1
人生とは何が起きるか分からない。
俺は、二九歳にして改めて実感した。
豪華な白亜の城で、俺――アレク・アーリーは婚儀を挙げている真っ最中だ。
ちらり、と隣で俺と手を繋ぐ男を見つめる。
俺の夫となる、セオドリック・ミアラルド。一九〇センチを超える長身に、鍛えられた肉体を持った美丈夫だ。しかも、ミアラルド国の若き王様である。世の中の女性やオメガ性にとっては、これ以上はない結婚相手だろう。
俺にとっては、当初望まない結婚相手だったのだが。
「誓いの口づけを」
神官の言葉に、俺たちは互いに向かい合う。
逞しい腕が俺の腰を引き寄せ、そっと唇同士が触れ合ったのを、瞼の裏で感じながら、 俺は絶望していた。
そして、式の後の初夜で 、力づくで押し倒され、服を脱がされた俺は、身体中を嘗め回された後、後ろに指を挿入され、恐怖で身体を引きつらせていた。
勃起もできないほどに硬直した俺に、セオドリック様はいろいろと手管を使ってならそうとしたのだが、俺の身体は全く持って受け入れることができていなかった。
「力を抜け」
セオドリック様が、眉間に皺を寄せて、低い声で言った。
別にセオドリック様は怒っているわけではない。理由を知っている俺は、セオドリック様の下半身に視線をやる。ズボンをきつく押し上げるソレが見えて、泣きそうになった。
低い声も眉間の皺も、沸いてくる性欲を鎮めようとする、セオドリック様の涙ぐましい努力に他ならなかった。
「ご、ごめんなさい」
俺は思わず謝っていた。
断るなんて許される立場ではない。しかも初夜である。むしろ、俺から奉仕くらいするべき案件であることは明白だった。
けれど、俺は経験がかなり少ない。素人玄人あわせて、片手で足りるくらい。対するセオドリック様は絶対百人以上は経験があるはずだ。
そんな俺に対して、セオドリック様の瞳は、欲情の色で濡れていた。俺の服を全部剥いだ後、セオドリック様も服を脱ぎ捨てる。キングサイズのベッドの上、裸の男が向き合い、抱き合う。
セオドリック様は、しばらく俺の後ろを弄っていたが、俺が反応しない事に気づき、仕方なさそうに、狙いを俺のペニスへと変えた。他者の手でこねられ、こすり上げられ、あっという間に勃起したペニスを、あろうことかセオドリック様が整った口に含んだのを見て、俺は慌てて口を押えた。そんな俺を見てにいっと笑ったセオドリック様が、あえて音を激しくたててしゃぶり上げるのを見下ろして、ますます身悶える。
「あ、いや、だっ、そこはもうやめ……っ」
懇願も意に介さないセオドリック様に追い上げられ、俺はあっけなく口の中に射精した。
残滓までも綺麗に吸い取られ、荒い息のまま呆然と天井を見挙げていた。
「ずいぶんと出たな。たまっていたのか?」
意地悪なセオドリック様の言葉に俺は半泣きになりながら、自身の身体を隠すように抱きかかえる。
「うう……っ」
半泣きの俺を見下ろしながら、セオドリック様が笑っている。
「最後まで、と思ったが、やはり発情していなければ、まだ無理か」
「ぐっ……っ」
初夜での妻の役割は、本来ならば果たして当然なのだが、セオドリック様はそれ以上は決して俺に強要はしなかった。
セオドリック様は欲望に忠実であり、多少嫌がっていてもその手管で陥落すると言われるほどなのに、だ。
なぜなのか。
その理由を俺は知っている。
「かわいいな、おまえは。早くまた繋がりたいが、身体が心配だからな、ゆっくりと慣らして行こう」
惜しまず、セオドリック様は俺に優しく囁く。ベッドの上で寝ころんだ上、横から抱き寄せられると、お尻の当たりにセオドリック様の欲望が当たってるのが分って、俺は震えた。
今日が初夜ではあったが、性的な触れ合いは今日が初めてではない。俺がこの国に入ったその日に、散々この方に触られ、舐められ、イカされていた。というか、既に最後まで致している。俺の突発的な発情のせいで、セオドリック様は獣と化し、俺は朝まで眠ることもできず、ひたすら喘いでいたのだ。
さらに初めての行為の後、挿入には至らずとも、こうしてほぼ毎日のように、淫らな行為が繰り返されていた。
遠い目で天井を見上げながら、俺は、このミアラルド王国にやってきた経緯を思い出していた。
2
本来、俺がこの男の結婚相手になる事などあり得なかったのだ。
俺はこの世界ではかなり特殊な存在だ。
この世界では、男女が、アルファ、ベータ、オメガの計六種類の性に分かれて生まれてくる。正しくは大体十二歳くらいでこのバース性が判明し、一生変わらない、と言うのが基本だが、世の中には突然変異が存在していた。それがバース性のランクダウンである。
オメガやベータが、アルファにランクアップする事は皆無だったが、逆にアルファやベータがオメガに変質する事は……、稀ではあったが、存在していた。
俺は後者にあたる。本来はアルファだったが、オメガへと変わったケースである。
セオドリック様は生粋のアルファだ。当然ながら妻となる相手は正室であれ、側室であれ、子供を産める女性か、オメガになる。愛人としてベータの男女やアルファの男を迎え入れている者は一定数いるが、かなり珍しい話であり、大抵は気軽な一時の火遊びが多い。
かつてアルファだった俺も、国の命で異世界の神子の護衛騎士を勤めあげていた時に、同僚の男や上司から遊びに誘われた事があった。アルファは基本的に支配欲が強いため、アルファ同士でくっつくパターンはかなりのレアだった。なお、俺が応えたことはない。
俺とセオドリックは、実はまぁまぁ、付き合いが長い。俺が十六歳の頃に出会ったので、かれこれ十年以上は交流がある。基本的に口を開けば喧嘩だったので、仲は良くはなかった。けど、感情の読めない冷徹な面から機嫌の良し悪しが分かる程度には、セオドリック の事は知っている。多分、あっちもそうだろう。
当時は甘い関係じゃなかった。
出会った最初は、性別を問わず、あらゆる人間に手を出していた節操なしのセオドリックだったが、俺に手を出してきたことは一度もない。
俺の人生設計では、いつかオメガか女性を伴侶に迎え予定だった。アルファの相手はオメガが推奨されてはいたが、オメガの人口はバース性の中で一番少なかったので、オメガと結婚できるアルファは限られたエリートだけだった。その癖にオメガの地位は低いのがいささか納得できない。
自国、フィオーレ王国で、俺は名誉ある神子の騎士に選ばれていた。ほぼ性格と容姿のおかげだった。アルファにしては平凡な容姿で、『神子が接しやすく引け目に感じない』性格だったから選ばれたに過ぎない。当然、そんな俺に寄り添ってくれるようなオメガは居なかった。
一生独り身かもしれない、と思った事はあった。
重婚は当たり前のこの世界、優秀な存在は幾多の妻や夫を持つ。優秀じゃない俺が余るのは当然だったからだ。
でもまさか自分がオメガに突然変異した上、アルファである知人と結婚する立場にされるなんて思ってもみなかった。
そもそも、俺の容貌は一切変わっていない。
背は百八十五センチあるし、体格もそこそこ良い。セオドリックと比べれば背も低いし、身体の厚みも大分薄いものの、一般的にアルファが好む小柄で華奢な中性的タイプではない。決して。
顔立ちが華やかならば、まだ救いはあったかもしれない。匂いでアルファを判別できるオメガを覗いて、大抵の人からベータだと思われている。昔は、背が高いから、まぁ、アルファか、くらいはあったが、今はどうみてもオメガには見えない。
だから、俺がオメガに変わったところで誰も番など申し込んでくるわけない、と思っていたし、俺の家族の大半もそう思っていた。
母親からは一生独り身かもね、と言われた。共にオメガである双子の弟たちからは、性生活のいらない隠居したご年配を薦められる始末。ちなみに双子の弟たちは、俺とは欠片も似ていない、かわいい女の子のような容姿をしている。
寂しい話ではあるが、それも運命だと、俺は受け入れることにした。それに三十歳も間近になって処女を失うのは抵抗がある。
幸いな事に家は裕福だったため、俺一人くらいの行き遅れの面倒は見る、と父親が豪快に笑ってくれたのが救いだった。ただ、この話題になると、父親は必ず俺から視線を逸らし、口元を引きつらせるようになったのが気になった。
俺を可愛がってくれている長兄夫婦も、なぜか決まって顔を引きつらせていた。ひょっとして家の経済状況が芳しくないのだろうか、と心配になったが、聞けば経済状況はむしろ良いらしいので謎だった。
大体、まもなく三十歳を迎える男を妻に迎える奴なんて、居たら天然記念物である。まあ、俺の親の商会は結構大きいので、援助目的ならばあり得るのだが、うちには嫁いでいないオメガの弟が二人いる、弟たちの貰い手が見つかった後にしかそういう出番もないだろう。
弟たちも結婚適齢期はかなり過ぎているが、俺よりは若い二十五歳だし、中身が糞だとしても外見だけは目を見張る美青年である。上の弟であるニコルは、すらりとした金髪碧眼の甘い顔立ちの美青年だし、下の弟であるレナは、ブルネットの愛らしい人形のような、一見すると十代にも見える美少年フェイスだ。二人とも体躯は華奢だ。それでも貰い手がいまだにないのは、理想が天より高いからなのは明白である。お金を持っていて、美形で背が高くて、セックスがうまい、甘やかしてくれる、それがあいつらの最低条件だ。
そんな無茶な条件でも、伴侶の中の一人、でも良ければ、複数の声掛けはあったのだが、二人とも自身が一番でなければ気が済まないのだ。多分、そんな一途な人は性格の良い奥さんを貰っていると、俺は思ったのを忘れない。
まぁ、こんな問題児双子が形成されたのは、間違いなく家庭環境が原因だったので、あまり強く言えないのだけれど。
――とにかく、両親が双子を甘やかしすぎたのが悪かった。兄貴は俺には優しいが他の兄弟にはめちゃくちゃ冷たい。幼い頃から距離を置いていたのだが、現在はさらに氷のように冷たい対応をしている。兄弟たちが兄貴の番を馬鹿にした上、兄貴から離れるように追い詰めたからだ。兄貴の番は幼い顔立ちの少年で、性格はめちゃくちゃ良いし料理もうまいので俺は尊敬している。兄貴も結構俺様な性格だったので、くっつくまでめちゃくちゃこじれていたが、今はただの熱い夫婦である――
一応、伯爵である友人のアルファだけが、唯一俺に「貰ってやろうか」と言ってくれたが、彼には既に複数の妻が居るので断った。贅沢かもしれないが、俺も唯一無二が良い。この点だけは双子に同意する。
3
そんな感じでオメガに変容してから三カ月が経った頃、父親と双子たちと共に、王城に召喚された。
騎士だった頃は、毎日立ち入っていた場所だったが、かつてよりどこか物寂しい雰囲気だった。
理由は分かっている。
俺の仕えていた神子が死んだから。神子は王の番だった。もうすぐ二年が経とうとしている。
神子が死んでからしばらくの間は、城の中だけでなく国中が悲しみに包まれており、陛下の息子であるドラゴネット王太子殿下が、無理やりに立て直さなければ、国が傾いていてもおかしくはなかった。だからこれでも明るくなった方だ。
「はー。辛気臭いよね、お城の中って」
気だるげに己の髪をいじりながら、ニコルが言う。
「ニコル、口を慎めよ」
自分の眉間に皺が寄るのを感じた。
ニコルは神子が健在だった頃の事を言いたいのだろう。確かに当時の城はいつも活気に満ちていた。いろいろと厄介なトラブルはあったが、すべてあの神子が治めてくれて、城に勤める兵士も使用人も楽しそうに仕事をしていた。むしろ、はしゃぎすぎて宰相閣下に叱られるくらいだった。
そんな人が亡くなったのだ。悲しみが癒えないのは当然だ。
「ふん。そりゃ、兄さんは神子の騎士だったもんね? でもさ、あれからもう二年だよ。陛下もさ、新しい愛人を作ればいいのに」
「なら、僕、立候補しようかな?」
レナが楽しそうにニコルの話に乗っかるのを見て、俺は二人を殺したくなった。
(こういう糞な考えだから、外見が良くても貰い手がないんだよ、こいつらは!)
「てめぇら……!」
「ニコル、レナ、いい加減にしなさい」
今にも掴みかかりそうだった俺を制したのは父親だった。
「今の言葉を陛下が聞いていたらおまえたちの首はない。そればかりか私たち一族が取り潰しになる可能性とてあるのだ」
双子に甘い父親だったが、商会を大きくした功労者でもある。最低限の礼儀や常識は、持っていて当然だ。
ふくれっ面で双子が互いの顔を見わせる様子を、俺は苦々しい思いで見ていた。
4
玉座の間。
王が座るべきその場所には、本来の持ち主である男は居なかった。代わりに座っているのは、陛下の第二王子である、ドラゴネット様だ。御年十六歳ながら、俺とさほど変わらない長身の、現国王陛下に似た美少年である。美少年と言っても、儚さとは無縁の威圧感の持ち主だし、何よりこの年で既に愛人が一〇〇人以上いるとんでもない人物だ。
性に奔放すぎるのが問題視されてはいるが、政治能力を始め、剣も魔法も得意な有能な方であり、第一王子であるテナルディエ様よりも王太子にふさわしいとさえ言われている。
実質、重要な案件はすべてドラゴネット様が決定権を持っているし、現在表に出てこない現国王陛下に代わって、城での謁見や外交はドラゴネット様が取り切っている。
「御身の前に」
膝をつき頭を垂れた俺たちを見下ろしながら、億劫そうにドラゴネット殿下が口を開いた。
「頭をあげよ。急な呼び出しで悪かったな」
「とんでもございません」
「殿下お久しぶりです」
俺がにっこりと笑うと、殿下がにいっと、野性的に笑う。
「アレク。おまえがオメガになったと聞いて俺は驚いたぞ。見たところ変わらぬな。平凡な容姿よ」
「私とて驚いています。よもやもうじき三十になる目前でなるとは思いませんでした。おかげで貰い手がいません」
肩をすくめておどけて見せると、ドラゴネット殿下がくつくつと、声を殺して笑いだした。
(殿下、それはさすがに酷い!)
俺は内心でぶーたれる。でかい男が頬を膨らませるなんて視界の暴力なので絶対にしないがな。
しばらく笑い声をかみ殺していたドラゴネット殿下だったが、笑い尽くして満足したのか、俺の父親の名前を呼んだ。
「アレクには話が全く伝わっていなかったのだな。ああ、そちらの双子にも伝えてはいないのか。まぁ、既に逃げ道は絶たれているから、無駄な抵抗でしかないが」
ドラゴネット殿下の言葉に、俺たち息子三人は戸惑いながら、父親を見つめた。
父の眉間には深い皺が寄っている。
「父上?」
俺の言葉に父親が肩を落とした。その眼は諦めているかのように、揺らいでいる。
「おまえが言いにくいなら俺が言ってやろう。おまえたち三人は、これからあるところに嫁ぐことになった」
その言葉に、俺はぽかんと口を開けた。
「嫁ぐ? 今、嫁ぐって言いました?」
「ああ」
耳が遠くなったのか、とドラゴネット殿下が嫌味を言うが、そりゃ聞き返したくもなる話だ。
「四カ国の友好国同士の話し合いの結果、互いの国の者同士を婚姻させることに決まってな。おまえたちに白羽の矢が立った、と言うわけだ」
ありていに言えば、それはすなわち人質のようなものだ。万が一友好が破棄されれば、どんな目に遭うかは分からない。
現在、この世界は魔人と呼ばれる異形の存在によって脅威にさらされている。神子の最後の力によって奴らの力は弱まってはいるものの、おそらくながら、一五年以内には、その加護も消えるだろう、と言われている。
それもあって、一応今は、国同士の争いはほとんどないが、皆無ではない。
双子が隣で息をのんだ。
俺は騎士だったので、争いごとや命の奪い合いなどには慣れている。実際、騎士だった頃は国同士のいざこざで、命を失いかけた事が少なからずある。拷問を受けた事もあるし、命を軽んじるわけではないが、国のために死ぬことは決して恐れてはいない。
アルファではなくなった今でもそれは変わらない。
おどおどと、レナが父親の袖を引っ張った。
ニコルの顔色も悪い。
双子は戦いとは無縁だ。武器なんて一切扱えないし、魔法もほとんど使えない。甘やかされた双子には、命の危機なんて感じる機会はなかっただろう。
動揺する双子を、ドラゴネット殿下が冷たい視線で射貫くように見ている。
「おまえたちは三国に嫁ぐ。それは既に決まっていることだし、変えられぬ。変える気もない。何、安心しろ。あちらからおまえたちを指名したのだ。悪い様にはしないだろう。まぁ、約一名ある意味では過酷だろうが、な」
最後に俺をちらりと見たドラゴネット殿下は 、なぜかいやらしそうに笑う。
父親は、大きくため息を吐きながらも、深く頭を垂れる。
「御意」
現在の指揮権を持つドラゴネット 殿下の決定した事に、反論などできるはずはなかった。
そんなやり取りがあって十日後、俺たち三兄弟はそれぞれの国へと旅立った。弟たちは喚きたてたり、物を壊したりなど抵抗していた。俺も実はそれなりに抵抗したんだが、無駄なあがきだった。
抵抗した理由は三者三様だった。
あの後、どの国の誰に嫁がされるのかを知った俺たちは、そりゃ落ち込んだ。アルファとベータの王族は、三カ国で合わせて十六人いるのだが、今回嫁がされる相手が、ピンポイントで俺たち三人にとって非常にキツイものだった。
ニコルの嫁ぎ先の王族であるハイデル王弟殿下は、顔立ちはまぁまぁ整った男ではあるのだが、特殊な性癖があるらしく、正室の事は大切にするものの、側室に対してはほとんど奴隷のように扱うといううわさだった。自分を一番にしてほしいニコルにとってはそりゃ嫌だろう。しかも、第二十六夫人らしい。王でもないのに、多すぎるだろ。
レナの嫁ぎ先であるユリウス皇子は、お世辞にも美男子とは言い難く、太った男だ。王族としての地位も低く、頼りない印象がするが、音楽に精通していて、意外と博識らしい。人格的には問題はさほどなさそうだが、美形じゃないのが許せないらしい。
そして俺に至っては、見知った名前であるセオドリック王の名前を書面で見て、悲鳴を上げた。俺の相手を見て、ニコルとレナは代われ! と俺を責めたが、代われるものなら変わってやりたい。いや、ハイデル王弟殿下は嫌だから、ユリウス皇子と変わりたい。
しかしながら、速攻で却下された。指名されているから、と。引きつった顔をした父親と、なぜか悟りきったような顔をしている兄夫婦が、諦めろと俺に諭すので、俺は仕方なく諦めた。弟、特にレナは俺を仇でも見るような目で見ていた。
何しろセオドリック王は、外見だけなら正直お目にかかれないくらいの美形である。誰彼構わず手を出すという点から、全然一途さはないのだが、三十四歳になっても正室はおろか側室も持っていないちょっと不思議な所があった。うわさでは、セオドリック王には誰か愛する人がいて、その人のためにたった一つの后の座を空けていると言われている。それに合わせて、相手とは結ばれる事が難しい、ともうわさされていた。
気は多いのに、純愛みたいな話に、俺はなんだかなぁ、と思うのだが……。
「はぁ、なんでよりによってセオドリック様が相手なんだよ。せめて、ほかの奴でも良くない? いや、まぁ俺みたいなでかいの貰ってくれるのは居ないか。でも、形だけでいいから、側室貰えって押し切られたのか? あの人が?」
道中の馬車の中でぶつぶつ呟いた俺を、国から付いてきたくれた使用人のマリーが苦笑いで見つめていた。セオドリック様が寄こしてくれた馬車は、最新型の魔術馬車で、非常に快適だった。精悍な騎士たちがずらりと並ぶ様は圧巻だったし、専用のシェフまでつけてくれる程に至れりつくせりだった。
美味しい苺のケーキを頬張っていると、シェフが嬉しそうに笑った。
ミアラルドからのお迎えの一行は、俺にげろ甘な態度を取る。途中の宿に寄るため馬車を降りる時も、俺はお姫様か、と言わんばかりにエスコートされた。戸惑っていると、何を勘違いしたのか、騎士たちに「我々は皆、番持ちのアルファですから、ご安心ください」とにっこりと笑いかけられる。そんな彼らに、俺は引きつった笑みを浮かべるだけだ。
(いや、そんな心配してないです!)
大切に扱ってくれるのは決して嫌ではないのだが、俺だぞ、身長百八十越えの男だぞ?
けれど、どんなに否定しても、彼らの対応はお姫様対応のままだった。結局、王城の自分に宛がわれた部屋に入るまで、俺は心が休まらなかった。
用意された部屋はとても立派だった。
内装は俺好みのシックな感じ だし、日当たりが良くてとても明るくて素敵だった。
「こんな良い部屋、いいのかな」
「素敵なお部屋ですわ。アレク様のお好みの内装ですわね。置いてある家具もフィオーレの一級品ばかり。さすがはセオドリック様です」
「お気遣いには本当に感謝、と言いたいけれど、セオドリック様が、と思うと俺は複雑なんだけど。いくら俺を側室にするからってさ、今まで俺にあんな意地悪だったのに」
セオドリック様の俺への対応は、基本的に意地悪だった。初めて会った時からなぜか突っかかられたし、そこから十年ほど終始その調子だったのだから、側室に指名されたのは驚愕に値するくらいだ。
「ですが、険悪よりは仲良しが良いでしょう? 以前はともかく今後は互いに支え合いませんと」
「分かってるよ。まぁ、俺じゃセオドリック様の床の相手なんてできるわけないし、悪友みたいな感じに支えていくつもり」
多少意地悪ではあるが、悪い奴ではない、と俺は思っている。何しろ、俺は今までの戦闘でセオドリック様にかなりお世話になっているからだ。
セオドリック様は、俺が仕えていた神子を気に入っていた。神子はオメガだったが、彼の元々の世界ではバース性が存在しなかったらしく、この世界にやってきてからオメガに変容したらしい。
男が受け入れる側になるという概念にも、最初は混乱していたのを思い出す。
そんな警戒心の薄いオメガは、案の定と言うか、結構な確率で襲われていた。容姿は正直美形ではない。体躯も、中肉中背のどちらかと言えば細身な事以外、特に目立つ特徴もない神子だった。だが、フェロモンの濃度はとてつもなく濃かった。かくいう俺も発情期に遭遇した結果、神子を犯しそうになった。理性なんて吹き飛んでしまうのが、オメガの発情期だ。
セオドリック様はそんな俺の失態の場に現れ、神子に抑制剤を与えた上、俺を引き離してくれたのだ。
どんな理性的な人物も発情には勝てないと言われているのに、セオドリック様は涼しい顔をしていた。
セオドリック様は、介抱しながらも、神子に切々とオメガの説明をし、そこで初めて神子は危険性を理解してくれた。
俺が落ち着くまで、がっしりと厚い胸板に抱えられていたのを思い出して少し顔を赤らめた。
(あんなにそこかしこに手を出してたのに、神子には手を出さなかったんだよな)
最初は、セオドリック様の本命がゆえに手を出されないのか、と思って、二人が同席する際に聞いてみたのだが、神子は苦笑いを浮かべ、セオドリック様からは怒りで燃える視線を向けられた。
「セオドリックには本命が別にいるんだよ」
そう、後で神子から教えてもらったので嘘ではないらしい。
二人は友人だった。いや、恋人であった王を除いて、俺を入れて三人で、そこそこ親しくやっていたと思う。
(あの頃、俺の言葉にセオドリック様、すぐに怒ってたよなぁ。神子が居たからうまくやってたんだろうし、俺、大丈夫か?)
少し心配にはなるが、セオドリック様が俺に酷い事をするのは考えにくい。どんなに言い争いになっても、歩み寄ってくれるのはいつもセオドリック様だったからだ。
(そういえば、いろいろとくれたよな。お菓子とか花とか)
「うん、俺はセオドリック様を支えるんだ。もし、お后が妊娠して子供が生まれたら、俺、自分の持てるすべてを教えるよ」
そう言うと、マリーが力強く頷く。
うだうだと考えて、後ろ向きな事ばかり思っていたが、嫌な事ばかりではない。セオドリック様の側室と言うのは複雑ではあるが、両国にとっても、俺の家にとっても良い事はある。ミアラルド側としても、ひとまずは側室を置くことによって、いろいろと利はあるはずだ。
だから、俺は全くもって重くなんて考えていなかった。
それはマリーも同じだった。
知人である俺相手であれば、セオドリック様も気が抜けるだろう、と。
俺もマリーも、思い違いをしていることに、その時はまだ気づいていなかった。
俺たちの勘違いは、その日の夜に判明した。
5
俺は、今の状況を受け入れられず、硬直していた。
政務が忙しかったセオドリック様とお会いできたのは夕食の時だった。広い部屋で二人きりで食事をする。王族や貴族などの食事は、互いの距離が普通は離れているのが常なのだが、セオドリック様はなぜか俺の隣にぴったりと座っていた。
開口一番、満面の笑みだったセオドリック様に力強く抱きしめられ、抱えられて、席につかされたことを思い出して顔を引きつらせる。
(いや、だってあれはお姫様だっこだったよな)
「アレク、美味しいか?」
甘い、とろけるような笑みで、俺の口元にスープを運ぶ様子は、何があったの? と思わず激しく突っ込みたくなるような事態だった。
「おい、しいです」
戸惑いながらも下手な事は言えないので、小さな声でそう呟いた。実際料理は美味しいのだ。
「そうか。おまえの好みに合わせて作らせたのだが、俺の国ではあまり一般的な味付けではないのだ。だが、喜んでもらえてうれしい」
するり、と頬を指先でなぞられて、俺の身体は反射的に震えた。
セオドリック様は、終始食事を俺の口へと運びながら、上機嫌で話を続ける。世間話から始まり、最近の俺の話、俺がどれだけかわいいか、と何やらとんでもない方向に話は進み、食べ終わった俺の唇に触れるように口づけされて、俺はさすがに何かおかしいと気づきはじめていた。
「今夜行くから待っていろ」
熱っぽい視線で俺を抱きしめたセオドリック様が、耳元でささやいた後、耳たぶを甘噛みされた。瞬間、俺はこれから始まる結婚生活の中に、セオドリック様の伽が含まれるのだ、と嫌でも理解した。
后である以上は、そういう行為も含まれているのは当然であり、求められたら応じるしかない。
マリーに慌てて助けを求めたが、一使用人の彼女に何かできるわけもなく、俺は一人自室に残される事になった。
そして、夕食が終わった後、宣言通りにセオドリック様が部屋に訪ねてきた。
「ん……っ、ふ」
扉が閉まった瞬間の性急な口づけに、俺はセオドリック様の厚い胸板を押すが、びくともしない。腰に回された腕で逆に抱き寄せられて、口づけはどんどん深くなっていく。唇をこじ開けるように舌が入ってきて、俺の舌はすぐに絡めとられてしまう。
さすがに歴戦の勇者だけの事はあり、セオドリック様は巧みだった。
「アレクっ」
名前を呼ばれた時に、身体に甘い痺れが走ったのは気の迷いだと思いたかったが、裸に剥かれてベッドに押し倒される頃には、俺の理性は消し飛んでいた。
セオドリック様が、最後まではしないから、と俺を優しく抱きしめていたのだが、もうそれは不可能だろうな、と混濁する意識の中で思った。
何が引き金になったのかは分からないが、俺はものの見事に発情期を迎えてしまったのだ。これは俺の失態だった。実はまだ一度も発情期を迎えたことがなく、今回が初めてだった。抑制剤は所持していたが、いつになっても兆候がなかったため、飲むのをサボっていた。
俺に誘発されたセオドリック様の理性も同時に消え去り、そこから先はもう激しい動きに俺はただ翻弄され、喘いでいた。俺が言うはずもないような言葉が口から勝手に漏れる。
正常位で初めは抱かれ、その後、後ろから責められたあげく、最終的には騎乗位でセオドリック様の上で腰を振っていたのを思い出しながら、俺は痛む腰を抑えてベッドで悶えていた。
「あ、ありえない、いや、なんであのタイミングで来たんだ! っていうか、こんなの性急すぎるだろ!」
「夫婦なのだから問題はあるまい? 何をそんなに焦っている。昨夜は愛らしかったぞ」
隣に寝ていたセオドリック様が、おかしそうに笑いながら、汗に濡れた俺の髪をかきあげた。
至近距離の美貌に圧倒され、少し距離を置こうとするが、セオドリック様は力業で俺を抱き寄せ逃げられないようにした挙句、満足そうにすりすりと顔をこすりつけてくる。
「いや、まだ婚姻の儀式あげていないですし! そ、それよりも俺、妊娠していないですよね? お、俺みたいな側室が最初に孕むなんて申し訳がなさすぎてっ」
第一子出産の祝い事が俺だなんて未来の后に申し訳がたたないし、何よりそれが理由で虐げられたらと思うと、ぞっとした。
だが、セオドリック様は俺の言葉を聞いて、きょとんとした表情で俺を見つめていた。その後、眉間に皺を寄せたセオドリック様に頭をこつんと小突かれる。
「何を言っているのだ、おまえは。俺はおまえを正妃に迎えたのだ。初夜前に関係を持ってしまったのはまぁ好ましくはないが、すぐに婚姻するのだから問題はあるまい」
「へ?」
セオドリック様の言葉に、俺は間の抜けた声をあげていた。
「え、いや、あの。俺ってお飾りなんじゃ?」
俺に手を出したのは気の迷いであり、たまには珍味が食べたくて、とりあえず手を出したのだろう、と俺は思っていた。
食事の最中にかわいいとかは言われていたが、からかわれているのだと。
だが、セオドリック様は大きくため息をつくと、俺の知らない事を切々と説明し始めた。
俺がオメガだと判明した段階で、俺を后に貰うつもりだった、と。そして、どれくらい俺が好きかというのを、熱く真剣な目で語る。
そもそも出会った十六歳の段階で、本当は俺に手を出したかったらしい。ただ、俺がアルファだと知って踏みとどまったのだ、と。
驚きすぎて俺は少し固まっていた。
「おまえがせめてベータならば、と思った。後ろ盾のないベータなら、アルファの誘いに乗ってくれる事もあるからな。だが、おまえはアルファだった。だから、俺は今まで手を出さなかったのだ。おまえは選ぶ側で、女もオメガも望めば手に入れらたのだからな。愛する相手の幸せを、尊厳を奪う事は俺にもできなかったらしい」
苦笑するセオドリック様に、俺は視線をそらしながら、顔を赤くした。
「そ、れでは、まるで告白です」
「まるでではなく、告白だ。俺はおまえを正妃にする。いいか、正妃だ。言っておくが気の迷いでもないし、あいにくと側室を迎える気もない。これから抱くのはおまえだけだし、当然おまえも俺以外とはこれ以降、一切の性的接触は許さないぞ?」
「なんで、そんな。あなたなら、ほかにも優秀な女性やオメガがいたでしょう? あんなにもてていたではありませんか?」
人を傷つける嘘は言わないセオドリック様が、こんな悪趣味な冗談を俺に言うのは考えにくいので、俺の事を気にかけていたのは事実だと思う。けれど、セオドリック様の付き合ったオメガは優秀な方が多かった。まぁ、中にはなんで手を出したのか不思議なのもいたけれど、まぁ、きっと容姿が好みだったのだろうと今まで思っていた。
俺みたいな素朴な奴を好きだなんて、信じられないのもある。
「性欲は溜まるからな。吐き出す先が今までは必要だっただけだ。他意はない」
「いえ、最低です、それ。……でも、すごい美人ばかりでしたし、好みのタイプではあったんでしょう? 俺はあなたの好みではない筈ですよね?」
「寄ってくるタイプが似ていただけだろうな。それに俺は相手の顔は覚えていないし、覚える気は皆無だった。ああ、でも、容姿が整った奴はもてるし捨てても次があるだろうから、俺が手を出してもいいかと思った事はあるかもな」
フォローできないくらいの最低っぷりに、俺は少しだけ引いた。そういえば、誰かが言っていた。セオドリック様は一度関係を持ったらもう次はない、と。そういえば、行為が非常に事務的だと聞いた事もある。
(いや、でも、セオドリック様、昨夜は結構甘かった、よな?)
理性が飛んでいたセオドリック様だったが、俺の求める声に応えてくれていたのだから。
「俺の愛はおまえ限定だ。永遠にな。すぐに受け入れてくれとは言わん。ただ、悪いがオメガになったおまえを手放すことはない。俺が手放した先で、他のアルファに奪われるなんて耐えられん。特に男なんかに奪われた日には戦争を起こすぞ? たとえおまえの国相手でもな。いいか、俺が何年耐えたと思っている」
目を見れば本気であることが良く分かる。
けれど、発情が終わった後の俺にとって、セオドリック様との性行為は難易度が高すぎて、気軽に分かりました、とは言えないのだ。断れる身分ではない事は分かっているのだが、セオドリック様としては、そういう事務的なものではなく、俺からも愛情を抱き返してほしい、という事だろうから。
「お、れは、オメガとしてはほとんど生きていません。昨夜は発情していたからできたけれど、平常時で受け入れるのは、正直厳しいです」
「今はそれでいい。おまえに無理に挿入したいわけではないんだ。時間がかかってもいい。いつまでも俺は待つ。既にもうずいぶん待っているからな、あと十年、二十年でも俺は耐える。勿論、俺はその間禁欲だ。この俺に自慰行為で我慢させるなんて、おまえだけだぞ」
「いや、それでは御子が……っ」
種側であるアルファは、比較的高齢になっても問題はないだろうが、王族、と言うか王なのに、六十歳間近で子供が一人もいないなんてありえない話だ。
「おまえの子以外はいらぬ。そもそも俺は子供は好かん。おまえの子ならばほしいと思うし、かわいがりたいと思うのだ。いいか、おまえの血が重要だ。俺の血が入っているだけなどかわいくもなんともない。万が一、今まで遊んでいたツケで子供が外でできていても、俺は絶対に認知しない。まぁ、絶対にありえないが」
「セオドリック様……っ、その発言は」
俺は批難の声を上げる。
「ふ。失言だったな。だが、良いか、俺は一目でおまえを好きになった。おまえは自分を好みではないだろう? と言ったが、俺の好みはおまえだ。諦めろ」
強い口調で言うが、セオドリック様の表情は柔らかい。
そっと頬を撫でられると、自身の頬が赤くなるのが分かる。
「これからゆっくりと俺を知ってくれ」
こつんと額にセオドリック様の額がくっつく。
「……かしこまりました」
小さな声でそう答えると、セオドリック様が優しく微笑んだ。
6
その日から式までの数日間、セオドリック様は毎日、俺 の所にやってきた。執務の間をぬって、できる限り俺と同じ時間を過ごそうとしてくれているのだ。
セオドリック様はとても真摯だった。いや、別に以前が不誠実だった訳ではない。今まで、伽の相手 に関しては、不誠実だったかもしれないが、友人たちに対しての態度は、決して悪くはなかったし、俺に対しては意地悪を言った事は多々あったが、俺が本当に困ったり怒ったりすると、慌てて機嫌を取ってきた事をふと思い出した。
マリーに、自身が正室らしい事、セオドリック様が俺を好きな事を言ったところ、とても喜んでくれた。ただ、マリーも気づいていなかったらしい。
「マリーは昔からおまえ以上に鈍感だからな。気づいていなくてもおかしくないな」
セオドリック様には、そう言われた。なお、セオドリック様が俺を好きな事は、今は国中の民が知っているらしい。
セオドリック様のスキンシップは激しかった。結婚前に初体験を済ましてしまったため、性的な触れ合いに躊躇いが全くないのだ。
風呂には一緒に入らされて、風呂の中で手や口でイカされ、ベッドの上では裸のまま抱き合う。当然普通に寝るだけでは済まない。当初こそセオドリック様からの一方的な奉仕だったが、王であるセオドリック様に奉仕されて、俺が何も返さないのは好ましくないし、俺の良心が痛んだ。三日目くらいからは、セオドリック様のを口で俺も奉仕している。
抵抗は少しだけあったが、未経験ではないため、翌日には慣れた。褒められて頭を撫でられると、悪い気はしないし、たぶん俺は結構頑張った。
最後まで抱きたい、と再び言われたが、結果はうまくいかなかった。原因は俺だ。俺がまだセオドリック様をそこまで受け入れられなかった。
セオドリック様は笑って、待つ、と言ってくれた。本当はこういうのも止めなければいけないのだがな、と俺のモノを触りながらだったが。
そして、結婚の儀式はやってきて、式はつつがなく終了したのだ。
互いに口でしあった行為が終わり、俺はセオドリック様と一緒に風呂へと入っていた。
「疲れただろう」
「……そうですね。式が、ではないですけれど」
緊張はしたが、体力が削られたのは間違いなく先ほどまでの行為が原因なのは明白である。俺が、不機嫌そうに軽くすねると、セオドリック様は俺を抱き寄せて、顔中に口づけてきた。
(セオドリック様、好きだな、これ)
セオドリック様は、俺に口づけるのがかなり好きらしく、結構どこでもしてくるのが照れ臭い。ただ、それが嫌ではないのが、俺も恥ずかしかった。
「陛下はアレク様の事が本当に大切なのでしょう。我慢がきかないのですよ」
執事長を務める壮年の男性、ヨハンさんが俺の元を訪れ、優しく笑った。
ヨハンさんは、とても話の分かる男で、俺はとても彼を慕っていた。城の人間は、基本的にセオドリック様側に立って物事を考える。別に俺に対してつらく当たるとかではないんだけど。
大臣クラスの上層部になると、正直好ましくない視線もあるにはあったが、セオドリック様が俺側で防波堤になってくれているのもあり、おおむねは好意的だ。
ただ、協力的ではない、と断言できる。彼らからすれば、俺がすんなりと受け入れてしまえばいいのだと、そう思っているのだろう。事実、この結婚によって俺の地位は上がるのだから。何よりセオドリック様が献身的なため、そんな風に思われて幸せ者、くらいは思っていてもおかしくはない。
(けど、俺は複雑なんだ。いきなり性が変わって、そこから何もかもが変わったんだから)
ヨハンさんは他の人とは違って、俺側に立ってくれる稀有な人だった。
セオドリック様があまりに暴走して俺をカラカラにしそうになった時も、しっかりと釘をさしてくれるし、俺の戸惑いを感じれば、話を聞いてくれる。最初はマリーが居るので、相談はマリーに、と思っていたのだが、女性に対して伽の話をする勇気はなく、現在ではすべてヨハンさんに愚痴っていた。
「我慢させてる、とは思うんだ。でも……な」
「アレク様、急がなくてもいいのですよ。それに、まだこの国に来てから一カ月も経っていないのですから、ゆっくりとお二人で話し合いをすれば良いのです」
ヨハンさんが居る事で、俺はいろいろと救われている。
年齢こそ親子くらい俺たちは離れているが、ヨハンさんは兄の様だった。セオドリック様もヨハンさんの話はしっかりと聞いているらしく、苦言を呈された日は、俺への接触も心持ち抑えてくれる。
そうやって、日々を過ごしていれば、この国の話も見えてくる。セオドリック様には御子がいないのは周知だったが、何百人と行為をしていて、一人もできなかったのは、セオドリック様が徹底していたからだというのが分かった。
セオドリック様の性行為の相手は、基本が男性のベータなのだ。若い頃は男性オメガとも行為に及んでいたらしいが、ここ最近はベータのみだったらしい。
セオドリック様は、子を作る気が本当になかったのだ。
だから、結婚もしなければ子供も作る行為もしないセオドリック様に、城の上層部は頭を痛めていたらしい。
そこに来て、俺が后となったため、終にその気になったと彼らはとても喜んだ。俺が既にセオドリック様にお手付きになったのはばれているからだ。
しかし、そうなってくると上層部と言うのは、非常に空気が読めない存在である。
騎士とか使用人は、セオドリック様が后とするのは俺だけなのだろう、と思っている。俺に対する距離が近い彼らは、俺たちの普段の様子を知っているからだ。
だが、大臣たちは違うのだ。俺がお手付きになったという事は、他のオメガとも性行為をする気になったのだ、とそう解釈したらしい。
俺の容姿が素朴なのも、その考えに至った理由なのだろう、と推測する。巷では、セオドリック様の思い人は、オメガの凄い美人である、と言ううわさだった。
だが、やってきたのは俺である。不器量ではないが、華やかな美貌は持っていない。
大臣たちからすれば、珍しいものを食べたくなった、と言う認識なのだろう。
婚姻後、謁見などの場合、玉座の間の王妃の席に座って執務を行う俺だったが、その日の俺は半ば顔を引きつらせて、来客者たちを見ていた。
やたら綺麗に着飾った男のオメガが五人、頬を赤らめてセオドリック様に熱い視線を送っていた。外見はさすがオメガと言うほど美しい者たちだった。
同席していた大臣たちが、オメガたちの紹介を始めると、彼らの狙いは明確に分かった。
彼らはセオドリック様の側室候補として連れてこられたのである。いや、候補と言うよりは、もう側室であるくらいの強気な話だった。オメガたちは己に自信があるのだろう、俺に対して視線を送った後、すました顔をしていた。
(ああ、俺みたいなの、ただの飾りだっていうそういう表情だな)
「陛下、城に招待したオメガの青年たちです。皆様家柄も貴族ですし、容姿も美しいでしょう? お気に召して頂けたことと思います。早速、城の中に部屋を作らせました。本日からでも閨にお呼びくださいませ 」
大臣の言葉に俺はさすがに顔を顰めた。むしろ、ちょっと怒っていると言ってもいい。大臣たちは、まるでセオドリック様が望んだため、彼らを呼んだみたいな話ぶりだが、隣に座っているセオドリック様のオーラが、激しく違うと言っている。
だが、今この場には他の貴族たちも居る。このために、たいして用事もないのに、彼らを同席させたのは明白である。セオドリック様がこの場で彼らを激しく拒絶できないように、だ。
事実、セオドリック様は怒り心頭でも、口には出さない。短く検討しよう、とだけ答えるのを横目で捉え、俺は苦い気持ちになった。
自室に下がった俺の機嫌は最悪だった。
珍しく物に当った俺に、マリーもヨハンさんも戸惑いの視線を送ってきた。けれど、俺がさらりと 先ほどの説明をすると、二人とも眦を釣り上げて怒った。
そのすぐ後にセオドリック様がやってきたのだが、セオドリック様に向ける冷たい目に、俺は内心慌てた。
後で聞いたが、マリーたちの言い分では、もっと大臣たちに周知させるべきだった、という事で、その対応を怠ったセオドリック様に怒っていたらしい。
「大臣たちが、あそこまで頭がおかしいと俺は思っていなかった。あれだけ国中で俺の純愛だとうわさされているのに、理解に苦しむわ!」
普段よりも感情的に、セオドリック様が吐き捨てた。
(俺じゃ、釣り合わないってこと、だ)
その言葉を口には出せなかったが、同時に俺の胸は苦しく軋んだ。俺は自身の容姿を客観的に見れていると思う。家柄も、いくら裕福であっても平民だから、きっと大臣たちも内心では不満だったのだろう。
「あのオメガたちには数日以内に王宮から退去してもらう。おまえは気にしなくていい」
そう言うセオドリック様は、その日いつも以上に優しく俺に触れた。
快感の中で 、俺は脳裏から嫌な考えを振り払いながら、目を閉じる。
セオドリック様はああ言ったが、それから十日経過しても、彼らは城の中に居た。
城へと入ったオメガたちは、強かだった。相当遊んでいるのか、冷たい態度のセオドリック様に怯まず、執拗に絡みつく。性だけでなく、貴族としての部分も強かだ。王とはいえ、有力貴族の子息である彼らを、セオドリック様が本当の意味で力業で跳ねつけることは難しいのを理解していた。
「うわさですけど、最初のお手付き以降、手がついていないのでしょう? 年齢も年齢ですし、いろいろと難しいと思います。側室は必要ですよ」
「本当、貴方、地味ですよね。陛下もどこが良いのやら」
「珍しいだけでしょ?」
「せっかく媚びて正妃になっても、どうせ飽きられて、およびなんてかからなくなるんだから、今のうちにご実家に帰られたらどうです?」
四人には、セオドリック様が居ない場所で、いろいろと言われた。瞳には侮蔑の色がはっきりと浮かんでいるし、唾でも吐き捨てられかねない温度感に、俺の神経は削られた。
アルファだった頃は、セオドリック様の近くに居ても、こんな風な眼差しは受けたことがない。ベータっぽい俺がセオドリック様と親しげに話していると、不思議そうに首をかしげられた事はあったが、俺が神子の騎士でありアルファだと知ると、なるほど、と言った様子で俺への視線は優しくなるのが通常だったからだ。
「オメガ同士の戦いって怖いな」
「オメガは、性質上、中身は女性に近いですからね。例外もいますが、嫉妬深い方が多いかと」
自室で苦く笑う俺に、マリーが頷き言った言葉に、俺は内心でなるほどな、と思った。
けれど、その四人の言葉は、それほど俺は気にしていなかった。だって、彼らはそう言うが、セオドリック様が毎日俺に対して囁く言葉や行為から、俺の事を愛してくれていると分かるからだ。容姿に自信はないし、若くもないのは重々分かっているが、外見だけで選ぶ王ではないのだから。
(それに、セオドリック様は俺をかわいいと言ってくれるし)
寝室でも、どこでもセオドリック様は愛情を惜しみなく与えてくれる。さすがにオメガたちの執拗な言葉には俺も少し落ち込んだが、それを察したセオドリック様の言葉が俺の心を癒やしてくれるのだ。
そうやって、オメガたちの前でも、俺に対する甘い態度は終始続き、反面どんなに彼らが甘えようとしても、つれなく避けるセオドリック様に、さすがにオメガたちも諦めたらしく、一人ずつオメガたちは自治領へと帰っていった。
ただ、一人だけを除いて。
残った一人の名前はミハエル・カーミング。侯爵家の三男だ。年齢は二十七歳。金色の髪が美しい中性的なオメガだ。
他の四人も美形であり、容姿の美しさについては左程大きな差異はないが、性格については一人だけ違った。
他の四人も性格は良いとは言い難いが、なんというか育ちの良さもあってか、詰めが甘いし、諦めも早い。何よりセオドリック様への態度も、セオドリック様が恋しいとかではなく、玉の輿(こし)を狙っているんだろうな、とか権力に対する憧れが大きかった。それに俺へ国へ帰れとは言っていたが、地位などを約束されれば自分に対してのみの愛情は求めないような冷めたところがあった。
だが、ミハエルは違う。
セオドリック様への視線は明らかに恋する男の眼だった。俺へと向けられる目は侮蔑とかではなく、怒りと嫉妬であり、その眼には明確な憎悪があった。他の四人は、俺に敵意は抱いていたが、憎しみの感情は抱いていなかった。俺が取るに足らない存在だと思っていたから、憎悪されなかったのだ。
ミハエルは性格も狡猾だ。俺に対する態度もセオドリック様に対する態度も同じであり、一見すると俺を尊重しているように見える。言動も柔らかい。
だから、セオドリック様もミハエルに対してはやや態度は軟化している。
けれど、優し気なその言葉の中には、俺を痛めつけるような言葉が散りばめられている事を俺は知っていた。
「僕、昔あの方の恋人だったんです。とはいえ、あの方は他にもたくさんいらっしゃいましたけれど。でも、とても良くしていただきました。だから、その時のお気持ちを返すためにも、僕もセオドリック様を支えてあげたい、と思っています。僕は貴族として学んだことも多いし、あの方の役に立てますからお買い得だと思いますよ。それにあの方、とても絶倫でしょう? お身体がつらいのではありませんか? ああ、すみません。そういえば、まだ一度しかされていないのでしたっけ? であれば、なおさらあの方を満足させる存在が必要でしょう」
庭園内のお茶の席で、ミハエルから言われた言葉に、正直俺は落ち込んだ。何も言い返せないのは、ミハエルがセオドリック様の気持ちを表立って否定しないからだ。ミハエルの言葉の端々から、今は俺が寵愛を受けているが、今後は自分に愛情を移すようにさせる、と言う強い意志が感じられる。
だから、夜に訪ねてきたセオドリック様に、俺は感情のまま激高してしまったのだ。ただの八つ当たりだ。
「ミハエルの所に行けばいいじゃないですか!」
俺を抱きしめようとした腕を振り払い、口づけも拒む。地道にかけられたストレスが、俺を苦しめ壊していく。
セオドリック様は俺に必死に声をかけてくれたけれど、俺にはもう余裕がなかった。女々しいとは思う。セオドリック様に愛の言葉も返していないし、最後まで受け入れることもできていないのにだ。
長い間、そうやって攻防が続き、セオドリック様が肩を落として部屋を退室したのを、俺は飛び込んだベッドの布団の隙間から見送った。
7
事態が動いたのはその三日後だった。
ミハエルが城を出て自治領へ帰るのだという。
一方的に拒絶したあの日から、セオドリック様は俺の部屋に来なかった。さすがのセオドリック様も怒っていて、俺に愛想をつかしたのかと思ったのだが、使用人が真実を教えてくれた。
セオドリック様は、何とミハエルに対して、公衆の面前で興味がない事をはっきりと伝えたというのだ。何がどうなってそういう事に至ったのかは分からないが、ミハエルに対してセオドリック様は怒りの感情を剥き出しにしたらしい。見ていた者の証言によると、胸倉をつかみそうな勢いだったとのことだ。
表面上俺に対して優しげだったミハエルに対しては、比較的穏やかな感情で話しかけていたように見えたのだが、俺の知らない間に何かあったのだろう。
しかも詳しく話を聞くと、ミハエルは、自治領に戻った後は屋敷に軟禁され、今後は外出することはできなくなるらしい。
ただ、ミハエルをはっきりと追い払ってくれた事に、俺はその時は単純に喜んでいたが、冷静に考えれば軟禁状態になるなどあり得ない話だった。
セオドリック様とミハエルの間に起こった事件を、俺は知らなかったのだ。
「セオドリック様は、今日も来れないの?」
セオドリック様の姿を見かけなくなって、二日経った。俺の部屋に来ないだけなら分かるのだが、セオドリック様を城の中ですら見かけない事に、さすがに違和感があった。ヨハンさんに聞こうと思ったが、彼もここ数日間見かけないのだ。
そんな折、セオドリック様の専属警護の騎士を見つけて、俺は慌てて声をかけた。彼は、古株のアルファであり、セオドリック様の信頼の厚い優秀な騎士だ。
俺の言葉に、騎士は気まずそうに視線を逸らし、俺から逃げようとする。あからさまに怪しいその行動に、俺はセオドリック様に何かあったのだろう、と推測する。
嘘のつけない性格なのかあたふたする騎士に、執拗に言葉を重ねていると、その場所にたまたま、セオドリック様の弟君であるギース様が通りかかり、俺の行動を止めた。
俺は不敬にも、ギース様を睨んでしまう。
「あの騎士にはさすがに荷が重いというか、可哀そうだからね。私が話してあげよう」
ギース様はセオドリック様より、四つ下だ。彼はベータだったが、容姿は端正であり、正直元アルファの俺よりもアルファらしい人だった。嫌いではないが、飄々としたこの人は少し苦手ではある。
だが、立場上、騎士では言えない事も、王弟殿下であれば言えることもあるだろう、と俺はギース様に向き直った。
そして、始まったギース様の説明に、俺は頭が真っ白になった。それだけとんでもない話だったからだ。
気づけば俺は全速力で城を走り、セオドリック様の寝室へと向かっていた。 部屋の前の護衛の騎士が俺を止めようとしたところを、後ろから付いてきたギース様が通してやってくれ、と声を大きくした事で、俺はセオドリック様の寝室の扉を開けて中へと入る。
「セオドリック様」
どくどく、と鼓動が早くなっているが、今はそんな事はどうでも良かった。苦しんでいるであろう、セオドリック様を何とかしてあげたい、と言う気持ちが何よりも強かったのだ。
セオドリック様は、大きな身体でベッドに沈んでいた。
室内は明らかに暴れたであろう状態で、物は壊れているし、部屋が焦げている。
「ぐ……う」
セオドリック様が唸るような声を上げた。室内には強烈な甘い香りが立ち込めている。発情期にフェロモンを発するのはオメガだったが、アルファにもあるのだ。オメガのフェロモンに反応してしまったアルファが放つ香りが。
「セオドリック様」
名前を呼んで近づこうとする俺に、セオドリック様が声を張り上げた。
「来るな!」
明確な拒絶。いつも俺に甘いセオドリック様が、なりふり構っていられないと言う事に、俺は唇をかみしめた。
(ミハエルが……っ)
ギースによって説明された話は、俺にとって許せることではなかった。俺と喧嘩した翌日の早朝、セオドリック様はミハエルに対して俺の事を伝えたらしい。俺だけを愛していて、今後は俺だけを后にすることを。恋人や愛人、側室は作らないし、ミハエルに対して恋愛感情は今も昔もない事も、セオドリック様は伝えてくれた。
ミハエルは、最初は一言二言、セオドリック様に言っていったらしいが、最終的には納得し受け入れた。そう、表向きは。
退去するのに、一晩欲しい、と殊勝な態度のミハエルを、セオドリック様は受け入れ、翌日の午後に退去を命じたのだが、ミハエルは退去するつもりなかったのだ。あろうことか、その日の夜にセオドリック様の寝室に侵入し夜這いをかけたのである。
しかも、そんな誘いに、セオドリック様が乗るはずがない事をミハエルは十分理解しており、最低卑劣な手を使う事を選んだ。所持するには特殊な申請と許可証の居る、「強制的な発情を引き起こす薬」を自身で服用し、寝室に潜り込んだのだ。
オメガの発情期フェロモンに、フリーのアルファが耐えるのは難しい。密室で発情されてしまえば、わずかな理性はあっても、本能のままにオメガを犯そうと行動を起こす。多少の葛藤は起こるので、その間に第三者が入れば、もしかするかもれないが。
しかし、薬による強制発情は、もはやそういうレベルではない。薬で誘発されたフェロモンは、アルファを完全に狂わせると言う。葛藤なんて微塵もないのだ。目の前のオメガを襲い、孕ませる事しか考えられなくなる。
俺はベッドに乗り上げ、セオドリック様に手を伸ばした。
「だめ、だ」
つらそうなセオドリック様の声は、興奮状態で掠れていた。
「今、触られたらおまえを傷つけるっ」
「……良いんです」
無理矢理でも抱けばいいのに。こんなに苦しんでも、それでも俺の身体が大事だと言う。
本当にどこまでも、馬鹿な人だ。けれど、それがとても嬉しいのだ。
着ていたものをすべて脱いで、俺はセオドリック様を押し倒す。熱情で溶けそうな瞳が俺を射貫き、俺に噛みつくように口づけをしたセオドリック様が、自身の下ばきを慌ただしくくつろがせて、俺を貫いた。
がつがつと、腰を振られて奥まで突かれて、俺は唸り声をあげた。ろくにならされていないと、やはりきついらしい。
けれど、止めてとは俺は言わない。
だってこれはこの人が耐えた証だからだ。抵抗できない薬を使わてもなお、ミハエルを抱くことをしなかったこの人を拒もうだなんて思わない。
そう、セオドリック様はミハエルと性行為はしていない。乗り上げようとするミハエルを振り払い、音に気づき駆け付けた護衛騎士と、たまたま居合わせたギース様 たちによって身体を拘束されたのだから。
(拒みたくない)
何度も何度も奥に精子を注がれる。
痛みはやがて快楽に変わり、気づけば俺は前を触られる事なく、精を放っていた。
正気を取り戻したセオドリック様と、ベッドで共に横たわりながら、俺はセオドリック様の話を聞いていた。
「俺は、昔、オメガの発情期に巻き込まれてな。その時は、ミハエルみたいな卑劣なやり方ではなく、本当に事故だった。ただ、その相手はギースの、弟の恋人だった。かろうじて他のベータが間に入ってくれた事で、最後まではしていないが、万が一彼らがいなければ、犯した上におそらく番にしていただろう。互いに好きでもないのにだ。ギースに対しても顔向けなどできない事件に発展しかけた。それ以降、その時から俺はオメガへはもう手を出さない事に決めた。だが、気持ちでどんなに拒絶しても無意味な事を学んだからな。俺も薬を服用するようになった。オメガフェロモンを感じないように、身体を抑制する劇薬を、な」
話を聞き終えたあと、俺はくたくたの体に鞭を打って口を開ける。
「大丈夫、なのですか?」
「今はもう飲んでいない。長い間の服用で効果が切れるのに時間がかかったらしく、今回の件では良い方向に働いた。それが救いだな。……おまえを裏切っていたら俺はきっと、もう」
セオドリック様の言葉を口づけで止める。そこから先は言ってほしくない。たとえ、俺を思うが故であっても、死ぬなんて言わないでほしかった。
「寝ましょう」
明日からはまた二人だ。邪魔なミハエルは居ない。
傷ついたセオドリック様の心を、俺が癒やしてあげられたらいいのに、そう思いながらセオドリック様の頭を撫でると、やがて寝息が聞こえてくる。
セオドリック様の規則正しい寝息を聞きながら、俺も目を閉じた。
8
いつも通りの日常が戻ってきた日の事。
「ヨハンさんが辞めた?」
俺が呆然と呟くと、マリーが渋い顔で頷く。
「なんでだ! あの人は優秀な執事だろう。辞められたら困るはずだ」
ヨハンの能力は高く、実質この王宮の使用人たちを仕切っているのは彼である。慕われていたし、引退する年齢でもない。良い人が多い王宮内だが、それはあくまで使用人や騎士などの下級貴族の話であり、大臣などの上級貴族は癖のある人物が多い。伯爵家でありながら、執事の道を選んだヨハンさんは、そんな彼らに意見できる稀有な人物だった筈だ。だから、辞めさせるなんてありえないのだ。
俺だって辞めてほしくない。
廊下を全力で走り、俺はセオドリック様の執務室の扉を開けた。大きな音に中に居た面子がぎょっとした顔をするが、俺は気にせずセオドリック様に詰め寄った。
「お話は聞きました! セオドリック様、ヨハンさんを辞めさせるなんて正気ですかっ。あの方がいなければ、この城は正常を保つことなど不可能です。あの方がいるから、上級貴族も下級貴族も、平民もうまく回っているのですよ」
セオドリック様がその重要性を理解していない訳がないのだ。いかに少々、セオドリック様が覇王気質とはいえ、その治世は優れていた。優秀な家臣が居るとは言え、彼が付き従う能力があればこそである。
セオドリック様は、その言葉に深いため息をつきながら、部屋に居た臣下を下がらせる。深く頭を垂れて退室していく彼らを視界の端にとらえながら、俺はセオドリック様と向き合う。
「アレク。今回の件は、こうするしかなかったのだ」
「なぜですか? あの方に問題なんて……」
「ミハエルを俺の部屋に招き入れたのはヨハンだからだ」
その言葉に、俺は呆然とセオドリック様を見つめた。
ありえない、と思った。
ヨハンさんは、俺にとても優しかった。この城の人間は俺に対して好意的な人が多いけれど、それはセオドリック様の后であるから、と言う理由からであり、俺個人に対する評価ではない。けれど、ヨハンさんは違った。
俺個人の性格を好ましいと、俺を子供の様に思ってくれていると、そう信じていたのに。
そんな彼が、俺を后の座から引きずり降ろそうとするなんて、そんなことは思いたくなかった。
「ヨハンがおまえをかわいがっていた事は事実だ」
「だけどっ、ミハエルを中に入れたのも、あいつに薬を渡したのも、ヨハンさんって事だろ? 発情を起こしたオメガに、番になっていないアルファが逆らえるわけないってわかっていて!」
番のいないアルファにとって、オメガの出すフェロモンは強烈だ。あてられたアルファは、理性をかき消し、本能のまま相手を犯す。だから、普段は抑制剤を必ず飲み、そんな事件が起こらないようにする。
今回ミハエルが使った特殊薬は、発情期のフェロモンを強制的に出すというものだった。一般には出回っていない薬であり、不当な使用は禁止されている。唯一許されているのは公娼だけであるし、彼らも使用する際には、アルファに同意書を書いてもらう必要があるのだ。
「おそらく、ヨハンは薬の事は知らなかったのだろう。問い詰めた際に動揺していたからな。だが、王の寝室に勝手に引き入れるなど、異常行為なのは明白だ。それはあいつも分かっている。だから、潔く、奴はそれも自分が手配したと俺に言った。おまえを騙していた、と。奴は処刑を望んだが、利用されたヨハンには同情の余地があるして、国からの追放となった」
「そ、んな。なんで……?」
セオドリック様が席を立ち、俺の傍へと身を寄せる。そっと頬を撫でられ、すぐ様抱き寄せられる。
「ミハエルは、ヨハンの昔の恋人の子供なのだ」
優しく抱きしめられ、背中を撫でる手に身を任せながら、俺はセオドリック様の話を聞いていた。
「ヨハンは、若い頃にアルファの男と付き合っていた。だが、アルファの男にはオメガの男の番が居て、な」
「不倫していた、という事か?」
「結果的には」
「信じられない、です。ヨハンさんが」
短い付き合いだが、彼の気質は知っている。どんなに好きでも、夫婦の絆があるところに入って行こうとするなんて考えられない真面目な性格なのだ。だからこそ、騙されたと聞いて俺は先ほど動揺したのだから。
「ヨハンは知らなかったのだ。アルファに番が居ることをな。何せ、アルファはこのミアラルドに単身赴任中で、独身だと周囲には言っていた。アルファは番持ちかどうか見極めるのは困難だからな。気づけるのは、発情期のオメガが誘惑でもして、引っかからなかった時くらいだろう。ヨハンもアルファだからな、余計に気づけなかった」
「ヨハンさんはアルファだったのですか? 番はいませんよね? でも、俺の近くに居たけれど」
セオドリック様は、番の居ないアルファは俺に決して近づけない。ヨハンさんには恋人も奥さんもいないと聞いていたし、俺は正直ずっとベータだと思っていた。有能ではあったが、際立って才があると言う訳ではない。
「ヨハンは、おまえを后に迎えるまでの俺と同じ薬を服用しているから、反応しないと知っていた。アルファの男と別れた後、服用を始めて、三十年以上経っていると言っていた。今後も服用は辞める気がないと言っていたので、おまえの近くに居ることを許した。何より優秀だったし、性格もおまえに合うと思ったからだ。ヨハンはな、アルファの男に騙されていた事を知ってからも、相手を愛していた。けれど、不倫関係を続ける事なんてできなかった。だから、相手に別れを切り出した。だが、相手は受け入れなかった。当然だ。なにせ、相手のアルファにとって、愛していたのはヨハンだけであり、番のオメガなど愛していなかったのだからな。そもそも、アルファの男には親の決めたオメガの別の許嫁がいたのに、今の番が特殊薬を使ってアルファを罠に嵌めて交わり、寝取ったらしいからな。それで許嫁は自殺したというのだから、愛せと言うのが無理があるのだ」
凄まじい話だった。
俺の疲れた顔に気づいたセオドリック様が俺をお姫様抱っこで抱える。ここに来た当初は抵抗があったが、セオドリック様に対して好意を抱いている今の俺はなすがままだ。
ミハエルに取られると思った時は、胸が張り裂けそうだった。温かい体温にほっとする。
「修羅場の結果、何とか別れはしたものの、相手のアルファは、ミハエルの兄とミハエルを作った後、俺と同じ薬を服用するようになり、番とはいえ一切の交わりはなくなった。オメガは怒り狂った。当然、夫婦仲は最悪だ。ヨハンと別れさせられた後は、いっそう態度が露骨だったらしい。そんな二人を見て育ったミハエルは、母親そっくりになったわけだ。ヨハンはずっと気に病んでいたのだろう。あいつも半ば、脅迫されていたのだろうな。だから、王の寝室にミハエルを入れる結果になった。ヨハンは、俺がミハエルに靡くなどとは露ほども思っていなかっただろう。」
ふかふかのソファに腰かけて、俺の頬に細かく口づけを落とすセオドリックの表情は珍しく苦々しかった。
「事情を知っている俺たちからすれば、放っておけと言いたいのだが、愛する男の子供を無下にできない、と言うのもあったのだろう。だから、ミハエルが俺にきちんと別れ話をしたい、と言う言葉に渋々ながら協力してしまった訳だ。あいつと付き合った覚えはないが」
その言葉に対して、俺の視線は揺れた。俺の様子に、セオドリック様の表情が焦る。
泣くと思ったのだろうか?
「アレク。今も昔も愛しているのはおまえだけだし。誓って、おまえを后に貰う事を決めた日から誰とも関係は持っていない。これからもおまえだけだ。側室を貰うつもりもないのだぞ?」
俺の顔中に口づけながら、必死になるセオドリック様。
冷徹な所がかっこいいと言われているらしいが、デレてからのセオドリック様に、氷的要素は微塵もない。まぁ、これは実は俺だけにであって、他の人には冷たいままだ。勿論、側近の人たちや国民に対しては最低限の優しさは見せるけれど、セオドリック様が過去に関係を持った女性やオメガが絡もうとすると、相手に同情したくなるほどに冷酷なのだ。
中でも顕著なのが、関係を持った人の中にも、まともな人はいて。そういう人は、今後は身体の関係はなくても、近くに居たいと言う健全な人なのだが、セオドリック様はこういうタイプに一番冷たく接する。
不思議に思って聞いてみたのだが、セオドリック様曰く、そういうタイプが一番厄介であり、恋人や伴侶になれずとも何らかの特別になれると思っている。その上、心の奥底では恋情を捨てきれず、正義感や道徳を振りかざして他の相手を排除していくらしい。
俺からすれば純愛なのでは、と思うのだが、セオドリック様に「では、俺がその者たちを重宝するのを、アレクは気にしないのか? 俺なら嫌だし、嫉妬で相手を殺す」と言われてしまえば、黙るしかなかった。
確かにもやもやするだろうし、想像すると確かに嫌な気持ちになった。
「仕方ないから、信じてあげます」
そう言うと、セオドリック様は嬉しそうに笑ってくれる。
企んでいない笑顔は貴重だと皆は言うけど、俺に対しては笑顔だ。えっちな事をするときも嬉しそうだし。
胸元に手を差し込まれて、唇に深く口づけをされる。おままごとみたいな口づけではなく、舌を吸われ、口腔内をなめられる。
「ん……っ」
こりこり、と乳首を弄られ、きゅーっと意識が引っ張られる。
ベルトを外され、下着の中に入ってきた手が、俺のペニスを握り、扱き始めて、身体をびくりと震わせた。
「あ、セオドリック様……っ」
オメガになってから性的行為をするようになって、俺の感覚はいろいろと変化していた。
感覚なんて変わらない筈だと思うのだが、明確に変わったと感じるのはセオドリック様とこういう行為をするようになってからだ。いくらオメガになったとはいえ、アルファの男だった俺は、当然感覚も抱く側寄りの筈だった。
なのに、乳首を弄られ、ペニスを扱かれると、信じられない所が疼くのだ。
後ろを弄るのに、指では足りなくて、どうしようもなくなった俺は、最近仲良くなった俺の護衛騎士さんの奥さんである男性オメガさんから、玩具を頂いた。
当然子供が使う玩具ではない。
魔法で自動で動く玩具は、大人の玩具と言う。
異世界の住民の発案で生まれたらしいのだが、こういう話を聞くたび、異世界に非常に興味が沸くのが止められない。
すごい発想だなと感心するからだ。
「アレク、今回の事件はヨハンにとって良い機会なのだ。人の物を奪う事は、倫理的には確かに悪しきことなのかもしれない。だが、愛した男が心を押し殺して、あらゆる事に耐えているのを見て、それを救い上げてやりたいと思うのが、悪い事だろうか?」
首筋にセオドリック様が口づけを落としながら、囁くように言った。
その言葉に俺は思い出していた。
命にかえても守らなければいけなかった、いや守ってやりたかった神子を失った日を。
決して美しい男ではなかった。どこにでもいるような素朴な男だ。ただ、その心根が優しくて強くて、俺は大好きだった。強い恋情ではなかったが、いつぞやの時に、彼の恋人であった自国の王が彼を泣かせた時は、神子を攫ってやろう、と思うくらいには夢中だった。
「俺と神子の事を言ってます?」
「あの神子とフィオーレの王の関係を、あんな夫婦と一緒にしては失礼だろう。あの二人は真に思い合っていたのだからな。だが、おまえも気持ちは分かるはずだ」
「そうですね。好きな人が、その身内から大切にされていないなんて知った日には、俺は暴れますよ。俺の場合は、俺の希望的観測とかエゴが多かったけれど、ヨハンさんは違う。むしろ、なぜ奪わなかったのか、正直疑問です」
ソファに押し倒され、服を剥がされていく。執務室で、と、この行為を最初に始めた頃は思っていたが、今ではもはや当然のことのように受け入れていた。誰も中に入ってこないし、邪魔などされないのだ。勿論何か危険があっても助けも来ないのだが、セオドリック様がそもそも相当な手練れであるし、俺もよほどのことがない限りは自分で対処できるので、警護は良くも悪くも薄い。城の中が安全なのもあるだろうが。
「ヨハンは別れ際に言っていた。ずっと逃げていたと。吹っ切れていた様子だったから、悪いようにはなるまいよ」
「うん」
セオドリック様の首に腕を回しながら、俺は目を閉じる。深い口づけを受け入れながら、俺はもうセオドリック様以外を相手にする機会はないのだろうな、と思った。
(他の相手なんて、もうありえないけれど)
セオドリック様にとっても、そうであってほしい。
それからも、俺とセオドリック様は一緒だった。最後まではしなかったが、一緒のベッドでいつも寝起きを共にしているし、挿入以外は大抵やっている。婚姻から二年。セオドリック様は、言葉通り俺以外の后を、いや愛人さえ持っていない。三十過ぎのおじさんの俺なんて、なんの魅力もないと言うのに、彼はどんな時も俺に愛を囁いた。どんな美しいオメガの誘いにも乗らず、俺だけを愛してくれている。
いつも俺を尊重してくれたセオドリック様。そもそも、セオドリック様の権力なら、出会ったあの日、俺を抱くことなんて容易かったはずだ。無理矢理にでも命令すれば叶った。やろうと思えば自国に監禁だってできる立場なのだから。
けれど、彼はそれをしなかった。アルファだった俺には、女性かオメガの伴侶がいずれできるのだ、と自身の熱情は押し殺して。
セオドリック様曰く、押し殺しきれなかった、と苦笑いしていたけれど、俺は十分だと思っている。
セオドリック様だけじゃない、城の皆も俺を見守ってくれている。セオドリック様の年齢ならば、後継ぎとなる御子が一刻も欲しい筈なのに、誰も俺を責めないし、急かすこともしない。
最初、苦い顔をしていた上級貴族たちでさえ、近頃は見守りモードなのだ。
既にセオドリック様に恋愛感情を抱いている自覚は十分にあった。大体、結構最初の方で俺はもうセオドリック様が好きだったのだろう。でなければ他のオメガに嫉妬なんてするわけがない。
「なんか、緊張する」
だから、俺は今日、セオドリック様の寝室の前に立っている。
最初の行為が発情期で半ば流されるようだった事を、セオドリック様は気にしているらしい。
二回目に至っては、ある意味互いに望まない性行為だった。
ここのところ、夜の時間には俺を怖がらせないよう、絶対に俺の寝室には来ない。
確かに怖いというのはある。といっても、受け身の経験の少ない俺だったので、後ろに突っ込まれる事に対しての戸惑いが大きい。発情した時は何も抵抗がなかったが、やはり通常時ではまだ俺にも抵抗が残っているのだろう。
今も皆無とは言えないが、それでも大分素直に受け入れていると思う。それなのに、セオドリック様は最後まで来ないのだから。
セオドリック様には俺がかよわい存在に見えているのだろうか? 百八十越えの男に、ありえない話だ。
そういうのもあって、キスとか、口でとか、指だけとか、玩具とか、そういうのは使ってはいるけど、その後は最後までできていない。
じゃあ俺から行こうと思い立った夜。冷静に考えてこれは夜這いというやつだろう。夜のお誘いの伝言を頼むのはさすがに恥ずかしいので、自分でやってきたはいいが……。
セオドリック様の護衛騎士が俺を見て察したように笑った後、扉から少しだけ離れたのを見て、俺はさらに恥ずかしくなった。
そっと扉を開けると、セオドリック様が訝しげにこちらを見ていたが、俺だと気づいた途端に、ぱっと表情が和らぐ。
「珍しいな、おまえから来るなんて。ほら、来い」
読んでいた本を閉じながら、セオドリック様が俺を呼ぶ。
「ごめんなさい、お休みのところを」
「気にするな。まだ眠る気はなかった。それにおまえが会いに来てくれたのだから嬉しいと思いこそすれ、厭わしいとは思わないよ」
ベッドに腰かけた俺を、セオドリック様が抱き寄せる。
俺の髪に顔を埋めながら、そっと俺の太ももに手を乗せた。
ドキドキと胸の鼓動が高鳴るのが分かる。同時に、俺に密着しているセオドリック様の鼓動の音も速いのが分かった。
太ももに乗ったセオドリック様の手に、自身の手を重ねると、俺を抱き寄せていた腕がきつく身体を締め付けた。
「あの、俺、は」
抱かれる覚悟ができたのだと、早く伝えたくて、俺は慌てて口を開く。今までろくに恋愛もできていなかった俺は、ベッドの誘い方なんて詳しくないし、自分が受け入れる側なんて当然初めて。
振り返ってセオドリック様を見上げると、視線が合った。
セオドリック様は俺の伝えたい事は分かってくれているらしく、そんな俺のみっともない姿も、微笑ましく見つめてくれていた。
このまま恥ずかしそうにだまっていれば、きっとセオドリック様がうまく誘導してくれて、結果としては同じものにはなるだろう。けれど、二年の間、俺が覚悟を決めるのを待ってくれた。他の誰にも興味を移すことなく、セオドリック様は俺だけの人だったのだ。
だから、どうしても俺からきちんと伝えたかったのだ。
意を決して体勢を向き合う形に変えて、俺は真正面からセオドリック様を見つめた。首の後ろに手を回して、自分から口づけると、セオドリック様が少しだけ驚いた顔をした。
口づけはいつも、セオドリック様からだったからだ。
正直、誘いとしては稚拙すぎて、こんな迫り方をされても、百戦錬磨の男を落とせるとは思えないけれど、セオドリック様は違ったらしい。
「セオドリック様、今まで俺を待ってくださってありがとうございます。あなたの事は、正直最初は苦手だった。アルファだった俺にとって、あなたは理想だったから。どんなに努力したって、あなたにはかなわない、と。けれど、あなたはいつも俺に力を貸してくれていた。自分の気持ちを押し殺して、俺が幸せになれるよう取り計らってくれた。それを知った時、俺はすごくドキドキしました。あなたに愛を囁かれて、初めてオメガになって嬉しいと思えた。アルファだった時だって、そんな風に愛を囁いてくれた人なんていなかったんだ。一途に思われて、嬉しくないわけない」
「おまえは優れた騎士だった。腕だけではなく、心の強い男だった。周りは見る目がなかったのだ。俺が女かオメガだったら、とっくに逆に襲っていただろう」
その言葉に俺は目を瞬いた。
「あなたがオメガか女性なんて、ちょっと俺は怖いな」
「それくらいおまえを愛しているのだ。だから、おまえがオメガになったと聞いて、俺は歓喜した。おまえを口説く許可が神から出たのだと」
だから、ドラゴネットに無理を言ったのだとセオドリック様が囁いた。
「ドラゴネット殿下は知っていたのですか?」
「最初から見抜かれていた。だてにあいつも百人単位で相手がいるわけではないし、俺も性質的に似ているからな。複数相手がいるのに、誰にも愛情を持てなかったところもな。まぁ、俺はおまえという唯一の存在に出会えた。その部分は違えたがな」
確かに二人は似ている。容姿もどことなく似ているし、冷徹な雰囲気は酷似しているだろう。ただ、セオドリック様の方が優しい、と思う。
惚れてるなと、そう恥ずかしくも内心で惚気ながらも、俺が続きの言葉を言おうと口を開くと、セオドリック様がそれを止めるように俺の口を唇で塞いだ。
「ん、セオドリック様っ」
非難するように俺は軽くセオドリック様を睨むが、セオドリック様は困った様子で目じりを下げて笑った。
「アレク。おまえが勇気を出してここに来てくれた事に感謝する。だが、おまえから言ってくれるのは嬉しいが、俺から今一度言わせてほしい」
真剣な目で、セオドリック様が俺を見つめている。
いつもの理性的な瞳ではなく、熱に浮かされた濡れた視線で。そんな風に見つめられて、嫌だなんて言えるわけがない。いつでも自信があって強引な男が、俺に許しを請うように何度も俺の顔に口づけてくるのを受けながら、俺は仕方ないな、と笑った。
「おまえを愛している。俺の子を産んでほしい」
もう、迷いなんてなかった。
「はい。あなたの子を産ませてください。愛しています、セオドリック」
俺の満面の笑みの告白に、セオドリックも、誰も見たこともないような大輪の花のような笑顔を浮かべてくれる。
そっとベッドに押し倒されて、服を優しく剥がれされていくのを感じながら、俺は幸福感に包まれていた。
感じたことのない快楽に翻弄されながら、セオドリックの精を受け止め続けて、絶頂するのと同時に、がぶりと、うなじを噛まれた。
終わった後、疲れ果てて動けなくなった俺は、セオドリックの腕の中ですやすやと眠りについた。
「あの日の言葉を俺は真にしたぞ。アレク」
遠ざかる意識の中、セオドリックが何か呟いたが、俺にはその言葉に心当たりはなかった。
9
しかしながら、後に、この日の交りは実はまだ序の口であり、セオドリックが今まで大分手加減をしてくれていた事を知る。
この初めての発情期の、三カ月後に迎えた発情期の日、俺はアルファとオメガがどういう存在なのかを初めて実感する事になる。
激しいなんてレベルではなく、発情期が終わるまでの約十日間の間、俺はベッドから一切出ることは叶わなかった。
しかも、俺の理性も大分怪しかったが、セオドリックに至ってはもはや常軌を逸しており、発情期が終わっても行為を続けようとするセオドリックを見かねた王弟殿下が寝室に乱入、騎士たちと総出で引き離すという事件があった。
恥ずかしさで死にそうだった俺だったが、更に一年後。
生まれた息子を連れて里帰りした際、ドラゴネット殿下に「過酷だっただろう?」と言われて、あの日呼び出された時に殿下が呟いていた過酷な一名が俺である事、兄夫婦と父親の生暖かい視線が、三人も知っていたという事実に、俺は憤死しそうになっていた。
過酷なんて言い方をされたので、立場的に虐げられるのだと思っていたのに。
発情期の交尾は、オメガのヒートが切欠でアルファの発情があるのだが、互いの発情期が終わるのはアルファ側が満足して終わる。普通の人は三日くらいなのだが、俺たちが長かったのはセオドリックが絶倫すぎるからだ。
発情期と関係なしでも、一晩に十人くらい抱きつぶしていたと聞いた時、兄貴が聞きたくないよな、旦那の過去の関係なんて、と慌てていたのを俺は聞き流していた。
(え、これから先、俺だけって約束してるけど、何? 俺それすべて受け止めるの? え、無理じゃない?)
他の奴としてほしくないのは本心なのだが、あの発情期の激しさを思い出して俺は身体をぶるりと震わせた。
嫉妬よりも、恐怖の方が大きかった。
ちなみに、これもこの時に判明した事だが、兄夫婦も父親もセオドリックが俺の事を好きなのを大分前から知っていたらしいのだ。俺は全く気づいていなかったのだが、周囲にはバレバレだったらしい。
実は俺がオメガになった次の日には既にセオドリックから求婚の申し出があったというのだ。
「え、翌日? 俺オメガだって周囲に言ったの、三カ月後くらいだったよな?」
「うん。だから、それストーカーだろって俺は思ったよ」
兄嫁が引きつった顔でそう言っていた。ストーカーという言葉は異世界の単語らしいが、なんとなく意味合いは理解できる。
相当執拗だったが、父親によって拒否し続けていたところ、国交にぶっこんで来たらしく、あの日に繋がる。
今日知った話を思い出し、俺は遠い目をしながら、息子をあやす。
「引いたか?」
城に用意された客室で、セオドリックが少し不安そうな顔で俺を見ていた。
俺に事情が知れ渡ったのを、誰かから聞いたのだろう。
「ああ、ちょっと引いた」
俺の言葉に、目に見えて顔が引きつるセオドリック。
引いたと言っても別に後悔しているわけではない。ただ、思っているよりも結構執拗に追われていたらしい事には、ちょっと驚いたのだ。
「でも、俺同時に嬉しかった。そんなに好きだって求めてくれた事はさ」
するり、と腕を絡めて甘えながら、俺はセオドリックの胸に顔を寄せる。
「これから俺が知らないあなたが出てきても、もう離れる気はないんだ。あなたとずっと生きていくって決めたから。あなたがいつか俺をなんとも思わなくなったとしても、もう離れない」
さっき、嫉妬より恐怖が大きいと思ったけれど、そんなことはなかった。きっとそんな日が来たら俺はもう正気ではいられない、と思う。
子供を身ごもって、セオドリックへの思いは強くなっていた。
思いが深まることがあっても、薄れることはないのだと、そう感じる。そして、それがセオドリックも同じであってほしい、とそう思う。
「俺がおまえを手放すことなどあり得ない。ずっとおまえだけだ。たとえ、手放すことで幸せになると分かっていてもだ」
「うん、一緒にいよう、ずっと」
◆エピローグ◆
「おい」
夢の中で、幼い少年が不遜な態度で幼少の俺を見下ろしていた。
「おまえ、かわいいな、名前は?」
その言葉に俺は戸惑いながらも、アレク、と舌ったらずに答える。威圧的な態度の少年は美しかったが、人形のように無表情だった。
かわいいなんて言われたことがない俺にとっては、不思議な少年だった。
「おまえ、気に入った。俺の后にしてやる!」
「きしゃき?」
幼い俺には、少年の言葉は理解できない。首をかしげると、少年が顔を赤くした。すぐにきりりと凛々しい表情に戻ると、うやうやしく、片膝をついて俺の手を取った。
姫君にするように口づけられた俺は、動けずにおろおろするばかりだ。
「俺は、この国の人間じゃないから今は傍にいられないが、大人になったら必ず迎えに行く。それまで、ひと時の恋は許すが、誰のものにもならないでほしい。夫は俺だけだ。俺も誰かと関係を持つだろうが、迎えた後はおまえだけにする」」
どこの暴君だよ、という話だが、幼い俺に分かるはずはない。けれど、少年があまりにも真剣過ぎて、幼い俺は泣きそうな顔で頷いた。
ちゅ、と俺の頬に口づけた少年が名残惜しそうに離れていく。
「俺の名前は、セオドリックだ。よろしく、アレク」
それは遠い昔の夢。
ひと時の邂逅は、幼いアレクは覚えていない。
おそらく、この夢が覚めれば、きっとまた忘れてしまうだろう。
けれど、アレクの傍らにある男は、永遠に忘れることはない。たとえ、アレクが忘れていても、男にとってはもはやそれでいいのだ。
きっと永遠に伝えることもないだろう。
アレクが傍に居てくれるのであれば、もはやそれでいいのだ。
世界に蔓延る魔人は、その後、異世界からの五人の神子によって滅ぼされた。
世界は平和となり、脅威は去ったが、魔人が居なくなった結果、やはり人同士の争いは激化した。
けれど、不幸になったわけではなかった。
愛を知らぬ冷たいフィオーレ王国の王子は終に愛する者を得て王となり、正気を失ったかつての王は、再びその手に愛する者を取り返した。
失われた神子は蘇り、新たな五人の神子と共にこの世界を見守っている。
かつて守っていた神子を再び目にしたミアラルドの王妃の喜びはひとしおだった。
ミアラルドは、その後千年以上栄えた後、民主国家へと移行。王制度は廃止されたが、彼らの大切にする城の跡には、王と王妃の名前の刻まれた銅像が、神の加護の元、今も美しい姿で残っている。
彼らは死ぬ前にある功績を残していた。
しかしながら、語るには長くなりすぎる故、その話はまた別の機会にでも。
ー了ー
◆エピローグ◆
「おい」
夢の中で、幼い少年が不遜な態度で幼少の俺を見下ろしていた。
「おまえ、かわいいな、名前は?」
その言葉に俺は戸惑いながらも、アレク、と舌ったらずに答える。威圧的な態度の少年は美しかったが、人形のように無表情だった。
かわいいなんて言われたことがない俺にとっては、不思議な少年だった。
「おまえ、気に入った。俺の后にしてやる!」
「きしゃき?」
幼い俺には、少年の言葉は理解できない。首をかしげると、少年が顔を赤くした。すぐにきりりと凛々しい表情に戻ると、うやうやしく、片膝をついて俺の手を取った。
姫君にするように口づけられた俺は、動けずにおろおろするばかりだ。
「俺は、この国の人間じゃないから今は傍にいられないが、大人になったら必ず迎えに行く。それまで、ひと時の恋は許すが、誰のものにもならないでほしい。夫は俺だけだ。俺も誰かと関係を持つだろうが、迎えた後はおまえだけにする」」
どこの暴君だよ、という話だが、幼い俺に分かるはずはない。けれど、少年があまりにも真剣過ぎて、幼い俺は泣きそうな顔で頷いた。
ちゅ、と俺の頬に口づけた少年が名残惜しそうに離れていく。
「俺の名前は、セオドリックだ。よろしく、アレク」
それは遠い昔の夢。
ひと時の邂逅は、幼いアレクは覚えていない。
おそらく、この夢が覚めれば、きっとまた忘れてしまうだろう。
けれど、アレクの傍らにある男は、永遠に忘れることはない。たとえ、アレクが忘れていても、男にとってはもはやそれでいいのだ。
きっと永遠に伝えることもないだろう。
アレクが傍に居てくれるのであれば、もはやそれでいいのだ。
世界に蔓延る魔人は、その後、異世界からの五人の神子によって滅ぼされた。
世界は平和となり、脅威は去ったが、魔人が居なくなった結果、やはり人同士の争いは激化した。
けれど、不幸になったわけではなかった。
愛を知らぬ冷たいフィオーレ王国の王子は終に愛する者を得て王となり、正気を失ったかつての王は、再びその手に愛する者を取り返した。
失われた神子は蘇り、新たな五人の神子と共にこの世界を見守っている。
かつて守っていた神子を再び目にしたミスターヴの王妃の喜びはひとしおだった。
ミスターヴは、その後千年以上栄えた後、民主国家へと移行。王制度は廃止されたが、彼らの大切にする城の跡には、王と王妃の名前の刻まれた銅像が、神の加護の元、今も美しい姿で残っている。
彼らは死ぬ前にある功績を残していた。
しかしながら、語るには長くなりすぎる故、その話はまた別の機会にでも。
ー了ー
裏設定など。
また、番外編+関連作品をムーンライトノベルで連載予定。
「世界観の補足」
中世ヨーロッパ風異世界。
剣と魔法の世界です。
外界から突如出現した魔人と長い間、戦争を繰り返しており、異世界から神子を呼び、彼らの力を借りて魔人討伐を行っています。
魔人被害が深刻で、かなり過酷な環境が続いていましたが、
作中の時間軸は、四年前に召喚された神子の犠牲によってつかの間の平和を得ています。
「アレクについて」
~容姿について~
年齢二十九歳、身長百八十五センチ、六十五キログラム。
自身では平凡だと思っているが、顔の造形は整っており、やや童顔。優しそうで品がある雰囲気。
~背景~
フィオーレ王国出身。
大商人の家系の次男。
十二歳のバース検査で、アルファとして認定されてアルファとして生きてきたが、成人後にオメガにバース性が変わってしまった。
アルファ時代は、異世界の神子の護衛騎士を務めていたが、怪我で前線を退いた。本編では出てきませんが、神聖魔法の使い手で、かなりの強者です。
セオドリックとは十六歳が初対面だとアレクは思っていますが、実際の出会いは幼少時であり、その時から既に目をつけられていました。
育った国も違うのと、魔人との激しい戦いが原因で、長い間会う事はありませんでしたが、騎士として戦場に立った一六歳で再会しました。
アルファとは思えない平凡、と本人は思っていますが、騎士としての能力は間違いなくアルファであり、最初の検査がミスだったわけではないです。
先代神子の人間性に惹かれ、彼の神子となり仕えましたが、二年前に彼を失います。一緒に死ぬことを望んだアレクを、神子は拒みました。その際の怪我が原因で引退した、となってはいますが、身体的な理由よりは精神的な理由が強いです。
神子のヒートに巻き込まれて、神子を襲いかけた事があり、セオドリックによって事なきを得ています。
神子に対する感情は恋愛感情とはちょっと違いましたが、例えるなら守りたいお姫様、といった感情です。
~セオドリックへの思い~
容姿に対しては、イイ男だな、と初対面から思っていましたが、手が早い事や気が多い事を知って、人間としては合わないと思っていました。
ただ、どんなにそっけない態度を取っても、セオドリックが話しかけてくるというのを繰り返す内に、友人となりました。
セオドリックにからかわれる事が多かったし、喧嘩もしていましたが、アレクが仲は良くなかった、と思っているだけであり、外から見たら親しい仲でしかありえませんでした。
セオドリックの気持ちは一切理解できていませんでしたが、セオドリックが自身に好意がある事を本能で感じ取っており、辛いときはセオドリックを無意識に頼っていたりと、割とこのころから惹かれていました。
また、神子と仲が良くなったセオドリックに対して嫉妬していたりもしていましたので、無自覚なだけで既にフラグは立っていました。
周囲は、セオドリックがアレクを大切に思っている事はとっくの昔に完全に看破しており、二人がアルファ同士であることを残念に思っていたので、アレクがオメガになった事に対して全面的に喜んでいます。
例外はアレクの家族と、アレクの幼馴染の伯爵です。
前者は、息子(弟)が突然嫁に行く立場になった事に対する戸惑いと心配、後者は独占欲と嫉妬からの否定的感情です。
~幼馴染の伯爵~
同い年の友人で、アレクの回想の中では「気を使って嫁に来いと言ってくれる良い奴」ですが、アレクに幼少時からずっと片思いしており、セオドリックとは犬猿の仲です。
妻は全員アルファの女で、全員が女性しか好きになれないため、完全な政略結婚です。
セオドリックとアレクが結婚していても、諦めていません。
金髪碧眼の美青年という設定です。
「セオドリックについて」
~容姿について~
年齢三十四歳、身長百九六センチ、八十七キログラム。
褐色の肌、銀髪の美丈夫。がっしりとした体躯。
華のある雰囲気を持っている。
~背景~
ミスターヴ国、第一王子。
幼い頃にアレクに出会い求婚し、彼との再会を夢見ていたが、戦争で長い間会う事ができず、やっと出会えた時にはアルファ同士だった事を知り、かなりのショックを受けた。
当初から本気ではあったものの、大人になってからのアレクに余計に惚れ直した結果、色々と拗らせてしまう。
アレクに対してからかったり、怒らせるのは可愛いらです。
また、喧嘩ですが、アレクに殴られてもセオドリックは一切手は上げていないです。
アレクの心配事を先人て潰していたりと、この段階でかなり溺愛+尽くしていますが、一切報われていません。
色々と葛藤はあったものの、アルファであるアレクを尊重した結果、彼には手を出さなかったのですが、アレクがオメガに変わった事を知り、権力でフィオーレの王子にアレクの身柄を要求した事で、この話は始まりました。
セオドリックも騎士です。所謂騎士王になります。
腕前は、アレクよりも上です。
貞操観念が人とは違っており、独特な考え方をしていますが、相手とは同時進行で交際はしておらず、あくまで一夜のみの付き合いです。
当初は気にせず誰とも遊んでいましたが、弟の恋人のヒートに巻き込まれ、危うく弟の恋人を襲うところだったのと、妊娠に対するリスクから、相手がベータ男限定に近年はなっていました。
なお、セオドリックが最近は誰とも関係を持っていないとありますが、最近と言うか結構前から関係を断っていました。
弟であるギースとは、仲は良いですが、セオドリックが羽目を外そうとすると、ヒートの事件の時の話を嫌味ったらしく言われたりと、意外と弟に対して強く出れない所があります。
~アレクへの思い~
一目ぼれです。
アレクは美形、という訳ではありません。顔立ちは悪くはないですが、一般的なアルファたちと比べれば地味です。
ただ、セオドリックは、アレクの黒い髪や白い肌、上品な雰囲気などをとても気に入っており、セオドリックの中ではアレクと比べられる存在はいないくらい惚れています。
アレクがアルファだと知った時はショックで、しばらく落ち込んでいました。
最初は無理やりにでも関係を持つつもりだったのですが、大人になったアレクと話す内に、自身の感情よりもアルファである、アレクの尊厳や意思を考えるようになり、結局手は出せませんでした。
ただ、騙し騙し付き合ううちに、限界は近づいており、オメガに変容したために本編で比較的平和な展開にはなりましたが、もしもあのままアルファだった場合、二、三年以内に拉致監禁か無理心中ルートになっていました。
(作中では怖がらせないようにセオドリックはあえて
言いませんでした)
また、結構前から誰とも関係を持てなくなっていたのは、限界が近くなっており、代替えが効かなくなっていたからなので、結構ギリギリなハッピーエンドルートでした。
ちょっとIFルート書きたくなります。(笑)
なお、アレクの幼馴染の伯爵とは犬猿の仲です。
結婚後も、伯爵がアレクにモーションをかけてくるため、この先ずーっと互いに嫌悪し続ける関係です
~神子について~
アレクにとっての主人であり、セオドリックにとっての友人です。
アレクはセオドリックが神子に気があると思っていましたが、セオドリックにはそんなつもりはありませんでした。
ただ、セオドリックにとっては、神子は特別でした。
神子はアレクの主人であり、アレクが場合によっては彼の為に命を捨てる覚悟である事を、セオドリックは理解していたからです。
だから、セオドリックは神子に対して真摯であり、彼を手助けしていました。
以上、設定裏話でした!
☆さいごに☆
分冊版をお買いあげ頂き、ありがとうございました!
設定の話など、どれくらい需要があるのかわかりませんが、少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。
またご縁がありましたらよろしくお願いします!
書名 一つの愛が実るまでの話
発行日 2018年10月15日初版発行
著者名 ましゅまろさん
発行所 18
2018年10月14日 発行 初版
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自己中で我儘で一筋縄でいかない、だメンズたちの不器用で不憫な恋愛模様を書くのが好きです。 ボーイズラブ作品のみと、ジャンルは限られますが、どうぞご自由お立ち寄りくださいませ。