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この本はタチヨミ版です。
最近、娘にもようやく私の言葉が通じたものかと思っていたのに。
せっかく、女らしさを取り戻した娘が、かつての粗暴な態度に逆戻りしている。
幼稚園の頃はあんなに可愛らしかったのに、
小学校の頃から赤いランドセルを嫌がり、
中学校の頃にはスカートを穿くことすら拒み、
高校では反抗期の至りからか、女だてらに〝オレ〟などと名乗るようになった。
そんな娘が――ようやく大人としての自覚が芽生えてきたのだろう。
一年前から〝私〟と自称し、
スカートをはき、
小さなハンドバッグを持ち歩くようになり、
それまでの過ちを、急速に巻き戻していた。
というのに……
「父さん! 私だってこんなに……女らしいんだよ!?」
彼氏とやらを紹介したいと言って、家に連れてきたはずの娘が……
父親である私の前で、一糸纏わぬ素っ裸になろうとは!?
***
思い起こせば、当時のオレは幼稚なだけだったのかもしれない。
だとしても、オレはアイツが許せなかった。
こっちが家で料理を焦がしてオヤジに怒鳴られている時、
アイツは綺麗な卵焼きを焼いていた。
こっちが針で指に血の玉を膨らませている時、
アイツは可愛らしい花模様を縫い付けていた。
オレがどんなに苦しんでも手に入れられないものを、
アイツは何の苦もなく身に着けていた。
それが、どうしても許せなくて――
登校一番、ヤツの背中を見つけて飛びかかる。
「よーぅ、大倉ちゃん! 今日も可愛らしいじゃねーかァ」
すると、貧弱男は簡単に廊下に組み伏せられてしまうのだった。
「き……菊川さん、やめてよぅ……僕、僕、男の子なんだから!」
タチヨミ版はここまでとなります。
2017年2月5日 発行 初版
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