の整備は続いている。排気タービンを装備したとはいえ、試作品を改良したもので、いつ故障するか分からないし、B-29に対して圧倒的な速度差を持って自由に迎撃することなどできないだろうと言うことで、75ミリ砲弾は設計時の半量だけを装備する。
すぐに離陸出来るように、日傘と折り畳み椅子で、エプロンで待機する機のすぐそばに待機所を作り、サイダーを飲み暑さを堪える。
次の新型爆弾は東京に落とされるのではないか。と若手の中で話が上がる。
しかし、それはないだろう。
東京はもう焼かれて何もない。
それよりも、噂で米軍はドイツ人を同じ白人として、対して新型爆弾を使わなかったが、日本人は黄色人種だということで使ったのだなどともいう。
これでは新兵器の人体実験ではないか。
憤りは最高潮だった。
正午を過ぎた。昼食を付下士官たちに持って来てもらい、休憩所で食べる。
未だ気は抜けないが、他の双発高高度戦闘機キ-108なども迎撃体制にあるという事で、少し気を抜くようにと隊長が言いにきた。
代用コーヒーであっても、カフェインの取りすぎは飲みすぎると気が立ってミスをすると思い、麦茶に切り替えて待機所で空を見上げる。
それにしても暑い夏だ。整備兵たちはやけど防止のために長袖なのだが、暑すぎるということで、それをまくって作業をしている。
「今日は来ないかも知れませんね」
と一人が言った。
とうとう8日には米軍機は来なかった。
「来た!」
9日の早朝待機中、基地にサイレンが鳴った。
「西部軍管区情報、太平洋を単機北上中の敵大型機発見!」
「行くぞ!」
「はい!」
全員でキ-109に乗り込む。
チョーク、輪止めが外され、誘導員が合図する。
最優先で離陸が確保されるが、焦らず、誘導路を落ち着いて走り、滑走路に向かう。
そして、ブースト一杯でブレーキを解除し、滑走を始める。
パイロットシートの背当てに背がグッと押しつけられる。
強烈な加速度に耐えながら、速度計をにらむ。
そして、舵の反応が変わったところで一気に引き起こす。
迎撃機キ-109は離陸した。
快晴の九州の空を行く。
霞もなく、空から地形がくっきりと見え、機関士がそれを覗き窓から見下ろし、偏流を測定して自機の位置を記録する。
電探も快調に作動し、九州の島の輪郭がはっきりと映っている。
しかし、地形が判別出来ても天候が良くても、電波状況というのはややこしく、見えているはず、届いているはずに肉眼で見えていても、電波だけが届かないことがある。
副操縦士と二人で、地上からの誘導支援を得ながら敵機にむけて接近していく。
「初弾装填!」
75ミリに初弾を装填する。
機は開聞岳上空に達するかと言うところだった。
「発見! 敵機見ゆ!」
「どこだ!」
「2時上方!」
見えた!
「よし、上がるぞ!」
スロットルを全開にし、昇っていく。
遥か遠くに銀色の点が、毒々しいまでに青い空を背景にくっきりと浮かんでいる。
「砲の動作試験は」
「大丈夫だろう。安定機構のチェックは」
と操縦席で話す。
「大丈夫です!」
と下の砲装填室から声が帰って来る。
「正面攻撃用意!」
と、敵機の前方から攻撃を仕掛けることにした。
これだと相対速度が大きく、命中した場合、確実に敵を葬れる。
しかも、案外この攻撃は度胸試しのところがあり、避けようとすれば大きく姿勢を崩すし、強気だけで向かってくれば正面衝突になる。
さあ来い!
排気タービンは順調に作動し、上昇角を取ったキ-109の照準器に敵機B-29が入り始める。
「そのまま……そのまま」
操縦幹を丁寧に、優しく扱う。舵は適正な遊び角で動き、逆に気流をとらえた反力がワイヤで帰ってきて、まさに自分の感覚で飛んでいる感触が快い。
こうして戦っていると、まさに自分が機と一体になり、両手を広げて機械の介在なしに飛んでいるような感触になる。
機心一体というが、まさにそれだ。
それ……ゆけ!
「テーッ!」
バッ!
75ミリ砲が火を噴いた。砲弾がうなりを上げて飛んでいく。
ドン!
外れた!
「第2撃用意! 再装填! 後ろに抜けるぞ!」
「はい!」
B-29の自衛機銃の二十ミリの射程より遙かに遠くからの射撃である。
これにはB-29も肝を冷やしたらしい。
「敵機増速中!」
「逃がすか!」
旋回し、後ろから追いかける。
敵は大きな新型爆弾を抱いている。そうそう機敏には避けられまい。
事実、普段見るB-29の動きには見えない。
遥かに鈍重で、遅い。
見切った!
「第2弾装填!」
「装填良し!」
狙いを付ける。
少しB-29のほうが足が速いが、しかしまだ撃てる。
しかし、それより先だった。
「回避! 敵機発砲!」
「くそ!」
B-29が手を打ってきた。
自衛機銃を一連射し、引き離すつもりだ!
この距離では弾道の下がるばかりで当たらないとは思うが、しかし流れ弾に追い払われてしまう。
くそめ!
「第2弾用意」
冷静に見据える。望遠照準儀には、敵機の銃座が必死に弾を撃ってくるのが見える。
当たらないと分かっていながら。
馬鹿にされたような気がして腹立たしい。
だが、感情を込めてはならない。
冷静に、冷酷に。
「テーッ!」
バッ!
ドン!
「近い!」
確実に弾着が近くなっている。
もう1回撃てば当てられる!
「第3弾装填!」
足元の装填室では、無理な姿勢で必死に重たい75ミリ砲弾を装填している。
「装填よし!」
「敵機逃げます!」
声が飛び交う。
「逃がすか! ブースト最大! 追いかけるぞ!」
「はい!」
機関士が叫ぶ。
「敵機、このままだと小倉に向かいます!」
そうか! でも、そうはさせるか!
しかしB-29の指揮官も肝が太い。
航空機搭載の火器としては最大級の75ミリ砲の連射を受けながら、なおも新型爆弾を投下する気で北上している。
新型爆弾搭載で重たい機を扱い、自衛機銃で牽制しながらも、75ミリの弾着をこれだけ間近に見ながら北上を続ける。
くそ!
「小倉上空に入れるな! ブースト圧は!」
「一杯です! 各発動機、油温上昇中!」
くそ、肝心なときに!
すこしでも冷却になるように上空へ舵を向ける。
高度を稼げば、舞い降りながら過速度で攻撃出来る。
しかし、すでに高度7000メートル、もう本来の4式重爆・飛龍の上昇限度は完全に超え、エンジンも実用限度以上でもう長時間運転し続けている。
逃がすものか!
「敵機、小倉上空まであと10分!」
「第3弾用意!」
「用意よし」
再び照準を合わせる。
機がぶれ始めた。機内に配置したタンクの燃料が減ってきて、重量バランスが崩れだしたのだ。
だが、修正は出来る。
「そのまま、そのまま……宜候……」
操縦幹を握る手に汗をじっとりとかいている。
B-29の下はすでに別府付近だろう。
もうチャンスはない。
食らえ!
「テーッ!」
ドン!
曳光弾の光がグッと力強く伸びていく。
バン!
「やった!」
声が思わず挙がる。
「まだだ! 至近弾だ!」
またも逸らしたが、しかし弾片はいくつかB-29に突き刺さったと思える。
しかし、まだB-29は飛んでいる。
その機影が角度を変えた。
「敵機変針! 西へ向かっています!」
「やった!」
投下をあきらめたのか?!
違う!
「敵は予備目標に向かうぞ!」
機長の佐藤大尉は叫んだ。
「本当ですか!」
「見ろ! 敵は行く脚を緩めていない!」
「なんて奴だ!」
「追うぞ!」
「はい!」
機の燃料コックを使い、機が安定するように燃料を移動させる。
大きなモーメントの元になる翼内タンクから、機内タンクへ燃料を移す。
早速、操縦幹の手応えが変わる。
あと2発は撃てる。
でも、正直、次の一発で仕止めなければ、予備目標の長崎がやられる!
小倉の市街が覗き窓から下に見える。
どうだ! 弾は外したが、投下を阻止したぞ!
「次弾装填!」
「装填よし!」
機敏に声が帰ってくる。
しかし、B-29は速い。
少しずつ引き離されていく。
操縦幹とスロットルをつかむ手がビリビリと震える。
逃すか!
「用意!」
最後のチャンスだ。
落ち着け……。
確かに75ミリ搭載キ-109での撃墜例はない。
だが、今はこれしかない。
ちらちらと見え隠れする針の穴を一発で貫くようなギャンブルだが、そのチャンスをつかんだ。
それを逃すものか!
増速するB-29の後ろから追いすがり、75ミリの銀色の砲口を向けて食らいつく。
行け!
「そのまま……テーッ!」
バッ!
ドン!
「くそ!」
外した!
なんてことだ!
「もう一発行くぞ! 再装填!」
「敵機さらに増速しています!」
「発動機、限界まで後10分! 油温が急激に上がってます!」
「無理でも回せ! 今無理しなくていつ無理するんだ!」
「はい!」
「再装填よし!」
狭い機内で、発動機の轟音に負けずに声が飛び交う。
「用意!」
「弾が届かないかも知れません!」
副操縦士が言う。
「ともかく追う。向こうも余裕はないはずだ」
「そうですね」
博多湾を過ぎる。
その向こうは長崎だ。
緑の山々を越えて、前方の銀色のB-29は西へ向かう。
それに追いすがる。
「発砲用意!」
最後のチャンスだ。
「用意よし!」
引きつけたいが、速度が不足する機で後ろから追いかけて撃つのだ。
余裕はない。
もうすこし……もっと……もっと……あと1メートルでも近づいて……。
「テーッ!」
バスッ!
ドン!
「畜生! 外れたッ!」
「敵機、長崎上空です!」
「あっ!」
何か黒いものが敵機から離れた。
新型爆弾だ!
「全員目を閉じろ! 閃光が来るぞ!」
なんということだ!
表現しがたい音と光と衝撃が機を襲った。
世界が終わるとき、こういう音がするのだろうか、と一瞬思った。
機はもみくちゃにされているが、目を閉じたまま、機を立て直そうとする。
そして、少しずつ安定してきたのを感じ、目を開けた。
嗚呼!
巨大な灰黒色のキノコ雲が、あの美しかった長崎の街を踏みにじって立ち昇っていた。
「帰投する」
その声を出すのがたまらなく苦しかった。
あれだけ機会がありながら、撃墜出来なかった!!
「地上の様子は見ませんでした。見るのは余りにも辛かった。自分の無力でこういうことになった。あの時代、すべての迎撃機のパイロットは同じ思いだったでしょう。でも、上空であれだけの衝撃だったので、地上がどうなるかの想像は付きました」
佐藤は苦しげに言った。
「その日は基地に帰って、ずっと荒れました。昔の話で済みませんが」
平和公園で、全員が聞き入っていた。
「戦争は終わりました。でも、我々は分かっていました。終わったのではない。負けたのだと。だからこそ、必死にここまではい上がりました」
言葉が切れた。
「そして、この長崎の風景を見て、ようやく60年の禍根が解けていく気がします。新型爆弾の爆風と閃光に負けず、長崎はここまで復興した。樹々の緑も、群れ集う鳥たちも美しい。ここまで長崎にお住まいの方々はさぞ苦しかったでしょう。でも、それは幸いに、過去のことです。忘れることは出来ませんが、しかし、こうして関心を持ってくれる若者たちがいる。未来はある。少し過ぎるところはありますが、それは我々が命ある間に、どうにか出来ることです」
「……そうかもしれませんな」
「握手を……してくださいませんか? あの日、地上と空から同じ悲劇を見たものとして」
差し出した二人の老人の手が結ばれた。
「もういちど黙祷しましょう」
「ええ」
全員、若い者も年をとった者も、答えた。
終戦記念日の長崎は、深い夜になろうとしていた。
>Endtext
2004年9月17日脱稿
今回も雑誌なんか編集部に寄せられた電波から、実用性の高い特筆すべき相談をご紹介します。相談員はなんか人生相談研究所に所属のおなじみの先生方です。はりきってどうぞ。
名前:もう誰も信じない
年齢:不詳
性別:両性具有
在住都道府県:無戸籍、無国籍
職業:公園のハトに餌をやる人
▼柿の種だけのものとピーナツだけのものを別々に買うことができます。が、おそらく問題の本質はそこにはないですよね。
▼それよりも「柿」が気になるやんかー。ピーはええよ、ピーは。ピーナッツのピーやろ? 柿のヨウソはどこにあるねんて思てんけど、そこんとこどうなんやろ?
▼しもた、モンダイ増えてもた。
▼柿の種である前提をまず覆すのかっ。
▼午前中はより分け、午後は再び混ぜる。このシベリア式暇つぶし方を行えば柿ピーの賞味期限が切れるまでお楽しみになられます。食べてしまうからすぐ無くなる?我慢しなさい。お腹がすいたときには小石でもねぶっていれば良いのです。そうすればよだれが出るので喉の渇きも潤せます。ところで柿ピーの他に柿パーや柿ポーがあるのはご存じですか?
▼柿パーティ、柿ポー、ポー、ポーがわからへん。
▼それやったら、柿プーもあるんやろな?
▼プーはない。ペーは平成になる前に廃止。
▼えぇことおもいついた! 柿ピーも廃止にしたら、問題カイケツちゃうか!?
▼柿ピーは柿とピーの幸せなマリアージュによるおつまみの至宝、それを分けたいというのは二つに分析できます。まず柿とピーのどちらかを深く愛していて、どちらかを憎んでいる可能性。愛憎というように愛と憎しみは表裏一体、その深層心理が働いているのです。その場合の解決は、意を決してミキサーに柿ピーを投入してマッシュ柿ピーにしてしまい、エントロピーに逆行することが困難であることをトラウマとして心の底に植え付けてしまうのも一つの手段です。
あるいは柿ピーの幸せを妬んでいるのかもしれません。妬んだところで何も解決しません。柿ピーを分けたところで柿ピーがどれほどの勢いで亀田製菓によって供給されているかご存知ですか。それでもわけるというなら、それはロシア兵や中国兵との戦いよりも恐ろしい戦いにしかなりません。絶望的ですのでいますぐしにましょう。
▼分類された柿とピーをコンフュージョンの状態にするのは瞬間の仕事であり、あなたが、柿ピーを望むものならばつまり、柿とピーは状態の任意の時間で、柿ピーに復帰することが可能です。
▼柿ピーというのは心と体のメタファです。貴女がそれをせずにいられないということはつまり……分かりますね? そう、そういうことです。ちなみに亀田の公式見解によるとピー1に対し柿5(半分になったピーには柿3)が正式な食べ方となっていますのでご参考までに。
▼なんや先生方のいうてることむずかしゅうてハンブンもわからへんで。関西弁でたのむわ。
▼甘いんとちゃうか? その道のプロは、その選り分けた柿とピーをまた10段階評価で選別するんやで。基準? そんなん教えたるかいな。ほんで、分類ごとに口へ放り込む食い方と、敢えて分類をばらけさせて口へ放り込む食い方との違いが出るわけや。ガリっとしてみい、そらもう至高の瞬間やで。ホンマもんのグルメはそこまで考えるもんや。なめたらあかんで、柿ピーは甘いもんやない。
▼ロボトミー手術を受けましょう。
46歳 匿名希望 フィンランド人
▼フィンランドですか。きっとお寒いのでしょうね。フィンランドと言えばやはり白い死神シモ・ヘイヘですね。あとは、ハンス・ウルリッヒ・ルーデル、坂井三郎、舩坂弘。そのぐらい押さえておけば二次大戦トークは大丈夫です。
▼ほな、あんたも来いや。泊まるとこ? 心配あらへん。日本にゃカラオケボックスってごっつ便利なんがあるよってに。今度の金曜日でどや? ■■■■■■■の予約、入れといたで。息子はんもぎょうさん歌っとるで、ベイビーメタルとかそんなん好きらしいで。フィンランドゆうたら本場やもんなぁ。(一部編集部権限により呆れてもた)
▼そんなことはありません。だから、たまごボーロを食べましょう。
▼にほんはIKEAのメタファです。つまり息子さんはIKEAで故郷であるフィンランドの雰囲気を感じ取っているのです。つまり……分かりますね? ちなみにIKEAには1店舗あたり平均で4人知らない人が住み着いているとの統計が出ています。お気をつけ下さい。
▼ぼくのオカンとおないどしや! なんやごっつシンキンカンわくで。ぼくもフィンランドからきてんけど、ニホンのアニメおもろくてなかなかかえられへんのんやー。むすこサンはそのうちかえってくるんやないかなー。ぼくはまだまだかえらへんけど。
▼うちのおじさんの知り合いもフィンランドに行ったっきり帰ってきません。多分これで等価交換なので問題ないと思います。
▼通常、ムスコが帰ってこなくなる外国はモロッコです。性転換したいときモロッコでちょん切りムスコとお別れするのです。それが日本とはどこでチョン切ったのか気になりますね。糖尿なんかで足を切ると本体が死ぬまで保管しておき一緒に棺に入れるのがルールと聞きますが、ムスコの場合も冷蔵保存するのかな。ソーセージと間違えて食べちゃわないのかな。気になりますね。
福岡県 10歳 女児
▼わたしは日々いろいろなことを忘れて暮らしています。古い記憶はまだ大丈夫ですが、最近のことはちっとも頭に残っていません。昨日、見知らぬ男性が家に上がり込んでいて、妻とセックスをしていました。びっくりしてホウキで殴って追い出そうとしましたが、その男性は私の娘婿で、妻だと思ったのは娘だったのです。これまたびっくりしました。そういえばわたしの覚えている娘婿と背格好が違うような気もしましたが、おそらくわたしの記憶違いでしょう。
▼そら簡単や。忘れて困ったもんを書き出して、その後ろに書きや。「これは忘れるものやない、持ってかんでええもんやで。ホンマは困らへんで、誰も」ってな。
▼どんどん忘れましょう。そしてキャベツ太郎を食べましょう。
▼忘れ物は睡眠のメタファです。忘れ物を減らすということは……分かりますね? ちなみに日本忘れ物学会によると、日本人の実に10割(!)が忘れ物をしたことがあるという驚きの事実が確認されています。ですので気にしてはいけませんよ。
▼全部学校に置いといたらええんとちゃう?
▼探すのをやめた時に見つかるのがセオリーです。探す必要はないのです。なくなったら買えばいい。忘れるより多く持ってれば困らない。つまりはそういうことです。
▼何を忘れたか把握しているうちは忘れ物とは言えません。忘れ物のプロは忘れ物をしたことすら忘れます。
福岡県 7歳 男児
▼ぼくはええ大人やけど、かけへんカンジいっぱいあるでー。ニホンゴがむずかしすぎるのがあかんとおもうんや。せやからフィンランドきたらええんとちゃうかなー。
▼↑→、↑Bダッシュ、↑、→、↑、↑Bダッシュ、→、↑→、↑、↑。子どもなら覚えられる。
▼上手く書こうとせんでええ、下手なんがあんたはんの持ち味ってやつやで。形も書けん? ひらがなでもええで。テスト? 知らんがなわし。真面目な話、母ちゃんにハンコ作ってもらい。ポチッと押せばテストも満点やで。
▼問題ありません。それより甘食を食べましょう。
▼書くというのは人生のメタファです。つまり書くという字が書けないというのは……あとは分かりますね? ちなみにフロイトによると何かを描く夢を見たらそれは何のメタファか分かりかねるのでユングに聞けと言っていました。参考までに。
▼書くと思ってはいけません。思えば負けです。書かされていると思っても負けです。精神を集中し、鉛筆を取ってください。あとはひたすら集中です。心を無にして、無にしている心も無にして。ほら、いつの間にか書けていますね。これがジェダイのやり方です。これを会得すると沼に沈んでしまった戦闘機を浮き上がらせたり、お父さんと後でまさかの対決をすることになったりするので大変お得です。ぜひやってみてください。
▼うまくかくひつようなんてありません。かんじなんてうまくかいても、らいせがちゅうごくじんになるだけあるよ。このようにひらがなだけでくらしてもなんのもんだいもないじゃないか。
嗚呼夢旅人
栃木県 58歳 独身
ブラック会社員
▼人々のいずれにも面白がっていないとされているにもかかわらず、それを言ってしまうということは、面白がることにこだわらず、あなたが言うことをしたいので、だからあなたの目的は、すでに満たされています。
▼オヤジギャグの真髄は、受ける受けないを超越したところにあります。まして口にチャックをするなどと逃げ腰ではまだまだ修行が足りません。オヤジギャグはオヤジなら避けて通れぬ道です。抗ったところで先は見えています。無駄な抵抗はやめ、周りからの冷ややかな視線がますます冷え切り絶対零度-273.15度になるその日を目指すべきです。その時、ついに超電導が発生してエネルギー問題が完全解決、孫子の代までがエネルギー不足から解放され、皆あなたを感謝するというものです。ちなみにそれを成し得た人はまだいませんので、困難な道ですが挑戦の価値はあります。頑張ってください。
▼物理的に縫ってしまいなさい。裁縫がへたならホチキスでとじてしまいなさい。なんならかすがいにてがっちり固定してしまいなさい。
それではご飯が食べられない? あなたはくしゃみをして鼻からうどんが出たことはありませんか? そう、お鼻と口は繋がっているのですよ。だから鼻からお食べなさい。なぁにそれほど難しいことではございません。世の中には目でピーナッツを噛むことが出来る野比のび太さんという方がおります。彼の技術に比べれば鼻から味噌汁を飲むことくらい余裕です。
だから大丈夫、口なんて縫い付けてしまいなさい。
▼おやじギャグは唐揚げにレモンをかけることのメタファです。思い出してみて下さい。貴方は飲み会の席で、自分達の席に届く全ての唐揚げに、いやあまつさえそのお店全ての唐揚げにレモンをかけていますね? そういうことです。ちなみにキリスト教圏では唐揚げにレモンをかける者はイエスの教えに背くとして即打首なので気をつけて下さい。
▼まず、人の精神状態を感知して温度が変化する合金を開発します。その上で、オヤジギャグ受容体(OGA)を多く持つ人材を熱めて装着させます。OGAが少ない場合、そもそもオヤジギャグをオヤジギャグとして認識できないので性能は下がります。多い方が効果が高いのです。オヤジギャグ発生体を中心に置き、OGA反応合金スーツ装着者集団を放射状に配置します。オヤジギャグが発動すると周辺のアクセプターが反応し、OGAメタルスーツの温度が下がります。これにより、夏でも快適な生活ができるのです。ノーベル賞ください。
▼うけるようにしたらええんちゃう? 山本クン、ごっつおもろいニホンジンやったから弟子入りしたらええわ。
▼質問の内容はアレか? 口にチャックをする方法でいいんやろ。ほなら、送り先が超間違っとるわ。雑誌「なんか」じゃのうて、雑誌「外科なんか」やな。キラさんが創刊準備してるらしいで。そこへ送り直したらええのんちゃうか。
▼まず、裏ルートを使って医師を探し、口を縫合しましょう。次に、見世物に行って、自分自身を人身売買しましょう。
芸能人 年齢非公開
▼そういえばカブキロックスってあったなあ。
▼まずはワタクシ焦田先生とデートしましょう。その割合がどんな理由によるものなのかは、膝を突き合わせてお話ししないとわかりませんからねえ。カラオケボックスを予約しましたので、今度の水曜日の午後7時、■■■■■■■に来てください。僕はゾウさんのジョウロを頭に乗せて待ってます。好きなお酒は何ですか?(編集部の都合で場所はスミ塗りいたしました)
▼もっとかぶいたらええやんかー。「傾奇者」10割にもってったらええやんかー。
▼まずは、誰かのクローンをたくさん作りましょう。客席に彼らクローンを招けば、問題は解決です。
▼むしろサラリーマンがサラリーマンとしてわかるようにきていることが問題です。アイドルマニアのサラリーマンはちゃんと着替えてサイリウムを装備して準備万端整えてやってきます。サラリーマンがサラリーマンと悟られるような格好でくる時点で、まだまだ客の訓練が足りません。アイマスマニアなどはオープニングのスポンサー紹介ですらコールしてスポンサーを応援します。そこまで訓練しなければ生き残れません。傾奇者8割、学生2割を目指し、そして最終的には傾奇者オンリーにしましょう。収益率がガンガン上がって課金もジャブジャブです。まずそこを目指しましょう。一般受けなど気にしたら負けです。
▼アイドルにもいろいろありますが客も少なくおかしな人だらけという事は、さては地下アイドルですね。モグラ獣人やテレスドンでもあるまいしちゃんと陽の当たる場所に出ましょう。それからサラリーマンのお客をどうやら増やしたい様子が文中から伺えますが、これなら話は早い。アイドルしつつファンをサラリーマンだらけにする簡単な方法があります。
よくしょっぱい会社なんかでちょい可愛いおばちゃんが「我が社のアイドル」「我が社のマドンナ」として珍重されているでしょう? 自分より若くて可愛い子の居ない会社に就職すれば良いのです。きっとお局様にねちねちいやがらせをされると思いますが、そんな嫌な女はぞうきんの絞り汁やママレモンを投入したお茶を飲ませていれば肝炎なり腎不全なりなんなりになって退社してくれます。頑張り次第では人生から退場もしてくれます。さあ善は急げ。いますぐ就職しなさい。
55歳 匿名希望 主婦
▼わたしがなんとかしました。
▼おめでとー! のっとるやんかー。で、野方センセ、いくらもろたん?
▼このことは決して外部に漏らさぬように。でないと……
▼なんかの雑誌というのは世界のメタファです。その雑誌の質問コーナーはつまり世界の中のクエスチョンワンダーランドにあたります。あとは分かりますね? ちなみにクエスチョンワンダーランドとは食べ残しのすあまが集まってできた東京湾に浮かぶ島です。参考までに。
▼あんたの悩みがホンマになんか掲載に値するもんなんか、まずは膝を突き合わせて相談しよか。もちろん、歳は嘘やろ? あんたが40歳以下やったら、マネージャー通して連絡しとくれや。カラオケボックス予約させるやさかいに。ほな、■■■■■■■■■にワン切りしてや。(一部編集部権限により伏字にしました)
▼そーいうのはコソっと私に相談しなさい。包むのは一本でかまいません。あなたは世間知らずで一本の額がわからないかもしれませんね。十万百万のはした金ではありませんよ。ロッキード事件で言う1ピーナッツ、これが一本です。さあわたしに包みなさい。領収書は出せません。
ラジオネーム:女はウニ
年齢:おしえない
性別:誰がなんと言おうと女
在住都道府県:群馬より北
職業:練り梅工場の練り梅練り係
▼あなたの恋人は、あなたの悩みの顔を見たいのかもしれません。あなたがされているような幼児的な行為が気に入らない場合、その質問が不快であることを主張した方が良いでしょう。
▼てめぇうんこ味を知ってるのかよ!? と、ご自身のうんこをプレゼントしておあげなさい。食べるかもしれません。
それか何食わぬ顔して大便を食卓に「カレー」としてお並べなさい。食べるかもしれません。
ちなみにうんこは食品中の30%程度しか吸収されぬまま糞となるそうです。つまり汚穢はまだまだ栄養満点の天然カロリーメイトなのですよ。ベビーフードのように柔らかで食べやすいし。食糞は理にかなった行為と言えるでしょう。
つまりうんこ味だろうがカレー味だろうがカレーだろうがうんこだろうが同じです。同じ食物です。
そのうえうんこのカレー的な色の由来は死んだ赤血球によるものです。つまり鉄分たっぷりへもぐろびん。
うんこ好きな彼氏さんもよくぺろぺろとお便所にてアカナメよろしく便器の茶色を舐めているかもしれませんが、とてもよいことなのであなたもお舐めなさい。ふたりで舐め合えばトイレットペーパーの節約にもなるしウオッシュレット付き便座も不要となりますよ。
▼ウンコは彼氏自身、カレーは貴女のメタファです。30歳…適齢期…あとは分かりますね? ちなみに日本統計協会のデータによると、ウンコ味のカレー派が6割、カレーは味のウンコ派が3割、バター醤油味のポテトチップス派が1割だそうです。ご参考までに。
▼彼氏のカレー味のウンコ食ったればええやん。味はカレーだから問題ないし、彼のなら食えるやろ。というかカレー食ってるときにウンコの話すなや!
▼済まんけどな、あんたの相談見て分かってもうた。あんた、彼氏いないやろ? ダメやで、そんなことじゃ。とりあえず焦田先生とカラオケボックスやな。水曜日、どうや? あ、そこは先約あったわ。アイドルとウッシッシやった。木曜な、7時、■■■■■■に来てや。頭にフグの提灯乗せて待っとるから。きっと来いな、ええこと話したるでー。(編集部権限により一部スミ塗りしました)
▼そんな彼氏とはわかれたらいいやんかー。ぼくんとこきーや、いっしょにカレー味のうんこ食べにいこ。
▼いったん落ち着いて、ラーメンを食べましょう。
つや消しトップコート
44歳 男性
東京都 会社員
▼まず、去勢しましょう。次に、宦官になりましょう。がんばって!
▼あなたたが自慰により無駄撃ちした白い命達は、あなたのお子様の新たな弟や妹になるチャンスすら与えられなかった、受精競争に参加すること無く散ることを運命づけられた哀しき存在なのです。しかし習慣というのは変えられないもの。あなたは80、90になった時でも手淫をやめられないでしょう。例えみっともない姿で心不全となる恐怖を自覚していてもね。これからもあなたは日々数千万匹を殺し続けるのです。それならばせめてものはなむけに、受精競争に参加できない彼らをせめて食物連鎖の枠に混ぜてあげてはどうでしょう。そう、伝説の「恐怖の白いジャム」を製造するのです。
▼マスタベ歴42年のマスタベ記者のワタクシがお答えします。マスタベは死ぬまでやっても大変美味しゅうございます。お嫁さんにはとてもできない、というかしてはいけない性癖も、架空の夜伽の彼女たちなら存分に受け止めてくれるでありましょう。またマスタベについては記録をつけるのも渋いですね。健康管理にもなり、また自身の性癖の変遷もわかり、齢を重ねていく寂しさを逆に味わいや深みがわかるようになったと思い直すこともできるというものです。また仮装夜伽の彼女たちもまた色々と変わっていくので、その対抗戦をしてみるのもまた楽しいものです。和の夜伽、洋の夜伽、中華の夜伽に挑戦者の夜伽。なんとも豊かな妄想の広がりが大変奥深いものであります。これを実際の女性でやったら血を見る地獄となりますが、仮装夜伽の世界では何でもありなのです。レッツ妄想。現実と混同しなければこんな楽しいものはないのですから、その点だけ留意して夜のソロプレイをお楽しみくださいませ。大変美味しゅうございます。
▼あなたが自分自身の慰めによって、誰も傷つけていない場合は、それを罪とするのは奇妙な話です。クリエイターは人々に自らの快適さの行為を与えられ、それは永遠に行うことができるものです。
▼自慰というのは火災報知器のメタファです。思い出してみて下さい……貴方は火災報知器を見るたびその下で煙草を吸っては悪戯に作動させていますよね? ええ、そういいことです。ちなみに第2、第4水曜日がポイント5倍となっているのでそこを狙って自慰をされてはいかがでしょうか?
▼あのな、ソレ3日(当社調べ)で死ぬから。あんた、股間に黄色くなって腐りかけたニョロちゃんを何百万匹も飼うてることになるんやでー。そんなんイヤやろ? したらビュッといけや。70かて80かてかましまへんやろ。ビュビュッとな。
▼みんなしてるんちゃうん? 死ぬまでつづけたらいいやんかー。
▼私は今年で80歳ですが、週2で欠かしません。人生まだまだですよ。
ラヂオネーム:アクトンベイビー
年齢:まだ胎児
▼あまり知られていないことですが、DNAにはすべての人類の特質が情報として内包されています。遺伝とはそのうちのどの情報をONにするかという選択肢のセットに過ぎません。この遺伝情報セットは時としてエラーを起こすこともあります。肌の色に関してはONとOFFの8つの組み合わせが3セットで決まります。ただしメラニン色素での再現度は同じ階調が保持されないので、褐色フィルターをかけたのと同じ状態で実際のスキンに反映されます。あなたのお父上がこの仕組みを即座に理解できる人並みの知性の持ち主であることを祈りましょう。ちなみにわたしの娘たちもこのような遺伝子情報セットの些細なエラーでわたしの遺伝的資質をあまり継承していませんが、わたしはDNAの真の仕組みを理解しているのでまったく気にしていません。
▼この質問のカイトウは焦田センセが得意そうやで。お腹の中で焦げたことにしといたらええんとちゃう?
▼そんなもん、悩んでも始まらんな。あんたの自意識が発芽するまでにはどっちかがパパになってるやさかいに。そんとき黒人のパパがおらんかったら、自分で探したらええ。声とか体臭とか、覚えとるやろ?
▼親はなくとも子は育つといいます。生まれたらまず、両親を殺害しましょう。大丈夫、まだ罪には問われません。
▼黒人はバターのメタファです。バターには有塩と無塩、そしてカルピスがあります。ということはつまり……? あとは分かりますね。ちなみに豆知識ですが胎児の頃から小型船舶免許は取得可能です。是非トライしてみては?
先生方、ありがとうございました。
なんか編集部ではいつもみなさんのお悩み、ご相談の電波を受信しています。わたしも相談してみたい! おれの悩みを聞いてくれ! という方は、電波を飛ばすか、編集部宛にメールをお送りください。豪華相談員陣が、あなたの苦悩を和らげます。
では次号でもお会いできますことを。
東京都 28歳 女性 雑誌ナレーター
▼僕がお聞きしましょう。ケータイアドレスをすぐに教えなさい。
▼なにを水臭いことを。いつでも相談にのるで。はよ連絡しいや。
▼相談というのは叩いてかぶってジャンケンポンのメタファです。貴女が相談に乗ってもらいたいというのはつまりヘルメットを被り続けているということ。あとは分かりますね……? ちなみにジャンケンポンの語源はJunk-えんぽん、つまりガラクタみたいなえんぽんということだったんですね。ご参考までに。
▼そらもう、ワシに気に入られることや。声の仕事してはるんやろ、ほならカラオケボックス行こか。絶対載せたるやさかいに、金曜の8時に■■■■■■■■■にワン切りしてや。山手線周辺なら来れるやろ? 待ってるで。(編集部権限により電話番号は伏字にしました)
▼生きろ。
▼28歳女性やったら、ぼくがコジンテキに相談にのるで!こげた丸センセとこよりぼくんとこきーや。フィンランド料理ふるまうで! 作ったことないけどな!……ほんまに女性なんやろな?
▼私の知り合いで寂しい時は長電話という人がいます。友達がいない人なのでリカちゃん電話か時報にかけるそうです。あなたもそうなさい。どうせためになる返答なんて期待していないただの鬱憤晴らして話したいだけでしょう? 昔は穴に向かって秘密を叫んでいたそうですが今は電話に向かって呟くのです。さあお掛けなさい。私リカちゃん、今あなたの後ろにいるの。
○テストテストテストテストテストテスト
・おい、文字数出しのダミー放置かよ
・あ。忘れてた。まあいいか。
・いいのかよ
○これ誰が読むのかと自問自答ながら作っていたけれど、自分が読むからいいやと開き直りました。次号もよろしく!
・作家という立場を超えて、編集部の中の人でもあり、プランナーとコラボしてる感じもあり、絵作りとか歌作りとか、もう何でもありのスーパーなんか空間。作ってる側がこれだけ楽しめれば、ツボにはまった読者さんにはずえったい受けるはず。と、自分にも参加しているみなさんにも無言で言いつつ、何しろ楽しみながらクリエイチブでいられた3年間の準備期間でした。これだけずっと準備してきたので、3号は出したいっすね。
・私も読みます私も読みます。
○毎号が廃刊の可能性を孕んだスリリングな雑誌です。でも廃刊の危機を乗り越えるたびサイヤ人的に強くなるよ…?
・スーパーなんか人! おら損御供!
・補足:スーパーなんか人は怒ると髪が黄色くなるが、眉毛は黒のままなので違和感がある。
・眉毛は黒! ガメラの血が緑色なのに口の中は赤いのと同じ違和感ですね。
・強い雑誌とは。
○とにかく楽しかったです。
読者の皆様、なんかスタッフ、その他、母なる大地に感謝。
終わってみると、あれですね、なんかこう……そう……うん……。
あと、怒らないでください。
○わ!ほんとになんか出た!
……と叫ばずにはいられません、感無量です。
なんか凄い人たちとともになんか作れたことがなんかとても嬉しいので、次の号も全力でなんかしたいですね。
……読者がついてこれれば……な!
○まだ自分の原稿ができてません。壱号目にして落とすのは前代未聞なのでなんか避けたいですね。あ、ゲームして映画見て昼寝してご飯食べてから書こうっと。いや、明日やればいっか。
○そういえば、人生相談コーナーは、読者様からの投稿をお待ちしているのですかな? と、あやふやな募集をかける
・そういえば、募集先はどこかに書いてあるんでしたっけね? と、あやふやな指示をどこへとなく飛ばしてみる。
・書いてあるかもしれないしないかもしれないけどなんとかなるかもしれないしならないかもしれない。
・結論だけ言うと、あります。
○とりあえず読者を完全に振り切って誰もついてこられない感がもはや一種の快感となりつつあるという。どんだけココまで鬱積してるんだよっ! と。でもそれを読んでくれた読者さんには、なんというか、すみません……、というか、深く感謝。ありがとう。
・選ばれし読者のなんかたちよ!
○キャラクターが定まっていないので、フリートーク的なものが大変です。次号までにキャラを定めていきたいと思っています。
これ本当に出るんですかね。今更疑心暗鬼。
・出ちゃいましたね。
○グラビアんとこで見切れてるページがあるんだけど。
・あ、それわざとです。アニメとかドラマとかバラエティで長いウンチクをバッツリ切るような演出あるじゃないですか。あの感じ。
・それな。
○初校チェックお願いします。
・当面BCCKSだけでのリリースにしときますが、マルチストア用には別途レイアウト調整からやんないと細部がみっともないっすな。BCCKS用はそのままPOD用でもあります。
・あれ……? 想像より、なんかちゃんとしてるぞwww
・やってること無茶苦茶で実に面白かったです。個人出版の雑誌って寄稿している人以外の読者がいるのかいつも疑問なんですが、なんかならその枠から飛び出てくれるかもしれない。
・ううむ。といいつつゲラゲラ笑いながら読んでしまったぞよ。どうしよう。
・今、半分くらい読みました。もっと出鱈目な感じになると思ってたんですけど、意外にちゃんと雑誌ですねえ。
・最終ページの「元気です」で何度でも笑ってしまう。
・全部読んで、なんか80年代末期の一番雑誌が面白かった時代の雰囲気で面白かったー。
・読むと本当にボリュームすごいですね。まだ選考経過のとこですが読み応えある。
・まだ全部読めてないですが、ボリューム感ありますね! ハチャメチャなバラエティも雑誌ぽい。ちょっとおふざけが過ぎる部分もあるかもですが、それは僕が固すぎるんだと思うわけで。
・焦田先生はなんかGの良心だから。
○次号やんの?
・次号出さないと有料にできないので、出すしかない。
・最新号が常に販促グッズになるんだから、手抜きできねえなあ。
・うはw
2016年5月10日 発行 初版
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