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この本はタチヨミ版です。
皆さん、学生の本分は勉強です。
わが校の生徒であることに誇りを持ち、健全な青春の日々を送りましょう。
毎日繰り返されるこの文言。そう、私はまじめな生徒会長。
先生の言うことをよく聞いて、悩める生徒の話を聞き、もちろん成績もトップクラス。
苦手と言えば、五十メートル走がすこし、遅いことくらい。
完璧な学生生活だったはずだ。だからこそ、担任のK先生に呼び出された意味が分からない。
先生は地位としては中堅ぐらいで、まじめで良い先生なのだけれども、少し熱血が過ぎる人。
そういう教師というのは、たいてい生徒には嫌われている。
だけど私は、冷たくなんてしたりしない。だってまじめな生徒会長様ですもの。
先生が右向けと言えば、右。
髪だってちゃんと黒くって、耳の位置でポニーテールにしているお堅い生徒。
だからこそ、呼び出された意味が分からない、という前述の話になるわけだ。
その日、先生は私を自宅に呼び出した。
何かまずいことがあったなら大抵は、職員室か生徒指導室、それとも私のいる生徒会室で話をするはず。
それなのに、先生は私を自宅に呼び出した。
拒否するなんてありえません。私はまじめな生徒会長。
自宅に入ると先生はシャワーでも浴びた後なのか、バスローブ姿だった。
これから生徒を呼び出して話をするのにその恰好はどうなのかと思うが、何も言わない。
だってまじめだから、私はまじめな生徒会長なのだから。
座りなさいと言われて、ソファに腰掛ける。もちろん浅く。
両手はちゃんと膝の上。
「なあ」と、先生は私に声をかける。はいと返事をしてそちらを見ると、天を仰いでいた。
「うちの学校はアルバイト禁止なんだけど、生徒の中には内緒でアルバイトしている者がいるようなんだよなあ」
おや、まあそうなんですかと驚けばよかったのだろうか。
指導しますと答えれば良かったろうか。
生徒会室であったなら、おそらくよどみなく出たろう言葉は私の口から出てこない。そっとうつむいて、先生は続きを言う。
「お前もしてるだろう。先生、見たんだぞ」
「してません、先生」
ちゃんとそう答えた私。なぜ私が、このまじめな生徒会長が、校則違反など犯そうか。
抜き打ちテストにしてはシチュエーションがおかしいとは思いつつ、先生を見る。
先生は私の顔を覗き込んで、ゆっくりとにらみつけた。
「先生見たんだよ。お前、SMクラブでバイトしてるな?」
なぜとか、どこからとか、いつとか、訊くべきことはあったのかもしれない。
だけど私は、その時何も言えなかった。まさかバレると思っていなかったのだ。
私の秘密。お堅いまじめな生徒会長、パパは外交官で、ママは医者の家系で、学校も家も居心地が悪かった、は、言い訳にはならない。つまりそう、私はあの世界が好きだったのだ。
しかし、ここで肯定するわけにはいかない。
私はまじめな生徒会長、みんなの憧れ、愛すべき生徒なのだから。
「そんなことしてません、先生」
そう言った私を先生は、やはりにらむ。そうして、「お前のあとをつけたんだよ。店長にも聞いた」と言い出した。
店長が私を売るなどと思わなかったが、学生を使っているとバレては店に迷惑が掛かってしまう。
おののいた私に、先生は追い打ちをかけた。
「やってるんだろ? 素直に言えば先生も悪いようにはしない」
何度も否定したけれど、確信を持っているらしい先生には通用しない。
ついに、「少しだけ」と、白状した。
「少しだけってどのぐらいだ」
「二、三回です。店長さんと知り合いで、ちょっとだけ、お手伝いなんです」
いつものK先生なら、「そうかあ、それは大変だな。でも校則違反だからやめなさい」で、済むと思っていた。
熱血教師にありがちな涙涙の大説教で終わると思っていた。
ところがこの教師は、まじめな熱血教師などではなかったのだ。
「先生全部知ってるんだよ。お店の人が白状したんだから。店もやめさせるように言ってきた。二年も前から、やってるんだろう?」
バレていた。確かに一年生の終わりごろ、私は店に入っていた。どこまで知っているのだろうと思う私の隣で、先生はため息をつく。
「あと六か月で卒業か。なあ、それまで退学になんかなりたくないだろ? 先生もお前みたいな生徒を退学なんてさせたくないんだよ。わかるだろ? 何をすればいいのか」
はて何をすればよいのだろう。この時私は、間抜けなことに本当に分からなかったのだ。
一体全体この男は何を言っているのだろうと思わずきょとんとした私に、先生は言う。私の足を触りながら。
「先生の奴隷になればいいんだよ。いつも店でやってるだろう」
思わず手を払いのけて、すると拒否をするのかと怒ってくる。
先生の奴隷になればいいとは、どういうことなのだろう。本気で意味が分からない。
取引を持ち掛けられているのだと遅まきながら気が付いて、先生、と、恐る恐る訊いてみた。
「一度セックスすれば、許してくれますか」
「セックスじゃダメだよ。お前は俺の奴隷になるんだ。俺の専属M女にしてやるよ。あと六か月、週に二回。お金が必要なら言いなさい。用意してあげるから」
「先生の奴隷って、何をすればいいんですか?」
尋ねた私に、先生は鼻で笑う。わかるだろう、と、私の太ももを撫でた。
「いつも店でやってるようにすればいいんだよ。先生の言うことをなんでも聞けばいいんだ」
ああ、そういうことかと合点がいったのだ。
だからその手を払いのけて、立ち上がる。
のろのろとベッドに向かう私を、先生は、口角を上げて追いかけてきた。
「やっと観念したか」と、先生は笑う。ベッドに座る私の前に座って、顎をつかんでくる。
ああ、なんだ、この男は、勘違いをしているのだ。
だから、その胸倉をつかんで押し倒した。
どういうつもりだと戸惑う先生は、もう、私の中で教師ではなかった。
「あんたいい加減にしなさいよ」
出た声は、自分でも感心するほど、冷たい。は? とか、え? とか、間の抜けた声を上げて、こいつはクズだ。
のしかかってバスローブについたボタンを外しにかかる。何をしてるんだやめなさい、などと言ってくるが、申し訳ないけれどもこの男の言うことを聞く義務などない。だって、そうでしょう。
「店でやってることと、同じことをすればいいんでしょ?」
こくこくと、先生はうなづく。だから店と同じことをしてやろうじゃないのさ。
小さい性器を踏みつけて、驚くそいつを見下ろした。
「あんた、勘違いしてんじゃないわよ。私はね、M女じゃないのよ。二年も前から、女王様なんだよ!」
戸惑って、先生は言葉も出ない。粗チン踏みつけられて泣きそうになっている。
ふんと今度は私が鼻で笑って、何してんのよ、と、声をかけた。
「店でやってることと同じようにしろと言ったから、やってやろうじゃないのよ。何をぼんやりしてるのよ。そこに跪いて、お前の汚い汁で汚れた私の足を綺麗にしなさいよ!」
はい、はい、申し訳ありません、すぐに、と、途端に元気をなくした男は私の足を取る。べろべろと舌を這わせて、気色悪いったらありゃしない。
その足ねえ、と、言ってやった。
「さっきまで私の奴隷が舐めてたの。どうする? 知らないオッサンと間接キスよ」
固まったそいつに笑いかけてやったら、いやそうな顔をしてそれでも舐めた。
思わず高らかな声が出る。ほほほ、いい気味。私をM女と勘違いして、調教しようだなんてちゃんちゃらおかしい。
顔を蹴る。綺麗に舐めたそいつの顔を。
「あんたが舐めて、余計汚れたわ」
そう言ったら、泣きそうな顔して謝るんだから。
でもね、悪いことしてるなんて思わない。
私は先生の言うことを聞いただけなの。そう、まじめな生徒会長様だから。
これが私。本当の。奴隷どもを愛する心優しき女王様。
タチヨミ版はここまでとなります。
2019年2月8日 発行 初版
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数々の玄関を渡り歩き、マットとして活躍してきました。
現在は女王書店を運営。