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8番になった8日間

工藤ダイキ

NPO法人日本独立作家同盟



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  この本はタチヨミ版です。

8番になった8日間

 目 次

一 



 手錠は存外、軽かった。

 あの日、ボクはビールを片手に、サーモンの刺身を食べていた……はずなんだけど。今、ボクの両手は手錠で繋がれ、目の前にいたはずの友人は知らない男性に代わっている。
 あれ、ここはどこ……?  六畳ほどの殺風景な部屋。家具はパイプ椅子と汚れた机。
 どこかで見たことがある気がする。……どこ、だっけ? 

「意識は戻ったか」
 目の前の見知らぬ男性がボクに問う。図太い声色だ。肩幅は広く、身体はガッチリしている。表情は険しいが、服装はどこか間が抜けしている。まるで釣り人のような格好だ。
 彼は大きく息を吐いた後、ボクの目を真っ直ぐ見つめながら、「それでは今から取り調べを始めます」と、事務的なイントネーションで言葉を発した。
 トリシラベ……ってなんだっけ。

「なんで、パトカーの中で暴れたんだ」
「居酒屋で何杯飲んだんだ。正直に言え」
「居酒屋で口論したことは覚えているのか」
 絶え間なく質問が飛んでくる。
「ごめんなさい。分かりません」
 ボクは素直に答える。しかし、質疑応答タイムは終わる気配を見せない。一時間が経ち、二時間が経過した。目の前にいる大柄の男性の顔は、相変わらず険しい。
彼は机の上に一枚の書面を放り投げるように置いた。
 そこには罪状、
「公務執行妨害・暴行罪」
 と書かれている。 
 パトカーの中で警察官に頭突きなどの危害を加えたため、二十三時十二分に現行犯逮捕……と書かれている。えーと……、どうやらボクは逮捕されたみたいだ。「ああ。だからさっきから頭が殴られたように痛いのか」。自身の体調不良の原因が、肌感覚で分かった気がした。人生の歯車が、ギシッギシッと狂い始めた音が、耳を澄まさなくても聞こえくる。



  タチヨミ版はここまでとなります。


8番になった8日間

2017年2月5日 発行 初版

著  者:工藤 ダイキ
編  集:阿曽 淳史
アートディレクター:松野 美穂
表紙デザイン:亀山 鶴子
表紙イラスト:有田 満弘
発  行:NPO法人日本独立作家同盟

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