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ささいなことがきっかけでクラスのいじめられっ子になってしまった小学6年生のひろ子。
中学生になると、いじめはさらにエスカレート。
親に心配をかけないよう、ひとりで何とか乗り切ろうと思ったが、とうとう学校に行けなくなってしまう。

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いじめられっ子

haru

harubk出版



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きっかけ

 私はいじめられっ子。
 今は中学1年生。
 いじめが始まったのは小学6年生の時だった。

 朝の読書の時間、先生がいないのをいいことに、男子がいつもうるさくて、読書なんか全然していなかった。
 それで、私と友だちとの3人で話し合って、この問題を先生とみんなに相談しよう、ということになった。
 放課後の帰りの会で提案することにして、みんなの前で意見を発表するのは、私、ということに決まった。

 授業が終わって、帰りの会が始まったので、私は「はい」と手を挙げて、みんなの前に立った。そして「男子が、朝の読書の時間、おしゃべりをしていて、読書をしていません。男子はちゃんと読書をしてほしいと思います。」と言った。
 先生が言った。「そう思う人は手を挙げてみて」
 すると、1人も手を挙げてくれなかった。相談した友だち2人も下を向いて、手を挙げてくれなかった。私はびっくりした。
 そして先生が言った。「そう思っているのは岡田さんだけみたいだね。じゃ、帰りの会を終わります。」
 私は、本当に信じられなかった。友だち2人は手を挙げてくれると思ったし、先生も注意してくれると思ってた。それがこんなことになるなんて。

いじめの始まり

 次の日、「おはよう」って言って教室に入ると、だれもあいさつを返してくれなかった。女子は私から離れたところで、こっちを見ながらひそひそ話をしてた。
 休み時間になっても、誰も相手にしてくれなかった。仲の良かった友だちも、私のことを無視して、他の友だちのところに行ってしまった。
 他にも、その日から、悲しいことがたくさんあった。くつ箱に行くと私のくつがなくなっていたり、いすの上に画びょうがたくさん置かれていたり。机からノートを出すと、表紙に大きな字で「バカ」と書かれてあったり、それ以外にも、たくさん、たくさん。

「これが“いじめ”なんだ…」
 まさか自分がそんなことになるなんて思ってもみなかったから、どうしようもなく悲しくなったけれど、どうすることもできなかった。
 学校に行きたくなかったけど、私を一人で育ててくれたお母さんを悲しませたくなくて、いじめられていることを秘密にして、登校だけはなんとか続けた。
 先生に相談しようかとも思ったけど、そのことで、いじめがエスカレートすることのほうが怖くて、とても相談できなかった。
 毎日いろんな悲しいことや怖いことがあったけど、なんとか、誰にも心配をかけずに小学校を卒業することができた。

中学校入学

 でも、中学生になると、いじめはさらにひどくなった。
 私の通う中学校は、地域の2つの小学校が合同で入学するから、クラスメートの半分は、初めての人たちだった。そして、入学初日、となりの席に座った子と、いろんなおしゃべりができて、私は、本当に久しぶりに楽しい学校生活が始まると思っていた。
 でも、2日目からは、またいじめが始まった。となりの席の子に話しかけても無視された。それから、「死ね」というメモといっしょに、枯れかかった花が1本、私の机に置かれていた。給食には、死んだハエを入れられた。机に入れていた教科書を全部隠された。テストになると、「先生、岡田さんがカンニングしています」と言われた。

 私はもう限界だと思った。中学校で「新しい学校生活が始まる」と少し期待していた分、ショックは大きかった。私は存在している意味がないから、死にたいと思うようになった。

 ある朝、目が覚めると、お腹が痛くて、頭も痛くて、全身に力が入らなくて、ベッドから起き上がれなくなった。そして、とうとう学校に行けなくなった。

お母さんに告白

 そんな状況に、お母さんが心配しないわけがなくて、「一体どうしたの、学校で何かあったの」と聞いてくれても、なんて話していいのかわからなかった。
 お母さんを悲しませたくなくて、自分で何とかしようと思ったけれど…。
 結局、学校に行けなくなって1週間目に、やっと、お母さんに今までのことを話すことができた。
 お母さんは、私の話を聞いて「そうだったの…」と涙を流していた。“ああ、やっぱり話さなければよかった”と後悔した。

 でも、お母さんは次の瞬間、
「ひろ子、何かしなくちゃ、このままずっと変わらないよ。勇気を持って、まず先生に相談しようよ。」
と言った。
 予想通りの展開に“やっぱりそうか”と失望した。
 小学校のときの先生のことがあったから、先生なんて頼りにならない、と思った。
 でも、何も知らない今の担任の先生に、私がいじめられていることを相談したい、助けてほしいという気持ちはずっとあって、今までどうしても言えなかったから、背中を押された気がした。
 学校で相談してしまうと、クラスのみんなに知られて、いじめがさらにエスカレートする可能性があったから、先生に、家に来てもらうことにした。

先生に相談

 次の日、先生が来てくれた。杉本めぐみ先生という、若い女の先生だ。
 お母さんは、開口一番、
「先生、うちのひろ子、いじめられているんです。」
と単刀直入に言った。
 杉本先生は、真剣な顔で、うなずきながら言った。
「担任になって、まだ日も浅いのですが、“もしかして”と思っていたんです。でも、ひろ子さんの置かれている状況を考えると、どうしてあげればいいのか、悩んでいたんです。本当に申し訳ありせん。今日はお呼び頂いて、本当に感謝しています。」
 私は、杉本先生が、私のことをそんなふうに考えてくれていたなんて思いもしなかったから、その一言だけでも、本当に救われた気がした。
 そして、小学6年生からどんなふうにいじめられてきたかを全部話した。
 杉本先生はひとつひとつ、うなずきながら、真剣に聞いてくれた。
 私は、話し終わった後、“どうしてそんなことになったのか、自分自身に思い当たる原因はある?”と、聞かれるとばかり思っていたけど、先生は全然、そんなことを聞かなかった。
 そして、
「ひろ子さん、本当につらかったわね。でもガマンして、本当によくがんばったわね。」
と言ってくれた。
 私は、今までの辛い気持ちが全部わきあがってきて、初めて声をあげて泣いた。

 次の日、私は登校した。杉本先生という味方がいると思うと、とても心強かった。
 その日も、くつは隠されていたし、「バカ」とか「アホ」とか「学校に来るな」などと書いてある紙きれが、机の中に入っていた。

”いじめ”の授業

 1時間目は杉本先生の授業だった。先生はいきなりみんなに質問した。
「この中で、いじめをしたことがある人」
 みんな、少しびっくりしていたけれど、当然、手を挙げる人は誰もいなかった。
「うん、そうだよね。今日は授業を変更して “いじめ”について、みんなで考えてみたいと思います。最近、テレビでも話題になってるよね。じゃあ、アンケートを配るから、みんなそれを書いてみて。名前は書かなくていいです。」
 一番後ろの私の席にもアンケート用紙が届いた。そこには、
「次の3項目の中から、自分の考えに近いものに、まるをつけましょう。 そして、その理由を書きましょう。
①いじめは、するほうが悪い
②いじめは、されるほうが悪い
③いじめは、両方悪い」
という内容だった。
 私は実際、いじめられてきたけれど、自分に何か原因があるんじゃないか、と自分を責める気持ちもあった。だから、“③両方悪い”にまるをして、その通りに理由を書いた。
 10分ほど記入する時間をとって、アンケートは先生のもとに回収された。先生は手早くその集計をし、みんなの考えを円グラフにして、黒板に書いた。結果、
①いじめは、するほうが悪い 3人(10%)
②いじめは、されるほうが悪い 20人(67%)
③いじめは、両方悪い 7人(23%)
つまり “いじめは、されるほうが悪い”という考えが圧倒的だった。
 先生は言った。
「先生の考えを黒板に書きます」
 そして、黒板に大きなまるを書いて、その円グラフに“①”とだけ書いた。つまり“①いじめはするほうが悪い”が100%という意味だ。

 みんなの中から「えー」という声があがって、教室はざわざわと騒がしくなった。
 先生は、みんなのアンケートをピックアップして紹介した。
「まず、①するほうが悪い。理由、いじめられる人がかわいそうだから。
②されるほうが悪い。理由、いじめられる人に原因があるから。
③両方悪い。理由、いじめは悪いことだけど、いじめられる人にも原因があるから。
 この結果を見て、先生、思ったんだけど、一番多かった“いじめられる原因”って、何かしら。」
 先生が質問すると、みんなそれぞれ、席の近い友だちと、ひそひそ話を始めた。
「てゆーかさ、あの子のせいで、バレーボール、いつも負けちゃうし。」
「リコーダーも下手だよね。あの子のせいで、合奏が全然仕上がらないし。」
「暗いんだよね。自分から友だちを作ろうとしないし。」
「目つきも悪いよな。なんか、にらまれてる感じがする。」

 ひそひそ話で聞こえてくる意見は、全部、私のことだってわかっていたから、私はいたたまれなくなって、教室を飛び出したい気持ちでいっぱいになった。
 先生は、ひそひそ話がおさまらない中で、言った。
「このアンケートでは“いじめはされるほうが悪くて、いじめられる人に原因がある”という意見が一番多かったけど、いじめることで解決する問題ってあるのかな。」
 教室は、静かになった。
「自分たちの思い通りにならない人に対して、嫌がらせをする、そうすることで、何かが良くなるのかな?」
 先生はクラスのみんなを見ながら、言った。
「バレーボールが苦手そうだったらアドバイスしてあげればいいし、友だちを作ろうとしないんだったら、こっちから声をかければいい。先生はそう思うんだけど、どうかな。
 先生は、いじめられる理由なんて、もともと誰にもないと思うし、いじめで解決する問題なんて、1つもないと思う。だから先生の円グラフは、100%、“いじめはするほうが悪い”っていうことなのよ。」
 先生の話を聞いて、びっくりしている人もいれば、うつむいている人もいた。先生の円グラフをじっと見つめて何かを考えているふうな人もいた。
 いじめの対象になっている私自身が、「何が悪いのかな」って、自分を責め続けてきたから、先生の話を聞いて、信じていいのか悪いのか、わからなかった。
 そこでチャイムが鳴って、1時間目が終わった。

授業の翌日

 次の日、登校すると、久しぶりに、くつ箱のくつがちゃんとあった。教室に入ると、「おはよう」とあいさつをしなくなった私に、「おはよう」と声がかかった。
 それから、机の中にたくさんの手紙が入っていて、私は「また嫌がらせか」と思ったけど、いつものようなぐちゃぐちゃの紙きれじゃなくて、かわいい便せんや、ちゃんとしたメモ用紙ばかりだった。私は、新しいいじめか、と思ったけど、なんだかいつもと違うから、封筒を開いて読んでみた。すると、「ひろ子ちゃん、今までごめんね」ということが、どの手紙にも書いてあった。
 手紙には、他にもいろんなことが書いてあった。
「ひろ子ちゃんをいじめる理由なんてないのに、みんなの目がこわくて、みんなといっしょにいじめてしまったんだよ」
「家の両親のことでむしゃくしゃしてて、ストレス解消に、岡田をいじめてたんだ」
「体育の時間のバレーボール、岡田さんが不得意だとわかってて、イライラして、アドバイスもせずにいじめてしまった」
 どれも、今までのようなひどい内容は、1つも書かれていなかった。
 すると、となりの席の子が教えてくれた。
「昨日、ひろ子ちゃんが帰ったあと、みんなで話し合ったんだよ。1時間目の杉本先生の円グラフ、みんなびっくりしていたけど、確かに、いじめで解決できる問題なんて、1つもないねって。ひろ子ちゃんに悪いことしたねって。みんなすごく反省して、ひとりひとり、ひろ子ちゃんに謝ろうっていうことになったんだよ。ひろ子ちゃん、私も謝るね。今まで無視して、本当にごめんね。」
 私は、自分が帰ったあとに、そんなことがあったなんて知らなくて、本当にびっくりした。
 その日の休み時間、いろんな子が照れくさそうに話しかけてくれた。「お昼休みに、バレーボール、いっしょにしようよ。レシーブが上手になるひけつを教えてあげるよ。」とか、「リコーダーのテストの曲、いっしょに練習しよう。」とか、「今度の遠足の時、いっしょにお弁当食べようよ。」とか、私はもう、誰が何を言ったのかわからないくらい、話しかけられたり、謝られたりした。

 背中を押してくれたお母さんと、すぐに対応してくださった杉本先生のおかげだなあって、心から感謝した。
 なんでも1人で抱え込まずに、誰かに助けを求めて相談することって大事なんだなって、気づいた。

 次の日、私はお腹も頭も痛くならなかったし、朝からごはんもいっぱい食べて、登校することができた。
 その日から、私の楽しい学校生活が始まった。

いじめられっ子

2019年4月16日 発行 初版

著  者:haru
発  行:harubk出版

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