───────────────────────
───────────────────────
牛飼いダニア ~スッタ・ニパータ ダニアの経による~
(いつか絵本にしたい童話)
「わたしには、食べる物もあるし、仕事もある。」
と牛飼いダニアは言った。
「マヒー河のほとりに家族といっしょにすんでいる。
大きな牧場も立派な家もある。
すべてはうまくいっている。」
「雨がふろうが、なにが起ころうが、不幸におちいる心配はない。」
「わたしはもう、なにかに腹を立てることも、心を乱されることもない。」
とおしゃかさまはおっしゃった。
「マヒー河のほとりに今夜泊る所をさがしている。
帰らなきゃならない家はないし、失うおそれのあるものはなにもない。」
「雨がふろうが、なにが起ころうが、不幸におちいる心配はない。」
「ここには、牛たちを悩ますあぶも蚊もいない。」
と牛飼いダニアは言った。
「牛たちはよくのびた草原を元気に歩きまわっている。丈夫に育った牛たちは、たとえ、雨が降って洪水になっても、へっちゃらだ。」
「雨がふろうが、なにが起ころうが、不幸におちいる心配はない。」
「心のいかだは、しっかり組まれた。」
とおしゃかさまはおっしゃった。
「しかも、すでに世の中の激流をわたって、自由の国に到着している。
もう、そこからもどってはこないから、そのいかだも必要ない。」
「雨がふろうが、なにが起ころうが、不幸におちいる心配はない。」
「わたしの妻はよく尽くしてくれる。」
と牛飼いダニアは言った。
「もう結婚して長いこといっしょにいるけれど、
とてもいい妻で、
まわりからも悪いうわさなんて一つもきいたことがない。」
「雨がふろうが、なにが起ころうが、不幸におちいる心配はない。」
「わたしの心はどんなときも正直で、自由だ。」
とおしゃかさまはおっしゃった。
「長い年月をかけて、よく養われ、調えられてきたから、
もう、なにかにしばられたり、乱されたりするようなことはけっしてない。」
「雨がふろうが、なにが起ころうが、不幸におちいる心配はない。」
「わたしはちゃんと自分で働いて生活している」
と牛飼いダニアは言った。
「子どもたちはみんな健康でいい子だ。人から文句なんて言われたこともない。」
「雨がふろうが、なにが起ころうが、不幸におちいる心配はない。」
「わたしはだれにも使われてはいない。」
とおしゃかさまはおっしゃった。
「乞食をして与えられたもので、自由に生きている。与えられるものは人々の自由にまかせているし、自分も自由に働き、見返りをもとめることはない。」
「雨がふろうが、なにが起ころうが、不幸におちいる心配はない。」
「わたしには財産がたくさんある。」
と牛飼いダニアは言った。
「生まれたばかりの小牛もいるし、乳を飲んでいる小牛もいる。
子どもを産んだ牛もいるし、これから子どもを産む牛もいる。
牛たちのボス、牡牛もまたいる。」
「雨がふろうが、なにが起ころうが、不幸におちいる心配はない。」
「わたしには財産はない。」
とおしゃかさまはおっしゃった。
「生まれたばかりの小牛もいないし、乳を飲んでいる小牛もいない。
子どもを産んだ牛もいないし、これから子どもを産む牛もいない。
牛たちのボス、牡牛もまたいない。」
「雨がふろうが、なにが起ころうが、不幸におちいる心配はない。」
「杭は絶対ぬけないように、深く打ち込まれた。」
と牛飼いダニアは言った。
「縄もじょうぶな新しいものにして、牛たちをしっかりとつなぎ止めた。絶対に切ることができないように。」
「雨がふろうが、なにが起ころうが、不幸におちいる心配はない。」
「牡牛が縄を絶ち切るように、束縛を絶ち切った。」
とおしゃかさまはおっしゃった。
「象が、足に巻きついてくるつる草をふみにじっていくように
わたしはもう二度と、だれかに支配されることはない。」
「雨がふろうが、なにが起ころうが、不幸におちいる心配はない。」
近づいていた大きな雨雲が、とうとう雨をふらせた。
平地にも丘にもあふれるほどの雨は、
どんどん強くなって、
マヒー河はあふれ、大洪水となった。
ダニアの家も、牧場も、牛たちも、
みんな流されていったーーーーーーーーー
牛飼いダニアは言った。
「おしゃかさまに出会うことができたことは、
わたしどもにとって、この上ないしあわせでございます。
自分の力ではどうにもならないことがあることを知りました。
なにがあってもゆるぎないしあわせを手にされた、あなたさまのお教えにしたがいます。
これまでの思い上がりを絶って、真実の教えにしたがい、苦しみのもとを知りつくして、それをこえてまいります。」
悪魔が言った。
子どもをよりどころにする人は、その子どもによってしあわせをつかむ。
財産をよりどころにする人は、その財産によってしあわせをつかむ。
よりどころをもつことで、人はしあわせになれる。
よりどころをもたない人は、しあわせにはなれない。
おしゃかさまはおっしゃった。
子どもをよりどころにする人は、その子どもによって不幸におちいる。
財産をよりどころにする人は、その財産によって不幸におちいる。
よりどころをもつことで、人は不幸におちいる。
よりどころをもたない人は、不幸におちいることはない。
2018年2月25日 発行 初版
bb_B_00153668
bcck: http://bccks.jp/bcck/00153668/info
user: http://bccks.jp/user/142537
format:#002t
Powered by BCCKS
株式会社BCCKS
〒141-0021
東京都品川区上大崎 1-5-5 201
contact@bccks.jp
http://bccks.jp