日常でよく使われる言葉
「ファッション」
英語では
「仕方」「流儀」「流行」
を意味する
由来は
「行為・所作」
を意味するラテン語factio
ファッションは
「今日の自分はどう在るか」
を表現するためのツール
色違いの心
伊東 彩乃
「こうありたい私」をつくる色
l i s a
モチベーションを纏う
兼松 明里
自分の逃げ癖を押しとどめたもの
磯部 三恵
時計とベルトと靴。色は合わせるのが基本。
そう教えてくれたのは、ブルーのスーツが似合う人だった。
付き合って2年半ぐらいのある日、デートの夜。
マスカラを塗ったあと、瞬きをして、お化粧を終える。
クローゼットの前、どちらのワンピースにしようか、真剣に考えていた。
スッキリとした黒か、ふわっとした白か。
手に取ったのは、ふわっとした白。ボタニカル柄のワンピース。
「ずいぶんと寒そうだね」
私を見たときのあなたの言葉。
可愛いねとか、似合うよって、そんな言葉を待ち構えていた私のミット。
どれだけの変化球を投げてくるんだか。いや、今思えば牽制球だったのか。
期待した言葉をくれたことって、何回あったかしら。
でもいいわ。今夜の目的はワンピースを見てもらうことじゃない。
大事な話があるの。
私の転機。
あなたは何て言うかしら。
カウンター席に座って脚を組む。
顔は前を見たまま、意識はあなたに向け、明るい調子で口を開く。
「私ね、仕事を辞めようと思うの。これから、どうしようかな」
2人の関係に進展を迎える時の到来。
その予感に、私は心踊っていた。
前向きな思いで、あなたの反応を待つ。
「君の思うようにすればいいんじゃないかな」
思わぬ台詞。しかも淡々と。
一瞬理解に苦しみ、次の言葉がすぐに出てこない。
気を取り直して、
「……そうね。だけどあなたにも関わることじゃない? 将来は、私だけのものではないし」
「ぼくが決めることじゃない」
あなたはまた淡々と言う。
さっきまでの前向きな思いが一転。つい問い詰めるような口調で返してしまう。
「どうして2人のことを、私だけで決められるの? あなたの感情と意思はどこへいったの……?」
私が望んでいたのは、こんな会話じゃない。
ぐっと抱き寄せてくれたら、それだけでよかった。言葉なんかいらずに。それが私の欲しかった答えだったのに。
だけど、あなたの予想外な反応もまた、明確な答えだった。
重ねた時間を思う。私はあなたに何を刻めたのかしら。
腕時計を見るあなた。
私はあなたの特別じゃなくて、日常になりたかったの。無意識な存在に。
虚しく燃えた願いね。
外に出て、2人、人工的な光であふれた繁華街を歩きはじめる。
白いボタニカル柄のワンピースの裾を、冷たい夜風が揺らす。
いつもさり気なく、私の腰に回してくるあなたの左手は、その日は固くポケットにいれられていた。
スクランブル交差点であなたと私は別方向へ。
またひとつ、なにかが終わりを告げる音。車のクラクションの音と重なって、鳴っているのかもわからないけれど、確かに聞こえた気がする。
賑やかな街の光が霞んでいる。
あなたの背中ももう見えない。
今日のワンピースはどれにしよう。
迷わずスッキリとした黒を手に取る。
この黒いタイトなワンピースが、今の私の気持ちにぴったりに思えたから。
きっと似合っているはず。
原色の赤よりも朱色。
真っ白よりも未晒の白色。
濃いピンクよりもくすんだ薄桃色。
絵の具のままの水色よりも薄くのばした水色。
真夏よりも初夏の薄黄緑色。
私の好きな色、輪郭が曖昧な色。
クローゼットの中を見れば、そんな曖昧な色の服がたくさん。そして、ぴたっとしたものではなく、ゆったりと着られるものばかり。
私は身長150センチと体が小さいため大抵の服は大きくて、ゆったりは余計にゆったり。というよりだぼだぼ。学生時代に付き合った彼からは、「そんな服ばかりだよね。太って見えるからよせば?」と言われ、試しにぴたっとした服をしばらく着てみたけれど、なんだかもぞもぞ……動きづらい、というより息がしづらい。そのアドバイスはすぐに無視した。
それからというもの、ぴたっとしたものに苦手意識があり、かっちり系代表のスーツも絶望的に似合わない、といつも感じている。会社を辞めてよかったことの一つは、実は毎日スーツを着なくて済むことだった。
占いが好きで、著者違いで星座の本を何冊か持っている。
私は5月下旬生まれの双子座で、『石井ゆかり 双子座』(WAVE出版)が最近のお気に入り。表紙と中身にちりばめられたイラストがとても可愛く神秘的で、ジャケ買いした本。双子座の風景、色、価値観、好む環境、パターンなどが書かれていて、最近ちょっとうまくいってないな、と思うときは客観的になろうとこの本をペラペラ開く。
本によると、「風通しの良さ」が双子座にとっては重要なんだとか。
輪郭が曖昧な色やゆったりとした服が好きなのは、その「風」に関係しているんじゃないかとふと考える。
気持ちのいい風は、スーッとのびのびどこへでも吹いていけるイメージ。強い主張をしなくても、隙間があれば穏やかに爽やかに、いちいち断らなくてもスイスイその場所へ入って、周りにちゃっかり馴染む空気のような……そんな身軽で心地よい存在にとても憧れる。
ゆったりとした服は、そんな風が出入りしているのを感じられるから好きなのかもしれない。
これは性格なんだろうけれど、わたしには、白黒はっきりさせないと前に進めない、周りに合わせられないところがあって、時々ちょっと重たく感じる。本質はそのままに、形、輪郭をちょうどよく変えられたらいいのに、とよく思ってしまう。だから、身軽さを纏いたくて、曖昧な色の服が好きなのかもしれない。
一方で、バシッと決めたいときやかっちりさせたい場面、前へ進みたいときは、その重たく感じる部分がとても役に立つ。助けられる。スーツでも、ぴたっとした服でも、そういう時はむしろ着たくなる。
個性や本質はそのままに、輪郭は基本曖昧にしておいて、都度変えてはいろんな所へ出入りできる自分。妥協とは違う、柔軟性。
「そっか、私は、どこにでも出入りできる風みたいになりたいんだ」
好きな服装から自分をまたひとつ知る。
その日の私を作るのが色と服なら、ありたい私をそこから触発することもきっとできる、と思っている。
「着る」という言葉は私にとって、服を着るだけではなく、モチベーションを纏うという意味がある。
お気に入りの服や靴を身に着けるとき、髪の毛がうまくまとまったとき、化粧ののりが良かったとき。そういうとき、自分のモチベーションはいい感じに上がってないですか?
なんか今日はイマイチだな~服はいいんだけれど、湿気で髪の毛がうまくまとまらない! ってときは、モチベーションが下がってしまいませんか?
ファッションは服だけではなく小物や靴、そして髪型や化粧など全体のことをいう。
自分を表現するのに一番わかりやすい外見が自分好みに仕上がると、1日気分が良い。
そして、自分の好みの物に出会ったとき。これもまたものすごく幸せな気分になる。もう一目ぼれの域。
今はもうあまり言わないけれど「ビビビッ」とくる感覚は、まさに運命の出会い。
この出会いを逃してなるものかと猪突猛進。
こうやって出会った服や小物は、一定の期間私のモチベーションを保ってくれる。
でも、次のシーズンが来たときにそのモチベーションが保てるかというと、またそれは別物。
何年も愛せることもあれば、1シーズンで「なんか違うな、合わなくなったな」と思い、また新たな「出会い」を求めて探しに行く。
あぁ、こうやって考えていると、人との出会いも、同じ。
服との出会いや付き合い方は、人との出会いや付き合い方に似ているんだなと気がついた。
クローゼットの断捨離と、人間関係の断捨離はよく似ている。
冒頭いきなりですが、私は「根性・努力・面倒」この3拍子がとても苦手です!
いかにこの3拍子をせずに済むのかと回避の道を選んできた人間です(苦笑)
ところが、その道を塞いだものがあります。
そう、それが今回のテーマ「Fashion」です。
1980年代のバブル期。全盛だったのが「DCブランド」。川久保玲のコムデギャルソン、ヨージヤマモト、松田光弘のニコル、金子功のPINKHOUSEなどデザイナーによる個性溢れるファッションが時代を飾り、街ではDCブランドに身を纏った男女が主張し合うかのように華やいでいました。
私はその姿に憧れと強い衝撃を受けました。そしてふと気づいてしまったのです。何も取り柄がない、自信のない自分に・・・・・・私は何だか取り残されているように感じました。
そんな時、某アパレルメーカーのスタッフ募集が目に入り、突き動かされたというのでしょうか、「このままでは後悔をする!」との思いが湧き応募、勤務することとなりました。そこから私とファッションとの関わりがスタートしたのです。
もう初日早々から凹みました。今までの私とは全く違うファッションスタイルを求められ、それが自信のない自分を見透かされたような、否定されたような……そんな気になり、更に自信喪失。「はぁ~私には無理かも!?」とギブアップ気味。現実は甘くはなく、「あ~やってらんない! 辞めよう!」と何度となく私の3拍子回避の癖が出現しました。
でもその私を思い留めるものが!
それが、シーズン毎に行われるファッションコレクション。
モデルが新しいコレクションを身に着け、颯爽と歩く姿はとても美しい。
そして目の前に広がる新しい世界。
魅了されました。単純に目の前の華やかさではなく、その世界が形となって表現されるまでに関わった人、費やされた時間と労力の集大成。コレクションはまさにステージ!
そこには私が苦手としている3拍子があり、その3拍子をやり込めた強さが形となって現れている!
私はこのコレクション=ステージに惹きつけられ、3拍子回避の道へ逃れたいという気持ちが押しとどめられたのです。
きっと私はファッションを通して、自分の居場所・自分作りを重ねていたのだと思います。私の持つ逃げ癖を留まらせ、次のコレクション=ステージにつなげていける自分になりたいと。
こうして、私はファッションというものに特別な感情を持つようになりました。
私にとって、ファッションとはステージ。
次のステージの為に、目の前のステージを歩く。
さて、次は何を着て歩こうかな♬
兼松 明里
(かねまつ あかり)
引き出物プランナー、贈り物コーディネーター
学生時代は畜産を学び、卒業後は製薬会社の研究所で技術職として勤務。その後特許ライセンス業務に就き、妊娠出産を経て現在はまた研究技術職に復帰。趣味の、旅や食べ歩き・お取り寄せをキッカケに自身の結婚式でカタログギフトを自作。その後【引き出物プランナー】【贈り物コーディネーター】として開業。ヒト・モノ・コトとの出会いを求め、家族を巻き添えにし、休みの度に車で走り回っている。
Message
世の中すべてのモノやコトは理由さえあれば
“ギフト”になる可能性をもっている
ブログ
http://ameblo.jp/kokoro-no-tsumeawase/
Instagram
@hikidemonoplanner
伊東 彩乃
(いとう あやの)
中小企業診断士事務所スタッフ
静岡に生まれ、静岡の学校を卒業し、静岡でOLなどを経て、現在は中小企業診断士の事務所に勤務。広報を担当。静岡市七間町を中心に、静岡おまちのイベント・お店・商品・人をブログで紹介する日々。
Message
「自分なんて…」と思うからこそ自分自身を開きたい。
変われることを伝えられる人になりたい。
事務所スタッフブログ
http://ouendan.eshizuoka.jp/
磯部 三恵
(いそべ みえ)
「therapy mirakul 」
女性専用カウンセリング、メンタルケアセラピスト
私は昔、インナーチャイルドに捉われていました。抵抗していくことで、現在の自分、ライフスタイルを獲得しています。女性が自分らしく充実して生きていく、そのために私ができるお手伝いがある! その思いから「ミラクル」をはじめました。
Message
自己の過去から『現在』『未来』は変えられる。
意識づけが変化を生み充実したWoman lifeに繋がる。
ホームページ
http://www.therapymirakul.com
l i s a
ピアノ弾き、音楽クリエイター、図書館司書
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わたしはわたし
ひとはひと
みんなそれぞれの人生をちゃんといきている
だからおもしろい✨
を心にとめて
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2017年6月9日 初版 2020年3月 第2版 発行
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"私らしさというのを持ちながら、今ここを生きようと変化し続ける女性はとってもハンサム! そのために必要なのは……? たくさんの考え方にふれて自分を知ること、だと思う。"
Her storiesは「多様な考え方とスタイルを知ることこそ自分らしく生きるコツ」をコンセプトに、ライフスタイルも仕事も考え方も異なる女性たちのお話を配信するエッセイマガジンです。ライターが執筆を通して自身の振り返りと発見をし、自分の言葉で伝えていきます。そして、「より自分らしく生きたい」と願う読者に向けて、ハンサムに生きるためのヒント「たくさんの考え方やスタイルを知る」機会を提供することを目的としています。
毎号「言葉」を決めて、そこから連想されることを各自書いていくのですが、同じ言葉なのに思い出したり考えたり感じたりすることはバラバラ。文調も使われる言葉も人それぞれ。それは、考え方の違い、これまで生きてきた背景の違い、感性やセンスの違い‥‥‥その人らしさが出ているからだと思います。それってとっても面白い! と思いませんか?
読んでくださる皆さんが「自分だったらどうだろう?」と想像をめぐらせる、自分を見つめる機会になったならうれしく思います。
自分らしく生きたい人のヒントになることを願って。