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親愛なる、我らが主のお誕生日に寄せて
お昼休み。
夏も間近な気がする陽気。梅雨に向かう前の、からりと晴れた今日は、汗ばむほどに暑い くらいで。
﹁勝手云うてごめんな」
2ヶ月の間にすっかり馴染んだ制服姿で、少し傾げて、はやてちゃんが言った。
﹁はやてにとって大事な日なんだから、好きに過ごせば良いじゃない」
アリサちゃんがふわりと応じる。
﹁こちらこそ、急だったから。ごめんね?」
フェイトちゃんが継いだ。
﹁いやいや、ほんまにうれしいよ?」
友達にお祝いしてもらうんなんか初めてやから、なんや緊張するけどなぁ、と笑う。
﹁すごいね、みんな一緒にお休みなんだね」
﹁ええって云うたのに、皆、結構頑張って休み揃えてくれたみたいで……」
そう言って少し眉を寄せて笑うはやてちゃんは、本当に本当に、嬉しそうで。
﹁皆と初めて逢えた日やから、誕生日なんかより、そっちの方をちゃんと大切にしたいんよ」
﹁まあ、『誕生日なんか』の方は、私たちが責任持って引き受けるわよ」
はやてちゃんの誕生日は、八神家の皆さんにとって、大切な記念の日。
だから、私たちは一日前に集まることにしました。
﹁はやてが良くても私たちは良くないんだから、がっちり祝わせてもらうわよ?」
覚悟なさい、とアリサちゃんが不敵に宣言。
いつもは止める立場のすずかちゃんも今日は、にこにこ笑って見ています。
私もうちのケーキを持って、全力全開で、お祝いするんだから。
﹁お手柔らかに、頼むわな?」
いつもより少しはにかんだ笑顔で、はやてちゃんが笑った。
……今夜は帰れそうにねぇな。
﹁膠着しちゃったね」
﹁ああ」
面には出てなかったと思うが、こいつとはまあ、長い付き合いだ。
……だから。んーな表貌でこっち見んなよな。
そもそもは、仕留め損ねたあたしが悪い。居並ぶビルのどれかに潜伏して、引っ込んだまま出てこない目標を苦々しく睨み付けても、仕方がないのだが。
あたしの気持ちが苛立ち始める一歩前のところで、なのはが思い出したように言った。
﹁あのね、この間の演習で、新しい魔法を覚えたの。」
﹁ふーん。――今度は何が壊せるようになったんだ?」
もう、と口を尖らせては居たが、特に気を悪くする風もなく、笑っている。
﹁ヴィータちゃん、魔力探知かけてもらってもいいかな?」
﹁んあ?」
今回の目標は魔力を持たない。意図は不明。
まあ、こいつが言うんだから何かあんだろ、位の軽い気持ちで探査術式を展開する。当然、なんも無ぇ。
﹁適応範囲そのままで、もう少しだけ、感度あげて?」
﹁おう」
言われるままに調整すると。七棟隔てた先の建物の地下から、微弱魔力がアンカーした。 パターンは隣でにこにこしている、こいつの物だ。
探査を言われた辺りで大方見当がついたが、礼儀として一応訊いてやる。
﹁……なんだ、これ?」
﹁WAS。」
広域探査魔法……。
﹁……。いつの間に撒いたんだよ」
半目で訊けば。
﹁初手だよ。慣れてないから捕捉に時間かかっちゃったけどね」
舌を出してみせる。年相応の仕草に、あたしは苦笑して見せたけど。なんて奴だ、ったくよ。
﹁最初に言っとけよなー」
﹁だって練習中だったし、うまくいくかどうかもわからなかったんだもん」
ああ、そうかよ。
だからあたしがヘマした時の援護がほんのすこしばかり遅れたんだな。
撃ち洩らすことも想定してやがったかと思うと腹も立つが、実際こうなってしまうとありがたい。
まあいいや。プラマイゼロにしといてやるよ。
あたしは随分と愉快な気分になって、肩の力も抜けてた。
﹁さて。……建物ごと、撃とうか?」
﹁――やめとけ」
お前もキラッキラしてんじゃねぇよ、レイジング・ハート。復旧に何時間かけさせるつもりだ。
あたしは相棒を握り直した。
﹁床にちっさい穴、一個開けっから、そっから頼む。」
﹁了解」
†
シュワルベフリーゲンの軌跡を、舞うように追い、螺旋を描きながらアクセルシューターが耀く。
あーもう、なんつー精度だよ。楽しそーにしやがって。
つかずの距離であさってに翔びながら、めくらましに弾の幾つかを頑丈そうな壁面を見繕い、叩きつけて揺さぶる。
本命は高精度のシューターを引き連れて、静かに紛れて地に潜った。
じきに片がつくだろう。
†
﹁まあ。祝砲だよね?」
﹁阿呆が。そんなレベルかよ……」
目標をノックダウンしたシューターは、勢い余って天井までぶち抜いて、屋上まで一閃。真っ直ぐ貫いてった。崩れる様はまるで。
――なんか、ローソクみてぇだな。
などとあたしが呑気に思ったことは内緒だ。
ケーキのこと、考えてたからかもな。仕方がない。
﹁お前、本当に恐ろしいな」
﹁にゃはは。誉めてもなにも出ないよー?」
﹁誉めてねーよ!」
全く、こいつは。
まあ、でも。これくらいなら、始末書頑張ったら、帰れるだろ。
†
﹁ヴィータちゃーん」
さっさと出てきちまったあたしを、着替えもそこそこでわざわさ追ってきて。紙袋をがさっと押しつけられる。
﹁これ、お祝い。はやてちゃんに持っていってあげてよ」
﹁……さんきゅーな」
甘くて、良い匂いがする。すきっ腹にじんわり染み入る。
﹁昨日からこんな調子でケーキ焼けなかったから作りおきの焼き菓子なんだけど。ごめんね?」
﹁ん。」
きっと、めちゃくちゃ喜ぶに決まってるんだ。
﹁あ。人数分しかないから、つまんだらダメだよー」
﹁しねーよ」
んべ、っと舌を出してやったら、えへへ、と笑って。
だぁから、撫でるなっつうの!
﹁ただいまぁ……」
ひそめた小声。暗い廊下を照らしだした灯りが目を焼く。
皆が寝静まった後を、静かに進み入る。
カーテンは開け放たれていて、遠く白みはじめた空の青に沈んでいる。足音をひそめて進む、影が淡く落ちる。
リビングはすっかり片付けられていたけれど、宴のあと特有の、熱残るあたたかな雰囲気はそこかしこにまだしっかりと漂っていて。
﹁おかえり」
ソファーに身を沈めていた主がひょいっと身を起こして、迎えた。
﹁まだ休んでなかったんですか?」
﹁うん、……ごめんな?」
﹁いえ――」
嬉しいです、とやわらかに笑み、すこし心配ですけど、と静かに加えて。
﹁お誕生日、おめでとうございます」
﹁うん、ありがとう」
おいでおいで、と手招いた主のもとへ、ハンドバッグをダイニングテーブルに残し、代わり取り出した小さな包みを手にして寄った。
隣に掛けると、ふうわりと座面が迎えて、ふたり分の体温が互い、心地良さを分けあう。
﹁遅れてしまって、ごめんなさいね」
﹁ううん。――無理して帰ってきてくれたんと違うか?」
﹁いいえ。ちゃーんと安全運転でしたよー?」
ふふ、と笑みを交わしあう。
﹁なんだか、お疲れですね」
包みをそっと手渡せば、そうかー? とすこし眠そうに応じる。
﹁ちょう、はしゃぎすぎたかなぁ?」
開けみてもええ? と問われて頷くが、手は止まったまま。振り見れば。
﹁こんな時間やけど、ごはん食べられそうか?」
﹁ええ、もう、おなかぺこぺこです」
くにゃりと返す。
そら大変や、先に仕度しよ? と、はやてが立ち上がった。
はやての誕生日は、家族の皆にとっても特別な、記念の日だ。
今はもう、全員が揃って迎えられることも少なくなってしまったし、今夜のように夜半から始まることになったりもするけれど、それでもよかった。
皆が変わらずに在ること、それだけが、ただ何物にも代えがたく、しあわせだと思えるから。
皆で腕によりをかけたご馳走。
舌鼓をうつシャマルを、向かいの席ではやてがにこにこと見つめている。
ふたりだけの食事をすませてのち、しばらく。
ソファーの上、甘えるように肩に寄せ、去りゆく夜を追う明けのさざ波のようなひとときの峡、今宵あった出来事をできるだけ詳細に語り聴かせてくれるはやての傍らで、こうしてまた一年を変わらずに迎えられたことが、何よりも嬉しい。
ふいに、はやての言葉が途切れる。眠ってしまったか、と窺えば、違った。
﹁……なにか、ありました?」
﹁なんも、ないよー」
そこにはちゃんと普段通りの微笑みがあるのに、どこか翳りさす横顔に思えてならず、黙して待つ。
﹁……ずるいわー………」
﹁何がです?」
﹁シャマルには隠されへん……」
﹁ダメですよ、隠しちゃ」
困ったように叱られて、しおと萎れるふりをして、膝の上、はやてはことんと頭を落とした。
シャマルの白い掌が、膝上で寛ぐ額にひやり、触れた。そのまま、微熱を湛えた身体を探る。所々にそっと力がかけられて、やわらかく肌を押す優しい重みを時おり感じる。
﹁痛いところ、ないですか?」
﹁うん」
﹁体、怠くないです?」
﹁大丈夫……」
主の我慢強さなら、誰よりも心得ている。多少の倦怠ごときで音を上げはすまい。
﹁明日は?」
﹁午後出や。」
﹁じゃあ、そろそろ寝ましょうね」
﹁えー? いややー」
もっと、喋ってたい……と口先尖らせいうけれど。
﹁瞼がとろーんとしてますよ?」
ふふふ、と愛おしげに震わせるのを膝の上からはやてが見上げていた。
やわらかな金の髪。なんことかを見透そうとする、清んだ紫水晶の瞳。
手を伸べて、何も云わずにいてくれる頬に触れ。
﹁……一緒に寝てくれる?」
﹁ええ、もちろん。」
――だから、ちゃんと診せてくださいね?
満面の笑みを浮かべて、家族で一番白い指先が、さらりと茶の髪を撫でる。もう間近に迫る夜明けを映しとり、心地よさげに伏せられた瞳に隙を見いだして、ひょいと抱えあげてやる。
﹁シャマル!?」
﹁ふふ、なんだか懐かしいですね。」
﹁懐かしいーいうのはええけど、重いやろ?」
﹁平気ですよ」
――ちょっぴり魔法でズルしてますけどね? と白状。
﹁やっぱり重たいんやんかぁ」
いたずらめかして笑うとはやては、華奢な首筋にそっと腕を回しなおした。
はやてさんは、決して自分から誕生日の話をしない。
誰と話すときも。ご家族の前でも。
そして、私にも。
なのはママと逢った日。
保護責任者になってもらった日。
手を差し伸べてもらった日。
推定で年はすぐ決まったけど、日付決めるのは難航したって聞いてる。
生まれた日がわからない、っていうのは、なんにしたって、面倒くさい話だ。
†
﹁浮かん顔やね」
放課後、まっすぐここへ来た。少しだけ、時間をもらった夕方。
地上本部ロビーの待合スペース。慌ただしく人が行き交う。陽あたりは上々。
約束の時間より少し早く姿を現した八神司令は、夏の気配特有のふんわりとした陽気を背にして立っていた。
昨日までとはどこも変わらず。
﹁相変わらず、ちっさいままやろ?」
﹁……なんのことでしょう?」
﹁瞳が云うとるよ。」
くすくすと笑う、またひとつ年が離れた憧れの人。最近は逢う約束取りつけるだけでも一苦労だ。
﹁悪いんやけど、ここには長う居られへんのよ。ちょう歩こか」
﹁あ、うん。」
立ち上がる私の側から、飲みかけのカップやら手みやげを詰めた紙袋やらを拾い上げてくれている。どうやら相当、お急ぎみたい。
†
﹁大丈夫だったの?」
﹁んー?」
﹁時間とか。」
ああ、とすまなそうに笑って。
﹁お偉いさんらの帰宅が始まる頃合いやったもんやから。……説明足らんでごめんな?」
﹁大変だね」
﹁有名人やからなあ」
﹁そうだよねー。」
心底同情してたら。
﹁ヴィヴィオが、やで?」
﹁はい?」
くつくつ揺れる肩を見る。
今日の夕焼けは紫のグラデーション。
﹁なんか食べよ。どこ行こか」
﹁時間、いいの?」
﹁食事してきた、て云うたら、きっとリインも褒めてくれるよ」
﹁……相変わらずだなあ」
﹁ほんま相変わらず、や。……で、付き合うてくれるんか?」
﹁もちろん。一応、ママには連絡しとくね」
﹁それについてはもう手配済みやったよ?」
傾げて笑う。呆れた。外濠までしっかり埋めたてられてるんじゃないですか……。
﹁副官が有能過ぎて、困るわ」
﹁そだね。……私が断ったらどうする気だったの?」
﹁そら…… 夕飯抜きやな。ヴィヴィオも私も。」
﹁危なかったぁ……」
どんな過ごし方をしたとしても、一日はたった一度のその日だけ。
たとえ今日が何の日でも、私にとって毎日が、特別。
だから。
﹁ねえ、今日は奢らせてくれる? それなら付き合うよ」
﹁それはあかん。」
﹁じゃあ、私、ご飯抜きだね?」
﹁……それもあかん。」
﹁なら、決まり。ね、いいでしょう?」
あはは。リインさん、ありがとう。
できるだけ早く、お帰ししますねー。
†
数日後。
本局ですれ違ったフェイトちゃんが、よければお茶でも、なんて誘ってくれた。
話題は先日のヴィヴィオとの食事の件に。
……そうか、待ち伏せられとったんやな、私は。
﹁それで連れていってくれたんが、可愛いお店でなぁ。なんや若者に大人気のパップラッド、いうんを出してくれるって話題の……って」
あのなぁ。
話の途中から、すうっと気配が細くなる心持ちがしとったんよ。
﹁……私、行ったことない……」
またかい。
﹁フェイトちゃん、地上本部なんか滅多と来えへんやんか」
呆れた表貌を隠さずに云えば。
﹁行くよ! ………たまに……」
はいはい、さよか。
﹁ほんなら今度、なのはちゃんと行っといで。――ほれ、割引クーポンあげような」
﹁違うよ、ヴィヴィオと行きたいんだ!」
﹁ヴィヴィオも誘たらええやん……」
もういいかげん疲れてきて、いいかげんになっとるな、私。
﹁誘われたいんだよ……」
ぽつりとした呟きに、はたと返って。
――ごめん、ちょう反省したわ。
そっと頭を抱える。
終業の鐘を背に、正門をくぐる。
﹁ヴィヴィオー!」
﹁なのはママー!」
おおきくてをふって、おむかえしてくれたなのはママのとなり。
﹁おかえりぃ、ヴィヴィオ」
﹁ぶたいちょー!」
﹁あはは。久しぶりやねぇ」
どーんってとびついたら、よいしょってうけとめてくれた。
﹁大きなったなぁ」
﹁そんなに変わらないよー」
﹁そうかー?」
なのはママとわらう。
﹁あたらしいクラスには、もう慣れたか?」
﹁うん……あ。はいっ」
まちがえちゃった。
﹁そうか」
にっこりわらうぶたいちょーに、なんだかとてもうれしくなる。
ひょいっておろされて。
はいっ、てさしだされた、はなたば。ピンクとしろとあかとオレンジ。ちいさなおはながいっぱいにつまった、きれいでやさしいいろの、ブーケ。
﹁なあに?」
﹁ヴィヴィオに。お祝いや」
﹁おいわい?」
なんのおいわいだろう?
うけとりながらかんがえてみるけれど。
しんきゅうのおいわいは、ひとつきまえにもうもらったよ?
﹁はやてちゃん……」
﹁ん」
なのはママとかおをみあわせたぶたいちょーは、にこにこしたまま、ちいさくうなづいてるだけ。
とうとう、がまんできなくて。
﹁なんのおいわいですか?」
﹁んー? ――ヴィヴィオとなのはちゃんの新しい門出の、お祝い。」
そういって、ぶたいちょーは、あたまをなでてくれたけれど。
……やっぱりわかんないや。
﹁また明日も、勉強がんばってな?」
﹁はいっ!」
おっきくうなづいたら、りょうてのはなたばから、ふうわりとあまーい、いいにおいがした。
無限書庫。
﹁またそれ、読んでるの?」
﹁んー?」
﹁んー」
よじよじ。
﹁……。ヴィヴィオ、邪魔やー」
﹁んー?」
悪びれもせず、上目に微笑む。
あー。こんな猫、おるおる。
呆れていると、見る間にもそもぞと腹のあたりに収まっている。
器用やなあ……
胃の上のあたりに、ほかほか乗っかる頭の体温。結った髪がひょこと時折、目の端を掠める。
﹁そんなに気に入ってる本なら、手元に置いたら? 探してあげようか?」
﹁……持っとるよ」
﹁へっ?」
﹁オフィスのデスクにも一冊置いとるし」
﹁そうなの?」
んー。
﹁そっか」
でもデスクやと、にゃんこが寄りつかへんから、な。
文字の連なりから視線を外せば、ようやく合った目線に満足したのか、ヴィヴィオが逆さにふうわりと微笑った。
……ん?
ちゃうな。
なんか…… ちゃうな。
ああ。
﹁そろそろ戻らな……」
すいと閉じられる本の慣れた終い仕度を、はやての腹の上で呆と見送るヴィヴィオ。
書架への軌跡を追うように、はやてから離れていく温み。そのいつもよりいくらか大人びて見える横顔の理由に思い当たって、自分の不用意を省みる。
さて。まだ間に合うやろか……?
﹁ヴィヴィオ」
ゆうるりと振り返ったヴィヴィオに。
﹁さっきの話なんやけど」
﹁んー?」
﹁実は寝室にも一冊置いときたいんよ。――頼んでもええやろか?」
みるみる耀く紅と翠。
﹁うん」
満面に返る笑顔に、ようやく心を軽くした。
†
リフレッシュエリアの窓は、すっかり夜の色。
自販機に照らされて映る顔色は仕事明けの普段よりも、さらにもう一回り輪をかけているかのようで。
﹁まあ、予想はしてたんじゃないかな」
﹁やっぱり、そうか……」
﹁毎年、はやてちゃんのを選ぶのには相当、手を焼いているみたいだから」
﹁うー」
にっこりと笑うなのはにカップを差し出しながら、はやてが呻く。
﹁わざとらしかったやろか?」
﹁その辺りも含めて、覚悟の上だったと思うよ」
﹁ぅあー。不覚や」
﹁良いんじゃないの? たまにはこんな事があっても。」
﹁そうかぁ?」
﹁そうそう」
湯気の昇るカップにふうと一息かけながら笑った。辺りに芳ばしく漂う。
﹁案外珍しいもの見られて、喜んでいるかもよ?」
﹁そんなん喜ぶん、なのはちゃんだけやん」
﹁そうだね。……今も結構たのしいかも。」
﹁うー。」
﹁まあまあ。そう落ち込んでないで。さっさとお部屋に戻る!」
﹁あいあいまぁむ」
†
﹁おかえり、なのはママー!」
﹁ただいま、ヴィヴィオ」
飛び付くように出迎えた娘に差し出されたのは、預かりものの紅い薔薇。
2018年6月3日 発行 初版
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