2J.　督促状

　散歩から帰ると、ポストに葉書が入っていた。

　なになに、『アポロ企画』からだって。あやしい名前だな。

　うらがえして、ざっと目をとおす。
『──督促状──
　……貴殿に貸し出した……の期限が切れ、未納のまま……つきましては……下記銀行口座に……金三十七万八千円をお振込みの上……』

　ふざけんなあ！　こんな詐欺にひっかかるもんか。不愉快だ。

　びりびりに破いて台所のゴミ箱にポイする。
　書斎に入って机のまえにすわり、仕事にとりかかる。しばらくして、ふとおもいだす。

　そういえばむかし、新宿駅西口のいかがわしいレンタルビデオ店で、エッチなビデオをよく借りたっけなあ。『夜の診察室』『カマキリ夫人』『洗濯屋ケンちゃん』……。なつかしいなあ。さっきの葉書、ひょっとすると……。

　気になって、本棚の奥やクローゼットのしたをガサゴソとさがしてみる。

　妻が買い物に出ていてよかった。こんなかっこうをみられたらはずかしい。面目まるつぶれだ。いちおう、亭主関白でとおっているんだからな。

　ベッドのしたを覗いていたら、チャイムが鳴った。

　妻にしては帰りがはやすぎる。いったい誰だ、いま取り込み中だっていうのに。

　玄関に行ってドアをあけると、妻が立っていた。
「なんだ、きみか」
「はい、まいど～」よこから男が顔をだした。
「うおっ、びっくりしたあ」
　背広姿のひょろっとした中年男。セールスマンのようだ。
「おどろかしてすみません。ちかくまで来たものですから、ついでに寄りました。こいつですよ、こいつぅ」
　そう言って男は、妻のあたまをわしづかみにしておさえつけた。
「な、なにするんだ、おまえ！」
「愛妻ＲＸ７号、回収に参りました」
「えっ！」記憶がよみがえった。
「ま、待て！」
「延滞料三十七万八千円のほう、いますぐ払っていただけますか？」