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青が死んだら、海の色を教えて。

「糸」

群青出版



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明日には夜空なんて亡くなるよ。



だから、君は、今日を笑っていいんだよ。

プラスチックの愛を、僕は知ってる。

落としても割れなくて

叩いても砕けない

鬱陶しいくらいに頑丈で

透明をすり抜ける輝きに、優しさを覗き込む。

きっと 下心でもあったんだろう

靄が邪魔して見えやしない。

プラスチック越しの君が見えない

それでいいんだ。

見えないままで そのままで

いつかそのままでいてくれたなら

きっと 君を好きでいられる
そのままで
靄に包まれた君のままでいてくれたなら。

プラスチックの愛を、僕は知ってる。



『プラスチックの愛情を』


夏の空に溺れる。
泳げないと知りながら、
浮かべないと知りながら、
飛び込んだ色の深さに赤色を。
飛び込んだ色の深さに青色を。
足掻いても叫んでも、
混ざり合わない色達に囲まれながら、
飛び込んだ色に思い出を。
数えきれない、
思い出の空に、今、溺れる。


『夏の空に溺れる』



喜び悲しみそれ以外に思い出を

憎しみ恨みは色以外の鮮やかさを

忘れない 忘れない

きっともう忘れない

思い出に花束を沿えて


『思い出に花束を』

春を飛び越えた。
それでも、少しだけ、指先に寒さが触れたから、
きっと一生なんてこんなもんだって笑ってた。
暑さが私を手招きするから、
そうだよ、明日なんてすぐそこだよ。
「主導権を握った気になるなよ」
季節が舌打ちをする。
春なんて、気まぐれに、すぐに終わるよ。
季節が次になった時、私が月になった時、気まぐれに、私達。


『春を飛ぶ』

瞼の上で踊る最悪は、
瞼の奥で眠る最愛に届かない。

きっと、
届かないでいてくれる。

何事も無かったよう、
僕ら、出逢えばいいよ。

君が、やっと、視界の蓋を開けた時、

「おはよう」
なんて、くだらない一つでいいよ。


          『雨が止んだら』


いつまでも続けと願う「青」はいつか裏切るから
けれど裏切らないでいてくれるなら綺麗だよ

「また明日」を素直に言えてたあの頃の「僕」から
五年が経った今の僕はまだ明日の事さえ見えやしない

「青春」なんて名前じゃなかったら
きっと愛せたはずなんだ
きっと

「青春」なんて名前の鮮やかさとは
裏腹な色ばかりだからさ
僕は君もこの季節もほんとうに嫌いだよ


『青。揺れて、』


君から「好きだよ」なんて言われてしまうんじゃないかって、
うっかり、怖くなって。

鈍色の空の下で笑う君に染まってしまうんじゃないかって、
うっかり、怖くなって。

怖くなったから、距離を取りたくなって。


でも、結局、そんな距離すら飛び越えてしまう君の魅力が、
うっかり、美しく思えて。


『うっかり』

喉が煙を包み込む。
煩いよも、痛いよも、苦しいよも、全部まとめて。引き連れて。
口から漏れ出した白煙は、今は見える泡色の夜風に煽られて、動きを変えた。ゆらゆらと、
「そっちじゃないよ」「まだここにいてよ」
意味なんてないよ、きっと、ないよ。
ただ煙を見上げて、目で追って、
「そんな日々に意味を見出すなんて、ナンセンスだよ」
わざとらしく、煙を吐いた。
包み込む。
後悔も、未練も、思い出も、嫌にわざとらしく、
全部まとめて。


『口煙』


0.02㎜の不安に隠れて 君を抱きしめた。

「優しさ」「本当」「愛」「将来」
なんて薄っぺらい
ほんとうに薄っぺらい膜で頭を隠して
君を愛した、ふりをした。

愛してるふりをするには充分な薄さだったね、
悲しみに触れられない充分な薄さだったね、
涙が漏れ出さない充分な薄さだったね、
君への愛情と同じくらいの薄さだったよ。
0.02㎜越しの君はもう、君じゃなかったな。


      『0.02㎜の嘘』



脳が理解する前に、
目が熱くなったから、
多分、これは恋なんだと思う。

喉が理解する前に、
声が漏れてしまうから、
多分、これは恋なんだと思う。

眼球の奥で響く無音が、
僕の罪も、君の悪も、
「それでよかったんだよ」
って言ってくれている様な気がして。


『青恋。』



喉の奥で言葉が踊る。
「早く出してくれ」
とでも言わんばかりに、踊っている。
それを、僕は、ぐっと堪えて、慎重に、ゆっくりと息を吐く。
焦る言葉が漏れ出てしまわないように、息だけを吐く。
慎重な作業の末、息だけを全て吐き終える。

それでも、次の瞬間。
また君が笑うから、塞き止めた筈の言葉は、また、踊りを始めた。


『二文字』


愛のうたを歌う君が、誰かに愛されてしまわないように。

季節が変わるみたいに、気まぐれに。

音色の重さに耐えかねて、空気は、
僕の口に届く前に呆気なく脆く跪いた。実に弱々しく。

愛のうたの片隅で、君が笑うよ。僕が笑うよ。
もう、きっと聴こえないように、悲しいうたで耳を塞いだ。

やっと、君が見えなくなってきた。


『愛の詩』




「愛は汚いモノだよ」
僕を置き去りにしてくれたから、ありがとう。
愛の色も、臭いも、痛みも、何も知らないでいられたよ。
君が君でなくなってしまうなら、
きっと、それはウイルスと変わりやしないんだよ。
君から誰かへと、移りゆく。感染症の様なモノだよ。
ねえ。「綺麗だ」と思わなければいけないモノなんて、
ほんとうは汚いモノなんでしょう?
また、伝染る。足先から始まり、
頭の先へ、ゆっくりと運んでゆく。
満たされた時、きっと心は空っぽで、
「ほら、やっぱり愛なんて、」


『愛汚染』


月が死んだ時、
僕らもう一度、何食わぬ顔で出会おう。
灯りの無い夜道を、
僕らもう一度、何食わぬ顔で歩こう。
君が死んだ時、
僕が死んだ時、
他の誰かが死んだ時、
何食わぬ顔で月を描こう。
それが永遠だと疑わないように、
きっと、永遠にならないことを鼻で笑いながら。



『月の詩』



頑固な道の上を、しっかり踏みしめて歩く人。
無関心な空の下で、ゆっくりと息する人。

そのどれもが罪で、優しさで、命。

空の色は今日も青なのに、僕らの日々に固定された色は無い。
目まぐるしく変わる色の中で、
僕らはそれぞれの色を探す、自分だけの色を探す。

だからこそ、空の青は、
青く、青く浮き続けるんだと思う。


  『日々』

鼓膜に手足が生えた。
見た事も無い奇妙な踊りで、脳内を駆け巡る。

「おいで、おいで」と、喉を呼ぶ。
「今から行くよ」と、喉が言う。

鼓膜の奇妙な踊りに合わせて、喉は奇妙な歌を歌った。

それでいいよ、任せるよ。
僕の体をダンスフロアに変えてくれ。

一瞬も、僕らしくない、
ダンスフロアで舞ってくれ。


       『三分間の衝撃』

昨日、君が死んだ。


君が死んだのに、風はいつもと変わらない。


君が死んだのに、空はいつもと変わらない。


「人はいつか死ぬ」


なんて当たり前だけど。


当たり前なんだけど、どうか当たり前にはならないで欲しい。




こんな心の痛みを当たり前にされたら、

僕はきっと粉々になって消えてしまうだろう。

「死んだ人は星になる」

なんて良く聞くけれど。

良く聞くけれど、どうかそうはならないで欲しい。




そんなに遠くへ言ってしまったら、

君は僕を見る事が出来ないだろうし、

僕の言葉も届かないだろうから。

透明な君を僕は見れなくて。
透明な君は僕を見る事が出来る。


不公平だと思うんだ。



どうせなら、君も僕を見れなくなってしまえばいい。

そうしたら、同じくらい僕の事を考えてくれるだろうから。

いつもと変わらない風と、

いつもと変わらない空が、


嘲笑う。

いつもと変わらない風と、

いつもと変わらない空が、

指を指す。

いつもと変わらない君と、

いつもと変わらない僕が、

いつかの記憶の中で、

手を振っているみたいだ。


『紺碧の葬列』



宇宙の中で、色を見つけた。
初めて見る、色を見つけた。触れた。抱きしめた。
壊してしまうくらい、抱きしめた。
宇宙の中で、色を見つけた。
色を見つけて、それを愛した。

思い出という名の宇宙の中で。


『宇宙を彩る』

「あのね」
という言葉を失ったら、
君に語りかける事が出来なくなってしまう。

「だから」
という言葉を失ったら、
君に言い訳をする事が出来なくなってしまう。

「もしも」
という言葉を失ったら、
君との未来を想像出来なくなってしまう。


「君」
という言葉を失ったら……


いや。それは考えないでおこう。


『君。』

夢が夢だと気付かれぬように、
僕は僕の瞼に蓋をした。
自分自身の手で、蓋をした。
だって、気付かれたくないから。
数秒後の自分に、気付かれたく、ないから。
少しでも長く、ほんの少しだけでも長く、
夢だと気付かぬ幸せの中で息ができるように。
現実と目を合わせずにいられるように。
数秒後の自分に、夢が夢だと、気付かれぬように。


『目を逸らす』


夕焼けの光に、体を預ける。
眩しい、と言って、瞳は毛布に包まった。
気持ちがいい、と言って、心臓は踊りを始めた。
さよなら、と言って、君は僕から離れていく。
まだだ。まだ、その音に気付くな。
僕の全身は、夕焼けに気を取られていればいい。
暖かな、夕焼けの光に、包まれていればいい。
今はまだ、それでいい。


『夕と憂と優』

笑うたび、歪んだ。

視界の青が、ひとつ、またひとつと、
黒になる。

笑うたび、崩れた。

音の光が、ひとつ、またひとつと、
雨になる。

笑わないよう、少しでも、笑を零さないよう、
僕は、僕を、手探りで繋ぎ合わせる。
そうしてやっと、
僕は僕になる。


『黒い雨が街に降る』

時の流れに置いていかれて、
感情の起伏に置いていかれた。
流れる汗の色は未だ透明な事が嬉しくて、
拭うこと無く、ただ、地面に落ちるのを待った。
やがて地面で弾けた透明を、
誰かが「青春」なんて名で呼んだ。
呼んだから、誰かが恨めしそうに見つめるから、
青さの中に生きる僕に、愛を伝える。

いつか終わるはずの今日に、

君の、僕の、青さに、目が眩む。


   『青さに生きる』

君がいないと僕は僕を愛せないらしい。

僕がいないと君は存在しないらしい。

「ふたつでひとつなんだよ」

なんて。夕暮れが笑う。

投げ出した橙色にもう君はいないから、

今日は、帰ろう。
また、明日。

喉元で掻き毟る、僕だけの橙色よ。

     『また、明日、』

飛び出した。つい、喉から刃物が飛び出した。
どこに隠していたのだろう。どこで手に入れたのだろう。
本当に、つい、飛び出して、突き刺した。
突き刺した場所はどうやら瞳か。
赤色の代わりに透明を流して、座り込む。
引っ込め。引っ込めと刃物に怒鳴り散らしたって、
中々引っ込んではくれない。
一本だけじゃない、何本もの刃物がキミを突き刺した。
ごめんね、ごめんね、謝りながら、
また、無意識に突き刺した。

『言の刃物』







愛情の表現方法が
キスやセックスだけなのだとしたら、
僕はもう愛情なんていらない。
贈る為の愛情も、受け取る為の愛情も、何もいらない。






「あなたに触れたい」は、直接肌に触れたいという意味じゃないんだと。
「あなたの心に触れたい」という意味だと、信じたい。
粘膜と粘膜が絡み合う事を、性器と精液が絡み合う事を、そんな下らない事を愛情というなら、

「どうか神様、僕の世界から、
愛情なんて汚いモノを消してくれませんか」


『性癖と潔癖』




青が死んだら、
空の色を忘れて。






青が死んだら、
海の色を教えて。




私が死んだら、
涙の色を思い出して。





私、あなた、死んでしまう数秒前に、
二人の夜を数えて。

青が死んだら、海の色を教えて。

2018年10月16日 発行 初版

著  者:「糸」
発  行:群青出版

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人間 イト

2016年より執筆を開始。 2018年 個人出版社を設立。 改名(ex.猫音みやび)

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