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離婚病

八桑 柊二

大湊 出版



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  この本はタチヨミ版です。

 序

 T市に原因不明の離婚病?なるものがまん延しはじめて、数年がたっていた。市当局はその対策に苦慮していた。
離婚率はしばらく、横ばい状態が続き、(五十組に一組の割合だ)当局も社会教育の成果は出ていると自画自讃していたが、市の有力筋からは何故、離婚率低下の兆候が見られないのか?と不満の声があがっていた。
奇妙なうわさがT市に流れていた。
 T市の住民の離婚申請でなければ、実際、離婚裁判所は受理しないはずであるのだが、盟友関係にある他市の申請も受理しているというのだ。当局の担当者は賄賂を受け取り、T市のものに似せ、秘密裏に処理しているのだという。それは他市の離婚率をあげることになり、T市にとって有利に働くというのだ。
 他方、財政がさほど潤わない(申請費用が安い)当市のものはペンディングの状態なのだという。(離婚率あげない一助になっている)統計数字の横ばい状態はそのためなのだ、という。これが事実なら、T市にとってほめられたことではないが、申請後の遅滞のもっともらしい理由のひとつになろう。しかし、これは事実上の離婚率低下を全く意味しないのは自明だ。そして、これらのことは、離婚病?はT市だけの問題ではなく、他市の全域に広がっているという由々しき事態を裏書しているのだ。
 担当部署は他市からの申請の受理に関しては正式に文書で否定していたが、市民がそれを信じているのかは怪しいものである。電子雑誌のサイトのひとつ『ウワサの深層』はこれは限りなく灰色であるとの記事を配信していた。

 一

 利果氏は卓上の電子メイルの受信音を耳にした。電文を読んだ。
「あなたの離婚相手から連絡がありました。七月五日の調停のための話し合いに出席できないとのことです。当局は双方が出席できないのであれば、調停を無期延期します。連絡をお待ちします」
『代理人では駄目なのだろうか?』利果氏氏は疑問を抱いた。以前には問題はなかったのだ。『規則が変わったのか?月代(妻の名)が代理人でよしとすれば、あとは問題なく、事務的に処理されはずだ』利果氏は楽観的に考えていた。
 しかし、ここにきて、当局の事務処理が滞りはじめた。以前は二、三日で片付いた。待たされたとしても、一週間あれば済んだ。今回はタイミングが悪かったのか?市の離婚撲滅のキャンペーンの開始と時を同じくしていた。申請してから三ヶ月を経るのだが、見通しすら立っていないのだ。
 離婚の申請が処理しきれないほど膨大になっているとは聞いてはいない。『こんなことは離婚病が蔓延しているからといっても考えられない。当局はコンピュータで処理をしているのだ。だとすれば、当局は何らか他の理由で、意図的に遅らせているのだろうか?』利果氏は邪推したくなるのだ。世論の批判が噴出していることから、憶測もしたくなろうというものである。
 インターネツトに垂れ流されている意見をここで、紹介しよう。
 経営者とおぼしき人物は次のように述べていた。
「離婚の増加は経済活動を遅滞させている。離婚に関する諸々の行動は生産性が全くない。時間と労力の無駄の一言に尽きる。余暇の時間が多く、労働者は時間をもてあましているから、離婚が増加するのだ」
 暗に労働時間を増やすようなニュアンスをにおわせ、苛立ちの論理である。これに真っ向から反論しているのが労働界の幹部であった。それを読むと、「細分化した仕事とIT化によるストレスが離婚の主な原因である。四六時中、モニター画面とにらめっこで、ストレスがたまらないというのは無理なはなしである。人間性に変調をきたし、情緒不安定、すぐ、切れる。おかしくなってきたのだ。労働時間を増やそうとの意見もちらほら聞こえるのだが、全く、現状を理解していない。総合的、創造的な仕事に、システム全体を再編し直すのが先決である」
 役所の官僚のブログには「市民の余暇の有効利用を本腰になって考えねばならない」と、旧態以前ノコメントを繰り返していた。
 心理学者のF氏はもっともらしい理由をあげていた。
「超管理社会になって、子供時代からリビドーの解放が阻害されて、その反動がこうした結果をよんでいる。今後の緊急課題だが、セックス専用のアンドロイドが出回り、また、さまざまな家庭の雑務を代用するアンドロイドはまだ、高価で簡単には手に入らないが、まがりなりにも買えるようになった。次第に人間的な感情が希薄化し、配偶者への必要度が減少してきたのかもしれない。だから、人間の最後の砦である感情生活こそ、今、求められている。現時点では結論を述べるのは早急というもので、今後の研究課題にしたい」
 リビドーとは、未だに、"フロイドの亡霊"が徘徊していると、利果氏は苦笑した。性の解放が言われて久しく、今では神話になっていたので、何をいまさに、という訳なのだ。
社会学者M氏は次のように述べていた。
「さまざまな選択支があってよいのである。だが、このT市に限ると住居、食事、学校、医療、娯楽、仕事はかなりの満足度の状態である。そこで、唯一の関心ごとは愛情問題になっている。良きパートナーを得ることが当市で生活する人々の最重要の関心ごとである。そのために、伴侶への評価は一段と厳しくなっている。ちょっとした不安で、愛情がこじれると、すぐ、離婚に走ってしまうケースが余りにも多い。過敏すぎるのだ。ひっきょう、獲得したものを失う不安におびえる心理が人々を精神的に不安定にさせている。この精神状態が問題である。解決は一朝一夕にはいかない。社会全体の問題である。個人と社会の新たな関係を一層、精緻に研究しなければならない」と、まともな意見なのだが、満ち足りている人々に、どのような倫理を確立するのか?その具体策は見えない。社会はますます、細分化し、人々は与えられた場面場面で分断された、脈略のない切れ切れの状況に対応せざるを得ないのだ。
 保守的な女性の代表のブログは次のように記述していた。「・・・離婚の裁定については女性の判事もいますから、不満は以前より改善されています。むしろ、殿方には厳しいと言う意見も耳にします。私たちはここ数年、流行語になっている"離婚病"なるものについて、許せないと思えるのは、結婚を子孫獲得の手段と決め付けているむきのあることです。誰とは敢えて申しません。いわずとも、おわかりかと思います。"子孫繁栄費"という名目の露骨な奨励金を支給しようという動きすらあると聞きます。子度の養育のために一時金を支給する分には文句はありません。しかし、余りに打算的な、露骨過ぎる言い方はやめてもらいたいのです。また、男女の愛情問題の解決には愛人をこしらえればよい、という短絡的な考えの殿方もおりますが、男性がそうであれば、女性もそのようにすればよいと、いいたいのでしょうか?それは平等思想のはき違えです。性差を理解していないのです。いかに、自然科学が発達したとしても、自然には逆らえないのです。ひそかに、遺伝子操作をしていると聞き及びますが、いったい、そのようなことを安易に許してよいのでしょうか。
 愛人をこしらえて、どのくらいの人がうまくいっているでしょう?大いに疑問のあるところです。それから、子供の教育の問題ですが、当局の施設が完備しつつありますから、心配はしておりません。しかし、当局があたかも、赤ん坊を買い上げているかのような誤解を招く言論はあんに謹んでもらいたいと思います」
 このようにいっけん、まともな正統的な意見がある一方、先進的な遺伝子操作と生殖技術に抵抗のない若い世代はせっせとこれらを利用して、快適でエゴイスティックな生活を築いていたのである。
 現在では昔話になっいる「温かな家庭」の恩恵はとうの昔に、浴してはいない小学生の意見はこうである。
「僕らの教師は育児室の管理者であり、寄宿舎の舎監だ。(実験的にアンドロイドも採用されていた)家庭はいわば、難破した小舟が漂流の末に留まる、一時しのぎの小島に過ぎない。たしか、十八世紀の物語だと思うが、ロビンソン・クルーソーという人が漂流し、無人島で生活する物語があった。そこは一時しのぎとはいえ、「住めば都」で快適に過ごしていた。だが、今は、母親は外に情夫をつくり、父親は愛人を囲っているありさまである。そして、離婚に奔走しているのである。覚束ないのだ。根本から家庭と何か?快適な生活とは何か?を問題にしなければならない。
 親の愛情に悩む子供が増え、問題児が世間に騒がれて久しいが、僕からすれば、親に問題がある。僕らの常識ではとうに解決済みなのだ。問題にさえなっていない。僕らはとっくに家庭を信じていません。親の愛情を期待してはいないのです。経験から学んだことです。"親とは必要なときにいなくて、不必要なときに干渉する"のである。ついでにいうと、僕らのエキサイティングな生活の楽しみは市の未知領域(立ち入り禁止区域)への冒険です。また、コンピュータ・ジャックです。もちろん、恋人をつくるのも楽しいし、大人のかわいこちゃんをからかうのも楽しみのひつです」
 子供らは"離婚病"を鼻から問題にしていなかった。
 めぼしいのはこういうものだが、子供の意見がもっとも過激であった。大人たちは誰もが頭をガツンと一撃を食らったのだ。
 保守的な大人たちは、このような意見を吐いた子供の背後に影で操っている大人がいるに違いないと邪推をした。衝撃が余りに大きかったので、事実を認めたくないのであった。
 大人の世界など歯牙にもかけない、荒々しい子供の世界を初めて知った大人たちは少なくなかった。
 教育現場においては、教師らは道徳を徹底的に教え込むべきだと息巻いた。今の教育は自由ばかり教え、厳格なルールの指針に欠けている。生ぬるい。その結果がこうなったと述べた。
 舌の根の乾かないうちに、反対のことを言うとはことことである。というのは、百年間、彼らは同じ考えなのだ。即ち、教育当局は過去に、幾度も改革を実施していた。その結果、度重なる改革が未消化のままに、盛りだくさんのメニューを盛り込んだり、減らしたりを性懲りもなくしたので、教育現場は混乱に陥っていた。なお、悪いことに、実践的でない道徳を教えたものだから、真面目な教師は己の生活との矛盾に悩み、e地区では教師らが集団で離婚するという事件が起こった。彼らは自信喪失した。実際、道徳教育は棚上げ状態の現場が多かったのである。
 教える教師が離婚経験者であるのはいたし方ないとしても、そのことは反面教師というポディティブな見方も出来るのだが,おのれを客観視できるほど成熟した教師をみつけるのは難しかった。また、教師の採用基準は情緒的な安定度の比重は軽くて、教える技術の習得度を重きをおいていたのだ。
 教師の再教育制度は機能面(ハウ トウ的なこと)が強く、下手をすれば、この際、機械に代用(コンビュータとアンドロイド)させようという動きすらあったのだ。
 政治家といえば、離婚は社会の混乱の元であるから、「非離婚法」を成立させようとした。しかし、さすがに、非現実的であると批判され、急きょ、撤回する始末であった。しかし、それに代わる「離婚税」なるものを修正を加えて成立させてしまった。これには、離婚希望者の査定基準を盛り込んでおり、高い税率を懸ければ離婚率が減少すると踏んだものだ。しかし、その結果は最悪であった。愛人をつくるカップルが増え、一層、モラルの低下を引き起こした。従って、その法律を破棄するか、もしくは税率を下げるという姑息な動きが起こっていた。
『政治家先生の考えることはこんなものだ』と、利果氏はうそぶいた。彼は政治家は大嫌いなのだ。
ところで、利果氏とは何者なのか?
 彼はバイオテクノロジーの技術者で、哲学を好んだ。科学者らしく分析哲学である。現在はT市の医学研究所に勤務する役人で、テニスを愛好するスポーツマンでもある。年齢は四十過ぎで離婚歴は二度あり、現在、妻と別居中である。三度目の正直ということわざは昔いわれていたが、現在、その離婚申請中である。

 二

 他市との住民獲得競争は激しさを増していた。住民数は市の繁栄に直結するのだ。
「離婚」に関して、他市の秘密機関が影で暗躍し、当市を混乱させて、繁栄の勢いをそいでいるのだと、想像をたくましくする者もいた。
 市相互の離婚率のランクづけもなされていたので、暗躍説はそれが影響しているのであろう。これらは所詮、想像の域を出ないのだが、肯定する材料も、否定する材料も見当たらなかった。だから、離婚率低下を意図する当局の"陰謀説"のうわさは絶えず、このあたりが影響していたのである。

 T市の創設記念日に新たな事実が公安当局から発表された。
 それによると、この病の蔓延の背後にはD市の陰謀がある、というのだ。敵対関係にあるD市がT市を無政府状態に陥らせるための画策であると、当局は巷に流布していた。しかし、そのことの証拠は何ひとつ示されなかった。何か薬物を使用するか、洗脳するか、脅迫するのか、がとりあえず、考えられるのだが、具体的なものは何ひとつ示されなかった。ただ、容疑者は拘留されている、という。しかし、ほどなく、D市は正式の抗議文を発表した。「全くの事実無根のでっち上げである。敵対的な悪意には厳重に抗議する」というものだ。
 T市当局はそれを黙殺した。
 公安当局が時間かせぎのため、市の上層部から指示されてやったのか?もしくは、緊急避難的に、政治家の批判をかわそうとしたのだろうか?
 真相は藪の中であった。
 他方、公安のなかには実際、D市がやったとしても、おめおめ、やりました、とアホな声明を出すはずはない、と、それは折込済みなのだ、と、うそぶく者もいた。
 ところで、利果氏は月代(妻)からの連絡待ちなので、打つ手がなかった。--予備審査の段階で、利果氏氏は当局をせかしたのだが、彼らは「連絡を待ちなさい」の一点張りであった。利果氏が担当部署に連絡すると、たらい回しをされた末、「担当者は不在で、お答えできません」が返ってきたのだ。さすがに、利果氏は電話口で怒鳴り声を上げてしまい、あげく、受話器を壊してしまった。--このような苦い記憶を思い出した利果氏は担当部署にメイルを送った。
「三ヶ月以上、待たされている。いったい、どうなっているのか?説明してもらいたい。当方は見通しだけでも知りたい」
 おそらく、「おって指示する。それまで待て・・・」というかわり映えのしない返答がくるのだろうと、利果氏は期待していなかったが、送らずにはいられなかったのだ。
 こういうことであれば、残された手段は直談判しかないと、利果氏は決意を固めた。
 月代からの連絡は未だなかった。
 利果氏はシティ・カーを呼んだ。この車は全自動で、目的地をインプットすれば、たとえ寝ていても、目的地に連れて行ってくれる。T市全域にこのシステムが完備していた。
 電話予約した車が玄関に止まり、利果氏の体温を感じて、自動ドアがあおるように開いた。利果氏は乗り込むとGOの合図とともに、じょじょに速度を上げた。備え付けのCDからお気に入りのテクノ音楽「シンコ・コスシン・タンジェ」を選んだ利果氏は、その心地よいバイブレーションに身を委ねた。対向車がひっきりなしに行き交った。車はらせん状の高速道路を中心地に巻き込まれるように官庁街に下りていった。
 高速道路は雨天でも支障なく外出できるように、半円のドームの屋根がかけてあった。しかし、老朽がはげしく、あちらこちら雨漏りが目立つのだ。そこで、運輸局と施設局はこの際、市全体をおおう巨大なドームの屋根の建設を計画しているというのだ。これには訳がある。というのは、出所不明のいわゆる"離婚病"のまんえんは、地球外宇宙からの未知の病原体の襲来によるものだと言う、もっともらしい説が流れた。それが人間の神経を冒し、精神的な不安定を引き起こしていると言う。そこで、天候の激変に見舞われている昨今、一石二鳥とばかりに、市民への副作用を軽減した薬剤を考案し、この際、一気に未知のウィルスを含む病気の元を、都市の丸ごと消毒してしまおうという、突拍子もない計画が真面目に議論されていた。漫画チックなのだが、すでに、建設局はK市に巨大ドームを発注しているという。

 車は破損の目立つ箇所を過ぎると、漏斗状に沿って速度をあげつつ、地下にもぐって行った。
 地下十五階の駐車場に着いた。そこから、エレベーターで地上部に出るのだ。
 利果氏は空を仰いだ。太陽は見えなかった。利果氏は人間を見下しているような中央に巨大な吹き抜けのある建物の前に立った。黄金色に光るガラス張りの、上空にかかる回廊を見上げた。人間が往来する姿が小さく見えた。ロビーのまん中に鎮座している鉄製の大時計は「時の短縮は管理の鉄則」とでも語っているように、むき出しの大小の針が時を刻んでいた。大時計というのは博物館入りの骨董の部類に入るのだが、警句を端的に表すために、意図的に設置してあるのだ。
 利果氏は自分の光時計と見比べた。時刻は合っている。したり顔の利果氏。
 昼間も太陽光が入ってこない巨大な建物の、複雑に入り組んでいる仕掛けを前にして、利果氏は不安と憂鬱な気分を覚える。自分でもそれがどこから来るのかは分からなかった。自分はやけにちっぽけな、取るに足りない生き物のように思えるのだ。
 利果氏は巨大な構造のこの建物の醸し出す雰囲気を好きにはなれなかった。
 そそり立つ壁面、四角く突き抜ける大きな吹き抜け、地下洞くつの巨大な底に落ちてしまったかのような錯覚を覚える。永久にここから抜け出せないのではないだろうか?との強い圧迫感。褪(あ)せた琥珀色に鈍く光る回廊の窓の重なり。各階は鈍く光っている果てしのないリフレイン。規則的な壁面のわきから怪物の頭のように突き出ているテラス風のカフェテリア。内部が透けて見える空中レストラン。こぶのような異物がいくつも空中に吊るされた建物は異様な相貌を与えていた。当初は整然としていたのであろうが、継ぎ足し継ぎ足しを繰り返しているうちに、醜態にかさぶたを重ねたような建造物になったのだ。
 この建物を見上げると、いつも恐れ含んだ、何ともやりきれない気分に襲われるのだ。精神を鼓舞されないばかりか、意気を消沈される何かを感じるのだ。原因はこれだとはっきり指摘できないので、一層、利果氏は苛立ちを覚えた。なお、悪いことに、こうした建物の様式はT市ではありきたりなのだ。逃げ場はなかった。
 利果氏はT市を憎んでいるというのではない。そうではなく、こうしたT市の環境には出来る限り疎遠に、気にしないよう、空々しく付き合うのが得策と考えていた。こうした事態はどの都市でも大同小異なのだ。
 利果氏は直感していたのだが、市民の誰もが感じていたことではなかったろうか。
 利果氏は"離裁への道"(離婚裁判所)に踏み出した。大げさではなく、実際、そこに到達するまで、大変な思いを経験することになるのだ。
 利果氏は銀色のステンレス製のカウンター受付に歩いて言った。一見、分からないのだが、アンドロイドは終日休まず、立ち仕事をしていた。
「離裁はどこですか?」利果氏は男に尋ねた。アンドロイドは「アナタ ノ IDバンゴー ト バスワード ヲ ソコノ キーボード ニ ニュウリョク シテクダサイ」と、小鳥の鳴き声に似せた合成した音声で応えた。
 利果氏は己の番号三ニ六八一六七七を打ち込んだ。すぐに、モニター画面に「バスワードは?」が映ったので、「RAINBOR BRIDGE」と打ち込んだ。画面に「ERROW」と出た。彼は一瞬、打ち間違えたかと思い、再度。打ち込んだ。RとWを間違えたのだ。すぐに、画面に「本人と確認しました。用件を述べよ」との表示が出た。利果氏は男のアンドロイドに「離婚を申請したのだが、いつ、決済されるのか?予定を聞かせてくれ」と応えた。アンドロイドは手にもっていたおもちゃみたいな道具で、利果氏の音声を打ち込んだ。



  タチヨミ版はここまでとなります。


離婚病

2017年10月7日 発行 初版

著  者:八桑 柊二
発  行:大湊 出版

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八桑 柊二

1946年、生まれ。明治大学文学部卒、業界紙・誌に勤める。今は無職。

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