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ワン ノート マーチ

西脇秀之



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東区市民劇団オニオン座の次回作が新型肺炎の感染拡大防止のため公演中止となった。
これは上演台本ではなく、稽古台本である。
出演者に手渡した台本から、公開するにあたり最低限の修正をした。
しかし読み物としては不十分だと理解している。

ちょうど本番3週前の土曜日、出演者全員が揃わなかったが、場面ごとの通し稽古をした。
それが最後の稽古となってしまった。
出演者も作品全体を通していない。
毎日、笑いのたえない楽しい稽古が続いていた。
稽古の記録として、ひとまずここに残しておく。
また本番を心待ちにしていた方の中には、台本を読んでみたいという方がいるかもしれないと思った。
未完成であることをご了解ください。
3週間後には、どんな上演になっていただろうと想像しながら読んでいただければ。

   2020・3・14

 目 次


登場人物


プロローグ
第一話 2020年3月 『卒業』
第二話 2020年10月 『鉄道の日』
第三話 2021年4月 『新学期』

 おまけ



ワン ノート マーチ




  登場人物

《東区の駅》
●駅長
●女駅員
●男駅員
●新人駅員
●鉄道技術館職員
●キオスクの店員





《駅の利用者たち》
●いずみ(駅長の娘)
●ご近所さん
●めぐ(卒業生)
●めぐの母

●鉄子
●鉄ちゃん

《観光客》
●ジンさん
●ギスさん
●カンさん

《地元のお笑いコンビ「マッチとポンプ」》
●マッチ
●ポンプ

《地元のバンド 「パルランド楽団」》
●パーカス
●ベース
●トロンボーン

《鉄道探検隊の子どもたち》
●ゆう太郎
●ぜん太郎
●そう太郎
●ひな
●ゆみ
●まき
●かな
●みっちゃん

《修学旅行が間近な高校生》
●班長
●しお子
●そら子
●なっちゃん

プロローグ


はじめに、ピアノがある。

みっちゃん、ピアノの前に現れる。
それこそ演奏会のように一礼。
ピアノを弾く。

 ♪ 演奏 ♪
【たとえば「ねこふんじゃった」とか】

演奏終了。
みっちゃん、立って一礼したのち。

みっちゃん   晴れた空。雪が朝日に照らされて眩しい。私たちが寝てる間に、街は新しい布団を一枚首までかけたみたい。

また椅子に座り、見えない誰かとおしゃべり。
それはピアノとおしゃべりしているようでもあり。

みっちゃん   (…)そう、真っ白のふかふかの。(…)うん、気持ちよさそう。(…)にしても眩しい。(…)痛いよね。目がぁああ!…みたいな。(…)ねっ。キラキラしてる。

そして、また立って。

みっちゃん   建設中のマンションがいつの間にか高く積み重なっている。横断歩道…信号機…人も車も白い息を吐いて、ツルツルの道を進む。広場…レンガ……警笛…踏み切りの音……駅。

ピンポーン…電子音の盲導音が聞こえる。

みっちゃん   今日の予想最高気温3度、最低気温マイナス3度。天気予報的には平均並みの2020年3月の朝。

みっちゃん後ずさり、そして「ペンギン歩き」で去る…へんなの。

 ◇ ◇ ◇

第一話 2020年3月 『卒業』


そこは鉄道の駅。
その待合いにピアノが置かれている。

ピアノから少し離れて、ベンチが並ぶ。
上手に改札と駅事務所の窓口。
下手が駅の入り口。
駅にやってくると、まず売店のようなコンビニがある。
舞台奥には券売機。
あと化粧室の表示が見える。
 * * *
通勤、通学の利用者が改札を通っていく。
駅員がいつものように声をかけている。

女駅員     おはようございます。

ご近所さん、利用者に混じってやって来る。
いつものようにベンチに座る。

会社へ向かういずみが、やって来る。
これまたいつものように、ピアノの前に座る。
鞄から譜面をとり出す。
 * * *
めぐ(近くの高校の生徒)が改札を抜けてやってくる。
母親が、後をついてくる。
卒業式に出席する娘と母である。

母       ちょっと待ってて。直してくる。

母親、化粧を直しにトイレへ。
めぐ、ベンチに座る。
と、ピアノが聞こえてくる。

いずみ、指の置き場所を確かめるように、ゆっくり鍵盤を下げる。

 ♪ 演奏 ♪
【たとえば、ラベルの「プレリュード」とか】

ご近所さん、ゆっくり目を閉じる。
頭も落ちる。
 * * *
男駅員が、窓口の向こうに現われる。
女駅員に「交代します」のサイン。
女駅員、去る。
男駅員、仕事をしに来たようで、実は演奏を聴いている。

男駅員     おはようございます。

高校生がひとり、足早に改札を抜けてゆく。
キオスクに立ち寄り、財布を取りだし、カツゲンを買う。
カツゲンを手にピアノを振り返る。

キオスク    時間はいいのかな。

高校生、学校へ駆け出す。
 * * *
マッチ、やって来る。
旅に出るぞって感じのバッグを背負っている。
ピアノを弾きたいけど、いずみが弾いている。

いずみ、マッチに気づきピアノが止まる。
ご近所さん、目をあける。

いずみ     どうぞ。

いずみ、譜面を鞄にしまい、椅子を空ける。
マッチ、ピアノの前に座る。

いずみ、改札を抜けようとして。

マッチ     待って!
いずみ     …。
マッチ     行かないで!
いずみ     …あたし?
マッチ     すいません。突然。あの、聞いてもらえませんか、僕の作った曲。
いずみ     …。(まわりを見る)
まわりの人たち …?
いずみ     …え、なんですか。
マッチ     お願いします!
いずみ     ごめんなさい、よくわからない―
マッチ     僕の背中を押して下さい!君には才能があるって言って下さい!
いずみ     あの、私、仕事があるので…。

ご近所さん、座ったまま話に割り込んでくる。

ご近所さん   弾いてごらん。
いずみ     えっ。
マッチ     …えっと。
ご近所さん   聴いてるから。
マッチ     は、はい!

マッチ、ピアノを弾く。
思いを込めて、はじめの一音。

マッチ     ♪ポロン…

さらに思いを込めて、次の音。

マッチ     ♪ポロロロン…

世界はピアノだけとなり。

マッチ     ピアノの横を通りすぎる人。仕事に向かう人。ピアノの横を通りすぎる人。学校へ向かう高校生。今日は高校の卒業式。僕が行き先も決まらず高校を卒業したのが一年前。今日は決める日。今日こそは決める日。僕が作ったこの曲で、聴く人をうならせ、みんなを見返してやる!と決めた日。

マッチ、ピアノに向き直り、息が詰まるほどの思いを込めて…。

マッチ     ♪ポ…。

と、ご近所さんがマッチの手を鍵盤から引き離す。

マッチ     なにすんだよ!
ご近所さん   もういいかな。
マッチ     よくないよ!

ご近所さん、マッチをピアノからも引き離し、代わりにいずみにピアノをすすめる。

ご近所さん   どうぞ、戻って。
マッチ     おい!
いずみ     いや、あたしは、もう。
ご近所さん   演奏、中途半端で終わったら気持ち悪いでしょう。
いずみ     別に…。
ご近所さん   あたしが気持ち悪いのよ。
いずみ     えっ。
ご近所さん   お願い。

いずみをピアノ椅子に座らせる。

マッチ     まて!
いずみ     ほんと私仕事が。
ご近所さん   せっかくの朝のピアノが台無しになっちゃう。
マッチ     なんなんだよ!いいか、来年の今ごろにはな、テレビでオレの姿見て、あの時の!って、サインもらっておけばよかった!って、くやしがったって遅いんだからな!

マッチ、バッグを背負い改札へ。
ピンポーン…改札機が閉じる。

マッチ     …。
男駅員     お客さん、切符。
 * * *
いずみ、いつもの曲をもう一度はじめから弾きはじめる。
 * * *
マッチ、券売機の前で。

マッチ     …!

切符を買おうとしたが、財布がないことに気づく。
焦りまくり鞄の中を探す。

男駅員     お客さん、しずかにお願いします。
マッチ     …。

利用者がやって来て、券売機の前に並ぶ。
マッチ、なにくわぬ顔で券売機から離れる。

利用者、切符を買う。
マッチ、なぜかその後ろに並ぶ。

利用者、改札を抜ける。
マッチ、続いて改札を抜け、ようとする。
ピンポーン…改札機が閉じる。

男駅員     お客さん、切符。
 * * *
卒業生がいずみのピアノを聞いているところに、母が帰ってきて。

母       ねえ、ピアノあるのね。
めぐ      うん。
母       いつも。
めぐ      うん。
母       そう。通学の途中に、素敵じゃない。
めぐ      この曲好きなの。
母       なんて曲?
めぐ      知らない。
母       なにそれ。でも、卒業式に、ピアノなんてね、ちょっといいわね。
めぐ      …。
母       いやだ…。(涙腺がゆるみ、目を押さえる)ちょっと、待ってて。
めぐ      時間。
母       わかってる。

母、トイレへ去る。
 * * *
いずみ、一曲弾き終わる。
ご近所さん、拍手。
 * * *
マッチ、いずみに話しかける。

マッチ     さっきは、驚かしてごめんなさい。
いずみ     いいえ。
マッチ     バンド組まないか?
いずみ     は?
マッチ     オレがボーカルで、君がピアノ。
いずみ     それ、ただのピアノ伴奏だけど。
マッチ     ダメか…ダメだよな…ダメなら…お金貸してくれませんか。
いずみ     なんで。
マッチ     たのむ!いや、お願いします!(土下座するくらい)
いずみ     ちょっと!

キオスク、店から顔を出す。
駅員、慌ててやってくる。

男駅員     お客さん、どうしました。
マッチ     財布、忘れてきた。
男駅員     それじゃ、取りに帰った方がいいね。
マッチ     もう帰れない。家を出てきた。
男駅員     そう。まあいろいろ事情はあるかも―
マッチ     必ず返します!行き先決まったら、落着いたら、必ずお返しします。そうだ、連絡先聞いていいですか。
キオスク    なんだ、新手のナンパか!
マッチ     お願いします!
いずみ     すごいね。ムチャクチャだね。
マッチ     …。
男駅員     とにかく、ここ通行の邪魔になるからね。
いずみ     …どんな曲?
マッチ     えっ。
いずみ     どんな曲書いたんですか?
男駅員     いずみさん?!
いずみ     まあ、聞くだけ。
マッチ     あのね!すごいの!今日からなにもかも変わるぞ!っていう、詞もオレが書いたんだ、待って!楽譜あるから…(バッグを漁る)…ちょっと待ってよ…ない……忘れてきた…ダメだオレ!
いずみ     じゃ、また今度―
マッチ     待って、持ってくるから!
いずみ     いや、いいよ。行かなきゃならないし。
マッチ     待っててよ。家近くだから。すぐ戻るから!

マッチ、走り去る。

キオスク    もう帰れないって言ってなかったか?
ご近所さん   ちょっと!今度は、バッグ忘れてるよ!
いずみ     あたし、仕事が。
ご近所さん   いってらっしゃい。

いずみ、一礼して、改札を抜けていく。
ご近所さん、やって来てバッグをひろい。

ご近所さん   落とし物です。
男駅員     あ、はい。

駅員、バッグを持って去る。
 * * *
母、戻ってくる。

母       ごめんね。さあ、行きましょう。
めぐ      うん…。
母       なに?
めぐ      すごいもの見ちゃった。

ご近所さん、キオスクに立ち寄り、小銭を出し。

ご近所さん   いつもの。
キオスク    はい、カツゲン。

ご近所さん、カツゲンを受け取り、去る。

キオスク    ありがとうございます。
 * * *
めぐ      ちょっと待って。
母       なに?

卒業生、キオスクへ。

めぐ      カツゲン、一つ―
キオスク    はい。卒業おめでとう。

キオスク、カツゲンを渡す。

めぐ      ありがとうございます。あ、お金―
キオスク    いいよ。お祝い。
めぐ      いや、そんな。
キオスク    いいから。いつも買ってもらってたから。
めぐ      あの。毎朝、いってらっしゃいって、ここで声かけてもらえて、すごい嬉しかったです。
キオスク    なんのなんの。
めぐ      ありがとうございました。
キオスク    4月からも、身体に気をつけて、がんばって。
めぐ      はい。あ、私、進学じゃなくて、就職するんです。
キオスク    そぉ。
めぐ      勉強、もういいかなって思って。
キオスク    いっしょ、いっしょ。私も高卒。
めぐ      そうなんですか!
キオスク    それなら、余計体に気をつけて。がっぽがっぽ稼いでね。
めぐ      はい。
キオスク    お母さん、待ってる。
めぐ      はい。失礼します。(行く)
キオスク    いってらっしゃい。
母       いいの。
めぐ      うん。

母、キオスクに小さく頭を下げて、去る。
 * * *
アナウンスが聞こえる。

駅員      只今から、八時 四十 七分発 札幌行き 普通列車の 改札をいたします。ご乗車のお客様は、1番線へ おいで下さい。
 * * *
マッチ、楽譜を握りしめ、息を切らして戻ってくるが。

マッチ     …誰もいない。嘘つき!

と、いずみが慌てて改札に戻ってくる。
鞄からお弁当を取りだし、窓口に置く。

いずみ     置いていきます。
駅長      (声だけ)おお。
いずみ     お父さん、お弁当。
駅長      (声だけ)おお。
マッチ     あの!
いずみ     期待してるよ!

いずみ、走り去る。

マッチ     嘘つき!

マッチ、改札へ走る。
ピンポーン…改札機が閉まる。

駅長、窓口に現われて。

駅長      お客さん、切符。

マッチ、振り返り券売機に向かうが、気づいて。

マッチ     あ…財布、また忘れた。
駅長      はい、ここにも。

駅長、バッグを窓口にのせる。

マッチ     あ…。
駅長      (車内アナウンスのように)お忘れ物のございませんよう、ご注意ください。

 ◇ ◇ ◇
みっちゃんの演奏。
演奏と共に、世界はピアノだけになり。

 ♪ 演奏 ♪
【たとえば「線路は続くよどこまでも」とか、「A列車で行こう」もいいな】

演奏終了。
みっちゃん、一礼して。

みっちゃん   さて、ここで問題です。明治5年10月、日本で最初の鉄道ができました。東京は新橋を発車した機関車は、いったいどこまで走ったでしょうか?

みっちゃん、椅子に座る。

みっちゃん   (隣りを指さして)はい、答えをどうぞ!(両手でバッテンを作って)ブブー!正解は、お正月に私の姪っ子が生まれた横浜でした!あのね、姪っ子、すっごいかわいいんだよ。

みっちゃん、また立ち上がり。

みっちゃん   実は、嵐のために3日遅れの開業だったそうです。今から148年前のその日を記念して今日は鉄道の日なんでした。

 ◇ ◇ ◇

第二話 2020年10月 『鉄道の日』


今日は鉄道の日。
特別列車の機関車がやって来る。
 * * *
鉄道探検隊の子どもたちが、みっちゃんを呼びに来る。
探検隊は、首から切符を模したクイズラリーカードをぶら下げている。

ひな隊員    いた!
みっちゃん   よっ!
ひな隊員    よ!じゃない。探したんだよ。
ゆう太郎隊員  クイズラリー完成したのかよ。
みっちゃん   まだですけど。
ぜん太郎隊員  全問正解したら、SL運転させてくれるってよ。
みっちゃん   うそ!

鉄道技術館の職員がやってくる。
改札バサミをカチカチさせながら。

技術館職員   さあ、鉄道探検隊のみなさん、できたかな。
まき隊員    待った!まだ、終わってない!
ゆみ隊員    すみません。明治5年って、いつですか?
技術館職員   明治になって5年ということだね。
ゆみ隊員    そんなことわかってるよ!

キオスク、店から顔を出す。

キオスク    福沢諭吉の「学問のすすめ」が世に出たのも明治5年だね。
探検隊たち   おお!
そう太郎隊員  博識が!
ゆう太郎隊員  まさかこんな売店にいるなんて。
キオスク    見ろ、この3色のストライプ。上からオレンジ、緑、赤!コンビニだから。
そう太郎隊員  おばちゃん、明治生まれ。
キオスク    …お前たち、言葉にきをつけな。

キオスク、消える。

探検隊たち   ああ、待って!
ゆみ隊員    あのさ、このクイズむずかしいよ。
技術館職員   がんばれ!
かな隊員    ヒントは?
技術館職員   聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥と言ってね。まあ、誰か探して聞いてみな。
かな隊員    ぜんぜんヒントになってないよ!
技術館職員   おっと、残り時間が少なくなってきました。
探検隊たち   えええ!
ぜん太郎隊員  よし、明治生まれを探せ!
探検隊たち   おう!
技術館職員   それは、むずかしんじゃないか。
ひな隊員    じゃ!(行く)
みっちゃん   待て。行く!(追いかける)
技術館職員   はい。走らないでね。クイズに答えて、SLに乗ろう!

技術館職員、子どもたちを見送り、ひと休みとピアノ椅子に座る。
鍵盤を見つめる。
一本指で鍵盤をたたく。
 * * *
駅長がお笑いコンビのポンプを案内して改札からやってくる。

駅長      あ、そう。セントルイスって知ってる?
ポンプ     …いやぁ。
駅長      あ、そう。中田カウス・ボタンは?
ポンプ     いやぁ…。
駅長      あ、そう。わかった。楽しみにしてるから。
ポンプ     ありがとうございます。

技術館職員、一本指で適当に鍵盤をたたいている。

駅長      おっ。ずいぶん上達したじゃない。
技術館職員   どこがですか。やめてくださいよ。

鍵盤から手を離す。

駅長      今のはなんて曲?
技術館職員   曲でもなんでもないですよ。
駅長      わかった、ジャズだ。即興っていうやつだ。
技術館職員   ただ鍵盤叩いてただけです。
駅長      いい感じで鳴らしてたから。てっきり。
技術館職員   (ポンプに)あ、どうぞ。

立ち上がりピアノをすすめる。

ポンプ     えっ。
駅長      そうだ、せっかくだから。
ポンプ     いや、ピアノなんて、とんでもない。
駅長      誰でも弾いていいことになってるから。
ポンプ     だから弾けないんです。
駅長      「誰でも」の中には弾けない人も入ってるから。ね。
技術館職員   ええ。遠慮なく。
駅長      いいもんだよ。こうね(指を動かし)ポロンポロン…ってね。
ポンプ     あ、じゃ、ちょっと聞かせてもらってもいいですか。
駅長      …まさか。
ポンプ     (コケて)なんだそりゃ。
駅長      むりむり。ネズミふんじゃったも弾けない。
ポンプ     …えっ。(半笑い)
駅長      …ん?
技術館職員   駅長、ネズミふんじゃったって。
駅長      ネコふんじゃったって、小学生でもとりあえず弾くだろ。
技術館職員   ええ。
駅長      それより簡単に弾けるネズミふんじゃったっていうのが、あったらな、ってな。
技術館職員   あったらな、なんだ?
駅長      あっても、それすらも弾けないっていう話だね。
ポンプ     (コケて)なんだそりゃ!
技術館職員   さっきから、いいコケかたするね。
ポンプ     すみません。つい、クセで。

などと話しているのと関係なく、鉄子がやって来る。
首にはクイズラリーの切符とカメラをぶら下げている。
何かを見つけてはシャッターを切っている。

駅長      あ、こちら、今日の司会をしてくれるポンプ佐々木くん。
技術館職員   ポンプ?
ポンプ     はい、ポンプ。一応芸名というか、お笑いやってます。
技術館職員   あぁ。鉄道技術館の佐藤です。
ポンプ     よろしくお願いします。
駅長      今日は近所の子どもたちと駅を探険してる。
ポンプ     あ、さっき走ってた。
技術館職員   クイズに正解したら切符を切ってゆくだけなんですけどね。

技術館職員、改札バサミをカチカチ。

ポンプ     すごい。初めて見ました!
駅長      昔は、みんなこれだったからね。
ポンプ     これは、子どもたち燃えますね。
技術館職員   ふふ…そう簡単にいくかな。
ポンプ     えっ?
技術館職員   それじゃ、あとで子どもたち連れていきますので。
駅長      よろしく。
ポンプ     よろしくお願いします!

技術館職員、去る。
 * * *
鉄子、窓口にやって来て。

鉄子      すみませーん。
新人駅員    はい。おはようございます。
鉄子      これ。

鉄子、クイズラリーの切符を見せる。

新人駅員    はい。クイズラリーですね。
鉄子      この答え、横浜だよね。
駅長      ごっほん!
新人駅員    …。(駅長を見る)
駅長      それじゃ、あとで。
ポンプ     はい。よろしくお願いします。

駅長、去る。
ポンプ、ベンチに座る。

新人駅員    …。
鉄子      ねっ。
新人駅員    …。
鉄子      ちょっと。
新人駅員    上から、答えを教えてはいけないと指示が出ていますので。
鉄子      教えてって言ってるんじゃなくて、当たってるよねっていう確認。
新人駅員    答えちゃいけないことになってますので。
鉄子      明治5年、日本最初の鉄道は新橋―横浜間!
新人駅員    さあ、どうでしょう。
鉄子      いいじゃん。
新人駅員    答えちゃいけないことになってますので。
鉄子      じゃ、こうしよう。正解だったら、ウインクして。ね、そのくらいいいでしょう。
新人駅員    ダメです…。(まばたきをこらえる)
鉄子      …あ、今、ウインクした。
新人駅員    いいえ。まばたきです。
鉄子      あなたが上司の指示に忠実なのはわかった。
新人駅員    ありがとうございます。
鉄子      でもね、一生組織の歯車で終わっていいの?
新人駅員    えっ…。
鉄子      いくら歯車があっても機関車は動かないわ。ここ(胸)に熱い石炭が燃えてなければ!
新人駅員    …それは。
鉄子      歯車なんてすり切れたら捨てられておしまいよ。それでもあなたは決められたレール上を走り続けるの!
新人駅員    ぼく…。
鉄子      あなたのウインク待ってまーす♡
新人駅員    いやいや…。

鉄子、新人を見つめながらベンチに座る。
窓口の奥から駅員が来る。

女駅員     竹下君。
新人駅員    …はい。
女駅員     このあとの出発式の時、君悪いんだけど…おい、涙目だぞ、どうした。
新人駅員    あ…。
女駅員     なにか、つらいことあった?
新人駅員    すいません!

新人、走り去る。

女駅員     ちょっと、大丈夫?!

後を追って、去る。
 * * *
鉄子、ベンチに座る。
少し離れて、ポンプが座っている。

鉄子      あなたも、SLに乗るの?
ポンプ     ぼく?

鉄子、ポンプの写真を撮る。

ポンプ     おっと、いきなり写真撮るんだ。
鉄子      楽しみね。
ポンプ     いや、ぼくは乗らないです。
鉄子      そうなの。
ポンプ     はい。

鉄子、カメラの画面を操作する。

ポンプ     え、今の写真もう消すんですか?
鉄子      だってね。乗らないんでしょう。
 * * *
マッチ、やって来る。

マッチ     わるいわるい。
ポンプ     おっそいよ。
マッチ     ネタ、書いてて。
ポンプ     新ネタ?
マッチ     そう。
ポンプ     できたの?
マッチ     それが…。
ポンプ     いいや。とにかくいつものネタ、合わせよう。
マッチ     わかった。

マッチ、ポンプを連れて売店に駆け込む。

ポンプ     すみません!
キオスク    いらっしゃいま…(マッチに)ん、君、どこかで見たことあるな。
ポンプ     ちょっと、場所をお借りしていいですか。
キオスク    ダメだよ。いらっしゃいません!
マッチとポンプ お借りしまーす。
キオスク    いらっしゃらない!いらっしゃるな!

キオスク、追いかけて去る。
 * * *
なっちゃん、やって来る。
窓口で特急の切符を求める。

なっちゃん   切符ください。
女駅員     あちらに券売機がありますので。
なっちゃん   京都まで。
女駅員     えっ。
なっちゃん   いや、奈良まで行けますか。
女駅員     どちらまで行かれますか。
なっちゃん   だから、奈良まで。
女駅員     奈良って、大仏あるのが奈良ですよ。
なっちゃん   知ってます。東大寺、法隆寺、春日大社、五重の塔―
女駅員     はいはいはい…?
なっちゃん   えっ、行けないんですか?
女駅員     いや、行けないこともないけど。

鉄子、いつの間にか近づいてきて。

鉄子      行けるよ。
なっちゃん   線路は続いてますよね。
鉄子      続いてるよ。
女駅員     そりゃ、続いてはいるけどさ。
なっちゃん   いくらですか。
女駅員     もう一度確認しますが、奈良って鹿に餌やりに行く―
なっちゃん   鹿なんか興味ありません!
女駅員     怒らなくても。
なっちゃん   行けるんですか。行けないんですか。
女駅員     いや、行けるけど…まず新さっぽろで特急に乗り換えて……ご旅行の予定はいつですか。
なっちゃん   今。
女駅員     今、これから!
なっちゃん   早くしてもらえませんか。
女駅員     あのね―
鉄子      一度、札幌に戻った方が早いかな。
なっちゃん   そうなんですか。
鉄子      特急スーパー北斗で新函館まで行って。そこから新幹線「はやぶさ」で東京、また新幹線に乗り換えて、「のぞみ」が一番早いから。
なっちゃん   はい。
鉄子      で、京都で降りて、奈良に行くには…。
なっちゃん   どんだけかかるんですか!
鉄子      かかるよ。ざっと計算しても12時間はかかる。
なっちゃん   えええ!
女駅員     だから、遠いって言ってるでしょう。普通そんな制服姿でふらっといかないの。…君、学校どうしたの?
なっちゃん   …。
鉄子      名前、聞いておこうかな?
なっちゃん   …。
女駅員     いや、あなたも誰?
鉄子      私?
女駅員     どういった関係?
鉄子      今あったばかりですけど。
女駅員     えっ。
なっちゃん   知ってますか?奈良には鹿がいるんですよ。
女駅員     そう。奈良といえば鹿。きっと修学旅行とかで―
なっちゃん   あと馬も有名なんですよ。
女駅員と鉄子  えっ、そうなの。
なっちゃん   馬と鹿。
鉄子      あ、そう!
女駅員     へえ、馬と鹿か。
なっちゃん   なわけねーだろ、馬鹿!

なっちゃん、走り去る。

女駅員     なんだこら!待て、名を名乗れ!
鉄子      行ってくる!
女駅員     いや、行かなくていい!
鉄子      まかせて!
女駅員     だから、あんた誰!

鉄子、追いかける。
鉄ちゃん、カメラをぶら下げてやってきて、すれ違う。

鉄子      お、鉄ちゃん!
鉄ちゃん    お、鉄子!
鉄子      調子、どう?
鉄ちゃん    順調順調。
鉄子と鉄ちゃん 前よーし、後ろよーし。

鉄子と鉄ちゃん、敬礼して別れる。

新人、窓口に顔をのぞかせ。

新人駅員    いなくなりました?
女駅員     君、どうしたの?
 * * *
楽団、探検隊に質問攻めにされてやって来る。

ベース     だから、ほんとわからないから。
ひな隊員    よく聞いて。
ベース     聞いてる聞いてる。
ひな隊員    第8問。
パーカス    あのさ、今それどころじゃないんだ。
みっちゃん   この問題解けないと大変なことになるの。
パーカス    こっちもね、今メンバーがいなくて大変なことになりそうなの。
ひな隊員    昭和12年に大ヒットした歌『兵隊さんの汽車』。
ぱるらんど   …。
ゆみ隊員    知ってるでしょう。
ぱるらんど   知らねーよ。
ひな隊員    この曲、戦後書き直されて今も歌われています。さて、そのタイトルとは?
トロンボーン  むずかしすぎるよ。
鉄ちゃん    ヒント。
探検隊たち   えっ。
鉄ちゃん    こんな歌詞が出てきます。♪シュッポ シュッポ シュッポッポ。
ぱるらんど   あー…はいはいはいはい。
パーカス    っていうか、知ってるなら、教えてあげなよ。
鉄ちゃん    まあ、教えてあげてもいいんだけど。あえて敵に塩を送ることもないかな。
パーカス    えっ、たかがクイズラリーでしょう。
鉄ちゃん    されどクイズラリー!鉄道の日をあまくみるんじゃない!
そう太郎隊員  あいつ、さっきからずっとあーなんだ。
ゆう太郎隊員  えらそうにマウンティングしてくる。
ゆみ隊員    ねえ、聞いたことあるでしょう。
トロンボーン  ま、確かにあることはあるんだけど。
かな隊員    音楽に詳しくないの。
トロンボーン  それほどじゃ。
かな隊員    じゃ、なんで楽器持ってんの。
トロンボーン  そうだけど。そんな古い歌。
まき隊員    だって、昭和生まれでしょう。
平成生まれ   平成です!
パーカス    あ…昭和です。
探検隊たち   ほら!
まき隊員    がんばって!
パーカス    えーとね、たしか歌い出しが、♪きっしゃ…きっしゃ…きっしゃきっしゃ…きっしゃきっしゃきっしゃっしゃ。
ぱるらんど   タイトルは「汽車」だ!
まき隊員    答えは5文字なの!(正解は「汽車ポッポ」)
ベース     ひらがなで書くんじゃない。
ぱるらんど   きっしゃあー!
ひな隊員    ああ、ダメだ。聞く人まちがった。
ベース     だから、はじめからそう言ってんじゃん!
 * * *
駅員、窓口から声をかける。

新人駅員    おはようございます。
ぱるらんど   おはようございます!
新人駅員    今、行きます。(窓口から消える)
パーカス    ちょっと、もう一度電話して。
トロンボーン  うん。
パーカス    早く!

駅員、やって来て。

新人駅員    今日はありがとうございます。
パーカス    いいえ。こちらこそ、お世話になります。

探検隊、駅員に群がり。

ぜん太郎隊員  すみませーん。
新人駅員    どうしました探検隊のみなさん。
ぜん太郎隊員  この曲聞いたことない?
探検隊たち   ♪シュッポ シュッポ シュッポッポ。
新人駅員    ……さあ、どうだろう。
ゆみ隊員    駅員でしょう。知ってるでしょう!
新人駅員    今日はおかげさまで、天気もよくて。
パーカス    ほんと、よかったですね。
ゆみ隊員    ちょっと!
新人駅員    答えちゃいけないことになってます。
探検隊たち   えええ!
ゆみ隊員    いいじゃん。
新人駅員    ぼく…ただの歯車だから。
ぜん太郎隊員  なに言ってんだよ?
新人駅員    大人には大人の事情ってもんが―
探検隊たち   なにごちゃごちゃ言ってんだよ/いいから教えなさいよ/けちくさいな/けち/どけち/けちんぼう/しみったれ

子どもたちの喧騒をよそに、楽団は誰かに連絡を取っている。

ベース     (トロンボーンに)どう?
トロンボーン  ダメだ、出ない。
パーカス    勘弁してよ。
新人駅員    …どうしました。
ぱるらんど   いえいえいえ。
パーカス    ほんと今日はお天気にも恵まれて。ね。
新人駅員    ええ。
パーカス    お日柄もよく。
新人駅員    それは、どうだろう。

探検隊、ターゲットを移して。

まき隊員    おばちゃん!
キオスク    はい、平成生まれのおばちゃんだよ。
まき隊員    この曲聞いたことない?
探検隊たち   ♪シュッポ シュッポ シュッポッポ。
キオスク    あああ!
まき隊員    みんな、知ってるって!
新人駅員    ゴホン!
キオスク    (急に)おばちゃん、実は明治生まれだったんだよ、すっかりボケてしまってねぇ、よぼよぼよぼ…(去る)
探検隊たち   ケチ!大人なんか大嫌いだ!
鉄ちゃん    (鼻歌で)♪シュッポ シュッポ シュッポッポ。

探検隊、走り去る。
鉄ちゃんも去る。余裕で。
 * * *

駅員、ポンプと話ながらやって来る。

男駅員     あ、そう。ヤスキヨって知ってる?横山やすし西川きよし。
ポンプ     …いやぁ。
男駅員     あ、そう。じゃ、西川のりお・上方よしおは?
ポンプ     いやぁ…。
男駅員     西川のりおは、西川きよしの弟子なんだけどね。
ポンプ     詳しいですね。

駅員、楽団をみつけて。

男駅員     どうも。そろいましたかね。
パーカス    あ、あの…。
男駅員     そろそろ打合せいいですか。
パーカス    その前にお話が―
ポンプ     おーい、打合せだってさ。そこのコンビニ強盗!

マッチ、飛び出してくる。

マッチ     だれがコンビニ強盗じゃ!
みんな     …。
男駅員     …えっと、なんの話でしたっけ?
パーカス    お話が。
男駅員     そうですね。打合せしちゃいましょう。
マッチとポンプ はい!
ぱるらんど   いや…。(どうするどうする)
男駅員     今日は鉄道の日ということで。地元のみなさんにも盛り上げていただけるということで。まずこちら、東区で活動しているパルランド楽団のみなさん。
ぱるらんど   よろしくお願いしまーす!
男駅員     そして、東区で活動しているお笑いコンビ―
マッチ     マッチでーす!
ポンプ     ポンプでーす!
マッチとポンプ 二人合わせて、マッチポンプでーす!
男駅員     いいですね、元気で。私、イベントの方を担当します、駅員の斎藤です。
ぱるらんど   よろしくお願いしまーす!
男駅員     それから、10月に入ったばかりなんですけど、今日の進行係を務めます。
新人駅員    竹下です。
男駅員     まだ研修期間みたいなものなんですけど、勉強させてやって下さい。
新人駅員    よろしくお願いします。
ぱるらんど   よろしくお願いしまーす!
男駅員     では竹下君、流れを。
新人駅員    はい。流れとしましては。時間になりましたら、MCのお二人に自己紹介してもらって―
マッチ     マッチでーす!
ポンプ     ポンプでーす!
マッチとポンプ 二人合わせて、マッチポンプでーす!
ポンプ     いやー、みなさん、ちょっと聞いてもらえます?先月火事になりまして。
マッチ     えええ!
新人駅員    ネタはいいですから。
マッチとポンプ ……。
ポンプ     ここじゃない?
新人駅員    うん、ここじゃない。
男駅員     まずタイトルコールというのかな。鉄道の日だぞ!盛り上がっていくぞ!出発進行!みたいな感じでね。
マッチ     うまい!
新人駅員    別にうまくないです。
男駅員     …。
新人駅員    タイトルコールに合わせて、音楽を。
ぱるらんど   …はい!よろしくお願いしまーす!
新人駅員    演奏してもらって。その流れでMCから少し楽団の紹介も―
マッチ     マッチでーす!
ポンプ     ポンプでーす!
マッチとポンプ 二人合わせて―
男駅員     いや、楽団の紹介をして。
マッチとポンプ ああ…。
男駅員     まあ、そんな感じで賑やかにスタートしましたら、はじめに駅長から挨拶がありますので、みなさんはそこで一時休憩―
マッチ     あの、ネタはどこでやりますか?
男駅員     ネタ?
ポンプ     お客さんをあっためた方がいいですよね。心がほぐれると、盛り上がりも違いますから。
新人駅員    別にいいんじゃないかな。
男駅員     どうした?竹下。
新人駅員    みんなSL乗りに来てるんだし。
男駅員     なにかあったの?おかしいよ。
新人駅員    ぼく、ただの歯車だから。
男駅員     …。まあまあ竹下君。せっかくお笑いの人に来てもらってるんだから。
マッチとポンプ はい!
男駅員     ただ、イベントとしてやることはやってね。
マッチとポンプ もちろんです!
男駅員     今日は一日駅長もいますし、儀式というか、とりあえず機関車が無事発車して。そのあとに―
ポンプ     それ、みんな乗って誰もいなくなってますよね!
男駅員     するどいツッコミだね!さすがさすが。
マッチとポンプ いやいやいや。
男駅員     それじゃ、そんな感じで盛り上がっていきましょう!
ぱるらんど   よろしくお願いしまーす!
マッチとポンプ お願いしますよ。
男駅員     じゃ、ちょっと竹下君、見てあげて。(行く)
ポンプ     彼、ずっと否定的じゃないですか。

駅員、去る。

新人駅員    どうぞ。
ポンプ     …すごいやりづらいな。
 * * *
楽団は、もめている。

トロンボーン  なんで、言わないの。
パーカス    言おうとしたよ。
ベース     でも、言えてないじゃん。
パーカス    タイミング失ったのよ。
ベース     せめて思わせ振りな表情をするとか。
トロンボーン  そうだよ。なんで愛想よく返事しちゃうの。
パーカス    いや、あんたたちだって「お願いしまーす」ってやってたじゃない。
トロンボーン  あたしの「お願いしまーす」には影があったよ。
ベース     あたしだって、憂いがあったよ。
パーカス    ちょっと待って。それじゃあたしだけ能天気なヤツだったみたいじゃない。
マッチ     あの、みなさんもいいですか。
パーカス    ごめん。今ちょっとそれどころじゃないんだ。
新人駅員    どうかしました?
ぱるらんど   えっ。
ベースとボーン ほらっ(パー子の背中を押す)
パーカス    あの…。
マッチ     お願いします!おれ、絶対今日はウケたいんです。どっかんどっかん笑いの渦を巻き起こしたいんです!
パーカス    じゃ、ちょっとやってみて。
マッチとポンプ ありがとうございます!
ベースとボーン (なんでよ)
パーカス    (だってさ)
新人駅員    それじゃ、時間になりました。

マッチとポンプ、拍手しながらやって来て。

マッチ     マッチでーす!
ポンプ     ポンプでーす!
マッチとポンプ 二人合わせて、マッチポンプでーす!
ポンプ     いやー、みなさん、ちょっと聞いてもらえます?先月火事になりまして。
マッチ     えええ!
ポンプ     こいつんちが。
マッチ     ええええ!
ポンプ     気づけよ。
マッチ     オレ、大変じゃん!
ポンプ     そりゃ、もう慌てて、バケツで水かけまして。
マッチ     ジャバー!
ポンプ     そしたら、びっしょびしょになりまして。
マッチ     ぶるぶるぶる!
ポンプ     寒くて寒くて。暖まろうと、火をつけまして。
マッチ     (マッチで)シュ!(火をつけ)ボッ!
ポンプ     おおよく燃えるな、って思っていたらたちまち火事になりまして。
マッチ     えええ!
ポンプ     こいつんちが。
マッチ     ええええ!
ポンプ     気づけよ!

~なんだかんだありまして~

ポンプ     もう、いいわ!

マッチとポンプ、礼。
いつの間にか、駅員が消えている。
パルランドは、必死に携帯で連絡を取ろうとしている。

マッチとポンプ どうでしょう?
キオスク    どっか行ったよ。
マッチとポンプ おーい!

マッチとポンプ、改札へ追いかける。
ピンポーン…改札機が閉まる。

マッチとポンプ、駅員を探して去る。
 * * *
ベース     ねえ、メールは?LINEは?
トロンボーン  既読つかない。
キオスク    ねえ。…あの。
ぱるらんど   …はい?
キオスク    今日は、なんの曲やるんですか?
ぱるらんど   ああ…はい!
パーカス    ほら、あんたたちだって愛想振りまいてんじゃん!
ベース     見て。「はい」って言った時にできるこのエクボの影。
パーカス    エクボできてないから。
トロンボーン  あたしは背中で語ってるのよ。
パーカス    じゃ、背中見せなさいよ!
キオスク    ねねねね、やっぱり、銀河鉄道999とか。
ぱるらんど   ああ…はい!
キオスク    やっぱり、チューチュートレインかな!
ぱるらんど   ああ…はい!(とりあえずグルグル回ってみるのかな)
キオスク    でも…見たところ、太鼓とベースとトロンボーンしかいないよね?
ぱるらんど   わかります?
キオスク    ウキウキするようなメロディが聞こえてくる感じがしないんだけど。
ベース     そうなんですよ。普通気づきますよね。このバンド、どうしちゃったのかな?って。
キオスク    どうしちゃったのかな?
パーカス    よくぞ、聞いてくれました。それが、メンバーが一人連絡がとれなくて。
キオスク    え。
ぱるらんど   …。
キオスク    大丈夫なの?
パーカス    それは…ね。
ベース     …まあ、なんとか…ね。
トロンボーン  そうね、なんとか。彼女がくれば、なんとでもなるし。
ぱるらんど   そうそうそうそう。
キオスク    来ればね。
ぱるらんど   来れば。
キオスク    …。
パーカス    ちょっと、行ってきます!
キオスク    それがいい。
ぱるらんど   急ごう。

楽団、走り去る。

マッチとポンプ、しょんぼり戻ってくる。

キオスク    君たちさ。
マッチとポンプ はい…。
キオスク    他にネタないの?
マッチ     昨日も徹夜で考えたんですけど…。
キオスク    こっちおいで。

マッチとポンプ、売店に入る。
 * * *
なっちゃん、戻ってくる。
人目を避け、売店の前を屈んで通り抜け、どうやら逃げているらしい。
で、鉄子が一緒について来る。

鉄子      ね、逃げてるの?逃げてるの?
なっちゃん   なんでついてきてるんですか!
鉄子      目が離せないから。
なっちゃん   離れて。
鉄子      (後ろを振り返り)あれ、こっちに走ってくるのお友だち?
なっちゃん   えっ。
鉄子      オーライ、オーライ。
なっちゃん   呼ばないでよ!

なっちゃん、行き場を探して、化粧室へ駆け込む。

鉄子      駆け込まないでください。危険です。駆け込まないでください。
なっちゃん   隠れて!
鉄子      あたし関係ない!
なっちゃん   早く!
鉄子      前よーし、後ろよーし。
なっちゃん   いいから!

鉄子も、化粧室へ引き入れる。

高校生たちが、入り口から駆け込んでくる。
改札の向こうをのぞき込む。

しお子     行っちゃったかな。

そら子、キオスクでたずねる。

そら子     すみませーん。

ポンプが出てくる。

ポンプ     いらっしゃいませ。
キオスク    店番してんじゃないよ。ネタを考えるんだよ。
ポンプ     あ、はい。

ポンプ、引っ込む。

キオスク    いらっしゃいませ。
そら子     おばちゃん、ウチのクラスの子見なかった?
キオスク    あのね、その呼ばれ方慣れっこなんだけど、今日はどうも引っかかるんだよね。
そら子     (身長を示し)これくらいの(なっちゃんのイメージを示し)こんな感じの子見ませんでした?
キオスク    あ、あの子かな。
そら子     やっぱり来た!?
高校生たち   ほんと!
キオスク    さっき窓口に。でも、すぐ出ていったけど。

高校生たち窓口に。

しお子     すみません!
キオスク    だから、帰ったって。

駅員が出てくる。

女駅員     どうしました?
しお子     (身長を示し)これくらいの(なっちゃんのイメージを示し)こんな感じの子見ませんでした?
女駅員     いや…。
しお子     ちょっと!

高校生たち、キオスクをにらむ。

キオスク    さっき、来たでしょ。
班長      イメージが伝わってないんだ。(そら子に)あんた、やって。
そら子     (身長を示し)これくらいの(なっちゃんのイメージを示し)こんな感じの子です。
女駅員     ああ、奈良に行きたいっていう。
高校生たち   はい!
キオスク    そういう問題か!
女駅員     でも、帰りましたよ。
班長      ほんとに?
女駅員     ええ。
キオスク    だから、言ってんじゃん。
しお子     そんなはずはない。あの子言い出したらきかないから。
班長      ホームには?
女駅員     いないですね。
しお子     確かめてください。ここにいるはずなんです。
女駅員     いないです。
班長      ちょっと、見てきていいですか。
女駅員     入場券買って下さいね。
班長      ちょっとだけだから。
女駅員     入場券買って下さい。
しお子     いいよ。あたし定期ある。(改札抜ける)
そら子     あたしも。(改札抜ける)
班長      あたし、バス通!

班長、発券機へ。

そら子     班長は、ここで見張ってて。
しお子     もしホームにいたら、ここまで追い込むから、捕まえて。
班長      わかった!

高校生たち、改札を抜ける。

女駅員     走らない。危ないって。

駅員、追いかける。

マッチ、キオスクに現れて。

マッチ     あの、ちょっといいですか。
キオスク    どれ。できたの?

キオスク、去る。
 * * *
班長、ピアノ椅子に座る。

班長      修学旅行は高校生活最大のイベント。4泊5日、京都、大阪、広島をめぐる旅。3日目の自主研修は班の団結力が試される。班の中では修学旅行、自主研修、関西、USJ、それらはほぼイコールで結ばれていた。ただ、なっちゃんだけが違った。
修学旅行が終われば、私たちには進路指導が待っている。志望校を決め受験に向かって出発進行だ。私たちは、どこへ行くんだろう。

 ♪ 演奏 ♪
【青春の曲。たとえば、ブルーハーツの「TRAIN TRAIN」】

なっちゃん、ピアノの裏から出てきて。

なっちゃん   修学旅行は高校生活最大のイベント。4泊5日、京都、大阪、広島をめぐる旅。なぜか、奈良が入っていない。去年までは奈良で一泊だったのに、今年は奈良が入っていない。私の中では修学旅行=自主研修、自主研修=関西、関西=奈良、ゆえに修学旅行=奈良なのに、奈良が入っていない!
鉄子      (カメラを向けて)はい、悩める女子高生たち、こっち見て。パシャ。

演奏が止まる。

班長      なっちゃん。
なっちゃん   あ…。
班長      話し合おう!
なっちゃん   もういいの、私は一人で行くから!
班長      自主研修は班行動なの!
なっちゃん   知ってるよ!
班長      落着いて。ね、話し合おう。あたしたち同じ班なんだから。ねえ。
なっちゃん   …。

鉄ちゃん、探検隊を連れてやってくる。

鉄ちゃん    鉄道探検隊のみなさん、こちらですよ。
技術館職員   いや、それ僕の仕事だから。みなさん、こちらですよ。
探検隊たち   はーい。

探検隊、なにか深刻な空気を感じて。

鉄ちゃん    (鉄子に)なんだ、この列車が運休になって、さあどうしようみたいな空気は。
班長      ねえ、なっちゃん。
なっちゃん   …。
鉄子      えー、まもなく女子高生が通過します。危ないですから、白線までお下がりください。
なっちゃん   じゃ、言うけど。
班長      うん。
なっちゃん   自主研修は、奈良。
班長      (ほぼ同時に)USJ。
なっちゃん   もういい!(ダッシュ)
班長      待ちなさいって!

なっちゃん、走り去る。
班長、追いかける。
 * * *

技術館職員   まるで暴走機関車だな。
まき隊員    超特急だね。
技術館職員   (窓口に)探検隊到着しました。
新人駅員    (声だけ)はーい。

鉄ちゃん、技術館職員が離れた隙に。

鉄ちゃん    さて、こちらが2018年に開業しました新しい駅舎になります。
探検隊たち   知ってまーす!
鉄子      これは知ってる?最初の駅舎から数えて三代目になるの。
ぜん太郎隊員  つまり孫みたいなものですね。
鉄子      その通り。
探検隊たち   おおお!
技術館職員   勝手にすすめない。
鉄子と鉄ちゃん がんばって。
技術館職員   それではここで第10問です。
鉄子と鉄ちゃん じゃじゃん!
技術館職員   あ、ありがとう。みなさんは、駅番号を知ってますか?
探検隊たち   …。
鉄子と鉄ちゃん はい!
技術館職員   ちょっと控えてもらっていいですか。
鉄子      盛り上げてんじゃん。
技術館職員   2人がよく知ってるのはわかりましたから。
鉄子      まあ、わかってもらえたんだったらね。
鉄ちゃん    ね。
 * * *
などとやっているのとは関係なく、新人駅員やって来る。
鉄子がいるとも知らずに。
新人駅員、鉄子と目が合う。
新人、先輩を呼びに去る。
 * * *
技術館職員   探検隊のみなさん、どうですか?
探検隊たち   知りませーん。
技術館職員   最近は外国からの観光の方が大変多くなりました。その中には日本語が得意ではない人もいますね。そういった人も、駅ごとに番号決まっていたら、今どの駅に着いたかわかりますね。
探検隊たち   なるほど!
技術館職員   いい反応ですね…ちなみに札幌駅が―
鉄子と鉄ちゃん (がまんできずに)01。
技術館職員   (無視して)01です。
探検隊たち   へえええ!
技術館職員   それでは問題―
鉄子と鉄ちゃん はい!
技術館職員   (無視して)お隣のこの苗―
鉄子と鉄ちゃん はい!
探検隊たち   だまって!
技術館職員   ごめんなさい。ほんと勘弁してもらえませんか!
ゆう太郎隊員  はい!02!
技術館職員   おしい!
探検隊たち   ええ、ちがうの!
ひな隊員    だから、むずかしすぎるんだって!
技術館職員   よく考えてください。札幌駅の隣りにあるのは、この駅だけではありませんね。
ゆう太郎隊員  そうか。
鉄子      あのね。札幌駅は起点になる駅だから01だけなんだけど―
技術館職員   いいから、黙れ。
鉄子      その他の駅はアルファベットを使ってルートを示すわけ。

駅員が駆けつけ、鉄子を連れて行く。

男駅員     こちらに。
鉄子      なに?
男駅員     ちょっとお話しましょう。
鉄子      いいです。
技術館職員   さあ、02にどんなアルファベットがつくでしょうか。
そう太郎隊員  アルファベットって英語でしょう。
ぜん太郎隊員  順番でいけばA?
そう太郎隊員  B?
鉄子      H!函館に向かう線だからH!H!
男駅員     お客さん。大きな声でエッチエッチ言わない!
鉄ちゃん    鉄子ぉおお!
鉄子      鉄ちゃーん!

鉄子、退場。
鉄ちゃんも追いかけて去る。
 * * *
探検隊たち   …。
技術館職員   さあ、わかるかな。
探検隊たち   …H02。
技術館職員   H02、ほんとにそれでいいのかな。
そう太郎隊員  いや、もうそれしかないでしょう。
技術館職員   おっと、なんとここでタイムアップ。今のが最終問題でした。
探検隊たち   えええ!
技術館職員   みんな、何問答えられたでしょう?

探検隊、それぞれ首にぶら下げたクイズラリーを見る。

かな隊員    あたし、全滅なんですけど。
探検隊たち   さっぱり、わかりませーん。
ひな隊員    何度も言いますけど、今日のクイズ難しすぎます。
技術館職員   考えに考え抜いた選りすぐりの問題です。
ひな隊員    子ども相手に、容赦ないというか。
技術館職員   子どもだからといって手加減はしない主義です。
ゆみ隊員    一つ質問があります。
技術館職員   どうぞ。
ゆみ隊員    どうして、駅にピアノがあるんですか?
技術館職員   …どうして?
ゆみ隊員    ふつー駅にピアノはないですよね。
技術館職員   そうだね。どうしてだろうね。
ゆみ隊員    邪魔になりませんか。
まき隊員    朝の混雑する時とかね。
技術館職員   確かに邪魔だね。
まき隊員    理由もなく置いたんですか。
技術館職員   ここの駅長さん、あまりそういうこと考えない人だからな。
みっちゃん   駅長さんが、置いたんですか。
技術館職員   そうだよ。家にあったピアノを持ってきた。
みっちゃん   また弾きに来てもいいですか。
技術館職員   いつでも。だれでも弾いていいピアノだから。
探検隊たち   じゃ、オレも弾いてみようかな/オレもオレも/あたしもあたしも/じゅんばん!/あたし、猫ふんじゃったしか弾けない
技術館職員   その前に。答えを確かめにホームに行きますよ。
そう太郎隊員  だから、H02なんでしょう。
技術館職員   はい、こちらです。

技術館職員、小学生を連れて改札を抜けていく。
 * * *
楽団が慌てて戻ってきて、キオスクへ。

ベース     すみません!
キオスク    いらっしゃい。いつものでいいかい。
ベース     なんだ、いつものって。
パーカス    携帯の充電器ありませんか?
キオスク    ちょっと待ってよ。(商品を探しながら)それより、どうだった?
パーカス    駐車場のどこかにはいるらしいんだけど。
ベース     なにせ駐車場が広くて。

トロンボーンが、ピアノの彼女に携帯で説明している。

トロンボーン  (電話で)だから、はじめの二時間は無料だから。もう車置いて、来てよ。身体一つあればいいからさ。(続く)

と話ながら、携帯を指差し何かを訴えている。

パーカス    充電器、急いでもらえませんか。
キオスク    はい、カツゲン。(カウンターに置く)
パーカス    なんでよ。
キオスク    これしかないんだよね。
ベース     今どき、コンビニなら携帯の充電器くらい置いてるでしょう。
キオスク    この店、ほぼカツゲンだけで成り立ってるからさ。
ベース     バッテリー切れそうなんだって!
トロンボーン  (続いてる)どうしてそこで考え込んじゃうかな。だって、無料なんだよ。ただなの。得したって思えばいいじゃん…えっ…なに…どういうこと?(続く)
キオスク    どういうこと?
ベース     駐車場でハマっちゃったみたいで。
キオスク    駐車場って、そこの。
ぱるらんど   はい。
キオスク    アリオの。
ぱるらんど   はい。
パーカス    駐車券がないとかあるとか。
キオスク    いや、ないんだよ。よくわからないまま写真取られて、よくわからないまま清算して、みんなよくわからないまま車出すんだから。
トロンボーン  (一度電話をはなして)そう説明してるんだけど、そのシステムが理解でいないみたいで。(電話に戻って)えっ、なに。(続く)
ベース     そういう意味で、ハマっちゃってるということなんですけど。
キオスク    わかんない。いや、わかるけど、わかんない。
トロンボーン  (続いてる)あのな…それを言うなら「ただより高いものはない」だろ。なんだ「ただほど高いところに上る」って。高いところに上るのは、バカだよ。っていうか、お前がバカだ!いい加減にしろよ!しらねーよ!お前の倫理観なんか、ばーか!…あ。
パーカス    どうした。
トロンボーン  バッテリー、切れた。
ぱるらんど   …。
 * * *
キオスク    ん?大丈夫なのかな?
パーカス    どうする。
トロンボーン  だれかピアノ弾ける人?
パーカス    あんた。
ベース     ジョーダン!
トロンボーン  弾いてごらん。弾けるかもしれないよ。

ベースをピアノに寄せる。

ベース     ムリだって。ベースだってまともに弾けないんだから。
パーカス    自分でも気づかなかった才能が開花するかも。
トロンボーン  考えてみたら、トロンボーンとベースで、同じパート弾いてるしさ。2人いても意味ないよね。
ベース     いやいや、それを言うなら、どうぞ。
トロンボーン  いやいや、どうぞ。
パーカス    いやいやいやいや。
ぱるらんど   (キオスクに)どうぞどうぞ。
キオスク    なんでよ。

新人駅員、ご機嫌でやって来る。

新人駅員    リハーサルですか。
ぱるらんど   えっ。
新人駅員    ピアノ、どうぞ使ってください。
ぱるらんど   いやいや、そんな、もったいない。
新人駅員    誰でも弾いていいピアノですから。遠慮なく。さあ。
パーカス    あの、どこか先ほどと印象が違う気がするんですけど。
新人駅員    そうですか。
パーカス    憑き物が落ちたというか。
新人駅員    まあ、心のつかえが取れたんですかね。さあ、まもなく出発式ですよ。盛り上がっていきましょう!
ベース     ご機嫌ですね。
新人駅員    はい!
ベース     じゃ、お願いがあるんですけど。
新人駅員    なんでも言ってください!
ベース     ピアノ弾いてもらえますか。
新人駅員    僕?
ぱるらんど   はい。
新人駅員    いや、ぼく駅員ですから。
トロンボーン  誰でも弾いていいならね。
パーカス    駅員も弾いていいですよね。
新人駅員    いや、僕弾けないですから。
キオスク    誰でもの中には弾けない人も入っていますから。
新人駅員    口出さないでもらえますか。
パーカス    まあまあまあ、落着いて。座って話しましょう。
ぱるらんど   そうね、そうね。
新人駅員    いやいやいや。

新人をピアノの前に座らせる。

ベース     どう。座り心地は。
新人駅員    まあ、悪くないですけど。
トロンボーン  じゃ、振り返って鍵盤に手を置いてみようか。
新人駅員    (いうこと聞きそうになって)だから、ムチャ言わない!
ベース     なんでも言って下さいって、言ったじゃない!
キオスク    リハーサルだから。
ぱるらんど   そうそうそうそう。
新人駅員    そこ、口出さない!
キオスク    雰囲気、雰囲気でいいんだから。

新人、おそるおそる指一本でピアノを弾く。

新人駅員    …ポローン♪
ぱるらんど   おおお。
新人駅員    待って、おかしい。
パーカス    次いってみよう!
新人駅員    ポローン♪
ぱるらんど   いいね!
新人駅員    …そうですか。ポローン♪
ぱるらんど   いいね、いいね。
パーカス    ご機嫌だね!
新人駅員    まあ。ポローン♪ポローン♪ポローン♪

新人、ちょっといい気になって、指一本で弾く。

ぱるらんど   いい感じ。ノってきた!
 * * *
駅長やって来る。
鉄子がカメラを構えて、ついてくる。

駅長      あれ、竹下君、ピアノ弾けるんだ。
新人駅員    (鍵盤を見続けたまま)いや、弾けないです。
駅長      弾いてるよ。
新人駅員    これで弾いているうちに入るんですかね。
駅長      見直したよ。
新人駅員    ありがとうございます!
鉄子      いいよ、いいよ。
新人駅員    ピアノって、なんだか楽しいですね。
ぱるらんど   もっとノっていこう!
鉄子      こっち見て。パシャ。
新人駅員    あ、目つぶっちゃった。(手が止まる)
鉄子      はい、ウインクいただきました。
新人駅員    ちがうちがうちがう!
鉄子      第3問、正解は横浜。
駅長      竹下!
新人駅員    僕はなにもしていない!
鉄子      ありがとう。あなたのこと信じてよかった♡
新人駅員    駅長!どうしてこいつを檻から出したんですか!
駅長      君ね、駅長室を檻みたいに使うのやめなさい。
新人駅員    しかし、業務に支障が出ているんです。
駅長      ビックリしたよ。鍵開けて入ったら鉄子さんがいるんだもん。
鉄子      ♪るーるる、るるるる…鉄子の部屋です。
駅長      見てごらん、彼女のクイズラリーすごいんだ。
鉄子      全問正解間違いなし!今日の運転手は私だ!

新人駅員、強く訴える。

新人駅員    駅長。私は組織の歯車として一生を捧げる覚悟で―
駅長      何をごちゃごちゃ言ってるんだ。
新人駅員    すみません。
駅長      業務命令。仕事は楽しくやりなさい。
新人駅員    …はい。
キオスク    じゃ、まず、ピアノ弾いてみようか。
新人駅員    えっ。
駅長      そうだな。駅員の中で、君が一番可能性ありそうだし。
ぱるらんど   いいですね!
新人駅員    待って下さい。
鉄子      せっかく駅にピアノがあるのに、駅員が弾かないってもったいない。
駅長      そうなんだよ。
キオスク    指一本のプレイスタイル、なかなかよかったよ。
パーカス    むずかしく考えなくていいから。
鉄子      自由に音の翼を広げて。
新人駅員    …。
みんな     どうぞ。
新人駅員    ここにきてから、ずっと気になったんですけど。
みんな     ん?
新人駅員    弾けない人に、弾いてくださいって、難しくないですか。
駅長      えっ?
新人駅員    だって、弾けないんですから。
駅長      ピアノなんて触ったこともない、って人も遠慮なく触れてください、ってことだな。
新人駅員    それはいいんですけど。
駅長      今はどうかわからないけど、昔はね、普通の家にピアノなんかなかったの。家にピアノがあるのは、お金持ちの家だったの。
パーカス    習い事に熱心なお母さんがいるとか。
駅長      そうそう。
パーカス    女の子はね、ピアノのある家に憧れましたよね。
駅長      あれ、昭和?
パーカス    昭和。くやしいけど、ギリギリ昭和。
鉄子      たぶん、今も変わりないですよ。ピアノを置けるような一軒屋住んでるだけで、贅沢ですから。
駅長      そうだよね。鉄子さん、さすがいいこと言うな。
鉄子      別にいいこと言ってない。
駅長      だから、そういう人にも、っていうかそういう人にこそ思いっきり弾いて欲しいっていう。
新人駅員    えーと、違うんですよ。
駅長      そうなんだよ。そういうことなんだよ。
新人駅員    それはいいんですよ。僕も大賛成です。そこじゃなくて、弾けないわけじゃないですか。僕も含めて。弾けない人が、思いっきりとか、自由にどうぞって言われても、どうしようもないんですよ。弾けないんですから。
駅長      まあ、たしかにな。
新人駅員    せいぜい鍵盤に触れて、ポローンって鳴らしてみるくらいで。
パーカス    鍵盤に指紋つけちゃっていいのかな、とか思ったり。
わかる人    わかるわかる。
 * * *
マッチとポンプ、やってくる。

ポンプ     お取り込み中のところすみません。
キオスク    できたの?
マッチ     ネタ見てもらっていいですか。
マッチとポンプ お願いします!
駅長      お、楽しみだな。
新人駅員    駅長、大して、あれですから。
駅長      そうなの。
ポンプ     見てないじゃん!どっかいったくせに!
駅長      君たち、サブローシロー知ってる?
マッチとポンプ えっ。
駅長      太平サブロー・シロー。もう、最高だよ。お腹ちぎれるよ。
ポンプ     いや…。
駅長      あ、そう。じゃ、そんなもんか。
ポンプ     いや、おもしろいですって。

楽団はスマホに関心が戻っている。
なぜか、キオスクと鉄子も加わる。

マッチ     お願いします!
パーカス    あたしたちは、もう十分堪能したから。
鉄子      ねえ、温めてみたらどうだろう。
トロンボーン  スマホを?
鉄子      そうそう。
パーカス    聞いたことある。温めると具合よくなるって。
ベース     そんな肩凝り腰痛みたいに、いく?
パーカス    おばあちゃんが言ってた。昭和の智恵。
キオスク    昭和にスマホないじゃん!
パーカス    かして!

あの手この手でスマホを温める。

マッチ     ラストチャンスなんです!
みんな     えっ。
ポンプ     えっ、なにそれ。
マッチ     オレ、今日ウケなかったら、お笑いあきらめようかなって。
ポンプ     お前…なに言ってんだよ!あきらめてどうすんだよ!
マッチ     ふるさとに帰ろうかなって。
ポンプ     お前んち、ここからすぐじゃん!走って30秒じゃん!
マッチ     お願いします!鉄道の日のために新ネタも用意しました。
駅長      わかったよ。
新人駅員    駅長。
駅長      まあ、やってみて。
マッチとポンプ ありがとうございます!
新人駅員    それじゃ、時間になりました。

マッチとポンプ、拍手しながらやって来て。

マッチ     マッチでーす!
ポンプ     ポンプでーす!
マッチとポンプ 二人合わせて、マッチポンプでーす!
ポンプ     いやー、みなさん、知ってます?今日みなさんが乗車する機関車ってどうやって走るのか。
マッチ     まあ、蒸気機関車っていうくらいですから、蒸気でね。
ポンプ     おしい!
マッチ     はい!わかった。その蒸気を作るために石炭を焚いてね。
ポンプ     超おしい!
マッチ     ええ、石炭じゃないの?!
ポンプ     今日は石炭が足りなくてね、君ん家をバラバラにして。
マッチ     燃やすなよ!
ポンプ     どれだけ燃えるか、先月試してみたんですけど。
マッチ     お前かよ!犯人!
ポンプ     前よし、後ろよし!火災保険よし!
マッチ     よくねーよ!
ポンプ     出発進行!(行く)
マッチ     こら、逃げんな!
ポンプ     ♪きっしゃきっしゃ 出火出火!
マッチ     しゅっぽしゅっぽだ!
ポンプ     火が(汽笛をならして)ぼーぼー。
マッチ     ぽっぽーだ!
 * * *
と、漫才やってる最中に。
なっちゃん、平然とやってきて、するっと改札を抜けようとする。

なっちゃん   ご苦労さまです。
鉄子      ご苦労さまです。
駅長      こらこら、待ちなさい!

なっちゃん、ダッシュで去る。
駅長と新人、追いかける。

楽団も、去る。
もっとスマホを温める方法はないかと、裏技を誰か知らないかと。
で、鉄子とキオスクがベンチに残っている。
 * * *
~なんだかんだありまして~

ポンプ     もう、いいわ!

マッチとポンプ、礼。

マッチとポンプ どうでしょう?
キオスク    誰もいないよ。
マッチとポンプ おーい!

マッチとポンプ、追いかける。
ピンポーン…改札機が閉まる。

鉄子      君たちさ。
マッチとポンプ はい。
鉄子      間が悪い。
マッチとポンプ …。
鉄子      笑いは間だからさ。
マッチとポンプ あ…はい。
キオスク    おいで。

マッチとポンプ、鉄子、キオスクに去る。
 * * *
なっちゃん、ホームから追われ駆けてくる。
高校生たち、追いかけてきて。

高校生たち   待ちなさいって!
なっちゃん   ほっといて。あたしは独りでも行くんだから。

なっちゃん、そのまま出ていこうとする。
が、班長が現われ、通せん坊。

班長      てこずらせたわね。
なっちゃん   どけて。
班長      それはできないわ。

班長となっちゃん、にらみ合う。

そら子     ねえ。USJ、楽しいよ。
なっちゃん   だから行けばいいでしょう。あたしは、独りでも奈良に行く。
班長      班行動だから。
しお子     ハリーポッター観たいでしょう。
なっちゃん   ちっとも!
しお子     ちょうどね、スーパースペクタクルパレードやってるんだってさ。
なっちゃん   そういうの興味ないから。
そら子     USJには、ミニオンがうじゃうじゃいるんだって。
しお子     お寺なら京都でもたくさん見れるから。
班長      そうだね、京都で思う存分見よう。
しお子     あたしたちも一緒に拝み倒すから。
そら子     三十三間堂には、観音様がうじゃうじゃいるんだって!
なっちゃん   そうじゃないんだって。みんなも奈良に行ったら、よかったって思うから。
班長      そんなに、なにがいいの。
なっちゃん   京都より奈良のほうが古いんだよ。ずっと古いの。
班長      古いのもわかった、そのなにがいいの?
しお子とそら子 うん!
なっちゃん   いいものは、いいの!
班長      なっちゃん、いいからとしか言ってない。ずっとそればっかだよ。班長のあたしの身になってよ。それで、みんな納得するわけないじゃん。
なっちゃん   絶対いいから!
班長      ほら。
なっちゃん   だって。知らないんだもん。行ったことないし。
班長      それじゃ説得力ないじゃん。
なっちゃん   知らないから行きたいんじゃん!
班長      そうだけど。
なっちゃん   あのね。神さまが宿る山があるんだって。そのふもとには日本で一番古い神社があって、日本で一番古いの道が続いていて―
しお子     日本で一番古い道って、なに?
なっちゃん   道だよ。道もわからないの。
しお子     どこにでもあるじゃん。人がいれば道ができるんじゃないの。
そら子     人がいなくてもケモノ道だってあるしね。
しお子     え…班長どういうこと?
班長      うーん。
なっちゃん   だから日本最初の道だって。
そら子     私たちUSJやめてケモノ道見に行くの?
なっちゃん   ちがうって。
そら子     あたし、ミニオンに会いたい!
なっちゃん   あたしは奈良に行きたいの!
班長      そうやって結局話し合いにならないじゃん!
高校生たち   だって!
班長      わかった。もう、ここは班長の私に一任してもらいます!
高校生たち   それは…。
班長      いいですね!
高校生たち   …はい。
班長      では、いろいろ意見はあると思いますが、おおよそ意見も出つくしたと思われますので。まあ、おおかたの意見としては、USJに…。
高校生たち   はい、そうですそうです。
班長      行きたいということで、もちろん少数者の意見に耳を傾けないわけではなく、その気持ちに寄り添ってですね…。
高校生たち   もちろんもちろん。
班長      これからますます班の団結力をアップアップしていきたいと班長としても思っているところですが、なにせ修学旅行が来週に差し迫ってまいりまして、今も担任が「お前たちの班はどうなってんだ!」と職員室で待っているという現状と、これまでの議論を踏まえて―。
なっちゃん   もういいから。決めなよ。
班長      …。
高校生たち   班長お願いします!
班長      …ここは、どうでしょう。中を取って、みんなでミニオンズのTシャツに鹿の角付けて奈良と大阪の県境を歩いてみる…。
高校生たち   意味わかんねーよ!
班長      だってさ。
なっちゃん   いいよ。わかったから。
高校生たち   …。
なっちゃん   USJでいいよ。
班長      なっちゃんも一緒に行く?
なっちゃん   …いくよ。
高校生たち   なっちゃん/ありがとう/よかった/なっちゃんがコース決めていいから/でもパレードだけはどうしても見たいんだ
なっちゃん   わかったわかった。みんな選んでいいから。
班長      よし、担任に報告だ!みんなは、急いで計画表作って。
高校生たち   了解!行こう行こう。
そら子     ほら、なっちゃん!

高校生たち、なっちゃんを連れて去る。
 * * *
技術館職員、探検隊を連れて改札から戻ってくる。
その後を、鉄ちゃんついて来る。

技術館職員   探検隊のみなさん、こちらです。
探検隊たち   はーい。
技術館職員   というわけで、ここまで鉄道技術館から工場、そして新しくなった駅まで探険して来ましたが、いかがでしたか?
そう太郎隊員  広い!
技術館職員   そうですね。
ゆう太郎隊員  線路がいっぱいある!
技術館職員   たくさんの線路が延びていましたね。昔はさらに、この駅から北のビール工場、南に木工場、東にセメント工場、西にガス工場と線路が続いていました。今も多くの車両がここで整備され道内各地を走っています。そして、これからみなさんが乗車する蒸気機関車もここで整備されました。
探検隊たち   おおお!
技術館職員   それでは、ここからは駅長さんにバトンタッチします。
駅長      探検隊のみなさん、おはようございます。
探検隊たち   おはようございます。
駅長      いよいよこれから、みなさんに蒸気機関車に乗ってもらいます。
探検隊たち   イエーイ!
駅長      みなさん、駅のホームで駅員が合図しているのを見たことありますか。
探検隊たち   出発進行!
駅長      そうです。今日はなんと、みなさんの中から一人、一日駅長になってもらって、その合図を出してもらいます。それでは、一日駅長やりたい人!
探検隊たち   …。
駅長      …駅長としては、なかなかショッキングな展開ですね。
技術館職員   あれ?誰もいないかな。
ぜん太郎隊員  ホームで合図を出すということは、SLに乗っていないということですよね。
駅長      するどい!
技術館職員   さすが鉄道探検隊!
駅長      今日は特別、一日駅長さんも、合図を出したら機関車に乗ってもらいます。
探検隊たち   はい!はい!はい!はい!/オレだって/あたしだって/なんでだよ/ずるい/泣かすぞ、こら/やってみなさいよ
駅長      これはこれで、面倒な展開ですが。
ひな隊員    ジャンケンで決めよう!
探検隊たち   おう!(かまえる)
技術館職員   こうしましょう。クイズラリーの優勝者が一日駅長ということで。
探検隊たち   まじかよ!
技術館職員   一番成績のよかった子に、この大役をお願いします。
みっちゃん   シビアだな。
技術館職員   成績発表!
鉄ちゃん    (ドラムロール)ドロドロドロドロ…。
技術館職員   あ、ありがとう…いたんだ!
鉄ちゃん    発表します!
技術館職員   鉄道の日記念クイズラリー、優勝は!
鉄ちゃん    じゃん!はい!私!私!
駅長      君も、駅長室で話しようか。
鉄ちゃん    私!私!
駅長      だれか!

駅員、鉄ちゃんを連れて行く。
鉄子、飛び出してくる。

鉄子      鉄ちゃーん!
鉄ちゃん    鉄子ぉおお!
探検隊たち   さようなら。

鉄ちゃん、連れ去られる。
 * * *
技術館職員   残念ながら鉄ちゃんが退場となりました。それでは、みなさんの中から一番成績のよかった―
鉄子      ちょっと待った!あたしを忘れていない?
技術館職員   大人の方には、是非こちらの事情もおしはかっていただき。
鉄子      どういうこと!遠慮しろってこと!
技術館職員   大人ですので。忖度していただいて。
探検隊たち   大人ですので!
技術館職員   というわけで一日駅長は、ぜん太郎くん!
ぜん太郎隊員  よっしゃー!
探検隊たち   ええ、いいな!
駅長      それでは、一日駅長さんには、着替えていただきます。こちらへ、どうぞ。

駅長、一日駅長を連れて去る。
その他の探検隊、すっかりテンションが下がっている。
鈍く「ねこふんじゃった」を弾いている子もいる。

探検隊たち   ちぇっ…ちぇっ…。
技術館職員   その他の探検隊のみなさんも大変よくがんばりました。
ゆう太郎隊員  気休めはよしてくれよ。
そう太郎隊員  こんな仕打ち、ないよな。
探検隊たち   あんまりだぁ。
技術館職員   気を落としているみなさんに、こんな事をお願いするのは大変申し訳ないのですが、もうひと踏んばりしていただけると。
探検隊たち   むりむりむりむり。
まき隊員    何もかもがいやになりました。
かな隊員    何も信じたくありません。
ゆみ隊員    もう話しかけないで下さい。
ひな隊員    もうかまわないで下さい。
みっちゃん   ちなみに何をするんですか?
技術館職員   運転手をお願いしたいなと。
探検隊たち   よっしゃー!
ゆう太郎隊員  お前、早くそれを言えよ。
鉄子      あたし、あたし!全問正解したのあたし!
かな隊員    汽笛ぽっぽー、とかできる?
技術館職員   できますよ。
探検隊たち   やった!
鉄子      だから、それあたし!
探検隊たち   大人ですので。忖度していただいて。
鉄子      わなわなわなわな…。
技術館職員   では、発車の時間まで、一時解散!

テンションだだ上がりの探検隊。

ひな隊員    よし、こうなったら腹ごしらえだ。
まき隊員    おやつ食べよ。
ゆみ隊員    ノド渇いた。
探検隊たち   あたしも!/オレも!

探検隊、キオスクへ走る。

探検隊たち   すみませーん。
キオスク    いらっしゃい。
ゆみ隊員    カツゲンくださーい!
キオスク    はいよ。

鉄子、子どもたちを払いのけ。

鉄子      どけて!
探検隊たち   うわぁ。
鉄子      やってらんないわ。いつもの。
キオスク    あ、カツゲン売り切れだね。
鉄子      なんでよ!
探検隊たち   なんでよ!
キオスク    ほんとカツゲンだけよく売れるのよ、この店。
まき隊員    ちゃんと探した?
キオスク    もちろん。
鉄子      奥の在庫とか、見た!?
キオスク    今、奥でネタ合わせやってるから、入れない。
鉄子      ちゃんと商売しろよ!
探検隊たち   失礼しまーす。

探検隊たち、店に入って行く。
鉄子も入って行く。

キオスク    ないって。こら、探検隊!店を探険するな!

キオスク、追いかける。
 * * *
楽団、戻ってくる。
なぜかランニングしている。

ぱるらんど   1、2、1、2…。
ベース     どう?
パーカス    だいぶ身体は温まった。
ベース     スマホだよ。
パーカス    あ、そうか。

と、スマホの電源を確認。

パーカス    ダメだ!うんともすんとも。
トロンボーン  あの。
技術館職員   あ、はい。
トロンボーン  駅の方?
技術館職員   鉄道技術館の者です。
トロンボーン  技術に詳しい。
技術館職員   ええ、まあ。
トロンボーン  ちょっと、詳しいって。(呼ぶ)
技術館職員   なんですか?
パーカス    スマホの電源切れちゃったんですけど。何か方法ありませんか。
技術館職員   …充電するんじゃないかな、普通は。
パーカス    それが、できないんです。
技術館職員   え、どこかないの。ちょっと聞いてみるね。(窓口へ向かう)
パーカス    待った。駅の人にいうのは、待って。
技術館職員   なんで。困ってるんですよね。
パーカス    困ってる。すごい困ってるんだけど。心の準備ができてない。
ベース     バッテリー復活させる裏技とか知りませんか。
技術館職員   いや…。
トロンボーン  技術に詳しいんじゃないの。
技術館職員   電車ならわかるけど。
ベース     電車のバッテリーはどうするんですか。
技術館職員   やっぱり北海道は寒ですから、寒いとバッテリーの調子も―
ベース     やっぱり温めるんだ!
パーカス    1、2、3、4…。(体操をはじめる)
技術館職員   なにやってるの?!
パーカス    もう、どうしたらいいのかわからない!
ベース     これから出発式ありますよね。
技術館職員   はい、ホームで。
ベース     そこで、私たち演奏しなくちゃいけないんです。
トロンボーン  だけど一人メンバーと連絡がとれなくて。
技術館職員   えっ。
ぱるらんど   はい!
技術館職員   大丈夫なの?そろそろですよ。
パーカス    あたし、そろそろ限界かも。(まだ体操をしてる)
ベース     なんとか…ね。
トロンボーン  ピアノの彼女がくれば、なんとでもなるし。
ベース     そうそうそうそう。
技術館職員   ピアノ?
トロンボーン  はい、ここにピアノありますもんね。
技術館職員   ここにピアノはあるけど…ホームにはないからね。
ぱるらんど   あぁ……。
パーカス    …ほんとだ。(体操とまる)
ぱるらんど   はい!
技術館職員   いやいや。
ベース     彼女が来れば、どうにでもなるんで。
技術館職員   いや、ホームにはピアノないからね。
ベース     彼女、確かヴァイオリンも弾けたよね。
トロンボーン  確か。ヴァイオリンが来れば、なんとでもなるし。
技術館職員   確か?
ぱるらんど   確か…。
技術館職員   来ればね。
ぱるらんど   来れば…。

その時、スマホがブルブル。

パーカス    あっ、ブルブルしてる!
ぱるらんど   うそっ!
パーカス    (電話に)もしもし!……はぁはぁ…ダメだ、息が切れて話せない。
ベース     かして!(電話に)もしもし!今どこ?!落ち着け!わかったから、あんたがモラリストなのはよーくわかった。こうしよう、買い物をすればいい。買い物したら、駐車場の無料チケットもらえるから。なっ、それならスッキリするだろう。…よし!そうだよ、倫理的にも問題ない!よし!今どこにいる?1階の…うん…サービスカウンターね。動くなよ。いいか。今行くから!

ベース、駆け出す。

ぱるらんど   頼んだ!
ベース     頼まれた!2人は、ピアノをホームに運んで!
ぱるらんど   わかった!

ベース、去る。
楽団、ピアノを持ち上げる。

技術館職員   それはムリだ!
パーカス    何かないの!台車とか。
技術館職員   そんな急に…。
ぱるらんど   鉄道技術館!
技術館職員   叫ばれても、ない物はないから。
パーカス    ほら、あるじゃない、なんていうんだっけ、こういうの!(ギッコンバッコンしてみる)
トロンボーン  ああ!線路の上運ぶヤツ!(ギッコンバッコンしてみる)
パーカス    そうそう!
技術館職員   もしかして…トロッコ?
ぱるらんど   そう!トロッコ!
技術館職員   どうやって持ってくるんだよ!
パーカス    探そう!(行く)
技術館職員   ないから。トロッコあっても線路がないから。

楽団、技術館を連れて去る。
 * * *

駅員、窓口の向うに現れ、マイクでアナウンス。

女駅員     お客様にご案内いたします。本日は鉄道の日を記念して特別列車を運行いたします。改札までもうしばらくお待ちください。
 * * *
スーツ姿のめぐ、ゆっくりと改札を抜けてくる。
久しぶりに訪れた駅の待合いを見る。
振り返り、列車の時刻を確認する。
そして、キオスクで買い物。

めぐ      カツゲン一つください。
キオスク    はい。120円。

めぐ、ベンチに座る。
 * * *
めぐと同じ列車に乗っていたであろう観光客が改札を抜けてくる。

ジンさん    あら、タレ付きじゃないの?
ギスさん    まあ、まかせてちょうだい。
カンさん    わかった。鍋奉行にお任せします。
ジンさん    鍋っていても、ジンギスカン鍋でしょう。
ギスさん    ジンギスカン鍋なら、あたしにまかせて。
ジンさん    ヘンに自信あるわね。

ピアノに気づいて。

カンさん    見て。
ジンさん    あら、ピアノ。
ギスさん    ね、ピアノじゃない。ピアノだよ、ほら。
ジンさん    素敵ね。
カンさん    ピアノなんて、ねえ。
ギスさん    弾いていいのかしらね。
ジンさん    それはそうでしょう、ピアノなんだから。
女駅員     どうぞ、遠慮なく。誰でも弾いていいピアノですから。
ジンさん    ほら。

カンさん、ピアノ椅子に座る。

ギスさん    ぃやだ。ピアニストみたい。
カンさん    ちょっと、なにか弾いてみて。
ギスさん    あんた、座ってんじゃない。
カンさん    あたしは、休憩。
ジンさん    なにしてるの。弾かないのに座っちゃダメでしょう。
カンさん    だから、あんた弾いてごらんなさいって。
ギスさん    あたし、弾けないわよ。
カンさん    弾けなくたっていいのよ。
ジンさん    ほら、立って。
カンさん    ねえ、座ってみて。ピアノの椅子って、クッションすごくいいのね。
ジンさん    ジンギスカン食べに行くわよ。
カンさん    ちょっと、写真撮って。
ジンさん    なにしてんだか。

さん、スマホを出して撮影。
ギスさん、窓口へ。

ギスさん    ちょっと、すみません。ビール園はどちらかしら。
女駅員     出て、右に行くと北口に出まして。あとは、ビールって書いた煙突が見えますから。
ギスさん    ありがとう。今日は何かあるんですか?
女駅員     はい。今日は鉄道の日でして。
ギスさん    それで。ホームから機関車が見えたものだから。そうなの。
女駅員     ええ。
ギスさん    ありがとう。
女駅員     あの。
ギスさん    はい。
女駅員     この時間、まだビール園はやってないと思いますよ。
ギスさん    いいの、並ぶから。
女駅員     まだ朝ですから。
ギスさん    朝ご飯食べに来たんだから。
女駅員     ビール園にですか。
ギスさん    朝ジンギスカン。
女駅員     朝ジンギスカン!?

カンさん、声をかける。

カンさん    行きましょう。
ジンさん    あたしね、ジンギスカンはタレ付きしか食べたことないのよね。
ギスさん    だから、あたしにまかせなさいてって。

観光客、去る。

女駅員     朝からジンギスカン…。
 * * *
なっちゃん、やって来る。
ピアノの前に座る。
なっちゃん、ピアノを弾く。

♪ 演奏 ♪
【ここでも「ねこふんじゃった」でいいかも】

めぐ、ベンチから立ち上がる。

めぐ      …なっちゃん。
なっちゃん   先輩?
めぐ      やっぱり。
なっちゃん   お久しぶりです!どうしたんですか。
めぐ      ん、ちょっとね。
なっちゃん   元気ですか。
めぐ      元気、元気。聞いて下さい。軽音部、めっちゃ人増えたんですよ。
めぐ      そう。みんな、元気?
なっちゃん   元気、元気。
めぐ      なっちゃんは?
なっちゃん   元気ですよ。最悪だけど。
めぐ      どっちなの。
なっちゃん   ケンカしちゃった。
めぐ      えっ。
なっちゃん   聞いてくださいよ。修学旅行。
めぐ      あ、行ってきたの?
なっちゃん   これから行くんです!
めぐ      あ、そう。楽しみだね。京都、大阪、奈良―
なっちゃん   奈良ですよね。
めぐ      奈良、いいよ。
なっちゃん   どうして今年は奈良が入っていないんだ!
めぐ      そうなの?
なっちゃん   そうなんです!
めぐ      すごくよかったのに。
なっちゃん   ですよね。行きたかったな。
めぐ      なんてったって三輪山。
なっちゃん   そう、そこ!あたし、先輩から聞いていたから、絶対行くぞって決めてたのにさ。
めぐ      えっ、それでケンカ?
なっちゃん   まあ。
めぐ      あ、そう。
なっちゃん   もういいんですけど。

なっちゃん、座る。

めぐ      自分で行っちゃえば。バイトして、お金ためてさ。そのくらいしても、行ったほうがいい。
なっちゃん   先輩。その山、どこがよかったんでしたっけ?
めぐ      ん?
なっちゃん   たくさん話聞いた気がするんだけど、憶えていなくって。
めぐ      あ、言っちゃいけないの。
なっちゃん   どゆこと?
めぐ      他言無用。山の中で見たことは誰にも言っちゃいけないことになってる。
なっちゃん   それでか。なんで知らないないんだろうって思ってさ。こんなに行きたいのに。
めぐ      知らないから行ってみたくなるのかもね。
なっちゃん   そうですよね!
めぐ      そうだよ。きっと。
なっちゃん   バイトすっかな。でもな、もうみんな受験モードだしな。
めぐ      たいへんだ。
なっちゃん   たいへん、なんですかね。
めぐ      ごめん、あたしわかってないから。
なっちゃん   そっか。あたしも先輩みたいに、働こうかな。
めぐ      ふ。
なっちゃん   仕事、楽しいですか?
めぐ      うん。それなりに。
なっちゃん   それなりか。でも、自由に使えるお金があるっていいですよね。
めぐ      そんなたいしてもらってないよ。
なっちゃん   そうなんですか。
めぐ      そうだよ。
なっちゃん   でも、いいな。
めぐ      行きたいところがあったら、今のうちに行ったほうがいいよ。
なっちゃん   はぁ、どうすっかな。

間。

めぐ      三輪山ってね、そんな大きな山じゃないんだけど、万葉集とかによく出てくるんだよね。
なっちゃん   へえ。

めぐ、座る。

めぐ      山道を杖をついて歩くと、まわりは原生林でね。なんかね、何百年も、その昔も、人はこんな景色を見ていたのかなって、そんな気になる。
なっちゃん   あたし古典苦手なんです。授業眠たくって。
めぐ      成績といっさい関係ないからね。
なっちゃん   そうなんですか。
めぐ      そんな成績よかったら、大学行ってたよ。
なっちゃん   そっか。
めぐ      あたし、音楽ばかりやってたからさ。
なっちゃん   うん。
めぐ      歌のことばかり考えてて、本読んだり調べたりしてたら、いつの間にか万葉集までいっちゃって。
なっちゃん   その歌は、違わない?
めぐ      違うんだけどさ。
なっちゃん   わかんない。
めぐ      私もわかんないんだけど、でも、つながっちゃったの。



なっちゃん   いやー、あたしどうしよう。
めぐ      進路。
なっちゃん   進路も、いろんなことも。
めぐ      もうそんな時期か。
なっちゃん   なんだって。
めぐ      がんばんなよ。
なっちゃん   はーい。よし、先輩にも会えたし、行くか。
めぐ      学校?
なっちゃん   今日は、もうみんなに合わす顔がないかな。
めぐ      そう。
なっちゃん   それじゃ、さよなら。(行く)
めぐ      さよなら。

なっちゃん、振り返って。

なっちゃん   先輩、奇跡のようなことってあるんですね。
めぐ      えっ。
なっちゃん   今日、ずっと先輩のこと思い出していたんです。先輩、奈良のことなんて言ってたっけ?とか。そしたら、会えた。それだけでも、よかったです。ありがとうございます。
めぐ      うん。あたし何もしてないけど。
なっちゃん   さよなら。
めぐ      さよなら。

なっちゃん、定期をとり出し、改札を抜けてゆく。
めぐ、それを見送って、ピアノを振り返る。
 * * *
鉄ちゃん、駆け込んできて、キメる。
鉄ちゃんは、「一日駅長」のたすきをかけている。

鉄ちゃん    前よーし!後ろよーし!

一日駅長、駆け込んでくる。

一日駅長    こら、返せ!
鉄ちゃん    いいじゃん。やめて、返して。

一日駅長、たすきを奪い、キメる。

一日駅長    前よーし!後ろよーし!

探検隊、駆けてくる。
鉄子、写真を撮る。

探検隊たち   おおお!。よっ、一日駅長!
鉄子      きめて!
鉄ちゃん    どうも、一日駅長の―
一日駅長    (鉄ちゃんの前に出て)どうも、一日駅長のぜん太郎です。(ポーズ)
鉄子      パシャ。いいね。
みっちゃん   一日駅長、今のお気持ちをお聞かせ下さい。
一日駅長    両親と、駅の近くで育ったことに感謝します。
鉄子      きめて!
一日駅長    どうも、一日駅長のぜん太郎です。(ポーズ)
鉄子      パシャ。いいね。
かな隊員    一日駅長としての意気込みをお願いします。
一日駅長    出発進行!
鉄子      きめて!
一日駅長    どうも、一日駅長のぜん太郎です。(ポーズ)
鉄子      パシャ。いいね。次は、カツゲンも持ってみようか。

鉄子、一日駅長にカツゲンを持たせる。

一日駅長    カツゲンは、乳酸菌飲料です!(ポーズ)
鉄子      きめて!
探検隊たち   カツゲンは、北海道限定です!(ポーズ)

探検隊もカツゲンを持ってポーズを取る。

鉄子      パシャ。いいね。
一日駅長    すみません。写ってますか?

駅長がやってくる。

駅長      お、立派な駅長さんがたくさんそろったな。
一日駅長    いや、一日駅長はオレ一人だから。
鉄子      他にも、駅長さんらしいポーズで。
一日駅長    出発進行!
探検隊たち   出発進行!
鉄子      パシャ。
一日駅長    それ、オレが言うんだからな。
鉄ちゃん    前よーし、後ろよーし!
鉄子      パシャ。
一日駅長    それも、オレが言うんだからな!
駅長      それでは、一日駅長、こちらへ。(行く)
鉄ちゃん    よろしく。(行く)
探検隊たち   はーい!(行く)
一日駅長    言うなよ。絶対に言うなよ!

駅長、ホームに向かう。
探検隊も続いて改札を抜けてゆく。

鉄子      しまった!カツゲン、持っていかれた!

鉄子、キオスクへ。

鉄子      いつもの。
キオスク    売り切れました。
鉄子      いや、奥にあったじゃん、たくさん。
キオスク    代わりに運んで。
鉄子      なんでよ。
キオスク    働いて。

鉄子、店の中へ。
 * * *
めぐ、ピアノの前に座り、ぼんやりと鍵盤を見ている。
キオスク、声をかける。

キオスク    違ったら、ごめんなさい。お客さん、毎朝カツゲン買っていた子?
めぐ      あ…はい。
キオスク    なんだ、言ってよ。ビシッと決めてるから、わかんないよ。
めぐ      すみません。
キオスク    いいんだけどさ。あんらまー、立派になって!
めぐ      それ、誰ですか。
キオスク    え、今日は、どうしたの?
めぐ      いや、たまたま。
キオスク    あ、そう。外勤かなにか。
めぐ      そうですね。
キオスク    バリバリやってるんだ。
めぐ      まあ。

めぐ、時刻表示を見る。

キオスク    ごめんごめん。乗り遅れたらたいへんだ。身体に気をつけてね。
めぐ      はい。ありがとうございます。
キオスク    いってらっしゃい。
めぐ      はい。

めぐ、改札を抜けようとするが。
ピンポーン…改札機が閉まる。

めぐ      あ。
キオスク    …ん?
めぐ      定期、札幌までだった。
キオスク    はは。
めぐ      …ほんとは、乗り過ごしちゃって。
キオスク    直帰しちゃえば。
めぐ      えっ…。
キオスク    戻らなくていいんじゃないの、会社。
めぐ      そんなわけには。
キオスク    そんなわけには、いかないか。
めぐ      仕事行かなきゃ。

めぐ、券売機へ。
定期をチャージする。
 * * *
高校生たちが駆け戻ってきてキオスクへ。

班長      おばちゃん!

鉄子、カツゲンをカウンターに積んで。

鉄子      はい、カツゲン。山ほどあるよ。
班長      なっちゃん、来なかった?
鉄子      あんたたち、まだ追いかけっこやってんの?
キオスク    学校戻ったんじゃないの。
そら子     戻ったけど、また飛び出したの!
しお子     あんにゃろ、あたしの定期奪っていきやがった!
キオスク    どこ行く気?
そら子     奈良に決まってるじゃない!
めぐ      えっ!
キオスク    えっ、定期で奈良に!
めぐ      なっちゃん、本気なの?
班長      あああ!先輩!なっちゃん、なっちゃん見ませんでした。
めぐ      さっき改札出ていったけど。
班長      やっぱり!

高校生たち、改札を抜けようとして。
ピンポーン…改札機が閉まる。

しお子     ああ!定期がない!
班長      あたし、バス通だ!
しお子     あたしの定期を返せ!
 * * *
駅員が現われて。

女駅員     どうしました?
そら子     すみませーん。
女駅員     おっと、君たち、戻ってきちゃったの。
そら子     いくらですか。
女駅員     なにが?
そら子     奈良まで!奈良までの切符ください!
女駅員     えっ?!
めぐ      まさか、奈良まで追いかける気?
そら子     違います!みんなもお金貸して。
高校生たち   なぜ!
そら子     なっちゃんに渡すの!
高校生たち   えええ!
そら子     しょうがないじゃない、あの子言うこときかないんだから。このままだったら、無賃乗車になっちゃうでしょう。
鉄子      鉄道営業法第18条および鉄道運輸規程第19条により…。
そら子     ほらほらほら、みんなお金貸して!
女駅員     あんた、ほんと詳しいね。
鉄子      どうも。
しお子     そこまでする?あいつあたしの定期…。
そら子     なっちゃん、捕まっていいの?!
しお子     あたしの定期盗んだ時点で犯罪じゃん。
班長      いくら持ってるの。
しお子     班長!いいの?班行動みだしてますよ。
班長      班の中から犯罪者を出すわけにはいかないわ。
そら子     あたし、2千円。
班長      あたしも3千円かな。あんたは?
しお子     あたし?あたしは…3百円。
班長      なんでそれしか持ってないのよ!
しお子     だって!
そら子     高校生が一日3百円でどうやって生きていくのよ!
しお子     いけるもんだよ。定期があれば。ああ、その定期をあやつがぁああ!
班長      奈良まで、いくらですか。
女駅員     君たち、落着け。
班長      ここに、5千3百円あります。
しお子     いや、5千円にしておいてもらっていいですか。
そら子     あんたね!
しお子     あたし家に帰れなくなるじゃん!定期無いんだよ!
女駅員     あのね。奈良までざっと計算しても3万円はかかるから。
高校生たち   どぉおおお!(崩れ落ちる)
女駅員     だから遠いんだっつーの。
班長      学割ありますよね。
女駅員     証明書をもらってきて。
そら子     なんだそれ。
女駅員     学校で学生旅客運賃割引証―
そら子     ああ、もう!
 * * *
鉄子、切符をとり出し。

鉄子      はい。
女駅員     あ、それは!
鉄子      青春18きっぷ。
そら子     青春18きっぷ?
鉄子      お得な全国乗り放題きっぷ。
そら子     どこまでいけるんですか?!
鉄子      5日間、日本全国どこまでも。
高校生たち   すごい!
鉄子      ひとりで五日間の旅してもいいし、5人で日帰りの旅もできる。
そら子     それ!それにします!
女駅員     一万二千とんで五十円になります。
高校生たち   どぉおおお!(崩れ落ちる)
女駅員     だから、少し冷静になって考えなさいって。
鉄子      いいよ、使って。
女駅員     えっ。
高校生たち   …えっ。
鉄子      あたし、今日一日分使っちゃたから、残り四日分。あの子に4日でどこまで行けるか預けてみたら。
高校生たち   …。
しお子     班長どうする?
班長      …えっと。
鉄子      それか、4人で一日どこまで行けるか試してもいい。
高校生たち   おお!班行動だ!
班長      待って…混乱してきた。
鉄子      でも、乗れるのは鈍行だからね。
高校生たち   鈍行?
女駅員     普通列車だけね。それから一つ注意。青函トンネルは新幹線しか走っていないから。
鉄子      あ、そうそう。
高校生たち   えええ!全国どこまでもいけないじゃん!
鉄子      線路は続くよどこまでもじゃないのか!
 * * *
駅長、やって来て。

駅長      そんな方のために青春18きっぷ北海道新幹線オプション券をご用意しております。
高校生たち   それを先に言って!
駅長      4人合わせると、9,960円になります。おすすめですよ。
女駅員     駅長!なにすすめてるんですか!
駅長      いや、行きたいって言ってるんだから。
女駅員     そんな無責任な。
そら子     …それでも、けっこうかかるんですね。
班長      ヘタしたら飛行機の格安の方が。
駅長      そうだね。さあ、どこまで行けるかなあ!
高校生たち   どうする?(お互いを見合う)
女駅員     駅長。こんな商売の仕方ダメだと思います!
駅長      まあ、行けるところまで行ってみればいいんだよ。子どもじゃないんだから。
鉄子      若いんだし、時間はいくらでもある!
班長      ムリだよ。ぜんぜん足りないもん。
めぐ      はい。

めぐ、財布から紙幣を一枚窓口に置く。

高校生たち   えっ。
鉄子      おっ。
めぐ      これで足りますか。
高校生たち   先輩!
班長      ありがとうございます。必ずお返しします!
めぐ      なんだか、あたしも責任あるみたいだし。
班長      えっ、そうなんですか。
めぐ      まあ。
駅長      申し訳ないけど、それは、お断りします。
鉄子      なんでよ。
駅長      高校生のお金の貸し借りはダメ!それは自分で稼ぐようになってからにしましょう。それから無賃乗車もダメ!そんなちっぽけな嘘をついてもなんの得にもならない。社会に嘘をつくのは、人生本当にどうしようもなくなった時まで取っておきなさい。
高校生たち   …はい。
そら子     でも、じゃ、どうしたらいいんでしょう。
駅長      まずは友だちにちっぽけな嘘をつかなせないこと。
高校生たち   はい。
駅長      あとはいくら用意すればいいのかは、今いった通りです。改札通っていいから。
高校生たち   はい!
鉄子      よしゃ!行ってみよう!

高校生たち、改札を走り抜ける。
 * * *
駅長      青春18きっぷのご利用を心よりお待ちしておりまーす。
めぐ      すみませんでした。
駅長      いやいや、かっこよかったよ。
めぐ      はずかしいです。
駅長      何言ってるの。いいんだよ、それで。いい先輩を持って、あの子たちは幸せだね。
めぐ      でも。
駅長      先輩は先輩。駅長は駅長。もう私がやりたかったくらい。(お札を出すしぐさをして)つりは、いらねーぜ!
女駅員     駅長、全く違いますよ。
駅長      そう?(めぐに)じゃ。
めぐ      ありがとうございました。
駅長      あ、そうだ。またピアノ弾きに来てね。
めぐ      えっ。
駅長      部活の帰り、よく練習してたよね。
めぐ      …はい。
駅長      いつでも。遠慮なく。

駅長、去る。
 * * *
めぐ、ピアノに振り返る。
ゆっくり、ピアノの前に座る。

めぐ      音楽がいつもありました。学校は勉強のためではなく、仲間と音楽の話をするための場所でした。高三の私たちの学祭は最高に盛り上がって、人生で一番の時間でした。卒業式のあと、部室でこっそりやった卒業ライブが、鍵盤に触れた最後の日でした。のように、私について話すことが、いつのまにか過去形ばかりになりました。

めぐ、鍵盤を確認するように静かに弾きはじめる。

 ♪ 演奏 ♪
【学生時代の思い出の曲を。たとえば、いきものがかり「SAKURA」】
 * * *
演奏の中。
駅員が呼びにやってくる。

新人駅員    MCのお二人、楽団のみなさん、スタンバイをお願いします。

マッチとポンプ、駆けてきて。

マッチとポンプ よろしくお願いします!

楽団、駆けてきて。

ぱるらんど   はーい。よろしくお願いしますー!
新人駅員    マッチとポンプは、前説でネタやるんだよね。
ポンプ     いいんですか。
新人駅員    そのかわり、盛り上げてください。
マッチ     はい!ありがとうございます。
新人駅員    改札が始まる前に、ホームにスタンバイしてください。お願いします。

新人、去る。

パーカス    急ごう!
トロンボーン  うん。

楽団、引き返して去る。

マッチ     こうなったら、やるしかないな。(行く)
ポンプ     お前さ、ほんとに今日ウケなかったらあきらめる気?
マッチ     ああ、今日こそは決める日だ。行こう!(行く)

ポンプ、動かない。

マッチ     おい。
ポンプ     なあ、そんなに自分を追い込まなくてもいいんじゃね。
マッチ     なにヌルイこと言ってんだよ。だから、ダメなんだよ。
ポンプ     お前さ、前にも同じこと言ってたよ。音楽やるっとか言って。
マッチ     あれは、あれで本気だったんだよ。
ポンプ     すぐ、やめた!とか言って。
マッチ     スパッとな。
ポンプ     だけど、今でも曲作ってんじゃん。
マッチ     …。
ポンプ     ずっとダラダラやってんじゃん。
マッチ     今は……趣味で。
ポンプ     どっかで逃げ道確保してんだよ、お前は。
マッチ     …。
ポンプ     いいんだよ、それで。そんなにムリすんなって言ってんの。たかがお笑いなんだからさ。
マッチ     …違う。
ポンプ     そんな簡単に決められないよ、人生なんて。
マッチ     今日のオレは違う!決めてやる。ダメなら、スパッとあきらめる。
ポンプ     …本気か。
マッチ     おう!
ポンプ     本気の本気なんだろうな。
マッチ     本気の本気、マジ本気!
ポンプ     …じゃ、あきらろ。
マッチ     えっ。
ポンプ     お前才能ないよ。
マッチ     なんだよ、こんな時に!
ポンプ     間、悪いし。笑いはさ、やっぱり間だから。
マッチ     …そうかもしれないけど。これから、もっと腕を磨いて―
ポンプ     見た目も特徴もないし。一発屋にもなれねーよ。
マッチ     そんなことねーよ。
ポンプ     やるだけ無駄だよ。
マッチ     そんなことねーよ!
ポンプ     ムリだって。あきらめろ。
マッチ     うるせえ!やってやるよ。見てろよ!

マッチ、改札を駆け抜けてゆく。

ポンプ     あれ、焚き付けすぎたかな。

ポンプ、追いかけて去る。
 * * *

めぐ、ピアノを弾いているところに。
楽団、トロッコの車輪を転がしてくる。

ぱるらんど   はい、ごめんよ、ごめんよ。

技術館職員、追いかけてくる。

技術館職員   だから、ダメだって。
めぐ      えっ。
パーカス    ちょっと、すみませんね。危ないから、よけてもらえるかな。
めぐ      は、はい。
技術館職員   あんたたち、よく転がしてきたな。
めぐ      …なんですか、これ。
トロンボーン  えっ、わからない?トロッコだよ。
技術館職員   車輪だけだけどね。もう、どうするの、こんなの持ってきて。
パーカス    これ、ピアノにつかないかな。
技術館職員   つかねーよ。
ぱるらんど   あ、やっぱり。
 * * *
ベース、買い物袋を下げて戻ってくる。

ベース     …ただいま。
ぱるらんど   お!どうだった?
技術館職員   ピアノは?
ベース     …ピアノはこない。あきらめよう。
技術館職員   あきらめんな!
トロンボーン  (買い物袋を取り上げて)見て、玉子買ってる。
パーカス    なにしてんの!
ベース     無料チケットをもらおうと買い物したんだけど、ちょうどタイムセールでひとパック50円で…。
トロンボーン  よかったじゃん。
ベース     しかも今日はアリオの日で、全品5%オフになって。
ぱるらんど   よかったじゃん!
ベース     レジで合計が1980円…。
トロンボーン  洗剤がたっくさん!台所用、お風呂用、洗濯洗剤に柔軟剤。
パーカス    これ、すすぎが一回で済むから助かるのよね。
トロンボーン  いいんじゃない、洗剤はいくらあっても腐らないし。
パーカス    これで、1980円はお得だよ。
ベース     駐車場二時間無料は2000円以上からなんだよ!
ぱるらんど   あああ!
技術館職員   なにやってんだよ!
ベース     あたし、こう見えてやり繰り上手だったのよ!
パーカス    それで、うちのピアノは?
ベース     今日はもう鍵盤に魂を込められないって。
技術館職員   どんだけ繊細なんだ。
ベース     とりあえず、気持ちを切替えるってビール園の方に歩いていった。
技術館職員   それ、飲みに行ってるよな。
 * * *
新人駅員が改札から戻ってくる。

新人駅員    楽団のみなさん、どうしました?
ぱるらんど   それが。
新人駅員    なんだ、この車輪!
技術館職員   それはいいんだけどさ。
新人駅員    よくないよ。
技術館職員   それより、楽団、メンバーが揃っていないんだって。
新人駅員    えっ。
技術館職員   だから、今日は音楽なしで。
新人駅員    それは、進行が変わるな。
技術館職員   これでも、かなり努力したんだよ。車輪運んだり。

パーカス、めぐに話しかける。

パーカス    あの、今ピアノ弾いてましたよね。
めぐ      あたし?
パーカス    はい。一緒に演奏してもらえませんか?
めぐ      ダメです。
パーカス    お願いします。
めぐ      ダメです。あたし、ピアノ弾けないんで。
パーカス    さっき弾いてたじゃない!
めぐ      ごめんなさい。

めぐ、改札へ行く。

技術館職員   くっそ、こんな時にピアノが弾けたらな!
ぱるらんど   弾けたらな!
めぐ      あたし、もう音楽はやらないって決めたんです。できれば、お手伝いしたいんですけど。でも、一度決めたことだから。
パーカス    ごめんなさい。無理言って。
めぐ      いいえ。
パーカス    じゃ、君弾いて。
新人駅員    えっ。
パーカス    君ならできる。
技術館職員   あきらめないね。
新人駅員    ぼく、もう音楽は…。
ぱるらんど   駅員でしょう!
新人駅員    彼女とずいぶん扱いが違う。
技術館職員   ちょっと弾いてみ。
新人駅員    ムリです。
ベース     さっき楽しそうに弾いてたじゃん。
トロンボーン  いい曲だったよ。
新人駅員    あれ曲じゃないから。
トロンボーン  曲じゃなくてもいいから。
新人駅員    なに言ってんだ。
ベース     それっぽく弾いたら、そういう気分になるから。
ぱるらんど   ほら!

新人、指一本で、鍵盤を叩く。

【A】指1本

ぱるらんど   いいね。いいよ。ノってきたね。

新人、調子にノッてくるが、どこまでいっても同じ音。

パーカス    いい加減ちがう鍵盤を叩いてもいいんじゃない。
新人駅員    どこ?
パーカス    どこでもいいよ。
新人駅員    そんなわけにいかないでしょう。
技術館職員   外れなきゃいいから。
新人駅員    …なにから。
技術館職員   よくわかんないけど。
新人駅員    なんだそりゃ。
技術館職員   だって、今はまだ線路の上を一直線に走ってるようなもんだからさ。
新人駅員    そりゃそうですよ。ずっと同じ音なんだから。
技術館職員   お前は決められたレールの上を走るだけでいいのか!
新人駅員    それを言うな!
技術館職員   線路も鉄橋もあればトンネルもある!切替えろ!
新人駅員    あああ!

新人の指が止まる。

新人駅員    代わって。
技術館職員   オレはムリだよ。
新人駅員    そんなに言うなら、代わりにやってみろ!
ぱるらんど   それも、そうだな。

技術館をピアノ椅子に座らせる。
技術館職員、指一本で、鍵盤と叩く。

【B】指1本

新人駅員    僕よりひどいじゃん。
技術館職員   切替えられないぃぃ。
新人駅員    ほら、他の音にとんで、線路を切替えて。
技術館職員   ダメだ、脱線する!なんなんだ、この恐怖は!
 * * *
駅長、やって来る。

駅長      おお、やってるね。やっぱり腕上げたね。
技術館職員   駅長!脱線しそうです!
駅長      二人で弾いてみたら。
技術館と新人  えっ。

【C】A+Bで、指2本

駅長      ほら、いいんじゃないの。
技術館と新人  …はい。
ぱるらんど   ノっていこう!
技術館と新人  はい!

技術館と新人、ノッてくる。

駅長      そろそろさ…。
技術館と新人  えっ。
駅長      そろそろ何かあっていいんじゃないか。
技術館と新人  ……ムリ!
駅長      隣の鍵盤におジャマしてみるとか。

技術館と新人、それができずに苦しむ。

技術館と新人  うぅぅ…。
ぱるらんど   勇気を出せ!
技術館と新人  …ダメだ!。
ぱるらんど   意気地なし!
パーカス    入って!
駅長      えっ。
パーカス    駅長さんも入って。
駅長      いやいや―
技術館と新人  入って!

三人で、ピアノを弾く。
【D】3人で、指3本

パーカス    いいんじゃない。
ぱるらんど   いいね、いいね。
パーカス    それじゃ、いってみようか。ワン、ツー、ワンツースリ―

汽笛が聞こえる。
演奏が止まる。
 * * *
駅長      なんだ、あの汽笛は。
技術館職員   まさか、出発した?
みんな     えっ。
新人駅員    発車の時刻には、まだ…。
ぱるらんど   行こう!

楽団、ピアノを運ぼうとする。

技術館職員   だから、それはムリだから。
ぱるらんど   だって!

駅員たち、楽団を止める。

パーカス    マイクだ!マイク持ってきて!

楽団、窓口からマイクを引っ張り出す。

駅長      いやいや、それはホームへのアナウンス用だから。
ぱるらんど   使えるんじゃね。
駅員たち    いやいや。

駅員が、改札を駆け抜けてきて。

男駅員     駅長!機関車が走り出しました。
駅長      手が離せない!
男駅員     なにやってんですか!
駅長      代われ!
男駅員     なにを?
駅長      こら!まだ駅長の挨拶してないぞ!

駅長、走り去る。

めぐ      (駅員に)入って。
男駅員     どこに?

とか言ってる間に、パルランドはマイクを延ばしてきて。

技術館職員   そんな無理やり引っぱっちゃダメだって!そんな伸びないから、伸ばしすぎ…伸びるんだ、そんなに伸びるんだ!
 * * *
汽笛が聞こえる。

めぐ      もう一度。
みんな     えっ。
めぐ      行くよ。
男駅員     えっ、オレ、どうすれば。
めぐ      笛吹いて!さん、はい!

男駅員、ホイッスルを吹くと、出発進行。

【D】3人で、指3本

すぐ、めぐが加わり、4人で演奏。
「汽車ポッポ」のフレーズが入る。

【E】3人+めぐ

♪♪♪汽車汽車 ぽっぽ ぽっぽ
♪♪♪しゅっぽ しゅっぽ しゅっぽっぽっ
♪♪♪僕らをのせて 
♪♪♪しゅっぽ しゅっぽ しゅっぽっぽっ

めぐ      さん、はい!

【F】パルランドのパーカスとベースが入る。
 * * *
探検隊が、改札から駆けてくる。

探検隊たち   待ってー。
みんな     どうした?!

【G】ピアノのみの伴奏

めぐ以外の演奏の手が止まる。
めぐ、一人でピアノを続ける。

ひな隊員    お笑いの二人が、いきなりネタ初めて。
かな隊員    それが笑えなくて。
ゆみ隊員    ただ勢いしかなくて。
まき隊員    でも、ネタやめなくて。
かな隊員    まったく笑えなくて。
そう太郎隊員  そしたら、勢いで出発進行って言っちゃって。
ゆう太郎隊員  汽車が発車しちゃって。
一日駅長    オレ、まだ出発進行!言ってないよ!

鉄子が改札から駆けてくる。

鉄子      鉄ちゃん!運転手はあたしなの!

鉄子、走り去る。
汽笛が聞こえる。

探検隊たち   置いてかないで!

探検隊、追いかけて走り去る。
 * * *
高校生が、改札から駆けてくる。

高校生たち   なっちゃーん!
みんな     どうした?!
そら子     なっちゃんが、SLに乗って奈良に行っちゃった。
みんな     えええ!
新人駅員    大丈夫です。あの機関車、札幌までの折り返し運転です。
班長      なっちゃーん!その列車は、違うって!
しお子     定期を返せ!

高校生たち、追いかけて走り去る。

技術館職員   30分後には戻ってくるぞ!
 * * *
楽団、演奏を再開。

【FF】

楽団、列車のように並んで行進しながら演奏。

やがて、舞台袖からみんな楽器を手に行進に加わる。
みんなで楽しくにぎやかに、力強く演奏。
整列、礼、行進しながら去って行く。

【H】後奏

それぞれ去っていくと、楽器も少なくなり、音も遠ざかる。
最後は、ピアノソロ。
そして、汽車が遠くに去っていくように…。

暗転。

 ◇ ◇ ◇

第三話 2021年4月 『新学期』


第一話から一年後の4月。
 * * *
ピアノ椅子に座り、いずみのモノローグ。

いずみ     朝の日課。朝起きて、顔を洗い、朝食にはトーストとヨーグルト。歯をみがき、ピアノの前に座り、いつもの曲を演奏をし、気持ちを切替え、家を出る。歩く、駅につく、電車に乗る、下りる、歩く、また電車に乗る、下りる、歩く、会社につく。働きはじめて毎日これを繰り返した。
父はJRの職員で、2年前、駅長を務める駅の待合いに我が家にあったピアノを置いた。それによって、私の朝の日課が変わった。
朝起きて、顔を洗い、朝食にはトーストとヨーグルト。歯をみがき、家を出る。歩く、駅につく、ピアノの前に座り、いつもの曲を演奏をし、気持ちを切替え…そして、今日も電車に乗る。2021年4月。

いずみがピアノを弾く。

 ♪ 演奏 ♪
【いつもの曲を。たとえばラヴェルの「プレリュード」】
 * * *
列車を降りた乗客が、改札を抜けてくる。
一年前と変わらず。
女駅員、窓口で朝のあいさつ。

女駅員     おはようございます。

男駅員、やって来て「交代します」のサイン。
女駅員、ゆずらない。
 * * *
探検隊が駆けて来る。
この春から、新中学一年生になる子どもたち。

男駅員     おはようございます。

まず、みっちゃんが発券機で切符を買う。

探検隊たち   早く。早く。
みっちゃん   待ってよ。
男駅員     君たち、きっぷを拝見。
探検隊たち   え。
男駅員     新中学一年生は―
ゆう太郎隊員  4月1日から大人料金なんでしょ。
ひな隊員    知ってるよ。
男駅員     おお、さすが鉄道探検隊。入学式は?
ぜん太郎隊員  明日。
男駅員     今日は、ナイショで子どもでいいぞ。
探検隊たち   やった!
そう太郎隊員  おじさん、いいとこあるね。

みっちゃん、すでに大人の切符を買っている。
探検隊、順番に切符を買う。

ゆみ隊員    中学で使う辞書買いに行くの。
男駅員     勉強、がんばれ。
探検隊たち   行ってきまーす!

探検隊、それぞれ切符を買い、改札を抜けていく。
みっちゃんだけ、先に買ってしまった切符を見ている。

男駅員     払い戻しするから。はい、差額と子どもの切符。
みっちゃん   ありがとう!

みっちゃん、改札を抜けてゆく。
 * * *
入口から、めぐがやってきて、改札へ向かう。
リュックを背負い、ラフな装い。
 * * *
いずみ、演奏が終わり、譜面を鞄にしまう。
めぐ、立ち止まり、そしてピアノの前へ。

めぐ      あの。
いずみ     …?
めぐ      いいですか。
いずみ     …はい。
めぐ      今の曲、なんて言う曲か教えてもらっていいですか。
いずみ     今の?
めぐ      はい。あたしも弾いてみたいなと思って。
いずみ     特別、名前はないんじゃないかな。
めぐ      そうなんですか。
いずみ     まあ…プレリュード。
めぐ      プレリュード。
いずみ     前奏曲。
めぐ      ああ。
いずみ     じゃ。(行く)
めぐ      ありがとうございます。

めぐ、ピアノの前にすわり、楽譜を広げる。
 * * *
いずみ、改札を抜ける前に窓口に寄って。
鞄からお弁当を出し。

いずみ     置いていきます。
男駅員     駅長。

駅長、出てきて。

駅長      おお、ありがとう。
いずみ     あ、お父さん。
駅長      ん。
いずみ     あたし、一人暮らしするかも。
駅長      は。
男駅員     えっ。
いずみ     うん。たぶん。
男駅員     駅長!
駅長      …えっ。
男駅員     お父さん!しっかり!

駅長、急いで消える。
 * * *
いずみ、何か気づいて、鞄の中を探す。
めぐのところまで来て、譜面をとり出す。

いずみ     これ、よかったら。
めぐ      えっ…いや。
いずみ     しわくちゃだから、新しくコピーした方がいいと思うけど。どうぞ。
めぐ      いいんですか。
いずみ     憶えちゃったから。

駅長、慌てて出てくる。

駅長      男か!男か!
いずみ     うっそ、なんでよ。
駅長      聞いてないぞ。

男駅員も、慌ててやって来る。

男駅員     いずみさん、男ですか!男ですか!
いずみ     (めぐに)ごめんなさい。これ、使って。あたし、引っ越しちゃうと、ここで弾くこともできないし。
めぐ      ありがとうございます。
駅長      待て。聞いてないっていってるんだ。
男駅員     相手はどこの誰ですか!
いずみ     そんなんじゃないから。
駅長      あいつか…。
男駅員     駅長、気づいてたんですか?
いずみ     おかしい。なんで、あんたが入ってくんの!ったく。
男駅員     誰です?誰なんですか!
いずみ     そんなにいうなら、結婚でもしてみようかな。

いずみ、改札から去る。

男駅員     いずみさん!
駅長      あ、ちょっと待て!

駅員と駅長、追いかけて去る。
ピンポーン…改札機が閉まる。

駅長      こら、待て!もどってこーい!
 * * *
めぐ、もらった譜面の音を拾う。

ポンプ、車椅子で改札を抜けてくる。
降車の介助に入った駅員が、後ろをついて来る。

新人駅員    それでは、しばらくリハビリが続くんですか。
ポンプ     そうなりますね。一生かもしれないんですけど。
新人駅員    そうですか。
ポンプ     はい。
新人駅員    …。
ポンプ     でも、口は動きますから。
新人駅員    そういえば、相方は?
ポンプ     あいつ、今度はきこりになるって言って。
新人駅員    きこり?!木を伐るきこり?
ポンプ     そう。ネタを考えていたら、きこりになるっていい出して。
新人駅員    なんで。
ポンプ     さっぱり。
新人駅員    えっ。
ポンプ     「ネタが転んでタネとなり、やがて芽が出て木になった。だから、オレはきこりになる!」って書き置きが。
新人駅員    さっぱりわからないね。
ポンプ     ですよね。
新人駅員    マッチがきこり。山火事になりそうだけど。
ポンプ     ほんと。
新人駅員    じゃ、走って30秒の実家には。
ポンプ     もういないです。でも、とにかく家は出た。
新人駅員    そう。
ポンプ     それじゃ、ありがとうございました。
新人駅員    いいですよ。(まだ車椅子を押そうとする)
ポンプ     行ってみます。これから、こいつと付き合っていかなきゃならないから。
新人駅員    お気をつけて。

ポンプ、去る。
 * * *
めぐの母、入口からやって来て、キオスクへ。
財布を取り出したところで、ピアノを弾いてる娘を見つけ。

母       なにやってるの。
めぐ      …。これ(楽譜)もらっちゃった。
母       えっ。だれに?
めぐ      あ、名前聞いてない。
母       予備校は?時間大丈夫なの。
めぐ      うん。

めぐ、楽譜を鞄にしまい。

めぐ      いってきます。
母       ちょっと待って。

母、キオスクに戻り。

母       一つ。
キオスク    はーい。

母、カツゲンを手に戻ってくる。

母       はい、カツゲン。
めぐ      いってきます。

めぐ、改札を抜けて去る。
 * * *
母、娘を見送り、ピアノ椅子に座る。

母       娘は高校を卒業して、就職して、仕事を辞めて、また勉強をはじました。来年の大学を目指して。私は、ここの駅前に越してきました。マンションにピアノは置けませんが、こんなに近くにピアノがあるなら、もう一度、一曲だけでも弾けるようになれたらいいですね。

母、指を鍵盤に下ろす。

 ♪ 演奏 ♪
【初歩の練習曲。たとえば「バイエル」とか】

演奏終了。
 * * *
ご近所さんがベンチに座っている。

ご近所さん   (拍手)
母       いやだ!はずかしい。
ご近所さん   お上手。
母       とんでもない。弾いたことないんですから。
ご近所さん   なのに!天才ピアニスト現る!ね。
母       娘の時に、母に奨められてちょっとだけ教室に通って、いや通ったんじゃなくて行ったことがあるってだけ。
ご近所さん   どうぞ。続けてください。
母       勘弁してください。

母、立ち上がる。

ご近所さん   あら、残念。
母       お近くですか。
ご近所さん   はい。
母       私、越してきたばかりで。
ご近所さん   (指差して)新しいマンション。
母       はい。
ご近所さん   そうですか。それではご近所になりますね。
母       よろしくお願いします。
ご近所さん   こちらこそ。ここに来れば、だいたい私いますから。
母       そうなんですか。お仕事?
ご近所さん   いいえ。ただピアノを聴きに。
母       まあ。
ご近所さん   ええ。
母       いいですね。
ご近所さん   いいわよ。上手なピアノもいいし。これから上手なる人のピアノもいいし。

と、話ながら去ってゆく。
 * * *
みっちゃん、駆け戻ってきて窓口へ。

みっちゃん   すみませーん!
女駅員     はい、どうしました。
みっちゃん   やっぱり、切符変えてください。あたし大人で乗ります。
女駅員     えっ。
みっちゃん   大人で乗りたいんです。
女駅員     じゃ、これ、駅員さんからのプレゼント。大人の切符。

みっちゃん、切符を受け取る。
 * * *
世界はピアノだけになり。
みっちゃん、ピアノの前に座る。

みっちゃん   今日の予想最高気温5度、最低気温マイナス1度。4月になったというのに、今夜は季節外れの吹雪きらしい。明日から、中学生。みんながんばれ!と声をかけてくる。言われなくてもがんばる、しかない。不安もたくさんあるけど、このドキドキはきっと悪くない。明日天気になれ!

♪ 演奏 ♪
【たとえば「ねこふんじゃった」とか】

演奏が終り、みっちゃん立ち上がる。
そして、一礼。

  幕

 ◇ ◇ ◇





おまけ

たまじぃ

ワン ノート マーチ

2020年3月14日 発行 初版

著  者:西脇秀之
発  行:西脇秀之

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