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この本はタチヨミ版です。
捕まえた。
縛り上げて、もう彼はこの部屋からは出られない。
私が管理している、この部屋からは。
それはもう絶対のことだ。重厚な鍵で閉められたこの部屋は、彼を監禁するためだけのもの。
足を縛ったから逃げられない。
手を縛ったから抵抗できない。
猿轡を噛ませたから反論できない。
彼にできることはそう、ただ、自由なままの耳で私の様子を察知するだけ。
自由なままの眼で自らの運命を見届けることだけ。
逃げられないのだから、焦る必要はない。
ゆっくり、じっくり、彼を私のものにすれば良い。
震える体に指を這わせる。
これからこの顔が、首筋が、胸が、腹が、性器が、腿が、足が、腕が、みんなみんな、私のもの。
私のものよ。
そう告げるこちらを、彼は目をそらさずにじっと見ている。
逸らさないのか、逸らせないのか、そんなことは知らないけれども。
それでも芽は摘んでおかなくてはならない。
彼が逃げ出さない、私に絶対服従させるため。
その体を踏んで、そのまま顔を踏みつける。
足はとても、器用なの。
猿轡を解いて口の中に足を突っ込んで、舐めなさいと命令したのに、彼ときたら、何もできやしない。
すくんでいるからなのか、それともこれは、反抗なのか。
舐めさせてくださいと頼んでくるまでにさせなくてはならない。
それが、彼をここにとどめおく、最良の方法なのだから。
反抗する意欲すら失わせるには、痛みが最も良いと聞く。
肉体に与えられる苦痛が恐怖となって、縮こまってしまうのだとか。
だから鞭を振り下ろす。
理不尽な責め苦に、彼はよけることも出来ずに黙って耐えるしかない。
痛がっても、つらがっても、やめない。
これは彼を支配するための儀式。
真っ赤に腫れあがった体の各所に笑みがこぼれる。
もうすぐ、この一振り一振りが、じわじわと彼を追い詰め、逃げ道をふさいでいく。
きっとこの赤い体はひりひりと痛んで、敏感になっていることでしょう。
落とされた高温蝋燭に、跳ね上がる。
オモチャのようでとても楽しい。
子供のころ、テレビで見たことがある。
電流を流された女体がそのたびに跳ねるシーン。
幼心にエロティックだと思ったものだ。
そして今、同じ感想を抱いているのは、こんな状態なのに、彼の性器が立ち上がっているからに他ならない。
踏みつけて、唾を吐く。
こんな事態であるのにのんきなものだとせせら笑う。
眉根を寄せたその、傷ついた表情が、大好き。
踏みつぶすたびに、願う。
私の脳内にある彼の逃げ道が塞がっていく映像が、同じように彼のそれにも、流れていればよい。
ツンと立った乳首をギリギリと、挟む。
痛がりながら、やはりその性器は立ち上がっている。
みっともない性器にも、罰を与えなくてはならない。
きつくきつく縛り上げて、赤黒く腫れてしまったね。
苦しんで首を振るのに、性器は大きなままだなんて、とんでもない変態だ。
足蹴にしてやれば、縛ってあるのにそこからは透明な液体が溢れでる。
足蹴にされて喜ぶだなんて、とんでもない変態だ。
両足を掴んでそうすると、猿轡の向こうから、漏れ出る声。
そろそろ限界のようだ。
上も下もグチャグチャの彼から、猿轡を取る。
お前のせいで私の足が汚れた。
そう告げると、か細い声で、どうか舐めさせてくださいと、呟く。
私の足に縋り付いて、私の足を舐めながら、幸せですと、笑う。
自分の性器を自分でしごいて、幸せと、笑う。
良かったね。
監禁部屋も、こうなってしまえば、住めば都。
私のものであるから、どのようにされてもその口から苦言は一切出てこない。
そういうスタンスが私を満足させ、自身を幸福にさせることを彼はちゃんと熟知している。
だから今、私の足元に転がっているのだ。
私の衣装が黒いから、今日は黒ではなくしよう。
そういう理由で取り出したのはラップ、フェティッシュで割合好きなの。
全身をぐるぐる巻きにされて、彼はもう、身動き一つ、取ることができない。
それなのに感覚は鋭敏だなんて皮肉なものね。
脳が快感に支配されてしまった男の、なんと脆弱なこと。
這わせた指に震えあがって、この先どうなってしまうやら。
口は塞ぐが、目は塞がない。自らがどのようになっているのかを見せるため。
お前の好きなものよ。
私の言葉に、彼はこちらに目を向ける。
手に持っているのは、そう、彼の大好きな蝋燭。
欲しくてたまらないのでしょう。
この熱い飛沫に肌を焼かれることが大好きな、被虐趣味の変態だから。
ぽたりと落とした第一滴。
最初のひと雫が、最もお前に苦痛と快楽を与えること、知っているのよ。
何せ長い付き合いだもの。お前の趣味、嗜好など熟知している。
もっとも、お前も私に対して、そうなのだろうけれども。
彼の生白い肌にいくつもの蝋を垂らして、まるで絵画のよう。
キャンパスと化した彼の体に指を這わせる。
大したことはしていないのに、天を向く性器は相も変わらず。
さあ、ここにも垂らそうね。
これがメインと言っても過言ではないのだもの。
知っているのよ。
お前がここを蝋で固められるのを好んでいて、そんなお前を見下ろす私の表情があまりにも悪辣で、その瞬間が、最も幸福であること。
いつもはボンテージテープでほんの少しの隙間があるけれど、今回はラップなものだから隙間はない。
困ったものね、どうしたらよいと思う?
尋ねた私に、彼は器用にベッドを這いずる。
私の意図を彼は読み取り、彼の考えを私は察する。
引きずり降ろしてバックから。
今回は趣向を変えて、私自ら、犯してやろう。
彼は全くよく分かったもので、今まで一度たりとも、私に会う前に自らを清めずに来たことはない。
ゆっくりと差し入れた指にうめき声がこだまする。
柔らかな底にほくそ笑む。
どうしてこんなに柔らかいの?
質問に答えはないけれど、知っているのだ。彼が私に会うために、そこを柔らかく、自らの手でほぐしてきたこと。
中を十分に潤して、じつは、彼に入れるのは初めての、ペニスバンド。
寝ころんでいるから、こうするしかなかったと言えばそれまでなのだけれども。
ぴたりとくっ付いた私に、耳が赤くなっている。
そういえば彼はこんな趣味の癖に純朴だったのだと思い出す。
奥をぐりぐりと突いてやれば、私の好きな、声。
だから私も彼の好きな声で、耳元に囁く。
私のものよ。
彼を縛る魔法の言葉。
この言葉にどれほど彼が悦び、そして肉体に影響するかを知っている。
だから驚きはしない。彼が射精しないまま、後ろの穴だけで達してしまったとしても。
口枷を取ってやれば、だらしなく垂れ流される、唾液。
なんと情けないことか。
その風情が私の好むところであると知っている彼は口を開ける。ことさらに、大きく。
女王様の灰皿です、と、彼は言う。
まったく分かっている彼に、私は苦笑いしか出てこない。
両手を頂いて、恭しく。
私の吐き出す紫煙に目を閉じることもなく。
蝋で固められた性器はそのままに、そこで火を消す一本目。
蝋でできた翼で天から落ちた男の名前は何だっけと、ぼんやり思う。
もちろん灰は彼の口に落とされる。そのままそこで火を消したとしても大丈夫なのではないかと疑いつつ、もみ消す場所はいつも彼の、股間。
ああ、ダイダロスの息子だと思い至る。
女王様、と、彼は私を呼び、今何をお考えですかと尋ねる。まったく、分かっている奴隷は始末に負えない。さてなんと答えようかと考えて、そうして天啓のように思い出す、ああそうだ、イカロス、だ。
だからそのまま伝えたら、無知で哀れな奴隷は誰何するのだ。
覚えてくるのは性の知識ばっかりで、お前は少しまともに書籍くらい漁りなさいと口が酸っぱくなるほど言ったというのに。
そういえば彼も奴隷の子なのだと思い出して、目の前の蝋で固まった男と少し、重ねる。
かの人は幽閉されていて、目の前の男も私によって閉じ込められて、似ているね、と笑うと、彼は尊敬の言葉を吐き出して、だからまあ、可愛いものだと思うわけだ。
蝋で固めて火に焼いて、最後は水の中にドボン。
フィナーレだけを迎えていない。今度はそれをしてやろうと、企む。笑顔のままに口に出す。
翼など、お前に必要ないけれど。
絶望を与えるためならいくらでも、希望の光に照らしてやろう。
その後にお前を飲み込む深い闇が、快楽の渦である限り。
ちょんと座って、顔を上げてこちらを見て、質問には「うんっ」と小さく頷く、その風情に覚えがあった。
新しいこのボンテージを、素敵だって、似合うって、言ってくれたわね。
分厚い眼鏡を外させて、そっと寄り添う。
敏感な乳首は、強く強く、刺激されると気持ちが良いのだって。
全部見せて。
そう言って、寝ころばせたベッドの上。
ぷっくりと膨らんだ赤い乳首に手を伸ばす。
ぎゅっとつまめば、仰け反って喘ぐ彼を、見降ろす。
爪を立ててねじり、つまんで引っ張って、普通なら痛がるぐらいの強さであるのに、彼は喘いだ。
気持ちがいいと、叫んだ。
好きだなあと思うわけだ。私の手で善がる男は見ていて楽しい。もっと快楽を与えて、頭が変になってしまえばよい。
だから、手でこんな風なら、咬んだらどうなるの? と、尋ねた。
答えなど、もうわかりきっているというのに。
タチヨミ版はここまでとなります。
2019年2月12日 発行 初版
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数々の玄関を渡り歩き、マットとして活躍してきました。 現在は女王書店を運営。