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二人の男女の様子は入れ替わった。だが、会話の問題は変更されていた。姫と新は、暫くの間は、二人の様子を見ていたのだが、新が、背負い籠の中を見て不審を感じていた。
「これ、ゴミなのですか?」
籠の中には、ビニールの買い物の袋、スーパーマーケットのちらし、ペットポトルなどが入っていたのだった。
「・・・・」
「違うわよ」
新の一言で、二人の男女は会話を止めて振り向いた。そして、新の問い掛けに、姫が変わりに答えた。いや、二人には、新の言った単語の意味が分からなかったのだ。
「えっ・・・これを探していたのですか?・・・」
「その可能性が高いわ。変な物を探すってことは、この時代にはそぐわない物・・・そんな意味の物品となれば・・・そうなるわね」
「どんな理屈で・・・あんな物があるんだ。どうやって・・・誰かが持って来るのか?・・・」
「まあ、その話は、後で、ゆっくりと、だから、落ち着いて」
「・・・」
「それより、ご苦労さま。任務は完了しました」
「えっ?」
「何言っているの?・・・意味が分からないの?・・・一つだけでも探しだせば任務は完了なのに、あれほどの量なのよ。だから、任務は完了したのです。村に帰って休みなさい」
「あの中に有るのですか?」
「それは、分からないわ。そうね・・・なら、新しい任務を与えます。皆が集めた物を補完しなさい。ほとんどの物は、風が吹けば飛ぶ物が多い。それを隊長かわたしか、必要がない。そう言うまで大事に保管して下さい。これは、最優先の命令です。それも、今から直ぐに実行する命令です。それと、村まで歩いて帰れる?」
「勿論です」
「それと、村に帰ってから、または、途中でも上官から新しい命令を受けても、村に帰って隊長から命令を受けたとしても、姫からの直接の命令を受けました。そう言いなさい。それと、想い人にも言っていないのなら隊長にも言っていないでしょう。隊長には村に着いたら真っ先に言うのですよ。妊娠したと、そして、これは、希望だけど、隊長の村の最初の二代目の世代になる人です。名前を付けて欲しい。そう言ってくれると、わたしも嬉しいわ」
「・・・・」
「即答はできないことね。村に着くまで、ゆっくりと考えてくれると嬉しいわ」
女性は、任務のことなら即答しただろう。だが、私用であり。二人で答えることであるために、頷くことしか出来なかった。直ぐに、村の方に歩こうとしたので、男の代わりとは変だが、まるで、自分の子供のような喜びで、いろいろな荷物が必要とか、馬車にある物で、あれこれと、男に持たせようとしたが、女性が断るので、姫は落ち込んだが、直ぐに気持ちは変わり。書面に、いろいろと書きこんで手渡した。そして、男女二人は、これ以上の世話をされることから逃げるように村に向かったのだった。
「女性って本当に大変なのですね」
「そうよ。私の場合の時は、今以上のことをお願いしますね」
「えっ・・・それは、結婚してから言わないと、運命の相手に誤解されますよ」
新は、何て答えていいのかと、悩んだ後のことだった。恥ずかしそうに視線を逸らせながら返事を返すのだった。
「・・・・」
(女性から、この様な話題をしたら、赤い感覚器官が有る。無い。に関係なく、好きなら告白をするのが普通ではないの?)
「あのう・・・調査は、まだ、続けるのですよね。何をすればいいでしょうか?」
「はっ、ふ~そうね。仕事をしないとね」
(わたしが馬鹿でした。運命の人でなければ結婚できない。それを知る人は同じことを言うのを忘れていたわ)
大きな溜息を吐いて気持ちを落ち着かせようとしたが、昔も同じことをした。そう昔を思い出すのだった。
「指示をして下さい。何でもします」
「馬車の周囲の物を壊さない程度に適当でいいから片づけて」
「はい」
新は、嫌々と出発の準備をしていたのではない。また、二人だけの旅ができる。そんな気持ちで準備していたのだ。それを姫は知っているのか、新と同じ気持ちなのか、それは、分からないが、二人して、相手に気付かれないように時々、相手の顔を見るのだった。
「んっ?・・・終わったの?」
姫と新は、無言の遊び。まるで、だるまさんがころんだ。の様なことをしていた。そして、姫が、新が自分を見ることを知ってしまうのだ。もしかすると、新が、姫を見て惚けてしまったことで視線を逸らせる時間が遅かったのだろう。
「えっ・・・はい。終わりました」
「それでは、馭者の隣に座って!出発しましょう」
姫は、少し声が大きく慌てている感じだった。新が嬉しそうな様子だったことで、もしかしたら、自分が新の顔を何度も見ていたことに気付かれたのだろうか、そんな思いを隠そうとしていたのだ。
「はい」
新は、目的の地までの時間は分からない。そんなことなど考える余裕がない。姫の隣に座っている。それだけで、嬉しいのだ。だが、心臓がドキドキしていた。その音が、姫に聞こえているのかとか、何か話を掛けなければ、などと、いろいろな考えが、脳内でグルグルとしていた。そんな時に・・・。
「どうしたの?・・・眠いの?」
姫が何度も新に話を掛けていたのに気づかなかった。
「えっ?・・・なになに?」
「そろそろ、街道から逸れことになるので、馬車が揺れるから気をつけて、そう言ったの」
「うん。分かった。大丈夫だよ。いつでもいいよ」
その返事から数分後に、街道から右側に方向を変えた。姫の言う通りに馬車の揺れが大きくなってきた。二人は、御者に集中しているためと馬車から落ちないようにするために目的の地まで無言だった。時間的には一時間くらいだろう。そして、馬車は止まった。
「目的地に着いたのですか?」
「ここが、天地さんに勧められて、隊長が新たに村を作ることになった。村の中心地です」
「ここが、そうなんだ・・・・」
新は、どうして、それが、分かるのかと、聞きたかったが、もしかしたら、周囲を見たら分かる。そう思って、かなり真剣に周囲を見まわしていた。
「もしかして、何故、この地なのかって、そう思って探していますか?」
「あっ、はい」
「ねえ、不自然に思いませんか、ここまで来るのに、馬車で進のも大変な悪路で、馬車から下りたりもしたでしょう。それなのに、本当に何もないでしょう。不自然でしょう。まるで、何も植えてない畑のようにも思えるでしょう」
「あっ!あああ!」
新は、何か、思考の結果で、姫の言いたい答えが思い付いたのだ。
「その通りよ。ここも村を造る予定だったの。その一族はね。始祖の地に異物を持ち込んで保管した後は、この地に村を造る考えだったの。でも、もう一度だけ会いたい人がいるから最後の狩猟生活の旅に行ったの。だけど、誰一人として戻って来なかったわ。数年後に書簡が届いてね。本当は、この地に戻って村を造りたかったのだけども、一族の大半が怪我で移動が出来なかった為に、危険な地だったらしいけど、その地で村を造ることになったの。だけど、族長は、この地で村を造るのが夢でね。直ぐには無理でも老後は村を造って過ごす。その気持ちで長生きはしたの。そして、一族の大勢の子が大人になり。やっと、長年の思いが実現になる。でも、旅をするには体力的に無理でね。誰かの力を借りても戻りたかったけど、息子も孫も殆どの人が、狩猟生活の知識を忘れていてね。それだから、夢を壊さずに村を残し続けたら長生きするのではないかとね、それで、この地は放置されたままなのよ」
「そうなんだ。でも、あれ・・・そうなると・・・」
新は、姫の話を聞いて、何か思案していたが、嫌な答えが浮かびそうだったのだが、姫は、新の言葉など耳に入らずに話を続けた。
「この話って一族では有名な話でね。でもね。私たちって、髪の色で一族が分かれているのね。その一族はね。白髪の一族で、私たちは黒髪の一族だから黒髪の一族でも村を造れるか調査もあるのよ。その調査って面倒なことがあるから村を造らずに、この状態のまま残されたのね」
「あっ、そうだったのか、変な考え(その老人の長老が亡くなった?)が過ったよ・・・えっ、なになに・・・調査?」
「この地で一日を過ごして何も不具合などが起きなければ良いだけ」
「なっななにも・・・」
新と姫は、話題は同じなのだが、別々なことを思っていた。そして、新は、別の考えが自分の中では解決した。そう思っていると、違う思案をすることで、全ての思考が消えてしまった。それは、恐怖という感情で恐ろしくて脳内は真っ白になったのだ。
「そうよ。何なのか、想像もできないわ」
「もしかして、白髪一族の族長の幽霊・・・・」
「馬鹿ね!あっ、もしかして、白髪の一族の族長が亡くなったから村を造れるようになった。そんなことを考えていたの?・・・それで、怨念の調査なんて考えていたのね」
「はい。はい。そうです」
「本当に馬鹿ね。まだ、生きているわよ。白髪の族長の娘は、天地さんよ。それで、両親は離婚したの。酷い女好きだったらしいわ。それでも、どうしても会いたい人って、旦那さんであり。父親のことよ。それで、書簡を持って来た人って、天地さんなのよ」
「えっ、ええ!」
「それで、隊長なら全てを託せる。そう思ったからよ。だから、何も起こるはずがないの。ただの慣例よ。それに、この地での実験でもあるわ。ここで、神代文字が普通に使えるのなら村で起きている。あれが、誰かの仕業か、誰でもないとしても、村に原因がある。そう言うことになるわね」
「そうなんだ。なら、良かった。本当に良かった。本当にほっとしました」
「それは、良かったわ。なら、馬車から荷物を下しましょう」
まずは、二人で馬車から神代文字で使う紙の束を下しましょうと、姫が指示をするのだった。そして、全ての紙の束を地面に下し終わると・・・・。
「わたし、簡易小屋を造るから残りを適当に地面に並べて下しておいてね」
「はい。分かりました」
姫は、紙が作られて切断も何も手を加えていない。新品の原版の紙をずるずると引きずりながら適当な空き地に持って行き。一枚一枚と枚数を数えて何度か頷き納得すると、新が下している荷物の中から水と硯と墨を紙の束の近くまで持って来ると、墨汁を作り始めた。墨汁が作り終わる頃には、馬車から全てが下されて何の仕事もなくなった。そんな状態の新は、姫の様子を近くで見ていた。
「手伝いますか?」
「もう作り終えたからいいわ。でも・・・そうね。ちょっと待っていてね」
馬車の空の荷台から適当なゴミのような紙片を手に持って、新の目の前に腰を下ろすのだった。そして・・・・。
「折り紙って、分かる?」
「はい」
「それを今から小さい紙片で作って見せるからね。その通りに作って見て下さいね」
新は、自分は手先が器用ではない。だが、返事に悩むが、仕方なく頷くしかなかった。
女性は、ニコニコと嬉しそうに折り紙を折るのだった。少女ではない。大人の女性である。もしかすると、幼子の頃にでも楽しくて淡い恋の想い出でもあるのだろうか、いや違うのだ。その様子を見ている男性には分からないことだが、縄文時代であり。特に狩猟生活を断念する者たちには、新しい生活を考える。その一つに、折り紙で新居の家を作る風習があったのだ。だが、女性が折り紙の家は、狩猟生活で使用するキャンプなどで使われるテントであり。簡易小屋を紙で折っていたのだ。
「この正四面体が一番理想な形なのね。出来そう?・・・」
姫は、新が不安そうに頷くので、もう一度、折り紙を開いて元の状態に戻してから、また、ゆっくりと折るのだった。そして、新に手渡した。
「不器用ね。仕方がない。一緒に折りましょう」
新は、姫の指示の通りに折るのだが、なぜなのか同じようには折れないのだ。それを見て、姫は思う、一人では無理だと感じたのだ。
「はい」
「それでは、同じようにしてね」
一枚が、畳一畳くらいの紙を立てに二枚二枚と四枚を地面に並べた。筆に墨を漬けて糊の様に繋げるために、畳の端と端に神代文字で書くのだ。蛇がのたくる感じの文字のようであり。縄文字とも思える文字で書く事で紙と紙が接着するのだった。
「これからが肝心よ。ゆっくりするから一緒に折るのよ」
紙の縦方向半分に谷折りにして折れ筋をつけ、左下の角を中心線に合わせて斜めに谷折り、右の角はきれいな三角に、谷折りにした三角形の底辺にあわせて谷折り、三角形の底辺に合わせて谷折りに折れ筋を付け、上部を折れ筋に合わせて谷折りして、左端の三角からはみ出ている所を山折りにして内側へ折り込み谷折りにする。折れ筋に沿って谷折りにして正四面体を組み立て谷折りにして、右端を左端のポケットに差し込んで、完成。
「えっ・・えっ・・・えっ・・・えっ・・・」
たしかに、もし新でなくても、言葉のお通りに折っても、見ながら折っても、まず、長年の狩猟生活する者も何度もして、やっと、憶えるはずだろう。だから、新でなく他の者も、折り紙の達人なら折れるかもしれない。だが、一般の者ならば、まるで、言葉だけ聞いたとしても、魔法の呪文のような言葉としか思わないだろう。
「無理のようね。仕方がないわね。もう・・・」
紙のテントである。正四面体が完成していた。
「凄い・・・・」
「仕方がないわね。私が作るわ」
姫は、テキパキと、正四面体を作った。新は思った。時間は測っていないが、もしかしたら、インスタントのカップメンが作られた時間と同じかと思う程だった。
「このままでは入れないから正四面体の一つ目の面に、二面の開き扉のように切り裂く」
腰にある。村で新品の紙の剣を手に持ち、自分が言葉で言った通りに切り裂いた。そして、右の扉と左の扉に筆で神代文字を書いたのだ。
「何て書いたのです・・・・・」
「右の扉に右の手の平を押し付けると、二分間だけ外側に開く。裏側の内側に左手の平を押し付けると、二分間だけ外側に開く。と、書いたのですよ」
「ほうほう」
姫は、そして、と言うと中に入った。
「紙の硬度は、三十硬度に設定・・・内部の温度は二十八度・・・・」
「二十五度・・・・」
「暑い?・・・」
簡易小屋の中から姫の言葉が聞こえた。正四面体の内側に、今まで話している全てを神代文字で書いている。そんな様子を感じたのだ。
「いいえ。丁度いい温度だと思います」
今すぐにでも簡易小屋の中に入って確かめたかったが、姫に返事をするだけで我慢するのだった。それに、直ぐに出てこないのは、会話の内容だけでなく、他にも快適に過ごす内容を追加している。その全てを後でゆっくり試したい気持ちもあったからだった。そして、立って様子を見るのも、少々疲れを感じる頃だった。
「もう少し時間が掛りそうなのです・・・そうですね。これが終われば、休憩をとりますので調理などに使う壺を簡易小屋の前に用意してくれませんか」
「はい。分かりました」
壺は直ぐに用意できたのだが、椅子はなく、地面に座るのか、と悩み。神代文字に使用する紙でも引くかと、そんなことを悩んでいると、姫が、簡易小屋から出てくるのだった。
「何をしているのですか?」
新は、壺の配置場所と馬車の荷台に行っては悩んで、椅子になりそうな物や神代文字の使用する紙を持ち上げては、壺の配置場所に戻る。それを繰り返していたのだった。
「あっ、その・・・ですね。椅子がない。ですよね・・・だから・・・」
「あっ、椅子を作る考えでしたよ。新さん。椅子を作って見ますか?」
「また、折り紙ですか・・・私には、無理です」
「そう、簡単なのに・・・」
新は、煙草を吸わないが、姫が椅子を作った時間は、一本の煙草を吸い終わる前にはできる程で、新にしては何も手伝うことも出来ずに、完成まで見ていたが、あっ、と言う間に感じる時間のことだった。
「凄いですね」
「背もたれと座る部分だけの硬度の微調整は必要だけど、他の部分は同じ硬度なので難しくはないですよ。座ってみて下さい。もう少し柔らかくするならしますよ」
「丁度、いい感じです」
「それは、良かった。あとは、簡易小屋の二個の横幕を作るだけね」
「二個?」
「荷物を入れる横幕と二人が食事や談笑できる横幕ですよ」
「ああっ、そうですね」
「それにしても、何も問題なく使えるわね。何か変よね」
「変?」
「変だと思わない。村では使用ができなかった。神代文字で書いた。その用途が使えるのよ。まだ、調理の関係は試してないけど、今までの物は何の問題はないわよね」
「あっ、そうですね。でも、あの不思議な墨汁を使ったのですよね」
「いいえ。普通に作る墨汁ですよ」
「えっ!」
「それだと、村が原因なのかしらね・・・・でも、もしかすると、この地で壺などの調査するように隊長が言ったってことは、何かの可能性の一つなのかもしれないわね。それとも、思案の一つの材料なのかもしれない。まあ、隊長が来るまで何も起きないといいわね」
「そうだね。それって、怖いことなのだよね。それなら、何も起きて欲しくないね」
「怖いか・・・それは、分からないわ。だって、何も想像もできないことなのですよ」
「そうだよね。でも、隊長には、何かの予想の答えが出来ている。そう感じに思えない?」
「それは、この地に持ち込んだ。神代文字の全てを使ってみると、分かるかもね」
姫は、新と話をしながら壺を手に取り文字が消えていないかなどの点検していた。
「その壺なら、もういいわよ。溝がある所まで水を入れてみて」
「はい」
新は、何の壺か分からないが、姫の指示の通りに壺の内部の溝まで水を入れたのだ。すると、火も電熱線もないのに水が沸騰する感じの様子を見たのだ。それも、急激に温度が上がっている感じだった。
「正常に機能しているようですね」
その壺は、現代でいうところの湯沸しポットだった。
「お茶でも淹れましょうね。そうそう、紅茶もありますよ。勿論、コーヒーもね。どっちにしますか?」
「それなら、紅茶が良いですね」
「はい。いいですよ。ちょっと、待っていて下さいね。暖もとりましょう」
「それも使用できるのですか?」
(たしか、火焔型土器のはず)
「これは、直接に火がつきますので、新さんでは、危険だと思います。もし破裂した場合の対処もできませんでしょう。だから、わたしが使ってみます」
「あっ、はい」
「まあ、木々を入れるだけですけどね」
「ほう・・ほう・・」
新は、少し離れて見ていたが、それでは、詳しくは分からないだろう。壺の入り口が大きな透明の虫メガネのような働きで火が熾せる。小型のキャンプ用品だった。
「これも正常に機能するわね・・・あとは・・・」
(炊飯器、圧力鍋、ランタン、湧き水の壺(現代にはないが水道や井戸のような機能だった)それに、一般的な殆どの物が積まれていたわね)
「ここにある全てを試すのですか?」
「そうよね。そう思うわよね。だから、どうするか、迷っていたの」
そんな、姫は思案していた。だが、新の腹の虫が鳴るのだった。
「もう~!」
「・・・・・」
「全ての壺と知る限りの神代文字を駆使して最高の料理を食べさせてあげるわ!」
「えっ!そんなことしなくていいですよ。簡易な食事で十分ですよ」
「まあ、まあ、新さんは米を洗うだけ・・・あっ!ああっ、先に湧水の壺を使えるようにしないとね」
「米を洗うくらいならできますよ・・でも、そんな大量な水・・・」
「ああっ、あっ、ああ、失敗したわ。壺に水って残っていました?」
「壺に半分くらいなら・・・あるはずですよ」
「まあ、そうね。新さん、魚の絵のある壺を持って来て、それと、水が入っている壺もね」
「はい」
新は、言われた通りに二つの壺を姫の目の前に置いた。直ぐに、水のある壺の中を見て難しそうな顔を歪めてからもう一つの魚の絵が描いてある壺の周囲を見て頷くのだった。
「あのう、何をそんなに悩んでいるのですか?」
「新さんは、未来人だから分かると思うけど、何年も使っていない井戸を使う時って分かりますよね」
「まあ、弁を動かして吸水するために、ある程度の水を・・・あっ、まさか!」
「そうよ。壺の機能を駆動させるにも同じようにね。ある程度の水が必要なのよ」
「この壺に残っている水では足りないのですね。それなら、近くに川でもあれば、一人で汲んできますよ」
「二キロくらい歩けばあるわ。まあ、水が足りない時は、一緒に行くわ。だから、まず試してみましょう。壺に残っている全ての水を魚の絵のある壺に入れてみて」
新は、指示の通りに魚の絵のある壺に入れた。そして、姫と壺を交互に見るのだった。
「駄目かな?・・・」
姫も新の隣から同じように壺の中を見るのだった。すると、水が湧き出るようなボコボコと音がするのを聞いて、少し笑みを浮かべたが壺の底からは水が湧き出る感じがなかった。それで仕方がなく、姫は湯沸しポットのお湯でも入れるかと呟いた時のことだ。壺から大きなボコボコと音がして壺から水が湧き出してきた。二人して、拳を握り喜びの声を上げそうだったが、直ぐに、姫は、新に指示をするのだった。
「大きなタライがあったでしょう。その中に湧水の壺を入れて、そのタライの中でお米を洗って下さい。それで、米を洗った水も湧き出る水も流し続けでいいからね。それと、もしかすると、魚も飛び出るかもしれないから逃がさないでね」
新は、頷いた。姫に米を何号か聞いてから水が入っていた壺に米を入れて米を洗うのだ。
二人の男女が、村の入口に入ろうとしていた。その二人は、数時間前に姫と一緒に居た者であった。女性は、立ち止まった理由は、懐にある書簡のことであり。書簡を取りだしたが、隊長に手渡して良い物なのかと、悩んでいるために立ち止まったのだ。
「村の中が忙しそうね」
「そうだね。新しく作る村か、始祖の地に移動する準備を開始したのですかね」
「それなら、この書簡は渡さない方がいいのでないかな・・・」
「何をしている?」
後ろから隊長の声が聞こえたのだ。勿論の反応だが、飛び上がる程の驚きで後ろを振り向くのだった。
「それは、もしかして、姫から託された書簡か?」
「あっ!」
「はい。どうぞ」
「あっああ、ありがとう。それにしても、遺物も可なり集めたな。ご苦労だったぞ」
「隊長。直ぐにでも出発するのですか、それでしたら自分たちも・・・」
「まあ、待て。少しは身体を休めると良いだろう。それに、書簡の内容では、お前たちに指示を頼む場合もある。この場で少し待て。直ぐに読む・・・」
「・・・・」
二人の男女は、書簡には、自分たちのことが書かれてあるのは分かっているために、何を言われるのかと、無言で隊長の顔を見続けた。
「おめでとう。勿論のことだが、子供の名付け親には喜んで受けよう」
「ありがとうございます」
「まあ、皆が戻りしだい。村を造りに出発する。その時まで身体を休んでいなさい。これは命令だから断ることは許さない。分かったな!」
「はい」
二人は、嬉しそうに頷くのだった。そして、特に意味はないが、村の中を歩き回るのだった。やはりというのも変だが、村の様々な神代文字の機能は正常には機能していなかった。それでも、倉庫の中の壺と湧水の壺は、何とか機能している状態であり。馬車も神代文字で書かれた専用の紙で作られているのだが、幌もなく複雑な機能のない荷台だけの紙の馬車だった。
「不思議な遺物を探しだしたのだな。それを預かるぞ。おおっ、かなりの量だな!」
「お願いします」
「ご苦労さま。少し休むといいよ」
荷台の上で不思議な異物の選別している者に言われて手渡すのだった。
「はい。そうします」
二人は、捜索してからも村を歩き回り。全ての要件が終わったからだろうか、少し体が疲れているのを実感した。そして、村から与えられた。寝場所である倉庫に向かうのだった。その途中である。前木が隊長と話をしているのを見かけたのだ。だが、隊長には許可を頂いている。それに、隊長の所に行って何が不具合なのか、何か騒ぎが起きている。そんなことを話し掛ければ、叱りを受けるだろう。と思って、倉庫に向かって出発まで身体を休める考えにしたのだった。そんな気遣いをされた。隊長と前木は・・・。
「隊長。荷台にある。その不思議な遺物というのを見せてもらってもいいでしょうか?」
「それは、構わないが、何をするのだ?」
「何となく、興味を感じまして・・・それで、もし興味を感じた物は好きに利用してもいいのかと、その許可を頂きにきました」
「それは、直ぐに終わることか?」
「まあ、荷台にある量が多いと、ある程度の時間は掛るかと・・・」
「それは、そうだな・・・なら、わしも次の件の準備が終わるまで付き合おう。一人でないと困る。そう言うことではないのだろう。それで、わしが見て渡せるか判断した物で良い物なら好きに使うといい。どうだ?」
「それで、構いませんよ」
「なら、直ぐに行こう。時間が惜しいのだ」
「あっ、はい」
隊長と前木は、時間が惜しい。そう言うが、後ろを振り向けば、多くの馬車は並んでいる。その中の数台の馬車に近寄るのだった。不思議な遺物と言っても、ゴミはゴミであるのだ。隊長は、ゴミだからではないが、あまり好んで触りたいとも思えなかったからだろう。荷台に上がったのは前木だけだった。
「凄い。縄文時代の過去に、これだけの物があるとは!」
前木が、驚くのは当然だ。ペットボトルなどのプラスチック製品が多かった。
「前木、その荷台にある全ての用途は分かるのか?」
「はい。殆ど使用できない物ですが、元の状態というか、元は何の製品だったのかは分かります。全てを教えますか?」
「そうだな・・・だが、今はいい。それで、使いたい物はあるのか?・・・・」
(やはり、前木は、危険だ。今までは、姫だけの役目だったが、何かの対処しなければ・・・)
「はい。それでしたら、試したいことがあるので、ペットボトルの一本を使用したいです」
「なんだが、名称を言われても分からない。だから、構わないが、だが、これから、また使用したい物などあるかもしれない。その都度、わしが立ち会えるか分からない。それで提案なのだが、貝と相方にならないか?」
「それは・・・」
「貝は、黒髪の一族でも剣豪であり。わしの一族の十人の中に入る最強剣豪の一人だ。その者が、決定したことは、わしが決断したと同意になる。即答して欲しい。どうする?」
「はい。相方になります」
「先に言っておくが、相方になる。ということは、規律などがあるだけでなく、姫とわしには絶対の忠誠を誓ってもらう。それの意味は分かると思うが、命を懸けてもらう場合もある。だが、未来から来た者として期間を与える。三年を過ぎても、お前が言う縄文時代に居る場合は、誓いの儀式をしてもらう。まあ、その間は、客人の扱いにするが、それでも、規律を守る儀式だけはしてもらう。そうでなければ、始祖の地には入れないからな」
「三年もあれば、十分に帰られる期間です」
「それは、勿論、未来にいる妻の元に戻るのだろう」
「はい。勿論です」
「そうだよな。男性が女性には歌ってはならない。あの禁忌の歌を女性に歌ったのだしな」
「それは、もう許して下さいよ」
「同じ女性の立場から考えれば簡単に許せる訳がないぞ」
「どうすれば、いいのですか?」
「お前!泣いているのか?・・・男の勝手な旅で縄文時代に来た。その後悔ではなく、妻に会えない悲しみなのか?」
「そんな後悔では泣きませんよ。妻に会えないからに決まっているでしょう」
「その涙で、まあ、許そう。もう話題にはしない。許せ」
「分かってくれたのなら十分です。頭を上げて下さい」
「許してくれるのだな」
「はい。それでは、実験をしたいので、ペットボトルの一本を貰っていきますよ」
「逃げたか」
前木は、上官に対しての態度でも、女性にたいしても態度でも、男としては最低の態度であり。まったくの礼儀がなかった。これが、内心の気持ちを隠しての態度だとしたら可なりの演技力だろう。隊長は、前木の演技だと思っているようだった。だが、馭者に乗っている者や荷台に異物を積んでいた者たちには演技だとは思ってはいないようだった。
「気持ちが若いですな。女性が謝罪する姿を見て、何も出来ずに逃げるのだからな。これが、もし、女性の涙を流す姿を見たとしたら、どうするのでしょうなぁ」
「そうですね。あの男なら女性が涙を流したら禁忌の歌を送った相手だとしても、女性の涙に負けて離縁など簡単に納得するでしょうね」
「お前らは、だから、結婚ができないのだ。女性の気持ちが分かっていない。こんな男どもと話していても仕方がない。さっさと仕事は終わらせておけよ。わしは、貝を探す」
隊長は、自分の考えを否定されたことで、怒りを感じながら馬車から離れるが、貝を探すと言ったのは、任務を与えるだけではなく、女性なら自分の考えを同意する。そう考えている感じだった。
「隊長は行ったか?」
「いいのか、怒っている感じだったぞ。きつい任務にやらされないといいが・・・」
「それよりもなぁ。村が造られて、直ぐに、祭りをするらしいのだ」
「それは、そうだろう」
「それがなぁ。村の祭りには、見合いとか合コンなどがあるらしいのだ」
「そうか、まあ、一族ごとに祭りは違うらしいからなぁ」
「村の特有らしい。それも、独身だけで酒を飲み、踊りもするらしい。そして、一番の驚きなのは、身分も上官もなく無礼講らしいのだよ。それも、村に住むってことは、その無礼講が一生の間のことらしい」
「本当なのか?」
「本当らしい。だが、長老または、巫女、村長、隊長だけの三人だけの身分はあるが、他は、村人って区切りに入るらしいのだ。だから、生涯の全ては無礼講になる。まあ、規則は厳しくなるらしい。それも、村の法律となる。それも、かなり細かいらしいのだ」
「面倒臭いな」
「笑いごとではないし。そんな簡単なことではないらしい。初めに、狩猟生活か、村の生活か、それを選んだ場合は、二度と変更が出来ないらしいのだ。狩猟生活を選んだ場合だが、後に、定住の生活がしたい場合は、自分で村を造るしかないのだ。それは、無理だろう。だが、村の生活である。定住生活を選んだ場合は、動けない程の怪我でも一生の生活は保障されるし、飢える心配もない」
「そうか、そうか、そうだとすると、長老と巫女は、姫様が巫女だよな。村長は、隊長だろうし、隊長は、副隊長になるのだよな」
「そうなると、姫様は、定住の生活は無理だよな」
「そうだろうなぁ。運命の相手を探し続けるのだろうし、そうなると、一人になるのか?」
「俺ら黒髪の一族だけでなく、他の一族も、運命の相手を探すための護衛だろう」
「そうだ。そうだな・・・」
「姫様だけは、村から旅立ち、村に帰る。それを運命の相手が探しだすまで続ける。そう言うことになるのか?・・・・」
「そうなるだろうな」
「そうなると、姫は、狩猟生活、他は、村を造り定住生活になる。そうなると、狩猟生活の掟である。これからは、規則、いや、法律か、その狩猟生活の時の掟と村の法律で、もし、噛み合わない場合は、姫を処罰するのか?」
「それは、ないだろう。姫は、特別だろう」
「そうだな。あの姫様に甘々の隊長が、そんなことするわけないか!」
「隊長なら一人になったとしても、姫様を守るだろう」
「いや、それはない。我々も何があっても姫様を守るだろう。そうだろう?」
「勿論だ!」
そんな会話をしながらだが、手は休めていなかったことで、荷台に全ての荷物を積み終わった。最後は、不敬罪と思えるような話になり。仕事も終わったことで無理矢理に話題を変えた。それは、初めの話題でもある異性の話しに戻り。一瞬でも考えたことを忘れようとしたのだ。そして、全て者たちが荷台の積み込みが終わる頃には、皆が村に帰ってきた。その中で、異物を持ち帰った者たちは、個人個人で荷台に積み込むのだった。
「皆が帰ってきたようだな。明日の朝一番に村を造る予定に向かう。そして、始祖の地に向かうことにする。そう言うことだ。この後は好きにして構わないぞ」
隊長は、倉庫に皆がいる。または、居なくても、伝えてもらうつもりで指示を出したのだ。人数を確認はしていないが、村の外を歩き続けて異物の回収。そして、荷台の積み込みで手足を伸ばして横になれるのは倉庫だけしかなく、皆は倉庫にいたのだった。
日の出の時だった。数十台の馬車の前に人が起立していた。その馬車の馭者と補佐などの者たちだろう。一斉に右を向くのだ。足音が聞こえたのだろうか、決まった時間だったのだろうか、その判断はできない。同じ背丈の二人が歩いてくる。日の出の逆光で、誰か分からない。だが、この場の全ての者は、誰と誰かと分かっていた。
「乗り込め。出発する!」
馬車の列の中間にある。一つの馬車に乗り込み、指示を叫ぶのだった。その者たちの専用の馬車ではないが、その馭者は、貝が操る馬車だった、
「おはようございます」
「ああっ、おはよう」
貝の挨拶と隊長も挨拶を返すが、男同士の前木と副隊長は、手の仕草と頭を軽く下げるだけだった。普通の朝の様子だった。特に変な様子を探すと言えば、隊長が挨拶を返したのが変と言えば変だと思うくらいだった。
「ん?・・・前木、そのだな。ええっと、ペットボトルという名称だったよな。それ!」
「はい」
「なんか、変な傾きをしていないか?」
「えっ・・・」
ペットボトルの蓋の直ぐ下の凹みに、稲の縄で結んで吊り下げただけだった。それを腰から取り出して目線の高さまで持ち上げて目と並行に合わせた。すると、たしかに変だった。ペットボトルの液体が、強い磁石にでも引き寄される感じで極端な斜めに傾いているのだ。ただの液体なら垂れ下がったままブラブラするのが普通だからだ。
「向きだ。何かの方向を刺している!」
「本当ですね」
「全ての馬車を止まれ!」
隊長の視線が副隊長に向けると、何をするのか、副隊長には即座に分かった。その指示で全ての馬車は止まった。中間の位置にいる。隊長の馬車は、まだ、村の入口から出ていなかった。
「副隊長。どこを向いていると思う?」
「これから向かう村とも思いますが、いや、始祖の地でしょうか?・・・それとも・・・本当の異物は、まだ、発見されていなく、その方向を示しているのか・・・もしれない・・」
「あの壺には、あの墨は、どのくらい残っていた?」
「そうですね・・・・・ん~・・・・」
「このペットボトルに入れて、全ての隊に持たせるくらいはないか?」
「それ程には残っていません」
「そうだな・・・それなら、馬車を操る馭者だけには持たせられないか?」
「あっ、それ程の数なら残っているはずです」
「直ぐに用意して、全ての馭者に手渡せ!今!直ぐだ!」
貝は、馬車の数は頭の中に入っているために数えるなど時間を掛けずに、前後の馬車に乗る者たちに手の仕草で命令を下した。自分に付いて来い。と、そして、一人の者に・・・。
「全ての馭者は、村長宅に集まれ。そう伝えるのだ!」
「はい」
「その時に、前木が選んだ。透明な容器を持ってくることを忘れるな。とな、分かったか!」
「はい」
「前木!頼んだぞ」
「分かりました」
貝と数人の部下は駆け出した。まだ、村の中であり。村長宅など走り続ければ、五分も掛らない。それよりも、この時間では、村の者は、一人も起きていないだろう。
「何か、お困りでしょうか?」
長老が玄関の前に立っていた。馬車の音が聞こえて見送りにでも行こうとしたのだろう。
「すまないが、壺に残っている全ての墨を頂いても宜しいか?」
「勿論です。構いません。好きなようにお使い下さい」
「感謝する」
そんな会話をしていると、後方から馭者の者たちなのだろう。何十人と走って来るのが見えた。直ぐに部下たちに壺を家の外に出して、ペットボトルを受け取り、その中に墨を入れるように指示を出した。
「墨を入れた者は、隊長の指示を受けて、それを実行しろ!」
その頃の隊長は、前木の腰にもう一つ下がっている。それを不思議そうに見ていた。
「それは、なんだ。その黄色の液体は・・・」
「これは、ビールという物です。もう飲めないのですが、それでも、良い墨の材料になるはずです。それで、捨てずに持っているのです」
「そうか・・・」
前木に、黄色い液体のことを説明されて考えていると・・・・。
「隊長!」
「あっ、戻ってきたのだな。ご苦労だった」
「はい。貝から隊長の指示を仰ぐように、そう指示されました。それで、貝から渡された物が、これです」
「副隊長。どう思う?」
「はい。やはり、ペットボトルと言う物は同じ向きを向いている。そう思われますね」
「何かあるな」
「はい」
一人の馭者を確認していると、一人、二人と同じように現れるのだった。そして、貝が現れるのだが、それは、全ての馭者がペットボトルを持った。ということだった。
「そのペットボトルの件は、後に指示をする。まずは、村の建設の予定地に向かうぞ!」
皆は、簡潔に返事を返すと、全ての紙の馬車は出発を開始した。
「隊長。このまま姫に知らせずに、村に到着されるので?」
「そうだな。紙の馬車以外の神代文字は使えないのだ。それは、分かっているのだから何かと準備が必要になるだろう。誰か、先行させて準備をさせるか」
「それが、宜しいかと、そう思います」
「誰かに行かせるかなのだが・・・・」
「貝と前木に行かせては、どうでしょうか?」
「大丈夫か?・・・今回の様々な原因の中心にいる者たちだぞ」
「おそらく、大丈夫でしょう。それに、早めに何か起きた方が、いろいろと、対処が早いでしょう。それに、その時は、貝がいるから安心だと、そう思います」
「そうだな。なら、二人だけではなく、二班隊(二つの馬車と人員のことだった)くらい連れて行け。そうだな・・・朝食とまで無理だが、水の確保の命令でもさせるか」
「それが、宜しいでしょう」
何人かが同じ馬車には乗っていたが、会話の内容は、馭者の席と荷台では離れていたために、隊長と副隊長だけにしか分からなかった。それ程に、馬車とは静かな乗り物ではなかったのだ。そして、副隊長が、貝に、手招きするのだった。
「貝。すまないが、先行して、姫と共に水の確保をしてくれないか、おそらく、神代文字での壺の機能は使えないはずだ。姫も近くの川から水の確保しているはず。共に確保して欲しいのだ」
「はい。承知しました」
「人員は、貝に任せる」
「それでは・・・」
一瞬、誰にするか、何人で、何台で行くか、思案するのだった。そして、大壺を積んでいる何台かの荷馬車を選び、先行を開始した。そんな馬車で向かっている時だった。他の者は、先行と言えば何をするか分かっているのだろう。上官である貝に問い掛けもしなかったが、前木だけが、不安そうに問い掛けたのだ。
「貝さん。我々だけ先行で行くのは聞きましたが何をするのですか?」
「簡単なことだ。だが、体力は使うがなぁ」
「えっ、老人である。わしも?」
「そうだぞ。まあ、何をすると言うと、水を確保するのだ。大量に水は必要だが、一族全ての者に茶の一杯でも飲ませてやりたい。そんな程度だ。だが、到着して全ての準備が整え終われば、全ての者で水の確保はするからな。これは、神代文字の壺が正常に使える時でも必要な水なのだぞ。そう言えば、お前は、未来から来たのだろう。何て言うか、未来にある井戸を使う時に、初めに水を入れなければ使えない。そんな、話を聞いたことある」
「あっああ、何となく意味が分かります。それでも、今回は、湧水の壺と言うのでしょうか?。普段から用意されている壺の数は、かなりの量になりますよ」
「そうだな」
「近くに川でもあり。それを汲んでは、人力で運ぶのですよね」
「そうだぞ」
「・・・・・」
前木は、それ以上は、問い掛けなかった。この縄文時代の人々の肉体労働と歩く行動の距離が、未来である自分とは違うのが、何日かの生活で分かっていたのもあるが、会話だけでも思案だけでも疲れを感じると思い。その場で身体を横たえて、気持ちと心が満たされるような空であったことで、その空を見ながら気持ちと体力を少しでも残しておこうとしたのだった。だが、貝が出発の時に起こしにくるが、何度も声を掛けるのだが、それでも起きずに、仕方がなく、隊長に理由を伝えてリストから外すのだった。
「貝さん」
貝が選んだ者の中で一番の若い者が、恐る恐ると声を掛けてきたのだ。
「何だ?」
「これから、村を造る第一歩なのですよね」
「そうだな」
「そうなると、いろいろと厳しい決まりがあり。もう村から出ない・・・いや、その・・・ですね。もう村から出られないのですよね」
「そうではないぞ。天地様の村にいた時に、村のことをいろいろと聞いたが、それと同じ感じに作られるらしいぞ」
「まあ、一週間を超えて村から出る場合は、許可が必要らしい、仕事でも遊びでもな。だが、村が落ち着くまでは、一日でも許可が必要になるだろう」
「一日でもですか・・・・」
「それは、その者のことを心配してのことなのだぞ」
「心配?・・・」
「そうだ。大勢の行動なら凶暴な獣も近寄らない。それに、捻挫でも大怪我でも、大声を上げれば、誰かは聞こえる距離にいるのが、今までだった。それを一人だと、どうなる。それを心配してのことだぞ」
「そうでしたか」
「それに、今から話すことは、まだ、決められていないが、村の中だけで暮らすのが嫌なら、当分の間は、村の周囲の危険な調査とか、獣や様々なことの村の外の警護って役目も作る予定なのだ。それを優先的にお前に決めてやろう・・か?」
「調査・・・警護・・・」
「お前は、まだ、若いから役職を与えることはないが、今までの狩猟生活と、あまり、変わらないぞ」
「本当ですか!」
そんな会話をのんびりと、土地の建設予定の地まで時間があるからだろう。貝からしては、暇つぶしのような感じで会話をしていた。部下を笑わしたり、泣かしたりと、本当に楽しそうに時間を潰していたのだ。そろそろ、着く頃には、貝は、仕事の支障にならないように部下の気持ちを喜ばして終わるのだった。
「えっ?」
貝が、目的地である。その方向には、不審を感じる物が見えたのだ。
「ご苦労さま!」
姫が、貝たちが乗る馬車を見て駈け寄ってきたのだ。
簡易テントを中心にして、数台の馬車が円を描くように置かれていた。馬車に乗っていた全ての者は、適当に置かれた壺や神代文字で正常に機能している壺をじっくりと調査をしていた。時々何人かは、驚きと興奮を表しながら壺を大事そうに持って上官だろう。指示を仰ぎに行っては喜んでいたのだ。
「姫。これは、どういうことですか?」
貝は、地面に置かれてある数十個の壺を指さした。
「何もしていないのよ。新たに神代文字を書き足してもいないの。壺の周りの汚れを落としたくらいはしたけど、不思議なことに正常に機能するのよ」
「それは、本当ですか?」
「はい」
「そうですよね。正常に機能しているのですから本当もないですよね。何て言うか変なことを言いまして本当にすみませんでした。ですが、なぜなのでしょうね?」
「そうですよね。もしかして、始祖の地に一番近いから神代文字の効果が特別に反応する地域なのでしょうかね」
「わたしは、普通の者ですから・・・何て答えていいのか・・・想像もできません」
「いいの、いいの。適当に言っただけ、あっ、それでしたら、そうそう、もう何日もお風呂に入っていないでしょう。お風呂に入りなさいよ。それも、試しに持ってきてあるから実験って言うのも変だけど、お風呂に入るといいわ」
「えっ!」
「新さんとわたししか居なかったから恥ずかしくてね。それで、使っていないのよ。だから、ゆっくり入るといいわよ」
「まあ・・・入る頃には、隊長たちも到着するでしょうし、お風呂なんて入っていたら出迎えができませんよ」
「それなら、丁度いいでしょう。隊長たちもお風呂なら喜ぶと思いますよ。隊長だけでなく皆も久しぶりでしょうしね」
「そうですか・・・・それなら、大きな露天風呂でも作りましょうかね」
「おおっ、いいですね。わたしも手伝いますよ」
「そっそんな・・・そんな事させたら隊長に叱られますよ」
「いいのよ。直ぐにでも作りましょう。隊長たちが来る前に作りたいわね。そうしましょうよ。驚かせましょうよ。絶対に、喜ぶわよ」
「そうですね。驚かせましょう」
「それで、どうしましょうかね。穴を掘ります?・・・それとも、神代文字を書いた紙で大きな箱でも作りますか?」
「村でいつまでも使えるような温泉がいいですね。それなら、無茶な事をしても、隊長も許してくれるはずですしね」
「それなら、地面を掘るしかないですね。そして、浴槽から常に温泉が出てくるようにする方がいいですね。それで、浴槽を横にすれば、満水の印まで反応しませんから常に温泉が流れ続けるはずです」
「それは、いいわね」
姫と貝は、温泉の形や規模などを話し始めたのだ。それでも、話題に関しては微妙なのだが、まるで、少女のように楽しく会話を楽しむのだ。その周りでは、貝の部下は、様々な神代文字で書かれた壺の機能の確認をしていた。新は、自分が今日から使う簡易小屋の点検などをしていたことで外が騒がしいことなど気にする気持ちもなかった。
「おい!お前ら!その件は、まずは、いいぞ。だから、こちらに、集まれ!」
皆は、安堵の表情を浮かべながら貝の所に集まってきた。それは、当然だろう。原始人のような生活から文明的な生活ができる。それが、神代文字を壺に書いて正常に機能することが証明されたからだ。
「姫からの指示で露天風呂を造ることになった。それも、この村の名物になるほどの物を作りたい。まあ、それは、将来的にと考えている。それで、今回は、基礎となる感じ程度でいいのだが、時間的にあまり余裕がないのだ。その時間は、可能の限りだが、隊長が到着する前には完成するのが理想なのだ。だから、今直ぐに行動を開始!」
「承知しました」
皆が、一斉に返答をした。直ぐに、荷馬車に向かった。荷馬車には、車輪が地面の穴などにはまり動けなくなる場合が多く、常に、シャベルは用意されていた。それを、男性、女性とは関係なく全ての者が手に持って、貝が地面に楕円形に印した。その中を彫るのだった。皆に、深さなど指示をしなくても、隊長が座って肩が浸かるまでなのは分かっていた。
「そのくらいで良いだろう。あとは、神代文字を書いた紙を敷くだけだな」
部下たちが、掘った穴の中で座っては確かめているのを見て、貝が決定を下した。
「浸透、浸水、硬度、温度の設定の数値は、何にしましょうか?」
「そうだな・・・すべて値を三十八の数値でいいだろう。それと、湯から温泉と書き足すのを忘れるなよ!」
貝が答えを出した理由は紙であり。墨である。時間が過ぎれば文字が消えて普通の紙となる。そう思われるだろうが、墨の効果消える頃には、周囲に硫黄が付着して神代文字と一緒に浸透すると、硫黄の文字が浮き出るのだ。そして、普通の温泉地の露天風呂と変わらない光景になるのだ。
「まあ、そんなに慎重に並べなくてもいいぞ。適当に敷き詰める感じでいい。後は、硫黄が適当に付着して、丁度良い感じになるからな」
部下たちが、白い一畳くらいの紙を敷き詰めては、位置の調整をしては、神代文字を書いていたのだが、隊長たちが到着する時間を考えてではなく、本当に適当に敷き詰めるだけで良かったのだ。
「それでは、皆は外に出ろ。それから、浴槽を地面に半分だけ埋める程度の穴を掘り。その穴に浴槽を横に傾けて入れて温泉を流し入れろ!」
指示の通りに浴槽を横にゆっくりと傾けて温泉が流れ入れるのだった。
「おおっおお!」
予想の通りに温泉は溜まり続けては溢れ出る。そう思われた時だった。浸透などの神代文字の効果もあるが、浴槽の神代文字での満水の線までくると温泉が流れ出すのが止まるのだった。そして、皆は完成を喜んだのだ。
「そうだな。交代で入ることを許そう。だが、残りの者は、隊長の簡易小屋と自分たち用のと、他の一族の者たちの簡易小屋を作るのだぞ」
「うぉおお!」
部下たちから正式の返礼がないことで、苦々しい表情を浮かべるが、久しぶりの風呂でもあり。仕方がないと、何度も頷くのだった。その頷きを見てからのことだった。誰かが指示をしたのでもないが、若者たちは、露天風呂の囲いや脱衣所などを作り始めて、年寄りたちは、衣服を脱ぎだして次々と風呂に入るのだった。
「うぁお、気持ちがいいな。やっぱり風呂はいいな」
一人の老人が、風呂に入ると、喜びの声を上げたのだ。そして、次々と他の年寄りたちも、口が滑らかになるのだ。その笑みを見て若者たちも気持ちが伝わるのだ。
「そうでしょうね。それで、何か不満はありますか?」
「まあ、そうだな。景色が良くないな。森の中に作るのだった。そう思うよ」
「それでは、囲いは作っていますが、壁に絵でも描きますか?」
「それは、いい考えだな!」
「それも、狩猟生活で行った。いろいろな思い出の場所の景色なんていいでしょうね」
「そうだな。いろいろな所に行ったな・・・良い思い出ばっかりだ・・・」
「そうでしょうね。俺たちの倍以上の狩猟生活をしたのですからね。それも、終わりですね。これからは、村での生活になるのですね。暇なときでも、いろいろ聞かせて下さいよ」
「ああっ・・・そうだな・・・」
「気持ちがいいからって寝ないで下さいよ」
何人かの年寄りたちが、目を瞑ったことで、いろいろな思い出を思い出しているのは分かっていたが、若者たちは冗談を言うのだった。
「あっああ・・・分かっている。だが、目を瞑りたくなるよ。お前らも入れば分かるよ」
「そうでしょうね」
「お前ら、建てるだけでいいぞ。大まかでいいからな。最後の調整ならわしらがする」
様々な物を建てると言うが、現代の建築とは違う。大きな紙で折り紙を折る。そう思ってくれると分かり易いだろう。だから、一般的な建物より時間は掛らない。長年の経験もあるし一人で何個も何軒もと言うべきか、だが、現代的な登山のキャンプ用品のテントよりも簡単で早く作れたのだ。それも、簡易的ではなく立派な家々も造るのだ。そして、年寄りたちが温泉から上がる頃には予定されていた全てと思われる物は終わろうとしていた。
「さあ、お前らの番だぞ。ゆっくりと、温泉を楽しめ!」
老人だから混浴だったのではない。この縄文時代だからでもない。元々、日本の風習では混浴が当たり前だったのだ。若者たちも次々と男女と関係なく温泉に入るのだった。
「はい。そうします」
若いからだろうか、まだ、温泉を楽しむ。そういう気持ちはない。だが、たしかに、喜び、はしゃぐ様子だったが、誰一人として、温泉に浸かると同時に安らぎとも言える心の底からの「あっ」の一声が出る者はいなかった。それでも、汚れを落としてすっきりとした気持ちと身体が楽になる。それの方が嬉しいようだった。若者だからだろう。年寄りが本当に温泉に入ったのか?。と不思議に思う程に早く出てきたのだった。
「こいつらは、温泉など勿体無いぞ。お湯だけで十分だ」
「若いのですよ。温泉の楽しみは、これから、分かることです。身体を動かす楽しみで疲れることを知らないのですよ」
「わしらも、そうでしたでしょう」
「そうだったかな?」
「勿論です。わたしは、それを知っていますよ。何度ハラハラしたか、それに、わたしの記憶では、たしか、風呂が好きではなかったはず」
「そうだったか?・・・誰かと間違っていないか・・・」
「そう言うことにしましょう。それよりも、手を動かして下さい」
「・・・・」
「そう言えば、あんたって、昔から女性の胸しか見てなかったわ。今もなのね。まあ、孫みたいな女性でも関係ないのね。それだと、若者たちにたいして何も言えないわね。それにね。そんなに、ジロジロ胸を見られたら、若い子なのだから恥ずかしくて風呂から出てこられないわよ。可哀そうだからいい加減にしてあげなさい」
年寄りたちは、同じ歳の者と会話をしていた。それも、仕事をしながら慣れた感じだった。そんな中の一組の一人が、会話にも仕事にも無関心で、適当に手を動かして仕事をしている感じだったが、視線だけは、若い女性たちの方を見ていたのだ。
「酷いな。まるで、それでは、変態ではないか、それに、仕事はしているだろう」
「お前がしている。その作業のために偶然に視界に入った。そう言うことにしよう」
「何か刺がある感じだが、まあ、納得したのなら許そう」
「許す。そう言うのだな」
「あっああ」
「何だか、会話になっていない感じがするが・・・」
「だから、許す。そう言っている」
「お前ら、いい加減にしろ!さっさと仕事を終わらせろ」
貝は、年寄りの男女の会話の声が小さく二人だけなら無視していたが、会話は段々と大きくなり。その話が周囲に届く者は手を休め、その話が聞こえない者も何か楽しい夫婦漫才でもしている。とでも思ったのだろう。二人の年寄りの周囲に集まりだした。貝も、さすがに我慢ができなくなり。二人の男女の年寄りだけでなく周囲に集まった者たちの騒がしさと、原因である会話を止めに来たのだ。だが、そんな騒ぎのために・・・。
「えっ?」
(この地だよな・・・なんだ!これは!どう言うことだ?・・・)
隊長の先頭の部隊が、目的の地に到着した。それは、隊長の本体が着くまでに、危険や不具合の状況がないか、その安全の確保をする部隊だが驚きを感じたのだ。
先行の部隊が驚くのは当然のことだった。この地を見る前は荒地だと思っていたからだ。驚くことに、全てが新しく、それも、神代文字と紙だけで作られた最新的な建物などがあり。住むには何も問題がない程に全てが揃っていたのだ。だが、何も話を聞いていないのだ。それだと、姫と隊長の一族ではない、他の一族の村が存在している。それなら、この村の予定地には、我々は住めない。今の状況で様々な情報から判断して、そう解釈するしかなかったのだ。
「待機!」
これから、村の入口として作られるだろう。その場所は、街道から続く道であり。馬車と馬車がすれ違う程度の道だった。その境から開けた場所になる。丁度、その境で部隊は止まったのだ。それは、もし問題が起きた場合でも村に入っていない。そんな、屁理屈がギリギリでも通りそうな場所だった。
「貝。わたしと一緒に来てくれない。その意味は、分かるでしょう」
「はい。あの隊長が派遣した先行部隊のことですね」
「そうよ」
姫は、自分用の簡易小屋の調整をしていたが、周囲が騒がしいために、簡易小屋から出て何が遭ったのかと周囲を見回すと、村の入口で戦う構えの陣を張っていたのだ。
「おぅ~い!」
姫は、貝と共に手を大きく振りながら陣に近寄るのだった。
「姫様!」
二人が陣の方に向かって歩いて近寄って来るが、女性だと分かる程度だったことで様子を見ていたが、顔の判別ができると、大声を上げながら両手を振って返事を返した。そして、数人の男女が駈け寄るのだった。
「この状態は、どうしたのです?・・・・もしかして、他の一族が村を建設したのですか?」
「いいえ。私たちが造ったのですよ」
「えっ、ですが、神代文字は使えなかったのでは?・・・・」
「それが、不思議なことに、この地なら以前と同じに使えるのですよ。いや、もしかしたら、今までの、どの地よりも、神代文字と紙と地の相性が最高の適正地かもしれません」
「それ程まで・・・ですが、今の完成された地というか、この村の様子を見れば、そう思うのが当然かもしれませんね」
「そうでしょう。だから、村に入って自分の手触りなどで確かめるといいのでは、それにね。温泉もあるから入るといいですよ。身も心も癒されますよ」
「えっ?・・・今、何と?・・・温泉と言いましたか?・・・」
「そうそう、温泉よ。好きなだけ入るといいわ」
「たしか、この地では、温泉は出なかったはず。まさか、神代文字での壺の効果ですか?」
「そうそう」
「そっそれ程までの複雑な神代文字も可能なのですか!」
「そうよ。驚きでしょう」
「これは、直ぐにでも隊長に知らせないと!」
「そうね。それが、いいわね」
「はい。伝令!!」
先行部隊の隊長は、姫に、会話の中断の非礼を詫びると、叫んだ。その後、懐から簡易の筆の一式を取りだした。そして、小さいメモの紙を取りだして書きだした。隊長に知らせることを要点だけ書き終える頃には、伝令の者が現れた。
「御命令を!」
「これを隊長に頼む」
「承知しました」
若い男は、手紙を手渡されると、全力で駆けだした。
「要件が終わったのでしょう。それなら、村の中に小屋もあるのだしね。身体を休ませてからでも温泉に入るといいわ」
「それは、できません。本隊が到着するまでは・・・姫の行為は嬉しいですが、お断りします。それが、隊長からの使命です」
「正直にいいます。物騒な陣を構えたままでは、皆は怖くて安心できないのです」
「上官にたいして何を言うか!」
「すみません。と謝罪しますが、部隊の中では見習の兵ですが、一族の長として命令します。直ぐに、この地の者にたいして威嚇ともとれる構えを解きなさい」
「うっ・・・ですが・・・」
(この姫は、我らの内心を知っているのか?。だが、このまま隊長の命令しか従えない。そう言いたいが、それを言っては、隊長格の者だけの場合が良いが、それ以下の者や一般の兵の前では、姫としての権威がなくなる。仕方ないが従うか・・・・)
「何です?」
「それでは、小屋で寛ぐ自由は与えられないが、交代で、温泉に入るのでは駄目でしょうか?。隊長にも言い訳ができます」
「分かりました。その顔の表情の痙攣を見ては承諾するしかないわね。でも、隊長格の者って、隊長には、絶対の服従なのですね。もしかして、噂ですが、隊長に絶対の忠誠を誓わないと、隊長になれない。それは、本当なのですかね」
「それに答えろ。そう一族の長としての御命令ですか?」
「いいえ。それは違います。今のことは冗談を聞いたとして忘れて下さい。それでは、いつでも入れますので温泉を楽しんでね」
「はい。我らにたいしての心の底からの気遣いに感謝いたします」
「・・・・」
姫は、先行部隊の隊長の言葉が聞こえていたのか、聞こえていなかったのか、姫しか分からないことだった。だが、もし聞こえていたとしても、嫌味としか思えない。その言葉に返事をする。それは、姫を怒らせて指示を断る。そんな、企みなのかと、無言で歩き続けて村の中に帰っていたのだろう。そんな、歩き続ける後ろ姿には、そう感じられたのだ。
「班長、副隊長以外の者たちの温泉に入ることを許す。または、小休憩を許すぞ。だが、それは、温泉と簡易小屋などの調査だということ、それを忘れるな!」
部下たちは、一瞬だが、緩んだ気持ちから叫び声を上げようとしたが、直ぐに気持ちを引き締めることになった。それから、隊の八割の者たちは一人一人の行動ではなく、秩序ある班ごとの調査としての行動の動きがあった。それでも、真っ先に向かったのは温泉だったのだ。
「姫!」
新は、どこかに隠れていたのか、おそらく、姫の指示だろう。陣営からだと、誰かと分からない程まで離れるようにと、そして、新は、姫の要件が終わると、駈け寄るのだ。
「新さん。大丈夫ですよ。本当に馬鹿馬鹿しいことです。それがね。空き地だと思ったのが、多くの神代文字の紙の簡易的な建物があったことで、他の一族が村を建設した。そう思ったらしいわ。それで、あの陣です。同じ一族だと言ったのに馬鹿でないのかしら!」
「そうですか、なら、何も問題はないのですね。それに、今の話を聞くと、もう姫の責任っていうか、任務というか、全てが終わった。そう言うことですよね」
「そうですね・・・そうなりますね」
「それなら、全てを任せればいいのでないですか?」
「えっ・・・」
「何か、やりたいことはないのですか?。何でも付き合いますよ」
「何でも?」
「はい。勿論ですよ。何かあるのですね。それは、なんでしょう?」
「トンボ玉を作りたいの・・・その遊びをしたいの・・・です」
口から言葉として出ているのだろうか?。そう思うのは、子供の遊びと笑われる。そう思われるだけでも恥ずかしくて囁きのような声になるのだった。
「トンボ玉?」
新は、囁きの言葉で聞き取れ難いためもあるが、聞き違いなのかと思い。それと、トンボ玉とは何なのか分からないこともあり。姫に問い掛けたのだ。
「はい。そうです。トンボ玉です」
姫は、子供の頃の遊びの一つの思い出あり。皆と一緒に遊びたかったことでもあり。だが、今は大人なのに、いまだに子供遊びをするのかと、そう思われたと感じて恥ずかしくなり、囁きの声になってしまったのだ。
「その遊びは、どんな遊びなのですか?」
「簡単に言うと、敵が薪を集めて、敵が集めた薪を早く全て燃やし尽くて自然に消えるのを待つのです。それが、早い者が勝ちです。そのために炭になった物を砕くのもいいですし、また、敵にたいして新しい薪を集めるのもいいのですよ。そうすると、また、燃やさないとならないからです。だから、まず、開始と同時に薪を集めるところから始まります。それも、多ければ多い程にいいのです。すると、敵は燃やす時間が掛るのはいいのですが、自分が燃やす時間が無くなりますので、適当に集めてから火を熾して薪を燃やすのです。後は、早く燃えるように風を送ったり、炭になった物を砕いたり、薪を細かくしたりとか、その人の性格でしょうね。そんな、遊びです」
「そうですか、それで、トンボ玉とは?・・・何ですか?」
「あっ、そうね。それはね。海岸で焚き火をして、その後には、小さくて少しだけど、トンボ玉の原料が現れるの。それって、ガラス質が砂の熱で溶けて固まるのね。それを勝者が集めて、大人の職人さんに渡してトンボ玉を作ってもらうのよ。それが、勝者の景品になるのね」
「それでは、これから、海に行きましょう」
「はい!」
姫は、嬉しそうに頷くのだった。そして、右手を前に出して、新の右手を握り上空に昇って海に向かうのだ。それでも、姫は、トンボ玉の遊びの話が止まらなかった。
「それでもね。トンボ玉を作る原料を作るのが目的だからね。薪は、ある程度はって言うか多く集めないと駄目なのですよ。焚き火の温度を上げないとならないからね」
「あっ、そう言うことですか、なら、頑張って多くの薪を集めないとならないね」
「そうです。そうですよ。ん?・・・・」
「あのう」
「何でしょう?」
新は、何度か話を掛けた。だが、何度目だろうか、やっと、気付いてくれたのだ。
「薪を燃やすのですよね。どのようにして火を熾すのでしょうか?」
「あっああ~それはですね。紙片に、神代文字で、五分後に着火と書いた紙片を渡しますよ。開始も同時にしないと、正々堂々とした勝負にならないでしょう。今回の新さんとのトンボ玉の勝負では、初めてですので、もし火が消えても、何度も、着火の紙片を渡しますわ。本当なら火が消えたら負けなのですがね。大丈夫ですよ。安心して下さい」
姫は、本当に嬉しそうに、ニコニコと笑みを浮かべていた。その嬉しく楽しい気持ちは新も同じだった。そのために、上空を何分、いや、何十分なのか、気付かない程に空中を飛び続け、夢中で姫の話を聞いていたのと同時に、トンボ玉の完成品の想像と遊び方の想像をしていたために、海岸に着いたことにも気付かなかったのだ。
「新さん。海岸に着きましたよ。どうしましたか?」
「えっ?」
「直ぐに、始めるわよ」
新は、姫の言葉には気付かなかったが、右手の姫が握る手が離されて温もりが消えることには気付くのだった。そんな状態の新の気持ちなど知らずに、姫は、懐から紙片と簡易な入れ物から筆と墨を取りだして神代文字で実行する指示を書きだした。
「これが、紙片よ。五分後に紙片が勝手に燃えだすから気を付けてね」
姫は、もう一度、遊び方を伝えてから自分の焚き火する場所だと、海岸の砂の上に手で丸を書いて伝えた。それが、ゲームの開始だった。
「えっ、あっ、はい」
新の頷きを確認すると、ゲームの開始を納得したと、直ぐに駆け出して薪を集め始めた。
新は、姫が薪を集めている姿を見て、自分も円を描かなければ薪を置く場所がない。そう感じて、少し慌てて姫の丸から十メートルくらい離れた場所に描いた。あまり、遠くでは姫の様子が分からないためだった。そんな姫は、大きな数本の木々を持ってヨロヨロしている姿を見ると手伝いしたい気持ちになる。無理をしないで小さい木切れでも良いとも思うのだが、これが勝負を真剣にしている何かの対策だと感じて何も言わずに燃えやすい木々を集めて、姫が丸を描いた近くに木々を置くのだった。そろそろ、三分が過ぎる頃になると、姫も余裕ができたのだろう。自分が燃やす集められた木々を見て、新に鋭い視線を向けられたのだ。何も言葉にしていないが、何となく意味は伝わった。細い木々だけで太い木々を集めないのは疲れるから適当にしている。または、真剣な勝負なのに手を抜いて故意に負ける。そう思っているのだろう。それで、仕方がなく、この場に姫が集めた木々を丸の中に入れて、その下に紙片を置いてから姫が燃やす太めの太い木々を集めることにしたのだ。すると、笑みとも違う。真剣な表情とも言える。真剣勝負のスポーツ選手のような満足な表情を浮かべて、新の薪を集め続け、四分が過ぎる頃なると、薪を燃えやすいように山に重ねて紙片が燃えるのを待つのだった。
「負けませんからね!」
「はい。勿論、私も負けませんよ」
そう言った後は、姫が集めたと同じような太さの木々や小枝を集めた。姫の紙片が燃え出したのを見ると、自分の紙片も燃えたことで、姫の薪の追加や消えないように燃やすことに夢中になり。薪を集めるのを止めたのだ。
「これって、思っていたよりも強力だな」
神代文字で書かれた指示の文字の紙片は、自分が思っていた以上の火力だったことで驚くのだった。
「何ですか?」
姫は、少し怒りを感じているようだったが、新には、理解できなかった。だが、違う点はあった。姫と新の薪の燃え上がりの火力が姫の方が小さかったのだ。そして、新は思うのだ。この勝負をする者は、その目的は、トンボ玉が欲しいという欲求だと、そして、どれだけ、勝負する相手に多くの薪を燃やさせることと、葉などであおいで火力を作らせることだ。それが、本当の目的だと感じたのだ。それを姫は理解しているのか、分かっているのか分からないが、かなり肉体的に疲れている。それは、感じられた。
「大丈夫ですか?」
「これでは、勝負に勝ったとしても、火力が足りなくて、トンボ玉の材料が作れない!」
姫の薪は、もう木切れしか残っていなかった。
「えっ?」
姫が叫んだ後に、小声で、ぶつぶつと呟いたが聞こえなかった。その呟きが終わると何か答えが出たのだろう。突然に立ち上がって、新の方に向かってきたのだ。
「わたくしの勝は確実ですよ。薪を集めなくていいのですか?」
「
「薪が足りないから持って行きます!」
「えっ?・・・はい?・・あっ、勿論です。負けたくないので薪を集めてきます」
(やはり、一番先に薪を燃やし尽くした者だけが他の者の監視をして手を抜くことになり。二位以下の者は、薪を集める者、葉などであおいで火力を上げさせることだったのですね。これは、姫が納得するまで薪を集めるしかないですね。それに、もしかしたら、二人だけではトンボ玉を作る材料は集まらないかもしれない)
薪を集めながら思案しては、姫の近くに薪を置いて、適当な時間で、自分の焚き火が消えないように薪を足すのだった。
「はっはぁ・・・はっはぁ・・・」
新は、体力的に、もう限界だと思う頃に、姫は、薪を追加する物は無くなり。炭になった物を砕き始めたために自分の焚き火の様子を見ることにした。そして、真剣に炭を扇いで火力を上げた。
「もう勝敗は決まりましたね。それで、トンボ玉の材料は出来ましたか?」
新は、姫に視線を向けた。全ての木々が炭となり。炭も砕き終わっていた。そう思った時に、姫に問い掛けたのだ。
「・・・・あっ!」
砂粒と変わらない大きな光る物が有った。姫の想像では、もっと、ゴロゴロと大きな物を想像していたのだろう。だが、初めての達成感で、その粒でも嬉しそうだったのだ。そして、懐から紙を取りだして紙に包んで懐にしまうのだ。
「良かったですね」
「うん。そっちは、どうでした?。ありましたか?」
「どうでしょう?・・・わたしには、何がトンボ玉なのか判別ができません」
焚き火の後を見て、正直に答えた。
「そうですか、なら、わたしが確かめてもいいですか?」
「勿論です。お願いします」
「それでは・・・・」
新の焚き火の後の砂の表面を撫でるように探ると、自分の場合と同じ数と大きさの物があった。少し残念そうに集めて、新に見せると頷かれて、姫も感謝の気持ちから頷き返した。そして、先ほどの物と一緒にして懐に戻すのだった。
「それでは、帰りましょうか?」
「そうね。そうしましょう」
姫は、右手を前に出した。新は、直ぐに、その手を握った。そして、ゆっくり、ゆっくりとだが、もう慣れたのだろう。二人は楽しそうに上空に舞い上がるのだった。
「どうだった?」
「えっ?」
「トンボ玉の遊びですよ!」
「あっああ・・・」
新は、上空から落とされるのではないか、そう思う程に、姫は、海岸に行く時も楽しそうだったが、子供の頃は、皆と遊べなかったのか、今は、初めての遊びに興奮していたのだ。本当に、幼い頃から楽しみしていて思っていた以上に楽しかったのだろう。その様子を見て村の予定地に着くことができるのか、もしかすると、自分がしっかりしなければ、村の予定地を通り過ぎて、どこか分からない場所まで行ってしまうのではないか、それを心配していたのだ。
「姫!。と、と通り過ぎています!」
「あっ!」
「ウァ!」
姫は、新の言葉に直ぐに反応して引き返した。それは、驚くと同時だったために、新の気持ちも何も考えない行動だった。新も驚き、今まで人生で体験もしたこともない感覚を感じたのだ。その時、一瞬だが思ったことは、これが、ゼロ戦の木の葉落とし。そう思った。だが、その意味も、どんな感じで、どんな状態なのか分からない。それでも、もし姫と空中での話題になった時に、木の葉落とし。と名前を付けて、失速しながらの地面に降りるのは止めて欲しい。そう言おう。と思ったのだった。
「村に着きましたね」
「はい」
地表に着くと直ぐのことだった。
「姫。お探ししていました」
先ほどに会った。あの先行部隊の隊長が近寄って来たのだ。
「どうしたのです?」
「村に、隊長と本隊が到着しました。直ぐに、隊長が、姫に話したいことがあると・・・」
「そう、それで、どこに居るの?」
「温泉に入っています。姫様が、帰りしだいに温泉に連れてこい。そう言われました」
「そうなの・・・何だろう?」
「分かりません」
「そうね。分かった。今直ぐに行きます・・・そうなるけど、新さん。どうします?」
「今日は、疲れました。自分の簡易小屋で休んでいます。何かあれば声を掛けて下さい」
「わかりました。ゆっくり体を休ませて下さいね。だぶん、隊長の話しって、温泉が気持ち良い。そんな話だと思うわ」
姫は、新と、そんな話をした後に、一人で隊長が居る温泉に向かった。まだ、屋根はないが、温泉を囲うように神代文字が書かれた紙で塀が出来ていた。その入口に、男女の二人が警護のように立っていた。
「あっ、姫さま。お待ちしていました。隊長が中でお待ちです」
「はい」
一人の女性の方が一緒に入るように招くのだった。姫は、勧められるように中に入ってみると、まだ、驚くことがあった。着替え室が設置されていたのだ。それをみると、一人だけ、隊長だけが入っているのだろう。簾(すだれ)があるために中の様子は分からないが、その女性は、服のまま簾をくぐるのだ。女性を待つことなく衣服を脱いでいると、女性が一人だけで出てきた。
「どうぞ」
「はい」
簾をくぐると、驚きの声を聞くのだ。
「何が、遭った?何をした?」
「えっ?」
「神代文字での機能や効果が正常に働いているだろう!」
「あっ、そのことですか、それが・・・何て言うか・・・何もしていないのです」
「えっ?・・・意味が分からない」
「この地を誰が調査したのか、それは、分かりませんが、調査した時は、本当に神代文字の機能は、効果は働かなかったのですか?」
「それは、本当のことだ。何一つとして壺も簡易小屋も作れず。調査の報告を聞いても信じられないと思うことなのだが、調査した帰りの馬車もただの紙に戻って歩いて帰ってきた。そう報告を聞いているのだぞ」
「それは、本当ですか?」
「そうだと、何度も言っている!」
「もしかして、正常に働くことの、その理由を調査しろ。そう言う意味で呼んだのですか?」
「いや、それは、違う」
「えっ?」
「新のことだ。今までも、新と何かをしていたのだろう?」
「はい」
「新は、赤い糸の導きの人なのか?・・・違うなら姫の貞操などの変な噂が流れるのは困る。それに、新も可哀そうだぞ」
「それは、わたしとしては、赤い糸の人だと思うのですが、それを確認する方法がないのです。一緒に行動していれば何かの反応があるかと・・・それで・・・トンボ玉の遊びを・・・」
「そうか・・・そうか・・・」
(姫と新は、相性は合うのかもしれない。新でなければ子供の遊びをしたいなど恥ずかしくて言えないだろうからな)
隊長は、姫も困っているようだが、自分としても姫に何を手助けしたらいいのかと、それを悩んで何も言えなくなったのだ。
「隊長。あれです。あの・・・その・・・あの断れずの手紙を渡した方が良いでしょか?」
「それは、まだ、やめた方がいい。それに、その手紙の理由を知っているのか?」
(前木なら全ての理由を知っているだろう。もし本当に断れずの手紙を渡すなら何かの計画を立てて、姫が断れないように追い詰めるはずだ。だが、新には、未来に恋人か、想い人がいるかもしれない。それに、理由が知らなければ意味はないだろう。姫が、それを渡して断われば、姫の立場がない。それに、断れば、新は、隊の者たちに殺されるだろう)
「いいえ」
「あれは・・・その話をする前に、前木からは、手紙は勿論のことだが、小さい紙片だとしても手に取るなよ。それだけは、忘れないでいてくれ。いや、警戒してくれ」
「はい」
「その断れずの手紙とは・・・」
隊長は、話し始めた。だが、姫は・・・。
姫は、隊長の話を確認する感じで聞いていた。過去、未来と飛んで暇があると調べていたのだ。未来では有名なかぐや姫の話しがあり。それと重なる感じがした。やはり、断れずの手紙が原案だったのだ。その原案では、複数の男から求婚を求められて断る話しなのだ。女性には両想いの好きな男がいたのだ。だが、男は身分が低く、裕福でもなく、性格も弱虫で軟弱で、もし好きな女性から告白されても逃げるだろう。そんな男だった。誰からも釣り合いが取れない。だが、人にも動物にも優しい人だった。それで、女性は親と親族に相談したのだ。そして、親と親族は計画を立てた。それが、断れずの手紙だった。男の親と両親も協力して、男の良い所はないが、ほめて、ほめて、得意にならせて告白させようとした。また、時には、結婚しなければ、女性を辱めたとして殺されると、脅すこともした。すると、女性から逃げるように怯えて家から出なくなった。仕方がなく、男が逃げられないように計画を立てる。それが、上から読んでも下から読んでも同じ意味の恋文を作成して、女性から男性に手渡した。その恋文の返事で断る内容を書けなくさせた。というよりも、その手紙を受け取った者は、誰も断れない。男の親から親戚、女性の親と親族、知人、全ての男と関わる全ての者から言われるのだ。これは、禁断の手紙だと伝えたのだ。そして、姫は思うのだ。その断れずの手紙の元もある。それは、自分と同じ赤い糸を持つ、自分の先祖ではないのかと、赤い糸の導きの相手には、許嫁がいたのではないのか、と、なら、新には・・・。
「ん?・・・話を聞いているのか?」
「はい・・・新さんには、想い人がいるのかな?・・・・」
「どうだろう?・・・それで、その問いかけに答える前に一つ聞くが、もし運命の導きの相手に許嫁が居た場合は、どうするのだ?」
「もしかすると、自分が過去か未来に飛んで許嫁と結婚できないように断らせるか、その運命の導きの人を自分の世界に連れてきて、許嫁を忘れさせるか、その話しなど何も無かったことにするか、自分との結婚以外の選択がないようにするか・・・」
「それなら、新が、いや、前木もだが、姫が呼んだ。ということなのか?」
「ん?・・・・分かりません」
「そうだろうな・・・という答えになるぞ」
「えっ?」
「新と、結婚することしか考えていないのだろう。なら、何も迷うな。だが、もし運命の導きの相手でなかった時は、美味い酒を飲ませてやる。好きなだけ愚痴を言って泣け」
「ありがとうございます」
「愚痴でなく、できることなら祝いとして一緒に飲めるのを楽しみしているぞ」
「はい。それは、わたくしもです」
「それよりも、どうしたらいいだろうか?」
「何をですか?」
「この地だけが、不思議なことに神代文字の機能が使えるだろう」
「そうですね」
「もしかすると、姫と一緒に居た場合なら使えるのか・・・どうだろうか?」
「ん?・・・・」
「他の者も聞いた。皆が使えない時があった。そう聞いている。だが、姫だけが、常に神代文字が使える。もう一人例外はいるが、それは、わしだが・・・どう思う?」
「んっ・・ん?・・・・」
「それと、これを見てみろ!」
「何でしょう?・・・何かの容器のようですね・・・おそらく、未来の物でしょう。それで、もしかして、容器の中の液体は、墨でしょうか?」
「その通りだ!」
「もしかして、それが、探しだす物だった。そう言うことですか?」
「いや、それは、違う。これは、何かの方向を指し示しているのだろう」
「何かの?・・・方向?・・・」
「そうだ。これは、ペットポトル。という物らしいのだが、容器の中の液体が、強い磁石にでも引き寄される感じで斜めに傾くのだ。だが、今は、水面は、水平だが・・・」
「そん水面の動きがあったのですね。本当に、不思議ですね・・・でも、なんで今は、何の動きがないのでしょう・・・やはり、わたくしですか・・・わたくしなら・・・それなら、なぜ、左手の小指の赤い感覚器官から何の指示がないの・・・」
「それは、赤い糸のことだな。それは、姫しか分からないことだ。それでなのだが・・・」
「はい。何でしょう?」
「始祖の地に行かなければならない。それも、その前に、異物を集めて運んできたのだが普通の紙に戻ったために持ち運びができなかった。それも、その場、その場の対応で点々と道中に置いてきたのだ」
「そうでしたか、それを回収しながら始祖の地に向かうのですね」
「そうだ。もしものためだ。姫と一緒なら神代文字の機能が正常に働くだろう」
「それは、構いません。命令だというなら従いますのに、何かあるのですか?」
「それなのだが、隊の若い者たちは、この地に残り。村を構築してもらう。そうなると・・・」
「はい。何が言いたいか分かりました。若い者は、新さんと、わたくしの二人だけになる。そう言うことですね」
「そうだ。残りは老人だけになる。だから、二人が中心的に働くだけではなく、あまりテキパキと行動するのは難しいだろうが、その残りの隊の指示も頼む」
「なぜ、隊長は指示を出さないのです。隊長の指示なら腰が痛い。足が痛い。などの愚痴は言うでしょうが、問題なく指示を完遂するでしょう」
「わしか、わしは、前木の行動が気になるのだ」
「前木?」
「ここだけの話にして欲しい。勿論、新にも言うな。もしもの話しになるのだが、姫と同等、いや、それに近い力がある場合ならば、神代文字の機能を使えなくさせた。その原因かもしれない。そう思ったのは、わしと、前木が乗る馬車だけが神代文字が正常に働いたからだ。だが、その時ペットポトルの傾きの事でノートという物に文字を書いていた。それが原因か・・・まあ、他にも乗っていたが、それは、関係ないだろう。だから、何かある。そう思うのは当然だろう。姫は、そう思わないか?」
「まあ、わたくしと同等ってところは何とも言えませんが、何かは、ありそうですね」
「そうだろう。それなら、一緒に来てくれるな」
「はい」
「それでは、直ぐにでも出発がしたい。放置している荷物などが心配なのでな」
「はい」
「すまないな」
隊長は、姫に頭を下げると、右手で指を鳴らして人を呼んだ。その音の意味が分かるのだろう。姫は、呼ばれた者が簾から現れる前に温泉から出て行くのだ。着替え室で、先ほどの女性と会うかと思ったが呼んだのでなく、何かの指示を伝えたのだろう。そう思案して忘れることにした。そして、直ぐに、新の所に向かうのだった。その途中では、村の中は忙しく行き交っていた。普段の状態なら何をしているかと、関心を示すのだが、新に会って何と伝えて良いのかと思案していたために他に関心を向ける余裕がなかった。
「新さん。起きていますか?」
「はい。どうしました?」
「隊長から面倒臭くて~本当に~いろいろな事を頼まれました」
「怒っているのですか?」
「いいえ。そう言う意味ではないですよ」
「それなら、良かった。もしもですけど、どうしても、嫌な時は言って下さいね。怖い人ですけど、一人では無理だけど、一緒に、嫌だと言いますからね」
「もう~はい、はい。ありがとうね。そうするわ。その時は、お願いね」
まるで、幼子が、お姉ちゃんを助ける。そんな、雰囲気に感じて、本気で言っているのかと悩むが、それでも少しは嬉しかったので微笑を返すのだった。
「それで、直ぐに行くことになるのですよね」
「はい。今直ぐにですよ。大丈夫ですか?」
「勿論です。隊長が待っているのですよね。それなら、待たせるのも悪いですよ。直ぐに行きましょう」
隊長の件もあるが、村の中が慌しかった。隊長の指示である。村に必要な物や様々な物などの調整に、特に、村の入口に置く予定の穴の開いた硬貨のような形の大きな石の作成に若者の殆どが力を合わせていた。勿論だが、大きければ大きい程に良い。村の象徴とも言える物であり。大きい程に誰かに恩があることであり。大きければ、それだけ、村に物が豊富であり。訪れる者にたいして満足できる接待でも交易でも対応ができる。そう言う意味で置かれるのだ。現代的に無理に例えるのならば、為替や手形と考えると近い。それならば、旅人である。その相手も同じ物を持ち歩いているのかと思われるだろう。それはない。恩を受けた。その者の名前を言うだけで、無料で泊まり。食事や飲み食いも無料であり。交易にたいしても殆ど言い値だった。だが、知らない名前を言った場合や交易だけの目的で訪れた場合だが、金銀などの宝石や一般的な交易品を大量に持って来て安くする。そう言ったとしても対応が冷たくなる程度なら良い方だった。宿泊費を払うと言ったしても村にも入れてもらえない場合が多い。それが、一般的な村々の対応だった。縄文時代とは、医療や学業も富の分配も平等で争いの無い。それが、老人だろうが、子供や女性だろうが、全てが平等だった。そう言う理念だった。それを可能にしたのが、全てのことに協力しなければ生きられない狩猟生活だったから出来たことなのだ。そして、時が流れる程に怪我人など狩猟生活ができなくなった者たちの集まりが村であり。それの恩を感じたことから穴の開いた石の貨幣に似た物を置くことであり。その者が亡くなっても孫の代でも恩を返す。そう言う意味であり。そう言う世界だった。
「二人とも、急がしてすまないな・・・ん?・・・どうした姫?・・・」
「姫は疲れているようです。だから、大丈夫です。隊長の指示なら喜んで引き受けますよ」
「何をするのか分かっているのか?」
「男だと、証明ができる仕事だと思います」
「まあ、そうかもしれないな。がんばれ!」
「・・・・」
「姫。良かったな。楽ができるらしいぞ。おめでとう」
姫は、新が突然に変なことを話したことに首を傾げていた。だが、隊長には、若い男には時々あることだった。そして、こんなことを言う男たちを思い出していた。それは、隊長である自分にではなく好きな女性のためだった。今の新の言葉は、姫に言っているのだと思い。それで、姫の肩を叩いたのだ。
「・・・・」
(前木が、わたくしを見ているわね。やっぱり、隊長が言うように手紙を渡す機会をいつにするか考えているの?。違うと思うわ。でも、何か良からぬことを考えているのよね。隊長の話しでは・・・だけど・・・)
「姫。荷台に乗られますか?・・・それとも、馭者でしょうか?・・・」
「あっ!」
馭者席に座っている隊長の後ろから前木が、姫と新を見ていたことで変な感じに思っていたが、姫に言葉を掛ける頃合いを感じていたのかと、それが分かり、少し恥ずかしそうに驚くのだった。
「それとも、皆と一緒に歩かれますか?」
「新さん。どうしましょうか?」
「そうだねぇ・・・女性である姫さんが決めると良いよ」
「そうね。これから、力仕事もあるのだしね。荷台でも乗せてもらいましょう」
新は、姫の問いの答えを言い難そうに困りながら、姫との視線を合わせないように答えるのだった。その意味は、歩きたくない。そう姫は感じ取るのだった。
「そう決めたのなら早く乗れ。直ぐに行くぞ」
隊長の声が大きいのだろうか、姫と新に言ったはずなのだが、他の老人だけの隊員は待機していた。だが、出発する命令がないはずなのに全ての老人の隊員が歩き出したのだ。
遠目には、白樺の木で作れたような村であり。この村が一日で出来たとは、誰も思わないだろう。その住人の半分が移動していた。村に残された者たちは、大きな岩を動かして所定の場所である。村の入り口に置くと、成形を始めたのだった。この大きな岩を置くことで村の構築が終わるはず。その村から移動する一行は、姫と隊長たちであり。始祖の地に向かっていた。だが、その一行は、目的地である始祖の地に最短の距離では向かわずに定まった方向もなくウロウロと、一行は迷っているのか、何かを探しているかのような移動だったが、上空から見られた場合なら直ぐに分かることだった。点々と、小山のような物を探しては回収しているのだった。何回目の回収をしたためなのか、村からの距離だったのだろうか、回収が終わる同時刻のことだった。一瞬で村が消えたのだ。だが、消滅したのではない。一瞬で紙の山となり見た目はゴミ屑の山となり消えてしまったのだ。それも、大きな岩だけが残されて村が在ったことが分かるだけだった。いや、直ぐに、無数の黒い点々が慌しく動く感じなのが上空からなら分かる。まるで、その黒い点々は白い紙クズの山が砂糖の山に群がる蟻のようであった。そんな状態の村の様子など知らずに、姫と隊長の一行は、小山の回収を続けていたのだった。
「やはり、考えていた通りのことになったな」
隊長は、姫が小山に近づくと、その小山は、紙のくずだった物が、命が宿ったかのようにグニャグニャと動くのを見た。そして、老人たちは、自分たちの担当の元馬車だった物に近寄り、神代文字の修正と馬車の組み立てを始めた。すると、完全な神代文字の機能が戻り。隊長の馬車が走り出す後を続いて走りだすのだった。その様なことを何度も繰り返し続ける。その様子を見て、隊長は頷くのだった。
「姫さん。もう疲れたでしょう。自分が残りの遺物の積荷は積んでおきますよ。だから、荷台の上で休んでください」
「その行為を受けろ。少し話がある」
「あっ、はい」
新の好意を嬉しそうに笑みで返した後に、隊長の話を聞くために荷台の馭者側に乗り。何を言われるかの話題は分かっていたので隊長の言葉を待つのだった。
「何を言われるのか、それは、分かっているようだな・・・その理由は分かるのか?」
姫は、首を横に振るだけだった。
(やはり、始祖の地か、それしか残されていないか・・・)
「ご苦労さま」
新は、全ての荷物を馬車の荷台に乗せた。すると、姫が手を伸ばしてきたのだ。
「ありがとう」
荷台に乗っても良いのかと、隊長を一瞬だけ見るが、何かを考えているようでもあるのだが、視線は前木に向けているように感じられた。そんな、隊長の視線など気付かずに前木は疲れて寝ているのだ。隊長の性格から起こさないのは不思議だったが、もしかするとだが、本当に気持ち安そうに良い夢でも見ている感じだったので起こさなかったのだろう。
「・・・」
前木は、寝言だが、誰かの名前を呼んだ。そう思えたが、誰にも聞きたれなかった。確かに、夢を見ていた。もう少し正確に言うのなら人生の何年か分を走馬灯のように見ていたのだ。それも、父から念願のビデオカメラを買ってもらって手渡された時に同時に言われたことだった。その時は、嬉しくて興奮していたことで、自分には許嫁がいる。それを忘れていた。だが、成人するまで、いや、初恋を感じた時まで忘れていた。それでも、初恋の前には憧れた女性もいた。それは、芸能人よりも会えるはずもない女性であるが、もしかすると、同じ人だと認識していなかったかもしれない。その女性とは、姫のことなのだが、この時に、三人の女性を同時に思い出した。もしかしたら、夢だったのかもしれないが、それぞれの三人と結ばれた未来が見えたのだ。そして、誰か一人を選択しろ。そう時の流の神がいるのなら神の声だったかもしれない。もし、この走馬灯のような映像を姫が見たら赤い感覚器官の時の流の修正だと感じたはずだろう。そんなことは、前木に分かるはずもなく、それでも、前木は一つ選択をするのだった。その選択は、希望の女性と結婚できる。だが、二人は老人になり。老人としての第二の人生の始まりの時に、選択した代償とは少し違うが、初恋の人と結婚できた。その方法を自分が撮影したビデオに姫の姿を見て思い出し、選択した事の実行をしなければならない。それを思いだすのだ。代々の家訓があった。とする。ある一族とは結婚してはならない。その書簡の作成であり。自分も見たのだ。年代物であり。読めない文字だったが、証拠となる花押も見た。その花押の持ち主を探さないと何も始まらないのだ。
「うっ、あっ!」
(寝てしまったのか・・・あとは、花押を見ていないのは、上官クラスと姫だけ・・・それにしても、本当に新は、わしの若い頃に似ているな・・・)
前木は、姫に全てを話して協力してもらえれば何の問題はないのだが、姫は、運命の相手を探すために時の流の修正する使命がある。その使命が、その相手が未来人なら未来人は二人いるのだ。まさかだと思っている。自分なのかと、それなら、姫と同じ歳の当時の時の頃に生き写しなのが不思議なのだ。だが、自分が初恋の人と結ばれたい。その思いで時の流を狂わせた。そのために自分と同じ遺伝子を持つ者に時の流の自動修正が、新を選んだのだろうか、それで、新を縄文時代に呼んだのならいいのだが、などと、前木は考えていたのだ。だから、誰も相談はできない。それでも前木は、その狂わせる物証を作るために自力で縄文時代に来たのだから何が起きて邪魔をされようと必ず作る。もしかすると、自分が、過去に来たための代償だったのならば、新も姫の運命の相手ではないのかもしれないのだ。全ての原因が、自力で縄文時代に来たためなのだとしたら誰にも相談はできないのだ。だが、もう一つの覚悟はある。新を必ず元の未来に帰すことだった。前木は、そして、また、花押のことに思考が戻るのだ。縄文時代から続く物として作成することだった。そして、もしかして、と思うのだ。自力で縄文時代に来たと思っているが、姫の運命の修正の一部であった場合ならば、自分か、新か、または、誰か分からない者と、結ばれない。それが確実になった場合に運命の修正の有効期限があれば、もしかしたら強制的に未来に戻されるのではないだろうか、と、、だが、そんな様々な恐れよりも、もし前木が姫に全てを話しても「自分が誕生して今までに何度も経験したことなのよ。だから、笑って運命の相手と結ばれるための試験なのね」そう笑って全てを許すだろう。そして、喜んで協力してくれる。そんな姫の気持ちを前木は知らないのだ。
「どうした?具合でも悪いのか?」
「いいえ。身体の体調は悪くはないのですが、何て言うか・・・その・・・紙の馬の作成は、まだ、一度も見ていないなぁ。そんな馬の作り方を想像も考えても分からないことを考えていたら寝てしまったようですね。おそらく、知恵熱でもでたのでしょう」
「そうか、そうか、なら、姫。馬を作ってみるか?」
隊長は、前木の寝起きの顔の笑みを見たのもあるが、出来の悪い弟子に良い機会だと感じたのだろう。そのために何も不審を感じずに会話術にのっていた。
「そんなこと出来ませんよ。馬の折り方なんて分かりません」
「そうか・・・なら・・・」
隊長は、懐から小さい紙を取りだして、紙で馬を折り始めたのだ。
「えっ!」
(まあ、些細な会話術とは大袈裟だが言ってみるものだな。これで、隊長と姫の花押が分かるかもしれない)
「良いと言うまで見ていろ。勿論だが、何が起きても触るなよ」
手の平くらいの大きなの馬を作り終えると、本物の馬なら動く箇所に、神代文字を書くのだ。それは、時間や角度や速度などを書いた。そして、全ての箇所を書き終えて確認したあとに、自分だけが使える。認証の印である。花押を書き終えると、ゆっくりと、地面に置いて待つのだった。現代で言う動く玩具のプログラミングと同じ仕組みで、数秒後に動きだした。隊長は、頷きながら笑みを浮かべているので指示を書いた通りの動きなのだろう。三分くらい過ぎると、姫の目の前で動きが止まったので、隊長に手に取っていいのかと視線で問い掛けた。隊長は嬉しそうに頷くのだった。
「隊長は、本当に凄い。本物の馬の動きと同じでした」
「何度も失敗した。その積み重ねの結果だよ」
「・・・・」
前木は、姫から奪い取って確認したい。そう思う気持ちを隠しながら神代文字や絵や記号などの完成品には、たしかに、姫が、紙の折り紙の馬が綺麗で心を奪われる気持ちは分かる。だが、前木には、花押しか関心がなかった。足の裏にあるかも、腹の横の方かと指示をしたい気持ちを堪えて視線だけで探し続けた。
「あっ!」
前木は、首に花押が書いてあったのを発見した。だが、探していた花押とは違っていた。
「折る前の状態に戻していいのですね」
「ああっそうだ。それで、馬の専用の紙で同じように馬の折り紙を作ってみろ」
「はい」
「まあ、そんなに難しく考えるな。わしと同じようには作れない。少々見栄えが悪くても神代文字で調整ができる。あまり気にするな」
姫は、四苦八苦しながら折っていた。時には、自分の折り方が馬に見えないと笑いを浮かべては、また、修正しながら折り続けて、隊長の拍手で手を休めた。まあ、おそらくだが、これ以上は何度もしても同じだと思ったに違いない。
「後は、神代文字を書くだけだ。それは、大丈夫だろう」
「はい」
「ほう・・・ほう・・・」
少々自信があるのだろう。満面の笑みを浮かべた。そして、書きだした。ほとんど馬の折り紙に書かれたのを見ないで書き続けて、数分後、隊長が、予想よりも良い出来だったことで声が漏れる程だった。
「完成しました。指示の通りなら五分後には動きだします」
花押を書き終えると、満足そうに頷くのだった。
「前木、お前は、この花押を見たかったのだよな。それで、なぜか分からないが探していた。その花押だったか?」
「えっ?」
「その表情では、お前が探していた。その花押ではないのだな。それと、姫の作った隣にある。馬の折り紙は、副隊長が作った物だぞ。それも、違うのか?」
「・・・・」
「やはり、違うか・・・・なぁ。全てを話してみないか?」
「・・・・」
「あのな。何度も言うが、その理由を教えてくれないか、まだ、一人で解決できるのなら仕方がない。だが、縄文時代に来た理由であり。もうお手上げなのだろう。違うのか?」
前木は、もうお手上げなのは、たしかなのだ。仕方がなく。ボソっと言うのだった。
「姫の花押が似ている。だが、花押の一番上に十字が書かれていた。その花押を探していたのだが、誰の花押なのか分かりますかね?」
「一ではなく、十なのか?」
「間違いなく、そうでした」
「その数字とは、花押の持ち主が、意識不明か、または、寝ている時などに十回だけ他人が使える。そう言う意味なのだぞ。花押を書いた者が死ぬと普通の紙に戻るのでなぁ。それで、戦などでは、修正、または、書き直すことが出来ない場合だけに、一時的に、一と花押の上に書き足すと、数時間。その程度だが、そのまま維持ができる状態になる。それが、一でも普通はしない。自分が死ぬ前提だからな。それが、十だと・・・」
隊長は、悩んでいたのだが、前木は、驚きの言葉を聞いて興奮していた。
「十回も好きなように使える。それも、神代文字を完璧に取得した知識だけではなく、最高の経験者としての力を・・・だが、一度でいい。なのに、十回も使う必要があるのか?・・・」
「前木!いい加減にしろ。全てを話せ!」
隊長は、様々な理由を考えた。だが、答えが出るはずもなかった。勿論のことだが、数分後には怒りの感情が爆発するのだ。
「ん?・・・」
皆は、この馬車に乗る者や周囲の馬車に乗る者たちは、前木の話しの意味が分かることで自分にも関係がある。そう思うことで関心があった。だが、新だけが、この場の雰囲気の騒ぎの意味が分からず。だから、周囲に気持ちが向いたことで異変に気付くのだった。
老人たちの集団は、定期的に止まっては異物を回収と同時に、紙の馬と馬車が普通の紙に戻った。その紙を折り直しては、神代文字を書き直して機能を正常にするために折り紙の馬や馬車を本物の馬以上に修復していた。そんな隊列は、何の不具合もなく順調に予定の任務をこなしていた。もし無理に支障を上げるのならばだが、隊長と姫が乗る紙の馬車の荷台の上が騒がしいくらいだった。だが、隊の後方の方では、この隊の誰も想像もできないこと、その前兆が起きようとしていた。
「ん?・・・」
新は、不審を感じて視線を逸らせなかった。秩序のない人々が向かって来るのを遠目から見えたのだ。それも、最後尾の者との諍いのようなであり。隊の人々の逃亡を止めようとしていた。そんな、感じにも見えた。まあ、遠目だから結果的には、何が起きているのか分からないままで報告する者にも何て報告して良いのかも分からず。そのまま見続けるしかなかった。
「隊長。落ち着いて下さい。お願いします」
この場の者は、突然に隊長が怒りだしたことで、とっさに動けたのは姫であり。隊長の行動を抱き付いて引き止めた。
「離せ!」
隊長は、姫を殴り倒して身体の自由を得ようとしたのだが・・・その時・・・。
「姫!隊長!」
「何だ?」
「何でしょう?」
殆ど、新は、驚きの叫びを上げるが怒りの言葉ではない。そんな、新の様子だから隊長も何事が起きたのかと、不審を感じて怒りも少々静まることで話を聞く気持ちになり顔を向けたのだった。
「あれですよ。なっ、なん、何でしょう?」
隊の後方に向かって指を指した。
「脱走?・・・いや・・・敵?・・・逃走?・・・この島国は・・・天照様が治める一国の王国だぞ。それなのに、敵なんているのか?・・・なら・・・何から逃走?・・・」
隊長だけのことではない。最近では、村が多く作られているが、何十年も前には、生まれてから死ぬまで狩猟生活をするのが普通の人生だったのだ。だから、隊長や近い世代では日本の隅々まで訪れた者を殆どだった。たしかに、諍いなどの仲介から戦いになる程度はあったが、一部隊や一家や一族での大掛かりな戦いに発展したことはなかったのだ。
「そうなのですか・・・それで、部下を助けに行かなくていいのですか?」
「部下なら善戦しているようだぞ。だから、まあ、大丈夫だろう」
「なぜ、それが、分かるのです。もしかしたら、何人かは、命の危険な状態の者がいるかもしれないですよ。そうでしょう。命を懸けた戦いならば、そうなりますよね」
「新は、まだ、知らないと思うが、神代文字で書かれた。紙の剣や鎧とは、それ程の物なのだ。それに、神代文字で書かれた。馬と馬車の中に居れば、移動する要塞の中に居ると同じなのだ。逃走だとしても、それも、作戦だろう。おそらくだが、相手を疲れさせてから、集結して一斉で攻める考えなのだろう」
「なんか、いろいろな大きな紙が宙に飛んでいるのは、何か意味があるのでしょうか?」
「えっ?」
「たしか、一度でも紙に戻った場合は、同じように書き直すのですよね」
「えっ?・・あっああ・・そうだが・・・そんなに、はっきりと遠くが見えるのか?」
「まあ、歳も若いからでしょうか、老眼でも眼鏡が必要もないですし、普通の人なら見える距離かと思いますが・・・」
「本当に見えるのだな。どう言う状況なのだ。詳しく教えろ!」
隊の後方にいる数人の老人が、自分が持つ紙の剣で大勢の同胞だろう者たちを守っていた。おそらく、その数人は、隊長の許可もなく抜刀したことで処罰を受けるのを覚悟して戦っていた。他の同胞の隊の老人たちも隊長の指示を命懸けで守りながら武術で対応していた。それも、自分たちの隊の者だけなら問題はなかったのだろう。遠目からだからはっきりしないが、村の建設などのために残された全ての若者が逃げてきたのだろう。そう思えたのには数が多いことと、遠目からでも知り合いに似ている者を見たこともあるのだが、村に居た者たちならば神代文字を書き直したら復元する。それが分かっているために必死の状態で只の紙になった物に神代文字を書き直していた。何人かの成功者は盾や剣などに復元しては、数人の老人の援護をしようとしていた。長年に共に生活をしてきた。その気心が知れた仲間だからできる。そう思えたからだ。だが、大勢の者は書き直す時間も余裕もなくて、恐怖から手の震えで書けない者などは、紙の盾や紙の剣を作成することを諦めて逃げ回りながら紙を千切っては投げては目くらましになってくれと、真剣に願いながら紙片をぶちまけていた。
「数人だけが戦っているだと!」
「はい」
新の状況の話を聞いて理解したのだ。
「まさか、こんな状況でも!命令を守っているのか!」
隊長は、言葉にするよりも早く、副隊長に視線を向けた。
「はい。直ぐに駆けつけます」
「直ぐに行け!。勿論だが、抜刀を許す。だから、一人も死なすなよ!」
副隊長は、抜刀を許す。その言葉だけ視線を返して頷くが、その後は、聞こえていないだろう。すでに、仲間を救うために駆け出していたからだ。それも一人でなのだが、ある数人の者には視線を向けた。だが、その意味が気付いたのか、それとも、隊長の抜刀を許す。その言葉が周囲に聞こえたからなのが、大勢の者が副隊長の後を追うのだった。
「我は、黒髪の一族の代表者である。この騒ぎは何だ?。隊を指揮する者と話がしたいのだ。誰だ。誰なんだ。現れろ!」
副隊長は、仲間が鉄の剣で切り殺される。その寸前で、神代文字で書かれた。衣服であり鎧でもある。白い紙の袖で鉄の刀を弾き返した。それでも、まだ、抜刀はしていなかった。何度も叫びながら周囲を見回した。視線の先には、指揮官を探すのと同時に、副隊長と共に駈けつけた。その仲間も抜刀することなく副隊長と同じに白い紙の袖で鉄の刀を弾き返しては仲間を救うのだった。
「何だ?何か話がある。そう叫んでいるようだが、何の話しなのだ?」
「黒髪?」
「そうだ。同じ黒髪だが、それが、どうしたと言うのだ?」
副隊長は、少し気持ちが落ち着き周囲を見渡す。すると、大勢の人々の中には全ての髪の色の違う者たちを見たのだった。そして、逆に、さらに怒りが膨らんだのだ。
「なぜ、髪の色が違う者たちがいるのだ?」
「あっははは!そうか、そうか、だから、いまだに神代文字が使えるのだな」
「どう言う意味だ?」
「東北、関東は、神代文字が使えるようだ。だが、西の方では、神代文字の機能など使えないのだよ。だから、我らは、本当に神代文字が使えるか、その調査に来たのだ」
「調査と言うが、それは、変ではないか、この様子では、戦としか思えないのだが?」
「それは、当然だろう。昔からのならわしで生活する者たちが居ると聞いて、自由に定住生活ができるように解放の手伝いにきたのだ。それと、ついでだが、神代文字が使えるのなら理由と方法などを調査にきた。まあ、そう言う理由だな」
「それは、いいとしてだが、なぜ、髪の色が違う者たちが一緒にいるのだ?」
「我々の祖父の時代頃に、神代文字に関する奪い合いがあって、最終的には決着がつかずに統合することになり。混血が増えた。そう言うことだな」
「その話で分かるだろう。この状態で我らも一族と名のれない程に減らし、お前らが欲しい物を奪い。そして、お前らの祖父の時のように我らを一族に組み入れる。それも、最前線の兵員として、そう言うことだな」
「いや、いや、我らは、手伝いに来ただけだ。フッフフ」
「何だ!」
「それとも、戦いを再開しますかな?」
「何だと!」
「そう怒らずに、神代文字の機能とはよほど熟練度が必要のようですね。若者など裸と同じ姿ですよ。熟練度が低いために只の紙に戻ったのでしょうか?・・・それと、他の者たちの老人たちは腰を痛めたための休憩中でしょうか?」
「我らの力を侮っているのか?」
「噂は知っていますとも、いや、伝説でしょうか?」
「そこまで、伝説と言うのなら証拠を見せてやろうか!」
「いや、いや、先ほど見せて頂きました。鉄の剣が、紙の剣で、紙のように切断されましたね。ですが、数人だけが戦っていましたが、老人特有の病気でしたかな?。それとも、生命エネルギーでも必要なのでしょうか?。まあ、脅威は感じませんね。数人ではね」
「副隊長!」
周囲の者だけでなく、生意気な若者の司令官らしき者の言葉が聞こえた者が、紙の剣に手を乗せて直ぐにでも抜刀する気持ちを堪えていた。
「我らを小馬鹿にするにもいい加減にしろ。我らの紙の剣なら鉄の刀を切り裂いたまま首を落とすことも出来るのだぞ!」
「紙の剣を鞘から抜くのは許さないぞ。まずは、落ち着け」
「隊長!」
「孫みたいな歳の者から少々生意気なことを言われたからと言って、刀に手を乗せながら怒りを表すなど、お前らは馬鹿か!」
「今度は、お婆さんが出て来たのですか?。この隊の指揮官でしょうか?」
「お前!。あっ・・そうだったか、手が震えているが、もしかして怖いのか?」
「なっなな!」
「こんな会話で時間を頂くのはありがたいぞ。皆は、老人だからな。体力が持たない。感謝するぞ。その気持ちとして言っておくが、お前らが神代文字の機能を見てきたのだろうが、一時間でも、二時間が過ぎても神代文字の機能は、いや、効果の時間と思っているだろうが、消えることはないぞ。それと、若者が裸なのか、お前も若いのだから闘志で身体が熱いのかもしれんな。それで、期待しているのか、それは、知らないが、今、直ぐにでも全ての若者たちの紙の剣、紙の鎧を作るのを見せてやろう。まあ、五分もあれば十分だ」
「ほうほう」
「・・・・」
村に残した若者たちの話しなど聞かずに、隊長は視線で命令を伝えた。だが、首を横に振る数人を見たが、頷くことで心配するな。その意味が若者たちに伝わった。
「刀、鎧だった物の紙を拾え。簡易の筆を用意しろ。わしの命令と同時に神代文字を書いて完成させろ。それも、紙を拾う時間も入れて五分で完成させろ。お前らが原因で、隊の全てが、小馬鹿にされているのだぞ。そして、抜刀の構えのまま待機だ!」
「えっ!本当に作れるのか!。まあ、待て、待て、我らは、調査に来ただけなのだ!」
先程から小馬鹿にしていた。敵の司令官が、隊長の言葉が本当だと分かり。それは、想定外のことだったために狼狽えた。
「命令を実行!」
本当に、五分で、裸だった若者たちは約半数が鎧はないが紙の剣だけは作成した。それは、自分たちが千切って投げたためだった。だが、紙の剣を手にしただけで、老人たちよりも殺気を放ち。命令があれば、直ぐにでも抜刀できる構えのまま待機した。
「お前らは刀から手を放せ。いや、地面に刀を置け!戦意を解け!」
「お前の隊の者は、怪我や命を落とした者はいるか?」
「えっ、一人も居ないはずだ」
「そうか、なら、わしらの隊の者を誰か一人でも殺したか?」
「いや、それも、一人も殺していないはずだ」
「隊長。わしら老人には、戦いの構えのまま立っているのも腰が痛くなるのだが、地面に座ってもいいだろうか・・・」
「そうだ。そうだ。隊長。お願いだから座らせてくれ。もう若者だけで十分だろう」
「ああっ、分かった。分かった。勝手に座れ!」
若者たちは怯えた状態から戦う気持ちなのか殺気を放っている。その気持ちが老人たちに伝わり。殆どの者たちは安堵したのだ。紙の剣から手を放して腰を叩く者や背伸びをする者が殆どだった。
村に残った者たちに何が起きたのかと、問い掛けた。何の問題もなく指示された仕事をしていた。それが、この西から来た者たちが、村の中に現れると、村の全ての建物などが只の紙に戻った。雄叫びのような声を上げながら鉄の剣を振り回して襲ってきたのだと、そう言うのだった。
「そうなのか?」
「少し違う。雄叫びを上げながら鉄の剣を振り回して襲ってはいない。たしかに、幻とも神話世界の全てが白い紙で出来た村が現存することで、少々興奮していたために何人かは鉄の剣を振り回した者がいたかもしれない。それに、襲い掛かったのではなくて、自分たちが現れたために、神代文字の機能を停止したと騒ぐので誤解を解こうとしたのだ」
「そう言うが、鉄の刀を振り回せば、普通は逃げるだろう」
「そう言われるが、この刀は、儀礼用の逆刃刀だと、見れば分かると思う」
「えっ・・・本当だな・・・・すまなかった。許せ」
鉄の刀を切断された。その破片を隊長に手渡した。
「分かってくれたのならば、まあ、いい」
「それで、なぜに、許可もなく抜刀した」
数人の抜刀した者も当然の反応だと言うのだ。それは、ほとんど裸体のような姿の女性たちが、悲鳴と同時に助けを求める声を聞いて、皆を守るために抜刀したと言うのだ。
「まあ、我々は、医師などの数人の女性はいるが、殆ど男の集団と同じだ。それで、女性の裸体の姿を見ては、まあ、何て言うか・・・」
「わしも女だからな。女性の気持ちは分かるが、男性の気持ちが分からない」
「うっ・・・・」
「それと、先ほどまでは、婆さんとか、そう言っては挑発していたが、何か意味があったのか?。まさか、勝てそうにない。そう思って適当な態度で誤魔化しているのか?」
「勝てそうにない。それは、心外だな」
「なんだと!」
副隊長が、一瞬で抜刀の構えをした。
「まあ、待て、待て、何て言えば信じてくれるのだろうか?」
「そうだな。旅の目的からの事を全て話せば許せるかもしれない」
「そうか、分かった。なら、全てを話そう」
「そうか、なら、こちらも、本気で話を聞く。その気持ちを伝えるために、神代文字の機能の一部でも見せよう。その前に皆に飲み物と少々の食べ物を振舞おう」
「それは、心底からの気持ちを込めて、感謝する。そう言いたい」
「ああっ、想像することもできないだろう。だから、十分に楽しめるはずだ。それで・・・」
「・・・」
我々は、と話を始めた。関東から西の者は狩猟生活する者はいない。その切っ掛けは突然に、桜島が噴火、そして、阿蘇の山と、次々と火山が噴火した。それも、富士も噴火してしまい。狩猟生活は出来なくなった。そう言うのだった。だから、自然の物を収穫ではなく、残された土地を何とか耕して食料を作らなければ死に絶える。狩猟生活とは収穫、医療、工芸品だけではなく、日常生活に必要なもの医療も無償で全てを公平に提供していたのだ。それは、木の実、狩猟などが豊富だったことで成り得た。勿論だが、貨幣制度もなかったことも理由になるのだが、常識的な判断でもあり。殺人、略奪などは、思考の判断する気持ちも言葉もなかった。だが、世界の様子が変わった今では、村と村で、食料などを奪い、奪い合うことで、殺人も行われていた。理想的な一万年も続いた縄文王国も終わろうとしていたのだ。そんな状態で、神代文字の肉の温め方、様々な焼き方、味付け、湯の温度、誰でも汲める水などと、そんな、快適な生活を捨てて水の秘匿、一片の肉、一粒でも多くの木の実などの食料の確保が大事だった。
「それで、全ての知識を捨てるしかなかったのだな・・・・食料か・・・なら・・」
「食料を援助する。そう言ってくれるのは嬉しいのですが、我らの人口は、関東、東北の倍以上の人口になるはずです。それは、村に住む。定住生活になると、人口が増えるのは分かっているはずですし、村を維持するには人力が必要になりますし、村によっては奴隷制度もあるはずです」
「奴隷?」
「やはり、そんな言葉もないのですね。奴隷とは、人を家畜のように扱うのです」
「えっ!」
「我々は、村々を取り込むことで大きな村になり。村を守る力になり。食料も多く作ることが可能になりましたが奴隷が必要なのです。それで、少々のゆとりが生まれたことで、失った知識を探し求めて、この地に来たのです。それも、伝説では、始祖の地が東北にある。その知識が一番の目的です」
「それにしても、簡単に探しだせないはず。もしかすると、我の村も偶然ではないのか?」
「何を言っているのですか?。狩猟生活しているのに環状列石を知らないのですか?」
「始祖さまが、この地に居る時に使われていたらしいのですがね・・・」
「ふむ・・・」
「ふっ・・・驚きです。なぜなのか分かりませんが、偏った知識ですね」
大きな溜息を吐いてから話を続けるのだった。その溜息は、隊長たちの知識のことではなく、自分たちの知識を教えても良いのかと、一瞬だが考えた後のことだ。視線の先に紙製の壺らしき物から湯気が出ているのを見て自分たちに振舞う物だろう。その感謝の気持ちとして伝えるべきか、だが、適当なことを言えば態度を変える。それは困る。様々な神代文字の機能が見たい。などの心の中の葛藤だったのだ。
「お前らは、その知識を知っているのか?」
「知識とまでは大袈裟ですが、まあ、少々の機能の使い方なら・・・」
「素晴らしい。あっ、湯が沸いた。まずは、お茶でも飲むといいだろう。美味しいぞ」
「それは、何ですか?」
「あっ、これか!湯沸し壺だ。壺に水を入れると湯が沸くのだぞ」
「ほうほう、この壺の周りの模様や幾何学模様などが神代文字で、壺の機能の説明や機能するための指示が書いてあるのですね」
「そうだぞ」
隊長の趣味でもあるのだろう。それに、自分と同じ指揮官でもあるし、部下に知られたくない話にもなる。そう言う様々な理由もあり。それでも、嬉しそうに紅茶を淹れていた。
「美味いぞ。飲んでみてくれ」
「これが、お茶ですか・・・・」
「あっああ、それに、甘菓子もあるぞ」
空腹を満たす物しか食べたことがないのだ。茶も菓子も、もしかすると、甘い物も初めての経験するはずの味覚だろう。それ程に、おどおどと、口の中に入れるのを躊躇っていたのだ。それを知って隊長が美味しそうにお茶を飲み、甘菓子を食べるのだった。その笑みにつられて口に入れていた。
「なんだ!これ!」
初めての味覚だった。
「美味いだろう」
「はい。甘いという言葉は、この菓子という物のことを言うのですね。でも、本当に驚きです。初めて甘いって味覚を体験しましたよ」
「そうか、そうか、そっちでは、交易というのはしていないのか?」
「えっ・・・あっああ・・・自分たちの村は貧しくて交換する商品がありませんので・・・」
(そんな、交易ができる村と交渉も出来るはずがない。その脅威もあるから同等の村と村を吸収して大きな村と抵抗している。なのに、交易など出来るはずがないだろう)
「ああっ、そうだったな。先ほど言っていたな。災害で食べるのが、やっとだったな」
「そうなのです。そのために村を出て、このような地にいるだけではなく、始祖の地なら何か解決する何かがある。それで、最後の賭けにでたのです」
西から来た。この男は内心の考えを隠して、隊長の話に適当に合わせた。
「始祖の地を誤解しているようだな。お前が考えているような物はないぞ」
「そっそんな!」
「う~むむっ・・・それに近い物があるとしたら植物の種くらいだろうか・・・」
「そっその種とは、どのような物なのでしょうか?
「そうだな・・・・それで、環状列石だったか、始祖の時代に使われていた。それが代々と伝わってきたのだろう。そろそろ、その話を聞かせてくれないかね」
「あっああ、そうでしたね。簡単に言うと、井戸と手紙と同じ仕組みです。ですが、話し掛けると話を掛けてくれます。石の石の意志がある感じでしょうかね。それでも、最近は言葉では反応しません。石に文字を書いて文字が浮かび上がる感じです」
「その文字だけで、この地に来られたのか?」
「少し違います。中心の立っている石に墨をかけると、周りに並べられている石が、始祖の地の方向を示すのです。それと、環状列石の保存状態にもよりますが、始祖の地が近いと激しい短く音がなります。遠くだと、鳴り続けて、長く音が響きます」
この男の言っていることを現代的に言うのなら砂漠のオアシス的な井戸であり。モールス信号の機械に近い働きをした。
「ほうほう、そんな機能が・・・」
「そうそう、そうです。あれが、作られた当時は狩猟生活をする者だけで、村など一つもなかった。そのために始祖さまが、人の出会いの場や困り事の話を聞いてくれていたのです。それに、今では説明もできない。不思議な機能もあったらしいです」
「ほう、それで、この地まで来られたのか・・・あの用途が分からなかった・・・あれが・・・」
「まあ、長年の捜索の積み重ねと、代々の蓄積された情報で予想もできましたけどね」
この男は、遺跡と遺跡の直線に繋がられるとされる。レイラインのことを言っていた。
「そんな、代々の歴史があるのか、それは、教えを乞いたいな」
「いえ、それ程のことではないのです。一般的な知識を組み合わせて、長年の積み重ねで答えを導く。そんな程度のことです」
「閃きか!」
「はい」
「それでは、代々の歴史や旅の情報のことについて教えを乞うても意味がないか」
「そうかもしれません」
西から来た。この男は、自分や部隊の質問や不審的な追求も全てが終わった。そう思ったからだろう。安堵から興味本位が芽生えて、この場から見える様々な物に問い掛けるのだった。それに、丁寧に隊長は答えていたが、際限なく続くと思われた。それだからなのか、違う意味なのか、隊長は、突然に立ち上がった。
「副隊長!」
「はっ、何なりと!」
副隊長は、直ぐに現れた。この場の様子を見ていたのだ。特に、隊の若者と西から来た者たちはお互いに敵意を向けていたからである。若者たちは、村を襲われて、この地まで追い駆けられたこともあり。西の者たちは、今までの様々な闘いで有利でいられた。心の支えのような鉄の剣や鉄の鎧が、神代文字の紙の剣にたいして役に立たない。鉄が簡単に切断される。そのために立場が逆転したからだ。衣服、鎧を着ているが、先ほどまで裸体で逃げている者たちと同じ気持ちを感じているだけではなく、もしかしたら、自分たちが遊び半分で襲ったように若者たちに自分たちも同じように襲われる。そう感じているのだろう。それでも、一人の男が、鉄に興味を感じて問い掛けているために微妙な敵意が和らんでいる感じでもあったのだ。
「前木は、どこだ?。わしの周囲には居ないようだが、何をしている?」
「青銅の剣ではなく、鉄の剣だと、目を輝かせていました。なにやら、自分の知る歴史とは違うと、訳の分からないことを叫んでは、鉄の剣を手に取って喜んでいました」
「面白い話が聞ける。そう言ってみろ。直ぐにでも喜んで来るだろう」
「二人を会わせるのは危険では?」
「まあ、変な奴と変な奴、と言うより、いや、監視する者は一緒に居る方が楽だろう」
「そう言われれば、そう思いますが・・・」
「それになぁ。二人を会わせたことで、あの男の閃きと前木の何を考えているか分からない。その答えが分かるように思えるのだが、どうだろうか?」
副隊長は、しぶしぶと頷くのだった。
ある部隊の陣営は変な感じに思えた。それは、陣形と言うのも変だが、一度も戦いをしたことがない。そんな陣形だった。だが、一般の者がキャンプなどの野営している。そんな様子だった。その野営地の中を一人の老人がはしゃぎ回っていた。その老人を監視なのか、心配でもしているのか、少々遠くから二人の男女が付いて回るのだ。
「そんなに、前木が心配なら一緒に行動したら・・・」
「それは、駄目よ。好きなように行動をさせないと、前木は本性を見せないわ」
「隊長みたいなことを言うのだね。あの話を聞いたから・・・」
「まあ・・・そうだけど・・・」
「たしかに、何か理由はあるはずだよ。だって、そのために、血反吐をはく思いをしたと思いますよ。そうでもしなければ、自分だけの力で縄文時代に来られるはずないですよ」
「そうね。そう考えれば凄いことよね。誰でも普通は、過去に飛ぶなんて物語としか思えないことね。それを実現したのだしね。でも、そこまでの執念って何なのかしらね」
「金?・・・権力?・・・」
「そうよね。それしか考えられないわね・・・・ねね・・・」
「ん?・・・何ですか?」
「新さんは、未来に帰りたくないの?・・・縄文時代には、自分で来たくて来たのではないでしょう。今直ぐに未来に帰れる。そう言われたら、どうするの?」
「今は、今の気持ちは、縄文時代に一生いてもいいかな・・・でっ出来たら結婚して子供や孫に囲まれて暮らして・・・看取ってくれるといいかな・・・」
「けっけ(結婚)・・・なんて、誰か好きな人でもいるの?」
「いや・・・すっす(好きな人はいるよ。目の前に)・・・素敵な所だし、自分が思っていた縄文時代とは違って住みやすいし、いろいろ不思議なこともあるから、すっ好きな人でもできれば・・・もっと、住みたくなるかも、だから、未来に帰らなくてもいいかな・・・そっそんな意味ですよ。そっそんな、深い意味で言った訳ではないです」
「わっははは!」
隊長の笑い声で、ほとんど同時に周囲で見ていた者たちも笑うのだった。
「えっ?」
「ん?」
「お前ら、本当に面白いな。夫婦漫才でも見ているようだぞ」
「め!」
「めお!」
二人は顔を真っ赤にして言葉をなくした。その姿を見ると、周囲の笑い声は大きくもっと多くの人数の笑い声が響いた。すると、二人はもっと恥ずかしくなり。姫は立っていられないくらいまで恥ずかしくなり、その場で顔を隠しながらしゃがむのだった。だが、新は、何を考えているのか、どこかに走り去ってしまったのだ。
「姫。声援であり応援のための笑いだったのだが、縄文時代ならというべきか、普通なら声援に応えて、女性に告白するはずだと思うのだが、本当に、ごめんな。許して欲しい」
隊長は、前木のことなど忘れて、姫の加勢をしたのだ。それなのに・・・。
「未来人とは、本当に何を考えているのか分からないよな。前木だけと思ったが、新も変な野郎だ。本当に、本当に、もしかして、未来人って変な奴しかいないのか?」
「たしかに、縄文時代の人は、のんびりで、おっとりで、穏やかな人が多い。でも、ここという時は、狩猟生活しているから命を懸けることはできる。それでも、草木、動物なども育てる必要もない生活だから何にたいしても自由人ね。何もしなくても何でも欲しい物は、どこにでもあるからでしょうね」
「未来は、何も物はない。貧しい生活なのか?・・・だから、前木は何か欲しい物があるために縄文時代に来たのか?」
「まあ、前木が何を欲しいのか、何の理由なのか分からないけど、隊長が思っているような何も無い貧しい世界ではないわ。でも、たった一つの食べ物でも一つの衣服でも材料の全てを育て、そして、集めて作らないとならない世界なの。だから、何でも貨幣と言う物で交換、いや、奪い合いの世界なの。でも、新は、縄文時代の人に少しだけ似ているかもしれない。まだ、若いからなのか、それは、分からないけど、好きな人から逃げられるって、好きな人が他の人に奪われるかもしれないのに逃げられるのは、心が優しい人だと思うわ。縄文時代の人の血筋かもしれない。歌や口約束だけで一生を決めるのだからね」
「なんか、想像もできないが、木の実の一つでも奪い合うような人々か、そんな、未来の世界なんて住みたくないな。なあ、病気になったら、どうするのだ?」
「それは、貨幣って物があって、それで、代価を払うの。木の実一つでも全ての物に値段がある。そんな、世界なのです」
「マジなのか、もしかして、奉仕って言葉もない世界で、それなら、病気になっても、その値段が払えない者は、死ぬしかないのか、そんな世界があるのか?。信じられない」
「・・・・」
姫は、どっちの世界の良い所があるのを知っていた。だが、何て言っていいか分からなくて言葉にできなくなってしまった。そんな時だった。突然に肩を叩かれるのだ。
「二人の会話を黙って聞いてすみません。ですが、どうしても伝えたいことがありましてね。先ほど言ったことは、関東より西では、そんな未来の世界と同じ世界になっています」
「えっ?」
「スサノオがお怒りになり。天照がお隠れになってから作物は育たなくなり。そして、獣も死に、人も住める所もなくなり。木の実の一つでも欲しい者は対価を払う。または、人を殺してでも奪う。そんな世界ですよ」
「スサノオ様と天照様が、そんな状態を許すはずがない」
「そうではなく、本物ではなく、そんな神が存在するのかも分かりませんが、火山の噴火と煙で太陽が隠れたことですよ」
「嘘だ。存在はする。わしは幼い頃にお会いしたことがある!」
「もしかして、霊山である。蓬莱山(ほうらいさん)富士山が噴火したためにお亡くなりになったのでしょうか?」
「・・・・」
「・・・・」
隊長と姫は、理解ができないことを言われて言葉をなくすのだった。
「伝承などを調べると、点々と住処が変わるらしいので、もしかして、始祖の地にでも住んでいるのでしょうか?」
「それ以上!何か言えば、紙の剣で切り裂くぞ!」
「ひっ!」
「紙の剣で切ると、組織なども綺麗に崩さずに切断できるから右腕でも切って、直ぐなら繋がるかもしれないぞ。どうする。一度試してみるか?」
「ひっ!」
「ふぅふふ」
西から来た男は、二度目の殺気には耐えられなかった。足も震えて立ってられずに地面に尻をつけた。たしかに、恐怖に震える顔は嗤える。だから、その様子を見て隊長が笑った。そう思われただろう。だが、違っていた。その後方を見ていたのだ。前木が嫌々と態度を表しながら副隊長に引きずられて来る姿を見たのだ。それも、両手で二つの壺を大事そうに持っているのだ。
「前木を連れてきました」
「あっああ、ご苦労さま」
「お前に、この男を紹介しようと思って、副隊長に連れてきてもらったのだ」
「そうなのですか?・・・・でも、あまり、興味を感じそうにない人かな・・・」
「それがな、この男から聞いた話しなのだが、環状列石は分かるか?」
「はい。はい。興味があります」
「この男は、環状列石など、他にもいろいろと詳しいぞ」
「それは、本当ですか?」
「あっああ、そうだぞ。それで、お前に話と言うのは、この男の相談役を頼もうとしたのだ。勿論だが、他の者にも同じことを聞くのだが、どうしても、お前がしたい。と言うのならば、その返事を直ぐに聞けるだろう。それなら他の者に聞かないで決めよう。と思うのだが・・・」
「勿論、即答します。自分に任せて下さい」
「そうか、そうか、なら、任せるかな。勿論なのだが、誰かから何かを頼まれたとしても、隊長命令です。そう言って全てを断っていいからな。この男から離れずに接待するのだぞ」
「はい、はい。承知しました」
「まあ、待て、待て、と言うのに!」
今になっても腰が抜けたのが治らないのだろう。この場に前木と二人で残すと、皆が何か用事でもあるかのように手を振りながら離れるのだった。
「新さんを探しに行っていいでしょうか?」
「構わんぞ。それと、前木と西の男に、二人で会いに行くといいだろう。二人にとって良い話を聞けるだろう」
「はい。そうします。何の話でしょう。それを考えると楽しみです」
「それと、二人からいろいろと頼まれるだろうから、その対応も頼む」
「えっ!」
「断ることは、許さんぞ」
「あのっ、ちょっと、待って下さい」
副隊長と何か話していたために姫の声は聞こえないようだった。そのまま話し続けながら何かの緊急の用件でも終わらせる。そう思うことで仕方がなく。姫は、諦めて従うのだった。そして、新を探しに歩き出した。おそらく、周囲にいるだろうと、周囲をキョロキョロと見回しながら探すのだった。だが、探したが、どこにもいない。
「ん?」
どこに居たのか、人ごみの中から頭を掻きながら現れたのだ。それも、視線を向けたり逸らしたりと、挙動不審な様子のまま真っ直ぐに向かってくるのだ。姫も、ゆっくりと、一歩、一歩と近寄った。
「ごめんなさい。突然に駆け出して、本当にごめんなさい」
新は、姫に声が届くほど近くまでくると、何度も頭を下げながら近づいては同じ言葉で何度も謝罪するのだった。もしかすると、姫がクスリとも笑ってくれたら許される。そんな気持ちもあるのだろう。
「分かりましたから・・・そうよね。歳の上のお姉さんの妻では、怒って逃げるわよね」
「えっ、いや、ち、違います。そうではないです。それは、誤解です」
新は、姫が涙を流したことに驚くのだった。自分の馬鹿な状態を見せて、姫は怒っている。そう思っていたのに、内心の気持ちとは別のことを言われるだけではなく、涙を流すのだから慌てて近寄るのだった。
「そうなの・・・それなら・・・妻と夫って言われて・・・怒ったのではないのね。それなら・・・もしかして・・・私と・・・」
「あっ!居た。居ました。ねえ、ねえねえ、この壺のことなのですが!」
姫は、絶好の機会で、自分のことを何て思っているのかと、新に聞こうとした。その時だった。それを前木が、先ほどから手に持っている二つの土器を見せるのだった。
「あなたって本当に失礼な人ね。後では駄目なの!しつこいわね。もうなんなのよ!」
姫は、泣きながら前木の頬を平手で叩いた。その後、正気に戻ると、前木の驚きの顔を見て、その場から駆け出してしまったのだが・・・。
「どうしたのだ?」
姫が数歩くらい駆け出すと、いつ戻ってきたのか、隊長と副隊長の二人の身体に当たるのと同時に引きとめの言葉を掛けられたのだ。
「いいえ。何でもありません」
姫は正気に戻り。何一つとして愚痴を言うことなく、前木の所に戻るのだった。いや違う。不思議そうに視線を向けてくる。そんな、新の所であった。
「・・・・」
西の男たちは、近くにある適当な壺を手に取って見ていた。不思議そうにであり。驚きのようであり。だが、少し、感情が大袈裟にも思えた。まるで、何かを誤魔化そうとしていると思える程で壺の事でも相談している。そう見せるためなのか?・・・。
二人は上官と部下であり。海の貝でも耳に当てているのだろうか?。いや、それは、神代文字が書かれている手のひらサイズの小さい壺で、現代で例えるのなら盗聴器の音声を聞く受け側の機械と同じ物だった。
「欲を植え付けるのに成功しました。毎月、百個の食べ物を半年分、それも、十人の女性に、このまま実行していけば、この場の半分の女性に借金を作らせることは可能でしょう」
やはり、男は、素晴らしい壺だと喜んでいるように壺を高く上げながら笑うのだった。それは、部下の話を聞いて、自分の作戦が成功した。その興奮を隠すためだったのだ。
「あの男、やはり、強気に出たな。何か意味があったのだな」
「はい。どうしましょうか?。この音声を聞かせて、強制的に西に帰しますか?」
「いや、こちらが知らない。始祖さまが存在していた頃の縄文初期の物に詳しいようなのでな。あの男と同じように情報を得よう。だが、借金とはなんだ?・・・それと、何か月分の多くの食料を集めて、どうするのだ?」
「さあ・・・本当に、西では、食料の危機なのでしょうか?・・・それならば、保存方法を教えるか、それとも、援助でも・・・」
「まあ、その件は、食料などを持ち帰る時でも言うとしよう。それよりも、女性たちの方だな。女性が好む化粧や貴金属などだろうか?・・・それは、問題にしない。仕方がないだろう。だが、決して、花押(はなをし。とは、印鑑を押すと同じことだった)だけは書くなと伝えておけ」
「それは、自分の命を削ると同じだから分かっているはずでしょう」
「お前は、女性という思考の持ち主を知らないから言えることだ。綺麗になりたい。好きな人を振り向かせたい。などの精神状態になってしまった場合は理性などないのだ。そのために、怨念のような言葉が、あの詩が、あの歌が誕生したのだぞ」
「あの、上から読んでも下から読んでも同じ、あれのことですね」
「そうだ。だから、女性が、あの言葉を使う。そう言えば、男性の方を心配するから事前に、両家の親族と知人が女性のことが好きなのか、と探りを入れるのだ。それで、男性が結婚してもいい。それを確かめてから女性に言うのだ。男性に手紙を送ってみなさい。だが、相思相愛などめったにない。だから、怨念の言葉であり。怨念の手紙とも言われているのだ。ん・・・・」
「どうされました?」
「前木は、壺の神代文字が読めるのか?」
「それは、ないでしょう」
隊長は、唇に人差し指を当てた。
「・・・・」
隊長と副隊長は、前木の言葉を真剣に聞き、一言葉も漏らさないようにと・・・。
「ハイハイ、話を聞きます。は~い。なんでしょうか」
前木は、二つの神代文字が書かれたある壺を姫に見せた。
「この二種類の意味は、どう言う意味でしょうか?」
「えっ?・・・・読めるの?・・・」
「あっ、はい。読めますが?・・・・」
「何て?」
「縄の神代文字と記号や幾何学模様などの二種類の神代文字で書かれてありますね」
「何で読めるの。誰からか教わったの?」
「いいえ。姫なら未来にも行ったことがあるなら分かるはずですよ」
「えっ?・・・何で?」
「縄文字は、桔縄(けつじょう)文字とも言われているでしょう。それに、あのインカの縄文字のことはキープ文字と言われて、それと、同じですよ。それに、沖縄の藁算(わらざん)と同じ系統の文字でもありますよ」
「そう、そうなのね・・・読めるのなら・・・それなら、何を知りたいのですか?」
「読めますが、不思議に思ったことがあったのです」
「それは、何でしょうか?」
「きしいこそ、つまをみぎわに、ことのねの、とこには、きみをまつぞこいしき」
「あっ、ああっ、うんうん。それは、有名だから誰もが知っていますよ。それが、どうしたのでしょうか?」
「この二つの壺には、歌と意味が書いてあるのですが、微妙に意味が違うのです。それだからですね。正しい方は、どの歌の方なのか教えて欲しいのです。まずは、一つ目から・・」
「えっ?」
「紀州こそ、妻お身際に、琴の音の、床に吾君お、待つぞ恋しき」
「はい。この神代文字なら読めます」
「この意味ですね。縄文字で書かれているのです。ここですよ。
紀州にいらしてください。私は貴方の妻になって、いつも、御側で琴を奏でて差し上げましょう。布団を敷いて貴方が来られるのを恋しい想いでお待ちしています」
「ん・・・・そんな意味でしたか?・・・なんか・・・」
「次の壺が・・いいですか?」
「はい」
「紀志伊こそ 妻を身際に 琴の音の、床には君を 待つそ恋しき」
「はい。一般的な神代文字ですね。あっ、ああっ確かに、微妙に文字が違いますね」
「いいえ。そう言う意味でなくて、縄文字の意味の方なのです」
「えっ?・・」
「去年、この紀志伊国で初めて貴方様にお会いした途端に、琴の音のように胸は高鳴り、床に着いても寝付かれず、いとしい貴方様をお待ちしています、それほどに恋い焦がれています」
「うん。うん。こっちの方ですね。一般的に皆が知る歌ですね」
「それなら、初めの歌は、偽物なのですね」
「・・・・」
「前木さん。それは、失礼ですよ。本当は、意味を知っているのではないですか?」
姫は、真っ赤な顔をして答えは知っているのだが、言葉にできないでいた。その様子を新が見ていたが、我慢ができずに怒りの声を上げるのだった。
「えっ?」
「それは、現代でも知っていることです。それは、都都逸(どどいつ)ですよ。艶物であり。情歌ですよ」
「ああ!。山のあけびは何見て割れた。下の松茸見て割れた。これと、同じことだな」
「もう、もう、何を言うのですか!」
「前木さん。それは、女性に言うことではないでしょう。何を考えているのですか!」
「すまない。すまない。許して欲しい」
「もう良いですよ。それと、似ていると言うか、家族だけで使う壺には、夫から告白された時の歌とか、夫が妻に関白宣言を壺に書いて渡すのもありますよ。他にもいろいろあるのですよ。夫婦が喧嘩した時には、結婚した当時の妻が言ったことを壺に書いたのを見せて仲直りするのは普通ですね。それに、その当時の夫は、こんなことを言って優しかったとかね。それを見せ合って些細な喧嘩は収まります。子供にもあるのですよ。名前の由来を書いて渡すのは多いですね。それと、離婚などと騒ぐ場合は壺を壊して、底が尖った壺で作り直すのです。それも、誓約書を神代文字で書いて、別れたくない者は壺を壊れないように丁寧に扱い。別れたい物は適当に扱うのです。それでも、壺が割れた場合は離婚が成立する。そんな、いろいろと壺には書かれますよ」
「そうですか」
「それでも、前木さんが、どちらが正しいのかと、決めるのでしたらですね。女性に告白するための壺でしたら、恋い焦がれています。と書かれてある方が普通でしょうね。もう一つの方は、布団を敷いて貴方が来られるのを待ちます。これを使う場合は、再婚の時でしょうね」
「そうでしょうね。姫の話を聞いて問題は解決しましたし、気持ちもすっきりしました」
「それは、良かったです」
「それなら、次は・・・・」
前木は、満足したような笑みを浮かべた。その後だった。ブツブツと、何かを考え始めながら適当に歩き出した。歩くことで何かの答えが出るとでも思っているようだった。いや、それとも、一人になりたかっただけかもしれない。その感情が皆に伝わり。誰も引き止めなかった。
「新さん。先ほどは助けてくれてありがとう」
「いいえ。ただ、叫んだだけです」
「そう言ってくれるけど、嬉しかったですよ。新さんって、本当に困った時は助けてくれるのですね」
姫と新は、今直ぐにでも抱き合うのではないのかと、そう思う程に二人だけの世界にいたのだ。その様子が絶好の機会と思ったのだろう。西の男は部下から周囲に気付かれないように鉄の刀を渡された。だが、見た目は地面に置いただけだった。本当は、手渡したかったはずだが、誰にも気付かれないようにするために、そっと、西の男の手が届く範囲の地面に置くのだった。
「ご苦労だった」
隣に居た部下の耳にも届くかと、そう思う程の囁きだったのだが・・。
「ご苦労とは、どうしたのだ?・・・ほう、ほう。それは、刀ではないのか、この場で必要なのか?」
「えっ!」
「何を驚いているのだ?」
「こっこれは、たっ隊長に贈り物として手渡すために部下に持ってきてもらった物ですぞ」
誰が聞いても、嘘だと分かることだが、それでも、必死に言い訳をしていた。
「そうだったのか、ありがとう。それなら、こちらもお返しをしなければならないな」
「いっ、いいえ。そんな、そんな、お返しなんて必要ないですよ」
「そうなのか、それなら、紙の短刀を作ってやろう。それも、お前の隊の全ての者たちに贈るとしよう。皆に渡すのだから気にする必要はないだろう」
「えっ!」
「それに、それでも、遠慮されても困るから・・・そうだな。お返しが必要ないように鉄の剣と紙の短刀を交換しようではないか!それなら、何も問題はないだろう」
「えっ、その、そのですね・・・」
握手を求められて、すでに、硬く握りしめているのだが、手を放すことができないからだ。このまま手を放せば、鉄の剣と紙の短刀を交換すること承知することになるだめに手を放すことが出来なかったのだ。
(なんとかしなければ、交換というが、武装放棄と同じではないか)
「?・・・」
(内心で葛藤しているのか、まあ、おそらく、武装放棄とでも思っているのだろう。それなら、相手が手を放すまで待つしかないか)
「ふっはぁ、ふっはぁ」
隊長のために刀を持って来た。その部下の部下である。見習いのような若い男は、おそらく、今まで褒美であり。勲章のような木刀から銅剣を頂く時も興奮していたはずだ。そして、念願の銅剣から鉄剣を頂く時も最高の栄誉として興奮しただろう。それも、礼儀も完璧に果たしたはずだ。だが、今回は、伝説のような幻の紙の剣なのだ。今までの人生の中で最高の喜びだろう。だから、この場での数分の結果も待てなかったに違いない。そのために、礼儀も上官の顔色など気にする葛藤もなかった。そのために思いの言葉を吐きだしていたのだ。まるで、夢でも見ているような舌がもつれる声色だった。
「自分のような見習いの者でも交換してくれるのですか?」
「勿論だぞ」
「お前は!なっ、何を言うか!」
男は、見習の男に怒りの感情をぶつける。と同時に振り向いたために手を放してしまったのだ。それは、武装放棄を承諾したことだったのだ。
西から来た男は、これから何が起こるのかと怯えていた。
「どうしたのだ?」
隊長は、男が怯えている意味が分かっていた。だが、どんな態度をするのかと、問い掛けてみたのだった。
「あっ、いえ、その・・・」
「それで、紙の刀は誰に作って欲しいのだ?」
「えっ?」
「一つ、一つは特注なのでな。手の握る所である柄や好みの紋様とか、刃の形や重さなどは、紙の剣を持つ者の好みだ。自分の命を託す物だから使いやすい方がいいだろう」
「たしかに、そうだが・・・」
隊長は、誰なのかと指名する者の名前を言われるのを待った。それも、無理に笑みを作るが、内心は楽しんでいた。自分しかいないのだ。それなら、何て頼むのかと・・・。だが、男は、誰にするかと、周囲を見回していた。それでも、一分間は待ったのだが・・・・。
「おい、お前!若い姉ちゃんを探しているのではないだろうな!」
「えっ、いいえ、いいえ。我が隊の者には伝えなければならない。だが、誰なら正確に伝えられるかと、人を選んでいたのだ」
「それなら、そこに立つ二人に頼めないのか?・・・まさか、本気で護衛の目的ではないのだろう。その二人なら全ての話を聞いているはずだ。正確に伝える。そう思うぞ」
「そう言われれば、そうですね。この場から離れるのを許す。皆に知らせに行け」
「はい。承知しました」
二人の部下は、指示を実行するために直ぐに離れた。
「副隊長。あの二人だけの話しでは信じないだろう。お前も皆に指示を伝えに行け」
「はい」
「そうだな・・・そうそう、この男も不安だろう。それでなのが、姫も新に紙の短剣を作ってやると良いのではないか、その様子を見れば、西から来た男も不安は解消するだろう」
「はい。そうですね。その気遣いには感謝します」
「何だ?・・・適当な返事だな。欲しくないのか?」
「父上から譲り受けた。代々の鉄剣の事を考えると・・・」
「大事に管理する。だから、何も心配するな」
「ふっ」
(騙されるはずもないか、なら、やはり、諦めるしかないのか)
男は、内心では愚痴を呟くが、視線の先は、紙の短剣の作りに向いていた。
「新さん。この紙の筒を短剣だと思って握って下さい」
紙を円柱に作り。それを新に握らせた。すると、紙の粘度のような感じの物で手の痕が残り。姫が頷くと、新は姫に手渡すのだった。手の痕の部分だけは、そのまま残して、残りの円柱を潰して刃のように細く潰すのだった。驚くことに、それだけでも、短剣らしく見えたのだ。それからは、まるで職人のように短剣にするために仕上げに取り掛かり。完成したかと思うと、簡易な筆、墨、硯を取りだして模様や神代文字や数字を書き足した。文字は何て書いたか不明だったが、恐らく、短剣としての機能する為に、パソコンのプログラムの機能させる文字の羅列と思えた。それでも、作業は続き最後の仕上げだろう。こまごまと点々と数字は書いたのは読めた。それは、短剣の刃の硬さであり硬度の数字なのだった。そして、空中で何度か×を書くように感触を感じては頷いていた。それは、もしかすると、空気抵抗を感じて完成度を確かめているのだろう。そして、適当な地面にある石を掴み空中に投げたのだ。空中でのことである.硬い鉱物であるのだ。鉄の刀でも石を切断しようとすれば、数メートル先に飛ぶだろう。だが、数ミリも空中では移動することもなく、何の抵抗もない豆腐でも切るように切断したのだ。地面に落ちて見てみると、ジャガイモが切断されたかのように綺麗に切断されていたのだ。二人の男は、本当に石で試し切りをしたのかと、驚くのだった。
「ほうほう、これは、これは・・・」
新と西から来た男は、二つに切断した石を持つことで、さらに、驚きの声を上げるのだ。
「まあ、まあ、な~出来だな。護身用としては十分だろう。姫。上達したな」
「ありがとうございます」
「あとは、鞘だな。新に神代文字を教える感じで一緒に作ると良いだろう。この場から離れることを許す。新、姫も楽しんでこい」
「はい。そうします」
隊長は、新の目がキラキラと、手も震えて興奮しているのは分かった。男だからだろうか、今直ぐにでも紙の短剣を手に取りたい。何かを切りたい。そんな感情が誰にでも分かる様子を現わしていたのだ。だが、新の一人では心配のために姫に提案した。新は、直ぐに立ち上がり。姫が持つ紙の短剣に心が奪われたまま姫が行く方向に付いて行くのだった。
「お前の剣は、わしが作る。武人が使う物らしく実用的であり。指揮官が持つのにも相応しい見た目も重視で作ってやるからな。必ず、満足行くはずだ。期待してもいいぞ」
「はい」
男は、隊長の複雑な笑みを見て何か裏がある。そう感じての一言だけの返事だった。
「それで、指揮官が持つ物だと、新のような簡単な物ではない。だから、聞くが、家紋はあるのか?・・・必要だろう?」
「ある。のだが・・・・」
「知られると、まずいのか?」
「そうではないが・・・隠密の仕事の場合もあるのでな・・・」
「それなら、花押の印を柄に作ってやろうか?。もしかすると、一つの花押で皆が使いまわしているのだろう?。それの方が楽ではないか?」
「う~」
もし新なら即座に承諾するだろう。家門だけでなく、豊臣秀吉、信長、家康のようなあの花押を書いてくれる。もしかすると、花押を作ってくれると、その場で踊り出すはずだろう。だが、男は、悩むために意味は理解しているだろう。それでも、何か理由があるのあろう。悩み続けていたのだ。そして、隊長は・・・。
「もしかするとだが、普段から記憶の憶えが悪い。そんな部下が、花押を短剣の柄の先に印を作ってもらっているかもしれないぞ」
「それは、たしかに・・・それなら、教えますが、短剣の仕上がりを見てから変更はできますか、それが、出来るのなら家紋とはなをし、を教えますが・・・」
「それは、心配するな。好きなように変更はできる」
「分かりました。それでは、教えましょう。家門は、一枚の魚の鱗です。男やお前、とかで良かったのですが、短剣の作成に必要らしいので、苗字は、水(みず)、名前は、剣(つるぎ)です。はなをしは、一般的な書体を崩した。剣の一文字です」
「剣か、それで、湿度は?気温は?」
「し・・つ・・・ど?」
「知らんのか?・・・そうだな・・・気候は、四季はあるのか?」
「なぜ、そこまで?」
「湿気、温度などが分かれば、その地の四季に適応できる剣に調整するからだが?・・・そうだな。例えばだが、海が近い場所なら塩分で鉄も錆びやすい。山も塩分はないが、湿気が多くて同じように錆びやすい。そう言う感じのことだ」
「湿度、温度の意味は分かりませんが、年に一度、稲作ができます。米の出来だがは、その地、その地で違います。それと、正直に言いますよ。関東、東北よりは、豊かな地ではありません。ですので、鉄の剣を返してくれませんか、武具がなければ生きて行けない。そんな地なのです」
「それだから、短剣を与えるのだ。まずは、短剣になれろ。長剣は、扱いが難しい。だから、その様子を見て長剣を作ってもいい。それに、援軍の要請なら直ぐに誰でも可能だぞ」
「うっ・・・」
「狩猟生活とは、各地を回り。情報、教育、医療、食料などを与え。皆に快適に過ごすための移動生活でもあるのだ。いろいろな場合にも寄るが、裁判、罪の刑の実行などもあるのだ。自分の裁決に不満を感じて戦いになる場合もある。勿論だが、一度も負けたことはないのだ。だから、何も問題はないぞ」
「それが・・・」
「もしかすると、援軍の要請をしてからでは間に合わない。そう思うだろうが、狩猟生活者は、五種族いるのだ。常に、動き回っているために、近場に居る一族が、直ぐにでも駆けつける。そう言う決まりがあるのだぞ」
「はい、はい、はい」
いつ終わるのか分からない。隊長の話しを適当に聞き流していた。
(有名な話だ。口伝では聞いている。だが、長く放浪の生活をしているが、一度も出会ったことがない。もしかすると、この一族が、最後の狩猟生活しているのかもしれない。それを伝えるか・・・・)
「どうしたのだ?・・・なぜに、黙っているのだ?」
「えっ?」
(あっ、話が終わったのか)
「ごめんな。長々と話をしてしまって、いろいろと思い出しながら話をしていると、昔の友や親のことが思い出されて話が長くなってしまった」
「あ!」
隊長は、男と話をしながら折り紙の鶴でも作る感じで、紙の短剣を作り終えていたのだ。
「そうだぞ。驚いたか、短剣は作り終えたぞ。ほら、手に持ってみろ」
「お!」
やはり、初めて紙の短剣を持つ者と同じ反応をしたのだ。紙だと思って手に取ると、鉄の短剣と同じ重さに驚いて、地面に短剣を落としそうにしたのだ。
「姫のように石を空中で切るのは・・・別にお前が、武術の腕前が劣るなどではない。感触と言うか、感覚が分からないために手首を捻る可能性があるのだ」
「・・・」
「まずは、適当な石を地面に置いたまま豆腐を切る感覚と思いながら優しく切ってみろ。言っている意味が分かるはずだ」
「・・・・おっ!」
「ある意味だが、危険だと分かってくれたな。これが、長剣なら鉄の剣と同じに扱えば自分の身体を切る可能性がある。そう言うことだ」
「そうかもしれない。物などの切る全てが豆腐と同じに切れるのなら訓練が必要だな。それが分かった。お前は、本当に俺の身体を案じてくれたのだな。お前は信じられそうだ」
「お前も自分の隊に戻れ。そして、一緒に紙の短剣に慣れろ。それと、鞘の方は、自分たちで作ってみるのだな。もし分からないことがあれば、誰にでも聞いていいぞ。今のお前らならば、誰でも喜んで教えてくれるはずだ」
男と隊長は、男の一族の者たちが、嬉しそうに会話しながら短剣や鞘を作っている姿を見えたので、隊長は、男も同じようにするといい。そう伝えたのだ。
「あっ、そうする」
男は立ち上がり感謝の気持ちとして頭を下げた。
「もし良ければ、長剣もわしが作りたい。どうだろうか?」
「勿論だ。なるだけ早く短剣に慣れることにする。では、また」
男が仲間に合図するような仕草をした後だった。振り向くことはなく仲間の所に戻ったのだ。すると・・・。
「大丈夫でしょうか?」
副隊長が隊長に話を掛けてきたのだ。
「短剣と長剣の闘いで、お前は、負ける。そう言うのか?」
「それは、長年に使っている長剣です。墨も中心の芯まで浸透して、新しい紙の短剣など簡単に切断するでしょう。ですが、百パーセントの優位はなくなります。そうなると、若い身体と年寄りの身体だけの戦いになれば・・・その答えは、隊長も分かるはずです」
二人の男女は黙った。相手の言葉を待つ。というよりも、内心の考えが違うようだった。
始祖の地は、小高い山だった。人の寿命で何代も続くような気が遠くなる程の昔からある。元は、宇宙を飛ぶ船であるが、この地球に不時着してから動かない。少しの間は、住居としても使われたのだが、放置とは大袈裟だが、ほとんど、倉庫として使われるくらいと、時々、文明人だったことを忘れないように文明の機械に触れて精神の安定するくらい程度しか利用しなかった。だから、自然に土で覆われて木々も生えてきた。何も知らない者なら小高い丘としか思われない。それでも、入口である一か所だけは、定期的に出入りするために門の入口としては分かる感じだった。それでも、一年も過ぎれば雑草が茂っているのだ。その中に入る時は伐採しなければならなかった。その地を数人の老若男女が隊から離れて指示された役目のために向かっていたのだ。
「やはり、神代文字の機能は使えないか」
「はい。一キロが限界の範囲だと思います。それを超えると、紙に戻ります」
「予定の地よりは、まだ、遠いが、隊長の指示を実行する。一人は、この場に残り。この地点を確保してもらう。もう一人は、始祖の地の様子を見て報告は、この地で隊長たちが来るのを待って報告をする。残りは、隊長の所に戻る。そして、この地に共に戻ってくる」
「はい」
「それぞれの指示を実行するのだ。良いな!」
「はい」
一人だけを残して、他の者たちは隊長の指示を実行した。
「あの人なら三時間もあれば、始祖の地の調査を完了して帰って来るわね。そうだとしたら、温かい飲み物を用意しないとね。何にしましょう・・かな・・・」
この地に一人で残された理由には、この任務の班の中では最高の高齢者でもあるが、この老婆は、神代文字を使わずのサバイバルゲームのような遊びの達人でもあり。もう一つの遊びの達人でもあった。それが・・・。
「最近の子は、トンボ玉を作る遊びもしないのかしらね」
神代文字を使わない方法の火を熾すことの達人でもあった。この老婆なら一族全てのために必要な簡易的な炭を作ることができたのだ。だが、盛大な焚き火を作ることでも、複数の焚き火を作るのではない。一族の皆が着いて直ぐに焚き火を熾せる程度の種火みたいな炭を作っていたのだ。それも、絶妙な焚き火が消えない程度の手際だった。
「そうね・・・・今回は、ミントの紅茶でも飲ませてあげましょうかね」
そして、焚き火と炭を作りながら三時間が過ぎようとしていた。
「おおっ、やっているな」
「おかえり。直ぐに温かい飲み物を作るわね」
「ありがとう。それよりも、何か手伝おうか?」
「いいえ。適当な場所で座って待っていて」
「そうか・・・」
一瞬では数えきれない程の焚き火は、渦巻きのような感じに置かれて焚き火が焚かれていた。その中心に、男は、座って見ていたのだ。老婆は、お湯を沸かしながら定期的に周囲を見回して焚き火の様子をみていた。焚き火が消えそうになると、風を送るなどで調整していた。
「お湯が沸いたわ。直ぐに、紅茶を作るわね」
「あっ、ああ、ありがとう」
「それで、始祖の地は、どうでした?」
「毎回、毎回、始祖の地に来る時と同じように木々や草が茂っていましたよ」
「そうでしたか・・・」
老人の話を聞きながら紅茶を作り。完成すると、手渡すのだった。
「ありがとう」
「いいえ。美味しいかな?」
「うん。うん。美味しいよ」
「それは、良かったわ」
「それより、いつ、皆が戻ってくるのか分からないだろう。交代で休むか?」
「別にいいわよ。皆が戻ってくれば、ゆっくり休めるのだしね」
「そうか・・・そうだな」
二人は、適当な話題ではあるが話は尽きなかった。
その頃、隊長に報告に向かった者たちは、そろそろ、目的に着こうとしていた。この者たちが、予定の時間よりも多くの時間が掛ったのは、途中で、紙の馬、紙の馬車、紙の衣服や紙の剣を元に戻せるか、その試で時間が掛ったのだ。やはり、あの地点からある程度の距離を歩くと、これも隊長の指示だが、神代文字を書き直してみた。すると元の機能を取り戻したのだ。
「隊長の指示の通りね」
「そうだな」
「隊長のお考えとは、何をするのでしょう」
「まあ、隊長のことだから姫様を第一に考えることでしょうね」
「そうだな、それは、間違いないことだな」
「それでは、早く帰ろう。俺、まだ、風呂に入ってないのだよ。早く帰って入りたい」
「そうだな。なら、急ぐか!」
「はい。それでは、紙の馬よ。指示を伝える。十キロで加速!そのままの速度を持続しろ!」
紙の馬と紙の馬車は、指示した速度で走り出した。意志がある感じの動きだが、大きな石などの障害物がある場合などは、自動で避ける程の機能はなく、人が的確に言葉で指示を伝えるが、車輪ではなく、四足だからだろうか、器用に避けながら目的地に向かっていたのだ。それでも、低速での走りならば、馭者が寝ていても少々の障害物なら自動で避けられた。ただ、指差した方向に走り続けるのだ。新たな指示が与えられるまで・・・。
「班長。失礼と思いますが、わたしは、もしもの場合として、班長が呆けた場合のためとして、私にも隊長と同じはずの任務の話しを聞いています」
「えっ?・・・わしは・・・呆けたのか?・・・・何の任務だった?」
「それは、隊長に報告に帰る。その途中で、村に寄って神代文字の用途で使う。村にある全ての在庫の紙を持って来い・・と・・・」
「あっ・・・あああ~そうだった。そうだった。でも・・本当に・・・」
班長は、悩み、驚き、不思議に思うのだった。
「隊長は、いろいろと、仕事がありますから忙しくて、ちょっと、度忘れしただけだと思いますよ。だから、私が思うに、呆けてはいない。そう思いますよ」
「そうか」
「はい。今も馬車と馬の指示もしていますし、今回の任務も何も支障がないでしょう」
「そうだな」
(まあ、呆けている者に呆けている自覚があれば呆けることはないでしょうね。でも、時々、ぼけっとしているのよね。それを見て、隊長が、将来的のことで伝えたはずなの。これからも、わたしが、補佐しろ。そう言う意味なのでしょうね)
「隊長。そろそろ、方向を変えた方が、村に行くのに遠回りになります」
「そうだな、呆けたかのかと、そんなことを考えるよりも、これからのことを考えなければならないな。感謝するぞ。これからも、的確な補佐を頼むぞ」
「はい」
「それなら、紙の馬と紙の馬車の指示が出来る者として許可者を追加しなければならないか。いや、それよりも、班長の候補として追加するか」
「それは、待って下さい。私の神代文字の筆跡(ひっせき)の認識番号を一桁にするのですか?。まだ早い。というか、他に適任の人がいるはずです」
「任務にたいして重荷になり。任務に支障になるのか?」
「はい。若くて女性では戦いになった時に誰も付いてこないでしょう」
「まあ、誰も教える者もいないだろうが、いや、一桁の番号を持つ者には、誰かに託す時に伝える話だが、将棋は知っているな」
「はい」
「誰一人として、自分の命を懸けて戦の先陣に喜んで行く者も、自分の命を捨てる覚悟の者はいない。本当に将棋の駒なのだ。作戦図面に置いた。自分の名前の駒が動かされて置かれれば、自分の意志などで動けない。たった一歩でもな。だから、隊長が置いた場所に強制的に行くことになる。それが、一桁の番号の本当の意味だ」
「・・・・」
驚きで一言の言葉も声にならなかった。
「誰も初めは断るのだ。だが、本当に任命する時になる頃には、何かを守りたい。そう思うらしい。わしは、初めて聞いてから即答で承諾したがな・・・だから、今は、補佐であり。代理として任務に当たるのだな。では、村まで紙の馬と紙の馬車を操舵しろ」
「はい」
自分が書いて作成した物でないために扱いが微妙だった。時々、本物の馬のようにいななくのだった。それは、作成した者と微妙に指示が違うために詳しい指示が欲しい。そう言う意味であり。それでも、的確な指示を言葉で伝えながら村に向かうのだった。
「ご苦労だった。かなり疲れたようだな」
まだ、村には着いてはいないが、遠くから村の全体が見られる所まで来たのだ。
「はい。指揮官クラスの作成された物は扱いが複雑で困りました。
「まあ、慣れるしかないが・・・それにしては、村に煙が立ち上るのが多くはないか?」
「食事の用意でもしているのだろう」
班長と同じくらいの老婆が、班長の問い掛けに答えた。
「火事でないのならば、それしかないが、神代文字の機能であれば煙は出ないはず」
「まあ、行ってみれば分かるだろう」
「危険ではないですか?」
「色のある煙は昇っていない。それならば、特に問題はない。そのまま村に入ってくれ」
「はい」
隊長の指示の通りに村に入った。馬車を出迎えたのではないだろうが、入口近くで遊んでいた子供たちが手を振る程度だった。直ぐに、紙の馬車など珍しくないために何かの遊びなのかしらないが、どこかに行ってしまった。周囲の家々には煙が昇っているのを見ながら村長宅に向かった。大人にも何人か会うが、まるで、郵便配達人か宅配の人でも見るような感じで視線を向けられるが、何も関心がないように家に戻る者や他人事のような感じで、どこかに行ってしまった。
「着きました」
「あっ、腰が・・・」
「はいはい。分かっていますので、わざわざ、演技をしなくてもいいです」
隊長の演技を見る前には、馭者席からすでに降りており。長老宅の扉を叩くために歩きながら愚痴のように呟いていたのだ。
「はい、は~い」
扉を叩くと、女性の声が聞こえて扉が開けられたのだ。
「調査と補給に来ました」
「そうでしたの?・・・・調査?」
「そうです」
長老の奥さんだろう。本当に、村には何も異変が無い感じで不審に思うのだった。
「もしかして神代文字のこと?。それは、もう慣れましたわ。何て言うか天候が変わったというか、風向きがかわったように頻繁に使えなくなりますからね。それでも、ここの中に入っていた。特別の墨で書かれたのは、常に機能していますよ。まあ、倉庫だけでも使えれば、特に、皆も慌てなくなりました」
「そうですか、そうでしたか・・・」
「まあ、でも、神代文字でない調理は、常に離れる訳も行かないので、今、作っている途中なのですよ。補給でしたら倉庫には鍵もありませんので、好きに持って行って構いませんので、では、これで、失礼しますね」
まるで、郵便ポストがあり。投函してあるから集めて持って行って。と感じに言うのだ。
一台の紙の馬車は、村長の指示もなく挨拶もなく、村人からも完全に無視されていたのだが、隊長に報告もあり。急ぐ理由もあるために倉庫から勝手に持って行く許可はされているのだが、人としての感情もあり。村中を馬車に乗りながらだが見回るのだった。そして、村人は様々な不自由を感じているだろう。それでも、子供たちの遊ぶ姿や笑い声を聞くことができたことで、何も問題はないと判断して倉庫に向かうのだった。
「村長に、神代文字の専用の紙を全て詰め込んだ。その感謝と隊長に伝える言葉がないのか、相談しなくても良いのでしょうか?」
「言わなくてもいいだろう。もう、この神代文字の専用の紙は、この村には必要がない。もしかすると、邪魔なのかもしれない。それに、村長に感謝の気持ちだとしても伝えに行けば、長老は言いたくもない愚痴を言いたくなるだろう。だから、必要はない」
「はい。その指示に従います」
「あっああ、なら、最後まで頼むぞ」
「はい」
(ああっ、もしかして、これから先は、荷物の積み下ろしから馬車の操舵もすることになるのね。本当は隊長の指示を忘れた。あの呆けた感じは班長の作戦だったはず。そうとしか思えないわね)
「それでは、隊長の元に帰ります」
「待て、待て、荷台の調整の変更がまだだぞ。荷物を積み込んだのだ。荷台が空の状態のままでは危険だぞ」
「あっ・・・はい」
(乗り心地の調整をすればいいのね・・・でも、設定の調整は変更が出来るの?・・・)
一瞬、不満そうな表情を浮かべるが、直ぐに馭者席から降りて、荷台の下に入るのだった。車軸の調整と荷台の調整を神代文字で書いてあるが、数字の隣に調整が出来るように数字を書けるように空白があったのだ。
「気付いたようだな。そのように空間を開けとければ、誰でも調整ができるのだぞ」
「はい」
「それと、そのまま紙の馬の腹を見てくれないか、お前は、口頭での指示が恥ずかしいのだろう。だから、一度の鞭を叩くことで、五キロ、二度の鞭の叩きで、十キロと書き足してみるのだな。その他の指示は、口頭のままで良いだろう」
「はい」
殆ど、返事を返した。それと同時に紙の馬の腹から出てきて馭者の席に戻るのだった。
「それでは、出発してもいいですね」
「ああっ、頼む」
若い女性は、鞭を紙の馬の尻に一度だけ叩いた。指示を書いたように五キロの速度でゆっくりと進みだした。そして、二時間も過ぎると、目的の地でもある。街道から少し離れた場所で仲間が駐屯しているのを見るのだった。
「ああっ、そうだな。それにしても、渦巻きの陣とは変ではないか?」
「そうですか、中心に大きな風呂でも設置したのではないのですか?」
「そうだな」
「それに、中心の隊長の簡易テントまで進みやすいですし、陣とは言いますが、一般の小隊も良くする。そう聞きましたし、私は好きですね」
「そうだな。その通りだな。このまま隊長の簡易テントまで進んでくれ」
「はい」
渦巻き状の隙間は、二台の馬車が通れるように空き地にされてあり。左側が渦の中心に右側が渦巻きの外に出るように決められていた。
「待っていたぞ」
「なにしているのですか?」
「もし、神代文字の機能が消えても、残せる方法を考えていた。折り紙か土器なら形が残るかもしれない」
「それで、隊長は最終的には、何を作りたいのでしょうか?」
「まあ、船を作りたいのだ。それも陸を走るための船だ。紙なら軽くて理想だが・・・強度が問題だ。土器のような土なら形は残るが・・・強度もだが、持ち運びがな・・・」
「木では?」
「それは、作って失敗したのを忘れたのか?」
「組み立てでは?」
「木は、摩擦抵抗がありすぎて・・・」
「そうなると、紙の強度を上げるしかないですね」
「まあ・・・・ん?。どうした?・・・何か言いたいことでもあるのか?」
「はい。出来れば、早く報告して休みたいのです」
「そうか、そうか、本当に眠そうだな。分かった。分かったぞ。では、話しを聞こう」
今すぐにでも眠り倒れそうなのを必死に我慢していた。だが、眠くて何の話題なのかも分からない。それでも、手を振ったり、飛び跳ねたりと、隊長と視線を合わせたかったのだが、時間が過ぎれば過ぎる程に、班の皆と隊長は興奮するのだった。そして、やっと・・・。
「村は、神代文字の効果は無くなっていました。それでも、特別な墨で作った。あの倉庫だけは効果は継続していました」
「そうだったか、ご苦労だった。ゆっくりと・・・・おお!!大丈夫か?」
女性は、隊長からの、ご苦労と聞いた。その瞬間に地面に倒れて寝てしまった。
「もう、お前らも休め。次の任務は、西からきた男の部隊の監視と監督を頼む」
「はい」
「それも、わしらの本体が行動した。その後だから二日くらいは過ぎてからになるだろうな。だが、西から来た男たちには、始祖の地まで案内をすると、そう伝えろ。そして、肝心なことだが、わしが戻るまで、あの効果が切れた所から移動させるな!」
「はい。必ず、指示を完遂します。それでは、お先に休ませて頂きます」
女性の班の仲間は、地面の上で熟睡している女性を抱え上げて、この場から消えるのだ。
「俺らは、どこで休めばいいのだろう。早く風呂に入りたいのだけどなぁ・・・」
「そんな分かり切ったことで騒ぐな!」
「それは、今から作る。そう言うことですよね」
「そうなるかもしれない」
「ええええっ、誰が作るのですか?」
「それだから、名札の書いていない。簡易テントを探しているのだろう」
簡易テントの名札を見ては、次、次と歩き回っていた。だから・・・。
「どうしました?・・・病気?。それとも、怪我ですか?」
「ひっ、姫様!」
突然に、後ろから言葉を掛けられたのだ。そして、新と一緒に、姫が正面に現れた。
「大丈夫なの?」
「はい。寝ているだけですので・・・ですが、横になって寝られる場所を探していたのです。出来れば、自分たちも休める場所があればと・・・」
「そうだったの?・・・う~ん・・・それなら、わたしのと新の簡易テントを使うといいわ。わたしたち、これから、直ぐにでも行かないとならない任務を与えられたの。それだから、使ってもいいわよ」
「本当ですか!」
「本当よ。ゆっくり休みなさい」
「これで、風呂に入れる」
「いい加減にしないか、本当にすみませんね。姫様。心底から感謝します」
「いいのよ。ゆっくり休んで次の任務も頑張るのよ」
「はい」
「姫様の無事の任務の完了を祈っています」
「ありがとう」
姫は、班長に担がれている女性を心配そうに見た後は、新と一緒に、班の者たちの敬礼で見送られながら隊長の元に向かったのだ。その向かう先の方では、大勢の人々が集まっているのだ。
「なにかしら?」
「そうだね」
人々の上空に少し何か分からないが、何かが見えた。もしかして、と、姫は、嫌な感覚を感じた。隊長が何かを作ったのだろう。その実験をさせられる。そんな、嫌な予感を感じながら大勢の人々の中に入って行くのだった。
「おおっ、姫、新よ。待っていたぞ」
「何をしているのですか?」
「これを作っていたぞ」
「それは、何ですか?」
「見て、分からないか?」
「何となく、想像は出来ますが・・・・」
「風を受けて陸を走る。船だ!。これなら神代文字の機能が消えて、ただの紙に戻っても風があれば動くのだぞ。まあ、強度的な問題で、直ぐに形が崩れて紙クズになるだろうけどな。だが、突然の対応くらいの時間ならもつはずだ」
現代で例えるのなら三人くらいが乗れる全て紙で作られた。いや、紙で折られたヨットだった。もう少し詳しく言うのならスポーツ用の縦帆を使った小型の帆船だった。
「もしかして、この実験のために呼ばれたのでしょうか?」
「いや、実験ではない。これに乗って始祖の地に行くぞ!」
「何を言っているのです。今から部隊の全員の分など作れるはずがないでしょう!」
「この一艘で、三人だけで行くのだが?」
「えっ?」
「何を驚いている。姫も手伝え。神代文字で、強度、重さ、温度の数値を書かないとならないのだ。早く手伝え」
「他の皆は?」
「神代文字を書き終わらなければ、制御ができないだろう。だから、皆には、勝手に浮いて動く可能性があるために綱で支えてもらわないとな」
「えっ?」
「これだから、新しい物を制作することを知らない者は、あのな、強度のことは言わなくても分かるだろうが、この折り紙の船の重さがゼロになった場合は、どうなる?。それと船の底の温度が設定されて、帆や船の上空の温度を決めて、その温度の差が突然に変わったら急上昇や左右に動いたら調整などできないだろう。だから、最終の調整が完了するまで、もしもの場合に備えて、大勢で綱を支えてもらうのだよ。一度でも、作れば対処の方法も分かるのだがな。それでは、左右の船体に同時に神代文字を書く。わしが書く速度と同じように書いてくれ。それで、良いな?。問題はないな?。では、書くぞ」
隊長は、書きながら何を書くかを大声で言うのだ。姫は、書きあがると、はい。と返事を返して、次は、と書きだす。それを繰り返していると、船は浮き上がり、左右に船が動くのだ。すると、重さの数値を書き足して安定させていた。船の変化が思ったよりも変化がなく、作業も簡単だったことで、姫は、安堵した。そして、隊長は、鞭を持ちながら音の響きを確認後に、最終的な数値を神代文字で書くのだ。一度だけ叩けば、船の重さの変化、鞭の風力と響きで、左右の動きや浮く高さなどが調整できるように数値を書き足してから確かめた後のことだった。皆に綱を離せと伝えてから嬉しそうに頷くのだから完了したのだろう。それから、船に乗り。姫と新に手招きをして出発するぞ。と叫ぶのだった。
「副隊長。あとは、皆のことは頼むぞ」
すでに、特別な指示を伝えてあるのか、ただ、普通に部隊を任せる。そう言う意味なのかは、副隊長の表情からは判断は出来なかった。
「これは、楽しぞ。思ったよりも安定な走行ができるな」
隊長が船の操舵に慣れた頃だった。姫に視線を向けた。そして、真剣な表情を浮かべた。
「今日が、予言の日ではないのか?。始祖さまが、自分の国に帰る日なのか?」
姫は、隊長の突然の意味の分からない言葉を聞いて驚くのだった。
隊長は、姫の返事を待たずに話を続けるのだった。その話は、姫は親から口伝と伝えられているはずだと、自分も隊長と副長の位を命じられる時に聞かされる話しだと、前置きおしとして話すのだった。姫の左手の小指にある赤い感覚器官(赤い糸)と背中のかげろうの羽のような物(羽衣)がある。それと、時を飛んで運命の相手を探す使命。などの全ての原因は、始祖が原因であり。始祖が、自分の国(星)に帰るために与えられた使命なのは聞いている。そう伝えたのだ。それも、今、この時期で、この場で話しだしたのは、船の上では風が吹く音で新には聞こえない。それを確かめてからだった。
「この場には、姫の関係者しかいない。始祖の予言の日が今日か、近い日ではないのか?」
「そうかもしれません。でも、なぜ、その日が近い。そう思うのです」
「一番の理由は、神代文字の機能の効果が薄いというか、このまま神代文字の効果が消滅するのではないのか?」
「それは、どうでしょう?」
「姫は、忘れているかもしれないが、幼い頃に、未来に飛び、そして、縄文時代に帰ってくると、この世とは思えない生活をしている。一番の驚きは、誰一人として、神代文字を使わず。神代文字も知らないし効果もしらない。不思議な世界だと、嬉し涙を流しながら楽しそうに話してくれた。いや、悲しくて泣いていたのかもしれない」
「わたしは、そんな話をしたのですね」
「それは、確かな未来だろう。そうなると、今日か明日かは分からないが、神代文字は使えなくなる。そう言うことだろう。だから、今回は、新しい船を作る。その試作の実験だと名目で、三人で始祖の地に向かっているのだ」
「そうでしたか・・・・」
「まあ、姫の運命の相手が見付からなければ、まだまだ、神代文字の機能と効果は消滅しないと思うが・・・・あの男なのか?・・・まさか・・・だと思うが・・・あの老人では・・・」
「それはないでしょうね」
「そうだろうな。それより、これも、命じられた時に聞いたことなのだが、あの禁忌の歌を想い人に渡し、もし違っていた場合は、その書かれた紙は、粉々に破ける。そう聞いたのだが、本当なら試してみるか?」
「・・・・」
「あの男が、告白するとは、思えないぞ。それとも、わしが、恋をしているか、好きな女性がいるか、と聞いてみるか?」
「・・・・」
姫は、腕を組んで考えていた。
「未来の世界では、自由恋愛なのだろう。王女だろうが、他国の者だろうが、誰とでも結婚ができるのだろう。それなら、好きな人がいれば、姫だろうが、わしが聞けば、好きだと言うのではないのか?・・・違うのか?・・・」
「・・・・もしかすると、わたしには、運命の相手がいる。それは、自分ではない。そう思って忘れようとしているのかも・・・」
「男として自信がないのか?・・・」
「それか、自分には自信がなくて、女性から告白を待っているのか?・・・・」
「女性から告白される。そんなに、良い男だと思えないが・・・あっ、だからなのか・・」
「・・・・」
二人の女性は、真剣に悩み。そして、無言で考え込んでしまった。
「姫がいいのならば・・・なのだが、あの歌を教えるか?・・・」
「えっ?」
「あの男は、あの歌の意味を知らないはずだ。もし、歌の意味が知らないのなら姫が歌を紙に書いて渡したとしても、何も理解できずに断ることもないだろうが、おそらく、何の返事はしない。首を傾げるだけだろう。いや、女性からの初めてのプレゼントとして何を返したらいいのかと、いつまでも悩み続けるだろう。もしかするとだが、何の答えも思いつかず。そのまま来た時と同じに突然に未来に帰ってしまうかもしれない。それは、絶対に困る。それに、誰にも相談もしないだろう。想い人の話しも、女性からプレゼントをもらったことも悩み続けるだけで、もし相談してくれれば楽なのだが、そうだろう。姫は、お前のことに興味がある。お前も好きなら告白してみろ。これが、恋のいろはであり。一般的な恋の流だと、そう思うのだがな」
「わたしには、恋と言うのは分かりません。一度も、恋焦がれる。そういう思いも感情も体験もありませんので・・・」
「それでだ。初めに話したことに戻るのだが、あの男に、不思議な効果がある不思議な宝物がある。と言って歌を教える。言い伝えも教える。勿論なのだが、紙も渡して、その歌を書いて裏側に好きな人の名前を書いて、その女性に渡せば想い人と結ばれる。とでも言ってみるか?・・・一つだけ問題なのは、本当に姫の運命の相手が、あの男なのか、それが、一番の重要なことだが、確かなことなのだろう?」
「まっ間違い・・・ない・・・はずです」
「なんか、不安を感じる返事だな。ここは、間違いありません。そう言って欲しかったぞ」
「すみません・・・すみません・・・・」
「まあ、いい。それなら、左手と左手を使う。そんな遊びを考えるしかないか」
「遊びを考えるのですか?・・・・」
「ああっああ~あれ、あれ、手遊びをしただろう!」
「手遊びなんて知りません」
「姫も知っているはずだぞ。お前の母が、未来に行った時に、面白い手遊びを憶えてきてな。娘と一緒に遊びたいし、時々しか、娘とは会えないから一人では寂しい時に遊んで欲しいと、姫も一人で手鞠歌(てまりうた)をしていたし、わしにも母の代わりになって欲しい。と言って姫から教えられて一緒に手遊で遊んだぞ」
「そっそんな、遊びなんてしたことがありません」
「確か、歌は、こんな感じだったかな。
あんたがたどこさ、肥後さ、肥後どこさ、熊本さ、熊本どこさ、船場さ~」
「あっああ~聞いたことある。遊びなのか、それは、分かりませんが、子守唄ではないかと、微かな記憶があります」
「それは、歌に合わせて手や指を動かす遊びなのだよ。それも、両手を使っての。それなら、新に姫の左手の小指を見せることも、もし新にも左手の小指に赤い感覚器官があるのなら姫も新の左手の小指を見られる。これしか、ないだろう!」
「そうですね。そうですね」
「なんで、こんな簡単なことが気付かなかったのだろうか」
「隊長。ありがとうございます。本当に、昔のことなのに思い出してくれて、ありがとう」
「それで、この船は、暴れ馬にでも乗っているのと同じだ。このまま始祖の地までは無理だ。それは、あの男の様子を見ただけでも分かることだ」
新は、死にそうな程に顔を青ざめて完全に船酔いをしていたのだ。
「そうですね」
「それで、そろそろ、休憩をしよう。そこで、わしは、紅茶でも用意する。その間に、新と手遊びするのだ。それが、良いと思うのだが、姫の心構えは大丈夫か?」
「まあ、はい。だっ大丈夫です」
「あのう。姫。その怯えるような恥ずかしい。その気持ちは、恋。と思うぞ」
「そっそっそうなのですか?」
「間違いない。そう思うぞ」
姫は、暫く悩むのだった。そして・・・。
「これが、恋なのですか?」
「ん?・・・何か言ったか?。この船は、まるで暴れ馬のようで扱うのは大変なのだ。こいつを止めたいのだが思った通りには指示に従ってくれないのだ。お前も手伝え!」
突然に風の強さと風の方向が変わった。
「はい」
姫を頷く姿を見ると・・・。
「帆をたたんでくれ、それで、船の操舵は楽になるはずだ!」
「・・・・」
「姫!。だから、早く頼む!。自然の風と神代文字の機能が反発している感じなのだ!」
「はい」
「新。何を言っても聞こえないだろう。だが、何かにしがみついていろ。だから、絶対に船から落ちるなよ!」
隊長は、姫の様子を見てから新の無事を確認しようと、作業と同時に操舵しながら周囲を見回して帆柱に隠れるようにしがみついている姿を見たのだ。
「姫。感謝する。姫も何かにしがみついていろ。船から落ちるなよ」
まるで、隊長は、鞭をクラシックオーケストラの指揮者みたいに振り続けていた。その数分後だった。船に指示した通りなのか、飛行機が胴体着陸するみたいな感じで、陸を走る船は止まったのだった。
「まだまだ、この陸の船は改良が必要だな。こんなことを毎回では死ぬかもしれない」
「そうですね。もう乗りたくないかもです」
「そうですね」
新は、もっと多くの言葉を吐きだしたかった。その本心を言ったら命の危険がある。そう思って、姫の言葉に頷くことしかできなかったのだ。
「ん?」
隊長は、まだ、改造をしなければならないが、今までの中ではお気に入りの一つである。紙の船をけなされて適当な方向に視線を向けた。すると、驚きを感じたのだ。それは、遠くの方に煙が立ちのぼるのが見えたからだった。
「どうしましたか?・・・・あっ!」
姫も、細長くて空高く煙が立ちのぼるのを見たのだ。それは、おそらく、一キロの地点で待機している者たちが火を焚いていたのだった。
「煙の下に行ってみるしかないな」
「また、これに乗るのですか?」
「なっなんだと!。だが、陸の船に乗って行きたいが、降りたい所には降りられない。だから、諦めるしかないだろう。嬉しいだろう」
「いいえ」
新は、つい、叫んでしまったのだ。だが、隊長も乗って行きたいが、好きなように操舵できないために諦めていたことで、怒りも直ぐに収まるのだった。
「歩いて行くのですね」
「そうだな。仕方がないだろう。あの煙ののぼりなら近いはずだ」
「・・・・」
「まあ、それより、紅茶でも飲むとしよう。もしかしたら、火を焚いている者たちが様子を見に来るかもしれない」
「それでしたら、神代文字の機能の壺でなく、木々で火を焚いて湯を沸かすのですね」
「そうだな。そうしてくれ。わしは、陸の船の調整をしてみる」
「はい。分かりました。それでしたら、新さん。適当な薪になりそうな木々を集めてくれませんか、美味しい紅茶を飲ませてあげますからね」
「はい。わかりました。紅茶を楽しみしています」
新は、周囲から木々を集めては、姫の下に置いては、また、集めるのだが、姫は、直ぐに火を熾すのではなく、ある程度ほど集まるのを待っていた。
「姫。直ぐに火を熾して煙を熾せ。あの煙は合図だ。急げ!」
隊長は、陸の船の様子を見ながら煙がのぼる方向も見ていたのだ。もしかすると、誰かが来ると、そう思って、すると、仲間内の合図のように煙ののぼり方が変だと感じたのだ。それで、姫に指示を出したのだった。
「はい。直ぐに!」
姫は、神代文字の機能を使わずに火を熾したかったのだが、急げとの指示だったことで神代文字を紙に五秒後に火を燃えろ。そう書いた。そして、実行するために必要な花押を書いた。薪を適当に燃えやすそうな形に組んでから神代文字を書いた紙を中に入れた。
煙は上空まで高く高くとのぼり。その煙の返事なのか、遠くからのぼっていた煙はのぼり方が驚くことに変わったのだ。やはり、ただの焚き火ではなく、何かの合図だったのだろう。そして、煙ののぼり方を見て恐れを感じる者がいた。
「姫。新。直ぐに、陸の船に乗れ!」
「えっ、歩いて行きましょうよ」
「なにしている。こちらに、動く物が向かっている。もしもの用心だ。直ぐにのれ!」
隊長は、神代文字の組み合わせで、様々な効果を組み合わせて作成した物だった。それは、軍事レーダーとも、自動車のナビとも違う。一番近いのは、魚群探知に近い物が備わっていたのだ。
「はい」
「あっ、だが、焚き火は消す必要はないぞ」
姫と新は、同時に返事も頷きもして、もう乗りたくないが、陸の船に乗るのだった。そして、隊長は、探知機を見続けた。それには理由がある。街道からも外れて木々などの障害物があるために目視では無理だった。
「ん?・・・あっ!」
神代文字の機能で作られた一台の馬車が焚き火の前で止まった。
「隊長。姫様も何をしているのですか?」
「あっ、また、ですね。新しい乗り物を作って動けなくなったのですね」
「えっ、まあ、その・・・そうだ。始祖の地まで乗せてもらいたい」
「そう言う指示でしたらいいですけど・・・」
隊長は、片目を瞑り、適当に話を合わせろ。そう言う意味だった。
「それで、指示をした多くの炭は作り終えたのか?」
「はい」
「ご苦労だった」
「それで、他の者たちは、いつ頃に着くのでしょうか?」
「わしら出発してから一日は最低でも遅れて出発する指示をした。明日には着くはずだ」
「そうでしたか、それで、その乗り物は、どうするのでしょうか?」
「これは、ここに放置しておく」
「わかりました」
「それでなのだが、この地から直接に始祖の地に行きたいのだが、それは、可能か?」
「それは、可能ですが、お役目の地点で仲間が待っていますが、その者にお会いしなくても宜しいのでしょうか?」
「ああっ、その件は、副隊長に報告して欲しい。それと、わしらを始祖の地に連れて行くだけでいいぞ。直ぐに、その地点に帰って、副隊長が来るまで待機していろ」
「この馬車で、始祖の地に・・・ですか・・・おそらくですが・・・」
「その件は、副隊長に報告してくれ、対処などの指示があるはずだ」
「はい」
「お前の心配は分かるが、わしが乗っていれば、始祖の地まで紙の馬車は動くはずだ」
「そっそうなのですか?・・・それでしたら、わかりました。指示の通りに致します」
「まあ、それ程まで急ぐことはない。姫が紅茶を用意していたのだ。ゆっくり、と飲んでからでも行こう」
男は、馬車から降りて焚き火に当たるのだった。安全を確認のためではないが、隊長が先に降りて男と囁くとは大袈裟だが、二人には聞こえない程度の声で会話をしていたのだ。次に新が降りて新の手を借りながら姫が降りてきた。
「直ぐに用意しますからね。新さんも座って待っていてね」
新は、焚き火の前の地面に腰を下ろした。そして、紙を折り始める。そんな、姫の様子を見ていた。紙製で神代文字を書いて硬化したティカップを温めてから紙のポットの中に葉っぱと少しのお湯を入れて、少し思案をするのだ。もしかすると困り事でもあったのだろうか、それとも、葉っぱを蒸らす。そんな時間が必要なのか、そして、もしかすると悩み事の答えでも出たのだろう。一瞬の笑みを浮かべてから新に話を掛けた。
「ねね、新さん」
「何でしょうか?」
「手遊びって、分かります?」
「えっ?」
「紅茶が飲み頃になるまで時間を潰す遊びですよ」
新に話しながら紙のポットの中にお湯を入れるのだった。
「なんか、幼い頃に聞いたことがある・・・感じなのですが、思い出せません」
「それなら、歌なら分かるのでないかな?」
「歌?」
「こんな歌よ。
あんたがどこさ~
肥後さ~
肥後どこさ~熊本さ~
熊本どこさ~船場(せんば)さ~
船場山には狸がおってさ~
それを猟師が鉄砲で撃ってさ~
煮てさ~焼いてさ~食ってさ~
それを木の葉でちょいとかぶせ~」
「あっあああ、はい、はい。聞いたことがあります。もしかすると、幼い頃に遊んだかもしれません」
「それなら、手遊びをしませんか?」
「いいですよ。でも、遊び方がわかりません」
「それなら、まずは、手を前に突きだしてね。そして、私がするのを真似てね」
姫は、歌い始めて、新の両手を交互に叩くのだった。そして、「さ!」と言うと、新の両手を叩くのだった。
「あれ、あれ、難しいね」
姫と新は、何度も繰り返して楽しく遊ぶのだが、何度目かの歌が終わると、姫は右手で新の左手をつかむのだった。
「でも、楽しいでしょう?」
「はい。楽しいですね。それでも、そろそろ、紅茶も出来たのではないでしょうか?」
「そうですね。あっ!隊長!。先に用意します。ごめんなさい。直ぐに・・・」
姫は、あまりにも新と遊ぶのが楽しくて、周りの状況も紅茶を作っていたのも全て忘れていたのだが、新に指摘されて気付くのだ。そして、もしかしたら隊長の憤慨している顔を想像して振り向くのだが、これからのことを話すのに夢中で紅茶のことも、姫と新のことも忘れているようだったのだ。姫は、安堵の表情を浮かべながら地面に座って右手の仕草で新も座るように勧めた。新は、ゆっくりと頷き正面に座るのだった。
「・・・・」
新は、紅茶の味でも想像しているようにも思えるが、姫が紅茶を作る仕草や楽しそうに作る。そんな表情を嬉しそうに見つめていたのだ。
「お待たせしました。ここに置いておきますね」
二人の会話の邪魔にならないように小声で伝えて、二人が頷くのを見ると、そっと、右手の少し先の方に紅茶を置くのだった。
「新さん。どうぞ・・・・ふぅ・・・うん」
新の正面に座り直してから手渡すのだった。一口だけ飲んだのを確認して美味しいと思う表情を変えた後に、自分が味わったかのように嬉しそうに自分の紅茶を作るのだった。
「本当に美味しいですね」
「そうでしょう。そうでしょう。特に、このミントの紅茶は、お勧めですよ」
「未来でも普通に売っていますか?」
「勿論よ。未来から持ってきたのよ」
「そうだったのですか!」
「そうよ。未来に帰っても飲めるわ。それに、私が作っていたのを見ていたでしょう。同じように作れば、わたしと同じ味は無理でしょうけど、それなりに、美味しく出来るわ」
「分かりました」
隊長は、二人の会話の流が丁度良い区切りだと思ったのだろう。
「それでは、そろそろ、行くとするか」
「はい」
「分かりました。直ぐに片づけますので少し待って下さい」
「安心しろ。それくらいの時間など気にするな」
「ありがとうございます」
姫は、紙の馬車の荷台の上に茶器の道具を少々慌てて積み込むのだった。そして、そのまま荷台の中で座るのだ。その少々離れた所に新も座った。
「出発しても宜しいでしょうか?」
「ああっ、頼む」
紙の馬車は、ゆっくりと走り出した。十分間も走ることもなく目的地である煙が立ち上る現地に着いた。その場では、茶でも誘うかのような感じの老婆が手を振る姿を見るのだった。その誘いには応じることはせずに、男を紙の馬車から降ろした。
「お気を付けて、また、美味しい紅茶を飲ませて頂きたいです」
「ありがとう。勿論、いいわよ」
「あっああ、後は頼むぞ」
隊長と姫と新の三人だけで紙の馬車を走らせて始祖の地に向かうのだった。その途中のことだった。荷台の上にいる。姫の様子が何か変だった。
「どうしたのだ?。ニコニコと笑みを浮かべているが、何かあったのか?」
「それがね。えへへ・・・」
笑いを堪えながら隊長の耳元で囁くのだった。
(新さんの左手の小指の赤い感覚器官が見られたの。それに、確実に触れ合って。運命の人って証拠をみただけでなくて、そう感じたのですよ)
(それなら、新が、運命の相手だと確実になったのだな。おめでとう)
(はい。だから、嬉しくて、嬉しくて)
「姫。良かったな」
隊長は、馭者から身体を傾けながら姫の頭を撫でた。なんか、苦しそうな姿勢ではあるのだが、嬉しそうな表情を浮かべていたのだ。それでも、直ぐに、不安そうな表情を浮かべたのには理由があるのだろう。少し思案した後に・・・姫の耳元で囁くのだ。
(この男は、運命の相手なのは分かる。だが、確実に思うことがあるぞ。それは、姫に愛の告白をするとは思えない)
「えっ、運命の相手なのですから少々の障害があっても結ばれるはず・・・」
姫は、驚きのことを言われて声に出してしまった。
(姫。それでなのだが、前に提案した。あの歌を教えるからな。だが、少し待っていてくれ、あの男と二人になった時でも伝えることにする。それまで、存分に自由恋愛を楽しむと良いだろう。もしかしたらだが、愛の告白を聞けるかもしれない)
「まあっ・・・はい。そうします」
姫は驚き、そして、恥ずかしそうだが、嬉しそうに頷くのだった。
「ん?・・・どうしました?」
「ちょっと、未来に行った時のことを思い出したのです。えへへ」
「そうなのですね。それで、どんなことを思い出したのですか?」
「一度だけ、ジェットコースターに乗ったことありましてね。それを思い出したの」
「あっ、あんな、あんな、危険な物に乗ったのですか!人が考えた遊びでは最低の物ですよ。でも、なぜ?」
「危険?・・・最低?・・・」
「死を感じたい。恐怖を感じたい。そんな最低な遊びですよ。不謹慎な遊びです!」
姫と隊長の前で初めて怒りの感情をぶつけた。特に、姫は不思議そうに見つめたのだ。
紙の馬車の荷台と馭者では、異なる怒りを発生していた。それは、不敬と理解不明の怒りだった。理解不能の怒りは直ぐに収まったのだが、不敬の怒りは収まることなく、それでも、その怒りは爆発することはなかった。おそらくだが、理解不能の怒りは、不敬の怒りを感じたために収まったのだろう。
「新さん。どうしたのです?・・・そんなに怒るなんて?・・・」
「姫は、何も変に思わないのですか?・・・死を感じたい。そんな遊びですよ。皆が乗り終えると、死ぬかと思った。って笑いながら言うのですよ」
「私たちも戦いの訓練の後に、そう思う時がありますよ。本当に死ぬかと思ったわ。ってね。でも、死を感じる程まで真剣に戦うことで心が研ぎ澄まされて、心の奥底から本当の死を自覚するのです。そして、命を大事にしなければ、その思いが最後の時に、手足を動かす力になり。勝つ力になる。そう思うのですよ」
「それとは・・・」
「同じです。生まれてから一度も恐怖を感じたことのない者は、戦いでは長生きはしません。それに、長生きしたとしても良い人生も送れないでしょう」
「戦いの事は知りませんが・・・・」
「どんな遊びだとしても、何も無駄にはなりませんよ。生きるとは、まず、遊びから学ぶのだ。そう教えられて育ちました。勿論、今でも、そうだと思っています」
「現代でも変だと思われて、縄文時代でも同じなのですね」
「新さんは、変ではないですよ。心が優しいのです。現代は、遊びしか体験していませんしね。詳しいことは分かりません。縄文時代でも、戦いを拒否する人はいますよ。人を殺して自分が生きるのならば自分が死んだ方がいい。そう言う人もいますからね。そう言う人から言わせると、私たちが変だと思われていますよ。この例は、極端ですが、もし結婚して子が生まれたら、戦いのことなど教えたくもないし、戦いなどして欲しくもないのですよ。そう言う考えならば、新さんと同じですよね」
「そうなるのかな?・・・・」
「それでも(安全な遊びなら・・・)いいえ、なんでもないです」
最後の締め括りとでもいうのか、最後は、新の気持ちを考えてと言うべきなのか、新の考えに同意するのだった。
「いや、私が変な考えなのです。そうですよ。遊びなら遊びを楽しまなければ、良い遊び悪い遊びなどある訳ないのです。姫が好きな遊びなら悪い遊びなどありませんよ」
新は、まるで、姫の心の言葉を聞こえたのだろうか、それとも、姫に嫌われる。とでも思ったのか、突然に、百八十度となる考え方に変えたのだ。だが、足が震えている。その理由は、この先のことを考えているのだろう。姫が楽しむ遊びを全て一緒に体験しなければならない。そう覚悟を決めたようだった。
「ちょっと、考え過ぎかな・・・でも、嬉しいです」
姫は、満面の笑みを浮かべる。もしかすると、先ほどの内心を隠す表情と違っていた。もしかすると、新は、姫に笑みを浮かべて欲しいから自分の考えを変えたに違いない。
「いろいろな遊びをしょうね」
「はい。未来の遊びになるけど、いろいろな遊びを教えてあげますね。それと、姫が遊んだ。楽しい遊びも教えて下さいね」
「ん?・・・何かの問題は解決したのか?」
隊長は、二人の会話は聞こえていたはずなのだが、乳繰り合いでもしていると、そう思って聞き流していたのだろう。
「はい」
「それは、良かった。それとな・・・良いことを教えてやろう・・・だから・・・」
隊長は、自分の耳を人差し指で叩いた。姫に内緒の話があるから近くに来いと、顔だけ傾けろ。そう指示をしたのだ。
(あの様な軟弱な新みたいな男には、姫が知るような男ではない。だから、無理に心を折り。男を屈服させるな。新の顔を見てみろ・・・半泣きのような表情ではないか)
新は、半泣きのような表情だった。確かに、そうなのだが、新の内心は、これから先のこと、死を感じる遊びとは、何なのか、それを想像していたのだ。
「あっ!」
「今頃になって気付いたのか、仕方がない奴だな」
「どうしたら良いでしょう?」
「そうだな・・・」
(まあ、男なら乳でも揉ませれば簡単なのだが、二人とも異性と、そんな経験もないだろう。そんなことをさせたら話がこじれるかもしれない。それなら、どうするか、まあ、あの男が怖がりだからだめなのだ。あっ!)
「はい」
「姫。新の怖がりを克服させればいいのだ。子供だましだろうが、一緒に空を飛べばいいのだ。子供の頃に四葉のクローバでお守りを作っただろう。それを一緒に作るだけではなく、紙の飛行機も一緒に作ると良いだろう。まあ、子供だましだろうが、良い結果になる。そう思うぞ」
「ああっ、はいはい。男の子は、やっぱり、飛行機ですよね。それで、空を、ふっふふ、キャハ!飛ぶだけでなくて・・・」
「姫。声が大きい。新に聞こえるだろう」
「そうでした。すみません」
姫は、両手に口を押えて、新に視線を向けるのだ。すると、何も聞こえてない。そんな表情だが、何て言うか、何か他のことを考えているような表情だった。
「・・・・」
「紙飛行機を作ってみませんか、ここら辺は、良い風も吹きますし、神代文字を書く墨を使うのも、隊長から許可を得ましたよ。紙飛行機で飛びませんか?」
(飛び???飛ばすの聞き違いかな?・・・)
「えっ・・・うん、うん。はい。いいですよ。遊びましょう」
「楽しみにしていて下さいね」
「はい。姫さんも、子供みたいな無邪気なところがあるのですね」
「なっなんか言いましたか?」
「いいえ。何も言っていませんよ」
「そうですか、もし心配などありましたら言って下さいね」
「はい。ありがとう」
新は、両手で折り紙を様々な飛行機でも折る感じで手を動かしながらニコニコと嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「姫。やはり、新も男だな。紙飛行機と言われて本当に嬉しそうにしているではないか」
「そうですね。本当に良かったです。これで、まず一つは、子供でも克服することですしね。その後は、いろいろなことも克服してくれますね」
「そうだな」
「はい」
「そろそろ、紙の馬を休ませるか、紙の馬だとしても、このような走り方では紙も動きで擦れ、墨文字も擦れ消えるかもしれない。不具合でも起きて転ばれても困る。我らも休みながら紙の馬の調整、作り直さなければならない。そんな、頃合いだろう」
「そうですね・・・それでしたら、そろそろ、森も抜けて始祖の地に繋がる草原に出ますので、そこで休みましょう」
「そうだな・・・それが、いいな。そうしよう」
それでも、数本の煙草を吸い終わるくらいの時間では着かない。それが、姫には分かっていたのだろう。長い時間の潰し方ではないだろうが、新に話を掛けるのだ。話題は、勿論なのだが、紙飛行機の話しだった。隊長は、何か考えることでもあったのだろうか、たしかに、馬車の操縦をしなくても自動で目的地に着くように紙の馬に設定の言葉を伝えてある。現代で言うプログラムの設定を書きこんだ。そんな感じなのだが、まさか、寝てはいないだろうが、思案していると言うよりも、ただ、静かに前方を見ているだけに思えた。
「ガサガサ」
先程までは、木々や石などで上下、左右に振動を感じていたが、草を踏みつける音や馬車に草が擦れる音に変わるのだ。馬車は、進み続け森の木々が見えなくなるまで走り続けた。一瞬だが止まったと感じたが、直ぐに渦巻きを描くようにゆっくりと動きだした。それは、草を倒して簡易的にだが空き地と似た感じに寛げるようにするための行動だったのだ。そして、中心に着くと、動きを止めた。
「やはり、草を直接に座るのは、肌を切りそうだな」
「そうですね」
新は、馬車が止まるまでの一連の作業だけでも驚きを感じていたのだが、何か、二人の女性は、まだ、何かをする考えが聞こえて、今度は、何をするのかと、期待、興奮と見続けていた。すると、驚くことに紙の馬車、紙の馬の解体を始めたのだ。
「えっ?」
驚くことに、紙の馬は、一枚の紙で折られていた。紙の馬車の方は、複数の大小の紙を何枚も重ねてあり。その中でも一番大きい紙の三枚をレジャーシートのように地面に広げたのだ。隊長は、直ぐに横になり身体を休ませていた。姫は、一枚を自分が座り。もう一枚を自分の隣に広げて、手の振りやレジャーシートを叩くことで、新に座るように指示をするのだった。新は、勿論なのだが、恥ずかしそうに頷くと、笑顔を浮かべながら隣のレジャーシートに座った。
「どうです?・・・固いですか?」
「あっ、シートですか?・・・丁度いい感じですね」
新は、手で撫でたり座り直したりして感触を確かめた。
「それなら、良かったわ」
「でも、大事な紙ですよね。それをレジャーシートに使ってもいいのですか?」
「勿論よ。それが重要なのよ。神代文字の紙に人肌を馴染ませなければ、自分が思うような感じに飛ばないわ」
「人肌に馴染ませる?・・・・」
新は、不審を感じた。
「そうそう、先ほど、新さんが言っていた。曲芸紙飛行機の型って、これ?」
姫は、新の問い掛けを無視している。と言うよりも、小さい紙片で紙飛行機を作るのに夢中で、もしかすると、夢中のために問い掛けが聞こえなかったに違いない。
「あっ、そうそう、それ、それだよ」
「これは、皆が好んで作る紙飛行機よ。次に人気なのは、エイの形の型の紙飛行機も人気なのよ・・・・こんな形のね・・・見たことある?」
姫は、紙飛行機を折りながら話しを続けたのだ。そして、完成すると新に見せた。
「おっおおお、本当に、魚のエイに似ているね。それに、凄い飛びそうだね。なんか、ハンググライダーにも似ている感じにも思えるね」
「それと、男の子なら早く飛ぶのが好きよね・・・これ・・・」
「見たことある。うんうん。あるある」
「これはね。細長い型の紙飛行機ね。それと、これが、ハンマーヘッドの型ね。これらはね。緊急な時や早く情報を知らせたい。そんな時に作る紙飛行機なのよ」
「緊急・・・情報を知らせる?・・・もしかして、神代文字を書くことで遠隔操作ができる。そう言う意味なのだね。何か、凄いね。早く飛ばしたいね。凄い楽しみですよ」
「そうね。遠隔操作もできるけど、それは、曲芸紙飛行機の型が適しているわ。皆が、荷物の運搬に使うのが多いわ。長方形で翼が広くて、別名では、荷台の型の紙飛行機とも言われているわ」
「えっ・・・紙飛行機に荷物を載せて運ぶ?・・・そう言いましたか?」
「はい。そうですよ。それが、どうしたのです?・・・なんで、驚くのですか?」
「普通は、驚くでしょう。もしかして、人が乗って飛ぶ飛行機も作る気持ちなのですか?」
「えっ?。先ほどから・・・そう言っていましたよね?」
「そっ、そんなこと一度も言っていませんよ。それに、そんな飛ぶかも分からない。そんな実験など無理ですよ」
「実験ではないですよ。小さい子供たちの一番好きな遊びなのですよ」
姫には、新が驚く意味が分からなかった。だから、不思議そうに視線を向けていた。
若い男女の様子を楽しそうに老婆が見ていた。それも、男の表情がコロコロと変わる様子なのである。驚きから不安に変わり。最後には、恐怖を感じて青ざめる表情だった。
「なぜ、そんなに、驚くのです?・・・未来にも同じ乗り物があるでしょう。たしか、ハングライダーって名称だったと思うわ」
「それとは違うよ・・・あれは、商品だよ。商品と言うことは、安全だと実証済みだから売られているのだよ。あっ!」
新は、一瞬だが、説得しようと考えた。だが、姫に言ってはならないことを言ったことに気付くが、もう遅かった。姫は、真っ赤な顔の表情で・・・。
「それでしたら、新さんが安心するように試しに曲芸紙飛行機の型を作りましょう。先ほども言いましたが、荷台の型なら安全を実感するわ。間違いなくね。もしかしたらではなく、ハングライダーより安全だと、そう思うはずよ。それに・・・」
「分かった。分かりました。その荷台の型を見せてもらうよ。だから、悪かったから本当に悪いと思っているよ。そうだよね。物も見ないでいろいろ言ったよね。本当に悪いって思っているから落ち着いて下さい。ねえ、ねえ、お願いです。許して下さい」
新は、姫の話を遮るだけではなく、姫の怒りも鎮めたかった。その怒りは新のために安全な物だと証明したい気持ちと一番の感情は新が喜んでくれるはず。そう言う感情を爆発させていた。その気持ちは、新にも伝わっていた。だから、自分で思うことを感情の全てを伝えた。だが、新の説得の感情には、恐怖と言う感情だけは消えずに忘れているようなのだ。それ程までに姫の気持ちを落ち着かせたいからだろう。そして、姫の気持ちが落ち着きを取り戻したら、新は、自分で作成した紙飛行機に乗る。それを完全に忘れていた。
「あっ、そうよね。少し感情的になっていたみたい。ごめんなさい」
「いいよ。それに、なんか、変なことを言って、ごめんね」
「うん。もういいわよ。それより、紙飛行機を作りましょうか」
「え?・・・(なっななんで、そうなるのだろう・・・)・・・」
新は、口から声として発音されるか分からない程の囁きで呟くのだった。
「どうしました?」
「いいえ。いいえ。特には・・・」
「そう、それでね。今の状態は紙の上に胡坐で座っているでしょう。その箇所が紙にしわとして残っているわ。そこを操舵の席として残して作りましょう。それの方が安定するし操舵するにも楽になるわ」
「あっ、はい」
「まあ、まだ、心配よね。それだから、そう言う返事なのよね。それは、分かるわ。だから、まず先に、曲芸紙飛行機の型を作りましょう。長方形で翼が広くて安定しているわ。それで、皆は、荷物の運搬に適しているから運搬の飛行機とも運搬用とも言うわ」
「そう・・・なの・・・だね・・・」
「紙を折りますので、まずは、紙の上から移動してくれませんか」
「はい」
新は、紙の上から地面の上に、いや潰された草の上に立つと、姫も新の隣に立つが、折り方でも考えているのだろうか、畳二畳ほどの紙を見つめていた。そして、頷くと、頭の中には完成までの折り方が出来上がったのだろう。夢中で、手や足だけではなく身体全体を器用に動かして紙飛行機を折りだした。五分も掛らずに折り上げたのだ。
「おっおお!」
新は、関心の声を上げていた。たしかに、姫が言ったように飛行機の羽の中心に、自分が先ほど、胡坐で座った。その後が残っていたのだ。それと、長方形で翼がも広く、紙飛行では一番だと思える程に翼が広く荷物を運ぶのに適している。それが、現物を見ると納得するのだ。だが、完成したとは、まだ、言っていない。これから、神代文字を書く作業が残っている。そして、姫は、紙にしわが残らないように慎重に紙の飛行機の下にもぐるのだ。浮力や飛行力学などよりも、特に温度や湿度などの関係の文字を書いて紙の飛行機は勝手に自力で浮上する。それから、紙飛行機の上面には、操作方法などの命令を実行させる。その神代文字は模様や幾何学的の文字を書いて完成させるはずだ。
「うっ、浮いた!」
「もう少し待っていて下さいね」
紙飛行機が浮き上がり、一メートルくらいまで上がって止まった。すると、姫が飛行機の下から出てきた。直ぐに、飛行機の上に乗って想像していた通りに、文字や幾何学的な模様を描きだしたのだ。そんな様子を隊長も見ていたのだ。
「姫。初心者には、座る場所に磁場での固定した方が安全に感じるだろう。飛行機から振り落とされはしないが、転がるなど動くと恐怖を感じて操作を忘れる場合があるぞ」
隊長は、文字や幾何学模様を見ただけで、全ての指示や機能の意味が理解して、姫に提案したのだった。
「あっ!そうですね。そうします」
姫は、先ほど胡坐で座った。その胡坐の痕のしわを消さないように数個の文字を書いてから紙飛行機から降りて、新の前に立ったのだ。それも、自信満々であり。子供がテストで百点をとった時のような満面の笑みを浮かべるだけでなく、新も初めての表情を見たのだ。それは、まるで、褒めて褒めてと、そう言っているようにも思えた。そして、そんな笑みに似ている人を思い出した。だが、それは、恐怖の感覚を思い出したのだ。親戚の年上の姉の笑みと同じだった。車の免許を取得して、新車の車を見せにきた。その時の笑顔だと、車に乗るまでは自分のことのように興奮していたのだが、車に乗って帰宅するまでに、何度も何度も死を感じたからだ。
「ん?」
「・・・」
姫は、新も紙の飛行機の出来上がりに喜んでいる。そう感じたのだが、直ぐに、顔を青ざめながら一歩、一歩と後退するのに不審を感じたのだ。
「乗って良いのですよ?・・・」
「あっ・・・うん・・・うん・・・」
「どうしたの?」
「大丈夫よ。完成の試運転には、私も一緒に乗るわ。だから、一緒に空中のドライブをしましょう。風も感じるし上下左右の風景も見られて楽しいわよ」
「ウッ!!ギャ!」
新は、突然に悲鳴のような声を上げて、その場に蹲るのだった。
「どうしたのよ!」
「くっ、くっくく」
姫には理解できるはずがなかった。新は、ドライブ。その言葉で、親戚の姉とのドライブのことが思い出されて、その時のことが鮮明になり。心的外傷が突如として記憶がよみがえったのだ。あの忘れなければ正常な生活ができなかった。それが、肉体的にもよみがえることで、蹲っていたのだが、呼吸ができなくなり。その場で倒れてしまった。
「新さ~ん」
姫が、新の容体でも確かめようと体に触れそうとすると、隊長が直ぐに飛び起きて様子を見て、何かを感じ取った。
「その症状だと、たしか、仲間にもいた。トラウマでもあるのかしれないが、なにか変なことでも言ったのか?」
「いいえ。何も?・・・」
「そうだよな。わしも二人の様子を見ていたのだ。何かあったようには思えなかった」
「そうですよね。でも、新さんは、大丈夫ですか?」
「まあ、頭を撫でてみると、なぜか、呼吸が落ち着いた。だから、問題はないだろう」
「そんな、頭を撫でるだけで治るの?」
「そんなって言うが、おそらくだが、愛しい女性に触れられている。そんな夢を見ているのに違いないぞ。男とは、そんな生き物だ。だが、新ならば、もしかすると、姫が介抱してくれている。そう思っているかもしれないぞ」
「えっ、そうなのですか?」
「ああっ、そうだろう・・・だが、トラウマと思う言葉だけは使わない方がいいぞ」
「そうですよね。又、その言葉を言って、トラウマが起きるかも・・・でも、何の言葉なのでしょう」
「そうだな・・・」
(紙飛行機をみて恐怖を感じたのだろう。おそらくだが、陸の船の体験を思い出したのだろう。たしかに、あの四方に動く揺れ方や上下の振動の動きには、わしでも死を感じたのだ。それを新では、正気を失くす程だとしても変ではないな。それでも、若い頃を思い出す。人体の極限を体験した。あの様々な起きた事件の日々をもう一度・・・無理だが、陸の船には、また、乗りたい。完成したいぞ)
「長い思案の途中での言葉を掛けてすみませんでしたが、もしかして、そんなに思案する程の多くの原因となる言葉があるのですか?」
「分からない。まったく見当もつかない。新は、何を恐れたのか?」
「それでは、どうしたらいいのでしょうか?」
「そうだな。新も、そろそろ起きるだろう。それで、起きたら手を握ってやるとよいだろう。そのまま手を繋いでいるだけで、トラウマが起きる言葉を言ったとしても、問題が解決するだろう。愛の力だな」
「キャ!。あっ、愛なのですね♪」
「うっううう・・・」
「起きたようだな」
「新さん。大丈夫ですか?」
姫は、新が目を覚ますと、直ぐに側により、新の左手を両手で握って胸に抱きしめるようにして自分の鼓動を聞かせようとした。それは、母性の本能だろう。まるで、赤子が泣いているのを母の鼓動を聞くと落ち着く、それを知っているような行動だった。
「あっ、だっ大丈夫ですよ。もう大丈夫ですよ。大丈夫ですから・・・」
「新よ。感謝の言葉くらい言ってやるのだな。姫は、新が心配で何も手につかずに側にいたのだぞ」
「えっ、あっ、すみませんでした。あっ、ありがとうございます」
「新よ。そんな様子でもあるし、そのような体質というか体調もあるだろうが、お前を一人では紙飛行機には乗せらない。危険すぎる。だから、姫の飛行機で一緒に乗るのだな」
隊長は、新が姫に感謝の言葉を言うと、少々だが、不満そうな謝罪だったが、自分も紙の飛行機を作りに、二人の側から離れたのだ。
「手っ・・・手っ・・・」
(姫と手を繋いでいる。手が、手が、でも、柔らかくて、温かくて、すごい気持ちがいい。手を放したいけど、できない。手が動かない・・・自分の考えを拒否して・・・心が身体も抵抗しているようだ)
「はい。そうします」
新が惚けている感じで返事がないために、姫が代わりに返事を返した。そして、手を握りながら曲芸紙飛行機の型の紙飛行機に乗るのだった。
「さあ、座って下さいね」
「はい」
レジャーシートと使用していた時に座った。その胡坐の跡に新を座らせてから姫も隣に座った。ちらりと、隊長のことが気になり視線を向けると、自分と同じ型の紙飛行機は折り終り、自分よりも複雑で高度な神代文字と幾何学模様だけでなく縄文文字を夢中で書いていたのだ。
「凄い」
「えっ?」
「なんでもないわ・・・」
(文字などが絡み合い過ぎて、何の指示を書いたのか、何の指示なのか分からないわ)
「あっ、隊長のね。おお!凄いね」
今の新は、縄の模様などが文字だと分かる。それで、驚いていたのだ。
二人の男女は、老婆が作る紙飛行機に、我を忘れる程に見入っていた。紙飛行機とは思えない程に、風の抵抗なども対応するように凹みなども作られていたのだ。だが、驚きは紙飛行機の形状ではなく、老婆が書き続けている模様であり。現代では、もう誰も読める者がいないだろう。その縄の文字と言うよりも神代文字であり。縄文文字だったのだ。
「複雑すぎて読めないわ。いや、落ち着いて、考え、考え、時間を費やして昔に習ったことを思いだしながらなら読めるかもしれないけど・・・あれは、凄いわよ。どんな機能を考えてのことなのか、その全ての機能を体験したいわ」
「それなら、あの紙飛行機に隊長と一緒に乗りたいなら行っていいよ」
「そう言う意味ではないわよ。新さんと一緒に乗る方が本当に楽しみなのですよ」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、やっぱり、これに、乗らなければ駄目なのですよね」
「大丈夫ですよ。何かあったとしても対処できるように、操舵の仕方は教えますから安心して下さいね。だから、何も心配しないで下さいね」
「はい」
「怖くないですよ。未来の乗り物よりも安全なのですよ。それに、新さんには、羽衣を渡しているでしょう。えへへ、何があっても羽衣が守ってくれますよ」
「そうでしたね・・・羽衣なら・・・ゆっくりと、ふわふわなら嬉しいのだけどな・・・」
「えっ?・・・何か言いましたか?」
「いいえ。何も、でも、でも、もう大丈夫ですから・・・その手を・・・・」
「手を握っていては、駄目なのですか?」
「駄目って言うか・・・その・・・」
「それなら、いいのですよね?」
「その・・・は・・・い。はい」
「良かった・・・そうね・・・もう飛びましょうかね」
姫は、隊長の様子をみた。完成していれば飛ぶと、だが、まだ、文字を書いているようなのだが、ちらちら、と姫と新の様子を見ている感じでもあり。そして、視線が合うとニコと笑みを浮かべると、右手で親指を立てて上に飛ぶぞ。と合図を送るのをみたのだ。
「はい」
「ん?・・・何の返事?」
「隊長の紙飛行機は飛ぶ準備が完了した。その合図をみたのです。それですから、今からもしものために簡単に操舵の方法を教えますね」
「っひ、はい」
「大丈夫ですから簡単ですから何も心配しないで下さい。それでは、これ!」
新のひきつる顔を見て気持ちをほぐそうとした。そして、腰に差している腰の鞭を手に取るのだった。これも、紙飛行機を作りながら一緒に作った紙の鞭だった。
「えっ・・・」
姫は、新の隣に座っていたが、新の正面に正座で座り直すと、乗馬用の鞭を取りやすいように握る方を向けて顔の前に見せるのだ。新は、それを手に取れ。その意味なのは分かる。だが、手に取りたくなかったが拒否をすることはできず右手で受け取るのだ。
「それでは、新さんから見て前方の適当な所を撫でると、今の空中浮遊を解除できまして撫で続けると、上空に上がり続けます。そして、撫でた同じ個所を二度叩くと、前に進みます。その叩く強さによって速度が上がります。解除する場合や速度を緩めたい時は、撫でると解除できて、また、弱く叩くと飛ぶ速度が、ゆっくりな速度で飛ぶことになります」
「・・・・」
「それでは、まず、浮上させましょう」
姫は、正座で座っている前であり。新が胡坐で座る前のところを手で撫でる仕草をするのだった。新は、指示の通りに鞭で撫でてみた。すると・・・。
「おっ!これは、これは、気持ちがいいですね」
ゆっくり、ふわふわ、ユラユラと、雲に乗っている。そんな夢でも見ている感覚で上空に昇るのだった。
「でしょう!」
姫と新が、紙飛行機の乗り心地で興奮を共感していると、すでに、百メートルくらいは昇っていただろう。何気なく上空を見ると、すでに、高度千メートルくらい上空に隊長の紙飛行機が浮かんでいた。
「凄いわ。人の目からも消せるステルス機能なの?。それとも、一瞬に移動したの?」
ふわふわと、隊長の紙飛行機に近づいて行った。姫と新が追いつくのを待っていたのかと、そう思ったのだろう。だが、何かに夢中で気づいていない感じだった。そろそろ同じ高度になり。何を見ているのかと、同じ方向を見ると・・・。
「あれは、副隊長の部隊ね。あの行進なら予定の通りに着きそうね。その後方には、西から来た者たちの部隊も居るわね。上空から見える程度だけど、順調に行進しているようですし、何も心配はないと、そう思うのだけど・・・・」
「真剣に見ているね」
「何かの指示でもしたのかしら・・・・」
「隊長の紙飛行機に近づいて直接に聞いてみますか?」
「そうね。それよりも、左右に動かす方法だけど、もう想像はできていると思うけど、右に行きたい時は、新さんの右の身体の方の羽を叩くのね。同じように左に行く時は、左の方の羽を叩くのですよ」
「こんな感じだね」
「そうそう。上手ですね」
「あっ、こちらに、隊長が気づきましたね」
「そうですね。あっ!」
隊長は、姫と視線が合うと、手の平サイズの紙飛行機を飛ばした。だが、少し一般的に作る飛行機ではなく、空気抵抗を考える隊長なら変な形をしていた。それは、現代的に考えるなら現代人なら分かる飛行機だった。それは、大型のレーダーを搭載したような大きな上部の出っ張りがある紙飛行機だった。その飛行機を姫は受け取ると、飛行機の上にある大型レーダーかと思ったのは、紙コップのような形をしていた。
「糸電話?」
新が不審に思う理由には紙コップのようであり。糸電話と思うのだが、糸が三十センチくらいしかなく、ぶらぶらと、揺れていたのだ。これでは、糸電話として機能しないはず。そう思うからだった。
「えっ?・・・なになに?」
新の声と同時に、姫は紙コップを耳に当てるが、新と隊長の話と、どっちを優先するかと思ったが、新が直ぐに横に顔を振ることで、隊長の話を紙コップで聞くのだった。
「・・・はい・・・はい・・・はい・・・」
「・・・・」
姫は、顔の表情をコロコロと変わっていた。隊長と何を話しているのか、それは、分からないのだが、笑顔だけはなかった。驚き、悩み、苦しみ、そして、涙を流しながら命令だと覚悟を決めたようだった。
「新さん。心配しているのね。大丈夫よ。隊長から実験を頼まれたの。それだけなのよ」
「実験って?」
「それはね。あの新しい村が空き地になったらしいわ。全ての神代文字で作成した物が普通の紙に戻ったらしいの」
「えっ?」
「それも、神代文字の効果が消える範囲が拡大しているみたい。その対策らしいわ」
姫は、全てを伝えていなかった。隊長の話しでは、神代文字の効果が消える。その噂を聞いた時から実験と対策を考えていた。その対策と理由のために、電柱みたい物を場所も適当に複数を建てた。普通の紙に戻る物、神代文字の機能が維持されている物、その実験の結果で、前木と新が居れば、その範囲の神代文字の機能は維持するのが分かった。それだけではなく、前木が書いた物は維持されるのも分かったのだ。そして、姫が泣いた意味は、姫の赤い感覚器官が、二人の男を呼んだのではない。その可能性が高い。そう言われたのだ。その調査を副隊長に任せていたと、そして、この一連の原因と、西の者たちの話しと、前木の話しなどを合わせた。その結果を聞いて、姫は納得して泣いたのだが、その涙には、誰にも言えない。姫だけの直系だけに伝わる理由にもあった。
「ひっ!それなら、この紙飛行機も・・・・」
「それは、大丈夫よ。安心して、でも、そのために、隊長から指示されたことをしなければならないの。それも、二人だけでね」
「二人だけ・・・」
「そう、隊長は、隊長ですることがあるわ。だから、直ぐに、この場から離れて指示の通りにしなければならないの」
「そうなのですね。それは、簡単なことなのですか?」
「そうね。そうよ・・・でも、一時的か・・・無駄になるかもしれないけど・・・」
「えっ、何か言った・・・無駄?・・・」
「いいえ。何でもないわよ」
姫は、愚痴なのか、結果が分かっているのか、独り言のように囁くのだった。それも悲しそうな声色だった。それでも、新の気持ちをほぐすために無理矢理に笑顔を作った。
「そう・・・なのだね・・・それで、どこに行くのですか?」
新は、姫が会話の最後に笑みを浮かべたことで、不安な気落ちも消えて全てを信じることにした。そして、何をするのか分からないが、姫のためなら、と覚悟も決めたのだった。
「大昔の村の跡に残されているはずの遺跡に用事があるの。でも、もう村の跡など残っていないはずだから探すのが面倒かもしれないわね」
「そうなのだね。それって時間の制限はあるのですか?」
「そうね・・・一日ね。でも、可能なら副隊長の部隊が来る前に、遅くても、その後に来る。西の人たちの部隊が来る前には終わらせなくてはならないわね」
「その探す数は何個あるのですか?。それと、簡単に探せるのですか?」
「場所などは、隊長が、この糸電話で教えてくれることになっているわ」
新と姫の会話を邪魔する感じで隊長が言葉を掛けた。
「姫さま。指示の通りに頼むぞ」
「はい」
「それでは、先に行っているぞ」
「はい」
隊長は、この場から離れた。だが、姫と新に行き先を伝えなかったが、まず向かった先は、副隊長が指揮する部隊だった。紙飛行機が部隊の上空に現れると、少々の騒ぎはあったが、副隊長は、落ち着いていた。予定されている行動の一つなのだろう。それでも、予定外のことなのだろう。前木を連れて行かれると困る。そう言うのだが、部隊の予定の到着地点の辺りには、姫と新がいる。そう言われると、深々と頷き、お気を付けて。と言って見送るのだった。
「前木!一緒に来い。直ぐに後ろに乗れ!」
「そんな巨大な紙飛行機が飛ぶとは、まして、人を乗せる紙飛行機とは、もう漫画の世界だな、それに、この時代の老人は元気だな。もう腰が痛くて、痛くて・・・」
「お前は、何かするために、この縄文の時代に来たのだろう。それを達成しなくてもいいのか?わしと一緒でないと、叶えられないはずだぞ。どうするのだ?」
「一緒に行かない。そうとは言っていないが、腰が弱いのに、腰を伸ばしたら痛みがぶり返す。階段でもあればいいのですがね」
「これでは、どうだろうか?」
紙の飛行機を斜めにして片翼を地面に付けた。
「ほうほう、ざらざらとしていて、滑らない構造にもしているのか、ふむふむ・・・粘着の効果もあるのか・・・ほうほう・・・」
両手、両足で這うように紙飛行機の羽の上を進むが、それは、腰などの痛みを感じているのでもなくて、滑る心配でもなく、好奇心から調べながら進むのためだった。
「いいから、さっさと乗れ!」
前木が隊長の隣であり。紙飛行機の中心に座ると、ゆっくりと上空に昇って行った。
紙飛行機の目的地は、新しく出来る予定の村だった。今は、仮の住まいのために施設ごとの区画はされてなく全てが紙で作られていた。そのために、神代文字の異変の調査の結果で、住居だけではなく井戸も温泉も全てが紙に戻り空き地になっているはずだと、その確認と修復、または、今度の対策などをするために向かっていたのだ。その紙飛行機の飛行中で、二人の男女は、話をしていた。ほとんどが、女性が話して、男性は、聞いていた。
「今回お前を無理して連れて来た。その理由を正直に言う。これから戻る村の状態と言うか、いや、確実に村だけではなく、この周囲の神代文字の効果が消滅する。それを修復して長く維持したい。するために、これから、対策を考える。いや、対策はある。これからするのだが、お前は、なにがしたい。するなら、今しかない。だから、何がしたいことがあるのなら好きにして構わないぞ。前に聞いたのは花押だったな。直ぐに、手助けしよう。必要なら人手も貸す。だが、こちらの対策を実行するために力を貸して欲しいのだ」
「そう言う話しなら分かりました。喜んで協力します。それで、対策とは何でしょうか?詳しいことを教えて下さい」
「ああっ、それを教える。勿論だ。その対策とは、あの西から来た者たちの環状列石の話しを聞いて試したい。それが、対策なのだ」
「環状列石ですか・・・」
「ああっ、失礼だと思ったが、前木に監視人を付けていた。それで、頻繁に、何かを確認していただろう。もしかして、環状列石がある場所が分かるのではないのか?」
「はい。知っているのなら嘘を言っても意味がないですね。勿論ですが、環状列石の場所なら分かります。その方法も教えても構いません」
「ありがとう。本当に助かる。心の底から感謝する。それと、感謝の気持ちから教えるのだが、花押を使う者は、指揮官クラス以上でなければ使っていない。それ以下の者たちは指揮官の花押を使い回ししている。だから、直ぐに分かるだろう。だが、先に言っておくが、姫を未来に連れて行くなど考えて、もし実行しようとしたらだが、即、首を切るぞ!」
「何を言っているのでしょうか、この歳で妻をめとる気持ちはないですぞ。どこから、そんな話になっているのか分かりませんが、わたしは、今の妻と結ばれるために、その未来を作るために来たのです。変な誤解をして邪魔をするのならば!考えがありますぞ!」
「落ち着け。まず、落ち着け。それで、何をする考えなのだ?」
「それは・・・・」
「わしらが、これからすることに影響はあるのか?」
「ないはずです・・・このまま、疑心暗鬼では、お互いに困ることになる。それなら、何をするか言いましょう。未来のわたしに渡される。わたしへの遺言書をわたしが書いて未来に送るのです。ある時に、ある物を見て気付いたのです。それをしなければ、妻と結ばれないことになるのです」
「えっ?!!」
「わたしは、あの頃は、初恋の人と結ばれたかった。だが、許嫁がいたのです」
「うん、うん。そうなのだな。うん、うん」
隊長は、一言も聞き逃さないように理解しようとしたのだ。
「諦めようと、だが、悲しくて、悔しくて、その気持ちを我慢できずに、握り拳で家の柱を叩いたのです。すると、天井裏から、あれと、遺言状と家系図が落ちてきたのです。おそらくですが、父が見合い相手と結婚させるために隠したのでしょう」
「それが、お前が、縄文時代から送ることになる。それなのだな?」
「そうです。ですが、家系図は、たぶん、父が八方手を尽くして探しだしたのか、代々の秘書としてあったのか、家宝と残されたのか、それは、分かりませんが、わたしが、縄文時代から送る物ではないでしょう。それは、何となく分かりました」
「今の話を聞いて分かる。あれとは、あれだな・・・」
「はい。あれです」
「あれを二人のどちらかが使えば簡単なのだが・・・」
「そうですね。私が二枚を作り。新に渡しますか?」
「そうしたいが、男性が渡すのは禁忌なのだが・・・それでも、親か親族が居れば・・・」
「親族・・・・」
「もう村に着いていたのか」
前木が悩んでいる言葉は隊長には聞こえなかった。それよりも、目的地の村に着いていたことに驚くのだった。それは、現代で言えば、自動操縦だった。隊長が神代文字で書いた。その機能の一部であり。村の上空をふわふわとゆっくりと同じ場所を回っていた。
「やはり、全てが普通の紙に戻っていたか・・・」
隊長は、上空から村の様子を見た。
「直ぐにでも始めましょう。地上に降ろして下さい」
「そうだな」
隊長が、右手の人差し指で紙飛行機の羽をポンポンと数度だけ叩くと、紙飛行機は、ゆらゆらと、降りて、ふんわりと地上に着いた。そして、ふっと、何かを思いだしたかのように、今度は、紙飛行機の羽を撫でると飛行機は傾き地面に片翼を付けた。前木のために安全に降りられるようにしたのだ。
「それでは、始めましょう」
「頼む」
「これから、円柱遺跡を探しますが、なにか、指示と言うか、この方向からとか順番とでも言いましょうか、これって、何かありますか?」
「円柱遺跡の探す順番は特にはないぞ。ただ、姫に指示を伝えるために、一つ、一つ、ゆっくりと、頼む。わしが、次を頼む。そう言ってから次を探して欲しい」
「分かりました。そうしましょう・・・」
前木は、懐から携帯用の筆と紙製の方位磁石に似た物を取りだして針に似た物に神代文字で円柱遺跡、その一と書いたのだ。元々、一人でも探しに行く考えだったのだろう。
「・・・・方位磁石だよな・・・」
「北東の方向に、一つあります」
「分かった。少し待っていてくれ」
左手に持っている。糸電話に向かって姫を呼び出した。
「はい。隊長!」
「今、姫は、どこに居る?」
「そうですね・・・・」
「まあ、いい。それで、村の入り口の門を地点として、北東の方向と言えば、分かるか?それとも、丑寅の方向では?」
「はい。北東でも分かりますよ」
「その方向に、円柱遺跡があるはずなのだ。それを探してくれ」
「村から何里くらい・・あっ、何キロの場所でしょうか?」
姫は、前木の気遣いのために言い直した。
隊長は、前木に視線を向けたが、前木は、首を横に振るのだった。
「分からない。すまないが、何とか探しだしてくれ」
「はい。わかりました。探しだしたら糸電話で連絡します」
「ああっ、すまない。頑張ってくれ」
隊長は、昔の姫のことを思い出した。初めて未来に行って帰って来た時のことだ。一つの遊びを憶えてきたから一緒に遊ぼう。と遊ぶまで何度もねだられた。そして、観念して一緒に遊んだとしても何度も遊ぶことになった。そんな、思い出であり。それが、糸電話と言う遊びだったのだ。
「ありました。それで、何をするのですか?」
「中心に立っている石の柱の周りに円のように並べてある石があるだろう」
「はい。あります」
「その並べてある。その中の何でもいいが、一つに起点と書いてくれ」
「はい。書きました」
「それで、少し待っていろ。直ぐに、次の場所を前木に探してもらう」
「次は、南西ですね」
前木は、今度は、方位磁石に似た物の針に、円柱遺跡、その二と筆で書いて針を見つめた。すると、グルグルと針は回転して、南西の方向で止まった。
「姫。今度は、南西の方向だ。だが、起点と書いた。それを北と考えて、南西の位置にある石に南西と書くのだ。次の円柱遺跡は、石の方向の先である南西にあるはず。それを探しだして、また、今と同じことをして欲しいのだ」
「えっ?」
「今度は・・・」
隊長は、ゆっくりと詳しく丁寧に教えた。
「はい。南西ですね。分かりました。直ぐに向かいます・・・・ん?」
「・・・」
新は、姫に、いや、姫の手元を見ていた。
「これ、糸電話と言うのですよ・・未来人ですから・・・それくらい知っていますよね」
姫は、新が立ち止まっているので、自分が変なことを言った。そう思ったのだろう。独り言のように話をしながら飛行機の羽の上に乗るのだった。
「子供の頃に、糸電話で遊んだことありましたよ。楽しい思い出というよりも、淡い思い出というか、初恋の相手でしたよ。何で、忘れていたのだろう。糸電話を見て思い出したのです。あの頃は、小学一年で同じ歳の女の子を見ては視線を追っていたな。でも、一年、二年と過ぎて、高学年にもなる頃にショックなことを知ったのだよな・・・それで、女の子のことを知らない間に忘れていたのです・・・」
「えっ!」
新は、話すだけで乗ろうとしないために、姫は、新が、羽の上に乗るための手助けのために左手を出したのだが、ある言葉を聞いて驚きの声を上げたのだ。
「・・・たしか、高学年になると・・・夢でも見ていた・・・そうそう、今みたいに左手を指し出す姿で、お礼だと言って、乗らない?・・・そう言われて・・・小さい一人用の船に乗っていた。それも、紙の船で空中を浮いていた・・・・名前は・・・天の・・・」
「天の浮き船」
「そうそう、それ、え!」
「その女の子って、姫のことです。初恋って・・・」
「うっ・・・」
二人は、俯いて黙ってしまった。そんな時だった。
「まだ、見付からないのか?」
驚くことに、新は、隊長の声が糸電話から聞こえると、即座に反応を示して、飛行機の羽に飛び乗るのだった。
「行くよ。南西だよね!」
姫に、自分が言ったことの返事を誤魔化す、というより、自分の恥ずかしい態度や言動を隠そうとしてのことなのだろう。はっきりと声色からは空元気にも思えたが、左手を指し出しながら探しに行く方向を問い掛けるのだった。それは、隊長の指示を一緒に実行しよう。初めて自分から運命の導きの時の流の修正をする。そう言うことだった。
「えっ、ありましたわ」
姫は、恥ずかしそうに囁いた。新の左手の小指を見たからだ。新が、心の想いを言ったからだろうか、左手の小指に二十センチくらいの長さの赤い感覚器官があった。元から運命の糸があったのだろうか、それで、今回のことで伸びたのか、初恋でなく、今の姫に心の想いが芽生えたからなのか、二人の運命の導きを実行することの覚悟ためなのか、おそらく、その長さが全ての理由の証拠なのだろう。それでも、二人の赤い感覚器官は、微妙な状態で反発していた。
「えっ?」
「何でもないわ。そうです。南西の方向ですよ。行きましょう」
「はい」
新は、紙飛行機の羽であり。自分の目の前の箇所を優しく撫でるのだった。
糸電話の声は止まることがなかった。大きな怒声が長く響く、そして、叫ぶ者が疲れたのではない。何か事故などが起きたと感じたのだろう。最後には、優しい声色で心配するのだった。二人の男女は、故意に無視していたのではない。本当に、初めての共同作業とでも言うか、夢中で周りの状況も声も聞こえなかったのだ。
「まあ、変ですわね。もう少し先なのでしょうかね?」
姫は、新の顔しか見てなかった。それでも、紙の飛行機の飛行は操舵していたのだ。まあ、正確に言うのなら危険な状況になれば紙飛行機に書いた。その神代文字が知らせる。その代わりとは変だが、新は、恥ずかしくて、姫と目線を合わせられず。そのために、必死に周囲を見回す。先ほど見た。同じ円柱遺跡を探すのだ。それで、丁度、役割の分担とは変だが、飛行中の状況は釣り合っていたのだ。
「かなり長い距離を飛んでいませんか?・・・もしかして、木々に埋もれているのではないでしょうか?・・・それとも、土に埋まっているのかも・・・」
「そうね。そうかもしれませんね。どうしましょうかね」
姫は、返事をしているが、まったく適当に返事をしている感じだった。そして・・・。
「それに、そろそろ、隊長からの糸電話に出た方が良いのでは、なんか、糸電話の内容を聞いていると、捜索隊を出すとか、そのようなことを言っているように思うのですが・・・」
「そうですか、新さんが、そう言うのならば出ましょうかね」
「それが、いいと思います」
「はい、は~い。どうしました~か♪」
「えっ・・・大丈夫なのか?・・・それにしても、なんか楽しそうだな。危険な状況にでもなったのかと、心配したのだぞ。困ったことも、怪我もないのだな」
「大丈夫ですよ。それで、どうしたのですか?」
「わしの指示を忘れたのか?」
「指示・・・あっ、円柱遺跡ですね。それは、探していますよ♪」
「何が理由は知らないが、何かが遭ったのだろう。だが、可能な限り急いでくれよ」
「はい。上空からでは見当たらないので、地上に降りて探してみます♪」
「地上を歩き回って探す。そう言っているのか?」
「そんな時間はない。それは、後でいい。次を教える。少し待っていろ!」
隊長は、相当な怒りを感じているのだろう。前木に、八つ当たりのような感じの会話が糸電話から漏れているのだ。
「姫。今から言う。それを探してくれ。南だ。だが、先ほどの円柱遺跡に戻り。南と書いてから南の円柱遺跡を探して欲しいのだ!」
「・・・・」
「姫。姫。わしの話を聞いているのか?」
「・・・」
「この色ボケが!いい加減に目を覚ませ!」
「・・・」
「姫。まさかだと思うが、狩猟生活するための誓いを忘れたのか!」
「はっ!忘れていません。失礼しました。直ぐに、隊長の指示を実行します」
姫は、誓いと聞いて、一瞬で正気に戻った。それ程までに、姫として身分があっても厳しく教育されて育ってきたのだ。
「先ほどの円柱遺跡に戻りなさい。それも、全速力で戻りなさい」
「・・・・」
新は、姫が人の子供にでも伝えている感じで命令するので、そんな、指示を紙飛行機が実行するのか、もし出来たとしたら現代でも存在しない最高の人工機械でも不可能だと思っていた。それは、当然のように紙飛行機は、空中で止まったままだった。それで、仕方がなく、羽を撫でて方向の指示を伝えようとした時だった。ガタガタと、紙飛行機の全体が振動したのだ。まさか、と思ったのだ。先ほどの指示を実行できるのかと、思うと同時に羽には掴まる個所などないが、なるべく、落ちないようにしようと、覚悟を決めた。それが、伝わったのか・・・。
「ぎゃああああああ!」
新は、羽衣の効果で、いや、もしかすると、姫が紙飛行機に神代文字で効果を書いてあったのかもしれない。風圧を感じることなく落ちる心配もないが、今までの人生の中で体験も、想像もしたことない視覚と同じ体感速度を感じたのだ。
「新さん。新さん。起きて下さい。到着しましたよ。わたくしの補佐をしてくれるのですよね。そう言ってくれましたよね。ねえ、ねえ、起きて下さい」
「・・・」
新は、何分なのか何十分なのか失神していた。
「新さん・・・」
「・・・う・・・ん・・・姫さ・・ん?」
「どうしたのです?・・・眠かったのですか?」
新は、自分が失神していたことに気付いた。
「ちょっと、疲れていたのかな・・・それよりも、円柱遺跡に文字を書かないと、もしかして、もう書いたのですか?」
「いいえ。これからですよ。一緒にしてもらう気持ちだったけど、疲れているのでしょう。そのまま座って休んでいて、直ぐに書いて戻ってくるからね」
「はい。待っています」
「ただいま」
姫は、五分も過ぎない時間で戻ってきた。直ぐに、紙飛行機の羽の上に乗って、新の正面に座って左手を両手で掴むだった。
「行きましょう」
「はい」
新は、返事をするが、また、姫が操舵するのかと、少し待っていたが、紙飛行機は動かず、姫は、新の左手の小指を見続けていた。問い掛けるのも恥ずかしくて、飛行機の操舵で誤魔化そうとしていた。
「南に向かえばいいのですよね」
「はい。そうですよ」
姫には、一瞬と思える時間で着いた。そんな不満そうな表情をしていたが、新には、嬉しいことは嬉しいのだろうが、数時間の時間に思える程の疲れた表情を表していたが、紙飛行機が地面近くまで降りてくると、直ぐに飛び降りて逃げるかのように円柱遺跡に駈け寄るのだった。
「隊長。南の円柱遺跡に着きました」
「今度は、有ったのだな。それは、良かった。それなら、前と同じように起点と書くのだ。そして、直ぐに次の方向を教える。それまで、待て」
「はい」
「今度は、西だ!」
「はい。完了しました。直ぐに、西に向かいます」
姫は、隊長の言葉を聞いて、円柱遺跡の地面に並べてある物を適当に選び、起点と書いて、それを北と考えて、西の方向を向いている物に西と書いた。
「姫。今度は、南西の方向だ。だが、起点と書いた。それを北と考えて、南西の位置にある石に南西と書くのだ。次の円柱遺跡は、石の方向の先である南西にあるはず。それを探しだして、また、今と同じことをして欲しいのだ。頼むぞ。あまり時間がないのだ。無理を言うが急いでくれ」
「はい。可能の限り・・・」
姫は、時間が掛り過ぎだと、少しは思っていたが、隊長の怒りの指示ではなく苦痛を感じている。そんな声色に感じて、もしかすると、遅れれば遅れる程に痛みを感じる。そう思ったのだろう、それで、真剣な表情を表した。勿論だが、動きも早かった。
「新さん。少し急ぐから紙飛行機から降りずに待っていて下さいね」
「えっ!」
円柱遺跡には、全てで二十四個が並べてあり。この姫の話しでは十九個を探し続ける。新は、適当な場所で待っているとは言えずに、何度も失神する程の恐怖を感じることになる。二度ほど、意識を取り戻した時には終わったのかと安堵するが、姫が地上を歩いて探していた時だったのだ。結局は、二個は探しだせず。やっと、最後の一個の時だった。
「ひっ!」
「あっ、新さん。起きましたか、何かごめんね。上空をグルグルと、それも、同じような景色を回るだけでは退屈ですよね。それも、残りが、これで、最後になります。また、寝ていてもいいですよ」
「えっ?」
(寝ていた?)
新は、姫の言葉に驚いて問い掛けようとしたが、姫は、糸電話に気持ちを集中していた。
「姫。今回も、無いのか?」
「そうかもしれません」
「そのまま探していてくれ、こちらは、起動するか上空から見てみる」
姫も新にも、隊長が何をするか分からない。その隊長は、紙飛行機に乗り、自分の村であり。今は空き地であるの上空に昇るのだった。神代文字の効果で作成された電柱みたいな物が倒れていたはずなのだ。それが、全てではないが元の状態に戻って立っていたのだ。
「姫。完了と思ってよい。状態に戻った。それでだが、陸を走る船を放置した場所は分かるだろう。そこで、落ち合おう」
「はい。分かりました。直ぐに向かいます」
隊長は姫との話が終わると、数百年は誰も解けない数式とされている。もし解ければ高額の報酬がもらえる。そんな、有名な数式でも思案している様子なのだった。
「この村と周囲は神代文字の効果は回復したが、問題は、始祖の地とは、力が反発するかもしれない。複雑な紙飛行機などでは問題が起きるかもしれない。それなら歩きか、新と前木がいれば、簡単な仕組みの馬車なら問題はないかもしれない。試してみるか」
「何を考えているのですか?。まさか、この村の紙に戻った全てを元の状態にする。そんなことを考えているのですか?」
「いや、違う」
隊長の思案の呟きは、前木には聞こえていないようだった。
「それは、安心しました。それで、これから、どうするのでしょうか?」
「今度は、お前の計画を実行したい。そう言いたいのか?」
「それもありますが・・・」
「もしだが、花押だったな。わしは、複数の者たちの執筆を真似られるのだが、試してみるか?・・わしは、この隊では一番の神代文字の知識と最大の力がある者だと思っている。いや、達人だと思われているだろう。それでも、花押の本人でなければ駄目か?」
「それは、試してみたいですが、もし可能なら始祖の地になにかあるはず。それを見てみたい。それを見ずに帰ったら心残りで、また、過去に来てしまうかもしれない」
前木の気持ちでは、現代の始皇帝の墓の中を見られる。そんな気持ちだった。
「それは、こちらも助かる。こちらの要件が全て終わってから前木の計画の手助けをしたい。そう頼もうと思っていたのだ」
「それなら、何も問題はないです。姫との待ち合わせ場所に急ぎましょうか」
「そうだな。紙飛行機で行きたいが、大丈夫だな?」
「何を心配しているのか分かりませんが、何も問題はない。だが、乗る時に腰を曲げて乗るのだけは、何とかして欲しい。立ったまま乗りたい」
「それは、分かっている」
隊長は、前木の頷きを確認してからだった。ゆっくり浮上した後・・・。
「姫。これから向かう。直ぐに着くと思うが、四人乗りの馬車を作ってくれないか、幌など付いていない簡単な馬車で構わないぞ」
「はい・・・・」
姫に、何かあったのか、はい。と返事は聞こえただけで何度も呼びかけたが無言だった。
二人の男女の老人は、糸電話での連絡で不審を感じた。その理由からではないが、飛行機の速度は全速力ではないのだが、新米の隊員なら恐怖から泣き叫ぶくらいの速度で、姫との待ち合わせ場所に向かった。そして、上空に着いた。
「なにをしている?・・・馬車も作っていないぞ・・・本当に何をしているのだ?」
「おそらくですが、介抱をしているのでしょうね・・・たぶん・・・」
「膝枕することが?・・・それも、男の頭を撫でることが介抱には意味があるのか?」
「男なら特に若い男なら膝枕での頭を撫でられるのは、最高の治療でしょう」
「そう言うものなのか・・・ほう・・・う~ん・・・今の世では、そうなのか?」
「副隊長にも効果があると思いますよ。それに、耳掃除でもしたら効果覿面です」
「なっななにを言うか!」
「言いすぎました」
「まあ、いや、本当なのか?」
隊長は、極度の恥ずかしい気持ちで怒りが込み上げて自分の感情を誤魔化すのだが、直ぐに、態度を変えたのは恋する相手を思うと内心の気持ちを誤魔化せなかったのだ。
「勿論です」
「そうか・・・そうか・・・なら上空から二人の様子を見守ろう」
隊長は、姫と新のことを言うが、二人のすることを見守ろうとは建前で、副隊長に接する時の女性としての様子を真似ようと考えたのだった。
「それが、良いでしょうね」
「うっうう・・・わっぁ!」
上空の二人の老人の気持ちなど分からずに、新は、やはり、失神していたのだ。ゆっくりと呼吸を整えながら目を覚ましたのだった。
「起きたようだな・・・ふっ・・・仕方がない。わしが馬車を作ろう」
隊長は、残念そうに呟きながら紙飛行機に左手で撫でる感じで指示を伝えた。紙飛行機は、ふわふわと、二人の邪魔にならない程度の速度でゆっくりと降りた。そして、膝枕の経験はないが、おそらく正座で長い時間だったことで足が痺れて、まともに仕事は出来ないだろう。と大きな溜息を吐いてから任せた仕事を自分でするのだった。
「新は、大丈夫なのか?」
隊長は、新が目を覚ましたのだが、まだ正気に戻らず。その頃には、長年の経験からだろう。短時間で馬車は作り終えたのだ。
「隊長、いつ、来られたのですか?。そっそれも馬車まで出来上がっていますね」
「まあ、前木が作り方を見たい。そう言うのでな」
「そうでしたか?」
「感謝の気持ちがあるなら紅茶でも飲ませてもらえるか?」
「勿論です。直ぐに作ります。あっ、新さん。起きられますか?」
「だっ大丈夫ですよ。もう大丈夫ですから・・・」
新は、恥ずかしそうに真っ赤な顔で姫の膝から起き上がった。姫は、直ぐに立ち上がろうとしたのだが、足が痺れているためにもつれながら立ち上がった。
「あっ、すみません。膝枕をしたからですね。大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。まだ、休んでいていいですからね」
姫は、自分が作成した紙飛行機から降りて、隊長と前木のために紅茶を作ることにした。まあ、自分も新の分もあるけども、名目的だが、まず、直ぐに、湯を沸かし、ずでに、隊長と前木は、自分用のカップは作ってあって少し変だと感じたが・・・・。
「姫。多くの湯を沸かす必要はない。このカップに神代文字を書いて一杯分だけ湯を沸かしてくれないか、それの方が早いだろう」
「そうですね」
姫は、少し変だと感じながら一つ一つ手に取っては、神代文字を書いて、最後に花押を書いて水を灌ぐのだった。もう一つ手に取ろうとした時だった。
「前木。少し付き合え」
「はい」
隊長は、姫に聞こえない距離を離れて、陸を走る船に指を指した。
「あの花押もわしのだ。姫とわしのは似ているだろう。あの花押みたいのは、わししかできない。まあ、だから、隊長なのだからな。何が言いたいかと言うと、わしの神代文字の書いた物を使用し補佐をする者に合せる。そうすることによって操舵が簡単になる。だから、前木が使いやすい用に自分で考えた花押として書ける。そう言うことだ」
「それが、いいですね。それなら、もう花押を探すのは止めます。ですが・・」
隊長は、何度も頷きながら前木の話を遮った。
「分かっている。始祖の地の中が見たいのだろう」
「はい」
「隊長。前木さん。出来上がりましたよ」
姫は、二人の表情を見て会話が終わったと思ったのか、偶然だろうか、二人に大きな声を上げて紅茶を作り終えたことを伝えた。
「戻ろうか」
「はい」
姫は、二人が戻ってくると、一つ、一つ、丁寧に手渡しで渡してから・・・。
「隊長。新さんにも持って行きますね。あと、二人で飲みますね」
「ああっ、行ってきなさい」
姫は、新にも丁寧なのは同じだが楽しそうに手渡した。そして、新が、紅茶の熱さを冷まそうと、息を吹きかけている時に、何気なく、隊長と前木の方を見た。すると、隊長が驚き、、笑い、心配して、励ます様子を見た。少し二人の話題に興味を感じたが、新の紅茶を冷ます。息の吹きかけが止めると、直ぐに、新の顔を見るのだった。
「美味しいね」
「えへ、でしょう」
「うんうん」
「でも、お代わりが欲しいでしょうけど、今日は、これだけ、急ぎの任務があるからね」
「そうだね。隊長が待っているよね」
「そうね」
二人は、隊長と前木の方を見た。すると、会話が盛り上がっていた。直ぐに終わりそうになく、二人の話し声も大きくなるのだ。それ程まで会話が盛り上がっているのだ。そんな時に、こちらに気付いた。というよりも、新に問い掛けたいことでもある。そんな感じで隊長が、こちらに視線を向けて、右手で呼ぶ仕草をしたのだ。
「隊長が、呼んでいるのかな?」
「そうね。行きましょうか」
「そうだね」
二人は、紅茶のお代わりでも言われるのかと、または、紙の馬車の点検など、そんな指示を言われるのかな、と話していて直ぐに向かわなかったのだ。すると・・・。
「何をしている。新。直ぐに来い!」
「えっ?」
二人の若い男女は驚いた。新だけを呼んだからだ。
「はい」
新だけが、紙の飛行機の上から飛び降りて直ぐに向かった。姫は、呼ばれたら行こうと様子を見ていた。でも、新が心配で視線は逸らせなかったのだ。
「なんでしょう?」
「それが、前木の話しでは、未来での縄文人の話を聞いたのだが・・・・」
「はい」
「我々は、原始人だと思われているのか、文字もなく殆ど会話術もなく裸で洞窟の中で暮らしている。本当に、そう思われているのか?」
「微妙に違いますが、まあ、裸ではなく少々のお洒落はしていた。そう学校で習いました」
「少々のお洒落か・・・」
「はい。特に、目立つ点は、顔に、腕、身体に紋様を描き、それだけではなく、女性の方は耳にタブに穴を開けて丸い木の紋様を書いた物を入れていたと、それも、大きければ大きい程にお洒落だったと、それも、この島国が発祥なのか分かりませんが、世界的に多くの狩猟生活者は、動物と対面する時に適している。祖先の霊や神や精霊など力が得られる。または、動物などの擬態とかで、そんな姿だったのだろう。そう教わりました」
「それは、酷いな。酷い誤解だな」
隊長は、女性のお洒落という感覚は分からなかった。たしかに、少し考えてみると、他の女性たちは、髪留めやいろいろな物を見に付けていたことを思い出したのだ。
「それでも、近年での発掘では、そのような様子や暮らしは、弥生時代になってからだと言われています。縄文時代は、鉄など日用品も武器もあったが、腐食して現代まで残っていないが、高度な不思議な壺などから判断すると、もしかしたら高度な文明があったかもしれない。そう言う学者もいます。だが、大陸から島国に移住するために来た。その一族との戦いに敗れて、敗れた縄文人は、狩猟生活は禁止されて、それぞれの四季の実り豊かな森は伐採されて無理矢理に定住させられ、誰が食べるのかと思われる必要以上の食料を作るために畑や田んぼを作らせるだけではなく耕すことに強要された・・と・・・」
新は、隊長の顔が、だんだんと赤みが現れて、怒りの形相になり、顔も耳も真っ赤になると、新は、恐怖のために口を開けた状態で、何も言えなくなってしまった。
「なっなな!なんだと、我ら無敗の紙の剣の部隊が負けた。そう言うのか!」
隊長は、何か変だった。普段は、こんな怒り方はしない。もしかしたら、何か、理由の一つでも知っているような感じで、何かを否定しようとして、自分に怒りをぶつけている感じだった。
「自分に、そんなことを言われても、トンデモ話しの伝承以外の歴史しか残されていないのです。それも、一万年も続いた。そんな王朝なんて歴史上ないですよ」
「そうか、すまなかった。許して欲しい」
「そこまで、トンデモ話しのことで頭を下げる必要はないですよ。この縄文時代に来てから嘘だと分かったのですよ。だから、頭を上げて下さい」
「ああっ分かった。だが、お前とは、分からない奴だな。そんなに、優しく、人に気遣いもできるのに、なんで、惚れた女、いや、惚れられている女の気持ちが分からないのだろう。姫が可哀そうだな・・・・ん?・・・」
(今の話を聞いていないのか?・・・聞いたから悩んでいるのか?・・・)
「いや、間違いなく、縄文時代のことは、伝承、神話、妖怪などで語り継がれているはずです。それは、現代でも、皆の心の支えになっていますよ・・・・ん?・・・・」
隊長が、難問でも考えているかのように頭を振り。それでも、理解が出来ない。と頭を抱えていた。その意味を聞こうと、前木に視線を向けると、頭を傾げては唸っていた。そして、姫は、突然に自分の名前をだされて喜びの表情から驚き、すぐに、泣きそうな表情に変わっていた。そして、大きな溜息を吐いて、隊長と前木に視線を向けた。
「こんな所で遊んでいても仕方がないな。それでは、出発するか」
「は・・・い・・・」
「姫様。何か、不満そうだな」
「特に、不満は、ありませんよ。もう、もう、もう~ですからね」
子供のように駄々をこねるのだった。
「分かった。分かった。対策を考えておこう。それで、いいかな?」
「ふっ~うん・・・はい」
隊長は、姫の気落ちを落ち着かそうと、母のように優しく慰めるのだった。
「先に乗っていてくれ、少し用事がある」
懐から用意されていた手紙か命令書なのだろう。その紙を取りだして紙飛行機を折りだした。その後に、紙飛行機の羽に神代文字と幾何学的な複雑な文様を描いた。それは、これから、紙飛行機を飛ばすための届き先の名前と飛行計画だった。
「花押のその壱を書いた、その壱を持つ者に飛べ・・・無事に届いてくれよ」
隊長は、紙飛行機を飛ばしてから馬車の馭者席に座って直ぐに走り出したのだ。
地面に渦巻き模様に焚き火が焚かれていた。その焚き火を一人の老婆が消えないようにと調整していた。その途中で大勢の人々と多くの馬車が近づくのを感じて、老婆は、手を休めて遠くを見ていた。まだ、誰なのか分からないはずだが手を振るのだった。
「一人だけで待たせたな。役目を遂行したな。ご苦労だったぞ」
先頭の馬車に乗っていたのは、副隊長だった。
「いいえ。焚き火をすることしか、もう、それしか、今では出来ませんからね」
「もう十分だぞ。ゆっくりと身体を休めてくれ」
老婆に、労いの言葉を伝えながら部隊の全体に右手で指示を伝えた。その指示は、渦巻きの道を進め。そう言う指示だったのだ。そして、一つ、一つの焚き火の前に馬車を止めると、乗っていた者たちは降りて、湯を沸かし調理をする者たちもいた。
「あっああ、休む馬車がないか、それなら、わしの馬車で休むといいぞ」
そんな時だった。紙飛行機が、副隊長の左手の手の甲に当たるのだった。
「ん?・・・あっ、隊長の・・・」
紙飛行機を広げて、その中の文面を読むのだった。
(その地で指示があるまで待機。今回の異物(オーパツ)の搬入は中止だ)
「う~ん・・・なにかあったな?・・・どうするか?・・・」
「副隊長。もしかして、この先に馬車で始祖の地を赴くので?」
「そうだが?」
「あの横に書いた線が見えますよね」
「ああっ、見えるぞ」
「あの線を越すと、神代文字の機能は消えますわ」
「えっ?・・・本当なのか?」
「はい。わしらのような斥候の任務が多い者の古着のような服なら墨が紙の隅々まで染み込んだ服や自分の血と墨が滲んだ剣や紙の馬ならば、ある程度の時間は持ちますが・・・」
「調査をしたのだな。それで、なら、本当らしいな」
「はい。間違いなく、この隊の殆どの者たちの服などや馬車などは紙に戻りますわね」
「どうするか・・・」
「一つの可能性は、この場で全てを作り直して、墨が完全に水分が消えるまでなら維持ができるかもしれません。ですが、もう、あんな珍しい墨は、もうないでしょう」
「そうだな。ならば、徒歩で向かうしかないか」
「その紙飛行機は、隊長からなのだろう。それで、この場で待機と命じられているのだろう。それでも、行くのですかね?」
「初めに打つ合わせした計画とは違うのだ。だから・・・」
「後方から来る。部隊は、どうするのです?」
「あの部隊か・・・」
「命令だと、そう言うのなら引き留めますが・・・」
「お前らは、隊長の命令しか従わないはず」
「わしらは、この場で待機して様子を報告と言われているだけで、誰かを部隊を引き止めろ。などとは言われていません」
「う~ん」
「部隊のことなら、部隊とは、あの部隊ですが、それを命じられているのは、副隊長ではないのですかね」
「なぜ、それを・・・」
「わしらが、隊長に報告して、口頭で伝えられて、書面にしたのは、わしらですから・・・」
「・・・・」
「花押。その壱とは、わしらのことですから・・・ですが、わしらの花押は、この世には存在はしません。その証明の通りに、紙飛行機は副隊長に届きましたよね」
「それなら、隊長が突然の計画の変更の理由も知っているのか?」
「知りません。わしらから連絡することもできません。今は、隊長の指示も完遂していますし、この地にいるのは、わしらの自由意思です。だから、副隊長の指示を実行はできますわよ。隊長の指示を無視しますか?・・・どうされます?」
「そう言われては、隊長の指示の通りにしなければならないな」
「それは、安心しました。少し疲れました。副隊長の馬車で休んで宜しいのですね」
「ああっ、ゆっくりと、休むといい」
老婆は、まあ、副隊長も老人だが、老婆が、よろよろと馬車に向かうのを見送った。
「歩くだけでも疲れるわね。誰か、肩でも貸してくれないかしらね。はっふ~はっふ~」
副隊長は、老婆の後ろ姿を見て、危うい歩き方と呟きを聞いて、言葉巧みに誘導されたように思えてきた。そう思えたのには、もう一つの理由もあった。命の次に大切な紙の剣を杖のように使っている感じだが、注意深く見ると、紙の剣は地面に付いてなく少し浮いているのだった。そして、老婆のことよりも思案することがあった。その問題とは、明日には着くはずの。あの部隊である。西から来た者たちのことだった。
「西の者たちなら、この場に放置していけば、あの老婆たちがなんとかするだろう。それなら、はぁ~待つか、行くか、答えは、それしかないだろうな、なら、どうするか?」
思案しては答えがでずに悩みながら部隊の皆の様子を見回るのだった。
「今回は、始祖の地の中に入れるのかな?」
「それは、無理だろうな。また、草むしりをするだけだろう」
「それでも、今回も来れてよかったわ。また、始祖の地を拝めるのだからね」
「俺もだよ。だが、来年は無理かもしれないな」
「それにしても、異物の搬入の四人を選ぶ。その基準ってなんだろうな」
「それは、分からないけど、選ばれるのを楽しみにするしかないわね」
などと、皆が同じような内容だが、始祖の地に行くことを期待している。それが、分かったことで、中止、または、少数で行く。それは、無理だと思ったのだ。
「皆が楽しみにしているとは、思ってもみなかった」
(それならば、仕方がない。全軍で行こう。徒歩でな)
副隊長の悩みは解決した。それでも、適当に、ぶらぶらとしていたが、内心の考えで変更する気持ちがない。それを決断すると、その場で視線が合った。その班長の一人に近づき言葉を掛けた。
「皆に伝えてくれ。出発は明日の朝食後の直ぐと決めた。それも、始祖の地まで徒歩で行くことにした。だから、それを考えて休んでくれ」
「はい」
「それを皆に伝えてくれ」
「承知しました」
副隊長は、問題は解決した。それに、自分も身体は疲れているのだが、それでも、隊の者たちの思いや考えを知りたくて、他の班にも見回りをするのだった。そんな途中で長年の部下でもあるが友に引きとめられて会話が弾むのだった。
「お前、隊長と結婚するのだよな」
「それは、本当なのか?」
「間違いぞ。そのために定住生活をするらしいぞ。それも、あの新しい村でなぁ」
「そうか、それで、この周辺の調査をしていたのか」
「調査などしていたのか?」
「この周辺に、長くて細い柱が立っているだろう。それが、何か理由があるらしいのだ」
「それは、本当なのか、なら、副隊長なら分かるよな?」
「そんな柱よりも、隊長と副隊長が結婚して村で定住するなら、この隊は、解散なのか?」
「本当なのか?」
「らしいぞ」
「副隊長なら分かるだろう。俺たちの仲ではないか、教えてくれよ」
皆から詰め寄られた。
「まあ、俺や隊長のことよりも、姫に運命の相手が現れたぞ」
「それは、本当なのか?」
「ああっあ、本当だ」
「それなら、狩猟生活も終わりだな」
「そう言う理由だったか、なら、納得だな」
「それと・・・・あのな」
「なんだ、なんだ?」
「紙の服ではない。神代文字の効果が使われていない服はないだろうか?」
「それは、姫の結婚式のために必要なのか?」
「そう言う意味ではないのだ・・・何て言うかだな・・・」
「なにを我々に気を使っているのだ。はっきりと言ってみろ」
「皆が、初めに話していた。細長い柱のことにも関係あるのだ」
「それも、姫の結婚式のためだったのだろう・・・違うのか?」
「この場だけの話しにして欲しいのだが・・・」
「分かった。そうしよう」
この場の集まりの者の全てが頷くのを確認すると、副隊長が重い口を開いた。
「神代文字だけでなく、幾何学模様も縄文字も全ての効果が消える。神代文字などの効果が持続できるのは、あの新しい村から馬車で一日程度の距離だけになる。そして、丁度と言うか、確実に、この渦巻の陣から見える線から出ると、全ての効果が消える」
「本当なのか?」
「ああっ、勿論だ。それで、この地から出て、始祖の地まで行く途中で、紙の服は、ただの紙に戻るだろう。それは、裸になる。そう言うことだ」
「それで、服なのだな」
「ああっ、野郎なら裸でも構わん。裸のまま走って、この地に戻れば神代文字の効果は戻るからな。それを若い女性には耐えられないだろう。違うか?」
「まあ、それならば、大丈夫だろう」
「それは、婆さんなら・・・」
「なんだ。わしらの裸は見たくない。そう言うのか、なら、もう背中を流してやらん!」
「お前らは、もう黙っていろ。わしら、婆が言いたいのは、いつ頃に作った服なのか忘れる程の昔のことだ。おそらく、紙の繊維に墨が染み込んでいるから簡単に紙に戻らん。もし、ただの紙に戻ったとしても、婆たちの身体で若い子らの裸が見えないように隠す。そう言いたいのだ。そうだろう」
数人の老婆たちが、頷く者や横に首を振る者たちもいた。その中の一人が、先の老婆なのだが、自分が話そうとした続きを話し出したのだ。
「それも良い考えだが、わしら婆も若い女性らも異国の服を持っているはず。特に、若い女性の皆は、物々交換ではなくて、何て言っていたか、紙に数字と名前を書くだけで、交易?・・・と言うか、買い物と言うのか、それで、皆は服を買っていたぞ。それに、若い男もわしら老人にも、紙の剣を作ったお礼として、異国の服を感謝の気持ちとして渡されたはずだぞ」
「あの、ヒラヒラのピラピラは、寝巻ではなく外で着る衣服だったのか?」
「それを皆が持っているか確認は出来るか?」
「う~ん。そうだな・・・・」
老婆は、座ったまま周囲を見回して、視線が合った者に手で手招きするのだった。若い女性は、直ぐに立ち上がり。老婆の所に駆けて来るのだった。
「何でしょう?」
「すまないが、頼みたいことがある」
「何でしょう?」
「皆に、いや、若い女性だけでもいいが、異国の服を持っているか聞いて欲しいのだ」
「それは、もしかして、没収って意味でしょうか?」
「いや、それは、違うぞ。姫に運命の相手が現れたのだ。それで、結婚式の時にな・・・」
「きゃ、きゃきゃ、きゃ~分かりました。皆に聞いてきます」
女性は、喜びの悲鳴を上げて駆け出した。副隊長の考えとは違うが確認はとれるはずだ。
渦巻き模様の陣のように思えるが、陣ではなく、老婆が炭作りと焚き火の火が消えないようにするために適した方法の焚き火の置き方だった。敵が現れたのでもなく、副隊長が原因であり、姫の結婚式の話題で、皆は、朝方まで興奮していたのだ。
「副隊長。報告に来ました。異国の服のことと朝食の用意ができました。
副隊長は、やっと寝られて、直ぐに起こされた様子で現れた。
「朝食か、分かった。報告、ご苦労だった」
「あっ、それと、異国の服は、皆が持っている。それを確認してきました。男性用も女性用も機能よりも見栄えを重視した服でしてね。姫様の結婚式に栄える。まるで、絵巻物の一場面のような末代まで残る式になると思います。ああっ、もう~姫様も異国の服を着るのでしょうね。ああっ、早く見てみたいですわ」
女性は、自分が異国の服を着て、その一場面に居る。そんな夢想していた。
「皆が持っているのだな。ご苦労だった。それと、朝食だが、おそらく、若い者たちだけしか集まっていないだろう」
「えっ、あっ、はい」
女性は、隊長があまりにも現実すぎることを言われて夢想から現実に戻るのだった。
「わしらのことを待たずに食べて構わんぞ。お前らには、食事を食べた後に、出発の準備などの仕事もあるのだからな」
「はい」
「始祖の地までは徒歩で向かう。それと、出発の準備に、その異国の服を持って行くことを絶対に忘れるなよ。それだけは、確りと頭に入れておけ!。いいな!」
「きゃ!。もしかして、結婚式は、もう決まっているのですか!それも、始祖の地で行うのですね。まあ、嬉しくて、鳥肌が立ってきました。それも、興奮で身体の震えも・・・」
「そうなのか?・・・そうか・・・皆に伝えるのだけは忘れるなよ」
(こいつ、言葉の使い方を間違っていないか、もしかして、遠回しに結婚式に出たくない。そう言いたいのか、だが、頬を赤らめて夢想しているようだ。喜んでいるのだろうなぁ)
「はい」
女性は、頭なのか、身体なのか、熱でもあるかのようにふらふらと、歩き出したのだ。
「おい、大丈夫か?。誰か呼んでやろうか?」
「大丈夫で・・・す」
副隊長は、暫くだが、女性の様子を見ていた。女性の様子を見て心配したのか、それとも、報告の結果などを知りたいために待っていたのか、多くの若い女性が、女性の所に集まって来たのを見て、副隊長は、安堵したのだろう。女性から馬車に振り向くのだ。夢の続きは見られないのは分かるが馬車の中に戻った。
「あっ、起こしてしまったか、すまないな」
「私たちの班は、この地に残ります。西の者たちの部隊を迎えなければなりません」
「隊長の指示なのだな」
「はい。焚き火と炭の用意もありますので、これは、誰にも任せられません」
「そうか、それと、若い者たちは、確実に、途中で戻ってくる。女性の精神的な気遣いも頼む。それと、男性が興奮して騒ぎを起こすかもしれない。その時には、馬車に鍵でも締めて閉じ込めておけ、まあ、他にもいろいろと、あるだろうが、後を頼む」
「はい。分かりました。安心して、お任せ下さい」
「それとだが、確かに、わしの馬車を使ってもいい。そうは言ったが、わしが寝ているの知って、なぜ、隊長の簡易テントを使わないのだ」
「隊長の簡易テントならば、うちらの若い子に使わせていますよ」
「そうなのか、なら・・・いいが、わしらが戻るまで好きに使って構わないからな」
「はい」
すると、予定されていた時間だったのか・・・。
「婆さん。起きたか?」
「うちらの隊の者たちが迎いに来てくれました。それでは、仕事の準備をしてきます」
老婆は、隊長に返事を返すと、足腰が悪そうに、よろよろと馬車から出て行くのだった。
「呼びに来たのだ。わしも食べてくるとするか、わしらの若い頃も・・・・」
独り言を呟くが、昔に上官から厳しい指導を受けたこと、その当時のことを思い出したのだろう。馬車から出るのだった。ここが渦の中心なのだから広い空地がある。それだから、皆が同時に食べる場所になるのは当然なのだ。だが、若者たちは誰もいなくて、皆はというか、老人たちは、炊き出しのように並んでは、自分で食べたい分だけ器に盛っていた。そして、抵当な場所に座って食べていたのだ。この様子を見たら若者たちの手抜きか嫌がらせなのかと、思う者もいるかもしれないが、狩猟生活者には、特に変わった風景ではなかった。もしかすると、縄文時代を未来の者たち伝えた。そのある者がいたとしたらだが、この様な様子をみて原始人の生活だと伝えられたかもしれない。前木と新なら、そう思うだろう。
「どうだ?」
「何のことだ?」
「異国の服のことだ。一度は着たのだろう」
「恥じだぞ。誰が着るか、そんなことよりも、若い者たちは、もう並んでいるのだぞ。お前も急げ。わしらが遅れては、隊の示しがつかないだろう」
「はい、はい」
紙片隊と言われている部隊の出発するための隊列は、普段と違い。逆の並び方をしていた。それは、若い女性が先頭で、少々離れた距離に、若い女性たちが見えないように、扇方のように並んで老婆の集団が続き、最後方に若い男性と老人が並んでいた。後は、副隊長の号令を待つだけだったのだ。だが、副隊長は、直ぐにでも出発の号令を言えるだけではなく、隊が見える場所で思案していたのだ。
「・・・・・」
(裸になる。それが分かっているのだ。伝えた方がいいか、だが、伝えたら、少々の騒ぎになるだろう。皆は、始祖の地をみたいのだ。それと、なぜか、結婚式することになっているのだぞ・・・・そうだ。もしかしたら裸にならないかもしれない)
副隊長は、思案の決断ができた。そして、立ち上がり。
「出発だ。行くぞ!」
副隊長の部隊の全軍が規律正しく動いた。部隊の行進などで上官の叱責もなくなり。全体の気持ちが慣れた頃だった。時間にして三十分くらいが過ぎただろう。
「キャアー」
一人の女性の悲鳴が響いた。それは、神代文字の効果が消えて、衣服だけでなく履物も紙の剣も全てが普通の紙に戻り。驚きよりも恥ずかしくて悲鳴を上げたのだ。女性は、全裸になったのだ。まだ、弓矢などが飛んで来た方が驚きも悲鳴を上げる者はいなかっただろう。その悲鳴は、部隊の全体に響くのだ。想定してないことで、若い男女は、精神が不安定になり。次々と裸になる者が増えて行った。若い男性の方は、年配者から裸になったくらいで騒ぐなと、叱責で騒ぎは収まりだして落ち着いた気持ちで異国の服に着替えるのだ。だが、女性の方は、年配者の老婆から叱責されても宥めても混乱は収まらない。それでも、やっと、一人の気持ちが収まる頃には、また、一人、二人と裸になるのだから混乱は収まるはずもなかった。それで、老婆たち自身で垣根のように若い女性の裸を誰にも見えなくした。だから、落ち着けと、そう言われて何とか悲鳴を上げることだけはなくなった。だが、両手で恥ずかしい部位を隠して地面にしゃがむだけで、誰の声も聞こえていないのだ。仕方がなく、老婆たちが作る垣根の中で、一人の老婆に視線を向けた。その老婆も意味が分かったのだろう。大きく頷いて、若い女性の裸の集団に向かった、その途中で多くの物を拾いながらだった。
「驚いたでしょうね。その恥ずかしい気持ちは女性だから分かるわ。だから、まず、この異国の服に着替えなさい」
「・・・」
一人、一人に言葉を掛けて、異国の服を受け取ると、また、次の女性と同じようにするのだった。異国の服を着た者たちは、やっと、何をしなければならないか、少し考えることができて、老婆と同じことしなければ、と仲間の女性たちに異国の服を渡して、心の気遣いもするのだった。
「何が起きたの?」
「そう・・・そうなの・・・」
異国の服を着た後に、全ての若い女性が問い掛けるのだが、誰も首をゆっくりと横に振るだけだった。若い男女には、何も伝えなかったのだから誰も分かるはずがなかった。そして、異国の服を着替えた全ての者たちの気持ちが落ち着き、正常な判断ができる頃だった。副隊長が、皆に言うのだった。
「異国の服に着替えた。その者たちに伝える。村まで戻れとは言わないが、馬車が置いてある場所まで戻り。その場所で待機を命じる」
若い男女は、誰一人として苦情などを言う気持ちもなかった。皆の表情では安堵の表情を表していた。衣服だけでなく紙の剣も全てが無くなれば当然だろう。もしかするとだが、副隊長が言わなくても、既に、老婆や老人には伝えていたかもしれない。村に帰りたいと、だから、隊長の命令を聞くと、整列した状態ではないが、不規則な、ふらふらと、馬車が置かれた場所に戻って行ったのだ。
「それでは、残りの者たちは、始祖の地に向かうぞ!」
隊は、整然と行進するのだ。だが、一歩、一歩と緊張しているように感じられた。まるで、新兵が初めて大勢の者たちの前で披露する時のようだった。たしかに、ある意味だが緊張するのは当然だろう。一瞬でも気持ちが揺るいだら紙の服や紙の剣などが紙に戻る。そう思っているからだった。その中で、班長と友人たちが、副隊長の所に集まってきた。
「どうした?。自分たちの班の様子は大丈夫なのか?」
「隊長の命令を無視しても良かったのか?」
「どういうことだ?」
「俺の班は何だか忘れたか・・・諜報の班だぞ」
「なにが諜報だ。ただの斥候の任務だろう。昔から言っているが、本当の陰の諜報の任務班に、首を絞めつけられるぞ」
「それが、俺の班でないと、お前に証明できるのか?」
「まあ、お前はお飾りの班長で、ボンクラの班長の陰に隠れて任務している。そんな噂もあるからな。それで、どうでもいい情報を教えてもらい。遊ばれているのだろうな」
(ああっ本当に陰の諜報の者はいるだろう。おそらく、焚き火の件の任務していた。あの老婆と仲間たちが、そうだと思えるぞ)
「なんだと!まあ、いい。だが、隊長は、あの地で命令があるまで動くな。そういう命令だったはずだぞ。違うか?」
馬鹿にされて怒るが、子供の頃からの言葉の遊びだとして直ぐに怒りを収めた。
「まあ、昔から百の内の一くらいは、時々だが、驚くことを知っているな。確かに、そうだ。だが、馬車も使えないで徒歩で行くことになる。それを命令が来てからでは間に合わないぞ。最低でも十キロはあるのだぞ」
「その距離を隊長が知っていた。としても、そう言うことなのだな?」
「それと、もう一つだが、姫と隊長とでは、優先する命令は、誰だ?」
「何を馬鹿なことをいうのだ。当然、姫に決まっているだろう。吾らが狩猟生活する理由には、姫の護衛という任務もあるのだぞ」
「そうだよな。変なことを聞いて悪かったな」
「あまり、馬鹿馬鹿しいことは、子供ではないのだ。そろそろ、いい加減にしろよ」
「そう言えば、お前、隊長と結婚するのだよな。そして、あの村で暮らすのだろう」
「だっ、誰から聞いた!」
「あれ・・・お前が、嬉しくて、酒の席の時でもペラペラと話したのではなかったか?・・・もう隊の皆が知っていることだと思うぞ。ふふっふ」
「そんな、馬鹿馬鹿しい話をするよりも、皆に伝えろ。もしかしたら自分の血で書く神代文字を使うかもしれない。その覚悟をしていろ。とな!」
「それも、隊長の指示なのか?」
副隊長の指示なのか、隊長の指示なのか、それを答えることなく、始祖の地に向かった。
若い男女と老人の男女の四人が乗る。その紙飛行機は、目的地の始祖の地と言われている場所に着こうとしていた。そろそろ、目的地の全体の様子が見える距離だった。直ぐにあの森が目的地だと感じた。それは、変な形の森だった。泉の中心に森があり。その森に立ち入りを禁止するために人工的に泉が造られたのだろう。それを見て、新と前木は、驚いていた。新は、自分が育った。未来の世界では有名で、だが、直ぐに名称は口から出てこなかった。だが、前木は、驚くと同時に言葉にしていた。それは・・・。
「前方後円墳!」
「未来では、そう言われているのか、あれが、始祖の地だ」
その森を一周した。全体の様子は、横から見ると、かなりの高さの台形の形をしていた。
「ほう・・・」
「降りるぞ。落ちるなよ!」
「えっ・・・どこに・・・」
新は、などと、言われて、新だけが驚きの声を上げていた。隊長は、脅しのような言葉だったが、ゆっくりと、静かに、泉の上に波も立たない安定した着水をするのだった。
「・・・・」
目的の楕円形には、絶壁の岩のようであり。船着き場などの感じの物はなく、どこに着くのかと、見ていたが、反対側の岸に紙飛行機を乗り上げた。
「着いたぞ。降りろ、早く降りろ」
隊長は、前木は、老人だから腰を痛めないようにゆっくりと、紙飛行機から降りようとしていたが、特に、新に言っているのだろう。
「やはり、また、伐採しないとならないか」
「・・・・」
隊長は、どこの場所を言っているか、誰に言っているのか分からないが、この四人の中でするのは、若い男は新だけであり。自分に言っているのだろう。と覚悟は決めたのだろう。大きな溜息を吐いた。
「そうですね。私が初めて紙の剣を作って、初め切ったのは、ここの草木でしたね」
「紙の剣の硬さの硬度の数字を間違って、姫は、紙の剣が曲がたって泣いていたな」
「まだ、憶えているのですね」
「姫だけでなく、隊の皆のことを憶えているぞ」
「ゴッホン、ゴッホン」
前木は、偶然のか、故意にしたのか、老人だから分からないが咳をするのだった。
「悪かった。悪かった」
隊長は、咳に驚いて、前木に謝罪をするのだったが、これが、老人でなく新の咳だったら、楽しい会話の邪魔をしたとして、命が無かっただろう。速攻で首が身体と離れていたはずだ。新は、冷や汗を拭いながら首が身体に繋がっているか、確かめる程に恐怖を感じていたのだ。
「この辺り全てを伐採するのですかな?」
「そうではない。あれを見えるか、祠のような物が見えないか?」
「あっ・・・・ああっ、うんうん」
隊長が右手で指し示した。その方向には、木々で隠れて見えないが、何か石で造られた何かが見えていた。前木は、微かに見えて頷くのだった。
「わしらは、見ているだけで、若い者たちに任せていればいい」
「それで、いいのですか?」
「無理しても仕方ないだろう。もし無理して腰を痛めたら、もっと、面倒なことになるぞ」
「そうですね」
そんな話を聞こえていないのか、二人の会話が始まる頃には、すでに、姫は、自分の紙の剣で草木を伐採していた。そんな姿を新は、姫の後ろから見ていた。時々、隊長にも視線を向けて、何もしなくていいのかと、何らかの指示をしてくれないかと、隊長に視線を向けていたのだ。
「わしの刀を貸してやろう。よく切れるから気を付けるのだぞ」
「おっ、とと・・」
木を切る。人生で何度かあったが、その感覚で力を入れたら何の抵抗がなくて木が切れて力の残りであぶなく左手の腕を切るところだったのだ。
「何をしている。だから、気をつけろ。そう言っただろう」
「これは、凄い」
新は、驚いた。何かを切るって感覚がないのだ。例えようがない例えだが、豆腐でも切るって感覚があるが、まるで、湖面の水に刀を入れた感覚で、木々が切断されるのだ。
「そうだろう。そうだろう」
「これでは、もし鉄の刀を切ったとしても、豆腐を切る感覚だな」
「豆腐・・・豆腐?・・・そうかもしれないな・・・」
姫は、伐採しながら話を聞いていたのが、次の言葉で分かるのだった。
「憶えていませんか、私が、未来から持ってきた。白くて四角の柔らかい食べ物ですよ」
「あっあああ、あれか!」
隊長が、豆腐のことを思い出した。それを分かると、姫は、直ぐに伐採を開始した。
「それを食べたことがあるのですか?」
前木は、驚いて、隊長に聞き返した。
「あるぞ。他にもいろいろ食べたことあるぞ。だが、鉄の剣を切った感覚など豆腐を切る感覚よりもないぞ。まあ、確かに、豆腐の場合は、刃の面では切れすぎて手を切るからのう。あの豆腐とは手の平の上で切るだろう。それだから、刃の背で切るがな」
新も伐採を再開した。隊長が、前木と話し始めたからだった。新は、子供の頃を思い出しているのだろう。それは、草木を切る時に、時代劇の名セリフを言いながら切るので分かることだった。そんな姿を姫は、ちらちらと見ては、クスクスと笑っていたのだ。
「まあ、見栄えは悪いが、四人でする仕事を二人でしたのだ。だから、もういいぞ」
「そうですか、でも、始祖さまが怒りませんか?」
「それは、ないだろう。直系の、それも、女性が伐採したのだから喜んでいるだろう。それに、初めての共同作業だろう。何か、贈り物と考えているかもしれないぞ」
「そうでしょうか?」
「それは、間違いないだろう。だが、姫は、贈り物よりも、新からの告白を聞きたい。その手段や手助けの方が嬉しいのだろう。何か、始祖さまが、そんな、何かをしてくれるかもしれないぞ。噂では、始祖の地の中では、今でも生きているって噂だしな」
「そう思われているのですね」
二人の若い女性と老婆が、遠回しではなく、はっきりと、姫と新との恋の話をしている。そう言うのに新は、まだ、夢中で草木を伐採していた。
「お前は、今の話を聞いていないのか?・・・それとも、恥ずかしさを誤魔化すために夢中で伐採しているふりをしているのか?」
「・・・・」
好きな時代劇の最後の場面なのだろう。ますます役者の真似に熱が入っていた。
「新!いい加減に!手を休めろ!これは、命令だ!」
「えっ?」
隊長の怒りの声を聞いて手を休めて振り返ると、隊長の怒りの表情と姫の悲しそうな表情を見たのだ。新は、伐採の時に怪我でもした。そう思ったのだろう。直ぐに、姫の元に駈け寄るのだった。
「手や足でも切ったのですか?・・・大丈夫ですか?・・・」
「キャ!」
姫の片手を握ると傷を確かめて次に手や足や身体とか、姫が恥ずかしくなる程に身体の全てを見て確かめるのだった。
「どこを切ったのです?・・・大丈夫ですか?」
「その・・・」
姫には、恥ずかしかったが、良い機会だと、新のことで確認したいことがあった。それに、姫は、少し自慢できることもあったので、それが、女性の二つの象徴である。その象徴を間近で見れば、男色なのか分かる。そう思って両手を後ろに回した。
「ん?・・・痛いのですか?」
腕を回したことで、少し胸が弾み、新は、胸に視線を向けたが、恥ずかしくて直ぐに目を離した。その様子を見て、姫は、安心した。胸に興味があり。男色ではないと確信した。
「あの・・・あの・・・えへへへ・・・その・・・」
姫は、安堵と同時に恥ずかしかったが嬉しくて楽しかった。そして、安堵から悪戯心が芽生えた。ちょっとでも、血でも見せれば、どんな反応をするか、そして、左手の小指であり。赤い感覚器官では遊び心が浮かんで故意に怪我を作ろうとしたのだ。自分の周囲には伐採した草木がある。その一つの切断面を背中の後ろに回してある右手で掴み、左手の小指に少しだけ刺したのだ。
「ん!」
「どうしたのです?」
「怪我・・・って・・・」
ゆっくりと、新に左手を見せたのだ。
「血だね」
「キャ」
新が、左手を見せる。と同時に指を咥えたのだ。
(目を瞑っていたら見えないでしょう。もう、もう)
「もう!大丈夫ですから!」
「うぁあっはは!これは、駄目だわ!わぅはははは!」
隊長は、爆笑した。
新と姫は、驚いた。新だけは、飛び跳ねる程だった。
「もう!」
「えっ?」
「もう十分に楽しんだだろう。始祖の地の中に入るぞ」
新は、ちゃんばらのことだと思ったのだろう。恥ずかしそうに俯くが、姫には、内心の悪戯のことだろうと、新と同じに俯くのだった。だが、少々不満そうに頬を膨らませた。そして、始祖の地の中に入る。その言葉で、祠のことを言われてから我慢していたのだろう。前木は、立ち上がり。その祠に向かうのだった。
「これが・・・ほう・・・ほう・・・触っても良いだろうか?」
「・・・・」
前木は、振り向き、隊長に聞くのだった。そして、隊長が頷くと、まるで、子供が誕生日のプレゼントをもらった時のように目をキラキラと輝かせながら撫でては、息を吹いて埃を払うのだった。
「お前!まさか、それを読めるのか?」
「ん?」
前木は、振り向くが、直ぐに、扉に興味を向けた。
「・・・だよな。読めるはずがないよな・・・」
「この彫った文字に、筆で墨を付けてなぞるのでは?」
「えっ!?」
隊長は、読めた場合のことを考えて恐怖を感じたのだ。自分は読めないからだ。それでも、前木は、恐ろしいことを言ったのだ。
「お前は、本当に独学で学び、本当に、自分の意志で過去に来たのだな」
「・・・・」
「それ程までに、妻と結婚がしたいのだな。どんな女性なのか見てみたいぞ」
「キャ!キャ~本当なの?」
「・・・・」
「その話を聞かせて!何なの?何の話なの?」
姫は、前木に向かって駆け出して抱き付くのだった。
老人は、若い女性に抱き付かれたことに驚くが、それが、首だったことで直ぐに苦しくなり。女性の何を言っているのか分からないが、妻の写真を見せなければ、首の苦しさから解放されない。それだけが分かり。写真を見せる。と喉が苦しかったが何とか言葉にした。そして、直ぐに苦しみから開放された。
「写真があるのね。見せて、見せて下さい」
「写真?」
隊長は、意味の分からない言葉を聞くが、その響きと、姫の興奮で楽しみを感じたのだ。
「綺麗・・・綺麗な人ね。この人と結婚したくて、この縄文時代に来たのね」
「なに!女性の顔や姿が見られるのか?」
「この人よ」
隊長は、姫の元に駈けた。そして、姫は、右手にある写真を手渡した。
「本当だな。綺麗な人だな。この女性のため・・・だが、未来人とは・・・老人にならなければ、好きな女性に思いを伝えないのか?」
「まあ、若くても年寄りでも女性が好きだ。その思いを伝えないと、結婚はできませんよ」
「そうなのか?」
「そうですよね。新さん」
「えっ・・・ええ・・・はい・・・そうです」
新は、顔を真っ赤にして姫に答えるのだが、直ぐに俯いてしまった。誰が見ても、姫に恋をしている。その様子なのだが・・・新の内心は誰も分からなかった。前木は、新の様子を見て怒りを感じた。
「新!。俺は、俺はな!今の妻が、他の男性の許嫁と結婚する。そう聞いて歌を送ったのだ。男性が歌ってはならない歌であり。女性に渡してならない禁忌の歌をだぞ」
姫と隊長は、前木の話を黙って聞きながら新の様子を見るのだった。
「歌?」
「そうだ。女性に告白はした。俺の許嫁とは結婚したくない。だから、一緒に家を捨てて誰も知らない地で結婚しよう。だが、女性は泣きながら接吻をしてくれた」
「キャー・・えっ?」
接吻と聞いて声を上げるが、直ぐに、右手で唇を押さえて、もしやと思うのだった。新に告白という接吻しなければならないのかと・・・。
「お前なぁ」
隊長も新を説得するために叫んだと思ったのだが、その話なら姫が接吻で愛を示さなければならないのかと、そう問い掛けようとした。それでも、前木の話しは続いていた。
「それと、囁きで、私も好きでした。そう言って恋から逃げるように駆けて行ったのです」
「それで、好きな人と結ばれるために、この縄文時代になにかあるのですね」
「おっ!」
(前木でかした。その手の話しに繋げる考えだったのか!)
「キャ」
隊長は、前木に感謝の気持ちとして、右手を握り締めて伝えた。姫も、自分に告白する方法を考えてくれたと、そう感じて喜びの悲鳴がでた。
「あっああ・・・」
「新。それは、本当にあるのだぞ。それを知りたいか、なら、何時でも教えるぞ」
前木が、突然に、なぜか、落ち込んでしまった。仕方がなく、隊長が話を繋げたのだ。
「・・・・」
(自分が未来に送ることは、たしかなのだ。だが、その方法が分からない)
「それは、知りたいです。前木さんも知りたいのですよね」
「それよりも、始祖の地の中に入りませんか?」
「・・・・そうだったな・・・姫、すまない・・・」
「いいえ・・・始祖の地の中に入りましょう」
「それで、入るにしても、鍵穴も扉を開くための取っ手もないようですが・・・」
「それは、先ほど、お前が言っただろう」
「・・・もしかして、彫った文字に筆で墨をつけてなぞる?」
「そうだ。扉を開けるだけなら開放と書いてある部分だけ筆で墨をつけてなぞれば、それで良いのだが、代々の口伝では、扉の全ての部分に同じようにすれば、全てが開放される。そう伝わっている。だが、隊の隊長を襲名する時に一度は試すのだが、誰も一度も反応することはなかったらしい」
「そうでしたか・・・そう・・・う~ん・・・」
「それだから、扉を開けるだけで、開放の方は諦めろ」
「それです。もしかしたら、墨の濃度ではないでしょうか?」
「あの墨のことか、だが、あれは、もうないぞ」
「自分が未来に帰るために残していた墨があります」
「それを使ってもいいのか?」
「はい。この歳から死ぬまでの時間だけ妻と居られなくなるだけです。今までの人生は最高の思い出として、全てを憶えていますので、もし帰れなくても悔いはないです」
「そうか、そうか、分かった。分かったぞ。それ程の覚悟なら実行しよう」
隊長は、携帯の簡易な硯を出して墨を作りだした。前木も墨を作るのは当然だが、二人を見ていた。姫も新も同じことをするのだった。
「まあ、これ以上、墨の濃度を濃くしても意味がないだろう」
隊長は、四人分を合わして、人差し指で墨の濃度を確かめた。そして、前木は、自分が未来に帰るために残していた。微かに残る元ビールだった物である。その黄色い液体を硯に入れた。そして、再度、濃度を確かめると、隊長は前木に、前木は隊長に視線を向けたのだ。誰が書くのだ。そんな視線だった。
「隊長にお任せします。その理由はあります。代々の隊長の時に実行していたのなら何かの理由があるのでしょう。だから、隊長にお願いします」
「そうか、分かった」
隊長の筆の使い方は、普段なら筆から墨が垂れる程に豪快と思える書き方だった。それが、もしかすると、前木の気持ちを考えて、少しでも墨が残るようにと考えているようだった。そして、右上から背伸びをしてやっと届く箇所に文字が彫ってあり。その彫りに筆を入れてなぞり始めたのだ。
「隊長?・・・隊長!」
姫が真っ先に気付いた。墨文字が蛍光塗料のように淡く光ったのだ。
「なんだ?。どうした?。手元が狂ったら、どうするのだ!」
「上、上です」
「少しでも墨を節約しようとしているのに、筆の墨が乾いたら・・・えっ?」
隊長も気付いた。今までは、有る場所の彫ってある文字だけを筆の墨で文字をなぞる。それだけで、扉の開閉ができた。だが、今回のように光ることはなかったのだ。
「ほうほう、この状態は、今までにない初めての状態なのですか?」
「ふっふふ、そうだぞ。だが、この彫ってある全ての文字を筆の墨で文字をなぞる。と何が起きるのか、それを考えると楽しみなのだ。それでなのだが、前木、すまないが、墨を残せないかもしれない」
「かまいませんよ。わしも、この状態の後を考えると、もう未来に帰らなくてもよいから見たい。それが、楽しみで仕方がないのですぞ」
隊長は、前木の確認の頷きを見ると、夢中で彫った文字を筆の墨でなぞるのだった。やはり、筆の墨で同じようになぞった墨文字は同じように淡い光が現れるのだ。その光が現れれば現れる程に夢中でなぞり続けた。そして、十分間くらいだろうか過ぎると、全ての彫ってある文字を筆の墨でなぞり終るのだった。
「ふぅ、終わった。終わったぞ。どうだ?」
扉から数歩くらい扉から離れて全体を見ようとしながら三人の男女に問い掛けたのだ。
「点滅に変わりましたね」
「そうなのか?・・・本当だな・・・なぜに扉が開かない?」
「変ですね」
「墨が塗れてない箇所でもあったのか?」
隊長は、三人の所まで戻ろうしたのだが、直ぐに、扉の彫りの文字を確認しようと戻るのだった。すると、自動のドアのように反応する地面なのか、扉が赤外線などで、隊長の身体に反応したのか、扉が開くのだった。
「おっ!開いたな・・・なら入ろうか」
隊長は、扉が開くと、その状態のまま足だけは動かさないで首と身体だけ振り向くのだった。そして、三人が一歩を踏み出すと、先に扉の中に入るのだった。すると、扉は閉まりそうだったので、三人は、即座に駆け出して隊長の後を続くのだった。扉の中に入ると閉まる前に、今までの通りに神代文字の機能で作られた紙のランプを点灯させたのだ。だが、扉が完全に閉まると、驚くことに、昼間の太陽のような明るさで眩しくてクシャミが出る程であり。何なのか分からない機能なのが、機械的な物なのか点灯するのだ。
「四方の壁が光っているのか?・・・それに、両側の物はなんだ。何なのだ?」
「・・・」
他の男女の三人は、隊長の言葉よりも周囲を見た。その光景に驚き、おそらく、隊長の言葉は聞こえていなかっただろう。そんな、二人の女性の驚きに、前木は不審を感じた。
「この始祖の地の中には、定期的に入っているのではないのですか?」
「そうだ。定期に入っている。だが、今までは、真っ暗だったのだ。それに、ただの壁だと思っていた。それが、透明の壁で、その中に展示物などあるなど知らなかった」
「それなら、壁も透明に変わった。と・・・ほうほう・・・」
「・・・」
四人の男女は、透明な壁の中の物に夢中だった。それは、何か、何なのか、それは、紙で作られた。紙の壺、紙の像、この世に存在する物などが全て紙で作られて飾られていたのだ。その像や壺の後ろの壁には、畳一枚くらいの大きさの紙が貼られていた。元は、その紙だという証明のように書かれてあり。折り方なども一枚の紙に指示の通りに折れば折れる。丁寧に明記されていただけではなく、家の設計図のように細やかに用途の説明などを神代文字や幾何学的模様で書かれてあった。そして、四隅には、複雑な神代文字で、宇宙遭難キットと書かれてあるのには、四人が紙に穴が開くと思う程まで真剣に見たとしても誰も気付かないはず。いや、神代文字の初期の文字だったために、その文字が読めなかったのかもしれない。
「隊長。新さんも前木さんも、まだまだ、時間はありますので、いろいろと見ていて良いですからね。私は、この先に要件がありますので、ささっと、自分の要件を終わらせてきます。それとも、外で待つ方がいいのなら外でもいいですよ」
「それなら、今までとは様子が違いすぎる。護衛とは大袈裟だが、姫と一緒に行きたいのだが、良いだろうか?・・・出来ればだが、新と前木と三人で行きたいのだが・・・」
「どうしましょうか・・・」
「それにだが、姫は、この中は安全だと思っているようだが、今までとは違う。皆がバラバラだと、もしもの時の対処ができない。だから、皆で固まって行動したいのだ」
「分かりました。ですが、直系の王族しか入れない場所もありますので、その時は、何があっても入ってきてはなりませんよ」
「それは、分かっている。この先の大広間までしか行かない。それで、良いだろう」
今まで何度も、この先に行ったことを思い出していた。だが、蝋燭のような明かりだけで真っ暗だったが、それでも、姫が何かしていた。だが、何も分からないことを思い出されたのだ。
「はい。それなら、大丈夫ですよ。皆と一緒に行きましょうね」
廊下にすだれの用であり。ひもののれんのようである物。おそらく、紙製で神代文字などが書かれてあるので、何かの効果があるのだろう。その物で廊下が仕切られたいた。姫が先頭で一歩を踏み出した。次に、不思議の機能が起きた。隊長がくぐると、ひもののれんが、虹色のような複数の色で点滅したのだ。まるで、空港の金属探知機のような感じだったのだ。
「えっ、隊長。何をしたのです」
姫に言われたが、隊長は、驚きのため何も言葉にもできず。首を左右に振るだけだった。
始祖の地の中にいる者たちは何が起きたのかと驚くだけだった。それでも、未来人の二人なら何かの警報器に反応したのだろう。そう思うが、その場で動かずに周囲を見るだけだったのだ。だが、直ぐに外から凄い何かが砕け落ちる音が聞こえてきた。それでも、動かずに、いや、驚きと恐怖から動けなかった。そして、次に何が起きるのかと様子を見るしかできなかった。そんな、四人の男女は、始祖の地の中だから分からないだろうが、始祖の地である大きな一つの岩の塊だと思われていた。それが、違っていたのだ。長い年月の間に付着した泥などが固まって石化していたのだ。その絶壁の周囲の岩のような塊が剥がれ落ちて周囲の水の中に落ちるのだった。
「なっなんだ?・・・地震か?・・・」
「始祖の地の巨大な一枚の岩が消えて・・・いや、何か変わっています」
始祖の地から一キロくらいまで近づいていた。周囲には特に大きな木々もなく、巨大な岩だから一キロも近づけば状況が分かるのだった。それを部下が見て、副隊長に指差して知らせるのだった。
「巨大な箱?」
金属のようにキラキラと太陽が反射するために岩が消えた。そう部下が判断したのだ。
「急ぐぞ。姫と隊長が心配だ!。もしかしたら、わしらの助けを待っているかもしれない」
「始祖の地が、あれでは、可能性が高いですね。急ぎましょう」
誰ともなく、始祖の地の異変を真っ先に見つけた。その者に問い掛けた。そして、その者は、指示だと感じて、皆に副隊長の指示を伝えに向かった。
「始祖の地の中は、何事もなければ良いのだが・・・」
歩きである。その行進は、急ぐと指示が伝わったとしても、年寄りだけもあるが、突然に、歩き疲れた。それが、回復するでもなく、肉体の機能が若返るはずもなく、急ぐ、救出などの気迫だけは感じるが、隊の進む速度は変わらなかったのだ。それから、三十分で始祖の地に到着し、さらに、扉までには十分間が過ぎて、やっと着くのだった。
「扉が光って・・・いますね。なぜでしょう?・・・」
皆が同じような驚きを表して足が止まるのだった。だが、副隊長だけは、進み続けた。
「そうだな。何が起きているのだ?」
そして、慎重に進み続けて、後、一歩で扉の前に着く。すると・・・。
「禁制品の持ち込みは許されていません。そのために扉は開きません」
扉から女性らしき音声が流れた。
「えっ、誰だ?・・・どこから?・・・禁制品?・・・」
「もしかして、この衣服ではないでしょうか?」
隊の中の一人が、そのまま動かずに問いに答えた。
「そうだな。皆は服を脱げ。だが、女性は、服を脱がずに数歩下がって待機していろ。男性だけで中に入る」
真っ先に、副隊長が服を脱いだ。すると・・・。
「裸体での入室は許されていません。こちらで用意する物を使用して下さい」
扉の上部、大型の電算機器であるようなコンビニのレジからレシートが出る感じの薄い隙間から紙が、畳一畳くらいの紙が出てくるのだった。それは、宇宙遭難キットと同じ大きさで同じく四隅に同じように書いてあった。その紙を手に取って見ると、神代文字で明記されている。その折り方の明細は服だと分かる物だった。驚きは、他にもあった。それは、この場の人数分が出てきたからだ。
「この紙の神代文字は消えてない。服として使用できるだろう。これを折り上げて着替えるのだ。そして、皆で中に入るぞ」
副隊長は不審に思うが、紙の四隅に、宇宙遭難キットと書かれてある。それは、正規品であり。自分たちが神代文字を書いて使う。模造品ではない。そう言う物だったのだ。
「はい」
男性は、その場で着替えるが、女性たちは、半分の人で人垣を作り。その中で着替えるのだ。今度は、着替え終えた者が人垣を作り同じように着替えるのだった。
「着替え終わったようだな。なら、扉に近寄れるか?」
強制的に命令をすれば、扉に来るだろう。だが、自分の意志で動けなければ、始祖の地の中に入っても役に立たない。そのために問い掛けたのだ。
「・・・・」
「大丈夫のようだな。なら、皆で中に入るぞ」
副隊長が、扉に触れようと、一歩近づくと、扉は自動で開くのだった。
「えっ・・・おっ!」
扉の中に入ると、皆は、隊長が驚いた時よりも、いや、それ以上に驚きを表した。
「なっ、ななんだ。これは!」
透明の中の展示物を見ても、用途などが分からない物もあり。驚くのだが、恐怖ではなく、喜びのような好奇心のような驚きだった。そして、このような機会は二度とない。そう思っているのだろう。だから、一文字も忘れないためと記憶違いもしないように真剣に展示物などを真剣に見入るのだった。だが、扉の外から中に入れない者たちが、初めは心配していたのだが、驚きの声や呟きに興奮した心の想いが出たことで、扉の外に居る者たちが、中に居る者たちの世界の宝の全てがある。そんな、心の想いが聞こえたことで、我も我も見たいと、外と中で押し合うのだった。そんな状態を見て副隊長は叫んだ。
「皆に見せる。だから、落ち着け!。直ぐに、全ての者よ。外に出ろ!」
「えっ・・・・」
副隊長の叫びで正気を取り戻して、素直に皆は、外に出るのだった。
「外に出て、直ぐに、班ごとに別れろ」
「はっ!」
「落ち着いたようだな。なら、三十人くらいなら入るのを許そう。だが、我らは、姫と副隊長の助けが必要だと思ってきたことを忘れるな。見る時間や皆の様子などを見て判断する。もしもだが、自分の興味しか考えていない。そう感じた場合は、そんな者たちは必要がない。邪魔になるだけだ。だから、人数を選別して少数で始祖の地の中に入るぞ。その考えで行動し、知識を得るのだな」
「・・・・」
副隊長の声色からでも分かる。その叱責されたことにより、確かに、皆で見ることになるのだが、その様子は歩きながら視線を向ける程度だった。
「ほうほう。お前らの気持ちは分かった。そうだな、機会があれば、じっくりと見る時間を取ろう。だが、隊長の許可が下りればだぞ。それで、いいな?」
「はっ!」
皆は、副隊長の怒りを感じていたことで、おそらく、長々と話をしたことなど一言も耳に入ってないはず。ただ、条件反射のような返事を返しただけだったのだ。
「それでは、皆で奥に入るぞ」
姫、隊長、新、前木が、通り抜けた。廊下にある。すだれのようであり。ひもののれんのようである物を通ろうとしていた。
「ブ~ン。ブ~ブン。ブ~ン」
「ん?・・・行くぞ!」
「許可証明がありません!。この先の中には入れません!」
「おっ!」
「全軍で待機と、そう命じただろうが!なぜに、この場にいるのだ!」
副隊長は、隊長の時と同じく警報と音声が流れるが気にすることなく通り抜けるのだったが、聞きなれた怒声に怯えて立ち止まった。
「たったた隊長!御無事でしたか!」
「御無事など、そんな言葉で誤魔化すな!なぜ、この場にいるのだ!」
「ここは、何なのだ?」
凄く眩しくて、隊長の返事には即答したのだが、目が光に慣れると、この場の見たこともない。様々な物に心が奪われて隊長の言葉など耳に入らなかったのだ。驚くの当然だろう。広さも巨大なのである。小中高の一般的な体育館くらいの広さであり。その半分以上を占める物は、入口の物よりも高度で不思議な物だった。この中の一点でも外に持ち出されても、いや、情報だけでも広まるだけで歴史が変わり。全てのオーパーツの謎が解明される物だった。それを守るためにあるのか、ただの置物なのか、四隅の壁には数十体の紙で折られた全身の鎧の人形とも思える物が並んでいた。
「・・・・」
そんな様子など姫は気付かずに一心不乱で黒板らしき物に神代文字を書き続けていた。
「この場で見たことは忘れろ。そして、直ぐに、ここから出ろ!まだ、間に合うはずだ」
この中に入って直ぐに、姫からかなり厳しく言われたのだろう。その一番に注意された物を自分の身体で隠そうとしている。それが、広い部屋の中央にある石棺のような物であるのだ。その先の正面に大きい黒板のような物が壁に埋め込まれてあり。必死に姫が神代文字を書いては直ぐに文字が消える。それを繰り返していた。おそらく、現代で言うのならばパソコンのプログラムの羅列の書き込みと同じことをしているのだろう。その証明のように四方の壁に掘ってある神代文字などと天井にも同じ物が点灯していたのだ。時々だが、石室の天井板と横の四面の神代文字と幾何学模様も点灯して、何かの起動する感じに反応していた。それとなのだが、この場の誰も気付いていないだろうが、四隅の壁に並ぶ紙の鎧の人形の目が人に反応していたのだ。
「完了しました。前木さん」
「はい」
「この黒板を部屋から切り離しましたので、前木さんが、好きなように使えるようにしましたわ。それでも、正しく、詳しく、何がしたいかを書いて下さいね」
姫は、黒板に、未来で使うような普通に利用されている封筒の画面を見せた。
「ほうほう、郵便番号の箇所のような箇所には、二千年の未来と書けばいいのですね」
「はい。そうです。まず、二千年後に届き、前木家の初代の関係者の先祖に届きます。当然のことですが、届き先はありませんので、複数の人々に手渡されて保管するために大事な物だとして桐箱に入れられるのです。そして、何度も宛先人を捜索されて数十年か数百年の間が過ぎます。その期間で、自分が想定している古い感じが出来上がるでしょう。そして、届き主が誕生すると、数年後に、送り先の主が亡くなったことで誕生の祝いに間に合わなかったとして誕生の日の祝い品として届くでしょう。それから、桐箱に入っていない。別の手紙のことです。その指示の手紙になりますが、天井裏に保管して置くと、家族に幸運などが訪れるとして、手紙の指示の通りにするでしょう」
「今の話しの通りに、黒板に表示してある封筒の手紙のような物に書くのですね。本当の手紙なら宛先としての箇所に実行書と書いてありますが、その個所に書くと、書いた通りに実行されるのですか・・・ほうほう」
「そうです。そうですよ」
「それで、封筒の裏面には・・・」
「それが、一番の肝心なことなのです。黒板に表示してある封筒の画面の裏側の面に、桐箱と付属としてある手紙の内容を書くのです。一つ目の指示が、何々家の者は、我ら一族の先祖からの仇の末裔だとして末代までも許してはならない。と、二つ目が、成人の日に父の上司の縁戚の女性と許嫁だと知らされる。その日の昼、祝いの祈祷日に、天井から桐箱と手紙が落ちる。この後は、前木さんが、知っている歴史です」
「わしが、縄文時代に来るまで、いや、縄文時代に来てからも考えていた。それとは、かなり違います。本当に、手紙は届くのでしょうか?。一番の心配というか、不思議に思うことですが、どのような方法で、天井裏から廊下に、桐箱を落とすのですか、それは、大丈夫なのでしょうかね」
「それが、時の流の自動修復なのです。死ぬはずの人を生き残したり、生きている者を殺したり。正しい歴史を作るために、いや、ある者のための未来のために、未来の本を過去の人に届くようにする。おそらくですが、わたくしの運命の相手と結ばれるために、前木さんを時の流の意志に利用されているのかもしれません。それで、縄文の時代に来られた。そう考える方が正しいかもしれません。だから、必ず、前木さんの思いは叶うはずです」
前木は、自分が縄文時代に来るためにしたことを否定されて、複雑な表情を浮かべた。
隊長は、何度も何度も同じ命令を部下に命じていたのだ。それも、必死で部下の命を心配している様子だった。だが、初めて見る物を見て興奮していた。それでも、最前列の者を言葉と腕や身体を使って廊下に押し戻すと、廊下の者たちが好奇心で前に出てくる。そんなことを何度も繰り返していた。それ程までに老人と老婆が興奮していたのだ。
「何をしている。わしの命令が聞こえないのか、直ぐに外に出ろ。直ぐに外に出るのだ!」
この隊の肝心な命令を実行する者である。隊長が怒りの声を上げた。副隊長が立ち尽くしているからだ。
「・・・」
「お前まで、いい加減にしろ!正気に戻れ!」
隊長は、平手で副隊長の頬を何度も叩いて正気に戻そうとした。
「隊長・・・」
「わしも共に行く。だから、直ぐに外に出るぞ。それなら、諦めてくれるな」
「お前ら、隊長の指示だぞ。外に出ろ!」
前列の立ち尽くしている者たちも、自分が頬を叩かれた。それと同じに部下の頬を叩いて正気に戻した。それでも、全体に伝わなかったこともあるが、隊長は、仕方なく人を掻き分けながら指示を叫びながら外に向かうのだ。そして、やっと、外に出なければならないのだ。と皆に伝わり、皆も外に出るのだった。
「なぜに、待機と命じたのを無視した。それと、この場に若者たちがいないが、何をしている。何と指示を出したのだ!若者らに何をさせているのだ!」
皆が外に出ると、隊長は、再度、怒りが込み上げてきて、副隊長に怒りをぶつけたのだ。
「命じられた場所で、大人しく待機をしているはずです」
「お前・・今・・はず・・・そう言ったな」
「はい」
隊長は、舌打ちをした後のことだった。懐から一枚の紙を取りだして、文字を書いて紙飛行機を折っていた。
「たっ隊長。失礼だと思いますが、紙飛行機を折っても飛ばすことはできません」
「そうだろうな」
「それなら、なぜ?」
「この紙なら大丈夫だろう。姫から頂いた物だ。これは、落書きメモ帳と言う物らしいのだ。これなら、あの部屋から持ち出していい。そう言われて頂いた物だ」
「あの部屋にあった。その一つですか・・・ほうほう・・・」
「そうだ。その一つなのだ。だから、大丈夫だ。まあ、連絡をしなくても、あの老婆の班なら問題はないだろう。わしの師匠でもあるし、わしの知らない知識もある。だが、確認だ。若い者たちが多いと、何か困っているかもしれないだろう。そんな理由で飛ばす。だから、届かくても良い。わしが満足したいだけなのだ」
副隊長との話が終わると、文章の再度の確認もしないで紙飛行機を飛ばすのだから本当に些細な内容なのだろう。
「とっ飛びました。飛んで行きますね。それにしても、かなり早くありませんか?」
「確かに、だが、普段の数値の設定なのだが、やはり、紙の質がいいと、紙飛行機の反応も、いや、段違いな性能に向上するのだな。驚きだな」
「はい。驚きを感じています」
「何か、聞きたそうだな。それは、何だ?」
「あの部屋にあった物は、全て稼働するのでしょうか?」
「おそらくな。何の用途か分からないが稼働するだろう」
「それでしたら、この地域だけでも神代文字の効果を以前の状態に戻す。そんな物はないでしょうか?」
「それは、無理だろう」
「それなら、あの老婆というか、師匠にも分かりませんか?」
「お前なぁ。あの老婆に聞こえていたら即、命はないぞ。今は、影に撤している。そんな理由から現実の何か欠片の情報でも洩れるのを恐れているからな。まあ、老婆の仲間の噂では、歳を誤魔化したい。だけとも聞くが、たしかに、わしが初めて会った時も老婆だった。もしかしたら、わしよりも若いのか?・・・相当な年寄りなのか?・・・不思議な老婆なのだ。だから、話題に上げるのも、老婆を調べるのも止めるのだな」
「そう言う方なのですか・・・全てを忘れます。そして、この場のことは聞かなかったことにします」
「そうだぞ。そうした方がいい」
「隊長も副隊長も何の話をしているのですか?。私たちの、この後の指示をお願いします」
「副隊長。今の話しは聞かれなかったようだな。良かったな。あの老婆の隠れ信徒が、誰なのか、どこに居るのか、どこに居てもおかしくはないだぞ」
「・・・・」
副隊長は、部下たちを見た。殆どの者が、扉に向かって、良い思い出になりました。御利益がありますようにとか、来年も来られますように、などと健康祈願している感じで拝んでいたのだ。そんな姿を見て安堵するのだった。
「この後か・・・だから、待機していろ。そう言ったのだ・・・」
隊長は、ぶつぶつと独り言を呟いていた。門から外に出てからのこと、副隊長との話しなども、皆も祈祷が終わり。隊の皆も隊長、副隊長からの指示を待つにしても長いと感じる時間が過ぎた時のことだった。
「ん?」
隊長の頭の髪に何かが飛んできて髪に絡むのだった。
「どうされましたか?」
「紙飛行機の返信が来たみたいだ」
「えっ!」
副隊長は、紙飛行機から殺気を感じたことで、心の中では堪えたが、身体が勝手に一歩だが下がるのだった。それでも、愛する人を救う気持ちで下がった一歩を戻した。
「・・・」
隊長は、髪に絡んだ紙飛行機を手に持ち中身を読むために開くのだった。
「赤文字!」
「そうだ。赤文字での返信だ。今では誰も作り方は知らない墨だが、老婆は、この赤文字で返事を書いて寄こす。この赤文字だけでも、どんな人か想像が付くだろう」
「はい。それで、返事の内容とは・・・・」
「今から読む・・・少し待て・・・」
「・・・」
紙飛行機の返信の内容は、調査報告というよりも面倒だと感じる文面であり。これ以上何か事件などが起これば押し付ける感じの返信の内容だった。だが、意味は分かるが初めて見る言葉だった。それは、添付と書いてあり。その下に小さく、文字を黒墨で塗りつぶせと書いて有り。不思議を感じたが、指示の通りにしたのだった。
「おっおおお!凄いぞ!同じ紙だと言うのに、あの部屋の物だと違うのだな・・・えっ?」
飛行機を折ってあった。あの紙に動画が再生するような物が現れた。現代的に言うのならば、パソコンのソフトの動画を見る感じの物だった。初めは、何なのか想像もできない物であり。ただ驚きと期待だけだったが、それでも、再生されるまで興奮は続いていたのだ。そして、再生されると・・・。
「なっななな~んだ。これは!」
「あっ」
「副・・・隊長・・・お前は、部下に何て命令をさせた!」
隊長も知らない。老婆の隠している知識の一つで録画されたのだろう。再生された動画は、待機と命じられた場所から全部隊が行進した場面から若い女性と若い男性が裸になる場面だった。特に、女性が紙の服が千切れて裸の場面が多かった。
「これでは、若い女性は、もう使い物にならないぞ。また、裸になるかもしれない。そう思っての恐怖からな。だから、待機と命じたのだぞ」
まだ、動画の再生は続いていた。西から来た部隊が、少々騒がしく苦情を言っている場面だった。そして、偶然に、再生の動画に手が触れてしまったことで音声が出たのだ。だから、余計に動画に気持ちが集中して真剣に夢中で見続けた。
「この先は危険なのです。本当なのです。ですから、落ち着いて下さい」
「そんなこと信じられるか、それを証明するかのように、年寄りは一人も居ず。若い者たちだけで、自分たちを包囲しているではないか!」
「それは、誤解です。我ら狩猟民族は、主力は年寄りの方なのです。勿論ですが地位も上ですし、我らが残ったのは、足手まといだから置いて行かれただけです。それでも、何かあれば、命を懸けて、西から来た人達を守る覚悟があります」
「そんなことなど信じられるか!」
「それでは、なぜなのか、その証明を見せます」
女性は、ある方向に向かって駆け出した。隊長には、まるで、自分を見て向かっている感じで駆け出してくる。そんな動画を見て、隊長は、驚きの言葉を出したのだ。
「ウォ!」
「キャー」
老婆の部下の女性は、十メートルも走っていないが、紙の剣は丸まった筒の様になり只の紙に戻り地面に落ちた。と同時に、女性の衣服や下着の全てが平らな紙に戻り、女性は全裸になるのだった。それを見て、西から来た者たちは、男性も女性も驚きの声を上げるのだが、驚きが異なっていた。男性は、驚きのような興奮を上げ、女性は、自分のことのように心配するだけではなく、裸体になった女性の人生が終わったかのように顔を青ざめるのだった。それでも、内心では、直ぐにでも駆け寄り助けたかったが、裸体になるのが怖くて一歩も動けなかった。だが、男性の方では違っていた。
「ただ、裸になるだけだろう。それくらいなら、我らは行く!」
「それだと、私たちが作った。あの信頼の証だと思っていた。あの紙の剣は、只の紙に戻りますよ。それこそ、私たちが怒り、悲しみ、信頼を失くし、失望して、戦う気持ちが芽生えてもいいのですね。それでも、この場から離れるのですか?」
女性の仲間が、裸体になった女性の救出よりも西から来た女性には感謝を男性には説得するのだった。
「そんな心配しないで下さい。大丈夫です。あの子の気持ちを無駄にさせませんわ」
「お前らは、何を言っているのだ?」
「うるさいわね。あの子が死を覚悟してまでしてくれたのよ。女性なら分かります。好きな人でも恥ずかしいのに、それなのに、好きでもなく大勢の者たちの前で、その中には嫌いな人もいたでしょう。それなのに、裸体を見せる。その覚悟は伝わりました」
「何を言っているのだ。死を覚悟とは、考え過ぎだろう」
「あんた達って一瞬でも、あの子の裸体を見て喜んだでしょう」
「そっそんなことはないぞ。自分の身体で危険を教えてくれたことに感謝と、それと、可哀そうだと思ったぞ」
現地の様子を伝えることは終わったのか、それでも、だんだんと、動画は全体を見せるように切り替わり。西の男の集団だけを囲うようにして説得というか、皆で抑え込む感じの状態のまま動画が終わるのだ。それは、隊長の指示や操作などではなくて動画は勝手に閉じられたのだった。
「お前!この様になることは想定して、若者だけを放置してきたのか?」
「まさか、こんな状態になるなど想定していませんでした。隊長、信じて下さい」
「まあ、わしが信じようが、信じまいが、あの老婆に、どう思われているのかなども、わしは、知らんからな。このような状況になったのは命令を無視した結果なのだぞ」
「そっそんな・・・ん?・・・」
「ん?・・・」
「ひっ・・隊長・・・中・・・中から・・・」
「皆の気持ちは分かった。分かったから落ち着くのだ」
扉の奥から聞いたこともない。異国の言葉で男性の言葉が聞こえたかと思うと、人が狂った時のような笑い声が響いてきたのだ。
扉の奥からであり。おそらく、廊下の奥の部屋からだろう。本当に狂っている感じなのだ。例えだが、長い間のこと、それも、何年も真っ黒な洞窟に迷って、やっと、外に出られたが正気を失くした。そんな感じの笑い方に思えた。
「お前らは、この場で待機だ。わしが、姫を助けに行く!」
隊長は、副長に視線を向けて頷くのを見ると、部下たちに指示をした後に、副隊長と二人だけで扉の中に駆け出すのだ。驚くことに、廊下を踏むと同時に意味不明だった言葉が理解できたのだ。おそらくだが、始祖の地の中だけに翻訳機能が設置しているのだろう。
「いっ意味が分かるぞ」
「そっ、そうですね」
その不明な男の言葉が理解できると、その場に立ち止まって紙の剣を抜いた。不明な言葉の時は不安と同時に何が起きたのか、と心配するが、言葉が理解できると、殺気だけを感じたのだ。それで、戦いのための心構えをしたのだ。そして、忍び足で進むのだ。おそらく、二人には分からないだろうが、警報システムは完備しているはずだから意味はないだろう。それでも、忍び足のままで、ひものれんのような物から顔だした。先ほどまでは警報が反応を示したはず。それが、何の反応がないのは不審者と認識していないのか、いや、違うのだ。狂った笑い声から判断ができた。まるで、何かが、何かを達成できた喜びのようであり。達成できたことで、全ての機能ではないだろうが、幾つかの機能の一つである。警報システムは解除された感じなのだった。
「我は、帰れる。やっと、故郷に帰れる。何万年も待ったのだ。やっとだ。やっと・・・」
笑い声より小さい声が、録音された声なのだろうか、何度も同じことを呟いている感じだったのだ。だが、始祖の地の中に居る者たちは、誰一人として気付いていないのだった。
「・・・・」
隊長と副長は、そっと、気付かれないように中の様子を見るのだった。
部屋の奥の奥の方で、前木は、壁に埋め込まれた。あの黒板と格闘していた。
「未来の物と違います。正しく実行するならば、正しい花押しを書いて下さい」
黒板に書いた物と、恐らく未来の物である透明で同じ物が本当なら重なるのだろう。だが、二つは重ならない。もう少し詳しく言うのならば、現代の指紋を確認する機械のように花押しの部分だけが重ならずに赤く反応していたのだ。
「駄目です。わたしが書いた物では対応してくれません。姫が書いてくれませんか?」
「そうですか、何で駄目なのでしょうね。仕方ないですわね。いいわよ」
「すみませんね」
「ん?・・・この花押し・・・って、わたくしは、一度も使ったことはありませんわよ。それでも、いいのですか?」
「お願いします」
「・・・・駄目みたいですね」
姫は、何度も、いろいろな花押しを書いては、赤く反応して訂正を求められるのだった。
何度も訂正を繰り返すが、駄目と感じたのだろう。大きな溜息を吐いて書くのを止めるのだった。その様子を見て、前木は、頭を抱えてしまった。
「前木!あの時の約束は、今のようだな。わしが書こう」
「隊長!」
二人は、振り向きながら同時に叫ぶのだった。
「隊の皆と帰ったのではなかったのですか?」
「外で、皆を説得していた。もしかして、全員を入れても良いのか?」
「いや、それは、困ります」
「そうだろう。それなら、前木との約束を果たして、外で皆と待つことにするよ。共に帰れるのだろう。新しい村のことでも考えながら酒盛りでもしょう。それと、新を正式な仲間として、いや、村の一員として、家を建てる場所でも考えよう。それとも、姫の祝いの方が先なのかな、その時は、周囲の村の者も呼ぼう」
隊長は、姫の所に向かうためだろう。それも、止められるのを恐れてなのか、歩きながら本心なのか、思い付くことを話しているのか、握手ができる近くまで話し続けた。
「そうだろう。なぁ・・・その筆で、花押しを書けば終わるのだろう。なぁ・・・」
隊長は、姫に向かって右手を伸ばした。
「・・・」
姫が、返事に困ったのか、誰かの指示でも仰ごう。とでもしたのか、虚空を見るのだった。その時に、前木は、これで、縄文時代とも新とも別れる。そう感じたのだろう。
「何となく、これで、未来に帰れそうに思う。新も一緒に帰らないか?」
「えっ?」
「姫が、手に持っている。その筆だが、未来で愛用していた気がするのだ。だから、手を握っていたら、共に帰れそうに思うのだが、どうする?・・・」
「・・・・」
「姫のことか・・・それなら、これを渡しておく」
前から、新に渡すつもりだったのだろう。手の平サイズの短冊みたいな物を懐から取りだして読み上げながら文字を書くのだった。
「あっ!」
「君静居国(きしい)こそ、妻(つま)お身際(みぎわ)に、琴(こと)の音(ね)の床(とこ)に吾君(わきみ)お、待(ま)つぞ恋(こい)しき」
前木は、書き上げて、新に手渡しながら耳元で囁いた。
(相手の目を見て、自分の気持ちを込めて読み上げるのですよ)
「ありがとう」
「新・・・さ・・・ん」
姫が惚けていると、姫は、筆を足下に落としてしまった。それを隊長は手に取った。
「前木、いいな。書くぞ」
「はい」
隊長は、黒板に、花押しを書いた。すると、赤く反応していた箇所が、青く変わった。
「ほら、前木、この筆で、○とかの印を書くのだろう」
「そうらしいですね」
隊長は、前木に筆を手渡した。そして、○を書くと、身体全体に痙攣を感じた。
「おっ!」
「未来に帰る。そんな感覚を感じます。それでは、さよなら・・・」
前木は、この場から消えた。
「無事になのか分からんが、未来に帰れたようだな。もし新も未来に帰りたいのならば、わしを頼るといいだろう」
「えっ?」
「そうだろう。わしの花押しが、未来に帰るのに必要だと思えるのだが、違うのか?」
新は、何て答えていいのかと、隊長と姫を交互に見たのだった。
「そうですね。縄文時代に来た。その理由が何もないのなら、そうなるかもしれませんね」
「・・・」
新は、二人は、何かに対立しているのかと、親子のような接し方かと思ったのに、なぜなのかと、不審に思ったのだ。もしかして、前木が居なくなったためなのか、元々は、こんな関係だったのか、そう思うのだった。そんな雰囲気に我慢できずに、姫が、隊長に問い掛けたのだ。
「隊長。何か、私に言いたいことがありますか?」
「あるぞ。この狂っている感じの笑いをする者が、先ほどから言っていることは本当のことなのか?」
「本当のことです」
「こいつが、我らが知る。あの始祖さまなのか?」
「そうです。それと、先ほどから言っていることは本当のことです。それと、正直に言うと、三年前から同じことを言っていました」
「三年前からだと!」
「はい。おそらく、二万年後の未来で、すでに、この地球から故郷の星に帰ったはず」
「それなら、なぜ、この狂った笑いが止まらないのだ?」
「本当に分かりませんか?」
「自分が、いや、始祖さまが、この地に居たことの存在を消す」
「そうです」
「それなら、わしらが代々してきた。異物を回収していたのは、始祖さまの復活ではなくて、自分たちの存在を消していたのか?」
「そうです」
「それなら、こいつが、先ほどから言っている。宇宙遭難者が文明を興したのなら宇宙遭難者が救助されたら文明が滅ぶのは当然だと言っているが、わしらは、自殺の準備をしていたことになるのか?」
「そうなります」
「そのことを全て知っていて、わしらを騙していたのだな!」
「いえ、騙していたのではないのです。神代文字などの効果が消えるだけです。西の者たちと同じ暮らしをするだけです」
「それは、原始人と同じ生活に戻る。わしらの文明は滅ぶのだぞ」
「たしかに、滅びます。ですが、血族が絶えるのではなく、未来では、私たちの今は、縄文文明とも言われています。それも、狩猟生活から定住生活に変わった。そう歴史に残っています。それでは、駄目なのですか?」
「姫。それは正気で言っているのか、勿論、駄目に決まっているだろう!」
「それなら、未来を変えたい。そう言いたいのですか?。それこそ、無理ですよ」
「我の、この先の未来を変える。お前らは、そう言ったのか?」
姫と隊長の会話を聞いて、人工知能である機械が、二人の会話に入ってきた」
「違います。例えの会話の遊びです」
「遊びだったのか、わかった」
「何を言っている!誰が、原始人のような生活をしろ。などと言われて納得できるか!」
「決定権の無い者の言葉に、我は対応していない。会話の遊びと認識した。変更するか?」
「なんだと!」
「変更はしません」
「姫!。いや、お前は、誰の味方なのだ!」
「隊長、まずは、落ち着いて下さい。それにですが、味方とかではなくて、未来を変えられないのです。それを分かって下さい」
「そうだ。前木と同じことをすればいいのだ。この我々が住んでいる。この地は未来では縄文時代と言われている。この時代の始祖の地が原因のはず。それなら、始祖の地を消滅させれば、未来は変わる。それしかない」
「何を言っているのです!」
「副隊長。この場にいるな!」
「はい」
「外の皆を中に入れろ。この中から全てを叩き壊す。駄目な時は、外からも壊すぞ!」
「はい。直ぐに、皆を連れて戻ってきます」
本当に直ぐに戻ってきた。副隊長が中に入ると、老人、老婆が一人、五人、十人と、すだれをくぐって中に入ってきた。そして、目の前の様々な物を壊そうとして、紙の剣で叩き斬るのだ。だが、小さな一つの傷も付かない。
「決定できる者。これは、遊びなのか?」
「皆、皆、止めて下さい。本当に怒らせたら大変なことになります」
「邪魔です」
「姫である。わたしに斬りかかりましたね。皆の使命は何ですか、忘れたのですか、姫である。わたしを護衛するための一族のはず。何を考えているのです」
「一族を救わない。導くこともしない。そんな神も姫も必要はない。構わないから斬れ」
皆は、隊長の命令でも姫を斬ることはできず。だが、邪魔だと殴ろうとした者は多い。
室内の中に有る様々な物に、紙の剣で差し,斬りを繰り返したが、一つも傷も付かないだめに、不審を感じていた。いや、驚いていたのだ、今までの人生で、紙の剣で切れない物がなかったからだ。それに、敵が持つ武器を切断した時の、敵の驚きの顔を見るのを楽しかったのだ。おそらくだが、この隊の者は口にしないが同じ気持ちで楽しんでいたはずなのだった。それが、その時の敵の顔と同じ驚きであり。恐怖の表情のまま斬ろうとする物を何度も何度も斬りつけるのだ。だが、一つの傷も付かない。そのために正気でない者もいた。仲間に斬り掛かる者もいたのだ。そんな状態のままなのだから仕方がないかもしれない。何人かが、姫に斬り掛かる者もいたが、姫の言葉で一瞬だけ戻り。また、違う物に斬り掛かるのだった。そんな中で、自分の紙の剣が折れたのだろうか、なまくらの刀とでも思って捨てたのか、ある物に殴る。ある物を倒そうとした。そんな中の一人が・・・。「姫~危ない!」
新は、老人が、姫に殴り掛かろうとしたことので、姫の手を握って自分に引き寄せたのだ。その時は、姫を助けたい一心だったので恥ずかしさがなかったのだが、心臓の鼓動が聞こえる程に近いと、自分の振動の鼓動が早くなってきたのが分かる。その鼓動が変な気持ちに変化した。もしかしたら、この場で殺されるかもしれない。それとも、性欲だったのかもしれない。どっちの意味としても、心臓の鼓動は、今しかない。そう言っているように思えたのだ。その今とは、いろいろと思案しなくても、一つしかなかった。自分の心の想いを伝える。その言葉だった。前の気持ちなら考えらないことだ。この場の状況だから一瞬で覚悟を決めたのだ。
「姫!」
「なっなに?」
「一緒に未来に行きましょう。その理由は、私の心の想いから思ったことです。今、自分の気持ちを伝えます。わたしと結婚して下さい。必ず幸せにします。お願いします」
新は、珍しく、一気に、すらすらと、言葉を詰まらせることなく想いを伝えた。
「そんなことを今言われても、今の状況では無理としか言えません」
「姫には死んで欲しくないのです。それでは、仕方がありません」
「何を言っているのです。仕方がないとは何です?。何をする気持ちですか」
新は、真剣な目と表情で、姫の目を見た。姫は、その目を見て逸らせることが出来なかった。だが、何を言われるのか想像は出来たのだが・・・。
「君静居国(きしい)こそ、妻(つま)お身際(みぎわ)に、琴(こと)の音(ね)の床(とこ)に吾君(わきみ)お、待(ま)つぞ恋(こい)しき」
そして、歌を詠みあげた。それを聞いては、拒否ができないのだ。特に、前木が書いた物には、神代文字での機能も書き足してあったのだろう。
「酷い。こんな状況で、強制的になのですか、わたしの思いは・・・あっ・・おか・・・」
この世界から消える時、新から隊長に視線を向けて、隊長も一瞬だけ気付いたが、破壊に気持ちが向いていたために、視線を逸らしたのだが、姫の声が聞こえた。
「おかあさん・・・」
「えっ?」
直ぐに振り向いたが、「・・・・さん・・」と聞こえたが、その後は、姫の身体が透明になり。段々と消えるのだ。それでも、口は動いていた。何かを言っていた。
「・・・・」
「姫!」
隊長は、正気に戻った。姫が何を言いたいのか分からない。だが、隊長には「おかあさん。助けて!」と言ったように思ったのだ。
「皆、何をしても壊せない。だから、もう止めろ」
「・・・」
皆は、血に狂ったかのような状態だったために普通の声量では耳に届くはずもなかった。
「破壊活動は、やめろ。そう言っているのだ!」
「はい」
隊長の怒声というよりも殺気を感じて、皆は、手の動きも身体の動きも止めた。皆が自分の言葉を聞いて破壊活動が収まったからだろう。先ほどの最後の姫の言葉を思案を始めた。それと同時に、幼い頃からの姫を思い出せる余裕ができたのだ。
「そうだった。姫は、父や母もしらないで育ったのだった。皆をお爺さん。お婆さんと言っていた。だが、わしには、隊長と言っていた。その意味は分かっていた。姫が、わしを母と重ねていると、未来に行ったこと過去に行ったこと、不思議な世界に行ったこと、いろいろ話をしてくれた。毎回、赤い糸の人とは、会えなかった。そう悲しそうな表情をするが、直ぐに、皆のことを考え、皆を救おうとして、神代文字の勉強をしていたのだった・・・そうだったね。自分の思いを心の底に隠している子だった。それなのに、わしは・・・」
隊長や副隊長と皆の内心の気持ちを表していたのか、部屋の中で響いていた。狂ったような笑い声は止んでいた。
「我が、故郷に帰りたかったのは、妻にも会いたかったが、息子に会いたかったのだ。息子は、やっと、両手で数えられる程度の文字を憶え、その喜びから厚紙に憶えた文字を書いて見せてくれた。「何でも切れる。紙の剣だ」などと言って、叩いてきたのだ。だが、それを我は、出航の時間が迫ってきたことで、適当に相手をしてしまい。息子は泣きそうな様子のまま家を出たのだ。それが、最後だと思わなかったのだ・・」
「そうだったのか・・・」
隊長には、泣き声のように思って、何も思わずに言葉が出ていた。のだが・・・・。
「遊びは、終わったのか?・・・もう良いのか?・・・」
先程の人の声ではなく、機械の音声で、なぜか返事が来た。
「遊び?」
「今まで、剣術の遊びをしていたのだろう?・・・違うのか?・・・」
「わしらが、この場の全てを壊そうと真剣にしていたことが・・・ただの遊び・・・」
「この場に、決定権の者がいなくなった。そのために、主に、指示を仰いだ。その結果だが、二万年を待ったが、四万年を待っても良い。となった。遺物の回収も八割で良い。とのことだ。神代文字の機能は、場所場所の限定だが、いつ消えるかも分からないことなのだが、この先は、放置と決定された。良かったな。剣術の遊びは、出来ることになったぞ」
「神代文字の効果が持続する。その場所は、どこだ?。それと、神代文字の効果が消えるのは、いつのことだ?」
一言も、返事は返って来なかった。それでも、カタンと音がしたので、足元を見てみると、神社でお祓いする道具の棒が、おおぬさ、が落ちていたのだ。
「これで、調べろ。そう言うことなのか?」
隊長は、虚空に向かって叫ぶが、勿論のことだが、返事はなかった。
「始祖さまが、残してくれた。遺物を探そう。神代文字の効果が残っているのを探そう。それを探しだして、神として祭ろう。そして、未来にいるだろう。我らの姫の手に届くように歌を残そう。それと、姫が、いつの世でも暮らせるように神社を建てよう」
「はい。若者らを迎いに行きましょう」
「そうだな。まず、あの村に戻り。一つ目の姫の神社を建てるとしよう」
「それが、いいですね。ですが、これ以上のことをするには、腰の方が大丈夫なのか、それが心配です」
「何を言っているのだ。若者たちの仕事だろう。何事も修行だ。修行」
「おまえさんは、仕事をしたふりの酒盛りしか考えていないのだろう」
「何を言うか、お前たちは、嫌な仕事をする時はよく呆けるよな。それは、本当の呆けなのか、嘘なのか、わしは、呆けないからな。お前らが、呆けた。後の指導は、わしがするのだぞ。お前らを含めた全ての現場監督をするのだ。仕事後の酒のことでも考えなくては仕事など、やってられるか、そう言うことだ。分かったか」
先程までのことが嘘のように穏やかになり。この部屋から出るのだった。正面の扉に出る通路でも何も興味を感じていないのだ。先ほどの始祖の話しで若者たちの修行と言う遊びに心を満たされたのだろう。正面の扉を通り過ぎても、誰一人として振り向いて興味を感じる者は、誰もいなかった。だが、その中には、もしかすると、宴会を思い描いている者がいたとしても、内心の気持ちなど、微かでも隠してはいない。だから、何も問題はなかった。全ての者が、若者たちのことしか考えていないのは、確かなことだったのだからだ。そして、未来にいるだろう。姫のために未来に何かを残して手助けになってくれたらよいと、そう思っていた。
そして、姫のことだが、令和の現代に、前木の家の玄関の前に、新と現れるのだった。
「姫、お待ちしていました。この家が、私の家です」
「ここが・・・なのね・・・」
姫は、前木から聞いていた。その現物なのかと、玄関、庭、建物の全体を見ては楽しみを感じていた。まるで、昔の物語を聞かされて、その現地にきた。そんな気持ちだった。
「妻には、全ての話しはしてある。新と一緒に家の中に入って、茶でも飲みなさい」
二人は、居間に入る。と、あの老婆が居て、新は、頭を下げるのだった。
「おかえり、なんか、身体だけでなくて、いろいろとね。逞しくなった感じをしますわよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「さあ、座って下さい。ミントの紅茶を飲みましょう」
「はい」
二人は、同時に返事をしていた。その様子を見て、二人の老人は、くすくす、と笑うのだった。そして、何かに納得したかのように頷き合うのだ。
「美味しいでしょう」
「はい」
「美味しいですね」
「新さんは、少しでも早く家に帰りなさい。家で家族が心配していました」
「本当ですか?」
「そうですよ。もう一杯のミントの紅茶を飲んだら帰りなさいね」
新は、姫の顔を向けた。
「姫は、この家で預かります。何も心配しないで家に帰りなさい」
「うっ・・・・」
「また、明日でも、遊びにきなさい。その時にでも、四人で話し合って、今後のことを話し合いましょう」
「はい。分かりました。家に帰ります。ご馳走様でした」
新は、大人しく家に帰るのだった。そして、三人なると、姫に相談するのだった。二通りの選択がある。と、前木家の養子になるか、神社の巫女になるか、その選択だった。その神社は、隊長の考えで、どの時代でも神社の巫女になれるように子孫に託した。その話をしたのだ。それと、姫が安心するように話は続くのだった。姫が消えたことで、皆は正気に戻り。姫にしたことを許して欲しいと書いてあった。そう伝えるのだった。
「その書簡が見たいのなら見せますよ。ですが、もし出来れば、巫女になるか、和風の結婚式の時に、それを読んで欲しい。そう言っていました。もし巫女になる場合は、おそらく、新と違う人が好きになったのだろうから、あの歌の対処の方法を明記してある。そうらしいですよ」
「そんなことが・・・」
「まあ、当分の間は、この家で寛いで下さい」
「はい。宜しくお願いします」
そして、三人で、食事を食べて、少し早目のお風呂に入り。今までの疲れを取るために用意された部屋で布団を敷いて寝るのだった。直ぐに、寝息を立てる。その寝顔は、この先の未来には夢のような希望だけがある。そんな笑顔だった。
2019年8月13日 発行 初版
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羽衣(かげろうの様な羽)と赤い糸(赤い感覚器官)の話を書いています。