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keisuke tamura

coil books



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 目 次


まえがき


Ⅰ 受精 inseminate


Ⅱ 求愛 make advances


Ⅲ 感覚 a sense


Ⅳ 混乱 create confusion


Ⅴ 虚無 live a lie


Ⅵ 変化 a change


Ⅶ 邂逅 reunion


あとがき

まえがき

きっと僕らは
一瞬輝いた
皆気付かないうちに
きっと輝いた
輝き続けることは出来なくても
転がり続けることは出来るだろう


心に傷を持つ者たちへ
そして両親から
暖めて貰ったことを
思い出すために






Ⅰ 受精 inseminate

受精(プロローグ)

枝葉を伸ばした木々は
やがて実を結ぶ
その実は風に乗って
大地に根を下ろす
それは誰にも止められない
神の業

受胎

僕は未だ何も知らない
暖かく居心地の良い
そしてきっと戻ることの出来ない
安住の地
でも時折聞こえる諠譟
僕は気に留めることもなく
また眠りにつく

分娩

産声をあげて
大地に赴く
全ては光の束で
全てが輝いているように見えて
僕は未だ影を知らない



浮かんでは消える
水泡のように
僕らは命を授かり
時を刻み
浮遊する

壊れた階段

自分で歩こうとする
転びながら傷つき
差し伸べる母の手は冷たい
空はどんよりと曇っていて
僕は壊れた階段を下り始める



母の翳す手は
僕の行く先を遮る
僕は食卓に付いて
食べ物を残す
これ以上必要ない
けれど
本当は足りない

母性

愛って何ですか
僕は自由でいたいのです
愛って何ですか
僕は知りたいのです
愛って何ですか
今の僕には何も見えないのです
あなたは何がしたいのですか



ぽとりぽとりと
雫が垂れる様に
その一つ一つの感情に亀裂を感じ
それは蝕むように僕を苦しめる
その一つ一つの愛情に憎悪を感じ
それは蝕むように僕を孤立させる
その一つ一つの行為から逃れる為に
そして何時しか
僕は自分の感情を麻痺させてしまう

記憶

微かな手触りを寄せ集めても
埋まらない
一時の夢を思い出しても
懐くことの出来ない
そんな曖昧な記憶
それが僕の記憶
それが父への想い

金の卵

様々な人から愛を受けたように
見えた鶏は
金の卵を産み落とす
今日も産み落とす
明日も産み落とす
ある日
卵を割ってみた
その時
気付いた
中身は空だった

崩壊

日に日に蝕まれていく心
狂れた目で僕を見つめる
ありふれた日常が
怪奇に染まる
母は向こう側に行ってしまった
藪陰に迷い込み
母は違う世界に行ってしまった

真っ黒な太陽

母はその視界に広がる幻覚を
母はその心に映る幻想を
過去に重ねて
今を見失う
空には燦々と輝く
真っ黒な太陽

遺書

一通の手紙を残して
母は逝ってしまった
残された者たちの悲痛も知らず
帰らぬ人となった

欠落

あなたの愛は
あなたの欠落
あなたの行為は
あなたの欠落
それを埋めるのは
僕の欠落






Ⅱ 求愛 make advances

すき

僕は三色菫がすきで
僕は散歩がすきで
僕は子どもの落書きがすきで
僕はずっと君のことがすきで
だから今日もそっと
庭に種を蒔くんだよ
明日もそっと
庭に種を蒔くんだよ

たんぽぽの種

たんぽぽの種が空を舞う
自由気ままに空を舞う
小さな種は
僕の希望
小さな種は
僕自身
たんぽぽの種が空を舞う

言葉

言葉は少し足りないくらいがいい
君の仕種が見たいから
言葉は少し足りないくらいでいい
君を信じているから

子宮

愛は涙
涙は頬を伝わり
子宮に届く
僕らは慰め合う訳でもなく
でもお互いを求め合い
また涙を流す



会ったことのない人を好きになりました
会ったことのない人を大好きになりました
僕が震災のショックで苦しんでいたとき
彼女はずっと支えてくれました
彼女を愛し始めたら
彼女は嘘をつくようになりました
全てを受け入れたとき
彼女は居なくなりました

差異

僕は人と違うから
僕は僕で居られる
君と僕は違うから
僕は君が好き

歩み

僕は正しいと思っていて
君も同じことを思っている
僕は真っ直ぐには歩けないけれど
君はそれを受け入れてくれる
君は僕を知っているようで
実は何も知らない
そんな二人が同じ道を歩む
重なるようで離れている
そんな二人が同じ道を歩む
何時までも同じ道を歩む

慕情

零れないように
そっと
手の平で包む
そんなささやかな
小さな想い



空が泣いている
一雫の雨は大地に恵みを与え
草木に命を灯す
夢でみた景色
夢にみた想い






Ⅲ 感覚 a sense



多かれ少なかれ
誰しも心に傷を持っている
だから雨の日も傘を差さない
雨と涙の区別が付かないから

永遠

すれ違ったり
交わったり
ほんの一瞬
仲良くなって
ながい道のりでみれば
通りすがり
ながい道のりでみれば
それが永遠

人間の可能性

涙が溢れてどうしようもないとき
解らないとき
道が見えないとき
絶望とか悲しみとか苦しみとか
越えてしまったとき
そのとき
そのときだけ
触れられる領域
一瞬
そして
永遠

恐怖心

夢の中で変わらない自分
夢の中で恐れている自分
夢の中まで
心の奥まで
あと少し
もう少し

生と死

生は
感じること
死は
目を伏せること



鏡には映らない
君の心
鏡には映らない
僕の気持ち
鏡に映るのは
僕たちの影

空の向こう側

空の向こう側を見てみたい
きっと僕の知らない世界が広がっていて
僕は少し自分の世界に辟易していて
野原で仰向けになって
流れる雲を眺める
だけど本当は知っているんだ
空の向こう側を

自己

生活に追われ
夢を失うのかも知れない
夢を追い続け
己を見失ってしまうのかも知れない
僕は布団の中にうずくまり
希望と絶望の狭間で
そして己を欺く

真実

小降りだった雨が
本降りに変わる
やがてそれは濁流となり
海へと流れ込む
僕が知りたいのは真実だった
海に呑み込まれ
僕は又見失ってしまった
でもそれこそが真実なのかも知れない

夜空

今日別れて
また明日出逢う
太陽が昇り
やがて沈むように
僕らが気付かぬうちに
地球は一回りして
夜空に星も瞬く






Ⅳ 混乱 create confusion

がらくたで出来た城

僕はがらくたで出来た城に住んでいる
もう拾えない言葉と
失った手触り
だけど素敵
とっても素敵
君の頭の中と同じだよ

ぐるぐる

君は回転
僕は螺旋
目が回って
目が回って
立ち止まる
いつの間にか
君は居なくなって
僕は近くの公園で
子供たちと戯れる

もうすぐ遅いさくらの咲く季節

水に落ちた蝉はいずれ土に帰るだろう
騒ぎ立てた小鳥達は森に帰るだろう
道に迷ったねずみも居場所を見つけるだろう
災い
悲痛
叫び

もうすぐ遅いさくらの咲く季節
もうすぐ遅いさくらの咲く季節
もうすぐ遅いさくらの咲く季節
もうすぐ
もうすぐ
もうすぐ



愛も悲哀も
受け取ることが出来ない
それが今の僕
僕の箱には
底がない

狂った時計

時計が止まらないように
毎日ネジを巻くんだ
時計を止めないように
毎日懸命なんだ
だって困るだろ
夜に陽が昇ったら

記憶の錯誤

母の幻影を目にする
幻想なのだろうか
家庭は平和で
皆で食卓を囲んでいる



哀しい唄が聞きたい
世界はたぶんずっと平和で
皆はたぶんもっと優しくて
哀しい唄が聞きたい
世界はたぶん喜びに満ちあふれていて
皆はたぶん幸せに暮らしていて
哀しい唄が聞きたい
たとえ僕の右手が虹に届かなくても
哀しい唄が聞きたい

不安

自分で自分と向き合い
自分で自分に背く
心の奥底にある不安
守りきれない自分



本当のことは言わない
君の耳元で囁いた言葉は嘘
本当のことを言いたい
僕はいつも自分の気持ちを隠していて
だからそっと君だけに
だけどまた僕は嘘をつく

目覚まし時計

目覚まし時計が鳴っている
夜だけれど鳴っている
朝を告げる筈の目覚まし時計が夜に鳴っている
だけど僕は止めることをしない
明日また鳴るだろうから






Ⅴ 虚無 live a lie

世界のおわり

僕は君にしがみついて
ポケットの中をすべてぶちまけてしまった

何があるの
何が欲しい

何もないし
何も要らない

持っているもの
一つだけ
それだけ

潮汐

潮が引くと
虚ろに感じ
潮が満ちて
解放される
そんな気がして
浜辺を歩いている
日々
浜辺を歩いている

陽炎

僕が子供から大人になるとき忘れて来たもの
僕が気づかずに探していたもの
君が僕と出逢う前に大切にしていたもの
君が立ち去った後に残ったもの

年輪

歳月を掛けて費やした日々は
幾重にも重なり
でもその中心はきっと変わらない
だけど僕は衣を纏い
脱ぎ捨てる勇気もない

鉄格子

思うままに生きているつもりで
僕は自分の発した言葉に幻滅する
僕は逃れられない
血の滴る鉄格子の中で
僕は呼吸を続ける

虚構

舞台で光を浴びたい
虚構という光を浴びたい
物語には限界がなくて
夢想した事柄では足りず
今日も僕は窓を閉め
明日の物語を作り上げる



彼は虚のなかに生きていて
ときどきギターを奏でる
彼は虚のなかに生きていて
ときどき唄をうたう
彼は虚のなかに生きていて
ときどき夢を語る
彼は虚のなかに生きていて
ときどきわらい声をあげる
彼は虚のなかに生きていて
彼は虚のなかに生きていて
彼は虚のなかに生きていて
彼は現実を生きる

突起

光を束ねて
母の許へ
光を包んで
不毛な地へ
だけど僕は
だから僕は
此処に佇む

カメラアイ

シャッターを下ろした瞬間
刻まれる世界
今まで目を伏せていた
現実の世界
僕は少し後退りして
またシャッターを下ろす



餌を求める雛達が
口を開けて
親鳥を待っている
何時までも待っている
朽ち果てて
滅び堕ちても
その口先は
空に向いている






Ⅵ 変化 a change

欠片

僕は欠片
自我が飛び散り
宇宙を彷徨う
欠片
もう寄せ集める必要はない
その断片にこそ意味があるから
だから欠片

交錯

もしもその道を曲がらなかったら
優しい笑顔に出会わなかったかも知れない
もしもそこで立ち止まらなかったら
夜空に輝く星に気付かなかったかも知れない
もしも君に手紙を書かなかったら
街角の花屋で菫の鉢植えを買うこともなかったかも知れない
昨日と今日と明日
僕らの思惑は交錯するけれど
それを気に留めることもなく
今夜も疲れて眠りにつくだろう

輪廻

どんな言葉も取っておく
花のような言葉も
枯れ葉のような言葉も
取っておく
いずれ土に帰って
また咲き誇る

腐った魚

昔のことはよく覚えているようで
だけど記憶は曖昧で
僕は腐った魚を釣り上げる
骨身は崩れ落ちてはいるが
果てることのないその目は僕を見つめ
だから記憶に頼ることもなく
此処から退くこともない

欲望

本当に欲しいもの
焦がれて我を忘れるが
僕は知っているんだ
本当に欲しいもの
最初から自分で持っているんだよ

前進

自分の心から湧き出た言葉
自分の目で見た感覚
自分で触れた感触
僕は人と少しずれていて
だからと言って臆する必要もなく
それが僕の進むべき道

雪道

降り頻る雪のなか
僕は歩いている
視界は遮られ
だけど進むべき道は知っていて
そして気づくと足跡は雪に覆われている

世界

俯いて歩けば
長く伸びる影が
顔を上げれば
ほら笑顔が
僕らは皆同じところに居て
僕らは皆違う世界を見ている

笑顔

何もないから嬉しいんだよ
君の笑顔が
きっと君も何もないんだろうね
たぶん何も持っていないから
僕たちは希望を忘れた訳ではないけれど
でも何もないから嬉しいんだよ

小さくて大きな存在

僕たちは小さくて
小さな宇宙で
大きな存在
きっと君のため息に隠れてしまう存在
それでも大きな存在



膝の破けたジーンズで
繁華街でも歩こうか
もう歳だろ
そうさ歳だよ
だから君には理解されないのかも知れない
だけど君には世界が見えないんだよ



君のことを心から想うなら
本当のことは言えないだろう
愛は君を傷つける
それを拭うのも
きっと愛

紆余曲折

何れ分ることを
早急に知る必要はないだろう
皆それぞれの旅路を歩いていて
だけど僕たちは
世上という巨大な渦に巻き込まれ
時に自分を見失うけれど
何れ分ることを
今日求める必要もない






Ⅶ 邂逅 reunion

月光

陽が沈み
月の光が差し込む
僕は月明かりに照らされ
いつも散歩をする
僕は影を追っていて
いつも自分の影を追っていて
僕は光に気付かない

月輪

地平線から昇る月に
悔恨の情を預け
僕は想いを解き放つ

落ち葉

風がやんだ
ずっと吹いていた
風がやんだ
からからに渇いていた
風がやんだ
凍てつくような
風がやんだ
残ったのは
落ち葉一枚

光と影

愛と恐れ
出逢いと別れ
喜びと悲しみ
始まりと終わり
完全と不足
変化と停滞
太陽と月
朝と夜
生と死
僕はいつも遠くばかり見ていて
だから光には何処までも届かず
その影は気が遠くなる程長いものだった

清閑

何かが産まれそうな気がして
息を呑み込む
静寂は
僕の心にある
雑踏の中でも
見失うことはない
僕は生きている

邂逅

もう忘れたのに
もう忘れた筈なのに
人混みであふれた街角で
ふと見つけた面影
朧げながら
記憶の奥を探ると
それはとても懐かしく
痛みであり
愛でもある
そして明日への始まりでもある



大地に根を張り
岩をも砕く
樹のような存在
見守られて
育った
小さな幹



あなたが花ならば
僕は此処に佇んで
空でも見上げようか
あなたが花ならば
だから僕はただ
空でも見上げようか
あなたが花ならば
凍てつく大地も
灼熱の太陽も
吹き曝しのあの丘も
全て知っているのだろう

受精(エピローグ)

枝は幾つもあって
そこには必ず芽が出るだろう
やがてその芽は育ち
花が咲くのだろう
僕らは何処かへ辿り着くかも知れないが
また歩き出さなければならない
歩き続けなければならない

あとがき

最後まで私の拙い表現にお付き合い下さり、ありがとうございます。

私の制作はアート・セラピーから始まりました。

商業デザインを経験した後、私はグラフィックデザイナーとしての道を諦めたくはありませんでした。
31歳で精神疾患を患い、それでも書籍編集の仕事に就き、長い休息を経た後、40歳で初めてグラフィックデザイナーとしての教育を受けさせて貰いました。幸い人脈に恵まれ、お客様から仕事を任せて頂き、またアフェリエイト・サイトの制作等、短い期間ではありましたが、充実した日々を送ることが出来ました。

ネット上でのコンペやTシャツ等のデザイン公募には参加してはいましたが、モチベーションは下がる一方でした。

この頃からソーシャル・ネットワーキング・サービスを始めるようになり、あるきっかけから、最低限の手法で何かを表現しようと考え始めました。

自分を見つめ、作品を制作することは、作者の心を深く癒すことが出来ます。

デザインをした後、作品に言葉を添える様になりました。だんだんと言葉は進化して、詩という形になりました。

ある日、自分の作った物を並べてみると、一つのストーリーになっていることに気付きました。そして、それは自分の歩み以外の何物でもないということ。自叙伝であり、何か普遍的なものを表現したつもりです。

私の作品から心に残るものが一つでもあれば、嬉しく思います。

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2016年10月26日 発行 初版

著  者:keisuke tamura
発  行:coil books

bb_B_00146990
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