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「はいカット、お疲れ様でした」
「お疲れ様でーす。んじゃ撤収しますか」
二〇十六年のクリスマスに放送予定のローカル旅番組、「温泉ぐるり旅」の収録が終わった。監督の号令を合図に、周囲にいた数人のスタッフが一斉に片づけをはじめる。
「矢田くんも初のリポーターお疲れ様。声も張っててコメントも的確だったし、良かったよ」
「あざっす!!」
番組のテーマは「ーイケメン君が行くー クリスマスに夢のハーレム温泉」。放送は十二月二十五日で、全国各地の混浴風呂で美女と巡り合う、ドラマ仕立ての旅番組だ。女性は半分がサクラで、現役モデルの奇麗なお姉さんばかり。
十月初旬から二日間、スケジュールを抑えられての全国行脚。ハイエースを改造したロケ車で、地方のホテルを転々とする生活は正直キツかったが、仕事自体は観光気分で楽だった。
「このあと、ドラマ撮りだって? すごい人気だなあ矢田くんは」
「皆さんのおかげで、なんとか」
「それはそうと、あの噂はホントなの?」
「は?」
「週刊誌のあの記事だよ。矢田くんゲイビ男優なんかやってたの?」
この話題、ロケ中も耳にタコができるくらい遠回しに聞かれたが、業界人はいい加減しつこい。
「ああ。あれはマジで人違いですって。俺自身まったく身に覚えもないし、そういう動画も見たことないし」
(コンニャロウ、あんだけ収録中にカマかけといてまだ聞くか!)
「ええー、そうなの。一度は見といた方がいいよお。写真は白黒だったけどさあ、僕から見てもすごい似てたから」
「ははは。嫌だなあ、そんな根も葉もない噂を信じないでくださいよ。それに俺、普通に女の子が好きなんで」
一昨年前、気まぐれで参加した『美リーマンコンテスト』でグランプリに選ばれた事で、矢田の環境は一変した。それまではごく普通の会社員。こんな風に人前に出ることもなかったし、誰かから注目を集めた経験もなかった。自分の容姿がそんなに魅力的だったとも、考えたことがなかった。
ただ、大学時代の友人たちとゲイ動画サイトを運営し、こっそりと投稿サイトにアップロードしていた事は紛れも無い事実であった。
類似作品が吐いて捨てるほどある業界だから、さほど気にしていなかったが。最近になって、その黒歴史に首を絞められている。
ことの発端は半年前。とある人気ブロガーが、一本のハメ撮り動画を紹介した。
内容はホストがお隣さんに襲われる定番もの。
それはまさしく、矢田が過去に関わっていたゲイ動画で間違いなかった。当時は仲間内でも『神回』と話題になったネタで、隠れテーマが『タチ卒業式』。
ビッチのくせに男嫌いなメンバー、沢田詩央を、もう一度男に目覚めさせようというもの。
後輩の叶と矢田に代わる代わる抱かれた詩央は、とにかくすさまじい乱れようで、その姿がブログを通じてSNSで晒されるや大反響。
『この動画の受けの男性がエロかっこよすぎ』『すさまじい色気』『こっちまで目覚めそう』『気持ちよさそうな顔が見ていて癒される』
最初はこのような反応だったが、次第に
『この男優の片割れ、誰かに似てる』『タチやってるやつって矢田諒太郎じゃない?』『今話題のゲイビ男優が、人気タレント『矢田諒太郎』にクリソツな件』
このような妙な記事が飛び交うようになった。
それもそのはず。だって本人なんだから。
「はいカット、お疲れ様でした」
「お疲れ様でーす。んじゃ撤収しますか」
二〇十六年のクリスマスに放送予定のローカル旅番組、「温泉ぐるり旅」の収録が終わった。監督の号令を合図に、周囲にいた数人のスタッフが一斉に片づけをはじめる。
「矢田くんも初のリポーターお疲れ様。声も張っててコメントも的確だったし、良かったよ」
「あざっす!!」
番組のテーマは「ーイケメン君が行くー クリスマスに夢のハーレム温泉」。放送は十二月二十五日で、全国各地の混浴風呂で美女と巡り合う、ドラマ仕立ての旅番組だ。女性は半分がサクラで、現役モデルの奇麗なお姉さんばかり。
十月初旬から二日間、スケジュールを抑えられての全国行脚。ハイエースを改造したロケ車で、地方のホテルを転々とする生活は正直キツかったが、仕事自体は観光気分で楽だった。
「このあと、ドラマ撮りだって? すごい人気だなあ矢田くんは」
「皆さんのおかげで、なんとか」
「それはそうと、あの噂はホントなの?」
「は?」
「週刊誌のあの記事だよ。矢田くんゲイビ男優なんかやってたの?」
この話題、ロケ中も耳にタコができるくらい遠回しに聞かれたが、業界人はいい加減しつこい。
「ああ。あれはマジで人違いですって。俺自身まったく身に覚えもないし、そういう動画も見たことないし」
(コンニャロウ、あんだけ収録中にカマかけといてまだ聞くか!)
「ええー、そうなの。一度は見といた方がいいよお。写真は白黒だったけどさあ、僕から見てもすごい似てたから」
「ははは。嫌だなあ、そんな根も葉もない噂を信じないでくださいよ。それに俺、普通に女の子が好きなんで」
一昨年前、気まぐれで参加した『美リーマンコンテスト』でグランプリに選ばれた事で、矢田の環境は一変した。それまではごく普通の会社員。こんな風に人前に出ることもなかったし、誰かから注目を集めた経験もなかった。自分の容姿がそんなに魅力的だったとも、考えたことがなかった。
ただ、大学時代の友人たちとゲイ動画サイトを運営し、こっそりと投稿サイトにアップロードしていた事は紛れも無い事実であった。
類似作品が吐いて捨てるほどある業界だから、さほど気にしていなかったが。最近になって、その黒歴史に首を絞められている。
ことの発端は半年前。とある人気ブロガーが、一本のハメ撮り動画を紹介した。
内容はホストがお隣さんに襲われる定番もの。
それはまさしく、矢田が過去に関わっていたゲイ動画で間違いなかった。当時は仲間内でも『神回』と話題になったネタで、隠れテーマが『タチ卒業式』。
ビッチのくせに男嫌いなメンバー、沢田詩央を、もう一度男に目覚めさせようというもの。
後輩の叶と矢田に代わる代わる抱かれた詩央は、とにかくすさまじい乱れようで、その姿がブログを通じてSNSで晒されるや大反響。
『この動画の受けの男性がエロかっこよすぎ』『すさまじい色気』『こっちまで目覚めそう』『気持ちよさそうな顔が見ていて癒される』
最初はこのような反応だったが、次第に
『この男優の片割れ、誰かに似てる』『タチやってるやつって矢田諒太郎じゃない?』『今話題のゲイビ男優が、人気タレント『矢田諒太郎』にクリソツな件』
このような妙な記事が飛び交うようになった。
それもそのはず。だって本人なんだから。
2017年5月1日 発行 初版
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自己中で我儘で一筋縄でいかない、だメンズたちの不器用で不憫な恋愛模様を書くのが好きです。 ボーイズラブ作品のみと、ジャンルは限られますが、どうぞご自由お立ち寄りくださいませ。