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大人になれない僕達に、青色の銃声を。

「糸」

群青出版



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星の数は希望を教えてはくれないよ。



空の色は願いを叶えてはくれないよ。



僕らの青は、大人にはなれないんだよ。

青空を分解して、君は無邪気で。
僕は相変わらずアスファルトと睨めっこ。
そこにはまだ。嘘と呼べる曖昧も、正論に呪われた大人も、
まだ何も、いなかった。
だから君は無邪気で、僕は素直で、
ただの毎日を二人、味わっていた。
知らないうちに、僕ら、
喉で転がしていた青空に飽きてきたんだ。
そうだ。きっと、うん。君の言う通り。
それがいい。それでいい。

味のしなくなったガムを吐き捨てる様に、
僕らはそれほど当然に、
大人になった。

     『青空は膨らんで』

優しさは高かった。
手を伸ばしても、背を伸ばしても、
心の形を変えたとて、届かない。
明日、目を覚ませば、
今日よりも高度を上げるのだろう。
上げ続けた右手が疲れた頃に、
昨日の続きが瞼を落とす。
それでいいんだよ。
この世界では、
優しさは簡単にはならないで。


      『頭上』

私の体に、色は無い。
おかしな話だ。
空の色は、青や橙や黒。いつも、鮮やかだ。
私の体に、色は無い。いや、例えば、
「肌色」と言えばそれなのかもしれない。
ただ、それはこの世の色じゃない。
空の鮮やかさに嫉妬したいつかの先人が、
対抗する為に作り出した色。「肌色」

こんな空想に浸る瞬間は、
何かの色に染まれる気がするよ。
新しい色、私が作ってしまおうか。


      『〇色』

日差しの分だけ、私の体重は増える。
骨以外全て消えてしまった様な体のくせして。
宙に浮いてしまいそうな体のくせして。
地面に埋まりたがるこの体を
私が「私」と認めなければ
誰の為の生命になるのだろう。
唯一のこの体を、まだその答えにしたくはなくて、
私は、地面の中を受け入れる。
日差しから逃げるだけの体のくせして、
今日も「生命」のふりした心のまま。


     『地層と心層』


僕らの真ん中には、オルゴールがあるんだって。
気付かなかったから、
回すのに時間がかかってしまったな。
そうしてやっと流れた音楽は、
僕よりも僕を知っていた。
僕よりも僕を愛してた。
止まらいでよ。終わりまでは。
音が真ん中の少し左を揺らす時、
ほんの少しだけ、優しくなれるから。



『オルゴール』



言葉の角で指を切ったから、
言葉の柔い部分で傷口を抑えた。
それはきっと、いつかは、優しさで。
今日から見れば、
昨日の残した過ちの残骸で。
明日になれば失う弱さすら、
僕らは言葉にしてしまうから、
いつまでも呪われたままなんだって。


『ことば』



頭と足が逆になる。
腕と耳が逆になる。
それでも僕らは人間で、
愛おしさに殺される存在で、
心の奥には誰かを飼っていて。
考えたくもないよ。
脳の奥では殺し屋が立っていて。
それなのに。
いつから時間は、永遠になったんだ。



『人間の定義』



体温は好意を囁いた。
だから、行為で示した。
暗がりで剥がれ落ちてくれた鎧は、
私を守る事を辞めた。
意図も簡単に掌の中で、私は産まれた。

触れ、濡れ、離れ、静まる

私を人間にしてくれる。

十五分で終わる生命は、
煙草の煙に隠されてしまうのに。


『正攻法』



「人間はいない」
私の頭、彼の頭、それらの心、
どれも誰の為にも笑わない。

「人間はいない」
左側で受け止めた弾丸は
知らない形で。
鼻腔を抉る臭いを放った。

「人間はいない」
神様の真似事で笑わないで。
いつか死ぬくせに。



『人間喪失』

誰かの放った優しさは、
夜明けの正論に吸い込まれた。
馬鹿でいられないなら僕らは呼吸困難だ。
一命なんて取り留める気もないから、
心臓はここで捨てるよ。
きっと表情や声色に深い意味なんて無くて、
今日を生きる為の栄養としての。
そんな自己満足でしかないんだろう。
だからいつまでも
この世の隅で陰を飲み込んでいよう。


      『明け方、知る。』

前髪が目にかかる。
それを鬱陶しく思えないのは、
前髪の先に広がる世界の方が、
きっと僕は嫌いだから。
少しだけ、あとほんの少しだけ、雲れ。
信号機の色、看板の文字、
それらが存在を誤魔化すくらいに、
霞んでしまえ。
うねる髪先よりも邪魔くさい世界が、
「未来」なんて名前で立ち竦むなら。


      『前髪』

拍手の音が鳴り止む前に、
どうか消えて。
「お前は誰だ」
もういないんだよ、ここには無いよ。
世界の音は私に集まって、
「ごめんね」
両の手にやっと揃ったその全てで、
終わらして、一瞬で、
どうか消えて。

少しの響きも残らないで。

私はここにいなかったよ。


     『喝采。』

僕の速度では、
孤独を置き去りにするには遅過ぎた。

夏の風の方が立派な気がして、
ほんとうに独りになってしまったよ。

「夢でした」
が聞こえない耳なら、もういらないから、
せめて孤独は僕の後ろで笑っていて。



     『孤独の速度』



メロンソーダの上に浮かぶアイスクリームを
ゆっくりと沈めて、慎重に美味しさを求める。
それを急いでしまえば、
簡単に溢れ、美味しさは零れてしまう。
「人生みたいだね」
なんて君が笑うから、もういいや。って。
馬鹿みたいだな人生は。




『クリームソーダ』



空の下で恋をした。
知らない味が口に広がるから、
孤独の始まりだって分かってた。
噛み締めた人生がこれまでの意味を正当化したくて、
機械の感情はせめてオレンジに輝いた。
輝きに負けないで、いつか、
全部が正しかったって言えるよ。
だから今は、知らない味に抱かれて眠るよ。




『恋をした』



鉤括弧かぎかっこの中で、僕はいつも縮こまる。
誰も僕を知らない教室の隅で、
ピンと手を挙げて発言している様な気分だ。
静まり返った空白の中に、
僕だけがいる。

唯一の音を合図として、
流れる時間が一度だけ止まって、
夕暮れの手前で君は振り返る。

「       」

臆病者を口から出せたら、
明日の僕らを話してみよう。



『鉤括弧の中で叫べ』



色水を飲み込んでみたかった。
あれほどまでに綺麗なら、
僕の体内もそうであれ と。願った。
黒の裏側で、半透明と目が合った。
僕が僕であるための色が既にそれなら、
少しだけ気が楽になる。
それでも、最後の我儘は、
鮮やかな色に笑みを零したから、
僕の世界はまだ、希望を覚えていたらしい。



『色水、心染。』



天文学的な数字に希望を浮かべて、

でもまたすぐに絶望を知って。

それでいい筈だって、嘘で息をした。
それが本当に「嘘」である事を受け止められない青は、
今に居残る事だけで精一杯だった。


それでも世界は終わらないから、

多分、少しだけ、優しくなった。



『天文学的な数字の隣で』



『死ぬ気になりなよ。死なないから大丈夫』
最後の三文字が、喉に詰まる。
「いいよ、どうせなら殺してよ」
なんて、耳の中で鳴り響く音に隠れて叫びたくなる。
死ぬ気になっても死ねないような命が
どれだけ愛を伝えても、
説得力なんて無いんでしょう。
そんな私を突き飛ばしてやりたくなって、
イヤホンを、ゆっくり。ゆっくりと、
誰にも気付かれないように、
両耳からの解放を叶えてあげた。



『死ぬ気になれよ』



目を瞑って、体温を探って、知った。
君がそこにいること じゃなくて。
僕がここにいること。
それだけを知った。だってそれ以外は罪で、
きっと体はどこかに落ちてしまう。
まだここにいられることを知ったから、
夢の終わりは多分まだ先だから、
君を愛したフリをして。
僕はただ、僕だけを愛し続けた。



『自愛、深愛。』

アルコールの上で立ち上がる「本当」は
明日の安定を連れ去ってしまう。
頬の赤みに気付かない君は素直で、
それに気付かないフリをする僕は最低で、
勇敢な勇者は自らの首を切り落とした。
上がる体温、下がる信頼、
酔いが冷めたら、僕になる。
酔いが冷めたら、明日になる。
僕を乗り越えて、幸せを切り落として、
「ほら、起きろよ」
朝が瞼に、唾を吐いた。


      『アルコールと朝』

左手に唾液が垂れたら、
世界は変わってくれるだろう。
塞ぎ込む様な白濁が手に触れたら、
きっと、昨日は終わってくれるだろう。
頭の中で希望を浮かべて、
それはどんな色だったか。綺麗だった。
それでも、いつも、
流れ出すのは真っ白だと決まってる。
そんな事が可笑しくなったから、
また明日も世界を変えてしまうんだろう。


     『辞意行為』

夜が昨日を嘘にする。
暗闇の中で目を瞑らないように、
灯りが足元を照らしてくれる。
こんな僕にでも、
平等に、影は成長を見せた。
求めていた大きさ、超えて、
何十年か先の僕を映し出してくれた。
たったそれだけの当たり前は、
五体を揺らすには充分過ぎたんだ。


      『影遠』

明日には泣き止むような後悔は、
目を離した隙に、大人になった。
だから、私に触らないでいてくれた。
明日には泣き止むような後悔は。
明日には消えてしまいそうな私は。
目を離した隙に、全部、
隅から隅まで大人になった。
だから、今日も私は私でいられた。


      『強制的な矯正と成長』




右手の痺れが僕を忘れた時、

春の終わりを知った。

青天井に閉じ込められた

僕らは、ただの食材みたいで、

一日が終わる事を恨んだ。






時間が有限であると知った時、

僕らはどんな顔をするだろう。

春の終わりに、僕らどんな話をするだろう。




      『何色の春が終わる頃』

朝が私に舌打ちをした。
だから「生きたい」って叫んだ。
透明は奇麗で
どこまでも憂鬱だった。
夜が来るまでそこにいて。
誰も、勇敢さを振りかざさないで。
やっと来た朝の終わりに、
私は舌打ちをした。



       『早朝』

季節に色があるなんて、
聞いてなかったよ。教えといてよ。
皆が欲しがるから、僕はもう後回しで。
気付けばもう、手を伸ばせば、笑われる。
春が特別なモノだなんて、
聞いてなかったよ。教えといてよ。
必死に追いかければ指をさされる年齢を、
僕は、楽しんでた。
笑われる今すら、笑ってた。
じゃあ。誰も教えてくれないけど、
多分今が、そうなんだろう。
春に色が、付いたのだろう。


      『青色の春』

「現代人だから」って。
多分、
僕らは病気だと思う。
宇宙人みたい。あの子に角は無いけど、
僕は緑色じゃないけど。
知らない言葉が、耳を殺すよ。
見えない電波が、首を絞めるよ。
でも。不思議とそれで息をして、
多分、
僕らは病気なんだと思う。


       『現代病患者』

弾丸を込めた銃口が目を瞑る。
瞬間、青く濡れた。
銃口から真っ直ぐ、数センチ後の未来で、
僕の体はどうも簡単に、青く染まった。
「どうか、大人にならないで」
願いか、呪いか、
そのどちらかを銃口に詰めて、ほら。
引き金を引いて。
僕を撃ち抜いて。
青が飛び散る中で、笑ってた。
だから、僕らはきっと、
明日には大人になってしまう。


      『青色の銃声を』

大人になれない僕達に、青色の銃声を。

2019年2月17日 発行 初版

著  者:「糸」
発  行:群青出版

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人間 イト

2016年より執筆を開始。 2018年 個人出版社を設立。 改名(ex.猫音みやび)

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