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小学四年生の私へ
君のおかげでここまでやってきた
満足して頂けただろうか?
【はじめに】
一. 次元とは何か?
0次元から2次元まで
3次元 ──我々の世界──
2.5次元ってあるの? ──フラクタル次元──
我々の世界は本当に3次元か?
4次元の世界
5次元以上の世界
二. 正方形、立方体、超立方体
4次元立方体 ──その名称は妥当か?
正方形とは?
立方体とは?
4次元立方体とは?
三. 展開図とは何か?
展開とは皮を剥く行為
3次元立方体の展開図は11種類
3次元立方体の展開図は平面充填可能か?
3次元立方体の展開図の展開図
3次元立方体の展開図から展開図を作る
3次元立方体の展開図の接続部の次元を下げる
四. 4次元立方体の開き方
4次元立方体の開き方
4次元立方体展開図の表記法
4次元立方体の展開図から展開図を作る
展開図のツリー構造
五. 4次元展開図の全て
六. 4次元展開図を解析する
唯一の展開図を持つツリー構造
りんごの皮むき型展開図
伸びる展開図
影の展開図
側面に張り付いたペントミノ
七. 残された課題
4次元立方体の展開図は空間充填可能か?
4次元立方体の展開図の展開図
4次元立方体展開図の接続部の次元を下げる
4次元立方体展開図の変換は最大何手か?
【おわりに】
「立方体の展開図を全て調べてこい!」
私が小学校4年生の時のこと。それがその日の宿題だった。算数が得意だった──算数ドリルは大嫌いだったが──私は、嬉々としてそれらを調べ上げた。頭で考え、ノートに図形を描いて考えるだけではなく、実際に紙を切り張りし、セロテープを駆使してあらゆるパターンを調べあげた。
そして次の日、クラス中でもっとも多くの展開図を見つけ出していた私は、先生に促されて意気揚々と黒板の前に進み出て、ひとつひとつ丁寧に展開図を描き上げていった。その数、全部で10種類。描き終わったとき、私は得意満面であったはずだ。
だが先生は「おしい!」と言って、さらにひとつ付け足した。
衝撃的だった。
ありとあらゆるパターンを試したはずなのに、ひとつ見落としていたのだ。それも、よりにもよってもっとも美しいであろうパターンを見落としていた! その時から、今回のリベンジは決まっていたのかもしれない。大袈裟といえば大袈裟なのだが、仮に3つくらい見落としていたなら記憶にも残らなかったかもしれないし、そもそも、みんなの代表として黒板に展開図を描くことも無かっただろう。逆に全種類完成させていたなら、このような取るに足らない事件は完全に忘れ去っていた筈なのだ。たったひとつ。それも、ある意味、もっとも対称的と思われるパターンを見落としていた──見落としてしまった──ことで、心の奥底にこの時の悔しかった感情が澱のように残ったのである。
それからさらに数年後。高校生になった頃だったと思う。BLUE BACKSの「四次元の世界(都筑卓司著)」を読んだ。当時は、4次元に興味があったというより相対論に興味があり、その手の本を片っ端から読んでいた。この本はそれらの one of them に過ぎなかったのだが、この本の中に四次元サイコロの展開図……要するに、4次元立方体の展開図が描いてあった。
正直「ふ~ん」程度の感情しか覚えていない。まあ、そんな形になるだろうな……的な曖昧な気持ちだった。そもそも、通常の3次元立方体の展開図というと、十字架みたいな形が定番で、その次元がひとつ上がっただけの形と考えれば、取り立てて面白くもなんともない図形である。
3次元立方体の展開図の悔しい思いと、4次元立方体の展開図のソレが結びつくのは、それからさらに数十年の月日を要する。我ながら気の長い話である。ごく稀に、何かの拍子で目にする4次元立方体の展開図──例えば、サルバドール・ダリが描いた【超立方体的人体(磔刑)】とか──がいつもいつもfig.0-2のパターンしかないことに、段々と腹が立ってきたのだ。いやいや、展開図の種類はもっと沢山あるだろうと……。
通常の3次元立方体の展開図にしても11種類あるのだ。それより次元が多い4次元立方体の展開図が、ひとつやふたつのはずはない。にも関わらず、4次元立方体の展開図は判を押したように1種類しか出てこないのである!
──と、以上のような鬱憤が溜まりに溜まり、「誰も作らないのなら俺が作る。作ってやる!」とカッとなって超立方体の展開図全パターンの実物を作成した(表紙参照)。後悔はしていないが、正直しんどかった。実際に作る手間だけでなく、似たような形が延々と続き、これが最後という確証がなかなか持てないのである。小学生の時とは違い、今回は見落としはない……ことを切に祈っている。
さて、話を始めるにあたり、一足飛びに4次元立方体の話から始めても、読者は置いてきぼりを食らうだけだろう。まずは低次元の話から入り、段々と次元を上げて説明する方が理解が進むと思われる。低次元と言っても話のレベルを下げるとかそういう類の話ではもちろんない。数学的な次元の話である。
我々は前後左右に加え高さもある3次元の世界に住んでいる。東西南北に上下が加わったと考えてもよい。いやまぁ、時間軸を付け加えると4次元だとか、超弦理論を考えると11次元で、コンパクト化された余剰次元を見つけるための大型ハドロン衝突型加速器によるブラックホール生成実験をしているじゃないかとか言い出す人がいるかもしれない。
──いや、いないか。
仮にいたとしても、そういう人はそもそもこの章を読む必要がないと思われるので、放っておいて先に進むことにする。
0次元というのは点の世界で大きさがない。そこに住む人々はどの方向にもまったく動くことができない窮屈な世界である。では、その世界の住人はただ1人だけかというと、そういうわけでもないらしい。住人が物質的な体を持つならば1人かもしれないが、情報だけなら複数存在できる。いやいや、情報を記憶・保存しておくためには物質が必要だろう。単に物質と言ってしまうとある程度の大きさがあるものを想像してしまうが、例えば素粒子の一つと考えられている電子は大きさがゼロと考えられている。細かいことをいうと定義や観測の仕方によって電子の大きさは色々と変わるのだが、「細けぇことはいいんだよ!」の精神で聞いていただきたい。
大きさが無いと考えられている電子にはスピンの上下という向きがあり、ひっくり返ったりすることがある。斜めの場合は磁場によって歳差運動(ラーモア歳差運動)をおこしたりするから、その物理現象を用いて情報を溜め込むことが可能な筈である。いやいや、スピンが分かるのは外部に磁場があるからではないか? 次元がゼロということは、方向や向きという概念がない世界のはずなのに、上下の向きというものが語れるのか? ……と、議論は続くかもしれない。
ちなみに、これに類似の問題は「針の上で天使は何人踊れるか?」という有名な神学論話がある。興味のある方はそちらも参照して頂きたい。もっとも、こちらの議論は数学や物理学に基づく話ではなく、形而学上の話が主体なので、気負って読むと少々拍子抜けするだろう。
次は1次元だ。1次元の世界の住人は直線上を移動することができる。直線上に番地を振っておくと、番地のみで1次元人の居場所を指定することができる。逆に言えば、1つの数字のみであらゆる場所を指定できるのが1次元の世界である。
ちなみに、1次元人が散歩して、向こうから来る人とばったり出会ったとすれば、どちらかが引き返さない限り前には進めない。彼らは直線上を移動するのみで、その横をすり抜けるという概念が無い。綱渡りの途中で、向こうから人が来た状態を想像して頂きたい。直線上が世界の全てなので、可能なのは前進か後退かの二択である。ということは、1次元人は、両前後に顔なじみはいるのだが、その先にいる人々に会うことは不可能だと思われる。
ここで、隣同志であっても「相手の顔を見ることが出来るか?」という疑問が生じる。全ての住人が同じ方向を向いていたなら、前方の隣人の後頭部──足の裏かも知れないが──だけが見え、後方の隣人は声しか聞こえないことにならないだろうか? そうすると、映画「ムカデ人間」のようなおぞましい状態に……。
希望的観測を述べるなら、0次元の電子の例で述べたように、幅がない世界であっても反転することは可能かもしれない。さらには、電子同士だと無理だが光の場合は光同士がぶつかって反射することはなく素通りする──要するに、フェルミ粒子とボーズ粒子の違い──から、1次元人は互いにスイスイと通り抜けることが可能な体を持っているかもしれない。あるいは、物理的に物質が移動しなくても、情報のみが交換できればよいと考えれば、量子テレポーテーションによる入れ替わりが可能だろう。
その他、体は1次元──つまり線分──であっても顔に相当する部分は0次元であるから、どうやって人々の顔を識別をするのかとか、チューリングマシン的な機構で1次元人は計算が可能ではないか? ……等々、色々と面白そうなネタは転がっているが、深みにはまりそうなのでこの程度でやめておく。
さて、次は2次元である。ここまでくれば馴染みが深い。アニメの世界のアレである。……いや、これは誤解が多すぎる説明だった。もう少し真面目に説明しよう。
1次元が直線上の世界ならば、2次元は縦と横の2軸が存在する平面上の世界である。位置を表すには1つの数値では足りず、縦方向と横方向の2つの数字が必要となる。住所を表すのに◯◯条△△丁目と言わねばならないようなものだ。ちなみに、◯◯条とは縦方向の位置を表す数値で、△△丁目は横方向の位置を表す数値だと思って頂きたい。筆者は昔、札幌に住んでいたことがあるのだが、この2つの数字を覚えておけば市内のどこへでも大抵は行けるのでとても楽だった。
さてここで、「覚える数字は2つもいらない。郵便番号という一連の数値で表すことができる」という反論があるかもしれない。例えば、地球上のような有限の面積を持つ世界で、微小だが有限の面積を持つ土地にひとつの番号を割り当てるのであるならば、有限個の番号で事足りる。事実、地球上のあらゆる場所に、この方法で郵便物が届く筈だ。また、無限の大地の場合であっても、有限の面積を単位とするのであれば、一連の数値で全ての場所に番号を振ることは──無限の数が必要となるが──可能だろう。
では、◯◯条△△丁目という表現を◯◯△△という単一の数値に置き換えることが可能ならば、それは1次元の世界と同じように一連の数値で表現可能ではないかと思うかもしれない。ただし、 ◯◯=12 で △△=34 とした場合、 ◯◯=123 で △△=4 と区別がつかなくなるから一工夫して、12番目の素数と34番目の素数とし、その掛け算で表してみる。すなわち、37×139=5143とすれば、ここから12と34を割り出せる。今度は、12条34丁目と34条12丁目の区別がつかなくなるという指摘を受けそうだが、ならば、◯◯×2番目の素数と△△×2+1番目の素数の掛け算とかにすればよい。仮に数字が無限個必要になったとしても、素数も無限に存在する。番号の割り当て方法は他にも色々あるだろうが、2つの数字の組み合わせを一連の数字ひとつに置き換えることは可能だ。
だが、このような方法で、2次元平面のあらゆる場所に一連の数字を割り振ることはできない。それこそ、次元の違う話なのである。
1次元の世界では、直線上の全ての場所に数値を割り当てる必要があった。全てとは、1条、2条、3条……という自然数だけでなく、1.1条などの有理数、√2条などの無理数を含めた全てである。これら数値全てを使えば1本の直線上を隙間なく埋めることはできるが、その横の無限に近いお隣の場所を含めることはできない。その線幅がゼロだからである。そして、お隣までの距離を示す数字が、1丁目、2丁目……になるのだが、こちらの方向──条とは直角の方向──でも、1.1丁目や√2丁目などがあり得る。よって、縦方向の“条”と、横方向の“丁目”を全て隙間なく埋めるためには、◯◯条△△丁目という2つの数字の組み合わせが必須なのである。
ところで、2次元人は筒状の消化器官を持つことができないという有名な話がある。我々3次元人は、口から肛門まで繋がった管を持っているが、2次元人にそのような溝を掘ると、体が真っ二つに分離してしまう。さかのぼって考えると、1次元人の場合なら、体のどこかに点状の穴を穿てば真っ二つになることがわかるだろう。要するに、1次元の体を裂くには0次元の穴を開けるだけでよく、2次元の体を裂くには1次元の線でよいわけである。
なお、2次元の生物ではないが、イソギンチャクやクラゲ、ヒドラ類は筒状の消化器官を持たない生物である。口で食べ、胃袋に相当する器官で消化した後、不要となったカスを再び口から吐き出す。口が肛門を兼ねているわけだが、進化初期の生物にはこういうものも多い。さらに遡れば、単細胞生物などはこのような消化器官を一切持たず、外界の栄養物を体の表面から吸収し、老廃物を再び体の表面から放出することで生きている。物質の吸収・排出は拡散のみに頼ったシステムであり、1次元生物はこのような手段でしか生きられないだろう。
ただ、「2次元の生物は筒状の消化器官を持たない」と断言されてしまうと、天邪鬼な私はついつい反論してみたくなる。話は簡単で、ジッパーのような構造を持つ生物ならばよい。口の部分を開けて食物を取り込み、直後に口を閉じてしまう。食物のある部分だけジッパーを開き、それ以外は閉じて、食物を順繰りに肛門まで押し出せばよいわけだ。この構造なら体が2つに裂かれることは無くなるが、体が二分されていて、常にくっ付いたり離れたりする場所があることには変わりが無い。どうやって2つの体の統制を取るのか? 半身同士の情報のやり取りはどうするのかなど、考えることは色々ある。
もっとも、ボルボックスのような群体生物や、細胞性粘菌のように普段は単細胞生物でありながら、時期が来ると多細胞体になるような変わり種の生物この世には存在するので、そこは楽観的に考えることとしよう。
ようやく我々の住む3次元の話にまでたどり着いた。
3次元というのは、縦と横に高さを加えた、3軸が存在する空間上の世界のことである。そして、縦、横、高さはそれぞれが90度で直交……すなわち垂直に交わっている。◯◯条△△丁目という表現で位置を特定できるのが2次元の世界であったならば、そこに加えて××階という高さ方向の数値が必要な世界だ。この数値を◯◯条△△丁目という表現の中に押し込めることはできないのは、2次元の時に説明した通りである。
さて、2次元人の体を2つに裂くには1次元の線があればよかったが、3次元の体を持つ我々を真っ二つにするには2次元の面で切らなければならない。だからこそ、切り口のことを「断面」と呼ぶのである。しかしながら、「断線」という言葉は1次元の線がどこか一点で切れたことを言い、2次元平面を切り取った後の「切り取り線」のことを表した言葉ではない。本来ならば、1次元の線が切れた切り口は「断点」と言うべきであるが……うーむ、日常用語というのは難解で不可解だ。
余談になるが、「断点」というのは日本では囲碁用語であり、繋がっている石が切られる心配のある点のことなので、ここで述べた“切断される点”という本来の意味に近かったりする。中国語でも、区切りや破壊点のことをしめすので、「断点」という言葉の使い方は、一般的ではないものの間違ってはいない。
ちなみに、上記の説明を一般化すると、「n次元の断面はn-1次元である」となることはお分かりであろう。
3次元の話は、我々にとっては馴染みがあり、かつ、十分に分かっている筈なので、あまり説明を要しなくてもよいのではないかとも思える。実際、そういう部分も多々あるのだが、3次元人が2次元やそれ以下の次元を考察するのと、自分たちが住んでいる3次元を考察するのは、少しばかり事情が異なる。一言で言えば、3次元人は3次元を俯瞰的に見ることができないのである。「魚の目に水見えず」ということわざの如しとでも言おうか……。少なくとも本書は、これから4次元立方体の話をするのであるから、立場的には4次元人のふりをして3次元の考察をする必要がある。ならば、そういう視点を今のうちから養っておくべきだろう。
例えば、1次元を直線上の世界と呼び、2次元は平面上の世界と呼んだが、3次元は単に空間上としか呼んでいないことに違和感を覚えないであろうか? 前例にならうのであれば、例えば正空間上の世界とかいうべきではないか? ……というような視点を持っていただきたい。
直線ではない線のことを曲線というのはご存知のはずだ。折れ線というものもあるが、折れ線は曲率がとても小さい曲線の一種ということにしておく。我々3次元人は、線が直線か曲線かは見ればわかる。同様に、平面ではない面は曲面という。これも我々は見ればわかる。では、真っ直ぐで平らな空間のことを一言で何というかというと、適当な言葉が無い。逆に言えば、「あそこの空間は曲がっているね」と4次元人に言われたとしても、我々には分からない。3次元の空間が真っ直ぐか、はたまた曲がっているかは、3次元人が認知することは難しい。4次元人ならば見ればわかる……はずである。
ここで注意しておく必要があるのは、曲がった空間というのは、曲がった図形のことでは無いという事実である。
例えば、日常的に見る家やビルディングは大抵は直線で構成されているが、アントニオ・ガウディが作る建築のようにぐにゃぐにゃな建物もある。言わずもがなだとは思うが、建物がぐにゃぐにゃだからといって、その建物が存在している空間が曲がっているわけではない。2次元平面のキャンバスに正方形(1930年、ピエト・モンドリア作「赤・青・黄のコンポジション」参照)を描こうが、ぐにゃぐにゃな時計(1931年、サルバドール・ダリ作「記憶の固執」参照)を描こうが、キャンバス地が平面であることに変わりが無いのと同じである。
逆に、キャンバス地が曲面であった場合(少し違うが、1960年代のルーチョ・フォンタナ作「空間概念・期待」作品群を参照)、そこに正方形を正しく描くのはほぼ不可能だ。正方形は同じ長さの4つの直線を組み合わせ、かつ、その4隅の角が全て直角でなければならないが、例えば地球儀上でこれを描くことはできない。そもそも球面上に直線は描けないが、球面に沿って真っ直ぐ進むことはできる。これを球面上の直線と定義し直したとしても、4隅の角を全て直角にした正方形を作ることができない。極端な例を考えると、赤道から北極に直線を引き、そこから直角に折れ曲がって再び赤道に到達し、そこから再び直角に折れ曲がって進むと、そこで原点に戻ってしまう。要するに、3隅が直角の正三角形ができてしまうわけである(fig.1-3)。よって、正方形を作るには、さらにもう1本の直線を無理に加えねばならず、4隅の角度は直角より大きくなる。
ちなみに、ここで定義し直した直線のことを測地線と呼び、このような曲がった空間の幾何学はリーマン幾何学として既に存在する(平らな空間の幾何学はユークリッド幾何学である)。
なお、平らな紙に正方形を描き、その紙を賞状のように丸めたりメガホンのように円錐形にした場合は、いくら凸凹に曲げていても、描かれた正方形は通常の正方形と同等の性質を持つ。地球儀のような曲がり方をした曲面と平らな紙を丸めるような曲げ方は根本的に異なるのである。
この話は、やがて一般相対論の話につながり、星が作る真の重力場と加速度運動するロケットが作る非慣性系の重力場の違いなどの解説に応用できる。これらはとても面白い話題なのだが、本著の目的とは外れるので深くは立ち入らないでおく。興味がある方は微分幾何学や一般相対論の分野を調べてみてほしい。
さて、話を3次元空間を曲げる話に戻す。
我々3次元人は、直線を曲線にし、平面を曲面にすることができる。曲げればよい。曲げるとは、新たな次元方向へ折り曲げることである……と書くとトートロジーだが、直線や平面は1次元や2次元の中に収まっている図形であり、そこから外れて別の次元にはみ出したものは全て曲がっている図形だと考えるとよいだろう。例えば、紙面にxy座標のグラフを書き、x=1とか、y=2となる線は直線である。x=1の場合、yは任意の数値だが、xは1に固定されていて動かない。すなわち、x軸方向の次元にははみ出さない。y=2の場合は、xが任意の数値でyが2に固定である。y=x+1のようにxもyも数値が変化する直線も存在するが、この場合は適当な座標変換でy=1などの直線に変換することができる。具体的には、座標軸を45度傾ければよい。これに対し、y=x² などの場合は、どのような座標変換を行なっても座標軸に平行な直線にすることができない。これが真に曲がっている曲線である。
「異議あり! それはアフィン変換に限った話で……」
という人もいるかもしれないが、そこまで分かっている人は、このへんの説明は読み飛ばしてもらって結構です。
2次元の紙面上に書かれた直線を曲げる方向は、2通りある。紙面上内で曲げる方向──右か左か──と、紙面の外側に曲げる方向──上か下か──である(fig.1-4)。前者の曲げは紙面内にいる2次元人でも曲がったことが理解できるが、後者の曲げは3次元人しか見ることができない。前述の通り、紙面の外側に線が曲がった場合でも、紙面を適当に座標変換する……すなわち、立ち上がった直線に紙面を合わせることで2次元人でも分かるようにすることも可能な場合があるが、例えば螺旋状に立ち上がった線だったりすると、どうやってもその全てを紙面内に収めることができない。
「異議あり! それはユークリッド幾何学に限った話で……」
という人もいるかもしれないが──以下略。
続いて水平の平面を曲げる方法を考えると、3次元人の我々にとっては1通りしかない。高さ方向への曲げ──上か下か──である。前後左右に力を加えて“歪ませる”こともできるが、それは一般的に“曲げる”とは言わないで、引き延ばすとか縮めるとかそういう言い方になる。この場合、歪んだとしても平面は平面のままなので“曲げる”とは言わない。さて、我々3次元人が上下方向に平面を曲げているこの光景を4次元人が見ると、「いや、もう1通り、曲げる方向があるよ」と言うだろう。我々3次元人が、2次元人が紙面内で線を曲げている時に「いや、もう1通り、上下方向に曲げる方法があるよ」と指摘するようにである。これは4次元人が3次元内だけで曲げている我々を見ているからいえることであり、我々3次元人はその指摘に、「はあ?」と答えるしかない。
以上のような考察で、4次元人から見た3次元空間の扱いがなんとなくでも分かったであろうか? 今のところは、一つ上の次元から眺めた場合、状態を俯瞰的に見ることができて、曲げる方向の自由度が1つ多いということ。そして、その方向に曲げられると、1つ下の次元の人からは見ることができなくなり、あたかも魔法のように物体が出たり消えたりということが起こり得ること……ぐらいを頭に入れておいて欲しい。
では、次にお待ちかねの4次元……に進みたいところであるが、せっかくなので、これら次元の隙間を埋める話を追加しておく。本筋とは外れた余興なので、ここは飛ばしていただいても構わない。もっとも、本書自体が完全に余興なので、余興の余興ではあるが……。
例えば、昔のアニメは平面のセル画に描かれていたので2次元の世界という表現が定着している。紙面上に描かれた漫画も同様だ。実写を3次元とした場合の対比として、アニメや漫画は2次元の世界というわけである。現在のアニメはセル画を使わず、3DのCGモデルが使われていたりするので、3次元といってもよい気がするが、モニターという平面から現実世界に飛び出してこられないという意味で2次元という言い方にもなっている。ディスプレイの中のキャラクターは2次元、フィギュア化は3次元化という感じであろうか?
「2次元の嫁」と「屏風の中の虎」はなかなか我々の世界には出てこないと相場が決まっている。積極的に出てくるのは「貞子」くらいなものである。逆に「トロン」のように、3次元人が2次元の世界に引きずり込まれる話──と言ってよいか否かは議論の余地はあるのだが──もある。a-haのTake On Me (Official Video)などは、2次元と3次元を行ったり来たりする珍しいPVとなっているので是非ご覧いただきたい。
さてここで、2次元のキャラクターをコスプレなどで人間が演じる場合、2次元と3次元の間をとって2.5次元と表現したりする場合がある。アニメや漫画原作の映画やミュージカルなどもそうだ。3次元の世界なのだけれども、元が2次元なので2.5次元というわけである。0次元が点、1次元が縦方向のみの線、2次元が縦と横の面、3次元が縦、横、高さの立体の世界なのであるから、2.5次元というような小数点が付く中途半端な世界はあり得ない……かと思うと、実はこれが存在するのである。
例えば、一辺の長さがaの正方形を考えると、その面積はa²である。辺の長さを2倍の2aにすると、面積は4倍の4a²となる。すなわち、元の正方形を4つ並べたものになる。一辺の長さがaの立方体の場合、その体積はa³、辺の長さが2倍になると、体積は8倍の8a³となるので、元の立方体を8つ積み上げる必要がある。これを一般化すると、n次元の図形をK倍に拡大するとき、元の図形がN個分必要になると考えれば、K^n = Nと表すことができそうだ。式を変形すれば、
n = log(N)/log(K) …… (1.1)
とすることができる。
さて、通常の図形ならnが整数以外になることは考えられない。1次元の直線の1辺──直線なのだから線は1つしかないが──を3倍にしたら、単に長さが3倍になるだけなので、
n = log(3)/log(3) = 1次元
となるだけだ。では、無理を承知で、3倍すると長さが2倍相当になるようにしたり、あるいは反対に4倍相当になるようにしてみよう。やることは簡単だ。前者は中央部分を長さ1だけ切り欠き、後者は中央部分に長さ1だけ付け足して折れ線にするのである。ただし、どのような縮尺でもそうなっていなければならないという点が難しい。切り欠きを作ったり折れ線にしたりという操作を無限に行う必要がある。このような図形をフラクタル図形と呼ぶ。ちなみに前者はカントール集合と呼ばれ、後者はコッホ曲線と呼ばれている(fig.1-5)。
カントール集合の場合、その次元は、
n = log(2)/log(3) ≈ 0.6309次元
であり、0と1の間になる。ここで、線の端から端までの長さを1とすると、その中央を1/3だけ切り取ると実質的な長さは2/3となる。ただし、これで終わりではない。残った2本の線の中央も切り取らねばならず、その場合は2×(1/3×2/3) = 4/9となる。同様に次は、4×(1/9×2/3) = 8/27……と続くので、この操作をn回繰り返すと(2/3)^nになり、無限回繰り返せば最終的に実質的な長さが0になるのが分かるだろう。長さが0であるならば0次元のはずだが、この長さ1の線分上には無限個の長さ0の塵が収まっている。点が線上に無限個あるならば、それは1次元のはずだ。要するに、こういうどちらとも言えない状態であるため、0〜1の間の次元を持つわけである。
続いてコッホ曲線の場合、その次元は、
n = log(4)/log(3) ≈ 1.2618次元
であり、1と2の間になる。線の端から端までの長さを1とすると、中央に1/3付け足すと長さ4/3。次の操作で4×(1/3×4/3) = 16/9、続けて16×(1/9×4/3) = 64/27……となり、この操作をn回繰り返すと(4/3)^nになり、無限回繰り返せば無限大に発散する。すなわち、有限の区域の中に無限の長さの折れ線が収まっているわけだが、だからといて一定の面積を埋め尽くしているわけではないので、この図形は1〜2の間の次元を持っている。
なお、無限に再帰的な手法で描かれた図形が全て非整数の次元──フラクタル次元──を持つかというとそうとも限らない。要は、再帰的な手法で一定の面積を完全に埋め尽くすことができれば、それは2次元と考えてよいわけであり、ペアノ曲線やヒルベルト曲線と呼ばれるものを使えばこれが可能である(fig.1-6)。
先に「平面上の世界に一連の数字を割り振ることは不可能」と書いたのだが、これら再帰的な曲線は1本の線であるにも関わらず、2次元平面を埋め尽くすことが可能だ。それは、平面をいくら拡大してもその線の密度は変わらないことに由来している。
ちなみに、2.5次元に近い図形と言えば、例えば「メンガーのスポンジ」がある(fig.1-7)。形状は立方体であるが、縦横高さ全ての中央部分に穴が空いていて、穴は向こう側まで貫通している。穴以外の一部を拡大して見ると、そこにも中央を貫通した穴がある。この操作を無限回繰り返した図形がメンガーのスポンジである。カントール集合の3次元版といえば想像がつくだろうか?
通常の立方体の一辺の長さを3倍にするためには、元の立方体が底面に9つ。3階建てにして合計27個を積み重ねる必要があるが、縦横高さ方向の中央部分を抜き去ると7個分を取り除くことになるので、メンガーのスポンジは
n = log(27-7)/log(3) ≈ 2.7268 次元
のフラクタル図形になる。2〜3の間の次元を持つので、見た目は立体的だが中身はスカスカであり、表面積は無限大でありながら体積は0という奇妙な図形だ。押せばペシャンコに潰れてしまうこと請け合いで、まさに「2次元の嫁」の名にふさわしい。
いや……誰もそんなことは言わないが。
ここで、メンガーのスポンジの大きさと全く同じ水槽を用意し、水を淵までなみなみと注いだとしよう。そこにメンガーのスポンジを完全に浸したとしても、体積が0であるから水は一滴もこぼれない……筈である。アルキメデスもびっくりだ。ところが、表面積は無限大であるから、表面全てを濡らそうとすると無限の水が必要となる……筈である。
ならば、水槽の水は、メンガーのスポンジを少し浸けただけで、その表面張力により吸い取られ、即座にカラカラとなってしまわないだろうか? さらに言えば、水をジャバジャバかけても無限に吸い取ってしまわないだろうか? 海中に投棄したら海が干上がってしまうかもしれない。さらに、究極の「椰子がら活性炭」みたいなこの物体が海水を飲み干した後は、靴箱の臭いどころか世界中の悪臭を吸い取ってくれるにちがいない!
──と、まあ妄想の暴走はこのくらいにしておこう。どこで間違えたのかは簡単で、水分子は3次元の物質なので、メンガーのスポンジの表面に吸着したとすれば、表面を覆った分の厚みが出る。よって、スポンジの細かい隙間がすぐに詰まってしまい、それ以上は吸着しなくなってしまうのである。
さて、これまで述べたようなフラクタル図形は、ある意味、非常に作為的な図形であった。概念的にはともかく、現実に無限回の操作を行うことは不可能なので、机上の空論と言えなくもないのだが、シダの葉であるとかアサリの模様、ブロッコリーの一種のロマネスコなど、割と身近なころでもフラクタル図形を目にすることができる。さらに人体では肺の血管や大脳皮質の皺、自然界では海岸線や山の稜線、稲光等でも見ることができる。そして、これらの図形に対し、フラクタル次元を定義することも可能だ。
とはいえ、これらの図形は不完全な形で見ることができるものであり、我々が住んでいる世界は2次元でも2.5次元でもなく、やはり3次元の世界であることに変わりは無い……と思いたいのであるが、そうではないと言う説もある。この世は2次元分の情報量しか持っていないのではないか? という説である。
話は1973年にまで遡るのであるが、S. W. Hawkingが「ブラックホールの面積定理」というものを打ち出した。ブラックホールの事象の地平面の面積は、増えることはあっても決して減らないという定理である。その後、面積が減らないという状態と「エントロピー増大の法則」を結びつけ、ブラックホールの熱力学を作ったのがJ. D. Bekensteinである。ベッケンシュタインはブラックホールの温度を絶対零度と仮定したため、この熱力学は完成しなかったが、再びホーキングの手によって、ブラックホールの表面はある温度を有しており、その温度に見合っただけの放射を出すという、いわゆる「ホーキング放射」の提唱へと繋がっていく。これらの研究は最終的に、
「エネルギー = ブラックホールの質量」
「エントロピー = ブラックホールの事象の地平面の面積」
「温度 = ブラックホールの事象の地平面の表面重力」
という風に、ブラックホールと熱力学とを対応付けるものとなった。ブラックホールは放射という形でエネルギーを放出し、放っておけば次第に小さくなる筈だから、「ブラックホールの面積定理」は結果的に間違っていたことになったのだが、ブラックホールでの「エントロピー増大の法則」は生き延びることとなる。すなわち、ブラックホールの面積が小さくなれば、ブラックホール自身のエントロピーは減るのだが、放射された光も含めれば、全体としてエントロピーは増大し続けるのである。
ただし、増大し続けるといっても限度がある。例えば、熱いお湯と冷たい水を混ぜるとぬるいお湯になるが、逆に、ぬるいお湯が勝手に熱いお湯と冷たい水に分離することがない──その確率はとてつもなく小さい──のは何故かというと、温度差がなくなって全体の温度が一定になってしまったら、そこがエントロピー最大であるため、それ以上の増大は起きないのである。これを宇宙全体に拡張すると、今の宇宙はエントロピー最大とは程遠く、太陽のような熱い星と、絶対零度に近い冷たい宇宙空間が同居している。同居しているからこそエネルギーが流れることになる。これがどこでも満遍なくぬるい状態になったならそこが宇宙の最終段階。そのような状態を「宇宙の熱的死」という。もはやなにも変化しないつまらない世界だ。
ところで、ブラックホールにおいてエントロピーはその事象の地平面の面積に対応すると書いた。面積に対応するのである。大事なことなので2度言っておく。具体的に書くと、エントロピーをS、ブラックホールの面積をAとすると、
S = (kc^2/4ℏG)A …… (1.2)
であらわされる。ちなみにkはボルツマン係数、cは光速、ℏは換算プランク定数で、Gは万有引力定数である。この式は、相対論と量子論、ついでに熱力学も加え、物理的に重要な定数を全部入れました的なすごい式だということだけ分かっていただければそれでいい。
エントロピーが事象の地平面の面積で決まるのであるならば、この宇宙の観測可能な地平面(宇宙の地平面)上の状態で、宇宙の中の全体のエントロピーが決まってしまうのではないか……。すなわち、我々は3次元の宇宙空間に住んでいて、その3次元の中の物質の動きで宇宙全体のエントロピーが決まると考えているが、実は2次元の地平面上の情報のみでこの3次元空間のエントロピーは決まっているのではないかという理論がある。
2次元上に記述された設計図で3次元の物体の動きや場所が全て記述されているとするならば、3次元的に見ればそれはかなりスカスカな世界になるだろう。なにしろ、次元の違う話なのである。この理論は、薄っぺらい板に立体物を浮き上がらせるホログラフィクのようなものなので、「ホログラフィク理論」という名前がついている。
よって、我々のリアルな世界の人々も、実は全て「2次元の嫁」と言えるのではないかという疑惑が持たれているのだ!
いや、いいかげん、2次元の嫁から離れろよ……。
さてさて、ようやく本題の4次元の世界である。最初に断っておくが、ここで扱う4次元とは、数学的な4次元のことであって、物理学的な4次元ではないということである。もう少し専門的に言えば、4次元ユークリッド空間のことであって、我々が住んでいる3次元空間+1次元時間の4次元時空──ミンコフスキー時空──ではないということだ。簡単に書くと、極々短い距離ds──線素と呼ばれる──を考えると、
(ds)^2 = (dw)^2 + (dx)^2 + (dy)^2 + (dz)^2 …… (1.3)
であって、
(ds)^2 = (cdt)^2 - (dx)^2 - (dy)^2 - (dz)^2 …… (1.4)
ではないということだ。ちなみに、4次元ユークリッド空間の第4の軸をw(残る3次元軸はおなじみのx,y,z軸)とし、ミンコフスキー時空の時間軸はtとした。ここでcは光速だが、これは空間軸に対する時間軸の換算係数の役目を負っているだけであり、その違いは本質的な問題では無い。問題なのは符号である。
式(1.3)の4次元ユークリッド空間の場合、符号は全て同じとなっており、全ての軸は対等である。要するに、この式は4次元に拡張したピタゴラスの定理に過ぎない。式(1.4)のミンコフスキー時空の場合、時間軸ctに対して、空間軸(x,y,z)の符号が逆になっている。3次元空間における物体の移動速度をvとするなら、それは、ピタゴラスの定理によって、
v^2 = ((dx)^2 + (dy)^2 + (dz)^2)/(dt)^2 …… (1.5)
となるため、式(1.4)に代入すると、
(ds)^2 = (cdt)^2 - (vdt)^2 …… (1.6)
となる。通常ならば、移動速度vが大きければ単位時間あたりの移動距離も大きくなる筈であるが、式(1.6)の場合、vが大きいほど距離を表す線素dsが小さくなるという、常識とは反対の現象を示すことになる。ちなみに、v=cとするとds=0になり、「光速で移動する物体は時間が止まる」という特殊相対論の話に繋がる。
ここまでの話、「なるほど、わからん!」という方は、4次元ユークリッド空間というのは3次元の素直な拡張だと思っていただければそれでよい。ミンコフスキー時空のように時間軸だけひねくれているようなことはない。
さて、前節までの考察で、次元というのはある種の自由度であるということが分かっていただけたと思う。一直線上しか動けなかったものが平面を動けるようになり、最終的に3次元空間を自由に動けるようになる。“自由に”と書いたが、4次元人から見ると我々は3次元空間に閉じ込められていて、不自由な動きをしていると感じるに違いない。数学的な言葉で表すと束縛運動をしていることになる。2次元人を我々3次元人が見ると、平面内に閉じ込められていると感じているようにである。
4次元人が自由に動くためには、新たな軸が必要になる。3次元の軸(x,y,z)に加えたw軸である。一休さんが「屏風から虎を出してください」というのは、屏風という平面から垂直方向の外側へ虎を出してほしいという意味であり、屏風の中を虎がぐるぐる動き回ることを望んでいるわけではない。同様に「3次元空間から虎を出してください」と4次元人に言われたのなら、縦横高さそれぞれに垂直な第4の軸方向へ虎を出してほしいという意味であるが、それを行うことは我々には不可能である。まさに「明日はどっちだ」状態だ。
──おっと、今話しているのはミンコフスキー時空の話ではないのだった。
第4の軸がどっちに向いているのかということを我々3次元人が示すことは不可能だが、上述したようにその方向は、他の3軸──前後軸、左右軸、上下軸──に対して垂直でなければならない。逆に言えば、互いに垂直な軸が何本かけるかということが、その世界の次元数を表していると言える。我々は(x,y,z)の3軸しか書けず、それぞれに垂直な4本目の軸wを書くことは不可能だ。
とはいえ、それを想像することはできる。3軸に対して垂直な方向に立方体を移動させることはできないが、立方体を横にずらして描くことは簡単にできる。移動距離は立方体の1辺と同じ長さ分だ。そうでなければ長方形……いや、4次元長方形になってしまう。そして、移動した方向をw軸だと思い込むことで、その雰囲気が味わえる。
「味わえるだけかい!」
と言われれば「その通りです。すみません」というしかないのだが、実は我々も、3次元の立体を3次元で見ているわけではない。我々が3次元の物体を見るとき、瞳のレンズを通して網膜に映った像でそれを確認するわけだが、網膜は面的な受光体である。要するに2次元のセンサーであって、奥行き情報を得られるようなセンサーでは無い。ただし全く得られないかといえばそれは嘘で、目玉が2つ付いているので、その視差によって奥行き情報は数十メートルの近距離なら分かる。また、片目であっても、ピントが合っている領域の情報から奥行き情報を得ることも可能だが、どちらにせよ、網膜に映った2次元の情報から3次元の物体の形状を経験から推測し、認識していることに変わりはない。例えばコウモリのような動物なら、超音波で物体までの距離を計測しながら飛んでいるから、真に3次元で見ている──聞いている?──と言えるかもしれない。
ところで、4次元立方体を描くときには、2種類の流儀があるようだ。それは図形を平行移動して描く方法と、遠近法(透視図法)を生かして描く方法である。前者は消失点が無限遠にある遠近法の一種だと言えなくもないが、ここは分けて考えることとする。
4次元の立方体の前に、まずは、3次元立方体……要するに普通の立方体を考えてみよう。正方形を1つ描き、それを平行移動すれば立方体の出来上がりというのは、描いて見れば誰でも分かる(fig.1-8 左図)。
──本当だろうか?
正方形を2次元上で平行移動した図形は、やはり2次元の図形でしかない。この図形が3次元に見えるというのは、あなたが3次元人であり、かつ、この手の図形──3次元の本物はもちろんのこと2次元の絵や写真──を幾度となく見てきているからである。ちなみに、平行移動した正方形が“向こう側”に引っ込んでいるのか、はたまた“こちら側”に出っ張っているかは、判断に迷う。見方によってどちらにも変わり得る筈だ。それはこの図形が2次元の図形であり、それを3次元図形として捉えることによって生じる迷いである。これらをうまく使うと錯視図が描けるが、そちらの分野はマウリッツ・エッシャー氏に任せて先に進む。
移動した正方形が向こう側にあるかこちら側にあるか迷うのは、移動した正方形の大きさが元の正方形と同じ大きさだからである。近くのものは大きく見え遠くのものは小さく見える。ならば、移動後に小さくすれば向こう側に行ったのだと感じ、大きくなればこちら側に近づいてきたのだと感じるだろう。これが遠近法だ。2次元の絵に奥行きを与えるには必須な技法である。
では、いよいよ4次元の立方体である(fig.1-8 右図)。
とは言っても、3次元の場合と特に変わったことは無い。立体を平行移動させるか、あるいは移動した立方体の大きさを小さく(または大きく)描くだけである。そうすれば、4次元立方体の形が分かる。
──分かりませんか?
それは困りましたね。あなたが4次元人ならば、「描いて見れば誰でも分かる」と言う筈なのですが……。やっていることは3次元の場合と同じである。ただし、この世が3次元であるため、4次元図形の想像力と経験が足りないのは如何ともしがたい。
今一度、次元をひとつ落として考えてみよう。
2次元の紙面上で正方形を平行移動させた場合、2次元人はこれが3次元の立方体であると言われても理解できないはずだ。単に紙面上を平行移動させた正方形の図とみる。また、遠近法で描かれた絵も同様で、大きい正方形の内側に小さい正方形が入っているだけの図と受け取るだろう。事実、実際にそうなのであるから、これを3次元の立方体の図と言う3次元人の方がおかしいのである。
3次元人の代表として少しばかり弁明しておくと、立方体の辺だけの枠組みを考えた場合、その影がまさに正方形を平行移動させた図形になる。もっとも、影を作る光源は太陽のように相当遠くにあり、平行光線とみなせるものでなければならない。そして、そのような図形を3次元人は幾度となく見ているので、それを3次元の立方体と認識できるのである。また、平行移動の方向として描いた矢印は、実際には第3の軸方向に伸びているのだが、その影は2次元平面上に投影される。3次元人の網膜上に投影されるといい直してもよい。よって、その影の移動を見ると、影の移動は実際には2次元平面上を移動しているにも関わらず、3次元上を移動しているように錯覚してみえるのだ。
次元を上げて、3次元の空間上で立方体を平行移動させた場合を考えよう。3次元人はこれが4次元の立方体であると言われても理解できないはずだ。事実、4次元方向には移動していないので、4次元上を移動しているように4次元人が錯覚しているだけということもできるが、3次元人が2次元平面上に描いた図形を立方体であるかのように見ることができるのだから、少し頑張れば、4次元立方体も経験によって段々とその形状が見えてくる……はずである。
可能ならば、実際に竹ヒゴなどで3次元の立体として作ってみてもよい。本当ならばそれを自由に“回転”させることができればさらによい。ここでいう“回転”とは、4次元方向も含めた回転であって、3次元方向のみの回転ではない。竹ヒゴで作った4次元立方体──を3次元に投影したもの──を回転させてもそれは不可能で、バーチャルリアリティ等を用い、変形しながら回転する4次元立方体を作る必要がある。YouTubeあたりに色々と上がっているので、実際に調べてみるのも一興だろう。
これら、4次元立方体の見え方については、後の章で再び議論する。
5次元以上の話は本書の対象外なのだが、世の中には無限次元空間上の研究をしている人もいる。それに比べれば5次元や6次元、さらに100次元超えも、有限の次元数で済む考察は、それほど常軌を逸しているわけではない。
……いやまあ、大逸脱と小逸脱の違いである。
次元が大きくなっていくと容易に分かることは、(超)立方体の大きさに比べて対角線が長くなることである。正方形の対角線は1辺の√2倍 ≈ 1.414倍、立方体の対角線は√3倍 ≈ 1.732倍となる。1メートル四方の箱で送れる荷物は、1メートル以下のものとは限らず、1.7メートルのスキー板なら送れるかもしれないわけである。
一般化して考えれば、n次元の対角線の長さは、√n倍になる。すなわち、100次元の1メートル四方──四方という表現でよいのかは議論の余地がある──の箱の中には直径1メートルの(超)球は1つしか入らないが、対角線を使えば10メートルの棒を入れることは可能となるわけだ。
別の表現をしてみると、次元が上がれば上がるほど、入れ物の(超)立方体の箱に対し、中の(超)球の体積は相対的に小さくなっていき、隙間がドンドン大きくなるということである。例えば、1辺1メートルの正方形に入る円の面積は、π(1/2)^2 = π/4 平方メートルであり、正方形の面積の約79%である。続いて、1辺1メートルの立方体に入る球の体積は、(4/3)π(1/2)^3 = π/6 立方メートルであり、立方体の体積の約52%となる。続けて書くと、
2次元球 = π/4 ≈ 79%
3次元球 = π/6 ≈ 52%
4次元球 = π^2/32 ≈ 31%
5次元球 = π^2/60 ≈ 16%
6次元球 = π^3/384 ≈ 8%
・
・
・
(2k)次元球 = π^k/2^(2k)k! …… (1.7)
(2k+1)次元球 = (4π)^(k)k!/2^(2k)(2k+1)! …… (1.8)
ただし、k=0, 1, 2, 3 ……
と、外側の(超)立方体の体積に比べ、どんどんと比率が下がっていく。逆に言えば、それだけ隙間が増えていくわけである。
説明として分かり易いのは、次元が増えるほど隅の数が増えるという事実である。2次元は4隅しかないが、3次元は天井の隅も含め8隅になる。その後、倍々に増えていくので、中央部分に比べて隅っこが増えるのだ。「四角な座敷を丸く掃く」ということわざは、いい加減な仕事という意味で使われるが、2次元である座敷の床ならそれでも79%は掃いていることになるが、6次元の床──部屋そのものは7次元となろう──を丸く掃いた場合は8%しか掃いていないことになる。それはさすがにサボりすぎだ。
逆に、この世界の「おせち料理」は重箱の隅にほとんどが詰まっていることになるので、隅を突きまくらなければ、ほんの少量しか食べることができない。7次元世界のお重の隅は2^6 = 64箇所あるので、大家族でも喧嘩になることはないと思われる。「すみっコぐらし」のすみっコたちも幸せに暮らせるだろう。
高次元になると(超)立方体に内接する(超)球の体積比率が次第に減少することは分かっていただけたと思うが、(超)球自身にも面白い現象が生じる。いわゆる「薄皮饅頭パラドックス」と言われるものだ。え? 聞いたことがない? なくて当然である。たった今、私が作ったのだ──実際にあったらゴメンなさい──。
饅頭というのは、外側の皮と内側の餡でできている。例えば、その(超)体積が半々だったとしよう。2次元の饅頭の場合、饅頭の半径を1とするならば、皮の厚みは、 1 - (1/2)^(1/2) となる。同様に、3次元の饅頭の場合は、 1 - (1/2)^(1/3) となる。要するに、皮の厚みの比は、
2次元饅頭の皮 = 1 - (1/2)^(1/2) ≈ 29%
3次元饅頭の皮 = 1 - (1/2)^(1/3) ≈ 20%
4次元饅頭の皮 = 1 - (1/2)^(1/4) ≈ 16%
5次元饅頭の皮 = 1 - (1/2)^(1/5) ≈ 13%
6次元饅頭の皮 = 1 - (1/2)^(1/6) ≈ 11%
・
・
・
n次元饅頭の皮 = 1-(1/2)^(1/n) …… (1.9)
と、どんどん薄くなるのである。100次元の饅頭の皮は全体の1%程度しかなくなる。外側の1%の厚みの体積が、内側の99%と同じになるわけだ。さらに次元を上げていけば、金箔程度の皮と中の餡が釣り合うこととなり、最終的に皮が原子1個分の薄さになっても、中身より体積があるという状況になるだろう。中身より皮の方が分量が多いということになったら、それは薄皮饅頭とは言えない。しかし、原子1層分より皮を薄くはできないので、超高次元の住人は薄皮饅頭を食べることができない。これが「薄皮饅頭パラドックス」である。つくづく、3次元人でよかったと、しみじみ思う次第である。
──どんだけ薄皮饅頭が好きやねん。
では、実際にこのパラドックスが生じるのはどのくらいの高次元のときだろうか? 例えば、饅頭の直径を5cm程度だとし、薄皮原子の厚みを1Å(=10^-10m)とすれば、
1-(1/2)^(1/n) = 1/5×10^8 …… (1.10)
となるが、n >> 1であるから、
1-(1/2)^(1/n) ≈ ln(2)/n より、 n ≈ 3.5×10^8 …… (1.11)
となる。すなわち、3億5千万次元以上の空間の場合、どんなに薄い皮であっても皮の体積が餡に勝るということになるわけである。
さすがに数億次元というのは飛躍し過ぎであるが、ここから導き出せるのは、「高次元の世界の住人は体格差が小さい」ということだろう。我々3次元人の場合、外側の20%を削れば体重が半分になる。例えば2メートルの大男の体重が120kgあったとすれば、2×0.8 = 1.6メートルの男は60kg程度だとすれば辻褄があうことになり「まあ、そんなものかな」という気にはなる。ところが、100次元人の場合は2メートルの人と1.98メートルの人の体重差が2倍になる。全長180mmと178mmのヘラクレスオオカブト同士を対決させれば、前者の方が圧勝するだろう。よって、同じ種同士の場合、見た目で分かるような体格差はほとんどないのではないだろうか?
ところで、3次元の世界には、「2乗3乗の法則」というものがある。例えば、人間の身長が2倍になると、体重は3乗に比例するため8倍になるが、それを支える骨の断面積は2乗に比例するので、単位面積当たりにかかる力(圧力)は2倍になるというものだ。よって、人間サイズの10倍の人型ロボットを作ろうとすると、足への負担も10倍になり、足を10倍太くするか、10倍頑丈な部品を使うしかない。動物の世界では足の太さを変える戦略になっていて、ネズミの足は体に比べて細く、象の足は太くなっているのが分かる。人間の場合も、2メートルを超える人の場合、足への負担が大きく、膝を悪くしたりする。
さて、100次元の世界の場合、身長が2倍になると、体重は実に2^100乗倍 ≈ 1.3×10^30倍というとてつもなく大きな値となる。ちなみに、我々の太陽の質量が2×10^30kg程度なので、1.5kgの子猫が仮に2倍の大きさになるなら、その質量は太陽程度になるわけだ。そうなると、猫の足への負担もとてつもなく大きそうであるが、骨の断面は2^99乗倍になっているので、結局のところ2倍であり、我々3次元人となんら変わりがない。100次元人には「99乗100乗の法則」が適応されるのである。
法則ということでは、重力や電磁気力で出てくる「逆2乗の法則」も見逃せないだろう。これは、我々の世界が3次元であるからこその法則であり、n次元世界なら「逆n-1乗の法則」が適応される。100次元の世界の場合、「逆99乗の法則」になるわけだから、少し離れるとほとんど力が働かない超近接力となる。これは光の明るさでも同じで、光源から少し離れただけで何も見えないことになる。打ち上げ花火はパッと光って、その後ほとんど咲かないので、夏祭りは少々寂しくなるだろう。逆に言えば、少し近づくと急激に力が働いたり明るくなったりする世界である。
先に「我々の世界は3次元ではなく、実は2次元の地平面上の情報のみで設計されているのではないか?」という論──ホログラフィック宇宙論──を書いた。これとは逆に、「我々の世界は3次元ではなく、実は11次元なのではないか?」という理論がある。実際に大きく拡張した次元は3次元空間(+時間)なのだが、残りはコンパクトにまとまった余剰次元となっている……という論である。前述のとおり、高次元空間での重力は距離によって急速に弱まるが、他の基本的な力(強い力、弱い力、電磁力)はその影響を受けないという考え方だ。
逆に、非常に短い距離においては急激に重力が強まることになるので、その影響を見るために行われたのが、本章の冒頭に書いた大型ハドロン衝突型加速器によるブラックホール生成実験である。我々の世界が純粋な3次元空間であるならば、現在のLHCの出力では、マイクロブラックホールの生成は難しいが、コンパクト化された高次元空間が存在するならば生成が可能ということで実験が行われた。しかしながら、今のところこの実験は成功はしていない。ブラックホールについては、5次元以上の高次元ブラックホールの形状や安定度を調べる研究も行われており、高次元の世界は実在する対象として着々と研究が進められている。また、原子核近傍を通る中性子ビームの散乱の仕方が、余剰次元があれば引力が強まるはずなので、それを検出する実験なども行われている。
以上のように、4次元以上の探索は理論物理の分野だけではなく、実験により確認される分野になってきている。
本章は、2次元の正方形、通常の3次元の立方体、そしてその先の4次元立方体について解説を行うための、非常に短い章である。
ただ、これらを解説する前に、そもそもの話として、4次元における立方体と言うべき図形のことを「4次元立方体」と称して本当に良いのか決めかねている。決めかねているも何も、これまで散々使っているし、本のタイトルにも使っているではないか……と言われれば、まあその通りなのだが、この名称問題はわりとややこしい。
とりあえず、ここから解説してみることにする。
まず、2次元の「正方形」という名称について。
正方形は言うまでもなく、4つの角が直角で、かつ、4辺の長さが全て等しい四角形のことである。類似の図形として、直角ではあるが辺の長さが違う「長方形」があるので、正方形の「正」という文字は、辺の長さが揃っている場合に使うのだ……と思っていると、3次元の「立方体」はなぜ「正方体」ではないのかという疑問が生ずる。実は、中国語では立方体のことを「正方体」と書くのである。
思うに「立方」は一連の文字列として意味があり「立方体」は「立方+体」という分解の仕方をしなければならない。これに対応する2次元図形は「平方+形」のはずだ。そうすると、「正方形」は本来「正平方形」としなければならなくなるが、冗長なので「平」を取ったのであろう。
ではなぜ、「立方体」では「立」を落とさず、「正」の方を落としたのか?
結局のところ、この疑問に対する適切な理由はよく分からない。
気を取り直して、つづく「方」を考えてみると、これは「四角」を表していると考えれば納得できる。方を四角に置き換えて「正四角形」という表現もあるのだから、四角と相互互換性のある言葉と考えればよい。
さすがに「六方晶系」を「六四角晶系」と書き換えるのはどうかと思うが、上下面が六角形で側面は四角形であるから、間違いではないだろう。また、「正三角形」や「正五角形」の間として「正四角形」があるのだから、「三角」や「五角」を一文字で表す言葉は無いものかと考えたが思いつかなかった。ならば、「方」という表現は特別だということになる。
最後の「形」は、2次元図形を表していると考えるのが、もっとも納得出来る考えである。同様に3次元の図形は「体」となる。2次元図形で、三角形、四角形、五角形……と増えていくそれらを総称して「多角形」というのと同様に、3次元図形で、四面体、六面体、八面体……と増えていくそれらは「多面体」と呼ばれる。
そうすると、4次元図形の場合も「形」「体」に続く何か一文字で表す言葉があれば良いのだが、5次元、6次元……と無限に増えていくものに一文字を当てはめ続けていくといずれ破綻する。例えば漢数字の場合、一(十百千)万億兆京……極までは一文字だか、そこからは「恒河沙」「阿僧祇」「那由他」等、一文字ではなくなる。これと同様なことが起こり得るだろう。そういうわけで、4次元以上の図形にも、それまでと変わらず「体」を使うことにするのは妥当な判断である。ただし、何次元の図形であるのかは明確に示す必要がある。
ちなみに、水晶や結晶の「晶」という文字は「体」の代わりなるのではないかと思われるかもしれないが、こちらは「キラキラと光り輝くもの」という意味の文字であり、物の形を表す言葉ではない。
ところで、3次元図形を「多面体」というのならば、2次元図形は「多辺形」というべきなのではないか? 要するに、3次元の立体を構成するのが2次元の面であるならば、2次元の面を構成するのは1次元の辺ではないか? という理屈である。事実「平行四角形」と言わずに「平行四辺形」というではないか。
ちなみに、「四角形」と「四辺形」の違いについて、全ての頂点が同一の2次元平面上にあるか無いかの違いという見解もある。三角形の場合は原理的に発生しないが、四角形以上になると同一平面上に4点以上が揃うとは限らない。例えば、シクロブタンのようにである──「その例え話は分からないだろ?」という苦情は受け付けないので、各自調べるように──。ただし、「形」というのが2次元図形を表しているという仮説が正しい場合、「正四角形」を「正四辺形」としても問題無い筈である。
逆に、同一平面上に頂点がない四辺形の場合に、特別な言葉を付加して混乱を防ぐほうが妥当ではないだろうか? 事実、これら2次元平面内に収まっていない四辺形は、「空間四辺形」「鞍型四辺形」「ゴーシュ四辺形」という名前で呼ばれている。
さてさて。ここまで来て、ようやく「大きさのそろった立方体で構成される4次元の立方体のことをどう呼ぶのが妥当か?」という議論に入れる。
まず、3次元の「立方体」にはもう一つ「正六面体」という呼び方がある。4次元以上の図形は日常的には扱わない図形なので、それらを一言で示すような適切な言葉は存在しない。そこで、4次元以上の「立方体」として、「超立方体」という表現が使われる。「超」なので、4次元の立方体も5次元の立方体も、同じ「超立方体」である。それでは区別がつかないので、「4次元超立方体」という表現を使うことが一般には多い。
しかし……である。その表現は「馬から落馬した」みたいな表現になっていないだろうか? 「4次元」と書かれた段階で、4次元以上なのは既に確定である。ならば「超」は付けなくても良いのではないだろうか? そういう理屈でたどり着いたのが「4次元立方体」という表現である。要するに「馬から落ちた」という表現でええやん……ということだ。
一方、「正六面体」の4次元バーションという表現も存在する。「正六面体」は3次元の図形だが、「六つの正方形の面で構成されている」ということを表現した呼び方だ。後で説明することになるが、「4次元立方体」は八つの立方体で構成されている。そして、1次元の「辺」、2次元の「面」に対応する言葉として、3次元の「胞」という言葉がある──細胞とかの「胞」である──ので、「正六面体」の4次元バーションは「正八胞体」である。3次元図形が、四面体、六面体、八面体……と増えていったように、4次元図形も、五胞体、八胞体、十六胞体……と増えていく。それらはまとめて「多胞体」と呼ばれる。
要するに、「4次元立方体」と「正八胞体」は同じものを表していて、どちらがすっきりしているかと言えば、断然後者のほうだろう。本のタイトルとして『正八胞体の開き方』の方がすっきりしているのは間違いない。
ただ、こちらを選ばなかったのは理由がある。「正八胞体」と聞いても「ああ。アレね……」と分かってくれる人は極少数なのではないだろうか?
もちろん「4次元立方体」と言っても、その意味を分かってくれる人は少数かもしれない。しかし、少なくとも4次元の話なのは分かってもらえ、かつ、その4次元の図形の話だと理解してもらえるだろう。「正八胞体」の場合、「胞」が3次元の立体のことだと知っていなければならず、また、それが八つあるということにピンとくる人でなれけばならない。すなわち、本書を見る以前から「正八胞体」について知っている人でなければ書かれた内容は分からないと思われる。
まあ、そのスジの専門書ならそれでも構わないが、本書はそんな堅いものではなく、私のような一般のモノが趣味で書いているのであるから、それではアカンと思い、熟慮に熟慮を重ねた上、『4次元立方体の開き方』となったわけである!
──すまん、盛り過ぎた。そんなに深くは考えてない。
それはともかく、前書きが長くなった。とっとと、先に進もう。
正方形を習うのは、小学校2年生の時のようだ。正方形の特別な性質を理解するためには他の四角形も習わなければならないので、長方形も同時に習う。その後、ひし形やら平行四辺形やらも習うことになる。そういうわけで、「いまさら正方形か?」という気分にもなるが、何事も基本が大切なので、まずはおさらいしておこう。
ちなみに、「正方形」に代表される概念が登場するのは2次元以上であって、0次元はもちろんのこと──そもそも、0次元には図形という概念そのものがない──、1次元ではどのような長さの線分も等しく同等なのであって、図形は1種類しかなく、全ての図形は合同か相似形のどちらかしかない。言い換えれば、全てが「正方形」である。
さて、正方形の特徴といえば、「4つの辺の長さが全て等しく、かつ、4つの角の角度が全て等しい四角形」ということになる。これで必要十分。これ以上付け加えることはない……だとつまらないので、もう少し考えてみる。
正方形は正多角形の1つであり、正三角形に続いて角の少ない図形である……いやいや、それではインパクトに欠ける。
正方形は1種類で平面充填ができる──要するに隙間なくタイル張りができる──図形の一つであるというのはどうだろう。
無数にある正多角形の中でこの条件を満たすものは、正三角形、正方形、正六角形の3種類しかない……ふむふむ。どうやら、正多角形の中でもっともユニークなのは正三角形のようである。平面充填できる正多角形のうち、正六角形は6つの正三角形に分解することができるので、そういう意味でも正三角形は2次元の世界では特異な立場にあると言えよう。ちなみに、1種類の正多角形の組み合わせで他の正多角形を作るという方法は、正三角形から正六角形を作る以外には存在しない。
また、正三角形は、角(あるいは辺)の数が最小の正多角形ということもできる。屁理屈をいえば、「正二角形」というものも無いわけではない。例えば地球上の南極から二手に分かれてまっすぐ歩けば、やがて北極で出会うので、その軌跡を描けば正二角形の出来上がりである。さらに突き詰めると、地球を一周して戻ってくれば「正一角形」となる。この場合、全ての一角形は同形で、全てが正一角形だ。
ただし、これらは球面上という非ユークリッド幾何学(楕円幾何学)上の産物であって、平らな2次元平面上では存在しえない図形だ。
無理に正方形を一番手にしようとするなら、例えば、正多角形の中で最小の点対称図形ということが言えるだろうか? 正三角形の場合、ひっくり返すと「△→▽」となってしまうが、□は□のままである。ただ……目を見張るような特徴かといえば、そんな感じではないだろう。
正方形の特筆すべき点を述べようとしたが、図らずも正三角形の偉大さを示してしまったようだ。では、正方形に続く立方体、超立方体たちも、二番手、三番手的な立ち位置なのか……といえば、それは違うと断言できる。どちらかというと、2次元の世界が特別なのである。
立方体の話をする前に、2次元の「正多角形」と3次元の「正多面体」の違いについて考えてみよう。正多角形は、最小の角数である正三角形から先は、正四角形(正方形)、正五角形、正六角形……と、無限に続くことは容易に分かる。無限角形は円になるだろう。ところが、正多面体は、正四面体、正六面体、正八面体、正十二面体、正二十面体の5種類しかない。最終的に球体にまでは至らないのである(fig.2-2)。
正多面体の数が5種類であることは、割と簡単に証明できる。正多面体の頂点を考えてみると、そこには「正M角形がN個集まっている」という状態になっている。MとNはどちらも整数だし、かつ、平らな面で構成される多角形に正2角形以下は存在しないので、M≧3である。また、仮にM=3の時にN≧6はありえない。M=3とは、要するに正三角形であるので、その一角の角度は60度。そこに6つの正三角形が集まると360度になり、その頂点は真っ平らになってしまう。そこで、頂点に集まった正M角形のN個の合計は360度未満とならねばならない。
ここで、正M角形の内角の和は、
正三角形で、180度
正四角形で、360度
正五角形で、540度
正M角形で、180(M-2)度
になるのはお分かりであろうか?
三角形の内角の和が180度であることを前提として、正四角形の場合、対角線を引けば、2つの直角二等辺三角形に分離できることが分かるし、正五角形なら3つの三角形に分離することができる。要するに、M角形の中には、三角形が(M-2)個入っているのであるから、内角の和は180(M-2)度となる。さらに正M角形であるならば、ひとつの角の大きさは、角の数Mで割ったものに等しいので、180(M-2)/M度となるだろう。
この角がN個集まって、360度を超えないというのが条件であるから、
180(M-2)N/M < 360 より、(M-2)(N-2) < 4 …… (2.1)
となることが分かる。これを満たす (M,N) の整数の組み合わせは、 (3,3), (3,4), (3,5), (4,3), (5,3) であり、それぞれが、正四面体、正八面体、正二十面体、正六面体、正十二面体に対応する。そして、これ以外に解は存在しない。
「(3,-1)など無数にある……」と、ポール・ディラックなら言いそうではあるが、とりあえず、そういうのは無しとする。
さて、正多面体が5種類あるのは分かったとして、では主役となる正六面体……すなわち立方体は何かユニークな特徴があるのか? それとも、正方形のように、他の正多面体と比べてそれほどの特徴がないのか? については「ある」というのが答えになるだろう。立方体は1種類で空間充填ができる唯一の正多角形なのである。
既にお分かりだとは思うが、2次元平面を隙間なく埋め尽くすのが平面充填であったように、3次元空間を隙間なく埋め尽くすのが空間充填である。立方体が本当に空間を埋め尽くすことが可能か……など考える必要すらないだろう。実際、立方体の部屋が上下左右前後に隙間なくあり、6面それぞれにあるドアを開け、部屋から部屋へ移動するだけで物語が展開する「CUBE」という映画もあったりする。名作なのでオススメだ。
ちなみに、正多面体を2種類使ってよいのであれば、正四面体と正八面体を組み合わせて空間充填することができる。この組み合わせの辺のみで構成されたものはオクテット・トラス構造と呼ばれており、橋桁などの構造物に用いられる。三角形で構成されているので、立方体構造──ラーメン構造──よりも強度が増す。
さて、3次元人である我々は、立方体を苦もなく認識することができるが、2次元人にその構造を伝えるのは難しい。前章で、立方体を2次元人に教えるために遠近法(透視図法)で描く方法を示したが、静止画のみではその図形の立体感が伝わらない。いやまあ、2次元人に立体を感じろという考え自体が無茶振りの気もするが、できるだけ意思疎通は図りたい。そこで、立方体を回転させてみることにする(fig.2-3上図)。
この図の場合、立方体が90度右に回転し、底面(灰色の面)が左面に移動したのが分かる。だが、実際のこの図は2次元の図である。あなたが液晶画面でこれを見ているか、紙面上か、はたまた電子ペーパー上かは分からないが、2次元の図形であることは間違いないであろう。これが立体的に見えるのは、このような形の立方体を、あなたが今まで数限りなく見ているからである。
この図形を2次元人が見た場合、単に図形が変形していると見るだろう。刻々と形が変わる図形である。3次元人である我々は、図形の形は変化しておらず、ただ回転しているだけだと説明するが、2次元人は「お前は何を言っているんだ?」と、ミルコ・クロコップ氏のように怪訝そうな顔をするだけである。
もうひとつ。例えば、底面が左面に移動する段階で、左手前の辺──2次元人に“手前”と言っても理解されないのであるが──を突っ切る形になるが、我々は左辺と底面がぶつかったとは考えない。左辺は手前にあり、底面は奥にあると認識するからだ。だが、2次元人に紙面に対する前後の概念はないので、必ずぶつかると考える。この辺が2次元の物質で作られた構造物であるならば、辺にぶつかって先に進むことはできないことになる。
さて、fig.2-3下図は、この立方体の回転を4次元化したものである。4次元人にとっては4次元立方体が回転しているだけの何の変哲もない画像だが、3次元人にとっては奇妙な物体に見える。今度は我々が怪訝そうな顔をする番である。
では、本書の主役である4次元立方体の解説に移ろう。
3次元においての正多面体は、正四面体、正六面体、正八面体、正十二面体、正二十面体の5種類しかないことは既に述べた。4次元においては「面」の集まりではなく立体的な「胞」の集まりであることから「正多胞体」と言われ、正五胞体、正八胞体、正十六胞体、正二十四胞体、正百二十胞体、正六百胞体の6種類がある。この中の正八胞体が、いわゆる4次元立方体である。
ではここで、fig2-3下図を今一度みていただきたい。この図は4次元立方体を90度右に回転させた図である。とはいえ、立方体の場合と同一の描き方ではない。まず、回転させる前の図(左端の図)を見ていただきたい。この図は面の正面からではなく、斜め右上から眺めた図になっていることが分かる。4次元立方体の場合、立方体の中にさらに小さな立方体が含まれているように描かれることになるので、3次元立方体と同じように正面からの透視図法とした場合、大小2つの正方形を入れ子状に描き、それが斜め45度の4本の辺で結ばれている図形として描かれる。はっきりいって分かりづらい。分かりづらいだけならまだしも、この描き方だと、3次元立方体の場合と見た目が全く同じになってしまうのである。
そもそも、2次元の紙面に3次元の図形を描くこと自体、3次元図形の影を描いていることになり、描き方に工夫がいる。そこで、斜め右上から描き、かつ、透視図法ではなく投影図法を使う。面や胞が奥に行っても大きさが変わらず、平行に投影される図法である。そして4次元図形の場合は、さらに影の影を描かねばならない。そこで通常の3次元の3軸(x, y, z軸)の描画には投影図法を用い、4軸目(w軸目)の描画に(一点)透視図法を使うことにした。
……いや、なんのこっちゃ、分からん?
もう少し説明が必要と思う。
透視図法では、遠くにある物体ほど小さくなり、無限遠は一点に集中する。この点を消失点という。実際には3軸あるのだから、それぞれの軸に消失点を描くこともできる。興味があれば、二点透視、三点透視で検索してみていただくこととして、ここでは一点(透視図法)で考える。例えば水平線がある絵画の場合は、水平線のどこか一点に消失点が存在する。
3次元立方体の中心に消失点を据え、幾つかの補助線を描いたのが fig.2-4 左図である。我々は3次元人なのでこの図に奥行きを感じるのであるが、2次元人にとってみればそこは単なる正方形の中心に過ぎない。3次元人が「そこへは永遠にたどり着けない場所だ」と述べても、その意味はわからないであろう。
同様に、縦横に走る補助線の間隔が全て同一であると3次元人が主張しても理解されないはずだ。「消失点とやらに近づくにつれて段々と狭まっているではないか!」と言われるだろう。この補助線を延々と消失点まで描くと無限本描かねばならないことは分かると思う。3次元人にとってみれば消失点はそういう特異点であるのだが、2次元人からみれば、何の変哲もない点のひとつでしかない。
この話の次元を1つあげて考えてみよう。4次元人が描いてきたのが図2-4の右図である……が、4次元人の苦労は、4次元の図形を2次元の紙面上に描かねばならないという点にある。2階級落として描かねばならないので、力石徹並みの減量が必要だ。ただ、行うことはそれほど難しいことではない。まずは3次元的な立体に見えやすいように、少し斜めから見たアングルとして立方体を描き、マトリョーシカのように立方体の中にずんずんと立方体を入れていくだけでよい。そして、その中心に消失点がある。
賢明な読者の方々は既にお分かりだとは思うが、この点は行けども行けどもたどり着けない無限遠の場所である。そして、外側の箱も内側の箱も全て同じ大きさの箱であり、中心の消失点に近づくほど箱の間隔は──実際は等間隔であるにも関わらず──縮んて見えなければならない。3次元人からみると、消失点は単なる立方体の中心に過ぎないが、4次元人からみればこの図に4軸目の奥行きを感じているわけである。
目の前に点があり、その座標もわかっているのに、そこに行くまでに無限の隔たりがあるというのは、なかなか想像しがたいかもしれないが、実は現実の世界でもそのような場所は存在する。余談になるが、ブラックホールの事象の地平線がそのような空間である。
例えば、星の中心部分を原点とし、そこから距離r₁の場所と距離r₂の場所を考える(ただしr₂ > r₁)。この2点が同一線状の同方向にあれば、その距離は、r₁とr₂間の微小距離drを足し合わせて、
L = ∫dr = r₂ - r₁ …… (2.2)
となる。普通はわざわざ積分式をはさまず、そのままL = r₂ - r₁と書いてしまうのだが、それは、ニュートン近似が成り立つユークリッド幾何学のまっすぐな世界を仮定しているからであって、実際には場所によって空間が曲がっている。要するに、場所によって微小距離の長さが変わってくる。
詳細は省くが、具体的に(2.2)式は、
L = ∫dr/√(1-rg/r) …… (2.3)
と表すことができる。rgはシュバルツシルト半径であり、r → rgの場合、L → ∞となる。要するに、外側からブラックホールに物体を投げ込んだとしたとしても、距離rgへは永遠に到達することがないのである。
さて、脇道はこれくらいにして、話を4次元立方体に戻そう。 fig.2-3 下図は4次元立方体を回転させたものと述べた。このとき、内部にあった立方体は側面に移動した風に見えている。移動の段階で、立方体の形状は台形に変化しているが、これまでの考察で分かるとおり、実際には形の変化はなく、単に90度転がっただけだ。
また、内側の立方体が外側の立方体の側面を突き破って外に出てくるように思えるが、実際はそうではない。内側と外側で立方体の大きさが違うのは、4軸方向の距離が離れていることを示しているので、面同士はすれちがって入れ替わっているのである。3次元立方体の回転から考えれば、それなりに分かるのではないだろうか? 逆に言えば、面と面がぶつかる状況というのは、面同士の大きさが一致している時である。
次に、4次元立方体の特徴について考えてみる。3次元の立方体は、1種類で空間充填ができる唯一の正多面体というユニークな特徴があったが、4次元立方体も同様か……というと、実はそうではない。正十六胞体、正二十四胞体でも4次元空間を埋め尽くすことが可能だ。
どちらかというと正五胞体の方がユニークで、3次元で言うところの正四面体、2次元の三角形の立場に匹敵する。ユークリッド幾何学を前提にするならば、一角形や二角形は存在しないので、三角形かそれに匹敵する最小の頂点数を持つ多角形がユニークであるのは保証されたようなものだ。
ところが……である。さらにその上の5次元を考えると、再び5次元立方体が1種類で空間充填ができる唯一の図形となる。そして、6次元、7次元……と次元を増やしても、今後、この事実は変化しないのである。すなわち、正方形から立方体、そして高次元の超立方体へと続く系列は、全ての次元において1種類で空間充填ができるというユニークな性質を持っている。逆に言うと、2次元と4次元の場合だけ特殊なのだ。
ちなみに、5次元以上の正多胞体は、
・三角形、正四面体、正五胞体……と続く正単体
・正方形、立方体、正八胞体(4次元立方体)……と続く正測体(超立方体)
・正方形(全内角が等しい菱形)、正八面体、正十六胞体……と続く正軸体
の3種類のみとなる。見方を変えると、2〜4次元においては正多胞体の数が3以外である(2次元においては無限にある!)という点で、我々が住んでいる3次元空間を含む前後±1次元空間というもの自体が実にユニークなのである。
どういうことかというと、我々3次元人は、次元がひとつ下の2次元図形の性質が、「3次元の我々の図形とは違うよね」と認識し、かつ、次元がひとつ上の4次元図形の性質についても「やっぱり我々の図形とは違うよね」と認識することができる。
ところが、例えば6次元人が5次元図形の性質と7次元図形の性質を調べたならば、「自分たちのものとあんまり変わらない」と認識するだろう。そしてそれは、次元がさらに上がっていっても同様なのである。
「異議あり! 6次元人が7次元図形の性質を調べたならば、エキゾチックな球面などを発見するはず……」という人もいるかもしれない。いやまあ、そういう人は是非とも位相幾何学関連の研究に進んでいってほしい。「それ行け!トポロジー」である。
本書でそちらに進んでしまうと戻ってこられないこと必定であるので、迂回して先に進むこととする。
さて……ようやく展開図の話である。
世の中は展開図で溢れている。もちろん「これは展開図です」と明示的に書かれたものは教科書の中のほか、わずかしかないと思われるが、この世に荷物というものがある限り、それを運ぶためのダンボール箱は無数に存在する。すでに述べたように、3次元空間を1種類で充填することができる正多面体は立方体のみであるから、立方体の輸送箱もある。ただし、もっとも多いのは直方体──長方形の3次元版──の輸送箱だ。
例えば、引っ越しに使われるダンボール箱を考えてみると、大中小3種類あって、中ダンボールの大きさは、 430mm(W) × 415mm(D) × 365mm(H) 程度になるようだ。これらダンボール箱は、ダンボール板を切り抜いて作られるものであるから、元となる展開図が存在する。また、様々な形状の包装箱においても、その多くは1枚のダンボール板から作られている場合が多く、中には芸術的なものもある。
Nintendo Switchにはダンボール工作キット「Nintendo Labo」があり、ダンボール板を折り曲げてコントローラーを作成して遊ぶことができるが、その工作キット自身がコントローラーの展開図だといっても過言ではないだろう。
このように、世の中は展開図で溢れている。それらの中で、立方体の展開図は、その対称性や汎用性から全ての展開図の基本だ。まずはその性質から探ってみよう。
立方体の展開図といえば、例えばサイコロの展開図とかになるだろうか? サイコロが立方体である理由は、全ての面において等しく目が出るというのが一番の理由であろう。直方体のサイコロがあったら出る目の確率に差が出てしまうので扱いづらい代物となってしまう。
面が全て同じという意味においては、立方体に限らず、5種類ある正多面体ならどれでも良いことになるが、正四面体は投げた後に頂点が真上に来てしまうので却下するとして、正八面体、正十二面体、正二十面体もサイコロとして使える。ただし、転がしたサイコロを上から見た対称性という観点からは、正八面体と正二十面体は中心がずれている──対象軸が面中心になく頂点にある──ので、少々かっこ悪いだろう。要するに、出た目を上から見ると、その面が水平ではないのである。
仮に「出る目の確率が全て等しければ良い」という条件であれば、特に正多面体にこだわる必要がないので、実際には色々なサイコロが実在する。六方晶系の筆記用具……要するに、鉛筆を転がすのもサイコロの一種であり、受験生の最後の拠り所となる。その場合、側面の出目の確率はほぼ等しいが、鉛筆が立った場合の確率が考慮されていない点に不備がある。
話がそれてしまった。さて、では立方体の展開図はサイコロの展開図といって良いのかというと、少しばかり気になることがある。それは、サイコロの中身の処遇だ。サイコロキャラメルの包装箱は別として、大抵のサイコロは中身が詰まっているのである。
例えば、リンゴの皮むきを行った時の皮の展開図というと、クロソイド(オイラーの螺旋)であるとか、いやいや、皮むきの場合は皮に幅があるから、剥き始めと剥き終わりはアルキメデスの螺旋で、少し離れるとリチュースになるとか、そのジャンルだけで論文が多数出ていたりするのであるが、それらはりんごの“皮”を対象にしているのであって、りんごの中身について食いついているわけではない……いや、食べているとは思うが。要するに、話題の主体となっているのは皮であって中身ではない。
よって、サイコロの展開図という場合、大抵はサイコロの表面の皮を剥ぎ取った後の展開図のことを述べている。
あまり見たことはないが、サイコロの中身も含んだ展開図を作成することも可能だ(fig.3-1)。6面全ての形状が同じパターンを考えると、その形は四角錐が6つ並んだ図となるが、当然ながら中身入り展開図はこれが唯一というわけではない。中身の切り分け方は任意なので、無限に様々な形状を考えることができる。
さらにはマトリョーシカのように、サイコロの中に一回り小さいサイコロを入れていくという方法も可能だろう。微積分的発想を考慮すると、こちらの方がスジがいい気がする。fig.3-1の図形を水平に薄切りして束ねていく感じだろうか?
どのような形態にせよ、中身の詰まった展開図というものがあまり注目されないのは、展開図としての面白みがあまりないからだと思われる。
展開図の面白いところは、次元をひとつ落とせるという点にある。3次元の立方体を2次元に開いてしまえる点が展開図の醍醐味であって、開いても3次元的な凸凹が残っていては、その魅力も半減する。逆に考えれば、平面のものを折り曲げると立体になるという点に意義があるのである。
そうすると、様々な展開図があるというのは、様々な次元の落とし方・広げ方が存在するということであり、様々な皮の剥き方があるということである。みかんの皮の剥き方を工夫して様々なアートを作る人もいる。
ここでひとつ注意が必要なのは、立方体の展開図には、みかんほど剥ぎ方の自由度がないという点だ。正確に言えば、やろうと思えば無限にたくさんの展開図が作れるので、ある条件を作って数を制限している。その条件とは、
切り開いて良いのは辺のみ
というものだ。これを辺展開という。面をジョキジョキ切って広げて良し(一般展開)……となると、いろいろな展開図が際限なく作れるということは、一度気づけば当然のこととして理解できるが、言われるまでは意外とそれに気づかない。みかんの皮の場合、元が球体であるので辺とか面とかの区別がなく、ルールに沿った切り方というものが発見され辛いのかもしれない。
いやいや、もしかすると、立方体を小学生に手渡して、「これをハサミで切って平面に広げる方法を考えなさい」とだけ述べれば、色んな展開の仕方を提案してくるのではないか? 要するに、展開図とは辺を切るものだと──明示的か暗示的かは別にして──先に教えてしまうので、それ以外の方法を考えることを止めてしまうのかもしれない。鶏が先か卵が先か?
この考察の確認は、まだ展開図を習っていない小学生で試してみたい。
なお、りんごの皮をナイフで剥く場合を考えると、ヘタの部分から皮を剥き始め、クルクルっとすべての皮をつなげたまま剥いていく方法と、まず八等分などに切ってしまってから個々の皮を剥いていく──たまにウサギを作ったりする──方法がある。後者は地球儀に貼り付ける原図と同等である。
なお、この2つの球面を剥くパターンは、立方体を剥くパターンとしても同等なものを考えることができる(fig.3-2)。
さて、「切り開いて良いのは辺のみ」という条件をつけると、立方体の展開図は11種類になる(fig.3-3)……といいたいところだが、実はもうひとつ条件がある。それは、
裏返しても良い
という条件である。
展開図を手にとって裏返すという作業は、我々3次元人にとっては造作も無いことであるが、2次元人には不可能だ。平面上から図形を持ち上げることができないのだから当然である。fig.3-3で説明するならば、a, e は裏返しても形が変わらないが、それ以外は全て形が変わってしまう。すなわち、裏返すことを禁止すると、立方体の展開図は9つ増えて、計20個になってしまうのである。
裏返すと形が同じになる物体というと、例えば両手がそうだ。右手と左手は手のひらをピタッと合わせることはできるが、形状が同じなわけではない。本当に同じ形状であるならば、左右の手袋がセットで売られている筈はなかろう。足の場合も同様のことが言えるのだが、手よりは指が短くて左右の形状にそれほどの差がない分、靴下を左右間違えても──五本指の靴下でない限り──問題はなさそうである。
裏返すと形状が同じものは、我々は他にも日常的によく見ている。例えば、鏡の中の物体である。手のひらも鏡に映せば裏返って写る。もっとも、鏡は左右を逆に写すわけではなくて、前後が逆に写っているというのが正しい。鏡に対して奥行き方向の向きが逆になっている。
3次元の世界の鏡は、次元がひとつ下がった2次元平面の反射板であるのと同じく、2次元の世界の鏡は、光を反射する1本の直線である。立方体の展開図も、この鏡に写せばたちまち裏返しとなる。難点を言えば鏡に手を突っ込んで展開図を取り出せないことだ。逆に考えれば、2次元世界で鏡に写ったものを3次元人は、そのもの自身を裏返すことによって手に入れることができる。
ひとつ次元を上げて考えると、4次元人は、3次元人を鏡に写った状態にしてしまうことが可能だ。世の中にはごく少人数であるが、心臓が右、盲腸が左にあるという人がいる。これらは内臓逆位と呼ばれているが、そういう人は前世で4次元的にひっくり返ってしまったのかもしれない。
ちなみに、このような裏返しの形のものは、鏡に写った姿と同等であることから、鏡像体と呼ぶ。また、光学的な特性が逆であるため光学異性体と呼ぶこともある。
仮に、我々が鏡に写った世界に移動したとしても、その変化にあまり気づかないかもしれない。人間を含む動物の多くは左右対称であるし、その他無機物の石や岩は、左右対称云々を超えたデタラメな形状であるので、鏡像的に裏返しても違和感がない。自然界にある動植物で確認するには、浜辺に行ってシオマネキのハサミの左右の大きさを確認するくらいしかできないが、我々人間ならば文字が裏返っていることに強烈な違和感を感じるはずだ。
なお、「メシを食べたら不味い」から分かるという話もある。地球上の生物に含まれるアミノ酸は光学異性体であり、何故が左型アミノ酸しか使われていないから、食べれば味も違うし、そもそも消化できないのではないかという話である。そういう意味で、鏡像世界に来てしまったことは、案外すぐに分かるのかもしれない。いやいや、そのままその世界にいたら、食べ物は沢山あるにも関わらず、餓死して死んでしまいかねない。
このへんの話は科学考証として大変面白い分野ではあるが、本書で深掘りするのはやめておく。
さて、4次元立方体の展開図は本書後半で詳しく述べるとして、先に、2次元正方形の展開図を考えてみる。ここで、3次元立方体の時と同じく、「切り開いて良いのは頂点のみ」という制約を課した場合、切ることが可能なのは4点ということになるが、切って展開──1次元の直線に伸ばす──すると、全て同じ図形になるのがわかるだろう。同じ長さの線分が4本、途中3つの節でつながれている線が正方形の展開図であり、これは1種類しかない。また、鏡像体も同じ形となる。
ここから少し横道にそれて、3次元立方体の展開図の性質を色々と考えてみたい。平面充填に関しては前章で紹介したが、要するに、その図形で平面を隙間なくタイル張りができるかということである。
2次元の正多角形の場合、正三角形、正方形(正四角形)、正六角形のみが平面充填できるが、正多角形以外なら色々な形で平面を充填できることが分かる。もっとも単純なのは、長方形であろう。長方形の辺の比がどのようなものであれ、空間を埋め尽くす図形であることは容易に分かる。では次に「凸」みたいな形状のものはどうか? この図形が正方形が4つ組み合わさったものと考えれば、平面充填が可能なことが分かる。要するにこれは、「テトリス」である。
テトリスに使われるコマは正方形が4つ組み合わさってできた図形で、テトロミノと呼ぶ。形状は5種類あるが、テトリスのゲームではこれらのコマを画面内で回転させることはできても裏返すことはできないので、鏡像体の2つが加わって、計7種類のコマがある。ちなみに、正方形が2つ組み合わさってできた長方形は、ボードゲームで使われるドミノになる。また、5つ組み合わさったものをペントミノといい、これを並べて遊ぶパズルの名前にもなっている。
これら正方形がいくつか組み合わさってできた図形の総称はポリオミノと呼ばれ、n個つながった図形は、n-オミノと呼ばれる。
3次元立方体の展開図は、正方形が6つ組み合わさったものであるから、6-オミノ(ヘキソミノ)の中の11種ということになるが、はてさて、この図形は平面を充填できるか……というのが、本節のお題である。
いやまあ、四の五の言わずに見ていただくのが良かろう(fig.3-4)。11種類ある3次元立方体の展開図は全てが単体で平面充填可能である。また、平面を塗り分けるには、最大で3色あればよい。そのうち、3種は2色で塗り分け可能である。
「展開図の全てで平面充填が可能とはすごい!」と感動した(?)人には申し訳ないが、ヘキソミノの全種類は鏡像体を除いて35種類あり、その全てで平面充填が可能である。さらにいうと、ヘキソミノ以下のポリオミノ──すなわち、モノミノ、ドミノ、トリオミノ、テトロミノ、ペントミノ、ヘキソミノ──全てが、それら全図形単体で平面充填が可能である。
逆に7-オミノ(ヘプトミノ)以上になると平面充填が不可能な図形が出てくることは容易に分かる。それは穴を持った図形が登場してくるからである(fig.3-5)。
図形内に穴となる空間ができてしまうと、そこを外から埋める手段がないため、平面充填が不可能となることは自明である。もうひとつ加えて8-オミノ(オクトミノ)とすると、「回」の字状の図形を作ることが可能なことも分かる。囲碁をやっている人はこの図形の方が安心(?)するのではないだろうか。
ただし、ヘプトミノやオクトミノを7〜8つの立方体をくっつけて作成した場合、3次元的に穴を埋めること自体は可能だ。穴あきの2つの図形を、知恵の輪のように互いの穴に通せば良いのである。もっとも、だからといって、それを使って3次元的な空間充填が可能とかといえば、それは否である。「回」状態の2つの図形を縦横に立体的に組み合わせ、それぞれの穴を埋めることは可能だが、組み合わせた図形で空間を埋め尽くせるかを考えてみればよい。
ちなみに、これらポリオミノによる平面充填……あるいはその3次元版である空間充填の仕方については、かなり大きな、そして深い沼が広がっているので、ここでは深入りしないことにする。
……多分、知的遊戯としては相当面白い分野だと思われるので、各自自己責任でお楽しみいたただきたい。なお、深入りしたことよってどのような目に遭ったとしても私は関知しないのでそのつもりで。死して屍拾うものなしである。
続いて、3次元立方体の展開図を線画とみなして一筆書きできるかどうかを考えてみる。高々11種類しかないので、実際に個別にトライしてみてもよいのだが、実は一目で一筆書きが可能かどうかを見破る方法がある。
展開図には、立方体にした時に頂点になる部分があるが、ここに集まる線──辺になる部分──の数が奇数となる点(奇点)の数を調べる。そして、その数が0か2であれば一筆書きが可能だ。ちなみに、奇点の数は必ず偶数個になる。要するに、1や3にはならない……というか、なりようがない。奇点数が0の場合、どこから一筆書きを始めても図形は完成するが、2の場合は、どちらかの奇点から描き始めて、もう一方の奇点で描き終わりとなる。
この法則の理屈は割と簡単である。例えば、毛糸を1本用意し、それで展開図の線に沿わせて一筆書きを完成させることを考えてみるとよい。まず、毛糸には2つの端がある。あやとりの要領で端を結ぶと、端は0になる。端の数が1や3になることはない。「毛糸をほぐして、2本に裂いたら、端は3つになるではないか!」と思われた方もおられると思うが、その場合は、裂けて二股になった毛糸の付け根の部分も奇点となっている。すなわち、端を1つ増やすと、そこが奇点となるのと同時に、裂け目部分も奇点となるので、奇点数は必ず2つずつ増えるのである。
端が0の場合、それはあやとりの紐と同様なので、どこから始めても一筆書きは可能である。どこから始めても一周して戻ってくることができる。
端が2の場合は、あやとりの紐の一箇所が切れて、単なる一本の紐になっている状態なので、端から端までなぞらなければならない。途中から始めると戻ってくることができないからである。
端の数2の次が3ではなく4になるということは、さらにこの紐を切ってみれば分かる。端が1つだけ増えることはありえない。そして、端が4つということは、紐が2本になったということであるから、一筆書きは不可能で、二筆書きになる。
さて、これらのことがわかったところで、3次元立方体の全展開図(fig.3-3)を今一度見返してみよう。11種類のうち、4種類が奇点数2で一筆書き可能となることがわかるはずだ(fig.3-6)。
せっかくなので、a〜k全ての奇点数を列挙してみると、
奇点数6 a, d, g
奇点数4 b, c, h, j
奇点数2 e, f, i, k
となる。当然ながら奇点数が奇数となるパターンは存在しない。
一筆書き可能な4種類の展開図は、どれも奇点数2であったので、描き始めと描き終わりの点は決まっているものの、途中の線の引き回しはさまざまなパターンが存在する。fig.3-6において注意したのは、線が交差しないように……要するに、前に書いた線を跨がないように描いたという点だ。もちろん、交差すると紙面では見づらいというのがあるのだが、同時にこれは、2次元人に交差という概念を伝えるのが難しいということでもある。
例えば、メビウスの輪というのは、一本の幅のあるテープをひねって裏返し、端をくっつけると完成するが、2次元人にとってみれば裏返してくっつけるという操作が分からないだろう。テープを「C」の字状に曲げてくっつける方法なら分かるが、テープをひねって表側を裏側に接続するという方法が理解できない。
メビウスの輪の3次元版であるクラインの壺を考えれば分かりやすいのだが、円筒の一端を折り曲げて円筒の内部から他端につなぐためには、一端を円筒の外側から内側へ誘導せねばならず、そのためには円筒の側面に穴を開けて交差(自己交差)させる必要がある。4次元人は、円筒に穴を開けることなく、外側から内側へ円筒の端をくっつけることが可能であるが、3次元人の我々にとってそれは魔術のたぐいだ。3次元人は円筒を「C」の字状に曲げてくっつける方法なら分かるし、その形状をトーラスと呼んで理解している。一般的には「ドーナツ状の形」で通じるだろう。だが、円筒をひねって外側を内側に接続するという方法が理解できない。
同じように、2次元人にとって1次元の線を、ぶつけることなく交差させるというのは理解し難いので、繋ぎ方を変えることによって交差を回避できるならば、それに越したことはない。そして、この一筆書き可能な展開図(交差なしパターン)というのは、2次元人が1次元人に対して、
「3次元立方体の展開図はこういうものです……よく分かんないけど」
と説明する時に使うであろう図形なのである。2次元人は3次元立方体そのものは理解できないが、3次元立方体の展開図の形状は平面なので理解できる。その図形を2次元人が、さらに次元の低い1次元人に説明しようとする状況を想像して頂きたい。
展開図の一筆書きを一直線に伸ばし、折り目に折り方の情報を記したものは、直線であるがゆえに1次元人にも理解できる。1次元人には折るという行為は理解不能だが、情報が載せられた点において何らかの操作を行うという認識は可能だろう。その情報に基づいて2次元空間で操作を行うと、3次元立方体の展開図が完成するのであるから、これは3次元立方体の展開図の展開図に他ならない。
具体的な例を示そう。例えば、最もポピュラーな展開図であるfig.3-6のeパターンについて考える。この一筆書きは、元々は1本の針金を各点で90度ずつ折り曲げて作成したものと考えて欲しい。1辺の長さを1とするなら、長さ19の針金を用意することになる。この針金の折点に印を付けていくのだが、印は「右折り」と「左折り」の2種類が必要になってくる。例えば、
右折り = 1
左折り = 0
としてみよう。2箇所ある端のうち、右上を開始点、右下を終点とするなら、
111010010001110001 …… (3.1)
と曲げれば、eパターンの展開図が出来上がる。実際に針金を持ってきてやってみればよい。この数列を数式と呼んでよいものかどうか分からないが、とりあえず式(3.1)としてみた。
もしかすると、LOGO言語を思い出して、
FORWARD 1
RIGHT 1
FORWARD 1
RIGHT 1
……
と同等だとか感じているかもしれないが、多分若い人は知らないので、口に出して言わない方がいいだろう。
昔話はともかくとして、この数列を1次元人に伝えれば、3次元立方体の展開図というものがどういうものかを伝えたことにはなる。「右折り」と「左折り」がどのような操作かは皆目分からないとしても……である。
さて、3次元立方体の展開図を3次元立方体にするには、さらに立体的に折らねばならない。式(3.1)の操作は3次元立方体の展開図を作る操作であり、3次元立方体そのものを作る操作になっていないのである。3次元立方体そのものを作る操作を伝えるためには、折り紙で言うところの90度の「山折り」と「谷折り」を操作に加える必要がある。これは、1次元人はもちろんのこと、2次元人にも理解不能な操作だろう。ではここで、
山折り = +
谷折り = -
としてみよう。先ほどと同様、右上を開始点、右下を終点とするなら、
11(+1)0(+1+)00(+1+)00(+0)111(+0)00(+1) …… (3.2)
となる。ちなみに( )は同一地点での操作を示しており、(+1+)は山折りしてから右に曲げ、さらに山折りすることを意味する。これこそが3次元立方体の真の展開図の展開図であり、3次元立方体の形状を1次元人にも伝えることができるひとつの手段となるだろう。先に呼べたように、展開図は展開することによって次元をひとつ落とせるのであるから、展開図の展開図は次元をふたつ落とせるわけだ。
3次元立方体の展開図が11種類あったように、それぞれの展開図の展開図も何パターンか存在し、それは一筆書きの描き方が何パターンあるかに対応することになる。また、式(3.2)には「谷折り」が存在していなかったが、全てが谷折りの、
11(-1)0(-1-)00(-1-)00(-0)111(-0)00(-1) …… (3.3)
も解のひとつとなる。要するに3次元立方体の展開図を裏返して折っても──表面の裏表が逆にはなるが──ちゃんと立方体を作ることが可能である。
そういう意味では、4次元人は3次元人の体を裏返すことが可能なのであるが、内部が詰まっている物体の場合、内側と外側の体積の違いは歴然としてあるので……と、これ以上はかなりグロい話になりそうなので止めておく。
ところで、1次元の直線を「右折り」と「左折り」に折り曲げる段階では、折れ線の裏表を考える必要はなかったが、「山折り」と「谷折り」を導入した段階では裏表の概念が必須となる。正確に言えば、「右折り」と「左折り」で2次元平面上の回転を表すことができて、これは2次元平面内で閉じている操作であるが、これに「山折り」と「谷折り」を付加すると、その平面に対して垂直な回転を導入することになる。
飛行機の操作で例えると、「右折り」と「左折り」はヨーイングで、「山折り」と「谷折り」はピッチングだ。飛行機の場合、左右の翼を上下させるローリングも存在し、これは針金をねじることに相当するが、(1+0)とすれば、右に90度ねじったことになる。悪ノリすれば、
(011) = 1より、 (1+011) = (1+1) = (+1+) …… (3.4)
ということも分かってくるので、式(3.2)が必ずしも唯一の解ではなく、1次元人への折り方の伝え方も人によって違ってくるだろう。
さらには、何もしない操作として、
(10)、(1010)、(+-+-+-) …… (3.5)
とか、
(1111)、(++++) …… (3.6)
も考えられる。式(3.5)は一度曲げてから元に戻す操作であり、式(3.6)は360度曲げ、一周させて元通りという操作である。
360度回転させると元通りなのは自明と思われそうであるが、自然界には例えば電子などのフェルミ粒子は360度回転させると波動関数の位相が逆になる(符号が逆になる)ので、720度回転させないと元に戻らない(ボーズ粒子は360度で元に戻る)というような空間も存在している。
そういうわけで、「360度で一回りで本当に良いのか?」とか、ついつい考えてしまうが、今は単純なユークリッド幾何学の範疇の話なので、深く考える必要はない。
ここで突然ではあるが、立方体(正六面体)ではなく正八面体の展開図について考えてみよう。
正八面体の展開図の数は立方体(正六面体)と同じく11種類である。これは偶然ではない。正八面体の頂点と立方体の面は1対1で対応しており、そのような関係を双対多面体と呼ぶのだが、この場合、その展開図も1対1対応をする。同様に正十二面体と正二十面体も双対関係にあるので、展開図の総数が同じになる(43380通り)。
また、立方体の展開図と同様に、正八面体の展開図も全て平面充填が可能な図形となっている。では、一筆書き可能な正八面体の展開図も11種類中4種類であるかというと、そうではなく、たった1つしかない。
正八面体は他の4つの正多角形(正四面体、正六面体、正十二面体、正二十面体)と異なり、頂点に集まる辺の数が偶数(4本)である。ちなみに、正四面体、正六面体、正十二面体は3本、正二十面体は5本である。このことは、正多面体の数が5種類であることを証明したときに既に答えが出ているので、気になる方は読み返してみてほしい(第2章の式(2.1)参照)。
さて、正多面体を展開図にするには、辺を切り開く必要があるが、そうすると1本の線が2本になる。よって、切り開いた付け根の部分の頂点から伸びる線の数は、正八面体だけが奇数で、他の正多面体は偶数になる。ここまで書けば、聡明な読者はお気づきであろうが、正八面体は奇点数が多くなってしまう傾向にあるわけだ。
参考のため、fig3-7に正八面体の全展開図を列挙しておく。立方体の展開図であるfig.3-3と、列挙の順番揃えておいたので、確認していただきたい。なお、どれが一筆書き可能な展開図かは敢えて書かないでおく。ここまで読まれた方なら見つけ出すのは簡単であろう。
次は、11種類ある3次元立方体の展開図のそれぞれの関係について考えてみよう。
この展開図は、辺の部分を切り開いて平面にするもの(辺展開)であるので、途中まで同じ切り開き方で、最後だけちょっと違うというパターンもある。逆に、最初から全然違うパターンもあるはずで、展開図同士で、色々な意味で近いものと遠いものがあると考えられる。
これらを、動植物の系統図のように分類できないだろうか?
fig.3-3で考えれば、a〜fは似たような形をしている。具体的に言えば、4つの正方形が1列に並んでおり、立方体を作る段階で、これらが環状に囲いを作る。そして、上下で蓋をするという構造である。違いは上下の蓋の折り目の位置だ。
a, eは上下共に同じ場所で折る。b, d, eは90度ずれており、cは180度の対角線(対角辺?)上に上下の折り目がある。a〜dが特に特徴的であるが、上部の蓋の位置を固定すれば、下の蓋の折り目の位置が90度毎に変わっていることに気づくだろう。
さて、ここからが問題である。展開図をaからbに変更するにはどのような手順を踏めばよいだろうか? ……といっても、実に簡単なことである。要はカット&ペーストだ。下の折り目の部分を切り取り、90度ずれた隣に貼り直せばよいのである。これがaからkへの変換であった場合、1回の切り貼りで終わらないことは自明であろう。すなわち、aとbの展開図は似ているが、aとkの展開図は似ていないという意味で、それぞれの展開図が近いか遠いかを決定することができそうである。
では、続いて、aとgで考えてみる。一見すると形がかなり違うので、何度も切り貼りしなければならなさそうだが、実は1回で変換可能だ。aは縦3列と横3行の正方形がくっついた形をしているので、この二つに切り分けてからgの形に貼り直せばよい。言葉のみの説明ではイメージがわかないと思うのでfig.3-8にその方法を示そう。一言で言えば、転がせばよいのである。
転がし方にもルールがある。箇条書きするなら、
1) 切り分けるのは一辺のみ
2) どちらかの切った辺のどちらかの頂点を回転軸として転がす
3) 回転角90度で転がして別の辺にくっつかなければならない
となる。
1)は、一辺分の長さを切れば展開図を2つに分離できるということを述べている。逆に言うと、辺が2つ以上連続してくっついている箇所があった場合、その図形で立方体を折ることはできないので、展開図にそのような箇所は存在しないのである。
2)は、切り取った部位を左回りか右回りどちらかに転がすときに、完全に切り離してはならず、どちらかの頂点をくっつけたままにしなければならないというルールである。バスケットにおけるトラベリング禁止のようなものと思って頂きたい。
3)は、言い方を変えれば180度以上回してはならないということである。90度回転させて隣の辺にぶつかるような場所を切り取って回転させねばならないということだ。
もっとも、a→bと90度転がした後に、再び90度転がすのは構わない。一度別の展開図になった後にこの3つのルールはリセットされる。ちなみに、a→bと同じ操作を繰り返すとcになるし、さらに繰り返すとdとなる(fig.3-3参照)。dから同様の操作を行おうとすると、180度の回転が必要となるので、この操作はここで終わりである。
1)では切り取る部位に特段の制約はついておらず、切り取った部位は2)によって「左回りか右回りどちらか」の任意の2通りが選べる筈だが、3)のルールによって、どちらか一方しか選べない、あるいはどちらも選べず、結果的に切り取ることができない辺が出てくるわけである。
ところで、そもそもの立方体という本来の形を考えてみると、a〜dの中央の4つの正方形の列は、ぐるっと回って四角い筒になる部分であるから、その下部の正方形を転がすという操作を左から右に行うと、右端に行った後左端に戻ってくる筈である。すなわち、d→aという変換が可能な筈でそれはそれで正しい。
ただし、このようなワープを考慮するためには、展開図の端が、別の場所のどこにつながっているかを頭で把握しておかねばならず、それはとても厄介な作業なので、d→aという一発変換は禁止することとする。よって、d→aに持っていくにはd→c→b→aという計3回の変換が必要ということになる。手数は増えるがこの方が分かりやすいだろう。
なお、先に述べた「aからkへの変換」はa→b→k'と進めばよいので、2回の変換で済む。ちなみに、kではなくk'としたのは、できた展開がfig.3-3におけるkの鏡像体だからである。もちろん、aからkを作ることも可能で、操作を上下逆にしa→b'→kとすればよい。もちろん、b'はbの鏡像体である。これらの操作が可逆的なのも分かるであろう。a→b'→kが成り立つのであれば、k→b'→aも成り立つ。すなわち、aをkに変換するのに操作が2回必要であるならば、逆向きのkをaに変換する操作も2回必要だということだ。a⇆b'⇆kと書いてもよいだろう。また、a→b'が成り立つなら、a'→bも成り立つ。鏡に映った変換も可能だからだ。
この展開図変換の特徴をまとめると、任意の展開図x, y, zに対して、
逆変換 x→y ならば y→x ∴x⇆y が成立 …… (3.7)
裏変換 x→z' ならば x'→zが成立 …… (3.8)
となるだろう。(3.7)と(3.8)の関係は独立で成り立つから、x→yならば、y'→x'も言えるし、x→z'ならばz→x'と言える。
また、展開図aとeは少々特異な存在で、この2つは線対称の形をしているので、
a = a' …… (3.9)
e = e' …… (3.10)
なのである。3次元立方体の展開図は11種類で、鏡像体も含めると20種類であるが、11×2 = 22種類とならないのは、この2つが存在するからだ。物理的な表現をすると、空間反転によって形状が不変ということである。
以上のことを踏まえて、11種類の展開図から一回の変換で変換しうる展開図の一覧を作成したものがfig.3-9である。
では、aから始めで、他のb〜k、10種類の展開図に変換するには、それぞれ何手必要だろうか?
a→b 1回
a→b→c 2回
a→b→c→d 3回
a→b→e 2回
a→b→c→f 3回
a→g 1回
a→b→h 2回
a→b→c→i 3回
a→b→c→j 3回
a→b'→k 2回
となるので、最大でも3手で全ての展開図に変換可能だ。
さらにこれを見ていくと、a→b変換がやたらと多いのに気づく。ならば、bから始めれば、全体の変換の手数は減る。b→aは逆変換であるので当然1手で終わる。b→g'も1手で終わることがわかる筈だ。他の8パターンは全て1手ずつ減るので、全部で8手分の節約になる。
ただし、b→g'はgの鏡像体であるし、b'→kはbの鏡像体から始めねばならないので、少しズルい気もする。
b→a→g 2回
b→c→i→k 3回
とすると、aからの変換よりそれぞれ1手ずつ増えてしまうが、それでも全体で5手分の節約となる。なお、変換方法は別のルートが存在するものもある。例えば、a→b→c→fの他に、a→b→e→fでも構わない。
逆に、最も手数がかかる展開図はdおよびgとその鏡像体d'およびg'だと思われる。d'に至ってはfig.3-9の中に登場してこない。つまり、a〜kの展開図の中から一回の変換でd'へたどり着く解は存在しないのである。まずは、
d'→c'
d'→j'
のどちらかの展開図を経由してからでないと、他の展開図へはたどり着けない。残りのd, g, g'についても変換可能な展開図が2種類しかないという点において同類である。
なお、これに関連することであるが、一筆書きが可能な展開図を調べたとき、頂点に集まる線数が奇数となる点(奇点)の数が多い組み合わせとしてa, d, gがあったことを思い出していただきたい。逆に言うと偶数になる点(偶点)が少ないことになるが、偶点は十字路となっている頂点のことであるから、展開図を変換する際、その頂点を回転軸として部位を90度転がすことができる頂点だということになる。これが少ないということは、変換可能な展開図の数も必然的に少なくなる。
aから変換可能な展開図は4つで、fやkと数の上では同じであるものの、実質はbとgの2つであり、残り2つはその鏡像体である。仮に、ある展開図とその鏡像体を区別することなく、展開図を全11種類として計算しなおすならば、a, d, gは変換可能な展開図が2種類しかない最低トリオとなることが分かる。
ところで、a〜kの展開図のそれぞれの鏡像体をa'〜k'と定義したのは周知の通りであるが、正確に言えば、a = a'、e = e'なので、この二つは区別ができず、全てaとeとして扱うことにしている。この2つは左右対称であるがゆえに、変換可能な展開図群も「ある展開図とその鏡像体」のセットが置かれている。すなわち、先ほど述べたように、
a → b があれば、その鏡像体の、
a → b' もある
ということである。bは鏡像体b'がbとは異なるため、本来ならばその逆変換は、
b → a ならば、
b' → a' もある
とすべきなのであろうが、a = a'なのでそこは区別していない……というか、区別できない。固有値が2重に縮退しているようなものである。
縮退を解く方法(区別する方法)としては、展開図の各正方形に番号を振ればよいが、そうするとそれぞれの正方形を別のものとして扱わねばならず、展開図の総数自体が増えてしまう。今議論しているのは3次元の立方体の展開図だから全11種類で収まっているのであって、例えば縦横高さの全て辺の長さが異なる直方体の展開図の場合は、全54種類に増えてしまうのである。ここは、素直に対称性のありがたさを享受しておくことにしよう。
ただし、鏡像体がある9種類の展開図において、「どちらを表とし、どちらを裏とするか?」という疑問がある。例えば、dとfのセットがdとf'のセットだった場合、「それは何か違う」と思うかもしれない。では、iとjのセットがiとj'のセットだった場合、どちらのセットが座りが良いだろうか?
一見すると、iとjのセット方が“近い”気がするが、
i→j
i→j'
のように、裏表どちらの展開図にも一発で変換可能なのである。もちろん、
j→i
j→i'
の逆変換も成り立つ。よって、これとこれを表同士としてセットにすべしという明確な基準が決められない。仮に、aとeのみが裏表どちらにも通じる変換方法で、他の展開図は表のみ、あるいは、裏のみで変換が閉じているとするならば美しいが、現実はそうなっていないのである。
事実、インターネット上にある3次元立方体の展開図を検索してみると、a〜kのセットとは異なるパターンも多く存在しており、決められた記述方式は無いようである。当然ながら、化学分野のキラリティーのように、「こちらが右手系で作られたセットで、こちらが左手系で作られたセット(a, eはアキラル)」というような分類もなされていない。いや、もしかしたらあるのかもしれないが、私は見たことがないので、あるならば是非とも教えてほしい。
その他、面白ネタとしては、展開図hはh→hという変換が可能である。実際にやって頂くのが一番良いが、折り紙で言うところの“だまし舟”的な展開図変換が可能となっている。ということは、
b→h→i
という変換は、
b→h→h→h→h→h→h→h→h→h→i
としても良いわけだ。もちろん、これをやってもなんの得にもならず、「だから何?」という話である。
これとは逆に、鏡像体への変換……すなわち、
x→x'
という変換ができる展開図もあると面白いのだが、残念ながら3次元立方体の展開図では存在しない。
ちなみに、この「展開図から展開図を作る」手法は、4次元立方体の展開図を探す手法としても有効であり、強力なツールとして活用できるのであるが、
ある展開図から有限の回数を経て全ての展開図へ変換可能か?
という疑問が残っている。3次元立方体の展開図では、たどり着きにくい展開図はあったにせよ、何度か変換することによって全てが作成できることは分かった。しかし、無限にある高次元の立方体に対し、この事実が永遠に真であるという保証は無い。
言い換えるならば、n次元立方体の展開図の数をNとしたとき、ある展開図xから、先に挙げた3つのルールを適応して新たに作り出せる展開図群の全数n(x)がn(x) < Nである場合もあり得るのではないか? 別の“島”に属するある展開図yから作り出される展開図群と組み合わせてN = n(x) + n(y)となる場合(さらには、展開図zを含む別の“島”も……など)があるのではないか……という懸念だ。
個人的には、そのような島分かれはしておらず、どの展開図から始めても、いずれ全ての展開図にたどり着くと予想している。
ただし、そのことを証明するには、本書の余白は少々足りないようである。
これはまた、「何やら、わけが分からないことを言い始めたな……」と感じたあなた。あなたの感性は正しい。少し悪ノリ気味ではあるが、御用とお急ぎでない方は、お付き合いいただきたい。
3次元立方体の展開図は、中身を考慮しなくてよい場合は2次元平面上の図形となる。また、展開図から立方体を作る場合、折り曲げる箇所は辺の部分であり、辺は直線であるから1次元である。
すなわち、3次元立方体は、3次元の立方体1つであり、その展開図は2次元の正方形6つから構成されており、その正方形を繋ぎ止めているのは5本の辺である。
えっ? 何を言いたいのか分からない?
ではn次元の立方体の話に切り替えよう。ますます分からなくなる……と思われそうだが、ここではn次元と一般化する方が分かりやすいと思う。
n次元の立方体とは、nが3であれば通常の立方体であるし、2であれば正方形のことになる。4より上はイメージし辛いが、具体的な図形のイメージは必要ではなく、まあそういうものがあると考えておくだけでよい。なお、n次元の立方体は「n次元超立方体」と呼ばれることが多いが、前章の前書きで熱弁(?)した通り、本書では「n次元立方体」と書く。
このn次元立方体の展開図は、中身を考慮しなくてよい場合はn-1次元空間上の図形となる。要するに、次元が1つ下がった図形となる。そして、その展開図はn-1次元立方体のいくつかの集まり(N個とする)で構成されている。nが3であったならばn-1は2であるので、この場合のn-1次元立方体とは単なる正方形に他ならず、「いくつかの集まり」とは正方形が6つ集まったものということになるのでN=6だ。
さらに、n-1次元立方体の集まりは、そのままではバラバラなので、N-1個のn-2次元立方体で接続されており、「その接続の仕方が何通りあるか?」がそのまま「展開図の数がいくつあるか?」になる。nが3であったならばn-2は1であるので、線分で接続されることになり、我々はその部分を「辺」と呼んでいることになる。また、n=3ならばN=6であるので、N-1=5となる。すなわち、6つの正方形は5つの辺で繋がっていることになる。まあ、2つの正方形を繋ぐにはどこか一辺をくっつければよいし、追加でもう一つくっつける場合は、さらに一つの辺を選んでくっつければ良いのだから、N個の正方形をくっつけるにはN-1回だけ糊を使えばよいことは簡単に分かるだろう。
細かいことを言うと、例えばL字型にくっ付いた正方形3つがあったとして、その切り欠き部分を埋めるようにして4番目の正方形をくっつけた場合(全体の形は「田」となる)、接続部分は2箇所となるので、糊を2回使うことになる。ただし、このような接続は展開図においては発生しない。そのようなくっつけ方をすると展開図として折れなくなるからである。
よろしいだろうか?
これらをまとめて記述すると、
n次元立方体の展開図は、n-1次元立方体N個で構成され、n-2次元立方体N-1箇所で接続している。
となる。n=3ならば、「(3次元)立方体の展開図は、(2次元の)正方形6個で構成され、(1次元の)辺5箇所で接続している。」となる。なんとなく分かっていただけただろうか?
ちなみに、nとNの関係を導くことは実は簡単で、
(2x+1)^nを展開し、x^(y)の係数がn-y次元立方体の数 …… (3.11)
である。ここではNを「n-1次元立方体の数」としているから、y=1であり、x^1 = xの係数を調べればよい。n=3ならば、
(2x + 1)^3 = 1 + 6x + 12x^2 + 8x^3
になり、xの係数は6なので、3次元立方体は6つの正方形から成り立っていることが分かる。
係数をx^0から順番に言えば、「1」「6」「12」「8」であるから、
1つの立方体
6つの正方形
12本の辺
8個の頂点
となることが分かる。
n=2の正方形ならば、
(2x + 1)^2 = 1 + 4x + 4x^2
であるから、
1つの正方形
4本の辺
4個の頂点
である。
もちろん式(3.11)は高次元側でも適応可能なので、4次元でも、5次元でも、さらには100次元立方体でも、それらはいくつの「n-1次元立方体」で構成されているかという問題にも簡単に答えることができる。式の展開はnが増えると面倒だが、面倒というだけで難しくはない。
さて、式(3.11)は、何故そんなことが言えるのか等、大変興味深い式だと思うが、以後の話には直接関係がないので、これ以上は立ち入らないこととする。例によって、こちらを考察をしていると深い沼にはまるので、話を元に戻す。
3次元立方体の展開図を構成する6つの正方形は、5つの辺で接続されている。これは周知の事実であり、疑問の余地はない。で、この接続部分の次元をもう一つ下げられないかというのが私の提案である。要するに、辺全体を糊でくっつけるようなことはせず、辺の右端、あるいは左端のどちらかの頂点でくっつけてはどうかというアイデアだ。
すなわち、「n-3次元立方体N-1箇所で接続」してみようということになる。n=3の場合はn-3次元は0次元であるから、「頂点5箇所で接続」してみようというわけである。
先に展開図から展開図を作る方法として、一部の部位を切り出して、左右どちらかに転がすという方法を紹介したが、回転軸の頂点部分だけ接続すれば、正方形を切り貼りしなくても、頂点がくっついたまま回転させることが可能だ。例えばfig.3-9に描かれた展開図eの両腕上部に相当する部分頂点のみがくっ付いた状態だったとしよう。その場合、
e→b
e→b'
e→b→a あるいは、e→b'→a
が、展開図を切り貼りすることなく表現可能になる。このように接続された展開図eは、展開図e以外のa, b, b'にも変身できるわけであるから、これら4つの展開図へ転移する前の変性状態の図形とみなすことができる(以降、これら図形を「展開図の変性形」あるいは単に「変性形」と呼ぶことにする)。この改造はさらに続けることが可能だ。頂点のみ接続するという方法は2点だけではなく、5箇所にまで増やすことができるからである。
fig.3-10に、これら展開図の変性形パターン(A〜D)を示す。黒線と黒丸は、接続部のジョイントを表している。蝶番を上から見たような図だと思ってもらえばよい。もちろん、これらは沢山あるパターンの中のほんの一部である。
変性形AとBのように、正方形を一列に数珠つなぎ(直鎖列)にしたものは16パターンある。接続部は5箇所あり、左右の頂点いずれかを選べるので、2^5 = 32パターンが考えられるが、上下を回転させることができるので、半分の16パターンとなる。なお、裏返しを認めれば10パターンとなる。
これらパターンの中には、6つの正方形の全左端を繋いだ変性形など、展開図を作れないパターンも存在するが、直鎖のみならず、分岐鎖を含んだものもこれに加わるのであるから、変性形の全パターンはかなりの数となる。
化学……特に、有機化学でアルカンの数を数えるのが好きな方は、全種類描き出してもらうのも一興だろう。環状パターンは無視してよいので多少は楽だが、今回は全ての変性形を見つけ出したら終わりではなく、各変性形から、それぞれ何種類の展開図を何個作ることができるかまで調べるのが仕事である。
とりあえずは、fig.3-10に明示的に示したものをサンプルとして解説していく。
まず最初に、変性形AとBのパターンの解説である。作成可能な展開図はAとB、共に6つ。3次元立方体の展開図は全11種類なのだから、数としてはこの2パターンでそれを超えるのだが、AとBで重複した展開図(具体的にはiとj)があるので、全11種類をカバーするにはaとgが足りない。また、h'とk'は鏡像体なので、それを全11種類に含めて良いのかは微妙である。
ちなみに、「変性形2パターンで、展開図全11種類をカバーすることは可能か?」という疑問については調べていない。変性形3パターンを用意してよいのであれば、例えば、A, B, CあるいはB, C, Dの組み合わせで全展開図をカバーすることは可能である。
変性形Cは直鎖ではなく、途中で枝分かれした分岐鎖パターンで、かつ、頂点3つが一箇所で接続しているという、少し変わった構造をしている。このように、接続部は2頂点間でなく3頂点間であってもよい。ただし、4頂点間を接続すると「田」の字型に固まって動かせなくなってしまい、その段階で展開図が作成できないことが明白である。
Cから作成される展開図は全8種類と多いが、よく見るとb, g, kとその鏡像体b', g', k'が揃っていたり、b'が2つ描いてあったりする。b'については間違えてコピーしてしまったわけではなく、違う折りたたみ方でb'が2種類できてしまうのである。
最後にDであるが、これも少々特異な形態で、ある一つの正方形の四隅全てが接合部であり、かつ、線対称なパターンだ。ここから作り出せる展開図は9つの2倍……すなわち、18通りもあるが、b, i, jは折りたたみ方が異なるものが2種類ずつあるので、実質は6種類である。なお、2倍というのは、これら図形の鏡像体が、展開図を裏返すことなく全て作成可能だからである。元の変性状態の形状が線対称であるため、右回りと左回りの2種類の作成可能である。
面白いのは展開図eであろう。eはaと共に鏡像体が存在しない展開図であるが、接続部が右回りと左回りの両方で作成できるため、「形が同一の鏡像体」のようなものが出来上がる。
さて、これら変性形パターンを調べ上げ、さらに個々のパターンから何種類の展開図が何個できるかを調べ上げてが何の役に立つのか……は、実はさっぱり分からない。
本節の冒頭に書いたではないか。
「何やら、わけが分からないことを言い始めたな……」と感じたあなた。あなたの感性は正しい。
と……。要するに、書いている本人もわけが分からないのである。お付き合い頂き、まことにご苦労さんである。
強いて言うなら、ここまで延々と展開図の話を追いかけてきた読者の方は、展開図の性質について、多少は知識が身についたのではないかということである。それが、世の中のためにには1ミリも役立たない代物であったとしてもだ。
では、ウォーミングアップはここまでとして、それでは、本題である4次元立方体の展開図について進んでいくこととする。理解のための装備はバッチリのはずだ。
──そんな装備で大丈夫か?
ここからは未知の領域、4次元だ。とはいえ、行うことは、3次元立方体の展開図で行ったことの延長であり、特に変わったことはない。単に、4次元立方体が頭の中でイメージし辛いというだけの話である。
いやまあ、それが最大の問題点なのだが……。
ただし、これからやろうとしていることは、4次元立方体そのものを扱うのではなく、4次元立方体の展開図を調べようという試みであるので、登場するのはあくまでも3次元の造形物である。3次元立方体の展開図の形は、2次元人にでも容易に理解できるのと同様に、4次元立方体の展開図は3次元人である我々も実物を作ることができる。案ずるより産むが易しである。
すでに今更感があるが、4次元立方体をどうやって展開するのか? さらに遡って、3次元立方体はどうやって「開く」のかということを図示していなかったので、ここで改めて解説してみよう。
3次元立方体を展開図として開くのは、3次元人である我々にとっては造作もないことである。問題は、それを2次元人に伝えなければならない場合だ。第2章において「3次元人である我々は、立方体を苦もなく認識することができるが、2次元人にその構造を伝えるのは難しい」と述べたように、そもそも3次元立方体を伝えるのが難しいのと同様にその展開図を示すのも難しい。とはいえ、3次元立方体の展開図そのものは2次元人でも容易に分かるのだから、展開するまでの途中経過を描けば少しは分かりやすくなる。
描き方は平行投影と透視図法の2通りがある(fig.4-1)。
3次元人の我々としては、どちらの描き方も理解できる。平行投影図の場合は、立方体の正面斜め上から見た図であり、透視図の場合は真上から見た図である。立方体のどの面が正面なのかという決まりはないが、fig.4-1では、頭頂面は半透明、底面は濃い色として区別した。
頭頂面を半透明にするのは、特に透視図の場合、この面は他の面と大きく重なって表現されるからである。2次元人にとって、図形が重なっているという概念を理解してもらうのは難しい。2次元上では図形同士を衝突させることなく重ねることが不可能であるからだ。
ところで、平行投影図と透視図の場合、2次元人にとってどちらが理解しやすいかといえば、明らかに透視図の方である。平行投影図は最初から3次元空間を意識した図法であり、3軸があらわに分かるように描いてある。最終的に表現された展開図を見て2次元人は、「なぜ6つの正方形の集合ではなく、平行四辺形の集合になっているのだ?」と疑問に思うであろう。これに対し、透視図は3次元立方体を真上から──真正面から見たという設定でもよいが──見た図になっており、3軸目が圧縮されている。要するに、図形の真ん中に消失点と呼ばれる無限遠があるので、無限長が有限長の中に押し込まれているわけである。
仮に、視点をうんと後ろに持っていくと、3次元立方体手前の正方形と奥の正方形の大きさに差がなくなり、台形で描かれている側面の正方形は単なる線に近づく。この場合、この図形は単なる正方形なのか、はたまた3次元立方体をずっと後方から観察しているものなのかが分からなくなる。
なお、手前のものを大きく描き、奥のものを小さく描くのが透過図というか遠近法の基本であり、これが極端だと「パース(ペクティブ)がきつい」という表現がされる。初代ウルトラマンの変身シーンでは、右の拳が大きく飛び出した構図が印象的であったが、これは右手が極端に大きいフィギュアを作って撮影している。この手のモデルを“パースモデル”と呼ぶらしい。奈良の大仏はその逆で、下から見上げた時に全体の比率がちょうど良くなるように、頭が大きくなっている。
となると、正方形か3次元立方体か分からない図については「パースがゆるい」とでも言えば良いのだろうか? ちなみに、「パースがゼロ」の場合は平行投影図そのものであり、平行投影図で描くときに正方形の真正面から描かないのは、まさしく「正方形なのか3次元立方体なのか分からない」状態になるからである。
では次に、同様のことを4次元立方体に対して行ってみよう。今回は透視図のみである(fig.4-2)。先ほどの3次元立方体の展開図と展開過程を合わせたので比較していただきたい。
ちなみに、平行投影図法で描こうと考えると、4軸目を他の軸と対等な軸としてななめに描かねばならず、とても見づらくなる。ただし、見づらいだけで難しくはない。3次元立方体を4軸目と定義した方向に並行移動し、その頂点同士を線で結んだ図形(fig.1-4参照)を展開するだけである。もちろん、この図法で描かれた本もあるので、興味があれば探してみてほしい。
さて、4次元立方体の見方の注意点としては、3次元立方体の展開図の場合とほぼ同じである。
3次元立方体を構成する6つの正方形は、
頭頂面に1つ(大きな正方形)
底面に1つ(小さな正方形)
側面に4つ(台形(等脚台形))
で表されるが、4次元立方体を構成する8つの(3次元)立方体の場合は、
外側に1つ(大きな立方体)
内側に1つ(小さな立方体)
側面に6つ(四角錐台(正四角錐台))
に変わる。
なお、外周の大きな立方体を付け忘れても辺や面の数は同じとして認識されるが、これは3次元立方体の頭頂面……すなわち、蓋になる部分を付け忘れても形としては同じということに等しい。頭頂面だけでなく、どこかひとつを取り除いても形としては同じになる。
頭頂面と底面の2つを抜いても形は維持される。3次元立方体の場合は四角い筒になり、4次元立方体の場合は外周と中央の立方体がない形となる。2つ抜く場合は、対面する正方形(あるいは3次元立方体)を抜いた場合のみ形が維持される。隣接する2つを抜いてしまうと、接続された辺(あるいは面)が消えてしまうので形状が変わって見える。
ところで、fig.4-2は頭頂面(あるいは外周の3次元立方体)から展開した格好になっているが、逆に底面(あるいは内側の3次元立方体)から上向きに開いていくこともできる。この場合、最初に動かされるのは、中央の黒っぽい底面(あるいは3次元立方体)であり、一旦下向き(奥向き)に開くので最初は小さくなり後で大きくなる。そして、最終的な大きさは頭頂面(あるいは外側の3次元立方体)の大きさになるだろう。
ちなみに、展開図と言えば3次元の場合も4次元の場合もこの「十字形展開図」が代表形となっているのは何故かというと、「ある一つの正方形(あるいは3次元立方体)の周囲に、最も多くの他の正方形(あるいは3次元立方体)が接続されている展開図がこの形状であるから」ということになると思われる。
3次元立方体の場合は4つの正方形、4次元立方体の場合は6つの3次元立方体が中央の黒い正方形(あるいは3次元立方体)に接しているが、このパターンはこの形が唯一なのである。3次元立方体の展開図の場合は、全部合わせても11種類しかないので、ご自身で確認していただきたい。4次元立方体の展開図の場合は……まずは全種類を描き出した後に説明することにしよう。
本書のゴールは、4次元立方体の展開図を「漏れなく」かつ「重複なく」全て書き出すことである。3次元立方体の展開図の場合は、高々11種類しかなかったので、全てを描き出すことも簡単であった。
さらにもうひとつ重要な視点は、3次元立方体の展開図は2次元図形であるので、我々はその形状を俯瞰で見渡すことができていたという点である。言い方を変えるならば、3次元人の我々にとって、2次元図形には死角が無いのである。
例えば本に印刷された迷路を解く場合を考えよう。本であるから当然2次元の迷路である。視界からはみ出すほどの巨大な迷路でない限り、この先行き止まりかどうかは目で追えば分かる。また、迷路の中に2次元人が入っていた場合、3次元人に見つからぬようにどこか隅の方に隠れるということは不可能だ。俯瞰した目を持つ3次元人には全てお見通しである。
では、3次元迷路の場合はどうだろうか? 巷でいう3次元迷路というものには2種類あって、ひとつは、2次元迷路の壁を高くして3次元迷路と称しているものだ。遊園地などの巨大アトラクションでありがちなヤツである。正確には、これは3次元迷路とは言い難い。前後左右には移動できるが、残念ながら上下方向には移動できないからである。真の3次元迷路であるならば、場所によって床と天井に穴が空いてなければならない。
もっとも、実世界のアトラクションでこれをやると、怪我人が出ること必至である。国際宇宙ステーションのモジュールが縦横無尽に繋がった状態で、無重量状態の軌道上に浮かんでいる迷路ならば、アトラクションとして成り立つかもしれない。
さて、3次元の世界にある3次元迷路の場合、迷路の角を曲がった先は見ることができない。だからこそ、遅刻しそうになった女子高生は「遅刻、遅刻ぅ〜」と言いながら、曲がり角の出会い頭で運命の人とぶつかるのである。当たり前といえば当たり前であるが、3次元の世界にある2次元迷路ならば、迷路の隅々まで目線を移動するだけで全て見えるので、こんなハッピーな事件は起きようがない。
仮に、3次元迷路で出会い頭の衝突を避けたいならば、壁そのものを透明にする必要がある。完全に透明だと今度は壁に激突する事故が起こりそうなので、半透明な素材で作らねばならなくなるだろう。
同様なことがテトリスでも言える。我々が知っているのは2次元のテトリスである。平面の枠に上から7種類の4-オミノ(テトロミノ)が落ちてくるので、それを2次元的に左右どちらかに回転させて隙間なくはめ込む……というゲームだ。
この場合、問題となるのは隙間だ。3次元人の我々は画面を見て操作できるので、下層の隅に残った隙間も一瞬で見ることができる。では、これを3次元に拡張した場合はどうなるか?
まず、コマの数が変わる。いや、その前に、コマはドミノ、トリオミノ、テトロミノと続く「ポリオミノ」では無くなる。前章で解説したが、少しおさらいすると、ドミノとは正方形が2つくっついた図形、トリオミノが3つ、テトロミノは4つくっついたものであった。テトリスに使われるテトロミノは、全7種類で、そのうち2組は鏡像体である。
これを3次元版にするには、正方形4つから立方体4つの組み合わせにしなければならない。立方体が何個かくっついた形状の物体の総称は「ポリキューブ」と呼ばれ、立方体が2つくっついた図形はダイキューブ、3つがトリキューブ、4つはテトラキューブと呼ばれる。テトロミノをそのまま立体化したものもテトラキューブに含まれるから、テトラキューブは最低でも7種類はある……かというと、そうとも限らない。3次元のポリキューブは、回転可能な軸も3次元的になるので、図形を裏返すことができる。そうすると、2つの鏡像体を別の図形とみなすことができなくなるので、テトロミノからの編入組は5種類に減ってしまう。ただし、3次元で初めて可能となるテトラキューブの新規加入組が3種類いるので、トータルとしては1種類増の8種類となる(fig.4-3)。新規加入組には鏡像体が1組混じっている。
余談であるが──今まで、余談で無かったことがあるのか?──、4次元版のテトリスの場合は、この鏡像体分が1つ減るので、合計7種類となる。ちなみに、「新規加入組はいないのか?」と問われれば、明確に「いない!」と答えることができる。
例えば、ダイキューブ(立方体2つ)の場合、組み合わせ方は1種類で必ず直線的な組み合わせになる。トリキューブの場合、3つが直線的な形状も存在するが、「L字型」の図形も可能だ。これは2次元以上の空間でしか表現できない。そして、立方体が4つのテトラキューブの場合、直線とL字の図形も可能だが、これに加えてfig.4-3の後ろ3つのテトラキューブのように立体的な配置も可能になる。ここから得られる事実は、
n次元でしかありえない組み合わせのポリキューブを作るには、n+1個以上のキューブが必要である
ということだ。こうやって書くと何やらいかめしいが、まず最初に中心核となるキューブ──原点に置かれたキューブ──がひとつあり、増えた次元の軸方向にひとつずつキューブを配置すると考えれば分りやすい。3次元空間に3つのキューブを「L字型」に配置する場合、原点キューブ以外のふたつは、xy配置、xz配置、yz配置の3種類が考えられる。さらに言えば軸の正負向きがあるから、
xy配置組: (1,1,0)、(-1,1,0)、(1,-1,0)、(-1,-1,0)
xz配置組: (1,0,1)、(-1,0,1)、(1,0,-1)、(-1,0,-1)
yz配置組: (0,1,1)、(0,-1,1)、(0,1,-1)、(0,-1,-1)
の12通りが考えられるが、3次元的に回転させれば相互に交換可能であるから全て同じ形状とみなされる。キューブが4つあって初めて、xyz軸全てが埋まる形が作られる。
原点キューブに他の3つのキューブがくっついているパターンは8種類、
(1,1,1)、(-1,1,1)、(1,-1,1)、(-1,-1,1)
(1,1,-1)、(-1,1,-1)、(1,-1,-1)、(-1,-1,-1)
があるが、こちらも3次元的に回転によりひとつにできる。
ちなみに、2次元の「ポリオミノ」、3次元の「ポリキューブ」ときて、4次元以上は「ポリハイパーキューブ(Polyhypercubes)」となる。無理矢理に日本語に訳せば、「重合超立方体」となるだろうか? 超立方体が4次元のみではなく、それ以上の高次元の全てを含むのと同様、ポリハイパーキューブも、4次元立方体に限定したものではない。
ここで話を「新規加入組はいないのか?」の質問に戻すと、テトラキューブは4つの立方体の組み合わせであるから、3次元から4次元に拡張しても、新規に4次元軸側に伸ばせる腕が無いのである。よって、新規加入組が加わるのは立方体が5つのペンタキューブ以上からになる。
ところで、fig.4-3の4次元テトラハイパーキューブの作図は正確ではないことを付け加えておく。2章で述べたことなので既にお忘れかもしれないが、4次元立方体の作図は、4次元目の軸の消失点を立方体の中心に置く。よって、立方体の中に小さな立方体があるように見えるのは、中心にある立方体が4次元軸方向に向かって遠い位置にあるということを示している。3次元の透明な箱を上から見た時に、上部の正方形より底部の正方形の方が小さく見える理屈と同じである(fig.2-4を参照)。
では、3次元の透明な箱が2つ、3つ、さらには4つがくっ付いた場合、底部はどう見えるかと言えば、小さく見えた正方形が4つ連なった形に見えるはずだ。同時に、上部の部分も正方形が4つが並んでいる図となる。
いやいや……実際は、そう単純ではない。立方体が複数並んでいるならば、中央の立方体と端の立方体では、観測者からの距離が変わる。端に行くほど遠いので、それだけ小さく見えるはずだ。また、底の正方形群が小さくて上部の正方形群が大きく、かつ、それぞれの正方形がくっついているのならば、端にいくほど、上部の正方形と底部の正方形の位置がずれるはずである。このことを4次元立方体の組み合わせであるテトラハイパーキューブに適応すると、中心部の小さく描かれた立方体は、互いにくっ付いていなければならない。fig.4-3で描かれたようにバラバラであってはダメだ。
また、3次元のテトラキューブの場合、4つの立方体は面同士が接触している。面を共有していると言ってもいい。4次元のテトラハイパーキューブの場合は、面ではなく(3次元の)立方体を共有している。くっ付ける場所は正四角錐台(台形の3次元版)の形になっている6箇所と、外側の立方体および中心の8つの立方体である。正四角錐台の形の部分も実際はちゃんとした立方体で、3次元立方体を上から見た時の側面部分に相当する。上部の正方形と底部の正方形を繋ぐ垂直な正方形なので、近くから遠くまで伸びているのでいびつに歪んで描かれるわけである。
で、4次元テトラハイパーキューブ4つが一列に連なっているとした場合、この側面の正四角錐台部分が共有されていると考えるべきだが、そうすると中心部の小さく描かれた立方体をくっ付けることができない。さて、困った……という状態である。
そもそも、4次元立方体を3次元世界で描写し、さらにそれを2次元の紙面で描こうというのだから、色々と無理が出てしまうので、どう描いてもどこかに矛盾が出る。そういう妥協の産物として、fig.4-3の4次元立方体は描かれている。4次元立方体4つのそれぞれに個別の消失点があるという描き方なので、4次元人が見たら、さぞや奇妙な図形に見えるだろう。ジョルジョ・デ・キリコの絵画『街の神秘と憂鬱』のように、遠近法がいびつな物体が多数混ざっている状況と見るかもしれない。
4次元人の心境なぞ分からないと言えばそれまでではあるが……。
さて、少し脱線が過ぎてしまった。話を戻そう。
3次元テトリスの問題点は、どこに隙間があるか外から見て分からない点にある。迷路の話まで戻ると、曲がり角の先まで見通せないという問題と同じである。コンピュータゲームで3次元テトリスが流行らないのは、難易度が大きく増すというのもあるが、おそらく、その視認性の悪さが一番の難点では無いだろうか?
そういう意味では、3次元オセロも3次元囲碁も流行らないであろう。前者は場面かめまぐるしく変わりすぎるし、後者は全く囲うことができない試合となって、ゲームとしても面白くなさそうではあるが、それ以上に、ゲーム中の状況が一目見ただけでは分からないという点に難がある。おそらく9路盤でも何が何だか分からないと思う。19路盤に至っては、「分け入っても分け入っても石の中」である。そもそも、分け入らないと状態が把握できないという点がすでに問題である。
同様のことは、2次元人が2次元テトリス──要するに、普通のテトリス──をする場合にも生じる。2次元人はテトリスの面と同一の平面上にいるので、積み重なったテトリスのどこに隙間があるかを一瞬で把握することができない。3次元人の我々なら、「ああ。平面を上から見たい!」と思うことだろう。
逆に、4次元人を考えると、3次元テトリスは簡単である。ゲーム自体が簡単かどうかは分からないが、底の方に空いた隙間も4番目の軸の方角から瞬時に見ることができる。4次元人の「上から目線」である。
そういう意味では、4次元人は、我々3次元人の「本」を開くことなく読むことができる筈だ。2次元人が「本」だと主張するA4一枚の書類を、我々が目玉を動かすだけで読むことができるようにである(2次元人の「一枚の書類」は我々の「1行の文字列」に匹敵する)。4次元人の「本」は、我々が言うところの、本の集合体……すなわち、全集のことである。全集というと我々は、本がずらっと並んでいる状態を想像するが、それは2次元人がA4の紙を机に敷き詰めている状態に匹敵するので、正確には4次元人の「本」にはならない。本にするには紙を重ねなければならないのと同様に、全集を並べるのではなくて、それら個々の本を一箇所に繰り込まねばならない。そうやってひとつにまとまったものが、4次元人が「本」と称するものである。
またまた、話が脱線してしまった。
延々と、述べてしまったが、結論として言いたいのは、
n次元人は、n-1次元物体の全体像を視線を動かすだけで理解するが、n-1次元人はそれができない。
ということだ。すなわち、「4次元人は、3次元物体の全体像を視線を動かすだけで理解するが、3次元人ばそれができない」のである。一言で言えば、裏側がどうなっているかが分からない。
4次元立方体の展開図は3次元の物体であるので、その全体像を確認するため、我々3次元人はくるくる回して裏側も確認する必要がある。3次元の実物を用意して手元に置けばそれで解決するが、2次元の本に描くことができない。
こういう場合、機械設計の製図の世界では、正面図、側面図、平面図の、それぞれ3つの図を描くという正投影法があるが、さすがにこれはやりすぎである。
そこで、立体物を斜めから見た、等角投影法あるいはキャビネット投影法が使えないか検討した。
fig.4-4にその例を示す。等角投影法の方が対称的で綺麗……というのが分かる。立方体の頂点を斜めに見下ろすような構図であり、頂点周りの角度は120度ずつ。この構図で描いた立方体の輪郭は正六角形になる。個人的にこの投影法は好みであるが、4次元立方体の展開図を描いていくには少々問題が生じる。一言で言えば、対称的すぎるのである。
一方、キャビネット投影法とは、立方体のある面は正面を向いており、その面は正方形で描かれているが、同時に側面と上面も見えるような角度で描かれている。こちらもよく見かける投影法で、小中学校の図形の問題などでは頻繁に登場する描き方である。小中学校でよく見かけるのは、いわゆる方眼紙に描きやすい投影法だからという点もあるだろう。ただし、ある面が正面を向いているのに、側面が見えているのは本来おかしく、また、左の側面が見える描き方と右の側面が見える描き方の2通りがあり得るわけで、対称性という面では等角投影法より劣る。
……まあ、優劣の問題ではないが。
では、2つの投影法をfig.4-4のA, B, Cの3つのパターンで説明しよう。
Aは一般的に4次元立方体の展開図として知られるポピュラーな「十字形展開図」であり、あたかも十字架を3次元化したかのような形となっている。この場合は、どちらの投影法もちゃんと見える。“ちゃんと”の意味は、その立体構造が図を見ただけで理解出来るということだ。
ところが、Bのパターンになると怪しくなる。おそらく、キャビネット投影法の図を見てその形状を間違える人はいないと思う。あなたが3次元人であるならば、ロボットが左手で正拳突きをしているような図形に見えるはずだ。
一方、等角投影法だと、突き出した左手に相当する部分がその下にある立方体と完全に重なって見えるため、その左手部分に別な立方体がぶら下がっているようにも見える。等角投影法が対称的すぎると言ったのはこういうことである。
続いてCのパターンを見てみよう。それぞれの投影法で2つずつ描いてあるが、これは別の展開図ではなく、同じ図形を180度回転させたものを別々に描いているだけだ。こちらもキャビネット投影法なら、その形状を誤認することは無さそうである。
等角投影法の場合、Cの左側の図形は、後ろにある2つの立方体が、手前の2つの立方体の影にすっぽり入って完全に隠れてしまっているので、正しい形状が伝わらない。180度回転させて右側の図にすれば、間違える可能性は格段に減るだろう。つまり、等角投影法は見せ方によって図形の認識率が大きく変わるのである。
もっとも、Cの場合であっても、「この図形は八つの立方体で作られています」という情報があれば、2つの立方体が影に隠れているということを推測することはできる。何やらIQテストでこんな問題を沢山やった記憶があるが、いずれにせよ、一目で形状が把握できるとは言い難い。これらの図を今後たくさん見ていくと、そのうち、立方体が出っ張っているのか引っ込んでいるのかの認識すらあやふやになり、次第にエッシャーのだまし絵を見ているような気分になってくること請け合いである。
……ということで、4次元立方体の描画は、特に必要のない限りキャビネット投影法で描くことにする。実は、この4次元立方体の話題をニコニコ動画で公開した時には、等角投影法で描いていて、図が分かり辛いという話をいくつか頂いていたのだった。分かりやすさは大事である。
さて、投影法は決まったとして、では、4次元立方体の全種類をこれで表現するかといえば、それは大変である。いや、最終的には描くのだけれども……。
問題は、その形状を伝達するのに、いちいち図を描かねばならないのは効率が悪いという点だ。
手始めに、3次元立方体の展開図を数字の羅列で表してみたらどうなるかを考えよう。縦5マス×横3マスの方眼紙を用意し、それぞれのマス目に15個の数字を振る。10〜15が二桁の数字になるのは収まりが悪いので、16進数とし、(1, 2, 3, ……, D, E, F)としよう。
すると、例の「十字形展開図」は、『24568B』と表すことができる(fig.4-5)。もちろん、『5789BE』でも良いはずだし、英数字の順番は特にデタラメでも良い。ただ、あまりに自由な表記にしていると収拾がつかなくなるので、
16進数の数字として小さくなるようにする
という最低限の規則を設けよう。そうすると、24568B < 42568Bであるし、24568B < 5789BEであるから、必然的に『24568B』が解となる。
次に、この手法を拡張して4次元立方体展開図の表記法を考える。3次元の場合と異なるのは、16進数の数値を記入する方眼紙は1枚では足らず、レイヤーを積み重ねる必要がある点だ。そうしないと高さ方向の表現ができない。
また、レイヤーを区別するための記号が必要になる。例えば2層のレイヤーがあり、『2623』と書いてあった場合、上段が『2』であり下段が『623』なのか、あるいは上段が『26」であり下段が「23』なのかが分からない。もっとも、「16進数の数字として小さくなるようにする」というルールをここに適応するならば、『2』と『623』の場合は、『2』と『236』……すなわち『2236』と書くべきであり、2が二つあるということは、2の部分で上下レイヤーが繋がっているのだと分かるため、区分記号は必ずしも必要というわけではない。ただし、あると見やすいのは確かなので、区分記号としてハイフン“-”を使うこととした。
要するに、『2623』は『26-23』と書くことにする。例えば、書籍についているISBNコードも、本来ならば10桁あるいは13桁の数字記号でよいのだが、コード区切りを明確にするためハイフンが付いている。郵便番号も電話番号も同様だ。人が読むことを考えれば、読みやすさの観点は重要である。
なお、4次元立方体展開図の16進数表記にはさらなるルールの追加が必要となる。いわゆる「どっちを上にするか問題」である。
3次元立方体展開図の場合でも十字形展開図『24568B』は、上下をひっくり返して『25789B』でもよいはずだが、24568B < 25789Bであるので、「16進数の数字として小さくなるようにする」というルールを適応するだけでこの問題を回避できる。また、縦5マス×横3マスの方眼紙を前提とした段階で、展開図『24568B』を横倒しに描くことは不可能であることが分かる。
4次元立方体の展開図の場合、回転軸が3つ(ヨー、ピッチ、ロール)もあるので、それだけ配置の自由度が高い。「どっちを上にするか問題」も一意に決められない場合が発生するが、とりあえず3次元立方体展開図の場合と見た目が同じになるように、展開図の「重心が上になるように」「立っている」ような見た目する。
ただし、やってみれば分かることだが、展開図によっては重心が中央にくる場合もあるし、どうすれば「立っている」ような見た目になるのか分からないパターンも多々ある。これらについては、別な分類法を見出したので、後で述べるとし、4次元立方体展開図の16進数表記のルールとして、
1) 展開図の重心を上にして立てるように配置し、レイヤーに書き込む。
2) レイヤー毎で16進数の数字として小さくなるように記述する。
3) 2)の数値を、上部レイヤーから順にハイフンでつなぐ。
4) 鏡像体がある場合は()で囲って併記する。
5) 出来る範囲で構わないから〜♩。
とする。
サンプルは今一度fig.4-5を見ていただきたい。例の、4次元立方体版の十字形展開図は『6-2567A-6-6』となる。レイヤー毎のマス目は4マス×3マスにしたので、数字は1〜Cまでの12個で足りる。レイヤーは6層だ。3次元立方体の展開図が5マス×3マスの方眼紙内に全て描けるのと同様に、4次元立方体の展開図は4マス×3マス×6層で全てを収めることができる。
ちなみに、4) はほぼオマケであるが、割と重要な事項だ。3次元立方体の展開図における鏡像体は、裏返せば同じ形にすることができるのに対し、4次元立方体の展開図は3次元図形であり、3次元図形の鏡像体は3次元の世界では裏返すことができない。よってこの鏡像体は、元の展開図とは別の図形として存在できてしまうので、新しい展開図を発見した時に鏡像体についても併記しておかないと後々やっかいなことになる。
例えていえば、模様が全て違う靴下が片方ずつバラバラに散らばった状態になるわけである。「新種を発見した!」とヌカ喜びする前に、まずは鏡像体も含めて、見つけ出した展開図を整理・分類しておかねばならない。4次元立方体の展開図を「漏れなく」かつ「重複なく」書き出すための心得である。
以前、「3次元立方体の展開図から展開図を作る」という解説を行ったが、今度はそれを4次元立方体へと拡張する。簡単なことである。「辺」を「面」に置き換えればよい。そして、転がせばよいのである(fig.4-6)。
前回同様、箇条書きするなら、
1)切り分けるのは一面のみ
2)どちらかの切った面のどちらかの辺を回転軸として転がす
3)回転角90度で転がして別の面にくっつかなければならない
となる。
8つある3次元立方体を90度転がし、新しい場所に面を接地すれば、新たな4次元立方体の展開図が完成する。fig.4-6では、元の『6-2567A-6-6』から二層目の『7』を左右に動かして『6-2356A-6-6』と『(6-1267A-6-6)』を作成。下方に動かして『6-267A-56-6』を作成した。
ちなみに、『6-2356A-6-6』と『(6-1267A-6-6)』は鏡像体であるので、一方を括弧( )で囲んで表現している。4次元人はこの2つを裏返して同じにすることができるので、3次元人である我々もこの2つを同じものとして扱うことにする。
fig.4-6の例では、あるひとつの3次元立方体を転がしたのみであるが、2つ3つとつながったものを転がしても良い。90度転がして接地できる場所であれば、どこに転がしていっても問題なしである。ただし、闇雲に転がしても、全種類の4次元立方体の展開図を「漏れなく」かつ「重複なく」描ききれるかというと、それは甚だ疑問である。最初からシステマテックな手法で調査ができれば、それに越したことはない。
では、元の十字形展開図『6-2567A-6-6』を発想の起点として考えてみる。この展開図は中心に4つの立方体が縦方向に並び、東西南北──前後左右でもよいが──の四方に、さらに4つの立方体が配置された図形となっている。この状態からスタートして新しい展開図を調査する場合、まずは、
中心軸の4層の立方体を固定する。
ところから始めるのが妥当であろう。逆に言えば、四方にくっついた4つの立方体のみを上下に動かすわけである。上下の動かし方も、例えば「東」の立方体を上から下まで4通り動かしたら、隣の「北」の立方体を1つ下げて、また「東」の立方体を上から下まで動かす……というように、あたかも4進数で表される4桁の数列を数えるように調べていけば、少なくとも「漏れなく」は達成できるはずである。ただし、「重複なく」は別途考える必要がある。4進数が0〜3で表されるとすると、
0000
0001
0002
0003
0010
0011
︙
3333
と、全体で4^4=256通りが考えられる筈であるが、「0000」と「3333」あるいは「1111」と「2222」は同じ形であることは自明である。この2つは上下がひっくり返っただけなのだ。これだけ考えても、展開図のパターンは半分の128通り以下だと分かる。また、
0001
0010
0100
1000
は回転させれば同じだということも分かる。ならば、パターンは1/4の32通り……というのは早計で、「0000」のパターンは回転させても1つしかない。
その他、鏡像体は同一のものと定義することにしたので、その分は減らせる筈である。これらのことを踏まえて、「重複なく」選別する必要があるのは確かだが、とりあえず、有限回の試行でこれらのパターンを全て洗い出すことが可能だ。
ところで、「中心軸の4層の立方体は固定」かつ「四方に1つずつの立方体がある」パターンの展開図を真上から見た場合はどう見えるかを考えると、正に十文字であることが分かる。四方の立方体は上下するのだが、エレベータを上から見ているようなもので、見た目の位置は変化しないからだ。この「真上からみたらどのような形状か?」は、それぞれの展開図を分類するのに非常に役にたつ。
では実際に「中心軸が4層」で「上から見て十文字」の展開図を見てみよう(fig.4-7)。これでもまだ一部である。4次元立方体展開図の全パターンは次章に収録するとして、個数だけ先に正解を言ってしまうと、この「中心軸4層の十字形」グループは31パターンあり、それに加えて鏡像体が8パターン存在する。
この展開図グループでは、「6」が中心軸として上下4層を貫いているので、「2567A-6-6-6」のように、4層全てに「6」が現れる。周囲の4つの立方体は、4層の側面どこにでも上下の移動が可能だ。上下に移動している限り、90度の回転で必ず接地場所が存在する。これに対し、横方向への移動──前から右あるいは左など──は隣に立方体が存在する条件が必要で、無ければ180度の回転となり、展開図から展開図をつくるためのルールから外れる。もっとも、隣に立方体が動くと「中心軸4層の十字形」のグループに収まらなくなるので、今はまだ考えなくてもよい。
この展開図グループは対称性が良いので、鏡像体はそれほど多くない。鏡像体が現れるのは、3軸で形状が異なる場合であるから、十字形でしかも中心軸4層のパターンでは現れにくいと言えるだろう。
では、この「中心軸4層の十字形」グループを全て作り出したとして、次はどうするのが賢明であろうか?
これには2通りの考え方がある。「中心軸4層」を固定するか、「上から見て十字形」を固定するかだ。今一度、fig.4-7を見ていただきたいが、右下にローマ数字が書かれた十字図形がある。この図形は、形そのものが上から見下ろした場合の形状を表し、書かれたローマ数字が、その部分に何個の立方体が収まっているかを表している。要するに、『「中心軸4層の十字形」グループ』を端的に表すアイコンだと思っていただきたい。「中心軸4層」を固定とする場合は、「IV」の表記はそのままで、アイコンの形が変わることになり、反対に「上から見て十字形」を固定とする場合は、アイコンの形はそのままで、ローマ数字が変化することになる(fig.4-8)。
「中心軸4層」を固定した方の別アイコン探索は分りやすいと思う。側面についた4つの立方体を横向きにコロコロと転がしてみればよい。元のアイコンと合わせ、これら8種類のアイコン(の形)は、今後も色々な場面で出てくる。仮に、あなたが自分だけの力でこれら4次元立方体の展開図を全て解きたいと試みたとしたら、何度も遭遇する形となるであろう。
「上から見て十字形」を固定した方の探索の場合、まずは左端の中心軸が3層になったものは、例の十字形展開図『6-2567A-6-6』の一番上を横にコロンと転がせば出来上がる。残りの2つは、残った側面の立方体を下に下げた後、真下の立方体を横にコロンと転がせばできる。要するに、3手あれば、到達できる。ちなみに「中心軸4層」の7種類の方も、『6-2567A-6-6』から3手あればこの形にできる。
当然ではあるが、「中心軸4層」固定で得られた7種類のアイコンにも、上から見た形は同じだが、中心軸が3層あるいは2層のものが存在する。さらに、「中心軸4層の十字形」となるアイコンのグループは31パターンあると述べたように、それぞれのアイコンは複数の展開図を含んでいる。さらにさらに、「上から見た形」は、ここで示した8種類が全てでは無い。「中心軸4層」という条件で固定した場合が8種類なのであって、3層および2層のものでは、これ以外の形状のものも存在する。
先に、展開図の分類として「重心が上になるように」そして、「立っている」ような見た目すると述べたが、これらは、ここで示したようなアイコンの型にはめるという分類法で解決することにする。
さて、そろそろウンザリしている人もいるとは思うが、これからこれら展開図のグループを、色々と試行錯誤しながら調べていくことになる。もちろん、コンピュータを使ってしらみつぶしに探すという手もある。
例えば、4次元図形の展開図であったとしても、「正600胞体」の展開図全種類となると人海戦術では手に負えないので必ずコンピュータの力が必要になるが、コンピュータに解いてもらうにしても、それなりのルールを設定せねば、とてつもない時間がかかる。そういう意味で、4次元立方体(正8胞体)の展開図は小手調べに丁度いいだろう。
小手調べにしては少々ハードではあるが……。
さらに展開図の全体構造を把握する方法として、少しばかり違う観点の話を挟んでおく。まずは3次元立方体の展開図から……。
3次元立方体の展開図は、6つの正方形から作られている。正六面体と言われる由縁である。そして、それぞれの正方形は辺で接続されている。ここで、正方形を一つの「節」とみなし、接続されている辺を「紐」とみなした状態を考えてみよう。「紐」は自由に曲げることができるとする。
ここで知りたいのは、それぞれの「節」が何本の「紐」で繋がれているかという構造(ツリー構造)である。これらを考察するには、展開図云々を一旦忘れ、
【問い】
「6つの節を紐で接続する方法は何通りあるか?
ただし、網の目状の結線は無いものとする。」
という風に捉え直してもよい。この答えは6通りであり、3次元立方体の展開図は、そのどれかに属することになる(fig.4-9)。
一番多いパターンは、一直線に繋がった直鎖型で、4つの展開図がここに該当する。直鎖以外はどこかで分岐(枝分れ)していることになるが、一つの「節」から4本の「紐」が出ているパターンが、いわゆる十字形展開図である。
ちなみに、節から5本の「紐」が出ているパターンの3次元立方体展開図は存在しない。3次元立方体の展開図は2次元平面に描かれることになるから、ある正方形に接続できる正方形の数は、2軸方向の前後2つずつで、計4つが最大である。要するに、正方形は4辺から成っているということだ。よって、1つの正方形に5つの正方形を接続することはできない。
これは4次元立方体の展開図の場合でも同様なことが言える。いや、実は全ての次元の立方体展開図で同様のことが言える。
正方形は4辺で構成されており、1つの「節」から2本の「紐」はOKだが3本は無理。
3次元立方体は6面で構成されており、1つの「節」から4本の「紐」はOKだが5本は無理。
4次元立方体は8胞で構成されており、1つの「節」から6本の「紐」はOKだが7本は無理。
n次元立方体は、2nの“胞”で構成されており、1つの「節」から2n-2本の「紐」はOKだが2n-1本は無理。
となるわけだ。
では本題の4次元立方体の場合、この「節」と「紐」の組み合わせはどうなるかを考えてみよう。とはいえ、行うべきことは単純で、6つの「節」だったものを8つの「節」に変え、そのパターンを列挙するだけである(fig.4-10)。
「節」が6つの場合は6通りしかなかったツリー構造パターンが、今回は23通りも存在する。先ほど述べたように、この中で、一つの「節」に7本の「紐」がくっ付いたパターンに該当する4次元立方体の展開図は存在しない(㉓に相当)。
なお、6本の「紐」がある1つの「節」にくっ付いたパターン(㉒に相当)を考えると、残る1本の「紐」は他の6つ「節」のどれかにくっ付かねばならない。この時、6つ「節」は全て対等なので、どの「節」にくっついたとしても全て同型になる。これが十字形展開図『6-2567A-6-6』であり、以上の考察からこのパターンに属する展開図はただひとつだということが分かる。この事実も、全ての次元の立方体展開図で言えることである。すなわち、
n次元立方体は、2nの“胞”で構成されており、1つの「節」から2n-2本の「紐」が伸びた展開図はただひとつ存在する
ということだ。こういう意味でも、十字形展開図は特異な存在なのである。
さて、長い長いお膳立てはこれで終了である。次章で4次元立方体の全展開図をお見せする。
最初に4次元立方体の展開図に付随する英数字や記号についておさらいしておく。まず、それぞれの展開図は「上から見て同型」のものをグループとして描いていく。前章で『グループを端的に表すアイコン』と述べた、ローマ数字が書かれたあの図形である。
展開図を構成する8つの3次元立方体は、積層して最大で6層の高さにまで達する。4階建ての物件が多い。そして、それぞれの層の間取りを、4×3の方眼紙のマス目上に書かれた16進数(1〜Cまで)を列挙することで示す(fig.4-5参照)。この数字を上述した『アイコン』の右下に書いておく。
個々の展開図の下には、『6-2567A-6-6』のように、16進数を上層から層ごとに書き込んだ数列が記される。仮に鏡像体が存在した場合は、それを表す16進数の数列が括弧付きで2行目に書かれる。さらに、それぞれがどの「ツリー構造」に分類されるかを表すための記号(①〜㉓)がその下に追加される。要するに、各展開図の下には2行ないし3行の英数字と丸数字が書かれていく。
サンプルを示したのでご覧頂きたい(fig.5-1)。
ちなみに、16進数の数列のつけ方は、同一の展開図であっても、描く向きによって異なってくるが、これらはかなり適当に決めている。色々と考えてもみたが、全体を通して納得できる統一的な記述法は無さそうである。
能書きはこのくらいにして、次ページから全種類を公開する。ご堪能あれ。
以上が4次元立方体の展開図全261種類である。多い……いやいや、割と少ないと感じただろうか?
一見すると、「このパターンはまだある」と思われるものもあるが、それは別のパターンの一種として描かれていたり、鏡像体であったり、回転させると同じものが既にあったりする。気になったものがあれば、調べてみてほしい。
ちなみに、冒頭見開きページにある4次元立方体の実物は、1cmの角材をノコギリで切り出し、接着面をヤスリで整えながらひとつひとつ手作りしたものである。製作しながら全種類を調べるという方法だったため、作り終えるのに延べ日数で1年以上もかかってしまった。人差し指にはタコができた。もう一度作れと言われたらご遠慮申し上げる。今からやるのであれば3Dプリンタが必須だろう。
さて、次章は、これら展開図の中から、筆者が気になった展開図を随時列挙していくことにする。
さて、実際に4次元立方体の展開図全種類を製作してみると分かるのだが、製作途中で何度も現れる一定のパターンや、逆に1回しか現れない形、「なんだこれは?」と岡本太郎の顔マネをしながら見てしまうような驚きの形──流石にそれは言い過ぎ──などが気になってくる。
これらの中で特に気になったものをピックアップし、それぞれ何がユニークなのかを解説してみた。ただし、これらはほんの一端である。他にも色々な切り口の考察が可能だと思われるので、ぜひ、個人個人で探してみてもらいたい。
で、まずはこれである(fig.6-1)。
3次元、4次元どちらにおいても、もっともポビュラーな展開図である『十字形展開図』(fig.6-1の中段)についてだ。
この展開図の特異性については第4章の「展開図のツリー構造」において一通り述べているので、まずは、軽くおさらいである。
3次元立方体の展開図においては、ひとつの正方形には4つの辺があるので、最大4つの正方形が接続できる。ところが、3次元立方体の展開図は6つの正方形で構成されているので、あるひとつの正方形の周囲に、最大となる4つを接続しても、ひとつは必ず余ってしまう。また、中央の正方形に接続された4つの正方形は、全て対等な関係となるので、余った1つの正方形をそれらのどれに接続しても、形は同じとなることが分かるだろう。すなわち、一見すると4通りの接続方法があるように見えるが、結局はどれに繋いでも同じになる。よってこの『十字形展開図』は1種類しか存在しない。
4次元立方体の展開図でも同様の議論ができる。ひとつの3次元立方体には6つの面があるので、最大6つの3次元立方体を接続できる。ところが、4次元立方体の展開図は8つの3次元立方体で構成されているので、あるひとつの3次元立方体の周囲に、最大となる6つを接続しても、ひとつは必ず余ってしまう。よって、4次元立方体における『十字形展開図』も1種類しか存在しない。
これは、5次元立方体でも全く同様で、ひとつの4次元立方体には8つの胞があるので、最大8つの4次元立方体を接続できるが、5次元立方体の展開図は10の4次元立方体で構成されている。
この関係は、さらに高次元の立方体の展開図においても同じである。すなわち、
ひとつの(n-1)次元立方体には2(n-1)の接続“面”があるが、n次元立方体の展開図は2nの(n-1)次元立方体で構成されているため、ひとつは必ず余ってしまう。
わけである。よって、あるひとつの接続“面”全てに他の“立方体”がくっ付くという形状の展開図は必ずひとつしかない。そして、このツリー構造の展開図もこれが唯一である。
……と、ここまでが、第4章のおさらいである。
では続けて、『十字形展開図』からひとつだけずれた構造の展開図(fig.6-1の下段)について考えてみよう。実は、この形状のツリー構造を持つ展開図も1種類しかない……筈である。
『十字形展開図』のツリー構造から、長く伸びた側(余った一つを接続した側)に接続“面”をひとつ移動させると、そこが二股のツリー構造になる。この構造は、3次元でも4次元でも、さらなる高次元でも同じであろう。
この操作により、展開図の対称性は崩れることになるが、どの接続“面”を移動させるかという観点から見れば、どれを動かしても同等である。すなわち、対称な図形のどれかを動かすと対称性は崩れるが、どこを動かしても特別な崩し方にはならない。もともとが対称な図形である場合、対象であるがゆえに特別な場所が存在しないわけである。よって、このツリー構造もやはり1種類しかないと言えそうである。
思うにこれは、自発的対称性の破れの概念に近い気がする。
ちなみに、ツリー構造の短い側……すなわち、『十字形展開図』の下側ではなく上側に接続“面”を移動させた場合も同等の議論ができそうにみえるが、こちらは複数種が存在可能で、3次元立方体の展開図で2種類、4次元立方体の展開図では3種類が存在する。ツリー構造で考えれば、ハブとなる中央の「節」から2つ直列に並んだ「紐」の列が出ている構造(fig.4-10の⑱参照)となり、この2つの列の配置の違いが、異なる展開図を生むのである。
よって、
3次元以上の展開図において、唯一の展開図しか有さないツリー構造は、2種類しか存在しない。
と言えるだろう。これは筆者の予想である。
第3章で少しばかり言及したように、あたかもりんごの皮を剥くかのような方法で3次元立方体の展開図を作ることが可能である。
方法としては、まず頭部を剥き、続いて側面を剥いて最後に底部を剥けば完成だ。この方法は立方体(正6面体)に限らず、正8面体でも正12面体でも可能であるし、他の正多面体でも可能だ。いや、そもそも正多面体である必要もない。単に上から、文字通りりんごの皮を剥くが如く開いて行けば良いのであるから、あらゆる形状の多面体でこの操作は可能であろう。
さて、この「りんごの皮むき」的手法が4次元展開図においても可能であろうか? というのがここでの興味の中心になるのだが、結論から言えばそれは可能である。というか、既にfig.6-2に示した通りだ。
なお、「りんごの皮むき」的な展開図の解体は、外側から内側にウネウネと回りながら次第にほどけていくようなものになるだろう。4次元立方体の展開の場合は、ヘビ花火みたいに3次元立方体が出てくることになる。
ちなみに、この展開図のツリー構造は、8つの「節」が一直線に並んだ形状になる(fig.4-10の①)。りんごの皮が1本の紐になるようにである。また、剥いた後のりんごの皮はS字形状の紐になるように、4次元多面体の皮むきは、S字を立体的にした構造になる。すなわち、最初は球面に沿った形状になるが、次第に直線的になり、最後は逆向きの球面の一部になる。4次元立方体の展開図ではその雰囲気くらいしか味わえないが、正120胞体の「りんごの皮むき」的展開図を見れば一目瞭然のはずだ。
……見せろと言われてもちょっと困るけどね。
この2つの展開図をどう名付けようかと考えた挙句「伸びる展開図」と命名した。ツリー構造的には枝分かれをしない直線パターンで、かつ、無駄なく上下方向に伸びている展開図であるからだ。3次元立方体の展開図と4次元立方体の展開図で、それぞれ対応する形があるのも面白い。
まず左側の2組は、2組の正方形あるいは3次元立方体がセットとなり、それらが互いにくっついて上に伸びた形になっている。
本著の【はじめに】で述べたように、私が(3次元立方体の方の)この形の展開図を見落とすというミスに端を発して、今、これを書いているのだから、なかなか侮れない展開図である。4次元立方体の展開図にもこのパターンの展開図が存在するのであるから、5次元立方体は「2+2+2+2+2」のパターンが存在し、
n次元立方体では、2組がn個連なった展開図がひとつ存在する
と考えられる……が、これはあくまでも予想である。
次に右側の2組は、似てはいるが、n次元立方体で「3組が(n-1)個」……とはなっていない。4次元立方体は8つの3次元立方体で構成されているので、9つという数字は出てこないのである。なお、n次元立方体の展開図に含まれる(n-1)次元立方体の数は2ずつ増えるので、もしかすると6次元立方体の展開図では「3+3+3+3」の組み合わせがあるかもしれない。
さて、似て非なるこの2つの展開図には他の点で共通点がある。「もっとも背が高い展開図」という共通点だ。3次元立方体の展開図の方は、全11種類の展開図中、高さが5になるのはこのひとつだけであり、4次元立方体の展開図の方も、全261種類の展開図中、高さが6になるのはこのひとつだけなのである。11個中1つはそれほど珍しくないかも知れないが、261個中1つはかなりレアなケースだろう。5次元、6次元となってもそうなのか? さらに言えば、
n次元で一番背の高い展開図はn+2の高さであり、それはひとつしかない
と言えるのか? という疑問が残る。
ちなみに、背が低い側は高さ4で固定である。これは『十字形展開図』で説明した通り、n次元立方体の展開図では、あるひとつの(超)立方体の接続“面”全てに他の(超)立方体がくっついたとしても、ひとつ余ってしまうので、それをどれかの端にくっつけると高さが4になるからである。
あれ? さっきの図(fig.6-3)と同じではないか……と勘違いされそうだが、よく見ていただきたい。この2組は、4次元立方体の展開図の影が3次元立方体の展開図になっているというパターンのものである。
もちろん、この手の展開図はもっとたくさんある。例の『十字形展開図』と呼んだものも、4次元展開図の影がそのまま3次元展開図となっている。その中でこの2つを選んだのは、立方体の配置の流れに無駄がないからだ。
まず左側の2つ。3次元立方体の展開図の方は、左下の正方形を原点とすれば、そこから「上右上右上」と正方形が並んでいる。これに対して、4次元立方体の展開図の方は「上右奥上右奥上」と、その要所要所で奥行き方向の立方体が挿入される形になっている。「立方体の配置の流れに無駄がない」というのはこういう意味である。
右側の2つも同様だ。3次元立方体の展開図の方は、左下の立方体を原点として、「上上右上上」となっているが、4次元立方体の展開図の方は「上上右奥上上奥」となる。何となく収まりがいい。
ちなみに、「上上右奥上上奥」のような表記で展開図の形が現わせるのは、fig.6-4の展開図のツリー構造が一直線で枝分かれしていない(fig.4-10の①)パターンだからだ。これはfig.6-3でも同様である。
一直線型のツリー構造を持つ展開図は3次元立方体は4種類であり、6種類あるツリー構造中で最多の展開図を持つ(fig,4-9参照)。一直線型(fig.4-10の①)ツリー構造に属する4次元立方体の展開図は24種類と多いが、これは2番手であり、最多の展開図を持つのはfig.4-10③の35種類である。
これらツリー構造の構成と、そこに含まれる展開図の数が、5次元、6次元と次元が増えていくにつれてどうなるかは興味が尽きないところではあるが、筆者の知力の方があっという間に尽きてしまったので、このバターンの展開図考察はここまでとしておく。
ここに描かれたA〜Hまでの8つのペントミノ配列は、至る所で登場する常連である。第4章では4次元立方体の展開図を上から見たときに現れる図形(fig.4-8参照)として表現したが、ここでは、側面にこれら図形を見ることができる展開図を列挙してみた。
A〜Hはペントミノであるから5つの立方体で構成されており、残りの立方体は3つ。その3段重ね立方体の最上部側面にペントミノが張り付いた形状である。
Aのパターンはこれが唯一のものである。理由は単純で、この「十字型」A部分が頭頂部に水平に乗っている状態(「2567A-6-6-6」の状態)から側面に倒す変形を行うと、図形としての対称性のため、4方向どちらに倒してもこの形になってしまうのである。
Bのパターンは逆に対称性があまりないので、Bの部分が頭頂部に乗っている状態(「1267A-6-6-6」の状態)から3方向に倒したものが、そのまま別の展開図として成立する。ちなみに、4つ目に描いた展開図は、Bの部分を倒してから、さらに横に転がした状態の展開図ということができる(fig.6-6)。そういう意味では、最初の3つと最後の1つは、展開図変形の手順数が異なっている。
CとDはそこそこの対称性を持つので、倒す変形で1つ。そこから転がす変形でさらに1つの計2つの展開図が存在する。
ちなみに、このCとDのパターンは双子のように性質が似ており、ほぼ同型の展開図が同数あったり、その時のツリー構造が同一であったりする。
Eもそこそこの対称性を持つが、倒す変形で2つの異なる展開図ができる。そこから横に転がす変形は2つの向きが考えられるが、それぞれが鏡像体の関係になってしまうので、形としては1つである。
Fは、倒す変形で2つ、そこから横に転がす変形で2つの計4つの展開図を持つ。1つ目に描いたのは、例の一番背の高い展開図である。この展開図中の「Fの部分」は、上3つと中2つの組み合わせを想定しても良いし、下3つと中2つの組み合わせでも良い。要するに、上下を逆転させても同様の考察が成り立つ変わりダネでもある。
GとHは倒す変形で1つ、そこから横に転がす変形で3つの計4つの展開図だ。この形の展開図は上下の高さも4、左右の幅も4となるので「どっちを上下とすべきか?」で迷う。全種類展開図の一覧においても「あれ。このパターンの展開図はまだあるぞ」と作ってみたら、実は既に他のパターンの中にあったということになりがちである。
* * *
さて、他にも色々な切り口から展開図の解説を行うことができる。例えば、鏡像体の有無についてや、線対称、点対称、回転対称図形などである……が、このあたりで止めておく。興味があれば各自で考察して頂きたい。なお、その時は実物を手にするのが一番である。261種類全てを作るのは大変であるが、例えば磁石でくっつく立方体を用意するなど、方法はいくらでもあるだろう。マインクラフト的なものでバーチャルに作ってもよい。
可能なら、ルービックキューブみたいに全種類に変形できるものがあれば良いが……どなたか作ってみませんか?
さて、本書もそろそろ終わりである。最後の章は、今回は解析しきれなかった部分を列挙しておくことにする。とはいえ、発想としては難しいことはなく、単に、3次元立方体の展開図においての考察を、4次元立方体の展開図に適応してみようという試みである。
やってみなければ分からないが、おそらくは相当深い沼が潜んでいる。心して取り掛かるべし。
どこかで見たようなタイトルだと気付かれたと思うが、これは第3章の「3次元立方体の展開図は平面充填可能か?」を4次元立方体の展開図バージョンに焼き直したものである。
軽くおさらいをしておくと、3次元立方体の展開図を敷き詰めることによって、平面を隙間なく覆う(平面充填する)ことは、11種類ある全ての展開図で可能であった。さらに言えば、6つの正方形がくっ付いたヘキソミノは35種類あるが、その全てにおいて平面充填が可能で、ヘキソミノ以下のポリオミノではどれでも平面充填が可能。逆に、7つの正方形がくっ付いたヘプトミノ以上では、穴が存在するパターンが発生するために、平面充填が不可能な形のものが出てくるという話であった。
では、あらためて4次元立方体の形を眺めてみると……いや、見なくとも答えは明白であろう。空間充填など不可能そうな展開図だらけである。例えば、『十字形展開図』をたくさん集めて、どうやって空間を満たせば良いのか皆目わからない。いや、もしかするとうまくいくのかもしれないが、その見定めが難しい。
2次元平面の場合、ある正方形の周囲を覆うには8個の正方形があればよい。3次元立方体の『十字形展開図』は4つの正方形の列に2つの“腕”が出ている形になっているから、中心にある正方形から考えれば、残り4つの平面を他の展開図で埋め合わせればよい。
3次元空間の場合、ある立方体の周囲を覆うには26個の立方体が必要だ。4次元立方体の『十字形展開図』は4つの立方体の列に4つの“腕”が出ている形になっている。すなわち、残り22の空間を他の展開図で埋める必要があり、その困難さが増加しているわけである。この傾向は、さらに高次元になればなるほど大きくなるだろう。
とはいえ、全ての展開図で空間充填は不可能かというと、そんなことはなさそうである。中には素直に空間を満たしてくれそうな展開図もある(fig.7-1)。
要するに、
4次元立方体の展開図のうち、何種類で空間充填可能か?
という難問が残されているわけである。もちろん、「実際にやってみる」のが最も手っ取り早いのであるが、いかんせん、数が多い。人力でやらずにもっとうまい方法は無いものかと考えているが、泥臭い方法しか思い浮かばない。
エレガントな方法を切に願うものである。
これは第3章の「3次元立方体の展開図の展開図」の4次元バージョンである。
n次元立方体の展開図はn-1次元立方体の集合体になる。ならば、n-1次元立方体の集合体も、さらにn-2次元立方体の集合体に分解できるはずだ。
……というのが、本論の趣旨である。
3次元立方体の場合は、6つの正方形(2次元立方体)に展開でき、さらにその展開図を一筆書きすることで、展開図の展開図を作成することができた。4次元立方体の場合も可能だろうか?
先ほどの空間充填の話と異なり、こちらは幾分易しい(fig.7-2)。最終的に得られるものが2次元図形であるので、全体像を把握しやすく、図示もしやすいからである。
3次元立方体の展開図の展開図に関しては、11種類中4種類のみが作成可能であったため、4次元立方体の場合も、261種類の展開図のうちいくつかは作成不可能となるだろう。すなわち、
1) 作成可能な4次元立方体の展開図の展開図は何種類あるか?
が最初の疑問となる。
ただし、あるひとつの4次元立方体の展開図に対する展開図自体もひとつではない。立方体の展開図が何種類もあるのと同様、その展開図の展開図も複数存在する。さすがに261種類に対して、それぞれの全パターンを調べ上げるのは難しいので、展開図の展開図が1つでもあればOKとすべきだろう。
また、作成された展開図の展開図のうち、面が重なるパターンもありえる。重なる面を持つ展開図の展開図は、2次元の紙に印刷して切り抜くことができず、重なり部分を切り張りをして作成しなければならない。
そうすると、1) に付け加えて
2) ただし、その展開図の展開図は面の重なりの無いものとする。
という条件が付く。
ところで、4次元立方体の展開図のひとつの面が1平方メートルだとすると、展開図の展開図の面積はいくらになるかお分かりだろうか? もちろん、図形を正方形に分解して数えても良いが、計算で求めることもできる。要するにこれは、4次元立方体の展開図の表面積を求める問題である。
4次元立方体の展開図は8つの立方体から成っており、立方体は6つの面で構成されているので、8×6 = 48 という数字が出てくるが、8つの立方体は独立ではなく接続されているので、接続面は勘定に入れなくても良い。8つの立方体を接続するには7つの接続面があり、1つの接続面は2つの面の結合であるから、最終的に、8×6 -7×2 = 34 という解答が導き出される。
ちなみに、この面積は、261種類ある全ての展開図において同じである。4次元立方体の展開図から展開図を作る時に、3次元立方体を転がせばよいと述べたが、転がすというのは、接続されていた2つの面を引き離し、別の面同士を新たに接続する行為であるから、面積の増減は差し引きゼロで変わらないのである。
では、この考察を3次元立方体に対しても応用してみよう。この場合、求めるのは面積ではなく、その輪郭の長さとなる。3次元立方体の展開図は6つの正方形から成り立っており、正方形は4つの辺で構成されている。また、6つの正方形は独立ではなく5箇所で接続されているので、6×4 -5×2 = 14 という解答が導き出される。
ここまで書けばお分かりだと思う。この一連の考察は一般化できる。「n次元立方体」の展開図は2n個の「n-1次元立方体」から成り立っており、「n-1次元立方体」は2(n-1)個の「n-2次元立方体」で構成されている。また、2n個の「n-1次元立方体」は独立ではなく2n-1箇所で接続されているので、
n次元立方体の表“面積”は、
2n×2(n-1) - (2n-1)×2 = 4(n-1)^2 - 2 …… (7.1)
という答えが出る。よって、5次元立方体の展開図の展開図の面積……ではなく、体積は62立方メートルとなるだろう。
5次元立方体の展開図の『十字形展開図』をさらに展開した場合の形状は、fig.7-2からの類推でおよそ想像がつく。
まず、3次元立方体の展開図は、中心の正方形に4つの正方形が接続され、残りひとつが端にくっつく構造であった。4次元立方体は中心の立方体に6つの立方体が接続され、残りひとつがやはり端にくっついた。
よって、5次元立方体の展開図は中央の4次元立方体に8つの4次元立方体が接続され、残りひとつが端にくっつく形状である。そして、それぞれの4次元立方体をさらに展開すれば、3次元立方体で構成された、5次元立方体の展開図の展開図が出来上がる。
ただし、4次元立方体の開き方によっては、3次元立方体同士がぶつかり合う──重なり合ってすり抜ける──構造になってしまうので、そこは慎重に開かねばならない。興味がある方は是非チャレンジして欲しい。
さて、4次元立方体の「展開図の展開図」の考察の次は、当然「展開図の展開図の展開図」である。要するに、4次元立方体の展開図の展開図を一筆書きで描けるか? ……ということになるが、少なくともfig.7-2に示した2つの例に関しては明らかに不可能なことがわかる。
総論で考えても、4次元立方体の展開図の展開図は3次元立方体の場合と比べ、面積が増大し形も大幅に複雑になっているため、一筆書きが可能なものは限られるであろう。逆に考えれば、
3) 4次元立方体の展開図の展開図の展開図は何種類が作成可能か?
という問題が残っているわけである。3次元立方体の展開図の展開図の展開図は、11種類中4種類が作成可能であったが、4次元立方体の場合はどうだろう? この答えを導き出すには、まずは1)と2)を解かねばならない。解決の道のりは遠そうである。
これまた第3章の「3次元立方体の展開図の接続部の次元を下げる」のパクリである。
3次元立方体の展開図は6つの正方形で構成され、正方形の辺と辺がくっついて展開図となっている。同様に、4次元立方体の展開図は8つの3次元立方体で構成され、立方体の面と面がくっついて展開図となっている。「接続部の次元を下げる」というのは、辺同士の接続なら頂点同士の接続へ、面同士の接続なら辺同士の接続へ変えると言う意味だ。
接続部の次元を1つ以上下げた場合、接続部分は稼動部になる。3次元立方体の展開図ですでに示したように(fig.3-10参照)、接続部を回転軸として90度あるいは180度動かすことが可能であるから、あれこれ動かしながら色々な展開図を作り出すことが可能だ。
4次元立方体の展開図の場合、立方体の辺に蝶番を取り付ければ実際に動かすことができる。接続部を面から辺へ変えた場合、面の縁を構成する4つの辺のどれを選択するかという自由度が増える。また、接続している面が7箇所あるのだから、全体の自由度は7×4 = 28通りが考えられる。さらに、個々の接続部を動かすか動かさないかの任意性もある。さらにさらに、これらの考察は261種類ある展開図のひとつひとつで考えなければならないわけであるから、その段階で「よし! やってみよう!」というやる気が失せるというものである。
ちなみに、3次元立方体の展開図の場合は、辺から頂点への変更であるので、自由度は2つ。接続部は5箇所であるので、全体の自由度は5×2 = 10通り。5次元立方体の展開図の場合は、3次元立方体から面への変更であるので、自由度は6つ。接合部は9箇所であるので、全体の自由度は9×6 = 54通り。要するに、n次元立方体ならば、接続箇所の自由度が2(n-2)個。接合部は(2n-1)箇所であるので、
n次元立方体の接続部をn-2次元にすると、
全体の自由度は2(2n-1)(n-2)通り …… (7.2)
となる。
3次元立方体の展開図は11種類なので、それぞれについてどう変形するかを個別に考えても面白い遊びとなる(fig.3-9参照)。
5立方体の展開図の場合は……人間向きの作業じゃないことはお分かりだと思う。4次元立方体の場合ですら手に負えないのであるから(fig.7-3)。
ところで、ある4次元立方体の展開図から別の展開図に変形する場合、8つある3次元立方体か、あるいはその複合体を90度ずつ転がせばよいと述べた(fig.4-6参照)。いずれかの接続された面同士を引き剥がし、90度回転させて別の面同士がくっつくように配置できれば、新たな展開図の出来上がりである。事実、4次元立方体全261種類の展開図はそうして作られている。
この方法で到達し得ない、“外れ島”のような展開図があるのではないかという懸念もあるが、少なくとも4次元立方体の展開図においては、そのような展開図は存在しそうもない。
さて、3次元立方体を転がして展開図を作る手法を考えた場合、
ある展開図から別の全ての展開図に変形するには、最大で何手かかるか?
という疑問がある。
ちなみに、3次元立方体の展開図の場合は「最大3手」で全ての展開図に変換可能であった。少し考えてみれば分かることであるが、4次元立方体の展開図の場合、最低でも6手かかるパターンがある(fig.7-4)。
では「最大6手あれば全ての展開図に変形可能」かどうかについては……読者の皆さんへの宿題とすることとして、このあたりで本書を閉じることとする。
本書を書くことになった元々の動機が、小学校4年生の宿題から始まっていたとするならば、解を見つけまでにずいぶんと時間のかかる宿題だったなぁと思う次第であるが、実は宿題は全然終わっていないのである。
本書をご覧になった方ならお分かりのことと思う。確かに、3次元立方体の全11種類の展開図はもちろんのこと、4次元立方体の全261種類も制覇(?)したのではあるが、それに付随した疑問点があとからあとから湧いてくる。そもそも、3次元の次が4次元となれば、その先がどうなっているのかを知りたくなるのは当然のことであるし、5次元、6次元、7次元と追いかけていっても、その疑問は尽きることはないので、無限の先まで通用可能な、一般化した法則を知りたくなる。それはあたかも「フェルマーの最終定理」のようなものだ。
翻って、本書を見ていくと、ところどころに「n次元の場合の話」が出てくるが、それはほんの極限られた場合のみである。その他は、3次元と4次元の間を行ったり来たりしているだけに過ぎない。なんて器量の狭い考察であることか!
……とまあ、自身の力不足を嘆いても仕方ないので、とりあえずはここまで出来ましたという「経過報告」をしておく。おそらく、多くの先行研究も、そのスジの人には分かりきった話も多数含まれているのではないかと推測する。私自身は、研究者でも何でもない一般のモノであるので、この程度で勘弁して欲しい。
なお、本書の冒頭見開きページにある通り、4次元立方体全261種類を1cmの角材を切り貼りし、1年かがりで実際に作成している。今この作品は、高尚(?)な飾りとして我が家のインテリアの一部となっているが、誰もその意味するところを正確に理解してくれていないのが少々悲しい。
まあ、それも良かろう。100%趣味なのだから……。
ちなみに、作成過程については、ニコニコ動画でも見られるので、興味がある人はそちらもご覧いただきたい。
(http://www.nicovideo.jp/watch/sm29335837)
ではまた。次の機会に……。
2018年8月15日 発行 初版(仮)
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