───────────────────────
───────────────────────
この本はタチヨミ版です。
(第2話以降に適用・第2話まで3年生は2年、2年生は1年。マアムは入学前)
3年生
・長原キラ:みんなに『総裁』と呼ばれている。「さふである!」とか口調がやたら特徴ある子。
・葛城御波:国語洞察力に優れたアイドル並み容姿の子。でも密かに変態。
・芦塚ツバメ:イラストと模型作りに優れた子。イラストの腕前は超高校級。「ヒドイっ」が口癖。
・武者小路詩音:模型作りの腕前はエビコー鉄研ナンバーワン。体が弱くて入学を遅らせているので実は2年のみんなより年上。超癒し系のお嬢様。
・中川華子:鉄道趣味向けに特化した食堂『サハシ』の娘。写真撮影と料理が得意。バカにされるとすぐ反応してしまう。
・鹿川カオル:ダイヤ鉄。超頭脳明晰で、鉄道会社のアルバイトでダイヤや車両運用表を組んでいるIQ800のギフテッド。同時にプロ棋士目指して将棋奨励会所属。
2年生
・大野アヤ:模型鉄の子。詩音に匹敵する模型雑誌掲載歴があるほどの技術を持つが、気配りにちょっと問題あり。
・御門マナ:鉄道マニアには珍しいコスプレイヤー。ネットにもどっぷりハマっているさらにオタクな子。
・建部カナ:鉄道趣味はほぼなかったけど、カオルが『王子』と呼ばれるほどハンサムだったのに引き寄せられ入部。のちに鉄道の音に聞き惚れる『音テツ』に進化。アニメ声優っぽい声。
1年生
・梅花堂マアム:エビコー鉄研が迎える最強の新入生。現在鉄研の2年・3年生にバトルを挑んでいる。謎を秘めたハーフらしき女の子。「~であります」と話す。
他に
顧問・副顧問(舘先生)・コーチの古川さんの3名。
ライバル高校(森の里高校)部長・扇宮美里:ド金持ち。
警視庁ハイテク犯罪センターの竹カナコ警部:鉄研のみんなが関わった『アスタリスク事件』担当。
……うわ、ほんとすごく人数多い。ヒドイっ。
2016年1月1日、日の出前の暗い東京。
「総裁ー、この日暮里駅で乗り換えですねー」
海老名高校鉄道研究部のみんなが、終夜運転の山手線の電車から日暮里駅ホームに降り立つ。
「さふなり。我が鉄研は、今年のお正月を、あの『約束の地」で迎えるのだ」
総裁と呼ばれた彼女、部長である長原キラは、その機関車の動輪の髪飾りを輝かせて振り向き、うなずいた。
まだ暗い日暮里駅を、みんなは荷物のカートを持って移動している。
「グリーン車乗車位置はもうちょっと先ですー」
案内するのはあまりのハンサムさに男の子と間違われてしまう女の子、鹿川カオルである。
「ホームは走っちゃダメだからねー。ヒドイっ」
そうみんなに鉄道マナーを念押しするのは芦塚ツバメ。
「わかってまーす」
そうみんなが答える。女子ばかりの鉄研(鉄道研究部)なので、揃った声は女性コーラスのように美しい。
「ツバメちゃんのお父さん、今頃終夜運転仕業に就いてるの? 運転士さん、ほんと大変よねえ」
そう聞くのは彼女と一番の仲良しにして天才的洞察力をもつ葛城御波。それにツバメがうなずく。
「ほんと、お疲れ様ですわ。私達はこうしてお出かけだからいいですけれど、本当に鉄道職員の皆様の努力がこうして毎日、日本の鉄道に命を吹き込んでいるのだと思うと、頭が下がりますわ」
武者小路誌音がそう丁寧に労う。
「そう詩音ちゃんに言われると、お父さんも嬉しいと思うなー」
「そうですの? 光栄ですわ」
そう笑う時も詩音はきちんとハンカチを口に添えて歯を見せない。さすがは鉄道工学教授の家の正真正銘のお嬢様である。
「みんな、ちゃんといるー?」
「2年生はこれで6人全員だけど、1年生3人は?」
「いますよー!」
声が三重奏になる。
「アヤちゃん、髪飾り変えたの?」
「はいー! 総裁に倣ってHOゲージの蒸気機関車のスポーク車輪で作ってみたんです」
「さすが鉄道模型誌掲載常連だけあって、工作が精密で趣味も渋いわねえ。あれ、カナちゃんは」
「え、あ、すみません、行き来する列車の音に聞き惚れちゃってて」
「カナちゃんも立派な音テツになって。感慨深いですわ」
「でも! マナちゃん! その格好は!」
「せっかくだから衣装キメてきました!」
「なんのコスプレなの? それ?」
「秘密です!」
「なんか、妙にぃゃらしぃー!」
御波が顔を赤くしながら変な声を出す。
「あくまでもKENZEN! です!」
「もー、朝っぱらからやめてよー」
「よいではないかよいではないか。マナはレイヤーさんであるのだから、これが正装なのであろう」
「そうなのかな」
「でもレイヤーさんは公的機関に撮影許可をとる渉外能力や、コスを作るための裁縫・工作能力などを備えておるので、仲間にすると大変な戦力になるのだな」
「そうですわねえ」
「では、みな、ここであらためて」
総裁の上げた手に、みんな円陣を組んで手を合わせる。
「ゼロ災でいこう、ヨシ!
再び9人全員の声が揃った。
「じゃあ、みんなでグリーン券情報をSuicaに書き込みますー」
「列車は常磐線快速電車のグリーン車なのであるな」
やってきた上野発勝田行き、銀色に青のラインのE531系電車に乗る。
そして座るのはダブルデッカーグリーン車の平屋席だ。
みんな、なれた手つきで、今風のプラスティック使いが機能的かつ簡素な車内で、天井の荷物ラックの裏のセンサーにSuicaをタッチする。
すぐにそのセンサーについているLEDが赤から緑に変わる。これで料金を払っていることを示し、検札を省略するのだ。
「平屋席は2階建て部分の1階とも2階とも違って、ちゃんとデッキと扉で隔てられていて、静かでいいですね」
「荷物も置きやすいですー」
「うむ。1階席は構造上、座席の下が上げ底になっていて床がフラットでないからの」
「これで駅弁が買えればよかったのですが」
「早朝に駅弁売っているお店、ないですもんねえ」
みんな、そう言ったが、そのあと、一斉に眼を転じた。
「そういうときは!」
「我らが華子ちゃんのおうち・食堂『サハシ』謹製自前お弁当!」
みんなが見たのは、3年生・中川華子の持ってきたバスケットだった。
「そうですー! 皆さんの分、おとーさんと作ってきましたよー」
「うむ、これで朝餉とするのであるな」
「いっただきまーす!」
みんなでお弁当、クラブサンドをいただく。
「ほんと、華子ちゃんのお父さん、往年の豪華寝台列車の食堂車クルーの養成に携わってたってだけあって、さすがの味ね!」
「ありがとうございますー!」
「うむ、しかし、ここで満腹になるわけにはゆかぬのだ」
「そうですわね」
「といいながら総裁またメチャメチャ大食いしてる……」
「ワタクシにはこれは食べたうちに入らないのだが」
「ヒドイっ」
列車は進んでいく。
「まもなく三河島である」
総裁が言うと、それで2年生達は一斉に席を立った。
「え、なんですか?」
1年生は驚いたが、すぐに察して、続いて起立した。
「安全の基礎であるのだな。あのかつての三河島事故の『運命の安全側線』脇通過時は、我が鉄研はその犠牲者の皆様に黙祷を捧げるのだ」
「安全あってこその鉄道ですものね」
「うむ。それが乙女のたしなみ、わがテツ道の心なり」
「そうですね」
みんな、まだ暗い車窓に黙祷を捧げたのだった。
列車は先を急ぐ。
「おおー! 空が白んできましたよ!」
「霞ヶ浦で初日の出が撮れるかも!」
「うむ、なんとも弥栄なり」
「写真に収めましょう!」
みんな、それまでしゃべっていた席を立って、窓側に移動する。
「あれ、でもなかなか車窓の眺望が開けないなあ」
立木や家々がシルエットとなって車窓を度々横切って行く。
「そういう時は、ケータイの地図アプリを見て、車窓の障害物を推測するのです。もうすぐ東側が開けますよ」
「ありがたい!」
「インターセプト15秒前」
「……なぜ写真撮るのにイージス艦のミサイル発射手順みたいな予告を」
「2、1、マーク・インターセプト!」
みんな、それぞれのカメラのシャッターを切る。
「撮れたー!」
「水面にも写っててすごく幻想的!」
「なにげに初日の出を迎撃(インターセプト)しちゃったけどね……」
「うむ。まずは穏やかな2016年になることを願うのであるな」
「でも総裁は、やっぱりあのことを目指してるんですか」
「あのこと? ああ。『テツ道王に、ワタクシはなる!』であるな」
「ほんと、パクリひどすぎますよー」
みんながぶうぶう言う。
「うぬ、ワタクシは至って本気なのであるが」
「わからん……さっぱりわからん」
「快速電車はさすが速いわね」
「だから快速電車なのかもしれぬが、もともと茨城県と東京を結ぶ上で、つくばエクスプレス(TX)線とこの常磐線快速は競合関係にあるのだな。TXが開業した時に、この常磐線もいろいろと改良したのだな。その一環がこのE531系の導入であったのだ」
総裁が解説する。
「でも、私達が生まれるずっと前ですよねえ、計画されたの」
「さふなり。当時は常磐線にテコ入れが考えられ、先頭車が2階建てになった車両などもあったのだ」
「クハ415 1901のことですね。でもあれは1991年登場の後、2006年に廃車になってしまいましたよ。着席定員増やそうと椅子を増やして頑張ったけど、結局その椅子がじゃまになって乗降に時間かかって遅延の元になるって」
カオルが怜悧とした声でスラスラという。
「うむ。普通運賃だけでの着席定員増加には限界があったのだな。それでもその延長線にこのダブルデッカーグリーン車があるのかもしれぬ。なにしろグリーン料金は事前に購入して、なおかつ休日のホリデー料金であればかなりお得であるからの。我々のように遠出で荷物の多い者にとってはむしろありがたい」
「それに、このグリーン車、トイレだけじゃなくて洗面台もありますわ。まるで話に聞く大昔の長距離列車のような趣で、かつての在来線長距離列車はこうであったのかと思うと、その鉄道浪漫に胸が熱くなりますわ」
「詩音ちゃん、また妄想捗らせてるー。しかも詩音ちゃん、胸熱くするより胸大きいー」
「華子ちゃんネタがゲスいっ、ヒドイっ」
そうツバメがツッコむ。
「でも……」
みんなの視線に、ツバメはハッとした。
「はいはい、どーせ私は『アイドルマスター』如月千早72教のご神体ですよーっ!」
ツバメは怒った。
「む、ツバメくんの前で胸の話題は禁忌なのであるな」
「えへへ」
御波が鉄研の部誌を窓際に置き、写真を撮っている。
「で、ツイッターで送信、っと。部誌が少しでも売れますように」
そしてお祈りのポーズをする。
「ステマ(ステルスマーケティング)? でも全然隠れてないわよ」
ツバメが呆れる。
「でも、旅に出る楽しみの一つは、これよねえ」
御波は嬉しそうだ。
「うむ、本末が転倒しているっぽいのである」
「まもなく水戸駅であるな。みな、用意は良いか?」
「早いですわ。みなさんと鉄道趣味や鉄道模型の話とかしていると、あっという間です」
列車は減速を開始した。
「そうですね。日暮里-水戸、115.3営業キロで所要時間105分、運賃2268円、グリーン料金780円ですからね」
「さすがカオルちゃん、歩く鉄道ダイヤ情報。北急電鉄でこっそりバイトでダイヤ作成してるだけあるわねえ」
「普通、学生バイトといえば駅の補助的な仕事なのにねえ」
「それ以前に我が高校はバイト禁止であるはずなのだが」
「それをネタに鉄研に引きずり込んでおいて何言ってるんですか」
カオルは笑う。
「お、『ゆうマニ』は今日も水戸駅にいたのであるな」
「「ゆうマニ」?」
「うむ、『リゾートゆう』という臨時列車用の電車をディーゼル機関車などで牽引して電化されていない線区に入線させるために作られた車両なのだな。荷物車マニ50から発電機搭載・連結器改造され『リゾートゆう』と塗色を合わせたマニ50 2186。いろいろなものと連結できる上に列車にサービス電源も供給でき便利なので配給回送・廃車回送などで控車としてよく運用されておるのだ。珍しい車両ながら水戸駅にいつも置かれていて、もはや名物なのだな」
「なるほどですー」
「そして、水戸に到着。降車するのであるな」
「ここまでのSuicaを精算して、ここからは鹿島臨海鉄道大洗鹿島線の切符を購入しての移動である」
「みんなー、乗り遅れないでねー」「はーい」
みんなでぞろぞろとエスカレーターを降りていく。
「おおっ!」「あっ!」
みんな、喜んだ。
「鹿島臨海鉄道6000形のガルパン(ガールズ・アンド・パンツァー)ラッピング車だ!」「しかも3号車ですよ!」
みんな、ケータイでその姿を撮る。
「3号車は劇場版映画仕様ですもんね!」
「これに乗るのだな。すぐの発車なのだ」
「乗車完了です!」
「いいですわねえ、車内の扇風機、開閉できる2段窓、そして縦型エンジンのアイドル音」
「ローカル線ムードたっぷりですよね」
「その割にはモダンな外観だけど、モダンと言っても昭和末期というか」
「それに、もうすぐ新車も導入されるとか」
「けっこう車齢来てますもんねえ」
「うむ」
総裁はそうみんながいう中、愛おしそうに車内のあちこちを触っている。
「旅に同じ旅は一つとしてなく、一つ一つが出会いと別れなのだ。この車両とももう出会うことがないかもしれぬ。まして長きお勤めを終え、新車に道を譲るとなれば、なおさら愛おしいのだ」
「そうですわねえ」
「うむ、出発信号が青になった」
「先輩、ここから田んぼの真中の単線線路なのに、壮大な高架線になってるんですね」
「うむ、これぞ鉄建公団、鉄道建設公団建設線の特徴なのであるな。オーバーなほどの高規格線路なのだ」
「鉄道建設公団? そういや我々エビコー鉄研も鉄道研究公団ですよね」
「さふなり。かつて国鉄が赤字に苦しんでいても、その上なお新しく鉄道を敷き、完成した鉄道施設を国鉄に貸付・譲渡するための組織として国と国鉄の出資によって発足した特殊法人がかつての日本鉄道建設公団なのであるな。しかし、政治の意思、それも地方で後先を考えずにただ鉄道を引けば地方振興がなんとかなるという考え『我田引鉄』で勝手に計画した線路を国鉄に押し付ける形式のために国鉄の経営を圧迫したのもまた事実である。故に、国鉄が赤字のために民営化、JRとなった時、鉄建公団の多くの建設計画も同時に凍結することとなったのだ。その最後の数少ない例外の一つがこの鹿島臨海鉄道大洗鹿島線なのであるな。ちなみに鉄建公団自身も2003年に解散したのだが、なんと新設の独立行政法人に統合されて現在も生き残っておるのだ」
「そうなんですか!」
「さふなり。国鉄赤字の原因の一つ、いわゆる『我田引鉄』の推進装置であった鉄建公団。鉄道マニアの中には、鉄道さえ、列車さえ走っていればそれで良いという視野狭窄のものもいるが、鉄道の健全経営と地域の発展を考え、鉄道を知り、鉄道を楽しみ、鉄道を楽しくする我がテツ道として、その視野狭窄を戒めるためにも、その推進機関たる我が部を鉄道研究公団と称し、その部長であるワタクシを総裁と称するのであるな」
みんな、その総裁の顔をじっとみつめている。
「鉄研にいて初めてそれ聞いた!」「ほんと!」
「うぬ、いささか説明不足であったのか」
総裁はちょっと照れている。
「うむ、もう大洗駅到着なのである」
「さすが電線や架線柱がない非電化鉄道、空が広い!」
大洗駅のホームで、みんな手を伸ばして深く息を吸っている。
「微かに海の香りがしますわ」
「ほんと、旅に出たって感じで、いいですねー!」
そのとき、総裁のケータイが鳴った。
「パンツ阿呆?」
「いや、絶対そのボケいらないって。『パンツァー・フォー』だから」
「でも、それってことは!」
「うむ。我が友、兵庫のガルパンマニアの模型テツ、ミエくんからの連絡なり」
「待ち合わせてたんですね!」
「さふなり。今日は約束であるからの」
「『約束』?」
「さふなり」
タチヨミ版はここまでとなります。
2016年7月26日 発行 初版
bb_B_00145173
bcck: http://bccks.jp/bcck/00145173/info
user: http://bccks.jp/user/127155
format:#002t
Powered by BCCKS
株式会社BCCKS
〒141-0021
東京都品川区上大崎 1-5-5 201
contact@bccks.jp
http://bccks.jp
YONEDENこと米田淳一(よねた・じゅんいち)です。 SF小説「プリンセス・プラスティック」シリーズで商業デビューしましたが、自ら力量不足を感じ商業ベースを離れ、シリーズ(全十四巻)を完結させパブーで発表中。他にも長編短編いろいろとパブーで発表しています。KDPでもがんばっていこうと思いつつ、現在事務屋さんも某所でやっております。でも未だに日本推理作家協会にはいます。 ちなみに「プリンセス・プラスティック」がどんなSFかというと、女性型女性サイズの戦艦シファとミスフィが要人警護の旅をしたり、高機動戦艦として飛び回る話です。艦船擬人化の「艦これ」が流行ってるなか、昔書いたこの話を持ち出す人がときどきいますが、もともと違うものだし、私も「艦これ」は、やらないけど好きです。 でも私はこのシファとミスフィを無事に笑顔で帰港させるまで「艦これ」はやらないと決めてます。(影響されてるなあ……)