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冷たさと暖かさがまざる四月



別れの四月



やさしい嘘のある四月



新しさへの躍動の四月



いろいろな気持ちが織り交ざるこの時期



何を感じている?



新しい季節には、新しい考え方を取り入れよう。

《#四月 》


その時らしい自分
l i s a


あなたは幸せですか?
届かない相手に話しかける

兼松 明里


ときに嘘つきは、相手への思いやりの始まり
磯部 三恵


開いた扉
伊東 彩乃

 その時らしい自分  l i s a

 空気の冷たさと日差しの暖かさがまざる四月。
 この時期は、何かが新しく始まりそうな雰囲気にどこか期待をしつつも、うまくやっていけるかどうかの不安も感じていて、とても不安定になる。しかも花粉症のせいで頭はぼんやり、体はだるく、駆け出したい気持ちをセーブされている感じ。
 そんな時、春の冷たい風が桜の花を揺らしているのを見ると、私の体の中にもスーッと冷たい空気が入ってきたように感じて、納まりの悪い心が落ち着いていくような気がする。「ま、大丈夫かな、やっていけるかな」と。

 桜の花はいつ見ても、わぁっと思わず口に出てしまうほど、気持ちを華やかにしてくれる。見た目の可憐さもそうだけれど、一つの花の姿は小さいのに、パアッと弾けるように咲き誇る様子が好き。そして、舞うようにひらひらと散っていく様子も。

 今は離れ離れになってしまった人って、いませんか?
 恥ずかしいからなのか、相手が近くにいないからなのか、状況が許さないからなのか、理由はいろいろあって、ありがとうと言いたくても言えない相手。私にはいる。
 伝える、気持ちを返すっていうのは時に難しくて、申し訳ないなと思いながらも、どうしてもできない時がある。
 そんな時は、桜を舞わせる春の風に「元気かな? 笑っているかな? もう私が、君が、一緒にいる時期は過ぎてしまったけれど、一緒にいた時間は今でも大切で、今日の私へと続いているよ。ちゃんとやっているよ。あの時はありがとう」と伝えれば、きっと届くだろうなんて夢見てしまう。

 私にとって四月は、冷たく暖かい、咲いて散る、別れと出会い、など表裏の言葉が同居する季節。どちから一方では成り立たないし、どちらも入れ代わり立ち代わり。ずっと続く「時」はない。だから「その時らしい自分」を大切にしていたい、そう思う。

 今の自分にできる範囲で、できることをやってみる。
 不安定になりがちな四月、私にはそれぐらいがちょうどいいようで。

 この四月、あなたは何を感じていますか?

 あなたは幸せですか?
 届かない相手に話しかける  兼松 明里

 寒い寒い冬が終わって、桜が咲き始める四月。
 きっと多くの人が春を待ち遠しく思っているというのに、十二年前の私は四月が来るのが本当に嫌だった。桜が大好きな私だったはずなのに。
 十二年前の私は、まだ自分の人生を決めることができなかった。ついていきたい気持ちよりも、自分の人生の選択肢がたくさんあることを選んだ。
 まだ若すぎて、多くの時間を共有した人とこれからも時間を共有すると決められなかった。
 四月が近づくにつれて、ふたりとも無意識か意図的か、そういう話に触れないようにしていたんだ。
 毎年同じ桜を見てきた人と、次の年の桜は一緒に見られないと、心のどこかでわかっていたのかもしれない。

 荷物を積んだ軽トラを見送ったとき、まだつぼみだった桜をひとりで見た。
 たくさんある出会いよりも、たったひとつの別れが一生心に残るものなんだ。
 そして私を強くした。

 あれから十二年。あの時から、四月が来ないでほしいと思ったことは一度もない。
 あたたかな日差しに、芽吹く緑に、膨らむつぼみに、鳥たちのさえずりに、自然と顔が綻ぶ。
 特になにかあったわけでもないのに、とても幸せな気分になれる。
 そして、今年は小さな手を握り、桜並木を歩いている。

 幸せな気持ちの中でも、ふと、別れを思い出してこころがぎゅっと苦しくなる。
 それでも、いきものがかりの『SAKURA』を聴いて、淡いピンクの桜の花吹雪のなかで「あなたは幸せですか? ……今、私は幸せだよ」と、届かない相手に話しかける。

 きっとこれからも、四月が近づくたびにそうするんだろう。

 ときに嘘つきは、
 相手への思いやりの始まり  磯部 三恵

 四月といえば「始まり」のイメージ。
 その他では、そう、嘘をついても良い日、エイプリルフールがありますね。
 嘘といえば、誰でもご存知のことわざがあります。『嘘つきは泥棒の始まり』って。
 確かに嘘はいけない。でもどうでしょう? 嘘ついたことのない人っているのでしょうか?
 その嘘で、私は印象深い思い出があります。

 以前、ファッション関係の会社勤めをしていたときの事です。
 新卒の女の子が私の部下として入社してきました。とても前向きで明るく、そして今時いるのかなと思うほど純粋な子でした。
 ある日、電話が鳴った時のこと。私は彼女に、「もし本社の上司から私宛だったら今は来客中と言って」と居留守をお願いしました。そして彼女が電話に出たのですが、案の定、私宛に上司からの電話。電話に出た彼女は顔を赤らめ、もごもご。その時きっと上司からは、はっきり言いなさい! と言われたのでしょう。困った彼女から出た言葉は「店長は出たくないって」。
 がぁ~ん!
 思わず耳を疑いましたが、もう後の祭り。
 彼女曰く『嘘つきは泥棒の始まり』。嘘をつくことに戸惑ったそうです。

 うん、確かにそうだ。
 そこで私はなぜ居留守を使おうと思ったのか、その理由を彼女に伝えました。その電話の数分前に上司と電話で話していて、論争で白熱してしまったことを。すぐに話すことで状況が余計に酷くなるのを避け、冷静になるための時間が欲しかったのだと。
 人を騙す、傷つける嘘は当然ついてはいけない。ですが、嘘によって円く収まることもありますよね。
 正直は大事。でも正直によって人を傷つけたり、争いの原因になったりしたらどうだろうか‥‥‥相手への配慮、思いやりによって物事を荒立てず、気持ちよくいられるなら。
 それでも嘘はダメかな? と彼女に訊きました。そして、「嘘は泥棒の始まりではなく、思いやりの始まり。そんなふうに人間関係を考えられたら、楽になることもあるよね、そうゆう考えの嘘はどうかな?」と彼女に話しました。
 その後、私は上司に謝罪をしたのですが、上司も考えてくれたのでしょう。揉めていた事は円満解決。また彼女の対応にウケてしまったらしく、大笑いで事は終わりました。結果、彼女には感謝なのですが笑。
 
 嘘つきは泥棒の始まりではなく、相手への思いやりの始まり。
 そう捉えられたら、楽になることもあり、そうゆう嘘はあってほしいと思います。

 開いた扉  伊東 彩乃

 移り変わる季節がやさしいことを知っているけれど、その香りに包まれるとき、うらめしく感じてしまう。それは、私に起きた出来事のせいなのでしょうね。
 ドーンと突き落とされ、どうしようもなく落ち込む心。見たこともないほど暗い景色。吸う空気にすら、内側から突き刺される思いだったあの頃。
 それらがいつ自分に起こるのかは分からない。構えることを知らない無防備な心。
 その時、季節は春だった。

 私だけが、止まっている?
 いや、むしろ後退している? ‥‥‥孤独感と焦り。
 自分を責める気持ちの行き場は、自分の心にしかなく、精一杯の攻撃をした。無益だと知っていても他に方法はなくて、傷つけるだけ傷つけた。
 気が済むなんてことはないのにね。
 全身の細胞がまるで剥き出しで、すべてに感傷的になっていった。

 そして、現れた救い。
 学びとともに、再生に向かう。その流れにのって、私は思う。
 あぁ、もう大丈夫なのね。
 安堵が促す温かいものが頬をつたい、緊張がほぐれた。

 与えられた巨大な渦の中で、自分が決めたストーリーを過ごす。
 これからも、選んでは進み、気づいては手離していくのね。

 今日もひとつ、気づくことができた。
 あなたが私に触れてくれたから。そのしなやかな指で。
 溢れる涙が解毒となって私を許し、ようやく納得させることができた。
 泣きたがっていた心に、気づくことすらできずにいたのね。

 解放され、私が新しく生まれる。

 突然のさよならのあと、驚くほどたくさんの、はじめましては訪れる。
 閉ざした心と痩せた笑顔に、少しの光りとやわらかさが戻るまでには、実は思うほど、時間はかかっていない。この季節のやさしさが、ちゃんと手をひいてくれるから。
 そんなふうに、エネルギーがうごめく季節。それが私の春なのだと思う。

 ひょいっと私をすくい上げてくれる風が吹く。 
 今度はどこへ連れていってくれるのかしら?
 上を向いた睫毛が、気持ちまで高いところへ連れていってくれそうね。



ライター紹介

おわりに

兼松 明里
(かねまつ あかり)


引き出物プランナー、贈り物コーディネーター

学生時代は畜産を学び、卒業後は製薬会社の研究所で技術職として勤務。その後特許ライセンス業務に就き、妊娠出産を経て現在はまた研究技術職に復帰。趣味の、旅や食べ歩き・お取り寄せをキッカケに自身の結婚式でカタログギフトを自作。その後【引き出物プランナー】【贈り物コーディネーター】として開業。ヒト・モノ・コトとの出会いを求め、家族を巻き添えにし、休みの度に車で走り回っている。

Message
世の中すべてのモノやコトは理由さえあれば
“ギフト”になる可能性をもっている

ブログ
http://ameblo.jp/kokoro-no-tsumeawase/

Instagram
@hikidemonoplanner

伊東 彩乃
(いとう あやの)


中小企業診断士事務所スタッフ

静岡に生まれ、静岡の学校を卒業し、静岡でOLなどを経て、現在は中小企業診断士の事務所に勤務。広報を担当。静岡市七間町を中心に、静岡おまちのイベント・お店・商品・人をブログで紹介する日々。


Message
「自分なんて…」と思うからこそ自分自身を開きたい。
変われることを伝えられる人になりたい。



事務所スタッフブログ

http://ouendan.eshizuoka.jp/

磯部 三恵
(いそべ みえ)

「therapy mirakul 」
女性専用カウンセリング、メンタルケアセラピスト


私は昔、インナーチャイルドに捉われていました。抵抗していくことで、現在の自分、ライフスタイルを獲得しています。女性が自分らしく充実して生きていく、そのために私ができるお手伝いがある! その思いから「ミラクル」をはじめました。


Message
自己の過去から『現在』『未来』は変えられる。
意識づけが変化を生み充実したWoman lifeに繋がる。


ホームページ

http://www.therapymirakul.com

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ピアノ弾き、音楽クリエイター、図書館司書


Message
わたしはわたし
ひとはひと
みんなそれぞれの人生をちゃんといきている
だからおもしろい✨
を心にとめて


SNS
Instagram / Twitter / note
@lisa_anone_nohi

 おわりに

 歓喜は対決や
 緊張のないことろからは
 決して生まれてこない。

    ―岡本太郎『自分の中に毒を持て』(青春出版社)

 私はこの言葉を本からではなく、東京国立近代美術館で2011年3月から5月にかけ開催された『生誕100年 岡本太郎展』で見つけました。入館の際に、岡本太郎さんの言葉が一枚ずつ配られていて、これに当たったんですね。
 対決や緊張という、ちょっと苦しいのを超えた先に、喜びを感じるところへと行ける。
 当時、社会人なりたてだった私には、それが億劫に感じていたものです。だって、これから苦しむってこと⁉ って思ったので。
 六年たった今では、言葉通り、大変なことも喜びもたくさん経験しました。状況や気持ちの浮き沈みは固定ではなくて変化するものだと思えるようになり、不安定さへの耐性がちょっとはできた、と思います。
 それはやっぱり、たくさんの知識や考え方を、たくさんの方に教えてもらってきたことが大きいんですよね。だからエッセイマガジンをやりたいなと思ったわけです。
 この先にまた新しい扉が開けると信じて。



スタジオ 木の中庭 l i s a

Her stories #四月

2017年3月26日 初版 2020年3月 第2版 発行 

著  者:
発  行:スタジオ 木の中庭

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Her stories

"私らしさというのを持ちながら、今ここを生きようと変化し続ける女性はとってもハンサム! そのために必要なのは……? たくさんの考え方にふれて自分を知ること、だと思う。"
Her storiesは「多様な考え方とスタイルを知ることこそ自分らしく生きるコツ」をコンセプトに、ライフスタイルも仕事も考え方も異なる女性たちのお話を配信するエッセイマガジンです。ライターが執筆を通して自身の振り返りと発見をし、自分の言葉で伝えていきます。そして、「より自分らしく生きたい」と願う読者に向けて、ハンサムに生きるためのヒント「たくさんの考え方やスタイルを知る」機会を提供することを目的としています。
毎号「言葉」を決めて、そこから連想されることを各自書いていくのですが、同じ言葉なのに思い出したり考えたり感じたりすることはバラバラ。文調も使われる言葉も人それぞれ。それは、考え方の違い、これまで生きてきた背景の違い、感性やセンスの違い‥‥‥その人らしさが出ているからだと思います。それってとっても面白い! と思いませんか?
読んでくださる皆さんが「自分だったらどうだろう?」と想像をめぐらせる、自分を見つめる機会になったならうれしく思います。
自分らしく生きたい人のヒントになることを願って。

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