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この本はタチヨミ版です。
「SFオルタニアを私たちエビコー鉄研が占拠しちゃったの!? しかもいくら『SFを再定義する』からって、いきなりこんな二・二六事件みたいな決起趣意書なんて!」
「やはりクーデターには様式美が必要なのだよツバメくん。一気呵成に形勢を固め事をなすところにロマンがあるのだ。そしてSFと鉄道という企画でオルタニア4号が企画されたこの好機を逃すわけには行かぬのだ」
「総裁、とはいっても周りドン引きですよ」
「引かれてナンボと覚悟しての決起なのだ! これこそ『オルタニア事変』なのだ! 椎名林檎先生の『東京事変』に学んで我らも続くのだ!」
「何学んでるんですか。それに相変わらず過激だなあ……」
「ではゆくぞ! さあ、読者の皆様、ページを進めるのだ! 全てのページは次のページに続くのだ!」
「何言ってるんですか……」
特設描き下ろしイラスト「夢列車2017」
「うむ、クーデターは順調に進んでおる! よってここに我が模型友・田島ミエ君の『なかの人』、架空会社・奇車会社・出雲轟一氏の風味絶佳イラストを掲載するものなり!」
「総裁ー、初っぱなからいきなり、こんなやりたい放題して良いんですか?」
「そこは手を打ってあるのだ。ここからSFと我が『テツ道』のマリアージュ、『SFテツ道』の発露たる珠玉の作品とオルタニア茶話会が続くのである」
「しかしすごい肉筆イラスト……まさに入魂……」
「この出雲氏は鉄道模型誌掲載多数の凄腕モデラーにして斯様に素晴らしいイラストを描く逸材なり」
「まさに山陰をゆく気動車の最高峰である超豪華周遊列車・JR西日本『トワイライトエクスプレス瑞風』の魅力たっぷりですね!」
「さふなり。ちなみにうちの著者米田もこのオルタニア4号の表紙に同じく超豪華周遊列車・JR東日本『四季島』をCGによって作っておる。お気づきだろうか。その車中にはウエディングドレス姿の人物がおる!」
「あ、ほんとだ! も、もしかしてこのヒト、あの女性型女性サイズ戦艦……あわわわ」
「そしてこの『瑞風』のオープンデッキには優雅な旅を楽しむ老夫婦! まさに夢列車の競演なるぞ!」
「もー、総裁すっかりいい湯加減になっちゃって」
「はっはっは、雑誌編集長とは、なってみると、実によいものなり。見よ! 最高のショーだと思わんかね!」
「にげてー! って、なに『天空の城ラピュタ』のあのシーンやらせるんですか! これじゃやたら不穏じゃないですか。ヒドイッ」
「そうはいってもノリノリではないかツバメくんも」
「はっ、私としたことが! ……でも、雑誌作りって、ほんと、楽しいですよねえ」
「さふなり。読者諸賢にも是非存分に楽しんでいただきたく!」
パクリ? パロディ? いえ、オマージュです!
ツバメ「おおー、トップバッターは群雛以来のらせんさんですね!」
総 裁「冒頭は気鋭のゲスト作家のフレッシュSFにて始めるのだ」
ツバメ「ええっ、でも、鉄道でヒッチハイク? なんですかそれ!」
総 裁「SFマインドが豊かで晴れがましく、実に風味絶佳なるぞ」
ツバメ「でもこれじゃ、ほんと、どんな話か想像もつきませんよ!」
総 裁「よいよい。ページの向こうはめくるめくファンタジーぞ!」
本書はかの汎宇宙最大から引くことのいち、つまり宇宙ナンバーツーの本であり奇書である『銀河ヒッチハイキングガイド』の増補的手稿をまとめたものである。
え? ナンバーワンではないのかって? 宇宙最大で最高の奇書のほうがありがたみがある?
まさか、何を言っているのだ。宇宙最大で最長で最高のかの本は「どこにでも」あり、「誰でもが」持っていて、既知宇宙すべてに均一に分布してしまっている。
かの『ギャラクティカ大百科』をしのぐ成功をおさめたあの本は、もはや統計的に見て「どこにでもある」存在である。(注1)
そんな、どこにでもある均一な情報など、まったくもって無価値だ。そんなもの誰も欲しがらないだろう。日々編集者の思いのまま無限に増殖するページを有するかの本は、その無限と言うおよそありそうにない限界のない限界に達すると同時に無価値化してしまったのだ。
話をもどそう、本書『銀河鉄道ヒッチハイキングガイド』は、その偉大であるものの無価値となってしまった宇宙最大にして最高の奇書からほんのひとつだけ順位を下げた、じつに手に取りやすいありふれているけれども身の丈に合った──そんな幸せを体現する奇書である『銀河ヒッチハイキングガイド』──の増補として編纂された。
なに、心配することはない。かの宇宙最大の本と、われらがヒッチハイキングガイドは一般的な意味でほとんど差がない。あるのはたった二つの相違点だけだ。
ひとつ、タイトルにing(現在進行形)が入り、より読者の「今」に寄り添い行動的になった。
ふたつ、「銀河著作権」というおよそ現実に即していない無駄で無意味でクソッタレな項目は記載されていない。
この二点のみが違いだ。それ以外は誤字脱字や間違いを含めて完全に同一である(実際にコピー&ペーストしているのだから間違いない)。
さて、本書について、である。
もしかの宇宙最大の本(もうingぬきでもありでもどちらでもよろしい)の過去の版を後生大事に保存していて、かつ自動更新も怠っているようならば、【鉄道】についてを紐解いてみてほしい。
現時点最新の項目は、
「古代の無駄な乗り物。ヒッチハイクはできない」
の一文で済まされてしまっているが、かつてはそうではなかった。
いつの段階でこの項目がここまで減らされてしまったのかは定かでないが、わが編集部に保管されている最古のバージョンを見てみると
【鉄道】
時代遅れの細長い鉄の「レール」(たいていは二本のペアである)がこれまた時代遅れの「木」でできた枕木と呼ばれるスティック状の物体の上に鎮座し、さらに創生は人類史以前にさかのぼるであろう無数の石を積み重ねた細長い畝状の小山の上にこれらが置かれている、木器、石器、鉄器と、三時代取り揃えた長い軌道上を、汽車、貨車、客車、電車、普通に急行、特急に超特急などなど、さまざまなバリエーションで、これまたさまざまに意匠をこらした、たいていは箱状の物体がいくつか連結され(されていない単体の場合もある)荷物なり人間なりを積み込んで進むもの。レールの上の一次元的な直線以外は移動できないというはなはだ不便な交通機関であり、そうした輸送・交通手段の総称。
と書かれている。
比べれば一目瞭然。最新版ではことごとく無駄な部分が省かれ、見事にダイエットに成功していることがわかるだろう。
この過激なシェイプアップの理由については長い間謎とされていたが、一つ一つの版の違いを精査していくと、ある編集意図が見え隠れしてくる。
本書では、そうしたかの編集部の意図について明らかにしていきたい。
◇
さて、ここで昔話をしよう。
星図にも載っていない辺鄙な宙域のはるか奥地、銀河の西の渦状椀のそのはての、地味な隅っこのそのまたはずれに、何の変哲もない小さな黄色い太陽があった。
いくつかの惑星がその重力圏にぶらさがって悠久の昔から飽きもせずくるくると回っていたのだが、その中の、大体一億五千万キロメートルほど太陽から離れたあたりの軌道に、これまたぱっとしない青緑色の惑星があり、このあたりでは地球と呼ばれていたそうだ。
その惑星の暦で昭和とか呼ばれていた大昔のこと、とある小さな島国、とは言ってもその惑星中に熱心なファンを持つビデオゲーム会社の多くが軒を連ねるデジタル立国な日本と言う国に、ごくごく小さなデジタルゲーム専門の雑誌があった。
神田神保町のはずれ、やはりぱっとしない雑居ビルの6階にあるその雑誌の編集部では、異国から訪ねてくるはずの大学博士を今か今かと待っていたのだ。
「ベンガル博士、まだっすかねー?」と。
もともとはゲームマニアや同人誌あがりの人間たちを集めて雑誌を作らせている編集部である。所属するライターたちのゲームの腕はまあまあ水準以上であったのだが、人間性や社会性という点ではちょっと人前に出すのは厳しいかなというのがおおかたの評価だった。
そこのアルバイトのジュディ・フォン・ド・阿部・マリア女史(仮名。本当の名前はこの国の者には発音できない)が、いまそのベンガル博士を迎えに行っているはずだった。送迎の車などはもちろんない。電車で、である。
いっぽう、そのベンガル博士と呼ばれた若き大学教授は、ちょうど羽田国際空港に二時間遅れで降り立ったところである。
痩せぎすの高身長に濃い褐色の肌。三つ揃えのスーツできっちり身を包み、頭にはターバンという印洋折衷の奇妙な風体で、周囲に群がる低身長の平たい顔族を睥睨していた。
──なんとごみごみした国であろうか。この混みっぷりはムンバイの市場も顔負けだ。こんな乱雑の中で静謐な数学的思考が養われるとはとても思えん。
最初に数字のゼロを発見したのが国民的自慢の国出身である博士は、そのうえ超高等精緻数学と言うなにやら小難しい学問を専門にしているのにもかかわらず、なぜだか時間には大変ルーズだった。
いや、いま到着したばかりの日本という国の常識的な感覚ではルーズだったと訂正しておこう。彼が生まれ育った大陸の国では二時間遅れはむしろ普通であり、そちらのほうが常識であった。
つまりこの時点では時間差による身体的な苦痛(いわゆる時差ボケというやつだ)もなく、彼生来の時間感覚を持ったまま異国に降り立ったわけである。
空港のロビーには運命の出会いが待っていた。日本人風の小動物系の丸顔にストレートな黒髪がマッチしてけっこうかわいい系、笑った顔がとても魅力的なジュディ(以下略)女史と、どう見てもやっぱりカレーは銀色の皿で手で食べなきゃね的なこだわりがとても似合いそうなベンガル博士は、お互いの異郷の地で目が合った瞬間、電撃を受けたかのように、瞬間に、熱烈で猛烈な恋に落ちていた。
ふたりは名乗ることもなくきっちり10秒間見つめあい、どちらからともなく身を寄せ合い、固い抱擁を交わす。
好きよ。好きさ。嘘? インド人嘘つかない。
などと言うやり取りがあったとかなかったとか、詳細はさておきもう二度と離れまいと誓い合う二人だった。
タチヨミ版はここまでとなります。
2017年6月1日 発行 初版
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最も自由で、最も新しいSF雑誌「オルタニア」の編集部。第四代編集長は米田淳一と鉄研の一味である。あろうことか米田一味は編集長権限を濫用し、オルタニア全土の掌握を企み、あらゆるテキストを占拠しはじめたではないか。このパートが発見されるのも時間の問題、おい、まてなにをするやめろやめるんだうあ123456あzqwxせcdrfvtgbyhぬjみkふじこ