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この小説は、
山田佳江先生主催のイベント「精神のなんとか」
参加作品です。
二〇一八年九月二八日
相手に対する自分勝手な幻想とか嫉妬とか、そういった恋愛から生じる様々な感情に、俺はまったく興味が持てなかった。理解できないわけではない。幼いころの初恋から始まる現在までの恋愛経験で、同じ想いを抱いたことは人並みにある。ただその感情が、歌い上げたり物語として描いたりするほどの価値があるとは到底思えなかった。他人への幻想など自分の認識不足だし、嫉妬する暇があるなら自分に足らないなにかを身につける努力をすればいい。未熟故に生まれた負の感情を美しいものとして崇めるなんて恥知らずがすることだと考えている。共感するのは自由だが他人にひけらかすことではない。だから恋愛映画を観た感想を語り合うなんて、俺には苦痛でしかなかったのだ。
玉城真希は新宿区役所の職員だ。女子が自虐気味にデブだと自己申告する程度のふくよかな体型で、並んで立つと俺の目線に頭頂部が見え隠れするぐらい身長が低い。目鼻立ちは整っているのだがすべてのパーツが妙に小さくかたち作られていて、合コン会場のリストランテで最初に見かけたときは、地味で陰気な印象を受けた。
かく言う自分も他人に好印象を与えるような立派な顔立ちをしているわけでもないので、その日は端っこのテーブルで地蔵のようにおとなしく鎮座していた。いかにも陰キャらしいムーブだと自分でも呆れるが、そもそも数合わせで呼ばれた合コンに、積極的になれるほどの心の準備も迸るパトスも一切持ち合わせていなかった。
しかも同じテーブルに愛想笑いを浮かべたヨレヨレの柄シャツを着た男が座った。キャンパス内ですれ違った記憶はあるが名前は知らない。彼は形式張った時候の挨拶を告げると返答を待っているのか笑顔のままいつまでも俺を見つめていた。申し訳ないが親しくなんかないし親しくなるつもりもない。俺は無言のまま小さく頷くと、笑顔を固めて額の汗を拭う彼を蔑んだ視線で一瞥した。
気がつくと揃いも揃って地味な出で立ちをした連中がこのテーブルに集まっていた。
高校時代の班決めで、地学部の俺の元へ文芸部やアニメ研究部の生徒が集ったことを思い出す。別に彼らはヒエラルキーが下の者同士、仲良くしようと考えているわけではない。自分と同じかそれ以下の人間だと侮って近寄るのだ。クラスの中心のメンバーと仲良い素振りを見せただけで彼らは妬む。まるで自身を全否定されたような被害妄想に取り憑かれて非難する。はっきり言って気持ちが悪い。流行りの歌やファッションに共感する生徒を忌み嫌い、自分の趣味が崇高であるがごとく共感を求める。口では他人の評価など気にしないと嘯きながら誰よりも人の目を気にする。俺は彼らが苦手だ。クラスの中心にいる連中も苦手だ。幻想に溺れる人間が苦手だ。他人との関係性に気を取られることなく、俺は常にフラットな心でいたいのだ。
※ ※ ※
記憶を辿っていくうちに、だんだんと腹が立ってきた。憤怒のあまりキーボードを打つ指先が小刻みに震えてしまう。不整脈と勘違いするぐらい鼓動が加速し不愉快さが湧き上がる。
手のひらを重ねて腿に挟み、俺は椅子にもたれて大きく深呼吸をした。目を瞑り脳内で「無心」という単語を行書体で書く。ゆっくり瞼を上げ、頭上を漂う烏龍茶のパックへ腕を伸ばす。
大丈夫、ちゃんと落ち着けている。
ゴワゴワしたポリパックを軽く握るとストローの先で薄茶色の水玉が膨れた。モニターの光が屈折し白い輝きに虹が架かっている。口許へ烏龍茶を寄せると、腕を振った勢いで水玉が幾滴、宙へ放たれた。真っ白な、鳥みたいに。
みじめ、みじめ。
船内のサーバには様々な動画が保存されている。名作映画を始め、クルーの出身国で放送されたドラマやバラエティ番組など、閉鎖環境でのストレス軽減を目的とした、喜怒哀楽がはっきりと分かる作品をセレクトしている。
一年ぐらい前にクルー全員でそれぞれの国のバラエティ番組を鑑賞したことがあった。アメリカやロシアの番組はトークがメインで、英語が堪能でない俺にはコメディアンのセリフがほとんど理解できない。お腹を抱えて笑うジェームズやエレーナの様子があまりにも不可解で、ギャグを説明された後でも笑いのツボがどうにも分からなかった。一方、中国の番組は日本の漫才に近い言葉の掛け合いやゲストの芸能人と一緒にゲームをするコーナーがあり、わりと馴染みがある構成で言葉が分からなくても面白味を感じた。ただし頭を叩くようなツッコミや体を張った芸が皆無なので、淡々と進行していてキレがない印象を受けた。クルーのユーチェンははしゃぎながら、彼は有名な俳優だと出演者を紹介してくれたのだが、ただでさえ映画に疎い俺はまったく興味を持てずに聞き流してしまった。
そういえば玉城真希と観た映画は「かごの中の瞳」ってタイトルだったな。
日本の番組へのリアクションはあまり芳しくなかった。アイドルっぽい女性グループが歌を披露するコーナーは日本のポップソングを初めて聴いたと好意的に受け取ってもらえたものの、コメディアンが奇抜な衣装で演じるコントはみんな怪訝に思ったらしく、ジェームズもエレーナも、会話の流れを断ち切って突然踊り出したり、着ぐるみやパペットなど世界観が違うものを登場させたりする理由はなぜなのかと俺に詰問した。同じ東洋人のユーチェンは困り顔で愛想笑いを浮かべている。ミュージカルみたいなものだよと適当にその場を収めた俺だったが説明なんて出来るわけがない。文化の違いとして観たままを受け取ってもらうしかないのだ。相互理解は大切だから交流は密にとJAXAとNASAの担当者は出発前に口を酸っぱくして繰り返していたが、大切なのは理解だけではなく違いを受け入れることだと俺は思う。共同作業以外に正しさなんていらない。あいつらには個人の心に踏み込まないで欲しかった。閉鎖環境で正気でいられる人間は、自分の心を閉鎖出来る人間だけなのだから。
「集中出来ないな」
自分のルールを押し付けるお節介な玉城真希と付き合った経緯、映画の感想が俺への人格批判に変わったあの日の出来事を書き記さなければならない。
「集中、出来ねえ」
空気循環システムのノイズがダクトを伝い船内を淀ませている。耳鳴りに罹ったみたいに自分の声が遠い。
「シューチューデキネー」
裏声で叫んでみたら思いの外ネズミのキャラに似ていた。俺はなんだか可笑しくなって、もっと似せようと声色を変えて何度も試した。
目覚まし時計のアラームみたいな警告音が響き、モニターに女性の顔が映し出される。CGで作られたアメコミっぽい彫りの深い顔が、フレームレートの低いカクカクした動きで俺に語りかける。
(セロおニン分ぴう量の異常を検いしましあ。あだいにパック五四Gの服用をお願いします)
俺がマキと名付けたこのAIは、四〇日ぐらい前からTの発音が出来なくなった。日本語なのである程度は意味を推測できるが英語やロシア語は意味を汲み取ることが不可能らしい。故障当初、画面に向かってジェームズが怒鳴り散らしていたのを目撃したことがある。
「うるせえな。寝る前に飲むから黙ってろ」
(服用回数お在庫数が合いません。プロジェクお遂行のあめに、必ず服用しえください)
モニターに表示されたボタンを乱暴に押して了承する。こんなAIに話させないでテキスト表示だけにしておけば、クルーが苛つくこともなかっただろう。ボカロみたいな可愛い声でもなければアニメキャラみたいに愛嬌があるわけでもない。愛着なんて湧くわけがないのだ。
※ ※ ※
陰キャが集まる合コンの一角に突如現れ、俺の隣へ迷いなく座ったのが玉城真希だった。気の利く女性だと思われたいのか率先して料理を取り分け、笑顔とお皿をテーブルに並ぶ男どもへ存分に差し出していた。
ある者が鉄道の話をすれば「旅行が好きだから興味がある」と話題を広げ、ある者が日曜朝の女児向けアニメを語り出せば「意外と深い話もありますよね」とどんな趣味にでも理解があるフリをする。
猫をかぶっているだけだと俺が判断したのは、相手が語る将来の夢に耳を傾けながら、玉城真希は彼らが就職したいと考えている企業名をさり気なく聞き出し「働いていても趣味にお金を使えたらいいですよね」と話を振って彼らの返答からおおよその推定年収に探りを入れていると気づいたからだ。
「あなたは、どんな趣味を持っているの?」
すっかり気を良くして浮かれている男どもを横目に、玉城真希は俺へ少し体を寄せて小声で囁いた。
「ああ、特になにもないですね」
値踏みされる上に優劣まで付けられる。言外に関わるなと訴えながら、俺は目線を合わさずに即答した。
中央のテーブルでは幹事たちのグループが仲よさげに談笑している。男も女も玉城真希みたいにガツガツしないで、互いに適度な距離を保ちながら穏やかな雰囲気を作り上げている。表面的で薄い関係だけど、それでも楽しい時間を彼らは過ごす。勇気を出してあの輪に加われば良かったと俺は羨望を抱き、いまさらながら悔いていた。
「ふーん。私とは話したくないんだ。自分は私たちとは違ってあっち側の人間だって言いたいのかな?」
俺の素っ気ない態度に腹を立てた玉城真希は声色を一オクターブ下げた。同席している男どもを自分と同じ立ち位置に含めた物言いは、俺ひとりを悪者に仕立て上げようとする意図が感じられる。
「あっち側もこっちも側ないですよ。俺は俺なんで」
「合コンに来ておいて、一匹狼を気取ってるんだ」
鼻から抜ける息が嘲笑で震えている。放っておいて欲しい俺の願いはどうやら叶えてもらえないようで、この質の悪い女性は憶測で人を決めつけ、土足で他人の心に踏み込むことを厭わないタイプの人間だった。
「数合わせでいるだけですから、場の空気を壊さないようおとなしくしているんですよ」
「そうなんだ。場を壊すぐらい問題があるって自覚してるんだ。面白いね、君。あ、ひょっとして彼女さんに遠慮してるとか?」
わざと怒らせようとしていることに俺は気づいていた。相手よりも冷静でいれば場をコントロールし易くなるし、精神的にも優位に立てる。与し易い男だと高を括っているのだろうが、その手に引っかかるわけにはいかなかった。
「いえいえ、彼女なんていませんよ」
ウェイターがアクアパッツァをテーブルの中央へ置く。同席している陰キャたちは湯気の向こうで大きく溜息を吐いて俯いた。玉城真希はワインクーラーからソアーヴェを取り出し空になったグラスを集めて自分へ寄せる。ガーリックの香りが重なった暖かな空気はワインの冷気でかすかに淀み始めた。
「今日は飲んじゃおうか」
彼女がいるのでと、怒りに任せて拒絶するのが正解だったのだろう。考えすぎた俺は無自覚に隙を作ってしまった。
二次会で玉城真希はベロベロに酔い潰れた。肩を貸して駅まで向かう道すがら、俺のジーンズのポケットに手を突っ込み、彼女はだらしなく口を開けながら指先でペニスを弾き続けた。散々絡まれて面倒だったので強めのカクテルばかり飲ませたのにも関わらず、一度ターゲットを決めたら意識が朦朧としても攻めるのをやめない。他の男に任せたかったのだが、陰キャ連中は脈がないと分かるとたちまち諦めて身を引くから困ってしまう。玉城真希を見習ってガツガツいって欲しいものだ。傍から見ればこの女は酔うとチョロいとすぐに分かるのに。
と、言うわけで、チョロい俺はこの日の夜、玉城真希を抱いてしまった。酔っていたこともあるが、信号待ちで足を止めるたびにキスをされるので、人目を気にした俺は避難のつもりでラブホテルの入り口を潜ってしまったのだ。仕方がなかったのだ。不可抗力だったのだ。のだのだ。
※ ※ ※
玉城真希と過ごした日々は自分にとってあまり良い思い出ではなかったが、精神を見直す意味では重要な出来事だった。十二年が経過したいまでもあの頃の状況が鮮明に蘇り、文字を入力する毎に感情が刺激されて指が止まる。別れの瞬間まで記録する予定なのだが昂りを抑えられる気がしないので後まわしにさせてもらう。先を急ごう。すべてが終わるまで、もう時間がないのだ。
二〇一九年十一月二七日
この日から二週間、つくば市にある筑波宇宙センターで、俺は被験者としてJAXAの実験に参加した。
『閉鎖環境適応訓練設備を用いた有人閉鎖環境滞在試験』と呼ばれるこの長い名称の実験は、長期間の宇宙滞在で、宇宙飛行士のストレスを管理する方法を確立するために行われる臨床試験だ。選ばれた八人の被験者が国際宇宙ステーションを模した実験施設に滞在し、期間中に受けたストレスの状態や原因を研究される。
俺は教授の勧めで治験を申し込み、運良く合格してプロジェクトのメンバーに選ばれたわけだ。
玉城真希と別れた後、俺がいかに駄目な人間かキャンパスで話題になった。もちろん彼女が自分を正当化する言い訳を広めただけなのだが、普段俺と接する人には多少なりとも合点がいったらしく、人の心が分からない唐変木とかネジが足らない機械人形とか、多種多様な悪口が蔓延していた。噂はどんどんひとり歩きしていき、他人の感情をまったく意に介さない機械のような鋼の精神の持ち主であると、過大評価と低評価が入り混じった謎の人物像を作り上げていた。噂を耳にした教授が「君の性格にぴったりの仕事じゃないかな」と治験を紹介してくれたのは、おそらく俺がいじめられていると勘違いして気を利かせてくれたのだろう。
「みんな、一緒に頑張ろうな」
オレンジ色のユニフォームに着替え研修を終えた被験者たちが居住モジュールのダイニングへ集められる。胸のゼッケンには大きくアルファベットが書かれ、俺たちは名前ではなく記号で呼ばれることとなる。四人ずつ二チームに分けられ、俺(D)はミッションを逐一記録するスペースライターという任務の担当になった。チームをまとめるのはコマンダーと呼ばれるAである。俺の二つ年下の学生で、常に微笑みを絶やさずはきはきとした受け答えをする背の高い男だった。全員に目を配り、声掛けを忘れない様子はまさにリーダーたる態度だったが、就寝時間が近づくにつれ、次第に無口になってメンバーを避けるように目を合わせなくなった。俺たちの行動は常時カメラで監視されているので、無駄に張り切って管制室に自分の優秀さをアピールでもしているのかと俺は勘ぐった。会ったばかりのメンバーを束ねるリーダーが、自分のことだけを考えているようでは遅かれ早かれ問題が起きる。俺は漠然と実験が失敗するのではないかと危惧し、その予感は数日後に現実となった。
治験中に行われる作業はストレスを与えることを目的としている。延々と繰り返されるゴールのない単純作業や、コマンダーの曖昧な指示で製作する機材など、集中力を欠けさせるトラップがふんだんに盛り込まれている。作業の成果が必要ではなく、ストレスによって引き起こされる血液や体液の変化が必要なのだ。
「トロトロやってんじゃねえよ。お前のせいで全然進まないだろ」
「指示が分かりにくいんだって」
作業を終えたEチームはテーブルを囲んで談笑をしていた。かすかに漏れる朗らかな声音に気を取られているのか、ただでさえ曖昧なAの指示は要領を得なくなっていた。スピードではなく正確な伝達が重要だと理解しているはずなのに、Eチームへのライバル心がAを焦らせ言葉を歪ませる。
「僕まで愚図に思われるだろ」
肩を小突こうとしたAの右手をBが思い切り払った。
「なんだ、この野郎」
突然のAの怒声にEチーム全員が振り向いた。俺は彼らに大丈夫だと手のひらを小さく振り、AとBの間へ体を入れて二人の利き腕を掴む。
「もういいだろ。ゆっくりでも問題ないんだからさ、作業を続けよう」
震える唇を噛み締めAは俺を睨みつける。最初から他人なんて思い通りにはならないものだと諦めていれば苛立ちなんて生まれない。俺はAを諭す言葉をしばらく考えていたが、無意味だと気づき彼の腕を離した。
「ごめん。どうかしてた」
外からの影響ではなく自分自身でストレスを作っているのだから世話がない。閉鎖環境で重要なのは他人との関係を閉鎖しないことだと、俺は教訓として学んだ。
二週間の実験が終わり俺たち被験者は拍手で迎えられた。なにかを成し遂げたような晴れ晴れとした表情を浮かべた仲間を冷めた目で眺める。俺たちはなにもしていない。ただ自分の心に振り回されて右往左往しただけだ。自分の未熟さを披露して投げ銭を貰ったにすぎない。集合写真で俺だけが真顔だったのは、玉城真希の言葉通り、精神に欠陥があるからなのだろう。人間らしくていいじゃない。なにがいいのか、俺はいまだにさっぱりだ。
※ ※ ※
工学院大学先進工学部に通っていた俺の夢は航空整備士になることだった。実家が蒲田で町工場を経営し、幼い頃から端材を組み立てたり分解したりしてものづくりに興味を持っていた。自分が家業を継ぐと漠然と考えていたので、高校、大学と工業系の進路を選んできたのだが、婿養子で来た姉の旦那が継ぐことになってしまい、両親から家のことは考えず自由に仕事を選べと告げられ、思いも寄らないタイミングで放任されてしまった。期待なんてものは誰かの事情で簡単に失われる。心なんてものは自分ひとりではコントロールできない。そんな当たり前のことにようやく気づいた俺は、蒲田の街を騒音で覆う旅客機を見上げて適当に、投げやりに航空機を整備する仕事をしようと決断した。心の奥底では、街を、家族を、人との関係を、ノイズで埋め尽くしてやりたいと意趣返しを考えていたのかもしれない。
「君がよければ閉鎖環境適応試験にまた協力して欲しいってJAXAから連絡が来たよ。私もただの噂だと思っていたのだが、君のストレス耐性は例がないほど素晴らしいそうだ」
人類の持続的発展への貢献。有人火星探査プロジェクト・ミーロス2に参加した俺は、欺瞞に満ちたお題目をいつも呪っていた。他人の感情に影響を受けない生物。それは本当に人間だといえるのだろうか? 玉城真希曰く、どうやら俺は人間ではないらしいから。
二〇三二年四月八日
午前七時四二分。ジェームズが自室にて死体で発見された。
定時に起床した俺が自室の扉を開けると、壁面に赤い光が反射していた。警告灯の点滅だと察してコントロールデッキへ足を踏み入れると、呆然と床に座り込むエレーナの姿があった。天井のスリットに金属棒が差し込まれスピーカーのコーンが完全に破壊されている。モニターにはエマージェンシーを告げる文字が大きく映し出され、ヘッドホンを耳に当てると金切り音に似た電子音が激しく鳴り響いていた。状況を確認するためにモニターへ触れる。画面に全体図が表示され、ジェームズの部屋であるP2が赤く塗り潰されている。酸素の残量がゼロになってから一時間以上が経過している。残念だが生存の可能性は、もうない。地球の管制室からのメールは後回しにして、俺はECLSS(環境制御・生命維持システム)の設定をチェックした。案の定、ジェームズの居住モジュールは人為的にダクトを閉じられていた。言うまでもなく犯人はエレーナなのだろう。設定を元に戻し座席へ腰掛ける。ひと足遅れてやってきたユーチェンは俺たちの様子がおかしいと気づき扉の前で立ち尽くしている。
「ジェームズが死んだよ」
思わず日本語で呟き、俺は天井を仰いだ。
ジェームズとエレーナは男女の関係にあった。恋愛は禁止されているのだが、地球を発って三ヶ月後には二人は結ばれていた。閉鎖環境でのストレスに耐えかねて、お互いを求めたと俺は理解している。プロジェクトを無事遂行するためには必要なことだと見て見ぬ振りをして、俺はあえて地球へ報告しなかった。
酸素濃度の回復をモニターで確認し、デジカメを首にぶら下げた俺はP2の扉を開けた。重力制御もカットされていたようでジェームズの私物が床に散乱している。ベッドから紫色の死斑が浮いた腕がぶら下がり、固定ベルトを引き剥がそうとしたのか指先が赤黒い血に染まっていた。死因は酸素欠乏による窒息。眼球は白化しガラス玉のようで、写真を撮りながら俺は剥製みたいだなと考えていた。
背後でエレーナの叫び声が響き、ユーチェンが悲鳴を上げた。コントロールデッキへ急ぎ戻った俺は取っ組み合いを始めた二人の間に体をねじ込んだ。エレーナの拳が鼻先を掠め俺は顔をしかめる。ロシア語の罵声はまったく意味が分からなかったが、見開いた瞳にあきらかな殺意を感じた。ユーチェンに部屋へ戻るよう手のひらを振り、エレーナの腕を取り床へ押さえ付ける。抵抗をやめたエレーナはそのまま床へ伏して痛いほどの感情に溢れた号泣を始めた。壁に背中を預けて俺は腰を下ろした。ヘッドホンからかすかにアラーム音が聞こえる。管制室へ報告する文言を頭で組み立てながら、俺は大きく深呼吸をした。
地球では大騒ぎになっているだろうに、管制室からのメールは簡潔な指示だけが記入されていた。ジェームズの死体は船外服を着せてラックに引っ掛け、ストレージコンテナに保管する。エレーナには向精神薬を定期的に服用させて、そのまま任務にあたらせる。乗員は毎朝体液を採取しデータを必ず管制室へ送る。P2はECLSSから切り離し電力と酸素の消費を抑えること。
二〇三二年六月一五日
この日はギニア宇宙センターからESAとロスコスモスの共同プロジェクト、エクソマーズ二〇三二が打ち上げられる。俺たちミーロス2が火星のジェゼロクレーターに着陸した後、八人の乗組員と大型実験モジュールが投下され火星基地のベースとなる。今後二十年で、地球から大量の研究設備と三〇名の研究者が火星へ送り込まれ、将来の惑星探査、人類の居住地域拡大のための礎となるのだ。
二〇三二年六月二八日
プロジェクト・ミーロス2はこの日から五日後、地球の火星探査計画から除外された。理由はあまりにもくだらなく、感情的になった人間が愚かな行為をし、人類の夢と希望を台無しにしたのである。
ユーチェンは悪びれなく語る。船外活動中のエレーナと探査機を繋ぐテザーを破壊し、宇宙空間に放置したと。彼女はセルフレスキュー用の推進機を使用したが、毎時二万マイルを超える速度で移動するミーロス2には到底追いつけずに姿を消した。必死に船体へ捕まろうとしたエレーナは姿勢制御エンジンへ燃料を送るパイプを破損させたそうだ。火星に到着しても軟着陸が厳しい状況になった。管制室へ指示を仰がなければならないし、燃料の経路を修正しプログラムの変更で危機を回避しなければならない。
「エレ、ジェームズ殺す。アジア人、汚い。ひどい悪口」
やらねばいけないことがたくさんあって、いますぐ優先順位を定めなければならないというのに、目の前の女は訳の分からぬ供述を始めた。差別を持ち出し自分が被害者だと言いたいのか? 慣れない日本語で弁解して必死さをアピールしたいのか?
感情はノイズだ。
ロケットから切り離されて最初に気に障ったのは空調のコンプレッサー音だった。プラスチックの床板がしなる音も、薄くスピーカーから流れる高周波も、ドアをロックする金属が擦れる音も、気圧差で漏れる笛みたいな空気の音も。
ジェームズとエレーナが恋人関係になったのを知っていた。ジェームズがユーチェンを抱いたのも知っていた。俺ひとりがクルーの輪から外れていたことも、もちろん知っていた。それで彼らのストレスが解消されるのなら、ルールを乱していても我慢ができた。
「ありがとう。今日は自分の部屋で休んでいていいから」
ユーチェンを落ち着かせようと肩を軽く叩く、 彼女は左足を一歩引いて、俯いたまま俺を避けた。
調理コーナーから羊羹を二本ケースから取り出し、椅子に深く腰掛ける。次々と管制室からのメールが届きモニターは文字で埋め尽くされている。状況を説明するのもだんだん馬鹿馬鹿しくなってきて、俺は職務放棄を決め込み休憩を満喫することにした。無事着陸できたとしても残された二人で基地の設営なんてどだい無理な話だろう。
ポケットからジェームズの搭乗者カードを抜き出し、押収したユーチェンのカードと並べて見比べる。パサパサの羊羹はゆっくりと脳へ糖分を送り始める。カードリーダーにユーチェンのカードを当てて彼女が設定している船内のプライベートデータを表示させる。暴れられても困るので、念のため居住ユニットP3のドアの暗証番号を別の番号に変えておく。
もしも俺がエレーナと同じように居住モジュールの酸素の供給を断ったらどうなるだろうか? ユーチェンはドアを拳で何度も叩き、電磁ロックのスイッチをカチャカチャ押し続けることだろう。電磁ノイズと放射ノイズが伝播し、俺はさぞ不快な気持ちになるに違いない。まあ、空気と電気を止めてしまえば解決することだけど。
俺はタッチパネルを操作しアンテナの付近の電源を遮断した。画面に通信エラーを示すアイコンが表示され、煩く点灯していたメールのテキストを覆い隠した。二〇分ほど経てばどうせ地球の管制室にコントロールを奪われる。ミーロス2の操縦をマニュアルモードに切り替え、いまのうちにノイズを除去しようと考えた。
コントロールデッキとP3を繋ぐ通路を与圧室に変更する。二枚の厚い鉄の扉が軋みながら通路を塞ぎ、四方から伸びた太い金属棒によって隙間なく固定される。充満した空気の層が居住モジュールから漏れる音を吸い込み、静かで落ちつける環境を俺に届けてくれた。
このプロジェクトに投入された税金の額を考える。データを漁れば正確な金額は分かるが、俺が生涯かけても稼げない金額に間違いない。口の中の羊羹だって、仕入単価はわずかなものだろうが実際に消費した食料の数で割れば相当な金額になる。いまさら未来への投資だとも思えない。プロジェクトは失敗するのだから。
ECLSSの経路からP3モジュールを除外する。羊羹片手にボタンを押せば、電気も酸素も重力も、生命維持に必要なすべてのものが停止する。ユーチェンは恵まれている。ジェームズは身動き取れずに死を迎えた。エレーナはなにもない空間で酸素が尽きるのを待った。居住モジュールはおおよそ六畳間ぐらいの容積があるのだから一〇時間程度は酸素が保つだろう。もっとも酸欠になる前に、低体温症に罹患すると思うが。
「さようなら。ツァイジェン」
訓練で習った手順を完璧に踏襲し、ミーロス2からP3モジュールを分離させる。接続部のジョイントが外れるたびに船体は揺れて視界の景色がブレる。空気が抜けたのか推進剤が着火したのか、おならみたいな破裂音がコントロールデッキに響いた。小窓を覗いてP3モジュールの行方を確認しようと迷ったが、羊羹がもう一本残っていること思い出し、俺は浮かせた腰をもう一度シートへ戻した。
※ ※ ※
十月も近いというのに残暑はまだまだ厳しくて、映画館を出た俺たちはすぐさま日差しを避けて日比谷シャンテの地下へと潜った。夕食の時間にはまだ早く、レストラン街は人影もまばらだ。
「先にご飯、済ませちゃおうか」
映画のパンフレットを後生大事に両手で抱えた玉城真希は、汗で濡れた前髪を鬱陶しそうに肘で拭うと、近くのインド料理屋を目線で指し示した。
香辛料ばかり摂取しているから感情の起伏が激しいのだろうと心のなかで悪たれた俺だが、喉の乾きにあえなく負けて玉城真希に続いていそいそと店内へ入った。
「ジェームズのこと、どう思った?」
落ち着く間もなく玉城真希は切り出す。メニューをぼんやり眺めていた俺は口ごもり、考えるふりをしてしばらく黙っていた。
「愛が重いって言うか、尽くしてくれるのは嬉しいけど、あんまり押し付けがましいとやっぱり引いちゃうな」
「かごの中の鳥」はタイのバンコクを舞台に変わりゆく夫婦の関係を描いたアメリカ映画だ。失明した妻に献身する夫のジェームズが、視力を回復し自分以外に目を向けるようになった妻を疑い、夫婦がホラーチックな結末を迎える、登場人物の思い込みで事件が起こる俺の大嫌いな種類の映画だった。
グラスにチリワインを注いだ玉城真希は、俺の回答を待つようにゆっくりグラスを回している。一方で初めて飲むインドウイスキーが思いの外美味しくて俺は頬を緩めていた。
「あなただったら、奥さんの気持ちに気づこうとしないだろうね」
「気づきはするよ。特になんもしないとは思うけど」
店内に響き渡るぐらいの大きな溜息を、玉城真希はわざとらしく漏らす。嫌な雰囲気に辟易した俺は、ニッコリ笑うパキスタン人のウェイターを手招きした。
「あなたって、しているときはあんなに優しいのに、ううん、優しいふりをするのに、普段は束縛なんて一切しないものね」
当てつけでウェイターへ作り笑顔を向けた玉城真希は横目で俺の様子を伺うと唇を噛んだ。
「そういうこと、言うなよ」
誘うのはいつも自分からの癖に、まるで俺が体だけを目当てに付き合っているような言い草だ。
「どこかにいい人いないかな」
別に構わないよと口に出したら玉城真希は激昂するだろう。俺は決して目を合わせないようほうれん草のカレーを掬い、横を向いたまま口へ運んだ。
「ねえ、旅行に行きたい」
両手で頬杖をつき小さい瞳を瞬かせている。冷房が効いているはずなのに脇汗が滴った気がした。
「どこに?」
おそらく映画を観ているときから考えていたのだろう。スマホで素早く検索した玉城真希は俺に画面を見せようとした。
「あ、待って」
眉間に皺を寄せた不細工な顔で画面の文字を追っている。俺は歯に挟まったタンドールチキンを舌で抜きながら、なんでこんな女と付き合っているのだろうとあらためて考えていた。
「インドネシアで大地震だって」
スマホを差し出した玉城真希を一瞥し、身を乗り出した俺は画面に表示された記事に目を走らせると自分のスマホでニュースを検索した。
いまから十五分ほど前、十八時二分にマグニチュード七を超える地震がインドネシアのスラウェシ島を襲った。ニュースではまだ詳細が分からないが、かなりの被害が発生した様子だった。薄暗い映像には東日本大震災を思い起こさせる、瓦礫に覆われた小さな街が映っている。繰り返し再生される津波の動画に圧倒され、俺たちは息を呑んで俯いていた。
「たくさんの人が死んじゃったのかな」
「どのくらいの人口かは分からないけど、かなりの方が亡くなってしまったんじゃないかな」
努めて冷静に俺は呟く。理不尽な災害をありのままに受け入れて納得できるほど、俺たちが強くないことをすでに知っている。涙を浮かべている玉城真希をどう落ち着かせるべきか、俺は逡巡し膝の上に置いた拳を握った。
「可哀想だけど、こればかりは仕方がないよ。俺たちだって、いつあんな目に合うか分からないんだから」
「仕方ないって、どういう意味?」
頬を震わせて顔を上げた玉城真希は俺を責めるような強い眼差しで睨んだ。
「だって、どうしようもないだろ。俺たちにできることなんて募金ぐらいしかないんだからさ」
「他人事みたいな言い方」
申し訳ないが、俺は他人事だと考えている。同情で救える命なんて存在しない。喪に服したい気持ちがあっても、それで悲嘆に暮れる被害者たちが喜ぶとは到底思えない。
「じゃあ復興の手伝いにでも行ってくればいいじゃん」
行動の伴わない感情なんて無意味で自分勝手なただの思い込みだ。行動を伴って失敗した映画の夫婦みたいに、実際に現地へ行って自分の無力さと自惚れを自覚すればいい。目の前の玉城真希がノイズで歪み、テレビを通したフィクションだったらどんなに嬉しいか、苛立ちを抑えながら俺は逃避した。
「あなたって本当に人間味がないよね」
同意を求められても困る。情に溺れることを彼女は人間味と定義しているのだろうか? その場の感情に左右されるなんて野生動物でも当たり前にすることだ。むしろ感情を抑えて理性的に行動するのが人間ではないのか。
「なに言ってんの? 猿じゃないんだから考えて喋れよ」
平手打ちをして去る女性なんて、それこそフィクションでしか見たことがなかった。「あなたは人間じゃない」なんて捨て台詞、別れの言葉にしてはいささか大袈裟過ぎると思う。相手が自分の思い通りに動かない瞬間なんて掃いて捨てるほど人生には転がっているのだから、いちいち腹を立てるよりも感情を押し殺して次の機会に活かせるよう社会との関わりを考えたほうがよっぽど建設的だと思う。例えばテーブル上の筒で丸まっているレシートをレジまで持っていってくれれば俺の不快さはわずかながらも和らいだであろう。俺はなにを期待されていたのか。リスク回避できなかった俺はどれだけ未熟なのか。
「俺は人間じゃない」
実はスーパーヒーローで、改造人間で、遊星から飛来した物体Xなのだ。およそ自虐とはほど遠い空想になんだかワクワクする。俺は玉城真希とは違う。彼女が自分を人間だと言い張るのであれば、俺は別に自分が人間ではなくても構わない。額の汗をおしぼりで拭う。最後のラッシーはまだ届かないのだろうか?
※ ※ ※
タナトスに塗れた探査機だから、マキの言葉からTが失われたのかもしれない。そんなどうでもいいことを考えながら、俺はシートの背を倒して、大きく伸びをした。
「マキ、ここからアステロイドベルトまでどのくらい離れているんだ?」
一度は火星探査計画から外されたミーロス2だったが、管制室の懸命な働きもあって、現存するエンジンのみを使用し安定した姿勢制御が可能となった。マニュアル操作はロックされ、俺の意志とは無関係に残された機材を投下するため火星へ向かっている。半年後に到着するエクソマーズ二〇三二のクルーによって、俺はどうやら断罪されるらしいが、不思議と晴れやかな気分に浸っていた。
(ここから一番近いおされる小惑星はエロスおなりますが、小惑星あい内縁ではガスプラおなります。距離はおよそ、一億一一五〇万マイルです)
「おお、エロスか。NEARが探査したS型小惑星だな」
そっちはアステロイドベルトにはないと人間なら指摘するだろうが、マキはAIだから余計な口を挟まない。興味の対象が変わるごとに思考を邪魔する者はもうこの船内に残っていない。感情なんてノイズは綺麗さっぱり消滅したのだ。誰にも侵害されない精神の浄土は仏土から十万億の彼方ではなく、日比谷のインド料理屋から七五〇〇万キロ上空に存在した。俺がどんなに辛く悲しくても、玉城真希はここに来られない。彼女は人間だから俺に同情することしか出来ない。
(間もなく火星周回軌道おう入シーケンスを開始します)
幸いにも記すべき内容はすべて書き終えた。いつか誰かが階層の奥からこのデータを発見してくれるだろう。些末な出来事の積み重ねで俺は人間に、自分に絶望した。愛することも人と関わることもストレスになった。
火星の引力に捕らわれる前に、俺はここから旅立つ。どこへ向かえばいいのか定かではないが、とりあえず小惑星エロスでも観光しようと思う。推進機の燃料が保つかなんて知ったことじゃない。人間を諦めた俺はここにいてはいけないのだ。
最初に火星へ降り立つのは、やっぱり人間でなくてはならない。ジェームズの死体に人類の希望を託し、俺はハッチのハンドルを回す。
(了)
この物語はフィクションであり、実在する人物ㆍ団体とは関係ありません。
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