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この本はタチヨミ版です。
はじめに
前作『怪談千夜』を出版後、「私にもこんな経験があった」「自分と同じような体験をした人がいると知り、驚いた」という、たくさんの声を頂きました。
そんな声に後押しされ、再びこのシリーズを執筆することができたのです。
私が見た。
私が体験した。
友達が言ってた。
家族が遭遇した。
みんなが見た……。
この本に載っている事は全て自分、もしくは自分が知っているだれかが実際に見聞きした話。
その中には不思議なことに、自分が体験した怪奇現象と同じ出来事もあるかもしれません。
なぜなら、それらは現実に起こった事象だから。
この本にはそういった話を、九十九話載せています。
え? なぜ百話ではないのか……?
『百話目の怪談を知ると、自らの前にも怪奇が訪れる』
それが江戸時代からの言伝えだからです。
ああ、失礼しました。
あなたもお持ちだったのですね、百話目の怪談を……。
初めは一滴の血痕だった。
朝起きて、寝室から出ると、廊下に一滴の赤さび色の、まるで血痕のような丸い液体状の痕が残っていたのだ。
「だれかケガでもしたのかな?」
そう思ったものの、自分はもちろん、家族のだれも、そして一緒に住んでいるペットたちにも怪我をした形跡はなかった。
だが、この現象は続いた。
明くる朝も、その次の日も、毎日、毎日、廊下やリビング、階段やキッチンなど、至る所に赤さび色の血痕が残されているのだ。
一滴。
時には数滴の血痕。
数時間が経過したかのようなその血の痕は、私が毎日のように床を拭いても、翌朝には再びその痕を残していく。
あるときなど、壁紙にポツン、ポツンと、まるで血の付いた手を振り払ったかのような血痕が残っていたことすらあった。
深夜、仕事部屋から出ると、廊下にポツリと乾いた血痕に気がつくこともある。数時間前まではなにもなかったのに。
最近では、家主が寝ていたベッドのすぐ側に血痕が落ちていたこともあった。
この現象はいまだに続いている。
謎のままに残され続ける血痕。
その血痕を見ながら思った。
私の周囲で起こり続ける怪奇現象は、まだ終わってはいなかったのだと。
先日、私は夫と一緒に犬の散歩に出た。
時刻は夜の十一時過ぎ。
安全の為に、住宅街を抜けるルートを選び、私たちは歩きだした。
住宅街といっても、古いアパートや無人となった家屋が目立つ、昼間でも寂しい場所だ。
夜ともなれば、電気がついている窓を見つけることすらできない寂しい道を、羽虫の集る薄汚い街灯だけを頼りに歩いて行く。
途中、小さなドブ川に橋がかかっており、そこを抜けるといよいよ道が狭くなる。
無人の一軒家と、荒れ果てたアパートの間にある道は、人ひとりが通るのが精一杯の道幅だ。
そんなところにポツン……と自転車が置かれていた。
犬は置かれた自転車のわきをするりと抜けていくが、私も夫も空き家の塀とアパートの階段の下に置かれたその自転車の隙間を、身体を横にしてどうにか通るはめになってしまった。
「邪魔だなぁ……」
自転車の横を通り過ぎながら、思わず呟く私。
その時、置かれていた自転車のすぐ後ろの暗がりに、恐らくこの自転車の持ち主であろう、若い男の子と女の子が座っていることに気がついた。
(あ、聞かれちゃったかな)
恨めしそうな目でこちらを見ているカップル。
私は、彼らの逢瀬の邪魔をしてしまったことに小さく苦笑いし、慌てて一足先に広い通りに出ていた夫の元に駆けつけた。
「今さ、思わず『邪魔』って口に出しちゃったんだけど、あのカップル、自分たちが邪魔だって言われたと思っちゃったかな。可哀想なことしちゃった」
そう話す私に、夫は小さく首を傾げた。
「カップルなんていた?」
「自転車のすぐ後ろ。階段の横のところにいたじゃん」
「いたかなぁ? 暗くて何も見えなかったけど……あそこ、街灯の明かりも届かないし、変人が座ってても気がつきにくくて、危ないなーなんて思ってたけど」
「………………」
言われてみればそうだ。
街灯はアパートの反対側にしかない。
足元がギリギリ見えるか見えないかの暗がりで、さらに無人アパートの階段の影になっているところに座っているカップルの顔が、どうしてあんなにもハッキリ見えたのだろうか。
でも、確かに私は見ていたのだ。
青白く浮かび上がっていたカップルの姿を……。
今回、怪談千夜の二巻を書くにあたり、結構な人数の人に取材させてもらった。
そんな中、意外に多かったのが『UFO』の話だった。
怪談とは少し異なるが、あまりに『UFO』の話が多かったので、少し書かせてもらおうと思う。
「霊なんていないよ」と言っていた、行きつけの整体院の院長は「UFOは実在しているに違いない」と断言していた。
その院長の話によると……。
数年前の元旦。
友人と二人で千葉県のとある岬まで初日の出を見に行った帰り、ひとけのない海岸の道路を走っていると、助手席に座っていた友人が突然、「あれはなんだ!?」と大きな声を出した。
その声につられて空を見上げた院長は、既に明るくなった空に円盤状の銀色に光る物体が静止しているのを見た。
飛行機や飛行船なら移動するはずだし、バルーンだとしても形がおかしい。なにより、こんなひとけのない海上でバルーンを上げたところで、なんの宣伝になろうというのだ。
その銀色に光る物体は、院長が車を道路脇に停めても、まだそこに静止している。
「あれは一体……?」
そう呟いた瞬間。本当に突然、銀色に光る物体が消えたのだ。
移動したとか、着水したとかでもなく、まさに『パっ』といった感じに、瞬時に消えてしまったらしく、それを見ていた友人も「あ……っ!?」と言ったっきり、互いに顔を見合わせるばかりだったそうだ。
そんな『UFO』目撃情報なのだが、面白いことに、他の人との話と共通していることが多々ある。
私の取材を受けてくれたFさん、Kさんという方がいるのだが、彼らもまた、銀色に光る円盤状の空飛ぶ物体を見たことがあると言う。
Fさんは仕事の帰りにバスに乗っていると、山の上の方に光る銀色の物体を見つけたというのだ。
それはしばらくの間空に静止していたかと思うと、次の瞬間、『パっ……』と、移動したわけでもなく消えたそうだ。
特にFさんが住んでいる場所は、日本でも有数の未確認飛行物体が現れる地域として有名なところなので、非常に興味深い。
そして、Kさんは幼少期、マンションの上の階から外を眺めていたところ、銀色に光る円盤状の物体が、夕陽を反射しながら静止していたのを見たことがあると言っていた。
その時も、しばらく同じ場所に微動だにせず浮いていた円盤状の物体が、『パっ……』と突然消えたそうだ。
残念なことに、私自身は色々と不思議な出来事に遭遇することはあっても、UFOは見たことがない。
だがきっと、幾億光年の広大な宇宙には、この星を見つけ、監視している『地球人以外の生命体』がいると信じている。
そうそう、私には、飛行機の機長をしている知り合いもいるのだが、彼に「フライト中にUFOを見たことはないのか?」と尋ねたことがある。
その時、彼は口元を歪めるような笑みを浮かべ、こう言った。
「それは、言えない」
未確認飛行物体といえば、釣りにハマっている夫が、千葉県のとある海岸で遭遇した話がある。
その日は夜釣りをしようと、夜九時くらいから防波堤で釣り竿を下ろして魚がかかるのを待っていた。
あいにくと曇りで、夜でもハッキリとわかる程黒い雲が空を覆い尽くしている。
だが、波止場の明かりで手元は見えるし、夫以外にも五、六人の釣り人がおり、周囲は和やかな雰囲気だった。
やがて一時間くらい経った頃だろうか、突然、空からゴゴゴ……と飛行機が通るような音が響きだしたのだ。
なんの音だろうと不思議に思って空を見上げた夫は、そこに広がっていた光景を見て驚いた。
空一面を覆い尽くす雲の上から照らすように、バーっと光の道が一本、東京方面から千葉の方へと伸びていたのだ。
堤防の端から端までを余裕で覆うほどの、かなり幅の広い光の道で、轟音と共に雲の上のなにかが千葉の方へ向かって飛んで来るにつれ、光の幅が段々と狭くなり、やがて消えていってしまった。
これは夫以外の複数人の釣り人も目撃しており、「あれはなんだったんだ」と、一時騒然となったらしい。
「飛行機やヘリだったら光の道ではなく、丸い光の点が流れていくはずだろ? でも、あれは違ったんだ。光の道がバーっと出来て、その光の道をなにかが辿るようにして、移動して行ったみたいなんだよ」
そう熱弁する夫は、あまりに一瞬の出来事で、動画を取り忘れたことをいつまでも悔しがっていた。
行きつけの整体院の院長は、幽霊を信じていない割に、不思議な体験が多い人だ。
そんな整体院に先日行ったところ、突然院長が私に、目の前で自分の携帯に電話をかけて欲しいと言い出した。
よくわからないままに電話をする私。院長の携帯は音を立て、私の着信を知らせている。
「やっぱり……」
そう呟いて、私に電話を切るように言った院長は、こんな話をしてくれた。
一昨日の晩なんですけどね、このスマホが着信を知らせてきたんですよ。
でも……着信番号が出るわけでもなく、受話ボタンも出てこない。
ただ、着信音が鳴り続けるだけ。
僕はどうすることもできず、ただ鳴り響く電話を眺めるしかなかったんですけどね。
そのうち三十コールくらいして着信音が止まったんですが、なにをどう調べても着信履歴が残っていないんですよ。
タチヨミ版はここまでとなります。
2019年4月19日 発行 初版
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ホラー・恋愛小説・ファンタジーの三柱を好む。
執筆活動だけではなく、イラスト作成・ゲーム作成・アクセサリー作り・写真撮影など、マルチにクリエイティブな活動をしている。
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イラスト作成からデザインまでこなす二児の母。
ジャンルを問わず幅広い活躍をしている。