「それは空想の話でしょ」
漠然としたことや夢見がちなことは否定されやすい。
でもそこにこそ、ヒントが見え隠れしているとしたら?
空想の中には、隠している本当の自分がいるかもしれない、
と思っている。
曲づくりはホットケーキを焼くのに似ている
l i s a
坂でみた夢
伊東 彩乃
産みの苦しみ
兼松 明里
流れる雲が物語をつくっていく
磯部 三恵
「どうやって曲はつくるんですか?」
バンドをやっている、オリジナル曲をつくっている、と言うと結構訊かれる質問。
うーん、言葉では説明しづらいし、毎回違うので「これこれこう」とは言えないけれど、頭の奥、耳の奥でその音が聞こえる。ピアノを触っているとフレーズが何とはなしに出てくる。イメージがあってそれに合った音を探っていると出てくる。そんな漠然とした感じ。空想の世界とでもいうのか、漠然としたイメージや感情が自分の中にあって、その世界で鳴っている音に手を伸ばすような感じ。
最近のお気に入りのイメージは、イングリッシュガーデンやアフタヌーンティーのイメージ。
でも、イギリスに行ったこともなければ、優雅にドレスアップしてお茶会なんてしたことはないから、空想になる。
じゃあ、その空想はどこから生まれるの?
イギリスの歴史や文化、美術館で見た中世のドレス、貴族を題材にした小説や漫画やアニメ、ピーターラビットや紅茶の本、テレビやネットなどで目にするヨーロッパの景色やガーデン、実際に見た草、花、虫、人、音楽、景色……これまで見て聞いて知ったことが、ホットケーキミックスよろしくいい具合に混ざり合い、焼くとどんどん膨れて、プツプツし出して、最後にはポンッと一つのかたちが登場。そんな感じ。
実はこれ、アイデアが生まれるときと似ているそう。
私のお気に入りの一冊に『アイデアのヒント』(ジャック・フォスター著、青島淑子訳、阪急コミュニケーションズ)という本がある。その中で、
『アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない』
― すでに知っている材料を、これまでとは違った方法で組み合わせるだけ。―
とある。アイデアは何もないところから生まれるのではなくて、自分がこれまで得た知識、経験などの情報を材料にしている。そう、自分の中にすでにアイデアは存在している。
なお、私の感覚だと、アイデアの前には空想があると思う。
そしてその二つの間をつなぐのは多分「制約」。
ほわほわとした空想に、例えばピアノなら十本の指・十二音という制約、このマガジンなら日本語・文字数・自分の言葉・〆切という制約。制約があることで、アイデアが生みだされるための準備が整うんじゃないかと思う。
もし空想が「くだらないなぁ」「現実にはあり得ないなぁ」と思うものでも、どのタイミングで何のアイデアにつながるか分からないから、否定はせずにとりあえず頭上空にほわほわとそれらを浮かばせておく。それこそ空想だけれど。
いつかのための助っ人をつくっているんだと思えば、そんな時間もありだと思わない?
棚から落ちてきた、とても大きな牡丹餅を、随分と粗末に扱ってしまったようね。
山ひとつが学校。坂道だらけ。大学はそんな場所にあった。
毎日の坂道の往復、だけど息切れなんてしないほど、体じゅう湧き出るパワーで満ちていた。
デイドリームの中で遊んでいた。
仲間と語る理想。
この時間に限りがあるとは思いもしないほど、現実から目を逸らしながら、遊んでいた。
未熟な彩り、臆病な好奇心、そして驚くほどの脆さ。
次第に自分の世界のサイズやバランスに違和感を抱きはじめる。
脱皮もできず、サナギになることも恐れ、いや、はたして私は、蝶になりたいのか。
目が眩んだ場所で、歩む方向も定まらないまま、立ち止まってしまう。
与えられた環境の価値を、私は十分には活かしきれなかった。闇に慣れた目には、小さな光も眩しすぎた。何をするのも自由だったけれど、何もしないこともまた、容易に選択できた。
しかし、限定された理解の中で、私は幸せな時間を過ごしたといえる。
静かで控えめな人。青いスポーツカーに乗っていた。長い時間、思い出を重ねることになった人。
彼の左側が私の居場所だった。シフトチェンジをする左手と、加速するGがお気に入りで、彼と、その向こうに流れていく景色を眺めるのが好きだった。
ふたりの将来の話、実はたくさんしていたね。曖昧な約束も。
でも、環境は関係を変える。
本質を見ることのできない私は、なにもわかってはおらず、人の気持ちさえも知らず、身勝手で身軽だった。欲しいものはすべて欲しく、要らないものには簡単に背を向けた。乱暴なほど。青い空でさえ、欲しければ手に入ると思っていた。
儚いふたりのデイドリーム。
青い海がやさしい波でさらっていったわ。低いエンジンの音だけ、耳に残る。
青いスポーツカーは、今は追憶の峠を走っているだけ。
思い出すとき、後悔とは少し違う、胸がざわつく感じがする。だけどもうどうにもならない。どうするつもりもない。
似た車を見ると、いまだにドキッとするけれど、記憶の中に彷徨ったりはもうしないわ。今の私は、懐かしいものを見る目で、青いスポーツカーを見送ることができる。
今はハンドルを握る方が好きで、右へも左へも、自分の意思で自由に行ける。だいぶ強気になったものだわ。
だけど時々思う。もしかしたら私はずっと、あの青い軌跡を追いかけているのかもしれない。追いつけないことを知りながら。
デイドリームの中のドライブ。きっとこれからも、探し求めていくのね。
ハンドルを握る手に、力を込める。
自分でも何を考えていたのかわからなくなるときがある。
頭の中では考えていることがコロコロ変わっていく。
最初は他愛もないことを思い出し、そこから二転三転し、最後には「なんでこんなこと考えてるんだっけ?」と我にかえる。
そしてまた振り出しに戻って、違うゴールにたどり着く。
そんなことをしているときの方が、良いアイデアが思いつく割合が高い。
なーんにも縛りのない状態で数珠繋ぎのように物事を考えているときは、アイデアが無限大だと感じる。
でも最近、一生懸命考えれば考えるほど視野が狭くなっているのを感じている。
私は引き出物プランナー、贈り物コーディネーターという仕事をしている。
引き出物プランナーは、世界にひとつだけの完全オーダーメイドのカタログギフトを作ること。贈り物コーディネーターは、ギフトとしての商品開発や消費者個人のTPOに合わせたギフトの提案をすること。この仕事は物ではなくアイデアを売っているようなものなので、考えすぎて行き詰まることが多い。
どうして必死で考えているときは思い浮かばないんだろう?
産みの苦しみとはこういうことをいうのか……とよく途中で諦めてしまう。
それはきっと、考えようとして考えていると「実現可能」なことばかりを思いついてしまうからだろう。
ぼんやりと「なにか」を頭に思い浮かべていると、実現不可能なことが多く、それをどうしたら実現できるのかを一生懸命考える。でも、実現できることを思いつくとなぜか視野が狭くなる……そこでモヤモヤしていると何かのきっかけでまた違うことを思いつき、考えて、考えすぎて行き詰まって……の繰り返し。
なんだかそんなことをして1日の大半を過ごしている自分。
まるでハムスターの頬袋みたいに、出したり入れたり。食べてみたり。捨ててみたり拾ってみたり(笑)
これを書いているときも、もうあっち行ったりこっち行ったり。大変です(苦笑)
もしまた行き詰まったら、美味しい珈琲でも飲みながら好きな本を読んだり空を眺めたりすることが、自分には必要なんだろうな。
アイデアの泉は、心が満たされてないと湧き出てもこないし溢れもしない。
「空想」で思い描いた情景を言葉で表すと何ですか?
それを考えると、私は「出会い」という言葉につながりました。
それは何故なのか……?
遡ること中学2年生の夏。それが始まりだったように思います。
私は中学1年生の1学期の終わりに、父の仕事の関係で転校しました。最初、新しい生活地の光景を受け入れられずに落胆し、これから始まろうとしている学生生活に不安を感じていました。ですが周囲の温かい対応のおかげで、時間は自然に流れていきました。
そんな中学2年生の夏。
家の窓から流れる雲を眺め、ふとアルプスの少女ハイジが浮かび、もし雲に乗れたらどこへ流れて行くのだろう……どうして私の「今」はこうなのだろう……と、逃避の感情からなのか、それとも未知への好奇心からなのか、私は空想の世界に入っていきました。
今、私は一人。
その「今の自分」を自知している、すなわち今は私だけの意識の世界。
当たり前だけど、そこには私以外の人の存在を五感で感じ取れることはない……
でも、その空間に私以外の人が現れ、時間を共有し、お互いの存在を五感で感じ、喜怒哀楽が起こる。
何故、その場面に共演者が現われるのだろう?
何故、その人なのだろう?
そんな、答えがでない不思議な思いを巡らせていました。
その後も時折、
何故、今目の前にいるのはこの人なんだろう?
何故、一緒にいるんだろう?
と、不思議な思いは湧き上がりました。そしてこれを書いている今、改めて、どんな時にその思いが湧き上がるのかを考えてみました。
するとそれは、感情が動いた時、自分では想像しなかった物事が展開した時、心に刻み込まれるほどの場面が目の前に現れた時だと分かりました。
「運命は決まっている」
そんな言葉を耳にしますが、私は、運命は「流れる雲」のようなものではないかと思っています。
ハイジのように雲に乗り、自分の空想の世界へ流れていく。流れる雲は自分の物語をつくる。でも物語は一人ではつくれません。共演者が必要になります。そこで「出会い」なのです。
共有する時間が物語をつくり、その時に湧き上がった自分の感情が雲となって、これからの物語へと流れていく……
出会いによって、意識された自分の感情の受け止め方によって、私たちはこれからを選択しているのではないか……
だから、「出会い」はこれからの世界を空想させ、そして現実の物語へとつながっていると思うのです。
中学2年生の時からの不思議な思いの答えが、今、見えたように思います。
そして、空想がこれからの物語につながっているのなら、たとえそれが逃避の感情からでも、未知への好奇心からでも、その時間を楽しんだ方がお得じゃん? と思ったのです(笑)。
兼松 明里
(かねまつ あかり)
引き出物プランナー、贈り物コーディネーター
学生時代は畜産を学び、卒業後は製薬会社の研究所で技術職として勤務。その後特許ライセンス業務に就き、妊娠出産を経て現在はまた研究技術職に復帰。趣味の、旅や食べ歩き・お取り寄せをキッカケに自身の結婚式でカタログギフトを自作。その後【引き出物プランナー】【贈り物コーディネーター】として開業。ヒト・モノ・コトとの出会いを求め、家族を巻き添えにし、休みの度に車で走り回っている。
Message
世の中すべてのモノやコトは理由さえあれば
“ギフト”になる可能性をもっている
ブログ
http://ameblo.jp/kokoro-no-tsumeawase/
Instagram
@hikidemonoplanner
伊東 彩乃
(いとう あやの)
中小企業診断士事務所スタッフ
静岡に生まれ、静岡の学校を卒業し、静岡でOLなどを経て、現在は中小企業診断士の事務所に勤務。広報を担当。静岡市七間町を中心に、静岡おまちのイベント・お店・商品・人をブログで紹介する日々。
Message
「自分なんて…」と思うからこそ自分自身を開きたい。
変われることを伝えられる人になりたい。
事務所スタッフブログ
http://ouendan.eshizuoka.jp/
磯部 三恵
(いそべ みえ)
「therapy mirakul 」
女性専用カウンセリング、メンタルケアセラピスト
私は昔、インナーチャイルドに捉われていました。抵抗していくことで、現在の自分、ライフスタイルを獲得しています。女性が自分らしく充実して生きていく、そのために私ができるお手伝いがある! その思いから「ミラクル」をはじめました。
Message
自己の過去から『現在』『未来』は変えられる。
意識づけが変化を生み充実したWoman lifeに繋がる。
ホームページ
http://www.therapymirakul.com
l i s a
ピアノ弾き、音楽クリエイター、図書館司書
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わたしはわたし
ひとはひと
みんなそれぞれの人生をちゃんといきている
だからおもしろい✨
を心にとめて
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アイデアにはもともと破壊的な要素が秘められている。アイデアには物事を変える力がある。アイデアが独創性にあふれていればいるほど、もたらされる変化は過激だ。素晴らしいアイデアの登場によって人生観が根底からくつがえされたり、仕事がなくなったり、自分の将来が大きく変わってしまうこともありうる。それを考えれば、アイデアへの風当たりが強いのも当然なのだ。
―『アイデアのヒント』(ジャック・フォスター著、青島淑子訳、阪急コミュニケーションズ)より抜粋
なんで新しいアイデアというのは求められておきながら、結局は敬遠されるのか?
自分から出たアイデアを疑ってしてしまうのか?
ずっと疑問に思っていました。エッセイでも紹介したこの本のこの部分は、そのヒントだと思いました。
人の意見に賛同できないとき、自分のアイデアが信じられないとき、もしかしたら怖いのかもしれません。
大人になればなるほど、経験は増えて、多くの知識を手に入れると同時に、社会のルールや枠、先入観もたくさん身についていきます。
もしかしたら、その新しいアイデアは、今では拠り所となったそれらを崩してしまうかもしれない。時には右も左も分からないような不安を感じて、また一から学び直さなくてはいけないかもしれない。しかも、新しいことというのは前例がないから、そもそも正しいかどうか、結果に結びつくのかどうかなんて分からない。ましてやサイクルの速いこの時代。今その意見が「いいね」だったとしても、明日には逆転する可能性だってある。だからやっぱり前例のある方、今まで通りがいいのでは? まだそのアイデアは保留にしておくべきでは? という気がしてくる……
新しいアイデアに対して、無意識にですがこんな風に反応しているのかもしれません。
そしてついつい「まだ不明瞭な点が多いので、もっと分析して、調べて、より明確にしてから取り組もう」となってしまうのかも。
もし今度、人の意見に賛同できなかったり自分のアイデアが信じられなくなったりしたときは、
「なんで否定的なの? どうしてダメなの? もしかして怖がってる?」
と自分に問いかけてみようと思います。
スタジオ 木の中庭 l i s a
2017年5月11日 初版 2020年3月 第2版 発行
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"私らしさというのを持ちながら、今ここを生きようと変化し続ける女性はとってもハンサム! そのために必要なのは……? たくさんの考え方にふれて自分を知ること、だと思う。"
Her storiesは「多様な考え方とスタイルを知ることこそ自分らしく生きるコツ」をコンセプトに、ライフスタイルも仕事も考え方も異なる女性たちのお話を配信するエッセイマガジンです。ライターが執筆を通して自身の振り返りと発見をし、自分の言葉で伝えていきます。そして、「より自分らしく生きたい」と願う読者に向けて、ハンサムに生きるためのヒント「たくさんの考え方やスタイルを知る」機会を提供することを目的としています。
毎号「言葉」を決めて、そこから連想されることを各自書いていくのですが、同じ言葉なのに思い出したり考えたり感じたりすることはバラバラ。文調も使われる言葉も人それぞれ。それは、考え方の違い、これまで生きてきた背景の違い、感性やセンスの違い‥‥‥その人らしさが出ているからだと思います。それってとっても面白い! と思いませんか?
読んでくださる皆さんが「自分だったらどうだろう?」と想像をめぐらせる、自分を見つめる機会になったならうれしく思います。
自分らしく生きたい人のヒントになることを願って。