── 大人になって、いじめっ子と再び出会った。
〈小説〉
僕の趣味は、趣味と言うには深刻すぎると自分でも思うが、復讐計画を作ることである。
相手は、山岸涼。十年前、中学生のころ、僕の人格をズタズタにした男だ。
いまだに当時の屈辱を思い出し、夜中に飛び起きることがある。そんなときはパソコンに向かい、山岸の殺害計画を作る。
絞殺。
撲殺。
扼殺。
焼殺。
計画のテキストファイルは、百五十を越えた。
実行したことは、ない。
僕にできることは悶々と怨念をキーボードに叩きつけることばかりだった。計画は何の意味もない。それは判っていた。
虚しい計画を徹夜で作った朝、往復はがきが届いていた。同窓会の案内だった。
幹事は、山岸涼。
はがきを破り捨てようと思った。
しかし、十年も山岸の記憶に縛られ続けていながら、僕にはチンケなプライドがあった。
山岸ごときに人生を左右されたくない。
僕は、同窓会に出ることに決めた。
忌まわしい記憶に、僕は勝てるのか。
一 状 況
山岸は自宅において入浴中
二 構 想
山岸を速やかに死に至らしめる
三 理 由
じ後の処理時間をつとめて長く得るため、殺害に要する時間をできる限り短縮する
四 細部実施要領
(一)刺殺(別紙第一)
(二)絞殺(別紙第二)
(三)焼殺(別紙第三)
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暗い自室でキーボードの打ちこみに疲れた僕は、指を揉んで軽く伸びをした。
上書き保存してからインターネットブラウザを開き、ブックマークをダブルクリックする。現れたのは、実際に復讐をおこなったという人たちが経験談を書きこんでいるサイトだった。
新着記事をひと通り流し読みしてから、僕はもうひとつブックマークを開く。
サイト内のある記事が表示される。それは、復讐にすべてを捧げた男の物語だった。ニュースでは「怨恨による犯罪」としか報道されなかった、現代の復讐譚。
「彼」は中学生のときに残酷ないじめを受け、卒業後の二十年を復讐に費やし、そのため十五年を刑務所の中で過ごすことになった。
その復讐は、彼の受けたいじめの苛烈さを物語っている。
家に放火。妻や幼い娘を強姦。襲撃。
いじめっ子たちは命を失うか、回復不能の身体障害及び精神障害を負った。
「彼」は、復讐をすべて遂げたあとに自殺した。
なぜ、「彼」は死を選んだのか。確かに人生は壊れてしまったが、屈辱で眠れない夜は終わったのではなかったのか。
何十回と読んだその記事を閉じて、深くため息をつく。
僕も中学生時代に、山岸涼から受けた屈辱の日々を、十年が経ち就職した今も忘れることができない。
毎晩布団の中で思い出し、顎の骨が音をたてるほど歯ぎしりする。奪われた日々の対価を、あらゆる方法で払わせてやりたいと思っていた。
※この作品のサンプルはここまでです。続いて作品情報&著者情報をご覧ください。
初めまして、原田修明です。本名です。平成二十三年六月から本格的に小説を書き始めました。小さな賞を別名義で年に一回ほどのペースで入賞していますが、まだ長編新人賞受賞の経験はありません。
平成二十八年の三月から、Kindleダイレクトパブリッシング(KDP)で自作小説の販売を始めました。表紙をクラウドソーシングのサイトで募集していますが、自分の作品をもとに質の高い表紙を描いてもらうのは興奮します。
得意分野というのは特になく、そのとき読みたいものを書いています。なので、今まで書き上げた作品は、格闘、中世ファンタジー、エロジュブナイル、バイオレンスSF、異世界ファンタジー、平安ファンタジー、人間性の限界に挑んだエロ小説などがあります。現代が舞台である普通の小説もたくさんあります。
本作品『いじめられっ子の恩讐』は普通の小説のひとつです。きっかけとしては、あるとき制作手順をシステマティックにすればもっと効率よく書けるのではないかと思い、ひとりブレインストーミングによるアイデア出しから自分なりの手順で書いてみた初の作品です。作品の中に自分の思いはこめていますが、カオスのスープから物語の核を取り出して肉づけしたものであり、最初からこれを書こうと思って書いたものではありません。
今後の活動ですが、自分が読みたい理想の物語は、自分で書く以外に存在しないことに気づいてしまったので、長編新人賞の獲得よりはKDP等での発表にシフトを置いていきたいと思います。目標は、長編を年に二~三作のペースで書いていくことです。
最後になりましたが、僕が楽しんだ物語を皆さんも楽しんでもらえれば幸いです。ほかにもKDPで出していますので、ぜひ探して買ってください。
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2016年8月14日 発行 初版
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