本のあらすじや概要をかくスペースです。
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この本はタチヨミ版です。
今井 純志
プロローグ
一 名前は?
二 ピアニストの居候
三 ビリヤード
四 気になる? 気にならない?
五 過去
六 過去2
七 恋をしている?
八 Kiss me
九 再び、これから
あの誓いの日から、三年の月日が経った。 私は二十歳の誕生日と同時に、私の夢も現実に変わった。 きっかけを与えてくれた彼は、今頃、何者になっているのだろうか?
壮大な夕日の映える誰もいない砂浜に来るまで、そんなことばかり考えていた。
家からでも見えるのに、浜に打ちよせる海の音と夕日だけを見るだけでここにいた。
「綺麗……。彼に見せたいな。」
前言撤回。ここにきたら余計に考えてしまう。
秋になっても外は暑いのに、打ちよせる潮が足に冷たく触り潮風も涼しい。
同時に私の足跡も消してくれる。
けど、私の視線は、海の水平線より遥か遠くを見ている。
やがて、潮風に靡く髪もなくなった。
歩いていた私も止まった。
大きく息を吸い込み、両手で筒のように包み、口の側に添え、
「バカヤローッ!! 三年だけ待ってやるからねっ! さ、三年過ぎて帰ってきたって、誰も待ってやらないから! 分かっているの、バカァー! 」
精一杯、声を出した。
私は下を向いて、悄気ていた。
潮が尾を引くように退け、再び、足に触った。
「ばかやろうぉ。いつになったら、帰ってくるのよぉ〜。」
涙が出て、声も濁っていた。
「いつとも言わず、今さっき、ここに着いたばかりだけど。香奈江、思い切り、ドラマしているな。」
この淡々とした喋り方は。
「それにしても、バカバカと言ってくれるよな。まぁ、馬鹿には違いないけど。とりあえず、ただいま。」
振り向く私を差し置いて、話を進める彼が立っていた。
「どうしたの? 」
声の出ない私に、問いかけた。
クス。
指を口に付けた。
「貴方の名前は!? 」
「漂泊のジャズメンと、言うとこかな。」
「職業じゃありません、名前を聞いているんです。」
本当に帰ってきた。
既に彼しか見えていない。
間をおいて、
「とりあえず…、そうだな。花園健太とでも名乗っておこうか。」
言った。
「健太!! 」
同時に私は健太に抱きついて砂浜に倒れた。
潮も退いた。
倒された健太は、
「いきなり、何をする。」
咄嗟の行動に動転した健太だが、私の顔は既に健太の顔の正面を見ていた。
抱きついた手が健太の顔を触り、そこで止まる。
一番、大きな波の音が聞こえる。
「おかえり。」
私の口は、
「健太…。」
健太の口と交わった。
同時に、波が二人を飲み込み、引き上げた後は濡れ切った二人が、砂浜に座っていた。 二人が二人、一様にお互いを見ていた。
健太の笑い声が高鳴る。
「香奈江、好きだぁー! 」
「うん! 私も大好き! 花園健太が大好きだよ! 」
笑って声を張り上げて、嬉しさを噛み締めていた。
それは高校三年の初夏の放課後から始まった。
学校の掃除を終えた私は、
「香奈江、教室の窓を閉めてね。」
「う、うん。」
いつものパターンで、後始末を押しつけられてしまった。
はぁ…。
思わず、溜息が漏れる。
もう、放課後もだいぶ過ぎて、太陽もビルの谷間に隠れようとしている。
そんな時だった。
私の教室の隣の音楽室から、甲高い音が響き渡った。ドアを閉めているとはいえ、私の耳には、はっきりと言えるぐらい強烈に響いている。
でも、うるさいという甲高い音ではない。
なんて言うか、力強い音だ。
楽器はピアノだ。
旋律が普通のクラシックでなければ、ポップスや歌謡曲にも属さない。時々だけど、トゥルルルルルと、鮮やかに流れる音は見事という他はない。
窓を閉め終えた私は、すぐに隣にいってみた。
まだ、音は途切れていない。
音楽室のドアを開けた。
そこには、男の人が独りでピアノを弾いている。
だけど、ここの先生でもなければ、生徒にもこんな研ぎ澄まれたような人はいない。
服は、上はワイシャツにジーンズのジャケット。下はジーンズだ。
背丈も百八十はあるだろうな。
私は、黙ってみていた。
もう、クライマックスに近付いている。
鮮やかといえる指の動きに奏でる音の静けさ。
まるで、トレンディードラマの最終回のような台詞で唄っているみたい。
でも、パッピー・エンドになるドラマではないみたい。
「あ。」
私は彼の顔を見た。
悲しい顔をしている。涙も流していないけど、とても悲しそう。
音に酔い痴れているのだろうか!?
タチヨミ版はここまでとなります。
2016年5月16日 発行 初版
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