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jacket

 目 次


天使の避暑地


カードリーディングゲーム


Flexibility 柔軟性


Next Steps


笹ヶ峰 夢見平遊歩道


木に会いに


古くて大きな桂の木のはなし


ランドパワーエッセンス


夜も更けて


シュワシュワの泉へ


しなの鉄道線 北しなの線


ここへ来たもう二つのわけ


戸隠神社 中社参拝


シメもお蕎麦で


あとがき

天使の避暑地



 戸隠奥社のバス停、ベンチに腰掛けて迎えの車を待っていた。
長野は善光寺の裏手から飯綱山を左に巻いて県道36号線を戸隠高原へ。そのまま新潟方面へ抜けると信濃町、黒姫までは約20Km。長野へ出るより近いのだけれど、キャンプ場が終点でその先へ進むバスは無い。宿のご好意で迎えに来ていただけることに。

 〜天使の避暑地「黒姫山」の夏休み〜
なんて素敵なネーミング。花・森・山、三人の導き手が案内役のこの企画、運良く万象繰り合わせーー参加できることになった。
私はカードリーディングゲーム、夢見平トレッキングに参加、そしてクリアリング整体を受ける予定だ。
お宿は二十数年前に東京からここ黒姫高原に移り住んだご夫婦の経営する『ロッジ 森のなか』

 ロッジに向かう途中、女主人のキョウコさんが「もろこし街道」の話しをしてくれた。
私の子どもの頃は、そんな名前はついていなかったけれど、戸隠から山を下る道の途中に採れたて高原野菜や果物を売る直売所が点々とあり、そこでは焼きトウモロコシも売っていて、必ず父は車を止めて立ち寄ったものだ。
窓を全開で走っていると、醤油の焼ける匂いが鼻先をかすめてーーついに「食べて行きましょうか!?」と二人で寄り道。
こんなに嬉しいことはない。

店先に腰掛けてもろこしに齧りつく
外皮を剥くのが追い付かないほど売れてゆきます

カードリーディングゲーム



 宿に着くとリビングでは午前中からのゲームの真っ最中だった。
お部屋に案内してもらいひと心地着くと、ペンション裏手の森にあるテラスに誘われた。
5月に会って以来のアヤさんと近況を報告しあい、私は最近亡くした父のことを、彼女はこの数日ここで眠りながら身体と向き合って過ごしたことを話してくれた。
時々開け放たれた窓から「ハレルヤ」の歌や歓声が聞こえて来た。

 薄暗くなり蚊が増えて来たので家の中に戻ることにした。
先きにお風呂をいただくことにして地下に降りると充満する湿気。
緑と土と水のこもった匂いーこの感覚、覚えている。
アヤさんと話しの続きを。

 夕食を済ませると、ファシリテーターのアキコさんが音叉と石を響かせて場を整え第2陣のゲームスタート。
共時性に導かれた3人の仲間と情報を共有しながら盤を囲み、"自分自身の意図した人生"を創造してゆく。
このゲームの目的を短いセンテンスに落とし込み、天上の魂が地上に生を受けるところからゲームは始まる。
しかし、運命は意識とサイコロの目次第、なかなか生まれないこともある。
私にとってはこれが四度目のゲームになる。

正式名称はトランスフォーメーション・ゲーム
Findhorn Foundationでの体験を身近にできるよう開発されました。

Flexibility 柔軟性


 ゲームの中では自分の意図や意識が実際のゲームに影響し具現化されること、私たちのまわりに存在する見えないものたちー天使の介在やサポートも実感として感じることができる。
これは自分の意識やパターンがひき起こしていることを客観的に観ることを助けてくれる。

 今回の私の意図は『私は真の自己を知り、生きています』
近頃繰り返し「心の奥底にある記憶を思い出す必要がある」というメッセージを受け取っていたにもかかわらず、核心に触れられず理解は曖昧なままだったから。
その封印された過去の記憶を思い出せない限り前へ進めないというジレンマを感じていたからだ。

 Body(肉体)レベルで1、1、1、3-2pain=1、、となかなか進まなかった。
それでも何とかレベルアップしてEmotional(感情)レベルになって、はじめてそれが私自身による「抵抗」だったのだと腑に落ちた。
Set Back 障害のカードでは、「あなたは現在のレベルにおいて、秘密主義によって停滞しています。」というメッセージ。
この日、自分をオープンに語る気になれなかった原因にはいくつか心当たりがあった。
今思えば、グループAngel がFlexibilitiy、意図を変更する必要があったかも。


 ゲーム中には参加者同士の間で互いに痛みを取ってあげたり、気づきのカードをもたらすサービスをしたりするものだけれど、今回私はその秘密主義のため自問自答しているようだった。

Next Steps


 ゲームを終えたら、ゲーム中に起きた出来事やたくさんの気づきを次のステップ=行動へと繋げます。そのために、4枚のカードを選びます。

「私は真の自己を知り、生きています」
この意図を生きるために、必要なことは・・

Insight 愛するための包容力と資質が増したように行動し、振る舞いなさい。
けれども、
Set Back あなたの冷淡さが障害とならぬよう注意しなさい。
そしてーー
Insight 自分(だけ)の夢や(感情や力の)ドラマから身を引き、真実の人生へ一歩踏み出しなさい。
Angel PEACE

 人間に本来備わっている本能に従って平和な世界に住むことーー
それは天使が大きな木に寄りかかってくつろいでいるように、私にとっても自然とともにあること、その中に身を置くことだと思えた。

 明日は大きな古い桂の木に会いに、そして昨年の心残りだった笹ヶ峰に行く予定。
大丈夫、すべて必要なことがここに来ると決めたときから用意されていた。

これから数ヶ月間、このカードが示唆するものにフォーカスしてみる


 翌朝瞑想をすると消化しきれなかった昨夜のゲームについて理解がいくつも湧いて来た。
「本当は知っている」というメッセージ。
私のゲームの課程を見守ってくれたガーディアン・エンジェルは
Forgiveness だった。
『憤ること、判決を下すこと、恐れることをやめ、傷ついたり怒ったりしている状況に費やす時間を減らしなさい。赦すということは、人間の本能に従って平和な世界に住むということです。』*THE ORIGINAL ANGEL CARDS www.mujicdesign.com より
このエンジェルのメッセージははっきりしていた。
あまりにも長い時間を浪費した理由は負けを認めたくないからであり、自分を赦していないことがその根底にあると思えた。

 窓を開けると目の前にあったのは白樺とグリーンの房を垂らした木。今の私に必要な要素にちがいない。
BIRCH(シラカバ)
心を開いて視野を広げなさい。ビジョンを曇らせる不信感や不安を消し去りなさい。想像力を育て、より大きいビジョンを思い描きなさい。
『私は、心を開いて新しい生き方を受け入れ、理解力を高めます。』
*フィンドホーン フラワーエッセンス HANDBOOK マリオン・リー著 より
緑の房のなる木は調べたけれど、何の木なのかわからなかった。葉は葛のようで、ひょっとすると木に絡んでいたつる性の植物だったのかもしれない。

笹ヶ峰 夢見平遊歩道


 朝9時ロッジを出発。
黒姫山の裾野に沿って行くと間もなく関川を渡る。関川と言えば、高田に流れているあの川だ。遡れば苗名滝、高妻山、そして周辺の山がその源だったのだ。
妙高杉の沢からスキー場を右手に見ながら山道を登り詰めてゆくと、ぱっと視界が開け空が広がる高原に辿り着く。
牛がのんびりと草を食み、なだらかな丘の牧草地に丸い樹形の木が点在する。そして石積みのロックフィルダム乙見湖が豊かに水を湛えている。

 ダムの向こう斜面は神道山じんどうさん、この奥に昭和初期には製材所があり、ブナの木を切り出し運搬したトロッコの軌道をボランティアの方が遊歩道に整備されたのだそうだ。
ログハウスの乙見湖休憩舎前に木のゲートがある。ここが遊歩道入口だ。
目指すのは樹齢300年の地蔵桂と呼ばれる大樹。

 コンクリートの急階段を直登すると早速息があがってしまった。整える暇もなく木の階段が続く。しばらく上り坂が続きそうだったので、慌てずにゆっくりと山登りの感覚を思い出しながら歩いてゆく。
わっと汗が吹き出したあとは少し身体が軽くなったようで、楽になった。

森の案内人 望月さんと更家さん
日本では湿原でもあまり見かけないヤナギラン。
アラスカではFire Weed、スコットランドではWillow Hearbと呼ばれている。
大待宵草



 大人、子ども、取り混ぜ10人のパーティ。
サラさんが教えてくれたブナの大木の前で挨拶して行く。この森の主なのだという。
花に足を止め写真を撮ったりしながら歩く中、少年たちは先きを争って駆けてゆき、少女はと言えば、お父さんと片時も離れずに静かに歩いていた。

 奥へ進むにつれ植生が移り変わり、杉木立、左手に太いブナが点々と立つ谷間を抜け、カラマツ林、楓、白樺、ミズナラ、トチの木に朴の木、そして道の脇には隈笹、紫陽花、盛りを終えた水芭蕉、エンレイソウの大きな葉、無数の草花たち。
水場で喉を潤し、抜きつ抜かれつそれぞれのペースで。
私は今朝会ったばかりのカナエさんと話しながら歩いていた。
途中きれいに整備された無人小屋で休憩し、少し広くなった林道を歩いてゆけば桂の樹はもうすぐ。

お稲荷さんの脇に立つミズナラの木

木に会いに



 2時間程でぽっかり空いた草原に到着。
奥には写真で見たあの木が立っていました。
ゆっくりと近づき、ぐるりと周囲を歩いてみると、すぐとなりに大きなうろのあるヤチダモの木、その奥にもまた桂の大木が並んでいた。
サラさんがヤチダモの中に身を屈め祈りを捧げはじめると、幹に刻まれた溝に沿わせたからだをくねらせながら、使いの蛇が彼の頭上に降りて来た。

 桂の木には少女がオオハナウドの花を捧げ、おもいおもいにこの木のとともに過ごしはじめた。
もちろん、子どもたちは真っ先に飛びつくようにして木に登ったり降りたりしていた。
私は少し離れた隣の木の根に腰掛けて、アチューンメントするよう意識を向けながら、桂の木に問いかけてみることに。

古くて大きな桂の木のはなし



私とともにありなさい

ここには私と同じ様に古代の記憶を持つ者が生きながらえています
この地に私が来たのは800年前
けれどもそれよりも古い大地の記憶を携えています
自然もまた記憶を継承してゆくのです

この場所にあるのは古代の夢
その夢を観ながらここに現れるものを私は待っています
夢はあなたたちの手によって新たに成るのです

ここに来て私とともにありなさい
多種多様な生物の中で、この世界の一部であることを・・・


 木の根にこしかけて、右肩に、そして頭上に桂を感じながら足下の草を見ていた。
そこには木漏れ日の注ぐ光に輝く葉や小さな花たちがいて、虫が飛び交い、あたりには鶯の鳴く声が響きわたる。
このいのちの豊かさの中に少年少女、父と母、、人として私たちも存在しているのだ。


左頁撮影 望月 均



 子ども達の声に集中は途切れたけれど、それはそれでいい。
一度繋がることが出来たならば、離れた土地にいても声を聞くことはできるはずだから。

 お昼となり、皆でキョウコさんが作ってくれた玄米のおにぎりとみそ汁をいただいた。
おやつやデザートまで用意され、ガイドに導かれる旅はすべておまかせ。
友人との山歩きや旅をあまりしたことがなかった私には、ゆるくつながりを持ちながら自由に振る舞えるということは新しい体験だった。しかも出会ったばかりの仲間たちとだった。

 残りの時間、今度は木の根元に座り言葉によらないエナジーを受け取ってみることにした。
苔むした幹の間近にいると、私も木によって生かされている苔や小さな枝の一部であるような、そんな気になるのだった。
8の字の丸い葉が頭上から降ってくるような、そんな絵になった。

沢胡桃


 足に疲労を感じながら来た道を戻る。
傾き始めた午後の日差しの中、鏡のように反射する湖水にみとれ、ダムの上では谷から吹き上がってくる風を一身に受けてリフレッシュした。
八方を囲む山の名前を教えてもらいながら、ここからは見えない火打と妙高、そして雲に隠れた黒姫山の頂を思う。
休憩舎の前でコーヒーをごちそうになりながら、皆で道中の報告をしながら笑った。

 アキコさんは、少女に森の精霊の出入り口やつながる方法を教えたらしい。
そして少年たちには自然へのリスペクトと接し方を示して見せていた。
そんな特別な夏休みを子どもたちにはいつまでも忘れないでいて欲しいと願うばかりだ。

 異界に別れを告げ39号線を戻ると、山肌をなでるように静かに霧が立ちのぼって来た。
すっかり下界に降りると再び晴れた空には目を見開いた若い龍が。
苗名の湯では道中話すチャンスのなかったカヨさんと温泉にじっくり浸かりながら互いのことを話し、自然と打ち解けることができた。

ダムサイトから笹ヶ峰、焼山方面を臨む
水鏡が空と雲を映していた

ランドパワーエッセンス

 夕食の後、キョウコさんが絵本「森のなか」を話し聞かせてくれた。大好きな帽子を被り、小さな笛でイントロとエンディングも吹いて。

 その後はリクエストしていた望月さんのランドパワー・エッセンス講義。まるでマジシャンのよう興味深い話しが彼の口から飛び出してくる。
話す内に、縁によって呼ばれた所にしか行くことはできないし、何ひとつ無駄は無く、私たちに自由意志など無いのではないかーーという所へ行き着いてしまった。
その場所を訪れることで自身の中に循環する水に土地の波動は記憶されていくのだろうとも。
家系(姓)の歴史を辿ることにより、自分の今生での霊的背景や系譜が明らかになる。言わば彼の霊線をきっかけにランドパワーエッセンスは生まれている。
果たして私に響くものはあるのだろうか?
そう思って考えてエッセンスを眺めていた時、ふと手が伸びてラベルの字がみえるように直した。
「いやいやラベルを直そうと思っただけで・・」そう言いかけて、これでしたか!私に縁のある一本。

 家に戻ってから自分のルーツを再び探ってみると、いままでわからなかったことがかなりクリアになってきた。
分けて頂いた『油日岳』のエッセンスは曰く付きだった。

ランドパワーエッセンス 油日岳
Puryifing Base 満月堂

夜も更けて



 サラさんのクリアリング整体を受ける。
足指から脚、手指から腕、と末端から調整してゆくもの。GLA整体というメソッドだそう。
そしてdoTERRAのエッセンシャルオイルで疲れた足をマッサージしてもらう。
肩甲骨、胸骨のあたりまでは憶えていたのだけれど、気がついたら眠ってしまっていた。
最後に足裏に一滴ずつオイルを、ラベンダーを首回りに塗って完了。

 Sora の 森 サラさんの作ったエッセンスもある。
「森のエッセンス」 神道山の古老 大桂の樹
アキコさんが言うには、木の根もとに置いてつくるエッセンスにはサラさんの祈りが含まれているそう。
一本分けていただくことにした。

 明日は起きたらアキコさん、カナエさんと朝食前に近くの炭酸水の湧くスポットに行く予定。


 目が覚めて窓の外を見ると網戸にクワガタを発見。
まだ寝ていた少年達を起こして、捕獲作戦成功。

 いよいよ私の夏休みも最終日。

森のエッセンス
Sora の 森
黒姫山と童話館の屋根
雪アジサイ

シュワシュワの泉へ



 昨日よりも空は青くー今日も暑い一日になりそうだ。
整備された木道ではなくスキー場の斜面に沿って朝露の残る草の上を歩いてゆく。
高原の草花を右に左に覗き込みながら、アキコさん、カナエさんと植物観察。
小さなミツバチがせっせと花筒の中へ出入りし、私たちにはお尻を向ける。

 湿潤な草地には黄色い釣船草。
バッチでは「ミムラス」フィンドホーンでは「モンキーフラワー」と呼ばれエッセンスになっている花(の近縁種?)だ。

 オオウバユリの存在感は、古くからここにいるようにも見えるけれど、突如として台地に降り立った異星人のようでもある。

 ギボウシは明るい所に集まってささやきあっているようだ。

黄釣船草
背高くアンテナを張るシシウド
ギボウシ
オオウバユリ



 細い踏み跡から茂みに分け入る。
張り出した木の枝を潜って進むと、ほどなくして沢に着いた。
鉄分を含む水によって、沢底の土は赤い。
三本に別れたミズナラの木。
その足もとを沢の水が洗い流し、大きく張った根の間の窪みの奥に炭酸の涌き出す口があるのだという。

 早速アキコさんが木の根に足を掛けると大きく屈み込んで水を汲み始めた。
汲み出すごとに「味見してみて」と差し出して、三人で天然の炭酸水を味わってみる。
何度か汲みなおして、頼まれた分の水筒もいっぱいにした。
続いて私も挑戦。
逆さになってできるだけ奥まで手をつっこんで、やっとのことで汲み出した。

この木の根もと奥深くから炭酸が湧き出ている
こんな体勢で頑張って炭酸水をボトルに詰めます^^
撮影 水谷 明子
シソ科?米つぶのようにちっちゃな花
アザミ

しなの鉄道線 北しなの線



 戻って朝食を食べると、今日のゲームや翌日の戸隠ツアーに参加する人がちらほら到着。
私は入れ替わりでここを離れる。
帰るのがもったいないようなお天気だけれど、部屋に戻って荷物をまとめた。

 黒姫駅前の酒屋さんまで宿のご主人に送っていただいた。
果たして、冷蔵ケースに1本だけ、お目当ての「戸隠」はあったのだった。
これは妹へのお土産に。

 ホームに入って来た列車は二両編成。
長野までは約40分。
遠くに流れる山を眺めながら、この旅を振り返る。

黒姫駅
北しなの線 車窓から

ここへ来たもう二つのわけ



 ひとつには、ここ数年訪ねてみたいと思っていた戸隠奥社へ参拝するため。
日程的にツアーに参加するのは無理だった。
神社へはひとりで歩きたいというのもあって黒姫でのリトリートに参加する前に途中寄って行くことに。
昼近くから山道を登るよりはと長野からのバスで直行し歩き始めたのだが、既に参道は観光客で賑わっていた。

 長野も戸隠も蒸していて、期待した涼しさではなかったものの、時折心地よい風が吹く。
広い参道の両脇には雪解け水が流れ、雪に曲がった大木の根元には笹が生い茂っている。
吸い込んだ森の匂いや毛穴に感じる水の気を、知っているーこれも憶えていると小さい頃の私がうったえている。

 そこここに石積みなどの跡があり、神仏習合の時代に栄えていたことが伺える。
奥社に祭られている天手力雄命や戸隠五社の御祭神である記紀の神々よりも九頭竜大神の起源は古いという。

 父の故郷はこの龍の尻尾が届いたと言われる所だった。ずっと以前に家のルーツを調べていたときこの伝説を知り、戸隠に行きたいと思っていたのだった。

随神門 ここから先、杉並木が続く
木々の向こうに見える岩稜はまだ雲に隠れている

 奥社の裏は大きな磐座だと聞いた。社殿の後ろにも石垣が在り、更に上奥へと続く部屋があるように見える。

 途中右手に歩こうかどうしようか迷っていた鏡池への道を見送り来た道を戻る。
中社へ向かうバスは行った後だったので、大鳥居のすぐ側にある「なおすけ」でお蕎麦をいただくことにした。
私なら天ざるなのだが、「鴨ざるそばをご賞味ください」と張り紙があったので、注文することにした。醤油が効いた濃いめの出汁に、ごぼうや三つ葉も入った田舎風。
父も鴨汁の蕎麦が好きだった。
これが二つ目のわけでもあった。

 子どもの頃、お盆になると父の運転する車でよくここを訪れた。
国道18号線を埼玉県からひたすら走り、碓氷峠を越えて軽井沢から長野、善光寺の駐車場で休んで戸隠を抜けて黒姫、妙高、そして高田へ。
必ず戸隠を通り蕎麦を食べ、もろこしを食べて行ったから、父はここが好きだったのだろう。
家には根曲がり竹で編んだつづらがあり、父は大事なものをそのつづらにしまっていた。
黒姫と聞いたとき、想い浮かんだのはそれらのことだった。
ひとり幼い頃の父との想い出を辿る時間。

ニホントカゲ
目を引く一輪の車百合
奥社前食堂 なおすけ
鴨ざるそば
中社社殿の前の杉
樹齢900年の三本杉は階段下、鳥居を囲む様にしてある
戸隠神社 中社

戸隠神社 中社参拝



 大きな三本杉を見上げる。
左手にはなだらかな階段のない道、正面は急勾配の階段。さあどちらを行く?
楽したい気持ちを振り払って、気合いを入れて直登する。
しかし息が切れないわけがない。

 参拝を済ませると、妹に教えてもらった御みくじをと社務所へ。
ご朱印をいただいて横に並びなおす。
年齢を言うのだと聞いてはいたけれど、時間がかかる。
神職さんが御簾の向こうに消えては祝詞を上げ、柏手を打ち、筮竹をならす音が聞こえる。
そういうことか、、、

 さあ、ここからは竹細工の店を覗きながら坂を下ってゆく。
午後の日差しの中、私と父と二人でこの坂を歩いた覚えがある。
古い民家の軒先で篭を編む職人さん、天井からも笠や篭がたくさんぶらさがる民芸品店が道の脇に並んでいた。
父はそういうものが好きで、熱心に篭の目を見ながら品定めしていた。

 そば用のざるをひとつ買って帰ろうと店に入ってみたが、小さいざる、深めのざる、大きなざるを手にとっては眺めるけれど決められない。
何かもっと違うものがないだろうか・・と思い巡らせながら、このカゴはどう?あのざるはどう?と父に訊いていた。
そしてお弁当用のつづらを思い出した。
店主に尋ねるとあいにく全て出てしまって今は無いという。
考えあぐねて一度店を出た。
するとはす向かいにもう一軒、竹細工やさんがあった。

 よし、と薄暗く涼しい店の中へ足を踏み入れる。
店の奥の作業場では、おじいさんと息子さんとおぼしき男性が竹を編んでいた。
棚につづらを見つけたけれど、同じ詰んだ編み目の手提げのカゴもある。
ああ、これだったのか。これなら納得してくれるだろう。
お婆さんに「このカゴをください」と手渡すと、
「これはしっかり丈夫に作ってあるだでね。長持ちするよ。」と保証してくれた。

 ポストの前のバス停で、待ち合わせの奥社へと向かうバスを待った。

根曲がり竹で編んだ籠 戸隠の民芸

シメもお蕎麦で



 窓の外の風景が町に変わり、退屈になり始めた頃長野駅に到着した。
善光寺参りもしようかと思ったけれど、あまりのカンカン照りと暑さにたじろいだ。
とにもかくにも、もうすぐ昼だしお蕎麦を食べよう。
行く所は決めてあった。長野駅前 そば亭「油や」

 メニューには「戸隠おろしそば」に「飯綱おろしそば」があるけれど、ここは私の定番「天ざるそば」海老抜きにする。
お給仕のお姉さんが親しげに話しかけてくれる。
なおすけもそうだったけれど、長野の人ってこんなに人なつこい感じだったっけ?
商売上手なだけかしら。

 出て来たそばは私好みだった。
透明感があって、コチコチした歯ざわりの蕎麦。
美味しかったー

 結局善光寺には行かず駅で新幹線の時間までゆっくりすることにした。
祖母のために栗おこわを買い、青りんごの味に似た「夏あかり」という赤いりんごを自分のために買い求めた。

油や 天ざるそば 海老抜き
あとは寝て帰るだけ

あとがき

 一週間と少しが過ぎました。
ゲームのことや休み中のことを時々振り返りながら、そして新月を経て、色々なことが急速に動きだしたように感じています。
新しい友と出会い、必要なことが起きています。

 今年に入ってから、明子さんのComing Home そしてRebirth、MiwakoさんのFlowerykiss、東さんの「日本の花のエッセンス」、続々と日本で作られたエッセンスたちが手元に集まって来ています。
日本の地で長い間眠っていた霊性が姿を現し、花開きつつあるのだと思います。
やはりエッセンスの声を聞き届けるということが私にとってこれからの学びであり課題です。
そして同時に、肉体レベルでの体験をしつくす、目に見えるものの世界をもう一度味わいなおす、という流れを感じています。

 毎日の生活の中で起きる葛藤や問題もありますが、なんだかトランスフォーメーション・ゲームの続きのように思えてきました。
さしずめ、エッセンスたちはAwareness、気づきのカードでしょうか。
エッセンスの数だけ気づきがあり、たぶんその全ての特質をひとりの人ーー宇宙は内包しているのだろうと思えました。
それはまだ秘められている可能性と言えるかもしれません。



 そんなわけで、今はレポート提出してほっとした気分です。
夏休みにおつきあいくださり、ありがとうございました。




2016年 8月 上弦の月  吉沢 良子

夢見る森へ  
戸隠・黒姫・笹ヶ峰 信越の森を歩く

2016年8月11日 発行 初版

著  者:吉沢良子
発  行:Journey on

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