spine
jacket

───────────────────────



僕らを唄うラブソングは、水色に死ぬ。

「糸」

群青出版



───────────────────────





馬鹿みたいに泣いてる私は


失恋ソングの標本になりそうだよ。


ブレーキの音に紛れて、
春は始まった。瞬間、桜は散った。
それを「終わり」と言ってしまえば、
舞散ったこの赤さは何なのだろう。
誰の為なのだろう。誰のせいなのだろう。
僕と似た形のソレが桜に変わる時、
春が始まる合図のようで。


    「はなびら」


あなたの声は、私の耳元でしか生きれない。
外の空気に触れたら死んでしまうんだよ。
ふわり、ふわり、羽もないのに。
浮かんで、屋根を超えて、破裂しそうで。
ううん。あなたの声の話じゃないよ。
私の話。
あなたの声は、私の耳元でしか生きれない。
だから私は、あなたの声でしか、
息が出来ない。


     「=酸素」


星の数が僕を超えた時、
それはきっと夢の終わりで。
八方塞がりの未成年と変わりなくなって、
全て死ぬ前に、逃げるのをやめた。
手前に落ちた希望を見て見ぬふりしても、
大丈夫だよ。夢の終わりに意味は無いから。

君が星になった時、
それはきっと僕の終わりで。


     「星数」


美しくない。
見た目だけが全てなら、
きっと、この世界は完璧だ。
そうでもしないと救われない。
目がある理由が、
たまに分からなくなるんだよ。

だから。

あなたも、世界も、思い出も、
今日はまだ、美しくない。

    「美しくない」


バケモノにならないといけないな
人間のままだと笑えないな
そんな世界にしたのは、
バケモノですか人間ですか。
「私のせいじゃないよ」
どこかの誰かがそう言ったから、
目を閉じて両足に羽を生やしたんだ



「足羽」



イヤホンの絡まりも全部君の為なんだよ。
って。そんな訳ないじゃん。
とは言えない弱さで、静けさで、
私は今日を生きている。
心に絡まった糸を引きちぎれない優しさで、
私は明日を産んでいる。



「絡まり」



心臓を打ち落として。
君はまだ人間だよ。
だから落ち着いて狙いを定めて。
手の震えはもうすぐ収まる筈だから、
視界の濁りも潤いも終わりまでは現れないから。
だからどうか早く、打ち落として。
僕はもういないから。
それでも君はまだ、人間だよ。


「射撃」



透明でした。人間でした。
後頭部から溢れ出た現実は思い出でした。
それは透明のままで溺れ続けて、
いつか手を繋げばいいなって他人事のよう。
永遠でした。二人でした。
数年前からずっとあなたは透明でした。

透明でした。

振り向けばあなたは鮮やかでした。


「透明人間」



知らない青は透明でいてほしい。
見えないところで、色を亡くしてほしい。
後ろ側から、迫ってきた。
私は後ろを振り向かず、襟足を生贄に、
青という色を忘れてしまうくらいに、
透明でいてほしかった。


「透ける青」


私が死体になったら、
目の玉を溶かしてそこから綺麗な花を咲かせて
死んだその日にも綺麗な世界を見させて。
そうでもしてくれないと、
死ぬ事に意味なんてないんだよ。
生きるだけの意味じゃ疲れちゃうよ
ってさ。あの子も言ってたからさ。
お願い神様。ああ、花が咲きそうな朝。


     「死体花」


一杯の水を地面に零して、
溜息を吐いてみたい。
その溜息に誰か反応してほしい。
濡れた地面を踏みながら、
昨日買ったばかりの本を読んでみたい。
数分後にはその本を捨てて、
知らない音楽で踊ってみたい。
数分後にはイヤホンを捨てて、私は。


「いつかのはなし」


夜空は盲目で、僕だって見つかりやしない。
だから朝には目が覚めて、光の下で手を振った。
やっと見つかったのは夜の手前で、
少しだけ安心してしまったから、
僕はもう、夜空の一部になってしまったのだろう。
夜空は盲目だ。
君の心みたいな、夜空は盲目だ。


「夜空は盲目で。」


君が飴玉を舐め終えた時、
世界が終わってしまいそうだな。
だからきっと、
甘さや硬さや懐かしさに濡れる君の口の中は、
僕が一番欲しかった空間で。
ただ、恨めしく見つめる。
その中で何が起きてるのか分からない口を、
ただ見つめるだけ。

でもそんな空間なんかに名前なんてないから、
今とりあえず、
世界だと思っておくよ。
君が飴玉を舐め終えた時、
世界が終わってしまいそうだな。
だから、君が飴玉を舐め終えたら、
一度でいいからキスをして。



「世界、溶ける」


あなたに触れたら
消えてしまいそうな私は可愛くて。
純白を見上げていた。
そのまま時が止まって、標本にでもなれば、
誰かが価値を付けてくれるのだろう。
日に日に薄れてゆく私を最愛に、
若さで溶かした言葉は盾にして。
今日も、消えそうな私は美しかった。


「少女消失」



唯一の現実逃避は夢の中で、
僕ら、全身で逃げ回る。
前進、後退、敗退、幽体、
繰り返して嫌になって投げ捨てたくて
孤独には今日も味はしないから、
僕らの瞼の裏はそれぞれの唯一無二が踊る。
それでいいから、
今はまだ、現実逃避を繰り返せばいい。


「逃亡劇」



夜が終わる。

だから私は人間に戻ろう。

黒に紛れる時間は短いよ、と首根っこを掴まれる。

命の震えは朝に沈む。だからあなたは星になる。

消えない時間に祝福を、消せない傷に優しさを。

私は、人間に戻ろう。


「夜の終わりに」



影を踏んで独りを知って
煙で目が染みる事を知ったから
私は今を生きている
二時間半後に明日になるね
煙を泳ぐ瞳が軌跡を作る前に
私は今日と心中してあげる

「それでいいや」でまた明日。


「影踏」



三秒間で君が死んで、春が来て。
雨は地面に生えてきて、
それでも身体は当然を連れて来る。
四秒経ったら、春も、死んだよ。
地面が私だけになった時、
きっとそれが現実なんだって
目を瞑る。瞼の裏には春が在る。


「瞼の裏で春が咲く」



日々音楽は死んでいく。殺される。
あなたが私を嫌いになった日、
私より先に音楽が死んだ。
「この曲オススメだよ」なんて
その日から鳴り始めた音楽を
私は愛してた。きっと愛されていた。
日々音楽は死んでいく。

私は生きていく。
日々、音楽は産まれてく。


「音楽は死んでいく」



欲求の外側から、水を流して、
今を固めて、とりあえずの形にして。
それを横目で流してあげる。
それは私なりの優しさで、
一瞬でも産まれてくれた欲に対する優しさで。
今の形がここにあったと、
覚えててあげるから。


「欲望」



歌えよ踊れ。脳の奥で悪魔が笑うよ。
何もかも知らないから勝手にしてよ。
なんて、私には関係の無い音でいっぱい。
私だけの世界はきっとこの世の反対で、
その反対側から声が聞こえる真夜中。
真夜中のラブソングって私は言う。
私を一番愛する私。
そんな私を幸せにする私だけの世界。
この世の反対。私の裏側。待っててね。


「真夜中の唄」


春の中で君を見つけた。
それなのに桜は大切を隠してしまうから、
私は指先でかき分けた。
でも君は春の中から出てこないから、
一面が花色に染まる前に私もそれにして。
二つの色が混ざらないならせめて
私もそれにして。
君と同じのピンク色に染め上げて。
指先が、春に触れた気がした。


     「春色、染まる。触れる。」


横断歩道で明日を渡って
自販機の灯りは孤独を歌った
知らない誰かの知らない話
なんにも知らない僕らは夜に命を浮かべる
沈まないように波を与える
それでも自販機が照らすから、
誰も知らない今日がまた始まった。


     「今日」


夏の空に小指をぶつけたよ。
そんな思い出だったから、
記憶の中で私は光に目を瞑る。
後々痛みはやってくるから、
それまでは暑さに嫌味を吐き捨てて。
夏が終わるよ。夏の空が沈む。
次の空が天井を埋めた時には、
あなたはきっと思い出の中で笑っていて。


     「夏空」


夏が終わる。だから僕らは、大人になる。
悴むことを恐れつつある僕の手は、
「将来」という化け物に食い殺されかけていた。
安定した土台の上に乗れない事が、
不幸だって言われてしまえばそれまで。
それでも。
僕は、僕らは。
夏が終わる。だから僕らは、

音を鳴らす。


     「君の音が始まる」


雨を言葉のせいにして
私を溶かしてはくれなかった
だからそれでも最前列で それを待った。
私の憂鬱は雨上がりに死んでしまって、
頭上に広がる最愛に気付く前に眠りについて。
触れようとして、手繰り寄せたくて、
掌で弾ける透明に君はいなくて、
ただ、私だけの空が浮かんだ。


     「私だけの空は浮く。」


春が落し物をしたらしい。
僕らが気付かないから、
ポケットから逃げ出したんだろう。
それは僕らを見つめてた。
地面に頬を擦り付けて、
笑顔でも涙声でも怒号でもない揺らぎで、
それは僕らを見つめてた。
春が落し物をしたらしい。
だから僕らは、春に出会えば涙に濡れる。


     「落し物」


ほら、あの子も、あの子も、
みんなみんな、恋の歌に支配されてるよ。
歌声だけなら、きっと幸せだよ。
伴奏だけなら、それも幸せだよ。
音楽であるうちは、きっと幸せ。
恋の歌が耳から漏れてしまったら
あの子も私も唾を吐いてしまうだろうから
やっぱり、恋は歌のままでいいや。


      「恋は歌のままで」


襟足があなたを超えた時、
夏が終わった。八月を終えた。
あなたの声も、波音に連れ去られる。
花火が消えたら、もう戻れない。
それが良いんだって、
儚さは美しいんだって、
私にはまだ分からなかった。
明日、私は髪を切る。


     「襟足と夏」

僕らを唄うラブソングは、水色に死ぬ。

2019年7月27日 発行 初版

著  者:「糸」
発  行:群青出版

※SNSはやってません。

bb_B_00159721
bcck: http://bccks.jp/bcck/00159721/info
user: http://bccks.jp/user/142640
format:#002t

Powered by BCCKS

株式会社BCCKS
〒141-0021
東京都品川区上大崎 1-5-5 201
contact@bccks.jp
http://bccks.jp

人間 イト

2016年より執筆を開始。 2018年 個人出版社を設立。 詩集をメインに販売中。(Twitterにて販売中) Twitter:@ningen_ito

jacket