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この本はタチヨミ版です。
一
「さて皆さん。お待たせしました。これより第三回心霊ミステリーツアーの説明会をおこないます。
担当は私、高橋ひろと、と申します。
第一回目から引き続き、私がこのツアーの責任者となりますので、よろしくお願いいたします。
ここでツアー参加における注意事項をお伝えします」
高橋ひろとと名乗った男は、一見三十代のように見えるが白髪で、年齢不詳の不思議な雰囲気をまとった者だった。
さすがにこのイベントの一回目から携わっているだけあって、流暢な話しぶりだが、怖いもの見たさの期待感だけで集まり、さして盛り上がらない参加者を前に、まずは少しでもムードを出そうと、低いトーンの声で挨拶を始めた。
「その前に、ここで今回の注意事項を伝えてくれるのは、サプライズゲスト、みなさんもその名はすでにご存じだと思います。
無口なる伝道者。「霊と共存する会」代表、萩原シュウコウ先生です。先生には、現在この心霊ミステリーツアーの顧問アドバイザーになっていただいております。
それでは登場していただきましょう。萩原シュウコウ先生です。大きな拍手で迎えてください」
さほどでもない数の拍手に迎えられて、萩原シュウコウが壇上に登った。
年は60歳くらいだろうか、小柄で華奢な体つきで、病的に顔色の悪い男だった。
「あのぅ・・・ みなさん、幽霊って信じていますか?
-本当にいると信じてここに参加しているのですか?」
萩原シュウコウは疑い深そうに参加者達を見回しながら、消え入るような小さな声で話し始めた。
「えぇーっ? 何言ってるの。いないなら金を返してもらうぞ」
カップルで参加している男が言った。
「ここまできて今さらそんなことを言うなら、詐欺で訴えてやるから」
語気を強めて、カップルの女の方が言った。
「もちろん分かっています。ただ、今一度皆さんのお気持ちを知りたかっただけです。 今日は本当の霊の姿をお見せしましょう。
それはきっと、みなさんの期待しているものとは違うかも知れません。必要以上に怖がらないでください。いや、怖がってくれた方がいいかも・・・ とにかく霊障といった災いは一切ありませんので安心してください。
このツアーの参加者で、いままで問題が起きたことは一度もありませんから」
「あのぉ、質問なんですが、幽霊ってほんとに怖いものなんですか」
二十代の女性グループの一人が、遠慮しがちに手をちょっと上げて質問してきた。
萩原はその女性の方を見ながら、それまでとは一変して甲高い声を張り上げた。
「それは良い質問です。怖いか怖くないかは、あなたがその目で見て判断してください。あなたにも見えますから・・・」
その若い娘は驚いたように目を見開いて
「私にも見えるって・・・ 私そんな能力はありませんけど。今まで一度だって幽霊なんか見たことないし・・・」
「大丈夫だと思います。今日ここに参加してくれた三十数人の人たち、みなさん全員見ることができると思いますよ」
萩原シュウコウは何やら自信ありげにそう言うと、
「幽霊を見るのに霊能力なんてものは必要ありません。
ただし懐中電灯で照らしたり、驚いて走ったりはしないでください。夜行性の動物を観察するように、静かに落ち着いて見てくれれば、しっかり誰にでも見られますから。フフフッ」
最後に意味深な笑いを残して、萩原シュウコウは壇上を降りた。
「それではみなさん、出発しましょう」
高橋ひろとは、勤めて明るい声でツアーの開始を告げた。
ニ
「この中で、何か特殊な力を持った人はいますか」
「いるわけないでしょう。そんな力を持っていたら、とっくにあの世に行っていますよ。ここに残っているのは、ただソコに居ることしか出来ない連中。生きている時だってたいしたことも出来ず、死んだからといって超人になったわけじゃぁないんですから」
年配の顔色の良くない霊が言った。
「それは私もそうですから、良くわかります。特別早く動けるわけじゃないし、おぞましい姿をしているわけでもない。でも、今日だけはみなさんに頑張ってもらいたいんです」
リーダー格の顔色のいい、最初に話し始めた男の霊は、哀願口調で話し続けた。
「私はただ静かにここに居続けたいのです。
一度ならずニ度までも生きている人間にこの場を荒らされて、冗談じゃない。前回まで私たちはじっと息をひそめて奴らを見ているだけでした」
「息をひそめてなんて、もともと息はしてないし」
小柄な女の霊が口元をゆがめながら言った。
「ちゃかさないで下さい。私なんて前回懐中電灯で照らされたんですよ。もう一回死ぬかと思いました」
リーダー格の霊はその時を思い出したのか、途端に顔色を悪くして言った。
「ニ度は死なないでしょ」
さきほどの小柄な女の霊は、間髪入れずに突っ込んだ。
「もういいです。話を元に戻しましょう」
リーダー格の霊は小柄な女の霊を睨みながら話を続けた。
「特別な力は無くていいですから、それぞれの出来ることを教えてください」
「それなら私は生前歌手だったせいか、空気を震わせて低い音なら出せます。ただし3秒ほどですが」
背が高くスマートな初老の霊が言った。
「それなら俺も空気を震わせて、強めの風を作ることができるぜ。5秒ほど」
特攻服を着た暴走族風な若い霊が続いた。
「そうそう。そういうやつですよ。他にはいませんか」
リーダー格の霊は顔色を良くして、他の四体の霊を見た。
「調子が良ければ生きている人に姿を見せることができるんだけど・・・」
小柄な女の霊が申し訳なさそうに言った。
「すごい!」
そこに居た六体の霊が一斉に声を上げた。
「あくまでも調子が良ければよ。それに一回やったらしばらくはできないし・・・」
「あなた、すごい力をもっているじゃないですか。生きている人間に姿を見せられるなんて、そうはいません。一回だけで十分ですよ。頑張りましょう」
リーダー格の男は霊とは思えないほど生き生きとした表情を見せた。
「他にはいませんか」
「私、写真に映り込むことが好き。元モデルだったの。前回も彼らが来たとき映り込んでやった。けっこう驚いていたわ」
「よし、それも使えそうですね」
「俺は女の子の体を触ることぐらいかな。生きている時に痴漢をやって、逃げる時に電車に跳ねられたんだ」
小太りでひげ面の男の霊が言った。
「それって、男の人にもさわれるんじゃないの」
小柄な女の霊が軽蔑するような目で、小太りの男を睨んだ。
「いや。男には触りたくない! 死んでいるけれど死んでもいやだ!」
「いいですよ。女が来たらやってもらいましょう。やり方一つですから。十分戦力です」
リーダー格の男の霊は、何か作戦でも浮かんだのか、腕を組んでなにやら考え込んでいる。
「最後は私だけだね。見てのとおり私はおばあちゃんだから、みなさんの言ったようなことは何一つできません」
一番小柄で丸っこい体系の老婆がつぶやいた。
「唯一出来ることと言ったら、生きている人間の背中におぶさって、肩を重くすることぐらいかねぇ」
タチヨミ版はここまでとなります。
2018年12月11日 発行 初版
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北海道岩見沢市生まれ
美唄東高校から登別高校へ転校
北星学園大学中退
1992年 札幌市で占い室「魔法人」を開業
テレビ、雑誌など多数取り上げられる
2001年 文芸社より異色のサイキックロマン、長編小説「リバイバル」出版