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路面電車の発展形であるLRTがこれからの軌道系都市交通の一翼を担うことは間違いないですが、選択肢はそれだけではありません。様々な新しい交通機関を例に挙げながら、それぞれの適性を見極めるのが本書の目的です。



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本書を発行するにあたって、内容に誤りのないようできる限りの注意を払いましたが、本書の内容を適用した結果生じたこと、また、適用できなかった結果について、著者は一切の責任を負いませんのでご了承ください。

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軌道系都市交通の復興計画(後篇)

増田 一生

鉄道復興研究所



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  この本はタチヨミ版です。

 目 次


合理的な軌道配置(京福)
合理的な軌道配置(四条通)
LRTとゴムタイヤトラム
トランスロールの利点と課題
「都市型索道」の可能性
(ロープウェイ+懸垂式モノレール)÷2
HSSTの活用
ジェットコースターの応用
軌道系都市交通の総括


軌道系都市交通の復興計画(前篇)の目次紹介


作品紹介

合理的な軌道配置(京福)

 「前篇」で取り上げた福井鉄道とは逆に、併用軌道区間に高床ホームを設けた例として知られるのが、2008(平成20)年3月に開業した、京福電気鉄道嵐山本線の嵐電天神川です。建設費は6億4,300万円で、そのうち約95%の6億1,600万円を京都市が負担しました。

 嵐電天神川は、京都市営地下鉄東西線の終点である太秦天神川と接続するために開設され、乗換駅としての機能を果たしています。その高床ホームはスロープを備えてバリアフリーに対処しており、同じく併用軌道区間に位置する山ノ内と西大路三条(上り)の低床ホーム(安全地帯)とは雲泥の差です。

 京福には超低床車が1両も存在しない代わりに、山ノ内と西大路三条(上り)を除いて高床ホームが完備されているので、嵐電天神川をこれに合わせたのは適切な判断です。ただし、問題なのはその位置です。

 嵐電天神川は、多くの路面電車の電停がそうであるように、道路の中央部に配置されるセンターリザベーション方式を採用しています。「太秦天神川駅周辺整備事業まちづくりニュース第7号」によれば、計画段階では軌道を北側に寄せるシングルサイドリザベーション方式によって東西線の駅により近づけることも検討されましたが、自動車交通の処理が面倒になることから見送られ、現状の形に落ち着きました。

 しかし、センターリザベーションは本当に正解だったのでしょうか。軌道の少なくとも片方向に歩道から直接乗降できるシングルサイドリザベーションは魅力があり、鹿児島市交通局の鹿児島中央駅前電停がその好例です。嵐電天神川も本来はそうすべきでした。ただし、最適なのは北側ではなく、南側に寄せるシングルサイドリザベーションです。

 京福嵐山本線は、太秦広隆寺(旧・太秦)から西大路三条(旧・三条口)にかけて三条通と絡み合って走り、併用軌道と専用軌道が交錯しています。このため、三条通を自動車で西へ向かう場合、何度も軌道を横断しなければならず危険です。それならば、軌道を南側2車線に寄せて自動車と電車の流れを分離したほうが、安全性と利便性が高まるはずです。

 このことは大学1回生の班学習で提案したことがあります。図はその発表の際に用いたものです。現在は山ノ内と蚕ノ社の間の併用軌道上に嵐電天神川が開業していますが、これを北側に寄せて配置すれば動線が混乱するのは当たり前であることが分かります。やはり南側に軌道を寄せ、東西線の駅からは地下道を延ばして連絡すべきだったでしょう。

京福嵐山本線の併用軌道改良案


 ただ、道路中央に立派な高床ホームが設けられた以上、軌道を南側に寄せるシングルサイドリザベーションを今日明日に実施するのは難しくなりました。設備の立派さが改善の足かせになるとは皮肉な話ですが、総合的な視点が欠けていたのが原因です。地下道を後から整備するのも手間と費用がかかるので、当面は現状維持に甘んじるしかなさそうです。

合理的な軌道配置(四条通)

 京福が走る京都は、日本の電車発祥の地でもあります。かつては縦横に市電が線路を張り巡らせていました。しかし、自動車の増加を受け、1970年代から廃止が本格化しました。市民による反対運動も8年間に及びましたが、最後に残った北大路線・東山線・九条線・七条線・西大路線が1978(昭和53)年9月30日に廃止され歴史に幕を降ろしました。

 現在の京都市交通局は、地下鉄の烏丸線と東西線を運営していますが、京都盆地の広い市街地をカバーするには足らず、市バスが地下鉄とほぼ同数、1日あたり30万人強の乗客を運んでいます。都市規模から考えればバスの分担率が高すぎるきらいがあり、このため路面電車の復活を望む声も根強くあります。

 京都で問題なのは、幅の広い堀川通・五条通・御池通などが比較的繁華街から外れた箇所を走っており、路面電車を通す必然性が乏しいことです。このうち最も都心に近いのは御池通ですが、ここはすでに東西線が地下に通っているため、路面電車の出番はありません。

 一方で、かつて市電が通っていた道路の多くは片側2車線と狭く、これが路面電車の復活を拒んでいます。軌道を通すには車道の削減が前提となりますが、自動車交通がまだまだ優先される現代において、それがいかに高いハードルであるかは言うまでもありません。 

 そんな中、そうした傾向に風穴を開けるかもしれない事態が起こりました。京都市が2015(平成27)年10月に、繁華街を東西に貫く四条通の四条烏丸―四条京阪前間の車道を片側2車線から1車線に減らし、歩道を2倍に拡張したのです。

 かつての市電の四条線は1972(昭和47)年に廃止されましたが、四条通が京都の東西のメインストリートであることは現在も変わりません。西院(西大路四条)から四条河原町にかけては阪急が地下を通っていますが、地上でもバス路線が集中しており、需要面から見れば路面電車を復活させる筆頭候補です。

 この歩道拡張は、四条繁栄会商店街振興組合が京都市に働きかけて実現したものです。ただ、四条繁栄会は阪急が1963(昭和38)年に大宮から河原町まで延伸した際、烏丸―河原町間の地下街開発に反対した経緯があります。このため、ショーウィンドウが点在するだけの殺風景な地下道が設けられましたが、その結果地上に混雑が偏りました。自ら原因を作っておきながら歩道拡張を要望するのは身勝手であるとの批判もあります。

 とは言え、自動車交通抑制の観点からは車道削減がなされたのは慶事には違いありません。路面電車を復活させる第一のハードルを越えたわけであり、拡張した歩道の部分に軌道を通せる可能性が出てきたからです。

 その場合、結局歩道は元に戻ってしまうことになりますが、四条繁栄会が件の地下道を所有する阪急との協議会を設け、地下道に小規模の店舗やアート展示場所などを設ける検討を始めました(京都新聞2017年3月14日号)。これが実現すれば地下に歩行者が分散されるので地上の歩道を削減でき、路面電車の復活に一筋の光明が差します。

 しかし、残念ながら事はそう簡単には運びません。歩道の拡張は、厳密には四条烏丸―四条京阪前間の全区間で行われたわけではなく、一部が荷捌き用などの一時停車スペース(15箇所32台分)やタクシー乗り場(大丸前3台分・髙島屋前4台分)に充てられているからです。路上駐車や客待ちは本来交通ルール違反ですが、既得権益として認識されている以上、追認せざるを得ないのが現状です。

 今回の歩道拡張は歩行者には当然歓迎されましたが、ドライバーからは相当な不満が寄せられているようです。荷捌きやタクシーの客待ちに一定の配慮がなされているにも関わらず批判が絶えない原因は、途中4か所の停留所に停まるバスが後続車をせき止めることにあるようです。通常のバス停のように歩道に切れ込む「バスベイ」を設置すれば解決できますが、それでは歩道の狭い部分にバス待ちの人々が滞留することになり、拡張の意味をなさなくなってしまいます。

 やはり、自動車の総量規制や都心部乗り入れ禁止が実施されない限り、大都市の主要道路では最低でも片側2車線の車道が必要なのです。これと四条通への路面電車敷設を両立させるには、自動車を一方通行にする以外に方法はありません。大阪は堺筋・御堂筋・四つ橋筋といった主要道路でも一方通行を実施しています。京都でできないはずはありません。

 具体的には、四条通の四条大宮―四条烏丸―四条京阪前―祇園間の北側2車線を東行きの一方通行とします。西行きは北の御池通と南の五条通へ迂回させます。交差する南北の通りのうち、河原町通は特に混雑が激しいので、その東を並行する川端通に誘導します。

 そして、四条通の空いた南側の2車線にシングルサイドリザベーションで軌道を設置するのです。既存の路面電車を有効活用する観点からも、四条大宮で京福と直通させるのが望ましいですが、南側2車線であれば四条通の車道を横断せずに済みます。バスの一部は四条大宮止まりにして役割分担を図るべきですが、循環系統などは軌道上を走行させます。

 バスと停留所を共用することになるため、この路面電車は超低床車とするのが望ましいですが、京福との整合性をどう図るかが課題です。京福は平均車齢が比較的高いので、これを機に車両を置き換え、ホームのかさ下げを行うのが妥当ですが、まずは嵐山本線だけを対象とし、支線の北野線は当面現状維持とすべきです。闇雲にかさ下げを急げば、福井鉄道の二の舞になってしまうからです。

LRTとゴムタイヤトラム

 路面電車の発展形であるLRT(Light rail transit)以外の軌道系都市交通で、今後普及が見込めそうなものの1つに「ゴムタイヤトラム」があります。これは、LRTとバスを足して2で割ったような交通機関であり、代表的なものとして「TVR」「トランスロール」「CIVIS」の3タイプがあります。いずれも走行輪としてはゴムタイヤを用います。なお、ゴムタイヤトラムを広義のLRTに含めることもありますが、本書では区別します。

「TVR」はドイツのボンバルディア・トランスポーテーションが開発したもので、1本の案内レールに車体中央の鉄輪を真上から乗せてガイド走行するものです。架線から給電するガイド走行とディーゼル発電機によるガイド走行、ディーゼル発電機による道路走行の3パターンの運行が可能です。

 TVRはフランスのナンシー市とカーン市で営業運転を行っていますが、ナンシー市では特に道路から案内レール区間に進入する際に脱輪する事故が相次ぎ、訴訟に発展してボンバルディア側が損害を賠償する事態に陥りました。これを受けて、カーン市も2018年までに通常の路面電車に置き換える方針を示し、TVRはいずれ全廃される見通しです。



  タチヨミ版はここまでとなります。


軌道系都市交通の復興計画(後篇)

2017年10月14日 発行 初版

著  者:増田 一生
発  行:鉄道復興研究所

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増田 一生 (ますだ かずお)

1978年 大阪府生まれ
2000年 立命館大学産業社会学部卒業
2002年 同大学院経営学研究科修了
現在   総合旅行業務取扱管理者

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