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「なんとなく」の海を泳いでる私は、
この先何百回生まれ変わったって、
人魚になんてなれやしない。
そんなこと分かってるんだからさ。
足が竦む。手の震えが秒針を超えるのは、
今に始まった事でも昨日終わった事でも無い。
針が重なったら、多分、私は海の一部になる。
ああ、さっき、
吐く息の白さに気付いたよ。
詩「白い海」
朝、目が覚めて。
この世界がまだ始まったばかりと知って、
私の朝、溜息から始まった。
立ち上がる日差しにまかせて、
視界の濁りに目を伏せる。
鳥が鳴いてくれない朝なら、私はいらない。
今日もまた。
私以外の日々が始まる。
詩「朝鳴」
音楽が耳元でしか生きられない事に、
やりきれなさを感じる。
耳元だけじゃ足りないんだよ、
もっと全身を蝕んで。
眼球の奥でも舌先でも同じ様に歌って。
ロックだとかポップだとか盗作だとか、
そういう話はまた今度にしよう。
詩「音の住」
世界中の色を君にして。
私は今日も人間で。
世界って言葉は、まだ言葉としてしか理解出来ないよ。
きっと広いんだろうな、この世界は。
そういえばさっき、幼なじみとすれ違ったんだ。
だからまだ、世界は狭いかな。
それでいいし、それがいいから。
君以外の色が邪魔になった時、
これが恋だって気付いた。
だから私の、世界中の色は君になれ。
詩「世界色」
あの雲も、数秒後にはいなくなるんだよ。
だから僕らは生きてるわけじゃないけど、
時間を大切にしているわけでもないけど、
ただそれが当たり前かのように
日々は進んで止まって、
知らないうちに
触れられない距離にいるんだろう。
詩「雲になって」
世界はいつだって優しいよ。
だから優しくないのは僕らの方だ。
一人でゆっくり暮らしたいと願うのは、
世界の方だ。
だから毎秒、息を吐く度、
ごめんねを乗せる。
なのに毎秒、息を吸う度、
許されている気がして。
世界はいつだって優しいよ。
詩「優しい形」
言葉なんて、ただの日常の当然だよ。
だから私に意味は無いんだよ。
それでも君の言葉だけは、意味の中で息をする。
泳ぐ。泳ぐ。
浮かぶ。
日常の最後の針が濡れた時、
また明日。
意味の無い毎日を、もう一度。
詩「濡れる」
私の中で生まれた愛おしさが、
たまたま人の形をしていたから。
誰かがそれを「恋」なんて名前をつけたから、
その響きすらも愛おしく感じてしまったから。
だから私は、あなたのことがすき。
崩れそうな形をした人型のあなたが、
息をすること。
それを私は「恋」と呼んだ。
詩「人型の恋」
睡眠の上で逆立ちをして、
君は、まだ夏休みだよって笑ってる。
夜と朝がハイタッチする時間だから、
ほんの少しだけ素直になれるよ。
ねえ、まだ時間はあるでしょう?
君の口から産まれた煙は、
曖昧な愛情表現の代表みたいだ。
もう少し、もう少しだけ、始発はそこで休んでて。
詩「夜明け前、夏」
真冬の亡霊が右手を上げた。
視線は私を超えて季節を睨んだ。
負けじと季節も彼を見つめて、
舌打ちの代わりに少しの風を起こした様。
私は季節に殺されないよ。
君が季節を殺さないなら、私は生きてる。
飛べやしないよ。もう羽は亡いからね。
だから私は、季節を抱きしめて、
「もう大丈夫」なんて泣いたんだ。
詩「真冬の亡霊」
枯葉を踏んで季節を越えた気になってる。
君はきっと人生初心者だね。黄色信号は進めの合図なんだってさ。
相槌はいらないから最愛だけを手のひらと奥深くに。
今年が一番寒いね って毎年言う君、頷く私。
やっぱり君は人生初心者だ。
視界を通過するヘッドライトは、私以外を照らしてる。
たかが人間のくせに、この世界の主人公みたいな顔をしてる。
季節も宇宙も、脇役なんだよ。だから君も私も主人公にはなれないね。
深読みはしないで。縦読みもしないで。
つまらない人生になってしまうから。
詩「枯葉」
きっと鼓膜は有限だから、携帯の容量を気にしている暇は無いよ。
それなら、せめて真夜中に君の声と音楽を。心が満たされるためのメロディで永遠を願えるように。寝返りを打つ度に涙が零れるように。一つ、二つ、数える時間が無駄だと言われてしまえば、もうそれまで。それでも、百 まで数えてしまった私はもう戻れない。誘拐された 喜 怒 哀 楽 はどっか遠くで手を振ってるよ。犯行声明みたいな夜明け。それを愛せるうちは、まだ人間だ。手足の意味を覚えてる。視界は狭まる日々だから、この上なく必死に今を駆け抜けて。
君は、確実に、今を生きてる。息の仕方を忘れたら、あの公園で空を見上げて。
貝印を目印に、愛情は正常に。「もうやめなよ」なんて目印からは、もう随分遠くに来てしまったよ。戻れない、戻り方を知らない。ただ目の前の光に視界を奪われるだけ、それだけで息が出来る。
会いに来てくれてありがとう、三度目の青春。
詩「真夜中の唄」
晴れた空からは何も落ちてこないからつまらないね。
私の深層は不謹慎の上で宙を舞う。歌を歌え。
陽気なダンスは私の本当のリズムだよ。
この世界の生き方を押し付けられても困るよ。私の鞄には私以外のスペースは無いし、
君は君でそこにいるべきでしょ。
例えば、この二十年間の意味を一本の映画にでもされてしまったら、
私はきっと悔しくて泣き崩れると思う。
二時間で語り尽くせるなら、息をするのは二時間だけで良かったな。
私も知らない私の人生は、今日も私のための主演作。
フィルムに写らない、それほど綺麗ではないから、私の人生は私のための自信作。
詩「フィルム」
千年続いた幸福も、一秒の不安定に撃ち落とされる。
落ちる姿はこの上なく滑稽で、街ゆく人のレンズにすらも無視される。
心臓は的当ての様、点数発表は来世で待ってるよ。
イヤホンの中の孤独に、私の姿は映らない。
トイレの水が流れる音は、私の代わりに叫んでくれてるみたいだな。
なんて思ってたらもう夜だよ。暗闇にもがく間、瞼の上を朝が通過しても、私にとっては知らない話。君のパーカーのフードが裏返っても、今日も変わらず地球は青いよ。
夜は私を無視して永遠を願うけど、鳥が鳴いたら枕の深さに気付いてしまう朝。
それを無視することが出来ない私は、きっと人間が向いていないんだよ。
私は私を知らないフリで、千年間の幸福は始まった。
詩「千年幸福」
真夜中は一瞬だった。朝が目覚めて孤独は遊園地の最後尾で足を止める。
年齢制限の無いアトラクションは私を受け入れてくれるよ。
命の保証は出来ません なんて言われなくても分かってるから安心して。
恐る恐るの深呼吸は、私が生きていることの証明。
そして君が今日も生きていることへの復讐。
「それから君は」の手前で言いたいことを忘れたから、また今度ここに来て。
有名税って幾らなんだろう ってふざけた記憶は真っ逆さま。垂直落下でさようなら。
もう私、クロノスタシスが何かは知ってるよ。
真夜中を飛び越えて、朝焼け。
ここで私は、君と一緒に寿命を殺した。光の街。
詩「朝」
街頭に照らされているうちは、生命体。
後ろから足音が聞こえる。歩幅がいやらしい。後悔も成功もぜんぶ命のストーカー。
色合いなんてモノは出会いに比べたら敗北者だよ。
赤も青も透明にしか見えないから、きっと 心の揺らぎは盲目だ。
「死にたい」って言葉が「助けて」に聞こえるなら、君の耳は壊れてるんだね。
絶望なんて現実を測る物差しです。現実なんて寿命を減らす毒物です。
先生、私の人生は正しい道を歩んでますか。
チャイムの音は踏み潰されて、過去に戻ることすら許されないみたい。
私ほど「飛びたい」と願う命は無いのに、いつになっても羽は生えてくれないよ。
詩「羽の無い生命体」
横断歩道が私を追い越して、残された右足だけは常識の上で浮く。
それでも私は着いて行く。信号機の色は覚えていない千年前の孤独。
思い出してしまえば寿命の終わり。だから、置いていかれたくはないよ、今はまだ。
ほら。夏が頭上にやって来て、春は帰り支度を始めた。
さよならの話すらも出来ない時間の速さは上空で表現される昼間。
雲の動きに気を取られたらまた転ぶよ。止まることを知らないきみは、季節のよう。
日常、日常の、当然。一体ここはどこの中間地点なのだろう。
これは誰の言葉なのだろう。
それは誰の存在理由なのだろう。
夏、横断歩道が私を連れ去って。青空を砕いて憂鬱を殺せ。
詩「夏空、殺傷。」
星が流れる。あなたは指を指す。
その瞬間、きっと私は何処にもいない。あなたと星空だけの国。
もしも私が、星空の一部にでもなれたのなら、幸せだったと思う。
いつか二人死んで夜空の星になったとしても、今と変わらずあなたの隣はあの子なんだろう。
って思えば涙が流れるこの純朴な心臓が私の中にあること、安心したよ。
そうだ 今この瞬間、あの空ごと落ちてきてくれたなら。
そのまま星になれたなら。私とあなたは隣同士でいられるね。
なんて夢を見た。窓の外に夜空は浮かんで、耳元から奥は星の歌が支配してる。
星が流れない空。私は指を指す。
詩「星に願いを」
昼間の月は私と目を合わせてはくれない。
君の幸せと私の幸せは違うから、同じ音を出せたくらいで私を知った気にならないで。
天文学的な数字で愛を創っても、小学生が学ぶ数式に殺される。
私の歌声なんかより、彼らのそれの方が人を救える気がするよ。音程はいらないよ。
心を生かすための音楽はポケットにしまって甘ったるい生クリームで耳を塞げば幸せになれる。ってことにしといてよ。夜の光は足元で息を引き取った。
音楽は耳元で化石に生まれ変わる。意味なんて無いことにしといてよ。
私の人生、セックス、傷口。嗚呼、今から馬鹿なことを言うんだけど。
「悪口が全部パンケーキになったらいいのに」
詩「甘いことば」
私の胸の水槽で泳ぐ魚は、寿命の二年先を生きている。
今を生きる気は無いよ って笑いながら、すぐに死んでしまいそうな泳ぎ方。
水槽は波打って、鼻の上は水死体。確実に超えた真夜中を思い出したら、月の兎は微笑みながら腕を振り上げる。光が兎の手元を照らしたから、寿命の最後に気付いたよ。
君が平和な世界を望んだ瞬間、誰かを殺してる事に気が付いてよ。
勇敢な勇者はまた脳内にクサい台詞を置いていった。いつも消すのは私なのに無責任だね。
海も心も、泳ぎ方に正解は無いんだよ。溢れた水面が足元を撫でる。
浮かんでも溺れても君は君だよ。
だから、君は、この世界に固執しなくていい。
詩「魚」
共感も傍観も遭難も、ぜんぶ他人事。私の話だって世論の中には入れない。
恋愛に勝てない朝が来たら、私は悔しさに立てなくなってしまう。
それでも私の足が生きると言うなら、松葉杖で世界一周旅行でもするよ。
孤独を遊んで一つの思い出にしておこう。写真に写る人の数はひとつでいい。
友人の数は、私の人格の数なんだと思う。
生活は苦しい。息を吐くのは楽だよ、息を吸うのは楽じゃない。
命への敬意を表してください。この世界。
「美味しいものでも食べに行こうよ」の言葉が美味しい昼下がり。
「雨女はあんまり涙を流さないんだよ」って笑い話、もう一度聞きたいな。
眼球の奥に作った私の国も、少しだけ税金が上がったらしいんだ。
詩「生活苦」
十三個の季節を殺して、僕はここで息をしている。
あみだくじの答えは見て見ぬふりで、長袖の先に君がいる。
君の長い髪が肩に触れた感覚だけ、いつまでも消えないで。
それが無理なら僕ごと消してね。
赤は白に染まって これが正解だと言う。
消えかける赤は手を振ったみたいで。
十三個の鮮やかな死体を見つめて、
綺麗だね って気を使ってあげるから。
十四個目はまだそこにいて。
これが愛じゃないなら、
僕の目はもう脳の裏側でも見といてよ。
詩「幻。」
季節が変わる。心と留めた言葉は終点を越えて、
もう帰ってはこれないよ。
四つのうちの一つを乱雑に、捨てて、
さよならの四文字だって与えやしない。
「薄情だね」って笑うかな。
もしも目が頭の後ろにあったなら、
もう少しは優しく出来たと思うよ。
季節が終わる、
君を乗せない電車は僕だけの終わりを連れてくる。
四つのうちの一つも言えなくて、
四文字は足を重くして、もう戻れないよ。
それが少しだけホッとして、
だって君が今日も壊れなかった証だからあと何度、
君を殺さない季節を、僕は殺し続ければいいのだろう。
明日はきっと、せめて二文字を。
詩「季節が鳴る」
私のフリをしたこの体は、
秋がすぐに死んでしまうのを知っているらしい。
好きじゃないよ、だから、
ほんとうに好きじゃないのに。
体は私に嘘をつく。だから、
これは私の体じゃないから、
本当の私はどこにいるのだろう。
私のフリをしたどこかの誰かは、
どうか幸せを感じ続けて踊っていて。
詩「私、わたし」
ひとつの言葉に死んでしまった。瞬間、ひとつの言葉に生かされてしまった。
死んで、生きて、生まれ変わって、また死んで。
永遠の眠りの中で胸を鳴らす毎日に、愛なんて入り込む隙間は無いよ。
数分前に生まれ変わった私は、数分後に訪れる言葉にきっと殺されてしまう。
そうしてまた、生まれ変わっていく。
口を開いて、空を吸って、その行為は私の寿命を脅かす。
会話というものは、全財産を賭けたギャンブルみたいだ。
それでも私は、まだ、言葉の素顔を探してる。
あ、また死んでしまいそう。
詩「眠り姫」
出来るだけ長い助走をつけて、わたしは宇宙に飛び込んだ。
人生 が足を掴んで、後悔 が後ろ髪を捕まえて、
「ダメだよ、わたしはもう行くよ」
ほんの少しだけ体を浮かす風は、わたしを否定しない。
息が苦しくなったなら、それは合図だよ。
名前のない海で溺れた生命が、もう少し、先で、
わたしを待ってる。
出来るだけ長い助走をつけて、わたしは。
詩「飛来」
喉の揺らぎは僕を待ってはくれないよ。
それでも心は間に合わないから、適当なメロディに適当な歌詞を乗せて、
「歌」なんて名前に甘えるんだ。
喉の手前から飛んでいった表情は、誰かが決めつけてまた死んで、
蘇る頃にはこの世界の反対で。それでも僕らは唄う。
この世界の終わりを、
あの子は知ってるよ。
だから世界は、また明日。
詩「唄えば空は」
確証の無い言葉に溺れてよ。
誰も責任を取ってくれない人生を、手を広げて軽やかに歩いてみてよ。
それなのに金属音の端に手をかけて、空の真裏は君の足元に広がった。
まだ、まだそこから動かないで。足も口も心臓も。
出来れば今この瞬間生まれたように、後ろ振り返って産声でも上げてみて。
そしたらきっと、君は明日から確証の無い言葉の虜だよ。
青白い空白が空と視界を裏切るなら、それはきっと、
君の命が唯一の確証になる瞬間で。
詩「飛べ、灰色と青空」
空は濡れて、私は地面と歩幅を合わせる。
傘を差す手が必要の無い今日、前髪を水滴が伝って何かを隠して。
もう何時間生きてきたんだろう。誰か代わりに計算してみて。私には教えないで。時計の針が皮膚を貫く感触がゆっくり流れて、それはとても ゆっくり ゆっくり 。気を抜けば、膜を弾く音が鳴る。「知らないままでいたい」なんて逃げるなよ。私はまだ、ここにいる。知らないままの少年少女は、本当の笑顔を知ってる。それでも本当の涙は知らないよ。だから君は、全部を知る義務がある。人間は涙を流す義務がある。吐く息に色が付かない季節でも、私はここにいることを証明してみたいよ。胸を抑えて唄を歌って涙を流して、少しは実感してみてよ。散々願った終わりに意味が無かったこと、君も私もまだ知らない。耳元、少しだけ音が鳴る。濡れた空から落ちる感情は全部私のものだよ。だから、たかがこの世界の終わり。メーデーを唄え。
詩「メーデー」
2019年12月9日 発行 初版
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2016年より執筆を開始。 2018年 個人出版社を設立。 詩集をメインに販売中。(Twitterにて販売中) Twitter:@ningen_ito