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 平安京を舞台に繰り広げられるNLファンタジー。 全編 (R15)

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望月保乃華

望月保乃華出版



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  この本はタチヨミ版です。

 目 次

☆まえがき

第一章宿命

右大臣・為康邸

彷徨える舞姫

匡胤邸

第二章許されぬ恋

回想

第三章不穏

化野

第四章観月の舞

第五章運命

第六章道焔

捕らえられた虎景

第七章天河の舞

☆あとがき

☆まえがき

 この小説は、 平安京ファンタジーであり、 完全にフィクションで登場人物、 歴史考証、 風俗設定等実在と一切関係ありません。

第一章
宿命

 平安京
 夕暮れ。 右大臣・源 為康から呼ばれた表向け宮廷陰陽師である綾小路匡胤(あやのこうじ まさたね) は、 出仕を済ませ朱雀門前に立って居た。
 徒歩(かち) で、 柳垂れた一条戻り橋を渡り、 そこからかなり歩いた屋敷に着いた。
 門前に立つと、 屋敷から派手な橙色の狩衣を纏った若い男が現われた。
 朱雀の星を宿命に持つ、 靖秀(やすひで) である。
 「お帰り、 匡胤。 どうだった?」
 「あぁ」
 一言呟いた後、 邸内へ。
 ドタドタと足音を響かせながら、 虎景(とらかげ・白虎)は、 仏頂面で匡胤の部屋へ夕膳を運んだ。
 無造作に匡胤の前に置いた虎景。
 「なにゆえ、 ワシが膳を運ばねばならぬのだ?」
 涼しい顔で答える匡胤。
 「お前に品と教養足りぬ。 膳でも運べば所作も上品になるであろう」
 「この屋敷におなごは居らぬから面倒だ。 匡胤、 そろそろ嫁を取れ。 宮中に居るだろう?
 お前なら大丈夫だ」
 酒を注いだ匡胤はあっさりと答えた。
 「縁だな」
 「またそれか。 知らぬ」
 綾小路匡胤、 まだ、 独身である。
 そこへ、 今度右京(青龍) 現われた。
 座した右京は、 
 「匡胤、 玄武の行方だが、 船岡山を捜したが、 狸や鹿が居る程度でな」
 匡胤、 几帳越しで居間に座すと答えた。
 「案ずるな右京、 玄武とて、 亀の姿で居る訳ではあるまい。 都に居るのは確かだ」
 先に居間に居た虎景(白虎) は、 複雑な表情を浮かべ、
 「玄武が揃わぬと、 道焔(どうえん) が万一動いた時、 どうなるかだ。 あの男、 この都を意のままに操ろうと何を企んでいるか解らぬぞ」
 目を伏せた匡胤。
 「その道焔に、 宮中で会ったばかりでな。 近々、 奴は何か起こすぞ」
 道焔、 匡胤と同じ陰陽師だが、 道焔は民間陰陽師で得体の知れない雰囲気を醸し出していた。
 虎景、 靖秀、 右京はとりあえず表向き匡胤の屋敷に住まう民間陰陽師である。
 そこへ騒々しい程にバタバタと靖秀が現われた。
 「匡胤、 右大臣子息から先程依頼あった」
 匡胤、 溜息をついた。
 「やれやれ。 次は右大臣の息子とは。 時雅(ときまさ) か何だ? どこぞに住まう姫に恋でもしたか」
 「いや、 それが姫は姫でも、 恋の話じゃない。 夜な夜な宮廷の周りを徘徊する姫の話だ」
 「父子揃い同じ依頼か。 その話なら、 先程為康(ためやす) 様から聞いた。 口篭ってなぜか全て話そうとしない。 何かあるだろう。 面白そうな姫だ。 時雅を探れば何か知っているであろう」
 翌日、 匡胤は時雅から詳しい話を知る為に右京、 虎景、 靖秀を連れ、 右大臣・源 為康邸に向かった。

右大臣・為康邸

 伽羅という高価な香木を焚き染め、 豪華な屋敷である。
 源為康邸に来た貴族達は、 匡胤らを見てあからさまに軽蔑と嫌悪感を露にした。
 「匡胤、 そなた右大臣様の屋敷に何用か? しかも、 卑しい者を又三人も供にするとは」
 ギラリと目を光らせる虎景。
 「卑しい者だと?」
 「そなたらの目じゃ、 麻呂の瞳と違う」
 険しい空気を遮った声がした。 時雅だった。 上品な若い男で爽やかな色の直衣を纏って居た。
 「用が有ったから。 さぁ匡胤殿、 こちらへ」
 時雅に部屋へ案内された匡胤らは豪華な部屋に座した。 高価な調度品で一杯だった。
 青年らしい声で時雅は虎景らに謝った。
 「悪かったな、 何だか嫌な思いさせたね」
 小声で独り言を呟いた虎景。
 「若造、 そなたに謝られても仕方無かろう」
 咳払いする右京。
 「虎景、 時雅様に失礼であろう」
 普通なら陰陽師は虎景のようにぞんざいな口調でいられない。
 時雅と言えば右大臣の息子、 丁寧な敬語を使う。 
 実はこの虎景、 最年長で最も年上だが一見、 若い。
 ここに出る陰陽師は、 皆、 年齢不詳である。
 先に話を出した匡胤は、 時雅に尋ねた。
 「早速お話を。 時雅様、 夜な夜な宮廷の周りを徘徊する姫についてですが、 何か、 お心に覚えありますか?」
 時雅、 瞳を少しだけ曇らせた。
 「十六夜と言って、 遠い親戚らしい姫でね。 今は五条の堀川に一人住んでいる。 
 観月で舞を披露した彼女を何度か」
 「なるほど遠い親戚でしたか。 右大臣さまが口篭る訳です」
 「色々あって、 後ろ盾もいない。 彼女は地位も身分も低い姫でね。 宮中に女房として迎える訳にも。 匡胤殿、 宮廷の周りを徘徊する十六夜は、 もしや、 恨んでいるから、 ではあるまいか。 なにしろ強い姫で 検非違使とて十六夜を捕まえられないのだ」
 目を閉じ、 匡胤は時雅の話を真剣に聞いて居た。
 「十六夜殿は、 何者かにより、 呪で操られて」
 「まことか?! 匡胤殿」
 匡胤、確信をした表情で続けた。
 「はい。 詳しい人物は特定できかねますが。 今宵、 宮廷周辺を我々で探索します」
 「私も同行する構わないかい?」
 「大丈夫ですか? 時雅様」
 そこへ今迄静かに居た靖秀が口を挟む。
 「足手まといになるぞ、 遊びじゃないのだ」
 そこへ、 冷静な右京は窘めた。
 「靖秀止めぬか、 言葉を慎め」
 朱雀である靖秀、 一言多い。

 時雅、 真剣な目で答えた。
 「足手まといにならぬ。 約束だ」

彷徨える舞姫

 その夜、 朱雀門付近を警護する匡胤らと合流する時雅。
 時雅、 舎人と共に立派な車(牛車) で来た。
 不穏な雰囲気を先程から感じとった匡胤は、 時雅に隠れる様に促せた。 とてつもない大きな妖気。 現われたか。
 匡胤達目前に現われた美しい姫は、 豪華な、 十二単を纏って居た。
 目が虚ろで、 明らかに何者かに操られていた。
 「ふふふふふ」
 姫は、 不敵な笑いを浮かべたかと思えば、 匡胤、 右京、 虎景、 靖秀に素早く襲い掛かって居た。
 匡胤に襲い掛かった時、 危険だと判断した靖秀は姫の力を封印する為呪文を唱えたが、 匡胤から声が。
 「よせ靖秀っ、 玄武だ」
 「何?!」
 驚いた靖秀、 後へ飛んだ。
 躊躇った虎景。
 「なるほどな、 馬鹿デカイ妖気だ」
 匡胤、 襲い掛かる美しい姫の攻撃かわすと姫の背後に回り腕を掴み、 静かに姫の耳元で呪文を囁いた。
 浸透する様に姫は体勢を崩し、 前に倒れこんだところを匡胤は抱き抱えて居た。
 「少々手荒だったな」
 一部始終を塀の隙間から覗いた時雅は震えながら現われた。
 「匡胤殿! 大丈夫か? 十六夜どうなった?」
 「大丈夫です。 十六夜殿は操られただけで既に呪を解いておりまする」
 「誰だ? 十六夜に。 検討はついて居るんだろう? 匡胤殿」
 周囲にどんよりする嫌な気配を感じた匡胤。
 「ここは非常に危ない所。 今はとりあえず、 私の屋敷へ行きましょう」
 時雅、 十六夜を車に乗せ、 匡胤の屋敷に向かった。 夜の都とは非常に危険だった。 時雅の舎人は松明翳す。
 歩く一同。 牛の蹄音に車の車輪音だけ闇に響いた。

匡胤邸

 客間に褥を準備、 十六夜を眠らせた。
 隣接する居間で一同は座った。
 御簾越しで篝火揺れる。
 先に言葉を話す時雅。
 「で、 匡胤殿、 どうなんだい?」
 「時雅様、 まず、 貴方様と十六夜殿は正確な御血縁関係では無いのではありませぬか?」
 「あぁ。 正式な血縁関係ではないんだ。 だが、 従兄弟の様に十六夜を心配している」
 「確かめて安堵しました。 時雅様、 十六夜殿は玄武の星を背負っておられまする」
 驚いた時雅は、 縋りたいと言う様に覗きこんでいた。
 「何と」
 続ける匡胤。
 「時雅様を信じて内情を打ち明けます。 ここに居る私達陰陽師は、 それぞれに五芒星のさだめを背負って
おりまする。 正確に言えば陰陽道、 陰陽五行説を。
 黄龍は私、 青龍は右京、 白虎は虎景、 それに靖秀を朱雀。 十二天将。
 あとひとり、 玄武揃わずに五芒星になりませぬ。 それゆえ、 玄武である十六夜殿の存在が必要なのでございます」
 「では匡胤殿、 玄武である十六夜を」
 「はい。 時雅様、 最近怨霊にて都で様々な騒ぎを御存知かと思われまする。 その発端とは道焔の仕業にございます。
 最も、 十六夜殿の意思を最優先に」
 時雅、 一旦沈黙をする。 陰陽師同士の争いに口を挟めなかった。
 道焔と言う陰陽師を何度か宮廷で見掛けた時雅は、 道焔の存在を知って居た。
 眠って居た十六夜は目を覚まし、 匡胤の傍に近付いた。
 「匡胤様、 貴方様に助けられなければ、 ずっと道焔に操られた人形にございました。
 ありがとうございます。 話を全部今、 聞いてしまい」
 時雅、 十六夜に近付いた。
 「十六夜、 大丈夫かい?」
 しっかりと匡胤を見た十六夜は、 匡胤邸でこれから玄武として生きる決意をした。
 堅苦しさを感じた時雅は匡胤に提案をした。
 「匡胤、 敬語を使わないで欲しい。 これから何かと世話になる様だ。 時雅でいい」
 戸惑う匡胤。 仮にも右大臣子息だった為である。
 「あぁ。 解った」
 そんな頃、 古びた道焔の屋敷では
 「匡胤め、 とうとう五芒星となったか」
 道焔呟いた言葉に反応する兼斬(けんざん) は、 道焔の仲間、 道焔とその仲間は匡胤らと同じで他に、 冷酷な悦冷(えつれい)、 雷雲(らいうん)、 豪快な力埜(りきや)、 どれも強い。 十二月将の星をそれぞれに背負って居た。
 「五芒星になったところで俺達十二月将に勝てないさ」

第二章
許されぬ恋

 匡胤邸
 それからの十六夜は、 匡胤らと一緒に暮らし食事や掃除など姫と思えない程こなす様になって居た。
 それと言うのも匡胤に救われた十六夜は匡胤に密かな恋心を抱いたからだった。
 十二天将・玄武。 許されない恋。
 まだ十六夜には任務を行わせていない。
 ひとつ、 匡胤にはまだ十六夜から確かめないといけない重大なことがあったからだった。
 陰陽寮へ出仕に出掛ける匡胤に同行したり、 陰陽師が行う依頼を受けたりするのは右京、 虎景、 靖秀だけだった。
 この日、 陰陽寮へ付いて行った右京は陰陽寮の外で待っていると、 陰陽頭(おんみょうのかみ) は、 匡胤に対する愚痴を零していた。
 「匡胤、 そなた優れた陰陽師なのにあまり仕事をせぬ。 これから忙しくなると言うのになぜじゃ」
 聞いていた右京、 苦笑い。
 道焔らと対立関係、 裏の仕事で忙しい為である。
 さすがに屋敷に置き去りにされる十六夜は自分は本当に玄武なのかどうか気になり始めた。
 そしてある日夜
 思いあまり縁側で、 珍しく、 ぼんやりする本人に聞いてしまった。
 「匡胤さま、 私は本当に玄武で、 必要でございますか?」
 蝙蝠(かわほり) を畳んだ匡胤はどうしたのか躊躇った。
 「なにゆえ?」
 「私は本当に玄武なのでございますか?」
 「十六夜、 そなたは今迄姫で陰陽師の仕事を行った事などなかろう。 とりあえず今はこれで良いのだが。 納得をする筈も無い目をしているな。 私らと共に行動する為には幾つかそなたにしなければならないことがある」
 「匡胤さま、 何でも」
 真剣な目で見る十六夜に躊躇う匡胤だったが、
 「解った。 私の部屋へ」
 部屋に着いた匡胤は、 右京らに部屋に来るなと人払いをすると御簾を全部下ろして十六夜に聞いていた。
 「そなたの胸に玄武である証がある筈だ」
 文様。 確かに十六夜には生まれついた小さな薄い文様があった。
 若くまだ未婚である十六夜には、 男である匡胤に聞かれると恥ずかしい話である。
 右京は背中に、 虎景は顔を除いた全身に縞文様があり、 靖秀は腕に翼の形をした文様。
 青龍、 白虎、 朱雀、 玄武とそれぞれに宿命を持った証。



  タチヨミ版はここまでとなります。


平安京陰陽師伝

2016年8月12日 発行 初版

著  者:望月保乃華
発  行:望月保乃華出版

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望月保乃華

平安京や陰陽師、ヴァンパイアなどファンタジーNLでイラスト小説漫画等描いています女性向、乙女向

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