この度、月刊誌「無色」を発刊することになりました。内容は2000文字程度の作品を六篇収録したものです。毎月その月の出来事やキーワードを設定しております。
タイトルを「無色」にしたのは「無色出版」から出版することと共に、読者の方がこの作品を読み終えた後に今号は「こんな色だったな」と感じてもらえるようにするためです。
新作を書き下ろした作品を収録しています。さらにサラッと読めるように各話ショートショートで綴っています。
毎月発刊することが決定しておりますので、お楽しみにしていただければと思います。
それでは、月刊誌「無色」をお楽しみください。
───────────────────────
───────────────────────
この本はタチヨミ版です。
ここに来て就職難。
「御社で三十社目なんです!」
私は声荒げて面接官に告げる。そんなことはどうでも良いと言わんばかりに、面接官は冷静かつ沈着に質問を投げかけてくる。
「我が社をご希望された理由は?」
出た。定番の質問。大体この手の質問は三十社も受けてくれば流し方を知ってる。つもりだ。
「外国語学部で得たコミュニケーション力と通訳という御社の求めている会社理念に最も適していると感じたからです」
よし! 想定内。私は心の中でガッツポーズを作ってみせる。
「なぜ、外国語をそれもスペイン語を専攻したのですか?」
これも想定内の質問だ。
「英語次いで、公用語としている国が多かったからです。英語とスペイン語を話すことが出来れば、色々な国で通訳として、また、ツアーコンダクターとして力量を大いに発揮すると思っています」
「なるほど。しかし、ツアーコンダクターを目指す中でなぜ我が社を選んだんですか?」
おっと、ここで予定外の質問。
「三十社目で早く内定が欲しかったからです」
なんて口が裂けても言えない。
「御社の社風にとても魅力を感じました。単純にツアーコンダクターとして働くだけでなく、各地にあるお寺などにズームアップしたという点で私は御社の一員として、全国にある歴史溢れる箇所を他国から来られる外国人に興味を持ってもらえるよう尽力したいと思っています」
なんとか乗り切った。しかし、事実だ。嘘は一つもついていない。ツアーコンダクターになって外人に寺社仏閣の習わしや歴史を伝えたいという言葉に間違いはないのだ。
「ほぅ。では、寺社仏閣の歴史なども勉強してきたのですか?」
ふふふ。私はスペイン語と英語を勉強しながら専門選択科目で日本の歴史や習わし、他国との文化の違いなども勉強していたのだ。
「はい。私は外国語を学ぶと共に我が国、日本の歴史などを学習していました。それらの授業はとても楽しく、どこまでも日本史を勉強していくことで、背景が見えてきたり、各国との文化の違いを勉強するのも全く苦ではありませんでした」
ほら、見てみてください。私の堂々とした態度を。これが三十社を受けてきた努力と根性の成果だ。十分にそれを伝えると、私はつい、どや顔になってしまった。
「君は面白い人だね。まるで各地の寺社仏閣を隅から隅まで巡ってきたかのように聞こえる。我が社に是非欲しい人材だ。ツアーコンダクターというより日本の歴史や文化の違いをも制覇する人材になりそうだ。ましてや、そこまで勤勉家であるのなら初めて行く寺社仏閣を研究して調べ上げるのも得意そうだ」
やった! とうとうこれだけの好印象を得ることが出来た。
「はい! 尽力させていただきます。語学を含め、各地の寺社仏閣だけでなく、特産品などありとあらゆるものを調べさせていただきます!」
「そのガッツはこれからの我が社にとって希望の星、ホープとして力量を測らせてもらい、後日通知を送らせてもらおう」
「はい! よろしくお願いします!」
私は面接室を出て、すぐにガッツポーズを作って「よしっ!」と言ってしまった。すると、目の前で泣き崩れている就活生を見て、小声で「すいません」と告げて会社を後にした。
――数日後
私はポストを確認すると、一通の封書が入っているのに気がついた。「まさか!」と思い、その場で封を開ける。中を開けると念願だった通知書が出てきた。
「内定通知書」
やったよ! 面接三十社目にしてようやくの内定! 通知書を強く握りしめた。そして、時は巡り、入社式の日を迎えた。ピシッとしたスーツとリクルート用の靴を履き、会社へ向かう。これからは学生ではなく、一社会人としての一歩を踏み出すのだ。
「ここへ入社した以上、我が社の社訓に則って、一従業員として誇りを持って仕事に励んでもらいたい。以上!」
入社式を終えると、すぐに新人研修が始まった。私は関西圏のツアーコンダクターとして職務についた。関西圏の大学だったため、今まで勉強してきたことも少なからず活きてくると踏んでいたのだが、いざ実践となるとコトは簡単ではなかった。
「君たちはまだまだ知識不足で、言語もろくに話せない人もチラホラみられる。もっと社会人ましてや我が社の社員として責任を持ってもらいたい! 肝に銘じるように!」
これが社会なのだと痛感した瞬間だった。私はそのあとたくさんの研修を受けたが、まだまだだと感じられさせられた。コレが就職。コレが入社。コレが社会人。
思い描いていたものとは違うように感じたが、これが就職することでこれからも知識や語学を積み上げていかなければならない。そう感じたのだった。
タチヨミ版はここまでとなります。
2019年4月13日 発行 初版
bb_B_00159034
bcck: http://bccks.jp/bcck/00159034/info
user: http://bccks.jp/user/141249
format:#002t
Powered by BCCKS
株式会社BCCKS
〒141-0021
東京都品川区上大崎 1-5-5 201
contact@bccks.jp
http://bccks.jp
1988年12月14日大阪府門真市生まれ。高校時代にケータイ小説ブームの中、執筆活動を開始。
関西外国語大学スペイン語学科を卒業。大学一年時、著書である長編小説『突然変異~mutation~』を執筆。同時期において精神疾患である「双極性障害Ⅱ型」を発病。大学卒業後、自宅療養の傍ら作品を数多く執筆。インターネットを介して作品を公表し続け、連載時には小説サイトのランキング上位を獲得するなどの経歴を持つ。その他、小説のみならずボイスドラマの脚本・監督・マンガ原案の作成・ボーカロイド曲の作詞など様々な分野でマルチに活動。闘病生活を送りながら、執筆をし続けることで同じように苦しむ読者に「勇気」と「希望」を与えることを目標にしながら、「出来ないことはない」と語り続けることが最大の夢である。