1599年、旅芸人の集うロンドンに作られた「グローブ座」。茅葺き屋根、円形に近い多角形の建物で、外舞台・内舞台・二階舞台の三層構造になっていた。1613年に火事で焼け、翌年再建するも1644年にピューリタン革命の煽りを受け取り壊された。
　その後300年余りの時を経て、1997年「シェイクスピアズ・グローブ・シアター」として再建。シェークスピアが活躍した初代グローブ座の再現を目指したもので、鉄骨を一切使っていない「真正の16世紀の木造建築」とされる。

　2001(平成13)年7月19日～31日、ロンドン・グローブ座にて中西京子の和紙人形展「地球を和紙で包みたい」が開催された。16世紀のグローブ座と金丸座(日本最古の芝居小屋)の精巧な模型は実物の1/15。人形の数はグローブ座が700体、金丸屋550体、計1250体。制作には各七年かけたという。
【現地での紹介文】
　Japan 2001 is an ambitious programme of cultural, educational, and scientific events being held throughout the United Kingdom. 'Wrap the Globe in Washi' is a remarkable exhibition comparing Japanese and Western drama culture through traditional Japanese Washi.
　　　　Mickel Blakenham U.K.Chairman
　　　　Naohiko Kumagai Japan Chairman
　「JAPAN2001」という野心的な企画のもと、いま英国全土で文化・教育・科学イベントが開催されています。「Wrap the Globe in Washi」は「和紙」を通して日本と西洋の芝居文化を引き合わせる注目すべき展示です。

1500年の歴史を持つ越前和紙の最大の特徴は、顧客の求めに応じて
「何でも漉く」こと。
2001年当時の長田製紙所は、バブル崩壊による景気後退およびこれまでの主力であった襖紙の需要減少を受け、手漉き和紙への拘りはそのままに新しい切り口を模索していた。1980年前後から始まった地元の紙展やアートキャンプといった芸術振興活動に積極的に参加、「アートとしての和紙」を確立するべく動いていた。
「グローブ座」の仕事(※)が舞い降りて来たのはそんな時だった。

※企画制作：紙の温度株式会社、デザイン：長野隆

山に囲まれた里の小さな工場の中で、
特に気負うこともなく淡々と、
時に笑顔も見せながら、いつもと同じように。
それぞれがそれぞれの仕事をすることで出来上がる和紙が、
はるばる海を渡り、誰も見たことのない世界を作り出す不思議。

　グローブ座ジオラマの背後を飾る太陽と十二宮をモチーフにしたタペストリー。幅３ｍ。原画を漉き込み、その上に和紙の繊維を置いたり薄くかけたりと層を作り、独特の透け感を出している。
　この太陽の下に縦３×横４の十二の星座タペストリーが繋がって、ひとつの大きな作品となる。

　真っ白な紙の繊維を一本一本置いていく。上から粘性のある溶液をかけて留める。四枚並べた紙を三組、十二宮分つくって繋げる。朧にぼやけた十二の星座が、躍動する白い波に乗って浮かび上がる仕掛けだ。

　一本一本の細い繊維が絡み合い繋がって、豊かな空間を作り上げる。完全に遮断するのではない、領域の境はあくまで朧に透いている。人はそれとは知らぬ間に入り込み、彼方の世界に包まれる。
　かつて存在した名も無き人々、その形代としての和紙人形が、束の間息を吹き返す。此方と彼方の狭間にある和紙が両者を分け、同時に繋ぐ。2001年海を隔てた英国で、多くの人がそういった「和」の世界観を確かに体験したのだ。

片隅にそっと記された文字に気づいた人はいるだろうか。
日本と英国との歴史の一ページ、
多くの人が関わる大舞台に、
ひっそりと
だが薄くはない
跡をつけた者の印を。