
あるところに、と言ってもそれは海の中のお話です。
若くとても美しく、それゆえに姫と呼ばれる人魚がおりました。
ただ口では人魚と言ってみても人にとってはやはり海獣です。ですから、彼女は海獣姫でした。
人魚は何年たっても姿かたちが変わらないとはいえ、やはり永く生きた人魚はそれだけ目聡く、警戒心も強くなり、立ち居ふるまいも大人びて、澱のような、水垢のような、どこかしら不透明なものをまつわらせているものです。
そのお蔭で人間にも見つからないでいられたのでしたが、やはりなんと言っても人魚の本当の美しさをしろしめすのはまばゆいばかりの妙齢の人魚でしょう。
彼女らはまだ浮世の水になれていず、自らを隠すことを知らないのです。
人魚たちは海の奥底の静謐な、ほの暗い青い縦横の鏡に、目も覚めるようになめらかで、しなやかな肢体を映し、自身の放つ美しい光の横溢する中で、日々を暮らしていたのでした。
人魚といえば思いうかべられる海の数々の装飾品、たとえば紫貝や宝貝、上流の川の匂いがする翡翠や波のはざまで磨かれた柘榴石、きらめく真珠や珊瑚など、彼女らは身につけておりませんでした。
海藻の鬘も、貝の胸当て、海百合の腰蓑もつけてはいませんでした。
実際、この海で最も美しい海獣は人魚なのですから、何も装飾品などつける必要などないので、もしつけたとしてもそれはまばゆい玉の肌の燦然たる光彩をさまたげる染みとはなれ、到底美しさを増すわけにはいかないのです。
寄る年波に洗われた醜い木乃伊のような人魚が存在するなららばいざ知らず、中でもここにいるのは種族で一番美しい人魚なのですから、その純真で無垢な裸身に何ひとつ装う必要はなかったのでした。
ある日のことです。
海獣姫が海の底深くまでもとどく微妙な光とたわむれておりますと、彼女は海の上に、えもいわれず魅力的な香気を感じたのでした。
それは一陣の風のようにさわやかな、青い光のような、遠くからきた香りでした。
美しいものはあたりまえのように自由なものですから、海獣姫はそうそうに、海蛇のような裸身をくねらせて海上に、光の満ちあふれた波間へと泳ぎ進んだのです。
海上では島へ向かう一隻のフェリーが静々と海牛のようなのろいあゆみを進ませていました。
黄昏時のことで、涼しい風が甲板をふきはらい、騒々しい俗世の音をすべてかき消してしまっていました。
甲板では、手すりにもたれかかって、二人の男が並んで話をしています。
一人は、はるかな憧れにうるんだ瞳をもった、空想家の、寄辺無詩人(よるべなきしじん)でした。
詩人は──それが彼の名でしたが、職業でもありました。
舌をかすかに鳴らして、ふだんはひどく美しい言葉を吐き出す口をめずらしくうっすらと閉じて、憂鬱そうに垂らした前髪をかきあげ夢見る視線をときおり海に投げながら、底深い感覚に身をひたしているようでした。
もう一方の男はその友人で、強烈な眼差しが印象にのこる――名を現身客人(うつしみのまろうど)という、数多の職業を転々としたのち、今ではありとあらゆる危険な物品の密売をして暮らしを立てている現実ばなれした夢にはとんと関心のない男でした。
情熱的な、それでいて狡賢いところもある現身客人のような性癖の男が、どう見ても相容れなさそうな、空想家の、その名を裏切ることない心優しい詩人と親友だというのは誰でも不思議な気がしたものでした。
少年詩人のおもかげを残す美貌の詩人がいく度めかにふと目を海面に向けたとき、彼は言葉につくせない驚きを感じて立ちすくみました。
五感は痺れたように顫え、気持ちは乱れ、彼はただ夢の中のような、情熱の目で見ているだけだったのです。
なぜなら彼が海面に見つけたのは、とてもこの世のものとは思われない美しい人魚だったからです。
彼はすぐに信じました──それは彼があまりに強く憧れていたから、憧れに憧れる詩人だったからでしょう。
海から上半身を出した人魚の姿は、それは美しいものでした。
髪の毛はしとどにぬれて肩に流れ、すきとおるように白い肌、波にゆれる乳房、乳首はいかにもなめらかそうで,その感触は黄昏のそよ風がじかに触れるようにありありと詩人の唇に感じられました。
肉体の線がえもいわれぬ曲線を描いて、深みに沈む青にとけ,おぼろげな下半身は残光を受けると深い黄金の色を放ちました。
情熱は一瞬にして海水をも焼きつくす炎となりました。
さらに時おり音もなく海面を打つ、きらめく血のように赤いうろことひれを見た驚きはいっそう感動を強くし、感動はますます情熱の炎を燃えあがらせました。
詩人は人魚に愛を感じ、そうしてこのまま海獣姫とともに地球のゆるやかな球面にとけこんでしまうかのような錯覚さえおぼえました。
もし、傍らの友人があわてて彼を止めていなければ、彼は海に身を投げていたでしょう。
現身客人は何よりも疑い深い眼ざしをもっていたので人魚などたやすくは信じなかったのです。
あまりに夢見がち過ぎる――と自分を顧みれるなら、詩人は野生の馬の目の滓を煎じて飲んだら良かったでしょう。
そのうち船が進むのと、夕闇が迫るのとで、人魚らしい影は消えてしまい、確かめることもできなくなってしまったのでした。
詩人はそれがほんの一瞬のことでしかも、彼の今までの人生をはるか遠くに押しやってしまうほど強烈なものだったのを思いやりました。
海獣姫の驚きはそれ以上だったのです。
彼女は人間の男と言うものを初めて見て、たちまち魅了されてしまいました。
心を躍らせ、再びそのほてった頭を海水にくぐらせた頃にはもうどうしようもなく強く彼を愛していたのです。
詩人の澄んだ、憂いを帯びて情熱的な瞳を思うと、海獣姫のうろこは透明な火のように赤くなり、頬と体にはみるみる赤みがさして、熱くなりました。
海獣姫は夢中で海の深淵めがけて身を躍らせると、化石のような五茫星のかかげられた海底の洞窟へ向かったのです。
暗く澱んだ水の中に海獣姫がもぐりこむと燐光が洞窟の壁をゆらめかせ、尾びれの泡(あぶく)がごつごつした岩肌に跳ね返って、いくつも、薄気味悪い笑い声をたてました。
そこは長年にわたって海の藻屑たちが降り積もり、老いたイソギンチャクが干からびて岩となるように、魂が一筋の水脈に姿を変えた〃慟哭の魔窟〃でした。
ほんらいは深淵の水のように目には見えない、聞こえない、死者たちの声とはそんなものですが――ここではそれが無数のこだまとなって閉じ込められているので――ただ欲望に憑かれたものだけが無数のざわめきの中から自分の欲望にふさわしい予言を聞いたのです。
﹁人間の男に惚れたな﹂
声がしました。
﹁禁忌を破った﹂
﹁恋をした──﹂
﹁そうよ﹂
海獣姫は言いました。
﹁なんてこと﹂
﹁欲情しちゃったんだ﹂
﹁ああら、まあ﹂
﹁はしたない﹂
﹁天罰じゃ﹂
﹁ただではすまぬぞ﹂
波紋はたちまち広がりましたが、海獣姫は残響にはかまわず、全身から今までよりいっそうまぶしい光を発して、﹁お前は何がしたいのだ﹂という問いにきっぱりと答えました。
﹁あの人はどこにいるの。おしえてちょうだい﹂
いくつもの重なる声は苦しげに、青白い炎はさらに青白くなりましたが、息も絶え絶えに、それでもようやく、
﹁西の岬の端へ行け﹂
と答えました。
何か不可思議な力が、この禁忌を破った人魚から発せられていて、抵抗することができなかったのでした。
声が言い終わるか終わらないかのうちに、海獣姫は一目散、あともふりかえらずに西の海岸に向かって泳いだのです。息もつかせず泳いだのに、少しも疲れは感じませんでした。
海獣姫がたどりついた岩場には静かに波がうちよせていました。
星は蒼窮から神秘的な光を落として、海獣姫と詩人の間に、不思議な誘引力をかよわせているかのようでした。
そこでは大きな岩が海側に人が二、三人乗れるくらいの棚を迫り出して、陸側から見られるのをさまたげていました。
はやる心をおさえきれず、危険をおかしてももっと人のいる方にむかおうとした、ちょうどその時、こちらへ向かってくる誰かの足音が海獣姫の耳にはっきりと聞きとれました。
一瞬だけ、逃げようと思いましたが、逃れられない磁力が自分をその場に繋ぎ止めているのが感じられたので、そのままじっと、身をひそめていたのです。
現われたのはあの詩人でした。
彼もまた、恋する気持ちの幻に誘われるようにこの場所にやって来たのでした。
海獣姫は歓びのあまり尾びれを打って大きな水音をたててしまいました。
と同時に海獣姫を見つけた詩人の驚きと、そして歓喜は、言葉につくしようもありませんでした。
二人はどちらからともなく身を寄せ合い、くちづけをかわしたのです。二人を隔てる海水も岩も、大気や雲や月星までも、二人の放つ情熱に呑みこまれて一つの躍動する肉体となって夢の境地を漂いました。
それからは、二人はこのひとけのない岩場の陰で、逢瀬をかさねることとなったのです。
けれども、しかし、詩人には以前からつきあっていた人間の恋人がいたのでした。
毎日夜になると海獣姫と会うようになってからと言うもの、彼はただの人間でしかない恋人には何の情熱も感じませんでした。
ただこれまであんなにも愛しあっていたのに、今ここで急にうとんじるのはあまりに残酷なことのように思えたので、少しずつ相手を倦怠に誘いこもうと、苦しい演技をつづけていたのでした。
しかし彼は自分に真正直な人間だったので、愛してもいない少女に情熱をこめて口づけすることなど、うまくできるはずもなかったのです。
人いちばい情熱的で感性の鋭い、だからこそ詩人に恋されたのに違いない水乃茜は、詩人の愛が冷めたことを感じずにはいられませんでした。
疑いの余地はありませんでした。
昼間はまだ、それほどでもありませんでした。
が、黄昏時ともなれば彼はもうそわそわと落ち着かなくなり、言葉をかけても上の空,遠い海のかなたへ夢みごこちの視線を投げ、夜のとばりが落ちれば苛立ったきつい目をして彼女を見やり、何とか口実をつくっては一人きりになりたがるのでした。
茜は最初のうちは一時の気まぐれと思いこみ、気丈にも、なんとか耐えていましたが、そのうちどうしても押さえきれない情熱が身を焼き焦がすのを感じずにはいられなくなって、愛されたい欲望から、半ば狂気となって、ある夜、軽やかに身を翻して彼女のもとを離れていった詩人のあとをそっとつけていったのです。
詩人は満天の星の下、踊るように、歓喜にあふれて歩いてゆきました。
茜はますますつよく詩人を愛さずにはいられませんでした。
そのうちに彼は通りをすぎ、家々を離れ、海岸に達してしまい、慎重にあたりを見まわしながら、大きな岩の陰に入ってゆきました。
詩人の虚ろな恋人は波が足を濡らすのもかまわず、そっと、岩場の反対側に隠れて覗きました。
はじめは彼がひとりごとを言っているのだと思いました。
しかし耳を澄ませてじっと聞いていると、彼のうわずったさえずるような話し声に混じって、それにこたえる甘ったるく、可愛らしい澄んだ声が聞こえるのでした。
まさか詩人がそんな腹話術めいた遊びをするはずもありません。
彼女は無我夢中で岩陰からほんの少し顔を出して、目を凝らしました。
すると詩人は、美しい人魚と、抱き合っていたのでした。
茜は愛するがゆえにすぐに信じました。
そこで飛び出していかなかったのは、情熱が消えてしまったからではありませんでした。
彼女は愛の術をよく知っていましたから、そんなみじめな、無分別な行為をしようとは思いませんでした。
茜は強い決意と、なおいっそう強い詩人への愛を感じながら、静かにそこを立ち去ったのです。
しかし黄昏が近づくと、やっぱり、いつものように落ち着きをなくすのでした。
一番星が輝きはじめるころ、茜はとうとう口を開きました。
﹁わたしは人魚を見たわ。それはとても美しい人魚だったの﹂
詩人はふるえあがりました。
ついに海獣姫のことを知られたのかという不安と、それ以上に、彼女のいつにないぞっとするような可愛らしさのせいでした。
﹁人魚だって?﹂
﹁そうよ。あなたの美しい人魚姫のこと﹂
彼女の真っ黒な眼は、自由な生の体液にうるみ、茜はまるで今までかぶっていた偽りの女の皮をすっかりぬぎすててしまったようでした。
それは本当に美しい、自由な女の姿でした。
﹁あなたは人魚姫を抱くことができるわ。口づけすることも。けれども、それ以上は、最後まではできないのよ。
だってそれは異種交配なんだもの。あなたは本当に人魚を愛することができて?﹂
少女は羞恥心のかけらもみせず、しとやかさも、とりつくろった気品も装わず、素っ裸で、ただ思いのままに情熱をほとばしらせていました。
詩人はといえば心臓の中で血が、恐ろしく熱くわきかえるのを感じていました。
茜は最後にちらと詩人に顔をむけました。
その勝ち誇るようにうるんだ黒い情熱のまなざしは、いやが上にも詩人の柔な心の薄皮に傷をつけ、よみがえった愛の血をほとばしらせ、あふれでた血潮が舌の根にからまりました。
詩人は混乱をふりはらい、ようやく海岸にたどりつくと、頭ががんがん痛むのをこらえて、懸命に考えてみようとしました。
唇をかみしめ、こぶしで頭を叩きました。
けれども浮かんでくるのは茜の顔やら、海獣姫の美しい肢体やら、異種交配の一言から生まれたおぞましい熱病のような幻影でした。
詩人は海中で身をくねらせる海獣姫の姿を思いうかべました。
と同時に、深い緑の魔物のような密林や湿気、噴出する毒素、からまる蔦、腐った落ち葉、怪物じみた奇妙な形をした骸骨に、艶やかなうろこ、棘や角質、爪や牙や獰猛に光る目や、血をしたたらせた唇や、得体の知れない肉塊や、海底でそれをあさる嫌らしい虫けら、線虫や蟹、海蛇までが思いうかぶのでした。
詩人は青く静かな海原を見て気をしずめ、星をあおいでは海獣姫との神秘的な交わりのことを、深く断ちがたい愛を考えましたが、おぞましいイメージはそれでもとどまることを知らず溢れつづけ、ついには一瞬、赤いうろこと人間の女の融合したグロテスクな怪物──海獣姫に嫌悪を感じるまでになったのです。
けれども、さしものおぞましい幻想も、一時の絶頂を過ぎると清浄な愛の炎におおわれるかのように消え失せてしまい、詩人は少々のわわだかまりを胸の裡に残しながらも、いつもの岩陰へ出かけていきました。
詩人は先程ほんの一瞬だけにせよ感じた人魚に対する嫌悪感が、人間の恋人の方へ向かいはじめた愛のぶりかえしの発作だとは気づいていなかったのです。
詩人はそれまでの絶大な苦しみも迷いも忘れて、海獣姫をひしと抱きよせました。
しかしふとしたはずみに揺れ動く乳房がはねて、あおざめふるえる詩人の唇に触れ、こわばった手の指がうろこのびっしりと生えそろった腰をまさぐると、詩人は戦慄を覚えました。
思いもかけず勃起していたからです。
急激な体の変調が不安をよみがえらせました。とそれはたちまち喉の奥まで込み上げ、一瞬、詩人の頭に異種交配という考えがよぎりました。
欲望のすがたが隠しようもなくなると,詩人の体をなでていた海獣姫はそれと察して﹁あっ﹂と小さな声をあげましたが、
﹁わたしの下半身は魚なの﹂
と濡れた岩場に身を横たえて、人のものではない陰裂をおしひろげました。
その時の詩人の顔といったら、この世のものとは思われぬほどあおざめ、引き攣っていました。
詩人は物狂おしく海獣姫を抱きしめると、人魚と同じように裸になって,熱い欲望の器官をうろこの密集した海獣姫の下半身に押しあてました。
詩人は冷たくぬるぬるとした魚の胴体を肌に感じました。
それに自分の中で、何かが必死に叫ぶのを。
舌の根にからまる愛の血がふたたび生気を取り戻して膨れ上がった咽喉(のど)をふさぎ、勝手に体を動かすのを感じました。
彼は熱っぽい瞼をおしあげ、脂汗でぬれながら、人魚の下半身をまじまじと見詰めていたのです。
彼は逃げ出しました。
彼はあまりにも純粋な夢想家だったので、人魚が一匹の獣であることをきれいさっぱり忘れていました。星の影のような淡いイメージと戯れていただけだったのでした。
いざ直面してみるとあまりに繊細な感受性が獣の肉体の生々しさに耐えられなかったのです。
詩人の神経は死んだ魚ほども冷たく、腐った魚ほどもろかったのでした。
詩人は恐るべき混乱状態に陥りました。
それでも、その時点で、彼はたしかに茜を愛していたのです。
それはつい先程まで海獣姫に抱いていた憧れよりはるかに直接的な、奔放な愛情でした。
昨晩は自分の中の強烈な雄が、思いもよらず海獣姫を求めたのですが、詩人はそのことにすらすでに嫌気を感じていたのでした。
茜は、そうした俗情と憧れのいりまじった詩人の思いさえ受け入れて、たくみに昇華してくれたのです。
茜は類まれな情熱の器でした。
この人間の恋人はなんと魅力にあふれていたことでしょう。どうして今まで気づかなかったのか、瞳はなめらかに千変万化の感情をつたえ、笑い、泣き、うったえ、誘う表情は無垢でいながら、そこにいわく言いがたい媚薬の雫をひそませていました。
もはやいかなる宿命の絆も、神秘も、彼は海獣姫に感じていませんでした。それどころかかつての憧れに満ちたうるわしい感情に気恥ずかしさすら覚えていたのです。
ですからあの現身客人が海獣姫を捕らえようとしているのを知っても、止めだてしようとはしませんでした。
夜もふけて、人声も遠くなると、海獣姫はいつものように海蛇のようにしなやかに、音もなく岩場に泳ぎついたのです。
大きな岩の影に身をひそめて待っていた現身客人の人生でこの一瞬ほど、心臓が強く、はげしく鳴ったことはありませんでした。
彼が全身で感じていたのは、何より、かつてなく隅々まで意識された行為の金属のような味わいでした。
彼は獣を目前にした狩人のように、恋人にはじめて接吻する男のように、強烈な、しかしそれらよりはるかに冷たく、確実な行為の必要を感じたのです。
客人はそくざに海へ身を躍らせました。
海獣姫はその瞬間、当惑のあまり身動きすらできませんでした。
で、つかのま、夢を抱きしめる現実の無骨な愛撫の手で捕獲されたのでしたが、彼女が捕らえられた獲物に特有の恍惚境を感じたのは事実です。
しかし本能的に危険を察知したのでしょう、一瞬の後には、海獣姫は深い海の底へと逃れさっていたのでした。
客人は全身ずぶぬれになりながら、歓喜に打ち震えていました。
海獣姫はまぎれもなく現実の存在でした。
見晴し台のてっぺんから降りてきて、海のほとりの断崖の岩場の陰に、来て、見て、触った現身客人は宇宙の――今ここにいる海獣姫のすべすべとした肌、濡れた黒髪、何よりうろこにおおわれた下半身に、言葉に尽くせぬときめきを感じたのでした。
海獣姫はあまりのことに、気を失いそうになるのを必死でこらえながら、体は自然にあの〃慟哭の魔窟〃へ向かっていました。
海の藻屑の千里眼は海獣姫がまだ口を開きもしないうちから言いました。
﹁おまえはもうあの男に愛されてはいない。それにべつの恐ろしい眼差しを持った男にねらわれている﹂
海獣姫はこの突然の、さまざまな出来事の爆発にわれを失い、海中をあてどなくさ迷うだけでした。
現身客人は人魚が海中に姿を消すさまをはっきりと記憶にとどめると、次の日は小舟を用意して、海獣姫を待ちました。
もう来ないのではないだろうかという不安、今度こそという期待に身を震わせながら、昼の間中、その思いの頂点で、心細いような、感傷的な、えも言われぬ感覚にひたっていました。
現身客人はべつに人魚で一儲けを企んでいたわけではありませんでした。
逃げ去った海獣姫をもう一度この腕の中で実感したい。そのやむにやまれぬ情熱の前では、密売品の値踏みなどもはやガラクタ同然でしかなかったのです。
たそがれ時も近くなると、彼は黄金色にうねっている海をひたすら見つめて待ちました。
ようやく日が沈み、薄暗闇に赤い残光が投げかけられると、彼はちょうど真正面の水の中に、人魚の赤いうろこの反射を見たような気がしました。
彼は躊躇せず舟にとびのると、海原へ漕ぎ出しました。
しかし客人はあたりが深い闇につつまれる頃になっても、まだ人魚を見つけられませんでした。
何としてもいま一度人魚を見たいという欲望が強くわきあがり、彼は星明かりをたよりに、必死で瞳孔を見開きました。
彼はもう、生命が自分の内部でごうごうとうなりをあげて燃焼している感触のほか何も感じられないでいました。
現身客人はただ一対の強烈なまなざしとなって、真夜中、再びあの大きな岩場の陰に漕ぎつきました。
その時ようやく彼は人魚の光をかいま見たのです。
さらに強烈に見ること、それは行為することでした。
彼は小舟を惰性にまかせて、音もなく近づいてゆきました。
けれども、もし音を立てたとしても海獣姫は気づきもしなかったでしょう。
彼女は失われた恋に憔悴しきって、惑乱の果てに、ほんのつかのまおとずれた倦怠に身をゆだねていたところだったのです。
疲れ切ってすりへった本能にはもう危険をさける力も残されていなかったのでした。
客人はこの時、理屈も感情もあらゆるものを超えた行為の欲求を感じました。彼はその爆発のために変貌し、全世界のあらゆるものにとって――それどころか彼自身にとってさえ、まったく意味のない人間となって、海獣姫にとびかかりました。彼は再びあのせつなく胸をしめつける感触と、墜落の鼓動を肌で感じ、体が宙に浮きあがる気がしました。
海獣姫のしなやかな裸の上半身とうろこが密集する下半身の境界に食い込んだ指は、そこで人魚の神経そのものになって、肌と共に波打ち、心臓の鼓動と共にピクピク脈打って熱い血潮を送り出すのさえ感じられました。
彼は海獣姫の胴体のくびれにうまく腕をまわして、がっしりと締め上げ,身動きできないようにしてしまいました。
しかし岩場が、まさか海獣姫の涙のせいではないでしょうが、ひどく濡れていたため、足を踏ん張った拍子にみごとに踵をすべらせ、彼はもんどりうって海獣姫の乳房に顔を押しつけてしまい、そこに力の隙が生まれ、その瞬間、彼女は下半身の巨大なひれで現身客人のみぞおちを撃って突き放し、海に飛びこみました。
彼は危うく気絶しかかりましたが、肉体を絶した行為への欲求に促され、すぐに起きあがると、舟に飛び乗り、人魚を追って海へ漕ぎ出したのです。
普通なら肋骨の二、三本もへし折れて、悪くすれば肺に突き刺さってでもいるところでした。
痛みは骨をきしませまだ振動しているとはいえ、彼はさほどの苦痛も感じていなかったばかりか、実際にたいした傷も負っていなかったのです。
彼は恐ろしい勢いでオールをふりまわし、白煙を吹き上げるエンジンを全開にして追いかけたので、疲れ切った海獣姫にはふりきることができませんでした。
そのうえ、彼は隙を見て、錘のついたたいそう丈夫な網を投げて海獣姫のことを強く打つものですから、息苦しさのため、海中へもぐることもできないのでした。
東の空はもう、青白い夜明けの色を呈していました。
しだいに、暗い波間にも青いきらめきがよみがえりはじめ、彼らのいるあたりにも朝靄が、まだ弱々しい光に照らされてたゆたいはじめました。
燃え立つ恐ろしい眼を見開いて、疲れを知らない孤独な男と、疲労困憊した海獣姫の間隔は、時がたつにしたがって少しずつ縮まっていったのです。
客人が時おり投げる網はいっそう力を増して、海獣姫を打ち据えましたが、まだ捕まえることはできません。
海獣姫はわが身を苛むひどい苦痛の中でも、まるで夢でも見ているような安らぎを覚えていました。
まだ残る野生の感覚が海獣姫の雪花石膏の肌を紅潮させ、それは青黒い水に浸って、大輪の花のように咲き誇りました。
意識は混濁し、苦痛のもたらす錯乱したイメージが無数の棘で海獣姫の瞼の裏側を埋めつくしていましたが、夢を見ているような感触は徐々に増すばかりで、いたたまれない苦しさは、まるで夜明けの光に吸い込まれるように消えてゆくのでした。
太陽はすでに完全に光の全容を現し、まだ影でしかない光の渦で世界を包み、透き通る影の中で凍えた大気は背筋を伸ばし、海面に漣をたて、あたりをひんやりとした朝の気配で満たしました。
客人は爽やかな空気を胸に吸いこみ、目と、耳と、口と、皮膚からも感じとって、海獣姫を追いつめる歓喜を満喫していました。
めざす獲物はもうすぐそこに、手の届くところにありました。
投げられた網は一度ならず海獣姫を捕らえたのです。そのたびに、僅かなすきまから、彼女はかろうじて逃がれ去っていたのでした。
小舟を間近にひきよせて、あと一息というところでした。彼が投網をふりあげたとたん、突如あたりの静謐な水面のさまは一変しました。
小船のちょうど真下の青黒い中心めがけて渦が生まれ、それが見る見るうちに大きくなって周囲のものを物凄い勢いで吸いこみはじめたのです。
茫然自失の一瞬の後、とてつもない轟音と共に、海面をつきやぶって、彼の眼前に巨大な暗黒の塊が出現したのでした。
海獣姫はわけもわからず渦にまかれるばかりでした。
波を蹴立て、白い飛沫の壁をめぐらし、が、しかし現身客人は混乱のさなかにも視力を失わず、木の葉のように舞う小舟の上に立ったまま、暗黒の正体を見きわめました。
空中を浮遊した際には叢雲のように地上を翳らせた塊はふたたび轟音と共に海に突入しました。
それは見たこともないほど巨大な鯨だったのです。
大波に、舟は危うく転覆しかけましたが、彼は野獣のような敏捷さで櫂をあやつり砕ける波を乗りこえたのでした。
尾びれが海面を打つと黄金の飛沫を上げ、波がうねり――やがて自分が起こした大波に呑みこまれるように海中深く姿を消した、かと思った瞬間、間髪をいれず、鯨はまたもや海面を突き破り、浮上しました。
息をつくひまもありません。
巨大な海獣の体躯はまさに暗黒の塊で、大口をあけ、真空のように強烈に渦を吸いこみはじめると、水流は一気に、海獣姫と小舟をもろともに鯨の口腔まで流しこんだのです。 彼は最後の瞬間、大きく投網をふりあげ、力任せに投げつけました。
が、網は今まで以上に強く海獣姫の体を打っただけで、彼女はむなしく鯨の体内深く吸いこまれてしまいました。
海獣姫は流れに身をまかせながら、夢うつつの中に一筋の閃光が自分の体をまっぷたつに引き裂くのを眺めていました。
と突然、闇が世界の裂け目を閉ざしたかと見る間に、彼女は完全に意識を失ったのでした。
いっぽう客人はと言えば渦にのみこまれる寸前に小舟は鯨に激突して粉々に砕け散ってしまい、彼は目茶苦茶に網をふりまわしたので閉じた口に弾かれて鯨の背中をすべり、転がり落ちて、ふたたび身一つで逆巻く海原に投げ出されたのです。
海獣姫は暗闇の中を漂っていました。
どれくらいの時間がたったのでしょう。海獣姫は目を覚ましました。
茫然として、しばらく考えてみましたが、自分がどこにいるのかさえ見当もつきません。ようやく人間に追われ、投網で打たれたところまで、記憶を取り戻しました。
夢見心地からひきもどされ、それでもいまだ恐怖も不安も感じられないまま、少しずつ暗く澱んだ水の中を泳いでいきますと、海獣姫は大きな肉の塊のような陸地に行き当たりました。このときはじめて、彼女は自分がわけのわからない巨大な暗黒の体内に呑み込まれてしまったことを悟ったのです。
とたんにあらゆる混乱した思いがいっぺんにあふれでて、海獣姫は狂ったように泣いたり、叫んでみたり、身をよじったり、絶望と希望、不安と、恐怖と、抑鬱と、自傷行為と、硬直が、混濁した夢遊状態がめまぐるしくいれかわるなか、何時間も、幾日も、数週間も、半ば眠り、半ば錯乱しつづけながら、時が過ぎていったのです。
それでも、海獣姫は完全に狂気にとらわれてしまうことはありませんでした。
もともとが非常に強い生き物なので、こんな極限状態にあっても、常と変わらず生命を維持し続けていられたのです。
ですが、いつまでも外の世界で自由に泳いでいた彼女と同じではいられませんでした。
感受性も、性格も、また肉体的にも。
何かしら強烈な感情をもたなければ、とてもこの暗黒に耐えられなかったのです。
海獣姫は嘆きました。ひたすら、こんな場所にたった一人で打ち捨てられてあることを、人間の裏切りと、失われた愛のはかなさを嘆きました。追憶にふけっては悲嘆にくれ、長い時間をかけて少しずつこの暗闇を形造る空洞の曖昧な輪郭をなぞり、その針穴のような認識から、今ではすっかり得体の知れないものとなった外の世界へ思いを馳せるのでした。
海獣姫はそうして夢のような感情に閉じこもってしまい、もはや目の前の暗黒を見ようとはしないのでした。
見ることは何よりも底知れぬ恐怖を呼び起こしましたから、彼女の身にはあまりにも重く、麻痺毒や腐敗よりもつらいものでした。
暗黒は海獣姫をただ自らの体内に内蔵しているだけで、彼女を弄んだりしませんでしたが。それでいて強烈に働きかけ海獣姫を虜にしたのでした。
苛烈な夢が海獣姫のうちの激烈な気質を導き、鍛えたのか。それとも人魚の中の獣の部分を目覚めさせたのでしょうか。巨鯨の体内の永遠の夜は黒い激情の血を彼女の中に流しこみ、いつしか陥った眠りの中で、海獣姫はしだいに狂暴な野獣の強靭さを身につけはじめました。夢の中で投網が打たれるたびに、脳髄からは嫉妬や、もの狂おしい恋情や、復讐行為への欲望が沁み出してきて、肉体をさらに強靭なものに変えてゆきました。
暗黒が脈うつのにあわせて夢は千変万化し、炎のように海獣姫を包みこみ、火は赤く硬いうろことなって凝結し、異様に明るい光を暗黒に向かって放ち返したのです。外側の輝きは、海獣姫の内部に一層色濃く暗黒が息づいているからでした。それはまだ、身体のうちに静かに秘められているだけでしたが。
海獣姫が再び眼を開いた時、暗闇はもはや彼女の視線をさえぎることはありませんでした。
けれども、もはやあえて見る必要もなかったのです。
海獣姫が暗黒の一部となってから数ヶ月たったある日のことでした。
待ち望んだ時の訪れを告げるかのように、彼女が乗っている暗黒に浮かぶ肉の大陸は妖しく、熱く、息づき蠢きはじめたのです。
海上では、強烈な眼光を放つ現身客人が舳先に立って、ひたすらあの巨鯨が再び浮上してくるのを待っていました。
現身客人は青黒い海の底まで続くかのようなあの大渦の中から生きて脱出していたのでした。
水圧で鼓膜は破れ、片方の目は完全につぶれていました。が、彼は人魚を見失ったものの、欲望は見失っていませんでした。
生きて帰るとすぐさま、彼は密輸で稼いだ全財産をなげうって、鯨を捕えるため、船と船員を雇ったのです。
とやかく言う人たちもありましたがその声は客人には届きませんでした。文字通り聞く耳を持たなかったのです。
そして今、現身客人は、何ヶ月も待ったあげくようやく、海上はるかかなたに忘れもしないあの巨大な暗黒の姿を認めたのでした。
はるかに遠い一点の影を見ただけでも、彼は自分の肉体が力強く共鳴し、身震いと、髪の毛が逆立つのを感じました。
数ヶ月ものあいだ、彼の体は海風に晒され、いくども波に洗われたのです。日は肌を灼き、筋肉は半ば干からびてしまいましたが、彼は舳先に立ったまま、常にそこで見張り続け、病気の兆候一つ現わしませんでした。
病をよせつけないほど、見ることに憑かれたその肉体は強く熱く燃えさかっていたのです。
両眼はその狂暴な光で海面を透かすかのように、いつも油断なく視線をさまよわせていました。
頭上には青空が渦巻き、胸の中は暗黒への思いに混沌としていました。
帆は風をいっぱいに孕んでいました。
音もなく船を滑らせる風はまた苦く清々しい潮の香で、よりいっそう性急な
思いをかきたてたのです。
近づくにつれて、空は暗く灰色になり、しかも重苦しい青褪めた光を放つのでした。何か異様な生き物の一部でもあるかのように、空と海とが連動して蠢きました。
船員たちの騒がしい声も吸い込まれるように消えました。
木製の船体は熏んだ海の色に溶けこみ、帆だけが異様に白く、激しくはためき、唯一そこだけ、時間の流れに取り残された浮標のように、眼窩の奥にひるがえっていました。
彼は静かに思い浮かべていました。鯨の体内に散乱する人魚の白骨を。あらゆる音は暗黒の厚い壁に吸い込まれてしまうだろう、と彼は思いました。ぬめぬめとした体内で、すべての色を失った白骨がただそこでだけコロコロと乾いたかん高い音を響かせる他は。
その時でした。
水平線近くで異様な白い電光が走り、海と空が一つに繋がって、そしてそこに一つの巨大な影が浮きあがるのが見えたのです。
突然、
﹁行け! あそこだ!﹂
彼は大声で叫びました。
﹁あの光の落ちたところに、やつがいる﹂
船は波を蹴立てて進み、彼は一点を凝視しながらますますひどくなる眩暈に耐えていました。肉体が分裂して、手足も内臓も自分勝手に跳ねまわるのを感じました。再び、空と海は異様な光を、さっきよりもさらに強く発し、今度は船全体が光につつみこまれました。
﹁近いぞ、急げ!﹂
彼は叫びました。
﹁全速力!﹂
声を限りに叫んでも、自分の怒鳴り声さえ聞こえません。
﹁射撃用意﹂
彼は船員に指示を与えながら舳先に陣取り、自分用に特別にあつらえた銛撃ち銃のトリガを引き起こしました。
帆はなまあたたかい風を孕んでバタバタ鳴り、あの稲妻の落ちたあたりを中心に気流が渦を巻きはじめているのがわかりました。
船は、もう急かせる必要もなく操ることもできない猛烈な勢いで低気圧の中心に向かって引き寄せられてゆきます。
暗黒の生き物の吐く息吹のように大気は生臭く、熱くなり、気流は乱れて前後の帆を正反対の方向に、衣服をてんでにふくらませました。海はもはやうねりもせず、ただ表面が白く煮えたったように泡立っていました。
鯨の巨体の真上で、空は煙草の脂の色をして澱んでいました。
脂色の雲はびんに詰められた煙のように、そこでだけゆっくり対流を繰り返していました。
彼は舳先に立って、恐怖を通り越し、興奮を行き過ぎ、陽気にはずむ心をあられもない俗なオペラの旋律にのせて歌っていました。顔の血の気は失せ、体は小刻みにふるえていました。
彼は突然、英雄的な高揚の頂点から、倦怠と、疲労を感じてその場にへたりこみました。
悲壮感はなく、また恐怖もありません。
現身客人の意識の中で生きとし生けるものの姿は幻と消え、そんなものはまったく軽んじられてしまい、意識は空白となったのです。
暗黒と間近に接することですべてはいっそう速度を増し、めくるめく光と、匂いと、なまぬるい触覚をつきぬけ、とどまるところを知らず、鋭い切っ先となって船は混沌の中を突き進みました。
この瞬間。人々の争いからはるかに遠く、馴れ合いも慰めもない海上で。――巨大な暗黒の鯨が再び現身客人の眼前に姿を現わしたのです。
壁のようにそそり立つ肉の塊に向けて二十ミリ機関砲が掃射され、無数の弾丸が鈍い音を立てて鯨の体に突き刺さりました。
が、どれほどの打撃を与えられたのか、巨鯨は泡立つ海面にいくばくかの血潮を残して、暗い海中深く沈み込んでしまい、海上は一瞬の静寂に包まれたのです。
次にどこに奴が現われるのか、全員が固唾を呑んで見守っていました。
この機会を逃せば次はないと誰しもが薄々感じていたのです。
やがて巨鯨は静かに青黒い海の底から海面へと自らを浮上させました。共に持ちあげられたおびただしい量の海水は巨大なうねりとなって船に向かって押し寄せ、その波に巨体を隠して敵が突進してくることを察知した現身客人は舵を切らせるのと同時に船の横っ面に立ちはだかる水の壁に向かって一斉射撃を命じ、さらに今にも砕けようとする波頭に向かって爆雷を放り込みました。
船体を揺るがす振動とともに巨大な水の塊が噴き上がり、危うく一撃を逃れた船からは大波に甲板を洗われて、何人かが海に流されたのです。
船上で、人々は重苦しく沈黙していました。
人々の期待もむなしく巨鯨は再びその姿を晦ましました。
海と、空とは、彼らの様々な感情を具現化するかのように奇妙な形象を選んでひしめき、歪み、ざわめいて、灰色に静まりかえった異様な景観をいっそう耐えがたいものにしていました。
船員たちは遠からず自分たちを呑み込む暗黒に命を吸い取られてしまったかのように青褪め、硬直し、もはや死人のようでした。
やがて青黒い海が底の方から奇妙な光を発したかと思うと、彼らの直下、船をを取り巻く輪の真ん中に、巨大な影が浮かんでくるのが見えたのです。
油を流したように黒くなめらかな水面が灰色の空を映してゆっくりと盛りあがり、今にもそこから剥離して海全体が無数の霧状の断片となって消え去ってしまうのではないかと思うほど細かな網目模様が浮き出し、ひろがり、流れ、滝のように飛沫をあげて崩れ落ち、ついに暗黒の鯨の巨大な体躯が、しおからい泡を突き破って、ところどころ罅割れた空高くへ、悪魔のように悠然と跳ね上がったのです。
恐怖におののく船員たちを尻目に、現身客人は不適に笑っていました。
そして﹁屍体が海の底に引きずり込まれないように﹂と鯨めがけて一閃、銛を放ったのでした。
船員たちがわれに返って機銃をつかみなおすのと鯨の体当たりが船に命中するのはほとんど同時でした。
垂直に落ちてくる巨体は血飛沫をあげながら船を乗員もろとも木っ端微塵に打ち砕き、現身客人は銛に結び付けられた鋼索に体を絡めとられたまま、またしても海中に放り出されたのです。
しばらくはまだ船の破片の合い間で浮き沈みを繰り返していました。
が、海面に身を横たえていた巨鯨が突然最後の力をふりしぼって海中に身を躍らせ、またすぐ浮きあがり、その際に水流の衝突が生んだ大渦の中で巨大な口を開けたので、さしもの鋼鉄線の束も鯨の断末魔の痙攣に耐え切れず、彼は糸の切れた凧のように渦に巻きこまれ、ついには巨大な鯨の口腔に呑み込まれてしまったのです。
激しい動乱がやんで、気絶から覚めると、海獣姫は暗く半ば屍と化した鯨の内部に広がる湿地帯をなんとか這いずってゆきました。
ようやくたどりついた澱みには、それは流出した体液の溜まり場でしたが、どす黒い流木のような物体が浮かんでいました。
海獣姫はいぶかしみながら近くまで泳いでゆき、陸に引き揚げました。
それは人間の形をしていました。
死んだようにぐったりとしているのに、まだ熱く、生臭いにおいを体中から発散して、かすかに脈を打っていました。
そのうち、海獣姫はそれが誰かを理解したのです。
海獣姫は驚きのあまり、ひれを打って、二メートルほども飛び退いてしまいました。
すると、現身客人は目を開け、この暗さにもかかわらず、すぐさま海獣姫を発見したのです。
その強烈な視線は一瞬にして海獣姫の体をつらぬき、鯨の空洞に充満する漆黒の闇をもつらぬきました。
外なる闇は客人の内部の暗黒と共鳴して肉体は激しく燃え立つようで、彼はいっそう恐ろしい力をこめて、海獣姫を凝視したのです。
時間が逆流したかのようでした。
彼は身を起こすと、すぐさま海獣姫に跳びかかり、抱きしめ、組み伏せ、交わったのです。
海獣姫は抵抗もしませんでした。
鯨の巨大な死を浸していた暗黒は人魚の体内をとおって直に客人の中に浸入し、血潮となって流れ、お互いのあいだを循環し、脈打ち、白熱し、蒸気のように渦を巻いて充満しました。
異種交配の精気は海獣姫をさらに青白く、なまめかしく、暗く翳った美しい未知の生き物に変えたのです。
いっぽう現身客人は、瞬き一つする間に再びこの世に生まれ落ちたのでした。
ちょうどこの場所に、隕石のように落下したのです。
彼は海獣姫から生まれたのでした。
現身客人はただ見ることによって残酷に行為し続け、永遠に愛されることのない男のまま、いっそう残酷に見続け、行為し続けました。
存在しない愛は無敵でした。
無限に反復される彼の行為は暗黒の廃墟に惜しげもなく愛の空虚をばらまき、海獣姫のうちに身震いするような行為の衝動を呼び覚ましたのです。
彼はあのときから肌身離さず身体に巻きつけていた網の切れはしで海獣姫を激しく打ち据えながら言いました。
﹁復讐だ! 復讐するんだ﹂
海獣姫は打たれながら憎み、咽び、笑い、叫んで、夢のようなめくるめく感情の変転の中で、自分が吸血鬼のように、かつての恋人の鮮血にうるおう柔肌を求めているのを感じました。それはまるで新たな恋のような感情でした。
異なる種属の感覚を一つにとけあわせて抱きあったまま幾日かが過ぎるうち、かつて鯨の体内であった肉壁とよどんだ体液からは強い腐臭が感じられるようになりました。
彼らは腐臭に身を埋めたまま、さらに数日を過ごしたのです。
やがて自分自身を支えきれなくなって、溶け出した肉壁は流動体となって彼らを呑み込みはじめたので、二人は急いでこの腐りかかった巨大な肉塊から脱け出さなければなりませんでした。
彼は海獣姫をひきつれて、肉塊を押し広げ、くぐり、強烈な腐臭にむせながら進みました。早くも暗黒の色が褪せた肉はある場所では白っぽく、またある場所では緑色にまでゆるんで溶けて、しつこくまとわりつく肉のかけらが、何度となく彼らの行く手をさえぎりました。なにしろ鯨全体としては死んでいても各部はまだ強い生命力を残していたのでした。
緑色の蔓のような細胞と、紅色の舌と、鑢のような白い歯が裂けた筋の間にまばらに混じり、それぞれが単細胞生物のように獲物を求めて、音もなく蠢いていました。桃色の、どうやら発情していると思しいある肉片などは海獣姫を吸いつけると、脈打ちながら愛撫さえ加えはじめたのです。
二人は仕方なく情欲に満ちた肉の中に埋まりながら交合し、なにしろ鯨の肉に犯されないためには先手を打って塞いでおく必要があるのですから、ひっきりなしに交わりながら、いくつかの夜といくつかの昼を、周囲の屍肉が腐りきるまで――腐りきって活動を止め灰色に濁った組織が崩れはじめるまで、噴門近くのその場所に留まるしかありませんでした。
彼らは、目を覚ますと再び、緑色の肉の上を歩いて行きました。
溶けた肉から分離しかかった筋繊維は網目のように浮きあがって絡み合い、一足ごとにまとわりつきました。緑色で、まるで蔦のように細く伸び、曲がりくねった奇妙な線で透かし模様を空中に描き、触角で空中をまさぐるように、途切れた先端がくるくるまわり、それは磁気にあやつられた柔らかい自動機械のように二人の体をくすぐるのでした。
進んでゆくと彼らは再び暗黒の大地に行きあたりました。が、そこでは、腐敗はかえって大地を活気づけていたので、足元は熱く烈しく脈うち、溌剌として、なまめかしいほどでした。
その部分は腐って数倍に膨れ上がった巨大な鯨の精巣でした。
大地の熱気はいやがうえにも二人の激情を高めたので、数えきれない抱擁と、交合と、荒々しい愛撫と虚脱の合間に、夢を分かちあった覚束ない足どりで歩きつくすのには、幾日もかかりました。
彼らが暗黒の大地を突破するころには、まわりの肉壁は驚くほど色褪せ、瘡蓋(かさぶた)のようにかさかさに乾き、擦り切れたように薄くなり、たがいの顔が差しこむ光によって判別できるほど明るくなってきました。
暗黒に慣らされた目にとってそれは眩しいくらいだったのです。
なおも進んでゆくにつれてはっきりと、自分たちが外側のすぐ間近に来たことが感じられました。
腐肉はすでに大部分が波に洗われて、流れてしまい、あるのは溶け残った骨格と石灰質の沈殿、乾き切った繊維でできた穴だらけの垂れ幕といった、かつて鯨であったものの形骸でしかなかったからです。白々と乾き、崩れかかり、もはや巨大な暗黒を息づかせた生命は影もありませんでした。それでも客人は残骸を透かして見るぼやけた景色の彼方に、より強大な暗黒の再生を予感しないではいられませんでした。
襤褸襤褸になった鯨の厚い外皮を砕いて、人が通れるだけの穴をあけると、ひどく乾いて白々とした太陽光が網膜に広がりました。
彼らはついに外側に出たのです。
塔のように突き立った白骨は太陽の光を吸収し、表面は暖かく、まぶしく輝いていました。
その場所は海を下方に望む小高い丘のてっぺんで、ほんの少しばかり潅木の茂みがあるほかは砂漠のように乾いた地面が、白と黄色のいりまじる海岸までゆるやかにつづいていました。
海獣姫はこのところの乾燥がこたえたのか砂の上に倒れこんでしまい、彼が引きずらなければ僅かばかりも動けないのでした。
二匹の獣は絡み合いほとんど斜面を転げ落ちるように、白い粘土質の段差に転んでうろこをはがし、潅木に長い髪の毛を引っかけ、乳房をすりむきながら、鋭い砂にまみれ、邪険な小石がくいこむ足裏の痛みに耐えながら、少しずつ降りて行きました。
空気はさほど熱くありませんでしたが、かすかな湿気すら感じられません。
丘の上をふりかえると、打ち上げられた巨大な鯨の屍体が、襤褸屑の山になって、陽光に灼かれ、打ち捨てられた旗のように横たわっているのが見えました。
ここではもの皆すべてが乾き切っていました。
正午にさしかかる頃、彼らはようやく海岸にたどりつきました。
太陽は砂丘と海を光であふれ返らせ、まばゆくて眼も開けていられないほどでしたが、そこで潮騒と濃密な海の香りが、彼らに襲いかかったのでした。
彼は海獣姫を乱暴に海中へ投げ入れました。
そして自らも続いて飛び込んだのです。
水は透明でしたが、岩場のせいか、あるいはあまりに強烈な太陽の光との対比のせいでしょうか、海中の光景は異様に黒ずんで見えました。海獣姫は海水に浸かってようやく生気を取り戻しました。
うるんだ瞳を見開くと、空を仰いで眼をしばたかせ、髪を震わせ、彼に寄り添い、ひれで大きく水面を打ちました。明るい陽の光が降りそそぐ中、うろこは濡れて波打つ下半身を赤くきらきらとおおい、肌はしっとりと潤いました。
潅木の下には日陰すらありませんでした。だから彼らはほとんど海の中で過ごしました。乾き切った砂が体にへばりつくと瞬く間に水分を蒸発させてしまうのです。
水は表面は冷たいのですが、中はなまめかしいほどに温かく、波打ち、縮み、ふくらみながら流れていました。二人は海の中で、浮きつ沈みつしながら抱擁しあいました。
海水は苦く、鼻から口へ逆流します。早回しにされた潮の満ち引きのような、時間が共存するいりくんだ流れは、ただでさえ泳ぎの不得意な人間を翻弄せずにはおきませんでした。
溺れかかった現身客人を海獣姫が水中から持ち上げると、支えを失った客人は真っ逆さまになって、こんどは冷たく硬い海の表面に顔をぶつけ、海獣姫はさらに強くしがみつかれ、もろともに沈みかかるのでしたが、岩にぶつかる寸前に、海獣姫はひれを打って反転し、彼を抱きしめたまま香油のように濃密な海水と共に浮きあがりました。
永遠に続くかと思えた午後にもようやく翳りが見えはじめました。
黄昏をむかえ、白熱光が薄れた空はあめ色に染まり、それでも強烈な太陽は雲一つ出現させず、いざ沈んでしまうと、あたりにはたちまち壮絶な数の星々をちりばめた暗黒の天蓋がかぶさりました。
彼は一人で丘を登って行きました。
その姿は、たちまち暗い夜の中にかき消えてしまい、海獣姫はなまめかしい海を沖に向かって泳いでいったのです。
海獣姫はふるさとの海に帰ると、暗く湿った赤いうろこで誘惑して一匹の鮫を情夫にしました。青く狂暴な海の底の伊達男は、まるで現身客人が乗り移ってでもいるかのように貪欲で、冷酷で、海獣姫の言うがままでした。
ざらざらとした鮫肌が人魚のうろこをこすり、柔肌を激しく傷つけましたが、彼女は平気でした。
ひれは不器用に荒々しく彼女をたたき、鼻先は軽々と海獣姫をおしたおし、ざらつく皮膚をことさらにささくれ立たせる鼻面の白い傷跡さえ、彼女はいつくしんだのでした。
その頃、詩人と茜は、とある観光地の船に乗って川を下っていました。
両側は静謐な森林が広がってみずみずしい緑に息づき、あいまに聳え立つ断崖の黒と好対照を見せていました。ゆったりと流れる川の水は森を映して濃紺と深緑に染まっていました。水面に落ちた陰鬱な影は雲ではなく、船の、また人の影でもなく、なにか別の時間の生命を宿して揺れているかのように感じられたのです。
黄昏を迎えて周囲はしだいに暗くなり、緑はいっそう深い森自体の暗闇に沈みはじめ、空はかすんだ青から燃えるような橙に変り、所々に煙のような雲がかかって、水は、もはや空を反映して黄金のさざなみを立てるのみでした。
詩人はたまらず茜に接吻しました。
恋人は瞳をうるませ、きらきら輝かせながらくちづけを返しました。
詩人はついにこの世に実現されたこの上なく清らかな楽園の美しさに吸い込まれるような眩暈を感じました。
空では燃えさかる赤と黄と橙が静かに燃えつき、冷たく暗く澄んだ天蓋の青に吸いこまれ、残照の断片もやがて見えなくなりました。
しかし太陽が姿を消したというのにあたりは思ったほど暗くはならず、霧がかかったように朧気に明るんでいました。
岩々の輪郭は見た目にもはっきりと薄らいでゆき、かわりに森の緑が膨張したように存在感を増して、時と共に、潮が満ちるように彼らの周囲のすぐ側まで迫ってきたのは陰鬱なほど濃厚にただよう緑の匂いでわかりました。
船は音もなく水面をすべるように川を下って行きました。
と、どこからか聞こえるともなく聞こえるかすかな、美しいささやきのようなものが、どうやらそれは霧の中にもはっきりと危険なものとわかる左側の大きな岩塊の方から流れてくるらしかったのですが、風のような、空洞に反響する水音のようなその息吹きは、寂しく、美しく、この世のものではない旋律を奏でながら徐々に大きくなってゆき、森の奥深く染みわたり、霧はさやかにふるえました。
人々は茫然として聞き入っていました。船が磁力に引かれるように大岩に近づいているのに、身動きひとつせず。
その瞬間、川の上の一部分だけふわりと、霧が晴れわたりました。詩人は見ました。水に洗われた岩の斜面に身を横たえた、なつかしくも美しい海獣姫の姿を。
彼女の肺が発していたのでした。
彼女が歌っていたのでした。脈うつ腹、人を痺れさす野生の息吹きは、海獣姫の美しさをいっそう際立たせていました。
やがて船はとどめるものもなく岩に激突し、粉々に砕け散ってしまい、詩人も、恋人の茜も、夢見ごこちのままに水中へ投げ出されました。それらの音は少しも響くことはなかったのです。
茜は水の中でもぱっちりと瞳を開いたまま、情熱的な微笑を浮かべました。
すると青く冷たい皮膚の鮫が音もなく近づき、情熱で張ち切れんばかりの若い肉体を食いちぎりました。
鮮血はさっと水を染め、このうえなく官能的な茜の肢体は鮫の味覚に愛撫され、熱い血に浸り、食い裂かれ、呑み込まれてしまいました。
貪欲な鮫の愛撫は荒々しく、乳房を引き裂きながら、すばらしく生き生きとくびれた胴体をふりまわしました。
その時、食いちぎられた茜の下半身は媚びるように、奇妙にも晴ればれとした軽やかな動きで、ひょいと足を持ち上げました。 それは詩人にもうまく言い表せない、痛々しいのにどこかおどけたような、なまめかしい感触を呼び起こさずにはいませんでした。
詩人は夢の中に海獣姫の姿を見つけました。海獣姫は詩人を抱きしめるとそっと唇をあわせてから、首に腕を回しました。
彼女は夢中で口をあけ、かみしめ、頚動脈を噛み破り、そこに唇をあて詩人の生血を味わいました。どくどくと勢いよくあふれ出す血は海獣姫の舌をぬらし、のどをうるおし、体中に拡がって、この上なくすばらしい、いつ終わるともない生きている時間を感じさせてくれました。
詩人の血は勢いよく噴き出すあまりに口からあふれ、白い首筋をつたい、乳房を赤く染めながら、水にとけ、茜の血と混じり合ったのです。
海獣姫は新鮮すぎる血にむせかえり、自らを溺れかけさせながらもさらに深く、一瞬ごとに変貌する歓喜の渦に呑みこまれ、行為に身をゆだねました。飲み込んだ血は彼女の頬を紅潮させ、青白い肌は熱をもって、内と外から二重に熱く燃えあがり、瞳は星さえおよびもつかない光を放ち、体のすみずみまでを異様な戦慄でふるわせました。
残らず血を吸いとってしまうと、海獣姫は満腹した鮫といっしょに故郷の海に向かって泳いでいったのです。 詩人の屍体は蝋のように青白く夢見るようにまぶたを閉じて、静かに川面に浮かんでいました。
夜、暗雲が空を覆い、帯電した大地と雲間に稲妻が走り、暗黒と大地の交歓が空間を濃密な体液で埋めつくしました。嵐をつらぬく紫色の閃光はよりいっそう世界を錯乱させ、ものみなは激情の極に達していました。
現身客人は一人海沿いの斜面を登ってゆきました。
雨は叩きつけてくるばかりか泥のしぶきとなって跳ね返り、強風にひきちぎられた草や、葉や、木の枝の破片が、飛んで来て顔にあたりました。
何ものをも強烈に見究めずにはいない、彼は濡れそぼり、時に膝を折りながら、なおも眼をひらきました。
頂上は平らな草原になっていました。雷鳴は木々を揺さぶる暴風雨の音をかき消し、地面は溶け出し、草原は動物の生命を乗り移らせたかのように身もだえ、踊りました。
彼は見ました。
暗黒をつらぬいて閃光が走り、そして雲の亀裂が橙の光の笑みを漏らすのを。
次の瞬間、大地に向かって放たれた稲妻が、空間を引き裂き、雨を掻き消し、黒々とした天蓋ごとおおいかぶさるように凄まじい勢いで大地に達し、草の上に立った現身客人の上に落ちました。
稲妻は彼の体をつらぬき、血を沸騰させ、肉を焼き、地面に触れると燃えない炎をあげて、放射状に拡がり、激烈な光の愛撫で一帯をつつみました。
一瞬の静寂の後、堰を切ったように暗黒と閃光の爆発はいっそう激しさを増し、世界は混沌と化したのです。
青く澄んだ黎明につづいて、朝がやって来きました。
すると、風雨に打たれた草々は水分を含んだ若々しい緑の切っ先を燦然たる光に向けてをふりあげました。大地はやさしく横たわったままひとつ、深呼吸をしました。
太陽は熱い光を投げかけていましたが、大地はまだ昨晩の雨のなごりで、ひんやりとした爽やかな感触をたもっていました。緑のあいまに通う雷鳴の息吹き。稲妻を吸い込んだ水たまりは、青空を純粋な液化ガラスの表面に鮮やかに映していました。
大地の朝の静謐からは、耳鳴りのように、昨夜の混沌が響き返しています。
草原の真ん中には、仰向けに、ぐっと首を反らして倒れている人間の姿がありました。光が照らすと、蒼白な顔は緑の反映をうけて染まり、黒い服は大地にはりついて、そこに溶けこんでしまうようでした。
水にぬれて唇は鮮やかに赤く、軽くとじられ、両眼は黒く大きく無理やり見開かれていました。白目の部分の印象はもっと鮮烈でした。青空は瞳ではなく白目に映っていたのです。
黒髪はおどろおどろしく乱れて草に絡みつき、水たまりの中で、蛇のようにうねくっていました。
男の半身はよく見ると少しばかり焦げていました。手首が妙な具合にひん曲がり真っ直ぐ天に向かって起きていました。瞳のただならぬ暗黒は太陽の光をはねかえし、顔の周囲に草いきれの緑のそよぎを渦巻かせていました。
すっかり夜が明けきると、そこに黒々とぬりかえられた青空が置かれました。
世界の天蓋は昨日までとは別の物になった、確かにそう感じられるのはなぜでしょう? 答えはありません。誰も応えるものはいません。海獣姫も詩人ももういないのです。茜のよくとおる澄んだ声が谺することもありません。
まったくもって遠ざかってしまった太陽はそれでもまだはるか遠方から緑と、水と、地面をあたため、冷えた体をあたためましたが、男が生き返ることはありませんでした。男のぬけがらが横たわっている大地が水たまりをとおして黒い土の色を映し出し、時おり風にそよいだ水面がきらきらと輝いて、透明ながらそこが水の下であることを、静かに、はっきりと示すのでした。
﹁彼は天の邪悪な意志といれかわったのだ﹂
これは作者の***が中学二年生の時、『仮面騎士』に先立って書いた小説で、わら半紙に手書きという、最も原始的な個人出版であるところも同じである。『山上登集成』の第Ⅵ巻という体だが、他の巻はない。当時作者の枕頭の書であった『澁澤龍彦集成』の影響だろう。
以下に現物のスナップショットを掲げておく。
まがい物ではないリアル中二作品の証拠となるかどうか。
なおここに収録したのは後に(あまりに読みにくいので)登場人物に名前をつけ文章に手を加えた改稿版である。
●文学
◆漫画
★特撮・アニメ
▲映画
◎社会・事件
1970(昭和45)
●澁澤龍彦『澁澤龍彦集成』/倉橋由美子「霊魂」/埴谷雄高『闇のなかの黒い馬』/吉田知子『無明長夜』/吉行淳之介編『奇妙な味の小説』/中岡俊哉『世にも不思議な物語』/稲垣足穂『ライト兄弟に始まる』/加藤郁乎『牧歌メロン』/種村季弘『吸血鬼幻想』/出口裕弘訳『無神学大全Ⅱ 内的体験』(バタイユ)/人文書院版『アンドレ・ブルトン集成』/矢野浩三郎&青木日出夫『世界の怪談』/森銑三&鈴木棠三編『奇談・紀聞 日本庶民生活史料集成16』/ラモナ・スチュアート『デラニーの悪霊』/ホセ・ドノソ『夜のみだらな鳥』/ツヴェタン・トドロフ『幻想文学 構造と機能』
◆手塚治虫『やけっぱちのマリア』/ジョージ秋山『アシュラ』
★あしたのジョー/魔法のマコちゃん/チキチキマシン猛レース
▲座頭市と用心棒/ハレンチ学園/クレールの膝/M★A★S★H マッシュ/エルビス・オン・ステージ/戦略大作戦/エル・トポ/ワイルド・パーティー
◎大阪万博/円谷英二死去/よど号ハイジャック事件/瀬戸内シージャック事件/黒い霧事件/三島由紀夫自決
1971(昭和46)
●荒木良一『妖花譚』/円地文子「冬の旅」/宗谷真爾『影の神』/野坂昭如「砂絵呪縛後日怪談」/半村良『石の血脈』/三浦哲郎『ユタとふしぎな仲間たち』/森内俊雄「骨川に行く」/筒井康隆『日本列島七曲り』/平井和正『狼の紋章』『超革命的中学生集団』/澁澤龍彦編『暗黒のメルヘン』/矢野浩三郎編訳『恐怖と幻想』/田中千代松『新霊交思想の研究』/谷川健一『魔の系譜』/西丸震哉『山だ原始人だ幽霊だ』/馬場あき子『鬼の研究』/角川文庫版《横溝正史シリーズ》発刊/J.P.マンシェット『ヌギュストロ事件』/トマス・トライオン『悪を呼ぶ少年』/ウィリアム・ピーター・ブラッティ『エクソシスト』/R・マシスン『地獄の家』/ピーター・アンダーウッド『英国幽霊案内』/リチャード・デイヴィス編《年刊恐怖小説傑作選》発刊
◆楳図かずお『アゲイン』/手塚治虫『アラバスター』/ジョージ秋山『銭ゲバ』
★仮面ライダー/宇宙猿人ゴリ/ミラーマン/ふしぎなメルモ/ルパン三世/アパッチ野球軍
▲団地妻 昼下りの情事/ゴジラ対ヘドラ/書を捨てよ町へ出よう/ダーティハリー/フレンチ・コネクション/小さな恋のメロディ/ベニスに死す/バニシング・ポイント/WR オルガニズムの神秘
◎ドルショック/マクドナルド日本1号店/カップヌードル発売
1972(昭和47)
●小松左京『怨霊の国』/さねとうあきら『地べたっこさま』/杉本苑子『今昔物語ふぁんたじあ』/都筑道夫『十七人目の死神』/中井英夫『幻想博物館』/澁澤龍彦『悪魔のいる文学史』/平井和正『死霊狩り』/星新一「門のある家」/筒井康隆『家族八景』『俗物図鑑』/三浦哲郎「楕円形の故郷」/薔薇十字社版『大坪砂男全集』/金井美恵子『春の画の館』/澁澤龍彦編『幻妖 叢刊日本文学における美と情念の流れ』/《別冊現代詩手帖 生田耕作編 泉鏡花―妖美と幻想の魔術師》/阿部正路『日本の幽霊たち』/奥野健男『文学における原風景』/三島由紀夫『小説とは何か』/巖谷國士訳『充ち足りた死者たち』(J・マンスール)/創土社版《ブックス・メタモルファス》発刊/J.P.マンシェット『狼が来た、城に逃げろ』『地下組織ナーダ』/トーマス・オーエン『黒い玉』/ジョン・ブラックバーン『小人たちがこわいので』/ピーター・ヘイニング編『英国恐怖小説名作集』『欧米恐怖小説名作集』『魔術師小説集』/R・ラモント=ブラウン『海の怪』/ウィリアム・G・ロール『ポルターガイスト』
◆永井豪『デビルマン』/萩尾望都『ポーの一族』/梶原一騎・中城健『カラテ地獄変/ボディガード牙』/藤子不二雄A『魔太郎がくる!!』/ジョージ秋山『ザ・ムーン』/吾妻ひでお『ふたりと5人』
★人造人間キカイダー/科学忍者隊ガッチャマン/マジンガーZ/レインボーマン/サンダーマスク/アイアンキング/海のトリトン/デビルマン/必殺仕掛人/木枯し紋次郎/太陽にほえろ!/あなたの知らない世界
▲子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる/子連れ狼 三途の川の乳母車/子連れ狼 死に風に向う乳母車/女囚701号 さそり/徳川セックス禁止令 色情大名/エロ将軍と二十一人の愛妾/ポルノの女王 にっぽんSEX旅行/牝猫たちの夜/一条さゆり 濡れた欲情/ゲッタウェイ/ゴッドファーザー/ラストタンゴ・イン・パリ/ルートヴィヒ/惑星ソラリス/小さな悪の華/ピンク・フラミンゴ/ディープ・スロート
◎横井庄一帰還/札幌オリンピック/あさま山荘事件/千日デパート火災/沖縄返還/ウォーターゲート事件/ミュンヘンオリンピック事件
1973(昭和48)
●秋山正美『葬儀のあとの寝室』/天沢退二郎『光車よ、まわれ!』/武満徹「骨月――あるいは a honey moon」/田中小実昌『幻の女』/津島佑子『生き物の集まる家』/花田清輝『室町小説集』/安岡章太郎『もぐらの手袋』/山村正夫『陰画のアルバム』/小松左京『日本沈没』/原武男『江戸時代諸国奇談』/川村二郎『銀河と地獄』/粕三平編『お化け図絵』『浮世絵の幽霊』/平井呈一訳『アーサー・マッケン作品集成』/沢渡朔『少女アリス』/《国文学 2月号 異端文学の世界》/《芸術倶楽部 8月号 逆宇宙もしくは怪異幻想》/《幻想と怪奇》創刊/トライオン『悪魔の収穫祭』/トマス・ピンチョン『重力の虹』
◆永井豪『バイオレンスジャック』/手塚治虫『ブラック・ジャック』/山岸凉子「ゆうれい談」/つのだじろう『恐怖新聞』『うしろの百太郎』
★仮面ライダーV3/子連れ狼/キカイダー01/ドラえもん/新造人間キャシャーン/エースをねらえ!/キューティーハニー
▲仁義なき戦い/かみそり半蔵地獄責め/不良姐御伝 猪の鹿お蝶/ポルノ時代劇 忘八武士道/子連れ狼 冥府魔道/ジャッカルの日/パピヨン/地獄の逃避行/ウィッカーマン/燃えよドラゴン/荒野のストレンジャー/イルカの日/ジョニーは戦場へ行った/青い体験/最後の晩餐/エクソシスト/ペーパー・ムーン/ホーリー・マウンテン/ミツバチのささやき/悪魔のはらわた/ソイレント・グリーン/恋人たちは濡れた/やくざ観音 情女仁義/(秘)女郎責め地獄/濡れた荒野を走れ /ミス・ジョーンズの背徳
◎オイルショック/金大中事件/大洋デパート火災/ストックホルム症候群/五島勉『ノストラダムスの大予言』大ヒット
1974(昭和49)
●赤江瀑『ニジンスキーの手』『オイディプスの刃』/阿部昭「幽霊」/生島治郎『あなたに悪夢を』/今江祥智『ぱるちざん』/川路重之『夏織・焚かれた女』/小松左京『さらば幽霊』/寺山修司『新釈稲妻草紙』/長谷川修『遙かなる旅へ』/日影丈吉『幻想博物誌』/福島正実『ちがう』/森敦「月山」/山口年子「かぐや変生」/吉田知子『蒼穹と伽藍』/吉行淳之介『鞄の中身』/河野典生『ペインティング・ナイフの群像』『街の博物誌』/中岡俊哉『恐怖の心霊写真集』/平野威馬雄『お化けは生きている』/山田野理夫『東北怪談の旅』/中島河太郎&紀田順一郎編『現代怪奇小説集』/安藤元雄訳『シルトの岸辺』(ジュリアン・グラック)/巖谷國士訳『百頭女』(エルンスト)/平井呈一編訳『こわい話気味のわるい話』/《ユリイカ臨時増刊 総特集オカルティズム》/《國文學 8月号 日本の幽霊》/《幻想と怪奇 3月号 幻妖コスモロジー・日本作家総特集》/第一次《奇想天外》創刊/ジャン・ヴォートラン『パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない』/A.D.G.『おれは暗黒小説だ』/スティーヴン・キング『キャリー』/ジェイムズ・ハーバート『鼠』/マーリス・ミルハイザー『ネラは待っている』
◆永井豪『イヤハヤ南友』『けっこう仮面』/萩尾望都『トーマの心臓』/白土三平『神話伝説シリーズ』/山上たつひこ『がきデカ』
★仮面ライダーアマゾン/グレートマジンガー/魔女っ子メグちゃん/ゲッターロボ/宇宙戦艦ヤマト/
▲花と蛇/生贄夫人/(秘)色情めす市場/田園に死す/ダラスの熱い日/悪魔のいけにえ/悪魔の赤ちゃん/エマニエル夫人/狼よさらば/ダーティ・メリー・クレイジー・ラリー/ファントム・オブ・パラダイス
◎三菱重工爆破事件/小野田寛郎発見/兵馬俑発掘/ハローキティ誕生
1975(昭和50)
●赤江瀑「花曝れ首」/源氏鶏太『死神になった男』/都筑道夫『怪奇小説という題名の怪奇小説』/深沢七郎『無妙記』/三田村信行『おとうさんがいっぱい』/中村苑子『水妖詞館』/塚本邦雄『琥珀貴公子』/矢野浩三郎編訳『怪奇と幻想』/仁賀克雄編訳『幻想と怪奇』/紀田順一郎ほか『出口なき迷宮 反近代のロマン〈ゴシック〉』/服部幸雄『変化論』/国書刊行会版《世界幻想文学大系》発刊/《牧神》《幻影城》創刊/白水社版《小説のシュルレアリスム》発刊/S・キング『呪われた町』/ピーター・ストラウブ『ジュリアの館』/フランク・デ・フェリータ『オードリー・ローズ』/グリーン&マクレリー『霊怪』/J・G・バラード『ハイ-ライズ』
◆萩尾望都『11人いる!』
★仮面ライダーストロンガー/秘密戦隊ゴレンジャー/宇宙の騎士テッカマン/タイムボカン/鋼鉄ジーグ/UFOロボ グレンダイザー/悪魔のようなあいつ/俺たちの旅
▲新幹線大爆破/アイガー・サンクション/風とライオン/コンドル/ジョーズ/ロッキー・ホラー・ショー/O嬢の物語/ピクニックatハンギング・ロック/デス・レース2000年/アンデスの聖餐/イナゴの日/悪魔の追跡
◎ベトナム戦争終結/七里ガ浜抗争
1976(昭和51)
●中井英夫『人形たちの夜』/五木寛之「日ノ影村の一族」/井上ひさし『新釈遠野物語』/高木彬光『大東京四谷怪談』/西村寿行『滅びの笛』/藤枝静男『田紳有楽』/藤本泉『呪いの聖域』/松谷みよ子『死の国からのバトン』/平井和正『悪霊の女王』/眉村卓『異郷変化』/山尾悠子「夢の棲む街」「遠近法」/***「人魚姫」/山田風太郎『幻燈辻馬車』/城昌幸『のすたるじあ』/吉岡実『サフラン摘み』/現代教養文庫版『小栗虫太郎傑作選』『夢野久作傑作選』/鮎川哲也編《怪奇探偵小説集》/中島河太郎編『血染めの怨霊』/澤田瑞穂『鬼趣談義』/国書刊行会版《ドラキュラ叢書》発刊/《月下の一群》《地球ロマン》創刊/ジョン・ラムジー・キャンベル『母親を喰った人形』/デイヴィッド・セルツァー『オーメン』/グレアム・マスタートン『マニトウ』/アン・ライス『夜明けのヴァンパイア』/ジェイムズ・メリル『イーフレイムの書』/ジョン・G・フラー『生きている幽霊飛行四〇一便』
◆諸星大二郎『暗黒神話』/宮崎惇・ふくしま政美『聖マッスル』/永井豪『手天童子』/山岸凉子『メタモルフォシス伝』
★ゴワッパー5 ゴーダム/超電磁ロボ コン・バトラーV/勇者ライディーン/俺たちの朝
▲徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑/黒薔薇昇天/花芯の刺青 熟れた壺/青春の殺人者/犬神家の一族/やくざの墓場 くちなしの花/オーメン/アウトロー/グリズリー/ロッキー/カッコーの巣の上で/狼たちの午後/愛のコリーダ/ダウンタウン物語/タクシードライバー/カサンドラ・クロス/キャリー/愛のメモリー/だれのものでもないチェレ/思春の森/ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ/ジョン・カーペンターの要塞警察/白い家の少女/スクワーム
◎ロッキード事件
1977(昭和52)
●赤江瀑『野ざらし百鬼行』/色川武大『怪しい来客簿』/源氏鶏太『永遠の眠りに眠らしめよ』/笹沢左保『午前零時の幻夢』/杉本苑子「鶴屋南北の死」/都筑道夫『雪崩連太郎幻視行』/綱淵謙錠『鬼』/戸川昌子『蒼い悪霊』/藤沢周平『闇の穴』/吉田健一『怪奇な話』/***『仮面騎士』/澁澤龍彦『東西不思議物語』『思考の紋章学』/現代教養文庫版『香山滋傑作選』/横田順彌編『日本SF古典集成』/南條範夫編『伝奇時代小説集』/井上宗和『幽霊城』/桜井徳太郎『霊魂観の系譜』/***『超詩人譚』/鷲巣繁男『記憶の泉』『聖なるものとその変容』『ポエーシスの途』/齋藤磯雄訳『ヴィリエ・ド・リラダン全集』普及版/生田耕作訳『初稿 眼球譚』(バタイユ)/深町眞理子訳『呪われた町』(キング)/矢野浩三郎編訳『心理サスペンス』(マッコーリー編)/お化けを守る会《妖しきめるへん》創刊/J.P.マンシェット『西海岸のリトル・ブルー』/S・キング『シャイニング』/ジョン・ソール『暗い森の少女』/F・ライバー『闇の聖母』/ジェイ・アンソン『アミティヴィルの恐怖』/ヒュー・ラム編『冷たい恐怖』/ジュリア・ブリッグス『夜の訪問者』/ジャン・ピエロ『デカダンスの想像力』/マイク・アシュリイ編『ホラー&ファンタジー作家名鑑』
◆風忍『地上最強の男 竜』/山岸凉子『妖精王』/ダーティ・松本『肉の奴隷人形』/鴨川つばめ『マカロニほうれん荘』
★快傑ズバット/ヤッターマン/アメリカ横断ウルトラクイズ
▲八つ墓村/犬神の悪霊/女教師/夢野久作の少女地獄/性と愛のコリーダ/ブラック・サンデー/オルカ/ガントレット/サスペリア/サタデー・ナイト・フィーバー/ザ・ディープ/ビリティス/世界が燃えつきる日/戦争のはらわた/ヒッチハイク/サランドラ/未知との遭遇/スター・ウォーズ
◎青酸コーラ無差別殺人事件/ダッカ日航機ハイジャック事件
2017年12月23日 発行 初版
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