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  この本はタチヨミ版です。

サ談会#004 @おふろcafé utatane

新谷竹朗 (おふろcafé utatane支配人)

1987年石川県金沢市出身。フィンランドを一人旅した際に偶然立ち寄った公共サウナに一目惚れし、温浴業界を志す。 2015年に株式会社温泉道場に入社後、おふろcafé utataneの支配人として販促・イベント企画を担当。フィンランド観光局認定フィンランドサウナアンバサダー。

もう、新谷さんの公私混同で
やったほうが面白いよ

編集部 『おふろcafé utatane』の男女浴室内に『サウナコタ(*1)』を作ることになった経緯は、どんな感じだったんでしょうか?
*1 '19年6月オープン。「コタ」はフィンランド語で「小屋」。

新谷 とにかく、自分がセルフロウリュを日本でやりたかったんですよ。サウナが好きになったのは、フィンランドに行ったことがきっかけです。その時は何もわからず、公衆サウナでおじさんがロウリュするのをただ浴びる側でしたが、「一緒にロウリュで気持ちよくなって火を囲む」体験が感動的で。そういう体験を、手軽に楽しめる場所が欲しかったんです。特に、女性がセルフロウリュできる場所がまだ少ない状況なので、自分のところで作りたいなと思いました。

 問題意識を持ちつつ、公私混同的な感覚で(笑)。

 そうですね(笑)。運営会社の『株式会社温泉道場(*2)』に入社して5年目になるんですけど、入社志望を出した時も「こんなサウナが作りたいんです」と企画書を持ち込みました。社長は多分ピンと来てなくて、「なんか変なヤツが来たな」みたいな感じだったと思います。3年目くらいまではサウナには直接関わらず、店舗イベント企画や装飾がメインの仕事でした。だんだん世間的にサウナに対する追い風が吹いてきたところで、社長から「もう、新谷さんの公私混同でやったほうが面白いよ」と。
*2 埼玉県を中心に複数の温浴施設を運営する企業。'11年設立。

 あの時のやつをやってくれと。ちなみに、持ち込んだサウナの企画はどのようなものだったんでしょうか?

 内容的にはすごくシンプルです。「サウナ好きはサウナにしか入らないから、浴槽は不要です!」と、シンプルな「サウナ+カフェ」の企画を提案しました。動線もフィンランド現地の施設そのままで、脱衣所とシャワーのブース、あとはすぐサウナ。その代わり「サウナから出た後は、芝生が敷いてある原っぱで休憩できるようにします」というのを入れました。

 その提案以前から、ここは『おふろcafé』だったんでしょうか?

 施設自体はありました。僕はフィンランド体験以降ずっとサウナに特化したスタイルをやりたかったので、たまたまそれを実現する機会が生まれた形です。一人ではなかなか難しいので「どこかのお風呂屋さんでやらせてもらおう!」と、お風呂業界の中で変なことをしてる会社を探し始めました。それが、ちょうどここができた時期だったんです。

 お風呂とカフェをくっつけた名前の時点で、新しいものを取り入れる土壌はありそうな感じがしますもんね。

 そうですね。ただ、最初『おふろcafé』という業態を理解されるまでには少し時間がかかったみたいですね。もともと某大手お風呂チェーンの店舗だったのが別の会社に経営が移って、採算が合わなくなって一度閉業してて。その後にまた『おふろcafé』としてオープンしてはいたんですけど。近所の方からは「何屋なのかわからない」と言われてましたね。怖くて近づかなかったみたいです。

 その怖がられてる感じ、できたばかりの頃のコタとまったく同じ状況ですよ(笑)。そもそも近づかないか、扉だけ開けてキョトンとした顔で出ていく人がほとんどでした。

自分がやりたいことは
本当に正しいのか?

 コタは、当初は既存のサウナ室を改造しようしてたんですよ。ただ、以前からの常連さんがいらっしゃるので、TVのある「古き良きサウナ」をいきなり改造するのは抵抗がありました。そこでイベントの時に実験的にTVを消して照明も落として、ヴィヒタを吊るして雰囲気を作ってみたところ……めっちゃクレームが来まして(笑)。

 「我々のサウナに何をするんだ!」と。

 「自分がやりたいことは本当に正しいのか?」と不安になりました(笑)。特に、「TVがないとサウナ室で間が持たない」という意見にはカルチャーショックを受けましたね。

 フィンランドサウナの感覚だと、「間が持たない」という発想は出てこないですもんね。サウナ室に求める要件自体、まったく違ったんですね。

 常連さんの聖域を壊すのは、ちょっと無理でした。普段の生活に取り入れているサウナが急に変わると、体調を崩してしまう方までいらっしゃいますから。なので、施設を運営する責任感も思い知りましたね。裸で入るパーソナルな空間であるサウナを、勝手にいじってはいけない。古き良き日本のサウナ文化と喧嘩したくもないので、ゼロから新しく作る方向で考え直したんです。ちょうど浴室内にも作れるスペースがあったので、設計チームと一緒に狭いスペースを生かす方法を考えました。

 その設計チームというのは、どういった方々なんでしょうか?

 日本の某温浴設備メーカーです。事業内容も様々な企業なんですが、縮小傾向だったサウナ事業出身の方が社長になってから風向きが変わりました。「本場のサウナと一般顧客の接点を作っていこう」という雰囲気があって、新規事業部の若い社員の方と一緒に考えて作りました。今コタが建っている場所は、以前は子供用の浅いお風呂だったのを潰してウッドデッキにしてたんです。あのスペースをどう使うかというのが、課題ではあったんですよね。

 子供と言えば、こないだコタに子供が入ってきて、珍しそうにサウナストーンを見つめてました。何も知らない子供がいきなり「石に水をかける遊び」として触れるような、面白い出会いの場になっている気がします。

 なんか階段みたいになってて、上に登ると楽しそうですしね(笑)。



  タチヨミ版はここまでとなります。


トトノイ人 SESSION 004
新谷竹朗

2019年12月28日 発行 初版

表紙イラスト:ほりゆりこ
サ談会:新谷竹朗
    広岡ジョーキ

発行:トトノイ人
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